(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158795
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】容器詰飲料、容器詰飲料の製造方法及び飲料のボディ感の増強方法
(51)【国際特許分類】
A23L 2/00 20060101AFI20231024BHJP
A23L 2/56 20060101ALI20231024BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20231024BHJP
C12G 3/04 20190101ALI20231024BHJP
【FI】
A23L2/00 B
A23L2/56
A23L2/52 101
C12G3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068794
(22)【出願日】2022-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100202603
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 智史
(72)【発明者】
【氏名】和田 華奈子
(72)【発明者】
【氏名】加嶋 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄大
【テーマコード(参考)】
4B115
4B117
【Fターム(参考)】
4B115LH01
4B115LH03
4B115LH11
4B115LP02
4B115MA03
4B117LC02
4B117LE10
4B117LG02
4B117LK07
4B117LK16
4B117LL01
4B117LP10
(57)【要約】
【課題】本開示の目的は、ボディ感が増強された低甘味度の容器詰飲料及びこの関連技術を提供することである。
【解決手段】可食性の水溶液と、柑橘類の特徴香気成分を含む疎水性液滴と、を含み、上記水溶液及び上記疎水性液滴が、互いに分離しており、甘味度が、10以下であり、L-アスコルビン酸の濃度が、50mg/L以上である、容器詰飲料及びこの関連技術。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可食性の水溶液と、柑橘類の特徴香気成分を含む疎水性液滴と、を含み、
前記水溶液及び前記疎水性液滴が、互いに分離しており、
甘味度が、10以下であり、
L-アスコルビン酸の濃度が、50mg/L以上である、
容器詰飲料。
【請求項2】
前記L-アスコルビン酸の総質量に対する前記疎水性液滴中のD-リモネンの総質量の比が、0.1~5.0である、請求項1に記載の容器詰飲料。
【請求項3】
果汁の濃度が、10体積%以下である、請求項1又は請求項2に記載の容器詰飲料。
【請求項4】
アルコールの濃度が、7体積%以下である、請求項1又は請求項2に記載の容器詰飲料。
【請求項5】
可食性の水溶液と、柑橘類の特徴香気成分を含む疎水性液滴と、を含み、前記水溶液及び前記疎水性液滴が互いに分離しており、甘味度が10以下である飲料において、L-アスコルビン酸の濃度を50mg/L以上に調節することを含む、容器詰飲料の製造方法。
【請求項6】
甘味度が10以下である飲料において、可食性の水溶液と、柑橘類の特徴香気成分を含む疎水性液滴とが互いに分離した状態を形成することを含む、飲料のボディ感の増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、容器詰飲料、容器詰飲料の製造方法及び飲料のボディ感の増強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料の味及び香りは、飲料に対するヒトの嗜好性を左右する重要な要素である。一般的に、飲料の味及び香りは、糖類、果汁及び香料といった様々な原材料の組み合わせによって調節されている。例えば、下記特許文献1は、疎水性香気成分によって香りが増強された容器詰飲料を開示している。下記特許文献1に開示された容器詰飲料では、可食性の水溶液と、疎水性香気成分を含有している疎水性液滴とが分離している。さらに、下記特許文献1において具体的に開示された容器詰飲料の製造方法では、原材料としてショ糖が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
消費者の嗜好の多様化に応えるために、様々な低甘味度の飲料の開発が行われている。低甘味度の飲料(具体的には、甘味度が10以下である飲料)は、高甘味度の飲料と比較して、甘味が少なく、すっきりとした味わいを有するが、ボディ感に乏しいことがある。「甘味度」は、甘味の強さを表す指標である。「ボディ感」は、「味の厚み」及び「味の重厚感」といった味わいに関する特徴を表し、「飲みごたえ」に寄与する。原材料として使用される甘味物質(例えば、単糖類、二糖類及び食品添加物としての甘味料)は、飲料の甘味度に影響を及ぼすため、高甘味度の飲料に対する甘味物質の寄与は、非常に大きい。一方、低甘味度の飲料は、甘味物質を全く含んでいない、又は高甘味度の飲料ほど多くの甘味物質を含んでおらず、このため、低甘味度の飲料の開発手法は、高甘味度の飲料の開発手法と大きく異なる。そこで、低甘味度の飲料のボディ感を増強する技術が求められている。
【0005】
本開示の目的は、ボディ感が増強された低甘味度の容器詰飲料、上記容器詰飲料の製造方法及び低甘味度の飲料のボディ感を増強する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の態様を包含する。
<1> 可食性の水溶液と、柑橘類の特徴香気成分を含む疎水性液滴と、を含み、上記水溶液及び上記疎水性液滴が、互いに分離しており、甘味度が、10以下であり、L-アスコルビン酸の濃度が、50mg/L以上である、容器詰飲料。
<2> 上記L-アスコルビン酸の総質量に対する上記疎水性液滴中のD-リモネンの総質量の比が、0.1~5.0である、<1>に記載の容器詰飲料。
<3> 果汁の濃度が、10体積%以下である、<1>又は<2>に記載の容器詰飲料。
<4> アルコールの濃度が、7体積%以下である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の容器詰飲料。
<5> 可食性の水溶液と、柑橘類の特徴香気成分を含む疎水性液滴と、を含み、上記水溶液及び上記疎水性液滴が互いに分離しており、甘味度が10以下である飲料において、L-アスコルビン酸の濃度を50mg/L以上に調節することを含む、容器詰飲料の製造方法。
<6> 甘味度が10以下である飲料において、可食性の水溶液と、柑橘類の特徴香気成分を含む疎水性液滴とが互いに分離した状態を形成することを含む、飲料のボディ感の増強方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、ボディ感が増強された低甘味度の容器詰飲料、上記容器詰飲料の製造方法及び低甘味度の飲料のボディ感を増強する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。以下に説明される実施形態は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜変更されてもよい。
【0009】
本開示において、「~」を使用して表される数値範囲は、「~」の前に記載される数値を下限として含み、かつ、「~」の後に記載される数値を上限として含む。本開示において段階的に記載された複数の数値範囲に関して、ある数値範囲の下限は、他の数値範囲の下限に置き換えられてもよい。本開示において段階的に記載された複数の数値範囲に関して、ある数値範囲の上限は、他の数値範囲の上限に置き換えられてもよい。本開示において数値範囲の上限又は下限は、実施例に示される値に置き換えられてもよい。
【0010】
本開示において、対象物中の成分の定性分析及び定量分析は、特に断りのない限り、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)によって実施される。対象物中の成分の種類及び量は、対象物の成分表示に基づいて特定されてもよい。
【0011】
<容器詰飲料>
以下、容器詰飲料について説明する。本開示の一実施形態に係る容器詰飲料は、可食性の水溶液と、柑橘類の特徴香気成分を含む疎水性液滴と、を含み、上記水溶液及び上記疎水性液滴は、互いに分離している。さらに、容器詰飲料の甘味度は、10以下である。上記のような実施形態によれば、柑橘類の特徴香気成分を含む疎水性液滴が可食性の水溶液から分離していることによって、柑橘類の特徴香気成分の風味がより強く感じられ、結果的に、低甘味度の飲料のボディ感が増強される。
【0012】
[甘味度]
容器詰飲料の甘味度は、10以下である。容器詰飲料の甘味度は、好ましくは8以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下である。容器詰飲料の甘味度の下限は、0であってもよい。容器詰飲料の甘味度は、0~10であってもよい。容器詰飲料の甘味度は、0であってもよい。
【0013】
本開示における「甘味度」は、甘味の強さを表す指標であり、スクロースの甘味度を1とする相対値によって表される。飲料の甘味度は、下記式によって算出される。飲料が2種類以上の甘味物質を含む場合には、下記式によって甘味料ごとに算出された値の合計が、飲料の甘味度として採用される。本開示における「甘味物質の濃度」は、特に断りのない限り、飲料の体積に対する甘味物質の質量の比を表す。
式:飲料の甘味度=[甘味物質の濃度(g/L)]×[甘味物質の甘味度]
【0014】
本開示における「甘味物質」とは、ヒトに対して甘味を感じさせる物質を意味する。甘味物質としては、単糖類、二糖類及び食品添加物としての甘味料が挙げられる。単糖類及び二糖類としては、例えば、スクロース、グルコース、フルクトース及び異性化糖が挙げられる。甘味料としては、例えば、日本国の法令によって食品添加物に区分される甘味料が挙げられる。食品添加物としての甘味料の具体例は、下記「[容器詰飲料の製造方法]」の項に記載されている。
【0015】
容器詰飲料の甘味度を算出するために必要な甘味物質の甘味度は、例えば、下記の文献に記載されている。参照される文献によって甘味物質の甘味度が変わる場合、中央値が採用される。
(1)「甘味の基礎知識」、著者:前橋健二、日本醸造協会誌(2011)、第106巻、第12号、p818-p825
(2)マクマリー有機化学(第7版)、株式会社東京化学同人、p988
(3)「砂糖のあれこれ」、甘味料の総覧、精糖工業会
【0016】
容器詰飲料の甘味度を低減する方法としては、例えば、低甘味度の甘味物質の使用及び甘味物質の濃度の低減が挙げられる。例えば、容器詰飲料における甘味物質の濃度は、下記(1)~(2)の少なくとも1つに従って調節されてもよい。
(1)単糖類及び二糖類の合計濃度は、好ましくは10,000mg/L以下、より好ましくは5,000mg/L以下である。単糖類及び二糖類の合計濃度の下限は、0mg/Lであってもよい。単糖類及び二糖類の合計濃度は、0mg/L~10,000mg/Lであってもよい。単糖類及び二糖類の合計濃度は、0mg/Lであってもよい。
(2)日本国の食品衛生法によって食品添加物に区分される甘味料の濃度(以下、本段落において単に「甘味料の濃度」という。)は、好ましくは10mg/L以下、より好ましくは5mg/L以下である。甘味料の濃度の下限は、0mg/Lであってもよい。甘味料の濃度は、0mg/L~10mg/Lであってもよい。甘味料の濃度は、0mg/Lであってもよい。
【0017】
[可食性の水溶液]
容器詰飲料は、可食性の水溶液を含む。可食性の水溶液は、少なくとも水を含む。可食性の水溶液は、水以外の成分を更に含んでいてもよい。水以外の成分としては、例えば、後述される可食性の水溶液の原材料及び上記原材料に由来の成分が挙げられる。水以外の成分の具体例としては、アルコール及び食品添加物が挙げられる。アルコールとしては、例えば、エタノールが挙げられる。食品添加物の具体例は、下記「[容器詰飲料の製造方法]」の項に記載されている。可食性の水溶液は、1種類又は2種類以上の、水以外の成分を含んでいてもよい。
【0018】
[疎水性液滴]
容器詰飲料は、柑橘類の特徴香気成分を含む疎水性液滴を含む。容器詰飲料において、疎水性液滴は、可食性の水溶液から分離している。上記のような分離状態の形成によって、低甘味度の飲料のボディ感が増強される。本開示における「疎水性」とは、25℃の水中で界面を形成可能な性質を意味する。ただし、25℃の飲料において可食性の水溶液から分離している液滴は、「疎水性液滴」とみなされる。
【0019】
本開示における「柑橘類の特徴香気成分」とは、柑橘類の特徴的な香りとしてヒトが認識可能な香気成分を意味する。ヒトが柑橘類の特徴的な香りを認識可能である限り、柑橘類の特徴香気成分は、柑橘類に含まれている香気成分だけでなく、柑橘類に含まれていない香気成分であってもよい。柑橘類の特徴香気成分は、天然物から抽出された物質又は化学合成物質であってもよい。
【0020】
柑橘類としては、例えば、レモン、ライム、ユズ、シークヮーサー、スダチ、カボス、グレープフルーツ、オレンジ、伊予柑、温州みかん、夏みかん、八朔及び日向夏が挙げられる。柑橘類は、レモン、ライム及びグレープフルーツからなる群より選択される少なくとも1種の柑橘類であることが好ましい。柑橘類は、レモンを含むことが好ましい。柑橘類は、レモンであることが好ましい。
【0021】
レモンの特徴香気成分としては、例えば、D-リモネン、シトラール、ネロール、ゲラニオール、酢酸ネリル及び酢酸ゲラニルが挙げられる。シトラールは、一般的に、レモン由来の精油に含まれる含酸素化合物の半分以上を占める。ユズの特徴香気成分としては、例えば、リナロール、チモール、ユズノン(登録商標)及びN-メチルアントラニル酸メチルが挙げられる。グレープフルーツの特徴香気成分としては、例えば、オクタナール、デカナール及びヌートカトンが挙げられる。オレンジの特徴香気成分としては、例えば、オクタナール、デカナール、リナロール、酢酸ゲラニル及びシネンサールが挙げられる。
【0022】
柑橘類の特徴香気成分は、テルペン類を含んでいてもよい。柑橘類の特徴香気成分は、テルペン類であってもよい。一般的に、テルペン類は、柑橘類から抽出された精油に多く含まれる。テルペン類としては、例えば、テルペン炭化水素及びテルペノイドが挙げられる。テルペン炭化水素としては、D-リモネンが挙げられる。テルペノイドは、テルペン炭化水素から誘導される含酸素誘導体である。含酸素誘導体としては、例えば、アルコール、アルデヒド、ケトン及びエステルが挙げられる。具体的なテルペノイドとしては、例えば、シトラールが挙げられる。
【0023】
一般的に、柑橘類の香りに対するD-リモネンの貢献度は、テルペノイドよりも小さい。このため、テルペノイドの濃度が大きくなると、香りはより強くなる。一方、テルペノイドの濃度が大きくなり過ぎると、香りは強くなるものの、香りの自然さは減少する可能性がある。より自然な柑橘類の香りの付与の観点から、疎水性液滴において、テルペン類の総質量に対するテルペノイドの総質量の比は、好ましくは10質量%~40質量%、より好ましくは15質量%~40質量%、更に好ましくは20質量%~40質量%、特に好ましくは20質量%~30質量%である。疎水性液滴において、テルペン類の総質量に対するテルペン炭化水素の総質量の比は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。疎水性液滴において、テルペン類の総質量に対するD-リモネンの総質量の比は、好ましくは40質量%~60質量%、より好ましくは50質量%~60質量%である。疎水性液滴において、テルペン炭化水素の総質量に対するD-リモネンの総質量の比は、好ましくは50質量%~80質量%、より好ましくは60質量%~75質量%である。
【0024】
柑橘類の特徴香気成分は、常温常圧で揮発しやすい揮発性物質であることが好ましい。柑橘類の特徴香気成分の沸点は、1atmで260℃以下であることが好ましい。
【0025】
疎水性液滴は、1種類又は2種類以上の、柑橘類の特徴香気成分を含んでいてもよい。
【0026】
ボディ感の増強の観点から、疎水性液滴の総質量に対する柑橘類の特徴香気成分の総質量の比は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、特に好ましくは80質量%以上である。疎水性液滴の総質量に対する柑橘類の特徴香気成分の総質量の比は、100質量%以下であってもよい。疎水性液滴の総質量に対する柑橘類の特徴香気成分の総質量の比は、100質量%未満であってもよい。
【0027】
疎水性液滴は、柑橘類の特徴香気成分のみからなる疎水性液滴であってもよい。すなわち、疎水性液滴の総質量に対する柑橘類の特徴香気成分の総質量の比は、100質量%であってもよい。
【0028】
疎水性液滴は、柑橘類の特徴香気成分以外の成分を更に含んでいてもよい。柑橘類の特徴香気成分以外の成分としては、例えば、油脂、天然物から有機溶媒抽出物に香気成分と共に抽出された疎水性物質、油溶性溶剤及び香気成分の劣化を抑制する物質が挙げられる。柑橘類の特徴香気成分以外の成分は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で公知の物質から選択されてもよい。
【0029】
疎水性液滴は、比較的高い沸点を有する不揮発性物質を含んでいてもよい。香気成分が速やかに揮発して香りとして認識されやすくなり、香りの増強効果が得られることから、疎水性液滴の構成成分の80質量%以上は、1atmで260℃以下の沸点を有する物質であることが好ましい。
【0030】
後述のような精油及び精油の加工物といった油状物を用いて疎水性液滴が形成される場合、疎水性液滴は、精油及び精油の加工物からなる群より選択される少なくとも1種の油状物を含んでいてもよい。同様に、疎水性液滴は、精油及び精油の加工物からなる群より選択される少なくとも1種の油状物に由来の成分を含んでいてもよい。
【0031】
疎水性液滴は、1種類又は2種類以上の、柑橘類の特徴香気成分以外の成分を含んでいてもよい。
【0032】
疎水性液滴の密度は、可食性の水溶液の密度より小さくてもよい。可食性の水溶液の密度以上の密度を有する疎水性液滴と比較して、可食性の水溶液の密度より小さい密度を有する疎水性液滴は、容器詰飲料の液面又はその近傍に配置されやすくなる。容器詰飲料の液面又はその近傍に疎水性液滴が配置されると、飲料と容器との間の空間に多くの香気成分が含まれやすくなるため、容器の開封時に認識される香りが強くなる。疎水性液滴の密度は、可食性の水溶液の密度以上であってもよい。
【0033】
疎水性液滴の数は、少なくとも1個である。疎水性液滴の数は、2個以上であってもよい。容器詰飲料に含まれる疎水性液滴の数及び量は、目的の飲料品質(例えば、ボディ感)を考慮して調節される。ボディ感の増強の観点から、疎水性液滴の濃度は、好ましくは0.1g/L以上、より好ましくは0.3g/L以上、更に好ましくは0.5g/L以上である。疎水性液滴の濃度の下限は、0.8g/L又は1.0g/Lであってもよい。飲料の口当たりの向上の観点から、疎水性液滴の濃度は、好ましくは1.5g/L以下、より好ましくは1.0g/L以下、更に好ましくは0.8g/L以下である。疎水性液滴の濃度は、0.1g/L~1.5g/Lであってもよい。本開示における「疎水性液滴の濃度」は、特に断りのない限り、飲料の体積に対する疎水性液滴の質量の比を表す。
【0034】
[他の成分]
容器詰飲料は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で他の成分を更に含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、L-アスコルビン酸、果汁及びアルコールが挙げられる。さらに、他の成分としては、例えば、後述される飲料の原材料及び上記原材料に由来の成分が挙げられる。
【0035】
容器詰飲料は、L-アスコルビン酸を含むことが好ましい。L-アスコルビン酸は、味と香りとの調和性の向上に寄与する。容器詰飲料におけるL-アスコルビン酸の濃度は、好ましくは50mg/L以上、より好ましくは100mg/L以上、更に好ましくは300mg/L以上、特に好ましくは500mg/L以上である。可食性の水溶液と、柑橘類の特徴香気成分を含む疎水性液滴とが互いに分離している容器詰飲料におけるL-アスコルビン酸の濃度を50mg/L以上に調節することによって、ボディ感が増強され、さらに、味及び香りの調和性にも優れる容器詰飲料が得られる。L-アスコルビン酸の濃度の上限は、1,000mg/Lであることが好ましい。L-アスコルビン酸の濃度は、50mg/L~1,000mg/Lであってもよい。本開示における「L-アスコルビン酸の濃度」は、特に断りのない限り、飲料の体積に対するL-アスコルビン酸の質量の比を表す。ボディ感の増強と、味及び香りの調和性の向上との観点から、L-アスコルビン酸の総質量に対する疎水性液滴中のD-リモネンの総質量の比は、好ましくは0.1~5.0、より好ましくは0.2~3.0、更に好ましくは0.3~1.5である。さらに、L-アスコルビン酸の総質量に対する疎水性液滴中のD-リモネンの総質量の比は、好ましくは0.3~1.0であり、より好ましくは0.3~0.8である。
【0036】
容器詰飲料は、果汁を含んでいてもよい。果汁は、日本国においては果実飲料の日本農林規格及び国際的には果汁及びネクターに関するコーデックス規格(CODEX STAN 247-2005)に定義されている。果汁としては、例えば、柑橘類の果汁が挙げられる。原材料として、濃縮果汁、還元果汁又は不溶性固形分の一部が除去されて清澄化された果汁が使用されてもよい。容器詰飲料における果汁の濃度の増大は、ボディ感の増強に寄与する。一方、果汁の濃度が大きくなり過ぎると、果汁由来の甘味物質の濃度が増大し、目的の味わいとの乖離が大きくなる可能性がある。したがって、容器詰飲料における果汁の濃度は、好ましくは10体積%以下、より好ましくは5体積%以下、更に好ましくは3体積%以下である。果汁の濃度の下限は、0体積%であってもよい。容器詰飲料は、果汁を含んでいなくてもよい。すなわち、容器詰飲料における果汁の濃度は、0体積%であってもよい。本開示における「果汁の濃度」は、特に断りのない限り、飲料の体積に対する果汁の体積の比を表す。
【0037】
容器詰飲料は、アルコールを含んでいてもよい。アルコールとしては、例えば、エタノールが挙げられる。アルコールの濃度の増大は、飲料のボディ感の増強に寄与する。一方、アルコールの濃度が大きくなり過ぎると、飲料が飲みにくくなる可能性がある。したがって、容器詰飲料におけるアルコールの濃度は、好ましくは7体積%以下、より好ましくは5体積%以下である。アルコールの濃度の下限は、0体積%であってもよい。容器詰飲料は、アルコールを含んでいなくてもよい。すなわち、容器詰飲料におけるアルコールの濃度は、0体積%であってもよい。本開示における「アルコールの濃度」は、特に断りのない限り、飲料の体積に対するアルコールの体積の比を表す。
【0038】
[クエン酸換算酸度]
容器詰飲料のクエン酸換算酸度は、好ましくは0.05g/100mL~1g/100mLであり、より好ましくは0.1g/100mL~0.5g/100mLである。容器詰飲料のクエン酸換算酸度が上記範囲内であると、柑橘類らしい果実感が向上する。飲料のクエン酸換算酸度は、「果実飲料の日本農林規格」(第25条)にて定められた酸度の測定方法に基づいて算出される。
【0039】
[容器]
飲料を詰める容器(以下、単に「容器」という場合がある。)としては、例えば、ツーピース飲料缶、スリーピース飲料缶、ボトル缶、可撓性容器及びガラス瓶が挙げられる。例えば、可撓性容器は、可撓性樹脂を成形することによって製造される。可撓性樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)及びポリエチレンテレフタレート(PET)が挙げられる。可撓性容器は、単層樹脂又は多層樹脂によって構成されてもよい。
【0040】
可撓性容器といった樹脂を含む容器では、疎水性液滴に含まれる物質による溶解及び劣化の影響を受けない樹脂を使用することが好ましい。例えば、D-リモネンに対して高い耐性を有する樹脂を含む容器としては、フッ素ゴム、ニトリルゴム(すなわち、NBR)及び鎖状低密度ポリエチレン(すなわち、L-LDPE)といった樹脂を含む容器が好ましい。上記のような樹脂を含む容器としては、例えば、フッ素ゴム及びニトリルゴム(NBR)といった樹脂を主成分として含むシーリングコンパウンドを使用したツーピース飲料缶及びスリーピース飲料缶が挙げられる。さらに、上記のような樹脂を含む容器としては、例えば、キャップライナーとしてL-LDPEを使用したボトル缶が挙げられる。
【0041】
容器詰飲料が発泡性飲料である場合、耐圧性の高い容器を使用することが好ましい。例えば、アルミニウム合金製ツーピース飲料缶及びアルミニウム合金製ボトル缶の中では、686kPa程度の保証耐圧を有する容器が流通している。
【0042】
[容器詰飲料の製造方法]
目的の容器詰飲料が得られる限り、容器詰飲料の製造方法は制限されない。容器詰飲料は、甘味度が10以下の飲料において、可食性の水溶液と、柑橘類の特徴香気成分を含む疎水性液滴とが互いに分離した状態を形成することによって製造可能である。例えば、容器詰飲料は、甘味度が10以下の飲料において、可食性の水溶液と、柑橘類の特徴香気成分を含む疎水性液滴とが互いに分離した状態が形成されるように、原材料を接触させて、任意選択で適当な処理を実施することによって製造される。飲料を詰めるための容器は、飲料の製造過程で、又は飲料の製造後に使用されてもよい。例えば、容器詰飲料は、容器の中で飲料を製造した後、容器を密閉することによって製造されてもよい。例えば、容器詰飲料は、事前に製造された飲料を容器に導入した後、容器を密閉することによって製造されてもよい。
【0043】
好ましい実施形態において、容器詰飲料の製造方法は、工程S1と、工程S2と、をこの順に含む。工程S1は、可食性の水溶液と、柑橘類の特徴香気成分を含む疎水性液体とを互いに接触させることであり、そして、工程S2は、上記疎水性液体の少なくとも一部から上記柑橘類の特徴香気成分を含む疎水性液滴を形成して、上記水溶液及び上記疎水性液滴が互いに分離しており、甘味度が10以下である飲料を得ることである。上記のような方法によれば、ボディ感が増強された低甘味度の容器詰飲料が得られる。上記のような方法において、飲料を詰めるための容器は、工程S1及び工程S2で使用されてもよい。すなわち、容器内で工程S1及び工程S2を実施することによって、容器詰飲料が製造されてもよい。例えば、容器は、工程S2で使用されてもよい。すなわち、容器内で工程S2を実施することによって、容器詰飲料が製造されてもよい。例えば、容器は、工程S2の後に使用されてもよい。すなわち、工程S2によって得られた飲料を容器に詰めることによって、容器詰飲料が製造されてもよい。以下、各工程について説明する。ただし、既に説明された事項の説明は省略されることがある。
【0044】
(工程S1)
工程S1は、可食性の水溶液と、柑橘類の特徴香気成分を含む疎水性液体とを互いに接触させることである。以下、工程S1について具体的に説明する。
【0045】
例えば、可食性の水溶液は、水と他の原材料とを混合することによって製造される。他の原材料としては、例えば、単糖類、二糖類及び果汁が挙げられる。さらに、他の原材料としては、例えば、酒類、炭酸水、果実、野菜類、ハーブ、香味料、他の食品素材及び食品添加物が挙げられる。可食性の水溶液が全体として流動性を有していれば、可食性の水溶液に果実パルプ及びゼリーといった固体が添加されてもよい。原材料として使用される甘味物質の種類及び濃度は、飲料の甘味度を大きく左右する。このため、飲料の甘味度が10以下となるように、原材料として使用される甘味物質の種類及び濃度を検討することが好ましい。以下、例示された他の原材料の一部について簡単に説明する。
【0046】
酒類としては、例えば、原料用アルコール、蒸留酒(例えば、ウォッカ、ウイスキー、ブランデー、焼酎、ラム酒、スピリッツ及びジン)、醸造酒(例えば、ワイン、シードル、ビール及び日本酒)及び混成酒(例えば、リキュール及びベルモット)が挙げられる。
【0047】
可食性の水溶液におけるアルコールの濃度は、目的の飲料におけるアルコールの濃度を考慮して決定されてもよい。飲料の飲みやすさの向上及び疎水性液滴の形成の促進の観点から、工程S1で使用される可食性の水溶液におけるアルコールの濃度(すなわち、可食性の水溶液の体積に対するアルコールの体積の比)は、好ましくは7体積%以下、より好ましくは5体積%以下である。
【0048】
果実としては、例えば、柑橘類の果実が挙げられる。柑橘類の具体例は、既述のとおりである。
【0049】
野菜類としては、例えば、トマト、ニンジン、ホウレン草、キャベツ、メキャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、セロリ、レタス、パセリ、クレソン、ケール、大豆、ビート、赤ピーマン、カボチャ及び小松菜が挙げられる。
【0050】
他の食品素材としては、例えば、野菜汁、野菜エキス及び果実エキスが挙げられる。例えば、エキスは、水又はアルコールを用いて裁断された食物から抽出された抽出物である。さらに、他の食品素材としては、例えば、食物繊維、酵母エキス、タンパク質及びタンパク質の分解物が挙げられる。食物繊維の中でも水溶性食物繊維は、飲料にボディ感及び他の機能性を付与するために広く使用されている。水溶性食物繊維は、水に溶解し、かつ、ヒトの消化酵素により消化されない又は消化され難い炭水化物を指す。水溶性食物繊維としては、例えば、大豆食物繊維、ポリデキストロース、難消化性デキストリン、ガラクトマンナン、イヌリン、グアーガム分解物、ペクチン及びアラビアゴムが挙げられる。
【0051】
食品添加物としては、例えば、国の法令又はこれに準ずる規則に基づいて食品に使用可能な添加物が挙げられる。例えば、日本国では食品衛生法によって食品添加物が定められている。食品添加物としては、例えば、着色料、香料、甘味料、酸味料、乳化剤、保存料、酸化防止剤、pH調整剤、消泡剤、起泡剤及び栄養強化剤が挙げられる。以下、例示された食品添加物の一部について簡単に説明する。
【0052】
着色料は、例えば、食品の色調を改善するために使用される。着色料は、化学合成系着色料及び天然系着色料に大別され、日本国の食品衛生法では、指定添加物、既存添加物及び一般飲食物添加物に分類される。着色料としては、食品を褐色に着色するカラメル色素が多く使用される。カラメル色素の副次効果として、例えば、カラメル色素は、飲料にロースト感又はコクを付与できる。
【0053】
香料は、例えば、食品に香気を与える、又は食品の香気を増強するために使用される。香料としては、例えば、天然香料及び合成香料が挙げられる。天然香料としては、例えば、天然物から抽出された香料が挙げられる。例えば、天然香料は、日本国で定められている「天然香料基原物質リスト」に記載された物質から選択されてもよい。例えば、合成香料は、日本国で定められている「食品衛生法施行規則」の「別表第1」に記載された物質から選択されてもよい。一般的に、香料が単独で使用されることは少なく、多数の香料化合物を組み合わせた香料製品が使用される。香料製品の形態としては、例えば、水溶性香料、油溶性香料、乳化香料及び粉末香料が挙げられる。例えば、水溶性香料は、香料ベースを水溶性溶剤(例えば、含水アルコール及びプロピレングリコール)を用いて抽出及び溶解することによって得られる。例えば、油溶性香料は、香料ベースを植物油に溶解することによって得られる。例えば、乳化香料は、乳化剤及び安定剤を使用し、香料ベースを水に乳化させて微粒子状態にすることによって得られる。このような香料は、飲料ににごりを与えることがあるため、「クラウディー」と呼ばれることがある。粉末香料は、香料ベースを賦形剤(例えば、デキストリン、天然ガム質、糖及びでんぷん)と共に乳化させた後、噴霧乾燥させて粉末化すること、又は乳糖に香料ベースを付着させることによって得られる。飲料には、一般的に、水溶性香料及び乳化香料が用いられる。
【0054】
甘味料は、例えば、食品に甘味を与えるために使用される。食品添加物に区分される低甘味度物質としては、例えば、L-アラビノース、D-キシロース、トレハロース、D-ソルビトール、キシリトール及びマンニトールが挙げられる。食品添加物に区分される高甘味度物質としては、例えば、アスパルテーム、ネオテーム、アセスルファムカリウム、サッカリン類、スクラロース、グリチルリチン酸二ナトリウム、ステビア抽出物、カンゾウ抽出物及びタウマチンが挙げられる。一方、本開示において、単糖類、二糖類及び一部の低甘味度物質(具体的には、水あめ、エリスリトール、マルチトール及びラクチトール)は、「甘味料」に区分されない。日本国の食品衛生法では、甘味料は、指定添加物、既存添加物及び一般飲食物添加物に分類される。
【0055】
酸味料は、例えば、食品に酸味を与える、又は食品の酸味を増強するために使用される。酸味料としては、例えば、有機酸(例えば、クエン酸及び乳酸)、有機酸の塩及び無機酸(例えば、リン酸及び二酸化炭素)がある。有機酸と有機酸の塩との併用は、緩衝作用によって特定のpHを保持しやすくすることができる。日本国において酸味料として一括名表示できる物質としては、例えば、次のような物質が挙げられる。指定添加物における酸味料としては、例えば、アジピン酸、クエン酸、クエン酸三ナトリウム(単に「クエン酸ナトリウム」と呼ばれることがある。)、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム及びリン酸が挙げられる。既存添加物における酸味料としては、例えば、イタコン酸、フィチン酸及びα-ケトグルタル酸が挙げられる。容器詰飲料は、クエン酸及びクエン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の酸味料を含むことが好ましい。さらに、容器詰飲料は、クエン酸及びクエン酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種の酸味料を含むことが好ましい。
【0056】
乳化剤は、例えば、食品の乳化、分散、浸透、洗浄、起泡、消泡又は離型のために使用される。飲料では、一般的に、乳化剤は、液中に油を分散(すなわち、乳化)させるために使用されることが多い。例えば、乳化剤は、疎水性成分を水中に均一に分散させる、又は原材料由来の油脂成分の分離を抑制するために用いられる。
【0057】
可食性の水溶液は、原材料を均一に混合することによって製造されることが好ましい。原材料に疎水性成分が含まれている場合、例えば、適切な乳化剤を使用して乳化処理を実施することが好ましい。原材料に果実パルプといった不溶性固形分が含まれている場合、充分に攪拌処理することが好ましい。乳化処理及び攪拌処理は、飲料の製造で汎用されているホモジナイザー及び攪拌装置を使用して実施可能である。可食性の水溶液に不溶物が生じた場合、不溶物は除去されてもよい。不溶物を除去する方法としては、例えば、ろ過法及び遠心分離法が挙げられる。不溶物を除去する方法は、好ましくはろ過、より好ましくは珪藻土濾過である。
【0058】
必要に応じて、炭酸ガスを圧入された可食性の水溶液が製造されてもよい。可食性の水溶液に含まれる炭酸ガスの量(すなわち、ガスボリューム)は、目的の飲料品質、容器の耐圧性及び製造条件を考慮して決定されてもよい。
【0059】
可食性の水溶液は、水を含む飲料であってもよい。水を含む飲料は、アルコール性飲料又は非アルコール性飲料であってもよい。水を含む飲料は、発泡性飲料又は非発泡性飲料であってもよい。発泡性飲料としては、例えば、炭酸ガスを含む飲料が挙げられる。可食性の水溶液は、酒類であってもよい。
【0060】
疎水性液体は、柑橘類の特徴香気成分を含む。疎水性液体は、柑橘類の特徴香気成分のみからなる疎水性液体であってもよい。疎水性液体は、目的の疎水性液滴の組成に応じて、柑橘類の特徴香気成分以外の成分を更に含んでいてもよい。
【0061】
疎水性液体は、精油及び精油の加工物からなる群より選択される少なくとも1種の油状物を含んでいてもよい。疎水性液体は、精油及び精油の加工物からなる群より選択される少なくとも1種の油状物であってもよい。一般的に、柑橘類から抽出された精油には、柑橘類の特徴香気成分が多く含まれている。このため、精油及び精油の加工物は、疎水性液体の原材料として有用である。疎水性液体の製造では、精油又は精油の加工物が原材料として使用されてもよい。疎水性液体の製造では、精油及び精油の加工物の両方が原材料として使用されてもよい。
【0062】
例えば、精油は、蒸留法によって、花、蕾、果実(例えば、果皮及び果肉)、枝葉、根茎、木皮、樹幹又は樹脂から留出される。蒸留法としては、例えば、水蒸気蒸留法及び熱水蒸留法が挙げられる。精油は、市販品であってもよい。一般的に、柑橘類の果皮は、柑橘類の特徴香気成分を多く含むため、精油は、柑橘類の果皮から抽出された精油であることが好ましい。
【0063】
精油の加工物としては、例えば、精油の濃縮物が挙げられる。精油の加工物としては、例えば、精油からの一部成分の除去を経て得られる物質が挙げられる。例えば、精油の加工処理は、蒸留法、晶析法及び化学処理法といった公知の方法によって実施されてもよい。精油の加工物は、市販品であってもよい。
【0064】
一般的に、精油は、水より軽く、主成分としてテルペン類を含む。一般的に、柑橘類から得られる精油成分の90%以上はテルペン炭化水素であり、主な成分はD-リモネンである。一方、香りに対するD-リモネンの貢献度は低く、柑橘類の香りを特徴づける重要な成分は、精油に含まれる数%の含酸素化合物(すなわち、テルペノイド)である。このため、D-リモネンといったテルペン炭化水素を除去し、シトラールといった含酸素化合物(すなわち、テルペノイド)の含有比を増大させることによって得られる、テルペンレスオイル及びフォールディッドオイルが広く使用されてもよい。
【0065】
より自然な柑橘類の香りの付与の観点から、疎水性液体において、テルペン類の総質量に対するテルペノイドの総質量の比は、好ましくは10質量%~40質量%、より好ましくは15質量%~40質量%、更に好ましくは20質量%~40質量%、特に好ましくは20質量%~30質量%である。疎水性液体において、テルペン類の総質量に対するテルペン炭化水素の総質量の比は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。疎水性液体において、テルペン類の総質量に対するD-リモネンの総質量の比は、好ましくは40質量%~60質量%、より好ましくは50質量%~60質量%である。疎水性液体において、テルペン炭化水素の総質量に対するD-リモネンの総質量の比は、好ましくは50質量%~80質量%、より好ましくは60質量%~75質量%である。
【0066】
工程S1における可食性の水溶液及び疎水性液体の接触方法及び添加順序は、制限されない。可食性の水溶液は、疎水性液体に加えられてもよい。疎水性液体は、可食性の水溶液に加えられてもよい。可食性の水溶液の添加は、疎水性液体の添加と同時に実施されてもよい。各原材料は、一度に又は段階的に加えられてもよい。工程S1は、好ましくは可食性の水溶液に疎水性液体を加えることを含み、より好ましくは可食性の水溶液に疎水性液体を滴下することを含む。特に、可食性の水溶液に疎水性液体を滴下する方法は、疎水性液滴の形成を促進できる。
【0067】
工程S1は、可食性の水溶液及び疎水性液体を混合することを含んでいてもよい。例えば、工程S1は、可食性の水溶液及び疎水性液体を混合して、可食性の水溶液中に疎水性液体を分散させることを含んでいてもよい。例えば、可食性の水溶液中にある程度分散した疎水性液体は、後述の静置のような方法によって疎水性液滴を形成できる。混合方法及び混合条件は、可食性の水溶液における疎水性液体の分散状態を考慮して決定されてもよい。工程S1において、必要に応じて分散剤及び乳化剤が使用されてもよい。
【0068】
工程S1は、飲料を詰めるための容器の中で実施されてもよい。例えば、工程S1は、容器に収容された可食性の水溶液に疎水性液体を加えること、好ましくは容器に収容された可食性の水溶液に疎水性液体を滴下することを含んでいてもよい。例えば、工程S1は、容器の中に疎水性液体を滴下することと、容器の中に可食性の水溶液を加えることと、をこの順に含んでいてもよい。容器に収容された可食性の水溶液及び疎水性液体は、既述のように混合されてもよい。一般的に、各原材料は、容器に設けられた開口を通じて容器に導入される。容器への各原材料の導入後、容器は密閉されてもよい。容器に収容された可食性の水溶液に疎水性液体を加える方法において、密閉前の容器の開口の面積は、容器に収容された可食性の水溶液の液面の面積よりも小さいことが好ましい。例えば、容器に収容された可食性の水溶液の液面の面積に対する密閉前の容器の開口の面積の比は、好ましくは70%以下、より好ましくは50%以下、更に好ましくは30%以下である。上記のように容器の開口の面積の小さくすることは、添加された疎水性液体が可食性の水溶液の液面で跳ね返ることによって容器外へ流出することを防止できる。一方、容器に収容された疎水性液体に可食性の水溶液を加える方法は、密閉前の容器の開口の面積の大きさにかかわらず、疎水性液体の跳ね返りによって疎水性液体が容器外へ流出することを防止できる。
【0069】
工程S1によって得られた組成物は、必ずしも均一であるとは限らない。組成物において、疎水性液体は、見かけ上、可食性の水溶液に分散されていてもよい。例えば、分散の程度は、組成物を複数の容器の各々に同量ずつ加えた場合に、各容器で可食性の水溶液及び疎水性液体の濃度が概ね一定(例えば、±20質量%)になるように調節される。
【0070】
(工程S2)
工程S2は、疎水性液体の少なくとも一部から柑橘類の特徴香気成分を含む疎水性液滴を形成して、可食性の水溶液及び上記疎水性液滴が互いに分離しており、甘味度が10以下である飲料を得ることである。
【0071】
疎水性液滴は、疎水性液体の少なくとも一部から形成される。疎水性液滴の形成方法は、制限されない。疎水性液滴は、可食性の水溶液への疎水性液体の滴下に伴って形成されてもよい。疎水性液滴は、可食性の水溶液と疎水性液体との混合過程で形成されてもよい。一般的に、疎水性液滴の形成は、可食性の水溶液と疎水性液体との混合から、ある程度の時間が経過した後に起こる傾向にある。したがって、S1工程によって得られた組成物を静置することは、疎水性液滴の形成を促進する方法として有用である。静置時間は、疎水性液滴の目的の分離状態に応じて決定されてもよい。静置時間は、好ましくは24時間以上、より好ましくは24時間~240時間、更に好ましくは48時間~120時間である。
【0072】
さらに、疎水性液滴の形成を促進する方法としては、例えば、温度の変化、塩の添加、遠心力の付与、剪断力の付与、電圧の印可、酸の添加、塩基の添加及び解乳化剤の添加といった処理が挙げられる。例えば、上記のような処理は、可食性の水溶液と疎水性液体とを混合してから、好ましくは24時間~240時間、より好ましくは48時間~120時間の経過後に実施される。容器詰飲料に対して加熱殺菌処理が行われる場合は、加熱殺菌処理における加熱によって疎水性液滴が形成されてもよい。
【0073】
(他の工程)
容器詰飲料の製造方法は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で他の工程を更に含んでいてもよい。他の工程は、飲料分野で一般的に使用されている工程から選択されてもよい。
【0074】
容器詰飲料の製造方法は、飲料におけるL-アスコルビン酸の濃度を50mg/L以上に調節することを含むことが好ましい。具体的に、好ましい実施形態において、容器詰飲料の製造方法は、可食性の水溶液と、柑橘類の特徴香気成分を含む疎水性液滴と、を含み、上記水溶液及び上記疎水性液滴が互いに分離しており、甘味度が10以下である飲料において、L-アスコルビン酸の濃度を50mg/L以上に調節することを含む。上記のような方法によれば、ボディ感が増強され、かつ、味と香りとの調和性に優れる、低甘味度の容器詰飲料が提供される。L-アスコルビン酸の濃度は、飲料の原材料として使用されるL-アスコルビン酸の量によって調節される。目的のL-アスコルビン酸の濃度を有する飲料が得られる限り、L-アスコルビン酸は、飲料の製造において任意の工程で使用されてもよい。例えば、L-アスコルビン酸は、工程S1及び工程S2の少なくとも1つの工程において加えられてもよい。L-アスコルビン酸が工程S1で使用される場合、L-アスコルビン酸は、可食性の水溶液及び疎水性液体と共に混合されてもよい。L-アスコルビン酸は、下記(1)~(4)の少なくとも1つに加えられてもよい。好ましい容器詰飲料の製造方法においては、L-アスコルビン酸を含む可食性の水溶液が原材料として使用される。
(1)工程S1で使用される可食性の水溶液
(2)工程S1で使用される疎水性液体
(3)工程S1によって得られる組成物
(4)工程S2によって得られる飲料
【0075】
容器詰飲料の製造方法は、容器に収容された飲料と上記容器との間の空間に存在する酸素を減少させることを含んでいてもよい。上記のような方法は、香気成分の劣化を抑制できる。酸素を減少させる方法としては、例えば、飲料を収容した容器と飲料との間の空間に不活性ガスを充填する方法が挙げられる。不活性ガスとしては、例えば、窒素及び二酸化炭素が挙げられる。
【0076】
容器詰飲料の製造方法は、加熱殺菌処理を含んでいてもよい。例えば、日本国の食品衛生法によれば、植物又は動物の組織成分を含む飲料の殺菌又は除菌が必要とされる。加熱殺菌処理は、飲料を容器に充填する前に実施されてもよい。加熱殺菌処理は、飲料を容器に充填した後に実施されてもよい。加熱殺菌処理としては、例えば、超高温殺菌処理(Ultra High Temperature:UHT)、パストライザー殺菌処理及びレトルト殺菌処理が挙げられる。
【0077】
[用途]
容器詰飲料は、アルコール性飲料又は非アルコール性飲料であってもよい。容器詰飲料は、発泡性飲料又は非発泡性飲料であってもよい。具体的な容器詰飲料の用途としては、例えば、清涼飲料水及び酒類が挙げられる。容器詰飲料は、RTD(Ready To Drink)と総称される缶チューハイ又は缶カクテルであることが好ましく、酒税法においてエキス分が2度未満のスピリッツと定義され、かつ、アルコール濃度が10体積%以下である発泡性酒類であることがより好ましい。
【0078】
<飲料のボディ感の増強方法>
以下、飲料のボディ感の増強方法について説明する。本開示の一実施形態に係る飲料のボディ感の増強方法は、甘味度が10以下である飲料において、可食性の水溶液と、柑橘類の特徴香気成分を含む疎水性液滴とが互いに分離した状態を形成することを含む。既述のとおり、柑橘類の特徴香気成分を含む疎水性液滴が可食性の水溶液から分離していると、柑橘類の特徴香気成分の風味がより強く感じられるため、飲料の甘味度が小さくても、高いボディ感が得られる。
【0079】
可食性の水溶液及び疎水性液滴が互いに分離した状態は、上記「[容器詰飲料の製造方法]」の項に記載された方法によって形成可能である。例えば、飲料の製造過程において、可食性の水溶液に柑橘類の特徴香気成分を含む疎水性液体を滴下することによって、上記のような分離状態が形成される。さらに、甘味度が10以下である飲料において、L-アスコルビン酸の濃度を50mg/L以上に調節することは、ボディ感の増強だけでなく、味及び香りの調和性の向上に寄与する。
【実施例0080】
以下、実施例に基づいて本開示を説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に制限されない。以下に説明される技術的事項(例えば、組成、製造方法及び製造条件)は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜変更されてもよい。
【0081】
<実施例1~16及び比較例1~2>
[容器詰飲料の製造]
以下の方法によって、実施例1~16及び比較例1~2の各容器詰飲料を製造した。まず、0.2質量%のクエン酸ナトリウムと、0.04質量%のレモン香料(エタノール濃度:66.5体積%)と、原料用アルコール(エタノール濃度:95.3体積%)と、無水クエン酸と、任意選択のL-アスコルビン酸と、を含む可食性の水溶液を調製した。可食性の水溶液の組成に関して、飲料におけるアルコールの濃度が表1~表3に記載された値となるように、原料用アルコールの濃度を調節し、飲料のクエン酸換算酸度が表1~表3に記載された値となるように、無水クエン酸の濃度を調節し、そして、飲料におけるアスコルビン酸の濃度が表1~表3に記載された値となるように、アスコルビン酸の濃度を調節した。次に、可食性の水溶液を、容器としてのアルミニウム合金製ツーピース飲料缶に加えた。容器中の可食性の水溶液に、表1~表3に記載された飲料組成となるようにレモンオイル(本開示における疎水性液体)、又はD-リモネン(本開示における疎水性液体)を滴下して、飲料を得た。飲料のガス圧を2.7GV(すなわち、ガスボリューム)に調節した後、容器を密閉した。容器を開封して飲料の状態を目視で確認した。実施例1~16の各容器詰飲料において、可食性の水溶液と、柑橘類の特徴香気成分を含む疎水性液滴とが互いに分離していることを確認した。疎水性液滴は、疎水性液体として使用されたレモンオイル又はリモネンから形成された。一方、比較例1~2の各容器詰飲料において、上記のような分離状態を確認できなかった。
【0082】
原材料として使用されたレモンオイルは、レモンの果皮から抽出された組成物(すなわち、シングルオイル)と、上記シングルオイルのテルペン炭化水素の一部を除去してテルペノイドの含有比を増大させた組成物(すなわち、フォールディッドオイル)とを混合することによって得られる疎水性液体である。レモンオイルにおいて、テルペン類の総質量に対するテルペン炭化水素の総質量の比は、84.0質量%であり、テルペン炭化水素の総質量に対するD-リモネンの総質量の総質量の比は、68.2質量%である。レモンオイルに由来の疎水性液滴中のD-リモネンの総質量は、下記式に従って算出される。
式:疎水性液滴中のD-リモネンの総質量=レモンオイルの総質量×0.84×0.682
【0083】
[評価]
訓練された5名のパネリストによって、各容器詰飲料の官能評価を実施した。評価項目は、「香り強度」、「レモン感」、「アルコール感」、「ボディ感」及び「香味バランス」(すなわち、味及び香りの調和性)の5つである。各パネリストは、比較例1を対照として、以下の5段階の基準に従って各容器詰飲料を評価した。評価項目ごとに5名のパネリストによる結果の平均値を算出した。結果を表1~表3に示す。
1:対照より弱い又は悪い
2:対照よりやや弱い又はやや悪い
3:対照と同程度
4:対照よりやや強い又はやや良い
5:対照より強い又は良い
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
表1~表3において「飲料組成」の欄に記載された「-」は、ゼロを意味する。表1~表3は、実施例1~16の各飲料のボディ感が、比較例1~2の各飲料のボディ感よりも大きいことを示している。さらに、飲料におけるL-アスコルビン酸の濃度が0.05mg/L(すなわち、50mg/L)以上である実施例3~16では、ボディ感だけでなく、香味バランスが更に良くなった。