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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158859
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】可視光応答型光触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20231024BHJP
   B01J 37/03 20060101ALI20231024BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20231024BHJP
   B01J 23/22 20060101ALI20231024BHJP
   B01J 23/68 20060101ALI20231024BHJP
   B01J 23/28 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J37/03 B
B01J37/08
B01J23/22 M
B01J23/68 M
B01J23/28 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068887
(22)【出願日】2022-04-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 〔刊行物名〕 公益社団法人応用物理学会 2022年 第69回応用物理学会春季学術講演会 25p-P01-12 予稿集 〔発行者名〕 公益社団法人応用物理学会 〔発行年月日〕 令和4年2月25日 〔刊行物等〕 〔集会名〕 公益社団法人応用物理学会 2022年 第69回応用物理学会春季学術講演会 〔主催者名〕 公益社団法人応用物理学会 〔開催日〕 令和4年3月25日 〔刊行物等〕 〔刊行物名〕 公益社団法人応用物理学会 2022年 第69回応用物理学会春季学術講演会 25p-P01-15 予稿集 〔発行者名〕 公益社団法人応用物理学会 〔発行年月日〕 令和4年2月25日 〔刊行物等〕 〔集会名〕 公益社団法人応用物理学会 2022年 第69回応用物理学会春季学術講演会 〔主催者名〕 公益社団法人応用物理学会 〔開催日〕 令和4年3月25日
(71)【出願人】
【識別番号】597065329
【氏名又は名称】学校法人 龍谷大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山本 伸一
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA21C
4G169BA48A
4G169BB01C
4G169BB04A
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC30A
4G169BC32A
4G169BC38A
4G169BC40A
4G169BC40B
4G169BC42A
4G169BC42B
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169BC44A
4G169BC44B
4G169BC49A
4G169BC53A
4G169BC54A
4G169BC54B
4G169BC57A
4G169BC59A
4G169BC61A
4G169BC65A
4G169BC69A
4G169BD01C
4G169BD02C
4G169BD04C
4G169BD06C
4G169BE19C
4G169CA05
4G169CA10
4G169CA11
4G169DA08
4G169EA01Y
4G169EB18Y
4G169EC25
4G169ED04
4G169FA01
4G169FB05
4G169FB09
4G169FB30
4G169FC02
4G169FC03
4G169FC07
4G169FC08
4G169HA01
4G169HA02
4G169HA12
4G169HB06
4G169HC01
4G169HD03
4G169HE05
4G169HE06
4G169HE07
(57)【要約】
【課題】生産性の高い可視光応答型光触媒を提供する。
【解決手段】バナジン酸と第3~11族金属との化合物を含む可視光応答型光触媒であって、前記第3~11族金属に対するビスマス原子のモル比が1/20未満である、可視光応答型光触媒。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バナジン酸と第3~11族金属との化合物を含む可視光応答型光触媒であって、
前記第3~11族金属に対するビスマス原子のモル比が1/20未満である、
可視光応答型光触媒。
【請求項2】
第3族金属がY、La、Ce、Nd、Sm、Dy、およびErからなる群から選択される、請求項1に記載の可視光応答型光触媒。
【請求項3】
第6族金属がMoである、請求項1または2に記載の可視光応答型光触媒。
【請求項4】
第11族金属がAgである、請求項1または2に記載の可視光応答型光触媒。
【請求項5】
第3~11族金属と、第3~11族金属に対するバナジウム原子のモル比が2以上となる量のバナジン酸との化合物である、請求項1に記載の可視光応答型光触媒。
【請求項6】
第3~11族金属が、Yb、Er、TmおよびHoからなる群から選択される1種以上と、それ以外の第3~11族金属との組み合わせである、
請求項1または2に記載の可視光応答型光触媒。
【請求項7】
バナジウム化合物と、第3~11族金属化合物とを反応させる工程を含む、請求項1に記載の可視光応答型光触媒の製造方法。
【請求項8】
バナジウム化合物がメタバナジン酸アンモニウムである請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
第3~11族金属化合物と、第3~11族金属に対するバナジウム原子のモル比が2以上となる量のバナジン酸とを反応させる、請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
バナジウム化合物と、第3族金属化合物との反応を水中で行う、請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項11】
反応を尿素の存在下で行う請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
反応を60~100℃で1~20時間行う、請求項10に記載の製造方法。
【請求項13】
反応を10時間以内で行う、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
バナジウム化合物と、第6族金属化合物との反応を400℃以上で10時間以下の焼成により行う、請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項15】
バナジウム化合物と、第11族金属化合物との反応を200~400℃で10~30時間の焼成により行う、請求項7または8に記載の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光応答型光触媒、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可視光応答性を示す光触媒として、バナジン酸ビスマス(BiVO)が知られている。正方晶系のバナジン酸ビスマスは、2.9eVのバンドギャップを有し、約428nm以下の波長の光を吸収する。一方、単斜晶系のバナジン酸ビスマスは2.4eVのバンドギャップを有し、約517nm以下の波長の光を吸収する。単斜晶系のバナジン酸ビスマスは正方晶系のバナジン酸ビスマスよりも高い可視光応答性を示す。
【0003】
特許文献1は、単斜晶構造のバナジン酸ビスマスの沈殿法による製造方法を開示している。しかし、十分な光触媒活性を有するバナジン酸ビスマスを得るためには、反応時間が6時間では不十分であり12時間程度必要とされている。
【0004】
特許文献2は、バナジン酸ビスマスの光触媒活性を向上するために、第2族~第15族の金属をドープしたバナジン酸塩とビスマスイオンを接触させるビスマス化工程により、金属ドープされたバナジン酸ビスマスを製造する方法を開示している。しかし、固相反応法の場合、10~20時間の反応時間が必要であり、100℃前後の沈殿法の場合、300~500時間の反応時間が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-111476号公報
【特許文献2】特開2016-064976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バナジン酸を利用した従来の可視光応答型光触媒は、その製造に長時間を要し、生産性(スループット)の改善が求められていた。本発明は、生産性の高い可視光応答型光触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、バナジン酸と第3~11族金属との化合物が、優れた可視光応答型光触媒活性を有し、かつ生産性に優れることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明(1)はバナジン酸と第3~11族金属との化合物を含む可視光応答型光触媒であって、前記第3~11族金属に対するビスマス原子のモル比が1/20未満である、可視光応答型光触媒である。
【0009】
本発明(2)は第3族金属がY、La、Ce、Nd、Sm、Dy、およびErからなる群から選択される、本発明(1)に記載の可視光応答型光触媒である。
【0010】
本発明(3)は第6族金属がMoである、本発明(1)または(2)に記載の可視光応答型光触媒である。
【0011】
本発明(4)は第11族金属がAgである、本発明(1)~(3)のいずれかに記載の可視光応答型光触媒である。
【0012】
本発明(5)は第3~11族金属と、第3~11族金属に対するバナジウム原子のモル比が2以上となる量のバナジン酸との化合物である、本発明(1)~(4)のいずれかに記載の可視光応答型光触媒である。
【0013】
本発明(6)は第3~11族金属が、Yb、Er、TmおよびHoからなる群から選択される1種以上と、それ以外の第3~11族金属との組み合わせである、本発明(1)~(5)のいずれかに記載の可視光応答型光触媒である。
【0014】
本発明(7)はバナジウム化合物と、第3~11族金属化合物とを反応させる工程を含む、本発明(1)~(6)のいずれかに記載の可視光応答型光触媒の製造方法である。
【0015】
本発明(8)はバナジウム化合物がメタバナジン酸アンモニウムである本発明(7)に記載の製造方法である。
【0016】
本発明(9)は第3~11族金属化合物と、第3~11族金属に対するバナジウム原子のモル比が2以上となる量のバナジン酸とを反応させる、本発明(7)または(8)に記載の製造方法である。
【0017】
本発明(10)はバナジウム化合物と、第3族金属化合物との反応を水中で行う、本発明(7)~(9)のいずれかに記載の製造方法である。
【0018】
本発明(11)は反応を尿素の存在下で行う本発明(10)に記載の製造方法である。
【0019】
本発明(12)は反応を60~100℃で1~20時間行う、本発明(10)または(11)に記載の製造方法である。
【0020】
本発明(13)は反応を10時間以内で行う、本発明(12)に記載の製造方法である。
【0021】
本発明(14)はバナジウム化合物と、第6族金属化合物との反応を400℃以上で10時間以下の焼成により行う、本発明(7)~(9)のいずれかに記載の製造方法である。
【0022】
本発明(15)はバナジウム化合物と、第11族金属化合物との反応を200~400℃で10~30時間の焼成により行う、本発明(7)~(9)のいずれかに記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、生産性の高い可視光応答型光触媒が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例1の可視光応答型光触媒で処理したメチレンブルー溶液の波長に対する透過率を示す。
図2】実施例2の可視光応答型光触媒で処理したメチレンブルー溶液の波長に対する透過率を示す。
図3】実施例3の可視光応答型光触媒で処理したメチレンブルー溶液の波長に対する透過率を示す。
図4】実施例4の可視光応答型光触媒で処理したメチレンブルー溶液の波長に対する透過率を示す。
図5】実施例5の可視光応答型光触媒で処理したメチレンブルー溶液の波長に対する透過率を示す。
図6】実施例6の可視光応答型光触媒で処理したメチレンブルー溶液の波長に対する透過率を示す。
図7】実施例7の可視光応答型光触媒で処理したメチレンブルー溶液の波長に対する透過率を示す。
図8】比較例1の可視光応答型光触媒で処理したメチレンブルー溶液の波長に対する透過率を示す。
図9】実施例1~7、比較例1の可視光応答型光触媒の透過率を示す。
図10】実施例8の可視光応答型光触媒で処理したメチレンブルー溶液の波長に対する透過率を示す。
図11】実施例9の可視光応答型光触媒で処理したメチレンブルー溶液の波長に対する透過率を示す。
図12】実施例9の可視光応答型光触媒のXRDチャートを示す。
図13】実施例9~10の可視光応答型光触媒で処理したメチレンブルー溶液の波長に対する透過率を示す。
図14】実施例11の可視光応答型光触媒のXRDチャートを示す。
図15】実施例11の可視光応答型光触媒のXRDチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<<可視光応答型光触媒>>
本発明の可視光応答型光触媒は、バナジン酸と第3~11族金属との化合物を含む可視光応答型光触媒であって、前記第3~11族金属に対するビスマス原子のモル比が1/20未満であることを特徴とする。
【0026】
バナジン酸と第3~11族金属との化合物の形態は特に限定されず、バナジン酸と第3~11族金属とのアモルファス金属、バナジン酸と第3~11族金属からなる塩などが挙げられる。
【0027】
可視光応答型光触媒の光触媒活性は、例えば、メチレンブルー溶液を使用した脱色試験により評価できる。0.1mMのメチレンブルー溶液と可視光応答型光触媒を混合後、可視光を1時間照射する。その後、遠心分離により可視光応答型光触媒を除去し、得られた溶液の波長662nmの光透過率を測定し、下記式により算出される回復率が、5%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。
回復率[%]=(溶液の透過率/水の透過率)×100
【0028】
バナジン酸と第3~11族金属との化合物は、下記式により表される。

上記式において、Xは第3~11族金属を表す。
xは0.5≦x≦1.5が好ましく、0.8≦x≦1.2がより好ましい。
yは0.5≦y≦1.5が好ましく、0.8≦y≦1.2がより好ましい。
zは0.5≦z≦6が好ましく、1≦z≦4.5がより好ましく、3.5≦z≦4.5がさらに好ましく、3.8≦z≦4.2がさらにより好ましい。
xとzの比は0.1428≦x/z≦1が好ましく0.1428≦x/z≦0.3333がより好ましく、0.2105≦x/z≦0.2857がさらに好ましい。
【0029】
第3~11族金属は特に限定されない。第3族金属としては、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド、アクチノイドが挙げられる。ランタノイドとしては、ランタン(La)、セリウム(Ce)プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロジウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)が挙げられる。アクチノイドとしては、アクチニウム(Ac)、トリウム(Th)、プロトアクチニウム(Pa)、ウラン(U)、ネプツニウム(Np)、プルトニウム(Pu)、アメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)、バークリウム(Bk)、カリホルニウム(Cf)、アインスタニウム(Es)、フェルミウム(Fm)、メンデレビウム(Md)、ノーベリウム(No)、ローレンシウム(Lr)が挙げられる。
【0030】
第4族金属としては、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ラザホージウム(Rf)が挙げられる。
【0031】
第5族金属としては、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、ドブニウム(Db)が挙げられる。
【0032】
第6族金属としては、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)が挙げられる。
【0033】
第7族金属としては、マンガン(Mn)、テクネチウム(Tc)、レニウム(Re)が挙げられる。
【0034】
第8族金属としては、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)が挙げられる。
【0035】
第9族金属としては、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、マイトネリウム(Mt)が挙げられる。
【0036】
第10族金属としては、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ダームスタチウム(Ds)が挙げられる。
【0037】
第11族金属としては、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、レントゲニウム(Rg)が挙げられる。
【0038】
第3~11族金属の中でも、第3族金属、第6族金属、第11族金属が好ましい。第3族金属としては、イットリウム、ランタノイドが好ましく、イットリウム、ランタン、セリウム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ジスプロジウム、エルビウムがより好ましい。第6族金属としては、モリブデンが好ましい。第11族金属としては、銀が好ましい。
【0039】
第3~11族金属は、単独で使用してもよく、2以上を併用してもよい。2以上を併用する場合の例としては、第3族金属Mと、M以外の第3~11族金属との組み合わせが挙げられる。第3族金属Mはランタノイドが好ましく、イッテルビウム、エルビウム、ツリウム、ホルミウム、セリウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、プロメチウムがより好ましく、イッテルビウム、エルビウム、ツリウム、ホルミウムがさらに好ましく、エルビウム、ツリウム、およびホルミウムから選ばれる1種以上と、イッテルビウムとの組み合わせが特に好ましい。
【0040】
以外の第3~11族金属は特に限定されず、モリブデン、ランタン、スカンジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ラザホージウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、ドブニウム、クロム、モリブデン、タングステン、シーボーギウム、マンガン、テクネチウム、レニウム、ボーリウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、ハッシウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、マイトネリウム、ニッケル、パラジウム、白金、ダームスタチウム、銅、銀、金、レントゲニウムなどが挙げられる。これらの組み合わせでは、アップコンバージョン効果をもつ第3族金属Mが赤外線や近赤外線を吸収して可視光線を発光し、その可視光線がM以外の第3~11族金属を含む酸化物に作用して、触媒活性が向上する。第3族金属MとM以外の第3~11族金属とを組み合わせる場合、両者のモル比(第3族金属M:M以外の第3~11族金属)は1:1~1:20が好ましく、1:2~1:15がより好ましい。また、第3族金属Mとしてイッテルビウムとエルビウムを組み合わせる場合、両者のモル比(イッテルビウム:エルビウム)は5:1~1:2が好ましく、2:1~1:1がより好ましい。
【0041】
本発明の可視光応答型光触媒において、第3~11族金属に対する、ビスマス原子のモル比は1/20未満であり、1/50未満が好ましく、1/100未満がより好ましく、1/1000未満がさらに好ましく、ビスマス原子を含まないことが特に好ましい。ビスマス原子のモル比が1/20を超えると、生産性が低下したり、光触媒活性が低下したりする傾向がある。
【0042】
可視光応答型光触媒の平均粒子径は100μm以下が好ましく、60μm以下がより好ましい。粒子径1μm以下の粒子を多く含むと、光触媒活性を向上できるため特に好ましい。100μmを超えると表面積が減少し、十分な光触媒活性を得られないことがある。平均粒子径はSEM画像に基づく画像解析から求めることができる。
【0043】
可視光応答型光触媒は、光触媒活性を向上するために、第3~11族金属と、第3~11族金属に対するバナジウム原子のモル比が2以上となる量のバナジン酸との化合物であることが好ましい。前記モル比は、3以上がより好ましく、4以上がさらに好ましい。
【0044】
本発明の可視光応答型光触媒は、脱臭、除菌、防汚用途に好適に使用できる。その他、可視光を利用した被浄化系に適用でき、特に被浄化水系に存在する内分泌攪乱物質であるノニルフェノール、ビスフェノールA、天然エストロゲン等の分解に好適に使用できる。
【0045】
<<可視光応答型光触媒の製造方法>>
本発明の可視光応答型光触媒の製造方法は、バナジウム化合物と、第3~11族金属化合物とを反応させる工程を含む。
【0046】
バナジウム化合物としては、取り扱いやすく、安価で毒性も低い点から、メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)が好ましい。
【0047】
第3~11族金属化合物としては、第3~11族金属の酸化物、硝酸塩、塩化物が挙げられ、酸化物、硝酸塩が好ましい。また、これらの水和物を使用することもできる。
【0048】
光触媒活性を向上するために、第3~11族金属化合物と、第3~11族金属に対するバナジウム原子のモル比が2以上となる量のバナジン酸とを反応させることが好ましい。前記モル比は、3以上がより好ましく、4以上がさらに好ましい。
【0049】
バナジウム化合物と、第3~11族金属化合物との反応は、固相反応、液相反応のいずれで行ってもよい。バナジウム化合物と、第3族金属化合物との反応は固相反応で行うことが好ましく、バナジウム化合物と、第6族金属化合物、第11族金属化合物との反応は液相反応で行うことが好ましい。
【0050】
<固相反応>
固相反応法は、異なる組成の固相同士を接触させ、原子を拡散、反応させることによってアモルファス金属を得る方法である。固相反応を行う場合には、バナジウム化合物と、第3~11族金属化合物とを混合してから、高温で固相反応を行う。混合方法は特に限定されず、乳鉢、粉砕機、ビーズミルなどで混合することができる。
【0051】
混合物の固相反応の温度は、200℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましい。上限は限定されないが、1300℃以下が好ましい。
【0052】
混合物の固相反応の時間は、温度にもよるが、0.5~24時間が好ましく、1~20時間がより好ましい。0.5時間未満では、十分に2種類の材料が混合しなくなり、20時間を超えると、徐々に揮発していく傾向がある。
【0053】
特に、バナジウム化合物と、第6族金属化合物との反応温度は、400℃以上が好ましく、500℃以上がより好ましく、600℃以上がさらに好ましい。反応時間は10時間以下が好ましく、6時間以下が好ましく、2時間以下が特に好ましい。反応時間の下限は特に限定されないが、一般的には0.5時間以上である。
【0054】
バナジウム化合物と、第11族金属化合物との反応温度は200~400℃が好ましい。反応時間は10~30時間が好ましく、15~25時間がより好ましい。
【0055】
固相反応の温度までの昇温速度は特に限定されないが、13~40℃/分が好ましく、16~27℃/分がより好ましい。昇温速度が速すぎると、固相反応の温度に到達するための時間が短く、原料の揮発が生じたり、収率が低下したりする傾向がある。
【0056】
<液相反応>
液相反応では、水中で、バナジウム化合物と、第3~11族金属化合物とを混合する。バナジウム化合物と第3~11族金属化合物との混合方法は特に限定されず、バナジウム化合物と第3~11族金属化合物が入った反応容器に水を加えてもよく、水が入った反応容器にバナジウム化合物と第3~11族金属化合物を加えてもよく、反応容器にバナジウム化合物の水溶液と第3~11族金属化合物の水溶液とを加えてもよい。
【0057】
液相反応では、反応系中に沈殿剤を存在させることが好ましい。沈殿剤としては特に限定されないが、尿素、ミョウバン、石灰乳等を挙げることができる。中でも、取扱いが容易で安価である点から、尿素が好ましい。沈殿剤の量は、第3~11族金属化合物1モルに対し、0.001~100モルが好ましい。
【0058】
ビスマス化合物と第3~11族金属化合物は、両者を含む水溶液に、必要に応じて沈殿剤を混合し、必要に応じて加熱しながら撹拌する。その後、生成した沈殿物を回収し、洗浄、乾燥する。
【0059】
反応温度は特に限定されないが、60~100℃が好ましく、80~98℃がより好ましく、90~95℃がさらに好ましい。60℃未満であると、尿素の加水分解が行われない傾向がある。また、100℃を超えると、水が蒸発するおそれがある。
【0060】
反応時間は特に限定されないが、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましい。また、20時間以下が好ましく、12時間以下がより好ましく、10時間以下がさらに好ましい。
【0061】
特に、バナジウム化合物と、第3族金属化合物との反応は、水中で行うことが好ましく、沈殿剤として尿素の存在下で行うことが好ましい。反応温度は60~100℃が好ましく、反応時間は1~20時間が好ましい。
【実施例0062】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0063】
(実施例1~7)バナジン酸と第3族金属との化合物を含む可視光応答型光触媒
ビーカーに、硝酸第3族六水和物Xの粉末とメタバナジン酸アンモニウムNHVO粉末を入れた。次に尿素を10g、超純水を150ml入れた。その後、90℃、450rpm、3時間の条件で攪拌を行い、上澄み液を除去し、5分の遠心分離後、100℃で1時間乾燥し水分を蒸発させ、ErVO(実施例1)、LaVO(実施例2)、CeVO(実施例3)、YVO(実施例4)、NdVO(実施例5)、SmVO(実施例6)、DyVO(実施例7)の粉末を取り出した。
【0064】
硝酸第3族六水和物Xの粉末:
実施例1:Er(NO・6H
実施例2:La(NO・6H
実施例3:Ce(NO・6H
実施例4:Y(NO・6H
実施例5:Nd(NO・6H
実施例6:Sm(NO・6H
実施例7:Dy(NO・6H
なお、硝酸第3族六水和物XとNHVOは、モル比で、X:NHVO=1:Y(Y=1,2,3,4,5)となるように用いた。
【0065】
(比較例1)
硝酸ビスマス五水和物(5.8g、12mmol)とメタバナジン酸アンモニウム(4.2g、36mmol)をビーカー内で混合した上、超純水(150ml)と尿素(10g)を加え、90℃、500rpmで、2時間、6時間又は12時間加熱撹拌した。上澄みを捨てて、得られた沈殿物に超純水を加え5分間以上撹拌する作業を2回以上繰り返したのち、遠心分離機(3000rpm、15分)を用いて沈殿物を回収した。100℃で2時間乾燥し、粉末化した。
【0066】
(光触媒活性の評価)
実施例、および比較例で作製した可視光応答型光触媒の粉末(0.2g)をプラスチック容器内でメチレンブルー3mL(0.5mM)と混合し、可視光を1時間照射した。照射後の上澄み溶液の透過率を分光器(大塚電子株式会社製)を用いて測定した。
【0067】
実施例1~7、比較例1の粉末の光触媒活性を図1~8に示す。実施例1~7のいずれの粉末も、光触媒活性を示した。用いた第3族金属の種類に応じて、メタバナジン酸アンモニウムNHVOとの最適なモル比がみられた。図1は、第3族金属がエルビウムErである時のメチレンブルー水溶液の透明化の、メタバナジン酸アンモニウムNHVOモル比依存性を示す。Er(NO・6HO:NHVO=1:5の時に、最も透過率が高くなった。
【0068】
同様に、他の第3族金属について、最適比率は、La(NO・6HO:NHVO=1:3、Ce(NO・6HO:NHVO=1:5、Y(NO・6HO:NHVO=1:4、Nd(NO・6HO:NHVO=1:5、Sm(NO・6HO:NHVO=1:5、Dy(NO・6HO:NHVO=1:5であった。
【0069】
図8では、透過率が4分の1の数値で示されている。比較例1の粉末は、反応時間が2時間、または6時間では光触媒作用が低い。光触媒作用を得るためには12時間の反応が必要であった。
【0070】
図9は、実施例1~7と比較例1(反応時間2時間)の粉末の光触媒活性を示す。実施例1~7では、反応時間3時間で比較例1の粉末より著しく高い光触媒効果を示した。
【0071】
(実施例8)バナジン酸と第11族金属との化合物を含む可視光応答型光触媒
酸化銀AgOとNHVOを、モル比でAgO:NHVO=1:y(y=0.5,1,2,3,4,5,6,7)、合計で3gになるように調整し、電子天秤で量り取りとった。これらの粉末を坩堝に入れ焼成(350℃で20時間)した。その後、乳鉢で攪拌して粉末を得た。
【0072】
図10に示すように、実施例8の粉末は光触媒活性を示した。AgO:NHVO=1:6のモル比のときに、最も透過率が高くなった。
【0073】
(実施例9)バナジン酸と第6族金属との化合物を含む可視光応答型光触媒(1)
酸化モリブデンMoO、酸化イッテルビウムYb、酸化エルビウムEr、およびメタバナジン酸アンモニウムNHVOを、モル比でMoO:NHVO:Yb:Er=x:y:0.3:0.2(x:y=3:1,2:1,1:1,1:2,1:3)、合計で3gになるように調整し、電子天秤で量り取りとった。これらの粉末を坩堝に入れ焼成(700℃で1時間)した。その後、乳鉢で攪拌して粉末を得た。
【0074】
図11に示すように、実施例9の粉末は光触媒活性を示した。MoO:NHVO=3:1のモル比のときに、最も透過率が高くなった。
【0075】
実施例9の粉末について、XRD測定装置(株式会社リガク製RINT2500V)でX線回折を測定した。図12に、X線回折チャートを示す。21.55°、25.35°、33.28°、51.28°近傍に回折ピークが存在することから、MoVOが形成されていることがわかる。
【0076】
(実施例10)バナジン酸と第6族金属との化合物を含む可視光応答型光触媒(2)
酸化モリブデンMoO、およびメタバナジン酸アンモニウムNHVOを、モル比でMoO:NHVO=1:1、合計で3gになるように調整し、電子天秤で量り取りとった。これらの粉末を坩堝に入れ焼成(700℃で1時間)した。その後、乳鉢で攪拌してMoVOの粉末を得た。
【0077】
この粉末と、実施例9で得られた粉末、およびBiVOの粉末の光触媒活性を、0.1mMメチレンブルー水溶液により評価した。図13に示すように、MoVOの粉末は、波長500~700nmにおいてBiVOよりも優れた光触媒活性を示した。
【0078】
また、MoO:NHVO:Yb:Er=x:y:0.3:0.2(x:y=3:1,2:1,1:1,1:2、1:3)のモル比で得られた実施例9の粉末は、MoVOの粉末と同等以上の光触媒活性を示した。
【0079】
(実施例11)バナジン酸と第6族金属との化合物を含む可視光応答型光触媒(3)
酸化モリブデンMoO、酸化イッテルビウムYb、酸化エルビウムEr、およびメタバナジン酸アンモニウムNHVOを、モル比でMoO:NHVO:Yb:Er=1:2:0.3:0.2、合計で3gになるように調整し、電子天秤で量り取りとった。これらの粉末を坩堝に入れ焼成(500~700℃で30分間~4時間)した。その後、乳鉢で攪拌して粉末を得た。
【0080】
得られた粉末について、XRD測定装置(株式会社リガク製RINT2500V)でX線回折を測定した。図14~15に、X線回折チャートを示す。なお、焼成の時間と温度は図3~4に示す。21.55°、25.35°、33.28°、51.28°近傍に回折ピークが存在することから、MoVOが形成されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、優れた光触媒活性を有し、かつ生産性に優れた、バナジン酸と第3~11族金属との化合物を含む可視光応答型光触媒が得られ、可視光下での有機物質の分解手段、例えば、内分泌攪乱物質等の環境汚染物質を分解・浄化する手段等に応用することができる。
図1
図2
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図15