(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158647
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】車両用の耐久性のある複合コーティング
(51)【国際特許分類】
B05D 1/36 20060101AFI20231023BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20231023BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20231023BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
B05D1/36 Z
B05D7/00 K
B05D7/24 302Y
B05D7/24 302L
C09K3/18 104
【審査請求】未請求
【請求項の数】74
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023063249
(22)【出願日】2023-04-10
(31)【優先権主張番号】63/332,263
(32)【優先日】2022-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】523132745
【氏名又は名称】ルーカス ジェイ マリン
【氏名又は名称原語表記】Lucas J. Marin
(71)【出願人】
【識別番号】523127372
【氏名又は名称】村瀬 啓方
(71)【出願人】
【識別番号】523132756
【氏名又は名称】アレクサンダー ルカーチ
【氏名又は名称原語表記】Alexander Lukacs
(71)【出願人】
【識別番号】523132767
【氏名又は名称】マイケル エー レイマス
【氏名又は名称原語表記】Michael A. Leimas
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス ジェイ マリン
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 啓方
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー ルカーチ
(72)【発明者】
【氏名】マイケル エー レイマス
【テーマコード(参考)】
4D075
4H020
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AC52
4D075AE03
4D075BB01Z
4D075BB60Z
4D075BB91Y
4D075BB95Y
4D075CA36
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DB02
4D075DC11
4D075DC12
4D075EA41
4D075EB16
4D075EB37
4D075EB42
4D075EB51
4D075EB56
4D075EC01
4D075EC07
4D075EC30
4D075EC37
4D075EC51
4H020BA34
4H020BA36
(57)【要約】 (修正有)
【課題】車両ボディの塗装表面のための耐久性のある高撥水性でかつ高撥油性の保護コーティングを提供する。
【解決手段】実施態様において、未加水分解性で自己触媒性のペルヒドリドポリシラザンプライマーコートが、スプレーまたはワイピングによって、塗装された車両表面に塗布される。プライマーコートが加水分解する前に、所定の時間間隔内に、フルオロシラントップコートがスプレーまたはワイピングによってプライマーコートの上に塗布される。周囲の大気中の水分が、水分誘導加水分解反応を引き起こし、それによりペルヒドリドポリシラザンプライマーコートにおいてアンモニアまたはアミン触媒が生成される。この触媒は、プライマーコートとトップコートとの間に比較的厚いコポリマー結合中間層を形成し、それにより、従来の表面処理よりも優れた装甲性、撥水性、および撥油性を有するより強い複合コーティングが提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装された車両表面に、未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートを塗布すること;および
前記未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートが加水分解する前に、該未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコート上にフルオロシラントップコートを塗布すること
を含む、方法。
【請求項2】
前記フルオロシラントップコートが、ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートの加水分解反応に際し未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートと共反応するフルオロシランを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートが、未加水分解触媒生成ペルヒドリドポリシラザンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記未加水分解触媒生成ペルヒドリドポリシラザンが、触媒としてのアンモニアまたはアミンを生成する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記未加水分解触媒生成ペルヒドリドポリシラザンが、触媒としてのアンモニアまたはアミンをその場で化学的に生成する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記フルオロシラントップコートが、未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートの水和中に未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートによって自動生成されるアンモニアまたはアミンを介して触媒されて加水分解反応に際し未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートと共反応するフルオロシランを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記フルオロシラントップコートが、水分誘導硬化機構を介して、未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートのペルヒドリドポリシラザンとコボンドする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記フルオロシラントップコートが、アンモニアまたはアミンによる触媒作用中に、フルオロシラントップコートと未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートとの間の厚い拡散層界面で未加水分解ペルヒドリドポリシラザンとコボンドして、フルオロシラントップコートのフルオロシランと未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートのペルヒドリドポリシラザンとの間に厚い結合層を形成する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記フルオロシラントップコートのフルオロシランと前記未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートのペルヒドリドポリシラザンとの間の厚い結合層が、ペルヒドリドポリシラザンのペルヒドリドポリシラザン分子の中に拡散されたフルオロシランのフルオロシラン分子のミックス、およびフルオロシランのフルオロシラン分子の中に拡散されたペルヒドリドポリシラザンのペルヒドリドポリシラザン分子のミックスを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記未加水分解ペルヒドリドポリシラザントップコートが、溶剤中に未加水分解ペルヒドリドポリシラザンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記未加水分解ペルヒドリドポリシラザンが、溶剤中約0.1~5.0重量%の濃度を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記未加水分解ペルヒドリドポリシラザンが、溶剤中約0.25~3.00重量%の濃度を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記未加水分解ペルヒドリドポリシラザンが、溶剤中約0.5~2.0重量%の濃度を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記未加水分解ペルヒドリドポリシラザンが、溶剤中約1重量%の濃度を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記溶剤が、キシレン、アニソール、デカリン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、リモネン、ヘキサン、オクタイン、ノナン、デカン、ジブチルエーテル、約8~11の炭素原子の長さの炭素鎖を含むアルカン混合物、約8~11の炭素原子の炭素構造を含む芳香族炭化水素混合物、または8~11の炭素原子を有する炭素構造を含む芳香族炭化水素を5~25重量%含む脂肪族/脂環式炭化水素混合物を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記未加水分解ペルヒドリドポリシラザントップコートが、ジブチルエーテル中に20重量%の未加水分解ペルヒドリドポリシラザンを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記フルオロシランが、パーフルオロアルキル置換フルオロシランまたはポリパーフルオロエーテル置換フルオロシランを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記フルオロシランが、アルコキシシリル置換フルオロシランを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記フルオロシランが、アルコキシシリル置換ポリパーフルオロアルキルフルオロシランまたはアルコキシシリル置換ポリパーフルオロエーテルフルオロシランを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコート上のフルオロシラントップコートが、塗装された自動車表面に複合コーティングを形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記複合コーティングが約100°超の水接触角を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記複合コーティングが約105°超の水接触角を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記複合コーティングが約110°超の水接触角を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記複合コーティングが、約25°未満の水滑落角を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記複合コーティングが、約20°未満の水滑落角を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記複合コーティングが、約15°未満の水滑落角を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートを塗布した後、未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートが周囲の大気中の水分を吸着および吸収するために3~10分待つこと;および
未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートの加水分解反応の前に、アルコキシシリル官能性またはヒドロキシシリル官能性フルオロシラントップコートを前記未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコート上に塗布すること
をさらに含み、前記加水分解反応は周囲の大気中の水分によって誘導される、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートを塗布することが、塗装された車両表面に未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートをスプレーまたはワイピングすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
フルオロシラントップコートを塗布することが、未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコート上にフルオロシラントップコートをスプレーまたはワイピングすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートの塗布とフルオロシラントップコートの塗布との間の時間間隔が、約3~60分の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートの塗布とフルオロシラントップコートの塗布との間の時間間隔が、約3~30分の範囲である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートの塗布とフルオロシラントップコートの塗布との間の時間間隔が、約5~20分の範囲である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
ペルヒドリドポリシラザンを含むベース層;
フルオロシランを含むトップ層;
前記ベース層と前記トップ層との間の厚い中間結合層であって、前記ベース層のペルヒドリドポリシラザン分子の中に拡散した前記トップ層のフルオロシラン分子の第1のミックス、および前記トップ層のフルオロシラン分子の中に拡散した前記ベース層のペルヒドリドポリシラザン分子の第2のミックスを含む、厚い中間結合層;
を含み、前記ベース層、前記トップ層、および前記厚い中間結合層は、塗装された車両表面のための複合コーティングを構成する、組成物。
【請求項34】
前記厚い中間結合層が均質なコポリマーを含む、請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
前記厚い中間結合層におけるペルヒドリドポリシラザン分子の中に拡散したフルオロシラン分子の第1のミックスおよびフルオロシラン分子の中に拡散したペルヒドリドポリシラザン分子の第2のミックスが、ペルヒドリドポリシラザンを含むベース層においてその場で生成されるアンモニア触媒またはアミン触媒によって媒介される、請求項33に記載の組成物。
【請求項36】
前記アンモニア触媒またはアミン触媒が、ペルヒドリドポリシラザンを含むベース層とフルオロシランを含むトップ層とが互いに接触した後の水分誘導加水分解反応中に生成される、請求項35に記載の組成物。
【請求項37】
ペルヒドリドポリシラザンを含むベース層とフルオロシランを含むトップ層が、前記ベース層と前記トップ層とが互いに接触しているときに自己触媒反応を介して厚い中間結合層を生成する、請求項33に記載の組成物。
【請求項38】
前記フルオロシランが、パーフルオロアルキル置換フルオロシランまたはポリパーフルオロエーテル置換フルオロシランを含む、請求項33に記載の組成物。
【請求項39】
前記フルオロシランが、アルコキシシリル置換フルオロシランを含む、請求項33に記載の組成物。
【請求項40】
前記フルオロシランが、アルコキシシリル置換ポリパーフルオロアルキルフルオロシランまたはアルコキシシリル置換ポリパーフルオロエーテルフルオロシランを含む、請求項33に記載の組成物。
【請求項41】
前記フルオロシランが、アルコキシシリル官能性またはヒドロキシシリル官能性フルオロシランを含む、請求項33に記載の組成物。
【請求項42】
前記複合コーティングが、約100°超の水接触角を含む、請求項33に記載の組成物。
【請求項43】
前記複合コーティングが、約105°超の水接触角を含む、請求項33に記載の組成物。
【請求項44】
前記複合コーティングが、約110°超の水接触角を含む、請求項33に記載の組成物。
【請求項45】
前記複合コーティングが、約25°未満の水滑落角を含む、請求項33に記載の組成物。
【請求項46】
前記複合コーティングが、約20°未満の水滑落角を含む、請求項45に記載の組成物。
【請求項47】
前記複合コーティングが、約15°未満の水滑落角を含む、請求項46に記載の組成物。
【請求項48】
塗装された車両表面用の保護コーティングを作製するためのキットであって、
塗装された車両表面にプライマーコートとして塗布される未加水分解ペルヒドリドポリシラザンを含む触媒生成プライマー;および
加水分解に際し前記未加水分解ペルヒドリドポリシラザンと共反応可能なフルオロシランであって、前記プライマーコートの塗布後の所定の時間間隔中に、プライマーコート上にトップコートとして溶剤中において塗布されるフルオロシラン
を含む、キット。
【請求項49】
前記触媒生成プライマーおよび前記フルオロシランが、触媒生成プライマーとフルオロシラントップコートとの間に厚い中間結合層を生成し、前記厚い中間結合層が、前記プライマーのペルヒドリドポリシラザン分子の中に拡散した前記トップコートのフルオロシラン分子の第1のミックス、および前記トップコートのフルオロシラン分子の中に拡散した前記プライマーのペルヒドリドポリシラザン分子の第2のミックスを含む、請求項48に記載のキット。
【請求項50】
前記厚い中間結合層が均質なコポリマーを含む、請求項49に記載のキット。
【請求項51】
前記厚い中間結合層が、未加水分解ペルヒドリドポリシラザンを含む触媒生成プライマーにおいてその場で生成されるアンモニア触媒またはアミン触媒によって媒介される、請求項49に記載のキット。
【請求項52】
前記アンモニア触媒またはアミン触媒が、未加水分解ペルヒドリドポリシラザンを含む触媒生成プライマーとフルオロシランを含むトップコートとが互いに接触した後の水分誘導加水分解反応中に生成される、請求項50に記載のキット。
【請求項53】
前記未加水分解ペルヒドリドポリシラザンを含む触媒生成プライマーと、前記フルオロシランを含むトップコートが、前記触媒生成プライマーと前記トップコートが互いに接触しているときに自己触媒反応により厚い中間結合層を生成する、請求項48に記載のキット。
【請求項54】
前記触媒生成プライマーが、溶剤中に未加水分解ペルヒドリドポリシラザンを含む、請求項48に記載のキット。
【請求項55】
前記未加水分解ペルヒドリドポリシラザンが、溶剤中約0.1~5.0重量%の濃度を有する、請求項54に記載のキット。
【請求項56】
前記未加水分解ペルヒドリドポリシラザンが、溶剤中約0.25~3.00重量%の濃度を有する、請求項55に記載のキット。
【請求項57】
前記未加水分解ペルヒドリドポリシラザンが、溶剤中約0.5~2.0重量%の濃度を有する、請求項56に記載のキット。
【請求項58】
前記未加水分解ペルヒドリドポリシラザンが、溶剤中約1重量%の濃度を有する、請求項54に記載のキット。
【請求項59】
前記溶剤が、キシレン、アニソール、デカリン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、リモネン、ヘキサン、オクタイン、ノナン、デカン、ジブチルエーテル、約8~11の炭素原子の長さの炭素鎖を含むアルカン混合物、約8~11の炭素原子の炭素構造を含む芳香族炭化水素混合物、または8~11の炭素原子を有する炭素構造を含む芳香族炭化水素を5~25重量%含む脂肪族/脂環式炭化水素混合物のうちの1つを含む、請求項54に記載のキット。
【請求項60】
前記触媒生成プライマーが、ジブチルエーテル中に20重量%の未加水分解ペルヒドリドポリシラザンを含む、請求項48に記載のキット。
【請求項61】
前記フルオロシランが、パーフルオロアルキル置換フルオロシランまたはポリパーフルオロエーテル置換フルオロシランを含む、請求項48に記載のキット。
【請求項62】
前記フルオロシランが、アルコキシシリル置換フルオロシランを含む、請求項48に記載のキット。
【請求項63】
前記フルオロシランが、アルコキシシリル置換ポリパーフルオロアルキルフルオロシランまたはアルコキシシリル置換ポリパーフルオロエーテルフルオロシランを含む、請求項48に記載のキット。
【請求項64】
前記トップコートが、フッ素系溶剤、パーフルオロ系溶剤、トリフルオロトルエン、フルオロアルキル置換シクロヘキサン、フッ素系エーテル、メチルノナフルオロブチルエーテル、パーフルオロヘキサン、およびパーフルオロオクタンからなる群より選択される溶剤中にフルオロシランを含む、請求項48に記載のキット。
【請求項65】
前記トップコートが、溶剤中に1.0~8.0重量%のフルオロシランを含む、請求項64に記載のキット。
【請求項66】
前記トップコートが、溶剤中に1.5~7.0重量%のフルオロシランを含む、請求項65に記載のキット。
【請求項67】
前記トップコートが、溶剤中に2.0~6.0重量%のフルオロシランを含む、請求項66に記載のキット。
【請求項68】
前記トップコートが、溶剤中に5重量%のフルオロシランを含み、前記プライマーコートが、それぞれの溶剤中に1重量%の未加水分解ペルヒドリドポリシラザンを含む、請求項66に記載のキット。
【請求項69】
前記所定の時間間隔が3~60分である、請求項48に記載のキット。
【請求項70】
前記所定の時間間隔が3~30分である、請求項69に記載のキット。
【請求項71】
前記所定の時間間隔が5~20分である、請求項70に記載のキット。
【請求項72】
前記所定の時間間隔が3~10分である、請求項71に記載のキット。
【請求項73】
前記触媒生成プライマーが、スプレーまたはワイピングによって、塗装された車両表面に塗布することができる、請求項48に記載のキット。
【請求項74】
前記トップコートとして溶剤中において塗布されるフルオロシランが、スプレーまたはワイピングによって、触媒生成プライマー上に塗布することができる、請求項48に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
自動車のボディは、常に風雨に曝され、外観を損ない、経年的に劣化や美観の低下を招く。自動車用塗料は、保護の向上や深みのあるイメージと輝きの強化のために、着色塗料の上にクリアコートを含むように改良されてきた。自動車の二段塗装は、最終的なトップコートとして2Kポリウレタンまたはポリシロキサンのクリアコートを採用することが多く、その厚さは1~7層に及ぶことがある。この厚いクリアコートの層は、紫外線耐性、耐擦傷性、光沢の向上、および耐腐食性など、自動車用塗料に多くの利点をもたらすことができる。しかしながら、従来のポリウレタンやポリシロキサンのクリアトップコートは、塗装の寿命や保護に多くの問題がある。これらのコーティングは、耐水性が低く、表面エネルギーが低くなく、また汚れを落としにくい。塗装表面は、ほこり、ごみ、液滴、酸性雨による損傷、昆虫の死骸、および他の汚損物質で容易に汚れうる。
【0002】
撥水性表面は、水がこれらの表面を濡らしたり付着したりすることを許さず、水をはじくので、汚れや水を落とす保護表面となり、きれいで乾いた表面を残す。塗装された車両表面を保護するための外側コーティングの撥水性(疎水性)を高めることは有利である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
車両用の耐久性のある複合コーティングが提供される。複合コーティングの例は、車両ボディの塗装表面のための耐久性のある高撥水性でかつ高撥油性の保護コーティングを提供する。実施態様において、加水分解されていない(未加水分解の)自己触媒性ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートが、スプレーまたはワイピングによって、塗装された車両表面に塗布される。プライマーコートが加水分解する前に、所定の時間間隔内に、フルオロシラントップコートがスプレーまたはワイピングによってプライマーコートの上に塗布される。周囲の大気中の水分が、水分誘導加水分解反応を引き起こし、それによりペルヒドリドポリシラザンプライマーコートにおいてアンモニアまたはアミン触媒が生成され、それがプライマーコートとフルオロシラントップコートとのコキュア(co-cure)ならびにプライマーコートとトップコートの両方の完全内部硬化を促進する役割を果たす。この触媒は、プライマーコートとトップコートとの間に比較的厚いコポリマー結合中間層を形成し、それにより、従来の表面処理よりも優れた装甲性(armoring)、撥水性(または疎水性)(hydrophobicity)、および撥油性(または疎油性)(oleophobicity)を有するより強い複合コーティングが提供される。
【0004】
この要約は、請求される主題の重要なまたは本質的な特徴を特定することを意図したものではなく、また請求される主題の範囲を限定するための補助として使用されることを意図したものでもない。
【0005】
本開示の特定の実施形態を、添付の図面を参照して以下に説明するが、同様の参照数字は同様の要素を表す。添付の図面は、本明細書に記載される様々な実施態様を例示するものであり、本明細書に記載される様々な技術の範囲を限定することを意味するものではないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】例示のプライマーコートに適した例示の未加水分解ペルヒドリドポリシラザン、ならびに水分誘導硬化プロセス中のアンモニア触媒の発生を示す図である。
【
図2】従来の結合界面と比較した、例示の厚いコボンドコポリマー中間層(cobonded copolymer interlayer)の図である。
【
図3】例示のトップコートのフルオロシランに適した、加水分解性シリル基部分の図であり、Si-OH官能基との反応生成物を含む。
【
図4】例示の複合コーティングで処理された塗装表面の第1のセットについての水接触角(Water Contact Angle)(WCA)の結果および水滑落角(Water Sliding Angle)の結果の図である。
【
図5】例示の複合コーティングで処理された塗装表面の第2のセットについての水接触角(WCA)の結果および水滑落角の結果の図である。
【
図6】例示の複合コーティングで処理された塗装表面の第3のセットについての水接触角(WCA)の結果および水滑落角の結果の図である。
【
図7】自動車ボディ上に例示の複合コーティングを作製するための、プライマーコート成分およびトップコート成分を含む例示のキットの図である。
【
図8】例示の複合コーティングを作製する例示の方法のフロー図である。
【
図9】例示の複合コーティングを作製する例示の方法の別のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
概要
本開示は、車両用の耐久性のある複合コーティング、ならびにその複合コーティングの作製方法および使用方法を記載する。実施態様において、塗装された車両表面を処理するのに適した耐久性のある複合コーティングは、塗装された車両表面に高い撥水性および高い撥油性を付与する。
【0008】
例示の方法は、
-塗装された車両表面または他の基材に、少なくとも未加水分解ペルヒドリドポリシラザンと溶剤とを含む未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートを塗布すること;
-大気中の水分がペルヒドリドポリシラザンプライマーコートに吸着し、その中に吸収されるための第1の時間間隔を設けること;
-大気中の水分によるペルヒドリドポリシラザンプライマーコートの加水分解が本格的に始まる前に、加水分解性のまたは予め加水分解されたフルオロシラントップコートを、ペルヒドリドポリシラザンプライマーコート上に塗布またはオーバーコーティングすること;および
-プライマーコートとトップコートが完全にコキュアして複合コーティングになるための第2の時間間隔を設けること
を含む。
【0009】
この例示の方法は、未処理の塗装された車両表面と比較して高い撥水性および高い撥油性を付与する、塗装された車両表面上の耐久性のある複合コーティングを提供する。フルオロシラントップコートにコボンドしたペルヒドリドポリシラザンプライマーコートからなる高撥水性および高撥油性の複合コーティングは、化学結合反応および結果として生じる従来の組成物のものとは異なる結合層(bonding layer)構造を介してなされ、それによって従来製品よりも改善された複合コーティングを提供する。
【0010】
プライマーコートは、ペルヒドリドポリシラザンの触媒されていない(無触媒の)(uncatalyzed)種または触媒された(触媒を含む)(catalyzed)種のいずれかであってよく、トップコートは、水分誘導硬化機構を介してペルヒドリドポリシラザンプライマーコートと共反応してコボンド複合コーティングを形成するフルオロシラン種であり得る。水分誘導硬化機構は、ペルヒドリドポリシラザンがフルオロシランでオーバーコートされた後にペルヒドリドポリシラザンからその場(in situ)で形成されるアンモニアまたはアミン触媒を生成し、プライマーコートとフルオロシラントップコートとのコキュア、ならびにプライマーコートとトップコートの両方の完全内部硬化を促進するのに役立つ。
【0011】
塗装された車両表面のための例示の複合コーティングは、最大約120°の水接触角(WCA)および15°未満の水滑落角(WSA)を提供する。
【0012】
例示の組成物および特性
本明細書で使用する化学用語「ペルヒドリドポリシラザン(perhydridopolysilazane)」は、1つまたは複数の-SiH
x-NH-または-SiH
x-N=繰り返し単位を有するポリシラザンを意味し、ここでx=2であり、特に、ポリシラザンが複数の連続した-SiH
x-NH-繰り返し単位(x=2)を有する場合である。
図1に示すように、この構造的特徴100は、水素および窒素にのみ結合したケイ素原子の反応による「SiO
4/2」部分(SiO
2)102の生成を可能にし、二酸化ケイ素(SiO
2)加水分解生成物の形成の前提条件である、酸素にのみ結合したケイ素原子をもたらすための必須の構造的特徴を提供する。しかしながら、そのようなポリシラザンは、-SiR
xR’
y-NH-部分によって特徴付けられるオルガノシラザン反復単位を有することもでき、ここで、xおよびy=0、1、または2であり、RおよびR’は、H、アルキル、アリール、置換アルキルまたは置換アリール置換基であってよく、但し、RおよびR’のうちの少なくとも1つはアルキル、アリール、置換アルキル、または置換アリール基であり、さらに、ポリシラザンの完全加水分解により少なくとも一つの加水分解生成物として二酸化ケイ素の形成がもたらされることを条件とする。二酸化ケイ素は、加水分解時に室温で、あるいは加水分解生成物を高温に加熱すると形成され得る。上記のペルヒドリドポリシラザンは、-NR-をさらに含むことができ、ここでRは、アルキル基、アリール基、置換アルキル基、および置換アリール基のうちの1つであり得る。
【0013】
実施態様において、例示の複合コーティングの形成中の化学反応は、上記の例示の塗布ステップの完了前には、反応性シラノール(Si-OH)官能基または反応性Si-O-Si架橋結合官能基を提供しない。この順序付けは、従来技術とは異なり、したがって、従来のコーティングとは異なる最終製品を形成する。
【0014】
実施態様において、ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートが溶剤中において塗布され、次いで、上記の第1の時間間隔の後にフルオロシランオーバーコートが塗布される。フルオロシラントップコートは、ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートが大気中の水分(湿気)に曝されて有意な加水分解反応を受ける前に、ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートの上にオーバーコートされるため、フルオロシラントップコートの塗布前にSi-OHまたはSi-O-Si官能基を提供しない。この例示の方法は、後続のフルオロシランによる従来の処理をする前に、従来の触媒を含むペルヒドリドポリシラザンを急速に硬化させ二酸化ケイ素(SiO2)またはSi-OH結合官能基に転化させるために熱を適用したり濃縮した触媒を添加したりするという従来のプロセスを改善する。
【0015】
本明細書に記載の例示の複合コーティングにおいて、ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートは、水分がそれに吸着されてその中に吸収され始めると、一部の大気中の水分を獲得する。ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートに吸着および吸収される水分は、大気への短時間の暴露から導入される。この暴露時間である上記の第1の時間間隔は、ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートにおいて加水分解が相当程度まで始まる時間よりも短い期間であるように計算される。ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートが明らかな加水分解を開始する前に、ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートはフルオロシランでオーバーコートされ、ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートに既に吸着および吸収された水分が、
図1に図示するように触媒としてのアンモニア、あるいはポリマー鎖にアルキル置換またはアリール置換窒素原子を有するポリシラザンの場合にはアミン触媒の生成を引き起こし始める。アンモニアまたはアミン触媒は、フルオロシランオーバーコートが配置されていながら、ペルヒドリドポリシラザンの加水分解を介してその場(in situ)で生成されるので、機能的結合(functional bonding)は、ペルヒドリドポリシラザンとフルオロシランとの間の界面中間層で生じる:ペルヒドリドポリシラザンプライマーコート単独の表面境界だけではない。
【0016】
図2は、in situ触媒の例から生じる結合構造を示す。従来技術では、トップコートを加える前に、プライマーコートは過去に反応した-Si-O-Si-固体構造を既に形成しており、その結果、平面界面200においてのみ結合が生じる。しかしながら、本明細書に記載の例示の方法では、ペルヒドリドポリシラザンの加水分解から生じる発生したアンモニアまたはアミン触媒が、フルオロシランと、ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートに既に存在する吸収された水分ならびに二重複合コーティングが大気にさらに曝されることによって追加される周囲の水分とのさらなる反応によって現在加水分解しているペルヒドリドポリシラザンプライマーコートの完全コキュアを触媒する。これらの反応の正味の結果は、ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートとフルオロシラントップコートとの間の界面層に反応性Si-OH官能基を急速に生成し、これが縮合して厚いコボンドコポリマー中間層202においてペルヒドリドポリシラザンプライマーコートとフルオロシラントップコートとの間にSi-O-Si架橋結合を形成し、従来技術よりも大幅に改善される。
図2の厚いコボンドコポリマー中間層202は、説明のために数層の分子のみを示すように様式化されているが、厚いコボンドコポリマー中間層202の実際の例は、中間層202の中に、互いに結合および架橋した混合分子の多数の層を有する。
【0017】
例示の方法および得られる複合コーティングは、Si-OH結合官能基を既に含む事前に触媒された(pre-catalyzed)ペルヒドリドポリシラザンにトップコートする従来のプロセスおよび製品とはかなり異なっている。従来の製品では、ペルヒドリドポリシラザン様プライマーは、Si-O-Si結合を通して架橋された固体形態に少なくとも部分的に硬化されている。このような従来の事前に架橋されたペルヒドリドポリシラザン製品は、フルオロシランで使用され得るような一般的な溶剤に不溶性である。トップコートで処理する前に大気中の水分に曝された場合、これらの従来のコーティングにおいて発生したアンモニアは、トップコートを塗布する前に大気中に放出される。このような従来のプロセスは、従来の硬化中に、放出されるアンモニアの利点を排除または破棄する。
【0018】
本明細書に記載の例示の方法および複合コーティングでは、フルオロシラントップコートと接触した状態でペルヒドリドポリシラザンプライマーコートの加水分解から発生したアンモニア(またはアミン)が複合コーティングのコキュアのための触媒として作用する能力が、厚いコボンドコポリマー中間層202の強度により、塗装された車両表面に対してより耐久性のある複合コーティングおよびプライマーコートとトップコートの両方の完全硬化をもたらす。
【0019】
使用されるフルオロシラントップコートは、加水分解性であってもまたは事前に加水分解されていてもよい。プライマーコートとして事前に触媒されたペルヒドリドポリシラザンを例示の方法で使用してもよいが、複合コーティングの迅速なコキュアのための触媒作用は、触媒されていないまたは事前に触媒されたペルヒドリドポリシラザンプライマーコートのいずれが使用されても、その場(in situ)で発生したアンモニアまたはアミン触媒を介して同様の速度で生じるので、このような事前に触媒されたペルヒドリドポリシラザンを使用することは必要ではない。触媒されていない(または無触媒の)ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートと触媒された(または触媒を含む)ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートの両方で同様の硬化速度が観察され、複合コーティングのコキュアを促進する発生アンモニアの高い効果を実証する。
【0020】
例示の化学機構
一例の機構において、フルオロシラントップコートの塗布後、ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートにおいてSi-HおよびSi-N結合の両方の切断が起こり、反応性Si-OH官能基が形成される。このような結合の切断によるSi-OH部分の形成により、水素とアンモニアの両方が生成される。形成されたアンモニアは触媒として作用し、フルオロシラントップコートを追加の大気中の水分に曝すと、ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートとフルオロシラントップコートの両方における加水分解性基の急速な追加の加水分解を促進する。その後、生じたSi-OH部分が急速に縮合し、トップコートのフルオロシランをプライマーコートのペルヒドリドポリシラザンに連結するSi-O-Si架橋結合を生成する。
【0021】
ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートは、ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートの塗布とフルオロシラントップコートの塗布との間の第1の時間間隔が短いため、フルオロシラントップコートと接触する前にはほとんどまたは全く加水分解、架橋または不溶化を受けないので、2つのコーティング材料の活発な混合および結合は、フルオロシラントップコートの機械的塗布中に生じる。したがって、好ましい塗布方法は、ペルヒドリドポリシラザンプライマーコート、次いでフルオロシラントップコートを、コーティングされる基材上に直接、順次にワイピングすることであるが、スプレー塗布の後にワイピングすることも採用され得る。
【0022】
基材に隣接するペルヒドリドポリシラザンプライマーコートの層は、ほぼそのまま残るが、フルオロシラントップコートとの接触界面に存在するペルヒドリドポリシラザンプライマーコートの層は、フルオロシラントップコートが塗布されるとフルオロシラン材料と混合し、混合および拡散の層を設定し、それは厚いコボンドコポリマー中間層202となる。ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートとフルオロシラントップコートとの間に明確に区別できる界面平面200が形成されるのではなく、複合コーティングの完全硬化時に、プライマーコートの純粋なペルヒドリドポリシラザン層とトップコートの純粋なフルオロポリマー層との間に均質なコポリマー中間層202をもたらす密接に混合した組成が形成される。従って、最終的な複合コーティングは、3つの明確に異なる組成の層または相を含む:1)基材に結合した純粋なペルヒドリドポリシラザンの第1の層;2)第2の層、密接に混合、拡散、コボンド、および架橋したペルヒドリドポリシラザンとフルオロシランの厚いコボンドコポリマー中間層200;および3)コーティング-空気界面における純粋なフルオロシラン材料の第3層。
【0023】
例示の方法および複合コーティングは、従来のペルヒドリドポリシラザンのアンダーコートが既に部分的に硬化された後に従来のトップコートが塗布された場合に従来形成されていた2つの明確に区別できる層200とは異なる、新規かつ改善された結合構造を提供する。
【0024】
記載されたトップコートに適したフルオロシランは、室温で容易に加水分解を受けてケイ素に直接結合したSi-OH官能基を生成するシリル基部分を有していてよく、あるいは既にSi-OH基が存在するフルオロシランであってもよい。このような好適な加水分解性フルオロシランの代表的なものは、アシルオキシシリル基、ハロシリル基、およびアルコキシシリル基のものである。最も一般的な加水分解性シリル基部分を、Si-OH官能基との反応生成物を含めて、
図3に示す。
【0025】
実施態様において、トップコートのフルオロシランは、以下の式(I)を有することができる:
【化1】
式中、R
fは、一価または二価のパーフルオロアルキル基またはポリパーフルオロエーテル基であり;連結基R
1は、二価のアルキレン基、アリーレン基、またはそれらの組み合わせであり、任意選択で1つまたは複数のヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、もしくは硫黄)または官能基(例えば、カルボニル、アミノ、スルホンアミド)を含み、さらに任意選択でハロゲン原子で置換され、好ましくはおよそ2~16個の炭素原子、またはより好ましくはおよそ3~10個の炭素原子を含む。1つまたは複数のSi-O-Si結合を含むものなど、他のスペーサー基を、別個にまたは上記のR
1基と組み合わせて使用してもよい。R
2は、低級アルキル基、例えばC
1~C
4アルキル基、好ましくはメチル基であり得る。Yは、ハロゲン化物、低級アルコキシ基(例えば、C
1~C
4アルコキシ基、好ましくはメトキシもしくはエトキシ基)、または低級アシルオキシ基(例えば-OC(O)R
3、ここでR
3はC
1~C
4アルキル基である)であり;xは0または1であり、yは1(R
fは一価)またはyは2(R
fは二価)に等しい。好適な化合物は、典型的には、少なくとも約1,000、好ましくは少なくとも約1,500の数平均分子量を有する。好ましくは、x=0であり、Yは低級アルコキシ基である。パーフルオロポリエーテル基を有するフルオロシランが好ましい。また、アルコキシシリル置換ポリパーフルオロエーテルであるフルオロシランも好ましい。
【0026】
例示の方法は、塗装された車両表面に耐久性のあるフルオロポリマー組成物を付着させるための時間効率の良い安価な技術を提供する。ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートは、塗装された車両表面に塗布されたときにインタクトであり、ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートは、フルオロシラントップコートが後で塗布される前に、加水分解して二酸化ケイ素に転化することはできない。実施態様において、コーティングのコキュアおよび結合のための触媒は、最終コキュアプロセス中にその場で生成されるアンモニアまたはアミンである。結果として得られる完全に硬化した複合コーティングは、フルオロシランと、二酸化ケイ素に部分的または完全に転化されていないペルヒドリドポリシラザンの両方である層を含む。したがって、例示の複合コーティングは、従来のペルヒドリドポリシラザンの加水分解から事前に生成された二酸化ケイ素に結合したフルオロシランではなく、ペルヒドリドポリシラザンに結合したフルオロシランである。
【0027】
本明細書に記載された例示の方法および複合コーティングは、塗装された車両表面のための時間効率の良い表面処理を提供する。従来の車両用コーティングは、硬化するのに室温で7日より多くかかることがある。比較すると、本明細書に記載の例示の複合コーティングでは、その後でペルヒドリドポリシラザンプライマーコートがアルコキシシリル置換またはヒドロキシシリル置換フルオロポリマーでオーバーコートされ得る第1の時間間隔は、1時間未満、好ましくは30分未満、およびより好ましくは15分未満である。
【0028】
様々なペルヒドリドポリシラザンを使用して、例示の方法および複合コーティングにおいてプライマーコートを作製することができる。ケイ素、窒素、および水素の少なくともいくつかの繰り返し単位を含み、-SiHx-NH-部分(ここで、x=0、1、または2である)の繰り返しによって特徴づけられるペルヒドリドポリシラザンが、例示の方法および複合コーティングに適している。以下の参考文献は、本明細書に記載のプライマーコートに組み込むことができる適切なペルヒドリドポリシラザンの製造方法または入手方法の一般例を提供する:Gaulの米国特許第4,395,460号;Seyfeerthらの米国特許第4,482,669号;Nakaharaらの米国特許第5,905,130号;Abelらの米国特許第6,329,487号;Isoda et al., J. of Inorganic and Organometallic Polymers (1992) Vol. 2, Issue 1, pp 151-160;Blum et al., Organometallics (1986), 5, 2081-2086;Fujiwaraらの米国特許出願公開第2015/004421号;Fujiwaraらの米国特許出願公開第2017/0240423号;およびSongらの米国特許出願公開第2014/0087903号。
【0029】
例示の方法および複合コーティングに適したフルオロシランは、Rf-CH=CH2アルケンのファミリーからヒドロシリル化法を用いて調製されたものを含めて、パーフルオロアルキル置換シランであってよく、一般式RfCH2CH2SiLpR3-pを有することができ、式中、Rfはパーフルオロ炭化水素ラジカルであり、Lは加水分解性基であり、RはHまたは一価炭化水素基であり、pは1~3の整数を表す。Rfは、CF3-またはCF3CF2CF2CF2-基であってよいが、より長いRf基を有するフルオロシランも利用可能である。
【0030】
以下の参考文献は、本明細書に記載のトップコートに組み込むことができる適切なフルオロシランの製造方法または入手方法の一般的な例を提供する:Bartlettらの米国特許第3,646,085号は、RfO(C3F6O)nCF(CF3)CON(R)R’Si(OR”)3の一般式を記載する;ShirakawaらのWIPO特許出願第WO2009/008380号は、式RfO(CF2CF2O)aCF2Xを有する好適なフルオロシラン組成物を教示し、式中、Rfは1~20個の炭素原子を有するパーフルオロ一価飽和炭化水素基などであり、「a」は1~200の整数を表し、Xは、とりわけ、-C(O)N(CH2CH2CH2SiLpR3-p)2であり、ここで、Lは加水分解性基であり、RはHまたは一価炭化水素基を表し、pは1~3の整数を表す。追加の好適なポリフルオロエーテル含有フルオロシランには、FlynnらのWIPO特許第WO2013/074299号に教示されているものも含まれ、その文献は、式F(CF(CF3)CFO)nCF(CF3)CH2OCH2CH2CH2-L-Si(R1)3-x(R2)xを有するフルオロシランを開示する。この式において、Lは単結合または-S-CH2CH2CH2-であり、R1はヒドロキシまたは加水分解性基であり、R2は非加水分解性基であり、nは4~100の整数であり、xは0、1、または2である。パーフルオロエーテル含有フルオロシランは、Murotaniらの米国特許第9,580,549号に教示されており、この文献は、異なるポリパーフルオロアルキレン単位の別個のブロックを有するポリ(オキシパーフルオロアルキレン)フルオロシランを記載する。そのような好適なフルオロシランは、単官能性または二官能性、および/またはモノポーダル(monopodal)またはダイポーダル(dipodal)であってもよい。
【0031】
例示の参考文献であるZuoらのWIPO特許出願第WO2016/101185号は、ポリパーフルオロエーテル成分とポリパーフルオロアルキル成分の両方を有するフルオロシランの製造方法または入手方法を一般的に記載する。これらのフルオロシランは、一般式R1
xR2
3-xSi(CH2)m-C(Rf)(OH)-(CH2)nSiR1
xR2
3-xを有することができ、式中、RfはR3O(CF(CF3)CF2O)pCF(CF3)-、R3O(CF2CF2CF2O)qCF2CF2-、またはR3O(CF2CF2O)rCF2-であり、R1はヒドロキシまたはC1~C4アルコキシであり、R2はHまたはC1~C4アルキルであり、R3はC1~C6パーフルオロアルキルであり、mおよびnはそれぞれ独立して3~20の範囲内の整数であり、xは整数1、2または3であり、p、qおよびrはそれぞれ独立して、5~60の範囲内の整数である。
【0032】
適用例1~2
例示の試験適用では、2枚のスチールパネルを標準的な自動車用塗料で塗装し、その塗装スチールパネルを、プライマーコートとして無触媒(uncatalyzed)のペルヒドリドポリシラザン(例:Durazane(登録商標)2200、Merck Group、ダルムシュタット、ドイツ)の1重量%溶液でワイピングすることにより処理した。塗装スチールパネルを、溶剤蒸発後にタックフリーになるまで、10分間大気条件に曝して放置し、その後に塗装スチールパネルを乾いた布で拭き取って余分なペルヒドリドポリシラザンを除去した。次に、アルコキシ官能性ポリ(パーフルオロエーテル)置換シラン(フルオロシラン)の5重量%溶液を、前処理した表面にフルオロシランをワイピングすることによって、トップコートとして直ちに塗布した。タックフリーになるまで、10分間フルオロシランを大気条件に曝して放置し、処理した表面を乾いた布で再び拭き取って余分なフルオロシランを除去した。
【0033】
次に、
図4に示すように、5μLの液滴に対する処理表面の水接触角(WCA)(°)を、例示の複合コーティングを提供する例示の方法の実行後の時間の関数として測定した。各試験について、5つの測定値の平均を報告した。同様に、50μLの液滴に対する処理表面の水滑落角(WSA)(°)を、例示の方法の実行後の時間の関数として測定し、その結果を同様に
図4に示す。各試験について、3つの測定値の平均を報告した。
【0034】
図4において、得られたデータは、例示の複合コーティングで処理された塗装スチールパネルを周囲条件(室温および湿度)下でコキュアさせた168時間の時間経過で約112°のWCAの発生を示す。この場合に用いられるコキュアとは、厚いコボンドコポリマー中間層202において互いに混合および拡散したペルヒドリドポリシラザンとフルオロシランの両方が、互いに化学結合を形成し続けて、さらに固化、および強化することを意味する。注目すべきは、わずか30分のコキュア後に約109°のWCAが達成されたことである。168時間のコキュア時間後に約17°の低いWSAが達成され、24時間後にわずか約22°のWSAが発現した。
【0035】
これらの結果が、それぞれの成分中のペルヒドリドポリシラザンおよびフルオロシランコーティング材料の濃度が比較的低いプライマーコートおよびトップコートを用いて得られたことは、注目に値する。最初に塗布したペルヒドリドポリシラザンプライマーコートは、わずか10分後にオーバーコートされ、この時間は、その間に所与の無触媒のペルヒドリドポリシラザンではほとんど硬化が起こらない時間である。それにもかかわらず、ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートとフルオロシラントップコートの両方で二重処理された塗装スチールパネルは硬化して、わずか24時間後に
図4に示す望ましいWCAおよびWSAを達成し、処理を放置してコキュアさせる最初の24時間における、加水分解しているペルヒドリドポリシラザンプライマーコートからその場で生成されるアンモニアの加速させる触媒硬化作用を実証する。
【0036】
適用例3~8
例示の試験適用3~8は、低濃度および低いコーティング厚さでの複合コーティングの有効性を実証する。
【0037】
上記の例1~2と同様に、例示の試験適用3~8において、スチールパネルを標準的な自動車用塗料で塗装した。これらの塗装スチールパネルを、まずプライマーコートとして、アミン触媒を含む(amine-catalyzed)ペルヒドリドポリシラザン(例:Durazane(登録商標)2600、MerckGroup、ダルムシュタット、ドイツ)の1重量%溶液でワイピングして処理した。塗装スチールパネルを、溶剤の蒸発後にタックフリーになるまで、5~15分間大気条件に曝して放置した。塗装スチールパネルを乾いた布で拭き取って余分なペルヒドリドポリシラザンを除去した。次に、アルコキシ官能性ポリ(パーフルオロエーテル)置換シラン(フルオロシラン)の5重量%溶液を、前処理した表面にフルオロシランをワイピングすることによって塗布した。フルオロシランを、タックフリーになるまで、10分間大気条件に曝して放置し、処理表面を乾いた布で拭き取って余分なフルオロシランを除去した。次に、5μLの液滴に対する処理表面の水接触角(WCA)(°)を、完全な処理が完了した後測定し、その結果を
図5に示す。各試験について、10個の測定値の平均を記録した。同様に、50μLの液滴に対する処理表面の水滑落角(WSA)(°)を、完全な処理が完了した後測定し、その結果を同様に
図5に示す。各試験について、3つの測定値の平均を記録した。
【0038】
得られたデータは、複合コーティングを周囲条件(温度23℃、湿度39%)下でコキュアさせた後、約111°のWCAの発生を示す。完全なコキュア後に約9°の低いWSAが達成された。
【0039】
追加の塗装スチールパネルを同様に処理したが、
図5に示すように、ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートおよびフルオロシラントップコート内の成分の異なる濃度を使用した。WCAは10個の測定値の平均を示し、WSAは3つの測定値の平均を示す。試験した全ての濃度について水接触角は比較的類似しており、108°と112°の間の範囲であるが、異なる濃度での水滑落角は異なっており、ペルヒドリドポリシラザンおよびアルコキシ官能性ポリ(パーフルオロエーテル)置換シラン(フルオロシラン)の濃度が高いほど水滑落角が高くなる傾向がある。
【0040】
これらの試験例は、ペルヒドリドポリシラザンおよびアルコキシ官能性ポリ(パーフルオロエーテル)置換シランの最低濃度において、最高のWCAおよび最低のWSAが達成され得ることを示す。これらの結果は、従来のコーティングと比較して、ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートとアルコキシ官能性ポリ(パーフルオロエーテル)置換シラン(フルオロシラン)トップコートとの間に確立される厚いコボンドコポリマー中間層202の重要性を実証し得る。このコボンドは、コーティングと空気の界面におけるポリ(パーフルオロエーテル)基のパーフルオロアルキル部分の配向を整える働きをし、それによって低い水滑落角をもたらす均一な表面を提供すると考えられる。塗布されるコーティング材料の濃度が増加し、結果として複合コーティングの層の厚さが増大すると、コボンドコポリマー中間層202の整列効果は、この中間層202からの距離が増大するにつれて減少する。したがって、水滑落角は、フルオロシラントップコートの厚さが増大するにつれて高くなる。
【0041】
適用例9~12
さらなる例示の試験適用は、例えば、フルオロシランおよびポリシラザンを使用するまたはシリコーンおよびポリシラザンを使用する従来の配合および技術に対して、例示の複合コーティングの優れた性能を実証する。1重量%のペルヒドリドポリシラザンプライマーコートと5重量%のアルコキシ官能性ポリ(パーフルオロエーテル)置換シラン(フルオロシラン)を用いて塗布した例示の複合コーティングについて得られた結果を比較のために提供する。このセクションに記載される例示の複合コーティングのすべての例のための塗布手順および硬化条件は、実質的に同じであり、上記の例示の試験適用1~8に関して記載した同手順と同じであった。
【0042】
各例示の複合コーティングについて、5μLの液滴に対する処理表面の水接触角(WCA)(°)を、完全処理が完了した後測定し、結果を
図6に示す。各試験について9つの測定値の平均を報告する。同様に、50μLの液滴に対する処理表面の水滑落角(WSA)(°)を、完全硬化が完了した後測定し、その結果を同様に
図6に示す。各試験について3つの測定値の平均を報告した。
【0043】
1重量%のペルヒドリドポリシラザンプライマーコートと5重量%のアルコキシ官能性ポリ(パーフルオロエーテル)置換シラントップコートは、試験した他の例の濃度と比較して、ならびに従来のコーティングおよび技術と比較して、優れた水接触角および優れた水滑落角を与えることが明らかである。いくつかの例は、100°より高いWCAを示したが、それら同じ組成物のWSAは比較的高かった。例示の複合コーティングを作製するための1重量%のペルヒドリドポリシラザンプライマーコートと5重量%のアルコキシ官能性ポリ(パーフルオロエーテル)置換シラントップコートは、100°超のWCAと20°未満のWSAを与える。
【0044】
図7は、自動車ボディ上に例示の複合コーティングを作製するためのプライマーコート成分702およびトップコート成分704を含む例示のキット700を示す。
【0045】
実施態様において、保護複合コーティングを作製するための例示のキット700は、塗装された自動車表面にプライマーコート702として塗布される未加水分解ペルヒドリドポリシラザンを含む触媒生成プライマー(catalyst-generating primer)と、加水分解に際し未加水分解ペルヒドリドポリシラザンと共反応できるフルオロシランとを含み、フルオロシランは、溶剤中において、プライマーコート702の塗布後の所定の時間間隔中に、プライマーコート702の上にトップコート704として塗布される。
【0046】
触媒生成プライマーとフルオロシランは、触媒生成プライマーとフルオロシラントップコートとの間に、厚い中間結合層である厚いコボンドコポリマー中間層202を生成し、これは、プライマーのペルヒドリドポリシラザン分子の中に拡散したトップコートのフルオロシラン分子の第1のミックスと、トップコートのフルオロシラン分子の中に拡散したプライマーのペルヒドリドポリシラザン分子の第2のミックスとを含む。厚いコボンドコポリマー中間層202は、均質なコポリマー層であり得る。厚いコボンドコポリマー中間層202は、触媒生成未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマー中にその場で生成されるアンモニア触媒またはアミン触媒により介在されてその場で作製される。
【0047】
アンモニア触媒またはアミン触媒は、プライマーコート702における触媒生成プライマーとトップコート704におけるフルオロシランとが接触した後の水分誘導加水分解反応中に生成される。
【0048】
プライマーコート702は、溶剤中約0.1~5.0重量%の未加水分解ペルヒドリドポリシラザンの濃度を有し得る。あるいは、プライマーコート702は、溶剤中約0.25~3.00重量%の未加水分解ペルヒドリドポリシラザンの濃度、または溶剤中約0.5~2.0重量%の未加水分解ペルヒドリドポリシラザンの濃度を有していてもよい。キット700の1つの実施態様において、プライマーコート702は、溶剤中に約1重量%の濃度の未加水分解ペルヒドリドポリシラザンを有する。
【0049】
溶剤は、キシレン、アニソール、デカリン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、リモネン、ヘキサン、オクタイン、ノナン、デカン、ジブチルエーテル、約8~11の炭素原子の長さの炭素鎖を含むアルカン混合物、約8~11の炭素原子を有する炭素構造を含む芳香族炭化水素混合物、または8~11の炭素原子の炭素構造を含む芳香族炭化水素を5~25重量%含む脂肪族/脂環式炭化水素混合物のいずれかであってよい。キット700の別の実施態様では、触媒生成プライマーコート702は、ジブチルエーテル中に20重量%の未加水分解ペルヒドリドポリシラザンを有する。
【0050】
トップコート704のフルオロシランは、パーフルオロアルキル置換フルオロシランまたはポリパーフルオロエーテル置換フルオロシランであってよい。また、フルオロシランは、アルコキシシリル置換フルオロシラン、アルコキシシリル置換ポリパーフルオロアルキルフルオロシラン、またはアルコキシシリル置換ポリパーフルオロエーテルフルオロシランであってもよい。トップコート704は、フッ素系溶剤、パーフルオロ系溶剤、トリフルオロトルエン、フルオロアルキル置換シクロヘキサン、フッ素系エーテル、メチルノナフルオロブチルエーテル、パーフルオロヘキサン、およびパーフルオロオクタンからなる群より選択される溶剤中にフルオロシランを有していてよい。
【0051】
キット700の実施態様において、トップコート704は、溶剤中に1.0~8.0重量%のフルオロシランを有する。あるいは、トップコート704は、溶剤中に1.5~7.0重量%のフルオロシランを有していてよい。あるいは、トップコート704は、溶剤中に2.0~6.0重量%のフルオロシランを有していてもよい。キット700の1つの実施態様において、トップコート704は所与の溶剤中に5重量%のフルオロシランを有し、プライマーコート702は、それぞれの溶剤中に1重量%の未加水分解ペルヒドリドポリシラザンを有する。
【0052】
例示のキット700は、プライマーコート702の塗布とトップコート704の塗布との間に3~60分の時間間隔を待つための指示を有していてよい。実施態様に応じて、時間間隔は、例えば、3~30分、5~20分、または3~10分であってよい。例示のキット700は、例えば、塗装された車両表面に触媒生成プライマーコート702をスプレーまたはワイピングによって塗布することを可能にし得る。同様に、例示のキット700は、例えば、フルオロシラントップコート704をスプレーまたはワイピングによってプライマーコート702上に塗布することを可能にし得る。
【0053】
例示の方法
図8は、塗装された車両表面に複合コーティングを形成する例示の方法800を示す。
図8のフロー図において、例示の方法800の動作が個々のブロックに示される。
【0054】
ブロック802において、未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートが、塗装された車両表面に塗布される。未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートは、実施態様に応じて、スプレーまたはワイピングされ得る。
【0055】
ブロック804において、未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートが明らかな程度(appreciable degree)まで加水分解する前に、フルオロシラントップコートが未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコート上に塗布される。プライマーコートと同様に、フルオロシラントップコートは、実施態様に応じて、スプレーまたはワイピングされ得る。
【0056】
実施態様において、未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートは、触媒生成ペルヒドリドポリシラザンである。触媒生成ペルヒドリドポリシラザンは、触媒としての例えばアンモニア、またはアミンを自己生成し、触媒をその場で生成する。場合によっては、触媒が生成される際に他の種、例えば水素イオンが生成され得る。
【0057】
フルオロシラントップコートはフルオロシランを含み、フルオロシランは、ペルヒドリドポリシラザンの緩やかな加水分解が始まると、未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートと共反応し、反応の生成物としてアンモニアまたはアミン触媒を自動発生させる。フルオロシラントップコートは、この水分誘導触媒生成硬化機構を介して、プライマーコートのペルヒドリドポリシラザンとコボンドする。
【0058】
フルオロシラントップコートは、アンモニアまたはアミンによる触媒作用中にフルオロシラントップコートとペルヒドリドポリシラザンプライマーコートとの間の厚い拡散層界面が形成するように、未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートとコボンドし、トップコートのフルオロシランとプライマーコートのペルヒドリドポリシラザンとの間に厚いコポリマー結合中間層を形成する。
【0059】
プライマーコートとトップコートとの間の厚いコポリマー結合中間層は、従来の車両用の表面処理よりも優れた装甲性、撥水性、および撥油性を提供する、より強い複合コーティングをもたらす。トップコートのフルオロシランは、従来の処理で起こりうるようなプライマーコートのSiO2などの酸化ケイ素と結合するのではなく、ペルヒドリドポリシラザンとフルオロシランとの間の厚い結合中間層内でペルヒドリドポリシラザン自体と結合し、そこでは、フルオロシランの分子とペルヒドリドポリシラザンの分子が均質に混合されて非常に強い厚い混合コポリマー中間層を形成する。フルオロシランとペルヒドリドポリシラザンプライマーコートとの間の厚いコポリマー中間層は、ペルヒドリドポリシラザンのペルヒドリドポリシラザン分子の中に拡散したフルオロシランのフルオロシラン分子のミックスと、フルオロシランのフルオロシラン分子の中に拡散したペルヒドリドポリシラザンのペルヒドリドポリシラザン分子のミックスを含む。
【0060】
様々な実施態様において、未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートは、溶剤中に未加水分解ペルヒドリドポリシラザンを含む。実施態様において、未加水分解ペルヒドリドポリシラザンは、溶剤中約0.1~5.0%の濃度を有する。別の実施態様において、未加水分解ペルヒドリドポリシラザンは、溶剤中約0.25~3.00重量%の濃度を有する。別の実施態様では、未加水分解ペルヒドリドポリシラザンは、溶剤中約0.5~2.0重量%の濃度を有し、例えば溶剤中約1重量%の濃度を有する。
【0061】
プライマーコートの溶剤は、キシレン、アニソール、デカリン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、リモネン、ヘキサン、オクタイン、ノナン、デカン、ジブチルエーテル、約8~11の炭素原子の長さの炭素鎖を含むアルカン混合物、約8~11の炭素原子の炭素構造を含む芳香族炭化水素混合物、または8~11の炭素原子の炭素構造を含む芳香族炭化水素を5~25重量%含む脂肪族/脂環式炭化水素混合物であってよい。
【0062】
実施態様において、プライマーコートは、ジブチルエーテル中の20重量%の未加水分解ペルヒドリドポリシラザンである。
【0063】
フルオロシラントップコートは、パーフルオロアルキル置換フルオロシランまたはポリパーフルオロエーテル置換フルオロシランを含み得る。フルオロシランはまた、アルコキシシリル置換フルオロシラン、アルコキシシリル置換ポリパーフルオロアルキルフルオロシラン、またはアルコキシシリル置換ポリパーフルオロエーテルフルオロシランであってもよい。
【0064】
実施態様において、フルオロシラントップコートおよびペルヒドリドポリシラザンプライマーコートは、塗装された車両表面に、約100°超の水接触角を有する複合コーティングを形成する。複合コーティングの他の実施態様は、約105~110°の範囲のより大きな水接触角を有することができる。
【0065】
実施態様において、複合コーティングは、約25°未満の水滑落角(または水転落角(water roll-off angle))を有し得る。他の実施態様では、複合コーティングは、約15~20°の範囲内の水滑落角を有する。
【0066】
方法800は、プライマーコートを塗布した後、トップコートを塗布する前に所定の時間間隔を待つことをさらに含むことができる。実施態様および関連する配合物に応じて、所定の時間間隔は、約3~60分、3~30分、5~20分、または3~10分の範囲であってよい。この時間間隔は、フルオロシラントップコートがプライマーコート上にオーバーコートされる前に、ペルヒドリドポリシラザンを明らかには水和させることなく、未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートが周囲の大気中の水分を吸着および吸収し始めることを可能にする。上記で使用される水和は、単に大気中の水分を物理的に吸着させて物理的に吸収することとは異なる化学反応を意味する。
【0067】
図9は、塗装された車両表面上に複合コーティングを形成する例示の方法900を示す。
図9のフロー図において、例示の方法900の動作が個々のブロックに示される。
【0068】
ブロック902において、未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートが、塗装された車両表面に塗布される。
【0069】
ブロック904において、未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートを塗布した後、3~10分の時間間隔を経過させる。この時間間隔中に、未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートは、大気からの少量の周囲水分を吸着および吸収し始めるが、水和反応は明らかにはまだ始まらない。プライマーコート用に選択された特定のペルヒドリドポリシラザンに応じて、異なる時間間隔が使用され得る。
【0070】
ブロック906において、アルコキシシリルまたはヒドロキシシリル官能性フルオロシラントップコートは、未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコートの加水分解反応が明らかに開始する前に、未加水分解ペルヒドリドポリシラザンプライマーコート上に塗布される。加水分解反応は、周囲の大気中の水分によって誘導される。アルコキシシリルまたはヒドロキシシリル官能性フルオロシランとは異なるフルオロシランをトップコートに使用してもよい。
【0071】
ブロック908では、プライマーコートとトップコートが硬化して複合コーティングになるように第2の時間間隔を経過させる。
【0072】
前述の説明および添付の図面において、開示された実施形態の完全な理解を提供するために、特定の用語および図面記号を設定した。いくつかの例では、用語および記号は、それらの実施形態を実施するのに必要ではない特定の詳細を意味することがある。例えば、特定の寸法、量、材料タイプ、製造ステップなどのいずれかは、代替的な実施形態において上述したものと異なっていてよい。用語「例示の」、「実施形態」、および「実施態様」は、例を表現するために使用され、優先または要件ではない。また、用語「得る(may)」および「できる(can)」は、任意選択の(許容される)主題を示すために互換的に使用される。いずれかの用語がないことは、所与の特徴または技術が要求されることを意味すると解釈されるべきではない。
【0073】
本開示の広い精神および範囲から逸脱することなく、本明細書に提示された実施形態に様々な修正および変更がなされ得る。例えば、実施形態のいずれかの特徴または態様は、他のいずれかの実施形態と組み合わせて、またはその対応する特徴または態様の代わりに適用することができる。したがって、本明細書および図面は、制限的な意味ではなく例示の意味で考慮されるべきである。
【0074】
本開示は、限られた数の実施形態に関して開示されているが、本開示の恩恵を受けた当業者であれば、説明から考えられる多数の修正および変形を理解するであろう。添付の特許請求の範囲は、本開示の真の精神および範囲に入るような修正および変形を包含することが意図される。
【外国語明細書】