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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158665
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】空洞の補修方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20231024BHJP
【FI】
E02D3/12 101
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066624
(22)【出願日】2022-04-13
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年2月9日に、国土交通省国土技術政策総合研究所長が、国土交通省国土技術政策総合研究所横須賀庁舎Webサイト(https://www.ysk.nilim.go.jp/)において、坪川将丈、足立雅樹、蛭川愛志、今真吾、川口太および伊藤茂雄が発明した発泡ウレタンによる空港プレストレストコンクリート版下面の空洞充填に関する発明を公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年2月14日に、国土交通省国土技術政策総合研究所長が、国土交通省国土技術政策総合研究所Webサイト(http://www.nilim.go.jp/)において、坪川将丈、足立雅樹、蛭川愛志、今真吾、川口太および伊藤茂雄が発明した発泡ウレタンによる空港プレストレストコンクリート版下面の空洞充填に関する発明を公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】501198039
【氏名又は名称】国土交通省国土技術政策総合研究所長
(71)【出願人】
【識別番号】390001993
【氏名又は名称】みらい建設工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】308023446
【氏名又は名称】メインマーク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】坪川 将丈
(72)【発明者】
【氏名】足立 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】蛭川 愛志
(72)【発明者】
【氏名】今 真吾
(72)【発明者】
【氏名】川口 太
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 茂雄
【テーマコード(参考)】
2D040
【Fターム(参考)】
2D040AA06
2D040AB01
2D040CA10
2D040FA08
(57)【要約】
【課題】充填後に形成される樹脂の密度及び強度が把握できるとともに所定の樹脂の密度及び強度を担保可能な空洞の補修方法を提供する。
【解決手段】地盤上に形成された版状体1の下側に発泡ウレタン樹脂からなる樹脂充填材4を充填する空洞の補修方法であって、地盤の含水比及び空洞3の厚さを調査する調査工程と、地盤の含水比と空洞の厚さに基づいて、樹脂充填材の充填後の樹脂密度を計算する計算工程と、計算工程において算出した樹脂密度に基づいて、空洞3に充填する樹脂充填材4の量を決める充填量決定工程と、充填量決定工程で決定した量の樹脂充填材4を空洞3に充填する充填工程と、を備えることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤上に形成された版状体の下側に発泡ウレタン樹脂からなる樹脂充填材を充填する空洞の補修方法であって、
前記地盤の含水比及び空洞の厚さを調査する調査工程と、
前記地盤の含水比と空洞の厚さに基づいて、前記樹脂充填材の充填後の樹脂密度を計算する計算工程と、
前記計算工程において算出した樹脂密度に基づいて、前記空洞に充填する前記樹脂充填材の量を決める充填量決定工程と、
前記充填量決定工程で決定した量の前記樹脂充填材を前記空洞に充填する充填工程と、
を備えることを特徴とする空洞の補修方法。
【請求項2】
地盤の含水比が33%よりも高い場合、前記充填工程の前に地盤を乾燥させ、含水比が33%以下となるように地盤の含水比を調整する工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の空洞の補修方法。
【請求項3】
前記空洞に充填する前記樹脂充填材の量は、前記版状体の充填点の地表面変位が2mm上がる量に設定されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の空洞の補修方法。
【請求項4】
前記充填工程において、1mごとに前記樹脂充填材の充填を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3いずれか1項に記載の空洞の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空洞の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤沈下や地下水の影響等により舗装の表層や床版などの下に空洞が生じる現象が知られている。この空洞による床版の割れ、へこみ、または傾き等の問題を抑制するためには、空洞を裏込め材等の充填材で埋める必要がある。
【0003】
空洞に充填材を埋める施工方法としては、床版に充填孔を穿孔し、充填孔から床下に樹脂充填材を充填し、樹脂充填材の膨張力によって床版を押し上げる施工方法が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-126955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、床版が所定の高さまで上がった時点で充填を完了とする。しかし、床版の高さを上げすぎると、版状体の水勾配等に影響を与える。そのため、空港のPC床版等(以下、版状体という)の下に発生した空洞を膨張する充填材で補修する場合には、持ち上がりを最小限に抑えることが好ましい。版状体の高さを上げすぎないように空洞を補修するためには、補修前に樹脂充填材の適切な量を設定する必要がある。
【0006】
しかし、版状体と地盤との間に発生した空洞に樹脂充填材を充填する場合、樹脂充填材は、地盤に含まれる水分や、空洞の厚さの影響を受け、空洞内での実際の樹脂密度(形成樹脂密度)や強度が設計値から変化することが知られていた。具体的には、地盤に含まれる水分が多いと、充填後の樹脂密度は小さくなり、空洞の厚さによる閉塞効果の影響で、薄い空間ほど樹脂密度は大きくなる。現場の状況によって、充填後の樹脂密度及び強度が変化してしまうため、適切な樹脂充填材の量を設定することができないという問題があった。
【0007】
また、充填後の樹脂密度及び強度が把握できない場合、樹脂充填材がどの程度の範囲に広がるか判断できず、未充填箇所が発生するとともに、樹脂充填材としての強度を担保出来ないおそれがある。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、充填後に形成される樹脂の密度及び強度が把握できるとともに所定の樹脂の密度及び強度を担保可能な空洞の補修方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の空洞の補修方法は、地盤上に形成された版状体の下側に発泡ウレタン樹脂からなる樹脂充填材を充填する空洞の補修方法であって、前記地盤の含水比及び空洞の厚さを調査する調査工程と、前記地盤の含水比と空洞の厚さに基づいて、前記樹脂充填材の充填後の樹脂密度を計算する計算工程と、前記計算工程において算出した樹脂密度に基づいて、前記空洞に充填する前記樹脂充填材の量を決める充填量決定工程と、前記充填量決定工程で決定した量の前記樹脂充填材を前記空洞に充填する充填工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明者らは、地盤中の水分と空洞の厚さが発泡ウレタン樹脂の密度、一軸圧縮強さ、弾性係数(変形係数)に影響を及ぼすとともに、樹脂充填材の充填性に影響を及ぼすことを見出し、本発明を創案するに至った。本発明によれば、空洞の厚さ及び、地盤中の水分に応じて適切に樹脂充填材を充填することができる。これにより、樹脂充填材の未充填箇所をなくすことができるとともに、所定の樹脂の密度及び強度を担保することができる。
【0011】
また、地盤の含水比が33%よりも高い場合、前記充填工程の前に地盤を乾燥させ、地盤の含水比が33%以下となるように含水比を調整する工程を行うことが好ましい。
【0012】
本発明によれば、形成された樹脂の密度及び強度を担保し易くなる。
【0013】
また前記空洞に充填する前記樹脂充填材の量は、前記版状体の充填点の地表面変位が2mm上がる量に設定されていることが好ましい。
【0014】
本発明によれば、確実に空洞へ樹脂を充填することができ、樹脂充填材の未充填箇所をなくすことができる。
【0015】
また、前記充填工程において、1mごとに前記樹脂充填材の充填を行うことが好ましい。
【0016】
同量の樹脂充填材は、略同一の広がり面積となる。つまり、複数の充填孔を、想定される広がり面積に応じて等間隔に設けることで、樹脂充填材の未充填箇所をなくすことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、充填後に形成される樹脂の密度及び強度が把握できるとともに所定の樹脂の密度及び強度を担保可能な空洞の補修方法を提供することを課題することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る樹脂充填材を用いた補修方法の概略図であり、(a)は版状体の下に空洞が生じた状態を示す図、(b)は空洞に樹脂充填材を充填した状態を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る樹脂充填材をドライ地盤に充填した時の広がり方を示す模式図である。
図3】本発明の実施形態に係る樹脂充填材を含水比20%地盤に充填した時の広がり方を示す模式図である。
図4】本発明の実施形態に係る樹脂充填材を含水比33%地盤に充填した時の広がり方を示す模式図である。
図5】本発明の実施形態に係る樹脂充填材を含水比50%地盤に充填した時の広がり方を示す模式図である。
図6】本発明の実施形態に係る樹脂充填材を充填する充填孔を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態の一つについて説明する。なお、本発明の実施形態は本実施形態に限定されるものではない。本実施形態の樹脂充填材は、発泡ウレタン樹脂からなり、版状体の下に生じた空洞を埋めるために用いられる。版状体とは、例えば大型トラックが走行する道路の床版や舗装、飛行場のエプロン、滑走路、格納庫等の床版や舗装など、大きな輪荷重が繰り返し作用する版状(層状)の建造物である。また、地盤とは、構造物の基礎を支える地面に限定されず、盛土(埋土)、改良土等を含む。
【0020】
図1の(a)に示すように、地盤沈下や地下水の影響により、版状体1の下の支持層(路床や路盤など)2に空洞3が生じることがあり、このような空洞3が大きくなると、版状体1にクラックやたわみ変形が生じる虞がある。版状体1に変形が生じると、版状体1の不陸や段差、水溜まりの原因となり、使用に支障をきたす虞がある。特に、飛行機、大型トラック等の大荷重が版状体1に作用する場合、版状体1の自重に加えて、飛行機、大型トラック等の輪荷重によって版状体1に曲げモーメントが発生するので、版状体1に変形等が生じ易い。
【0021】
地下の空洞3に由来する版状体1の変形等を抑制するためには、図1の(b)に示すように、空洞3になんらかの材料を充填する必要がある。このような空洞3に充填され大荷重を支える充填材4は、大荷重を支える強さだけでなく、大荷重が作用しても破砕あるいは破断し難い靱性を備えることが好ましい。本発明者らは鋭意検討の結果、特定の範囲の密度、一軸圧縮強さ、変形係数を備える発泡ウレタン樹脂によれば、大荷重が繰り返し作用しても破砕あるいは破断し難い充填材を実現できることを見出した。このような発泡ウレタン樹脂は、同体積のグラウト材に比べて非常に軽量であるため、充填材の荷重による沈下の促進を極力抑えることができる材料である。
【0022】
(発泡ウレタン樹脂)
本実施形態の樹脂充填材の発泡ウレタン樹脂は、主液および反応液の2液を反応させて、反応で生じたガスによって樹脂を発泡させることで得られる。2液の反応から得られる発泡ウレタン樹脂には、次の利点がある。すなわち、主液と反応液は、重力によって空洞内に充填することができる。また、2液を空洞内で反応させ発泡させることで、発泡樹脂は空洞を埋めるように膨らむ。
【0023】
このような発泡ウレタン樹脂からなる本実施形態の樹脂充填材を版状体(コンクリートスラブ等)1の下に形成された空洞3に充填する場合には、まず、空洞3に通じる充填孔を版状体1に形成し、当該充填孔の手前で主液と反応液とを混合して充填孔から空洞に充填する。その結果、空洞3内で2液が反応して発泡し、樹脂充填材となって空洞3に充填される。
【0024】
2液の反応から得られる発泡ウレタン樹脂としては、弾性・耐摩耗性、耐候性に優れる等の理由から発泡ポリウレタンが好ましい。
【0025】
発泡ポリウレタン樹脂は、イソシアネートを主成分とするイソシアネート混合物(主液)とポリオールを主成分とするポリオール混合物(反応液)との反応によって得られる。
主液と反応液の配合比は、重量比で1:0.7~1.0である。
【0026】
発泡ウレタン樹脂の密度は0.20~0.40Mg/mである。発泡ウレタン樹脂の密度をこのような範囲とすることで、一軸圧縮強さが2500~9100kN/mであり、変形係数が100~320MN/mである発泡ウレタン樹脂を実現できる。発泡ウレタン樹脂の密度は、0.225~0.30Mg/mであることが好ましい。発泡ウレタン樹脂の密度をこのような範囲とすることで、一軸圧縮強さが3000~5300kN/mであり、変形係数が120~200MN/mである発泡ウレタン樹脂を実現できる。本実施形態の発泡ウレタン樹脂からなる樹脂充填材は、大荷重を支える強度を備え、かつ、大荷重が作用しても粉状化しない靭性を備えることができる。
【0027】
(樹脂充填材の広がり方検証)
本発明者らは発泡ウレタン樹脂が空洞内でどのように広がるかを検証するために以下の実験を行った。なお、試験に用いた発泡ウレタン樹脂の設計上の密度は0.29Mg/m(発泡倍率3.4倍)である。
【0028】
まず、作成した仮想地盤の空洞に発泡ウレタン樹脂を充填する充填試験を行った。次に、空洞内に形成された樹脂充填材から密度測定用のサンプルを採取し、密度試験を実施した。サンプルは、原則として、充填点から8方向に延びる線上において0.25m間隔で採取し、採取できない場合は位置を変更した。樹脂充填材は、鉛直変位が1mmに達するまで充填を行った。
【0029】
(検討例1)
含水比0%のドライ地盤、空洞厚さ10mmに樹脂充填材を3.9kg充填して、広がり方を観測した。図2に示すように、樹脂充填材は、充填点Oから略楕円形状に広がった。広がり面積は、1.230mとなった。
【0030】
(検討例2)
含水比20%地盤、空洞厚さ10mmに樹脂充填材を2.6kg充填して、広がり方を観測した。図3に示すように、樹脂充填材は、充填点Oから略楕円形状に広がった。広がり面積は、0.974mとなった。
【0031】
(検討例3)
含水比33%地盤、空洞厚さ10mmに樹脂充填材を2.6kg充填して、広がり方を観測した。図4に示すように、樹脂充填材は、充填点Oから略楕円形状に広がった。広がり面積は、0.896mとなった。
【0032】
(検討例4)
含水比50%地盤、空洞厚さ10mmに樹脂充填材を2.2kg充填して、広がり方を観測した。図5に示すように、樹脂充填材は、充填点Оから樹枝状に広がった。広がり面積は、0.902mとなった。
【0033】
サンプルの測定結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
表1に示すように、ドライ地盤(含水比0%)での形成樹脂密度は最も高く0.301Mg/mとなった。含水比20%地盤の形成樹脂密度は、0.259Mg/m3、含水比33%地盤の形成樹脂密度は0.260Mg/mとなった。含水比50%地盤の形成樹脂密度は0.228Mg/mとなった。つまり、地盤の含水比が高いほど形成樹脂密度が低くなる傾向が確認できる。
【0036】
鉛直変位が1mmに達するまで2.2~3.9kgの樹脂を充填した結果、樹脂は約0.9~1.2m程度拡がった。拡がり面積を正方形あるいは円形と仮定すると、1辺あるいは直径が概ね1m超に相当した。拡がり面積を円形と仮定した場合の直径と平均直径との差は小さいことから、円形に近い楕円形であることがわかった。
【0037】
次に、本発明者らは、設定した地盤の含水比毎に空洞厚さを変えて樹脂充填材を充填し、形成樹脂密度を測定する試験を行い、地盤の含水比及び空洞厚さがどのように形成樹脂密度に影響を与えるかを検討した。以下の実施例では、樹脂充填材として、イソシアネートを主成分とするイソシアネート混合物(主液)とポリオールを主成分とするポリオール混合物(反応液)とを混合して得た硬質発泡ポリウレタンを使用した。
【0038】
空洞厚さと形成樹脂密度及び地盤の含水比の関係を検討するために、作成した仮想地盤上の空洞厚さを変えて発泡ウレタン樹脂を充填した。地盤の含水比はそれぞれ0%、20%、33%、50%に設定した。試験結果を表2に示す。また、以上の結果を基に相関式を導いた結果を表3に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
表2に示すように、含水比0%では、空洞厚さが小さいほど閉塞効果により形成樹脂密度は高くなる。このことから、空洞厚さのみが密度に影響を及ぼしていると考えられる。また、空洞厚さと密度は表3のように表すことができ,決定係数はR=0.7006と高い相関性が認められた。
【0042】
表2に示すように、地盤の含水比20、30、50%における空洞厚さと形成樹脂密度の関係は、含水比0%の場合とは大きく異なり、空洞厚さが大きいほど形成樹脂密度は高くなる傾向であった。各空洞厚さと形成樹脂密度は表3のように表すことができ、空洞厚さと形成樹脂密度には概ね線形関係が認められる。
【0043】
表3の相関式から,空洞厚及び地盤の含水比に応じた形成樹脂密度、圧縮強度、変形係数を計算した結果を表4に示す。
【0044】
形成された樹脂としては、大型航空機のタイヤ接地圧(概ね1500(kN/m)程度)が作用することを想定し、空洞内における樹脂充填材の一軸圧縮強さが、3000kN/m以上であることが好ましい。
表4に示すように、本実施形態の樹脂充填材を使用した場合、地盤の含水比が33%以下では、空洞厚さ1~20mmのいずれでも、一軸圧縮強さが3000kN/mを上回ることが判明した。
【0045】
一方、地盤の含水比50%では、空洞厚さが15mm以上のときには、一軸圧縮強さを3000kN/m以上となったが、空洞厚さが12mm以下では、一軸圧縮強さが3000kN/mよりも小さくなった。
つまり、本実施形態の空洞の補修方法では、地盤の含水比が33%以下で樹脂充填材を充填することが好ましい。これにより、空洞厚さ1~20mmのいずれでも、樹脂充填材の一軸圧縮強さを3000kN/m以上とすることができる。しかし、地盤の含水比が33%よりも高い場合は、空洞厚さを考慮して、充填可能であるかを判断する必要がある。
【0046】
【表4】
【0047】
次に、表4の結果から、各空洞厚さ別の「地盤の含水比と形成樹脂密度」の相関式を導いた結果を表5に示す。
【0048】
【表5】
【0049】
ここで、空洞厚さが大きくなるほど、「地盤の含水比と形成樹脂密度」の相関性が低くなる傾向がある。これは、含水比0%条件では、空洞が厚くなると形成樹脂密度が低くなる傾向に対し、含水地盤条件では、空洞が厚くなると形成樹脂密度が高い傾向にあり、相反する関係となるためである。また、本実施形態で用いる樹脂充填材では、空洞が厚くなるほど、地盤の水分の影響度合が小さくなり、空洞厚さが40mmを上回ると、形成樹脂密度が一定の値(0.315Mg/m)に収束する傾向が確認された。
【0050】
つまり、本実施形態の空洞の補修においては、表5に示すような相関式を用いて推定形成樹脂密度を求めることで、実際の形成樹脂密度に近い推定形成樹脂密度を求めることができる。
【0051】
以上説明したように、地盤の含水比が33%より低いと、形成樹脂の圧縮強さは3000kN/m以上のものが形成される結果となり、航空機荷重1500kN/mの2倍を満たしているため、必要な強度を担保できていると言える。
【0052】
また、前記した相関式を用いることで、実際に充填される樹脂充填材の形成樹脂密度を推定することができる。
【0053】
また、空洞の厚さが厚いほど地盤の水分の影響を受けにくく、形成樹脂密度は一定の値に近似していき、30mm以上の空洞では地盤の水分の影響度合が小さくなることが判明した。
【0054】
なお、本実施形態では、空洞厚さが、1,3,5,7,10,12,15,20mmの場合の含水比と形成樹脂密度の相関関係を例示しているが、これに限定されるものではない。その他の空洞厚さにおいても相関式は作成可能であり、実際の空洞厚さに近い相関式を用いるのが好ましい。
【0055】
(補修方法)
次に、本実施形態に係る樹脂充填材を充填する空洞の補修方法について説明する。本実施形態の補修方法では、調査工程と、計算工程と、充填量決定工程と、充填工程と、を行う。
【0056】
調査工程は、樹脂充填材を充填する箇所の空洞の厚さ及び地盤の含水比を測定する工程である。本実施形態では、PC版に設けられる調査孔からカメラや測定器等を挿入し、空洞の厚さ及び地盤の含水比を測定することができる。調査孔としては、空港のPC版に設けられているリフトアップ金具接地用の孔を用いることができるが、PC版に調査孔用の孔を新たに穿孔してもよい。
【0057】
一方、調査した結果、地盤の含水比50%であった場合、表4に示すように空洞厚さが12mm以下のときには、圧縮強さが3000kN/mを下回る。この場合には、地盤の含水比を低下させる必要がある。地盤の含水比を低下させる方法は、例えば地盤に対して送風を行い、地盤を乾燥させることで含水比を低下させることができる。
【0058】
計算工程は、調査工程において判定した、空洞の厚さ及び地盤の含水比から、充填後の樹脂密度を計算により推定する工程である。表5に示すように、測定した空洞の厚さから、相関式の作成を行い、地盤の含水比を当てはめて、推定形成樹脂密度を求める。
【0059】
充填量決定工程は、計算工程で計算された推定形成樹脂密度から、充填する樹脂充填材の量を決定する工程である。図6示すように、本実施形態では1m2毎に充填箇所を分けて、表面が2mm上がるように充填量を決定する。調査工程において、空洞の厚さが判明しているため、空洞を埋めるために必要な樹脂充填材の体積を測定することができる。そのため、前記した推定形成樹脂密度から当該体積を満たすことができるような量を決定する。
【0060】
充填工程は、図6に示すように、所定の間隔でPC版に充填孔6を穿孔し、充填量決定工程で決定した量の樹脂充填材を各充填孔6へ充填する工程である。一つの充填孔6へ充填する際には、時間を空けずに設定された量を連続的に充填することが好ましい。表1に示すように、連続的に充填することで、距離ごとの形成樹脂密度のばらつきを低減することができる。
【0061】
以上説明した本実施形態に係る空洞の補修方法によれば、調査工程で空洞の厚さと地盤の含水比が判明する。空洞の厚さと地盤の含水比を設定した相関式に当てはめることで、樹脂充填材を充填する前に形成樹脂密度を推定することができる。そのため、適量の樹脂充填材の量を設定することができるため、樹脂充填材の未充填箇所をなくすことができるとともに、所定の樹脂の密度及び強度を担保することができる。
【0062】
また、調査工程において、地盤の含水比が33%よりも高い場合、地盤を乾燥させ含水比が33%以下となるように調整することで、形成樹脂の圧縮強さを3000kN/m以上にすることができるため、容易に形成される樹脂の密度及び強度を担保することができる。
【0063】
また、計算工程において樹脂充填材の充填量は、前記版状体の充填点の地表面変位が2mm上がる量に設定されているため、版状体の鉛直方向の変化量を少なくできるとともに、確実に空洞へ樹脂を充填することができ、樹脂充填材の未充填箇所をなくすことができる。
【0064】
また、充填工程において、1mごとに同量の樹脂充填材の充填を行うため、全ての充填孔6で樹脂充填材が略同一の広がり面積となる。つまり、複数の充填孔を、想定される広がり面積に応じて等間隔に設けることで、樹脂充填材の未充填箇所をなくすことができる。
【0065】
以上、本願発明に係る実施形態について説明した。しかし、本発明は前述の実施形態に限らず充填孔6同士の間隔は充填する樹脂充填材の広がり面積に応じて適宜設定することが好ましい。各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。本実施形態では、充填孔6を1mピッチで設けたが、例えば、樹脂の広がり面積が0.9mで設定した場合、空洞の厚さが10mmのときには、充填孔6同士の距離を0.95m程度に設定するとよい。
【0066】
また、本実施形態では、地盤の含水比が33%よりも高い場合には、地盤の含水比を下げたが、充填する樹脂充填材を変更することで、一軸圧縮強さが設計で想定した大きさになるようになるように調整してもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 版状体
2 支持層
3 空洞
4 樹脂充填材
6 充填孔
11 路床
12 下層路盤
13 上層路盤
14 表層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2023-07-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤上に形成された版状体の下側に発泡ウレタン樹脂からなる樹脂充填材を充填する空洞の補修方法であって、
前記地盤の含水比及び空洞の厚さを調査する調査工程と、
前記地盤の含水比と空洞の厚さに基づいて、前記樹脂充填材の充填後の樹脂密度を計算する計算工程と、
前記計算工程において算出した樹脂密度に基づいて、前記空洞に充填する前記樹脂充填材の量を決める充填量決定工程と、
前記充填量決定工程で決定した量の前記樹脂充填材を前記空洞に充填する充填工程と、
を備えることを特徴とする空洞の補修方法。
【請求項2】
地盤の含水比が33%よりも高い場合、前記充填工程の前に地盤を乾燥させ、含水比が33%以下となるように地盤の含水比を調整する工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の空洞の補修方法。
【請求項3】
前記空洞に充填する前記樹脂充填材の量は、前記版状体の充填点の地表面変位が2mm上がる量に設定されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の空洞の補修方法。
【請求項4】
前記充填工程において、1mごとに前記樹脂充填材の充填を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の空洞の補修方法。