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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023015875
(43)【公開日】2023-02-01
(54)【発明の名称】電動機
(51)【国際特許分類】
   H02K 13/00 20060101AFI20230125BHJP
   H01R 39/18 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
H02K13/00 T
H01R39/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021119939
(22)【出願日】2021-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】浅野 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】内田 保治
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 祥太
(72)【発明者】
【氏名】荻原 貴紀
【テーマコード(参考)】
5H613
【Fターム(参考)】
5H613AA02
5H613AA03
5H613BB04
5H613BB15
5H613BB27
5H613GA13
5H613GA14
(57)【要約】
【課題】整流子に対してブラシが角当たり状態になることを抑制できる電動機を提供する。
【解決手段】電動機1は、軸心方向に延伸する回転軸21を有する回転子20と、回転軸21に取り付けられた整流子40と、整流子40に接するブラシ50と、ブラシ50を収納するブラシ収納部81と、を備え、ブラシ50は、前端面51と、後端面52と、第1側面53と、第2側面54とを有し、ブラシ収納部81は、第1側面53に対面する第1内側面81aと、第2側面54に対面する第2内側面81bとを有し、前端面51と第1側面53とのなす角をθ1とし、後端面52と第2側面54とのなす角をθ2とし、回転軸21の軸心C方向と直交する平面と第1内側面81aとのなす角をβとすると、θ1=α1-β、θ2=α2-β、θ1<90°、θ2<90°、θ2≦θ1、0°≦β<90°を満たす。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心方向に延伸する回転軸を有する回転子と、
前記回転軸に取り付けられた整流子と、
前記整流子に接するブラシと、
前記ブラシを収納するブラシ収納部と、を備え、
前記ブラシは、前記整流子に接する面である前端面と、前記前端面とは反対側の面である後端面と、前記軸心方向に対向する第1側面および第2側面とを有し、
前記ブラシ収納部は、前記第1側面に対面する第1内側面と、前記第2側面に対面する第2内側面とを有し、
前記前端面と前記第1側面とのなす角をθ1とし、前記後端面と前記第2側面とのなす角をθ2とし、前記軸心方向と直交する平面と前記第1内側面とのなす角をβとすると、
θ1=α1-β、θ2=α2-β、θ1<90°、θ2<90°、θ2≦θ1、0°≦β<90°、α1≠0°、α2≠0°を満たす、
電動機。
【請求項2】
請求項1に記載の電動機のうち、θ1とθ2との関係が、
θ2=θ1である、
電動機。
【請求項3】
請求項1に記載の電動機のうち、θ1とθ2との関係が、
θ2<θ1である、
電動機。
【請求項4】
請求項1に記載の電動機のうち、
前記第2内側面は、前記回転軸と直交する径方向において、前記整流子側に位置する第1面と、前記第1面よりも外周側に位置する第2面とを含み、
前記軸心方向に直交する平面と前記第2面とのなす角を90°-γとすると、
θ1=θ2=γ、0°<90°-γ<90°である、
請求項2に記載の電動機。
【請求項5】
請求項2または4のいずれか1項に記載の電動機のうち、βが、
β=0°である、
電動機。
【請求項6】
請求項2または4のいずれか1項に記載の電動機のうち、βが、
β≠0°である、
電動機。
【請求項7】
前記第1側面は、前記回転軸の出力軸側の面である、
請求項1~6のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項8】
開口部が形成され、前記回転子を収納するフレームと、
前記開口部を覆うように配置され、前記ブラシ収納部を有するブラシホルダと、
前記ブラシホルダの外周端に沿って配置され、前記フレームと前記ブラシホルダとの間の隙間を塞ぐシール部材と、を備える、
請求項7に記載の電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機は、電気掃除機等の家庭用電気機器分野をはじめとして、自動車等の電装分野にも広く用いられている。例えば、自動車においては、ABS(Anti lock Brake System)、ABSに連携するEDS(Electronic Differential Lock System)、または、電子制御サスペンション(ECS;Electronic Controlled Suspension)等に電動機が用いられている。
【0003】
電動機としては、ブラシを用いる整流子電動機、および、ブラシを用いないブラシレス電動機が知られている。このうち、整流子電動機は、固定子と、回転子と、回転子が有する回転軸に取り付けられた整流子と、整流子に摺動するブラシと、ブラシを収納するブラシ収納部とを備える。ブラシは、整流子に接する前端部(摺動面)が摩耗するにつれて、ブラシ収納部内を整流子側に向かって移動する。
【0004】
整流子電動機においては、ブラシの摺動状態の早期安定化を図るために、ブラシの前端面の形状等が種々検討されている。例えば、ブラシの前端面を尖らせた形状にすることで、初期摺動時にブラシの摩耗を促進させてブラシの摺動状態の早期安定化を図る技術が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-41570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、ブラシおよびブラシ収納部は、長尺状であり、整流子に対して垂直または垂直に等しい傾きを持って配置される。このとき、ブラシ収納部内でブラシをスムーズに摺動させるために、ブラシ収納部の内側面とブラシの側面との間には隙間(クリアランス)が存在する。このため、ブラシは、ブラシ収納部内で傾倒した状態で整流子に接触することになる。
【0007】
しかしながら、直方体のブラシが傾倒すると、ブラシの角が整流子に接触して、ブラシが角当たり状態になるおそれがある。また、特許文献1のようにブラシの前端面を尖らせると、ブラシが傾倒しなくても、ブラシが角当たり状態になる。
【0008】
このように、整流子に対してブラシが角当たり状態になると、ブラシと整流子との接触面積が小さくなる。この結果、整流子とブラシとの接触箇所にブラシの押圧が集中し、整流子に対するブラシの面圧が増加してブラシの摩耗速度が増加する。さらに、ブラシと整流子との接触面積が小さくなると、整流子とブラシとの接触箇所で整流子とブラシとの間の電流密度が大きくなり、整流子とブラシとの間のスパークも増大する。この場合も、ブラシの摩耗速度が増加する。
【0009】
このように、整流子に対してブラシが角当たり状態になると、ブラシの摩耗速度が増加することになる。この結果、電動機の寿命が短くなる。
【0010】
また、近年、より高い制御性を得るために、整流子における複数の整流子片に対応する電流波形から回転数を検出して回転子の回転状態を制御する技術が提案されている。しかしながら、整流子に対してブラシが角当たり状態になると、上記のようにブラシの面圧の増加およびスパークの増大によって整流子片の表面が局所的に摩耗し、ブラシと整流子との間の接触状態が悪化する。この結果、従来の電動機では、整流子片の接触抵抗が増加したり、整流子片毎に抵抗のばらつきが発生したりして、所定の電流波形を得ることができず、回転数を誤検出したり検出できなかったりして、回転子の制御性が低下する。
【0011】
本開示は、このような課題を解決するためになされたものであり、整流子に対してブラシが角当たり状態になることを抑制できる電動機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本開示に係る電動機の一態様は、軸心方向に延伸する回転軸を有する回転子と、前記回転軸に取り付けられた整流子と、前記整流子に接するブラシと、前記ブラシを収納するブラシ収納部と、を備え、前記ブラシは、前記整流子に接する面である前端面と、前記前端面とは反対側の面である後端面と、前記軸心方向に対向する第1側面および第2側面とを有し、前記ブラシ収納部は、前記第1側面に対面する第1内側面と、前記第2側面に対面する第2内側面とを有し、前記前端面と前記第1側面とのなす角をθ1とし、前記後端面と前記第2側面とのなす角をθ2とし、前記軸心方向と直交する平面と前記第1内側面とのなす角をβとすると、θ1=α1-β、θ2=α2-β、θ1<90°、θ2<90°、θ2≦θ1、0°≦β<90°、α1≠0°、α2≠0°を満たす。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、整流子に対してブラシが角当たり状態になることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施の形態1に係る電動機の断面図である。
図2図2は、実施の形態1に係る電動機におけるブラシの周辺構造を模式的に示す図である。
図3図3は、比較例である従来の電動機におけるブラシの周辺構造を模式的に示す図である。
図4図4は、比較例の電動機におけるブラシの形状を模式的に示す図である。
図5図5は、比較例の電動機におけるブラシの姿勢を模式的に示す図である。
図6図6は、実施の形態1に係る電動機における第1例のブラシの形状(θ2=θ1)および姿勢を模式的に示す図である。
図7図7は、実施の形態1に係る電動機における第2例のブラシの形状(θ2<θ1)および姿勢を模式的に示す図である。
図8図8は、実施の形態1に係る電動機におけるブラシの寸法のパラメータを示す図である。
図9図9は、実施の形態1の変形例1に係る電動機におけるブラシの形状およびブラシバネを模式的に示す図である。
図10図10は、実施の形態1の変形例2に係る電動機におけるブラシの形状およびブラシバネを模式的に示す図である。
図11図11は、実施の形態1に係る電動機において、ブラシが摩耗したときの様子を模式的に示す図である。
図12図12は、実施の形態1に係る電動機において、摩耗したときの第1例のブラシの形状(θ2=θ1)および姿勢を模式的に示す図である。
図13図13は、実施の形態1に係る電動機において、摩耗したときの第2例のブラシの形状(θ2<θ1)および姿勢を模式的に示す図である。
図14図14は、実施の形態1に係る電動機において、摩耗したときのブラシの寸法のパラメータを示す図である。
図15図15は、実施の形態1に係る電動機において、ブラシ収納部の後方部分に傾斜を持たせたときのブラシの形状および姿勢を模式的に示す図である。
図16図16は、実施の形態2に係る電動機の断面図である。
図17図17は、実施の形態2に係る電動機におけるブラシの周辺構造とブラシの寸法のパラメータとを模式的に示す図である。
図18図18は、実施の形態2に係る電動機において、摩耗したときのブラシの寸法のパラメータを示す図である。
図19図19は、実施の形態2に係る電動機において、ブラシ収納部の後方部分に傾斜を持たせたときのブラシの形状および姿勢を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本開示の一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される、数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態等は、一例であって本開示を限定する主旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0016】
なお、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。また、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略または簡略化する。また、本明細書において、「上」および「下」という用語は、必ずしも、絶対的な空間認識における上方向(鉛直上方)および下方向(鉛直下方)を指すものではない。
【0017】
(実施の形態1)
まず、実施の形態1に係る電動機1の構成について、図1および図2を用いて説明する。図1は、実施の形態1に係る電動機1の断面図である。図1は、回転軸21の軸心C方向と平行で且つ回転軸21およびブラシ50を通る平面で切断したときの断面を示している。図2は、同電動機1におけるブラシ50の周辺構造を模式的に示す図である。なお、図2において、ブラシ50は、断面を示しているが、便宜上ハッチングを施していない。
【0018】
電動機1は、ブラシ付きの整流子電動機であり、図1および図2に示すように、固定子10と、回転子20と、第1軸受31および第2軸受32と、整流子40と、ブラシ50と、ブラシバネ60と、フレーム70と、ブラシホルダ80と、カバープレート90と、シール部材100とを備える。
【0019】
本実施の形態における電動機1は、直流により駆動する直流電動機(DCモータ)であり、例えば、自動車に用いられる。一例として、電動機1は、自動車における電子制御サスペンションまたはエアサスペンション等に用いられる。電動機1を設置する場合、例えば、ブラシホルダ80の外面がアルミブロック等の設置構造物の取付面に接するようにして設置される。以下、電動機1の各構成部材について詳細に説明する。
【0020】
固定子10(ステータ)は、回転子20を回転させるために回転子20に作用する磁力を発生させる。固定子10は、回転子20との間にエアギャップを確保するエアギャップ面に磁束を生成する構成になっており、電機子である回転子20とともに磁気回路を構成している。固定子10は、回転子20が有する回転軸21の周方向に沿って回転子20と向かい合うようにエアギャップ面にN極とS極とが交互に存在するように構成されている。固定子10は、トルクを発生するための磁束を作る界磁であり、本実施の形態では、複数の磁石(マグネット)によって構成されている。固定子10を構成する磁石は、例えばS極およびN極を有する永久磁石である。
【0021】
固定子10を構成する複数の磁石は、周方向においてN極とS極とが交互に均等に存在するように配置されている。したがって、本実施の形態において、固定子10(磁石)が発生する主磁束の向きは、回転軸21が含む軸心Cが延伸する方向と直交する方向(つまり径方向)である。本実施の形態において、複数の磁石は、回転子20の回転子鉄心22を囲むようにして周方向において等間隔で配置されている。一例として、各磁石は、上面視において厚さが略一定の円弧形状であり、フレーム70に固定されている。具体的には、各磁石は、フレーム70の内周面に接着固定されている。
【0022】
回転子20(ロータ)は、固定子10に生じる磁力によって回転する。回転子20は、回転軸21を有しており、回転軸21を回転中心として回転する。具体的には、回転子20は、回転軸21の軸心Cを回転中心として回転する。
【0023】
回転子20は、電機子であり、回転子鉄心22と、回転子鉄心22に巻き回された巻線23とを備える。
【0024】
回転軸21は、回転子20が回転する際の中心となるシャフトである。一例として、回転軸21は、SUS等の金属材料によって構成された金属棒である。回転軸21は、軸心C方向である長手方向に延伸している。
【0025】
回転軸21は、回転子鉄心22を貫通している。また、回転軸21は、回転子鉄心22に固定されている。具体的には、回転軸21は、回転子鉄心22の両側に延在するように回転子鉄心22の中心を貫いた状態で回転子鉄心22に固定されている。回転軸21は、回転子鉄心22に形成された中心孔に圧入したり、焼き嵌めしたりすることで回転子鉄心22に固定されている。
【0026】
回転軸21における第1部位21aは、回転軸21の一方の端部であり、第1軸受31に支持されている。回転軸21における第1部位21aは、回転子鉄心22の一方側から突出している。具体的には、回転軸21における第1部位21aは、第1軸受31およびブラシホルダ80の貫通孔から突出している。回転軸21における第1部位21aは、回転軸21の出力側の部位(出力軸)である。したがって、ブラシホルダ80から突出した第1部位21aの先端部には、電動機1によって駆動される負荷が取り付けられる。言い換えれば、出力軸とは、回転軸21のうち、電動機1に取り付けられる負荷が取り付けられる部分、あるいは、電動機1に取り付けられる負荷が取り付けられる側をいう。
【0027】
回転軸21における第2部位21bは、回転軸21の他方の端部であり、第2軸受32に支持されている。回転軸21における第2部位21bは、回転子鉄心22の他方から突出している。回転軸21における第2部位21bは、フレーム70から突出していない。本実施の形態において、回転軸21における第2部位21bは、回転軸21の反出力側の部位(反出力軸)である。言い換えれば、反出力軸とは、回転軸21において、回転子鉄心22を基準として出力軸の反対側に位置する部分、あるいは、回転子鉄心22を基準として出力軸の反対側をいう。
【0028】
第1軸受31および第2軸受32は、例えば、回転軸21を回転自在に支持するベアリングである。このように、回転軸21は、回転自在な状態で第1軸受31と第2軸受32とに支持されている。なお、第1軸受31は、ブラシホルダ80に固定されており、第2軸受32は、フレーム70に固定されている。
【0029】
回転子鉄心22(ロータコア)は、巻線23が巻回される電機子コアである。回転子鉄心22は、磁性材料によって構成された磁性体である。回転子鉄心22は、例えば、所定形状に形成された複数の打ち抜き電磁鋼板が回転軸21の軸心C方向に積層された積層体である。なお、回転子鉄心22は、電磁鋼板の積層体に限るものではなく、磁性材料によって構成されたバルク体であってもよい。回転子鉄心22の外周面と固定子10との間には微小なエアギャップが存在する。
【0030】
なお、回転子鉄心22は、複数のティースを有する。複数のティースは、回転軸21が含む軸心Cと直交する方向である径方向(ラジアル方向)に突出するように放射状に形成されている。複数のティースは、回転軸21の回転方向に亘って等間隔に存在している。隣り合う2つのティースの間にはスロットが形成されている。
【0031】
回転子鉄心22には、巻線23が巻き回されている。巻線23を構成する電線は、例えば絶縁被覆線であり、芯線となる銅等の導電材料からなる導電線と、この導電線を被膜する絶縁膜とを有する。
【0032】
巻線23は、インシュレータ24を介して回転子鉄心22に巻回されている。インシュレータ24は、絶縁樹脂材料等によって構成されており、巻線23と回転子鉄心22との間に挿入されている。巻線23は、回転子鉄心22のスロットごとに設けられている。
【0033】
巻線23は、整流子40と電気的に接続されている。具体的には、巻線23は、整流子40が有する整流子片41と電気的に接続されている。整流子40を介して巻線23に電流が流れることで、回転子20は、固定子10に作用させる磁力を発生させる。具体的には、巻線23に電流が流れることで、回転子鉄心22が固定子10に作用させる磁力を発生させる。本実施の形態において、回転子20が発生する主磁束の向きは、回転軸21を中心とする径方向である。
【0034】
なお、巻線23は、回転子鉄心22における複数のティースの各々に巻回される複数の主巻線(本巻線)と、複数の主巻線のうちの少なくとも2つを短絡させる1つ以上の短絡線とを有する。複数の主巻線の各々は、巻線コイルからなる主コイルである。本実施の形態において、主巻線は、集中巻きである。短絡線は、整流子40が有する少なくとも2つの整流子片41の相互間を結線して電気的に接続する渡り線である。つまり、短絡線は、少なくとも2つの整流子片41を短絡させることで複数の主巻線のうちの少なくとも2つを短絡させている。本実施の形態において、短絡線は、主巻線と一体に構成されている。つまり、短絡線と主巻線とは、途中で切断されることなく連続する1本の電線になっている。
【0035】
回転子20は、インナーロータであり、固定子10の内側に配置されている。具体的には、回転子20が有する回転子鉄心22は、固定子10との間に微小なエアギャップを介して固定子10を構成する複数の磁石に囲まれている。
【0036】
回転子20が有する回転軸21には、整流子40が取り付けられている。したがって、整流子40は、回転軸21とともに回転する。本実施の形態において、整流子40は、回転軸21における回転子鉄心22と第1軸受31との間の部位に取り付けられている。
【0037】
整流子40は、複数の整流子片41(整流子セグメント)を有する。複数の整流子片41は、回転軸21を囲むように円環状に等間隔で配列されている。複数の整流子片41の各々は、例えば銅等の金属材料によって構成された導電端子であり、回転子20が有する巻線23と電気的に接続されている。一例として、整流子40は、モールド整流子であり、複数の整流子片41が樹脂モールドされた構成になっている。この場合、複数の整流子片41は、表面が露出するようにモールド樹脂に埋め込まれる。また、複数の整流子片41は、互いに絶縁分離されているが、例えば、隣り合う2つの整流子片41同士は、巻線23によって接続されている。
【0038】
整流子40には、ブラシ50が接している。具体的には、ブラシ50は、整流子40が有する整流子片41に接している。ブラシ50は、回転子20の巻線23に電力を供給する給電ブラシ(通電ブラシ)である。具体的には、ブラシ50には、電源から供給される電流が流れるピグテール線等の電線が接続されている。ブラシ50が整流子片41に接することで、この電線を介してブラシ50に供給される電流(電機子電流)が、整流子片41を介して回転子20の巻線23に流れる。一例として、ブラシ50は、カーボンによって構成されたカーボンブラシである。具体的には、ブラシ50は、銅等の金属を含むカーボンブラシであり、摩耗する前の初期状態において長尺状に形成されている。
【0039】
ブラシ50は、整流子40に接する面である前端面51と、前端面51とは反対側の面である後端面52とを有する。前端面51は、ブラシ50の長手方向の一方の端部である前端部における端面である。後端面52は、ブラシ50の長手方向の他方の端部である後端部における端面である。前端面51は、整流子40の整流子片41に摺接する摺接面である。本実施の形態において、前端面51および後端面52は、平面視形状が矩形の平坦面である。
【0040】
ブラシ50は、さらに、第1側面53と第2側面54とを有する。回転軸21の軸心C方向において、第1側面53および第2側面54は対向している。本実施の形態において、第1側面53は、回転軸21に含まれる出力軸側の面である。具体的には、第1側面53は、第1軸受31側に位置する面である。一方、第2側面54は、回転軸21に含まれる反出力軸側の面である。具体的には、第2側面54は、第2軸受32側に位置する面である。
【0041】
なお、ブラシ50は、さらに、回転軸21の軸心C方向と直交する方向に対向する第3側面および第4側面を有する。つまり、ブラシ50は、胴体部分に4つの側面を有しており、ブラシ50の中央部では、ブラシ50の長手方向に直交する断面が略矩形になっている。本実施の形態において、第1側面53および第2側面54を含めて4つの側面は、平面視形状が矩形の平坦面である。
【0042】
図2に示すように、ブラシ50における前端面51と第1側面53とのなす角である第1角度をθ1とする。ブラシ50における後端面52と第2側面54とのなす角である第2角度をθ2とする。このとき、ブラシ50は、θ1<90°、θ2<90°、θ2≦θ1を満たす形状である。なお、ブラシ50の形状および姿勢については、後述する。
【0043】
ブラシ50は、その長手方向が回転軸21の軸心Cと直交する方向(つまり回転軸21の回転の径方向)となるように配置されている。本実施の形態において、ブラシ50は、複数配置されている。具体的には、2つのブラシ50が配置されている。2つのブラシ50は、整流子40を挟持するように整流子40を挟んで対向して配置されている。各ブラシ50は、整流子40に摺接している。具体的には、回転軸21の回転により整流子40が回転することで、各ブラシ50の前端面51は、全ての整流子片41と順次接触し続ける。
【0044】
なお、ブラシ50は、2つに限らず、3つまたは4つ以上の複数であってもよい。例えば、ブラシ50が4つである場合、整流子40を挟持するように整流子40を挟んで対向して配置された一対のブラシ50が2組設けられる。この場合、一対のブラシ50と他の一対のブラシ50とのなす角は、例えば、約60度である。
【0045】
各ブラシ50は、ブラシバネ60からの押圧力を受けて、整流子40と常に接触している。つまり、各ブラシ50は、ブラシバネ60によって整流子40に押し付けられている。一例として、ブラシバネ60は、圧縮コイルバネである。ブラシバネ60は、ブラシ50と一対一に配置されている。ブラシバネ60の一部は、ブラシ50の後端面52に接しており、バネ弾性を利用してブラシ50に押圧を付与している。ブラシ50は、ブラシバネ60からの押圧力を受けて、常にブラシ50の前端面51が整流子片41に接触する状態になっている。
【0046】
フレーム70(ハウジング)は、固定子10および回転子20を収納する筐体(ケース)である。具体的には、フレーム70は、固定子10を構成する磁石と、回転子20における回転子鉄心22および巻線23とを収納している。
【0047】
フレーム70は、開口部70aが形成された略有底筒状の筐体である。本実施の形態において、フレーム70は、略有底円筒状である。フレーム70は、例えばアルミニウムまたは鉄系材料等の金属材料によって構成された金属フレームである。なお、フレーム70は、金属材料ではなく、樹脂材料によって構成されていてもよい。
【0048】
また、フレーム70は、第2軸受32を保持するブラケットでもある。したがって、フレーム70には、第2軸受32を保持する軸受保持部が設けられている。本実施の形態において、第2軸受32は、フレーム70の内側に配置されている。
【0049】
ブラシホルダ80は、ブラシ50を保持する保持部材である。ブラシホルダ80は、ブラシ50を収納するブラシ収納部81を有する。ブラシ収納部81は、ブラシ50を収納するブラシボックス(ブラシ箱)である。ブラシ収納部81は、ブラシホルダ80の内側に設けられている。ブラシ収納部81は、ブラシ50と同様に、長尺状の筒状体である。一例として、ブラシ収納部81は、略角筒形状である。ブラシ収納部81は、ブラシ50ごとに設けられている。つまり、ブラシホルダ80には、複数のブラシ収納部81が設けられている。
【0050】
また、各ブラシ収納部81は、回転軸21の軸心C方向と直交する方向を長手方向としている。つまり、各ブラシ収納部81は、回転軸21の径方向に沿って延在している。これにより、ブラシホルダ80の強度を大きくすることができる。また、本実施の形態では、2つのブラシ収納部81が回転軸21を挟んで対向して配置されている。これにより、ブラシホルダ80の強度をより大きくすることができる。
【0051】
ブラシ収納部81は、ブラシホルダ80の一部とカバープレート90とによって構成されている。つまり、ブラシ収納部81は、ブラシホルダ80とカバープレート90とで囲まれる空間領域を含む筒状体である。
【0052】
カバープレート90は、例えば、金属板によって構成された金属カバーであり、ブラシ50を覆っている。カバープレート90には係止爪が設けられており、この係止爪をブラシホルダに形成された係止穴に挿入することで、カバープレート90をブラシホルダ80に固定することができる。
【0053】
ブラシ収納部81は、ブラシ50の第1側面53に対面する第1内側面81aと、ブラシ50の第2側面54に対面する第2内側面81bとを有する。ブラシ収納部81において、第1内側面81aおよび第2内側面81bは、回転軸21の軸心C方向に対向する一対の面である。第1内側面81aは、出力軸側に位置する面であり、第2内側面81bは、反出力軸側に位置する面である。本実施の形態において、ブラシ収納部81における第1内側面81aは、ブラシホルダ80の内面であり、ブラシ収納部81における第2内側面81bは、カバープレート90の内面である。
【0054】
また、回転軸21の軸心C方向と直交する平面とブラシ収納部81の第1内側面81aとのなす角をβとすると、本実施の形態では、β=0°である。つまり、ブラシ収納部81の第1内側面81aは、回転軸21の軸心C方向と直交する平面と平行である。また、ブラシ収納部81の第2内側面81bも、回転軸21の軸心C方向と直交する平面と平行である。つまり、ブラシ収納部81において、第1内側面81aと第2内側面81bとは、ブラシ収納部81の全域において平行である。また、ブラシ収納部81の長手方向は、回転軸21の軸心C方向と直交する方向と平行であり、ブラシ収納部81は、整流子40に垂直に設けられており、整流子40に対して傾斜していない。
【0055】
ブラシ収納部81には、ブラシ50とともにブラシバネ60が収納されている。したがって、ブラシ収納部81の長手方向の長さは、ブラシ50の長さよりも長くなっている。ブラシ収納部81に収納されたブラシ50は、ブラシバネ60によって押し付けられることでブラシ収納部81内を摺動する。なお、ブラシ50がブラシ収納部81をスムーズに摺動できるように、ブラシ収納部81とブラシ50との間には適度な隙間(クリアランス)が設けられている。一例として、ブラシ収納部81とブラシ50との間の隙間は、0.1mm程度である。ブラシバネ60に押し付けられたブラシ50は、ブラシ50の前端面51が摩耗するにつれて、ブラシ収納部81内を整流子40に向かって移動していく。具体的には、ブラシ50は、回転軸21の軸心Cと直交する方向に移動する。
【0056】
また、ブラシホルダ80は、第1軸受31を保持するブラケットとしても機能する。第1軸受31は、ブラシホルダ80に固定されている。本実施の形態において、第1軸受31は、ブラシホルダ80の外側の面に配置されている。
【0057】
本実施の形態において、ブラシホルダ80は、フレーム70の開口部70aを覆うように配置されている。言い換えれば、ブラシホルダ80は、フレーム70の開口部70aに蓋をするように配置されている。つまり、ブラシホルダ80は、フレーム70の開口部70aを塞ぐようにしてフレーム70の開口部70aを覆っている。ブラシホルダ80は、フレーム70の開口端部に固定されている。具体的には、ブラシホルダ80は、フレーム70の開口端部に嵌め込まれている。本実施の形態において、ブラシホルダ80は、圧入によってフレーム70の開口端部に嵌め込まれている。なお、ブラシホルダ80には、回転軸21が貫通する貫通孔が設けられている。
【0058】
ブラシホルダ80は、樹脂材料によって構成された樹脂製の樹脂プレートである。一例として、ブラシホルダ80は、ポリフタルアミド(PPA)または6ナイロン等によって構成されている。ブラシホルダ80は、樹脂材料によって一体に構成された樹脂成型品である。
【0059】
なお、本実施の形態において、ブラシ収納部81は、ブラシホルダ80の一部とカバープレート90とによって構成されていたが、これに限らない。例えば、ブラシ収納部81は、ブラシホルダ80の一部のみによって構成されていてもよい。つまり、ブラシ収納部81全体が樹脂製であってもよい。また、ブラシ収納部81は、ブラシホルダ80とは別体の部品で構成されていてもよい。この場合、ブラシホルダ80は、ブラシを保持する機能を有さず、第1軸受31を保持するブラケットまたはフレーム70の開口部70aを塞ぐ蓋体として機能する。
【0060】
フレーム70およびブラシホルダ80は、電動機1の外郭筐体を構成している。フレーム70およびブラシホルダ80で構成される外郭筐体には、固定子10および回転子20だけではなく、整流子40およびブラシ50等の電動機1を構成するその他の部品も収納されている。
【0061】
本実施の形態において、フレーム70とブラシホルダ80とは、シール部材100によってシールされている。シール部材100は、フレーム70とブラシホルダ80との間の隙間を塞いでいる。言い換えれば、シール部材100は、フレーム70とブラシホルダ80との間の隙間をシールしている。シール部材100は、ブラシホルダ80の外周端に沿って配置されている。具体的には、シール部材100は、円環状のシールリングであり、ブラシホルダ80の外周端の全周にわたって、ブラシホルダ80の外周端とフレーム70の開口端部との間に配置されている。シール部材100を設けることで、フレーム70内を気密封止することができる。このように、シール部材100を配置することで、電動機1の外部から電動機1の内部に水が浸入することを防ぐことができる。
【0062】
シール部材100は、ブラシホルダ80の外周端部に設けられた段差部の段差上面(乗り面)に配置されている。この場合、シール部材100は、ブラシホルダ80の段差部の段差側周面とフレーム70の開口端部の内面との間の隙間をシールしている。
【0063】
シール部材100は、樹脂材料によって構成されている。具体的には、シール部材100は、弾性復元力を有するエラストマーによって構成されている。一例として、シール部材100は、EPDM(エチレンプロピレンジエンモノマー)である。
【0064】
以上のように構成される電動機1では、ブラシ50に供給される電流が電機子電流(駆動電流)として整流子40を介して回転子20の巻線23に流れることで、回転子20に磁束が発生する。そして、この回転子20に生じた磁束と固定子10から生じる磁束との相互作用によって生成された磁気力が回転子20を回転させるトルクとなる。このとき、整流子片41とブラシ50とが接する際の位置関係によって、電流が流れる方向が切り替えられる。このように、電流が流れる方向が切り替えられることで、固定子10と回転子20との間に発生する磁力の反発力と吸引力とで一定方向の回転力が生成され、回転子20が回転軸21を中心として回転する。
【0065】
次に、整流子40に接するブラシ50の形状および姿勢等について、本開示の技術に至った経緯を含めて詳細に説明する。
【0066】
図3は、比較例である従来の電動機1Xにおけるブラシ50Xの周辺構造を模式的に示す図である。図3において、ブラシ50Xは、直方体であり、前端面51側の第1角度θ1と後端面52側の第2角度θ2とは、θ1=θ2=90°である。
【0067】
図3に示すように、比較例である従来の電動機1Xにおいて、ブラシ50Xおよびブラシ収納部81(ブラシボックス)は、長尺状であり、整流子40に対して長手方向が垂直となるように配置される。また、ブラシ50Xを整流子40に押し付けるために、ブラシ50Xの後端面52にはブラシバネ60によって荷重が加えられる。このとき、ブラシバネ60がブラシ50Xに付与する荷重は、ブラシ50Xの後端面52に垂直な方向に発生するため、ブラシ50Xの理想的な姿勢は、図3の(a)に示される状態である。
【0068】
しかしながら、実際には、ブラシ収納部81内でブラシ50Xをスムーズに摺動させるために、ブラシ収納部81の第1内側面81aとブラシ50Xの第1側面53との間および/またはブラシ収納部81の第2内側面81bとブラシ50Xの第2側面54との間には、隙間(クリアランス)が存在する。また、ブラシ50Xの形状にばらつきがあったり、ブラシ50Xへの荷重方向にばらつきがあったり、ブラシ50Xとブラシバネ60とブラシ収納部81との位置のばらつきがあったりする。
【0069】
このため、図3の(b)に示すように、ブラシ50Xは、ブラシ収納部81内で回転軸21の軸心C方向に傾倒した状態で整流子40に接触することになる。この場合、ブラシ50Xが傾倒する方向は一義的に定まらず、ブラシ50Xは、回転軸21の軸心C方向のどちらに傾くのかが分からない。例えば、ブラシ50Xは、前端面51が出力軸側寄りで且つ後端面52が反出力軸側寄りに移動するように傾いたり、逆に、前端面51が反出力軸側寄りで且つ後端面52が出力軸側寄りに移動するように傾いたりする。
【0070】
このように、直方体のブラシ50Xが傾倒すると、ブラシ50Xの角が整流子40に接触して、ブラシ50Xが角当たり状態になるおそれがある。整流子40に対してブラシ50Xが角当たり状態になると、ブラシ50Xと整流子40との接触面積が小さくなる。この結果、整流子40とブラシ50Xとの接触箇所にブラシ50Xの押圧が集中し、整流子40に対するブラシ50Xの面圧が増加してブラシ50Xの摩耗速度が増加する。さらに、ブラシ50Xと整流子40との接触面積が小さくなると、整流子40とブラシ50Xとの接触箇所で整流子40とブラシ50Xとの間の電流密度が大きくなり、整流子40とブラシ50Xとの間のスパークも増大する。この場合も、ブラシ50Xの摩耗速度が増加する。
【0071】
このように、整流子40に対してブラシ50Xが角当たり状態になると、ブラシ50Xの摩耗速度が増加することになる。この結果、電動機1Xの寿命が短くなる。
【0072】
そこで、ブラシ50Xが角当たり状態にならないように、意図的にブラシ50Xを決まった方向に傾倒させることが考えられる。具体的には、図4に示すように、ブラシ50Yにおける前端面51と第1側面53とのなす角θ1(第1角度)を90°未満にして、ブラシ50Yの前端面51に傾斜を付けることが考えられる。
【0073】
このように、ブラシ50Yの前端面51側の第1角度θ1を90°未満にすることで、ブラシバネ60からの荷重Fによってブラシ50Yにモーメントが作用し、図5に示すように、前端面51の傾斜にしたがってブラシ50Yを決まった方向に傾倒させることができる。図5では、ブラシ50Yは、前端面51が出力軸側(第1内側面81a側)に傾くように傾倒している。つまり、後端面52が反出力軸側(第2内側面81b側)に傾くようにブラシ50Yが傾倒している。このように、ブラシ50Yを決まった方向に意図的に傾倒させることで、ブラシ50Yの前端面51が整流子40に面接触し続けるので、ブラシ50Yが角当たり状態になることを抑制できる。
【0074】
しかしながら、図5に示すように、ブラシ50Yの前端面51側の第1角度θ1のみを90°未満にしてブラシ50Yを傾倒させただけでは、ブラシ50Yの後端面52側の第2角度θ2が90°であるので(θ2=90°)、ブラシ50Yが傾倒することに伴って後端面52に荷重Fを付与するブラシバネ60も傾くことになる。これにより、ブラシ50Yが傾倒したときに、ブラシバネ60による荷重Fによって、ブラシ50Yが傾倒した方向とは逆側の方向にブラシ50Yを傾倒させる荷重成分F1が発生し、この荷重成分F1がブラシ50Yに作用することになる。図5では、後端面52が反出力軸側に傾くようにブラシ50Yが傾倒しているが、荷重成分F1のベクトルは、反出力軸側方向ではなく、出力軸側方向になっている。
【0075】
この結果、前端面51を傾斜面にしてブラシ50Yを傾倒させることが阻害され、ブラシ50Yを決まった方向に傾倒させることができなくなるおそれがある。このように、ブラシ50Yの前端面51側の第1角度θ1のみを90°未満にするだけでは、ブラシ50Yが傾倒する状態を維持することができなくなるおそれがある。
【0076】
そこで、本願発明者らは、ブラシの形状についてさらに検討した。その結果、図6に示すように、ブラシ50の前端面51側の第1角度θ1を90°未満にすることに加えて、ブラシ50の後端面52側の第2角度θ2を90°未満にすることで、ブラシ50が傾倒する状態を安定して維持させることができることを見出した。
【0077】
図6は、実施の形態1に係る電動機1におけるブラシ50の周辺構造を模式的に示す図である。なお、図6において、ブラシ50は、回転軸21の軸心C方向と平行で且つ回転軸21およびブラシ50を通る平面で切断したときの断面を示しているが、便宜上ハッチングを施していない。このことは、以下の図7および図8等においても同様である。
【0078】
図6において、第1角度θ1および第2角度θ2は、θ2=θ1である。つまり、ブラシ50は、θ1<90°、θ2<90°、θ2=θ1を満たすように構成されている。
【0079】
このように、ブラシ50において、θ1<90°、θ2<90°、θ2=θ1とすることで、ブラシ50を決まった方向に意図的に傾倒させてブラシ50の前端面51を整流子40に面接触させてブラシ50が角当たり状態になることを抑制できるとともに、ブラシバネ60がブラシ50に付与する荷重Fの方向を、回転軸21の軸心C方向に直交する方向にすることができる。つまり、ブラシバネ60による荷重Fの方向を整流子40に対して垂直にすることができる。これにより、安定してブラシ50が傾倒した状態を維持することができる。
【0080】
なお、本実施の形態において、ブラシ50は、前端面51が出力軸側(第1内側面81a側)に傾くように傾倒している。つまり、後端面52が反出力軸側(第2内側面81b側)に傾くようにブラシ50が傾倒している。この場合、ブラシ50は、ブラシ収納部81における第1支持点P1と第2支持点P2とで支持される。第1支持点P1は、ブラシ50における後端面52の第2側面54側の角部とブラシ収納部81の第2内側面81bとが接触する箇所である。また、第2支持点P2は、ブラシ50の第1側面53とブラシ収納部81の第1内側面81aにおける整流子40側の端縁とが接触する箇所である。
【0081】
また、図6では、θ2=θ1としたが、図7に示すように、θ2<θ1であってもよい。この場合、ブラシバネ60がブラシ50に付与する荷重Fについて、回転軸21の軸心C方向と直交する方向とは異なる荷重成分F1が発生することになるが、この荷重成分F1のベクトルは、ブラシ50が傾倒した方向と同じ側の方向となる。このため、前端面51を傾斜させてブラシ50を傾倒させることを阻害せず、むしろ、前端面51を傾斜面にしてブラシ50を傾倒させることを補強することができる。したがって、より安定してブラシ50が傾倒した状態を維持することができる。
【0082】
ここで、図8に示すように、第1角度θ1をα1(α1≠0°)とすると、α1は、以下の(式1)で表すことができる。
【0083】
【数1】
【0084】
(式1)において、Hrは、ブラシ収納部81の高さであり、Hbは、ブラシ50の高さであり、Lは、整流子40の表面から第1支持点P1までの距離(つまり、摩耗する前のブラシ50の初期の長さ)であり、Sは、整流子40の表面から第2支持点P2までの距離(つまり、整流子40とブラシ収納部81の先端との距離)である。
【0085】
なお、本実施の形態において、ブラシ50の後端面52は、平坦面であったが、ブラシバネ60の荷重を支持する面を後端面52として第2角度θ2がθ2≦90°であれば、ブラシ50の後端面52は平坦面に限らない。例えば、図9に示すように、ブラシ50Aの後端部に凹部52aを形成し、凹部52aの底面を後端面52としてもよい。つまり、ブラシ50Aの後端部が傾斜していても、凹部52aの底面(後端面52)によってθ2を規定することができる。なお、この場合、ブラシバネ60は、凹部52aに配置される。
【0086】
また、本実施の形態では、ブラシバネ60として、圧縮コイルバネを用いたが、これに限らない。例えば、図10に示すように、ブラシバネ60Aとして、トーションバネを用いてもよい。この場合、図10に示すように、トーションバネであるブラシバネ60Aの一方の端部をブラシ50Aの凹部52aに配置する。なお、ブラシバネ60Aとしてトーションバネを用いる場合、後端部に凹部52aを有するブラシ50Aではなく、図6図8に示されるブラシ50であってもよい。この場合、トーションバネであるブラシバネ60Aの一方の端部は、ブラシ50の平坦面である後端面52に接触する。
【0087】
ここで、ブラシ50が摩耗したときについて、さらに検討する。電動機1を駆動させると、整流子40とブラシ50とが摺動することでブラシ50が摩耗していく。このとき、図11に示すように、ブラシ50の前端面51においては、ブラシ50が傾倒する側とは反対側の部分の方が、ブラシ50が傾倒する側の部分よりも摩耗速度が速い。図11では、ブラシ50の前端面51が出力軸側に傾いているので、ブラシ50の前端面51における反出力軸側(第2内側面81b側)の部分の方が、摩耗速度が速くなる。
【0088】
このように、ブラシ50を傾けると、前端面51の場所によって摩耗速度に差が生じるので、ブラシ50の摩耗の進行とともに、ブラシ50が傾倒する角度が大きくなっていく。つまり、摩耗後のブラシ50において、第1側面53の長さL1と第2側面54の長さL2とは、L1>L2になる。
【0089】
これにより、ブラシバネ60による荷重Fにおいて、ブラシ50が傾倒した方向とは逆側の方向にブラシ50を傾倒させる荷重成分F1が発生し、この荷重成分F1がブラシ50に作用することになる。つまり、前端面51を傾斜面にしてブラシ50を傾倒させることが阻害されてしまう。
【0090】
そこで、図12および図13に示すように、ブラシ50の後端面52側の第2角度θ2については、ブラシ50が摩耗していった場合にブラシ50が傾倒した方向とは逆側の方向にブラシ50を傾倒させる荷重成分F1が発生しないような角度で設定するとよい。これにより、ブラシ50が摩耗する前の状態または磨耗初期状態の場合だけではなく、ブラシ50が摩耗していった場合でも、安定してブラシ50が傾倒した状態を維持することができる。
【0091】
なお、図12は、θ2=θ1のブラシ50を用いたときに、ブラシ50が摩耗していった場合でも、ブラシバネ60がブラシ50に付与する荷重Fの方向が回転軸21の軸心C方向と直交する方向になっている状態を示している。また、図13は、θ2<θ1のブラシを用いたときに、ブラシ50が摩耗していった場合に、ブラシバネ60の荷重Fによって回転軸21の軸心C方向と直交する方向とは異なる荷重成分F1が発生しても、この荷重成分F1のベクトルが、ブラシ50が傾倒した方向と同じ側の方向になっている状態を示している。
【0092】
ここで、図14に示すように、第2角度θ2をα2(α2≠0°)とすると、α2は、以下の(式2)で表すことができる。なお、図14では、θ2=θ1である。つまり、θ2=θ1=α2である。
【0093】
【数2】
【0094】
(式2)において、Lは、ブラシ50の摩耗によるブラシ寿命を考慮したときのブラシ50の最小長さを示している。なお、(式2)において、Hr、Hb、L、Sは、上記の(式1)と同じである。
【0095】
以上説明したように、本実施の形態における電動機1によれば、回転軸21の軸心C方向と直交する平面とブラシ収納部81の第1内側面81aとのなす角をβとし、β=0°のときのθ1、θ2をそれぞれα1、α2とすると、θ1=α1-β、θ2=α2-β、θ1<90°、θ2<90°、θ2≦θ1、0°≦β<90°の関係を満たしている。なお、本実施の形態では、上記のように、β=0°である。つまり、回転軸21の軸心C方向と直交する平面とブラシ収納部81の第1内側面81aとは平行である。
【0096】
このような関係を満たすことで、ブラシ50が摩耗していっても、ブラシバネ60による荷重によってブラシ50を傾倒させることを阻害させることなく、ブラシ50を決まった方向に意図的に傾倒させることができる。これにより、ブラシ50が摩耗していっても、ブラシ50の前端面51が整流子40に面接触し続けるので、ブラシ50が角当たり状態になることを抑制できる。これにより、安定してブラシ50が傾倒した状態を維持することができる。
【0097】
これにより、整流子40に対してブラシ50が角当たり状態になってブラシ50と整流子40との接触面積が小さくなることを抑制できるので、整流子40に対するブラシ50の面圧が増加したり、整流子40とブラシ50との間の電流密度が大きくなったりしてブラシ50の摩耗速度が増加することを抑制できる。したがって電動機1の寿命が短くなることを抑制できる。
【0098】
さらに、整流子40に対するブラシ50が角当たり状態を抑制することで、整流子40における整流子片41の表面が局所的に摩耗してブラシ50と整流子40との間の接触状態が悪化することを抑制することもできる。これにより、整流子片41に対応する電流波形から回転数を検出して回転子20の回転状態を制御する場合に、整流子片41の接触抵抗が増加したり整流子片41毎に抵抗のばらつきが発生したりして電流波形に乱れが生じることを抑制できるので、回転数の誤検出等を抑制することができる。したがって、回転子20の制御性が低下することを抑制できる。
【0099】
また、ブラシ50を傾倒させると、上記のように、前端面51の場所によって摩耗速度に差が生じる。このため、図11に示すように、ブラシ50が摩耗していくと、ブラシ50の前端面51における第2側面54側(反出力軸側)の部分の摩耗の進行が早くなる。このとき、整流子40における第2側面54側部分の摩耗の進行も早くなるため、ブラシ50と整流子40との接触状態を悪化させることになる。
【0100】
そこで、ブラシ50については、θ1<90°、θ2<90°、θ2≦θ1の関係を満たすとともに、ブラシ収納部81については、整流子40側とは反対側の部分(後方部分)に傾斜を付けるとよい。
【0101】
具体的には、図15に示すように、ブラシ収納部81の第2内側面81bは、整流子40側に位置する第1面81b1と、第1面81b1よりも回転軸21の回転の径方向の外周側に位置する第2面81b2とを含んでいる。本構成において、回転軸21の軸心C方向と直交する平面と第2面81b2とのなす角を90°-γとしたときに、θ1=θ2=γ、0°<90°-γ<90°であるとよい。
【0102】
本実施の形態において、第1面81b1は、回転軸21の軸心C方向と直交する平面と平行な面である。第2面81b2は、第1面81b1に対して傾斜する面である。第2面81b2におけるブラシ収納部81の高さは、第1面81b1におけるブラシ収納部81の高さよりも高くなっている。また、第2面81b2におけるブラシ収納部81の高さは、後方に向かって漸次大きくなっている。
【0103】
このとき、γは、以下の(式3)で表すことができる。
【0104】
【数3】
【0105】
(式3)において、Aは、整流子40の表面とブラシ収納部81における傾斜開始点(つまり、第2内側面81bにおける第1面81b1と第2面81b2との境界点)との距離である。なお、(式3)において、Hr、Hb、L、L、Sは、上記の(式2)と同じである。
【0106】
このように、θ1<90°、θ2<90°、θ2≦θ1の関係を満たすとともに、θ1=θ2=γ、0°<90°-γ<90°の関係を満たすことで、ブラシ50と整流子40とは、出力軸側も反出力軸側も均一に摩耗する。これにより、安定してブラシ50が傾倒した状態を維持することができるだけではなく、ブラシ50が摩耗していっても、ブラシ50と整流子40との間の良い接触状態を維持することができる。
【0107】
また、本実施の形態に係る電動機1において、ブラシ50における第1側面53は、回転軸21の出力軸側の面である。
【0108】
これにより、図6図8に示すように、ブラシ50は、前端面51が出力軸側寄りで且つ後端面52が反出力軸側寄りに移動するように傾いている。つまり、ブラシ50は、前端面51が出力軸側(第1内側面81a側)に傾くように傾倒している。
【0109】
これにより、フレーム70とブラシホルダ80との隙間がシール部材100でシールされた構造を備える電動機1において、シール部材100による気密性を確保しつつ、回転軸21の軸心C方向におけるブラシホルダ80の寸法拡大を抑制することができる。つまり、電動機1の気密性と薄型化との両立を図ることができる。この点について、以下説明する。
【0110】
図3に示すように、比較例である従来の電動機1Xでは、ブラシ50Xおよびブラシ収納部81(ブラシボックス)は、整流子40に対して垂直に配置される。しかしながら、ブラシ50Xおよびブラシ収納部81をこのように配置すると、電動機1Xの内部空間を有効活用することができず、電動機1Xは、回転軸21の軸心C方向の長さが長くなる。つまり、電動機1Xの高さが高くなる。
【0111】
特に、本実施の形態における電動機1と同様に、電動機1Xは、フレーム70とブラシホルダ80との隙間をシール部材100でシールすることで、外部から電動機1の内部に水が浸入することを防ぐ構造を備える。電動機1Xは、所望の気密性を確保するために、ブラシホルダ80におけるシール部材100が配置される段差部には一定の厚みが必要になる。この結果、ブラシホルダ80の全体の厚みが厚くなり、電動機1Xの回転軸21の軸心C方向の長さが長くなる。
【0112】
これに対して、本実施の形態における電動機1では、前端面51が出力軸側に傾くようにブラシ50が傾倒している。この構成により、電動機1の内部空間において、ブラシ50における第1側面53の前端面51側の領域を有効活用することができる。これにより、ブラシホルダ80におけるシール部材100が配置される段差部の厚みを薄くしなくても、電動機1の回転軸21の軸心C方向の長さを短くすることが可能になる。したがって、ブラシホルダ80の段差部に配置されたシール部材100によって電動機1の気密性を確保しつつ、回転軸21の軸心C方向におけるブラシホルダ80の寸法拡大を抑制できる。つまり、電動機1の気密性と薄型化との両立を図ることができる。
【0113】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2に係る電動機1Aについて、図16図18を用いて説明する。図16は、実施の形態2に係る電動機1Aの断面図である。図17および図18は、同電動機1Aにおけるブラシ50の周辺構造を模式的に示す図である。なお、図17および図18は、ブラシの寸法のパラメータを示している。また、図18は、摩耗したときのブラシ50の寸法のパラメータも示している。
【0114】
上記実施の形態1に係る電動機1では、ブラシホルダ80におけるブラシ収納部81は、整流子40に対して垂直に配置されていたが、図16図18に示すように、本実施の形態における電動機1Aでは、ブラシホルダ80Aにおけるブラシ収納部81Aは、整流子40に対して傾斜している。
【0115】
具体的には、図17および図18に示すように、ブラシ収納部81Aにおける第1内側面81aおよび第2内側面81bは、回転軸21の軸心C方向と直交する平面に対して傾斜する傾斜面である。本実施の形態において、ブラシ収納部81Aは、整流子40側の前方部分が出力軸側寄りで且つ整流子40側とは反対側の後方部分が反出力軸側寄りとなるように傾斜している。したがって、ブラシ収納部81Aにおける第1内側面81aおよび第2内側面81bは、整流子40から離れるにしたがって反出力軸寄りとなるように傾斜している。なお、図17および図18において、第1内側面81aと第2内側面81bとは、ブラシ収納部81Aの全域において平行である。
【0116】
そして、本実施の形態における電動機1Aでは、ブラシ50の前端面51側の第1角度θ1とブラシ50の後端面52側の第2角度θ2とについては、回転軸21の軸心C方向に直交する平面とブラシ収納部81Aの第1内側面81aとのなす角をβとし、β=0°のときのθ1、θ2をそれぞれα1(α1≠0°)、α2(α2≠0°)としたときに、θ1=α1-β、θ2=α2-β、θ1<90°、θ2<90°、θ2≦θ1、0°<β<90°の関係を満たしている。
【0117】
つまり、上記実施の形態1では、β=0°であったが、本実施の形態では、0°<β<90°である。そして、本実施の形態においても、ブラシ50の形状および姿勢は、ブラシ50が摩耗した場合も考慮して、上記実施の形態1と同様の関係を満たしている。つまり、図17において、α1は、上記の(式1)で表され、図18において、α2は、上記の(式2)で表される。
【0118】
したがって、本実施の形態でも、上記実施の形態1と同様の効果を奏する。つまり、上記関係を満たすことで、ブラシ50が摩耗していっても、ブラシバネ60による荷重によってブラシ50を傾倒させることを阻害させることなく、ブラシ50を決まった方向に意図的に傾倒させることができる。これにより、ブラシ50が摩耗していっても、ブラシ50の前端面51が整流子40に面接触し続けるので、ブラシ50が角当たり状態になることを抑制できる。これにより、安定してブラシ50が傾倒した状態を維持することができる。
【0119】
また、ブラシ50を傾倒させると、上記のように、前端面51の場所によって摩耗速度に差が生じてブラシ50と整流子40との接触状態を悪化させることになる。そこで、本実施の形態においても、図19に示すように、ブラシ収納部81Aにおける整流子40側とは反対側の部分(後方部分)に傾斜を付けるとよい。
【0120】
具体的には、図19に示すように、ブラシ収納部81Aの第2内側面81bは、整流子40側に位置する第1面81b1と、第1面81b1よりも回転軸21の径方向の外周側に位置する第2面81b2とを含んでおり、回転軸21の軸心C方向と直交する平面と第2面81b2とのなす角を90°-γとしたときに、θ1=θ2=γ、0°<90°-γ<90°であるとよい。このとき、γは、上記の(式3)で表すことができる。
【0121】
このように、θ1=α1-β、θ2=α2-β、θ1<90°、θ2<90°、θ2≦θ1、0°<β<90°の関係を満たすとともに、θ1=θ2=γ、0°<90°-γ<90°の関係を満たすことで、ブラシ50と整流子40とは、出力軸側も反出力軸側も均一に摩耗することになる。これにより、安定してブラシ50が傾倒した状態を維持することができるだけではなく、ブラシ50が摩耗していっても、ブラシ50と整流子40との間の良い接触状態を維持することができる。
【0122】
また、本実施の形態に係る電動機1Aにおいても、上記実施の形態1と同様に、ブラシ50は、前端面51が出力軸側(第1内側面81a側)に傾くように傾倒している。しかも、本実施の形態では、ブラシ50だけではなく、ブラシ収納部81Aも、整流子40側の前方部分が出力軸側に傾いている。
【0123】
この構成により、電動機1Aの内部空間において、ブラシ収納部81Aの整流子40側の前方部分の領域を広くすることができるので、この部分を有効活用することができる。これにより、電動機1Aの回転軸21の軸心C方向の長さを短くすることが可能になる。したがって、ブラシホルダ80Aにおけるシール部材100が配置される段差部の厚みを薄くしなくても、電動機1Aの気密性を確保しつつ、回転軸21の軸心C方向におけるブラシホルダ80Aの寸法拡大を一層抑制することができる。つまり、電動機1Aの気密性を確保しつつ、上記実施の形態1よりも、電動機1Aの薄型化を図ることができる。
【0124】
また、本実施の形態のように、ブラシ収納部81Aを傾斜させることによって、電動機1Aを設置構造物に設置したときに第1軸受31が空転することを抑制できる。この点について、以下説明する。
【0125】
電動機1Aを設置構造物に設置したときに、第1軸受31は、ブラシホルダ80Aの外面と設置構造物とに挟持された状態になる。この場合、設置構造物から第1軸受31に対して力が加えられるので、ブラシホルダ80Aから第1軸受31に対して反力が加えられる。
【0126】
そして、電動機1Aが設置された設置構造物から第1軸受31を介してブラシホルダ80Aに力が加わることで、ブラシホルダ80Aからフレーム70に力が加わる。このブラシホルダ80Aからフレーム70に加わる力は、フレーム70を回転軸21の径方向外向きに押し広げる向きの力である。一方、フレーム70にブラシホルダ80Aが圧入されているため、フレーム70からブラシホルダ80Aに力が加わり、この力によってブラシホルダ80Aから第1軸受31に力が加わることになる。
【0127】
ここで、ブラシホルダ80Aの全体形状は平板状であるので、ブラシホルダ80Aの外面および内面は、回転軸21の軸心C方向に直交する平面に対して平行である。このような形状のブラシホルダ80Aでは、電動機1Aが設置された設置構造物から第1軸受31を介してブラシホルダ80Aに加わる力の向きと、ブラシホルダ80Aからフレーム70に加わる力の向きとが互いに直交することになる。このとき、ブラシ収納部81Aが整流子40に対して傾斜せずに垂直であると、ブラシホルダ80Aから第1軸受31に加わる反力が不十分となり、第1軸受31が空転するおそれがある。
【0128】
これに対して、本実施の形態では、ブラシ収納部81Aが整流子40に対して傾斜している。つまり、ブラシ収納部81Aは、回転軸21の軸心C方向に直交する平面に対して傾斜している。具体的には、ブラシ収納部81Aにおいて、第1内側面81a、第2内側面81b、第1内側面81aに背向する第1外側面、および、第2内側面81bに背向する第2外側面は、回転軸21の軸心C方向と直交する平面に対して傾斜する傾斜面になっている。
【0129】
ブラシ収納部81Aをこのような形状にすることで、ブラシホルダ80Aから第1軸受31に加わる力が比較的大きくなる。これにより、第1軸受31が空転する可能性を低減することができる。
【0130】
しかも、ブラシ収納部81Aが整流子40に対して傾斜していることで、フレーム70からの力(径方向の力)によってブラシホルダ80Aが変形しやすくなっている(反りやすい)。このため、ブラシホルダ80Aが変形することで、ブラシホルダ80Aから第1軸受31に加わる力を比較的大きくすることができる。
【0131】
(変形例)
以上、本開示に係る電動機について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、上記実施の形態に限定されるものではない。
【0132】
例えば、上記実施の形態において、固定子10は、磁石によって構成されていたが、これに限らない。具体的には、固定子10は、固定子鉄心と、この固定子鉄心に巻回された巻線とによって構成されていてもよい。
【0133】
また、上記実施の形態において、電動機1は、自動車に用いられる場合について説明したが、これに限らない。つまり、上記実施の形態における電動機1は、自動車に搭載される電装機器に限らず、種々の電気機器に用いることができる。例えば、電動機1は、家庭用電気機器に用いられてもよいし、電動工具等に用いられてもよい。
【0134】
また、ブラシ50およびブラシ収納部81Aにおける整流子40側の部分(前方部分)を出力軸側に傾けることで電動機の気密性と薄型化との両立を図ることができる効果については、ブラシ50における前端面51および後端面52に傾斜を持たせなくてもよい。つまり、ブラシ50の形状を、θ1<90°、θ2<90°、θ2≦θ1の関係を満たすようにしなくても、ブラシ50およびブラシ収納部81Aを整流子40に対して傾斜させることで、ブラシ収納部81Aの整流子40側の前方部分の領域を有効活用でき、ブラシホルダ80Aにおけるシール部材100が配置される段差部の厚みを薄くしなくても電動機の回転軸21の軸心C方向の長さを短くすることができる。
【0135】
なお、その他、上記実施の形態に対して当業者が思い付く各種変形を施して得られる形態や、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で実施の形態における構成要素および機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本開示は、自動車等をはじめとして、電動機が搭載される種々の製品に利用することができる。
【符号の説明】
【0137】
1、1A 電動機
10 固定子
20 回転子
21 回転軸
21a 第1部位
21b 第2部位
22 回転子鉄心
23 巻線
24 インシュレータ
31 第1軸受
32 第2軸受
40 整流子
41 整流子片
50、50A ブラシ
51 前端面
52 後端面
52a 凹部
53 第1側面
54 第2側面
60、60A ブラシバネ
70 フレーム
70a 開口部
80、80A ブラシホルダ
81、81A ブラシ収納部
81a 第1内側面
81b 第2内側面
81b1 第1面
81b2 第2面
90 カバープレート
100 シール部材
図1
図2
図3
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