(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158644
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】加熱装置
(51)【国際特許分類】
D02J 13/00 20060101AFI20231023BHJP
【FI】
D02J13/00 E
D02J13/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060905
(22)【出願日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2022068060
(32)【優先日】2022-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】堀本 尭幸
(72)【発明者】
【氏名】北川 重樹
【テーマコード(参考)】
4L036
【Fターム(参考)】
4L036AA01
4L036MA04
4L036MA33
4L036PA05
4L036PA18
4L036PA49
4L036UA21
(57)【要約】
【課題】加熱部の糸走行方向の端部の温度低下を抑制し、加熱部を走行する糸に対しより均一な加熱を行う。
【解決手段】糸走行方向に延びており、抵抗体51aに電流を流すことで発熱する熱源51を備える。熱源51は、糸が走行する糸走行空間が設けられた加熱部を加熱する。熱源51に、加熱部における糸走行方向の両端部をそれぞれ加熱する入口側加熱部分71及び出口側加熱部分73と、入口側加熱部分71及び出口側加熱部分73と糸走行方向に並んでおり、且つ、抵抗体51aのワット密度が入口側加熱部分71及び出口側加熱部分73における抵抗体51aのワット密度よりも低い中央加熱部分72と、を設ける。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸走行方向に延びており、抵抗体に電流を流すことで発熱する抵抗加熱式の熱源と、
糸が走行する糸走行空間が設けられており、前記熱源によって加熱される加熱部と、
前記加熱部の温度を検出するセンサと、
前記センサの出力信号に基づいて前記抵抗体に電流を流す状態と電流を流さない状態とを切り替える制御装置と、
を備えており、
前記熱源は、
前記加熱部における前記糸走行方向の少なくとも一方側の端部を加熱する第1部分と、
前記第1部分と前記糸走行方向に並んでおり、且つ、前記抵抗体のワット密度が前記第1部分における前記抵抗体のワット密度よりも低い第2部分と、を有していることを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
前記第1部分は、前記加熱部における前記糸走行方向の両端部をそれぞれ加熱することを特徴とする請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
前記糸走行空間が、前記糸走行方向の一方側の端部が他方側の端部に比べて下方に位置するように傾斜しており、
前記熱源は、前記加熱部における前記糸走行方向の前記一方側の端部を加熱する前記第1部分を有していることを特徴とする請求項1に記載の加熱装置。
【請求項4】
前記加熱部は、前記糸走行方向に延びており、前記糸走行空間内を走行する前記糸と接触する接糸面が形成された接糸部を有していることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項5】
前記加熱部は、金属材料を有するものであり、
前記第1部分及び前記第2部分における前記抵抗体のワット密度は3.0[W/cm2]以下であることを特徴とする請求項4に記載の加熱装置。
【請求項6】
前記第1部分と前記第2部分とにおける熱源容量の差は40[W]以上且つ45[W]以下であることを特徴とする請求項4又は5に記載の加熱装置。
【請求項7】
前記熱源が、前記抵抗体をパイプで囲んだシーズヒータであることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸を加熱する加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
合成繊維からなる糸に合糸加工や仮撚加工等の種々の加工を施す加工機において糸を加熱する加熱装置が、従来から知られている。特許文献1には、2本の糸を合糸する合糸加工機の加熱装置であって、糸走行方向に沿って設けられた加熱体(加熱部)を備えた糸加熱装置(加熱装置)が開示されている。加熱体には、糸走行方向に沿って走行溝が設けられている。また、加熱体の内部には、糸走行方向に沿ってシーズヒータ(熱源)が設けられている。そして、このシーズヒータの熱を加熱体が伝達することで、走行溝内部の空間を走行する糸を加熱することができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような糸加熱装置は、センサにより検出された加熱体の温度に基づいて、シーズヒータに電流を供給する電流付与回路のON/OFFを制御する。加熱体は、走行溝を走行する糸の入口や出口が設けられる糸走行方向の端部において放熱が生じる。よって、加熱体の糸走行方向の端部は、中央部に比べて温度が低下しやすい。
【0005】
したがって、電流付与回路のON/OFFを制御する際に、加熱体の中央部が糸の加熱に適した温度となるようにすると、加熱体の端部は適温以下となってしまい、糸を適切に加熱できなくなるおそれがある。一方、加熱体の端部が糸の加熱に適した温度となるようにすると、加熱体の中央部を必要以上に加熱してしまうことになり、無駄な電力消費が発生する。また、加熱体の中央部と端部とに温度差があると、糸の加熱ムラが生じ、糸の品質が低下するおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、加熱部の糸走行方向の端部の温度低下を抑制し、加熱部を走行する糸に対しより均一な加熱を行うことができる加熱装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明にかかる加熱装置は、糸走行方向に延びており、抵抗体に電流を流すことで発熱する抵抗加熱式の熱源と、糸が走行する糸走行空間が設けられており、前記熱源によって加熱される加熱部と、前記加熱部の温度を検出するセンサと、前記センサの出力信号に基づいて前記抵抗体に電流を流す状態と電流を流さない状態とを切り替える制御装置と、備えており、前記熱源は、前記加熱部における前記糸走行方向の少なくとも一方側の端部を加熱する第1部分と、前記第1部分と前記糸走行方向に並んでおり、且つ、前記抵抗体のワット密度が前記第1部分における前記抵抗体のワット密度よりも低い第2部分と、を有している。
【0008】
本発明では、加熱部において比較的温度が低下しやすい糸走行方向の端部は、熱源の第1部分によって加熱される。熱源は、抵抗体のワット密度が比較的高い第1部分の熱量が、抵抗体のワット密度が比較的低い第2部分の熱量に比べて大きい。したがって、加熱部の糸走行方向の端部を、比較的大きな熱量で加熱することができる。よって、加熱部の糸走行方向の端部の温度低下を抑制し、加熱部を走行する糸に対しより均一な加熱を行うことができる。
【0009】
第2の発明にかかる加熱装置では、前記第1部分は、前記加熱部における前記糸走行方向の両端部をそれぞれ加熱する。
【0010】
本発明では、加熱部において比較的温度が低下しやすい糸走行方向の両端部が、熱源における抵抗体のワット密度が比較的高い第1部分によって加熱される。したがって、加熱部の糸走行方向の両端部の温度低下を抑制することができる。
【0011】
第3の発明にかかる加熱装置は、前記糸走行空間が、前記糸走行方向の一方側の端部が他方側の端部に比べて下方に位置するように傾斜しており、前記熱源は、前記加熱部における前記糸走行方向の前記一方側の端部を加熱する前記第1部分を有している。
【0012】
本発明では、糸走行空間が糸走行方向の一方側の端部が他方側の端部に比べて下方に位置するように傾斜しているので、糸走行空間内において加熱された空気は、上方に位置する糸走行方向の他方側の端部に向けて移動する。したがって、加熱部における糸走行方向の一方側の端部は、比較的温度が低下しやすい。加熱部において比較的温度が低下しやすい糸走行方向の一方側の端部を、熱源における抵抗体のワット密度が比較的高い第1部分によって加熱することができる。よって、加熱部の糸走行方向の端部の温度低下を確実に抑制することができる。
【0013】
第4の発明にかかる加熱装置では、前記加熱部は、前記糸走行方向に延びており、前記糸走行空間内を走行する前記糸と接触する接糸面が形成された接糸部を有している。
【0014】
本発明では、接糸面の糸走行方向の端部の温度低下を抑制することができるので、糸を接糸面に接触させることで安定的に加熱することができる。
【0015】
第5の発明にかかる加熱装置では、前記加熱部は、金属材料を有するものであり、前記第1部分及び前記第2部分における前記抵抗体のワット密度は、3.0[W/cm2]以下である。
【0016】
本発明では、熱源の加熱対象である加熱部は金属材料を有するものであり、第1部分及び第2部分における抵抗体のワット密度は3.0[W/cm2]以下である。したがって、加熱部に相変化や化学変化が生じるのを抑制できる。さらに、熱源の長寿命化にも寄与することができる。
【0017】
第6の発明にかかる加熱装置では、前記第1部分と前記第2部分とにおける熱源容量の差は40[W]以上且つ45[W]以下である。
【0018】
本発明では、第1部分と第2部分との熱源容量の差を40[W]以上且つ45[W]以下にすることで、加熱部の接糸面の糸走行方向における温度分布をより均一にすることができる。したがって、糸の加熱ムラを確実に抑え、より糸品質が良好な糸を生産することができる。
【0019】
第7の発明にかかる加熱装置では、前記熱源が、前記抵抗体をパイプで囲んだシーズヒータである。
【0020】
本発明では、抵抗体をパイプで囲んだシーズヒータを熱源として採用することで、加熱装置への適用が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる仮撚加工機の側面図である。
【
図2】糸の経路に沿って仮撚加工機を展開した模式図である。
【
図8】実施例1、実施例2及び比較例の比較試験における条件を示す表である。
【
図9】実施例1、実施例2及び比較例にかかる各熱源を使用した際の接糸面の温度分布を示すグラフである。
【
図10】実施例1、実施例2及び比較例にかかる各熱源を使用した際の消費電力を示すグラフである。
【
図12】実施例3にかかる熱源を使用した際の接糸面の温度分布を示すグラフである。
【
図13】一変形例にかかる第1加熱装置の機台長手方向と直交する面での断面図である。
【
図14】一変形例にかかる第1加熱装置の熱源を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の好適な一実施形態に係る仮撚加工機1について、
図1を参照しつつ説明する。なお、
図1の紙面垂直方向を機台長手方向とし、紙面左右方向を機台幅方向とする。機台長手方向及び機台幅方向の両方と直交する方向を、重力の作用する上下方向(鉛直方向)とする。機台長手方向及び機台幅方向は、水平方向と略平行な方向である。
【0023】
(仮撚加工機1の全体構成)
仮撚加工機1は、例えばナイロン(ポリアミド系繊維)やポリエステル等の合成繊維からなる糸Yを仮撚加工可能に構成されている。仮撚加工機1は、糸Yを供給するための給糸部2と、給糸部2から供給された糸Yを仮撚加工する加工部3と、加工部3によって加工された糸Yを巻取ボビンBwに巻き取る巻取部4とを備える。給糸部2、加工部3及び巻取部4が有する各構成要素は、機台長手方向において複数配列されている(
図2参照)。機台長手方向は、給糸部2から加工部3を通って巻取部4に至る糸道によって形成される、糸Yの走行面(
図1の紙面)と直交する方向である。
【0024】
給糸部2は、複数の給糸パッケージPsを保持するクリールスタンド5を有する。給糸部2は、加工部3に複数の糸Yを供給する。加工部3は、給糸パッケージPsから供給された糸Yを仮撚りする。加工部3は、糸走行方向の上流側から順に、第1フィードローラ11、撚止ガイド12、第1加熱装置13(本発明の「加熱装置」に相当)、冷却装置14、仮撚装置15、第2フィードローラ16、交絡装置17、第3フィードローラ18、第2加熱装置19、第4フィードローラ20が配置された構成となっている。巻取部4は、複数の巻取装置21を有する。各巻取装置21は、加工部3で仮撚加工された糸Yを巻取ボビンBwに巻き取って巻取パッケージPwを形成する。
【0025】
仮撚加工機1は、機台幅方向に間隔を置いて配置された主機台8及び巻取台9を有する。主機台8及び巻取台9は、機台長手方向に略同じ長さに延設されている。主機台8及び巻取台9は、機台幅方向において互いに対向するように配置されている。主機台8の上部と巻取台9の上部とは、支持フレーム10によって連結されている。加工部3を構成する各装置は、主に主機台8や支持フレーム10に取り付けられている。巻取部4を構成する各装置は、巻取台9に取り付けられている。主機台8と巻取台9と支持フレーム10とによって、作業者が各装置に対して糸掛け等の作業を行うための作業空間Aが形成されている。糸道は、糸Yが主に作業空間Aの周りを走行するように形成されている。
【0026】
仮撚加工機1は、互いに対向配置された1組の主機台8及び巻取台9を含むスパンと呼ばれる単位ユニットを有する。1つのスパンには、加工部3を構成する各装置を通るように糸道が形成されている加工ユニット(錘とも呼ばれる)が、機台長手方向に複数並んで配置されている。これによって、1つのスパンでは、機台長手方向に並んだ状態で走行する複数の糸Yに対して、同時に仮撚加工を行うことができる。仮撚加工機1は、スパンが、主機台8における機台幅方向の中心線Cを対称軸として、紙面左右対称に配置されている。主機台8は左右のスパンで共通のものとなっている。
【0027】
(加工部の構成)
加工部3の構成について、
図1及び
図2を参照しつつ説明する。第1フィードローラ11は、給糸部2に装着された給糸パッケージPsから糸Yを解舒して第1加熱装置13へ送るように構成されている。第1フィードローラ11は、例えば、
図2に示すように、1本の糸Yを第1加熱装置13へ送るように構成されている。或いは、第1フィードローラ11は、隣り合う複数の糸Yをそれぞれ糸走行方向における下流側へ送ることが可能に構成されていても良い。撚止ガイド12は、仮撚装置15で糸Yに付与された撚りが、撚止ガイド12よりも糸走行方向上流側に伝播しないように構成されている。
【0028】
第1加熱装置13は、第1フィードローラ11から送られてきた糸Yを所定の加工温度に加熱するための装置である。第1加熱装置13は、例えば、
図2に示すように、2本の糸Yを加熱可能に構成されている。第1加熱装置13のより詳細については後述する。
【0029】
冷却装置14は、第1加熱装置13で加熱された糸Yを冷却するように構成されている。冷却装置14は、例えば、
図2に示すように、1本の糸Yを冷却するように構成されている。或いは、冷却装置14は、複数の糸Yを同時に冷却可能に構成されていても良い。仮撚装置15は、冷却装置14の糸走行方向下流側に配置され、糸Yに撚りを付与するように構成されている。仮撚装置15は、例えば、いわゆるディスクフリクション方式の仮撚装置であるが、これには限られない。第2フィードローラ16は、仮撚装置15で処理された糸Yを交絡装置17へ送るように構成されている。第2フィードローラ16による糸Yの搬送速度は、第1フィードローラ11による糸Yの搬送速度よりも速い。これにより、糸Yは、第1フィードローラ11と第2フィードローラ16との間で延伸仮撚される。
【0030】
交絡装置17は、糸Yに交絡を付与するように構成されている。交絡装置17は、例えば、空気流によって糸Yに交絡を付与する公知のインターレースノズルを有する。
【0031】
第3フィードローラ18は、交絡装置17よりも糸走行方向における下流側を走行している糸Yを第2加熱装置19へ送るように構成されている。第3フィードローラ18は、例えば、
図2に示すように、1本の糸Yを第2加熱装置19へ送るように構成されている。或いは、第3フィードローラ18は、隣り合う複数の糸Yをそれぞれ糸走行方向における下流側へ送ることが可能に構成されていても良い。なお、第3フィードローラ18による糸Yの搬送速度は、第2フィードローラ16による糸Yの搬送速度よりも遅い。このため、糸Yは、第2フィードローラ16と第3フィードローラ18との間で弛緩される。
【0032】
第2加熱装置19は、第3フィードローラ18から送られてきた糸Yを加熱するように構成されている。第2加熱装置19は、鉛直方向に沿って延びており、1つのスパンに1つずつ設けられている。第4フィードローラ20は、第2加熱装置19によって加熱された糸Yを巻取装置21へ送るように構成されている。第4フィードローラ20は、例えば、
図2に示すように、1本の糸Yを巻取装置21へ送ることが可能に構成されている。或いは、第4フィードローラ20は、隣り合う複数の糸Yをそれぞれ糸走行方向における下流側へ送ることが可能に構成されていても良い。第4フィードローラ20による糸Yの搬送速度は、第3フィードローラ18による糸Yの搬送速度よりも遅い。このため、糸Yは、第3フィードローラ18と第4フィードローラ20との間で弛緩される。
【0033】
以上のように構成された加工部3では、第1フィードローラ11と第2フィードローラ16との間で延伸された糸Yが、仮撚装置15によって撚られる。仮撚装置15により形成される撚りは、撚止ガイド12までは伝播するが、撚止ガイド12よりも糸走行方向上流側には伝播しない。延伸されつつ撚りが付与された糸Yは、第1加熱装置13で加熱されて熱固定された後、冷却装置14で冷却される。仮撚装置15よりも糸走行方向下流側では糸Yは解撚されるが、上記の熱固定によって糸Yが波状に仮撚りされた状態が維持される(すなわち、糸Yの捲縮が維持される)。
【0034】
仮撚りが施された糸Yは、第2フィードローラ16と第3フィードローラ18との間で弛緩されながら、交絡装置17によって交絡が付与された後、糸走行方向下流側へ案内される。さらに、糸Yは、第3フィードローラ18と第4フィードローラ20との間で弛緩されながら、第2加熱装置19で熱処理される。最後に、第4フィードローラ20から送られた糸Yは、巻取装置21によって巻き取られる。
【0035】
(巻取部の構成)
巻取部4の構成について、
図2を参照しつつ説明する。巻取部4は、複数の巻取装置21を有する。各巻取装置21は、1つの巻取ボビンBwに糸Yを巻取可能に構成されている。巻取装置21は、支点ガイド41と、トラバース装置42と、クレードル43とを有する。支点ガイド41は、糸Yが綾振りされる際の支点となるガイドである。トラバース装置42は、トラバースガイド45によって糸Yを綾振りすることが可能に構成されている。クレードル43は、巻取ボビンBwを回転自在に支持するように構成されている。クレードル43の近傍には、接触ローラ46が配置されている。接触ローラ46は、巻取パッケージPwの表面に接触して接圧を付与する。以上のように構成された巻取部4では、上述した第4フィードローラ20から送られた糸Yが各巻取装置21によって巻取ボビンBwに巻き取られ、巻取パッケージPwが形成される。
【0036】
(第1加熱装置)
次に、第1加熱装置13のより具体的な構成について、
図3~
図7をさらに参照しつつ説明する。
図3に示すように、第1加熱装置13は、機台長手方向と直交する所定の延在方向に延びている。本実施形態においては、延在方向は機台幅方向と平行である。
【0037】
第1加熱装置13は、走行する糸Yを加熱するように構成されている。本実施形態では、第1加熱装置13は、例えば2本の糸Y(糸Ya、Yb:
図4参照)を加熱可能に構成されている。第1加熱装置13は、延在方向の一方側の端部が第1フィードローラ11からの糸Yが送り込まれる入口13aとなっており、延在方向の他方側の端部が加熱された糸Yが送り出される出口13bとなっている。本実施形態においては、入口13a及び出口13bの高さ位置は実質的に同じである。
【0038】
第1加熱装置13は、
図4及び
図5に示すように、熱源51、加熱部52、加熱部52の温度を検出するセンサ57、電流付与回路58、断熱材59、ボックス60、及び、制御装置100を主に有する。第1加熱装置13は、熱源51によって加熱された加熱部52に走行中の糸Ya、Ybを接触させることによって、糸Ya、Ybを同時に加熱する。
【0039】
熱源51は、シーズヒータであり、
図7に示すように、ニクロム線等をコイル状にした抵抗体51aと、抵抗体51aを囲むパイプ51bと、を有する。熱源51は、延在方向に沿って延びている。換言すると、熱源51は、糸走行方向に延びている。熱源51の詳細な構成は、後ほど説明する。熱源51は、
図4及び
図5に示すように、電流付与回路58に接続されている。電流付与回路58は、熱源51の抵抗体51aに電流を流すための回路である。熱源51は、電流付与回路58によって抵抗体51aに電流が流されることでジュール熱を発生する。
【0040】
電流付与回路58は、制御装置100と電気的に接続されている。制御装置100は、センサ57の出力信号に基づいて電流付与回路58のON/OFFを制御して、抵抗体51aに電流を流す状態と電流を流さない状態とを切り替える。これにより、制御装置100は、第1加熱装置13の加熱温度(後述する接糸面56の温度)を制御可能である。制御装置100は、第1加熱装置13の他にも、仮撚加工機1を構成する装置と電気的に接続されていても良い。
【0041】
加熱部52は、熱源51が生成する熱によって加熱されるように構成されている。加熱部52は、金属材料を有する。加熱部52は、
図5に示すように、熱源51に沿って延在方向に延びている。換言すると、加熱部52は、糸走行方向に延びている。加熱部52は、例えば、2つの加熱部材53(加熱部材53a、53b)と、2つの接糸部54(接糸部54a、54b)と、を有する。加熱部材53a及び接糸部54aは、糸Yaを加熱するための部材である。加熱部材53b及び接糸部54bは、糸Ybを加熱するための部材である。糸Yaを加熱するための部材と糸Ybを加熱するための部材は、例えば、機台長手方向において、熱源51を挟んで互いに反対側の位置に配置されている。
【0042】
糸Yaを加熱するための部材について説明する。加熱部材53aは、例えば、黄銅などの比熱が大きい金属材料によって構成されている。加熱部材53aは、熱源51に沿って延在方向に延びている。換言すると、加熱部材53aは、糸走行方向に延びている。加熱部材53aは、熱源51に接触するように配置されている。加熱部材53aは、例えば、熱源51の機台長手方向における一方側(
図4の紙面左側)に配置されている。加熱部材53aは、例えば、延在方向(糸走行方向)に延びたスリット55(スリット55a)を有する。スリット55aは、延在方向と直交する断面において逆U字状のスリットである。スリット55aは、下方側が開口している。スリット55a内には、接糸部54(接糸部54a)が収容されている。
【0043】
接糸部54aは、例えばSUS製の長尺の部材である。接糸部54aは、延在方向に沿って延びている。換言すると、接糸部54aは、糸走行方向に延びている。接糸部54aは、加熱部材53aと接触した状態で加熱部材53aに固定されている。接糸部54aは、加熱部材53aを介して熱源51から伝わる熱によって昇温される。接糸部54aは、糸Yを接触させるための接糸面56(接糸面56a)を有する。接糸面56aは、下方を向いている。接糸面56aは、
図6に示すように、機台長手方向と直交する断面において、下側へ凸状に膨らんだ略U字状に湾曲している。接糸面56aは、
図4に示すように、延在方向から見たときに、上側へ凸状に膨らんだ逆U字状に湾曲している。
【0044】
接糸面56aの下側は、糸Yaが走行する糸走行空間50(50a)となっている。糸走行空間50aは、加熱部材53aのスリット55aを画定する壁面と、接糸部54aの接糸面56aと、で囲まれている。糸走行空間50aは、下側が開放されている。入口13aから第1加熱装置13内に送り込まれた糸Yaは、糸走行空間50aにおいて接糸面56aに接触しつつ走行する。
【0045】
また、糸Ybを加熱するための部材について説明する。加熱部材53bは、例えば、熱源51の機台長手方向における他方側(
図4の紙面右側)に配置されている。加熱部材53bは、熱源51と接触している。加熱部材53bは、スリット55aと同様の形状のスリット55bを有する。スリット55b内には、接糸部54aと同様の構造の接糸部54bが収容されている。接糸部54bは、接糸面56aと同様の形状の接糸面56bを有する。接糸面56bの下側は、糸走行空間50aと同様の形状の糸走行空間50bとなっている。さらなる詳細については省略する。
【0046】
センサ57は、
図4及び
図5に示すように、熱源51おける延在方向の中央部分の近傍に配置されている。より詳細には、センサ57は、
図4に示すように、加熱部材53aに形成された凹部52a内に配置されている。凹部52aは、上下方向に沿って延びており、加熱部材53aの上面に開口している。センサ57は、機台長手方向に関して熱源51と並ぶ位置に配置されている。なお、センサ57が配置される凹部52aは、加熱部材53bに形成されていてもよい。また、凹部52aは、加熱部材53の下面に開口していてもよい。
【0047】
加熱部52は、ボックス60に収容されている。ボックス60は、延在方向を長手方向とする直方体形状を有する中空の部材である。
図4に示すように、ボックス60における下側の側壁には開口61が形成されている。開口61により、2つの加熱部材53にそれぞれ形成されたスリット55内の空間が、ボックス60外の空間と連通している。また、
図5及び
図6に示すように、ボックス60における延在方向の両端には、開口62、63がそれぞれ形成されている。開口62、63により、2つの加熱部材53にそれぞれ形成されたスリット55内の空間が、ボックス60外の空間と連通している。
【0048】
ボックス60と、ボックス60内に収容された加熱部52との間のすき間を埋めるように、複数の断熱材59が配置されている。加熱部52の機台長手方向の両側の壁面、及び、上下方向の両側の壁面は、複数の断熱材59によって覆われている。断熱材59は、糸走行空間50の下側には配置されていない。また、加熱部52の延在方向の両側の壁面は断熱材59によって覆われておらず、外気に晒されている。
【0049】
ここで、糸Yが正常に走行している状態において、糸Yが接糸面56に確実に接触するように、第1加熱装置13と撚止ガイド12との位置関係及び第1加熱装置13と冷却装置14との位置関係が適切に設定されている。すなわち、接糸面56に沿って走行している糸Yに対して、接糸面56に押し当てられるように上方に力が加えられるようになっている。これにより、糸Yが接糸面56から離れてしまうことが防止される。
【0050】
以上の構成を有する第1加熱装置13においては、糸Yは、走行しながら接糸面56と接触することにより、接糸面56を介して加熱部52から熱を受け取る。これにより、糸Yが加熱される。糸Yの種類、糸Yの銘柄(太さ)、糸Yの走行速度及び加熱温度を適切に設定することにより、糸Yの温度を最適な加工温度にすることができる。
【0051】
(熱源の構成)
続いて、
図7を参照しつつ、熱源51の詳細な構成について説明する。熱源51の加熱部分は、入口側加熱部分71、中央加熱部分72及び出口側加熱部分73の3つの部分で構成されている。これら入口側加熱部分71、中央加熱部分72及び出口側加熱部分73は、延在方向の一方側から他方側に向けてこの順で並んでいる。入口側加熱部分71は、加熱部52における延在方向(糸走行方向)の一方側の端部を加熱する。中央加熱部分72は、加熱部52における延在方向の中央部分を加熱する。出口側加熱部分73は、加熱部52における延在方向(糸走行方向)の他方側の端部を加熱する。
【0052】
中央加熱部分72における抵抗体51aのワット密度は、入口側加熱部分71及び出口側加熱部分73における抵抗体51aのワット密度よりも低い。すなわち、入口側加熱部分71及び出口側加熱部分73は、本発明の「第1部分」に相当する。中央加熱部分72は、本発明の「第2部分」に相当する。本実施形態においては、入口側加熱部分71における抵抗体51aのワット密度と、出口側加熱部分73における抵抗体51aのワット密度と、は等しい。また、本実施形態においては、各部分71、72、73における抵抗体51aのワット密度は、いずれも3.0[W/cm2]以下である。
【0053】
以降の説明においては、入口側加熱部分71及び出口側加熱部分73と中央加熱部分72との熱源容量の差を、単に「熱源容量の差」と称する。なお、入口側加熱部分71及び出口側加熱部分73と中央加熱部分72との熱源容量の差は、本発明の「第1部分と第2部分とにおける熱源容量の差」に相当する。
【0054】
(比較試験)
本願発明者は、本実施形態のように抵抗体のワット密度が異なる部分を有する熱源を使用した場合(実施例1、実施例2)と、抵抗体のワット密度が一様な熱源を使用した場合(比較例)と、で比較試験を行った。
【0055】
ここで、入口側加熱部分71に相当する部分の延在方向に関する長さを長さL1、中央加熱部分72に相当する部分の延在方向に関する長さを長さL2、出口側加熱部分73に相当する部分の延在方向に関する長さを長さL3とする。本比較試験においては、長さL1、L2、L3は等しい。ヒータ径(パイプ51bの径に相当)は延在方向に関してほぼ均一であり、入口側加熱部分71、中央加熱部分72及び出口側加熱部分73に相当する部分の表面積は等しい。ここで、入口側加熱部分71、中央加熱部分72及び出口側加熱部分73に相当する部分の各表面積を表面積S[cm2]とする。また、入口側加熱部分71に相当する部分の熱源容量を熱源容量W1[W]とし、中央加熱部分72に相当する部分の熱源容量を熱源容量W2[W]とし、出口側加熱部分73に相当する部分の熱源容量を熱源容量W3[W]する。このとき、入口側加熱部分71に相当する部分のワット密度はW1/S[W/cm2]であり、中央加熱部分72に相当する部分のワット密度はW2/S[W/cm2]であり、出口側加熱部分73に相当する部分のワット密度はW3/S[W/cm2]である。ワット密度の大小関係は、(W1/S)=(W3/S)>(W2/S)である。
【0056】
比較試験における条件を、
図8の表に示す。
図8の表に示すように、ヒータ径(パイプ51bの径に相当)Dと、各部分71、72、73に相当する部分の長さL1、L2、L3とは、実施例1、実施例2及び比較例で共通である。具体的には、ヒータ径Dは、1.2[cm]である。長さL1、L2、L3は、いずれも30[cm]である。すなわち、加熱長さ(L1+L2+L3)は、90[cm]である。また、入口側加熱部分71、中央加熱部分72及び出口側加熱部分73に相当する部分の表面積S[cm
2]は、いずれも約113.1[cm
2]である。さらに、熱源の全体の熱源容量は、いずれも900[W]である。
【0057】
図8の表に示すように、実施例1にかかる熱源は、入口側加熱部分71に相当する部分の熱源容量W1[W]及び出口側加熱部分73に相当する部分の熱源容量W3[W]が、いずれも315[W]である。また、中央加熱部分72に相当する部分の熱源容量W2[W]が、270[W]である。ここで、上述のように、入口側加熱部分71、中央加熱部分72及び出口側加熱部分73に相当する部分の表面積S[cm
2]は、いずれも113.1[cm
2]である。このとき、入口側加熱部分71に相当する部分のワット密度(W1/S)及び出口側加熱部分73に相当する部分のワット密度(W3/S)は、いずれも約2.79[W/cm
2]である。また、中央加熱部分72に相当する部分のワット密度(W2/S)は、約2.39[W/cm
2]である。各部分71、72、73に相当する部分のワット密度は、いずれも3.0[W/cm
2]以下である。また、熱源容量の差は45[W]である。
【0058】
図8の表に示すように、実施例2にかかる熱源は、入口側加熱部分71に相当する部分の熱源容量W1[W]及び出口側加熱部分73に相当する部分の熱源容量W3[W]が、いずれも325[W]である。また、中央加熱部分72に相当する部分の熱源容量W2[W]が、250[W]である。ここで、上述のように、入口側加熱部分71、中央加熱部分72及び出口側加熱部分73に相当する部分の表面積S[cm
2]は、いずれも113.1[cm
2]である。このとき、入口側加熱部分71に相当する部分のワット密度(W1/S)及び出口側加熱部分73に相当する部分のワット密度(W3/S)は、いずれも約2.87[W/cm
2]である。また、中央加熱部分72に相当する部分のワット密度(W2/S)は、約2.21[W/cm
2]である。各部分71、72、73に相当する部分のワット密度は、いずれも3.0[W/cm
2]以下である。また、熱源容量の差は75[W]である。つまり、実施例2にかかる熱源は、実施例1にかかる熱源に比べて、熱源容量の差が大きい。
【0059】
図8の表に示すように、比較例にかかる熱源は、入口側加熱部分71に相当する部分の熱源容量W1[W]、中央加熱部分72に相当する部分の熱源容量W2[W]及び出口側加熱部分73に相当する部分の熱源容量W3[W]が、いずれも300[W]である。
【0060】
図9は、実施例1、実施例2及び比較例にかかる熱源をそれぞれ使用し、設定温度を200[℃]とした場合(センサで検出される加熱部の温度が200[℃]となるように制御した場合)の、接糸面の延在方向に関する温度分布を示すグラフである。
図9のグラフから、抵抗体のワット密度が一様な熱源を使用した比較例の場合は、接糸面における延在方向(糸走行方向)の両端部の温度の低下度合が最も大きくなっている。実施例1と実施例2とでは、熱源容量の差が大きい実施例2にかかる熱源を使用した場合の方が、接糸面における延在方向(糸走行方向)の両端部の温度の低下度合小さくなっている。
【0061】
なお、比較例や実施例1にかかる熱源を使用した場合は、接糸面の温度は、延在方向の中央が最も高く、延在方向の両端に近づくにつれて次第に低くなっている。一方、実施例2にかかる熱源を使用した場合は、接糸面における延在方向の中央の両側にそれぞれ温度が高いピーク部分があり、2つのピーク部分の間は、やや温度が低くなっている。これは、熱源容量の差の大きさに起因する。すなわち、実施例1にかかる熱源における熱源容量の差は45[W]である。一方、実施例2にかかる熱源における熱源容量の差は75[W]である。要するに、実施例2にかかる熱源における熱源容量の差は比較的大きく、入口側加熱部分71及び出口側加熱部分73に相当する部分の発熱量が中央加熱部分72に相当する部分の発熱量に対して相当に大きくなるためである。つまり、入口側加熱部分71及び出口側加熱部分73に相当する部分の発熱により、接糸面における延在方向の中央の両側部分が加熱されるためである。接糸面での延在方向における温度分布をより均一にし、糸の加熱ムラを確実に抑えるという観点から、熱源容量の差は、45[W]以下であることが好ましいことが分かる。加えて、熱源容量の差を45[W]以下とすることで、熱源の生産難易度が低下し、量産化しやすくなる。
【0062】
図10は、実施例1、実施例2及び比較例にかかる熱源をそれぞれ使用し、無負荷状態(糸Yの加熱を行わない状態)で設定温度を200[℃]とした場合の、消費電力を示すグラフである。
図10に示すように、実施例1、実施例2のように抵抗体の熱源容量が異なる部分を有する熱源を使用した場合も、比較例のように抵抗体の熱源容量が一様な熱源を使用した場合と、消費電力はほとんど変わらない。具体的には、実施例1にかかる熱源を使用した場合の消費電力は104.7[W]であり、比較例にかかる熱源を使用した場合の消費電力(103.3[W])よりもわずかに大きい。一方、実施例2にかかる熱源を使用した場合の消費電力は103.1[W]であり、比較例にかかる熱源を使用した場合の消費電力(103.3[W])よりもわずかに小さい。
【0063】
上述のように、実施例1と実施例2とでは、比較例に比べて、接糸面における延在方向(糸走行方向)の両端部の温度の低下度合小さくなっている。したがって、実施例1及び実施例2にかかる熱源を使用する際には、比較例にかかる熱源を使用する際に比べて設定温度を低くしたとしても、接糸面における延在方向(糸走行方向)の両端部の温度を糸の加熱に適した温度に維持することができる。このように、実施例1及び実施例2にかかる熱源を使用する際には、設定温度を下げることが可能であるので、比較例にかかる熱源を使用する際に比べて消費電力を削減することができる。
【0064】
(実施例3)
上述の比較試験の実施例1及び実施例2では、熱源の各部分71、72、73に相当する部分の長さL1、L2、L3が等しい。本願発明者は、各部分71、72、73に相当する部分の長さL1、L2、L3が異なる場合(実施例3)についても調べた。
【0065】
実施例3の条件を、
図11の表に示す。
図11の表に示すように、ヒータ径Dは、1[cm]である。入口側加熱部分71に相当する部分の長さL1は33[cm]、中央加熱部分72に相当する部分の長さL2は29[cm]、出口側加熱部分73に相当する部分の長さL3は33[cm]である。すなわち、加熱長さ(L1+L2+L3)は、95[cm]である。また、入口側加熱部分71に相当する部分の表面積S1[cm
2]及び出口側加熱部分73に相当する部分の表面積S3[cm
2]は、103.7[cm
2]である。中央加熱部分72に相当する部分の表面積S2[cm
2]は、91.1[cm
2]である。
【0066】
さらに、入口側加熱部分71に相当する部分の熱源容量W1[W]は280W、中央加熱部分72に相当する部分の熱源容量W2[W]は240[W]、出口側加熱部分73に相当する部分の熱源容量W3[W]は280[W]である。すなわち、実施例3にかかる熱源の全体の熱源容量は800[W]である。このとき、入口側加熱部分71に相当する部分のワット密度(W1/S1)及び出口側加熱部分73に相当する部分のワット密度(W3/S3)は、いずれも約2.7[W/cm2]である。また、中央加熱部分72に相当する部分のワット密度(W2/S2)は、約2.6[W/cm2]である。各部分71、72、73に相当する部分のワット密度は、いずれも3.0[W/cm2]以下である。また、熱源容量の差は40[W]である。
【0067】
図12は、実施例3にかかる熱源を使用し、設定温度を200[℃]とした場合(センサで検出される加熱部の温度が200[℃]となるように制御した場合)の、接糸面の延在方向に関する温度分布を示すグラフである。
図12のグラフから、実施例3にかかる熱源を使用した場合、比較例にかかる熱源を使用した場合に比べて、接糸面における延在方向(糸走行方向)の両端部の温度の低下度合が十分に小さくなっている。なお、実施例3においては、実施例1、2に比べて接糸面における延在方向(糸走行方向)の中央部分の温度が若干(1℃程度)低くなっている。これには、温度を測定するセンサの個体バラつきによる影響である。実施例1~3の結果から、熱源の加熱部分のワット密度が3.0[W/cm
2]以下であり、熱源容量の差が40[W]以上且つ45[W]以下である場合は、加熱部における延在方向(糸走行方向)の両端部の温度低下を十分に抑制できることが分かる。
【0068】
(実施形態の特徴)
以上のように、本実施形態の第1加熱装置13は、糸走行方向に延びており、抵抗体51aに電流を流すことで発熱する熱源51と、糸が走行する糸走行空間50が設けられており、熱源51によって加熱される加熱部52と、加熱部52の温度を検出するセンサ57と、センサ57の出力信号に基づいて抵抗体51aに電流を流す状態と電流を流さない状態とを切り替える制御装置100と、を備えている。そして、熱源51は、加熱部52における糸走行方向の端部を加熱する入口側加熱部分71及び出口側加熱部分73と、入口側加熱部分71及び出口側加熱部分73と糸走行方向に並んでおり、且つ、抵抗体51aのワット密度が入口側加熱部分71及び出口側加熱部分73における抵抗体51aのワット密度よりも低い中央加熱部分72と、を有している。
【0069】
上述の構成によると、加熱部52において比較的温度が低下しやすい糸走行方向の端部は、熱源51の入口側加熱部分71及び出口側加熱部分73によって加熱される。熱源51は、抵抗体51aのワット密度が比較的高い入口側加熱部分71及び出口側加熱部分73の熱量が、抵抗体51aのワット密度が比較的低い中央加熱部分72の熱量に比べて大きい。したがって、加熱部52の糸走行方向の端部を、比較的大きな熱量で加熱することができる。よって、加熱部52の糸走行方向の端部の温度低下を抑制し、加熱部52を走行する糸Yに対しより均一な加熱を行うことができる。
【0070】
また、本実施形態の第1加熱装置13では、熱源51は、加熱部52における糸走行方向の両端部をそれぞれ加熱する入口側加熱部分71及び出口側加熱部分73を有している。したがって、加熱部52において比較的温度が低下しやすい糸走行方向の両端部が、熱源51における抵抗体51aのワット密度が比較的高い入口側加熱部分71及び出口側加熱部分73によって加熱される。よって、加熱部52の糸走行方向の両端部の温度低下を抑制することができる。
【0071】
加えて、本実施形態の第1加熱装置13では、加熱部52は、糸走行方向に延びており、糸走行空間50内を走行する糸Yと接触する接糸面56が形成された接糸部54を有している。したがって、接糸面56の糸走行方向の端部の温度低下を抑制することができるので、糸Yを接糸面56に接触させることで安定的に加熱することができる。
【0072】
さらに、本実施形態の第1加熱装置13では、加熱部52を構成する加熱部材53及び接糸部54は、いずれも金属材料で形成されている。即ち、加熱部52は金属材料を有するものである。そして、入口側加熱部分71、中央加熱部分72及び出口側加熱部分73における抵抗体51aのワット密度は、いずれも3.0[W/cm2]以下である。ワット密度は、加熱対象の物質の種類に応じて設定する必要がある。本実施形態においては、熱源51の加熱対象である加熱部52は金属材料を有する。したがって、ワット密度を3.0[W/cm2]以下とすることで、加熱部52に相変化や化学変化が生じるのを抑制できる。さらに、熱源51の長寿命化にも寄与することができる。
【0073】
また、加熱部52の接糸面56の延在方向(糸走行方向)における温度分布をより均一にし、糸Yの加熱ムラを確実に抑えるという観点から、入口側加熱部分71及び出口側加熱部分73と中央加熱部分72との熱源容量の差は、40[W]以上且つ45[W]以下であることが好ましい。しかしながら、熱源容量の差は、40[W]未満であってもよく、45[W]よりも大きくてもよい。
【0074】
加えて、本実施形態の第1加熱装置13では、熱源51が、抵抗体51aをパイプ51bで囲んだシーズヒータである。抵抗体51aをパイプ51bで囲んだシーズヒータを熱源51として採用することで、第1加熱装置13への適用が容易である。
【0075】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0076】
上述の実施形態においては、熱源51の加熱部分が、入口側加熱部分71、中央加熱部分72及び出口側加熱部分73の3つの部分で構成されている場合について説明したが、これには限定されない。熱源51は、抵抗体51aのワット密度が異なる少なくとも2つの部分で構成されていればよい。すなわち例えば、中央加熱部分72及び出口側加熱部分73における抵抗体51aのワット密度が互いに等しく、且つ、入口側加熱部分71における抵抗体51aのワット密度よりも低くてもよい。また、入口側加熱部分71及び中央加熱部分72における抵抗体51aのワット密度が互いに等しく、且つ、出口側加熱部分73における抵抗体51aのワット密度よりも低くてもよい。
【0077】
ここで、上述の実施形態の一変形例にかかる第1加熱装置113を
図13に示す。第1加熱装置113においては、糸走行空間50(50a)が、延在方向(糸走行方向)の一方側の端部が、延在方向(糸走行方向)の他方側の端部に比べて下方に位置するように傾斜している。なお、
図13に示す例では、糸走行空間50aにおける延在方向(糸走行方向)の両端部のうち、入口13a側の端部が下方に位置する。しかしながら、糸走行空間50aにおける延在方向(糸走行方向)の両端部のうち、下方に位置するのは、出口13b側の端部であってもよい。
【0078】
また、第1加熱装置113に設けられる熱源151を
図14に示す。熱源151は、加熱部52における延在方向(糸走行方向)の一方側の端部を加熱する第1部分171と、第1部分171と延在方向(糸走行方向)に並んでおり、且つ、抵抗体51aのワット密度が第1部分171における抵抗体51aのワット密度よりも低い第2部分172と、の2つの部分で構成されている。
【0079】
上述のように、糸走行空間50が糸走行方向の一方側の端部が他方側の端部に比べて下方に位置するように傾斜している場合、糸走行空間50内において加熱された空気は、上方に位置する糸走行方向の他方側の端部に向けて移動する。したがって、加熱部52における糸走行方向の一方側の端部は、比較的温度が低下しやすい。上述の構成によると、加熱部52において比較的温度が低下しやすい糸走行方向の一方側の端部を、熱源151における抵抗体51aのワット密度が比較的高い第1部分171によって加熱することができる。よって、加熱部52の糸走行方向の端部の温度低下を確実に抑制することができる。
【0080】
また、上述の実施形態においては、入口側加熱部分71における抵抗体51aのワット密度と、出口側加熱部分73における抵抗体51aのワット密度とが等しい場合について説明したが、これには限定されない。入口側加熱部分71における抵抗体51aのワット密度と、出口側加熱部分73における抵抗体51aのワット密度とは異なっていてもよい。
【0081】
加えて、上述の実施形態においては、入口側加熱部分71、中央加熱部分72及び出口側加熱部分73における抵抗体51aのワット密度が、いずれも3.0[W/cm2]以下である場合について説明したが、これには限定されない。入口側加熱部分71及び出口側加熱部分73よりも中央加熱部分72のワット密度が低ければよい。また、上述の実施形態の一変形例のような構成の場合、第1部分171よりも第2部分172のワット密度が低ければよい。加えて、一部分のワット密度、又は、全ての部分のワット密度が3.0[W/cm2]より大きくてもよい。
【0082】
さらに、上述の実施形態においては、加熱部52を構成する加熱部材53及び接糸部54は、いずれも金属材料で形成されている場合について説明したが、これには限定されない。加熱部52は、その一部に金属材料を有していればよい。すなわち例えば、加熱部材53については、その全体又は一部が、金属材料以外の材料で形成されていてもよい。金属材料以外の材料としては、例えば炭素繊維等の繊維との複合材料である。具体例としては、炭素繊維と黒鉛との複合材料や炭素繊維と樹脂との複合材料である。
【0083】
加えて、上述の実施形態においては、糸Yが、走行しながら接糸部54の接糸面56と接触することにより加熱される接触方式の第1加熱装置13について説明したが、これには限定されない。本発明の加熱装置は、糸走行空間内を走行する糸が、加熱部により温められた糸走行空間内の気体により加熱される非接触方式であってもよい。
【0084】
また、上述の実施形態においては、熱源51としてシーズヒータを採用する場合について説明したが、これには限定されない。熱源51は、抵抗体51aに電流を流すことで発熱する抵抗加熱式であればよい。
【0085】
さらに、上述の実施形態では、本発明にかかる加熱装置を糸Yに仮撚加工を施す仮撚加工機1に適用する場合について説明したが、これには限定されない。本発明の加熱装置は、仮撚加工に限定されず、合糸加工等の種々の加工を合成繊維からなる糸に施す加工機に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0086】
50 糸走行空間
51 熱源
51a 抵抗体
51b パイプ
52 加熱部
54 接糸部
57 センサ
71 入口側加熱部分(第1部分)
72 中央加熱部分(第2部分)
73 出口側加熱部分(第1部分)
100 制御装置