(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158608
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】アンカーリングを転倒軸とする塔状構造物の転倒方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/08 20060101AFI20231023BHJP
【FI】
E04G23/08 J
E04G23/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022084839
(22)【出願日】2022-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】594154978
【氏名又は名称】ベステラ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉野 佳秀
(72)【発明者】
【氏名】長 泰治
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA11
2E176DD22
2E176DD61
(57)【要約】
【課題】 転倒準備時および転倒実施後の工数を削減し、転倒開始時に大きな外力を必要としない安全な塔状構造物の倒し方法を提供する。
【解決手段】 コンクリート基礎上にフランジなどの転倒軸とすべき構造がない場合でも、地上より上にあるアンカーリングを、水平切断工程と切り欠き作成工程、取付工程を経て転倒実施に至ることを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塔状構造物のアンカーリングを活用しつつ、転倒を実施する方法であって、
アンカーリングの下側を水平方向に底部の半分より大きくあらかじめ計算により定めた位置まで切断する水平切断工程と、前記水平切断の中央側断面に向けてアンカーリングの基部フランジの下方より斜め上方に切断する切り欠き作成工程と、切り欠き部分に転倒軸を保護(広がりを防止)するサポート材を溶接する取付工程と、前記水平切断工程と切り欠き作成工程の邂逅線を転倒軸として、当該塔状建造物をアンカーリング上の転倒軸によって転倒させる倒し工程と、を有し、アンカーリングを活用して、強固な転倒軸を作り転倒をさせることを特徴とする塔状構造物の倒し方法。
【請求項2】
全体重心を転倒軸の転倒側に移動させ、アンカーリングの抗力と残ったボルトの張力だけで制止する状態から順次ボルトを切り、大きな外力を加えることなく自然転倒をさせることを特徴とする、請求項1に記載の塔状構造物の倒し方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電用風車等の塔状構造物の解体において、コンクリート基礎に埋め込まれ地上500mm~800mm程度に位置して、それより上の塔状構造物に強固に接続される「アンカーリング」を転倒軸として、塔状構造物を解体のために倒す塔状構造物の転倒方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物は、経年劣化や設備の置き換えのため解体されるが、当該建造物の高さがあるいわゆる塔状構造物である場合には、足場を設置し、高所の頭頂部分から順に小分けしてクレーン等により吊り下ろすことを順次低い部分まで繰り返し、最後に基礎部分を取り除くという手順が標準的である。
【0003】
上記の解体における高所作業を減らして作業員の安全性を高め、工数を減らして早期の解体を達成するために、塔状構造物を倒して解体する技術としては、特許文献1(熱風炉の蓄熱炉の倒し方法)や特許文献2(基礎部を活用した塔状構造物の倒し方法)に開示されているようなものが知られている。
特許文献1に開示されている技術は、構造物の基部を何らかの方法で補強して転倒軸を確保してから構造物自体を切り欠くことにより転倒方向を制御して安全な転倒を実現する技術に関するものである。
特許文献2に開示されている技術は、特許文献1の技術の課題から発展して、コンクリートの基礎を切り欠くことにより強固な転倒軸を形成して転倒方向を制御して安全な転倒を実現する技術に関するものである。塔状構造物の最下部とコンクリート基礎はフランジとボルトで固定されており、いわゆる「アンカーボルト方式」の構造物である。
特許文献1および2の切り欠きは底部の半分に満たない大きさであり、切り欠いても全体の重心は転倒軸より安全側にあり、転倒のスタートには外部から力を加える必要があり強制転倒となる。たとえば特許文献2ではジャッキで押し上げる方法が記述されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】再表2018/189852号(査定日 2021/08/10)
【特許文献2】特許第4790357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、基部を補強することで転倒軸を作り、特許文献2においては、コンクリート基礎が強固であることを活用して転倒軸を作っている。転倒工法において強固な転倒軸をどこに見いだすのかは最重要な課題となる。
【0006】
特許文献1によれば、塔状の構造物である「熱風炉の蓄熱炉」の解体方法であって、円筒形の蓄熱炉の下部に充填剤を詰めることにより、蓄熱炉下部の強度を高め、この部分を切り欠いて転倒を実施する際に強度不足による座屈が起こらないようにすることで、転倒方向を限定することにより安全な転倒をさせるものである。
【0007】
しかし、充填剤を詰める作業には工数もかかり、充填剤が固まる間の待ち時間も発生する。また、解体の最終段階では充填剤は産業廃棄物となる。
【0008】
特許文献2によれば、特許文献1のような「円筒形下部の補強」を用いることなく、安定した地盤に埋められたコンクリート基礎を活用して、コンクリート基礎まで掘り下げ、コンクリート基礎を切り欠いて強固な転倒軸を作り、転倒方向を限定して安全な転倒がなされる。しかし、コンクリート基部まで掘り下げる作業には工数もかかる。
【0009】
本発明においては、コンクリート基礎に埋め込まれ地上500mm~800mm程度に位置して、それより上の塔状構造物に強固に接続される「アンカーリング」を転倒軸として活用する。アンカーリングの上部・下部には100mmもの厚みのフランジがあり上下は塔内部でボルトで結束されている。その厚みと円形構造により強固な盤を形成していると言える。このアンカーリングの下部を転倒方向に切り欠いて、盤の底部の半分より大きな切り欠きを作り、全体の重心が転倒軸の転倒方向側にある状況として、アンカーリングの抗力と残ったボルトによって静止状態が保たれる状態を作った上で、転倒軸上にあるボルトは保持しながら、内側から外側に残ったボルトを切断するように切りすすめる(あるいは外側から内側に向けて切り進める)、ある時点で転倒力に残りのボルトが耐えられず引きちぎられることにより自然転倒を起こして、塔状構造物を転倒させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための請求項1に記載の発明は、
アンカーリングの下部を水平方向に底部の半分より大きくあらかじめ計算により定めた位置まで切断する水平切断工程と、前記水平切断の中央側断面に向けてアンカーリング下部より斜め上方に切断する切り欠き作成工程と、前記切り欠き部分に転倒軸を保護(広がりを防止)する鉄材を溶接する取付工程と、前記水平切断工程と切り欠き作成工程の邂逅線を転倒軸として、当該塔状建造物をアンカーリング上の転倒軸によって転倒させる倒し工程と、を有する
【0011】
この構成によれば、特許文献1のような「充填剤を詰めて、それを後で処分する」こともなく、特許文献2のように「地盤に埋まっている巨大な基部まで掘り下げる作業」も必要とせず、塔状構造物の一部であるアンカーリングという強固な部分を転倒軸として塔状構造物を容易に安全に素早く倒すことが出来る。
【0012】
この転倒では、アンカーリングという元々の構造物の一部である強固な部分が、転倒軸(転倒支点)の強度として生かされるため、座屈に対抗することが出来、計画する方向へ塔状建造物を倒すことが出来るので安全である。
【0013】
請求項2の発明は、全体重心を転倒軸の転倒側に移動させ、アンカーリングの抗力と残ったボルトの張力で制止する状態から順次ボルトを切り、大きな外力を加えることなく自然転倒をさせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アンカーリング下部を水平方向に切断し、さらにその下部から斜め上方に切り欠き部を作り取り除き、水平切断と斜め上方切断の邂逅線を転倒軸として塔状構造物を倒すことで塔状構造物を簡便に転倒させることが出来る。
【0015】
切り欠きを塔の半径より大きく取って、全体重心を転倒軸より転倒側に持ってきて、アンカーリングの抗力と残ったボルトの張力で静止状態を維持し、その状態からボルトを切断していくことで、大きな外力を必要とせず、自然転倒が実施できる。
特許文献1や特許文献2のような「余計な補強」や「地盤の大規模掘り下げ」を必要としないで転倒を実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係わる塔状構造物を示す側面図である
【
図2】本実施形態に係わるアンカーリングとその周辺の切断、切り欠き、転倒軸を 示す図である
本実施形態に係わる倒し工程でのボルト切断を示す図である
転倒時の外観図である
「アンカーリング方式」と「アンカーボルト方式」の違いを示す図で
ある
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について図に基づいて詳細に説明する。
塔状構造物を解体のために倒す塔状構造物の倒し方法を
図1~5を参照して説明する。
図1は本発明の実施の形態に係わる塔状構造物を示す側面図、
図2は塔状構造物の倒し方法のアンカーリングとその周辺の切断、切り欠き、転倒軸を示す図、
図3~5は本実施形態に係わる倒し工程でのボルト切断を示す図である。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態において、塔状構造物10は発電用風車としているが、本発明の塔状構造物は発電用風車に限られるものではない。例えば単体の塔状ではなくとも、重量物を支える柱などには同様の構造が使用されている場合がある。
【0019】
「アンカーリング」と記述しているものは「コンクリート基部より上方に作られるそれより上の構造物と接合するための強固な盤」の総称であり、形状は
図2に限られるものではない。
【0020】
塔状構造物10は塔12を介してアンカーリングで接続し、基礎13に固定されている。
【0021】
次に、本発明の塔状構造物の倒し方法の各工程について説明する。本発明の塔状構造物の倒し方法は、水平切断工程、切り欠き作成工程、取付工程、倒し工程を有する。
【0022】
[水平切断工程]
次に、アンカーリングの下をボルトを保持しながら水平に切断を行う、この切断はあらかじめ計算により定めた距離21までを行う。この距離は底部の半径より大きい。切断は例えば溶断によることも出来るし、ワイヤーソー等を用いてもよい。
【0023】
[切り欠き作成工程]
次に、前記の切断面より下から中央側切断線22に向けて斜め上向きに切断を行い、切り欠き部を作成する。切断は溶断によることも出来るし、ワイヤーソー等を用いてもよい。
【0024】
[取付工程]
次に、切り欠き工程でできた切り欠き部分を補強する、補強は例えば転倒軸22と同じ方向に図には示さない鉄材を溶接することで実現できる。これは転倒時に切り口が開いてしまうことにより転倒方向が計画とずれることを防ぐ働きがある。
【0025】
[倒し工程]
次に、倒し工程であるが、本発明においては、重心位置が転倒側にあることから、前述のように転倒に強い外力を必要としない。転倒軸にあたるボルト31を保持(図では左右2本づつ保持しているが状況に応じて何本でも可)して転倒軸の動揺を防ぎ強度を保つために、このボルトの周囲を避けて、アンカーリング下を内側から外側に向けて(または、外側から内側に向けて)水平に切断することで残ったボルトを順次切断していく(
図3参照)これは図には示さないワイヤーソーにより遠隔から行うことで、転倒直前に作業員が現場直近にいなくても実現でき、作業員の安全確保にも有益である。
【0026】
上記の実施の形態においては、塔状構造物として発電用風車を例示しているが、これに限るものではなく、アンカーリングの方式で作られる塔状の建造物であればどのようなものであっても良い。
【符号の説明】
【0027】
10 塔状構造物
12 塔
13 基部
20 アンカーリング
21 計算により定めた距離
22 中央側切断線(=転倒軸)
23 切り欠き部
31 ボルト
32 ワイヤーソー(ワイヤーのみ図示)