(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158745
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】膜屋根の管理方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/52 20060101AFI20231024BHJP
E04H 15/54 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
G01N3/52
E04H15/54
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068706
(22)【出願日】2022-04-19
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】藤森 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 悦広
(72)【発明者】
【氏名】久保田 淳
【テーマコード(参考)】
2E141
【Fターム(参考)】
2E141DD02
2E141EE04
2E141EE26
2E141HH00
(57)【要約】
【課題】硬さ試験機を利用した膜屋根の管理方法等を提供する。
【解決手段】膜屋根を新築する際に、膜体1に張力を与えて固定した膜屋根の当該膜体1を模したモックアップ試験体30を製作し、当該モックアップ試験体30の膜体1に異なる張力Tを与え、それぞれの張力Tにおける膜体1の硬さ値をエコーチップ硬さ試験機により測定する工程と、当該硬さ値を基準値とし、エコーチップ硬さ試験機により測定した膜屋根の膜体1の硬さ値を基準値と比較することにより、膜屋根の張力検査を実施する工程と、により膜屋根の管理を行う。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜体に張力を与えて固定した膜屋根の当該膜体を模したモックアップ試験体を製作し、当該モックアップ試験体の膜体に異なる張力を与え、それぞれの張力における膜体の硬さ値をエコーチップ硬さ試験機により測定する工程と、
前記硬さ値を基準値とし、エコーチップ硬さ試験機により測定した前記膜屋根の膜体の硬さ値を当該基準値と比較することにより、前記膜屋根の張力検査を実施する工程と、
を有することを特徴とする膜屋根の管理方法。
【請求項2】
前記膜屋根における膜体の硬さ値は、測定者が、膜体の上に乗らずに膜体の外から測定し、
前記モックアップ試験体は、膜体を枠状のフレームに固定したものであり、膜体の硬さ値を測定する測定点は、当該フレームの内側近傍に位置することを特徴とする請求項1記載の膜屋根の管理方法。
【請求項3】
前記モックアップ試験体は、膜体を矩形枠状のフレームに固定したものであり、フレームのサイズが、前記膜屋根の直交2方向の下地鉄骨のスパンに合わせられ、
前記膜屋根および前記モックアップ試験体の膜体は織布であり、
前記モックアップ試験体のフレームの縦辺に対する前記モックアップ試験体の膜体の縦糸の向きが、前記縦辺に対応する前記膜屋根の下地鉄骨に対する、前記膜屋根の膜体の縦糸の向きと対応することを特徴とする請求項1または請求項2記載の膜屋根の管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜屋根の管理方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
膜屋根は、可撓性を有する膜体に張力を付与して保形し、風や雪などの荷重によって容易に変形しない剛性を与えたものである。ただし、膜体には施工後の時間経過に伴う緩みが生じることがあり、その緩みは膜体の損傷や劣化の原因となりうる。そのため、膜屋根の管理の観点から積極的に膜体の張力検査を行い、膜屋根の機能、性能の低下を察知して対策を講じ、膜屋根の損傷・劣化を未然に防ぐことが望まれる。
【0003】
特許文献1には、音波発生装置から膜体に向けて音波を発し、その際の膜体の振動を検出してこれにより膜体の張力検査を実施することが記載されている。また非特許文献1、2には、張力が付与された膜体の硬さ値を硬さ試験機によって測定し、硬さ値による張力検査を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】小塩智也「膜構造建築物の設計・施工例 丘の上に建つ躍動感と臨場感あふれるスタジアム 栃木県総合運動公園陸上競技場」建築技術,2020年8月号,P.146-149
【非特許文献2】山崎慎介,井上啓,奥野親正,小塩智也,藤森啓祐「栃木県総合運動公園陸上競技場-環境を“かたち”にする環境共生スタジアム-」鉄鋼技術,2021年8月号,P.64-76
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の張力検査は、音波の漏れを防ぐため、音波発生装置を囲う枠体を膜体に押し当てた状態で実施する必要があり、枠体を押し当てることで膜体に生じる張力が、検査結果に影響を与える恐れがある。
【0007】
この点、非特許文献1、2で用いる硬さ試験機は、圧子を膜体に打撃した際の膜体の反発速度から硬さ値を求めるものであるため、上記の問題を回避でき、今後広く普及する可能性がある技術といえる。しかしながら、非特許文献1、2には、硬さ試験機を利用した膜屋根の管理方法についての具体的な開示が無く、硬さ試験機を利用した具体的な管理方法の提案が求められていた。
【0008】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、硬さ試験機を利用した膜屋根の管理方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決するための本発明は、膜体に張力を与えて固定した膜屋根の当該膜体を模したモックアップ試験体を製作し、当該モックアップ試験体の膜体に異なる張力を与え、それぞれの張力における膜体の硬さ値をエコーチップ硬さ試験機により測定する工程と、前記硬さ値を基準値とし、エコーチップ硬さ試験機により測定した前記膜屋根の膜体の硬さ値を当該基準値と比較することにより、前記膜屋根の張力検査を実施する工程と、を有することを特徴とする膜屋根の管理方法である。
【0010】
本発明では、膜屋根とモックアップ試験体の双方について膜体の硬さ値を測定する。モックアップ試験体については、所定の張力を膜体に導入した状態での硬さ値を求め、これを基準値とすることで、膜屋根の膜体の硬さ値と基準値との比較から、膜屋根の膜体に所定の張力が加わっているかを判断できる。硬さ値の測定は、圧子を膜体に打撃した際の膜体の反発速度から硬さ値を求めるエコーチップ硬さ試験機を用いることで、膜体の硬さ値を簡易且つ精度良く測定することができる。またモックアップ試験体に関しては、膜体に導入する張力を変えて複数の硬さ値を求め、これら複数の硬さ値を、高低の異なる複数の基準値として利用することで、膜屋根の新築時から膜体への張力再導入等を行うまで、その間の張力低下を踏まえた長期の管理が可能になる。
【0011】
前記膜屋根における膜体の硬さ値は、測定者が、膜体の上に乗らずに膜体の外から測定し、前記モックアップ試験体は、膜体の端部を枠状のフレームに固定したものであり、膜体の硬さ値を測定する測定点は、当該フレームの内側近傍に位置することが望ましい。
モックアップ試験体における硬さ値の測定点は、膜体の端部を固定するフレームの内側近傍とすることで、これらの測定点を、膜屋根の上に乗らずに膜体の外から硬さ値を測定できる膜屋根の測定点との間で硬さ値を比較し得る位置に定めることができる。
【0012】
前記モックアップ試験体は、膜体を矩形枠状のフレームに固定したものであり、フレームのサイズが、前記膜屋根の直交2方向の下地鉄骨のスパンに合わせられ、前記膜屋根および前記モックアップ試験体の膜体は織布であり、前記モックアップ試験体のフレームの縦辺に対する前記モックアップ試験体の膜体の縦糸の向きが、前記縦辺に対応する前記膜屋根の下地鉄骨に対する、前記膜屋根の膜体の縦糸の向きと対応することが望ましい。
これにより、膜屋根における下地鉄骨のスパンや膜体の繊維方向がモックアップ試験体において再現され、膜屋根とモックアップ試験体で測定された硬さ値を好適に比較できるようになる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、硬さ試験機を利用した膜屋根の管理方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】膜屋根100とエコーチップ硬さ試験機10を示す図。
【
図2】膜屋根100の管理方法を示すフローチャート。
【
図4】膜屋根100における硬さ値の測定について説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
(1.膜屋根100とエコーチップ硬さ試験機10)
図1(a)は本発明の実施形態に係る管理方法の適用対象である膜屋根100を示す図であり、膜屋根100の一部の平面を示したものである。
【0017】
膜屋根100は、格子状に配置された下地鉄骨21、22に、張力を導入した状態の膜体1を取り付けたものである。膜体1は、例えば、ガラス繊維を用いた帯状の織布にテフロン(登録商標)等のコーティングを施したものであるが、これに限らない。
【0018】
下地鉄骨21、22は、膜体1の下地となる鉄骨材である。下地鉄骨21は、膜屋根100の流れ方向に沿って配置され、複数本略平行に設けられる。なお膜屋根100の流れ方向は
図1(a)の上下方向に対応する。下地鉄骨22は、下地鉄骨21と平面視で略直交する方向に沿って配置され、下地鉄骨21の下方に固定して複数本平行に設けられる。下地鉄骨21間のスパンの長さLxは、下地鉄骨22間のスパンの長さLyよりも若干小さいが、これに限ることはない。
【0019】
膜体1は、その長手方向を膜屋根100の流れ方向として配置され、膜体1の縦糸の向きが下地鉄骨21に対して平面視で略直交し、横糸の向きが下地鉄骨22に対して平面視で直交する。膜体1の長手方向の端部は、クランプなどの固定部23により、膜屋根100の流れ方向の端部の下地鉄骨22に固定される。
【0020】
膜体1は、膜屋根100の流れ方向と平面視で直交する方向に複数並べて設けられ、当該方向に隣り合う膜体1同士が、フラップ膜3を介して接続される。フラップ膜3は、細幅の帯状の膜体であり、下地鉄骨21上で膜屋根100の流れ方向に沿って配置され、下地鉄骨21に固定される。上記隣り合う膜体1の幅方向の端部は、フラップ膜3の幅方向の両端部に溶着等で固定される。膜体1およびフラップ膜3の幅方向は、膜体1およびフラップ膜3の長手方向と平面視で直交する方向であり、
図1(a)の左右方向に対応する。
【0021】
本実施形態では、膜屋根100の管理の一環として、膜体1の張力検査が行われる。張力検査は、
図1(b)に示すエコーチップ硬さ試験機10を用いて行われる。エコーチップ硬さ試験機10は、圧子を対象(本実施形態では膜体1)に打撃した際の対象の反発速度を硬さ値に換算、測定するものであり、例えばスイスProceq社の硬さ試験機「エコーチップ バンビーノ2」を用いることができる。膜体1の張力が高ければ硬さ値も高くなる傾向にあるため、膜体1の硬さ値から膜体1の張力の高低を把握することができる。
【0022】
エコーチップ硬さ試験機10は、
図1(b)に示すように携帯式の小型の硬度計であり、持ち手の先端を押すだけで膜体1の硬さ値を誰でも簡単に測定することができ、膜体1に加わる荷重も小さい。また入手も容易であり、電源ケーブルその他の付帯機器・付帯設備も不要であることから、現場での張力検査に適している。
【0023】
(2.膜屋根100の管理方法)
図2は、膜屋根100の管理方法を示すフローチャートである。本実施形態では、膜屋根100の新築(S1)時に、当該膜屋根100の膜体1を模したモックアップ試験体を製作する(S2)。モックアップ試験体は膜屋根100になるべく近い、環境条件等の似た所で製作し保管する。
【0024】
図3(a)はモックアップ試験体30の概略を示す平面図である。モックアップ試験体30は、膜屋根100の下地鉄骨21、22で囲まれた部分の膜体1を模したものであり、矩形枠状のフレーム31の四辺に、膜体1の端部をクランプなどの固定部32を用いて固定したものである。フレーム31のサイズは、下地鉄骨21、22のスパンに合わせて定められる。すなわち、フレーム31の縦辺は下地鉄骨21に対応し、縦辺同士の間隔は、下地鉄骨21間のスパンの長さLxとなっている。またフレーム31の横辺は下地鉄骨22に対応し、横辺同士の間隔は、下地鉄骨22間のスパンの長さLyとなっている。
【0025】
また前記したように、膜屋根100において、膜体1の縦糸の向きが下地鉄骨21に対して平面視で略直交し、膜体1の横糸の向きが下地鉄骨22に対して平面視で直交していることから、モックアップ試験体30においてもこれらの繊維方向に対応させるべく、膜体1の縦糸の向きをフレーム31の縦辺に対して平面視で直交させ、膜体1の横糸の向きをフレーム31の横辺に対して平面視で直交させる。
【0026】
膜体1は、
図3(b)の矢印で示すように縦横に張力Tを加えて固定されるが、本実施形態では、膜体1に与える張力Tを、初期状態の1(kN/m)から2(kN/m)、2(kN/m)から3(kN/m)へと順次上げてゆき、異なる張力Tでの膜体1の固定状態、すなわち、張力T=1(kN/m)での膜体1の固定状態、張力T=2(kN/m)での膜体1の固定状態、張力T=3(kN/m)での膜体1の固定状態のそれぞれにおいて、エコーチップ硬さ試験機10を利用し、複数の測定点で膜体1の硬さ値を測定する(S3)。なお、モックアップ試験体30の膜体1は、張力Tを3(kN/m)とした状態で最終的に固定される。
【0027】
図3(b)の符号A~Fは、モックアップ試験体30における硬さ値の測定点の位置を示したものである。測定点Aは、膜体1の平面中心に位置する。また膜体1の張力Tは上下および左右に対称と考えられるため、その他の測定点B~Fの位置は全て測定点Aの右下の領域内に設定する。これらの測定点B~Fはフレーム31の内側近傍に存在し、測定点B、Cは、フレーム31の縦辺から距離dの箇所に位置し、測定点D、Eは、フレーム31の横辺から距離dの箇所に位置する。測定点Fは、膜体1の隅部において、フレーム31の縦辺および横辺から距離dの箇所に位置する。また、測定点B、Dはそれぞれフレーム31の縦辺方向、横辺方向の中心に位置し、測定点Cは測定点B、Fの中間、測定点Eは測定点D、Fの中間に位置する。
【0028】
本実施形態では、硬さ値の測定を、測定点A~Fのそれぞれにおいて40回行い、測定誤差を考慮して、硬さ値の大きい10値、硬さ値の小さい10値を除いた中間の20値の平均を各測定点A~Fの硬さ値とする。そして、測定点B~Fの硬さ値の平均値Meanを算出する。以下、張力T=1(kN/m)、2(kN/m)、3(kN/m)の各ケースにおける平均値Meanを、それぞれMean(1)、Mean(2)、Mean(3)と表し、これらを張力検査の基準値として用いる。またこれらの基準値を総称してMean(T)と表す場合がある。
【0029】
なお、測定点B~Fでの硬さ値の測定は、
図3(b)に示すようにモックアップ試験体30の外側の測定者Pによって行うことができるが、測定点Aでの硬さ値の測定は、膜体1上に架設した足場(不図示)の上に測定者Pが乗って行う。
【0030】
次に、新築の膜屋根100について、膜体1の張力検査を行う(S4)。張力検査は、膜屋根100の膜体1の硬さ値をエコーチップ硬さ試験機10により測定し、S3で求めた基準値Mean(T)と比較することで行う。
【0031】
図4は、膜屋根100における膜体1の硬さ値の測定点の例である。測定点は、符号aに示すように、膜屋根100の流れ方向の端部に位置するものや、符号b、cに示すように、点検口101の周囲に位置するものがある。点検口101は、膜体1の一部を開口させた部分であり、膜体1の開口縁はクランプなどの固定部102により点検口101の周囲に固定される。
【0032】
測定点aは、膜屋根100の流れ方向の端部の下地鉄骨22から距離dの位置にあり、測定点bは、点検口101の周囲の固定部102から距離dの位置にある。また測定点cは、点検口101の近傍のフラップ膜3から距離dの位置にある。これらの距離dは、モックアップ試験体30の測定点B~Fのフレーム31からの距離d(
図3(b)参照)と同じであり、測定者Pは、膜屋根100の上に乗らずに膜体1の外から硬さ値を測定できる。
【0033】
膜屋根100においても、硬さ値の測定は、測定点a~cのそれぞれにおいて40回行い、硬さ値の大きい10値、硬さ値の小さい10値を除いた中間の20値の平均を各測定点a~cの硬さ値とする。そして、これらの硬さ値を先程の基準値Mean(T)と比較する。
【0034】
例えば本実施形態では、膜屋根100における膜体1の設計初期張力を2(kN/m)とし、各測定点a~cの硬さ値が、設計初期張力に対応する基準値Mean(2)よりも大きいことを確認する。すなわち、硬さ値が基準値Mean(2)よりも大きければ、膜屋根100において、膜体1に2(kN/m)を超える張力が加わっていると判断できる。
【0035】
また本実施形態では、膜屋根100の新築時の膜体1の目標導入張力を3(kN/m)とし、各測定点a~cの硬さ値を基準値Mean(3)と比較することで、実際に導入された張力と目標導入張力との差がどの程度かを判断できる。
【0036】
膜屋根100の膜体1については、この後も、定期的に上記の張力検査を実施する(S5)。
【0037】
S5における測定点は、前記した点検口101の周囲の測定点b、cとし、その硬さ値を基準値Mean(T)と比較する。特に本実施形態では、膜体1の張力が設計初期張力の40%すなわち0.8(kN/m)を下回った場合に張力の再導入等の検討を行うため、安全をみて、0.8(kN/m)より若干大きい張力1(kN/m)に対応する基準値Mean(1)を、測定点b、cの硬さ値の比較対象とする。その硬さ値がMean(1)を下回れば膜屋根100を要観察とし、指触等により膜体1の張力が0.8(kN/m)を下回っていると判明した場合には、詳細な調査を行い膜屋根100への張力再導入等の検討を行う。
【0038】
また本実施形態では、モックアップ試験体30に関しても、定期的に測定点A~Fで硬さ値の測定を行う(S6)。その測定結果は、膜体1の張力検査の参考とすることができる。例えばモックアップ試験体30での硬さ値が低下した場合、膜屋根100の膜体1の硬さ値(張力)も低下していることが推測され、張力検査の参考材料となる。
【0039】
この他、適当な時期にモックアップ試験体30の膜体1から試料を採取し、ストリップ法による引張試験を行って所定の引張強度を有しているかを確認することも有効である。例えば、引張強度が膜体1の素材(ガラス繊維等)の引張強度の50%以下であった場合は、膜屋根100への張力再導入等の検討が行われ、30%以下であった場合は、膜屋根100の全面張替えの検討が行われる。
【0040】
このような検討の結果、膜屋根100への張力再導入または全面張替えが行われる(S7)と、膜屋根100の管理の1サイクルが終了する。
【0041】
なお、膜屋根100では膜厚の異なる膜体1が用いられることもあり、その場合は、前記のS2において、それぞれの膜体1に対応する膜厚で複数のモックアップ試験体30を製作し、前記のS4やS5において、膜屋根100で測定した膜体1の硬さ値を、当該膜体1の膜厚に対応するモックアップ試験体30で測定した基準値Mean(T)と比較すればよい。
【0042】
以上説明したように、本実施形態では、膜屋根100とモックアップ試験体30の双方について膜体1の硬さ値を測定する。モックアップ試験体30については、所定の張力Tを膜体1に導入した状態での硬さ値を求め、これらを基準値Mean(T)とすることで、膜屋根100の膜体1の硬さ値と基準値Mean(T)との比較から、膜屋根100の膜体1に所定の張力が加わっているかを判断できる。硬さ値の測定は、圧子を膜体1に打撃した際の膜体1の反発速度から硬さ値を求めるエコーチップ硬さ試験機10を用いることで、膜体1の硬さ値を簡易且つ精度良く測定することができる。またモックアップ試験体30に関しては、膜体1に導入する張力Tを変えて複数の硬さ値を求め、これら複数の硬さ値を、高低の異なる複数の基準値Mean(T)として利用することで、膜屋根100の新築時から膜体1への張力再導入等を行うまで、その間の張力低下を踏まえた長期の管理が可能になる。
【0043】
またモックアップ試験体30における硬さ値の測定点B~Fは、膜体1の端部を固定するフレーム31の内側近傍とすることで、これらの測定点B~Fを、膜屋根100の上に乗らずに膜体1の外から硬さ値を測定できる膜屋根100の測定点a~cとの間で硬さ値を比較し得る位置に定めることができる。
【0044】
また本実施形態では、膜屋根100における下地鉄骨21、22のスパンや膜体1の繊維方向がモックアップ試験体30において再現され、膜屋根100とモックアップ試験体30で測定された硬さ値を好適に比較できるようになる。
【0045】
しかしながら、本発明は上記の実施形態に限定されない。例えば前記のエコーチップ硬さ試験機10は、その先端を膜体1に対して垂直に当てて測定を行う必要があり、エコーチップ硬さ試験機10の姿勢のばらつきにより測定精度が低下する恐れがある。そのため、エコーチップ硬さ試験機10を、膜体1に対する垂直性を保つための簡易なケーシングに収めて測定を行うことも可能であり、その他の垂直性を保つための機構あるいはエコーチップ硬さ試験機10の垂直度が確認できる機構を設けることも可能である。
【0046】
また本実施形態では、S2において、モックアップ試験体30における硬さ値の測定を、膜体1の張力Tを1(kN/m)、2(kN/m)、3(kN/m)として行い、3つの基準値Mean(T)を定めているが、張力Tの値や基準値Mean(T)の数はこれに限らず、膜屋根100の仕様、管理方針などに応じて適宜定めることができる。
【0047】
膜屋根100の測定点に関しても、本実施形態で説明したものに限ることはなく、例えばS5の定期検査において膜屋根100の流れ方向の端部の測定点a(
図4参照)で硬さ値を測定することも可能である。また、測定点の位置も
図4の符号a~cで示すものに限らない。これはモックアップ試験体30の測定点についても同様であり、膜屋根100の測定点との関係から適宜定めることができる。またモックアップ試験体30のフレーム31の形状やサイズも、膜屋根100の下地鉄骨21、22等に合わせて適宜定めることができる。
【0048】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0049】
1:膜体
3:フラップ膜
10:エコーチップ硬さ試験機
21、22:下地鉄骨
30:モックアップ試験体
31:フレーム
100:膜屋根
101:点検口
【手続補正書】
【提出日】2022-07-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜体に張力を与えて固定した膜屋根の下地鉄骨で囲まれた部分の膜体を模したモックアップ試験体を製作し、当該モックアップ試験体の膜体に異なる張力を与え、それぞれの張力における膜体の硬さ値をエコーチップ硬さ試験機により測定する工程と、
前記硬さ値を基準値とし、エコーチップ硬さ試験機により測定した前記膜屋根の膜体の硬さ値を当該基準値と比較することにより、前記膜屋根の張力検査を実施する工程と、
を有することを特徴とする膜屋根の管理方法。
【請求項2】
前記膜屋根における膜体の硬さ値は、測定者が、膜体の上に乗らずに膜体の外から測定し、
前記モックアップ試験体は、膜体を枠状のフレームに固定したものであり、膜体の硬さ値を測定する測定点は、当該フレームの内側近傍に位置することを特徴とする請求項1記載の膜屋根の管理方法。
【請求項3】
前記モックアップ試験体は、膜体を矩形枠状のフレームに固定したものであり、フレームのサイズが、前記膜屋根の直交2方向の下地鉄骨のスパンに合わせられ、
前記膜屋根および前記モックアップ試験体の膜体は織布であり、
前記モックアップ試験体のフレームの縦辺に対する前記モックアップ試験体の膜体の縦糸の向きが、前記縦辺に対応する前記膜屋根の下地鉄骨に対する、前記膜屋根の膜体の縦糸の向きと対応することを特徴とする請求項1または請求項2記載の膜屋根の管理方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
前述した課題を解決するための本発明は、膜体に張力を与えて固定した膜屋根の下地鉄骨で囲まれた部分の膜体を模したモックアップ試験体を製作し、当該モックアップ試験体の膜体に異なる張力を与え、それぞれの張力における膜体の硬さ値をエコーチップ硬さ試験機により測定する工程と、前記硬さ値を基準値とし、エコーチップ硬さ試験機により測定した前記膜屋根の膜体の硬さ値を当該基準値と比較することにより、前記膜屋根の張力検査を実施する工程と、を有することを特徴とする膜屋根の管理方法である。