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特開2023-158672超伝導磁石および超伝導磁石の運転方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158672
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】超伝導磁石および超伝導磁石の運転方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/00 20060101AFI20231024BHJP
   H01F 6/04 20060101ALI20231024BHJP
   H01F 6/06 20060101ALI20231024BHJP
   H10N 60/81 20230101ALI20231024BHJP
   H10N 60/20 20230101ALI20231024BHJP
【FI】
H01F6/00 160
H01F6/04 ZAA
H01F6/06 140
H01L39/04
H01L39/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068576
(22)【出願日】2022-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】一木 洋太
(72)【発明者】
【氏名】青木 学
【テーマコード(参考)】
4M114
【Fターム(参考)】
4M114CC03
4M114DB12
4M114DB62
(57)【要約】
【課題】超伝導磁石の通常運転には支障がない時期において、メンテナンスを喚起可能な超伝導磁石、および超伝導磁石の運転方法を提供する。
【解決手段】真空断熱容器8に配置される超伝導コイル1と、超伝導コイルを励磁する励磁電源3と、超伝導コイルを冷却する冷凍機9と、励磁電源と冷凍機を制御する運転制御装置50とを備え、運転制御装置は、コイル温度調整装置2、コイル電圧測定装置4、磁場測定装置5、磁場安定時間記憶装置6、保守要否判定装置7を備え、所定の回数、冷凍機を介して超伝導コイルの温度を変え、超伝導コイルの電圧を測定しつつ、超伝導コイルの磁場強度を測定しながら、超伝導コイルを励磁し、励磁電源による超伝導コイルの励磁後から、超伝導コイルの発生磁場が所望の時間安定度を満たすまでに要する磁場安定時間を記録し、複数回の励磁のコイル温度設定値と磁場安定時間との関係に基づき、保守要否を判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空断熱容器の内部に配置される超伝導コイルと、
前記超伝導コイルを励磁する励磁電源と、
前記超伝導コイルを冷却する冷凍機と、
前記励磁電源および前記冷凍機を制御する運転制御装置と、
を備え、
前記運転制御装置は、コイル温度調整装置、コイル電圧測定装置、磁場測定装置、磁場安定時間記憶装置、保守要否判定装置を備えて構成され、
所定の回数、前記コイル温度調整装置によって、前記冷凍機を介して前記超伝導コイルの温度を変えるとともに、前記コイル電圧測定装置で前記超伝導コイルの電圧を測定しつつ、前記磁場測定装置で前記超伝導コイルの磁場強度を測定しながら、前記運転制御装置によって、前記励磁電源を介して前記超伝導コイルを励磁し、
前記磁場安定時間記憶装置によって、前記励磁電源による前記超伝導コイルの励磁後から、前記超伝導コイルの発生磁場が所望の時間安定度を満たすまでに要する磁場安定時間を記録し、
前記保守要否判定装置は、前記磁場安定時間記憶装置によって記録された複数回の励磁のコイル温度設定値と磁場安定時間との関係に基づき、保守要否を判定する、
ことを特徴とする超伝導磁石。
【請求項2】
請求項1において、
前記超伝導コイルは、高温超伝導材料が用いられている、
ことを特徴とする超伝導磁石。
【請求項3】
請求項1において、
前記冷凍機は、冷却パスを介して前記超伝導コイルを冷却する、
ことを特徴とする超伝導磁石。
【請求項4】
請求項1において、
前記超伝導コイルの両端に接続された永久電流スイッチと、
前記永久電流スイッチの超伝導状態を崩す永久電流スイッチ用ヒータと、
を備え、
前記永久電流スイッチが超伝導状態になることによって、前記超伝導コイルと前記永久電流スイッチとが閉ループを形成して、永久電流状態で運転される、
ことを特徴とする超伝導磁石。
【請求項5】
請求項1において、
前記保守要否判定装置の保守要否の判定を表示する表示装置を備える、
ことを特徴とする超伝導磁石。
【請求項6】
請求項5において、
前記表示装置は、前記運転制御装置に備えられている、
ことを特徴とする超伝導磁石。
【請求項7】
請求項1に記載の超伝導磁石を用いた超伝導磁石の運転方法であって、
前記超伝導コイルの温度を変えて、所定回数、前記超伝導コイルを励磁する工程と、
前記励磁電源による前記超伝導コイルの励磁後から、前記超伝導コイルによる発生磁場が所望の時間安定度を満たすまでに要する磁場安定時間を記録する工程と、
複数回の超伝導コイルを励磁するコイル温度設定値と磁場安定時間との関係に基づき保守要否を判定する工程と、
を備える、
ことを特徴とする超伝導磁石の運転方法。
【請求項8】
請求項7において、
前記超伝導コイルを励磁する所定回数を一周期とし、
一周期内におけるコイル温度設定値を標準温度から標準温度+1ケルビンの範囲とし、
前記標準温度から標準温度+1ケルビンの範囲の温度範囲内にコイル温度設定値を指定した状態で、前記超伝導コイルを励磁して、磁場安定時間を記録し、
第N周期におけるコイル温度設定値と磁場安定時間の関係性を、第N-1周期までのコイル温度設定値と磁場安定時間の関係性と比較する、
ことを特徴とする超伝導磁石の運転方法。
【請求項9】
請求項7または請求項8において、
前記コイル温度設定値を標準温度から1ケルビン以上高い温度に設定した状態で複数回超伝導コイルを励磁し、
超伝導コイルに所定の電圧が発生する電流値を測定・記録し、
同一の前期コイル温度設定値における所定の電圧が発生する電流値の測定結果と比較する、
ことを特徴とする超伝導磁石の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導磁石および超伝導磁石の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導コイルを一つまたは複数、有する超伝導磁石において、従来は低温超伝導線材であるNbTi(ニオブチタン)線材などが用いられていた。NbTi線材を用いた超伝導磁石の動作温度は、約4Kであるため、高価な液体ヘリウムによる冷却を必要としていた。なお、「K」は絶対温度である。
しかしながら、近年において、高温超伝導材料の開発に伴い、超伝導磁石の運転温度は高温化している。例えば、MgB(二硼化マグネシウム)線材は、近年開発中の超伝導線材のなかでは比較的臨界温度が低い超伝導線材であるが、それでもMgBそのものは、超伝導転移温度として約40Kの高温が得られている。
【0003】
このMgB2線材を用いた超伝導磁石の実用的な動作は、10K~20K程度である。
このような動作温度であれば、超伝導磁石では液体ヘリウムを必要とせず、冷凍機からの伝導冷却でその動作温度を保つことが可能になっている。
前記の10K~20K程度の温度帯における金属材料の比熱は、4Kにおける比熱と比べて一桁程度大きい。そのため、所定の発熱に対する温度上昇が一桁、抑制される。
この大きな比熱を活用することで、超伝導磁石の短時間での励磁における超伝導コイルの温度上昇が抑制されるため、従来よりも高速な超伝導磁石の励消磁(励磁および消磁)が可能となっている。
【0004】
従来の低温超伝導磁石では、励磁時の温度上昇による超伝導の臨界温度以上への高温化を避けるために、超伝導磁石の励磁速度は非常にゆっくりとした速度である。例えば、MRI(Magnetic Resonance Imaging)用超伝導磁石は、その励磁に数時間を要する。さらに励磁後の磁場強度の安定化にも時間を要することから、緊急事態やメンテナンスなどから消磁の要請がない限り、励磁した状態を維持しておくのが一般的である。
一方で、液体ヘリウムを必要とせず、10K以上の温度で運転可能な近年の超伝導磁石の場合、高速な励消磁が可能なため、磁場を必要とする時間帯のみに励磁し、その他は消磁しておくという運用が可能である。
この特徴を活用すると、例えば移動型のMRIや、手術室用のMRIがより簡便に扱えるようになる。移動型のMRIにおいては、移動中には消磁しておき、移動後のMRI撮像時のみに励磁するという運用や、手術室用のMRIにおいては、手術中は消磁しておき、手術効果の確認のためのMRI撮像時のみ励磁するといった運用である。
【0005】
必要な時間・場所でのみ超伝導コイルを励磁する場合、励磁後の超伝導磁石における超伝導線材内に流れる遮蔽電流が超伝導磁石の運転上の問題となる場合がある。この問題に関連しては特許文献1がある。
特許文献1の[要約]には、「[課題]短時間で、超電導コイルが発生する磁場の安定性を確保することができる超電導マグネットの運転方法、超電導マグネットおよび検査装置を提供する。[解決手段]超電導マグネットの運転方法は、超電導線材を巻回すことによって形成された超電導コイルの温度を予め定められた目標温度に調整する工程(S20)と、超電導コイルの温度が目標温度に到達した後に、超電導コイルの励減磁を繰り返し実行する工程(S30)と、超電導コイルの励減磁の実行中に、超電導コイルを超電導状態に維持する工程(S40)とを備える。目標温度は、超電導状態に冷却された超電導コイルの励減磁の実行中において超電導コイルが熱平衡状態となる温度に設定される。」と記載され、超電導マグネットの運転方法の技術が開示されている。
このように特許文献1には、前記の遮蔽電流の影響を抑制するために、超伝導コイルを加熱した後に励磁し、その後の超伝導コイルの運転電流を保持する工程においては、超伝導コイルを冷却する、という運転方法が記載されている。この方法は、一定の運転条件に近づくほど、遮蔽電流の大きさが小さくなることを活用したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-12743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方で、運転温度が高温化された超伝導磁石では、超伝導磁石の励消磁回数を増加できるため、超伝導コイルは励磁に伴う電磁力を繰り返し経験する。さらには日々運搬されることを前提とした超伝導磁石や移動体のモータなどに使用される超伝導磁石では、移動に伴う振動を繰り返し経験する。
超伝導磁石は主に、超伝導コイル、真空断熱層、冷却装置で構成されるため、電磁力や振動などの繰り返し負荷が加えられた場合、その冷却特性が変化する可能性がある。
【0008】
例えば、冷媒を用いない冷却方法においては、冷却装置からの伝導冷却によって超伝導コイルが冷却されるが、その冷却パスの締結部のゆるみなどが生じると、冷却パスの熱伝導性能が変化し、従来の超伝導コイルの温度分布から変化することなどが考えられる。
また、真空断熱層における真空度の低下や冷却装置における不具合が生じた場合にも、従来のコイル温度設定値から、ずれた温度で超伝導コイルが運転される可能性がある。
このような超伝導磁石における冷却性能の変化は、通常運転では把握するのが困難であって、定格磁場が発生できないような不具合が突然生じる可能性がある。
【0009】
本発明は、超伝導磁石おいて、超伝導コイルの励磁後の磁場安定のために必要となる待ち時間を短縮し、さらには、超伝導コイルや伝導冷却パスのわずかな性能変化や、真空断熱層や冷凍機の冷却性能のわずかな変化を捉え、通常運転には支障がない時期においてメンテナンスを喚起可能な超伝導磁石、および超伝導磁石の運転方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するために、本発明を以下のように構成した。
すなわち、本発明の超伝導磁石は、真空断熱容器の内部に配置される超伝導コイルと、前記超伝導コイルを励磁する励磁電源と、前記超伝導コイルを冷却する冷凍機と、前記励磁電源および前記冷凍機を制御する運転制御装置と、を備え、前記運転制御装置は、コイル温度調整装置、コイル電圧測定装置、磁場測定装置、磁場安定時間記憶装置、保守要否判定装置を備えて構成され、所定の回数、前記コイル温度調整装置によって、前記冷凍機を介して前記超伝導コイルの温度を変えるとともに、前記コイル電圧測定装置で前記超伝導コイルの電圧を測定しつつ、前記磁場測定装置で前記超伝導コイルの磁場強度を測定しながら、前記運転制御装置によって、前記励磁電源を介して前記超伝導コイルを励磁し、前記磁場安定時間記憶装置によって、前記励磁電源による前記超伝導コイルの励磁後から、前記超伝導コイルの発生磁場が所望の時間安定度を満たすまでに要する磁場安定時間を記録し、前記保守要否判定装置は、前記磁場安定時間記憶装置によって記録された複数回の励磁のコイル温度設定値と磁場安定時間との関係に基づき、保守要否を判定することを特徴とする。
【0011】
また、その他の手段は、発明を実施するための形態のなかで説明する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、超伝導コイルの励磁後の磁場安定のために必要となる待ち時間を短縮し、超伝導コイルや伝導冷却パスのわずかな性能変化や、真空断熱層や冷凍機の冷却性能のわずかな変化を捉え、通常運転には支障がない時期においてメンテナンスを喚起可能な超伝導磁石、および超伝導磁石の運転方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態に係る超伝導磁石の構成例を示す図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る超伝導磁石の超伝導コイルの励磁時コイル温度設定値と磁場安定時間の関係の測定結果の一例を示す図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る超伝導磁石の運転方法の基本工程についてのフローチャート例を示す図である。
図4】本発明の第1実施形態に係る超伝導磁石の超伝導コイルの励磁時コイル温度設定値と磁場安定時間の関係の測定結果において、第N+1周期における磁場安定時間が、第N周期よりも短く変化した場合の一例を示す図である。
図5】本発明の第2実施形態に係る超伝導磁石の構成例を示す図である。
図6】本発明の第3実施形態に係る超伝導磁石の構成例を示す図である。
図7A】本発明の第4実施形態に係る超伝導磁石の運転方法のフローチャート例を示す図である。
図7B】本発明の第4実施形態に係る超伝導磁石の運転方法におけるコイルIc測定工程を構成する具体的な工程のフローチャート例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下においては「実施形態」と表記する)を、適宜、図面を参照して説明する。
【0015】
≪第1実施形態≫
本発明の第1実施形態に係る超伝導磁石について、図を参照して説明する。
【0016】
<超伝導磁石101の構成>
図1は、本発明の第1実施形態に係る超伝導磁石101の構成例を示す図である。
図1において、超伝導磁石101は、超伝導コイル1、励磁電源3、冷凍機9、冷却パス10、励磁配線11、運転制御装置50を備えて構成される。
超伝導コイル1は、真空断熱容器8の内部に配置されている。なお、超伝導コイル1は高温超伝導材料が用いられていることが望ましい。
励磁電源3と冷凍機9、および運転制御装置50は、真空断熱容器8の外部に設けられている。冷凍機9は、真空断熱容器8の外部に設けられ、真空断熱容器8の内部を冷却する。
【0017】
超伝導コイル1は、励磁配線11を介して、励磁電源3と接続され、励磁電源3によって励磁される。
また、超伝導コイル1は、冷凍機9に冷却パス10を介して連結され、冷凍機9によって所定の温度まで冷却される。なお、冷凍機9は、冷却パス10を介して超伝導コイル1を冷却するので、速やかに超伝導コイル1を冷却できる。
また、冷凍機9は、超伝導コイル1を、所定の低温の温度範囲に保つように、冷却できる。
【0018】
運転制御装置50は、励磁電源3および冷凍機9を図示していない制御配線を介して、制御する。運転制御装置50が励磁電源3と冷凍機9を制御することによって、超伝導コイル1は制御される。
運転制御装置50は、コイル温度調整装置2、コイル電圧測定装置4、磁場測定装置5、磁場安定時間記憶装置6、保守要否判定装置7を備えて構成されている。
【0019】
運転制御装置50に備えられたコイル温度調整装置2で指定されたコイル温度指定値を目標として、超伝導コイル1は、冷凍機9によって冷却される。
冷凍機9を常時運転した場合の超伝導コイル1の温度が、コイル温度指定値よりも低温である場合は、冷凍機9を間欠運転するか、冷凍機9、冷却パス10、または超伝導コイル1に設けられたヒータ(図示せず)を加熱することで、超伝導コイル1の温度が調整される。なお、このヒータの制御は、運転制御装置50が行う。
【0020】
運転制御装置50に備えられたコイル電圧測定装置4で超伝導コイル1に発生する電圧値を測定しつつ、運転制御装置50で励磁電源3を制御する。この制御により、励磁電源3から超伝導コイル1に通電し、超伝導コイル1に流れる電流値を増加させることによって、超伝導コイル1は励磁される。
【0021】
<交流損失と遮蔽電流>
超伝導コイル1は、励磁される場合には、冷凍機9によって冷却され、超伝導状態に設定されている。
ただし、励磁中の超伝導コイル1の内部では、交流損失と呼ばれる発熱が生じる。そのため、一定の冷却能力によって超伝導コイル1を冷却する場合は、超伝導コイル1の温度は上昇する。なお、交流損失は、超伝導コイル1が超伝導状態にあって、いわゆる電気抵抗が0であっても、別の要因で生ずる現象である。
超伝導コイル1の発生する磁場強度は、磁場測定装置5により測定される。その測定される磁場強度は、およそ励磁電源3から供給される電流の大きさに比例する。
励磁電源3からの供給電流が所定の定格電流に到達した時点で、電流値の増加を止め、電流値を維持することで超伝導磁石101に定格磁場が発生した状態を維持できる。
【0022】
超伝導コイル1を構成している超伝導線材内における励磁に伴う遮蔽電流が無視できない場合、この遮蔽電流が形成する磁場の向きは、励磁電源3から供給される電流により発生する磁場の向きと反対方向である。
そのため、超伝導磁石101の磁場は、励磁直後から単調増加する時間変化を伴う。
【0023】
<励磁時コイル温度設定値と磁場安定時間との関係>
次に、図1図2を参照して、「励磁時コイル温度設定値と磁場安定時間との関係」について説明する。以下の説明においては、超伝導磁石101は超伝導状態である。
励磁電源3(図1)によって定格電流が通電された時刻から、超伝導磁石101の発生する磁場の時間安定度が所定の値に到達するまで時刻を、磁場安定時間と定義する。
本発明の超伝導磁石101では、運転制御装置50による制御によって、励磁時コイル温度設定値と磁場安定時間との関係を複数回の励磁にわたって記録・比較することが特徴である。
【0024】
例えば、第j回目の励磁における励磁時コイル温度設定値をT(K)とした際の磁場安定時間をt(s)、すなわちt(秒)とし、第(j+1)回目の励磁における励磁時コイル温度設定値をTj+1(K)とした際の磁場安定時間をtj+1(s)など、第(j+n)回目の励磁までのTj+n(K)に対するtj+n(s)を測定する。
なお、励磁時コイル温度設定値のT(K)の表記において、「T」は温度、「」は第j回目、「K」は絶対温度を意味している。
【0025】
例えば、励磁時コイル温度設定値を0.05(K)刻みで単純増加させつつ、9回励磁した場合は、T(K)からTj+0.4(K)の励磁時コイル温度設定値に対する磁場安定時間が記録される。すなわち、図2に示すグラフを得る。
図2は、本発明の第1実施形態に係る超伝導磁石101の超伝導コイル1の励磁時コイル温度設定値(コイル温度設定値)T(K)と磁場安定時間t(s)の関係の測定結果の一例を示す図である。
図2において、横軸は励磁時コイル温度設定値(コイル温度設定値)T(K)であり、縦軸は磁場安定時間t(s)、すなわちt(秒)を示している。また、励磁時コイル温度設定値(コイル温度設定値)T(K)を0.05(K)刻みで単純増加させつつ、9回分の測定結果(B)を示している。
【0026】
励磁時コイル温度設定値(コイル温度設定値)T(K)に対する実コイル温度が、ある所定の閾値よりも低い場合には、励磁時コイル温度設定値(コイル温度設定値)T(K)の高温化に伴い磁場安定時間t(s)は単調減少する。
その理由は、実コイル温度(超伝導状態)も上昇することによって、遮蔽電流の影響が弱まる。その結果として、所定の磁場安定までに有する時間が短縮されるからである。すなわち、磁場が安定するまでの待ち時間を短縮することが可能となる。
【0027】
また、図4を参照して後記するように、n回励磁を一周期とし、周期的な運転を繰り返すことで、超伝導磁石101の状況を把握することが可能となる。
具体的には、第(j+n+1)回目の励磁の際には、励磁時コイル温度設定値をT(K)に戻し、Tj+n(K)までにわたる励磁・磁場安定時間の測定を繰り返すことによって、前周期における結果と比較することが可能となる。
以上の測定によって、第N周期における測定結果と、第(N+1)周期における測定結果が、測定誤差の範囲で一致する場合、超伝導磁石101は、健全な状態である。
【0028】
なお、図4を参照して後記するように、第(N+1)周期における測定結果が、第N周期における測定結果よりも短く変化した場合には、励磁時コイル温度設定値と、実コイル温度(または一部の実コイル温度)との差が大きくなっており、真空断熱容器8、冷凍機、冷却パス10の性能変化が疑われ、メンテナンスの必要性が喚起される。
【0029】
<励磁と消磁の基本工程、および超伝導磁石の運転方法>
第1実施形態の超伝導磁石101の運転方法について、図3を参照して説明する。
図3は、本発明の第1実施形態に係る超伝導磁石101の運転方法の基本工程(運転基本工程)80についてのフローチャート例を示す図である。図3において、ステップS60からステップS65へ、各工程が順に実施される。
なお、図3に示したフローチャートの各ステップのうち、少なくともS61~S65において、超伝導コイル1は超伝導状態である。
【0030】
《ステップS60》
ステップS60(図3)において、超伝導磁石101(図1)の「励磁時コイル温度調整」を行う。
すなわち、超伝導コイル1(図1)の励磁時の温度を設定し、コイル温度調整装置2(図1)と冷凍機9(図1)によって超伝導コイル1が所定の設定値に向かって温度調整される。そして、ステップS61に進む。
【0031】
《ステップS61》
ステップS61(図3)において、励磁電源3(図1)によって、超伝導コイル1を「励磁」する。
すなわち、励磁電源3によって、超伝導コイル1に、所定の電流値になるまで、通電する電流を増加する。そして、ステップS62に進む。
なお、この励磁の工程において、コイル電圧測定装置4(図1)で、超伝導コイル1に異常電圧を検知した際には、励磁を中止する。
【0032】
《ステップS62》
ステップS62(図3)において、磁場測定装置5(図1)を用いて、超伝導磁石101が発生している磁場の時間変化を計測する。この計測によって、磁場の安定時間測定(磁場安定時間測定)を行い、磁場安定時間を算出する。
そして、ステップS63に進む。
【0033】
《ステップS63》
ステップS63(図3)において、コイル温度調整装置2(図1)と冷凍機9によって、超伝導コイル1が所定の設定値に向かって温度調整される。すなわち、「通常時コイル温度調整」の工程が実施される。
この通常時コイル温度調整の工程においては、通常時コイル温度は、前記のように、励磁時コイル温度よりも低い温度に設定される。そして、ステップS64に進む。
【0034】
《ステップS64》
ステップS64(図3)において、超伝導磁石101は、「通常運転」される。
すなわち、励磁時コイル温度よりも低い温度である通常時コイル温度において、超伝導磁石101は、安定的に超伝導状態で磁場を形成する動作をし、この状態で運転(通常運転)される。
そして、ステップS65に進む。
【0035】
《ステップS65》
ステップS65(図3)において、超伝導磁石101の運転(通常運転)を終了する場合、すなわち超伝導磁石101の磁場の使用が完了した際には、「消磁」の工程が実施される。
具体的には、励磁電源3による超伝導コイル1への通電電流を次第に減少していく。
この超伝導コイル1への通電電流の減少によって、超伝導磁石101は、消磁される。
なお、超伝導磁石101が消磁された場合においても、運用上は、超伝導コイル1は超伝導状態に保たれている。
【0036】
<励磁と消磁の基本工程の補足>
以上のステップS60~ステップS65が、1回の励磁~消磁における基本工程(運転基本工程)80である。
本発明の第1実施形態に係る超伝導磁石101の運用については、複数回の励消磁(励磁と消磁)が前提である。
その結果、磁場安定時間記憶装置6(図1)には、図2に示したような、励磁時コイル温度設定値(コイル温度設定値)と磁場安定時間との関係が蓄積される。
また、後記する第3実施形態のように表示装置14(図6)を備えた場合には、所定の範囲内の励磁時コイル温度設定値において、磁場安定時間が単調減少ではなく、途中から増加に転じた際には、超伝導磁石101のメンテナンス喚起を、表示装置14(図6)に表示することも可能である。
【0037】
<第N+1周期における磁場安定時間が、第N周期よりも短く変化した場合>
図2を参照して、磁場安定時間を説明した際においては、後記する図4を例として「第N周期における測定結果と、第(N+1)周期における測定結果が、測定誤差の範囲で一致する場合には、超伝導磁石101は、健全な状態である。」と説明した。しかし、超伝導磁石101は、常に健全な状態であるとは限らない。
次に、図4を参照して、「第N+1周期における磁場安定時間が、第N周期よりも短く変化した場合」について説明する。
【0038】
図4は、本発明の第1実施形態に係る超伝導磁石101の超伝導コイル1の励磁時コイル温度設定値(コイル温度設定値)T(K)と磁場安定時間t(秒)の関係の測定結果において、第N+1周期(CN+1)における磁場安定時間が、第N周期(C)よりも短く変化した場合の一例を示す図である。
図4において、横軸は励磁時コイル温度設定値(コイル温度設定値)T(K)であり、縦軸は磁場安定時間t(s)、すなわちt(秒)を示している。また、9回分の基本工程(運転基本工程)80を、第N周期の測定の測定結果(C)と、第N+1周期の測定の測定結果(CN+1)を併せて表記している。なお、図4の横軸においては、「励磁時コイル温度設定値」を「コイル温度設定値」と簡略化して表記している。
【0039】
図4においては、第N+1周期における磁場安定時間t(s)が、測定誤差の範囲を超えて、第N周期よりも短く変化している。すなわち、第N+1周期の測定結果(CN+1)が、第N周期の測定結果(C)よりも短く変化している。
このように、「第N+1周期における磁場安定時間t(s)が、第N周期よりも短く変化した場合」には、励磁時コイル温度設定値T(K)と、実コイル温度(または一部の実コイル温度)との差が大きくなっている。
このような測定結果が得られる場合には、図1の真空断熱容器8、冷凍機9、冷却パス10の性能変化が疑われ、メンテナンスの必要性が喚起される。
【0040】
なお、磁場安定時間t(s)が経過した後の超伝導磁石101の運転においては、コイル温度設定値(通常時コイル温度設定値)T(K)を、励磁時コイル温度設定値よりも低い温度、例えばマイナス2ケルビンとして運転することで、擾乱などによる超伝導コイル1の突発的な常伝導化(クエンチ)の可能性を無視できる程度に低減できる。
また、前記の第N+1周期で何等かの性能変化が疑われた場合においても、励磁時コイル温度設定値で超伝導磁石101の運転を維持するわけではないため、即時メンテナンスを必要とせずに、磁石の運転スケジュールに合わせて適時メンテナンスの時期を設定可能である。
【0041】
<第1実施形態の総括>
本発明の第1実施形態に係る超伝導磁石101が、高温超伝導材料を用いて構成される場合には、冷凍機9と超伝導コイル1との間に冷却パス10を設けて、比較的に短時間で超伝導コイル1の温度管理が可能となる。そのため、励磁と消磁の切り替えが比較的に速やかに実施可能となる。
超伝導磁石101を、例えば医療用のMRIに用いる場合には、医療行為として使用する合間に、超伝導磁石101の特性を把握するために、複数回の励消磁(励磁と消磁)をテストとして実施することが可能である。
その結果、超伝導磁石101の運転制御装置50による制御によって、磁場安定時間記憶装置6には、励磁時コイル温度設定値と磁場安定時間との関係データが蓄積される。
このようなデータを分析することによって、超伝導磁石101における真空断熱容器8、冷凍機9、冷却パス10などの、即時メンテナンスの必要性や、運転スケジュールに合わせて適時メンテナンスでよい場合などの各種の情報を取得することが可能となる。
【0042】
<第1実施形態の効果>
本発明によれば、超伝導コイルの励磁後の磁場安定のために必要となる待ち時間を短縮可能となる。
さらには、超伝導コイルや伝導冷却パスのわずかな性能変化や、真空断熱層や冷凍機の冷却性能のわずかな変化を捉え、通常運転には支障がない時期においてメンテナンスを喚起可能な超伝導磁石、および超伝導磁石の運転方法を提供できる。
【0043】
≪第2実施形態≫
本発明の第2実施形態に係る超伝導磁石102について、図を参照して説明する。
図5は、本発明の第2実施形態に係る超伝導磁石102の構成例を示す図である。
図5において、超伝導磁石102は、超伝導コイル1、励磁電源3、冷凍機9、冷却パス10、励磁配線11、運転制御装置50、および永久電流スイッチ12と永久電流スイッチ用ヒータ13を備えて構成される。
図5の超伝導磁石102の構成において、図1の超伝導磁石101と異なるのは、図5において、新たに永久電流スイッチ12と永久電流スイッチ用ヒータ13とを設けたことである。
【0044】
なお、永久電流スイッチ12と永久電流スイッチ用ヒータ13は、運転制御装置50で制御される。また、永久電流スイッチ12は、永久電流スイッチ用ヒータ13にも制御される。
以下の第2実施形態に係る超伝導磁石102の説明においては、第1実施形態との相違点を主として説明する。
【0045】
MRIなどの磁場の安定度を重視する超伝導磁石102においては、永久電流運転が好適である。
永久電流運転を行う超伝導磁石102は、図5に示すように、永久電流スイッチ12、および永久電流スイッチ用ヒータ13を備える。
永久電流スイッチ12は、超伝導コイル1の両端に接続されている。そして、永久電流スイッチ12が超伝導状態になって、抵抗が0になることによって、超伝導コイル1が超伝導状態であって、超伝導コイル1と永久電流スイッチ12とからなる閉ループにおいて、抵抗0の閉ループが形成される。なお、抵抗0の閉ループが形成されている場合には、励磁電源3からの電流供給は不要となる(永久電流運転)。
また、永久電流スイッチ用ヒータ13が過熱され、その熱の作用によって、永久電流スイッチ12が超伝導状態から外れて所定の抵抗を有するようになると、超伝導コイル1と永久電流スイッチ12とからなる閉ループにおいて、所定の抵抗が発生する。
【0046】
第2実施形態においては、第1実施形態と同様に、超伝導磁石102における磁場安定時間の定義は、永久電流運転を開始した時刻から、所定の磁場安定までに要した時刻までの時間である。
この所定の磁場安定を確保する過程において、超伝導コイル1と永久電流スイッチ12とからなる閉ループにおける永久電流運転を行い、励磁電源3からの電流供給を不要とすることで、磁場の時間安定に対する励磁電源3からの影響を排除することが可能となる。
【0047】
すなわち、永久電流スイッチ12、および永久電流スイッチ用ヒータ13を設けた第2実施形態に係る超伝導磁石102によって、MRIの撮像が要求する程度の磁場の時間安定度を維持することと、超伝導磁石102の状態監視とを両立することが可能となる。
【0048】
<第2実施形態の効果>
磁場安定を確保する過程において、超伝導コイル1と永久電流スイッチ12とからなる閉ループにおける永久電流運転を行い、励磁電源3からの電流供給を不要とすることで、磁場の時間安定に対する励磁電源3からの影響を排除することが可能となり、磁場の時間安定度に寄与する効果がある。
また、MRIの撮像が要求する程度の磁場の時間安定度を維持することと、超伝導磁石102の状態監視とを両立することが可能となる効果がある。
【0049】
≪第3実施形態≫
本発明の第3実施形態に係る超伝導磁石103の構成について、図6を参照して説明する。
図6は、本発明の第3実施形態に係る超伝導磁石103の構成例を示す図である。
図6においては、第1実施形態として図1で示した超伝導磁石101の構成以外に、表示装置14を備えて構成される。
表示装置14は、運転制御装置50に接続されている。第1実施形態における<励磁と消磁の基本工程の補足>で説明したように、所定の範囲内の励磁時コイル温度設定値において、磁場安定時間が単調減少ではなく、途中から増加に転じた際には、超伝導磁石101のメンテナンスが必要である可能性がある。
【0050】
この場合に、運転制御装置50の制御によって、メンテナンス要否と判断するような場合には、表示装置14に保守要否判定を表示する。そして、超伝導磁石(101、103)のユーザー(使用者、管理者)にメンテナンスの喚起を行う。
または、何等かの通信手段によって、例えば、超伝導磁石(101、103)の製造メーカにメンテナンスの喚起を通知する。
本発明の第3実施形態に係る超伝導磁石103の構成によって、超伝導および超伝導磁石に精通していないユーザにおいても、簡便的に超伝導磁石(101、103)のメンテナンスの要否を知ることが可能となる。
【0051】
<第3実施形態の効果>
本発明の第3実施形態に係る表示装置14を備える超伝導磁石103の構成によって、超伝導および超伝導磁石に精通していないユーザにおいても、簡便的に超伝導磁石のメンテナンスの要否を知ることが可能となる。
【0052】
≪第4実施形態≫
本発明の第4実施形態に係る超伝導磁石の運転方法について、図7A図7Bを参照して説明する。
図7Aは、本発明の第4実施形態に係る超伝導磁石の運転方法(801)のフローチャート例を示す図である。
図7Bは、本発明の第4実施形態に係る超伝導磁石の運転方法(801)におけるコイルIc測定工程(S81)を構成する具体的な工程のフローチャート例を示す図である。
【0053】
なお、コイルIc測定工程(S81)とは、超伝導磁石の運転方法(801)における運転基本工程(S80)を繰り返す中間工程として、励磁時コイル温度設定値を運転基本工程80の値よりも1ケルビン以上、上昇させて励磁を行うものであり、コイル(超伝導コイル1)に所定の電圧が発生する電流値を測定する工程である。
【0054】
<超伝導磁石の運転方法(801)>
図7Aにおいて、第4実施形態の超伝導磁石の運転方法(801)は、運転基本工程(ステップS80)とコイルIc測定工程S81を備えて構成されている。次に、それぞれの工程について順に説明する。
【0055】
《ステップS80》
ステップS80は、運転基本工程である。
運転基本工程(S80)は、図3で説明した超伝導磁石101の運転方法の基本工程(運転基本工程)80に相当する。ただし、図7AにおけるステップS80の運転基本工程においては、ステップS80を示すブロックの下側から右側に戻る矢印で示したループL80を表記している。このループL80として表記した工程によって、図7AのステップS80においては、図3で示した超伝導磁石101の運転方法の基本工程80のS60~S65の各ステップが繰り返し行われることを表現している。
このステップS80の運転基本工程が実施されると次のステップS81に進む。
【0056】
《ステップS81》
ステップS81は、コイルIc測定工程である。
コイルIc測定工程(S81)とは、コイル(超伝導コイル1)に所定の電圧が発生する電流値を測定する工程である。
ただし、コイルIc測定工程(S81)は、さらに複数の工程を有している。次にコイルIc測定工程(S81)の詳細について説明する。
【0057】
<コイルIc測定工程(S81)>
図7Bにおいて、コイルIc測定工程(S81)は、励磁時コイル温度調整の工程(励磁時コイル温度調整工程)S70と励磁の工程(励磁工程)S71を備えて構成されている。次に、それぞれの工程について順に説明する。
【0058】
《ステップS70》
ステップS70は、励磁時コイル温度調整工程である。
このステップS70の工程においては、超伝導コイル1(図1)の温度をIc測定時コイル温度に設定し、コイル温度調整装置2(図1)と冷凍機9(図1)とによって、超伝導コイル1が設定値に向かって温度調整される。
なお、励磁時コイル温度設定値を前記した運転基本工程S80における値よりも1ケルビン以上、上昇させるように設定する。
【0059】
《ステップS71》
ステップS71は、励磁工程である。
ステップS71においては、ステップS70で温度調整された超伝導コイル1を「励磁」する。
具体的には、励磁工程(ステップS71)において、励磁電源3(図1)から超伝導コイル1に通電する電流値を所定の電流値まで増加しつつ、コイル電圧測定装置4(図1)によって、コイル電圧を測定する。
コイル電圧が所定の電圧となったところで励磁電源3からの供給電流をゼロまでに戻して励磁工程S71を終える。
【0060】
<運転制御装置50と表示装置14の対応>
以上の図7A図7Bで説明した第4実施形態に係る超伝導磁石の運転方法(801)において、運転制御装置50は、超伝導コイル1に所定の電圧が発生した電流値をコイルIc(コイル電流Ic)として記憶する。
そして、定期的にコイルIc測定工程S81を繰り返し、同一のコイルIc測定時におけるコイル温度に対するコイルIc(コイル電流Ic)を記録する。
この同一のIc測定時におけるコイル温度に対するコイルIcが低下した場合には、低下が観測された段階で、超伝導磁石(101、103)のメンテナンス喚起の信号を、表示装置14に送る。
表示装置14は、メンテナンス喚起の表示をする。
【0061】
<第4実施形態の効果>
定期的にコイルIc測定工程S81を繰り返し、同一のコイルIc測定時におけるコイル温度に対するコイルIc(コイル電流Ic)を記録し、この同一のIc測定時におけるコイル温度に対するコイルIcが低下した場合を捉えることで、超伝導磁石(101、103)のメンテナンスの必要性を喚起することができる。
【0062】
≪その他の実施形態≫
なお、本発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものでなく、さらに様々な変形例が含まれる。例えば、前記の実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために、詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成の一部で置き換えることが可能であり、さらに、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成の一部または全部を追加・削除・置換をすることも可能である。
以下に、その他の実施形態や変形例について、さらに説明する。
【0063】
《磁場安定時間の短縮》
励磁後の遮蔽電流の影響を緩和し、磁場安定時間を短縮する方法として、超伝導コイル1へ通電する電流値をオーバーシュートさせる方法がある。
この超伝導コイル1へ通電する電流値をオーバーシュートさせる方法の概要としては、定格電流値の数パーセント程度高い値まで一度通電し、その後定格電流値まで下げる運転方法である。
本磁石においてもこのオーバーシュートによる磁場安定時間の短縮は有効であり、実施可能である。
前記の超伝導磁石の運転方法のステップS61(図3)において、励磁電源3(図1)によって、超伝導コイル1を「励磁」する工程があるが、この励磁の工程の際に、前記のオーバーシュートを適用してもよい。
【0064】
《表示装置14》
表示装置14は、前記したようなメンテナンス喚起の警告のみならず、超伝導磁石(101,102)に関わる様々な情報を、必要に応じて、表示させることができる。
また、表示装置14を「表示」と表記したが、文字や映像に限定されない。例えば、警告音や、人間の音声や他の部署への所定の信号伝達をする機能の装置であってもよい。
【0065】
《磁場安定時間の計測》
図2、および図4においては、励磁時コイル温度設定値を0.05(K)刻みで単純増加させて、9回励磁させて励磁時コイル温度設定値に対する磁場安定時間を記録して、磁場の安定度を計測、評価していたが、9回というのは一例であって、精度は変わるが、9回より、多い回数でも少ない回数で行ってもよい。
【0066】
《励磁時コイル温度調整の工程における励磁時コイル温度設定値の上昇分》
第4実施形態における超伝導磁石の運転方法(801)において、励磁時コイル温度調整の工程(ステップS70:図7B)では、超伝導コイル1が設定値に向かって温度調整される工程において、励磁時コイル温度設定値を運転基本工程(ステップS80:図7A)における値よりも1ケルビン以上、上昇させるように設定する方法について説明したが、1ケルビンに限定されない。
超伝導磁石の特性や構成、あるいは運転方法によって、1ケルビン以外の別の温度のステップで調整してもよい。
【0067】
《運転制御装置の構成》
図1を参照して、第1実施形態の超伝導磁石における運転制御装置50は、コイル温度調整装置2、コイル電圧測定装置4、磁場測定装置5、磁場安定時間記憶装置6、保守要否判定装置7を備えて構成されていることを説明したが、これらの構成に限定されない。磁場安定時間等の記録は、磁場安定時間記憶装置6(運転制御装置50)が備える記憶装置に対して行ってもよいし、ネットワーク等を介した外部の記憶装置に対して行ってもよい。また、保守要否判定装置7等がネットワーク上に存在していてもよい。
また、運転制御装置50は、他の特性を備えた機器を必要に応じて、加えてもよい。また、前記の装置で必要のない用途においては、削除してもよい。また、図6で示した表示装置14を、運転制御装置50を構成する装置として取り込んでもよい。
【0068】
《超伝導コイルの個数》
第1実施形態の説明においては、超伝導コイルを構成する個数については、説明をしなかったが、超伝導コイルは複数個で構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 超伝導コイル
2 コイル温度調整装置
3 励磁電源
4 コイル電圧測定装置
5 磁場測定装置
6 磁場安定時間記憶装置
7 保守要否判定装置
8 真空断熱容器
9 冷凍機
10 冷却パス
11 励磁配線
12 永久電流スイッチ
13 永久電流スイッチ用ヒータ
14 表示装置
50 運転制御装置
60(S60) 励磁時コイル温度調整工程
61(S61) 励磁工程
62(S62) 安定時間測定工程
70(S70) Ic測定時コイル温度調整工程
71(S71) 励磁工程
80(S80) 運転基本工程、基本工程
81(S81) コイルIc測定工程、
101,102,103 超伝導磁石
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B