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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158794
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】パワー半導体モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 25/07 20060101AFI20231024BHJP
   H01L 23/28 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
H01L25/04 C
H01L23/28 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068793
(22)【出願日】2022-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000233273
【氏名又は名称】株式会社 日立パワーデバイス
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 康二
【テーマコード(参考)】
4M109
【Fターム(参考)】
4M109AA01
4M109BA03
4M109CA02
4M109DB10
(57)【要約】
【課題】ボンディングワイヤにおける高周波振動(ケース共振)、および低周波振動(ゲル共振)の対策を有し、機械的振動によるワイヤの破断を防いで、信頼性が確保されたパワー半導体モジュールを提供する。
【解決手段】
ベースプレート1とケース4とで構成されるケース内の空間にゲルで封止された半導体チップ3(3A,3B)と、補助端子8(8A,8B)と前記半導体チップの端子とを接続するボンディングワイヤ5と、前記ゲルに接し、前記ゲルが振動した際に前記ボンディングワイヤの横倒しを防止する仕切板6(6A,6B)と、を備え、前記仕切板は、前記ボンディングワイヤの側方にボンディングワイヤの延在方向に沿って構成され、前記ケースを構成するケース壁と一体となった突起として形成されている。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースプレートとケースとで構成されるケース内の空間にゲルで封止された半導体チップと、
補助端子と前記半導体チップの端子とを接続するボンディングワイヤと、
前記ゲルに接し、前記ゲルが振動した際に前記ボンディングワイヤの横倒しを防止する仕切板と
を備え、
前記仕切板は、前記ボンディングワイヤの側方にボンディングワイヤの延在方向に沿って構成され、前記ケースを構成するケース壁と一体となった突起として形成されている、
ことを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項2】
請求項1において、
前記仕切板の高さは、前記ボンディングワイヤの高さ以上である、
ことを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項3】
請求項1において、
前記仕切板は、前記ボンディングワイヤの側方から見て、ボンディングワイヤの頂点と重なる、
ことを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項4】
請求項1において、
二つの前記仕切板の間にボンディングワイヤは1本が配置されている、
ことを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項5】
請求項1において、
2本の前記ボンディングワイヤの間にゲルの防振として共有化される1枚の前記仕切板を有する、
ことを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項6】
請求項1において、
前記仕切板は、高さ方向において、前記ケース壁の高さに相当する長さである、
ことを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項7】
請求項6において、
前記仕切板と前記ベースプレートとの間に絶縁層を設ける、
ことを特徴とするパワー半導体モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワー半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
高電圧、大電流を扱う半導体装置の主要部品であるパワー半導体モジュールにおいては、信頼性を確保するにあたってのひとつの問題として、機械的振動によるボンディングワイヤの破断への対処がある。
機械的振動によるボンディングワイヤのワイヤ破断としては、ケース共振に起因する高周波振動(300~600Hz)による破断と、ケース内の空間に充填されたゲルのゲル共振に起因する低周波振動(~100Hz)による破断と、がある。
ただし、高周波振動(ケース共振)の対策と、低周波振動(ゲル共振)の対策については、様々にあるが、相反する対策が必要となることがある。
【0003】
また、これらの相反する対策を融合する有効な手段としては、ワイヤ間を隔てる仕切板について、次の様な方策もある。(A)仕切板はゲルに接している。(B)仕切板はワイヤに略平行である。(C)仕切板はベースに垂直である。(D)仕切板はケースまたはベースに直接接続である。
これらの技術分野の背景技術として、例えば、引用文献1~引用文献3がある。
【0004】
特許文献1の要約には、「[課題]ボンディングワイヤがボンディングされているボンディング部で容易に断線せず、ボンディング部での信頼性がより向上した半導体装置を提供する。[解決手段]絶縁配線基板29が収納されたケース22の内側部分に設けられたボンディングパッド27には、ボンディングワイヤ31がボンディングされており、また、このボンディングワイヤ31のボンディング部にはエポキシ樹脂32が被着硬化されており、さらにケース22内にはボンディングワイヤ31等を覆うようにシリコーンゲル33が充填されている。これによりボンディングワイヤ31のボンディング部は、被着硬化されているエポキシ樹脂32によってそのネック部分31aが固定されることになり、動かなくなる。その結果、強い振動や強制的な熱サイクルが加わるようなことが有っても、ボンディングワイヤ31は容易に断線しなくなり、信頼性がより向上する。」と記載され、半導体装置の技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2の要約には、「[課題]信頼性が高いパワーモジュールを提供する。[解決手段]パワーモジュールは、外面に露出した外部端子を有する筐体と、前記筐体内に設けられた基板と、前記基板に搭載された半導体素子と、前記半導体素子に接続されたワイヤと、前記筐体内に設けられ、前記外部端子を前記半導体素子の電極に接続する金属板端子と、前記筐体内に設けられ、前記金属板端子の一部、前記基板、前記半導体素子及び前記ワイヤを覆うゲル材と、を備える。前記金属板端子は、前記ワイヤと前記筐体の天板との間であって、前記ゲル材の内部に配置された第1部分と、前記第1部分に対して屈曲し、前記半導体素子の前記電極に接続された第2部分と、前記第1部分の端部から前記基板に向かって延出した第3部分と、を有する。」と記載され、パワーモジュールの技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献3の要約には、「[課題]半導体モジュールの低背化を実現すること。[解決手段]リードフレーム(5)の一方側に配置される半導体チップに接合される接合部(51)と、リードフレームの他方側に配置される接続対象に接合される接合部(52)と、第1接合部と第2接合部とを連結する連結部(53)とを有するリードフレーム構造において、連結部に、接合部(51)及び接合部(52)の主面(51a、52a)と交差する壁部(531、532)を設け、当該壁部で接合部(51)の一部と接合部(52)の一部とを連結する構成とした。」と記載され、配線構造の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10-50897号公報
【特許文献2】特開2020-155572号公報
【特許文献3】特開2021-145083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記の特許文献1において、(A)、(C)、(D)についての記載はあるが、(B)についての記載がない。
また、特許文献2においては、(B)についての記載はあるが、(C)、(D)についての記載がない。
特許文献3においては、(A)から(D)について概ね記載があるが、あらたに仕切板に相当する構造物の強度に懸念される事項を有する構造となっている。
したがって、特許文献1~特許文献3においては、高周波振動(ケース共振)と低周波振動(ゲル共振)を併せて解決するとともに、仕切板に相当する構造物の強度に関する信頼性が確保できていないという課題(問題)がある。
【0009】
本発明は、前記した問題に鑑みて創案されたものであり、ボンディングワイヤにおける高周波振動(ケース共振)、および低周波振動(ゲル共振)の対策を有し、機械的振動によるワイヤの破断を防いで、信頼性が確保されたパワー半導体モジュールを提供することを課題(目的)とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決して、本発明の目的を達成するために、以下のように構成した。
すなわち、本発明のパワー半導体モジュールは、ベースプレートとケースとで構成されるケース内の空間にゲルで封止された半導体チップと、補助端子と前記半導体チップの端子とを接続するボンディングワイヤと、前記ゲルに接し、前記ゲルが振動した際に前記ボンディングワイヤの横倒しを防止する仕切板と、を備え、前記仕切板は、前記ボンディングワイヤの側方にボンディングワイヤの延在方向に沿って構成され、前記ケースを構成するケース壁と一体となった突起として形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ボンディングワイヤにおける高周波振動(ケース共振)、および低周波振動(ゲル共振)の対策を有し、機械的振動によるワイヤの破断を防いで、信頼性が確保されたパワー半導体モジュールを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】本発明の第1実施形態に係るパワー半導体モジュールの上面から観た平面の構造の一例を模式的に示す図である。
図1B】本発明の第1実施形態に係るパワー半導体モジュールのIB-IB軸の断面構造の一例を模式的に示す図である。
図1C】本発明の第1実施形態に係るパワー半導体モジュールのIC-IC軸の断面構造の一例を模式的に示す図である。
図1D】本発明の第1実施形態に係るパワー半導体モジュールの仕切板の構造の一例を示す図である。
図1E】本発明の第1実施形態に係るパワー半導体モジュールの仕切板の構造の第二例を示す図である。
図2A】比較例としてのパワー半導体モジュールの上面から観た平面の構造の一例を模式的に示す図である。
図2B】比較例としてのパワー半導体モジュールのIIB-IIB軸の断面構造の一例を示す図である。
図2C】比較例としてのパワー半導体モジュールのIIC-IIC軸の断面構造の一例を示す図である。
図3】比較例としてのパワー半導体モジュールにおけるボンディングワイヤのワイヤ振動の様子を示す図である。
図4】本発明の第1実施形態に係るパワー半導体モジュールにおけるボンディングワイヤのワイヤ振動の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下においては「実施形態」と表記する)を、適宜、図面を参照して説明する。
以下の説明において参照する図面は、実施形態を概略的に示したものであるため、各部材のスケールや間隔、位置関係などが誇張、あるいは部材の一部の図示が省略されている場合もある。
また、本発明は、ここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で、適宜、組合せや改良が可能である。
【0014】
≪第1実施形態≫
本発明の第1実施形態に係るパワー半導体モジュールの構成を、図1A図1Dを参照して説明する。
【0015】
<パワー半導体モジュールの平面の構造について>
図1Aは、本発明の第1実施形態に係るパワー半導体モジュール100の上面から観た平面の構造の一例を模式的に示す図である。
図1Aにおいて、ケース4とベースプレート1が構成する空間にパワー半導体モジュール100を構成する部材が配置されている。なお、ケース4は、上下の抜けた箱型の形状をしているので、横側に位置するケースをケース壁41とも記載する。
また、図1Aにおいては、パワー半導体モジュール100の紙面視で平面の上方から見ているので、ベースプレート1の一部しか見えていない。ベースプレート1については、後記する図1Bの断面図に示すように、パワー半導体モジュール100の底部に配置されている。
【0016】
なお、図1Aにおいて、ベースプレート1と記載された箇所が、ケース4の角の部分にある。この箇所は、ケース4が丸く円周状の形状に変形されて構成された部分である。そのため、角の四隅において、ベースプレート1が上から部分的に見えている。
この四隅において、蓋(不図示)やケースを、冷却板(不図示)にネジ(不図示)を用いて固定する。このように、固定するための穴の構造を、図1Aにおいて、ベースプレート孔1Hとして示している。
【0017】
図1Aにおいて、ケース4の内部に半導体チップ3(3A,3B)、配線構造体2(2A,2B,2C)、ボンディングワイヤ5,5B、仕切板6(6A,6B)、補助端子8(8A,8B)が配置されている。なお、配線構造体2(2A,2B,2C)は、多層構造の金属の配線層を含む絶縁基板でもある。
半導体チップ3A,3Bは、配線構造体2Bの上面に配置され、半導体チップ3A,3Bにおける複数の端子は、配線構造体2Bの複数の端子と複数の配線によって、それぞれ接続されている。
なお、半導体チップ3Aは、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を搭載して構成され、半導体チップ3Bは、例えば、ダイオードを搭載して構成されている。
【0018】
また、半導体チップ3Aと半導体チップ3Bのそれぞれの端子は、複数のボンディングワイヤ5Bによって相互に接続されている。
また、半導体チップ3Bの複数の端子と、配線構造体2Cの複数の端子が複数のボンディングワイヤによって相互に接続されている。
また、半導体チップ3Aと配線構造体2Aとの間もボンディングワイヤによって接続されている。
また、配線構造体2Bと配線構造体2Cにおいて、主端子接続部9が設けられている。
【0019】
また、補助端子8Aは、ボンディングワイヤ5を介して配線構造体2Aの所定の端子と接続されている。
また、補助端子8Bは、ボンディングワイヤ5を介して配線構造体2Bの所定の端子と接続されている。
また、複数の主端子接続部9と複数の補助端子8A,8Bを介して、複数の配線構造体2A,2B,2Cや複数の半導体チップ3A,3Bに複数の信号や電力がパワー半導体モジュール100の外部から配送される。
なお、複数の主端子接続部9は、ケース4の上面に配置される図示していない蓋を介して、パワー半導体モジュール100へ複数の信号や電力が供給される端子である。
【0020】
補助端子8Aに繋がっているボンディングワイヤ5の両側には、2枚の仕切板6Aがあり、ボンディングワイヤ5の振動を防護している。なお、ボンディングワイヤ5の振動(ワイヤ振動)についは、後記する。
また、補助端子8Bに繋がっているボンディングワイヤ5の両側には、2枚の仕切板6Bがあり、ボンディングワイヤ5の振動を防護している。
なお、2枚の仕切板6Aの間にあるボンディングワイヤ5は、1本の方が望ましい。2枚の仕切板6Aの間に配置するボンディングワイヤ5の本数を増やすと、仕切板6Aの効果が減少するためである。
同様の理由により、2枚の仕切板6Bの間にはボンディングワイヤ5は、1本の方が望ましい。
【0021】
なお、ケース4とベースプレート1が構成する空間においては、図1B図1Cを参照して後記するように、半導体チップ3A,3Bやボンディングワイヤ5,5Bを絶縁保護するゲル7が充填されている。
また、図1Aにおいて、IB-IB(軸)と表記した断面の断面図は、後記する図1Bの断面図である。
また、IC-IC(軸)と表記した断面の断面図は、後記する図1Cの断面図である。
【0022】
前記したように、パワー半導体モジュール100においては、ケース共振に起因する高周波振動(300~600Hz)と、ゲル共振に起因する低周波振動(~100Hz)があり、これらの振動からボンディングワイヤのワイヤ破断を防止する必要がある。
そのため、仕切板6Aや仕切板6Bが設けられている。なお、仕切板6Aや仕切板6Bは、強度を確保するためにも、仕切板(6A,6B)とケース4を構成するケース壁41とは、一体となった構成が望ましく、仕切板(6A,6B)は、ケース壁41と一体となった突起(突起物)として形成されている。
【0023】
なお、ケース4を構成するケース壁41から、充分に内部に位置する複数のボンディングワイヤ5Bには、仕切板は設けていない。その理由は、ケース壁41の充分に内部に位置するボンディングワイヤは、複数の本数が集団で設けられることが多く、その場合には、複数のボンディングワイヤが互いの存在によって、全体としてワイヤの振動が軽減される傾向があるためである。
また、充分に内部に位置する際に、ボンディングワイヤが1本の場合であっても、ワイヤの長さが充分に短い場合には、ワイヤの振動が小さくなるため、対策をとる必要がない場合もある。
また、ケース壁41の充分に内部に位置するボンディングワイヤは、ケース共振に起因する高周波振動の影響も受けにくいこともあって、内部には仕切板を設けていない。
【0024】
<パワー半導体モジュール100の断面構造>
次に、図1B図1Cを参照して、図1Aで示したIB-IB軸の断面構造と、IC-IC軸の断面構造について説明する。
【0025】
《IB-IB軸の断面構造》
図1Bは、本発明の第1実施形態に係るパワー半導体モジュール100のIB-IB軸(図1A)の断面構造の一例を模式的に示す図である。
図1Bにおいて、補助端子8Bから配線構造体2Bの所定の端子までボンディングワイヤ5が設けられている。
なお、図1Aで示したIB-IB軸の断面においては、本来は、仕切板6Bは、断面構造には、含まれていないが、ボンディングワイヤ5との関係を解りやすくするために、参考として、図1Bに敢えて表記している。
【0026】
図1Bに示すように、ケース4とベースプレート1とで構成する空間に、配線構造体2B、半導体チップ3A、ボンディングワイヤ5、仕切板6B、補助端子8Bが配置され、ゲル7が充填されている。
なお、前記したように、ケース4の上には、図示しない蓋が被せられるが、蓋とゲル7との間には、所定の空間が設けられ、高温になった場合にゲル7が膨張しても支障が生じない構造となっている。
【0027】
前記したように、ケース4の構造に起因するケース共振に起因する高周波振動(300~600Hz)現象と、ゲルの振動によるゲル共振に起因する低周波振動(~100Hz)の現象がある。
これらの振動現象によるワイヤ破断(ボンディングワイヤ5の破断)を防止するためのひとつの対策として、仕切板6B(図1A図1B)を設ける。
【0028】
《IC-IC軸の断面構造》
図1Cは、本発明の第1実施形態に係るパワー半導体モジュール100のIC-IC軸(図1A)の断面構造の一例を模式的に示す図である。
図1Cに示すように、ケース4とベースプレート1とで構成する空間に、配線構造体2A、ボンディングワイヤ5、仕切板6A、(補助端子8A)が配置され、ゲル7が充填されている。
図1Cにおいて、図示していない補助端子8Aから配線構造体2Aの所定の端子にボンディングワイヤ5が設けられている。
このボンディングワイヤ5が、前記したケース共振に起因する高周波振動現象と、ゲルの振動によるゲル共振に起因する低周波振動の現象から、ボンディングワイヤ5の破断を防止するために、仕切板6A(図1A図1C)を設けている。仕切板6Aによって、ゲルやワイヤの振動を軽減し、ワイヤ破断(ボンディングワイヤ5の破断)を防止する。
【0029】
《仕切板6(6A,6B)》
図1Dは、本発明の第1実施形態に係るパワー半導体モジュール100の仕切板6(6A,6B)の構造の一例を示す図である。
図1Dにおいて、ケース4(ケース壁41)とベースプレート1、配線構造体2(2A,2B)、ボンディングワイヤ5、仕切板6(6A,6B)の構造の配置例を示している。
図1Dにおける仕切板6の配置は、概ね図1Cの仕切板6Aに対応しており、比較的にケース4(ケース壁41)の高い位置に、仕切板6Aが突起状にケース壁41と一体化して設けられている。
【0030】
この構成は、主にゲル共振に起因する低周波振動(~100Hz)による破断に対応する対策である。
なお、仕切板6(6A,6B)を高い位置に設けると、ボンディングワイヤ5の高さも高い位置まで設けることの自由度も増す。
また、「高い」もしくは「高さ」と記載した場合の基準は、ベースプレート1、もしくは配線構造体2からの垂直方向の距離である。
【0031】
なお、前記したように、仕切板6(6A,6B)が突起状にケース壁41と一体化して設けられている。
この構造によって、仕切板6(6A,6B)とケース壁41が一体化して、ボンディングワイヤ5を囲むので振動を防ぐ(抑える)観点において、効率的であり、より強固に振動や破断を防ぐ効果がある。
また、図1Dに示すように、仕切板6(6A,6B)を比較的にケース壁41の高い位置に配置する場合には、仕切板6の下が空いているので、ゲル7(図1C)を注入する際に、ゲルの流動性が高まり、作業効率が向上する。
【0032】
図1Eは、本発明の第1実施形態に係るパワー半導体モジュール100の仕切板6(6A,6B)の構造の第二例を示す図である。
図1Eの構造は、概ね図1Dに示した構造と同じであるが、異なるのは、仕切板6(6A,6B)がケース壁41の高い位置から低い位置まで、一体化して設けられていることである。
仕切板6の振動特性が変化するとともに、仕切板6(6A,6B)とケース壁41とが密着している長さが大きくなるので、仕切板6の強度が向上する。ただし、仕切板6は、ベースプレート1とは、直接に、接触しないことが望ましい。また、仕切板6とベースプレート1との接触を避けるために、それらの間に絶縁層(絶縁板)を設けてもよい。
【0033】
なお、図1A図1Eで示した本発明の第1実施形態のパワー半導体モジュール100の特徴を解りやすく説明するために、比較例としてのパワー半導体モジュールを簡単に説明する。その後に、再度、第1実施形態のパワー半導体モジュール100について詳しく説明する。
【0034】
<比較例としてのパワー半導体モジュール>
前記した本発明の第1実施形態のパワー半導体モジュール100の仕切板6の効果をさらに分かりやすく説明するために、比較例として、図2A図2Cを参照して説明する。
図2Aは、比較例としてのパワー半導体モジュール200の上面から観た平面の構造の一例を模式的に示す図である。
図2Bは、比較例としてのパワー半導体モジュール200のIIB-IIB軸(図2A)の断面構造の一例を示す図である。
図2Cは、比較例としてのパワー半導体モジュール200のIIC-IIC軸(図2A)の断面構造の一例を示す図である。
【0035】
比較例としてのパワー半導体モジュール200を示す図2A図2Cを、本発明のパワー半導体モジュール100を示す図1A図1Cと比較すると、図2A図2Cにおいては、仕切板6(6A,6B)がないことである。その他は、図2A図2C図1A図1Cは、それぞれ同一の構成をしているので、重複する説明は省略する。
【0036】
図2A図2B図2Cにおいては、仕切板6(6A,6B:図1)がない。そのため、次に、図3を参照して説明するように、ボンディングワイヤ5に対する仕切板による防振効果やボンディングワイヤの破断防止効果が期待できない。
次に、図3図4を比較、参照して破断防止効果の相違を説明する。
【0037】
<比較例と本発明のパワー半導体モジュールの特性、動作の相違について>
本発明の第1実施形態のパワー半導体モジュール100について、比較例を参照しながら、再度、詳しく説明する。
図3図4を参照して、比較例と本発明のパワー半導体モジュールの特性、動作の相違について説明する。
図3は、比較例としてのパワー半導体モジュールにおけるボンディングワイヤ5のワイヤ振動5SAの様子を示す図である。
【0038】
図4は、本発明の第1実施形態に係るパワー半導体モジュールにおけるボンディングワイヤ5のワイヤ振動5SBの様子を示す図である。
図3においては、比較例のパワー半導体モジュール200のボンディングワイヤ5は、ケース4の振動に起因するケース共振や、ケース4の中に充填されたゲル7の振動に起因するゲル共振の影響をそのまま受ける。
そのため、図3のワイヤ振動5SAに示すように振幅の大きい振動が起こり易い。
【0039】
それに対して、図4における本発明のパワー半導体モジュールのボンディングワイヤ5は、紙面視で左右に仕切板6Aがあるため、ケース共振やゲル共振が起きたとしても、ボンディングワイヤ5は保護される。
そのため、図4のワイヤ振動5SBに示すように、図3のワイヤ振動5SAに比較して、振動の振幅が小さく、ワイヤ破断が起こり難い。
すなわち、図4における本発明のパワー半導体モジュールのボンディングワイヤ5は、紙面視で左右に仕切板6(6A,6B)があるため、ワイヤ振動の振動幅が小さく軽減され、ケース共振やゲル共振が起きたとしても、ボンディングワイヤ5は保護される。
【0040】
<仕切板の作用と効果について>
再び、図1Dを参照して、本発明のパワー半導体モジュールの仕切板6の効果について、さらに詳しく説明する。
まず、仕切板6はゲル7に接していることで、ボンディングワイヤ5の近傍におけるゲル7の振動や共振を軽減できる。
また、仕切板6の長い方向における設置方向は、ボンディングワイヤ5の伸びている方向と略平行に設置されている。表現を変えれば、仕切板6は、ボンディングワイヤ5の側方にボンディングワイヤの延在方向に沿って形成、構成されている。
すなわち、二つの仕切板6の間においては、二つの仕切板6が対向している方向がゲル7の振動が少ない。したがって、仕切板6の長い方向における設置方向が、ボンディングワイヤ5の伸びている方向と略平行である方が、ボンディングワイヤ5のワイヤ振動が軽減される。
【0041】
また、仕切板6は、ベースプレート1に対して、垂直方向に設置されている。ゲル7の振動において、仕切板6は、ベースプレート1に対して、垂直方向に設置されている方が、ゲル7の水平方向、あるいは垂直方向の振動を軽減する効果がある。
また、仕切板6は、ケース壁41に直接接続されていることが望ましい。仕切板6がケース壁41に直接接続されることによって、仕切板6の振動が軽減され、ボンディングワイヤ5の負担が軽減されて、ワイヤの破壊防止につながる。
【0042】
また、仕切板6の高さは、ボンディングワイヤ5の高さ以上である。すなわち、ボンディングワイヤ5が仕切板6に隠されることによって、ボンディングワイヤ5の負担が軽減される。
また、ボンディングワイヤ5の側方から見たときに、仕切板6は、ボンディングワイヤの頂点と重なることがよい。無用に仕切板6を高くすると、ゲル7が振動する空間が増加し、無用のゲル振動モードを生成する可能性がある。
さらに、仕切板6は、ケース壁41と一体となったと突起として形成されている。
【0043】
<第1実施形態の総括>
ケースの内部に半導体チップ、配線構造体、ボンディングワイヤを配置したパワー半導体モジュールにおいては、ケースの構造に起因するケース共振に起因する高周波振動現象と、ゲルの振動によるゲル共振に起因する低周波振動の現象がある。
これらの振動現象からボンディングワイヤの破断を防ぐために、ボンディングワイヤの両側に仕切板を設ける。
さらには、仕切板をケース壁と一体となった突起として形成することによって、振動現象をさらに軽減するとともに、仕切板の強度を高くする。
なお、仕切板とケース壁が別々の工程で製作する場合には、ゲルの注入後に仕切板を取り付けるとゲルが損傷を受ける。それに対して、仕切板をケース壁と一体となった突起として形成する本発明の第1実施形態においては、ゲルの注入工程が円滑に行われ、製造工程の容易さと、信頼性の確保がより向上する。
【0044】
<第1実施形態の効果>
本発明の第1実施形態によれば、ボンディングワイヤにおける高周波振動(ケース共振)、および低周波振動(ゲル共振)の対策を有し、機械的振動によるボンディングワイヤの破断を防いで、信頼性が確保されたパワー半導体モジュールを提供できる。
また、仕切板をケース壁と一体となった突起として形成することによって、仕切板の強度を向上させるとともに、製造コストを低減する効果がある。
【0045】
≪その他の実施形態と補足≫
なお、本発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものでなく、さらに様々な変形例が含まれる。例えば、前記の実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために、詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成の一部で置き換えることが可能であり、さらに、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成の一部または全部を加えることも可能である。
以下に、その他の実施形態や変形例、補足について、さらに説明する。
【0046】
《仕切板の間のボンディングワイヤの本数》
図1A図1C図1Dを参照して第1実施形態においては、仕切板の間のボンディングワイヤの本数は1本として、説明したが、必ずしも1本には限定されない。
仕切板の設置が、例えばレイアウト上、限定されるような箇所においては、2枚の仕切板の間に2本、あるいは3本以上を配置しても、所定の効果があることもある。
【0047】
《仕切板の共用化》
図1Aにおいては、1本のボンディングワイヤを2枚の仕切板で挟む例を示したが、この組み合わせに必ずしも限定されない。
例えば、2本のボンディングワイヤに対して、3枚の仕切板を飛び飛びに用いる方法もある。すなわち、1枚の仕切板を共用化する方法もある。
【0048】
《仕切板の厚み、形状》
第1実施形態においては、仕切板の厚みに言及をしなかったが、仕切板の厚みは必ずしも共通である必要はない。
例えば、共振の振動がパワー半導体モジュールの内部の位置によって異なる場合には、仕切板の厚みや形状が異なることがあってもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 ベースプレート
1H ベースプレート孔
100,200 パワー半導体モジュール
2,2A,2B,2C 配線構造体(絶縁基板)
3,3A,3B 半導体チップ
4 ケース
41 ケース壁(ケース)
5,5B ボンディングワイヤ、ワイヤ
5SA,5SB ワイヤ振動
6,6A,6B 仕切板
7 ゲル
8,8A,8B 補助端子
9 主端子接続部
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図2C
図3
図4