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特開2023-158697水分散型粘着剤組成物および粘着シート
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  • 特開-水分散型粘着剤組成物および粘着シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158697
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】水分散型粘着剤組成物および粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 201/00 20060101AFI20231024BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20231024BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20231024BHJP
【FI】
C09J201/00
C09J11/06
C09J7/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068622
(22)【出願日】2022-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】澤村 周
(72)【発明者】
【氏名】山本 修平
(72)【発明者】
【氏名】下北 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】松本 駿汰
(72)【発明者】
【氏名】稲井 康仁
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA10
4J004AA17
4J004AB01
4J004FA08
4J040DF001
4J040JA03
4J040JB09
4J040KA23
4J040KA25
4J040KA26
4J040LA01
4J040NA19
(57)【要約】
【課題】フィルタリング時の低粘度性と塗工工程での適度な粘度回復性とを両立しつつ粘着力を確保するのに適した水分散型粘着剤組成物、および、当該組成物から形成された粘着剤層を有する粘着シートを提供する。
【解決手段】本発明の水分散型粘着剤組成物は、水分散型ポリマーと、カルボン酸系共重合体増粘剤と、ポリアクリル酸増粘剤と、水とを含有する。水分散型粘着剤組成物の固形分におけるカルボン酸系共重合体増粘剤の割合は、0.1質量%以上1.5質量%以下である。同固形分におけるポリアクリル酸増粘剤の割合は、1質量%以上3.7質量%以下である。本発明の粘着シートXは、このような水分散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層10を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分散型ポリマーと、カルボン酸系共重合体増粘剤と、ポリアクリル酸増粘剤と、水とを含有する水分散型粘着剤組成物であって、
前記水分散型粘着剤組成物の固形分における前記カルボン酸系共重合体増粘剤の割合が0.1質量%以上1.5質量%以下であり、
前記固形分における前記ポリアクリル酸増粘剤の割合が1質量%以上3.7質量%以下である、水分散型粘着剤組成物。
【請求項2】
前記固形分における前記カルボン酸系共重合体増粘剤および前記ポリアクリル酸増粘剤の合計割合が2質量%以上4.2質量%以下である、請求項1に記載の水分散型粘着剤組成物。
【請求項3】
せん断速度4s-1および30℃の条件での粘度が0.8Pa・s以下である、請求項1に記載の水分散型粘着剤組成物。
【請求項4】
せん断速度1×10-1および30℃の条件でのせん断の後、せん断速度4s-1および30℃の条件での粘度が0.9Pa・s以上1.5Pa・s以下である、請求項1に記載の水分散型粘着剤組成物。
【請求項5】
前記水分散型粘着剤組成物が粘着付与剤を更に含有する、請求項1に記載の水分散型粘着剤組成物。
【請求項6】
前記水分散型粘着剤組成物がレベリング剤を更に含有する、請求項1に記載の水分散型粘着剤組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一つに記載の粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する粘着シート。
【請求項8】
前記粘着剤層が40μm以下の厚さを有する、請求項7に記載の粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分散型粘着剤組成物および粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイパネルは、例えば、画素パネル、偏光フィルム、タッチパネルおよびカバーフィルムなどの要素を含む積層構造を有する。そのようなディスプレイパネルの製造過程では、積層構造に含まれる要素どうしの接合のために、例えば、光学的に透明な粘着シートが用いられる。そして、モバイルデバイスおよびウェアラブルデバイスなどのパーソナルデバイスのディスプレイパネル用途の粘着シートについては、環境対策の目的に加えて、人体への有機溶剤の影響を回避するため、水分散型粘着剤組成物から形成される粘着シートの開発が進められている。水分散型粘着剤組成物に関する技術については、例えば、下記の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-134274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の粘着シートは、例えば次のようにして製造される。まず、溶媒としての水と、水分散型のベースポリマーと、必要に応じて配合される各種成分(水分散型粘着付与樹脂、レベリング剤、消泡剤、増粘剤など)とを混合して、水分散型粘着剤組成物を調製する。次に、水分散型粘着剤組成物をフィルターによってろ過する(フィルタリング工程)。次に、プラスチック基材上に、塗工機によって水分散型粘着剤組成物を塗布して塗膜を形成する(塗工工程)。次に、プラスチック基材上の塗膜を乾燥して粘着剤層を形成する。
【0005】
ディスプレイパネル用途の粘着シートには、高いクリーン度が求められる。そのため、上述のフィルタリング工程では、水分散型粘着剤組成物から微小異物を除去するための、孔径が小さいフィルターが、用いられる。このようなフィルタリング時のフィルター通液性の観点からは、水分散型粘着剤組成物の粘度は低い方がよい。
【0006】
一方、上述の塗工工程では、水分散型粘着剤組成物は、塗工機によってプラスチック基材上に塗布される。塗工時には、水分散型粘着剤組成物には比較的大きなせん断力が作用し、当該組成物の粘度は一時的に低下する。プラスチック基材上に塗布された後、水分散型粘着剤組成物は、せん断力から解放されてその粘度が回復する。しかし、粘度回復直後の水分散型粘着剤組成物の粘度が低すぎる場合、水分散型粘着剤組成物がプラスチック基材上で、はじかれる(ハジキの発生)。塗工工程において、ハジキの抑制の観点からは、水分散型粘着剤組成物の粘度回復直後の粘度は高い方がよい。また、水分散型粘着剤組成物の粘度回復直後の粘度が高すぎる場合、塗工された水分散型粘着剤組成物に塗工痕がスジ状に残る。塗工痕の抑制の観点からは、水分散型粘着剤組成物の粘度回復直後の粘度は高すぎない方がよい。
【0007】
また、水分散型粘着剤組成物から形成された粘着シートには、被着体間の接合信頼性を確保するための粘着力も求められる。
【0008】
本発明は、フィルタリング時の低粘度性と塗工工程での適度な粘度回復性とを両立しつつ粘着力を確保するのに適した水分散型粘着剤組成物、および、当該組成物から形成された粘着剤層を有する粘着シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明[1]は、水分散型ポリマーと、カルボン酸系共重合体増粘剤と、ポリアクリル酸増粘剤と、水とを含有する水分散型粘着剤組成物であって、前記水分散型粘着剤組成物の固形分における前記カルボン酸系共重合体増粘剤の割合が0.1質量%以上1.5質量%以下であり、前記固形分における前記ポリアクリル酸増粘剤の割合が1質量%以上3.7質量%以下である、水分散型粘着剤組成物を含む。
【0010】
本発明[2]は、前記固形分における前記カルボン酸系共重合体増粘剤および前記ポリアクリル酸増粘剤の合計割合が2質量%以上4.2質量%以下である、上記[1]に記載の水分散型粘着剤組成物を含む。
【0011】
本発明[3]は、せん断速度4s-1および30℃の条件での粘度が0.8Pa・s以下である、上記[1]または[2]に記載の水分散型粘着剤組成物を含む。
【0012】
本発明[4]は、せん断速度1×10-1および30℃の条件でのせん断の後、せん断速度4s-1および30℃の条件での粘度が0.9Pa・s以上1.5Pa・s以下である、上記[1]から[3]のいずれか一つに記載の水分散型粘着剤組成物を含む。
【0013】
本発明[5]は、前記水分散型粘着剤組成物が粘着付与剤を更に含有する、上記[1]から[4]のいずれか一つに記載の水分散型粘着剤組成物を含む。
【0014】
本発明[6]は、前記水分散型粘着剤組成物がレベリング剤を更に含有する、上記[1]から[5]のいずれか一つに記載の水分散型粘着剤組成物を含む。
【0015】
本発明[7]は、上記[1]から[6]のいずれか一つに記載の粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する粘着シートを含む。
【0016】
本発明[8]は、前記粘着剤層が40μm以下の厚さを有する、上記[7]に記載の粘着シートを含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明の水分散型粘着剤組成物は、上記のように、水分散型ポリマーおよび水に加えて、0.1~1.5質量%(固形分中の割合)のカルボン酸系共重合体増粘剤と、1~3.7質量%のポリアクリル酸系増粘剤とを含有する。このような水分散型粘着剤組成物は、フィルタリング時の低粘度性と塗工工程での適度な粘度回復性とを両立しつつ、粘着力を確保するのに適する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の粘着シートの一実施形態における断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態である水分散型粘着剤組成物は、水分散型ポリマーと、カルボン酸系共重合体増粘剤(carboxylic acid copolymer thickener)と、ポリアクリル酸増粘剤と、水とを含有する水性エマルションである。
【0020】
水分散型ポリマーとしては、例えば、水分散型のアクリルポリマー、水分散型のウレタン系ポリマー、水分散型のポリアニリン系ポリマー、および、水分散型のポリエステル系ポリマーが挙げられ、好ましくは、水分散型のアクリルポリマーが用いられる。当該アクリルポリマーは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを50質量%以上の割合で含むモノマー成分の重合体である。「(メタ)アクリル」は、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
【0021】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、直鎖状または分岐状の炭素数1~20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。そのような(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸イソトリドデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸イソテトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸イソオクタデシル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、および(メタ)アクリル酸エイコシルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、好ましくは、炭素数1~12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが用いられ、より好ましくは、アクリル酸メチルと炭素数2~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルとが用いられ、更に好ましくは、アクリル酸メチルとアクリル酸2-エチルヘキシルとが用いられる。
【0022】
モノマー成分における(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合は、水分散型粘着剤組成物から形成される粘着剤層において粘着性等の基本特性を適切に発現させる観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上であり、また、好ましくは99.5質量%以下、より好ましくは99質量%以下である。
【0023】
モノマー成分は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な共重合性モノマーを含んでいてもよい。共重合性モノマーとしては、例えば、極性基含有モノマーが挙げられる。極性基含有モノマーとしては、例えば、カルボキシ基含有モノマー、ヒドロキシ基含有モノマー、窒素原子含有環を有するモノマー、シラノール基含有モノマー、スルホ基含有モノマー、シアノ基含有モノマー、およびグリシジル基含有モノマーが挙げられる。極性基含有モノマーは、アクリルポリマーの凝集力の確保など、アクリルポリマーの改質に役立つ。共重合性モノマーは、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。
【0024】
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリル酸2-カルボキシエチル、(メタ)アクリル酸カルボキシペンチル、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、およびクロトン酸が挙げられる。モノマー成分は、水分散型粘着剤組成物から形成される粘着剤層の粘着性を確保する観点から、好ましくはカルボキシ基含有モノマーを含み、より好ましくは、アクリル酸またはメタクリル酸を含み、特に好ましくはアクリル酸およびメタクリル酸を併用する。
【0025】
モノマー成分におけるカルボキシ基含有モノマーの割合は、水分散型粘着剤組成物から形成される粘着剤層の凝集力を確保する観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上である。モノマー成分におけるカルボキシ基含有モノマーの割合は、酸による被着体の腐食リスクの回避の観点から、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
【0026】
水酸基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8-ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10-ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12-ヒドロキシラウリル、および(4-ヒドロキシメチルシクロへキシル)メチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0027】
窒素原子含有環を有するモノマーとしては、例えば、N-ビニル-2-ピロリドン、N-メチルビニルピロリドン、N-ビニルピリジン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルピリミジン、N-ビニルピペラジン、N-ビニルピラジン、N-ビニルピロール、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルオキサゾール、N-(メタ)アクリロイル-2-ピロリドン、N-(メタ)アクリロイルピペリジン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン、N-ビニルモルホリン、N-ビニル-3-モルホリノン、N-ビニル-2-カプロラクタム、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン、N-ビニルピラゾール、N-ビニルイソオキサゾール、N-ビニルチアゾール、N-ビニルイソチアゾール、およびアクリロイルモルフォリンが挙げられる。
【0028】
シラノール基含有モノマーとしては、例えば、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランおよび3-アクリルオキシプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0029】
スルホ基含有モノマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸ナトリウム、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、および(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸が挙げられる。
【0030】
リン酸基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェートが挙げられる。
【0031】
シアノ基含有モノマーとしては、例えば、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが挙げられる。
【0032】
グリシジル基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルおよび(メタ)アクリル酸-2-エチルグリシジルエーテルが挙げられる。
【0033】
水分散型アクリルポリマーは、例えば、上述のモノマー成分を乳化重合させることによって形成できる。乳化重合においては、例えば、まず、モノマー成分と、乳化剤と、水とを含む混合物を撹拌してモノマーエマルションを調製する。次に、モノマーエマルションに重合開始剤を添加して重合反応を開始する。この重合反応には、アクリルポリマーの分子量を調整するために連鎖移動剤を用いてもよい。重合方式としては、滴下重合であってもよいし、一括重合であってもよい。重合時間は、例えば0.5~10時間である。重合温度は、例えば50℃~80℃である。
【0034】
乳化剤としては、例えば、アニオン乳化剤、ノニオン乳化剤、およびラジカル重合性乳化剤(反応性乳化剤)が挙げられる。
【0035】
アニオン乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、および、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸ナトリウムが挙げられる。
【0036】
ノニオン乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、および、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック重合体が挙げられる。
【0037】
ラジカル重合性乳化剤(反応性乳化剤)としては、例えば、上記アニオン乳化剤または上記ノニオン乳化剤にラジカル重合性官能基が導入された乳化剤が挙げられる。このラジカル重合性官能基としては、例えば、ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ビニルエーテル基、およびアリルエーテル基が挙げられる。反応性乳化剤としては、具体的には、アンモニウム-α-スルホナト-ω-1-(アリルオキシメチル)アルキルオキシポリオキシエチレンが好ましい。乳化剤として反応性乳化剤が用いられる場合、乳化重合によって得られる水分散型アクリルポリマーは、反応性乳化剤に由来するモノマーユニットを含む。すなわち、乳化剤がアクリルポリマーに取り込まれている。そのため、水分散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層が被着体に貼着された場合、被着体が乳化剤(低分子量成分)によって汚染されることを抑制できる。
【0038】
乳化剤は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。乳化剤の配合量は、モノマー成分100質量部に対して、例えば0.5質量部以上であり、また、例えば5質量部以下である。
【0039】
重合開始剤としては、例えば、アゾ重合開始剤および過酸化物重合開始剤が挙げられる。アゾ重合開始剤としては、例えば、2,2'-アゾビス{2-[N-(2-カルボキシエチル)アミジノ]プロパン}、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2'-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、および、2,2'-アゾビス(N,N'-ジメチレンイソブチルアミジン)が挙げられる。過酸化物重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、および過酸化水素が挙げられる。重合開始剤は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。重合開始剤の配合量は、モノマー成分100質量部に対して、例えば0.01質量部以上であり、また、例えば2質量部以下である。
【0040】
連鎖移動剤としては、例えば、グリシジルメルカプタン、メルカプト酢酸、2-メルカプトエタノール、t-ラウリルメルカプタン、t-ドデカンチオール、チオグリコール酸、チオグリコール酸2-エチルヘキシル、および、2,3-ジメルカプト-1-プロパノールが挙げられる。連鎖移動剤は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。連鎖移動剤の配合量は、モノマー成分100質量部に対して、例えば0.001質量部以上であり、また、0.5質量部以下である。
【0041】
このような乳化重合により、水分散型アクリルポリマーはポリマーエマルション(水分散型アクリルポリマーが水に分散されている水分散液)として調製される。
【0042】
水分散型アクリルポリマーの重量平均分子量(Mw)は、例えば100000以上、好ましくは300000以上であり、また、例えば5000000以下、好ましくは3000000以下である。アクリルポリマーの重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)によって測定してポリスチレン換算により算出される。
【0043】
水分散型ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、例えば20℃以下であり、好ましくは0℃以下である。
【0044】
カルボン酸系共重合体増粘剤は、カルボン酸系共重合体からなるエマルションタイプの増粘剤である。カルボン酸系共重合体は、例えば、カルボキシ基含有アクリルモノマーを含むモノマー成分の共重合体である。カルボン酸系共重合体増粘剤の市販品としては、例えば、東亜合成社製の「アロンB-300K」、「アロンB-500」、「アロンA-7055」および「アロンA-7075」が挙げられ、好ましくは「アロンB-500」が用いられる。カルボン酸系共重合体増粘剤の市販品(水溶液品)の1%希釈液の、BM型粘度計によって25℃、pH8~9および60rpmの条件で測定される粘度は、好ましくは10000mPa・s以下、より好ましくは1200mPa・s以下であり、また、好ましくは10mPa・s以上、より好ましくは1000mPa・s以上である。カルボン酸系共重合体増粘剤は、単独で用いられてもよいし二種類以上が併用されてもよい。
【0045】
水分散型粘着剤組成物の固形分におけるカルボン酸系共重合体増粘剤の割合は、水分散型粘着剤組成物においてカルボン酸系共重合体増粘剤による増粘の確保の観点から、0.1質量%以上であり、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上である。水分散型粘着剤組成物の固形分におけるカルボン酸系共重合体増粘剤の割合は、水分散型粘着剤組成物においてカルボン酸系共重合体増粘剤による過度の増粘を避ける観点から、1.5質量%以下であり、好ましくは1.3質量%以下、より好ましくは1.1質量%以下、更に好ましくは0.9質量%以下である。水分散型粘着剤組成物の固形分とは、水分散型粘着剤組成物における水以外の成分であり、具体的には、水分散型ポリマーと、カルボン酸系共重合体増粘剤と、ポリアクリル酸増粘剤と、必要に応じて配合される他の成分(レベリング剤および粘着付与剤など)とを合わせたものである。
【0046】
ポリアクリル酸増粘剤としては、例えば、ポリアクリル酸(アクリル酸のホモポリマー)、ポリアクリル酸ナトリウム、およびポリアクリル酸アンモニウムが挙げられる。ポリアクリル酸増粘剤の市販品としては、例えば、東亜合成社製の「アロンA-10H」(ポリアクリル酸)、「アロンA-20L」(ポリアクリル酸ナトリウム)、「アロンA-7100」(ポリアクリル酸ナトリウム)、「アロンA-30」(ポリアクリル酸アンモニウム)、および「アロンA-7195」(ポリアクリル酸ナアンモニウム)が挙げられ、好ましくは「アロンA-10H」が用いられる。ポリアクリル酸増粘剤の市販品(水溶液品)の25℃での粘度は、好ましくは50000mPa・s以下、より好ましくは40000mPa・s以下であり、また、好ましくは1000mPa・s以上、好ましくは5000mPa・s以上である。ポリアクリル酸増粘剤は、単独で用いられてもよいし二種類以上が併用されてもよい。このような粘度を示すポリアクリル酸増粘剤の分子量は、好ましくは100万以下、より好ましくは60万以下であり、また、好ましくは5万以上、より好ましくは10万以上である。
【0047】
水分散型粘着剤組成物の固形分におけるポリアクリル酸増粘剤の割合は、水分散型粘着剤組成物においてポリアクリル酸増粘剤による増粘の確保の観点から、1質量%以上であり、好ましくは1.4質量%以上、より好ましくは1.8質量%以上、更に好ましくは2質量%以上である。水分散型粘着剤組成物の固形分におけるポリアクリル酸増粘剤の割合は、水分散型粘着剤組成物においてポリアクリル酸増粘剤による過度の増粘を避ける観点から、3.7質量%以下であり、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2.8質量%以下、更に好ましくは2.6質量%以下である。
【0048】
水分散型粘着剤組成物の固形分におけるカルボン酸系共重合体増粘剤およびポリアクリル酸増粘剤の合計割合は、後記の第1粘度ηおよび第2粘度ηのバランスの観点から、好ましくは2質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上、更に好ましくは2.7質量%以上であり、また、好ましくは4.2質量%以下、より好ましくは3.5質量%以下、更に好ましくは2.9質量%以下である。
【0049】
水分散型粘着剤組成物は、他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、レベリング剤、粘着付与剤、シランカップリング剤、防腐剤、界面活性剤、架橋剤、および帯電防止剤が挙げられる。
【0050】
レベリング剤としては、例えば、「ネオコールSW-C」(ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム,第一工業製薬社製)、「ネオコールP」(ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム,第一工業製薬社製)、「サーフィノール420」(アセチレングリコールエチレンオキシド系界面活性剤,日信化学工業社製)、および、「ペレックスOT-P」(ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム,花王社製)が挙げられる。また、レベリング剤としては、「ノプコウエット50」(スルホン酸系アニオン性界面活性剤)、「SNウエット126」(変性シリコーン/特殊ポリエーテル系の界面活性剤)、「SNウエットFST2」(ポリオキシアルキレンアミンの非イオン系湿潤剤)、「SNウエットS」(ポリオキシアルキレンアミンエーテルの非イオン系湿潤剤)、および「SNウエット125」(変性シリコーン系界面活性剤)も挙げられる(いずれもサンノプコ社製)。レベリング剤は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。水分散型粘着剤組成物における良好なレベリング性確保の観点から、レベリング剤は、好ましくは、「ネオコールSW-C」、「ネオコールP」および「ペレックスOT-P」から選択される少なくとも一つが用いられる。
【0051】
レベリング剤の配合量は、水分散型粘着剤組成物のハジキ抑制の観点から、水分散型ポリマー100質量部に対し、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは0.8質量部以上である。レベリング剤の配合量は、水分散型粘着剤組成物の粘着特性確保の観点から、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下、更に好ましくは1質量部以下である。
【0052】
粘着付与剤としては、例えば、ロジン系樹脂、ロジン誘導体樹脂、石油系樹脂、テルペン系樹脂、フェノール系樹脂、ケトン系樹脂などの粘着付与剤樹脂が挙げられる。粘着付与剤の配合量は、水分散型粘着剤組成物の粘度と、同組成物から形成される粘着剤層の粘着性とのバランスの観点から、水分散型ポリマー100質量部に対し、好ましくは5質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは20質量部以上、特に好ましくは25質量部以上であり、また、好ましくは50質量部以下、より好ましくは45質量部以下、更に好ましくは40質量部以下である。
【0053】
シランカップリング剤としては、例えば、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、および3-メタクリルオキシプロピルトリエトキシシランが挙げられ、好ましくは3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが用いられる。シランカップリング剤の配合量は、水分散型ポリマー100質量部に対し、例えば0.005質量部以上であり、また、例えば1質量部以下である。
【0054】
水分散型粘着剤組成物は、有機溶剤を含有しない。このような水分散型粘着剤組成物は、環境負荷軽減の観点から好ましい。
【0055】
水分散型粘着剤組成物は、例えば、水分散型ポリマーの乳化重合液に各種成分を添加することによって調製できる。また、水分散型粘着剤組成物は、その水含有量が増減されて固形分濃度が調整される。
【0056】
水分散型粘着剤組成物の固形分濃度は、後記の第1粘度ηおよび第2粘度ηのバランスの観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、特に好ましくは25質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下、一層好ましくは30質量%以下、特に好ましくは27質量%以下である。
【0057】
水分散型粘着剤組成物における、せん断速度4s-1および30℃の条件での粘度(第1粘度η)は、後記のフィルタリング工程でのフィルター通過性の確保の観点から、好ましくは0.8Pa・s以下、より好ましくは0.7Pa・s以下、更に好ましくは0.6Pa・s以下である。第1粘度ηは、フィルター通過後に基材上に塗工される時にハジキを抑制する観点から、好ましくは0.1Pa・s以上、より好ましくは0.3Pa・s以上、より好ましくは0.5Pa・s以上である。第1粘度ηの測定方法は、実施例に関して後述するとおりである。
【0058】
水分散型粘着剤組成物における、せん断速度1×10-1および30℃の条件でのせん断の後、せん断速度4s-1および30℃の条件での粘度(第2粘度η)は、後記の塗工工程でのハジキおよびスジの抑制の観点から、好ましくは0.9Pa・s以上、より好ましくは1.0Pa・s以上である。第2粘度ηは、塗工工程におけるスジ痕の抑制の観点から、好ましくは1.5Pa・s以下、より好ましくは1.3Pa・s以下、更に好ましくは1.2Pa・s以下である。第2粘度ηの測定方法は、実施例に関して後述するとおりである。
【0059】
フィルタリング工程でのフィルター通過性の確保と、塗工工程でのハジキおよびスジの抑制とのバランスの観点から、第1粘度ηに対する第2粘度ηの比率(η/η)は、好ましくは1.6以上、より好ましくは1.7以上であり、また、好ましくは3以下、より好ましくは2.5以下、更に好ましくは2未満、特に好ましくは1.9以下である。
【0060】
水分散型粘着剤組成物は、上述のように、水分散型ポリマーおよび水に加えて、0.1~1.5質量%(固形分中の割合)のカルボン酸系共重合体増粘剤と、1~3.7質量%のポリアクリル酸系増粘剤とを含有する。このような水分散型粘着剤組成物は、フィルタリング時の低粘度性と塗工工程での適度な粘度回復性とを両立しつつ、粘着力を確保するのに適する。具体的には、後記の実施例および比較例をもって示すとおりである。
【0061】
図1は、本発明の一実施形態としての粘着シートXの断面模式図である。粘着シートXは、粘着剤層10を有する。粘着剤層10は、所定の厚さのシート形状を有する。粘着剤層10は、厚さ方向と直交する方向(面方向)に広がる。粘着剤層10は、粘着面11と、当該粘着面11とは反対側の粘着面12とを有する。図1は、粘着剤層10の粘着面11,12にはく離ライナーL1,L2が貼り合わされている状態を、例示的に示す。はく離ライナーL1は、粘着面11上に配置されている。はく離ライナーL2は、粘着面12上に配置されている。また、粘着シートXは、例えば、ディスプレイパネルにおける光通過箇所に配置される光学粘着シートである。ディスプレイパネルとしては、例えば、モバイルデバイスおよびウェアラブルデバイスなどのパーソナルデバイスのディスプレイパネルが挙げられる。ディスプレイパネルは、例えば、画素パネル、偏光フィルム、タッチパネル、およびカバーガラスなどの要素を含む積層構造を有する。粘着シートXは、例えば、ディスプレイパネルの製造過程において、積層構造に含まれる要素どうしの接合に用いられる。
【0062】
粘着剤層10は、上述の水分散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層である。粘着剤層10の厚さは、ハンドリング性および加工性の観点から、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、更に好ましくは30μm以下、特に好ましくは20μm以下である。粘着剤層10の厚さは、被着体に対する充分な粘着性を確保する観点から、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは10μm以上である。
【0063】
はく離ライナーL1,L2は、粘着シートX(粘着剤層10)を被覆して保護するための要素であり、粘着シートXの使用時に粘着シートXから剥がされる。はく離ライナーL1は、例えば、可撓性を有するプラスチックフィルムである。当該プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、およびポリエステルフィルムが挙げられる。はく離ライナーL1,L2の厚さは、例えば3μm以上であり、また、例えば200μm以下である。はく離ライナーL1,L2の表面は、好ましくは剥離処理されている。
【0064】
粘着シートXは、例えば次のようにして製造できる。
【0065】
まず、上述の水分散型粘着剤組成物をフィルターによってろ過する(フィルタリング工程)。ろ過用のフィルターの目開きサイズとしては、例えば、188μm、154μm、109μm、75μm、50μm、25μm、10μm、5μm、3μm、2μm、および1μmが挙げられる。
【0066】
次に、はく離ライナーL1上に、上述の水分散型粘着剤組成物を塗工機によって塗布して塗膜を形成する(塗膜形成工程)。塗布方法としては、例えば、ロールコート、キスロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、ディップロールコート、バーコート、ナイフコート、エアーナイフコート、カーテンコート、リップコート、およびダイコートが挙げられる。本工程では、塗布方法に応じた塗工機を使用する。
【0067】
次に、はく離ライナーL1上の塗膜を乾燥させて粘着剤層10を形成する(乾燥工程)。乾燥温度は、例えば、室温~140℃である。乾燥時間は、例えば1~10分間である。
【0068】
次に、はく離ライナーL1上の粘着剤層10の露出面に、必要に応じて、はく離ライナーL2を貼り合わせる。
【0069】
以上のようにして、水分散型粘着剤組成物から粘着シートXを製造できる。
【0070】
水分散型粘着剤組成物は、上述のように、水分散型ポリマーおよび水に加えて、0.1~1.5質量%(固形分中の割合)のカルボン酸系共重合体増粘剤と、1~3.7質量%のポリアクリル酸系増粘剤とを含有する。このような水分散型粘着剤組成物は、フィルタリング工程での低粘度性と塗工工程での適度な粘度回復性とを両立しつつ、粘着シートXの粘着力を確保するのに適する。
【0071】
フィルタリング工程では、水分散型粘着剤組成物の粘度が低いほど、フィルターに水分散型粘着剤組成物を通過させやすく、フィルタリング工程に要する時間を短縮できる。
【0072】
塗工工程における塗工機による水分散型粘着剤組成物の塗工時には、水分散型粘着剤組成物には比較的大きなせん断力が作用し、当該組成物の粘度は一時的に低下する。プラスチック基材(はく離ライナー)上に塗布された後、水分散型粘着剤組成物は、せん断力から解放されてその粘度が回復する。粘度回復直後の水分散型粘着剤組成物の粘度が低すぎる場合、水分散型粘着剤組成物がプラスチック基材上で、はじかれる(ハジキの発生)。粘度回復直後の粘度が高すぎると、水分散型粘着剤組成物の塗膜にスジが生じる(スジの発生)。しかし、上述の水分散型粘着剤組成物は、塗工後において、適度な粘度回復性を有するので、ハジキの発生およびスジの発生が抑制される。
【実施例0073】
本発明について、以下に実施例を示して具体的に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。また、以下に記載されている配合量(含有量)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上述の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合量(含有量)、物性値、パラメータなどの上限(「以下」または「未満」として定義されている数値)または下限(「以上」または「超える」として定義されている数値)に代替できる。
【0074】
〔実施例1〕
〈水分散型ポリマーの調製〉
容器内で、イオン交換水30質量部と、アクリル酸2-エチルヘキシル85質量部と、アクリル酸メチル13質量部と、アクリル酸1.25質量部と、メタクリル酸0.75質量部と、連鎖移動剤としてのt-ラウリルメルカプタン0.035質量部と、反応性乳化剤(品名「アクアロンKH-1025」,アンモニウム-α-スルホナト-ω-1-(アリルオキシメチル)アルキルオキシポリオキシエチレン,第一工業製薬社製)1.88質量部と、シランカップリング剤(品名「KBM-503」,3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン,信越化学工業社製)0.02質量部とを含む混合物を、ホモミキサーによって撹拌し、モノマーエマルションを調製した。
【0075】
一方、還流冷却管、窒素導入管、温度計および撹拌機を備える反応容器内で、イオン交換水73質量部と、反応性乳化剤(アクアロンKH-1025)0.07質量部とを含む混合物を、60℃で1時間、窒素雰囲気下にて撹拌した。次に、この混合物に、重合開始剤としての2,2'-アゾビス{2-[N-(2-カルボキシエチル)アミジノ]プロパン}4水和物0.1質量部を加えた後、上述のモノマーエマルションを当該混合物に4時間かけて滴下して乳化重合反応を進行させた。次に、当該反応液を、3時間、60℃に保持した(エージング)。次に、こうして得られた溶液を室温まで冷却した後、10質量%アンモニア水溶液を加えることによって溶液のpHを6.0に調整した。次に、当該溶液に、防腐剤(品名「レバナックス BX-150」,昌栄化学社製)を0.03質量部 加えた。以上のようにして、水分散型ポリマーとして水分散型アクリルポリマーを含有するアクリルポリマーエマルションを調製した。
【0076】
〈水分散型粘着剤組成物の調製〉
アクリルポリマーエマルションに対し、水分散型アクリルポリマー100質量部あたり、カルボン酸系共重合体増粘剤(品名「アロンB-500」,東亞合成社製)1.00質量部(固形分換算値)と、ポリアクリル酸系増粘剤(品名「アロンA-10H」,ポリアクリル酸,重量平均分子量20万,東亞合成社製)3.15質量部(固形分換算値)と、粘着付与剤(品名「タマノルE-200NT」,テルペン系樹脂,荒川化学工業社製)35質量部(固形分換算値)と、レベリング剤(品名「ネオコールSW-C」,ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム,第一工業製薬社製)0.89質量部(固形分換算値)とを加えて混合した。次に、当該混合物を、イオン交換水の添加によって固形分濃度25.5質量%に調整した後、10質量%アンモニア水溶液の添加によってpH9.0に調整した。以上のようにして、実施例1の水分散型粘着剤組成物(固形分濃度25.5質量%)を作製した(表1,2において、組成を表す各数値の単位は「質量部」である)。作製した水分散型粘着剤組成物は、ナイロンメッシュフィルター(品名「N/シャー 4300KK」,厚さ110μm,80メッシュ,目開きサイズ188μm,光洋合繊加工社製)により、ろ過した。
【0077】
〈粘着シートの作製〉
まず、シリコーン剥離処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名「ダイアホイルMRF38」,三菱ケミカル社製)の剥離処理面に、水分散型粘着剤組成物を塗布して塗膜を形成した。次に、PETフィルム上の塗膜を、オーブンで3分間乾燥し、厚さ10μmの粘着剤層を形成した。乾燥温度は100℃とした。以上のようにして、実施例1の粘着シート(PETフィルム付き粘着シート)を作製した。
【0078】
〔実施例2~8,比較例1~10〕
カルボン酸系共重合体増粘剤およびポリアクリル酸増粘剤の各配合量を表1,2に示すように変更したこと以外は、実施例1の水分散型粘着剤組成物と同様にして、実施例2~8および比較例1~10の各水分散型粘着剤組成物を作製した。比較例1,3では、カルボン酸系共重合体増粘剤を用いていない。比較例8~10では、ポリアクリル酸増粘剤を用いていない。
【0079】
カルボン酸系共重合体増粘剤およびポリアクリル酸増粘剤の各配合量を表1,2に示すように変更したこと以外は、実施例1の粘着シートと同様にして、実施例1~8および比較例3~5,7,9の各粘着シート(PETフィルム付き粘着シート)を作製した。
【0080】
カルボン酸系共重合体増粘剤およびポリアクリル酸増粘剤の各配合量を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1の粘着シートの作製作業と同様にして、比較例1,2,6,8,10の粘着シートの作製作業を進めた。しかし、PETフィルム上に塗布された水分散型粘着剤組成物にハジキが生じ、比較例1,2,6,8,10の粘着シートは作製できなかった。
【0081】
〈粘度測定〉
実施例1~8および比較例1~10の各水分散型粘着剤組成物の粘度を測定した。具体的には、次のとおりである。
【0082】
まず、レオメーター粘度計(品名「RheoStress1」,ハーケ社製)により、せん断速度4s-1および30℃の条件で、水分散型粘着剤組成物の粘度を測定した(第1粘度測定)。本測定では、水分散型粘着剤組成物にせん断を加えるローターとして、コーン型ローター(コーンNo.222-1267,コーン径35mm,コーン角度0.5度)を用いた(後記の第2粘度測定においても同様である)。測定された粘度を第1粘度η(Pa・s)として表1,2に示す。
【0083】
続いて、せん断速度を1×10-1に上げ、せん断速度1×10-1および30℃の条件で10秒間、水分散型粘着剤組成物にせん断を加えた。続いて、せん断速度を4s-1に下げ、せん断速度を下げてから3秒後、レオメーター粘度計(RheoStress1)により、せん断速度4s-1および30℃の条件で、水分散型粘着剤組成物の粘度を測定した(第2粘度測定)。測定された粘度を第2粘度η(Pa・s)として表1,2に示す。第1粘度ηに対する第2粘度ηの比率(η/η)も表1,2に示す。
【0084】
〈フィルター通過性〉
実施例1~8および比較例1~10の各水分散型粘着剤組成物のフィルター通過性を調べた。具体的には、水平に配置したナイロンメッシュフィルター(品名「N/シャー 4300KK」,厚さ110μm,80メッシュ,目開きサイズ188μm,光洋合繊加工社製)の上に1mLの水分散型粘着剤組成物をスポイトによって静かに供給(配置)し、同組成物が自重でフィルターを通過するかどうかを観察した。水分散型粘着剤組成物のフィルター通過性について、水分散型粘着剤組成物が自重で3秒以内にフィルターを通過した場合を“良”と評価し、3秒以内に通過しなかった場合を“不良”と評価した。その結果を表1,2に示す。
【0085】
〈濡れ性〉
実施例1~8および比較例1~10の各水分散型粘着剤組成物について、プラスチック基材に対する濡れ性を調べた。具体的には、次のとおりである。
【0086】
まず、シリコーン剥離処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(品名「ダイアホイル MRF38」,三菱ケミカル社製)の剥離処理面に、水分散型粘着剤組成物を塗布し、厚さ約40μmの塗膜を形成した。次に、塗膜を目視で観察した。そして、水分散型粘着剤組成物のはじかれにくさ(ハジキの抑制)について、PET基材上の塗膜(水分散型粘着剤組成物)においてハジキが生じなかった場合を“良”と評価し、ハジキが生じた場合を“不良”と評価した。また、水分散型粘着剤組成物におけるスジの形成されにくさ(スジの抑制)について、PET基材上の塗膜(水分散型粘着剤組成物)においてスジが生じなかった場合を“良”と評価し、スジが生じた場合を“不良”と評価した。その評価結果を表1,2に示す。水分散型粘着剤組成物のはじかれにくさ及びスジの形成されにくさは、水分散型粘着剤組成物の濡れ性の指標となる。比較例1,2,6,8,10の水分散型粘着剤組成物については、PETフィルム上への塗工後にハジキが発生して塗膜を適切に形成できなかったため、塗膜におけるスジの外観確認をできなかった。
【0087】
〈耐落下衝撃試験〉
実施例1~8および比較例3~5,7,9の各粘着シートについて、耐落下衝撃試験によって粘着力を調べた。具体的には、次のとおりである。
【0088】
まず、PETフィルム付き粘着シートに対する打ち抜き加工により、矩形の枠形状のPETフィルム付き粘着シート片(外形24.5mm×24.5mm,幅2mm)を得た。次に、PETフィルム付き粘着シート片を、正方形の第1ステンレスプレート(25mm×25mm,厚さ3mm)の四辺に沿って貼り合わせた。次に、第1ステンレスプレート上の粘着シート片からPETフィルムを剥離した。次に、第1ステンレスプレート上の粘着シートを介して、当該第1ステンレスプレートと、中央に開口部(20mm×20mm)を有する正方形の第2ステンレスプレート(50mm×50mm,厚さ2mm)とを、両プレートにおける平面視での中心位置を合せつつ、圧着力62Nおよび圧着時間10秒間の条件で、圧着させた。これにより、接合体を得た。次に、この接合体を、80℃で30分間、静置した。次に、接合体を23℃まで放冷した。
【0089】
次に、デュポン式衝撃試験機(東洋精機製作所製)のステージ上に、円筒状の受け台(高さ50mm,外径49mm,内径43mm)を設置した後、この受け台の上に上述の接合体を載せた。具体的には、接合体における第2ステンレスプレートが上側に配置され、当該第2ステンレスプレートの下面が受け台の上端に接し、且つ、下側の第1ステンレスプレートが受け台の円筒空洞内に配置されるように、接合体を受け台の上に載せた(第1ステンレスプレートは、第2ステンレスプレートの開口部を介して上方に露出している)。次に、ステンレス製の円柱状の撃ち型(底面直径6.2mm)を、接合体において第2ステンレスプレートの開口部に臨む第1ステンレスプレート上に載せた。
【0090】
そして、デュポン式衝撃試験機により、接合体上の撃ち型に対して おもりを鉛直方向に落下させる耐落下衝撃試験を実施した。各接合体に対する試験では、撃ち型を介して接合体に作用する衝撃のエネルギーが順次に大きくなるように、おもりの質量(50g,100g)と落下高さを変えて、接合体の第1・第2ステンレスプレート間に剥がれが生じるまで、複数回、おもりを落下させた。質量50gのおもりを用いる場合、当該おもりの落下高さを50mmから500mmまで50mmずつ変化させた。その後、質量100gのおもりを用いる場合、当該おもりの落下高さを300mmから500mmまで50mmずつ変化させた。接合体の第1・第2ステンレスプレート間に剥がれが生じる前までに用いたおもりの位置エネルギー[荷重(kg)×重力加速度9.8(m/s)×高さ(m)]の累積値を、耐落下衝撃エネルギー(J)とした。
【0091】
以上の耐落下衝撃試験の3回の試行(n=3)によって得られる耐落下衝撃エネルギーの平均値を、耐落下衝撃エネルギー(J)として表1,2に示す。また、粘着シートの耐落下衝撃性について、耐落下衝撃エネルギーが0.4J以上である場合を“良”と評価し、耐落下衝撃エネルギーが0.4J未満である場合を“不良”と評価した。その結果も表1,2に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
[評価]
実施例1~8の各水分散型粘着剤組成物は、水分散型ポリマーおよび水に加えて、0.1~2.2質量%(固形分中の割合)のカルボン酸系共重合体増粘剤と、1.2~5.2質量%のポリアクリル酸系増粘剤とを含有する。このような水分散型粘着剤組成物は、良好なフィルター通過性を示し、塗工時にハジキおよびスジが抑制され、且つ、良好な耐落下衝撃性を有する粘着シートを形成できた。
【0095】
これに対し、比較例1の水分散型粘着剤組成物(カルボン酸系共重合体増粘剤を含有せず、ポリアクリル酸増粘剤割合が2.27質量%)は、塗工時にハジキを生じ、粘着シートを形成できなかった。比較例2の水分散型粘着剤組成物(カルボン酸系共重合体増粘剤割合が0.04質量%、ポリアクリル酸増粘剤割合が2.26質量%)は、塗工時にハジキを生じ、粘着シートを形成できなかった。比較例3の水分散型粘着剤組成物(カルボン酸系共重合体増粘剤を含有せず、ポリアクリル酸増粘剤割合が4.23質量%)は、耐落下衝撃性が良好な粘着シートを形成できなかった。比較例4の水分散型粘着剤組成物(カルボン酸系共重合体増粘剤割合が1.77質量%、ポリアクリル酸増粘剤割合が2.23質量%)は、フィルター通過性が不良であり、塗工時にスジを生じた。比較例5の水分散型粘着剤組成物(カルボン酸系共重合体増粘剤割合が2.11質量%、ポリアクリル酸増粘剤割合が2.22質量%)は、フィルター通過性が不良であり、塗工時にスジを生じ、また、耐落下衝撃性が良好な粘着シートを形成できなかった。比較例6の水分散型粘着剤組成物(カルボン酸系共重合体増粘剤割合が0.73質量%、ポリアクリル酸増粘剤割合が0.73質量%)は、塗工時にハジキを生じ、粘着シートを形成できなかった。比較例7の水分散型粘着剤組成物(カルボン酸系共重合体増粘剤割合が0.70質量%、ポリアクリル酸増粘剤割合が3.86質量%)は、耐落下衝撃性が良好な粘着シートを形成できなかった。比較例8の水分散型粘着剤組成物(カルボン酸系共重合体増粘剤割合が1.81質量%、ポリアクリル酸増粘剤を含有せず)は、塗工時にハジキを生じ、粘着シートを形成できなかった。比較例9の水分散型粘着剤組成物(カルボン酸系共重合体増粘剤割合が2.86質量%、ポリアクリル酸増粘剤を含有せず)は、フィルター通過性が不良であり、また、耐落下衝撃性が良好な粘着シートを形成できなかった。比較例10の水分散型粘着剤組成物(カルボン酸系共重合体増粘剤割合が2.51質量%、ポリアクリル酸増粘剤を含有せず)は、塗工時にハジキを生じ、粘着シートを形成できなかった。
【符号の説明】
【0096】
X 粘着シート
10 粘着剤層
L1,L2 はく離ライナー
図1