IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

特開2023-158888キャスト編成装置、キャスト編成方法及びプログラム
<>
  • 特開-キャスト編成装置、キャスト編成方法及びプログラム 図1
  • 特開-キャスト編成装置、キャスト編成方法及びプログラム 図2
  • 特開-キャスト編成装置、キャスト編成方法及びプログラム 図3
  • 特開-キャスト編成装置、キャスト編成方法及びプログラム 図4
  • 特開-キャスト編成装置、キャスト編成方法及びプログラム 図5
  • 特開-キャスト編成装置、キャスト編成方法及びプログラム 図6
  • 特開-キャスト編成装置、キャスト編成方法及びプログラム 図7
  • 特開-キャスト編成装置、キャスト編成方法及びプログラム 図8
  • 特開-キャスト編成装置、キャスト編成方法及びプログラム 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158888
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】キャスト編成装置、キャスト編成方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/16 20060101AFI20231024BHJP
   G05B 19/418 20060101ALI20231024BHJP
   B22D 46/00 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
B22D11/16 Z
G05B19/418 Z
B22D46/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068925
(22)【出願日】2022-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山本 政
(72)【発明者】
【氏名】里見 佑太
【テーマコード(参考)】
3C100
4E004
【Fターム(参考)】
3C100AA01
3C100AA16
3C100BB13
3C100CC02
3C100EE10
4E004MC30
(57)【要約】
【課題】複数の鋼種からなる中間製品のキャスト編成を、効率よく行う技術を提供する。
【解決手段】キャスト編成装置(1)は、スラブ、ブルームまたはビレットのいずれかの中間製品の製造順を決定するキャスト編成装置であって、複数のストランドを用いた連続鋳造で製造する中間製品の複数の鋼種間の並び順に関する情報を入力するデータ入力部(110)と、情報に基づいて、中間キャスト編成案を生成する粗キャスト編成部(120)と、を備え、粗キャスト編成部(120)は、並び順が連続する複数の鋼種に含まれる中間製品について、複数のストランドの各々に分配する中間製品を特定する情報と、各ストランドで製造する当該中間製品の複数の製造順と、を生成する生成部(121)、及び生成された製造順の各々について、製造効率に関する評価値を導出する評価部(122)、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラブ、ブルームまたはビレットのいずれかの中間製品の製造順を決定するキャスト編成装置であって、
複数のストランドを用いた連続鋳造で製造する前記中間製品の複数の鋼種間の並び順に関する情報を入力するデータ入力部と、
前記情報に基づいて、中間キャスト編成案を生成する粗キャスト編成部と、を備え、
前記粗キャスト編成部は、
前記並び順が連続する複数の鋼種に含まれる前記中間製品について、前記複数のストランドの各々に分配する前記中間製品を特定する情報と、各ストランドで製造する当該中間製品の複数の製造順と、を生成する生成部、及び
生成された前記製造順の各々について、製造効率に関する評価値を導出する評価部、を含む、
キャスト編成装置。
【請求項2】
前記データ入力部は、さらに、前記中間製品の巾に関する情報を入力し、
前記生成部は、前記ストランド毎の製造順を、前記中間製品の巾に関する情報を参照して生成する、請求項1に記載のキャスト編成装置。
【請求項3】
前記生成部は、1番目に製造する鋼種に含まれる前記中間製品と2番目に製造する鋼種に含まれる前記中間製品とについて、複数のストランドの各々に分配する前記中間製品を特定する情報と、各ストランドで製造する前記中間製品の製造パターンと、を生成し、n(nは3以上の整数)番目以降に製造する鋼種に含まれる前記中間製品については、(n-1)番目の鋼種の製造パターン毎に、最も前記評価値が高い1から(n-1)番目までの鋼種の製造順と、当該n番目の鋼種に含まれる前記中間製品の製造パターンと、を繋げた新たな製造パターンの組み合わせを生成し、
前記評価部は、当該新たな製造パターンの組み合わせの各々について、前記評価値を導出する、
請求項1又は2に記載のキャスト編成装置。
【請求項4】
スラブ、ブルームまたはビレットのいずれかの中間製品の製造順を決定するキャスト編成方法であって、
複数のストランドを用いた連続鋳造で製造する前記中間製品の複数の鋼種間の並び順に関する情報を入力するステップと、
前記並び順が連続する複数の鋼種に含まれる前記中間製品について、前記複数のストランドの各々に分配する前記中間製品を特定する情報と、各ストランドで製造する当該中間製品の複数の製造順と、を生成するステップと、
生成された前記製造順の各々について、製造効率に関する評価値を導出するステップと、
を含むキャスト編成方法。
【請求項5】
スラブ、ブルームまたはビレットのいずれかの中間製品の製造順を決定するキャスト編成プログラムであって、
コンピュータに、
複数のストランドを用いた連続鋳造で製造する前記中間製品の複数の鋼種間の並び順に関する情報を入力する処理と、
前記並び順が連続する複数の鋼種に含まれる前記中間製品について、前記複数のストランドの各々に分配する前記中間製品を特定する情報と、各ストランドで製造する当該中間製品の複数の製造順と、を生成する処理と、
生成された前記製造順の各々について、製造効率に関する評価値を導出する処理と、
を実行させるキャスト編成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャスト編成装置、キャスト編成方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼の製造工程では、高炉で製造された銑鉄を転炉に輸送し、転炉で鍋(チャージ)単位に成分調整がなされた後、タンディッシュに流し込まれた溶鋼を連続的に鋳造および切断し、スラブ、ブルーム、またはビレットなどと称される中間製品を製造する。この時、上記の連続的に鋳造、切断を行う工程を連続鋳造工程と称し、連続鋳造工程において連続的な溶鋼の鋳造を中断することなく、中間製品を連続的に製造する単位(製造ロット)をキャストと称している。また、各製造ロット内における中間製品の鋳造順序(製造スケジュール)を、中間製品のサイズ、品質および納期などに基づいて決定することをキャスト編成と称している。連続鋳造工程によって製造された中間製品は、次工程である熱間圧延工程に運ばれ、加熱炉にて圧延可能な温度まで加熱された後、薄板、厚板、または形鋼などに圧延される。
【0003】
例えば、特許文献1には、キャスト編成対象のオーダーに対応して製造されるスラブとなる予定の仮スラブの情報と仮スラブと同一のチャージで吹錬可能な鋼種に関する情報とを読み込み、仮スラブの鋼種毎に、仮スラブと同一のチャージで吹錬可能な鋼種の量を加味して出鋼要求日が鋳造予定日から要求日範囲内にある仮スラブの量を集計した鋼種別優先度評価表を作成し、鋼種別優先度評価表に基づいて、製造の優先度が最も高い鋼種を選択し、選択された鋼種について、制約条件を充足するキャストを作成するキャスト編成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-140420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、あくまで1つの鋼種のキャスト編成を行うものであり、複数の鋼種を一括してキャスト編成を行うものではない。
【0006】
本発明の一態様は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、複数の鋼種からなる中間製品のキャスト編成を、効率よく行う技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るキャスト編成装置は、スラブ、ブルームまたはビレットのいずれかの中間製品の製造順を決定するキャスト編成装置であって、複数のストランドを用いた連続鋳造で製造する前記中間製品の複数の鋼種間の並び順に関する情報を入力するデータ入力部と、前記情報に基づいて、中間キャスト編成案を生成する粗キャスト編成部と、を備え、前記粗キャスト編成部は、前記並び順が連続する複数の鋼種に含まれる前記中間製品について、前記複数のストランドの各々に分配する前記中間製品を特定する情報と、各ストランドで製造する当該中間製品の複数の製造順と、を生成する生成部、及び生成された前記製造順の各々について、製造効率に関する評価値を導出する評価部、を含む。
【0008】
本発明の一態様に係るキャスト編成方法は、スラブ、ブルームまたはビレットのいずれかの中間製品の製造順を決定するキャスト編成方法であって、複数のストランドを用いた連続鋳造で製造する前記中間製品の複数の鋼種間の並び順に関する情報を入力するステップと、前記並び順が連続する複数の鋼種に含まれる前記中間製品について、前記複数のストランドの各々に分配する前記中間製品を特定する情報と、各ストランドで製造する当該中間製品の複数の製造順と、を生成するステップと、生成された前記製造順の各々について、製造効率に関する評価値を導出するステップと、を含む。
【0009】
本発明の各態様に係るキャスト編成装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記キャスト編成装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記キャスト編成装置をコンピュータにて実現させるキャスト編成装置のキャスト編成プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、複数の鋼種からなる中間製品のキャスト編成を、効率よく行う技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係るキャスト編成装置を含む製造スケジュール決定装置の概略的な構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係るキャスト編成装置の構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係る生成部が製造順の組み合わせを生成する方法を示す概念図である。
図4】1つの鋼種に含まれるスラブを2つのストランドに分配する方法の一例を示す概念図である。
図5】2つのストランドに分配されたスラブを、巾順の昇順と降順に配列する組み合わせを示す図である。
図6】2つのストランドに分配する方法と、巾順の昇順と降順を組み合わせる配列方法とを組み合わせたスラブの製造順のパターンを示す図である。
図7】実施形態に係る生成部と評価部が実行する処理を模式的に示す図である。
図8】実施形態に係るキャスト編成方法の流れを示すフローチャートである。
図9】実施形態に係るより一般的なキャスト編成方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。本実施形態は、鉄鋼の製造工程、特にスラブ、ブルーム、又はビレットを含む中間製品の製造工程において用いられるキャスト編成装置及びキャスト編成方法に関する。
【0013】
本実施形態において、キャストとは、中間製品を連続的に製造(鋳造)する単位であり、この単位を1製造ロットに対応させている。つまり、1キャストからは、1回の連続操業で製造される複数の中間製品からなる中間製品群が製造される。通常、各中間製品は、顧客からの要求に沿って、それぞれ異なる成分組成と大きさを有している。それを、成分組成が所定の許容範囲ごとにまとめたものを「材質」又は「鋼種」とも称する。つまり、任意の鋼種に属する複数の中間製品は、その少なくとも1つにおいて、他の成分組成と異なる場合がある。1つの鋼種のグループに含まれる中間製品は、その鋼種の許容範囲内に成分調整がなされた1つ又は複数のチャージから製造される。
【0014】
本実施形態において、キャスト編成とは、各キャスト(製造ロット)に含まれる、複数の鋼種からなり様々な大きさを有する中間製品群の製造順を、中間製品のサイズ、鋼種および納期などに基づいて決定することを指す。
【0015】
本実施形態において、スラブとは、鉄鋼を鋳造する際の中間製品として製造されるものであり、溶鋼が、その断面の形状が矩形の長尺体に鋳造されて切断されたものをいう。スラブは、次の工程で圧延され、コイル状に巻き取られた後、さらに別の工程で処理されて各種製品となる。
【0016】
スラブの大きさとは、本実施形態ではスラブを平面視した場合の短片と長辺の長さをいうが、特に重要となるのは短辺の長さである。短辺の長さとは、鋳造されたスラブがストランドを搬送される方向に直交する方向の長さであり、以下、この長さを巾と称する。なお、長辺はスラブの長さに相当する。
【0017】
なお、ブルームとは、スラブよりも小型で、断面の巾と厚さの比率が1に近い(正方形に近い)ものを指す。また、ビレットとは、断面が矩形であり、大きさがブルームよりもさらに小さいものを指す。ブルーム及びビレットの巾は、スラブと同様に定義される。
【0018】
また、ストランドとは、鋳造ラインであり、タンディッシュから溶鋼が流し込まれる鋳型と、鋳型から引き出された鋳片を搬送しながら成型する一連の成型ロールとを含む。
【0019】
多数の顧客から要求される中間製品の鋼種と大きさの組み合わせは非常に数が多い。さらに、鋳造ラインの運転上の制約もあるため、多種の中間製品の効率的な製品配列を決定することは容易ではない。すべての組み合わせを評価することは時間的に困難であるため、効率の良さそうな製造順の組み合わせを選んで評価することが求められる。本実施形態に係るキャスト編成装置及びキャスト編成方法は、スラブ、ブルームまたはビレットのいずれかの中間製品の製造順を、できるだけ製造効率が良くなるように決定するための装置と方法である。
【0020】
(製造スケジュール決定装置)
以下に、本実施形態に係るキャスト編成装置1について説明するが、まず、キャスト編成装置1の位置付けについて説明する。以下では、中間製品がスラブの場合を例にとって説明する。図1は、本実施形態に係るキャスト編成装置1を含む製造スケジュール決定装置100の概略的な構成を示す構成図である。製造スケジュール決定装置100の各部は、例えば、専用のコンピュータシステムにおいて実装されてもよいし、パーソナルコンピュータなどの汎用のコンピュータシステムにおいてアプリケーションソフトウェアとして実装されてもよい。あるいは、製造スケジュール決定装置100の各構成要素は、LAN(Local Area Network)やインターネットなどのネットワークを介して接続された複数のコンピュータに分散して実装されてもよい。また、製造スケジュール決定装置100の各構成要素は、一部又は全部がクラウド上に配置され、互いに情報通信可能に接続されていてもよい。
【0021】
製造スケジュール決定装置100は、キャスト編成装置1および制約違反解消部130を含む。キャスト編成装置1は、データ入力部110および粗キャスト編成部120を含む。以上のように、キャスト編成装置1は、製造スケジュール決定装置100の一部を構成する装置である。なお、製造スケジュール決定装置100は、一次製品(中間製品)を製造する第1の工程と、一次製品から二次製品を製造する第2の工程とを含む、鉄鋼製品を製造する工程において、第1の工程での一次製品の製造スケジュールを決定する装置である。図1に示す実施形態の製造スケジュール決定装置100の各部の機能は、プログラムに従って動作する1又は複数のプロセッサ、および当該プロセッサにデータを入出力するためのインターフェースによって実現される。
【0022】
製造スケジュール決定装置100が処理に用いるスラブ情報ファイル101、同鋼種キャスト情報ファイル102、およびコイル情報ファイル103は、オペレータによる操作や、定時での自動取り込み指示などによって読み込まれる。製造スケジュール決定装置100は、これらのファイルに記録された情報に基づいて実行した処理の結果を、キャスト編成結果ファイル104に記録する。また、製造スケジュール決定装置100は、粗キャスト編成部120および制約違反解消部130で実行する処理において編成条件ファイル105を読み込む。
【0023】
これらのファイルは、例えばコンピュータに内蔵されたメモリ、またはコンピュータに接続可能なリムーバブル記録媒体に記録される。また、上記のファイルのうちのいずれか、または全部が、製造スケジュール決定装置100とは異なる情報処理装置において記憶されていてもよい。その場合、これらのファイルの内容は、LANやインターネットなどの電気通信回線を用いた通信を介して製造スケジュール決定装置100に読み込まれたり、製造スケジュール決定装置100によって書き込まれたりしてもよい。
【0024】
スラブ情報ファイル101は、製造しようとする各スラブについての少なくともスラブ巾を含む情報を格納するためのファイルである。具体的には、スラブ情報ファイル101には、1つのスラブ毎に、一例として、スラブID(スラブを特定する情報)、スラブ巾、スラブ長さ、スラブ重量、材質等の製造仕様と、工程の通過希望日時、通過期限日時等の工程情報とが含まれている。スラブ巾は、顧客から指定された巾と、スラブを製造する段階で許容される範囲の巾と、が含まれている。後者の巾の範囲をスラブ製造時の目標としてもよい。スラブの巾は、スラブを製造した後の圧延工程等で、顧客が指定した巾の範囲内に調整することが可能だからである。
【0025】
同鋼種キャスト情報ファイル102は、キャストに含まれる同鋼種ごとのチャージに関する情報を格納するためのファイルである。具体的には、同鋼種キャスト情報ファイル102には、1つの同鋼種キャスト毎に、一例として、同鋼種キャストID、チャージ数、重量下限、重量上限、材質、製造順等が含まれている。これらのうち、予め定められた製造順に関する情報は必須である。コイル情報ファイル103は、圧延されるコイルの予定情報を格納するためのファイルである。具体的には、コイル情報ファイル103には、1つのコイル毎に、一例として、スラブID、コイル巾、コイル長さ、コイル厚み、加熱炉温度等が含まれている。
【0026】
(制約条件)
編成条件ファイル105には、一例として、連続鋳造工程におけるスラブの製造スケジュールに関する制約条件、および熱間圧延工程におけるコイルの製造スケジュールに関する制約条件等が含まれている。スラブの製造スケジュールに関する制約条件には、巾移行条件と部位配置条件とが含まれる。
【0027】
本実施形態において、巾移行とは、製造するスラブの巾を変化させることである。また一例として、巾移行条件は2つあり、第1の巾移行条件は、製造順が隣接するスラブの巾の変化量が所定の閾値よりも小さいことである。ストランドの設備的な制約から、連続鋳造工程において、スラブの巾を所定の巾より大きく変化させることは難しいためである。
【0028】
また、第2の巾移行条件は、巾の移行方向の変化回数が少ないことである。ストランドの設備的な制約などから、巾の移行方向はできるだけ1方向であることが好ましいためである。つまり、巾を大きくする操作をした場合は、次の操作も巾を大きくすることが好ましい。同様に、巾を小さくする操作をした場合は、次の操作も巾を小さくすることが好ましい。その理由は、例えば巾の移行方向を変える操作には手間がかかるためである。
【0029】
本実施形態において、部位配置条件とは、一例として、各ストランドにおける所定の製造順序位置では、スラブの組成の許容範囲が、相対的に又は所定の範囲よりも大きいスラブを配置する必要があるということである。例えば、キャストの先頭と末尾と、チャージ(取鍋)又は鋼種が変わる前後とでは、組成の許容範囲が広いスラブを配置することが求められる。このような位置では、異なる組成の溶鋼が混じりやすいため、スラブの組成が設定した値からぶれやすいためである。組成の許容範囲が十分に広ければ、組成の設定値からのぶれが生じたとしても、許容範囲に入り得る。
【0030】
(キャスト編成装置)
以上を前提として、本実施形態に係るキャスト編成装置1について、図面を参照して説明する。図2は、本実施形態に係るキャスト編成装置1の構成を示すブロック図である。図示するように、キャスト編成装置1は、データ入力部110および粗キャスト編成部120を備えている。粗キャスト編成部120は、生成部121と評価部122を備えている。粗キャスト編成部120は、キャストの中間キャスト編成案(1次解)を生成する装置である。前述のように、粗キャスト編成部120が生成した中間キャスト編成案は、制約違反解消部130によって制約条件違反を解消したキャストに修正される。つまり、粗キャスト編成部120は、データ入力部から入力された情報に基づいて、制約条件違反を許容した中間キャスト編成案を生成する。
【0031】
データ入力部110は、複数のストランドを用いた連続鋳造で製造する中間製品(スラブ)の複数の鋼種間の並び順に関する情報を粗キャスト編成部120に入力する。複数の鋼種間の並び順に関する情報は、複数の中間製品の製造順に対応する中間製品の鋼種の並び順に関する情報と言い換えることができる。前述のように、スラブの鋼種が大きく変化しないような順に鋳造することが好ましいため、鋼種間の並び順が予め決められている。鋼種間の並び順に関する情報は、データ入力部110が同鋼種キャスト情報ファイル102から読み出し、粗キャスト編成部120に入力する。なお、データ入力部110が入力するデータは、キャスト編成装置1が備える図示しない図示しないメモリに記録されてもよい。
【0032】
また、前述のように、スラブの巾も大きく変化しないような順に製造することが好ましい。そのため、データ入力部110は、スラブの巾に関する情報を入力する。スラブの巾に関する情報とは、スラブの製造仕様に関する情報であり、具体的には、スラブ巾、スラブ長さ、スラブ重量、材質等の製造仕様などである。スラブの巾に関する情報は、データ入力部110がスラブ情報ファイル101から読み出し、粗キャスト編成部120に入力する。なお、データ入力部110が、鋼種内のスラブの暫定的な製造順を粗キャスト編成部120に入力してもよい。
【0033】
(生成部)
粗キャスト編成部120の生成部121は、並び順が連続する複数の鋼種に含まれるスラブ(中間製品)について、複数のストランドの各々に分配するスラブを特定する情報と、各ストランドで製造する当該スラブの複数の製造順と、を生成する。つまり、生成部121は、キャストに属する全てのスラブについて、複数のストランドのうちのどれを使って製造するかの分配を決定する。即ち、生成部121は、複数のストランドの各々に分配するスラブを特定する情報を生成する。次に、生成部121は、各ストランドにおける製造予定のスラブの製造順を評価の候補として複数通り生成する。ここでは、上述した制約条件を考慮せずに組合せを生成する。そして、次に説明する評価部122において評価値を導出し、その評価値に基づいて1つを選択する。
【0034】
多くの場合、1つのタンディッシュから2つのストランドが分岐して設けられている。そのため、以下では、ストランドが2つの場合を例にとって説明する。しかし、ストランドの数は2に限定されず、複数であればよい。例えば、1つのタンディッシュから3以上のストランドが設けられていてもよく、また複数のタンディッシュを設けて3以上のストランドを構成してもよい。3以上のストランドを用いる例については後述する。
【0035】
(評価部)
粗キャスト編成部120の評価部122は、生成された製造順の各々について、製造効率に関する評価値を導出する。具体的には、評価部122は、編成条件ファイル105から取得したスラブの製造スケジュールに関する制約条件を参照して、製造順の各々について、制約条件に抵触する箇所が少ないほど高い評価値を導出する。制約条件に抵触する箇所(制約条件を満足しない箇所)が少ないほど、キャストに含まれるスラブ全体の製造効率が高いと評価されるためである。
【0036】
評価値は、一例として、制約条件に抵触する箇所にコストを与えることにより導出される。例えば、評価部122は、製造するスラブをノードとし、製造順にノードとノードを繋ぐルートをエッジとして、製造順の各々について、エッジのコストを評価する。具体的には、最初に製造するスラブから2番目に製造するスラブの巾の大きさの変化量から、巾移行条件に抵触するか否かのコスト評価を行う。最初のスラブと2番目のスラブの巾の差が、巾移行条件に抵触する場合は、そのエッジに大きなコストを与え、巾移行条件に抵触しない場合は、そのエッジに小さいコストを与える。以下、n番目のスラブと(n+1)番目のスラブとの巾の差についても同様に評価する(ただし、nは2以上の整数)。
【0037】
なお、巾の差はプラスとマイナスがあり、プラスの場合は巾が増加していることを示し、マイナスの場合は巾が減少していることを示す。巾の変化方向が一定であるかどうかもコスト評価の対象となる。つまり、プラスからマイナスに変わるエッジ、又はマイナスからプラスに変わるエッジは、コストは大きく評価される。なお、コストは、巾移行条件に抵触する箇所の数だけでなく、抵触する程度(重み)を考慮して評価されてもよい。
【0038】
また、チャージが変わる箇所、鋼種が変わるエッジでは、スラブの組成が変わりやすいため、大きなコストが付与される。また、どの程度組成が変化する可能性があるかにより、コストが変化してもよい。基本的には、組成の変化が少ないほどコストが小さい。また、許容巾の小さい特定の成分を含む場合は相対的に大きなコストを与えてもよい。
【0039】
このようにして、すべての製造順について、コストを導出して評価値に換算する。コストは小さいほうが評価値は大きくなる。なお、評価値の導出方法は、制約条件に抵触する度合いを評価できる方法であれば、上記の方法に限られない。他の方法の一例として、模擬アニーリング法を用いて評価してもよい。模擬アニーリング法は、1つの製造順に含まれるスラブを変数とし、巾移行条件、部位配置条件などの制約条件をその変数を用いて表現し、重み付きの制約条件の合計値(評価値)が最も小さくなる変数の組み合わせを求める方法である。
【0040】
以上のように、評価部122は、生成部121が生成した製造順の各々に対して、製造効率に関する評価値を導出する。
【0041】
次に、生成部121がスラブの製造順を生成する方法について説明する。本実施形態では、データ入力部110は、さらにスラブの巾に関する情報を粗キャスト編成部120に入力し、生成部121は、ストランド毎の製造順を、当該スラブの巾に関する情報を参照して生成する。スラブの巾に関する情報は、前述のように、スラブの製造仕様に関する情報である。このような構成により、巾移行条件を満たしやすい製造順を生成することができる。以下、この方法について説明する。
【0042】
(分配と配列)
図3は、生成部121が、スラブの製造順を生成する方法を示す概念図である。まず、データ入力部110は、スラブの巾に関する情報をスラブ情報ファイル101から読み出して入力する。入力したスラブの巾に関する情報は、キャスト編成装置1が備える図示しないメモリ、又はキャスト編成結果ファイル104等の記憶部に一時的に記録される。
【0043】
図3の301は、2つの鋼種内のスラブを製造順に配列した模式図である。具体的には、図の上から順に、最初に製造する1鋼種目に含まれるスラブを巾順の降順に配列(ソート)したスラブ明細データと、2番目に製造する2鋼種目に含まれるスラブを巾順の降順にソートしたスラブ明細データとを示している。なお、この段階のスラブ明細データの順序は暫定的な順序である。この段階での製造順は、制約違反を解消する段階で変更される可能性があるためである。図示のように、巾が昇順又は降順になるように製造順をソートすることを、巾移行を滑らかにする、とも称する。これらの図において、1つの矩形は1つのスラブを表し、矩形の長辺はスラブの巾を相対的な長さで表している。
【0044】
例えば、1鋼種目のスラブ明細データは、最も巾の大きいスラブが7つ、次に巾の大きなスラブが3つ、その次に巾の大きいスラブが4つ、次に最も巾の小さいスラブが2つ、巾順に配列されている。同様に、2鋼種目のスラブ明細データも、複数のスラブが大きい巾のものから小さい巾のものへ巾順に配列されている。3鋼種目以降のスラブ明細データも同様であるが、図示していない。
【0045】
図3の301に示す模式図は、現実には、スラブ情報ファイル101等に一時的に記録された各スラブのデータに、スラブ明細データを巾順ソートした結果を示すデータが含まれていることを示している。以下、スラブ情報ファイル101等でデータが記録されている状態を、図示のような態様で説明する。
【0046】
生成部121は、メモリ又はキャスト編成結果ファイル104に記録されたデータを参照して、図3の302に示すように、各スラブを2つのストランドA、Bに分配する。図3の302に示す模式図は、現実には、メモリ又はキャスト編成結果ファイル104に記録された各スラブのデータに、そのスラブを製造するストランドとして、ストランドA又はストランドBが紐付けされた状態で記録されていることを示している。
【0047】
図示するように、1鋼種目では、ストランドAに分配されたスラブが、巾が小さいスラブから大きいスラブの順に配列されており、ストランドBに分配されたスラブが、巾が大きいスラブから小さいスラブの順に配列されている。2鋼種目では逆に、ストランドAに分配されたスラブは幅が大きいスラブから小さいスラブの順に配列され、ストランドBに分配されたスラブは巾が小さいスラブから大きいスラブの順に配列されている。このように配列することにより、前述の巾移行条件を満たしやすくなる。
【0048】
なお、図中のグレーに着色した矩形は、組成が変動しやすいスラブを示す。具体的には、先頭・末尾で製造するスラブ、巾が変わった直後のスラブ、チャージもしくは鋼種が変わる前後のスラブは、組成が変動しやすい。グレーに着色した位置(部位)は、前述の部位配置条件を満たしやすくするために、許容される組成範囲ができるだけ大きなスラブを配置することが好ましい部位である。
【0049】
そこで、本実施形態においては、キャストで組込対象としたスラブのうち、前述の部位配置条件を満たすスラブを優先的にグレーに着色した位置に割り当てる。部位配置条件の違反は、スラブを全て配列した後で解消しようとすると、キャストの長さ又は各部位に相当するスラブが変わり、解消しづらくなるためである。キャストで組込対象としたスラブで制約条件を解消できない場合は、注文に紐つかないスラブ(「余材」とも称する)を挿入して制約条件違反を解消する。しかし、余材を多用すると、キャストにスラブを追加する必要があるためキャストがその分長くなったり、キャストで組込対象としたスラブの一部が製造できなくなったり、製造効率が低下したりするため、好ましくない。そのため、本実施形態では、生成部121は、部位配置条件を満たす配列を優先して生成する。
【0050】
なお、図3の302に示す図では、スラブの巾が昇順又は降順に従って配列されているが、上述のように部位配置条件を優先するため、必ずしも巾順が昇順又は降順に従っている必要はない。巾移行条件の違反の解消は、粗キャスト編成後に前述した制約違反解消部130が実行する。
【0051】
(分配方法)
図4は、1つの鋼種に含まれるスラブを2つのストランドA,Bに分配する方法の一例を示す概念図である。図4の401は、スラブ明細データを巾順ソートされたスラブを、上から順に、ストランドAとストランドBに交互に割り当てて分配する繰り返し分配方法を示している。図4の402は、任意の鋼種について、スラブ明細データを巾順(図4では巾の昇順あるいは降順)にソートされたスラブの全体を半分に分割し、ストランドAとストランドBにそれぞれ分配する分割分配方法を示している。このような2つの分配方法により、いずれも巾順に配列された状態が維持されている。なお、分配によっても部位配置条件が満たされていることが好ましいため、必要により、分配する段階で、許容される組成範囲が大きなスラブの配置を修正してもよい。
【0052】
(配列方法)
次に、生成部121は、任意の鋼種について、複数のストランドに分配されたスラブの各ストランドにおける製造順を生成する。前述した通り、各ストランドでのスラブの製造順は、スラブ巾が一方向に移行することが好ましく、スラブ巾の昇順か降順かのどちらかを選択するのが好ましい。そうすると、1つの鋼種の製造を2つのストランドを用いて行う場合には、ストランド毎に昇順または降順が選択し得るので、2×2=4通りの製造順の組合せが存在することになる。これを示すのが図5である。
【0053】
図5は、ストランドA、Bに分配された同一の鋼種に属する複数のスラブを、巾順の昇順と降順に配列する組み合わせを示す図である。図5において、ストランド毎の網掛け部分が複数のスラブの集合である。網掛け部分の巾が、紙面の上から下に向かって順次短くなっているものは、複数のスラブが降順に並んでいることを示す。逆に、網掛け部分の巾が、紙面の上から下に向かって順次長くなっているものは、複数のスラブが昇順に並んでいることを示す。すなわち、図5の501は、ストランドAに分配されたスラブを降順に配列し、ストランドBに分配されたスラブを降順に配列する製造順の組合せを示す。同様に、502は、ストランドAに分配されたスラブを降順に配列し、ストランドBに分配されたスラブを昇順に配列する製造順の組合せを示す。503は、ストランドAに分配されたスラブを昇順に配列し、ストランドBに分配されたスラブを降順に配列する製造順の組合せを示す。504は、ストランドAに分配されたスラブを昇順に配列し、ストランドBに分配されたスラブを昇順に配列する製造順の組合せを示す。このように、各鋼種について、2つのストランドにスラブを昇順又は降順に配列する製造順の組合せは2×2の4通りである。
【0054】
(製造パターン)
よって、上述した例では、各鋼種について、その鋼種に複数のスラブが含まれる場合には、2つのストランドへのスラブの配分の仕方と、4つの製造順の組合せがある。したがって、図6に示すように、各ストランドにどのスラブをどの順番で製造するかという観点で2×4=8通りの製造パターンが存在し、各鋼種の製造は、これらの製造パターンのいずれかで行われることになる。詳述すると、図6は、同一鋼種について、図4を用いて説明した分配方法と、図5を用いて説明した配列方法とを組み合わせたスラブの製造パターンを示す図である。前述のように、ストランドA、Bに分配する方法が2通り、分配されたスラブを巾順の昇順と降順に配列する組み合わせが4通りである。そのため、図6の601に示すように、繰り返し分配したスラブを巾順の昇順と降順に配列する4通りの製造パターンと、分割分配したスラブを巾順の昇順と降順に配列する4通りの製造パターンと、の合計8通りの製造パターンが生成される。図6の601は1鋼種目のスラブの製造パターンであり、図6の602は2鋼種目のスラブの製造パターンである。このように、1キャスト中に複数の鋼種を含む場合には、鋼種毎に8通りの製造パターンが生成される。したがって、鋼種数がmとすると、すべての鋼種のスラブの製造パターンとして、8のm乗個の製造パターンが得られる。
【0055】
しかし、鋼種数mが大きくなると、8のm乗個の組み合わせ数が大きくなるため、膨大な数の組合せから1つを選択するために、すべての組み合わせの評価値を導出するには長い時間がかかり、実用的ではない。そこで、次のように、スラブの巾を参照して得られる製造パターンを限定する。
【0056】
(複数鋼種の製造パターンの組み合わせ)
本実施形態において、生成部121は、連続する複数の鋼種のうち、最後の鋼種の製造パターン毎に、最も評価値が高い連続する鋼種の製造パターンの組み合わせを最適製造順として取得する。そして、生成部121は、当該最適製造順と、連続する複数の鋼種の次に製造する鋼種に含まれるスラブの製造パターンと、を繋げた新たな製造パターンの組み合わせを生成する。そして、評価部122は、当該新たな製造パターンの組み合わせの各々について、評価値を導出する。この処理を図7を用いて説明する。
【0057】
図7は、上述の生成部121と評価部122が実行する処理を模式的に示す図である。図7の701に示すように、生成部121が生成した1鋼種目のスラブの製造パターンは、1a、1b、…1hの8通りである。同様に、702は、生成部121が生成した2鋼種目のスラブの製造パターンである2a、2b、…2hを示し、703は、3鋼種目のスラブの製造パターンである3a、3b、…3hを示す。
【0058】
まず、1鋼種目と2鋼種目のスラブの組み合わせについて評価する。生成部121は、2鋼種目の製造パターン2aに繋がる組み合わせを生成する。具体的には、1a-2a、1b-2a、1c-2a、1d-2a、1e-2a、1f-2a、1g-2a、及び1h-2aの8通りである。評価部122は、生成部121が生成した上記の組み合わせの各々について評価値を導出する。そして、生成部121は、8通りの組み合わせのうち、最も評価値が高い組み合わせを製造パターン2aについての最適製造順として取得する。
【0059】
同様に、生成部121は、2鋼種目の製造パターン2bに繋がる組み合わせを生成し、評価部122は、その各々組み合わせの各々について評価値を導出する。そして、生成部121は、製造パターン2bに繋がる8通りの組み合わせのうち、最も評価値が高い組み合わせを製造パターン2bについての最適製造順として取得する。
【0060】
2鋼種目の残りの製造パターン(2c~2h)に対しても上記と同様の処理を行うことで、評価部122は、2鋼種目の製造パターン2aから製造パターン2hまで、各製造パターンに繋がる組み合わせのうち最も評価値が高い組み合わせを、最適製造パターンとして取得する。これによって、2鋼種目の8つの各製造パターンについて、それぞれ、1鋼種目の製造パターンとの最も評価値が高い組み合わせ(8つの最適製造パターン)が取得される。
【0061】
具体的には、例えば2鋼種目の製造パターン2eに繋がる組み合わせである1a-2e、1b-2e、1c-2e、1d-2e、1e-2e、1f-2e、1g-2e、及び1h-2eのうち、1f-2eの組み合わせの評価値が最も高かったとする。よって、図7の701と702に太線で示すように、2鋼種目の製造パターン2eに繋がる最適組み合わせとして1f-2eが取得されているとする。この場合、生成部121は、1f-2eの組み合わせを固定する。つまり、製造パターン2eに繋がる組み合わせとして1f-2eだけを最適製造順として残す(保存する)。図では、製造パターン2eに繋がる組み合わせのみを点線と太線(太線が残す組み合わせ)で示しているが、生成部121は、このような処理を、製造パターン2a、2b、…2hについて実行し、製造パターン2a、2b、…2hの各々に繋がる最適な組み合わせを1つずつ残す。したがって、この段階では、8通りの最適組み合わせが残っている。
【0062】
次に、生成部121は、3鋼種目の各製造パターンに繋がる組み合わせを生成する。この際、生成部121は、1鋼種目と2鋼種目の最適組み合わせと、3鋼種目の各製造パターンとの組み合わせのみを生成する。具体的には、生成部121は、製造パターン3aに繋がる組み合わせとして、2a-3a、2b-3a、2c-3a、2d-3a、2e-3a、2f-3a、2g-3a、及び2h-3aを生成する。ただし、2a、2b、…2hの各々には、最適組み合わせとして固定された1鋼種目の製造パターンが紐付けされている。
【0063】
以下同様に、生成部121は、製造パターン3bに繋がる組み合わせ、製造パターン3cに繋がる組み合わせ、…製造パターン3hに繋がる組み合わせを生成する。これらの組み合わせは8×8=64通りである。そして、評価部122は、この64通りの組み合わせについて評価値を導出する。生成部121は、製造パターン3a、3b、…3hの各々に繋がる組み合わせのうち、最も評価値が高い組み合わせのみを残す。
【0064】
なお、図7の702と703に示す例では、製造パターン3bに繋がる組み合わせのみを点線と太線(太線が残す組み合わせ)で示している。この図において、製造パターン3bに繋がる組み合わせとしては、製造パターン2eが最も評価値が高かったことを示している。この場合、生成部121は、製造パターン3bに繋がる最適組み合わせとして、1f-2e-3bの組み合わせだけを残す。このような最適組み合わせが、製造パターン3a、3b、…3hの各々について残される。したがって、3鋼種目まで最適組み合わせが決定された段階でも、8通りの最適組み合わせが残っている。なお、2鋼種目までの1つの最適組み合わせが、3鋼種目の複数の製造パターンに共通して組み合わされてもかまわない。
【0065】
以下、4鋼種目以降も同様にして、対象となる鋼種の直前の鋼種目で残された最適組み合わせと、対象鋼種の8通りの製造パターンを組み合わせた64通りの組み合わせを評価し、各製造パターンで最適組み合わせを最適製造順として残す。そして、最後の鋼種において、各製造パターンで得られた最適組み合わせのうち、評価値が最も高い組み合わせが、キャスト全体で最も評価値が高い組み合わせ(製造順)として選択される。
【0066】
もしも以上のような組み合わせの絞り込みを行わない場合は、鋼種数をmとすると、8のm乗通りの組み合わせを評価する必要がある。しかし、上記の絞り込みを行うことにより、64×(m-1)通りの組み合わせを評価することで、絞り込みを行わない場合の精度と同程度の精度で最適解を得ることができる。つまり、このような処理により、すべての組み合わせを評価する場合に比べて、評価する数を減らすことができる。
【0067】
以上の内容は、より具体的には以下のように説明することができる。まず、生成部121は、1番目に製造する鋼種に含まれる中間製品と2番目に製造する鋼種に含まれる中間製品とについて、複数のストランドの各々に分配する中間製品を特定する情報と、各ストランドで製造する中間製品の製造パターンと、を生成する。評価部122は、生成された組み合わせの各々について評価値を導出する。
【0068】
次に、生成部121は、n(nは3以上の整数)番目以降に製造する鋼種に含まれる中間製品については、(n-1)番目の鋼種の製造パターン毎に、最も評価値が高い1から(n-1)番目までの鋼種の製造パターンと、当該n番目の鋼種に含まれる中間製品の製造パターンと、を繋げた新たな製造パターンの組み合わせを生成する。
【0069】
次に、評価部122は、生成された新たな製造パターンの組み合わせの各々について、評価値を導出する。
【0070】
生成部121は、全ての鋼種の製造パターンの組み合わせを生成して評価値を導出したか否かを判定する。全ての鋼種の製造パターンの組み合わせを生成して評価値を導出したと判定された場合は、図示しない出力部が、製造パターンの組み合わせとその評価結果を出力する。全ての鋼種の製造パターンの組み合わせを生成して評価値を導出していないと判定された場合は、生成部121は、nの値を1増やして新たな製造パターンの組み合わせを生成する。評価部122は、その組み合わせの各々について評価値を導出する。以上の処理を最後の鋼種まで(nが予定していた鋼種の数に達するまで)繰り返す。そして、n番目の鋼種の各製造パターンに繋がる組み合わせのうち、最も評価値が高いものがキャストの粗キャスト編成結果として選択される。
【0071】
(n-1)番目までの鋼種の製造パターンとn番目の鋼種の製造パターンとの組み合わせの評価値は、(n-1)番目までの鋼種の製造パターンの評価値と、(n-1)番目の鋼種の最後のスラブに続けてn番目の鋼種を各製造パターンで製造する場合の評価値とを合計して算出することができる。この場合、合計した評価値Vは、下記式(1)で算出される。ここでv(k)は、k番目の鋼種の製造パターンで製造する場合の評価値である。
【数1】
【0072】
あるいは、(n-1)番目の鋼種の最後のスラブに続けてn番目の鋼種を各製造パターンで製造する場合の評価値だけで比較してもよい。
【0073】
以上の処理方法により、すべての製造順の組み合わせを評価する場合に比べて、評価する数を減らすことができる。
【0074】
以上の実施形態では、中間製品としてスラブを例にとって説明したが、ブルーム又はビレットの中間製品のキャスト編成においても同様に適用することができる。
【0075】
(キャスト編成装置の効果)
上述したキャスト編成装置1によれば、複数の鋼種からなる中間製品のキャスト編成を、効率よく行うことができる。さらに、中間製品の巾に関する情報を参照した製造パターンを限定することにより、キャストに含まれる複数の鋼種からなる中間製品の製造順の組み合わせを減らすことができる。そのため、すべての製造順の組み合わせを検討する場合に比べて短時間で最適解の可能性が高い組み合わせを探索することができる。
【0076】
(キャスト編成方法)
次に、本実施形態に係るキャスト編成方法について、図面を参照して説明する。本実施形態に係るキャスト編成方法は、スラブ、ブルームまたはビレットのいずれかの中間製品の製造順を決定するキャスト編成方法である。
【0077】
図8は、キャスト編成方法S1の流れを示すフローチャートである。キャスト編成方法S1は、次のステップを含む。なお、本実施形態では、1又は複数のプロセッサ(具体的には、データ入力部110、生成部121、評価部122など)が、後述する各ステップを実行するものとして説明する。
ステップS11において、複数のストランドを用いた連続鋳造で製造する中間製品の複数の鋼種間の並び順に関する情報を入力する。中間製品、鋼種間の並び順に関する情報については前述のとおりである。具体的には、例えばデータ入力部110が粗キャスト編成部120に複数のストランドを用いた連続鋳造で製造する中間製品の複数の鋼種間の並び順に関する情報を含む情報を入力する。
【0078】
ステップS12において、並び順が連続する複数の鋼種に含まれる中間製品について、複数のストランドの各々に分配する中間製品を特定する情報と、各ストランドで製造する当該中間製品の複数の製造パターンと、を生成する。具体的には、例えば生成部121が、複数のストランドの各々で製造する中間製品及び各ストランドで製造する当該中間製品の製造順の組み合わせを生成する。
【0079】
ステップS13において、生成された製造パターンの各々について、製造効率に関する評価値を導出する。具体的には、例えば評価部122が、生成された組み合わせの各々について、製造効率に関する評価値を導出する。導出された評価値は、キャスト編成結果ファイル104等に記録される。
【0080】
図9は、より一般的なキャスト編成方法S2の流れを示すフローチャートである。キャスト編成方法S2は、次のステップを含む。
【0081】
ステップS21において、複数のストランドを用いた連続鋳造で製造する中間製品の複数の鋼種間の並び順に関する情報を入力する。
【0082】
ステップS22において、1番目に製造する鋼種に含まれる中間製品と2番目に製造する鋼種に含まれる中間製品とについて、複数のストランドの各々に分配する中間製品を特定する情報と、各ストランドで製造する中間製品の製造パターンと、を生成する。
【0083】
ステップS23において、n(nは3以上の整数)番目以降に製造する鋼種に含まれる中間製品については、(n-1)番目の鋼種の製造パターン毎に、最も評価値が高い1から(n-1)番目までの鋼種の製造パターンと、当該n番目の鋼種に含まれる中間製品の製造パターンと、を繋げた新たな製造パターンの組み合わせを生成する。
【0084】
ステップS24において、生成された新たな製造パターンの組み合わせの各々について、評価値を導出する。導出された評価値は、キャスト編成結果ファイル104等に記録される。
【0085】
ステップS25において、全ての鋼種の製造パターンの組み合わせを生成して評価値を導出したか否かを判定する。ステップS25において、全ての鋼種の製造順の組み合わせを生成して評価値を導出したと判定された場合は、ステップS26に移行する。ステップS25において、全ての鋼種の製造順の組み合わせを生成して評価値を導出していないと判定された場合は、ステップS23に戻る。
【0086】
ステップS26において、結果を出力してキャスト編成処理を終了する。
【0087】
(キャスト編成方法の効果)
上述したキャスト編成方法S1及びS2によれば、複数の鋼種からなる中間製品のキャスト編成を、効率よく行うことができる。
【0088】
なお、図1を用いて説明したように、キャスト編成装置1によって得られた、最も評価値が高い粗キャスト編成結果は、さらに制約違反解消部130によって制約違反が解消される。制約違反解消部130による制約違反の解消は、例えば、経験に基づくアルゴリズムによって、巾移行条件が解消されていない箇所のスラブの並び替えを行ってもよく、模擬アニーリング法などを用いて、ランダムにスラブの並び替え等を行って最適解を探索してもよい。前述のように、スラブを製造する段階では、巾の許容範囲が大きい。そのため、巾移行条件違反を解消するためのスラブの並び替えは、部位配置条件違反を解消するためのスラブの並び替えよりも容易である。このような制約違反解消処理により、より製造効率の高いキャストの製造順を決定することができる。
【0089】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0090】
上述の実施形態1では、ストランドの数が2である場合を例にとって説明した。しかし、ストランドの数は3以上であってもよい。
【0091】
例えば、3つのストランドにスラブを分配する場合は、図4に示したスラブの分配先が3つになる。そして分配方法は、3つのストランドにスラブを1つずつ順に繰り返し分配する方法と、全体を3つに分割して分配する方法の2通りである。また、図5で示したスラブの巾の昇順又は降順の配列方法は、3つのストランドのそれぞれに昇順と降順の組み合わせがあるため、2×2×2=8通りの製造パターンがある。
【0092】
そのため、1鋼種につき、製造パターンは2×8=16通りとなる。そこで、生成部121は、1つの鋼種につき、16通りの製造パターンを生成する。評価部122は、1鋼種目と2鋼種目のスラブの製造順の評価値を導出する。生成部121は、そのうち、2鋼種目の16製造パターン毎に、それに繋がる最も評価値が高い製造パターンの組み合わせである最適製造順を取得する。さらに生成部121は、2鋼種目までの16通りの最適製造順と、3鋼種目の16製造パターンとを組み合わせた製造パターンの組み合わせを生成し、評価部122は16×16の組み合わせの評価値を導出する。生成部121は、3鋼種目の16製造パターンの各々に繋がる最適組み合わせを取得する。以下、同様である。
【0093】
ストランドの数がさらに増加した場合も、上述の方法により1番目に製造する鋼種から順に製造順の組み合わせを生成し、評価値を導出して最適組み合わせを取得する作業を繰り返せばよい。
【0094】
以上の構成を有するキャスト編成装置においても、実施形態1で説明したキャスト編成装置1が奏する効果と同様の効果を奏する。
【0095】
〔ソフトウェアによる実現例〕
キャスト編成装置1(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に粗キャスト編成部120に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0096】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0097】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0098】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0099】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0100】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0101】
1…キャスト編成装置
100…製造スケジュール決定装置
101…スラブ情報ファイル
102…同鋼種キャスト情報ファイル
103…コイル情報ファイル
104…キャスト編成結果ファイル
105…編成条件ファイル
110…データ入力部
120…粗キャスト編成部
121…生成部
122…評価部
130…制約違反解消部
S1…キャスト編成方法の流れを示すフローチャート
S2…一般的なキャスト編成方法の流れを示すフローチャート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9