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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158613
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F02D 19/12 20060101AFI20231023BHJP
   F02M 37/00 20060101ALI20231023BHJP
   F02B 75/02 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
F02D19/12 A
F02M37/00 341H
F02B75/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110847
(22)【出願日】2022-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2022068555
(32)【優先日】2022-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(72)【発明者】
【氏名】任介 幸司
【テーマコード(参考)】
3G092
【Fターム(参考)】
3G092AA03
3G092AA04
3G092AB19
3G092BB06
3G092FA24
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素の排出を抑制できる内燃機関を提供する。
【解決手段】
内燃機関1は、吸気ポート21と排気ポート22とを有するシリンダ2と、シリンダ2内を往復するピストン3と、クランクシャフト6と、ピストン3とクランクシャフト6とを接続するコネクティングロッド7と、シリンダ2内に液体燃料を噴射するインジェクタ8と、点火プラグ9とを備える。液体燃料は、炭素原子を含有する燃料成分を含有せず、炭素原子を含有しない燃料成分としてのアザンと水とを含有する混合物である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気ポートと排気ポートとを有するシリンダと、
前記シリンダ内を往復するピストンと、
クランクシャフトと、
前記ピストンと前記クランクシャフトとを接続するコネクティングロッドと、
前記シリンダ内に液体燃料を噴射するインジェクタと、
点火プラグと
を備え、
前記液体燃料は、炭素原子を含有する燃料成分を含有せず、炭素原子を含有しない燃料成分としてのアザンと水とを含有する混合物である、内燃機関。
【請求項2】
前記吸気ポートを開閉する吸気バルブと、
前記排気ポートを開閉する排気バルブと
をさらに備え、
1つの燃焼サイクルが、
前記吸気バルブが開き、前記排気バルブが閉じた状態で、前記ピストンが下死点に向かって移動する吸気工程と、
前記吸気工程に続き、前記吸気バルブおよび前記排気バルブが閉じた状態で、前記ピストンが上死点に向かって移動する第1圧縮工程と、
前記第1圧縮工程に続き、前記吸気バルブおよび前記排気バルブが閉じた状態で、前記ピストンが上死点に位置するタイミングで前記インジェクタが前記シリンダ内に前記液体燃料を噴射し、その後、前記ピストンが下死点に向かって移動する噴射工程と、
前記噴射工程に続き、前記吸気バルブおよび前記排気バルブが閉じた状態で、前記ピストンが上死点に向かって移動する第2圧縮工程と、
前記第2圧縮工程に続き、前記吸気バルブおよび前記排気バルブが閉じた状態で、前記ピストンが上死点に位置するタイミングで前記点火プラグが前記シリンダ内の前記燃料成分に点火し、その後、前記ピストンが下死点に向かって移動する燃焼工程と、
前記燃焼工程に続き、前記吸気バルブが閉じ、前記排気バルブが開いた状態で、前記ピストンが上死点に向かって移動する排気工程と
からなる、請求項1に記載の内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料としてガソリンやアルコールを燃焼させる内燃機関が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-139437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されるような内燃機関では、二酸化炭素の排出を抑制することが困難である。
【0005】
本発明の目的は、二酸化炭素の排出を抑制できる内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明[1]は、吸気ポートと排気ポートとを有するシリンダと、前記シリンダ内を往復するピストンと、クランクシャフトと、前記ピストンと前記クランクシャフトとを接続するコネクティングロッドと、前記シリンダ内に液体燃料を噴射するインジェクタと、点火プラグとを備え、前記液体燃料が、炭素原子を含有する燃料成分を含有せず、炭素原子を含有しない燃料成分としてのアザンと水とを含有する混合物である、内燃機関を含む。
【0007】
このような構成によれば、液体燃料が炭素原子を含有する燃料成分を含有しないので、液体燃料中の燃料成分が燃焼しても、二酸化炭素が発生しない。
【0008】
その結果、二酸化炭素の排出を抑制できる。
【0009】
さらに、燃料成分がアザンであるため、燃料成分が燃焼したときに、窒素と水(水蒸気)とが発生する。
【0010】
そのため、環境負荷の増大を抑制できる。
【0011】
本発明[2]は、前記吸気ポートを開閉する吸気バルブと、前記排気ポートを開閉する排気バルブとをさらに備え、1つの燃焼サイクルが、前記吸気バルブが開き、前記排気バルブが閉じた状態で、前記ピストンが下死点に向かって移動する吸気工程と、前記吸気工程に続き、前記吸気バルブおよび前記排気バルブが閉じた状態で、前記ピストンが上死点に向かって移動する第1圧縮工程と、前記第1圧縮工程に続き、前記吸気バルブおよび前記排気バルブが閉じた状態で、前記ピストンが上死点に位置するタイミングで前記インジェクタが前記シリンダ内に前記液体燃料を噴射し、その後、前記ピストンが下死点に向かって移動する噴射工程と、前記噴射工程に続き、前記吸気バルブおよび前記排気バルブが閉じた状態で、前記ピストンが上死点に向かって移動する第2圧縮工程と、前記第2圧縮工程に続き、前記吸気バルブおよび前記排気バルブが閉じた状態で、前記ピストンが上死点に位置するタイミングで前記点火プラグが前記シリンダ内の前記燃料成分に点火し、その後、前記ピストンが下死点に向かって移動する燃焼工程と、前記燃焼行程に続き、前記吸気バルブが閉じ、前記排気バルブが開いた状態で、前記ピストンが上死点に向かって移動する排気工程とからなる、上記[1]の内燃機関を含む。
【0012】
このような構成によれば、吸気工程に続く第1圧縮工程により、シリンダ内に吸気された空気を圧縮して、シリンダ内の空気の温度を上昇させ、続く噴射工程において、シリンダ内の高温の空気を利用して、液体燃料からアザンを気化させることができる。
【0013】
そのため、燃焼行程の前に、確実に、燃料成分と水とに分離できる。そして、分離された燃料成分および水を、空気と混合して、燃料成分、水および空気の混合物を得ることができる。
【0014】
続いて、第2圧縮工程で、得られた混合物を圧縮し、燃焼行程で、燃料成分を燃焼させることにより、燃料成分の燃焼熱により、水を気化させて、生じた水蒸気を膨張させることができる。
【0015】
その結果、水蒸気の膨張により、高い筒内圧を得ることができる。
【0016】
また、水の気化によってシリンダ内の熱エネルギーが奪われることで、NOx(窒素酸化物)の発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の内燃機関によれば、二酸化炭素の排出を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、車両の概略構成図である。
図2図2は、本発明の内燃機関の第1実施形態の概略構成図である。
図3図3Aから図3Cは、図2に示す内燃機関の燃焼サイクルを説明するための説明図であって、図3Aは、吸気工程を示し、図3Bは、第1圧縮工程を示し、図3Cは、噴射工程を示す。
図4図4Aから図4Cは、図3Cに続き、内燃機関の燃焼サイクルを説明するための説明図であって、図4Aは、第2圧縮工程を示し、図4Bは、燃焼工程を示し、図4Cは、排気工程を示す。
図5図5Aおよび図5Bは、本発明の内燃機関の第2実施形態の燃焼サイクルを説明するための説明図であって、図5Aは、吸気・排気工程を示し、図5Bは、圧縮・噴射・燃焼行程を示す。
図6図6Aから図6Dは、本発明の内燃機関の第3実施形態の燃焼サイクルを説明するための説明図であって、図6Aは、吸気・噴射工程を示し、図6Bは、圧縮行程を示し、図6Cは、燃焼工程を示し、図6Dは、排気工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.内燃機関の構成
図1に示すように、内燃機関1は、例えば、車両100に搭載される。
【0020】
車両100は、内燃機関1と、バッテリー101および制御装置102を含む電気システムと、内燃機関1に吸気するための吸気システム103と、内燃機関1に液体燃料を供給するための燃料供給システム104と、内燃機関1から排気するための排気システム105とを備える。
【0021】
制御装置102は、車両100における電気的な制御を実行するECU(Electronic Control Unit)であり、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などを備える。制御装置102は、バッテリー101と電気的に接続される。制御装置102は、車両100のイグニッションスイッチがオンされたときに、バッテリー101から電力が供給されることにより、起動する。
【0022】
本実施形態では、内燃機関1は、直列2気筒の直噴6ストロークエンジンである。内燃機関1は、2つのシリンダ2を有する。なお、以下の説明では、内燃機関1の2つのシリンダ2のうちの一方のシリンダ2について説明し、他方のシリンダ2についての説明を省略する。
【0023】
図2に示すように、内燃機関1は、シリンダ2と、ピストン3と、吸気バルブ4と、排気バルブ5と、クランクシャフト6と、コネクティングロッド7と、インジェクタ8と、点火プラグ9とを備える。
【0024】
(1)シリンダ
シリンダ2は、吸気ポート21と、排気ポート22とを有する。吸気ポート21は、吸気システム103と接続される。排気ポート22は、排気システム105と接続される。
【0025】
(2)ピストン
ピストン3は、シリンダ2内を往復する。ピストン3の頭部とシリンダ2の内面とで区画される空間が、燃焼室Cである。燃焼室Cは、吸気ポート21および排気ポート22と通じる。
【0026】
(3)吸気バルブ
吸気バルブ4は、吸気ポート21を開閉する。吸気バルブ4が開き、排気バルブ5が閉じた状態(図3A参照)で、吸気システム103からの空気は、吸気ポート21を通って、シリンダ2内の燃焼室Cに吸気される。吸気バルブ4および排気バルブ5が閉じた状態(図3B参照)で、燃焼室Cは、密閉される。
【0027】
なお、吸気バルブ4が開くタイミングは、図示しないカムシャフト、および、図示しないタイミングベルトを介して、クランクシャフト6の回転と同期されている。
【0028】
(4)排気バルブ
排気バルブ5は、排気ポート22を開閉する。吸気バルブ4が閉じ、排気バルブ5が開いた状態(図4C参照)で、燃焼室C内の排気ガスは、排気ポート22を通って、排気システム105に排気される。
【0029】
なお、排気バルブ5が開くタイミングは、図示しないカムシャフト、および、図示しないタイミングベルトを介して、クランクシャフト6の回転と同期されている。
【0030】
(5)クランクシャフト
クランクシャフト6は、2つのシリンダ2が並ぶ方向に延びる。クランクシャフト6は、軸線Aについて回転可能である。軸線Aは、2つのシリンダ2が並ぶ方向に延びる。クランクシャフト6は、ピストン3の往復運動を回転運動に変換する。クランクシャフト6の位相角は、好ましくは、180°である。
【0031】
詳しくは、クランクシャフト6は、メインジャーナル61と、クランクピン62と、クランクアーム63と、カウンターウェイト64とを有する。
【0032】
メインジャーナル61は、軸線Aに沿って延びる。メインジャーナル61は、円柱形状を有する。クランクピン62は、軸線Aが延びる方向と直交する方向において、メインジャーナル61から離れて配置される。クランクピン62は、軸線Aが延びる方向に延びる。クランクピン62は、円柱形状を有する。クランクアーム63は、メインジャーナル61とクランクピン62とを接続する。カウンターウェイト64は、メインジャーナル61に対して、クランクピン62の反対側に配置される。
【0033】
(6)コネクティングロッド
コネクティングロッド7は、ピストン3と、クランクシャフト6のクランクピン62とを接続する。
【0034】
(7)インジェクタ
インジェクタ8は、シリンダ2内の燃焼室Cに液体燃料を噴射する。インジェクタ8は、燃料供給システム104と接続される。インジェクタ8は、制御装置102と電気的に接続される。インジェクタ8による液体燃料の噴射のタイミングは、制御装置102によって制御される。
【0035】
液体燃料は、炭素原子を含有する燃料成分を含有しない。そのため、燃料成分が燃焼しても、二酸化炭素が発生しない。その結果、二酸化炭素の排出を抑制できる。液体燃料は、炭素原子を含有しない燃料成分としてのアザンと水とを含有する混合物である。液体燃料がアザンと水とを含有する混合物であると、液体燃料中の燃料成分(アザン)が燃焼したときに、窒素と水(水蒸気)とが発生する。そのため、環境負荷の増大を抑制できる。
【0036】
好ましくは、液体燃料は、アザンおよび水に加えて、過酸化水素を含有する。より好ましくは、液体燃料は、アザンと水と過酸化水素のみからなる混合物である。
【0037】
アザンとして、例えば、アンモニア、ヒドラジン、トリアザンが挙げられる。好ましくは、アザンとして、アンモニアが挙げられる。
【0038】
燃料成分がアンモニアであり、液体燃料がアンモニアと水のみからなる場合、アンモニア水として液体燃料を取り扱うことができる。詳しくは、アンモニアを気体のまま燃料として取り扱う場合、高圧タンクなどが必要になったり、可搬性が悪かったりと、取り扱いが難しい。一方、アンモニア水は、常温付近で液体であるため、炭素原子を含有する一般的な液体燃料(ガソリン、アルコール)と同様に取り扱うことができる。そのため、液体燃料の取り扱いが容易である。
【0039】
また、燃料成分がアンモニアであり、液体燃料がアンモニアと過酸化水素と水のみからなる場合、アンモニア過酸化水素水として液体燃料を取り扱うことができる。そのため、液体燃料がアンモニアと水のみからなる場合と同様に、取り扱いが容易である。
【0040】
また、液体燃料がアンモニア水であると、燃焼室C内で、加熱により、容易にアンモニアと水とに分離できる。そのため、アンモニアの燃焼熱を利用して水を気化させて、生じた水蒸気を膨張させることができ、高い筒内圧を得ることができる。
【0041】
さらに、液体燃料がアンモニア過酸化水素水であると、燃焼室C内で、過酸化水素の分解によって生じた酸素を利用して、アンモニアを燃焼させることができる。そのため、吸気システム103からの空気に含まれる酸素と、過酸化水素の分解によって生じた酸素とによって、より多くのアンモニアを燃焼させることができる。その結果、液体燃料がアンモニア水である場合と比べて、より高い筒内圧を得ることができる。
【0042】
液体燃料の成分割合は、車両100の使用が想定される環境温度範囲において、1つの燃焼サイクルで、アンモニアの燃焼熱によってシリンダ2内の全ての水を気化できるように、設定される。
【0043】
なお、液体燃料がアンモニア水の場合、「シリンダ2内の全ての水」とは、1つの燃焼サイクルにおいてシリンダ2内に供給された液体燃料中の水である。液体燃料がアンモニア過酸化水素水の場合、「シリンダ2内の全ての水」とは、1つの燃焼サイクルにおいてシリンダ2内に供給された液体燃料中の水、および、1つの燃焼サイクルにおいてシリンダ2内の供給された液体燃料中の過酸化水素が分解することにより発生する水である。
【0044】
まず、下記式(1)または下記式(2)で計算される酸素過剰率によって、1つの燃焼サイクルにおいてシリンダ2内に供給された液体燃料中のアンモニアが完全燃焼するか否か、判定できる。液体燃料がアンモニア水の場合、酸素過剰率は、式(1)で計算され、液体燃料がアンモニア過酸化水素水の場合、酸素過剰率は、式(2)で計算される。
【0045】
式(1):酸素過剰率=吸入酸素量/必要酸素量
必要酸素量は、1つの燃焼サイクルにおいてシリンダ2内に供給された液体燃料中の全てのアンモニアを燃焼させるために必要な酸素の質量である。必要酸素量は、液体燃料中のアンモニアの濃度と、インジェクタ8の噴射量とによって定まる。
【0046】
吸入酸素量は1つの燃焼サイクルにおいてシリンダ2内に吸入される空気に含まれる酸素の質量である。吸入酸素量は、シリンダ2の容積に応じて定まる。
【0047】
式(2):酸素過剰率=(吸入酸素量+発生酸素量)/必要酸素量
発生酸素量は、1つの燃焼サイクルにおいてシリンダ2内に供給された液体燃料中の全ての過酸化水素が分解することにより発生する酸素の質量である。発生酸素量は、液体燃料中の過酸化水素の濃度と、インジェクタ8の噴射量とによって定まる。
【0048】
酸素過剰率が1以上である場合、アンモニアは、完全燃焼する。一方、酸素過剰率が1未満である場合、アンモニアが燃え残る。アンモニアが燃え残り、排気ガスとして排出されると、環境負荷が増大する可能性があるため、酸素過剰率は、車両100の使用が想定される環境温度範囲の全部において1以上であることが好ましい。
【0049】
そのため、液体燃料の成分割合は、車両100の使用が想定される環境温度範囲の全部において酸素過剰量が1以上であり、かつ、シリンダ2内の全ての水を気化できるように、設定される。
【0050】
具体的には、液体燃料がアンモニア水であり、車両100の使用が想定される環境温度範囲の最低温度が-30℃である場合、液体燃料中のアンモニアの濃度は、例えば、5質量%以上、好ましくは、10質量%以上であり、例えば、20質量%以下、好ましくは、15質量%以下であり、より好ましくは、11.17質量%である。
【0051】
また、液体燃料がアンモニア過酸化水素水であり、車両100の使用が想定される環境温度範囲の最低温度が-30℃である場合、液体燃料中のアンモニアと過酸化水素と水との比率(アンモニア:過酸化水素:水)は、例えば、1:1.20~1.35:6.90~7.65であり、好ましくは、1:1.28:7.28である。
【0052】
(8)点火プラグ
点火プラグ9は、燃焼室C内に燃料成分が存在する状態で、燃料成分に点火する。点火プラグ9は、具体的には、スパークプラグである。点火プラグ9は、制御装置102と電気的に接続される。点火プラグ9による点火のタイミングは、制御装置102によって制御される。
【0053】
2.内燃機関の動作
次に、内燃機関1の動作について説明する。
【0054】
まず、内燃機関1の1つの燃焼サイクルは、吸気工程(図3A参照)と、第1圧縮工程(図3B参照)と、噴射工程(図3C参照)と、第2圧縮工程(図4A参照)と、燃焼工程(図4B参照)と、排気工程(図4C参照)とからなる。
【0055】
(1)吸気工程
図3Aに示すように、吸気工程では、吸気バルブ4が開き、排気バルブ5が閉じた状態で、ピストン3が、前回の燃焼サイクルによる慣性によって、下死点に向かって移動する。これにより、吸気システム103からの空気は、吸気ポート21を通って、シリンダ2内の燃焼室Cに吸気される。ピストン3が下死点に位置するタイミングで、吸気バルブ4は、閉じる。なお、「ピストン3が下死点に位置するタイミング」とは、ピストン3が下死点に位置した時点だけではなく、ピストン3が下死点に位置した時点の直前および直後を含む。
【0056】
(2)第1圧縮工程
次に、図3Bに示すように、第1圧縮工程では、吸気工程に続き、吸気バルブ4および排気バルブ5が閉じた状態で、ピストン3が、引き続き前回の燃焼サイクルによる慣性によって、上死点に向かって移動する。これにより、燃焼室C内の空気が圧縮されて、燃焼室C内の空気の温度が上昇する。
【0057】
ピストン3が上死点に位置するタイミングで、燃焼室C内の空気の温度は、例えば、100℃以上、好ましくは、200℃以上であり、例えば、500℃以下、好ましくは、480℃以下である。
【0058】
ピストン3が上死点に位置するタイミングでの燃焼室C内の空気の温度は、圧縮比によって調節可能である。
【0059】
圧縮比は、例えば、5以上、好ましくは、10以上、より好ましくは、13以上であり、例えば、20以下、好ましくは、17以下である。
【0060】
(3)噴射工程
次に、図3Cに示すように、噴射工程では、第1圧縮工程に続き、吸気バルブ4および排気バルブ5が閉じた状態で、ピストン3が上死点に位置するタイミングで、インジェクタ8が、燃焼室C内に液体燃料を噴射する。なお、「ピストン3が上死点に位置するタイミング」とは、ピストン3が上死点に位置した時点だけではなく、ピストン3が上死点に位置した時点の直前および直後を含む。
【0061】
すると、噴射された液体燃料は、燃焼室C内の空気によって加熱される。液体燃料が加熱されることにより、液体燃料中の燃料成分の少なくとも一部が気化し、水から分離される。
【0062】
インジェクタ8が燃焼室Cに液体燃料を噴射した後、ピストン3は、引き続き前回の燃焼サイクルによる慣性によって、下死点に向かって移動する。これにより、燃焼室C内において、空気と燃料成分と水とが混合される。
【0063】
(4)第2圧縮工程
次に、図4Aに示すように、第2圧縮工程では、噴射工程に続き、吸気バルブ4および排気バルブ5が閉じた状態で、ピストン3が、引き続き前回の燃焼サイクルによる慣性によって、上死点に向かって移動する。これにより、燃焼室C内において、空気と燃料成分と水との混合物が圧縮される。
【0064】
(5)燃焼工程
次に、図4Bに示すように、燃焼工程では、第2圧縮工程に続き、吸気バルブ4および排気バルブ5が閉じた状態で、ピストン3が上死点に位置するタイミングで、点火プラグ9が、燃焼室C内の混合物中の燃料成分に点火する。なお、燃焼工程では、「ピストン3が上死点に位置するタイミング」とは、好ましくは、ピストン3が上死点に位置した時点の直後である。
【0065】
すると、燃料成分が燃焼し、発生した燃焼熱によって、混合物中の水が気化して、生じた水蒸気が膨張する。水蒸気の膨張により、筒内圧が上昇し、上昇した筒内圧によって、ピストン3が下死点に向かって移動する。つまり、点火プラグ9が燃焼室C内の燃料成分に点火した後、ピストン3は、下死点に向かって移動する。ピストン3が下死点に位置するタイミングで、排気バルブ5が、開く。
【0066】
(6)排気工程
次に、図4Cに示すように、排気工程では、燃焼行程に続き、吸気バルブ4が閉じ、排気バルブ5が開いた状態で、ピストン3が、燃焼行程による慣性により、上死点に向かって移動する。これにより、燃焼室C内の排気ガスは、ピストン3によって排気ポート22から押し出され、排気システム105に排気される。
【0067】
そして、ピストン3が上死点に位置するタイミングで、排気バルブ5が閉じ、吸気バルブ4が開く。排気バルブ5が閉じ、吸気バルブ4が開くことにより、次の燃焼サイクルの吸気工程が開始される。
【0068】
3.作用効果
(1)内燃機関1によれば、液体燃料が炭素原子を含有する燃料成分を含有しないので、燃料成分が燃焼しても、二酸化炭素が発生しない。
【0069】
その結果、二酸化炭素の排出を抑制できる。
【0070】
さらに、燃料成分がアザンであるため、燃料成分が燃焼したときに、窒素と水(水蒸気)とが発生する。
【0071】
そのため、環境負荷の増大を抑制できる。
【0072】
(2)内燃機関1によれば、図3Bに示すように、吸気工程(図3A参照)に続く第1圧縮工程により、燃焼室C内に吸気された空気を圧縮して、燃焼室C内の空気の温度を上昇させ、図3Cに示すように、続く噴射工程において、シリンダ2内の高温の空気を利用して液体燃料を加熱し、液体燃料中の燃料成分を気化させて、燃料成分を水から分離することができる。
【0073】
そのため、燃焼行程(図4B参照)の前に、液体燃料を、確実に、燃料成分と水とに分離できる。そして、分離された燃料成分および水を、空気と混合して、燃料成分、水および空気の混合物を得ることができる。
【0074】
続いて、図4Aに示すように、第2圧縮工程で、得られた混合物を圧縮し、図4Cに示すように、燃焼行程で、燃料成分を燃焼させることにより、燃料成分の燃焼熱により、水を気化させて、生じた水蒸気を膨張させることができる。
【0075】
その結果、水蒸気の膨張により、高い筒内圧を得ることができる。
【0076】
また、水の気化によってシリンダ2内の熱エネルギーが奪われることで、NOx(窒素酸化物)の発生を抑制できる。
【0077】
4.第2実施形態
次に、図5Aおよび図5Bを参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態において、第1実施形態と同様の部材には、同じ符号を付し、説明を省略する。
【0078】
第2実施形態の内燃機関200は、2ストロークエンジンである。
【0079】
内燃機関200の1つの燃焼サイクルは、吸気・排気工程(図5A参照)と、圧縮・噴射・燃焼行程(図5B参照)とからなる。
【0080】
図5Aに示すように、吸気・排気工程では、ピストン3が下死点に向かって移動するときに、燃焼室C内の排気ガスが排気ポート22から排気され、続いて、吸気システム103からの空気が、吸気ポート21から吸気される。
【0081】
続いて、図5Bに示すように、圧縮・噴射・燃焼行程では、ピストン3が上死点に向かって移動するときに、燃焼室C内の空気が圧縮されて、燃焼室C内の空気の温度が上昇する。
【0082】
そして、ピストン3が上死点に位置するタイミングで、インジェクタ8が、燃焼室C内に液体燃料を噴射する。
【0083】
すると、噴射された液体燃料は、燃焼室C内の温度上昇した空気によって加熱される。液体燃料が加熱されることにより、液体燃料中の燃料成分が気化し、水から分離する。
【0084】
直後に、点火プラグ9が、水から分離した燃料成分に点火する。
【0085】
すると、燃料成分が燃焼し、発生した燃焼熱によって、水が気化し、生じた水蒸気が膨張する。水蒸気の膨張により、筒内圧が上昇し、上昇した筒内圧によって、ピストン3が下死点に向かって移動する。
【0086】
なお、ピストン3が下死点に向かって移動するときに、次の燃焼サイクルの吸気・排気工程が開始される。
【0087】
第2実施形態でも、第1実施形態と同様に、二酸化炭素の排出を抑制できる。
【0088】
5.第3実施形態
次に、図6Aから図6Dを参照して、第3実施形態について説明する。第3実施形態において、第1実施形態と同様の部材には、同じ符号を付し、説明を省略する。
【0089】
第3実施形態の内燃機関300は、4ストロークエンジンである。
【0090】
内燃機関200の1つの燃焼サイクルは、吸気・噴射工程(図6A参照)と、圧縮工程(図6B参照)と、燃焼行程(図6C参照)と、排気工程(図6D参照)とからなる。
【0091】
図6Aに示すように、吸気・噴射工程では、吸気バルブ4が開き、排気バルブ5が閉じた状態で、ピストン3が下死点に向かって移動する。これにより、吸気システム103からの空気は、吸気ポート21を通って、燃焼室C内に吸気される。
【0092】
このとき、インジェクタ8が、燃焼室C内に液体燃料を噴射する。
【0093】
ピストン3が下死点に位置するタイミングで、吸気バルブ4は、閉じる。
【0094】
続いて、図6Bに示すように、圧縮工程では、吸気バルブ4および排気バルブ5が閉じた状態で、ピストン3が上死点に向かって移動する。これにより、燃焼室C内の空気が圧縮されて、燃焼室C内の空気の温度が上昇する。
【0095】
すると、吸気・噴射工程で燃焼室C内に噴射された液体燃料は、燃焼室C内の空気によって加熱される。液体燃料が加熱されることにより、液体燃料中の燃料成分が気化し、水から分離する。
【0096】
続いて、図6Cに示すように、燃焼行程では、吸気バルブ4および排気バルブ5が閉じた状態で、ピストン3が上死点に位置するタイミングで、点火プラグ9が、液体燃料の燃料成分に点火する。
【0097】
すると、燃料成分が燃焼し、発生した燃焼熱によって、水が気化し、生じた水蒸気が膨張する。水蒸気の膨張により、筒内圧が上昇し、上昇した筒内圧によって、ピストン3が下死点に向かって移動する。そして、ピストン3が下死点に位置するタイミングで、排気バルブ5が、開く。
【0098】
続いて、図6Dに示すように、排気工程では、吸気バルブ4が閉じ、排気バルブ5が開いた状態で、ピストン3が上死点に向かって移動する。これにより、燃焼室C内の排気ガスは、ピストン3によって排気ポート22から押し出され、排気システム105に排気される。
【0099】
そして、ピストン3が上死点に位置するタイミングで、排気バルブ5が閉じ、吸気バルブ4が開く。排気バルブ5が閉じ、吸気バルブ4が開くことにより、次の燃焼サイクルの吸気・噴射工程が開始される。
【0100】
第3実施形態でも、第1実施形態と同様に、二酸化炭素の排出を抑制できる。
【符号の説明】
【0101】
1 内燃機関
2 シリンダ
3 ピストン
4 吸気バルブ
5 排気バルブ
6 クランクシャフト
7 コネクティングロッド
8 インジェクタ
9 点火プラグ
21 吸気ポート
22 排気ポート
200 内燃機関
300 内燃機関
図1
図2
図3
図4
図5
図6