(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158658
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】溶剤組成物及びその用途
(51)【国際特許分類】
C11D 7/30 20060101AFI20231023BHJP
C11D 3/24 20060101ALI20231023BHJP
C11D 17/04 20060101ALI20231023BHJP
C09K 3/30 20060101ALI20231023BHJP
C08L 71/00 20060101ALI20231023BHJP
C08G 65/323 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
C11D7/30
C11D3/24
C11D17/04
C09K3/30 J
C08L71/00
C08G65/323
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067365
(22)【出願日】2023-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2022068458
(32)【優先日】2022-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】長舩 夏奈子
(72)【発明者】
【氏名】吉川 悟
(72)【発明者】
【氏名】向原 伊吹
【テーマコード(参考)】
4H003
4J002
4J005
【Fターム(参考)】
4H003BA20
4H003DA09
4H003DB01
4H003DC02
4H003ED26
4H003FA04
4H003FA30
4J002CH051
4J002EB066
4J002FD17
4J002GH01
4J002GT00
4J002HA05
4J005AB00
4J005BD04
(57)【要約】
【課題】本開示は、パーフルオロポリエーテル基を有する化合物に対して、良好な溶解性を示す1233zd(E)含有溶剤組成物及びその用途を提供する。
【解決手段】パーフルオロポリエーテル基を有する化合物を溶解するための溶剤組成物であって、トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd(E))を含む溶剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーフルオロポリエーテル基を有する化合物を溶解するための溶剤組成物であって、
トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd(E))を含む溶剤組成物。
【請求項2】
前記1233zd(E)よりも沸点が高く、前記1233zd(E)と相溶する含フッ素有機溶剤を含む請求項1に記載の溶剤組成物。
【請求項3】
前記含フッ素有機溶剤が、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)類、ハイドロフルオロカーボン(HFC)類、ハイドロフルオロエーテル(HFE)類、及びハイドロフルオロオレフィン(HFO)類からなる群より選ばれる少なくとも一種の有機溶剤である、請求項2に記載の溶剤組成物。
【請求項4】
前記含フッ素有機溶剤がシス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd(Z))である、請求項2に記載の溶剤組成物。
【請求項5】
前記溶剤組成物全量に対して、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd)を80質量%以上含む、請求項1に記載の溶剤組成物。
【請求項6】
前記パーフルオロポリエーテル基を有する化合物の20℃における動粘度が0[mm2/s]超である、請求項1に記載の溶剤組成物。
【請求項7】
前記パーフルオロポリエーテル基を有する化合物の20℃における動粘度が0[mm2/s]超150[mm2/s]未満であり、前記1233zdの総量に対して前記1233zd(E)を0質量%超含む、請求項5に記載の溶剤組成物。
【請求項8】
前記パーフルオロポリエーテル基を有する化合物の20℃における動粘度が0[mm2/s]超1540[mm2/s]未満であり、前記1233zdの総量に対して前記1233zd(E)を70質量%超含む、請求項5に記載の溶剤組成物。
【請求項9】
前記パーフルオロポリエーテル基を有する化合物の20℃における動粘度が0[mm2/s]超1600[mm2/s]未満であり、前記1233zdの総量に対して前記1233zd(E)を90質量%超含む、請求項5に記載の溶剤組成物。
【請求項10】
安定剤、難燃剤、界面活性剤、金属不動態化剤、防錆剤、および増粘剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分をさらに含む、請求項1に記載の溶剤組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の溶剤組成物と、パーフルオロポリエーテル基を有する化合物とを含む、溶液。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項に記載の溶剤組成物を含む、洗浄剤。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか1項に記載の溶剤組成物を含む洗浄剤を用いて、パーフルオロポリエーテル基を有する化合物が付着した物品から前記パーフルオロポリエーテル基を有する化合物を除去する、物品の洗浄方法。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか1項に記載の溶剤組成物と、パーフルオロポリエーテル基を有する化合物とを含む、塗膜形成用溶剤組成物。
【請求項15】
請求項14に記載の塗膜形成用溶剤組成物を基材の表面に塗布した後、前記溶剤組成物の溶剤を蒸発除去して、前記パーフルオロポリエーテル基を有する化合物を含む塗膜を形成する、塗膜付き基材の製造方法。
【請求項16】
請求項11に記載の溶液と、噴射剤とが充填された、エアゾール。
【請求項17】
請求項12に記載の洗浄剤と、噴射剤とが充填された、エアゾール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、パーフルオロポリエーテル基を有する化合物を溶解するための溶剤組成物、及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素系潤滑剤は、一般的に熱的、化学的に安定であり、電気絶縁性に優れる等といった種々の特徴を有する。フッ素系潤滑剤には、例えばパーフルオロポリエーテル基(PFPE基)を有する化合物(以下、「PFPE基含有化合物」ともいう)やクロロトリフルオロエチレン低重合体(以下、「CTFE低重合体」)があり、これらフッ素系潤滑剤は、例えば、磁気記録媒体用等の潤滑剤として知られている。
【0003】
フッ素系潤滑剤の一種であるPFPE基を有する化合物は、一般的に含フッ素系溶剤以外には溶解し難い。PFPE基を有する化合物を含む潤滑剤溶液の調製に用いる溶剤や、PFPE基を有する化合物が付着した物品から該化合物を除去するための洗浄剤として、クロロフルオロカーボン類(以下、「CFC類」ともいう)、ハイドロクロロフルオロカーボン類(以下、「HCFC類」ともいう)、パーフルオロカーボン類(以下、「PFC類」ともいう)、ハイドロフルオロカーボン類(以下、「HFC類」ともいう)等が使用されてきた。しかしながら、CFC類、HCFC類等は、オゾン層への悪影響の懸念から、先進国においては、使用が制限されたり、禁止されたりする方向にある。PFC類やHFC類は、地球温暖化係数(GWP)が大きいことから、京都議定書で規制対象物質となっている。このことから、地球環境に与える影響が小さい物質の開発が求められている。これらの代替品としてハイドロクロロフルオロオレフィン類やハイドロフルオロオレフィン類(以下、これらを総称して「HFO類」ともいう)やハイドロフルオロエーテル類(以下、「HFE類」ともいう)が着目されている。
【0004】
特許文献1には、HFO系溶剤であるモノクロロトリフルオロプロペン(HCFO-1233)の潤滑剤等の活性成分の溶媒用途が記載されている。
【0005】
特許文献2には、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテルとシス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd(Z))を含む溶剤組成物が、特定のPFPE基含有化合物を溶解することが開示されている。また、特許文献3には、HFC系溶剤と1233zd(Z)を含む不燃性洗浄剤組成物が、特定のパーフルオロエーテルを溶解することが開示されている。
【0006】
特許文献4には、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンとトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd(E))とを含む不燃性洗浄剤組成物が、フッ素オイルを溶解することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2014-529656号公報
【特許文献2】特開2020-132688号公報
【特許文献3】特開2019-143111号公報
【特許文献4】特開2021-147473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
フッ素系潤滑剤には、構造が異なる種々の化合物が存在するため、フッ素系潤滑剤の種類によって溶剤への溶解性が異なることが知られている。そのため、フッ素系潤滑剤を溶解させるためには適切な溶剤を選択する必要がある。
特許文献2や3には、特定の溶剤と1233zd(Z)を含む溶剤組成物が、特定のPFPE基含有化合物を溶解させることが開示されているが、ここに示されているように、溶剤として優れた特性を示す1233zd(Z)を用いる場合ですら、PFPE基を有する化合物を溶解させる溶剤組成物を見出すことは容易ではない。逆に言えば、フッ素系潤滑剤の中でも特に難溶性を示すPFPE基を有する化合物を溶解できれば、種々のフッ素系潤滑剤の溶剤として適用できるものと考えられる。
また、特許文献4には、1233zd(E)を含む不燃性洗浄剤組成物が、フッ素オイルを溶解することが記載されているが、PFPE基を有する化合物の該組成物への溶解性については記載されていない。
【0009】
すなわち、PFPE基を有する化合物に対して優れた溶解性を示す溶剤組成物を提供することは、依然として難易度の高い開発課題である。
本開示は、PFPE基を有する化合物の溶解性に優れた溶剤組成物及びその用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd(E))を含む溶剤組成物において、PFPE基を有する化合物に対する良好な溶解性が得られることを見出した。
【0011】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施形態が含まれる。
【0012】
[1]
パーフルオロポリエーテル基を有する化合物を溶解するための溶剤組成物であって、
トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd(E))を含む溶剤組成物。
[2]
前記1233zd(E)よりも沸点が高く、前記1233zd(E)と相溶する含フッ素有機溶剤を含む[1]に記載の溶剤組成物。
【0013】
[3]
前記含フッ素有機溶剤が、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)類、ハイドロフルオロカーボン(HFC)類、ハイドロフルオロエーテル(HFE)類、及びハイドロフルオロオレフィン(HFO)類からなる群より選ばれる少なくとも一種の有機溶剤である、[2]に記載の溶剤組成物。
[4]
前記含フッ素有機溶剤がシス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd(Z))である、[2]又は[3]に記載の溶剤組成物。
【0014】
[5]
前記溶剤組成物全量に対して、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd)を80質量%以上含む、[1]~[4]のいずれか1項に記載の溶剤組成物。
[6]
前記パーフルオロポリエーテル基を有する化合物の20℃における動粘度が0[mm2/s]超である、[1]に記載の溶剤組成物。
【0015】
[7]
前記パーフルオロポリエーテル基を有する化合物の20℃における動粘度が0[mm2/s]超150[mm2/s]未満であり、前記1233zdの総量に対して前記1233zd(E)を0質量%超含む、[5]に記載の溶剤組成物。
[8]
前記パーフルオロポリエーテル基を有する化合物の20℃における動粘度が0[mm2/s]超1540[mm2/s]未満であり、前記1233zdの総量に対して前記1233zd(E)を70質量%超含む、[5]に記載の溶剤組成物。
【0016】
[9]
前記パーフルオロポリエーテル基を有する化合物の20℃における動粘度が0[mm2/s]超1600[mm2/s]未満であり、前記1233zdの総量に対して前記1233zd(E)を90質量%超含む、[5]に記載の溶剤組成物。
[10]
安定剤、難燃剤、界面活性剤、金属不動態化剤、防錆剤、および増粘剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分をさらに含む、[1]~[9]のいずれか1項に記載の溶剤組成物。
【0017】
[11]
[1]~[10]のいずれか1項に記載の溶剤組成物と、パーフルオロポリエーテル基を有する化合物とを含む、溶液。
[12]
[1]~[10]のいずれか1項に記載の溶剤組成物を含む、洗浄剤。
【0018】
[13]
[1]~[10]のいずれか1項に記載の溶剤組成物を含む洗浄剤を用いて、パーフルオロポリエーテル基を有する化合物が付着した物品から前記パーフルオロポリエーテル基を有する化合物を除去する、物品の洗浄方法。
[14]
[1]~[10]のいずれか1項に記載の溶剤組成物と、パーフルオロポリエーテル基を有する化合物とを含む、塗膜形成用溶剤組成物。
【0019】
[15]
[14]に記載の塗膜形成用溶剤組成物を基材の表面に塗布した後、前記溶剤組成物の溶剤を蒸発除去して、前記パーフルオロポリエーテル基を有する化合物を含む塗膜を形成する、塗膜付き基材の製造方法。
[16]
[11]に記載の溶液と、噴射剤とが充填された、エアゾール。
[17]
[12]に記載の洗浄剤と、噴射剤とが充填された、エアゾール。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、PFPE基を有する化合物に対して、良好な溶解性を示すHCFO-1233zd(E)含有溶剤組成物及びその用途を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
一般的に、PFPE基含有化合物の溶解性は、溶剤中のフッ素原子の含有割合に依存し、フッ素原子の含有割合が高い溶剤ほどPFPE含有化合物の溶解性が向上すると考えられている。しかしながら、本発明者らは、敢えてHCFO-1233zd(Z)とフッ素原子の含有割合の変わらない、HCFO-1233zd(Z)の幾何学異性体であるHCFO-1233zd(E)に着目した。その結果、HCFO-1233zd(E)を含む溶剤組成物により、意外にも、PFPE基含有化合物に対して、非常に良好な溶解性を示す溶剤組成物が得られるという知見を得たことにより、本開示を完成させるに至ったものである。
【0022】
以下、本開示の実施形態について説明する。ただし本開示は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。また、以下の実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本開示によりもたらされるものと解される。
【0023】
本明細書において、ハロゲン化炭化水素については、化合物名の後の括弧内にその化合物の略称を記すが、本明細書では必要に応じて化合物名に代えてその略称を用いる。また、略称として、ハイフン(-)より後ろの数字およびアルファベット小文字部分だけ(例えば、「HCFO-1233zd」においては「1233zd」)を用いることがある。
【0024】
さらに、幾何異性体を有する化合物の名称およびその略称に付けられた(E)は、E体を示し、(Z)はZ体を示す(例えば、「(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン」においては、「HCFO-1233zd(Z)」あるいは「1233zd(Z)」を用いることがある)。該化合物の名称、略称において、E体、Z体の明記がない場合、該名称、略称は、E体、Z体、およびE体とZ体の混合物を含む総称を意味する。
例えば、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(以下、「HCFO-1233zd」ともいう)は、Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(シス体、以下、「HCFO-1233zd(Z)」ともいう)、及び/又はE-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(トランス体、以下、「HCFO-1233zd(E)」ともいう)である。
【0025】
[1.HCFO-1233zd(E)を含む溶剤組成物]
本開示の実施形態に係る溶剤組成物(以下、単に「本溶剤組成物」ともいう)は、パーフルオロポリエーテル基を有する化合物を溶解するための溶剤組成物であって、トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd(E))を含む。
【0026】
<溶剤成分>
(HCFO-1233zd(E))
まず、HCFO-1233zd、HCFO-1233zd(Z)、及び本溶剤組成物において必須であるHCFO-1233zd(E)について説明する。
【0027】
1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(以下、「HCFO-1233zd」ともいう)は、CF3CH=CHClで表される、炭素原子-炭素原子間に二重結合を有するオレフィンである。
【0028】
HCFO-1233zdは、幾何異性体が存在することが知られており、HCFO-1233zdのZ異性体(以下、HCFO-1233zd(Z)ともいう。)の沸点は39℃であり、HCFO-1233zdのE異性体(以下、HCFO-1233zd(E)ともいう。)の沸点は18℃である。
上記沸点を有することより、HCFO-1233zdは、揮発性に優れ、取扱いが容易である。
【0029】
HCFO-1233zdは、引火点を持たない。
【0030】
HCFO-1233zdは、表面張力や粘度が低い。
【0031】
公知の製造方法により、HCFO-1233zd(Z)、HCFO-1233zd(E)、あるいは、それらの混合物が得られ、蒸留により両者を分離することができる。たとえば、HCFO-1233zdは特開2017-110020号公報の記載に基づいて製造できる。
【0032】
本溶剤組成物は、1233zd(E)を0質量%超含むことによりPFPE基を含む化合物に対して、優れた溶解性を示す。また、1233zd(E)は、ポリマーアタックが小さいため、1233zd(E)を含むことで、溶剤組成物を基材に接触させた際の、基材へのポリマーアタックが小さくなると考えられる。すなわち、ポリマーアタックの抑制の観点からも、溶剤組成物中に1233zd(E)を含むことが好ましい。
【0033】
本溶剤組成物に含まれるHCFO-1233zd(E)は、溶剤組成物全量に対して、0質量%超であればよく、10質量%以上であってもよく、20質量%以上であってもよく、30質量%以上であってもよく、40質量%以上であってもよく、50質量%以上であってもよく、60質量%以上であってもよく、70質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。PFPE基含有化合物に対する溶解性の観点から、HCFO-1233zd(E)の含有量は多い方が好ましい。
【0034】
(他の有機溶剤)
本溶剤組成物には、HCFO-1233zd(E)以外の他の有機溶剤が含まれてもよい。例えば、本溶剤組成物において、他の有機溶剤は、HCFO-1233zd(E)との相溶性を有する有機溶剤であり、溶解性を高める、揮発速度を調節する等の各種の目的に応じて、適宜選択される。
例えば、HCFO-1233zd(E)との相溶性を有するハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC類)、ハイドロフルオロカーボン類(HFC類)、ハイドロフルオロエーテル類(HFE類)、ハイドロフルオロオレフィン類(HFO類)が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。すなわち、本溶剤組成物は、HCFC類、HFC類、HFE類、及びHFO類からなる群より選ばれる少なくとも一種の有機溶剤をさらに含んでいてもよい。また、2種以上の他の有機溶剤が含まれる場合、それらの組合せは同じ範疇の溶剤の組合せであってもよく、異なる範疇の溶剤の組合せであってもよい。たとえば、HCFC類から選ばれる2種の組合せであってもよく、HCFC類から選ばれる1種とHFCから選ばれる1種との組合せであってもよい。
【0035】
HCFC類としては、例えば、炭素数3~8の鎖状または環状のHCFC類が挙げられる。より具体的には、3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン(HCFC-225ca)、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン(HCFC-225cb)等が挙げられるが、これらに限られない。
【0036】
HFC類としては、例えば、炭素数4~8の鎖状または環状のHFC類が挙げられ、1分子中のフッ素原子数が水素原子数以上であるHFC類が好ましい。より具体的には、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタン等が挙げられるが、これらに限られない。
【0037】
HFE類としては、例えば、炭素数4~8の鎖状または環状のHFE類が挙げられる。より具体的には、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテル(HFE-356mmz)、C4F9OCH3、C3F7OCH3、1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ-1-(2,2,2-トリフルオロ)エタン(HFE-347pc-f)等が挙げられ、市販品としては、例えば、アサヒクリン(登録商標)AE-3000(AGC社製)等が挙げられるが、これらに限られない。
【0038】
HFO類としては、HCFO-1233zd(Z)の他、例えば、炭素数3~6のHFO類が挙げられる。より具体的には、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン等が挙げられるが、これらに限られない。
【0039】
他の有機溶剤としては、中でも、HCFO-1233zd(E)よりも沸点が高く、HCFO-1233zd(E)と相溶する含フッ素有機溶剤を含むことが好ましい。
すなわち、本溶剤組成物は、HCFO-1233zd(E)よりも沸点が高く、HCFO-1233zd(E)と相溶する含フッ素有機溶剤を含む溶剤組成物であることが好ましい態様の1つである。
【0040】
前記含フッ素有機溶剤は、HCFC類、HFC類、HFE類、及びHFO類からなる群より選ばれる少なくとも一種の有機溶剤であることが好ましく、具体的には、上記他の有機溶剤の具体例の中で、HCFO-1233zd(E)よりもが高い有機溶剤が挙げられる。
【0041】
前記含フッ素有機溶剤は、HCFO-1233zd(Z)(沸点39℃)であることが特に好ましい。HCFO-1233zd(Z)は、HCFO-1233zd(E)の安定化剤としても機能する上、それ自体、PFPE基を有する化合物に対して良好な溶解性を有する。
【0042】
本溶剤組成物には、溶剤組成物全量に対して、HCFO-1233zdが80質量%以上含まれることが好ましく、より好ましくは90質量%以上含まれる。また、実質的にHCFO-1233zdのみが含まれてもよい。
【0043】
本溶剤組成物に含有されるHCFO-1233zdとしては、HCFO-1233zd(E)のみであってもよく、HCFO-1233zd(Z)とHCFO-1233zd(E)の混合物であってもよい。
【0044】
なお、HCFO-1233zd(Z)のみである場合は本溶剤組成物には含まないが、後述の参考例において示すように、本溶剤組成物と同様にPFPE基を有する化合物に対して、優れた溶解性を示すものである。
本開示は、パーフルオロポリエーテル基を有する化合物を溶解するための溶剤組成物であって、シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd(Z))を含む溶剤組成物(トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd(E))を含まない)にも関する(第2の溶剤組成物ともいう)。
PFPE基を有する化合物は、本開示の組成物において、後述するPFPE基を有する化合物と同様である。また、本開示の第2の溶剤組成物は、本溶剤組成物が含んでいても良い他の有機溶剤、溶剤以外の成分を含んでいても良い。好ましい含有量は、本溶剤組成物における記載と同様である。
【0045】
本溶剤組成物に含まれる他の有機溶剤は、溶剤組成物全量に対して、100質量%未満であり、90質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよく、70質量%以下であってもよく、60質量%以下であってもよく、50質量%以下であってもよく、40質量%以下であってもよく、30質量%以下であってもよく、20質量%以下であってもよく、10質量%以下であってもよく、5質量%以下0質量%超であってもよい。
【0046】
本溶剤組成物において、溶剤組成物の全量に対してHCFO-1233zdが80質量%以上含まれる場合、HCFO-1233zd(Z)以外の上記他の有機溶剤は、溶剤組成物の全量に対して、20質量%以下であればよく、10質量%以下であっても良く、5質量%以下0質量%超であっても良い。
【0047】
<溶剤以外の成分>
本溶剤組成物には、上記溶剤以外に、安定剤、難燃剤、界面活性剤、金属不動態化剤、防錆剤、および増粘剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分をさらに含んでいてもよい。
【0048】
(安定剤)
本溶剤組成物には、安定剤が含まれてもよい。安定剤が含まれることで、例えば、熱安定性、耐酸化性等を向上させることができる。例えば、本溶剤組成物において、安定剤は10質量%以下、3質量%以下、1質量%以下、0.1質量%以下含まれてもよい。この安定剤としては、例えば、ニトロ化合物、エポキシ化合物、フェノール類、イミダゾール類、アミン類、不飽和炭化水素類等が挙げられるが、これらに限定されない。また、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
ニトロ化合物としては、例えば、脂肪族系ニトロ化合物、芳香族系ニトロ化合物が挙げられる。脂肪族系ニトロ化合物としては、例えば、ニトロメタン、ニトロエタン、1-ニトロプロパン、2-ニトロプロパン等が挙げられる。芳香族系ニトロ化合物としては、例えば、ニトロベンゼン、o-、m-又はp-ジニトロベンゼン、トリニトロベンゼン、o-、m-又はp-ニトロトルエン、o-、m-又はp-エチルニトロベンゼン、2,3-、2,4-、2,5-、2,6-、3,4-又は3,5-ジメチルニトロベンゼン、o、m-又はp-ニトロアセトフェノン、o-、m-又はp-ニトロフェノール、o-、m-又はp-ニトロアニソール等が挙げられる。
【0050】
エポキシ化合物としては、例えばエチレンオキサイド、1,2-ブチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、スチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、グリシドール、エピクロルヒドリン、グリシジルメタアクリレート、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル等のモノエポキシ系化合物、ジエポキシブタン、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントルグリシジルエーテル等のポリエポキシ系化合物等が挙げられる。
【0051】
フェノール類としては、例えば、フェノール性水酸基とともに、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、ハロゲン等各種の置換基を含み得る芳香族化合物が挙げられる。このような芳香族化合物としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、チモール、p-t-ブチルフェノール、o-メトキシフェノール、m-メトキシフェノール、p-メトキシフェノール、オイゲノール、イソオイゲノール、ブチルヒドロキシアニソール、フェノール、キシレノール等の1価のフェノールあるいはt-ブチルカテコール、2,5-ジ-t-アミノハイドロキノン、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン等の2価のフェノール等が挙げられる。
【0052】
イミダゾール類としては、炭素数1~18のアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基をN位の置換基とするイミダゾール類が挙げられる。例えば、1-メチルイミダゾール、1-n-ブチルイミダゾール、1-フェニルイミダゾール、1-ベンジルイミダゾール、1-(β-オキシエチル)イミダゾール、1-メチル-2-プロピルイミダゾール、1-メチル-2-イソブチルイミダゾール、1-n-ブチル-2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1,4-ジメチルイミダゾール、1,5-ジメチルイミダゾール、1,2,5-トリメチルイミダゾール、1,4,5-トリメチルイミダゾール、1-エチル-2-メチルイミダゾール等が挙げられる。
【0053】
アミン類としては、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソブチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジアリルアミン、トリエチルアミン、N-メチルアニリン、ピリジン、モルホリン、N-メチルモルホリン、トリアリルアミン、アリルアミン、α―メチルベンジルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ジペンチルアミン、トリペンチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、アニリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ベンジルアミン、ジベンジルアミン、ジフェニルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン等が挙げられる。
【0054】
不飽和炭化水素類としては、α-メチルスチレン、p-イソプロペニルトルエン、イソプレン類、プロパジエン類、テルペン類等が挙げられる。
【0055】
(難燃剤)
本溶剤組成物には、難燃剤が含まれてもよい。難燃剤が含まれることで、難燃性を向上させることができる。例えば、本溶剤組成物において、難燃剤は3質量%以下、1質量%以下、0.1質量%以下含まれてもよい。このような難燃剤としては、ホスフェート類、ハロゲン化芳香族化合物、フッ素化ヨードカーボン、フッ素化ブロモカーボン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
(界面活性剤)
本溶剤組成物には、界面活性剤が含まれてもよい。界面活性剤が含まれることで、例えば、洗浄力、界面作用等を向上させることができる。例えば、本溶剤組成物において、界面活性剤は3質量%以下、1質量%以下、0.1質量%以下含まれてもよい。界面活性剤としては、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート等のソルビタン脂肪族エステル類;ポリオキシエチレンのソルビットテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンモノラウレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類;ポリオキシエチレンオレイン酸アミド等のポリオキシエチレンアルキルアミン脂肪酸アミド類等のノニオン系界面活性剤が挙げられる。
【0057】
(金属不動態化剤)
本溶剤組成物には、金属不動態化剤が含まれてもよい。例えば、本溶剤組成物において、金属不動態化剤は3質量%以下、1質量%以下、0.1質量%以下含まれてもよい。
【0058】
(防錆剤)
本溶剤組成物には、防錆剤が含まれてもよい。例えば、本溶剤組成物において、防錆剤は3質量%以下、1質量%以下、0.1質量%以下含まれてもよい。
【0059】
(増粘剤)
本溶剤組成物には、増粘剤が含まれてもよい。例えば、本溶剤組成物において、増粘剤は3質量%以下、1質量%以下、0.1質量%以下含まれてもよい。
【0060】
本開示の溶剤組成物は、HCFO-1233zd(E)の合成過程で使用される原料資材や合成の副生成物、不純物、生成物に不可避的に随伴する水分などが含まれてもよい。例えば、ジクロロトリフルオロプロペン(HCFO-1223)、クロロテトラフルオロプロパン(HCFC-244)、クロロペンタフルオロプロパン(HCFC-235)、クロロテトラフルオロプロペン(HCFO-1224)、ジクロロテトラフルオロプロペン(HCFO-1214)、ペンタフルオロプロパン(HFC-245)、テトラフルオロプロペン(HFO-1234)、トリフルオロプロピン、クロロジフルオロプロピン、水、ヘキサフルオロプロペン、テトラフルオロエチレン、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)等が挙げられる。これらの成分に幾何異性体や位置異性体が存在する場合には、いずれかの異性体の単成分、あるいは混合物であってもよい。これらの量は、溶剤組成物の全量に対して、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下が特に好ましい。
【0061】
<溶剤組成物の例示>
本溶剤組成物は、例えば、以下の組成が挙げられるが、この限りではない。
本溶剤組成物100質量%に対し、10質量%以上の1233zd(E)と、80質量%以下の1233zd(Z)と、0質量%又は0質量%超10質量%以下のその他の成分とを含む組成物;20質量%以上の1233zd(E)と、70質量%以下の1233zd(Z)と、0質量%又は0質量%超10質量%以下のその他の成分とを含む組成物;30質量%以上の1233zd(E)と、60質量%以下の1233zd(Z)と、0質量%又は0質量%超10質量%以下のその他の成分とを含む組成物;40質量%以上の1233zd(E)と、50質量%以下の1233zd(Z)と、0質量%又は0質量%超10質量%以下のその他の成分とを含む組成物;50質量%以上の1233zd(E)と、40質量%以下の1233zd(Z)と、0質量%又は0質量%超10質量%以下のその他の成分とを含む組成物;60質量%以上の1233zd(E)と、30質量%以下の1233zd(Z)と、0質量%又は0質量%超10質量%以下のその他の成分とを含む組成物;70質量%以上の1233zd(E)と、20質量%以下の1233zd(Z)と、0質量%又は0質量%超10質量%以下のその他の成分とを含む組成物;80質量%以上の1233zd(E)と、10質量%以下の1233zd(Z)と、0質量%又は0質量%超10質量%以下のその他の成分とを含む組成物;90質量%以上の1233zd(E)を含む組成物;95質量%以上の1233zd(E)を含む組成物;100質量%の1233zd(E)を含む組成物。
【0062】
なお、溶剤組成物100質量%に対し、1233zd(E)を含まず、90質量%以上の1233zd(Z)を含む組成物;1233zd(E)を含まず、95質量%以上の1233zd(Z)を含む組成物;100質量%の1233zd(Z)を含む組成物は、本溶剤組成物には含まないが、本溶剤組成物と同様にPFPE基を有する化合物に対して、優れた溶解性を示す。
【0063】
<PFPE基を有する化合物>
本溶剤組成物で溶解するPFPE基を有する化合物は、オキシパーフルオロアルキレン基を繰り返し単位として有する。オキシパーフルオロアルキレン基としては、炭素数1~3の短鎖のオキシパーフルオロアルキレン基が好ましく、-OCF(CF3)CF2-、-CF2CF2CF2O-、-CF(CF3)CF2O-、-OCF2CF2-及び-OCF2-からなる群より選択される少なくとも一種のオキシパーフルオロアルキレン基を繰り返し単位として有することが好ましい。
【0064】
また、PFPE基を有する化合物は、末端が官能基等で修飾されていないことが好ましい。すなわち、オキシパーフルオロアルキレン基を繰り返し単位として有するパーフルオロポリエーテル(以下、「PFPE」ともいう)であることが好ましい。
【0065】
本溶剤組成物で溶解するPFPE基を有する化合物としては、例えば、以下の一般式(1)~(4)で表される化合物が挙げられる。
【0066】
【0067】
一般式(1)中、aおよびbは1以上の整数であり、a+b=8~120を満たす。
【0068】
【0069】
一般式(2)中、cおよびdは1以上の整数であり、c+d=25~350を満たす。
【0070】
【0071】
一般式(3)中、eは10~80の整数である。
【0072】
【0073】
一般式(4)中、fは10~80の整数である。
【0074】
なお、複数種類のオキシパーフルオロアルキレン基を繰り返し単位として有する一般式(1)及び一般式(2)で表される化合物は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。
【0075】
フッ素系潤滑剤として一般的に用いられているパーフルオロポリエーテル、例えば、後述する商業的製品を構成する化合物は、上記一般式(1)~(4)の少なくともいずれか1つで表される構造を満たすものである。
【0076】
(動粘度)
本開示における動粘度は、PFPE基を有する化合物の動粘度を示す。PFPE基を有する化合物は、後述する商業的製品の他に、PFPE基を有する化合物を含む溶液から得られるPFPE基を有する化合物も該当する。例えば、PFPE基を有する化合物が溶剤に溶解または分散した「溶液」として存在する場合、溶液を単蒸留に処し、溶剤を留去した後、蒸留釜に残った残渣が「PFPE基を有する化合物」となる。溶剤が十分に蒸発する条件であればよく、具体的には、常圧下、溶液を約100℃まで加熱し、溶剤が留出しなくなるまで単蒸留を行う。溶剤が留去しやすくなるよう、減圧下、溶液を約100℃まで加熱することがより好ましい。溶剤が留去されたか否かは、NMRで溶剤のピークの有無により、確認することができる。
このようにして得られたPFPE基を有する化合物の動粘度の測定は、測定温度20℃としてウベローデ型動粘度計(柴田科学株式会社製)を用いてJIS K2283に基づき実施することができる。
フッ素系潤滑剤中、PFPE基を有する化合物の含有量が99%以上の場合、フッ素潤滑剤の動粘度を、化合物の動粘度をみなした。
【0077】
PFPE基を有する化合物の20℃における動粘度は、0[mm2/s]超であることが好ましく、5[mm2/s]以上であってもよく、10[mm2/s]以上であってもよい。また、上限としては、溶剤組成物への溶解性の観点から、1600[mm2/s]未満であることが好ましく、1540[mm2/s]未満であってもよく、1000[mm2/s]未満であってもよく、600[mm2/s]未満であってもよく、522[mm2/s]未満であってもよく、300[mm2/s]未満であってもよく、250[mm2/s]未満であってもよく、160[mm2/s]未満であってもよく、150[mm2/s]未満であってもよく、100[mm2/s]未満であってもよく、70[mm2/s]未満であってもよい。
【0078】
(数平均分子量)
PFPE基を有する化合物の数平均分子量としては、例えば、1500以上であってもよく、2000以上であってもよく、3000以上であってもよい。また、上限としては、溶剤組成物への溶解性の観点から、例えば、10000以下が好ましく、9000以下であってもよく、8000以下であってもよい。
【0079】
ここで、数平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)におけるポリスチレン換算の数平均分子量を指す。
【0080】
また、本溶剤組成物で溶解するPFPE基を有する化合物を含む製品としては、例えば、以下の製品が挙げられるがこれらに限られない:ソルベイ スペシャリティポリマー社製のFomblin(登録商標)Yシリーズ、Fomblin(登録商標)Mシリーズ、Fomblin(登録商標)Wシリーズ、Fomblin(登録商標)Zシリーズ;ダイキン工業社製のDEMNUM(登録商標)シリーズ;デュポン社製のKrytox(登録商標)シリーズ。
たとえば、製品名「Fomblin(登録商標)Y H VAC06/6」、「Fomblin(登録商標)Y H VAC25/6E」、「Fomblin(登録商標)Y25」、「Fomblin(登録商標)M15」(ソルベイ スペシャリティポリマー社製)、「DEMNUM(登録商標)S-65」(ダイキン工業社製)、「Krytox(登録商標)GPL105」、「Krytox(登録商標)143AD」(デュポン社製)が挙げられる。
【0081】
パーフルオロポリエーテルを含有するフッ素系潤滑剤は、パーフルオロポリエーテルとともに添加剤(例えば防錆剤等)が含まれたり、潤滑性向上や粘度調整のためにポリテトラフルオロエチレン樹脂パウダー等のフッ素系固体潤滑剤と混合して使用されたりすることもある。本溶剤組成物は、PFPE基を有する化合物を溶解するとともに、このような成分が存在する場合にも有用である。したがって、本開示の溶剤組成物は、PFPE基を有する化合物が、パーフルオロポリエーテルとともにこのような成分を含有する組成物であっても適用できる。
【0082】
本溶剤組成物の一実施形態として、以下の3つの態様を好ましく挙げることが出来る。
【0083】
<態様1>
20℃における動粘度が0[mm2/s]超150[mm2/s]未満であるPFPE基を有する化合物を溶解するための溶剤組成物であって、
溶剤組成物全量に対して、1233zdを80質量%以上含み、
1233zdの総量に対して1233zd(E)を0質量%超含む溶剤組成物。
【0084】
PFPE基を有する化合物の動粘度は、0[mm2/s]超150[mm2/s]未満であればよく、5[mm2/s]以上100[mm2/s]未満であってもよく、10[mm2/s]以上70[mm2/s]未満であってもよい。
上記動粘度を有するPFPE基を有する化合物としては、炭素数1~3の短鎖のオキシパーフルオロアルキレン基を繰り返し単位として有するパーフルオロポリエーテルが好ましく、上記一般式(1)で表される化合物であることがより好ましい。
【0085】
<態様2>
20℃における動粘度が0[mm2/s]超1540[mm2/s]未満であるPFPE基を有する化合物を溶解するための溶剤組成物であって、
溶剤組成物全量に対して、1233zdを80質量%以上含み、
1233zdの総量に対して1233zd(E)を70質量%超含む溶剤組成物。
【0086】
PFPE基を有する化合物の動粘度は、0[mm2/s]超1540[mm2/s]未満であればよく、5[mm2/s]以上1000[mm2/s]未満であってもよく、10[mm2/s]以上600[mm2/s]未満であってもよい。
上記動粘度を有するPFPE基を有する化合物としては、炭素数1~3の短鎖のオキシパーフルオロアルキレン基を繰り返し単位として有するパーフルオロポリエーテルが好ましく、上記一般式(1)~(4)のいずれかで表される化合物がより好ましい。
【0087】
<態様3>
20℃における動粘度が0[mm2/s]超1600[mm2/s]未満であるPFPE基を有する化合物を溶解するための溶剤組成物であって、
溶剤組成物全量に対して、1233zdを80質量%以上含み、
1233zdの総量に対して1233zd(E)を90質量%超含む溶剤組成物。
【0088】
PFPE基を有する化合物の動粘度は、0[mm2/s]超1600[mm2/s]未満であればよく、5[mm2/s]以上522[mm2/s]未満であってもよく、10[mm2/s]以上300[mm2/s]未満であってもよく、160[mm2/s]未満であってもよい。
上記動粘度を有するPFPE基を有する化合物としては、炭素数1~3の短鎖のオキシパーフルオロアルキレン基を繰り返し単位として有するパーフルオロポリエーテルが好ましく、上記一般式(1)~(4)のいずれかで表される化合物がより好ましい。
【0089】
なお、本溶剤組成物には含まれないが、20℃における動粘度が0[mm2/s]超150[mm2/s]未満であるPFPE基を有する化合物を溶解するための溶剤組成物であって、
溶剤組成物全量に対して、1233zdを80質量%以上含み、
1233zdの総量に対して1233zd(E)を含まない溶剤組成物も、PFPE基を有する化合物に対する優れた溶解性を示す。
【0090】
PFPE基を有する化合物の動粘度は、0[mm2/s]超150[mm2/s]未満であればよく、5[mm2/s]以上100[mm2/s]未満であってもよく、10[mm2/s]以上70[mm2/s]未満であってもよい。
上記動粘度を有するPFPE基を有する化合物としては、炭素数1~3の短鎖のオキシパーフルオロアルキレン基を繰り返し単位として有するパーフルオロポリエーテルが好ましく、上記一般式(1)で表される化合物であることがより好ましい。
【0091】
本開示は、上記溶剤組成物の用途にも関する。用途について以下に記載する。
【0092】
[2.本溶剤組成物と、PFPE基を有する化合物とを含む、溶液]
本溶剤組成物は、PFPE基を有する化合物を溶解させて、本溶剤組成物とPFPE基を有する化合物とを含む溶液とすることができる。この溶液は、例えば、後述のPFPE基を有する化合物を含む塗膜を形成するための溶液(以下、「塗膜形成用溶剤組成物」ともいう)として用いることができる。
【0093】
HCFO-1233zd(E)を含む本溶剤組成物は、蒸発速度が大きく、塗布物品から速やかに蒸発させることができるため、塗膜付物品の製造に好適である。本溶剤組成物100質量%に対し、HCFO-1233zd(E)が0質量%超、且つ、HCFO-1233zdが80質量%以上であることが好ましく、HCFO-1233zd(E)が0質量%超、且つ、HCFO-1233zdが90質量%以上含まれる場合が特に好適である。
【0094】
本溶剤組成物とPFPE基を有する化合物とを含む溶液として、具体的には、上記態様1に記載の溶剤組成物に20℃における動粘度が0[mm2/s]超150[mm2/s]未満であるPFPE基を有する化合物を溶解させた溶液、上記態様2に記載の溶剤組成物に20℃における動粘度が0[mm2/s]超1540[mm2/s]未満であるPFPE基を有する化合物を溶解させた溶液、上記態様3に記載の溶剤組成物に20℃における動粘度が0[mm2/s]超1600[mm2/s]未満であるPFPE基を有する化合物を溶解させた溶液、等が挙げられる。
【0095】
PFPE基を有する化合物を本溶剤組成物に溶解させた溶液は、溶解直後にとどまらず、長期(例えば3日以上、10日以上)にわたって均一性を示し、溶液状態での安定性(溶解安定性)に優れる。このため、PFPE基を有する化合物を含む塗膜を物品表面に形成するための溶液(塗布用溶液)として安定的に供給することができる。
また、本溶剤組成物を洗浄剤として用いる場合、物品からPFPE基を有する化合物を除去する際に、PFPE基を有する化合物と本溶剤組成物との溶液(以下、「洗浄工程後の溶液」ともいう)が形成される。本溶剤組成物のリサイクルのために、この洗浄工程後の溶液は回収された後に蒸留等の精製操作が施され、本溶剤組成物が回収される。このリサイクルは、一般的な方法においては、洗浄工程とは別途に行われるため、回収から精製操作までに長時間要することもある。この間、本洗浄工程後の溶液においては、PFPE基を有する化合物と本溶剤組成物とが均一性を示すため、PFPE基を有する化合物が回収容器に粘着したり、精製の妨げになることが少なく、本溶剤組成物の効率的なリサイクルが可能となる。
【0096】
本溶剤組成物と、PFPE基を有する化合物とを含む、溶液(100質量%)中のPFPE基を有する化合物の含有量は、0.01~50質量%が好ましく、0.05~30質量%がより好ましく、0.1~20質量%が特に好ましいが、これらの含有量に限定されない。
【0097】
本溶剤組成物と、PFPE基を有する化合物とを含む、溶液(100質量%)中に、PFPE基を有する化合物以外の成分が含まれても良い。含まれても良い化合物として、PFPE基を有する化合物を製造する際に生じる低分子量体、高分子量体の他に、ポリテトラフルオロエチレン樹脂パウダー等のフッ素系固体潤滑剤が挙げられる。これらの中から一つを含んでいてもよく、いくつか含んでいてもよく、それらの含有量は合計で、3質量%以下、好ましくは、1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下含まれてもよい。
【0098】
[3.洗浄剤、および物品の洗浄方法]
【0099】
本開示の洗浄剤は、本溶剤組成物を含む。
本溶剤組成物は、溶剤としての性能に優れるため、PFPE基を有する化合物を除去するための洗浄剤として使用できる。
【0100】
本開示の物品の洗浄方法は、本開示の洗浄剤を用いて、PFPE基を有する化合物が付着した物品から前記PFPE基を有する化合物を除去する、物品の洗浄方法である。
【0101】
洗浄剤と除去するPFPE基を有する化合物の具体的な組み合わせとしては、上記態様1に記載の溶剤組成物を含む洗浄剤と20℃における動粘度が0[mm2/s]超150[mm2/s]未満であるPFPE基を有する化合物、上記態様2に記載の溶剤組成物を含む洗浄剤と20℃における動粘度が0[mm2/s]超1540[mm2/s]未満であるPFPE基を有する化合物、上記態様3に記載の溶剤組成物を含む洗浄剤と20℃における動粘度が0[mm2/s]超1600[mm2/s]未満であるPFPE基を有する化合物、等が挙げられる。
【0102】
本開示の物品の洗浄方法は、PFPE基を有する化合物が付着した物品に対して本開示の洗浄剤を接触させること以外は特に限定されない。本開示の洗浄剤とPFPE基を有する化合物が付着した物品とを接触させることで、当該物品からPFPE基を有する化合物を除去することができる。この接触としては、例えば、手拭き洗浄、浸漬洗浄、スプレー洗浄、浸漬揺動洗浄、浸漬超音波洗浄、煮沸洗浄、蒸気洗浄、これらを組み合わせ等による方法が挙げられるが、この限りではない。
【0103】
この物品としては、金属、樹脂、ゴム、繊維、ガラス、セラミックス、これらの複合材料からなる材質のものが挙げられる。複合材料としては、金属と樹脂の積層体等が挙げられる。この物品は、具体的には、精密機械部品、電子材料(プリント基板、液晶表示器、磁気記録部品、半導体材料等)、樹脂加工部品、光学レンズ、繊維製品、医療器具等が挙げられるが、これらに限定されない。
特に、本溶剤組成物を含む洗浄剤は、PC(ポリカーボネート)、アクリル樹脂、ABS樹脂等の各種樹脂への悪影響(例えば、これらの樹脂の変質、失透)が少ないため、このような樹脂を物品の材料として用いる実施形態において特に有効である。
【0104】
本開示の洗浄剤は、本開示の効果を損なわない範囲において、本溶剤組成物以外の成分を含んでいてもよい。
【0105】
本開示の洗浄剤は、本溶剤組成物を洗浄剤全量に対して、80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%、すなわち本開示の洗浄剤が本溶剤組成物のみからなることが好ましい。
【0106】
[4.塗膜形成用溶剤組成物、塗膜付き基材の製造方法]
本溶剤組成物は、PFPE基を有する化合物を含む塗膜を形成するための溶剤としても使用できる。
【0107】
本開示のPFPE基を有する化合物を含む塗膜を形成するための溶剤組成物(以下、塗膜形成用溶剤組成物ともいう)は、本溶剤組成物およびPFPE基を有する化合物を含む。
【0108】
本溶剤組成物とPFPE基を有する化合物とを含む塗膜形成用溶剤組成物として、具体的には、上記態様1に記載の溶剤組成物と20℃における動粘度が0[mm2/s]超150[mm2/s]未満であるPFPE基を有する化合物とを含む塗膜形成用溶剤組成物、上記態様2に記載の溶剤組成物と20℃における動粘度が0[mm2/s]超1540[mm2/s]未満であるPFPE基を有する化合物とを含む塗膜形成用溶剤組成物、上記態様3に記載の溶剤組成物と20℃における動粘度が0[mm2/s]超1600[mm2/s]未満であるPFPE基を有する化合物とを含む塗膜形成用溶剤組成物、等が挙げられる。
【0109】
本開示の塗膜付き基材の製造方法は、本開示の塗膜形成用溶剤組成物を基材の表面に塗布した後、本溶剤組成物の溶剤を蒸発除去して、PFPE基を有する化合物を含む塗膜を形成する。
【0110】
本開示の塗膜形成用溶剤組成物は、通常、本溶液組成物にPFPE基を有する化合物を溶解した溶液状の組成物として調製される。塗膜形成用溶剤組成物の調製方法は、PFPE基を有する化合物を所定の割合で本溶剤組成物に均一に溶解できる方法であれば特に制限されない。本開示の塗膜形成用溶剤組成物は基本的にはPFPE基を有する化合物と本溶剤組成物のみで構成される。
【0111】
本開示の塗膜形成用溶剤組成物(100質量%)中のPFPE基を有する化合物の含有量は、0.01~50質量%が好ましく、0.05~30質量%がより好ましく、0.1~20質量%が特に好ましい。PFPE基を有する化合物の含有量が上記範囲内であれば、塗膜形成用溶剤組成物を塗布したときの塗布膜の膜厚、および溶剤の蒸発除去(以下、乾燥ともいう。)後のPFPE基を有する化合物を含む塗膜の厚さを適正範囲に調整しやすい。
【0112】
本開示の塗膜形成用溶剤組成物を基材表面に塗布して基材表面に塗膜形成用溶剤組成物の膜を形成し、次いで、基材表面に形成された塗膜形成用溶剤組成物の膜から溶剤を蒸発除去することにより、基材表面にPFPE基を有する化合物を含む塗膜が形成される。
【0113】
本開示の塗膜形成用溶剤組成物の塗布方法としては、たとえば、刷毛による塗布、スプレーによる塗布、物品を塗膜形成用溶剤組成物に浸漬することによる塗布、塗膜形成用溶剤組成物を吸い上げることによりチューブや注射針の内壁に塗膜形成用溶剤組成物を接触させる塗布方法等が挙げられる。
【0114】
塗膜形成用溶剤組成物から溶剤を蒸発除去する方法としては、公知の乾燥方法が挙げられる。乾燥方法としては、たとえば、風乾、加熱による乾燥等が挙げられる。乾燥温度は、20~100℃が好ましい。
【0115】
本開示の塗膜付き基材の製造方法により、基材表面にPFPE基を有する化合物を含む塗膜を形成した塗膜付き基材を製造することができる。塗膜形成用溶剤組成物が塗布される基材としては、金属、樹脂、ゴム、ガラス、セラミックス等、様々な材料からなる基材が採用される。
【0116】
また、本開示の塗膜形成用溶剤組成物は、樹脂材料を含む物品に対して影響なく塗布することができる。すなわち、本開示の塗膜形成用溶剤組成物に接触する基材表面の少なくとも一部の材料が樹脂材料であることも好適な態様の一つとして挙げられる。
【0117】
塗膜付き基材の具体例としては、プラスチック材、ゴム材、金属材、ガラス材、実装回収板等への防湿性や防汚性を付与するために用いられた機器が挙げられる。
【0118】
本開示の塗膜形成用組成物は、樹脂材料に対する影響が小さいため、樹脂材料にPFPE基を有する化合物の塗膜を形成する際に特に好適に用いうる。
【0119】
[5.溶剤組成物とPFPE基を有する化合物とを含む溶液のエアゾール]
本開示は、本開示の溶液(本溶剤組成物とPFPE基を有する化合物とを含む溶液)と、噴射剤とが充填されたエアゾールにも関する。
【0120】
本開示の溶液は、噴射剤とともに、あるいは噴射剤とは別に、容器に充填された、エアゾールとして用いることもできる。
【0121】
エアゾールには溶質が充填されてもよい。溶質は、本開示の溶液に溶解させてエアゾールに充填してもよいし、本開示の溶液や噴射剤とは別に、容器に充填されてもよい。
【0122】
噴射剤としては液化ガスおよび圧縮ガスが挙げられる。エアゾールに用いる液化ガスとしては、ジメチルエーテル(DME)、液化石油ガス(LPG)、プロパン、ブタン、イソブタン、1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)等が挙げられる。圧縮ガスとしては、窒素、二酸化炭素、亜酸化窒素等が挙げられる。また、噴射剤には空気が含まれたり、圧縮空気が用いられることもある。噴射剤は、1種単独あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよく、液化ガスおよび、圧縮ガスのどちらを用いてもよく、液化ガスと圧縮ガスとを組合せて用いてもよい。
【0123】
本開示で使用する噴射剤は0℃における圧力が大気圧(1.013×105Pa)以上であることが好ましい。
【0124】
エアゾールに含まれる噴射剤は、噴霧器に封入した際の内部の圧力が35℃において0.2~1MPaであることが好ましい。
【0125】
[6.溶剤組成物を含む洗浄剤のエアゾール]
本開示は、本溶剤組成物を含む洗浄剤と、噴射剤とが充填されたエアゾールにも関する。
【0126】
本溶剤組成物を含む洗浄剤は、噴射剤とともに、あるいは噴射剤とは別に、容器に充填された、エアゾールとして用いることもできる。
【0127】
エアゾールには溶質が充填されてもよい。溶質は、本溶剤組成物を含む洗浄剤に溶解させてエアゾールに充填してもよいし、本溶剤組成物を含む洗浄剤や噴射剤とは別に、容器に充填されてもよい。
【0128】
噴射剤は、前述の噴射剤と同様である。
【実施例0129】
以下、実施例により本開示に係る実施形態を詳細に説明するが、本開示の実施形態は実施例に限定されるものではない。
【0130】
本実施例において、PFPE基を有する化合物として、以下に示す市販のPFPE#1~PFPE#6のいずれかを使用した。
【0131】
(PFPE#1)
・Fomblin(登録商標)Y H VAC06/6(ソルベイ スペシャリティポリマー社製)
・20℃における動粘度:64[mm2/s]
・数平均分子量:1800
なお、PFPE#1を構成する化合物は、上述の一般式(1)を満たす。
【0132】
(PFPE#2)
・Fomblin(登録商標)Y H VAC25/6E(ソルベイ スペシャリティポリマー社製)
・20℃における動粘度276[mm2/s]
・数平均分子量:3300
なお、PFPE#2を構成する化合物は、上述の一般式(1)を満たす。
【0133】
(PFPE#3)
・Fomblin(登録商標)Y25(ソルベイ スペシャリティポリマー社製)
・20℃における動粘度250[mm2/s]
・数平均分子量:3700
なお、PFPE#3を構成する化合物は、上述の一般式(1)を満たす。
【0134】
(PFPE#4)
・Fomblin(登録商標)M15(ソルベイ スペシャリティポリマー社製)
・20℃における動粘度150[mm2/s]
・数平均分子量:9700
なお、PFPE#4を構成する化合物は、上述の一般式(2)を満たす。
【0135】
(PFPE#5)
・DEMNUM(登録商標)S-65(ダイキン工業社製)
・20℃における動粘度150[mm2/s]
・数平均分子量:4500
なお、PFPE#5を構成する化合物は、上述の一般式(4)を満たす。
【0136】
(PFPE#6)
・Krytox(登録商標)GPL105(デュポン社製)
・20℃における動粘度522[mm2/s]
なお、PFPE#6を構成する化合物は、上述の一般式(3)を満たす。
【0137】
(PFPE#7)
・Krytox(登録商標)143AD(デュポン社製)
・20℃における動粘度1540[mm2/s]
・数平均分子量:7480
なお、PFPE#7を構成する化合物は、上述の一般式(3)を満たす。
【0138】
<1.PFPE溶液の溶解性試験>
[例1~11]
(溶剤組成物の調製)
20℃の条件下において、HCFO-1233zd(E)/HCFO-1233zd(Z)を表1に示す質量比にて混合し、組成比の異なる溶剤組成物1~11を調製した。HCFO-1233zd(E)は、量り取り易くするために予め約5℃に冷却したものを用いた。溶剤組成物1はHCFO-1233zd(Z)単独の溶剤組成物であり、溶剤組成物2~10はHCFO-1233zd(E)/HCFO-1233zd(Z)混合溶剤であり、溶剤組成物11はHCFO-1233zd(E)単独の溶剤組成物である。
なお、例1(溶剤組成物1)は参考例、例2~11(溶剤組成物2~11)は実施例である。
【0139】
(溶解性評価)
20℃の条件下において、10mL硝子製スクリュー管瓶に、量り取り易くするために予め約5℃に冷却した上記溶剤組成物1を9g入れた後に、PFPE#1を1g入れ、十分に混合した。これを密閉状態、室温(20℃)、遮光下で1時間静置し、例1-#1の評価サンプルとした。
PFPE#1をPFPE#2~#7に変更した以外は、例1-#1と同様にして、例1-#2~例1-#7の評価サンプルを得た。
さらに、溶剤組成物1を溶剤組成物2~11に変更した以外は、例1-#1~例1-#7と同様にして、例2-#1~例2-#7、例3-#1~例3-#7、例4-#1~例4-#7、例5-#1~例5-#7、例6-#1~例6-#7、例7-#1~例7-#7、例8-#1~例8-#7、例9-#1~例9-#7、例10-#1~例10-#7、及び例11-#1~例11-#7の評価サンプルを得た。
【0140】
得られた評価サンプルそれぞれの液の状態を目視で観察した。溶液が無色透明(濁りが無い)状態のものを「A」と評価し、少し濁りが生じた状態のものを「B」と評価した。「A」と「B」は許容されるものである。
その結果を表1に示す。
【0141】
なお、表1中、用いたPFPE(PEPF#1~#7)の下段に記載されている数値は、各化合物の20℃における動粘度である。
【0142】
【0143】
表1中に「A」で示される溶剤組成物とPFPEの組み合わせにおいては、溶剤組成物がPFPEを十分に溶解し、いずれも無色透明であった。
【0144】
また、表1中に「A」で示したPFPEと溶剤組成物の組み合わせ全てにおいて、25℃下3日間保存した結果、分離や着色が見られず、溶液は安定性に問題がなかった。
また、表1中に「B」で示したPFPEと溶剤組成物の組み合わせ全てにおいて、25℃下3日間保存した結果、溶液の安定性は許容できる範囲であった。
【0145】
参考例である溶剤組成物1では、例1-#1に示すように、PFPE基を含む化合物を溶解させることができた。溶剤組成物1は、PFPE#1を溶解するための溶剤組成物として機能しており、溶剤組成物1とPFPE#1とを含む溶液が得られている。
実施例である溶剤組成物2~11においても、例2-#1、例3-#1、・・・例7-#1に示すように、PFPE基を含む化合物を溶解させることができた。また、溶剤組成物中のHCFO-1233zd(E)の質量比が大きくなるにしたがって、より高動粘度のPFPE基を含む化合物をも溶解できることが分かった。溶剤組成物2~11では、表1中に「A」で示される溶剤組成物とPFPE基を含む化合物の組み合わせにおいて、該溶剤組成物が該PFPE基を含む化合物を溶解するための溶剤組成物として機能しており、両者を含む溶液が得られている。
【0146】
<2.塗布性、乾燥性評価試験>
例1-#1のPFPEと溶剤組成物の組み合わせ(PFPE#1とHCFO-1233zd(Z))において、PFPEの濃度が0.5質量%であるPFPE溶液(例1-#1-2の評価サンプル)を調製した。このPFPE溶液をSUS316製テストピース上に塗布し、溶剤を風乾することにより、SUS316製テストピース表面に膜厚2nmのPFPE塗膜を形成した。得られた塗膜の状態を目視で確認した。塗膜にムラが見られず、塗布性が良好であった。
【0147】
例1-#1のPFPEと溶剤組成物の組み合わせに変えて、表1中に「A」で示される他の溶剤組成物とPFPE基を含む化合物の組み合わせ、すなわち、例2-PFPE#1、例3-PFPE#1、例4-PFPE#1、例5-PFPE#1、例6-PFPE#1~例6-PFPE#3、例7-PFPE#1~PFPE#3、例8-PFPE#1~PFPE#3、例8-PFPE#5、例9-PFPE#1~PFPE#6、例10―PFPE#1~PFPE#6、及び例11-PFPE#1~PFPE#7のPFPEと溶剤組成物の組み合わせを用いたこと以外は例1-#1-2と同様の方法で塗布性、乾燥性評価を実施した結果、例1-#1-2と同様に、塗膜にムラが見られず、塗布性が良好であった。
【0148】
<3.洗浄性試験>
300mL硝子製ビーカーにPFPE#2を200g入れた。次に、SUS316製テストピース(30mm×15mm×2mm)1枚をPFPE#2中に完全に浸漬させた。このテストピースをPFPE#2中から取り出して目視で確認したところ、テストピース表面にはPFPE#2が付着していた。
その後、500mL硝子製ビーカーに溶剤組成物6(HCFO-1233zd(E)/HCFO-1233zd(Z)=50/50(質量比))を200g入れ、前記PFPE#2が付着したSUSテストピースを完全に浸漬するように入れ、20℃2分間超音波洗浄(超音波発振器:Alex Corporation社製 ネオソニック、出力100W、周波数28kHz)した。その後、テストピースを取り出し、80℃で5分間乾燥した後、テストピースの表面を目視観察したところ、テストピース表面に汚れは確認されなかった。
なお、PFPE#2と上記溶剤組成物6の組み合わせは、例6-#2において用いたPFPE基を含む化合物と溶剤組成物の組み合わせである。
【0149】
上記試験結果により、本溶剤組成物の良好なPFPE基含有化合物の洗浄性が示された。