(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158919
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】荷役機械用レールブレーキ装置、及び荷役機械、
(51)【国際特許分類】
B66C 9/18 20060101AFI20231024BHJP
B61H 7/12 20060101ALI20231024BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
B66C9/18
B61H7/12 B
B60T7/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068979
(22)【出願日】2022-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000227755
【氏名又は名称】日本アイキャン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】春日 紀重
(72)【発明者】
【氏名】東 康弘
【テーマコード(参考)】
3D246
3F203
【Fターム(参考)】
3D246AA14
3D246AA17
3D246BA02
3D246DA01
3D246GB28
3D246GC16
3D246HA64A
3F203AA06
3F203EA18
3F203EA19
(57)【要約】
【課題】工事期間や設計期間を短縮することが可能な荷役機械用レールブレーキ装置を提供する。
【解決手段】地上に敷設されたレール200に沿って走行可能な走行装置30を備えた荷役機械2に設置されるレールブレーキ装置50であって、流体圧シリンダー61の動作に従動して鉛直方向に往復運動するブレーキパッド62をレールの上面201に押圧させて荷役機械に制動を掛けるレールブレーキ本体60と、流体圧シリンダーを作動させるための流体圧回路80と、荷役機械の対地速度に応じた速度信号を出力するセンサー70と、速度信号に基づいて制御信号を出力する制御部51と、を備え、流体圧回路は、制御信号によって制御されて、流体圧シリンダーの圧力室(67a、67b)内の作動流体の量を調整するための弁機構81を含み、センサーは、タコジェネレーター170であって、対地速度を測定するように設置されている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上に敷設されたレールに沿って走行可能な走行装置を備えた荷役機械に設置されるレールブレーキ装置であって、
流体圧シリンダーの動作に従動して鉛直方向に往復運動するブレーキパッドを前記レールの上面に押圧させて前記荷役機械に制動を掛けるレールブレーキ本体と、
前記流体圧シリンダーを作動させるための流体圧回路と、
前記荷役機械の対地速度に応じた速度信号を出力するセンサーと、
前記速度信号に基づいて制御信号を出力する制御部と、
を備え、
前記流体圧回路は、前記制御信号によって制御されて、前記流体圧シリンダーの圧力室内の作動流体の量を調整するための弁機構を含み、
前記センサーは、タコジェネレーターであって、前記対地速度を測定するように設置されている、
荷役機械用レールブレーキ装置。
【請求項2】
前記タコジェネレーターは、回転軸と同軸に取り付けられた円筒状の部材を備えるとともに、当該部材の外周面が前記走行装置の車輪の外周面と接触するように設置されている、請求項1に記載の荷役機械用レールブレーキ装置。
【請求項3】
前記円筒状の部材は、前記車輪の外周面を押圧する方向に付勢されている、請求項2に記載の荷役機械用レールブレーキ装置。
【請求項4】
前記円筒状の部材が接触する前記車輪は、前記走行装置の従動輪である請求項2又は3に記載の荷役機械用レールブレーキ装置。
【請求項5】
前記タコジェネレーターは、回転軸と同軸に取り付けられる円筒状の部材を備えるとともに、当該部材の外周面が前記レールの表面に接触するように設置されている、請求項1に記載の荷役機械用レールブレーキ装置。
【請求項6】
前記円筒状の部材は、スプリングにより前記レールの上面を押圧する方向に付勢されている、請求項5に記載の荷役機械用レールブレーキ装置。
【請求項7】
レールブレーキ装置を搭載し、地上に敷設されたレールに沿って走行可能な荷役機械であって、
前記レールブレーキ装置は、
流体圧シリンダーの動作に従動して鉛直方向に往復運動するブレーキパッドを前記レールの上面に押圧させて前記荷役機械に制動を掛けるレールブレーキ本体と、
前記流体圧シリンダーを作動させるための流体圧回路と、
前記荷役機械の対地速度に応じた速度信号を出力するセンサーと、
前記速度信号に基づいて制御信号を出力する制御部と、
を備え、
前記流体圧回路は、前記制御信号によって制御されて、前記流体圧シリンダーの圧力室内の作動流体の量を調整するための弁機構を含み、
前記センサーは、タコジェネレーターであって、前記対地速度を測定するように設置されている、
荷役機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンテナクレーンやアンローダなどの荷役機械用のレールブレーキ装置、及び荷役機械に関する。
【背景技術】
【0002】
コンテナクレーンやアンローダなどの荷役機械は自走するための走行装置を備えている。走行装置は、例えば、地面に敷設されたレールに沿って走行するように構成されている。
【0003】
ところで、荷役機械では、走行を停止させた状態で荷役作業を行う。そのため、荷役機械は、自身の走行を停止させるための各種制動装置を備えている。レール上を走行する走行装置を備えた荷役機械の制動装置としては、走行装置が備える車輪の回転停止用の制動装置や、荷役機械の駆体などに設置されてレールを狭持するレールクランプ等がある。しかし、荷役機械は、サイズも質量も巨大なものである。そのため、荷役作業中に強風に煽られる等した場合、荷役機械が逸走する可能性がある。荷役機械が逸走すると、走行装置がエンドバッファに激突して荷役機械が転倒したり、隣接する他の荷役機械に衝突したり、あるいは、荷役作業中にコンテナを落下させたりするなどの重大事故に繋がる可能性がある。
【0004】
そこで、近年の荷役機械には、逸走を防止するため、あるいは逸走時に、より強大な制動力をもって荷役機械を確実に停止させるためのレールブレーキ装置を備えたものがある。なお、レールブレーキ装置は、既存の荷役機械に追加して設置される場合もあるし、荷役機械に当初から搭載されている場合もある。
【0005】
周知のごとく、レールブレーキ装置は、流体圧シリンダー(油圧シリンダー等)と、流体圧シリンダーの動作に従動して鉛直方向に往復運動するブレーキパッドとを備えたレールブレーキを本体とし、そのレールブレーキ(以下、「レールブレーキ本体」と言うことがある。)と、レールブレーキ本体の動作を制御するための構成とを含んで構成されている。レールブレーキ本体は、流体圧シリンダーによりブレーキパッドをレールの上面を押しつけることで荷役機械を停止させるように構成されている。そして、荷役機械用のレールブレーキ装置としては、以下の特許文献1に記載の「軌道走行式機械のレールブレーキ装置」等がある。また、以下の非特許文献1には、港湾荷役機械の概要について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】国土交通省、”港湾荷役機械の構造形式の概要”、[online]、[令和4年3月3日検索]、インターネット<URL:https://www.mlit.go.jp/common/001049107.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のレールブレーキ装置は、既存の荷役機械に追加して設置することを想定したもので、レールクランプの作動状態と、走行装置が備える走行ブレーキの作動状態と、走行装置の走行速度とに基づいてレールブレーキを作動させるための構成を備えている。それによって、普通、荷役機械の上方の構造物に設置される走行装置やレールブレーキの制御装置から支持脚(脚体)の下端部に設けられるレールブレーキまでの配線工事を不要とし、制御装置の改造や配線の費用を削減することができるとともに、改造工期を短縮させることを可能にしている。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載のレールブレーキ装置は、荷役機械の下方に設置されている走行装置やレールクランプから出力される信号を検出することで配線を短くすることができるものの、走行装置やレールクランプからの信号線を引き出す必要があり、個々の荷役機械の仕様が異なれば、その仕様に応じて信号線の引き出し方法や引き出し位置等を変更する必要がある。そのため、工事方法に汎用性がなく、改造工期を劇的に削減することができない。
【0010】
また、荷役機械の基本的な構造や構成を新規に設計することは容易ではないため、レールブレーキ装置が搭載された荷役機械を新設する場合であっても、実際には、既存の荷役機械の仕様を基本にしつつ、設計変更という形態でレールブレーキ装置を搭載する場合が多い。したがって、レールブレーキ装置が搭載された荷役機械を新設する場合であっても、既存の荷役機械に対してレールブレーキ装置を設置する改造工事と同様に、設計変更の対象となる荷役機械の仕様に応じ、信号線の引き出し方法や引き出し位置等を考慮する必要がある。
【0011】
このように、従来の荷役機械用のレールブレーキ装置では、設置や設計変更の対象となる荷役機械の仕様に応じ、信号線の取り出し方法や取り出し場所等を変える必要がある。すなわち、工事方法や設計変更の手順に汎用性がなく、改造工事や設計変更に掛かる時間大幅に短縮させることは難しい。
【0012】
そこで本発明は、工事期間や設計期間を短縮することが可能な荷役機械用レールブレーキ装置、及びそのレールブレーキ装置を搭載した荷役機械を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、地上に敷設されたレールに沿って走行可能な走行装置を備えた荷役機械に設置されるレールブレーキ装置であって、
流体圧シリンダーの動作に従動して鉛直方向に往復運動するブレーキパッドを前記レールの上面に押圧させて前記荷役機械に制動を掛けるレールブレーキ本体と、
前記流体圧シリンダーを作動させるための流体圧回路と、
前記荷役機械の対地速度に応じた速度信号を出力するセンサーと、
前記速度信号に基づいて制御信号を出力する制御部と、
を備え、
前記流体圧回路は、前記制御信号によって制御されて、前記流体圧シリンダーの圧力室内の作動流体の量を調整するための弁機構を含み、
前記センサーは、タコジェネレーターであって、前記対地速度を測定するように設置されている、
荷役機械用レールブレーキ装置である。
【0014】
前記タコジェネレーターは、回転軸と同軸に取り付けられた円筒状の部材を備えるとともに、当該部材の外周面が前記走行装置の車輪の外周面と接触するように設置されている、荷役機械用レールブレーキ装置とすることもできる。
【0015】
さらに、前記円筒状の部材は、前記車輪の外周面を押圧する方向に付勢されている、荷役機械用レールブレーキ装置としてもよい。
【0016】
好適には、前記円筒状の部材が接触する前記車輪は、前記走行装置の従動輪である荷役機械用レールブレーキ装置とすることである。
【0017】
前記タコジェネレーターは、回転軸と同軸に取り付けられる円筒状の部材を備えるとともに、当該部材の外周面が前記レールの表面に接触するように設置されている、荷役機械用レールブレーキ装置とすることもでき、さらに、前記円筒状の部材が、スプリングにより前記レールの上面を押圧する方向に付勢されていてもよい。
【0018】
上記いずれかに記載のレールブレーキ装置を搭載し、地上に敷設されたレールに沿って走行可能な荷役機械も本発明の範囲である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、基本的な仕様や設計を変更することなく、荷役機械に搭載することが可能なレールブレーキ、及びそのレールブレーキを搭載した荷役機械が提供される。その他の効果については以下の記載で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図3】荷役機械が備える走行装置とその周辺を拡大した図である。
【
図4A】実施例に係るレールブレーキ装置が備えるレールブレーキ本体の概略構造を示すとともに、制動時のレールブレーキ本体の状態を示す図である。
【
図4B】実施例に係るレールブレーキ装置が備えるレールブレーキ本体の概略構造を示すとともに、制動解除時のレールブレーキ本体の状態を示す図である。
【
図5】実施例に係るレールブレーキ装置の概略構成を示す図である。
【
図6】実施例に係るレールブレーキ装置が備えるタコジェネレーターの設置状態を示す図である。
【
図7】実施例に係るレールブレーキ装置が備える油圧回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施例について、添付図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明に用いた図面において、同一又は類似の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略することがある。図面によっては説明に際して不要な符号を省略することもある。
【0022】
===実施例===
<荷役機械の基本的な構造と構成>
【0023】
実施例に係るレールブレーキ装置を備えた荷役機械の一例としてレール上を自走可能なコンテナクレーンを挙げる。
図1に、そのレールブレーキ装置を備えた荷役機械1の概略構造を示した。荷役機械1は港湾の岸壁100に設置されおり、この図では、紙面法線方向に岸壁100の壁面101が延長しているものとする。荷役機械1は、概略的には、コンテナ15の積み込みや荷揚げのための機能を担う本体構造体10と、この本体構造体10を岸壁100に敷設されたレール200に沿って移動させるための走行装置30とで構成されている。
【0024】
本体構造体10は、岸壁100の海102側と陸103側にそれぞれ二本一対で鉛直方向に延長する脚体20、陸側に水平に延長するガーダ11、ガーダ11の海側端部に起伏可能に枢支されたブーム12、ガーダ11およびブーム12に案内されて横行するトロリー13、およびトロリー13に対して昇降してコンテナ15との係合が可能なスプレッダ14などによって構成されている。また、ブーム12を含む上部構造には、荷役作業に要する各種電動機(例えば、巻上装置、横行装置)等が収納される機械室16や荷役機械1を操作するオペレーターが搭乗する運転室17が設置されている。
【0025】
ここで、岸壁100の壁面101に対する法線方向(紙面左右方向)を前後方向とし、海102側を前、陸103側を後とするとともに、岸壁100の壁面101に沿う方向(紙面奥行き方向)を左右方向とすると、岸壁100上にはレール200が左右方向に敷設されている。それによって、荷役機械1は、走行装置30により、左右方向(図中、紙面奥行き方向)に移動する。
【0026】
図2は、荷役機械1の下部を拡大した図であり、例えば、
図1に示した荷役機械1を陸103側あるいは海102側から見ている図に相当する。すなわち、この
図2では、2本一対の海102側あるいは陸103側の脚体20が図示されている。そして、ここに示した荷役機械1では、左右に2本一対で配置されている脚体20が、左右方向に延長するシルビーム22によって連結されており、走行装置30が各脚体20の下端21に取付けられている。走行装置30は、図示しない給電設備からの電力により駆動される。また、図示した荷役機械1では、シルビーム22の左右中央に垂設されたブラケット23の先端にレールクランプ40が設置されている。
【0027】
図3は、
図2の破線枠110部分を拡大した図であり、1台の走行装置30とその周辺の構造を示している。
図3に示したように、走行装置30は、四つの車輪32を備えた二台の台車33が直列に配置された構造を有している。二台の台車33は上方からの荷重を左右方向に均等に分散させるロッカービーム31に取り付けられている。なお、走行装置30が備える車輪には、モーターに接続された車軸を有して荷役機械1を走行させるための駆動輪32aと、荷役機械1の走行に伴って従動回転する従動輪32bとがあり、
図3には、各台車33が備える四つの車輪32のうち、左右外側の二つの車輪32aが駆動輪32aで、内側の二つの車輪32bが従動輪32bとなっている走行装置30が示されている。そして、実施例に係るレールブレーキ装置の主要な構成であるレールブレーキ本体60は、この走行装置30に設置されている。図示した荷役機械1では、ロッカービーム31の下端にブラケット36が設けられ、このブラケット36の下端にレールブレーキ本体60が取り付けられている。
【0028】
<レールブレーキ本体の構成と動作>
レールブレーキ装置の主要な構成であるレールブレーキ本体60の基本的な構成は、流体圧シリンダーであり、本実施例に係るレールブレーキ装置は、作動流体として作動油を用いた複動形の油圧シリンダーを主体に構成されたレールブレーキ本体60を備えている。
【0029】
図4Aと
図4Bに、レールブレーキ本体60の概略構造を示した。
図4Aは、制動状態にあるときのレールブレーキ本体60を示しており、
図4Bは、制動が解除されている状態にあるときのレールブレーキ本体60を示している。
図4A、
図4Bに示したように、レールブレーキ本体60は、油圧シリンダー61、ブレーキパッド62、及び油圧シリンダー61のピストン65の下端とブレーキパッド62との間に介在する連結部材63で構成されている。
【0030】
油圧シリンダー61は、筐体を兼ねる円筒状のシリンダーチューブ64、シリンダーチューブ内で上下方向に摺動するピストン65、及びシリンダーチューブ64内に作動油を流出入させる流路66を含む。なお、図中の油圧シリンダー61は、シリンダーチューブ64の軸164を通る上下方向と前後方向とを含む面で切断したときの断面図によって示されている。
【0031】
シリンダーチューブ64の内方には、下方が縮径する二段円筒状の空間が形成されている。この空間において、上段側の円筒状の空間が容積室67である。下方の縮径された円筒状の空間(以下、「摺動室68」と言うことがある。)は、直径を維持してシリンダーチューブ64の下端に開口している。ピストン65は、下方が縮径する二段円柱状で、上方の拡径された円柱部分(以下、「頭部65a」と言うことがある。)が、容積室67内に摺動可能に配置され、下方の縮径された円柱部分(以下、「胴部65b」と言うことがある。)は、摺動室68に対して上下方向に摺動可能に配置されている。
【0032】
ピストン65の頭部65aの上下長は、容積室67の上下長よりも短く、胴部65bの上下長は、摺動室68の上下長よりも長い。また、ピストン65の上下方向の全長は、上死点にあるときに胴部65bの下端がシリンダーチューブ64に対して僅かに下方に突出するように設計されている。ピストン65の胴部65bの下端には連結部材63が接続され、この連結部材63の下端にブレーキパッド62が取り付けられている。容積室67には、ピストン65の頭部65aの上方と下方とに圧力室(67a、67b)が形成され、流路66は、上方、及び下方の圧力室(67a、67b)の内面に開口している。
【0033】
そして、上述した構成を備えたブレーキ本体60によれば、油圧シリンダー61における上方の圧力室(以下、「上方圧力室67a」と言うことがある。)に作動油を流入させ、下方の圧力室(以下、「下方圧力室67b」と言うことがある。)から作動油を流出させることにより、ピストン65を下方へ移動させることができる。それによって、
図4Aに示したように、連結部材63を介してピストン65に接続されたブレーキパッド62がレール200の上面201に押しつけられ、レールブレーキ本体60が制動状態となる。また、
図4Bに示したように、上方圧力室67aから作動油を流出させ、下方圧力室67bに作動油を流入させることにより、ピストン65を上方へ移動させることができる。それによって、レールブレーキ本体60が制動解除状態となる。
【0034】
<レールブレーキ装置の概略構成と基本的な動作>
実施例に係るレールブレーキ装置は、上述したレールブレーキ本体60に加え、荷役機械1が逸走した際に、レールブレーキ本体60による制動力を精密に制御するための構成を備え、逸走状態にある荷役機械1を速やかに、かつ滑らかに停止させることができるようになっている。
【0035】
図5は、実施例に係るレールブレーキ装置50の概略構成を示す図である。実施例に係るレールブレーキ装置50は、電子制御ブレーキシステムであり、レールブレーキ本体60に加え、荷役機械1の逸走状態を検出するためのセンサー70、逸走に伴ってセンサー70が出力する信号に応じた制御信号を出力する制御部51、制御部51からの制御信号を増幅するためのアンプ52、及び制御信号に従って動作する弁機構(以下、「制御弁81」と言うことがある。)を含んで構成されて油圧シリンダー61内の作動油の量を調整する油圧回路80を基本構成として備える。
【0036】
なお、レールブレーキ本体60は、設置対象の荷役機械1のサイズや質量等に応じ、1台の荷役機械1に対し、1台以上(例えば、1~8台)設置される。また、レールブレーキ装置50において、レールブレーキ本体60以外の構成は、荷役機械1の適所に配置される。実施例に係るレールブレーキ装置50では、例えば、制御部51、アンプ52、及び油圧回路80を一つの筐体内に格納して制御ユニットを構成し、その制御ユニットを台車33上やシルビーム22上等に配置することができる。また、後述するように、センサー70が荷役機械1の逸走状態の検出に適した場所に設置される。
【0037】
上記構成を備えたレールブレーキ装置50において、油圧回路80を構成する制御弁81は、加圧ポンプ82から油圧シリンダー61を経てリザーバータンク83に戻る作動油の流路に介在している。制御弁81は、作動油の流入口及び流出口となる複数のポート(81a~81d)を備え、制御部51からの制御信号に応動して所定のポート間に流路を形成する。油圧回路80は、制御弁81内の流路の形成状態により、油圧シリンダー61における上部圧力室67a、及び下方圧力室67bのそれぞれにおける油量を調整する。荷役機械1が逸走した場合には、制御部51が、センサー70がその逸走の状態に応じて出力する信号に基づく制御信号を出力し、制御弁81がその制御信号により所定の流路を形成し、油圧シリンダー61のピストン65を下方に移動させる。それによって、レールレーキ本体60のブレーキパッド62がレール200の上面201に押圧され、逸走状態にある荷役機械1が停止する。
【0038】
<センサー>
実施例に係るレールブレーキ装置50では、逸走状態を検出するために、走行装置30やレールクランプ40等の動作信号用の配線を引き出すための改造工事や設計変更を不要にするために、センサー70に周知のタコジェネレーターを用いている。タコジェネレーターは、回転軸の回転速度に比例した直流電圧を発生させる発電機であり、荷役機械1の基本構成とは独立した構成である。そして、このタコジェネレーターが荷役機械1の対地速度を検出するように荷役機械1の適所に設置されている。そのため、実施例に係るレールブレーキ装置50によれば、電源用の配線やレールブレーキ装置50の起動スイッチへの配線等、必要最小限の配線のための簡素な改造工事でレールブレーキ装置50を荷役機械1に設置することが可能となる。あるいは、既存の荷役機械1に対して大幅な設計変更をしなくても、レールブレーキ装置50を搭載した新設用の荷役機械1を提供することが可能となる。
【0039】
<荷役機械の対地速度>
図6に、実施例に係るレールブレーキ装置50におけるタコジェネレーター170の設置例を示した。
図6は
図3における円120内の拡大図である。タコジェネレーター170は、走行装置30の車輪32の回転速度を荷役機械1の対地速度として検出するように設置されている。概略的には、タコジェネレーター170の回転軸171に円筒状の部材(以下、「円筒部材172」と言うことがある。)が同軸に取り付けられておる。なお、
図6に示した例では、円筒部材172は、走行装置30の左右外側(紙面手前側)に配置され、タコジェネレーター170は、左右内側(紙面奥側)に配置されている。そして、タコジェネレーター170は、円筒部材172の外周面172sが走行装置30の車輪32の外周面32sに接触するように、支持部材173を介して荷役機械1の適宜な位置に取り付けられている。
【0040】
具体的には、
図6に示したように、支持部材173は、走行装置30の台車33に固定されつつ前後一方向に突出する固定部材173aと、前後方向に延長する途上で下方に屈曲するL字状の可動部材173bとで構成されている。可動部材173bは、L字の屈曲部で、固定部材173aの先端に回動自在に軸支されている。
【0041】
タコジェネレーター170は、可動部材173bにおいて、下方に向けて屈曲した先の一端に固定されている。可動部材173bの他端は、圧縮されたスプリング173cの復元力により、図中白抜きの矢印で示したように、常時上方に付勢されている。そのため、逸走時等に走行装置30の車輪32が振動するような場合であっても、図中黒塗りの矢印で示したように、円筒部材172の外周面172sが車輪32の外周面32sに常時押しつけられた状態となり、タコジェネレーター170が正確な速度を測定し続けることができるようになっている。
【0042】
さらに、実施例に係るレールブレーキ装置50では、タコジェネレーター170が、走行装置30の従動輪32bの回転速度を計測するように設置されている。従動輪32bは、駆動輪32aとは異なり走行装置30の停止時に負荷トルクが掛かっていない。そのため、従動輪32bは、逸走時に回転せずに車輪がレール200上を滑走する可能性が駆動輪32aよりも少ない。すなわち、実施例に係るレールブレーキ装置50では、荷役機械1の逸走をより確実に検出することができるようになっている。なお、円筒部材172の外周面172sは、摩擦力が大きな素材(ゴム、軟質樹脂等)で被覆されていたり、微細な凹凸が形成されていたりする等、車輪32の回転に対して円滑に従動して回転できるようになっていれば好ましい。
【0043】
このように、実施例に係るレールブレーキ装置50では、円筒部材172の外周面172sを車輪32の外周面32sに接触させるだけの極めて簡素な構造で荷役機械1の対地速度を連続的に測定することができる。すなわち、実施例に係るレールブレーキ装置50では、車輪32の回転運動をタコジェネレーター170の回転軸171に伝達するための複雑な構成や機構を荷役機械1側に追加する必要がない。したがって、レールブレーキ装置50は、荷役機械1に搭載される際、走行装置30側の改造工事や設計変更を極めて簡素にすることができるものとなっている。
【0044】
<油圧回路>
上述した構成を有するレールブレーキ装置50では、タコジェネレーター170が、逸走時における走行装置30の車輪32の回転速度に応じた電圧を出力する。制御部51は、その電圧値(以下、「速度信号」と言うことがある。)に応じた制御信号を、アンプ52を介して油圧回路80の制御弁81に向けて出力する。
【0045】
図7にレールブレーキ装置50を構成する油圧回路80の一例を示した。油圧回路80は、制御弁81、加圧ポンプ82、リザーバータンク83に加え、リリーフ弁84やパイロットチェック弁85aを含む各種チェック弁85、圧力スイッチ86や圧力センサー87等が適所に配置されてなる。制御部51は、油圧回路80上の圧力スイッチ86の開閉状態や圧力センサー87からの信号も入力し、その信号に応じて加圧ポンプ82を作動させたり、制御弁81を含む所定の弁機構を作動させたりする。それによって、例えば、制動状態において、油圧回路80上に作動油の僅かな漏れや圧力不足等があっても、油圧シリンダーの上方と下方の圧力室(67a、67b)への作動油の量が再調整され、制動状態が確実に維持される。また、油圧回路80は外付けのハンドポンプを接続するためのポート90を備え、レールブレーキ本体60が制動状態にあるとき停電が発生した場合等において、油圧シリンダー61内の油圧が低下した場合でも、上記のポート90に接続したハンドポンプにより油圧シリンダー61内を加圧し、制動状態を維持できるようになっている。
【0046】
なお、制御弁81は、4ポート3位置方向制御弁で構成されている。それにより、一つの制御弁81で、油圧シリンダー61における上方圧力室67aと下方圧力室67bのそれぞれに作動油を流入出させることができるようになっている。また本実施例では、アンプ52によって増幅された制御信号によって作動油の流量と方向とを精密に制御することが可能な、周知の比例制御型の制御弁81を採用している。
【0047】
制御弁81は、制御部51からの制御信号に従って所定のポート(81a~81d)間に流路を形成する。それにより、加圧ポンプ82から送出された作動油が、油圧シリンダー61の上方と下方の圧力室(67a、67b)に接続されている流路(88、89)に送出されたり、油圧シリンダー61内の作動油がその流路(88、89)に戻されたりして、上方と下方の圧力室(67a、67b)内の作動油の量が精密に制御される。
【0048】
<制動制御>
レールブレーキ装置50によって逸走状態にある荷役機械1停止させるための制動制御方式としては、例えば、逸走を自動的に検出して荷役機械1を一定の減速度で停止させる方式と、逸走していると判断したオペレーターが手動操作によってレールブレーキ装置50を緊急作動させた際に、荷役機械1を過大な減速度で急停止させるのではなく、一定の減速度で停止させるように制動制御する方式とが考えられる。
【0049】
逸走を自動で検出する制動制御方式では、例えば、走行装置30の最高走行速度(例えば、45m/min)よりも大きな速度(例えば、60m/min)に対応する速度信号がタコジェネレーター170から出力されれば、制御部51が逸走状態であると判断し、一定の減速度(例えば、0.05G)で緩やかに停止するように制御弁81を制御する。
【0050】
オペレーターによる操作に基づく制動制御方式では、例えば、制御部51が、オペレーターの操作によってレールブレーキ装置50の作動指示に対応する信号が入力されると、荷役機械1が所定の減速度で停止するように、制御弁81を速度信号に基づいてフィードバック制御するような制御手順が考えられる。
【0051】
実施例に係るレールブレーキ装置50は、上記二つの制動制御方式のどちらにも対応することができる。もちろん、上記以外の制動制御方式も考えられる。そして、いずれの制動制御方式であっても、制御部51が、タコジェネレーター170から出力される速度信号に基づいて制御弁81をフィードバック制御するため、荷役機械1が急停止の反動によって大きく傾いたり、逸走方向とは逆の方向への揺り戻しが発生したりすることがない。
【0052】
また、逸走状態を検出するタコジェネレーター170は、円筒部材172の回転が開始された瞬間から速度信号を出力するので、逸走状態を遅滞なく検出することができる。そして、荷役機械1の対地速度を反映する車輪32の回転速度に応じた電圧の信号を連続的に出力し続ける。そのため、制御部51は、荷役機械1の逸走が発生の瞬間から対地速度を連続的に測定し続けることができ、より緻密なフィードバック制御が可能となる。
【0053】
===その他の実施例===
以上の説明は、本発明を分かりやすく説明するための一例に過ぎず、本発明の技術的範囲は、以上に説明した内容に限定されるものではなく、本発明の概念は、以上に示した実施形態に対する様々な変形形態や応用形態を含む。上記実施例の構成の一部を他の構成に置き換えたり、削除したり、あるいは、上記実施例の構成に他の構成を追加したりすることも可能である。
【0054】
上記実施例に係るレールブレーキ装置50では、
図6に示したように、タコジェネレーター170を固定部材173aと可動部材173bとを用いて、タコジェネレーター170を円筒部材172とともに回転速度の測定対象となる車輪32の外周面32sに向けて付勢していたが、例えば、車輪32の外周面32sと対向する位置に、スプリング173cの復元力を直線的にタコジェネレーター170に伝えるような構造の支持部材173を取り付けてもよい。
【0055】
タコジェネレーター170による車輪32の回転速度を計測する方式としては、円筒部材172を用いる方式の他に、タコジェネレーター170の回転軸171と車輪32の回転軸とを同軸に連結したり、車輪32の回転軸とタコジェネレーター170の回転軸171とにギヤをとりつけ、双方のギヤを歯合させたりすることも考えられる。そして、円筒部材172を用いずに車輪32の回転速度を検出するこれらの方式であっても、車輪32の回転軸に、ギヤや、タコジェネレーター170の回転軸171と同軸に連結するための部材等の機械部品を取り付けるだけである。したがって、上記実施例に係るレールブレーキ装置50と同様に、複雑な配線工事や配線経路の設計変更等が不要であり、簡素な改造工事や設計変更で、荷役機械1にレールブレーキ装置50を搭載することが可能となる。
【0056】
タコジェネレーター170によって荷役機械1の対地速度を計測する方式としては、走行装置30の車輪32の回転速度に基づいて計測する方式に限らない。例えば、円筒部材172の外周面172sがレール200の上面201や側面、あるいは岸壁100の地面に接触するようにタコジェネレーター170を設置してもよい。
【0057】
上記実施例に係るレールブレーキ装置50では、レールブレーキ本体60が走行装置30に取り付けられていたが、
図2に示した荷役機械1おけるレールクランプ40と同様にシルビーム22に設置することも考えられる。
【0058】
実施例に係るレールブレーキ装置50は、タコジェネレーター170、制御部51、アンプ52、油圧回路80、及びレールブレーキ本体60を一つずつ備えたものとは限らない。例えば、一つの荷役機械1に複数台のレールブレーキ本体60を設置する場合、その複数台のブレーキ本体60を複数の制御部51が個別に制御するように構成されていてもよいし、一つの制御部51が複数台のレールブレーキ本体60を制御するように構成されていてもよい。また、制御部51は、レールブレーキ装置50に専用に構成されたものでなくてもよい。例えば、制御部51が、荷役機械1における荷役作業用の各種電動機(巻上装置、横行装置等)とレールブレーキ装置50とを制御することとしてもよい。このように、1台の荷役機械1におけるレールブレーキ装置50、あるいは1台のレールブレーキ装置50が備える構成の配置や数は、適宜に変更することができる。いずれにしても、レールブレーキ装置50は、タコジェネレーター170、制御部51、油圧回路80等の流体圧回路、レールブレーキ本体60を構成要素として含んでいればよく、一つのレールブレーキ装置50が備える構成要素(170、51、80、60)の数は適宜に設定することができる。
【0059】
なお当然のことではあるが、実施例に係るレールブレーキ装置50の設置対象は、岸壁100に敷設されたレール200に沿って走行可能な荷役機械1であればよく、コンテナクレーンに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0060】
1 荷役機械、10 本体構造体、20 脚体、21 脚体の下端、22 シルビーム、30 走行装置、31 ロッカービーム、32 走行装置の車輪、32a 駆動輪、
32b 従動輪、32s 車輪の外周面、33 台車、40 レールクランプ、
50 レールブレーキ装置、51 制御部、52 アンプ、60 レールブレーキ本体、61 油圧シリンダー、62 ブレーキパッド、63 連結部材、65 ピストン、
65a ピストンの頭部、65b ピストンの胴部、66 油圧シリンダーの流路、
67 容積室、67a 上方圧力室、67b 下方圧力室、68 摺動室、
70 センサー、80 油圧回路、81 制御弁、82 加圧ポンプ、
83 リザーバータンク、100 岸壁、170 タコジェネレーター、
171 タコジェネレーターの回転軸、172 円筒部材、
172s 円筒部材の外周面、173 支持部材、173a 固定部材、
173c スプリング、173b 可動部材、200 レール、
201 レールの上面