(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158693
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】抗糖化剤
(51)【国際特許分類】
A61K 33/26 20060101AFI20231024BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231024BHJP
A61K 36/53 20060101ALI20231024BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20231024BHJP
A23L 33/16 20160101ALI20231024BHJP
【FI】
A61K33/26
A61P43/00 111
A61K36/53
A23L33/105
A23L33/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068613
(22)【出願日】2022-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】真邉 知佳
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 麻子
(72)【発明者】
【氏名】浅野 年紀
(72)【発明者】
【氏名】森戸 由紀子
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD06
4B018MD66
4B018ME14
4B018MF01
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA11
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZC41
4C088AB38
4C088AC05
4C088BA08
4C088CA03
4C088MA06
4C088NA14
4C088ZC41
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、抗糖化剤、及び、抗糖化作用を顕著に向上した組成物を提供することである
【解決手段】
鉄化合物の糖化産物生成への影響を検討した結果、驚くべきことに鉄化合物が抗糖化作用を有することを見出した。また、鉄化合物に加えて特定の素材を配合することにより、飛躍的に抗糖化作用が向上することを発見した。
すなわち、本発明は、(1)鉄化合物を含有する抗糖化剤、(2)鉄化合物およびレモンバームを含有する組成物、(3)鉄化合物およびレモンバームを含有する抗糖化剤、である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄化合物を含有する抗糖化剤。
【請求項2】
鉄化合物およびレモンバームを含有する組成物。
【請求項3】
鉄化合物およびレモンバームを含有する抗糖化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗糖化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
還元糖とアミノ化合物(アミノ酸、タンパク質等)が共存する場合に起こる代表的な非酵素的反応としてメイラード反応が知られている。食品分野では、焼き色や香気などに関与して付加価値を高める効果をもたらす一方、この反応は加熱調理を伴わない食品の保存の際にも起こるため、素材や調理・加工直後の色・香りを重視する食品にとって、品質低下を招く原因の1つにもなっている。
【0003】
生体内でもアミノ酸やタンパクと還元糖の非酵素的な化学反応によりさまざまなタンパクで糖化が生じることが知られている。糖化したタンパクはカルボニル化合物を中心とする糖化反応中間体を経て、糖化最終生成物(advanced glycation end products: AGEs)に至る。AGEsには架橋形成を伴うものがある。このため糖化ストレスはさまざまな組織や細胞に生理的、物理的障害を及ぼす。さらに AGEs はその受容体である RAGE(receptorfor AGEs)などと結合し、細胞内シグナル伝達により炎症を惹起することが知られている。
【0004】
糖化ストレスは老化危険因子の一つである。その影響が最も顕著に現れた病態が糖尿病であり、糖尿病の三大合併症である神経障害、網膜症、腎症では組織中に AGEsが大量に蓄積している。また、糖化による AGEsの生成・蓄積は、糖尿病合併症だけでなく、加齢に伴い増加する皮膚老化 、認知症、高血圧、動脈硬化症、骨粗鬆症などの進展にも関与し、AGEs生成の低減効果はアンチエイジングにつながると考えられている。このため化粧品・健康食品の分野では「抗糖化」をキーワードとした素材、製品、サービスが注目を集めている。
今までに、シャクヤクの花部のエタノール抽出物に抗糖化作用があることが見いだされ、アンチエイジングに効果があることが報告されている(特許文献1)。
【0005】
一方、ミネラルはカルシウム、リン、カリウム、ナトリウム、硫黄、マグネシウム、鉄、銅、亜鉛、セレン、マンガン、ヨウ素等が知られているが、タンパク質、炭水化物、脂肪、ビタミンとともに5大栄養素の一つであり、主に生体内で生体組織(骨や歯等)の構成成分、体液の恒常性維持(pHや浸透圧調節等)、酵素の補助因子、神経や筋肉、心臓の興奮性の調節、生理活性物質の構成成分となり、重要な役割を果たしている。
【0006】
すなわち、ヒトが健康を維持するためには、毎日多種類のミネラル摂取が不可欠である。特に鉄についてはその不足が貧血を引き起こすことはよく知られている。しかし、糖化産物の生成阻害に関し、ミネラル、特に鉄の影響についての研究はほとんどなされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】生活衛生ニュース, (株)静環検査センター,3(10),2016
【非特許文献2】八木雅之ほか, オレオサイエンス, 18(2), 17-23,2018
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、抗糖化剤、及び、抗糖化作用を顕著に向上した組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鉄化合物の糖化産物生成への影響を検討した結果、驚くべきことに鉄化合物が抗糖化作用を有することを見出した。
また、鉄化合物に加えて特定の素材を配合することにより、飛躍的に抗糖化作用が向上することを発見した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の通りのものである。
(1)鉄化合物を含有する抗糖化剤。
(2)鉄化合物およびレモンバームを含有する組成物。
(3)鉄化合物およびレモンバームを含有する抗糖化剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた抗糖化剤が得られる。また、本発明の抗糖化剤又は組成物を用いることにより、生体内での糖化を防ぎ、糖化による種々の症状や疾患を予防/治療することができる。加えて、飲食品等の組成物中に含まれるアミノ酸化合物の糖化を抑制することができ、その結果、飲食品等の品質を安定に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施例におけるクエン鉄アンモニウムの糖化度を示したグラフである。
【
図2】
図2は、実施例におけるピロリン酸第二鉄の糖化度を示したグラフである。
【
図3】
図3は、実施例におけるクエン酸鉄アンモニウムとレモンバームの糖化度を示したグラフである。
【
図4】
図4は、実施例におけるピロリン酸第二鉄とレモンバームの糖化度を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の鉄化合物とは、例えばフマル酸第一鉄、塩化第二鉄、クエン酸鉄、クエン酸鉄アンモニウム、クエン酸鉄ナトリウム、グルコン酸第一鉄、乳酸鉄、ピロリン酸第一鉄、ピロリン酸第二鉄、硫酸第一鉄、ヘム鉄、三二酸化鉄、及び鉄クロロフィリンナトリウムを挙げることができる。
【0015】
本発明のレモンバームとは、シソ科コウスイハッカ属のレモンバーム(別名:メリッサ、学名:Melissa officinalis)の葉に由来する生薬又は植物であり、生薬末又は植物末、生薬エキス又は植物エキスの形で使用される。本発明に用いる生薬末又は植物末としては、例えば乾燥刻み加工品を更に細かく粉砕した粉末状の乾燥品としてもよい。
【0016】
本発明に用いるレモンバームエキスは、水、低級脂肪族アルコール(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなど)、多価アルコール(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリンなど)、低級脂肪族ケトン(アセトンなど)などの溶媒や前記溶媒の混液により抽出したものを使用することができるが、このうち水、低級脂肪族アルコール、多価アルコール又はこれらの混液で抽出することが最も好ましい。
【0017】
また、エキスの形態は特に制限されるものではなく、加熱処理、凍結乾燥あるいは減圧乾燥、デキストリン等の賦形剤を加えた粉末化などの処理により、乾燥エキス末、エキス末、軟エキス、流エキスなどにすることができる。レモンバームエキスの市販品としては、丸善製薬(株)の「レモンバームエキスA」、「レモンバームエキスパウダーMF」、一丸ファルコス(株)の「ファルコレックス メリッサB」等が挙げられる。
【0018】
本発明の抗糖化剤は、優れた抗糖化作用を有するため、例えば、皮膚適用製剤または経口組成物に配合するのに好適である。皮膚適用製剤の剤形としては、ローション剤、クリーム剤、パッチ剤、スプレー剤、ゲル、軟膏、化粧水、乳液、美容液等が挙げられる。これらは、公知の方法で製造することができる。経口組成物の剤形としては、錠剤、粉末剤、散剤、顆粒剤、液剤、カプセル剤、ドライシロップ剤、ゼリー剤、液状食品、半固形食品、固形食品等が挙げられる。製造に際しては、本発明の効果を損なわない範囲で、医薬部外品、医薬品、飲食品、試薬又は化粧品に含有可能な種々の添加物を配合することができる。
【0019】
なお、好ましくはヒトに対して適用されるものであるが、作用効果が奏される限りヒト以外の動物に対して適用することもできる。また、本実施形態の抗糖化剤は、優れた抗糖化作用を有するので、糖化反応に関連する研究、例えばAGEsの形成機構やAGEsの分解機構に関連する研究のための試薬としても好適に利用することができる。
【0020】
本発明の組成物は、抗糖化作用を有することから、糖化が原因とされている種々の症状の予防/ 治療を目的として使用することができる。このような症状としては、例えば、老化、糖尿病及びその合併症、骨粗鬆症、アルツハイマー型認知症、高脂血症、動脈硬化、高血圧、肥満、肌のシワ、肌のシミ、肌のたるみ、肌の弾力低下、肌のくすみ、白内障等があげられる。したがって、本発明の組成物は、抗糖化組成物や抗老化組成物、美容組成物として用いることができる。また、本発明を用いることにより、飲食品の組成物中における糖化反応が抑制され、品質安定性の高いものを提供することができる。
【0021】
本発明の組成物における鉄化合物の配合量は特に制限されるものではないが、化粧品、医薬部外品、医薬品、飲食品又は試薬で提供する場合、それぞれ組成物全体に対して0.000001~10質量%、好ましくは0.0001~5質量%、より好ましくは0.001~1質量%である。
また、本発明の組成物におけるレモンバームの配合量は特に制限されるものではないが、化粧品、医薬部外品、医薬品、飲食品又は試薬で提供する場合、それぞれ組成物全体に対して0.000001~10質量%、好ましくは0.0001~5質量%、より好ましくは0.001~1質量%である。
【0022】
本発明の抗糖化剤やその説明書は、抗糖化作用のために用いられる旨の表示を付したものであり得る。ここで、「表示を付した」とは、抗糖化剤を含む製品の本体、容器、包装などに記載すること、あるいは製品情報を開示する説明書、添付文書、パンフレット、その他の印刷物などの書類に記載すること、及び各種チラシ、インターネットを含む宣伝のために用いられる広告に記載することを含む。また、他の機能がある旨を表示したもの、又は、機能に関する表示がないものであっても、抗糖化作用を実質的に有するものが本発明の範囲に含まれる。
【実施例0023】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0024】
<試験方法>
中和コラーゲン溶液を氷冷し、1wellあたり50μLずつ96wellプレート(black plate)に分注した。96wellプレートの蓋をして、湿潤下の37℃インキュベーターで一晩静置した。緩衝液で適切な濃度に溶解した試験物質をコラーゲンゲル上に40μL添加した。全てのwellに500mMグリセルアルデヒド溶液を10μL添加し、プレートをプレートミキサーで撹拌した。グリセルアルデヒド溶液添加後5分以内に蛍光プレートリーダーを用いて励起波長370nm、蛍光波長440nmでの蛍光強度を測定した(蛍光強度A)。湿潤下の37℃インキュベーターで24時間静置後、蛍光プレートリーダーを用いて励起波長 370nm、蛍光波長440nmでの蛍光強度を測定し(蛍光強度B)、蛍光強度B-蛍光強度A を求めて、各wellの糖化度とした。
【0025】
被験物質として以下のものを用いた。
・鉄化合物として、クエン酸鉄アンモニウム及びピロリン酸第二鉄
・レモンバームとして、レモンバームの葉及び茎の熱水抽出物の粉末(市販品)
<試験結果>
図1~2から、鉄化合物は濃度依存的に糖化度を減弱させた。
図3~4から、レモンバームには抗糖化作用は認められなかったが、鉄化合物と併用することにより、鉄化合物の抗糖化作用を顕著に向上させた。