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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158809
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】車両用のドア保持装置
(51)【国際特許分類】
   E05F 15/622 20150101AFI20231024BHJP
   E05F 5/00 20170101ALI20231024BHJP
   E05F 3/16 20060101ALI20231024BHJP
   B60J 5/04 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
E05F15/622
E05F5/00 A
E05F3/16
B60J5/04 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068819
(22)【出願日】2022-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣▲瀬▼ 元彦
(72)【発明者】
【氏名】友近 雅之
【テーマコード(参考)】
2E052
【Fターム(参考)】
2E052AA09
2E052CA06
2E052EA01
2E052EB01
2E052EC01
2E052GD09
2E052KA01
2E052KA06
(57)【要約】
【課題】通電されなくても車両ドアの位置を保持できる車両用のドア保持装置を提供する。
【解決手段】車両用のドア保持装置20は、スピンドルスクリュー22と、車両ドア12の開閉に伴ってスピンドルスクリュー22を回転させる連結ロッド24と、スピンドルスクリュー22の回転を規制しない不作動状態と回転を規制する作動状態とに切り替え可能なブレーキ機構30とを備え、ブレーキ機構30は、スピンドルスクリュー22と一体的に回転するブレーキ軸33と、ブレーキ軸33に対してその軸線方向に移動可能であるが回転不能であるアーマチュア35と、アーマチュア35に係脱可能に配置されるヨーク32と、通電によって発生させた前記磁界によってアーマチュア35をヨーク32に接触させるブレーキコイル31とを備え、アーマチュア35とヨーク32の少なくとも一方は、半硬質磁性体により形成される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に対して開閉可能な車両ドアに配置される車両用のドア保持装置であって、
筐体に対して回転可能に支持されているネジ部材と、
一端部が前記車体に連結され他端部が前記ネジ部材と螺合しており、前記車両ドアの前記車体に対する移動に伴って前記他端部が前記ネジ部材上を前記ネジ部材の軸線方向に移動することにより前記ネジ部材を回転させるように構成される連結ロッドと、
前記ネジ部材の回転を規制しない第一の状態と前記ネジ部材の回転を規制する第二の状態とに切り替え可能に構成されるブレーキ機構と、
を備え、
前記ブレーキ機構は、
前記ネジ部材と一体的に回転するブレーキ軸と、
前記ブレーキ軸に対して前記ブレーキ軸の軸線方向に移動可能であり前記ブレーキ軸と一体的に回転する第一摺動部材と、
前記筐体に固定され、前記第一摺動部材に前記ブレーキ軸の軸線方向に隣接して配置される第二摺動部材と、
通電によって磁界を発生させ、前記磁界によって前記第一摺動部材と前記第二摺動部材との間に吸引力を発生させることによって前記第一摺動部材を前記第二摺動部材に接触させるブレーキコイルと、
前記第一摺動部材を前記第二摺動部材から離間させる方向に付勢する付勢部材と、
を備え、
前記付勢部材の付勢力によって前記第一摺動部材と前記第二摺動部材とが離間している状態が前記第一の状態であり、前記ブレーキコイルが発生させる前記磁界によって前記第一摺動部材と前記第二摺動部材とが接触している状態が前記第二の状態であり、
前記第一摺動部材と前記第二摺動部材との少なくとも一方は、半硬質磁性体により形成されるか、または半硬質磁性体を含む、
車両用のドア保持装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用のドア保持装置であって、
回転動力によって前記ネジ部材を回転させるアクチュエータを備える、
車両用のドア保持装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車両用のドア保持装置であって、
前記ブレーキ機構が前記第一の状態であり、かつ、前記車両ドアが手動操作によって前記車体に対して移動している間に、前記車両ドアの移動を停止させるドア停止条件が成立した場合、前記ブレーキコイルに一時的に通電することにより、前記ブレーキ機構を前記第一の状態から前記第二の状態に切り替える制御部を備える、
車両用のドア保持装置。
【請求項4】
請求項2に記載の車両用のドア保持装置であって、
前記ブレーキ機構が前記第一の状態であり、かつ、前記車両ドアが前記アクチュエータの回転動力によって移動している間に、前記車両ドアの移動を停止させるドア停止条件が成立した場合、前記アクチュエータの駆動を停止し、その後、前記ブレーキコイルに一時的に通電することにより、前記ブレーキ機構を前記第一の状態から前記第二の状態に切り替える制御部を備える、
車両用のドア保持装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の車両用のドア保持装置であって、
前記ブレーキ機構が前記第二の状態である場合に前記車両ドアが手動による開動作または閉動作が行われたことを示す手動操作条件が成立すると、前記コイルに対して、前記ブレーキ機構を前記第一の状態から前記第二の状態に切り替えたときとは反対向きの磁界が発生するように前記ブレーキコイルに一時的に通電することにより、前記ブレーキ機構を前記第二の状態から前記第一の状態に切り替える制御部を備える、
車両用のドア保持装置。
【請求項6】
請求項3に記載の車両用のドア保持装置であって、
前記制御部は、前記ブレーキ機構が前記第二の状態である場合に手動操作による前記車両ドアの移動が開始したことを示す手動操作条件が成立すると、前記ブレーキコイルに対して、前記ブレーキ機構を前記第一の状態から前記第二の状態に切り替えたときとは反対向きの磁界が発生するように前記ブレーキコイルに一時的に通電することにより、前記ブレーキ機構を前記第二の状態から前記第一の状態に切り替える、
車両用のドア保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のドア保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の車両用のドア保持装置(特許文献1においては「ドアチェック装置」と記される)は、回転可能なスピンドルスクリューと、スピンドルスクリューに連結されておりその回転を制動する電磁ブレーキと、スピンドルスクリューに螺合しているスピンドルナットと、スピンドルナットと車両ドアとに連結されており車両ドアの開閉の動きによってスピンドルナットをスピンドルスクリューに対して軸線方向に移動させるように構成される棒状の連結部材と、を備える。そして、特許文献1に記載の車両用のドア保持装置は、車両ドアの開閉の動きによってスピンドルナットがスピンドルスクリュー上をその軸線方向に移動することによって、スピンドルスクリューが回転するように構成される。このため、特許文献1に記載の車両用のドア保持装置によれば、電磁ブレーキによってスピンドルスクリューの回転を制動することによって、車両ドアの開閉の動きを規制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-19183号公報
【発明の概要】
【0004】
(発明が解決しようとする課題)
しかしながら、特許文献1に記載のような、車両ドアの開閉の動きを電磁ブレーキによって規制する構成では、電磁ブレーキが励磁作動型であると、通電されないと(電力が供給されないと)車両ドアの動きを規制できない。したがって、車両ドアの移動を規制させたい場合、その間には通電を継続しなければならない。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものである。本発明の目的の1つは、通電を継続しなくても、車両ドアの移動を規制できる車両用のドア保持装置を提供することである。
【0006】
(課題を解決するための手段)
上記目的を達成するため、本発明に係る車両用のドア保持装置は、
車体に対して開閉可能な車両ドアに配置される車両用のドア保持装置であって、
筐体に対して回転可能に支持されているネジ部材と、
一端部が前記車体に連結され他端部が前記ネジ部材と螺合しており、前記車両ドアの前記車体に対する移動に伴って前記他端部が前記ネジ部材上を前記ネジ部材の軸線方向に移動することにより前記ネジ部材を回転させるように構成される連結ロッドと、
前記ネジ部材の回転を規制しない第一の状態と前記ネジ部材の回転を規制する第二の状態とに切り替え可能に構成されるブレーキ機構と、
を備え、
前記ブレーキ機構は、
前記ネジ部材と一体的に回転するブレーキ軸と、
前記ブレーキ軸に対して前記ブレーキ軸の軸線方向に移動可能であり前記ブレーキ軸と一体的に回転する第一摺動部材と、
前記筐体に固定され、前記第一摺動部材に前記ブレーキ軸の軸線方向に隣接して配置される第二摺動部材と、
通電によって磁界を発生させ、前記磁界によって前記第一摺動部材と前記第二摺動部材との間に吸引力を発生させることによって前記第一摺動部材を前記第二摺動部材に接触させるブレーキコイルと、
前記第一摺動部材を前記第二摺動部材から離間させる方向に付勢する付勢部材と、
を備え、
前記付勢部材の付勢力によって前記第一摺動部材と前記第二摺動部材とが離間している状態が前記第一の状態であり、前記ブレーキコイルが発生させる前記磁界によって前記第一摺動部材と前記第二摺動部材とが接触している状態が前記第二の状態であり、
前記第一摺動部材と前記第二摺動部材との少なくとも一方は、半硬質磁性体により形成されるか、または半硬質磁性体を含む。
【0007】
本発明によれば、第一摺動部材と第二摺動部材の少なくとも一方が半硬質磁性体により形成されるか、または半硬質磁性体を含むため、半硬質磁性体の保磁力によってブレーキ機構を第二の状態に保持可能である。すなわち、ブレーキコイルへの通電を継続しなくても、ブレーキ機構を第二の状態に保持できる。したがって、ドア保持装置に電力を供給しなくとも、車両ドアの位置を保持できる(換言すると、車両ドアの移動を規制できる)。
【0008】
回転動力によって前記ネジ部材を回転させるアクチュエータを備える、
という構成が適用できる。
【0009】
このような構成によれば、アクチュエータの駆動力によって車両ドアを移動させることができる(開閉できる)。
【0010】
前記ブレーキ機構が前記第一の状態であり、かつ、前記車両ドアが手動操作によって前記車体に対して移動している間に、前記車両ドアの移動を停止させるドア停止条件が成立した場合、前記ブレーキコイルに一時的に通電することにより、前記ブレーキ機構を前記第一の状態から前記第二の状態に切り替える制御部を備える、
という構成が適用できる。
【0011】
このような構成によれば、車両ドアが手動操作により車体に対して移動中にブレーキ機構を第一の状態から第二の状態に切り替えることにより、車両ドアの移動を規制できる(手動による車両ドアの移動を停止させることができる)。なお、ブレーキ機構が第一の状態から第二の状態に切り替わった後は、ブレーキ機構は半硬質磁性体の保磁力によって第二の状態に保持される。このため、制御部は、ブレーキ機構を第一の状態から第二の状態に切り替えるためにブレーキコイルに一時的に通電すればよく、その後ブレーキコイルへの通電を継続しなくても、ブレーキ機構は第二の状態に保持される。なお、この「一時的」の具体的な長さは限定されるものではなく、半硬質磁性体がブレーキ機構を第二の状態に保持できる保磁力を持つようになる時間であればよい。
【0012】
前記ブレーキ機構が前記第一の状態であり、かつ、前記車両ドアが前記アクチュエータの回転動力によって移動している間に、前記車両ドアの移動を停止させるドア停止条件が成立した場合、前記アクチュエータの駆動を停止し、その後、前記ブレーキコイルに一時的に通電することにより、前記ブレーキ機構を前記第一の状態から前記第二の状態に切り替える制御部を備える、
という構成が適用できる。
【0013】
このような構成によれば、車両ドアがアクチュエータの駆動力により車体に対して移動中にブレーキ機構を第一の状態から第二の状態に切り替えることにより、車両ドアの移動を規制できる(アクチュエータの駆動力による車両ドアの移動を停止させることができる)。
【0014】
前記ブレーキ機構が前記第二の状態である場合に前記車両ドアが手動による開動作または閉動作が行われたことを示す手動操作条件が成立すると、前記コイルに対して、前記ブレーキ機構を前記第一の状態から前記第二の状態に切り替えたときとは反対向きの磁界が発生するように前記ブレーキコイルに一時的に通電することにより、前記ブレーキ機構を前記第二の状態から前記第一の状態に切り替える制御部を備える、
という構成が適用できる。
【0015】
前記制御部は、前記ブレーキ機構が前記第二の状態である場合に手動操作による前記車両ドアの移動が開始したことを示す手動操作条件が成立すると、前記ブレーキコイルに対して、前記ブレーキ機構を前記第一の状態から前記第二の状態に切り替えたときとは反対向きの磁界が発生するように前記ブレーキコイルに一時的に通電することにより、前記ブレーキ機構を前記第二の状態から前記第一の状態に切り替える、
という構成が適用できる。
【0016】
このように、ブレーキ機構が第二の状態にある間に車両ドアの手動操作が開始されると、制御部は、ブレーキ機構を第二の状態から第一の状態に切り替える。このため、ブレーキ機構によって車両ドアの移動が規制されなくなるから、使用者は、軽い力で(換言すると、ブレーキ機構に阻害されることなく)車両ドアを移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A図1Aは、車両の構成を示す上面図である。
図1B図1Bは、車両の構成を示すシステム図である。
図2図2は、ドア保持装置の構成を示す外観斜視図である。
図3図3は、ドア保持装置の構成を示す断面図である。
図4図4は、ブレーキ機構の構成を示す分解斜視図である。
図5図5は、アーマチュアのヒステリシス曲線を示すグラフである。
図6図6は、第一の動作の処理を示すフローチャートである。
図7図7は、第二の動作の処理を示すフローチャートである。
図8図8は、第三の動作の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の説明では、ドア保持装置およびドア保持装置を構成する各部材の向きは、ドア保持装置が車両ドアに取り付けられ、かつ車両ドアが閉位置に位置する場合の車両を基準とした向きである。各図において、車両の前方を矢印Frで示し、車両の後方を矢印Rrで示し、車両の上方を矢印Upで示し、車両の下方を矢印Dwで示す。
【0019】
(車両)
図1Aは、本実施形態に係るドア保持装置20が適用される車両10の上面図である。図1Bは、車両10の構成を示すシステム図である。車両10は、車体11に対して回転(揺動)することによって開閉可能に構成されている車両ドア12(いわゆるスイングドア)を備える。具体的には、車両ドア12は、前端部が車体11に対してヒンジなどを介して回転可能に連結されており、前端部を中心として車体11に対して回転することにより、閉位置と開位置とに移動可能に構成される。なお、車両ドア12の閉位置は、車体11に設けられている乗降用の開口部を塞ぐ位置であり、車両ドア12の開位置は、車体11に設けられている乗降用の開口部を塞がない位置である。図1Aにおける破線で示す車両ドア12は、開位置に位置する例を示す。ただし、車両ドア12の開位置は特定の1カ所ではなく、ある程度の範囲を有する位置である。そして、各車両ドア12の内部の前端近傍には、ドア保持装置20が配置されている。
【0020】
車両10は、本実施形態に係るドア保持装置20を備えるほか、周囲センサ13と、ドア開閉スイッチ14と、ドアセンサ15とを備える。周囲センサ13は、車両10の周辺に存在する物体(他の車両や歩行者など)を検出できるように構成される。周囲センサ13には、例えば、カメラ、ライダ(LiDAR;Light Detection and Ranging又はLaser Imaging Detection and Ranging)、超音波センサなどが適用できる。ドア開閉スイッチ14は、車両ドア12をドア保持装置20によって自動的に開閉するために車両10の使用者が操作可能なスイッチである。ドア開閉スイッチ14には、公知の各種電気スイッチが適用できる。ドアセンサ15は、車両ドア12が閉位置に位置しているか否かを検出可能に構成される。ドアセンサ15には、公知の各種電気的なセンサが適用できる。
【0021】
(ドア保持装置の構成)
図2はドア保持装置20の構成を示す外観斜視図であり、図3はドア保持装置20の構成を示す断面図である。図2および図3に示すように、ドア保持装置20は、筐体21と、スピンドルスクリュー22(図3参照)と、スピンドルナット23(図3参照)と、連結ロッド24と、アクチュエータ25と、ブレーキ機構30と、回転伝達機構26と、センサ部27と、を備える。さらに、ドア保持装置20は、制御部28を備える(図1B参照)。
【0022】
ドア保持装置20の筐体21は、アクチュエータ25およびブレーキ機構30を取付け可能で、かつ、スピンドルスクリュー22、連結ロッド24、および回転伝達機構26を収容可能に構成される。筐体21は、その前端部に配置されている取付部材211を備える。そして、筐体21は、この取付部材211を介して車両ドア12に固定される。例えば、取付部材211は、リベットによって車体11に取付けられる。取付部材211には、前後方向に貫通する貫通孔212が設けられており、この貫通孔212には連結ロッド24が挿通されている。
【0023】
スピンドルスクリュー22は、本発明のネジ部材の例である。スピンドルスクリュー22は、外周面にネジ山が成形されている棒状の部材(すなわち雄ネジ)である。スピンドルスクリュー22は、軸受を介して筐体21に回転可能に支持されている。また、スピンドルスクリュー22の後端部には、回転伝達機構26の構成部材である第三の歯車263が、スピンドルスクリュー22に同軸に取り付けられている。そして、スピンドルスクリュー22と第三の歯車263とは一体的に回転するように構成されている。
【0024】
スピンドルナット23は、貫通孔であるネジ孔が形成された筒状(または環状)の部材である。スピンドルナット23は、スピンドルスクリュー22の外周のネジ山に螺合している。そして、スピンドルナット23は、スピンドルスクリュー22が回転することによって、スピンドルスクリュー22上をその軸線方向に移動するように構成されるとともに、スピンドルナット23が回転することなくスピンドルスクリュー22上をその軸線方向に移動することによって、スピンドルスクリュー22を回転させるように構成される。
【0025】
連結ロッド24は、棒状の部材である。連結ロッド24は、スピンドルスクリュー22と、アクチュエータ25およびブレーキ機構30との間に配置されている。そして、連結ロッド24は、取付部材211に設けられる貫通孔212に挿通されており、その前端部は取付部材211の貫通孔212から取付部材211の前側(すなわち筐体21の前側)に突出している。連結ロッド24の一端部(前端部)であって取付部材211から突出している部分は、車体11に連結される。具体的には、連結ロッド24の一端部(前端部)には、車両ドア12の回転中心線に略平行な軸線を中心として相対的に回転可能なヒンジ241が取り付けられている。そして連結ロッド24の一端は、ヒンジ241を介して車体11に対して相対的に回転可能に連結されている。なお、連結ロッド24と車体11とは、車両ドア12の車体11に対する回転中心よりも車幅方向中心側(車内側)において連結される。連結ロッド24の他端部(後端部)は、スピンドルナット23を介してスピンドルスクリュー22に螺合している。具体的には、連結ロッド24の他端部には、スピンドルナット23が、車両ドア12の回転中心線に略平行な軸線(上下方向に略平行な直線)を中心として相対的に回転可能に取り付けられている。
【0026】
アクチュエータ25は、スピンドルスクリュー22の回転動力源である。本実施形態では、アクチュエータ25には正逆両方向の回転動力を出力可能な電動モータが適用される。なお、アクチュエータ25は、筐体21に固定されている。
【0027】
ブレーキ機構30は、スピンドルスクリュー22の回転を規制可能(制動可能)で、かつ、スピンドルスクリュー22が回転を停止している状態を保持可能に構成される。なお、ブレーキ機構30の構成については後述する。
【0028】
回転伝達機構26は、アクチュエータ25が出力する回転動力をスピンドルスクリュー22に伝達するとともに、スピンドルスクリュー22が回転した場合にはその回転をブレーキ機構30およびアクチュエータ25に伝達するように構成される。具体的には、回転伝達機構26は、第一の歯車261と第二の歯車262と第三の歯車263と中間軸264とを備える。第一の歯車261は後述するブレーキ機構30のブレーキ軸33に連結されており、アクチュエータ25の回転軸およびブレーキ機構30のブレーキ軸33と一体的に回転するように構成されている。第三の歯車263は前記のとおりスピンドルスクリュー22と一体的に回転するように構成される。第二の歯車262は中間軸264によって筐体21に対して回転可能に支持されており、第一の歯車261および第三の歯車263と噛み合っている。
【0029】
このような構成によれば、アクチュエータ25の回転軸の回転は第一の歯車261と第二の歯車262と第三の歯車263とを介してスピンドルスクリュー22に伝達される。同様に、スピンドルスクリュー22の回転は、第三の歯車263と第二の歯車262と第一の歯車261とを介してブレーキ機構30のブレーキ軸33に伝達されるとともに、ブレーキ機構30のブレーキ軸33を介してアクチュエータ25の回転軸に伝達される。このため、スピンドルスクリュー22とアクチュエータ25の回転軸およびブレーキ機構30のブレーキ軸33とは、一体的に回転する(「一体的に回転する」とは、「連動して回転する」ということもできる)。なお、「一体的に回転する(連動して回転する)」とは、スピンドルスクリュー22とアクチュエータ25の回転軸およびブレーキ機構30のブレーキ軸33との一方が回転すると他方も回転し、一方の回転が規制されると他方の回転も規制されることをいう。
【0030】
なお、回転伝達機構26は、アクチュエータ25が出力する回転動力を減速してスピンドルスクリュー22に伝達し、スピンドルスクリュー22の回転を増速してブレーキ機構30のブレーキ軸33およびアクチュエータ25の回転軸に伝達するように構成される。ただし、回転伝達機構26は、アクチュエータ25が出力する回転動力をスピンドルスクリュー22に伝達でき、スピンドルスクリュー22の回転をブレーキ機構30のブレーキ軸33に伝達できるように構成されていればよく、具体的な構成は特に限定されない。
【0031】
センサ部27は、アクチュエータ25の回転軸の回転を検出可能に構成される。具体的には、センサ部27は、アクチュエータ25の回転軸に取り付けられておりアクチュエータ25の回転軸と一体的に回転する磁石と、筐体21に対して移動しないように取り付けられており、前記磁石による磁界を検出可能に構成されるホールセンサ(ホール素子、ホールIC)とを備える。そして、ホールセンサは、アクチュエータ25の回転軸の回転による磁界の変化を検出することにより、アクチュエータ25の回転軸の回転を検出できる。
【0032】
なお、前記のとおり、スピンドルスクリュー22とアクチュエータ25の回転軸およびブレーキ機構30のブレーキ軸33とは一体的に回転する。このため、アクチュエータ25が作動していない場合(回転動力を出力していない場合)であっても、スピンドルナット23が移動するとスピンドルスクリュー22が回転し、その回転が回転伝達機構26およびブレーキ機構30を介してアクチュエータ25に伝達される。したがって、センサ部27は、「(アクチュエータ25が作動しているか否かにかかわらず)スピンドルスクリュー22の回転を検出できる」ということもできる。そして、センサ部27は、アクチュエータ25の回転軸の回転の検出結果(スピンドルスクリュー22の回転の検出結果)を制御部28に出力する。
【0033】
制御部28は、ドア保持装置20を制御可能に構成される。制御部28は、例えば、CPU、ROM、RAMおよびI/Fを備えるコンピュータを備える電子制御ユニット(ECU:Electrotonic Control Unit)である。制御部28は、I/Fを介して、アクチュエータ25、ブレーキ機構30、センサ部27、周囲センサ13、およびドア開閉スイッチ14に接続されている。そして、制御部28は、アクチュエータ25およびブレーキ機構30のそれぞれを制御可能である。また、制御部28は、センサ部27から取得したアクチュエータ25の回転軸の回転の検出結果に基づいて、車両ドア12の車体11に対する移動量(回転角度)を演算可能である。さらに、制御部28は、周囲センサ13による車両10の周辺の物体の検出結果に基づいて、車両10の周辺に存在する物体の車両10から見た方向および車両10からの距離を演算可能である。なお、周囲センサ13が車両10の周辺に存在する物体の車両10から見た方向および車両10からの距離を検出可能に構成されており、制御部28は、車両10の周辺に存在する物体の車両10から見た方向および車両10からの距離の検出結果を取得してもよい。さらに、制御部28は、ドア開閉スイッチ14が操作されたか否かを検出できる。
【0034】
(ドア保持装置の基本動作)
次に、ドア保持装置20の基本動作について説明する。前記のとおり、連結ロッド24の前端部はヒンジ241241を介して車体11に連結される。そして、車両ドア12の前端部と車体11における連結ロッド24が連結されている箇所との距離は、車両ドア12の位置に応じて変化する。具体的には、車両ドア12が閉位置に位置するとこの距離が最も小さくなり、車両ドア12が全開位置(車両ドア12の回転可能な範囲における閉位置とは反対側の端の位置)に位置するとこの距離が最も大きくなる。このため、車両ドア12が閉位置に位置すると、連結ロッド24の取付部材211の貫通孔212からの突出長さが最も短くなる。そして、車両ドア12が閉位置に位置すると、スピンドルナット23はスピンドルスクリュー22の後端部近傍に位置する。
【0035】
この状態で、制御部28がアクチュエータ25を作動させる(通電する)ことにより、スピンドルスクリュー22を所定の方向に回転させると、スピンドルナット23はスピンドルスクリュー22の回転によってその前端側に向かって移動する。そして、スピンドルナット23の移動に伴って、連結ロッド24の取付部材211の貫通孔212からの突出長さが長くなり、連結ロッド24が車体11を押す。このため、車両ドア12は、連結ロッド24が車体11を押す力の反力によって、閉位置から全開位置に向かって移動する。また、使用者等が車両ドア12を手動操作によって閉位置から全開位置に向かって移動させようとすると、連結ロッド24には筐体21から引き出される向きの力が掛かるため、スピンドルナット23には、スピンドルスクリュー22上を後端部近傍から前端部側に向かって移動させるような力が掛かる。この際、スピンドルスクリュー22が回転することにより、スピンドルナット23の移動(すなわち、車両ドア12の移動)が許容される。
【0036】
車両ドア12が開位置に位置する状態で制御部28がアクチュエータ25を作動させ(通電し)、スピンドルスクリュー22を前記所定の方向とは反対方向に回転させると、スピンドルナット23はスピンドルスクリュー22の回転によってその後端側に向かって移動する。スピンドルナット23の移動に伴って、連結ロッド24の取付部材211の貫通孔212からの突出長さが短くなるため、連結ロッド24が車体11を引っ張る。そして、車両ドア12は、連結ロッド24が車体11を引っ張る力の反力によって、開位置から閉位置に向かって移動する。また、使用者等が車両ドア12を手動操作によって開位置から閉位置に向かって移動させようとすると、連結ロッド24には筐体21に押し込まれる向きの力が掛かるため、スピンドルナット23には、スピンドルスクリュー22上を後端部側に向かって押す力が掛かる。この際、スピンドルスクリュー22が回転することにより、スピンドルナット23の移動(すなわち、車両ドア12の移動)が許容される。このように、スピンドルナット23が取り付けられた連結ロッド24は、スピンドルナット23がスピンドルスクリュー22上をその軸線方向に移動することにより、スピンドルスクリュー22を回転させるように構成されている。
【0037】
このように、ドア保持装置20は、アクチュエータ25の出力する回転動力によって車両ドア12を開閉可能に構成されるとともに、手動操作による車両ドア12の開閉(車両ドア12の移動)を許容するように構成される。さらに、ドア保持装置20は、ブレーキ機構30によって、車両ドア12の移動を停止させること、および車両ドア12が停止している状態を保持すること(換言すると、車両ドア12を所定の位置に保持すること)が可能に構成される。
【0038】
(ブレーキ機構)
次に、ブレーキ機構30について説明する。図4は、ブレーキ機構30の構成を示す分解斜視図である。図4に示すように、ブレーキ機構30は、ブレーキコイル31と、ヨーク32と、ブレーキ軸33と、アーマチュアハブ34と、アーマチュア35と、リリーススプリング36とを備える。
【0039】
ブレーキコイル31は、制御部28による制御によって(具体的には、制御部28による通電によって)、所定の方向および所定の強度の磁界を発生させることにより、ヨーク32とアーマチュア35とを互いに接近させるような吸引力を発生させることができるように構成される。
【0040】
ヨーク32は、本発明の第二摺動部材の例である。ヨーク32は、一端側が開口する有底の円筒状の形状を有する部材であり、ブレーキコイル31を収容可能に構成される。そして、ヨーク32は、開口する側がアーマチュア35の側に位置する向きで、開口する側の端面がアーマチュア35に対向するように、アーマチュア35に隣接して配置される。また、ヨーク32は、ドア保持装置20の筐体21に固定されている。なお、ヨーク32の開口する側の端面(アーマチュア35に対向する面)は、略円環形状の平面である。また、ヨーク32は、ブレーキ軸33を挿通可能で、かつ、ブレーキ軸33を回転可能に支持できるように構成されている。例えば、ヨーク32には、「有底の円筒の底」に相当する部分に、ブレーキ軸33を挿通可能な軸孔が設けられている。
【0041】
ブレーキ軸33は、円柱状の部材であり、ヨーク32の内部にヨーク32に対して回転自在に挿通されている。ブレーキ軸33の軸線方向の両端のそれぞれはヨーク32の外部に突出している。そして、ブレーキ軸33の一方の端部は後述するアクチュエータ25の回転軸に連結されており、他方の端部は後述する回転伝達機構26の第一の歯車261に連結されている。そして、ブレーキ軸33は、スピンドルスクリュー22およびアクチュエータ25の回転軸と一体的に回転する。
【0042】
アーマチュアハブ34は、アーマチュア35およびリリーススプリング36を支持する部材である。アーマチュアハブ34は、ブレーキ軸33の一方の端部(ヨーク32の開口する側の端部に近い側の端部)に固定されており、ブレーキ軸33に対して軸線方向および軸線回りの方向に相対移動不可能で、かつ、ブレーキ軸33と一体的に回転するように構成される。アーマチュアハブ34の形状は特に限定されないが、例えば円板形状が適用できる。
【0043】
アーマチュア35は、本発明の第一摺動部材の例である。アーマチュア35は、厚さ方向に貫通する貫通孔が形成されている円盤状の形状を有する部材である。アーマチュア35は、アーマチュアハブ34のヨーク32に近い側に配置されている。そして、アーマチュア35は、アーマチュアハブ34によって、ブレーキ軸33と一体的に回転するが、ブレーキ軸33に対してその軸線方向に相対的に直線移動可能に支持されている。
【0044】
リリーススプリング36は、本発明の付勢部材の例である。リリーススプリング36は、アーマチュアハブ34とアーマチュア35とに係合しており、アーマチュア35をヨーク32から離れる方向に常時弾性付勢するように構成される。リリーススプリング36には、例えば円盤状の板バネが適用できる。
【0045】
そして、アーマチュア35とヨーク32との少なくとも一方は、半硬質磁性体(半硬質磁性材料)により成形されているか、または、半硬質磁性体からなる部材を含む。具体的には、アーマチュア35が半硬質磁性体により形成され、ヨーク32は軟質磁性体(軟質磁性材料)により形成される構成、アーマチュア35が半硬質磁性体からなる部材を含み、ヨーク32が軟質磁性体(軟質磁性材料)により形成される構成、アーマチュア35が軟質磁性体により形成され、ヨーク32が半硬質磁性体により形成される構成、アーマチュア35が軟質磁性体により形成され、ヨーク32が半硬質磁性体からなる部材を含む構成、アーマチュア35およびヨーク32の両方が半硬質磁性体により形成される構成、アーマチュア35およびヨーク32の両方が半硬質磁性体からなる部材を含む構成、アーマチュア35とヨーク32の一方が半硬質磁性体により成形され、他方が半硬質磁性体からなる部材を含む構成、のいずれかが適用できる。
【0046】
なお、半硬質磁性体は、磁界中に置かれると磁化し(磁力を発生させ)、当該磁界がなくなった後も磁力を発生させ続けるとともに、磁化した状態でその時速と反対方向の磁界中に置かれると、磁力が消滅する材料である。また、軟質磁性体は、磁界中に置かれると当該磁界の強さに応じた磁力を発生させるようになり、当該磁界がなくなると磁力も消滅する材料である。なお、半硬質磁性体(半硬質磁性材料)と軟質磁性体(軟質磁性材料)の具体的な材質は特に限定されるものではなく、従来公知の材質が適用できる。
【0047】
なお、前記のとおり、アーマチュア35とヨーク32の一方のみが半硬質磁性体により形成される構成、および、アーマチュア35とヨーク32の一方のみが半硬質磁性体からなる部材を含む構成である場合には、他方は軟質磁性体により形成される。以下の説明では、アーマチュア35が半硬質磁性体により形成され、ヨーク32が軟質磁性体により形成される構成を例に示す。
【0048】
(ブレーキ機構の動作)
ここで、ブレーキ機構30の動作について説明する。図5は、半硬質磁性体により成形されるアーマチュア35のヒステリシス曲線の例である。なお、横軸は、通電によりブレーキコイル31が発生させる磁界の強さであり、縦軸はアーマチュア35の磁束密度の高さである。アーマチュア35の磁束密度が0であり、かつ、ブレーキコイル31に通電されておらずブレーキコイル31が磁界を発生させていない場合、アーマチュア35はリリーススプリング36の付勢力によってヨーク32(より具体的には、ヨーク32のアーマチュア35に対向する端面)から離間した状態に保持される。このため、ブレーキ軸33はヨーク32に対して回転自在な状態(回転が規制されない状態)にある。説明の便宜上、ブレーキ機構30のこの状態を、「不作動状態」と記す。不作動状態が、本発明の第一の状態の例である。
【0049】
ブレーキ機構30が不作動状態であると、ブレーキ軸33の回転が規制されないから、アクチュエータ25の回転動力はブレーキ機構30に規制されることなくスピンドルスクリュー22に伝達される。したがって、ブレーキ機構30が不作動状態にあると、アクチュエータ25の駆動力によって車両ドア12を開閉することができる。また、スピンドルスクリュー22の回転がブレーキ機構30によって規制されないから、車両10の使用者は、手動操作によって軽い力で車両ドア12を開閉することができる。
【0050】
制御部28がブレーキコイル31を制御し、(ブレーキコイル31に所定の極性で通電し)、ブレーキコイル31が磁界を発生させると、半硬質磁性体であるアーマチュア35および軟質磁性体であるヨーク32は、ブレーキコイル31が発生させる磁界の強度に応じた磁力を発生させる。そして、ブレーキコイル31が発生させた磁界が強くなると、アーマチュア35の磁束密度も高くなり、所定の磁束密度Bsとなる。この結果、アーマチュア35とヨーク32との間には磁力による吸引力が働き、アーマチュア35はリリーススプリング36の付勢力に抗してヨーク32の側に移動してヨーク32の端面と接触する。このように、ブレーキコイル31は、通電によって磁界を発生させ、この磁界によってアーマチュア35とヨーク32との間に吸引力(磁力)を発生させることによって、アーマチュア35とヨーク32とを接触させるように構成される。そして、アーマチュア35とヨーク32との間の摩擦力によって、ブレーキ軸33の回転が規制される。説明の便宜上、「アーマチュア35とヨーク32との間の摩擦力によってブレーキ軸33の回転が規制される状態」を、「作動状態」と記す。この作動状態が、本発明の第二の状態の例である。
【0051】
なお、「ブレーキ軸33の回転が規制される状態」は、「アーマチュア35とヨーク32との間の摩擦力がブレーキ軸33の回転の抵抗になる(アーマチュア35とヨーク32との間の摩擦力を越える力を加えなければブレーキ軸33が回転できない状態)」であるということもできる。また、「不作動状態」は、「ブレーキ軸33を所定の力(但し、ほぼ無負荷)で回転させることができる状態」であり、「作動状態」は「ブレーキ軸33に前記所定の力よりも大きい力を掛けなければ、ブレーキ軸33を回転させることができない状態」である、ということもできる。
【0052】
制御部28がブレーキコイル31に対する一時的な通電を終了してブレーキコイル31が磁界を発生しない状態になると、半硬質磁性体であるアーマチュア35の磁束密度は、その保磁力によって0にはならず0よりも大きいBrになる。このため、アーマチュア35の保磁力によって、アーマチュア35とヨーク32とは磁力による吸引力によって接触した状態に保持されるから、アーマチュア35とヨーク32との間の摩擦力によって、ブレーキ軸33の回転が規制される状態に保持される。すなわち、ブレーキコイル31に通電されてブレーキ機構30が作動状態に切り替わった場合、その後にブレーキコイル31への通電が停止されても、ブレーキ機構30は作動状態に保持される。
【0053】
そして、ブレーキ機構30が作動状態であると、アーマチュア35とヨーク32との間の摩擦力を越える力がブレーキ軸33に加わらなければ、ブレーキ軸33は回転しない。したがって、車両ドア12の開閉動作が規制されるから、車両ドア12は、ブレーキ機構30が不作動状態から作動状態に切り替わった時点における位置に保持される。
【0054】
ブレーキ機構30がアーマチュア35の保磁力によって作動状態である場合に、ブレーキ機構30を不作動状態に切り替えるためには、制御部28は、ブレーキ機構30を作動状態に切り替えた際の方向とは反対の方向で、かつアーマチュア35の保磁力と同じ強さの磁界が発生するように、ブレーキコイル31に通電する。図5に示すように、アーマチュア35の磁束密度がBrである状態で、ブレーキコイル31がアーマチュア35の保磁力Hcと同じ強さで反対方向の磁界を発生させると、アーマチュア35の磁束密度は0になる。そして、その後ブレーキコイル31への通電を停止すると、それ以降、アーマチュア35の磁束密度は0に保持される。
【0055】
アーマチュア35の磁束密度がBrから0になると、アーマチュア35とヨーク32との間の吸引力が0になる。このため、アーマチュア35はリリーススプリング36の付勢力によってヨーク32から離れ、以降、再度ブレーキコイル31に通電されるまでは、アーマチュア35とヨーク32とは離間した状態に保持される。したがって、ブレーキ機構30は不作動状態に切り替わり、かつ、再度ブレーキコイル31に通電されるまで、ブレーキ機構30は不作動状態に保持される。そして、ブレーキ機構30が不作動状態であると、前記のとおり、アクチュエータ25の駆動力によって車両ドア12を開閉できるとともに、車両10の使用者は手動操作によって車両ドア12を開閉できる。
【0056】
このように、本実施形態によれば、ブレーキ機構30を不作動状態から作動状態に切り替えるために、半硬質磁性体であるアーマチュア35の磁束密度が所定の値Bsになるようにブレーキコイル31に一時的に(換言すると、所定の有限の時間)通電すればよい。なお、この「一時的」の時間は、「半硬質磁性体であるアーマチュア35が、所定の磁束密度Brを保持するようになるために必要な有限の長さの時間」であり、具体的な長さは限定されるものではない。そして、ブレーキコイル31がいったん不作動状態から作動状態に切り替わった場合、その後ブレーキコイル31に通電しなくても、アーマチュア35の保磁力によってブレーキ機構30は作動状態に保持される。すなわち、ブレーキ機構30を作動状態に保持するためにブレーキコイル31への通電を継続しなくてもよい。換言すると、ドア保持装置20に電力を供給しなくとも、車両ドア12の位置を保持できる(換言すると、車両ドア12の移動を規制できる)。
【0057】
同様に、ブレーキ機構30を動作状態から不作動状態に切り替えるためには、アーマチュア35の保磁力による磁束の向きとは反対方向であるが、強さはアーマチュア35の保磁力による磁界と同じである磁界が発生するように、一時的にブレーキコイル31に通電すればよい。この場合の「一時的」の時間は、「半硬質磁性体であるアーマチュア35の保磁力による磁束密度を0にするために必要な有限の長さの時間」であり、具体的な時間は限定されるものではない。そして、ブレーキ機構30がいったん作動状態から不作動状態に切り替わった場合、その後ブレーキコイル31に通電しなくても、ブレーキ機構30は不作動状態に保持される。すなわち、ブレーキ機構30を不作動状態に保持するためにブレーキコイル31への通電を継続しなくてもよい。
【0058】
このように、本実施形態によれば、ブレーキ機構30を不作動状態から作動状態に切り替える際、および、ブレーキ機構30を作動状態から不作動状態に切り替える際に、それぞれ一時的にブレーキコイル31に通電すればよい。そして、本実施形態によれば、一時的な通電の終了後は再度通電されるまで、ブレーキ機構30は「切り替えた後の状態」に保持される。したがって、ブレーキ機構30を「切り替えた後の状態」に保持するために通電を継続しなくてもよい。
【0059】
(ドア保持装置の具体的動作)
次に、ドア保持装置20の具体的な動作の例について説明する。
【0060】
(1)第一の動作
第一の動作は、アクチュエータ25の回転動力によって車両ドア12を所定の位置(目標位置)に移動させ、その後車両ドア12を当該所定の位置(目標位置)に保持する動作である。
【0061】
制御部28は、車両ドア12が閉位置に位置する状態でドア開閉スイッチ14に対する「車両ドア12の開位置への移動を指示する操作」を検出すると、アクチュエータ25の駆動を開始して車両ドア12を閉位置から所定の位置(開位置における特定の位置。例えば、車両ドア12が前後方向に対して約20°傾斜した位置)に向けて移動を開始させる。併せて、制御部28は、センサ部27によるアクチュエータ25の回転軸の回転の検出結果を取得し、取得した検出結果(回転回数)から車両ドア12の位置(車両ドア12の前後方向に対する角度)を計算する。なお、アクチュエータ25の回転軸の回転回数と車両ドア12の移動距離(回転角度)は一対一で対応するから、制御部28は、閉位置からの回転回数を計測することにより、車両ドア12の位置を取得できる。
【0062】
制御部28は、車両ドア12の位置が目標位置に到達したことを示すドア位置条件が成立したか否かを判定する。具体的には、制御部28は、アクチュエータ25の回転軸の回転回数が所定の回数に達した場合、ドア位置条件が成立したと判定する。なお、第一の動作においては、このドア位置条件が、本発明のドア停止条件の例である。
【0063】
そして、制御部28は、ドア位置条件が成立したと判定すると、アクチュエータ25の駆動を停止し、その後、ブレーキ機構30のブレーキコイル31に一時的に通電する。これにより、ブレーキ機構30は不作動状態から作動状態に切り替わるため、車両ドア12の移動が停止するとともに、車両ドア12は停止した位置に保持される。
【0064】
図6は、第一の動作を実現するために制御部28のコンピュータが実行する処理を示すフローチャートである。図6に示す処理を実行するためのコンピュータプログラム(またはルーチン)は、あらかじめ制御部28のコンピュータのROMに格納されている。そして、CPUは、ROMに格納されているプログラムを読み出し、RAMに展開して(RAMをワークエリアとして用いて)実行する。なお、CPUは、図6に示す処理を、所定の短周期で繰り返し実行する。なお、第二の動作と第三の動作についても同様である。
【0065】
ステップS101において、CPUは、車両ドア12が閉位置に位置しているか否かを、ドアセンサ15による検出結果に基づいて判定する。さらに、CPUは、ドア開閉スイッチ14に対して「車両ドア12の開位置への移動を指示する操作」があったか否かを判定する。CPUは、車両ドア12が閉位置に位置していない場合と前記操作が無い場合とのいずれかである場合、この一連の処理をいったん終了する。CPUは、車両ドア12が閉位置に位置しており、かつ、前記操作があった場合、処理をステップS102に進める。
【0066】
ステップS102において、CPUは、アクチュエータ25に通電することによりアクチュエータ25の駆動を開始する。これにより、車両ドア12が閉位置から所定の位置(目標位置)へ向かって移動を開始する。なお、CPUは、アクチュエータ25の駆動を既に開始している場合には、アクチュエータ25の駆動を継続する。そして、CPUは、処理をステップS103に進める。
【0067】
ステップS103において、CPUは、ドア位置条件が成立したか否かを判定する。そして、CPUは、ドア位置条件が成立したと判定した場合、処理をステップS104に進める。一方、CPUは、ドア位置条件が成立していないと判定した場合、処理をステップS102に戻す。
【0068】
ステップS104において、CPUは、アクチュエータ25の駆動を停止する。そしてCPUは、処理をS105に進める。
【0069】
ステップS105において、CPUは、ブレーキコイルに一時的に通電する。これにより、ブレーキ機構30は不作動状態から作動状態に切り替わる。そして、一時的な通電が終了した後も、ブレーキ機構30は作動状態に保持される。
【0070】
このような制御によれば、車両ドア12を自動的に所定の位置に移動させ、かつ、車両ドア12を所定の位置に保持できる。
【0071】
(2)第二の動作
第二の動作は、車両ドア12の開位置への移動中に当該移動を停止させる動作である。なお、「車両ドア12の開位置への移動」を「開動作」と記す。例えば、車両ドア12の開動作中に歩行者や他の車両などが当該車両ドア12に接近した場合、当該車両ドア12の開動作を停止する動作である。なお、車両ドア12の開動作は、アクチュエータ25の駆動力によるものであってもよく、手動によるものであってもよい。
【0072】
制御部28は、周囲センサ13による車両10の周辺に存在する物体の検出結果の取得を継続して実行するとともに、車両10から見た検出された物体の方向および車両10からの距離の計算を継続して実行する。さらに、制御部28は、検出された物体が、車両ドア12の開位置への移動の妨げになる可能性が高いことを示す障害物条件が成立したか否かの判断を継続して実行する。例えば、制御部28は、車両10から物体までの距離が所定の閾値以下である場合、障害物条件が成立したと判定する。また、制御部28は、検出された物体が移動している場合、周囲センサ13から取得した検出結果に基づいて、当該物体の所定の時間経過後の位置を計算し、所定の時間の経過後において車両10から物体までの距離が所定の閾値以下である場合、障害物条件が成立したと判定する。第二の動作においては、この障害物条件が、本発明のドア停止条件の例である。
【0073】
そして、制御部28は、アクチュエータ25の回転動力による車両ドア12の開動作中に障害物条件が成立したと判定すると、アクチュエータ25の駆動を停止する。そして、制御部28は、その後、ブレーキ機構30のブレーキコイル31に一時的に通電することにより、ブレーキ機構30を不作動状態から作動状態に切り替える。これにより、車両ドア12の開動作(車両ドア12の移動)が停止するとともに、車両ドア12は停止した位置に保持される。また、制御部28は、使用者等の手動操作による(すなわち、アクチュエータ25の回転動力によらない)車両ドア12の開動作中に障害物条件が成立したと判定すると、ブレーキ機構30のブレーキコイル31に一時的に通電することにより、ブレーキ機構30を不作動状態から作動状態に切り替える。これにより、車両ドア12の移動が規制される。このため、使用者は車両ドア12を移動させることができなくなるか、または、ブレーキ機構30が不作動状態である場合に比較して大きな力を掛けなければ車両ドア12を移動できなくなる。
【0074】
図7は、第二の動作を実現するために制御部28のコンピュータが実行する処理を示すフローチャートである。
【0075】
ステップS201において、CPUは、車両ドア12が開動作中であるか否かを判定する。具体的には、CPUは、センサ部27による検出結果を取得し、アクチュエータ25の回転軸が所定の方向に回転している場合には、車両ドア12が開動作中であると判定する。車両ドア12が開動作中でない場合、CPUはこの一連の処理をいったん終了する。車両ドア12が開動作中である場合、CPUは、処理をステップS202に進める。
【0076】
ステップS203において、CPUは、障害物条件が成立したか否かを判定する。そして、CPUは障害物条件が成立したと判定した場合、処理をステップS203に進める。一方、CPUは、障害物条件が成立していないと判定した場合、この一連の処理をいったん終了する。
【0077】
ステップS104において、CPUは、アクチュエータ25の駆動を停止する。なお、CPUは、車両ドア12の移動がアクチュエータ25の駆動によらない場合、このステップを省略して処理をステップS204に進める。なお、CPUは、アクチュエータ25を駆動中であれば(アクチュエータ25に通電中であれば)、車両ドア12の開動作がアクチュエータ25の回転動力によるものであると判定し、アクチュエータ25を駆動中でなければ、車両ドア12の開動作は手動操作によるものであると判定する。
【0078】
ステップS204において、CPUは、ブレーキコイル31に対して一時的に通電する。これにより、ブレーキ機構30は不作動状態から作動状態に切り替わる。そして、一時的な通電が終了した後も、ブレーキ機構30は作動状態に保持される。
【0079】
このような制御によれば、障害物条件が成立した場合、車両ドア12の開動作を停止できるか、または、使用者に対して車両ドア12の手動操作による開動作の停止を促すことができる。そして、ブレーキコイル31に対する一時的な通電を終了した後も、車両ドア12は停止した状態に保持される。
【0080】
(3)第三の動作
第三の動作は、ブレーキ機構30を作動状態から不作動状態に切り替える動作である。前記のとおり、ブレーキ機構30が不作動状態から作動状態に切り替わった場合、その後にブレーキコイル31に対する一時的な通電が終了しても、ブレーキ機構30は作動状態に保持される。このため、この状態で使用者等が車両ドア12を手動で移動させようとしても移動しないか、または移動させるために大きな力が必要である。そこで、制御部28は、ブレーキ機構30が作動状態である場合に、使用者等が車両ドア12を手動操作しようとしたことを示す手動操作条件が成立した場合、ブレーキ機構30を作動状態から不作動状態に切り替える。
【0081】
なお、制御部28は、アクチュエータ25を駆動していない状態において、センサ部27によりアクチュエータ25の回転軸が回転を開始したこと検出した場合、手動操作条件が成立したと判定する。また、ブレーキ機構30を作動状態から不作動状態に切り替える場合には、制御部28は、ブレーキ機構30を不作動状態から作動状態に切替える場合とは反対向きの磁界が発生するように、ブレーキコイル31に通電する。
【0082】
図8は、第三の動作を実現するために制御部28のコンピュータが実行する処理を示すフローチャートである。
【0083】
ステップS301において、CPUは、ブレーキ機構30が作動状態であるか否かを判定する。具体的には、CPUは、ステップS301の処理を実行するよりも前の時点で、ブレーキ機構30を不作動状態から作動状態に切り替える処理(例えば、図6のステップS105の処理、または図7のステップS204の処理)を実行したが、その後にブレーキ機構30を作動状態から不作動状態に切り替える処理(例えば、後述するステップS303の処理)を実行していない場合、CPUは、ブレーキ機構30が作動状態であると判定する。CPUは、ブレーキ機構30が作動状態であると判定した場合、処理をステップS302に進める。一方、CPUは、ブレーキ機構30が不作動状態であると判定した場合、この一連の処理をいったん終了する。
【0084】
ステップS302において、CPUは、手動操作条件が成立したか否かを判定する。CPUは、手動操作条件が成立したと判定した場合、処理をステップS303に進める。一方、CPUは、手動操作条件が成立していないと判定した場合、この一連の処理をいったん終了する。なお、この一連の処理をいったん終了した場合、ブレーキ機構30は作動状態に保持される。
【0085】
ステップS303において、CPUは、ブレーキコイル31に対して一時的に通電する。なお、この処理においては、ブレーキ機構30を不作動状態から作動状態に切り替える際とは極性が逆の電気を流す。これにより、アーマチュア35の磁束密度が0になり(図5参照)、ブレーキ機構30は作動状態から不作動状態に切り替わる。
【0086】
第三の動作によれば、例えば、ブレーキ機構30が作動状態である場合に使用者が車両ドア12を手動操作しようとすると、ブレーキ機構が作動状態から不作動状態に切り替わる。したがって、使用者は、軽い力で車両ドア12を移動させることができる。
【0087】
以上、本発明の実施形態および変形例について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。
【0088】
例えば、前記実施形態では、アーマチュア35が半硬質磁性体により形成され、ヨーク32が軟質磁性体により形成される構成を示したが、このような構成に限定されない。要は、アーマチュア35とヨーク32の少なくとも一方が半硬質磁性体により形成される構成であればよい。そして、アーマチュア35とヨーク32の少なくとも一方のみが半硬質磁性体により形成される場合、他方は軟質磁性体により形成される。
【0089】
また、アーマチュア35(第一の摺動部材)の全部が半硬質磁性体により形成される構成でなくてもよく、例えばアーマチュア35が半硬質磁性体により形成される部材を一部に含む構成であってもよい。同様に、ヨーク32(第二の摺動部材)の全部が半硬質磁性体により形成される構成ではなくてもよく、例えばヨーク32が半硬質磁性体により形成される部材を一部に含む構成であってもよい。例えば、ヨーク32が、ブレーキコイル31を収容可能な筒状の部材と、アーマチュア35に摺動可能な円環状の部材とを備え、筒状の部材に円環状の部材が取り付けられる構成であってもよい。この場合、筒状の部材と円環状の部材の少なくとも一方が半硬質磁性体により形成される構成であればよい。そして、一方のみが半硬質磁性体により形成される構成、または、一方のみが半硬質磁性体により形成される部材を含む構成であれば、他方は軟質磁性体により形成される構成であればよい。
【符号の説明】
【0090】
10…車両、11…車体、12…車両ドア、20…ドア保持装置、22…スピンドルスクリュー、23…スピンドルナット、24…連結ロッド、25…アクチュエータ、26…回転伝達機構、30…ブレーキ機構、31…ブレーキコイル、32…ヨーク、33…ブレーキ軸、34…アーマチュアハブ、35…アーマチュア、36…リリーススプリング
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8