(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158813
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】簡易撹拌ユニットおよびグラウト材の調整方法
(51)【国際特許分類】
B01F 27/113 20220101AFI20231024BHJP
B01F 23/53 20220101ALI20231024BHJP
B01F 27/806 20220101ALI20231024BHJP
B01F 27/91 20220101ALI20231024BHJP
B01F 35/75 20220101ALI20231024BHJP
E04G 21/12 20060101ALI20231024BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
B01F27/113
B01F23/53
B01F27/806
B01F27/91
B01F35/75
E04G21/12 105Z
E04G23/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068823
(22)【出願日】2022-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000201490
【氏名又は名称】前田工繊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】加納 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】出蔵 貴司
(72)【発明者】
【氏名】辻 総一朗
【テーマコード(参考)】
2E176
4G035
4G037
4G078
【Fターム(参考)】
2E176AA01
2E176BB15
2E176BB17
4G035AB46
4G035AE13
4G037AA11
4G037EA04
4G078AA03
4G078AA04
4G078AA26
4G078AB20
4G078BA05
4G078CA01
4G078CA24
4G078DA19
4G078DB08
4G078EA10
(57)【要約】
【課題】これまで調整が困難とされてきた高粘度のクラウト材を誰でも効率よく撹拌して短時間のうちに調整することができる、簡易撹拌ユニットおよびグラウト材の調整方法を提供すること。
【解決手段】筒体20と該筒体20に内挿可能な撹拌羽根30とを具備した簡易撹拌ユニット10であって、筒体20はグラウト材の撹拌容器として使用すると共に、グラウト材の吐出容器として使用可能な筒本体21からなり、撹拌羽根30は筒本体21の他端の開口部に装着して封鎖可能な入口蓋31と、該入口蓋31をスライド可能に貫通して設けた軸部32と、該軸部32の先端に設けた羽根部33とを有し、羽根部33が軸部32の先端部から径方向に向けて放射状に突出した複数枚の傾斜翼35からなり、傾斜翼35が水平線に対して所定の傾斜角度で傾斜しており、羽根部33の直径が筒本体21の内径に対して小さい寸法関係にあり、傾斜翼35の羽根幅が羽根部33の直径に対して小さい寸法関係にある。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒体と、該筒体に内挿可能な撹拌羽根とを少なくとも具備し、前記筒体内に投入した水硬性粉体と液体を撹拌羽根で撹拌して高粘度のグラウト材を調整する簡易撹拌ユニットであって、
前記筒体は一端を開放可能な有底構造とすることでグラウト材の撹拌容器として使用すると共に、一端に注入ノズルを取り付けて注入ガンに装填してグラウト材の吐出容器として使用可能な筒本体からなり、
前記撹拌羽根は筒本体の軸長以上の長さを有する軸部と、該軸部の先端に設けた羽根部とを少なくとも有し、
前記羽根部が軸部の先端部から径方向に向けて放射状に突出した複数枚の傾斜翼からなり、
前記傾斜翼が帯板からなり、
前記傾斜翼が水平線に対して所定の傾斜角度で傾斜しており、
前記羽根部の直径が筒本体の内径に対して小さい寸法関係にあり、
前記傾斜翼の羽根幅が羽根部の直径に対して小さい寸法関係にあることを特徴する、
簡易撹拌ユニット。
【請求項2】
前記撹拌羽根が筒本体の他端の開口部に装着して封鎖可能な入口蓋を有し、前記軸部が入口蓋をスライド可能に貫通していることを特徴とする、請求項1に記載の簡易撹拌ユニット。
【請求項3】
前記筒本体の一端に開口部を形成し、該開口部をピストンで封鎖して筒本体を有底構造としたことを特徴とする、請求項1に記載の簡易撹拌ユニット。
【請求項4】
前記筒本体の一端に底面を形成し、該底面の一部に隆起して形成した吐出部を栓蓋で封鎖して筒本体を有底構造としたことを特徴とする、請求項1に記載の簡易撹拌ユニット。
【請求項5】
前記傾斜翼の傾斜角度が30°~45°であることを特徴とする、請求項1に記載の簡易撹拌ユニット。
【請求項6】
前記羽根部を構成する傾斜翼が3枚または4枚であることを特徴とする、請求項1に記載の簡易撹拌ユニット。
【請求項7】
前記筒本体の内径に対する羽根部の直径が85~89%であることを特徴とする、請求項1に記載の簡易撹拌ユニット。
【請求項8】
前記羽根部の直径に対する傾斜翼の羽根幅が20%~30%の寸法関係にあることを特徴とする、請求項1に記載の簡易撹拌ユニット。
【請求項9】
筒体と、該筒体に内挿可能な撹拌羽根とを少なくとも具備し、前記筒体内に投入した水硬性粉体と液体を撹拌羽根で撹拌してグラウト材を調整する簡易撹拌ユニットを使用したグラウト材の調整方法であって、
前記請求項1に記載の簡易撹拌ユニットを使用し、
前記筒体内で水硬性粉体と液体を撹拌する際に筒体に沿って撹拌羽根を複数回に亘って往復動させることを特徴とする、
グラウト材の調整方法。
【請求項10】
前記撹拌羽根の往復回数が10~20回であることを特徴とする、請求項9に記載のグラウト材の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種コンクリート構造物に対して鉄筋やボルトの埋込み工事やクラックの補修工事等で使用するグラウト材の調整技術に関し、特にグラウト材を現場で調整するための撹拌ユニットおよびグラウト材の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種コンクリート構造物に対して鉄筋やボルトの埋込み工事やクラックの補修工事等を行う際に、筒体内で水硬性粉体と水等の液体を撹拌して現場でグラウト材を調整している。
グラウト材用撹拌器としては、内部に水硬性粉体を予め収容しておくシリンジ形の筒体と、筒体内に移動可能に収容するピストンとを具備し、筒体内に液体を注入した後に、筒体を振る等して振動を与えて撹拌混合する撹拌器が特許文献1により知られている。
またシリンジ形の筒体内における水硬性粉体と液体との撹拌手段として、一本の棒材先端部を筒体の内周面に当接可能に屈曲した接触部を形成した撹拌棒が特許文献2により知られている。
さらに一本の棒材をクランク状に屈曲して形成した撹拌棒を具備した撹拌器が特許文献3により知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-208682号公報
【特許文献2】特開2012-224045号公報
【特許文献3】特開2018-51523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の撹拌器は次の問題点を内包している。
<1>特許文献1に記載の撹拌器は、シリンジ形を呈する筒体の内部に予め水硬性粉体を収容している。
グラウト材を調整する際は、筒体の吐出口を上向きにして、小径の吐出口を通じて液体を注入しなければならず、液体の注入作業が非常に面倒である。
<2>特許文献2に開示された撹拌棒は、撹拌棒の先端部に形成した接触部が撹拌棒の直線部に対して偏心しているため、回転時に撹拌棒がガタついて撹拌作業がし難いだけでなく、撹拌棒による撹拌範囲が狭いためにグラウト材の撹拌効率が低い。
<3>クランク状に屈曲した撹拌棒を具備した特許文献3に記載の撹拌器は、低粘度のグラウト材の調整を前提としている。
そのため、特許文献3に記載の撹拌器で調整されたグラウト材は下向きで注入する際は問題がないが、上向きや横向きで使用するとグラウト材が垂れ落ちるため、グラウト材の注入方向に制約がある。
<4>特許文献3に記載の撹拌器でグラウト材の粘度を高めようとすると、撹拌抵抗が大きくなって撹拌棒のクランク部が変形して撹拌が不能となる。
<5>従来の撹拌器は、作業者の力量によって撹拌効果に大きな差が生じ易い。
そのため、グラウト材の品質が不均一となって固着性能にバラツキを生じる。
<6>従来の撹拌器の大半は、低粘度のグラウト材の調整を前提としているため、高粘度のグラウト材の調整には適用できない。
<7>高粘度のグラウト材を撹拌可能な撹拌器であっても、筒体内におけるグラウト材に混合ムラが生じ易く、撹拌に多くの時間を必要とする。
<8>筒本体からピストンやキャップ等の付属物を取り除くと、筒本体の入口と出口が開放される。そのため、筒本体の内周面の洗浄がし易くなる。
<9>従来の撹拌器では、注入ガンにセットしてグラウト作業を行う際に筒本体の内部にピストンを挿入して使用している。
従来の筒本体は有底構造であるため、グラウト作業を終えると筒本体だけでなくピストンも廃棄物として処分されており、不経済なだけでなく環境に悪影響を及ぼす。
【0005】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは以上の問題点を解消できる、簡易撹拌ユニットおよびグラウト材の調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、筒体と、該筒体に内挿可能な撹拌羽根とを少なくとも具備し、前記筒体内に投入した水硬性粉体と液体を撹拌羽根で撹拌して高粘度のグラウト材を調整する簡易撹拌ユニットであって、前記筒体は一端を開放可能な有底構造とすることでグラウト材の撹拌容器として使用すると共に、一端に注入ノズルを取り付けて注入ガンに装填してグラウト材の吐出容器として使用可能な筒本体からなり、前記撹拌羽根は筒本体の軸長以上の長さを有する軸部と、該軸部の先端に設けた羽根部とを少なくとも有し、前記羽根部が軸部の先端部から径方向に向けて放射状に突出した複数枚の傾斜翼からなり、前記傾斜翼が帯板からなり、前記傾斜翼が水平線に対して所定の傾斜角度で傾斜しており、
前記羽根部の直径が筒本体の内径に対して小さい寸法関係にあり、前記傾斜翼の羽根幅が羽根部の直径に対して小さい寸法関係にある。
本発明の他の形態において、前記撹拌羽根が筒本体の他端の開口部に装着して封鎖可能な入口蓋を有し、前記軸部が入口蓋をスライド可能に貫通している。
本発明の他の形態において、前記筒本体の一端に開口部を形成し、該開口部をピストンで封鎖して筒本体を有底構造とする。
本発明の他の形態において、前記筒本体の一端に底面を形成し、該底面の一部に隆起して形成した吐出部を栓蓋で封鎖して筒本体を有底構造としてもよい。
本発明の他の形態において、前記傾斜翼の傾斜角度は30°~45°であり、前記羽根部を構成する傾斜翼は3枚または4枚であり、前記筒本体の内径に対する羽根部の直径は85~89%であり、前記羽根部の直径に対する傾斜翼の羽根幅が20%~30%の寸法関係にある。
本発明は、筒体と、該筒体に内挿可能な撹拌羽根とを少なくとも具備し、前記筒体内に投入した水硬性粉体と液体を撹拌羽根で撹拌してグラウト材を調整する簡易撹拌ユニットを使用したグラウト材の調整方法であって、前記した簡易撹拌ユニットを使用し、前記筒体内で水硬性粉体と液体を撹拌する際に筒体に沿って撹拌羽根を複数回に亘って往復動させる。
本発明の他の形態において、前記撹拌羽根の往復回数が10~20回である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は少なくともつぎのひとつの効果を奏する。
<1>本発明では、傾斜翼の枚数、傾斜翼の傾斜角度、筒本体の内径と羽根部の直径との関係等を限定することにより、これまで調整が困難とされてきた高粘度のクラウト材を効率よく撹拌して短時間のうちに調整することができる。
<2>水硬性粉体と液体を収容した筒体内において、撹拌羽根の往復回数を一定の回数に制約することで、高度な熟練技術を持つ専門家に限定されずに、誰でも簡易に高粘度のグラウト材を調製することができる。
<3>グラウト材を高粘度に調整できるので、グラウト材の定着性がよくなる。
そのため、従来技術で調整した低粘度のグラウト材では対応が困難であった横向き施工や上向き施工にも手軽に対応することができる。
<4>筒本体からピストンやキャップ等の付属物を取り除くと、筒本体の入口と出口を開放できるため、筒本体の内周面の洗浄がし易くなる。
<5>筒本体の一端の開口部をピストンで封鎖して筒本体を有底構造とした場合には、筒本体からピストンを取り外せるので、ピストンと筒本体を何度でも再利用できて経済的であると共に、廃棄物を減らして環境問題を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施例1に係る簡易撹拌ユニットの説明図で、(A)は簡易撹拌ユニットの全体斜視図、(B)は筒本体の他の有底構造の説明図
【
図2】羽根部の説明図で、(A)は撹拌ユニットの縦断面図、(B)は(A)におけるB-Bの断面図
【
図3】グラウト材の調整方法の説明図で、(A)は筒体内に水硬性粉体と液体を投入する工程の説明図、(B)は筒本体に撹拌羽根を装着する固定の説明図、(C)撹拌羽根による撹拌工程の説明図
【
図4】グラウト材の吐出方法の説明図で(A)は筒本体の出口にキャップと注入ノズルを取付ける工程の説明図、(B)は注入ガンを使用してグラウト材を吐出する工程の説明図
【
図5】本発明の実施例2に係る筒本体の他の有底構造の説明図
【
図6】本発明の実施例2に係るグラウト材の調整方法の説明図で、(A)は筒体内に水硬性粉体と液体を投入する工程の説明図、(B)は筒本体に撹拌羽根を装着する工程と撹拌羽根による撹拌工程の説明図
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施例1]
<1>簡易撹拌ユニット
図1を参照して簡易撹拌ユニット10を説明する。
本発明に係る簡易撹拌ユニット10は、少なくとも有底構造の筒体20と、該筒体20に内挿可能な撹拌羽根30とを具備する。
【0010】
<2>筒体
筒体20はグラウト材40の原料である水硬性粉体41および液体42の撹拌容器として機能するだけでなく、グラウト材40の吐出容器を兼ねている。
筒体20は均一径をした円筒形の有底構造の筒本体21からなる。
筒本体21の素材に制約は特になく、樹脂製、金属製の何れでもよい。
実用上は、成形が容易な樹脂製の筒体が好適である。
【0011】
筒本体21の容積は、グラウト材40の容量に応じて適宜選択が可能である。
例えば1300mlのグラウト材40を調整する場合は、内径が96mm、高さ330mm、容積2300mlの筒本体21を使用する。
【0012】
筒本体21の両端にはそれぞれ開口された入口21aと出口21bとを有している。
筒本体21の入口21aは、円柱形を呈するピストン22を収容して開口を封止している。
ピストン22はシール性を保ったまま筒本体21の内周面をスライド自在である。
水硬性粉体41と液体42は出口21bを通じて筒本体21内に投入する。
【0013】
筒本体21の出口21bには、着脱式のキャップ23を装着し、キャップ23の一部に突設した吐出部24に別部材である注入ノズル25が組付け可能である。
注入ノズル25はキャップ23と一体に形成してもよい。
注入ノズル25は、後述するようにグラウト材40の吐出時に使用する。
【0014】
図1では、キャップ23を筒本体21の出口21bに外装する形態について示すが、キャップ23を筒本体21の出口21bに内挿して取り付けてもよい。
【0015】
<3>撹拌羽根
撹拌羽根30は、筒本体21の入口21aに装着して封止可能な入口蓋31と、該入口蓋31を貫通して設けた軸部32と、該軸部32の先端に設けた羽根部33とを有する。
【0016】
<3.1>入口蓋
入口蓋31は筒本体21の入口21aを閉鎖するための着脱の蓋体である。
入口蓋31は筒本体21の入口21aに対して圧入式またはネジ式で取着可能である。
なお、入口蓋31は必須ではなく、入口蓋31を省略する場合もある。
【0017】
<3.2>軸部
軸部32は筒本体21の軸長以上の長さを有する棒体である。
実用上、上記した筒本体21の寸法に対応するため、軸部32には直径8mm、全長370mmの鋼棒を使用する。
軸部32は入口蓋31に対してスライド可能に貫通している。
軸部32はその先端に羽根部33を有する。
軸部32の基端は、ドライバードリル等の回転工具50の回転チャック51に装着可能である(
図3参照)。
【0018】
<3.3>羽根部
羽根部33は軸部32の先端部から径方向に向けて放射状に突出した複数の傾斜翼35からなる。傾斜翼35は均一の幅と厚さを有する帯板からなる。
上記した筒本体21の寸法に対応するため、傾斜翼35には厚さtが1.2mm、板幅L1が21mmの鋼板を使用する。
【0019】
<4>最適な撹拌条件
本発明では、高粘度のグラウト材40を得るための作業性と混合性に着目し、これらを実現するための撹拌条件について鋭意実験を繰り返した結果、撹拌要素と好ましい撹拌条件を見出した。
【0020】
撹拌要素は以下のとおりである。
ア)傾斜翼35の枚数
イ)傾斜翼35の傾斜角度θ
ウ)筒本体21の内径と羽根部33の直径との関係
エ)撹拌羽根30の往復回数
図2を参照しながら、これらの各撹拌要素の最適条件について説明する。
【0021】
<4.1>傾斜翼の枚数
羽根部33は3~4枚の傾斜翼35で構成することが望ましい。
【0022】
傾斜翼35が2枚であると、撹拌する際に傾斜翼35に偏心が発生し易くなり、さらに撹拌効率が低くなる。
傾斜翼35が5枚以上では、傾斜翼35の枚数が増えるほど撹拌抵抗が大きくなり、さらに調整コストが高くつく、といった問題がある。
【0023】
<4.2>傾斜翼の傾斜角度
傾斜翼35は水平線に対して所定の傾斜角度θで傾斜している。
この傾斜角θは30°~45°の範囲に設定することが望ましい。
【0024】
傾斜翼35の傾斜角度θが30°より小さいと、撹拌抵抗は小さくなるが、筒本体21内のグラウト材40の混ざりが悪くなって撹拌効率が低下するといった問題がある。
傾斜翼35の傾斜角度θを45°より大きくすると、撹拌抵抗が大きくなって、筒本体21内での撹拌が困難となる。
【0025】
<4.3>筒本体の内径と羽根部の直径の寸法関係
筒本体21の内径をd1、羽根部33の直径d2をとした場合、羽根部33の直径d2は筒本体の内径d1に対して85~89%の寸法関係にあることが望ましい。
実用上、筒本体21の内径d1が96mmに対応するため、羽根部33の直径d2は84mmである。
【0026】
筒本体の内径d1に対する羽根部33の直径d2の寸法関係が85%より小さいと、特に、筒本体21側面部のグラウト材40の混ざりが悪くなるといった問題があり、筒本体21の内径d1に対する羽根部33の直径d2の寸法関係が89%より大きいと、往復動の引上げ時に筒本体21の側面からグラウト材40が移動出来ないため、撹拌抵抗が大きくなるといった問題がある。
【0027】
<4.4>羽根部の直径に対する傾斜翼の羽根幅の関係
羽根部33の直径d2に対する羽根幅L1の関係は、20%~30%の寸法関係にある。
鋼板を使用する。
実用上、傾斜翼35の板幅L1が21mmである場合、羽根部33の直径d2は84mmが望ましい。
【0028】
羽根部33の直径d2に対する羽根幅L1の関係が20%より小さいと、撹拌抵抗は小さくなるが、グラウト材の撹拌効率が小さくなるため、往復動回数を増やす必要があるといった問題があり、羽根部33の直径d2に対する羽根幅L1の関係が30%より大きいと、撹拌抵抗が大きくなり、筒体内での撹拌が困難となるといった問題が起きる。
【0029】
<4.5>撹拌羽根の往復回数
本発明では筒体20内で撹拌羽根30を回転しながら、撹拌羽根30を筒体20の軸方向に沿って往復動(上下動)させることで撹拌するようにした。
撹拌羽根30の往復回数は10~20回とし、より望ましく15回が望ましい。
【0030】
撹拌羽根30の往復回数が10回より少ないと、筒本体21内の上部と下部とでグラウト材40の混合ムラが生じるといった問題があり、撹拌羽根30の往復回数が20回を超えると、グラウト材40の空気量が多くなるため、吐出部からの吐出時にグラウト材40が飛散して、作業性の低下につながる。
撹拌回数を制限しない場合、作業者により、混合後のグラウト材40のフレッシュ性状に差が生じやすくなるといった問題が生じる。
【0031】
<5>グラウト材の原料
水硬性粉体41と液体42を撹拌して高粘度のグラウト材40を調整する。
本発明において、「高粘度」とは注入ノズル25を下向きにした際に、筒本体21内からグラウト材40が連続的に垂れ落ちない(滴下とダレがまったくない状態か、または滴下とダレがほぼない状態)物性(フロー値)を意味する。
【0032】
グラウト材40を構成する水硬性粉体41と液体42は、各種の使途(接着系アンカー材、固結材、止水材、目地材、補修材等)に応じて適宜選択が可能である。
水硬性粉体41と液体42は配合量を計量しておき、予め袋体やボトル等に封入しておくとよい。
【0033】
水硬性粉体41とは、水等と接触して硬化する粉体を意味し、好ましくは、例えばポルトランドセメント、珪酸カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムフルオロアルミネート、カルシウムサルフォアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、リン酸カルシウム、半水又は無水石膏及び自硬性を有する生石灰の粉体からなる群より選ばれた少なくとも一種類の粉体を使用できる。
水硬性粉体41は上記した物質に限定されず、公知の硬化性粉体を含むものである。
【0034】
液体42は水硬性粉体41の物性に応じて適宜選択が可能である。
【0035】
[グラウト材の調整方法]
図3を参照して簡易撹拌ユニット10を使用したグラウト材40の調整方法について説明する。
【0036】
<1>グラウト材料の投入(
図3(A))
筒本体21の入口21aをピストン22で封鎖した筒体20を準備し、開放したままの出口21bを真上に向けた状態で筒体20を縦向きに保持する。
筒体20の出口21bを通じて所定量の水硬性粉体41(例えばセメント系粉体2350g)と液体42(水400g)を投入する。
筒体20の出口21bは開口寸法が大きいので、水硬性粉体41と液体42の投入を簡単に行える。
水硬性粉体41は一度に全量を投入してもよいが、複数回(例えば一回目820g、二回目1530g)に分けて投入すると撹拌性がよくなる。
【0037】
<2>撹拌羽根のセット(
図3(B))
撹拌羽根30の羽根部33を筒本体21内に収容した後、入口蓋31を筒本体21の出口21bに嵌め込んで封鎖する。
筒本体21内に水硬性粉体41と液体42が投入してあるため、羽根部33は筒本体21の上位に位置する。撹拌羽根30の大半は入口蓋31の外方に飛び出している。
【0038】
<3>撹拌混合(
図3(C))
軸部32の基端に回転工具50を接続する。
筒体20の転倒を拘束した状態で、撹拌羽根30を特定方向に向けて回転しながら、撹拌羽根30の昇降操作を繰り返す。
回転工具50としては、例えばドライバードリル(新興製作所製ACD-280A,回転数0~790min
-1)、変速振動ドリル(新興製作所製SVV-130A,回転数300~2,100min
-1)、コードレス振動ドライバードリル(HikokiFDV18DA,回転数1,400min
-1)が使用可能である。
【0039】
一般的に水硬性粉体41と液体42の混合初期は撹拌抵抗がきわめて大きい。
本発明では、羽根部33を撹拌抵抗に強い複数の傾斜翼34で構成しているため、混合初期においても効率のよい撹拌混合を行える。
特に本発明では、傾斜翼35の枚数、傾斜翼35の傾斜角度θ、筒本体21の内径と羽根部33の直径との関係を特定の寸法に設定してあるため、従来の撹拌器と比べて、水硬性粉体41と液体42を効率よく撹拌混合して、高粘度の性状(フロー値(JIS R 5201:180プラスマイナス10mm)、単位容積質量(JIS A 1171:2.1プラスマイナス0.10))のグラウト材40を得ることができる。
【0040】
また羽根部33を定位置に保持したまま撹拌すると、撹拌範囲が狭く限定されるが、筒体20内で撹拌羽根30を昇降することで、未撹拌箇所の発生をなくして筒体20の上部や下部は勿論のこと、筒本体21の全長に亘って均質に撹拌することができる。
特に、羽根部33を高強度の傾斜翼35で構成しているため、撹拌抵抗が大きくとも傾斜翼35を変形させずに撹拌が可能となる。
【0041】
また、撹拌羽根30の昇降を特定回数(例えば15回)に設定することで、初心者でもクラウト材40の混合ムラをなくして均質に撹拌でき、さらに、クラウト材40を所定の粘度フロー値(例えばJIS R 5201:180プラスマイナス10mm)に調整することができる。
【0042】
撹拌作業を終了したら、筒体20から撹拌羽根30を取り外してグラウト材40の調整を完了する。
【0043】
[グラウト材の注入方法]
図4を参照してグラウト材40の注入方法について説明する。
【0044】
<1>注入ノズルのセット(
図4(A))
縦向きにした筒体20の上向きにした出口21bにキャップ23と注入ノズル25を取り付ける。
【0045】
<2>注入ガンへのセット(
図4(B))
グラウト材40を封入した筒体20を注入ガン60に取り付ける。
注入ガン60は公知のコーキングガンである。本例で例示した注入ガン60は、筒体20を収納する収納部61と、筒体20のピストン22を押圧する押圧部62と、押圧部62に接続した押圧軸63と、押圧軸63を軸方向に移動させる把持レバー64とを有する。
【0046】
<3>グラウト材の注入(
図4(B))
作業者は、把持レバー64を握ることで、筒体20に取り付けたピストン22を押圧して、注入ノズル25からグラウト材40を所定の箇所にと吐出することができる。
【0047】
<4>グラウト材の注入方向
例えば、低粘度のグラウト材を調整するのであれば、本発明の撹拌羽根30による撹拌は不要である。
本発明の簡易撹拌ユニット10は、高粘度のグラウト材40を調整するのに適している。
筒体20内のグラウト材40が高粘度であるため、注入ガン60を通じて吐出されるグラウト材40は自重で落下し難くい。
そのため、これまで施工が困難とされてきた横向き施工は勿論のこと、
図4(B)に示した上向き施工や孔内充填施工を含めて容易に施工することが可能となる。
【0048】
<5>簡易撹拌ユニットの他の特性
簡易撹拌ユニット10は既述した作用効果にくわえて、つぎの特性を有している。
【0049】
ア)作業終了後における筒本体の内部の洗浄がし易い。
筒本体21からピストン22やキャップ23等の付属物を取り除くと、筒本体21の入口21aと出口21bが開放されるため、筒本体21内の洗浄がし易くなる。
【0050】
イ)ピストンと筒本体の再利用が可能となって廃棄物を減らせる。
従来の撹拌機は筒本体の一方が有底構造であるため、グラウト作業を終えると筒本体だけでなくピストンは廃棄物として使い捨てにされていた。
【0051】
これに対して、本発明では、筒本体21からピストン22を取り外せるので、ピストン22と筒本体21を何度でも再利用することができて、廃棄物を減らすことができる。
【0052】
[実施例2]
以降に他の実施例について説明するが、その説明に際し、前記した実施例1と同一の部位は同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0053】
1.筒本体の他の有底構造
先の実施例1では、筒本体21の入口21a側にピストン22を取り付けて有底構造とした形態について説明したが、筒本体21の有底構造は実施例1の形態に限定されない。
図5,6を参照して筒状本体21の他の有底構造について説明する。
【0054】
<1>筒本体の有底構造
図5は他の筒体20を示している。
筒本体21は一方に入口21aを有し、他方に底面26を有している。
筒本体21の底面26の一部に吐出部24を一体に形成する。
吐出部24は底面26を絞り込んで外方向けて隆起していて、筒本体21の内空と連通している。
【0055】
<2>突出部の取付け部材
本例では吐出部24に対して別部材である栓蓋27または注入ノズル25を択一的に取付け可能である。
栓蓋27はグラウト材40の撹拌時に吐出部24を閉鎖するために使用する。
【0056】
2.グラウト材の調整方法
図6を参照してグラウト材40の調整方法について説明する。
【0057】
<1>グラウト材料の投入(
図6(A))
先の実施例1では、真上に向けた筒本体21の出口21bを通じてグラウト材料を投入したが、本例では筒本体21の入口21aを真上に向け、入口21aを通じてグラウト材料を投入する。
【0058】
本例ではグラウト材料の投入前に、筒本体21の吐出部24に栓蓋27を取り付けて封止しておき、入口21aを通じて所定量の水硬性粉体41と液体42を投入する。
【0059】
<2>撹拌羽根のセットと撹拌混合(
図6(B))
撹拌羽根30の羽根部33を筒本体21内に収容した後、入口蓋31を筒本体21の入口21aに嵌め込んで封鎖する。
【0060】
軸部32の上端に回転工具50を接続し、撹拌羽根30を筒本体21内で回転しながら昇降操作を繰り返して行う撹拌工程は既述した実施例1と同様である。
【0061】
<3>注入ガンへのセット
グラウト材40の調整を終えたら筒体20から撹拌羽根30を取り外し、筒本体21の入口21a内にピストン22を挿入して塞ぐ。さらに筒本体21を逆さにして、吐出部24の栓蓋25を取外して注入ノズル25に付け替える。
クラウト材40を封入した筒体20を
図4に示した注入ガン60に取り付けてグラウト材40を注入する工程は実施例1と同様である。
【0062】
3.本例の効果
本例にあっては先の実施例1と同様に以下の効果を奏する。
<1>これまで調整が困難とされてきた高粘度のクラウト材40を効率よく撹拌して短時間のうちに調整することができる。
<2>高度な熟練技術を持つ専門家に限定されずに、誰でも簡易に高粘度のグラウト材40を調製することができる。
<3>グラウト材40を高粘度に調整できるので、グラウト材40の定着性がよくなる。
そのため、従来技術で調整した低粘度のグラウト材では対応が困難であった横向き施工や上向き施工にも手軽に対応することができる。
<4>グラウト材40を撹拌する際に、筒本体21の吐出部24を栓蓋27で封鎖することで、筒本体21の大径の入口21aを上向きに配置することができる。
したがって、筒本体21の入口21aを通じて筒本体21内に撹拌羽根30を簡単に内挿することができる。
【符号の説明】
【0063】
10・・・・簡易撹拌ユニット
20・・・・筒体
21・・・・筒本体
21a・・・入口
21b・・・出口
22・・・・ピストン
23・・・・キャップ
24・・・・吐出部
25・・・・注入ノズル
26・・・・底面
27・・・・栓蓋
30・・・・撹拌羽根
31・・・・入口蓋
32・・・・軸部
33・・・・羽根部
34・・・・角柱部
35・・・・傾斜翼
40・・・・グラウト材
41・・・・水硬性粉体
42・・・・液体
50・・・・回転工具
60・・・・注入ガン