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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158869
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】運行管理装置
(51)【国際特許分類】
   B61L 27/16 20220101AFI20231024BHJP
【FI】
B61L27/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068903
(22)【出願日】2022-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】國松 武俊
(72)【発明者】
【氏名】中東 太一
【テーマコード(参考)】
5H161
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161JJ23
5H161JJ27
(57)【要約】
【課題】運転士が列車を運転する区間において、計画ダイヤに基づく列車運行に乱れが生じた場合に、踏切の鳴動時間を短縮すること。
【解決手段】計画ダイヤに基づく列車運行に乱れが生じた場合に、計画ダイヤに対する運行実績時刻の遅延時分に基づいて、踏切を通過予定の抑止対象列車を含む踏切を通過予定の列車毎に、当該列車が単独で前記踏切を通過すると仮定した場合の鳴動開始予定時刻から鳴動終了予定時刻までの鳴動予定期間を予測し、抑止対象列車の鳴動予定期間を繰り下げることで、繰り下げ後の当該鳴動予定期間と他の列車の鳴動予定期間とが重複し、鳴動開始予定時刻同士或いは鳴動終了予定時刻同士で揃うこととなる抑止対象列車の所定の抑止地点での抑止時間を算出し、抑止時間の情報を含む抑止地点での抑止を抑止対象列車に通告するための所定の外部出力制御を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計画ダイヤに基づく列車運行に乱れが生じた場合に、踏切を通過予定の抑止対象列車の所定の抑止地点からの発車を抑止する運行管理装置であって、
列車運行に係る運行実績時刻を取得する運行実績取得手段と、
前記計画ダイヤに対する前記運行実績時刻の遅延時分に基づいて、前記抑止対象列車を含む前記踏切を通過予定の列車毎に、当該列車が単独で前記踏切を通過すると仮定した場合の鳴動開始予定時刻から鳴動終了予定時刻までの鳴動予定期間を予測する鳴動予定期間予測手段と、
前記抑止対象列車の前記鳴動予定期間を繰り下げることで、繰り下げ後の当該鳴動予定期間と他の列車の前記鳴動予定期間とが重複し、前記鳴動開始予定時刻同士或いは前記鳴動終了予定時刻同士で揃うこととなる前記抑止対象列車の前記抑止地点での抑止時間を算出する抑止時間算出手段と、
前記抑止時間の情報を含む前記抑止地点での抑止を前記抑止対象列車に通告するための所定の外部出力制御を行う通告用外部出力制御手段と、
を備える運行管理装置。
【請求項2】
前記運行実績取得手段は、駅に到着した列車の着時刻又は駅から発車した列車の発時刻を随時取得することで新たな前記運行実績時刻を取得し、
前記鳴動予定期間予測手段は、前記運行実績時刻の更新毎に、前記予測を行う、
請求項1に記載の運行管理装置。
【請求項3】
前記抑止対象列車と前記他の列車との前記鳴動開始予定時刻同士或いは前記鳴動終了予定時刻同士の差が所定の探索条件を満たす前記他の列車を基準列車として選定する選定手段、
を更に備え、
前記抑止時間算出手段は、前記繰り下げ後の前記抑止対象列車の前記鳴動予定期間と、前記基準列車の前記鳴動予定期間とが、前記鳴動開始予定時刻同士或いは前記鳴動終了予定時刻同士で揃うこととなる前記抑止時間を算出する、
請求項1に記載の運行管理装置。
【請求項4】
前記踏切には、通過方向別に基準鳴動時分が定められており、
前記選定手段は、前記抑止対象列車とは前記通過方向が異なる列車を前記基準列車として選択し、
前記鳴動予定期間予測手段は、前記遅延時分に基づく前記鳴動開始予定開刻に前記基準鳴動時分を加算して前記鳴動終了予定時刻を算出し、
前記抑止時間算出手段は、前記抑止対象列車の通過方向に対応する前記踏切の前記基準鳴動時分が、前記基準列車の通過方向に対応する前記基準鳴動時分より小さい場合には、前記鳴動開始予定時刻同士を揃えるように前記抑止時間を算出し、大きい場合には、前記鳴動終了予定時刻同士を揃えるように前記抑止時間を算出する、
請求項3に記載の運行管理装置。
【請求項5】
前記踏切には、通過方向別に基準鳴動時分が定められており、
前記選定手段は、前記抑止対象列車とは前記通過方向が異なる列車を前記基準列車として選択するとともに、更に、前記抑止対象列車の通過方向に対応する前記踏切の前記基準鳴動時分が、当該通過方向の対向方向に対応する前記基準鳴動時分より小さい場合には、前記鳴動開始予定時刻が、前記抑止対象列車の前記鳴動開始予定時刻以降であって最も近い列車を前記基準列車として選定し、大きい場合には、前記鳴動終了予定時刻が、前記抑止対象列車の前記鳴動終了予定時刻以降であって最も近い列車を前記基準列車として選定する、
請求項3に記載の運行管理装置。
【請求項6】
前記遅延時分が所定の長時分条件を満たす列車、又は、所定の走行方向の列車を、前記抑止対象列車として選択する手段、
を更に備える請求項1~5の何れか一項に記載の運行管理装置。
【請求項7】
前記抑止地点は、前記踏切の鳴動開始点の手前方の駅である、
請求項1~5の何れか一項に記載の運行管理装置。
【請求項8】
前記鳴動予定期間予測手段は、前記抑止対象列車が前記抑止地点である駅に到着した場合に、当該抑止対象列車が当該駅を発車する予定時刻を予測して当該抑止対象列車の前記鳴動予定期間を予測する、
請求項7に記載の運行管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運行管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
踏切を有する鉄道路線では、列車の運行密度の増加による踏切の鳴動時間(遮断時間)の長時間化が問題となっている。踏切の鳴動時間の長時間化は、複数の列車が踏切を次々と通過する場合に生じる。これは、各列車が単独で踏切を通過する際の鳴動期間が途切れることなく連なることで生じる。従って、踏切の鳴動時間の短縮には、踏切を通過する各列車による鳴動期間の重なりをできる限り長くする手法が有効である。具体的には、踏切を通過する各列車による鳴動期間の重なりを大きくするように計画ダイヤを作成する手法や、列車が踏切を通過する時刻を変更させるように駅間走行時分を変化させる手法(例えば、特許文献1)、列車運行管理システムにおける進路制御の制御論理や制御設定を工夫して駅の出発信号機を制御する手法(例えば、特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6177474号公報
【特許文献2】特許第5202369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、踏切を通過する各列車による鳴動期間の重なりを大きくするように計画ダイヤを作成できたとしても、列車運行に乱れが生じた場合(ダイヤ乱れ時)には、運行再開直後の列車間隔が詰まることから、踏切の鳴動時間が長期化する傾向は避けられない。
【0005】
また、特許文献1の手法は、列車の運転速度を抑制して駅間走行時分を緻密に変化させる手法であるため、完全自動運転の区間以外での適用は困難が予想される。仮に、運転士が列車を運転する区間に特許文献1の手法を適用する場合には、走行速度を抑制する場所や抑制する速度を運転士に通知し、運転士がその通知内容を厳格に守って運転する必要があるため、運転士に過度の負担を強いることにもなり、現実的ではないように思われる。
【0006】
また、特許文献2の手法は、列車運行管理システムにおける進路制御の制御論理や制御設定を工夫する技術であるために、少なくともPRC装置の改修が必須である。更に、特許文献2の手法は、ダイヤ乱れ時を前提としていない。また、特許文献1,2の手法は、実現するためのコストが相当に高いことが予想される。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、運転士が列車を運転する区間において、計画ダイヤに基づく列車運行に乱れが生じた場合に、踏切の鳴動時間を短縮することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための第1の発明は、
計画ダイヤに基づく列車運行に乱れが生じた場合に、踏切を通過予定の抑止対象列車の所定の抑止地点からの発車を抑止する運行管理装置であって、
列車運行に係る運行実績時刻を取得する運行実績取得手段(例えば、図5の運行実績取得部202)と、
前記計画ダイヤに対する前記運行実績時刻の遅延時分に基づいて、前記抑止対象列車を含む前記踏切を通過予定の列車毎に、当該列車が単独で前記踏切を通過すると仮定した場合の鳴動開始予定時刻から鳴動終了予定時刻までの鳴動予定期間を予測する鳴動予定期間予測手段(例えば、図5の鳴動予定期間予測部204)と、
前記抑止対象列車の前記鳴動予定期間を繰り下げることで、繰り下げ後の当該鳴動予定期間と他の列車の前記鳴動予定期間とが重複し、前記鳴動開始予定時刻同士或いは前記鳴動終了予定時刻同士で揃うこととなる前記抑止対象列車の前記抑止地点での抑止時間を算出する抑止時間算出手段(例えば、図5の抑止時間算出部210)と、
前記抑止時間の情報を含む前記抑止地点での抑止を前記抑止対象列車に通告するための所定の外部出力制御を行う通告用外部出力制御手段(例えば、図5の通告用外部出力制御部212)と、
を備える運行管理装置である。
【0009】
第1の発明によれば、運転士が列車を運転する区間において、計画ダイヤに基づく列車運行に乱れが生じた場合に、踏切の鳴動時間を短縮することができる。つまり、他の列車の鳴動予定期間と重複するように抑止対象列車の鳴動予定期間を繰り下げることで踏切の鳴動時間を短縮する。この鳴動時間の短縮を、各列車の運行実績時刻に基づいて、抑止対象列車と他の列車との鳴動開始予定時刻同士或いは鳴動終了予定時刻同士で揃うこととなる抑止対象列車の抑止地点での抑止時間を算出して、抑止対象列車に通告するのみで実現する。鳴動開始予定時刻或いは鳴動終了予定時刻同士を揃えることで、抑止対象列車と他の列車との鳴動予定期間の重複時間をより長くして、踏切の鳴動時間をより短縮することが可能となるのである。このように、既存の運行管理である運転整理そのものに影響を与えることなく、踏切の鳴動時間を短縮することができる。また、運転士にとっても負担が少なく、計画ダイヤに基づく列車運行に乱れが生じている場合(ダイヤ乱れ時)には、踏切の鳴動時間の短縮のために抑止対象列車の抑止地点からの発車を抑止しても、列車運行に与える影響は小さいと考えられる。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、
前記運行実績取得手段は、駅に到着した列車の着時刻又は駅から発車した列車の発時刻を随時取得することで新たな前記運行実績時刻を取得し、
前記鳴動予定期間予測手段は、前記運行実績時刻の更新毎に、前記予測を行う、
運行管理装置である。
【0011】
第2の発明によれば、随時、最新の運行実績時刻である列車の駅への着時刻及び発時刻を取得し、その運行実績時刻に基づいて各列車の鳴動予定期間の予測を行うことができる。これにより、計画ダイヤに基づく列車運行に乱れが生じている場合(ダイヤ乱れ時)において、随時の運行状況に応じたより適切な踏切の鳴動時間の短縮を実現することが可能となる。
【0012】
第3の発明は、第1の発明において、
前記抑止対象列車と前記他の列車との前記鳴動開始予定時刻同士或いは前記鳴動終了予定時刻同士の差が所定の探索条件を満たす前記他の列車を基準列車として選定する選定手段(例えば、図5の基準列車選定部208)、
を更に備え、
前記抑止時間算出手段は、前記繰り下げ後の前記抑止対象列車の前記鳴動予定期間と、前記基準列車の前記鳴動予定期間とが、前記鳴動開始予定時刻同士或いは前記鳴動終了予定時刻同士で揃うこととなる前記抑止時間を算出する、
運行管理装置である。
【0013】
第3の発明によれば、例えば、鳴動開始予定時刻同士或いは鳴動終了予定時刻同士の差が所定時間以内であることを探索条件とすることで、鳴動開始予定時刻或いは鳴動終了予定時刻が近い他の列車を基準列車として選定することができる。これにより、計画ダイヤに基づく列車運行に乱れが生じている場合(ダイヤ乱れ時)であったとしても、抑止対象列車の抑止時間を短くすることができ、抑止対象列車の更なる遅延を最小限に抑えることができる。
【0014】
第4の発明は、第3の発明において、
前記踏切には、通過方向別に基準鳴動時分が定められており、
前記選定手段は、前記抑止対象列車とは前記通過方向が異なる列車を前記基準列車として選択し、
前記鳴動予定期間予測手段は、前記遅延時分に基づく前記鳴動開始予定開刻に前記基準鳴動時分を加算して前記鳴動終了予定時刻を算出し、
前記抑止時間算出手段は、前記抑止対象列車の通過方向に対応する前記踏切の前記基準鳴動時分が、前記基準列車の通過方向に対応する前記基準鳴動時分より小さい場合には、前記鳴動開始予定時刻同士を揃えるように前記抑止時間を算出し、大きい場合には、前記鳴動終了予定時刻同士を揃えるように前記抑止時間を算出する、
運行管理装置である。
【0015】
第4の発明によれば、抑止対象列車とは踏切の通過方向が異なる列車、つまり、対向列車を基準列車として選定し、踏切に定められた通過方向別の基準鳴動時分の大小に応じて、抑止対象列車の抑止時間を算出することができる。これにより、抑止対象列車の抑止時間を小さくすることができる。
【0016】
第5の発明は、第3の発明において、
前記踏切には、通過方向別に基準鳴動時分が定められており、
前記選定手段は、前記抑止対象列車とは前記通過方向が異なる列車を前記基準列車として選択するとともに、更に、前記抑止対象列車の通過方向に対応する前記踏切の前記基準鳴動時分が、当該通過方向の対向方向に対応する前記基準鳴動時分より小さい場合には、前記鳴動開始予定時刻が、前記抑止対象列車の前記鳴動開始予定時刻以降であって最も近い列車を前記基準列車として選定し、大きい場合には、前記鳴動終了予定時刻が、前記抑止対象列車の前記鳴動終了予定時刻以降であって最も近い列車を前記基準列車として選定する、
運行管理装置である。
【0017】
第5の発明によれば、抑止対象列車とは踏切の通過方向が異なる列車、つまり、対向列車であって、踏切に定められた通過方向別の基準鳴動時分の大小に応じて鳴動開始予定時刻或いは鳴動終了予定時刻が最も近い列車を、基準列車として選定することができる。これにより、抑止対象列車の抑止時間を小さくすることができる。
【0018】
第6の発明は、第1~第5の何れかの発明において、
前記遅延時分が所定の長時分条件を満たす列車、又は、所定の走行方向の列車を、前記抑止対象列車として選択する手段(例えば、図5の抑止対象列車選択部206)、
を更に備える請運行管理装置である。
【0019】
第6の発明によれば、既に大幅に遅延している列車を抑止したり、朝の通勤時間帯には下り列車を抑止するといったように路線や時間帯に応じた走行方向の列車のみを抑止する、といったことが可能となる。
【0020】
第7の発明は、第1~第5の何れかの発明において、
前記抑止地点は、前記踏切の鳴動開始点の手前方の駅である、
運行管理装置である。
【0021】
第7の発明によれば、抑止対象列車が踏切に接近することによる鳴動が開始する前に、鳴動開始点外方の最寄り駅からの当該抑止対象列車の発車を抑止することができる。
【0022】
第8の発明は、第7の発明において、
前記鳴動予定期間予測手段は、前記抑止対象列車が前記抑止地点である駅に到着した場合に、当該抑止対象列車が当該駅を発車する予定時刻を予測して当該抑止対象列車の前記鳴動予定期間を予測する、
運行管理装置である。
【0023】
第8の発明によれば、抑止対象列車が抑止地点である駅に到着した場合に、当該抑止対象列車の踏切の鳴動予定期間を予測する。その予測された鳴動予定期間に基づいて抑止時間が算出されることとなるため、最適な抑止時間を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】踏切の鳴動時間の短縮の概要説明図。
図2】踏切の通過方向別の鳴動時間と抑止時間との関係図。
図3】基準列車の選定の説明図。
図4】基準列車の選定の説明図。
図5】運行管理装置の機能構成例。
図6】列車抑止処理のフローチャート。
図7】消費電力量の削減の説明図。
図8】消費電力量の削減の説明図。
図9】消費電力量の削減の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものではない。また、図面の記載において、同一要素には同一符号を付す。
【0026】
[概要]
本実施形態は、運転士が列車を運転する区間において、計画ダイヤに基づく列車運行に乱れが生じた場合(ダイヤ乱れ時)に、踏切の鳴動時間を短縮するために、当該踏切を通過予定の抑止対象列車の所定の抑止地点からの発車を抑止するものである。ダイヤ乱れ時には、既に各列車に遅延が生じている状態であるので、踏切の鳴動時間の短縮のために発車を抑止しても列車運行に与える影響は小さいと考えられる。
【0027】
[概要]
図1は、本実施形態における踏切の鳴動時間の短縮の概要を説明する図である。図1では、縦方向を線路に沿った位置、横方向を時刻として、p駅~q駅間の列車スジを太い破線で示している。上方向が上り方向、下方向が下り方向である。p駅~q駅間には踏切が設けられている。そして、列車の通過方向別に、当該踏切の手前方に鳴動開始点が定められ、当該踏切の奥方に鳴動終了点が定められている。列車が鳴動開始点に到達する時刻(鳴動開始予定時刻:黒色の丸印)から鳴動終了点に到達する時刻(鳴動終了予定時刻:黒色の三角印)までの期間が、当該列車が踏切を単独で通過した場合の鳴動予定期間(斜線ハッチングの横長の帯形状の期間)となる。
【0028】
図1の左側においては、下り列車である列車Aがp駅に停車しており、上り列車である列車Bがq駅に停車している。また、列車A,Bそれぞれの予想ダイヤに対応する列車スジを太い破線で示している。予想ダイヤとは、計画ダイヤ及び運行実績時刻から予想されるダイヤであって、現在時刻以降の列車運行を、計画ダイヤに従った走行時分で走行したとして予想されるダイヤである。ダイヤ乱れが発生している場合には、最新の運行実績時刻をもとに計画ダイヤの各列車スジを遅延させることで予想ダイヤを作成することができる。
【0029】
そして、列車A,Bがこの予想ダイヤに従って走行した場合の鳴動予定期間A,Bを、斜線ハッチングを施した横長の帯形状で示している。この場合、列車Aが列車Bより先に踏切を通過するが、列車Aが単独で踏切を通過した場合の鳴動予定期間Aと、列車Bが単独で踏切を通過した場合の鳴動予定期間Bとの一部が重複している。従って、列車Aが鳴動開始点に到達した時刻(鳴動開始予定時刻)から、列車Bの鳴動終了点に到達した時刻(鳴動終了予定時刻)までの期間が、踏切の鳴動予定期間(以下、「合計鳴動予定期間」という)となる。
【0030】
次いで、図1の右側に示すように、列車Aのp駅の発車を抑止すると、その抑止時間だけ、列車Aの鳴動予定期間Aが繰り下がる。鳴動予定期間Aが繰り下がることで、列車A,Bそれぞれの鳴動予定期間の重複期間が長くなり、その結果、踏切の合計鳴動予定期間が短くなる。このように、複数の列車がほぼ同時に踏切を通過する場合に、何れかの列車(抑止対象列車。図1の例では、列車A)の発車を抑止することで、当該踏切の合計鳴動予定期間を短くすることができる。
【0031】
抑止対象列車の発車の抑止は、他の列車(以下、「基準列車」という)と鳴動開始予定時刻又は鳴動終了予定時刻同士が揃うように行う。図1の例では、抑止対象列車である列車Aと、基準列車である列車Bとの鳴動開始予定時刻同士が揃うように、抑止対象列車である列車Aのp駅の発車を抑止している。なお、後述するように、鳴動開始予定時刻同士ではなく、鳴動終了予定時刻同士が揃うように抑止対象列車を抑止してもよい。また、鳴動開始予定時刻或いは鳴動終了予定時刻同士が“揃う”とは、時刻が完全に一致する必要はなく、時刻差が所定時分以内(例えば、15秒以内)であればよい。揃っていない場合に比べて、合計鳴動予定時間が短くなることが目的であるためである。また、本実施形態では、踏切の通過方向が抑止対象列車とは逆方向である列車、つまり、対向列車を基準列車とする。
【0032】
抑止対象列車と基準列車との鳴動開始予定時刻同士或いは鳴動終了予定時刻同士のどちらを揃えるかは、抑止対象列車の抑止時間が短くなるよう、各列車の鳴動予定期間の長さに応じて決められる。本実施形態では、説明の簡明のために、踏切の通過方向別に当該踏切の鳴動時間が定められているとする。そして、列車の走行速度を一定(例えば、線区の最高速度)として、列車が鳴動開始点に到達する時刻(鳴動開始予定時刻)に、当該列車の走行方向に対応する鳴動時間を加算した時刻を鳴動終了予定時刻として、当該踏切の鳴動予定期間が決まるとする。また、踏切に対する抑止対象列車の通過方向に対応する鳴動時間と、基準列車の通過方向に対応する鳴動時間との大小に応じて、抑止対象列車と基準列車との鳴動開始予定時刻同士或いは鳴動終了予定時刻同士のどちらを揃えるかを決める。
【0033】
図2は、踏切の通過方向別の鳴動時間と抑止時間との関係を説明する図である。図1で上り列車及び下り列車の鳴動予定期間として示した帯状の記載と同様の帯状の記載を図2に示している。図2では、下り列車が抑止対象列車(下り方向が抑止する側)であり、上り列車が基準列車(上り方向が抑止しない側)である例を示している。また、踏切の通過方向別の鳴動時間(鳴動予定期間の長さ)として、下り方向の鳴動時間S、及び、上り方向の鳴動時間Sが定められている。左側に、下り方向(抑止する側)の鳴動時間Sが上り方向(抑止しない側)の鳴動時間Sより短いケース(S≦S)を示し、右側に、下り方向(抑止する側)の鳴動時間Sが上り方向(抑止しない側)の鳴動時間Sより長いケース(S>S)を示している。そして、それぞれのケースについて、横方向を時刻として、上側に、抑止前の抑止対象列車(下り列車。抑止する側)の鳴動予定期間(鳴動時間S)と、基準列車(上り列車。抑止しない側)の鳴動予定期間(鳴動時間S)との時間関係を示し、下側に、抑止対象列車(下り列車)を抑止する場合として、鳴動開始予定時刻同士を揃える場合、及び、鳴動終了予定時刻同士を揃える場合、を示している。
【0034】
図2に示すように、抑止対象列車と基準列車との鳴動開始予定時刻同士或いは鳴動終了予定時刻同士のどちらを揃えるかによって、抑止対象列車の抑止時間(図2における太い両矢印の直線の長さ)が異なる。本実施形態では、抑止対象列車の更なる遅延を少なくするため、抑止時間が短くなる方を採用する。つまり、下り方向(抑止する側)の鳴動時間Sが上り方向(抑止しない側)の鳴動時間Sより短いケース(S≦S)では、鳴動開始予定時刻同士を揃えるように、抑止対象列車の抑止時間を決定する。また、下り方向(抑止する側)の鳴動時間Sが上り方向(抑止しない側)の鳴動時間Sより長いケース(S>S)では、鳴動終了予定時刻同士を揃えるように、抑止対象列車の抑止時間を決定する。
【0035】
図3図4は、基準列車の選定を説明する図である。本実施形態では、踏切の通過方向が抑止対象列車と逆方向である列車、つまり対向列車を基準列車として選定する。また、抑止対象列車の鳴動予定期間を基準とした所定の探索範囲内の列車を、基準列車として選定する。つまり、鳴動開始予定時刻同士或いは鳴動終了予定時刻同士の差が所定の探索条件を満たす列車を、基準列車として選定する。
【0036】
図3は、抑止対象列車の鳴動予定期間の長さ(鳴動時間S)が基準列車の鳴動予定期間の長さ(鳴動時間S)より短い場合(S≦S)である。この場合、抑止対象列車と基準列車との鳴動開始予定時刻同士を揃えるように、抑止対象列車の抑止時間を決定する。そのため、抑止対象列車の鳴動開始予定時刻以降の所定期間Lである探索範囲であって、その鳴動開始予定時刻が最も早い対向列車を、基準列車として選定する。図3の例では、下り列車である列車Aが抑止対象列車であり、列車Aの鳴動開始予定時刻から所定期間Lである探索範囲において、その鳴動開始予定時刻が最も早い上り列車である列車Bが、基準列車として選定される。
【0037】
図4は、抑止対象列車の鳴動予定期間の長さ(鳴動時間S)が基準列車の鳴動予定期間の長さ(鳴動時間S)より長い場合(S>S)である。この場合、抑止対象列車と基準列車との鳴動終了予定時刻同士を揃えるように、抑止対象列車の抑止時間を決定する。そのため、抑止対象列車の鳴動終了予定時刻以降の所定期間Lである探索範囲であって、その鳴動終了予定時刻が最も近い対向列車を、基準列車として選定する。図4の例では、上り列車である列車Bが抑止対象列車であり、列車Bの鳴動終了予定時刻から所定期間Lである探索範囲において、その鳴動終了予定時刻が最も早い下り列車である列車Aが、基準列車として選定される。
【0038】
[機能構成]
図5は、運行管理装置1の機能構成の一例である。図5によれば、運行管理装置1は、運行管理システムの一機能として実現される装置であり、操作部102と、表示部104と、音出力部106と、通信部108と、処理部200と、記憶部300とを備えて構成され、一種のコンピュータシステムとして実現される。なお、運行管理装置1は、1台のコンピュータで実現してもよいし、複数台のコンピュータを接続して構成することとしてもよい。また、運行管理装置1は、独立した単体の装置として構成することとしてもよいし、列車の運行管理システム等の全体システムに機能的に組み込んだ構成としてもよい。後者の場合には、全体システムが本実施形態の運行管理装置と言える。
【0039】
操作部102は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等の入力装置で実現され、なされた操作に応じた操作信号を処理部200に出力する。表示部104は、例えば液晶ディスプレイやタッチパネル等の表示装置で実現され、処理部200からの表示信号に基づく各種表示を行う。音出力部106は、例えばスピーカ等の音出力装置で実現され、処理部200からの音信号に基づく各種音出力を行う。通信部108は、例えば無線通信モジュールやルータ、モデム、有線用の通信ケーブルのジャックや制御回路等で実現される通信装置であり、所与の通信ネットワークに接続して外部装置とのデータ通信を行う。
【0040】
処理部200は、CPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の演算装置や演算回路で実現されるプロセッサーであり、記憶部300に記憶されたプログラムやデータ、操作部102や通信部108からの入力データ等に基づいて、運行管理装置1の全体制御を行う。
【0041】
また、処理部200は、機能的な処理ブロックとして、運行実績取得部202、鳴動予定期間予測部204、抑止対象列車選択部206、基準列車選定部208、抑止時間算出部210、及び、通告用外部出力制御部212を有する。処理部200が有するこれらの各機能部は、処理部200がプログラムを実行することでソフトウェア的に実現することも、専用の演算回路で実現することも可能である。本実施形態では、前者のソフトウェア的に実現することとして説明する。
【0042】
処理部200は、列車抑止プログラム302に従った処理を実行することで、計画ダイヤに基づく列車運行に乱れが生じた場合に、踏切を通過予定の抑止対象列車の所定の抑止地点からの発車を抑止する列車抑止処理(図6参照)の実行を制御する。
【0043】
運行実績取得部202は、駅に到着した列車の着時刻又は駅から発車した列車の発時刻を随時取得することで、列車運行に係る新たな運行実績時刻を取得する。例えば、通信部108を介して、運行管理システムを構成する他の外部装置から取得することができる。取得した運行実績時刻は、実績ダイヤデータ312として記憶される。
【0044】
鳴動予定期間予測部204は、運行実績時刻の更新毎に、計画ダイヤに対する運行実績時刻の遅延時分に基づいて、抑止対象列車を含む踏切を通過予定の列車毎に、当該列車が単独で踏切を通過すると仮定した場合の鳴動開始予定時刻から鳴動終了予定時刻までの鳴動予定期間を予測する。つまり、ダイヤ乱れが発生している場合に、最新の運行実績時刻をもとに計画ダイヤの各列車スジを遅延させることで予想ダイヤを作成するという処理を行うことに相当し、その予想ダイヤに基づいて鳴動予定期間を予測することに相当する。また、踏切には、通過方向別に基準鳴動時分が定められており、遅延時分に基づく鳴動開始予定開刻に基準鳴動時分を加算して鳴動終了予定時刻を算出する。また、抑止地点は、踏切の鳴動開始点の手前方の駅であり、抑止対象列車が抑止地点である駅に到着した場合に、当該抑止対象列車が当該駅を発車する予定時刻を予測して当該抑止対象列車の鳴動予定期間を予測する。
【0045】
鳴動開始予定時刻は、踏切の鳴動開始点への到達時刻であり、計画ダイヤに従った運行が遅延時分だけ遅れてなされるものとして算出する。計画ダイヤは、計画ダイヤデータ310として記憶されている。抑止地点である抑止駅は、抑止駅リスト322として記憶されている。踏切の鳴動開始点や基準鳴動時分は、踏切管理情報320として記憶されている。
【0046】
抑止対象列車選択部206は、遅延時分が所定の長時分条件を満たす列車、及び/又は、所定の走行方向の列車を、抑止対象列車として選択する。
【0047】
基準列車選定部208は、抑止対象列車と他の列車との鳴動開始予定時刻同士或いは鳴動終了予定時刻同士の差が所定の探索条件を満たす他の列車を基準列車として選定する。また、踏切には、通過方向別に基準鳴動時分が定められており、抑止対象列車とは通過方向が異なる列車を基準列車として選択する。また、踏切には、通過方向別に基準鳴動時分が定められており、抑止対象列車とは通過方向が異なる列車を基準列車として選択するとともに、更に、抑止対象列車の通過方向に対応する踏切の基準鳴動時分が、当該通過方向の対向方向に対応する基準鳴動時分より小さい場合には、鳴動開始予定時刻が、抑止対象列車の鳴動開始予定時刻以降であって最も近い列車を基準列車として選定し、大きい場合には、鳴動終了予定時刻が、抑止対象列車の鳴動終了予定時刻以降であって最も近い列車を基準列車として選定する。
【0048】
例えば、抑止対象列車の通過方向に対応する鳴動基準時分が基準列車の通過方向に対応する鳴動基準時分より短い場合には、鳴動開始予定時刻同士の差が所定期間L以内であることを探索条件とし、抑止対象列車の通過方向に対応する鳴動基準時分が基準列車の通過方向に対応する鳴動基準時分より長い場合には、鳴動終了予定時刻同士の差が所定期間L以内であることを探索条件とすることができる(図3図4参照)。
【0049】
抑止時間算出部210は、抑止対象列車の鳴動予定期間を繰り下げることで、繰り下げ後の当該鳴動予定期間と他の列車の鳴動予定期間とが重複し、鳴動開始予定時刻同士或いは鳴動終了予定時刻同士で揃うこととなる抑止対象列車の抑止地点での抑止時間を算出する。また、繰り下げ後の抑止対象列車の鳴動予定期間と、基準列車の鳴動予定期間とが、鳴動開始予定時刻同士或いは鳴動終了予定時刻同士で揃うこととなる抑止時間を算出する。また、抑止対象列車の通過方向に対応する踏切の基準鳴動時分が、基準列車の通過方向に対応する基準鳴動時分より小さい場合には、鳴動開始予定時刻同士を揃えるように抑止時間を算出し、大きい場合には、鳴動終了予定時刻同士を揃えるように抑止時間を算出する(図2参照)。
【0050】
通告用外部出力制御部212は、抑止時間の情報を含む抑止地点での抑止を抑止対象列車に通告するための所定の外部出力制御を行う。例えば、通信部108を介して、運行管理システムを構成する他の外部装置へ出力したり、抑止地点で停車している抑止対象列車の運転士又は車掌に向けて当該通告を出力する制御(例えば、乗務員室に設置された表示器への表示出力やスピーカからの音声出力をさせるための通信信号の出力制御)を行う。外部装置において列車運行の管理担当者が当該通告を受けた場合には、当該通告を、抑止地点で停車している抑止対象列車の運転士又は車掌に連絡することで、抑止対象列車の抑止地点での抑止時間分の抑止を実現する。連絡手段は既存の装置でよいため、連絡用の特別な装置を新たに設置する等のコストは不要である。また、当該通告の出力先が抑止対象列車である場合であっても、既存の通信装置を用いた通告で実現可能である。
【0051】
記憶部300は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のIC(Integrated Circuit)メモリやハードディスク等の記憶装置で実現され、処理部200が運行管理装置1を統合的に制御するためのプログラムやデータ等を記憶しているとともに、処理部200の作業領域として用いられ、処理部200が実行した演算結果や、操作部102や通信部108からの入力データ等が一時的に格納される。本実施形態では、記憶部300には、列車抑止プログラム302と、計画ダイヤデータ310と、実績ダイヤデータ312と、予想ダイヤデータ314と、踏切管理情報320と、抑止駅リスト322と、抑止実施情報330とが記憶される。
【0052】
予想ダイヤデータ314は、計画ダイヤに基づき、実績ダイヤから予想される予想ダイヤのデータである。
【0053】
踏切管理情報320は、踏切に関する情報であり、各踏切について、踏切IDと、通過方向別の鳴動開始点及び鳴動終了点の位置と、通過方向別の鳴動基準時分とを対応付けて格納している。
【0054】
抑止駅リスト322は、方向別に定めた抑止対象列車の発車を抑止する駅のリスト(一覧)である。
【0055】
抑止実施情報330は、通告した抑止に関する情報であり、各通告について、抑止対象列車と、抑止駅と、抑止時間と、基準列車とを対応付けて格納している。
【0056】
[処理の流れ]
図6は、運行管理装置1が実行する列車抑止処理の流れを説明するフローチャートである。
【0057】
先ず、抑止対象列車選択部206が、抑止対象列車を選択する(ステップS1)。例えば、遅延時分が最大である列車や、走行方向が所定方向である列車を、抑止対象列車として選択することができる。
【0058】
次いで、任意の列車が駅に到着又は駅から発車したならば(ステップS3:YES)、運行実績取得部202が、その駅に到着した全ての列車の着時刻、又は、駅から発車した全ての列車の発時刻を、運行実績時刻として取得する(ステップS5)。続いて、鳴動予定期間予測部204が、取得した運行実績時刻の計画ダイヤに対する遅延時分を算出し、その遅延時分に基づいて、各列車の鳴動予定期間を予測する(ステップS7)。つまり、鳴動開始点の到達時刻を鳴動開始予定時刻とし、この鳴動開始予定時刻に踏切の通過方向に対応する鳴動時間を加算した時刻を鳴動終了予定時刻として、鳴動開始予定時刻から鳴動終了予定時刻までの期間を鳴動予定期間とする。
【0059】
また、抑止対象列車が抑止駅に到着したならば(ステップS9)、基準列車選定部208が、基準列車を選定する(ステップS11)。つまり、抑止対象列車の通過方向に対応する踏切の基準鳴動時分が基準列車の通過方向に対応する基準鳴動時分短い場合には、抑止対象列車の鳴動開始予定時刻以降の所定期間Lである探索範囲であって、その鳴動開始予定時刻が最も早い対向列車を基準列車として選定する。抑止対象列車の通過方向に対応する踏切の基準鳴動時分が、基準列車の通過方向に対応する基準鳴動時分より長い場合には、抑止対象列車の鳴動終了予定時刻以降の所定期間Lである探索範囲であって、その鳴動終了予定時刻が最も近い対向列車を基準列車として選定する。
【0060】
次いで、抑止時間算出部210が、抑止対象列車の抑止駅の抑止時間を算出する(ステップS13)。つまり、抑止対象列車の通過方向に対応する踏切の基準鳴動時分が、基準列車の通過方向に対応する基準鳴動時分より小さい場合には、鳴動開始予定時刻同士を揃えるように抑止時間を算出し、大きい場合には、鳴動終了予定時刻同士を揃えるように抑止時間を算出する。その後、通告用外部出力制御部212が、算出した抑止時間を外部出力する(ステップS15)。以上の処理を行うと、列車抑止処理は終了となる。
【0061】
[作用効果]
このように、本実施形態によれば、運転士が列車を運転する区間において、計画ダイヤに基づく列車運行に乱れが生じた場合に、踏切の鳴動時間を短縮することができる。つまり、他の列車の鳴動予定期間と重複するように抑止対象列車の鳴動予定期間を繰り下げることで踏切の鳴動時間を短縮する。この鳴動時間の短縮を、各列車の運行実績時刻に基づいて、抑止対象列車と他の列車との鳴動開始予定時刻同士或いは鳴動終了予定時刻同士で揃うこととなる抑止対象列車の抑止地点での抑止時間を算出して、抑止対象列車に通告するのみで実現する。鳴動開始予定時刻或いは終了予定時刻同士を揃えることで、抑止対象列車と他の列車との鳴動予定期間の重複時間をより長くして、踏切の鳴動時間をより短縮することが可能となるのである。このように、既存の運行管理である運転整理そのものに影響を与えることなく、踏切の鳴動時間を短縮することができる。また、運転士にとっても負担が少なく、計画ダイヤに基づく列車運行に乱れが生じている場合(ダイヤ乱れ時)には、踏切の鳴動時間の短縮のために抑止対象列車の抑止地点からの発車を抑止しても、列車運行に与える影響は小さいと考えられる。
【0062】
[変形例]
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0063】
(A)消費電力量の削減を目的とした抑止
計画ダイヤに基づく列車運行に乱れが生じた場合(ダイヤ乱れ時)には、計画ダイヤに従った列車運行時(平常時)に比較して消費電力量が増加し易い。ブレーキによる回生電力を発生する列車の近傍に、力行による電力を必要とする(消費する)列車が存在しなければ回生失効となる。計画ダイヤを作成する際には列車の走行位置に基づいて回生失効が生じない或いは生じにくいダイヤとすることができるが、ダイヤ乱れ時には列車の走行位置が状況に応じて随時に変化するため、回生失効が生じ易い。そのため、線区全体としての消費電力量が増加し易い。
【0064】
上述の実施形態における列車の抑止を、ダイヤ乱れ時の消費電力量の削減を目的とした運行管理に適用することもできる。具体的には、抑止対象列車の力行と他の列車(基準列車)のブレーキ(制動)との開始予定時刻同士或いは終了予定時刻同士を揃えるように、当該抑止対象列車の抑止地点での発車を抑止する。開始予定時刻同士或いは終了予定時刻同士のどちらを揃えるかは、上述の実施形態と同様に、力行時間とブレーキ時間との大小に応じて、抑止時間が短くなるほうとする。
【0065】
図7図9は、消費電力量の削減を目的とした抑止対象列車の抑止の概要を説明するための図である。図7図9の各図では、左側に、線路方向を上下方向とする複線の線路及び3台の列車A,B,Cの模式図を示し、右側に、左側の線路の模式図と対応するように、横軸を時刻(或いは走行位置)、縦軸を走行速度とした3台の列車A,B,Cそれぞれの運転曲線の一例を示している。駅間の列車の運転曲線の形状は予め定められているものとする。図7に示すように、現在時刻tにおいて、列車Aは、上り列車でありP駅に停車中である。列車Bは、上り列車でありP駅~Q駅間を走行中である。列車Cは、下り列車でありR駅~Q駅間を走行中である。
【0066】
このとき、図8に示すように、抑止駅である駅Pに停車中の列車Aが抑止対象列車として選択される。回生融通によって消費電力量の削減を図るため、抑止対象列車(列車A)の在線位置を基準として回生融通が可能な所定の探索範囲内に在線している列車であって、ブレーキの開始予定時刻が最も早い他の列車を、基準列車として選定する。この場合、列車Bが基準列車として選定される。そして、抑止対象列車である列車Aの力行開始タイミング(P駅の発車タイミング)を、基準列車である列車BがQ駅に停車するためのブレーキの開始予定時刻tと揃えるように、列車AのP駅の発車が抑止される。
【0067】
続いて、図9に示すように、列車Aの抑止が実施された後の時刻tにおいて、抑止駅である駅Qに到着した列車Cが抑止対象列車として選択される。同様に、回生融通によって消費電力量の削減を図るため、抑止対象列車(列車C)の在線位置を基準として回生融通が可能な所定の探索範囲内に在線している列車であって、ブレーキの開始予定時刻が最も早い他の列車を、基準列車として選定する。この場合、列車Aが基準列車として選定される。そして、抑止対象列車である列車Cの力行開始タイミング(R駅の発車タイミング)を、基準列車である列車AがQ駅に停車するためのブレーキの開始予定時刻tと揃えるように、列車CのR駅の発車が抑止される。
【0068】
このように、上述の実施形態における列車の抑止を、ダイヤ乱れ時の消費電力量の削減を目的とした運行管理に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0069】
1…運行管理装置
200…処理部
202…運行実績取得部
204…鳴動予定期間予測部
206…抑止対象列車選択部
208…基準列車選定部
210…抑止時間算出部
212…通告用外部出力制御部
300…記憶部
302…列車抑止プログラム
310…計画ダイヤデータ
312…実績ダイヤデータ
314…予想ダイヤデータ
320…踏切管理情報
322…抑止駅リスト
330…抑止実施情報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9