(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158921
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20231024BHJP
【FI】
H01M10/54
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068981
(22)【出願日】2022-04-19
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】596133201
【氏名又は名称】松田産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】紙谷 英征
(72)【発明者】
【氏名】浦田 泰裕
(72)【発明者】
【氏名】大河内 章宏
(72)【発明者】
【氏名】石田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】小松 浩平
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 洸
(72)【発明者】
【氏名】上杉 諒平
【テーマコード(参考)】
5H031
【Fターム(参考)】
5H031HH08
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】本発明は、リチウムイオン二次電池から有価物を回収する方法において、銅の回収率を向上することができる、リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法を提供することを課題とする。
【解決手段】リチウムイオン二次電池を加熱する加熱工程と、加熱後に破砕する破砕工程と、破砕後に篩分け、磁力選別、比重選別のいずれか一種以上の工程を経て、リチウムイオン二次電池から有価物を回収する方法であって、前記破砕工程において、破砕物のサイズが20mm以下になるように破砕することを特徴とするリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池を加熱する加熱工程と、加熱後に破砕する破砕工程と、破砕後に篩分け、磁力選別、比重選別のいずれか一種以上の工程を経て、リチウムイオン二次電池から有価物を回収する方法であって、前記破砕工程において、破砕物のサイズが20mm以下になるように破砕することを特徴とするリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項2】
前記破砕工程において、剪断式破砕機を使用することを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項3】
前記破砕工程において、粒度調整が可能な剪断式破砕機を使用することを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項4】
前記破砕工程において、三軸又は四軸の剪断式破砕機を使用することを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項5】
前記破砕工程は、連続して二回以上の破砕工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項6】
前記破砕工程後、篩分けして、篩下産物である極材粉を分離する工程と、前記篩分けによりって分離される篩上産物を磁力選別して、磁着物である鉄系金属を分離する工程と、前記磁力選別によって分離される非磁着物を比重選別して、重産物と軽産物を分離する工程と、前記比重選別によって分離される重産物を磁力選別及び/又は比重選別して、銅塊状物とアルミニウム塊を分離する工程と、前記比重選別によって分離される軽産物を破砕する工程と、前記破砕によって得られる破砕物を篩分けして、篩下産物である極材粉を分離する工程と、前記篩分けによって分離される篩上産物を比重選別して、重産物と軽産物を分離する工程と、前記比重選別によって分離される軽産物を磁力選別して、非磁着物である銅箔と磁着物であるアルミニウム箔を分離する工程とを含むことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項7】
前記比重選別が、風力選別又はエアテーブルを用いることを特徴とする請求項1又は6に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、リチウムイオン二次電池は、携帯電話、ノート型パソコン、ビデオカメラなどの小型モバイル用のバッテリーとして使用されてきた。近年では、脱炭素化の取り組みの一環として電気自動車が普及しつつあり、車載用の大型リチウムイオン二次電池が大量に生産等されている。また、昨今、安全性や体積エネルギー密度を向上させるために、負極や正極を構成する新規材料の開発や固体電解質に関する研究なども活発に行われている。
【0003】
一般に、リチウムイオン二次電池は、正極、負極、セパレーター、電解液などから構成されている。正極は、アルミニウム箔(正極集電体)に、リチウム、コバルト、ニッケルなどの活物質がバインダーと共に塗布されたものが使用されている。負極は、銅箔(負極集電体)に黒鉛などの活物質がバインダーと共に塗布されたものが使用されている。そして、これらは金属製の外装材に収容されている。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、リチウム、コバルト、ニッケル、銅、アルミニウムなどの有価物が含まれていることから、充放電を繰り返して使用済みとなった後は、そこから有価物の回収が行われている。回収方法については、例えば、特許文献1には、リチウムイオン二次電池から、銅、アルミニウムなどの有価物を簡単かつ効率的に回収する方法が記載されている。また、特許文献2、3には、使用済みリチウムイオン電池から、銅とアルミニウムと活物質とを分別、回収する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-170480号公報
【特許文献2】特開2017-174517号公報
【特許文献3】特開2018-120716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、リチウムイオン二次電池から有価物を回収する場合、まず、電池電圧が一定以下になるまで放電した後、加熱によって、セパレーターや電解液などを分解、除去することが行われる。次いで、外装材に収容したまま破砕した後、篩分け、比重選別、磁力選別などによって、外装材、集電体、活物質(以下、極材粉ともいう。)などに含まれる金属をそれぞれ分離する。このような工程を経ることによって、銅、アルミニウム、鉄、極材粉(リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、チタン、ニオブなどのレアメタル、黒鉛、シリコン)などを分離することができる。極材粉に含まれるレアメタルの品位は、今後、低下する傾向にあることから、リチウムイオン二次電池のリサイクルでは、銅、アルミニウム、鉄の回収が非常に重要である。
【0007】
しかしながら、リチウムイオン二次電池の外装材を破砕すると、
図1に示すように、外装材を構成する鉄系金属(鋼鉄、ステンレスなど)やアルミニウム塊に、集電体を構成する銅箔が噛みこまれ、また、
図2に示すように外装材に取り付けられている封止用ボルトや導電用ブスバーなどの銅塊状物が外装材から単体分離できず、有価物である銅の回収率が著しく低下するという問題が生じた。また、鉄系金属に噛みこまれた銅は、鉄のリサイ
クルをも阻害するという問題が生じた。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、リチウムイオン二次電池から有価物を回収する方法において、銅の回収率を向上することができる、リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の態様を提供する。
[1]リチウムイオン二次電池を加熱する加熱工程と、加熱後に破砕する破砕工程と、破砕後に篩分け、磁力選別、比重選別のいずれか一種以上の工程を経て、リチウムイオン二次電池から有価物を回収する方法であって、前記破砕工程において、破砕物のサイズが20mm以下になるように破砕することを特徴とするリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
[2]前記破砕工程において、剪断式破砕機を使用することを特徴とする上記[1]に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
[3]前記破砕工程において、粒度調整が可能な剪断式破砕機を使用することを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
[4]前記破砕工程において、三軸又は四軸の剪断式破砕機を使用することを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
[5]前記破砕工程は、連続して二回以上の破砕工程を含むことを特徴とする上記[1]に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
[6]前記破砕工程後、篩分けして、篩下産物である極材粉を分離する工程と、前記篩分けによって分離される篩上産物を磁力選別して、磁着物である鉄系金属を分離する工程と、前記磁力選別によって分離される非磁着物を比重選別して、重産物と軽産物を分離する工程と、前記比重選別によって分離される重産物を磁力選別及び/又は比重選別して、銅塊状物とアルミニウム塊とを分離する工程と、前記比重選別によって分離される軽産物を破砕する工程と、前記破砕によって得られる破砕物を篩分けして、篩下産物である極材粉を分離する工程と、前記篩分けによって分離される篩上産物を比重選別して、重産物と軽産物を分離する工程と、前記比重選別によって分離される軽産物を磁力選別して、非磁着物である銅箔と磁着物であるアルミニウム箔を分離する工程とを含むことを特徴とする上記[1]に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
[7]前記比重選別が、風力選別又はエアテーブルを用いることを特徴とする上記[1]又は[6]に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池から有価物を回収する方法において、銅の回収率を向上させるという優れた効果を有する。また、銅の回収率が向上することから、鉄に噛みこまれた銅が減少し、結果的に回収した鉄の品位も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】銅箔が外装材に噛みこまれた状態を示す写真(アルミニウムに銅箔が噛みこまれた写真)である。
【
図2】銅塊状物が単体分離できていない状態を示す写真(封止用ボルトや導電用ブスバーが外装材から離れていない写真)である。
【
図3】実施例、比較例におけるリチウムイオン二次電池から有価物を回収する方法を説明するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明は、これらの内容によって限定されるものではな
く、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
リチウムイオン二次電池は、通常、正極、負極、電解液、セパレーターなどから構成される。正極と負極との間の電解液中をリチウムイオンが移動することで、電池として作用する。通常、正極は、集電体であるアルミニウム箔上に、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガンなどの正極材がバインダーと共に塗布される。一方、負極は、集電体の銅箔上に黒鉛、シリコンなどの負極材が塗布される。また、負極材として、チタン、ニオブなどが使用される場合もある。正極、負極、電解液、セパレーターなどが、鉄系金属やアルミニウム製の外装材に収容されて、1つの電池セルを構成する。外装材には、銅製の封止用ボルトや導電用ブスバーなどが取り付けられる。
【0014】
電気自動車などの車載用リチウムイオン二次電池は、角形、円筒型、ラミネート型などの電池セルがあり、複数の電池セルが集合して、電池モジュールを構成し、複数の電池モジュールが集合して、電池パックを構成する。一般に、携帯電話、ノート型パソコン、ビデオカメラなどは小型で角型の電池セルが使用されている。リチウムイオン二次電池から有価物を回収する場合は、電池セル、電池モジュール、電池パックを特に区別することなく、処理される。
【0015】
リチウムイオン二次電池から有価物を回収する場合、通常、加熱して、内部にあるセパレーターや電解液などの有機物を分解、除去する。加熱後、外装材ごと破砕して、その内部にある集電体(銅箔、アルミニウム箔など)を細かく破砕(裁断)するとともに、集電体に付着した極材粉を剥離する。破砕後は、篩分け、磁力選別、比重選別を適宜、組み合わることで、外装材などを構成する鉄系金属、銅塊状物、アルミニウム塊、集電体を構成する銅箔やアルミニウム箔、極材粉を構成するリチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、黒鉛、チタン、ニオブ、シリコンなどを分離、回収することが行われる。
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る有価物の回収方法について、詳述する。
[加熱工程]
加熱工程は、少なくとも、リチウムイオン二次電池に含まれるセパレーター、電解液、その他の有機物を燃焼させて除去することができれば、加熱の際の温度や雰囲気については特に問わない。例えば、加熱温度を400℃以上600℃以下の範囲とすることができる。また、酸化雰囲気または非酸化雰囲気で加熱することができる。加熱時間は、リチウムイオン二次電池の形状やサイズ、被加熱物の量などによって適宜調整することができ、例えば、0.5~6時間とすることができる。電池セル、電池モジュール、電池パックなど特に区別することなく、加熱することができる。
【0017】
また、前記加熱工程の前に、リチウムイオン二次電池を放電して、電池残量を一定レベル以下にすることができる。その後の工程において、爆発や発火、感電による事故を防止するためである。但し、前記の加熱工程により、電池としての機能をほとんど滅失させることができるため、放電はあくまで任意の工程である。
【0018】
[破砕工程]
加熱したリチウムイオン二次電池を外装材ごと破砕して、内部から集電体を取り出して、破砕するとともに、集電体に付着した極材粉を分離する。このとき、外装材ごと破砕すると、外装材を構成する鉄系金属やアルミニウム塊の切れ端の中に集電体の銅箔が巻き込まれて圧し潰される状態(噛みこみ)が生じる。一度、噛みこまれると、その後の選別工程によって銅箔を分離することが極めて困難となる。また、破砕時に外装材に取り付けられている封止用ボルトや導電用ブスバーなどの銅塊状物が、鉄系金属やアルミニウム塊に噛みこまれてしまい、銅塊状物を外装材から単体分離できず、その後の選別工程によって、銅塊状物を分離することが極めて困難となる。したがって、破砕工程はできるだけ銅を
噛みこまずに、単体分離することが重要である。
【0019】
破砕工程において、破砕物のサイズが20mm以下になるように粒度調整して破砕する。破砕物のサイズを上記の範囲に調整することで、上述する銅箔や銅塊状物の噛みこみを著しく低減することができ、銅の回収率を高めることができる。好ましくは、破砕物のサイズが15mm以下である。また、より好ましくは破砕物のサイズが1mm以上である。
【0020】
粒度調整として、剪断式破砕機を用いて破砕を行う場合、破砕刃の下に開口を有するスクリーンを設置し、開口を通過するサイズになるまで破砕物を循環させる。このとき、スクリーンの開口を20mm程度、あるいは15mm程度とし、破砕した破砕物がスクリーンの開口を通過するまで繰り返し破砕を行って、破砕物のサイズを揃えることが重要である。これにより、鉄系金属やアルミニウム塊への銅箔の噛みこみを抑制することができ、また、銅塊状物の単体分離が可能となる。さらに、後段の選別工程における分離効率を向上させることができる。特に、破砕物のサイズを揃えることにより、後段の風力選別、エアテーブルなどの比重選別が有効に働く。
【0021】
スクリーンのない破砕機の場合、破砕は一度しか行われないため、破砕物のサイズが不揃いとなり、銅を単体分離することが困難となる。したがって、スクリーンなどの粒度を調整する機構を備えた破砕機を用いることが好ましい。また、剪断式破砕機以外にも衝撃系破砕機が存在するが、衝撃系破砕機を用いた場合には、外装材が圧し潰されてしまい銅塊状物を単体分離できず、銅箔はむしろ、噛みこみが増加する。したがって、破砕工程においては、剪断式破砕機を使用することが好ましい。
【0022】
スクリーンのある破砕機の場合、スクリーンの開口を通過しない破砕物は、破砕機の中を循環して破砕が繰り返される。このとき、破砕物は破砕機の軸と軸の隙間に滞留することになるが、軸の回転によって集電体に付着する極材粉が剥離されて、かえって分離効率が上昇する。分離効率を上昇させるために、三軸破砕機又は四軸破砕機を用いることがより好ましい。また、破砕工程は、剪断式破砕機を連続で設置したり、スクリーンを交換したりして、スクリーンの開口を徐々に狭めながら、一次破砕、二次破砕、のように、複数回行うことが有効である。
【0023】
[篩分け]
本発明の実施形態において、破砕後に必要に応じて、篩分けを行う。篩分けの目的は特に問わず、例えば、集電体に付着した極材粉を分離することを目的とすることができる。あるいは、その後の比重選別や磁力選別に最適なサイズの破砕物を得ることを目的とすることができる。
【0024】
篩の目開きは、その目的に応じて適宜、設定することができる。例えば、極材粉を分離する場合は、目開きを1mm以上10mm以下とすることができ、これにより、極材粉を篩下産物として分離し、篩上産物をその後の選別工程に移付することができる。
【0025】
[磁力選別]
本発明の実施形態において、破砕後に必要に応じて、磁力選別を行う。磁力選別の目的は特に問わず、例えば、外装材を構成する鉄系金属を磁着物として分離することを目的とすることができる。あるいは、アルミニウム箔を磁着物とし、銅箔を非磁着物として分離することができる。
【0026】
磁力選別に使用する磁力は、その目的に応じて適宜、設定することができる。例えば、鉄系金属を分離する場合は、表面磁束密度が0.3テスラ以下の磁石を用いることができる。また、アルミニウム箔を磁着物として、銅箔を非磁着物として分離する場合は、表面
磁束密度が0.8テスラ以上の磁石を用いることができる。
【0027】
[比重選別]
本発明の実施形態において、破砕後に必要に応じて、比重選別を行う。比重選別の目的は特に問わず、例えば、外装材、ボルト、ブスバーなどの塊状物を重産物とし、集電体の箔状物を軽産物として分離することができる。
【0028】
比重選別の方法や条件は、その目的に応じて適宜、設定することができる。例えば、エアテーブルや風力選別機、流動層選別機、重液選別装置などを用いて行うことができる。エアテーブルは、特許文献1に記載されるように気流と振動を用いて対象物の選別を行うものである。この選別を行うことにより、銅塊状物を分離することができる。
【0029】
破砕後は、上述したような、篩分け、磁力選別、比重選別を組み合わせることで、各種の有価物を分離、回収することができる。篩分け、磁力選別、比重選別を行う順序や回数などに特に制限はなく、対象物に応じて適宜選択することができる。例えば、比重選別した後に比重選別の方法や条件を変更して、再度、比重選別を行うことができる。あるいは、磁力選別によって磁着物を分離した後、比重選別を行い、その後、再度磁力選別を行って、磁着物を分離してもよい。
【0030】
また、篩分け、磁力選別、比重選別を行った後に、必要に応じて、再度、破砕を行うことができる。本開示において重要なことは、選別を行う前の破砕において、破砕物のサイズを一定の範囲に揃えて、鉄系金属やアルミニウム塊への銅箔の噛みこみを低減し、また、銅塊状物を単体分離することである。したがって、噛みこみを減らして選別した後は、必要に応じて、再度、破砕や篩分けを行うことができる。
【0031】
なお、鉄系金属やアルミニウム塊に噛みこまれた銅箔は、特許文献1、3のように、色彩選別によって分離することが考えられるが、破砕によって、鉄系金属やアルミニウム塊中に銅箔が積層されたような状態で圧し潰されているため、分離することが極めて困難である。本実施形態においては、破砕工程を工夫することによって銅箔の噛みこみを抑制しているため、通常、色彩選別は行う必要はない。
【0032】
[回収物]
以上の工程を経ることによって、外装材などを構成する鉄系金属、銅塊状物、アルミニウム塊、集電体を構成する銅箔、アルミニウム箔、極材粉であるリチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、黒鉛、シリコン、チタン、ニオブ、シリコンなどを分離することができる。なお、リチウムイオン二次電池の性能向上のために、活物質などの極材料が将来的に変更されることが考えられる。本開示においては、回収する有価物に少なくとも銅が含まれていればよい。
【実施例0033】
以下、実施例に基づいて説明する。なお、実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0034】
(実施例1)
リチウムイオン二次電池について
図3に示すフローに沿って有価物の回収を行った。
まず、リチウムイオン二次電池である車載用電池モジュールを、400℃~600℃の熱風を発生させることが可能な熱風式加熱炉を用いて、4時間の加熱処理を実施した。その後、加熱処理した電池モジュールを、四軸式の剪断式破砕装置により、破砕物のサイズが40mm以下になるように一次破砕を実施した。次に、一次破砕によって得られた破砕
物を四軸式の剪断式破砕機により15mm以下になるように二次破砕を実施した。次いで、得られた破砕物を、目開き1.0mmの一次篩により、篩下産物(極材粉)を分離した。
【0035】
一次篩により得られた1.0mm超える篩上産物に対して、磁束密度0.03テスラの吊り下げ式磁力選別設備を用いて、磁着成分である外装材破砕物である鉄系金属の除去を行った。非磁着物に対しては、風力選別を用いて、重産物と軽産物に選別した。
【0036】
先の風力選別で得られた重産物に対し、磁束密度0.15テスラのドラム式磁力選別設備を用いて、磁着成分である鉄系金属の除去を行った。一方、非磁着物に対して、エアテーブルによって、銅塊状物とアルミニウム塊の選別を行った。
【0037】
先の風力選別で得られた軽産物に対し、一軸式の剪断式破砕装置を用いて、三次破砕を行った。得られた破砕物を目開き1.0mmの二次篩により、篩下産物(極材粉)を分離した。篩により分離した1.0mmを超える篩上産物に対し比重選別して、重産物である銅塊状物とアルミニウム塊の除去を行った。得られた軽産物に対して、磁束密度0.15テスラのドラム式磁力選別設備を用いて、磁着成分である鉄系金属の除去を行った。非磁着物に対しては、磁束密度1テスラ以上の超高磁力選別設備を用いることで、銅箔とアルミニウム箔を分離した。
【0038】
(実施例2)
一次破砕による破砕物のサイズを25mm以下とした以外は、実施例1と同様の条件で、リチウムイオン二次電池から有価物を回収した。
【0039】
(比較例1)
二次破砕を実施しなかった以外は、実施例1と同様の条件で、リチウムイオン二次電池から有価物を回収した。
【0040】
加熱炉に投入した電池モジュール(リチウムイオン二次電池)における銅量に対する、銅塊状物及び銅箔としてのそれぞれの回収率及びその品位を表1に示す。なお、各種の回収率及び品位は、以下の式から算出した。
銅塊状物の回収率(%)=回収した銅塊状物の重量/二次電池中の銅の重量×100
銅箔の回収率(%)=回収した銅箔の重量/二次電池中の銅の重量×100
銅の合計回収率(%)=(回収した銅塊状物の重量+銅箔の重量)/二次電池中の銅の重量×100
銅塊状物の品位(%)=銅塊状物の重量/(エアテーブル重産物重量)×100
銅箔の品位(%)=銅箔の重量/(磁力選別(超高)非磁着物重量)×100
【0041】
【0042】
実施例1では、銅塊状物としての回収率が34%、品位が91%であり、銅箔としての回収率が28%、品位が87%であり、銅塊状物と銅箔とを合わせた銅の回収率は62%であった。
実施例2では、銅塊状物としての回収率が35%、品位が84%であり、銅箔としての
回収率が34%、品位が94%であり、銅塊状物と銅箔とを合わせた銅の回収率は69%であった。
比較例1では、銅塊状物としての回収率が0%であり、銅箔としての回収率が20%、品位が80%であり、銅塊状物と銅箔とを合わせた銅の回収率は20%であった。
以上の結果から、実施例1、2は、比較例1と比べると、銅の回収率が約40~50%向上したことが分かる。以上の通り、破砕物のサイズを20mm以下となるように、粒度調整して、破砕することで、封止用ボルトや導電用ブスバーの単体分離が促進され、銅塊状物の回収率が向上し、また、外装材に銅箔が噛み込まれにくくなり、銅箔の回収率が著しく向上する。
本発明によれば、リチウムイオン二次電池から有価物を回収する方法において、銅の回収率を向上させるとともに、鉄系金属中の銅を低減させて、その品位を改善することができる、という優れた効果を有する。今後市場の拡大が見込まれる、車載用リチウムイオン二次電池からの有価物回収方法として、好適に利用することができる。
リチウムイオン二次電池を加熱する加熱工程と、加熱後に破砕する破砕工程と、破砕後に篩分け、磁力選別、比重選別のいずれか一種以上の工程を経て、リチウムイオン二次電池から有価物を回収する方法であって、前記破砕工程において、破砕物の最大サイズが20mm以下になるように破砕することを特徴とするリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
前記破砕工程後、篩分けして、篩下産物である極材粉を分離する工程と、前記篩分けによりって分離される篩上産物を磁力選別して、磁着物である鉄系金属を分離する工程と、前記磁力選別によって分離される非磁着物を比重選別して、重産物と軽産物を分離する工程と、前記比重選別によって分離される重産物を磁力選別及び/又は比重選別して、銅塊状物とアルミニウム塊を分離する工程と、前記比重選別によって分離される軽産物を破砕する工程と、前記破砕によって得られる破砕物を篩分けして、篩下産物である極材粉を分離する工程と、前記篩分けによって分離される篩上産物を比重選別して、重産物と軽産物
を分離する工程と、前記比重選別によって分離される軽産物を磁力選別して、非磁着物である銅箔と磁着物であるアルミニウム箔を分離する工程とを含むことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
リチウムイオン二次電池を加熱する加熱工程と、加熱後に破砕する破砕工程と、破砕後に篩分け、磁力選別、比重選別のいずれか一種以上の工程を経て、リチウムイオン二次電池から有価物を回収する方法であって、前記破砕工程において、破砕物の最大サイズが20mm以下になるように破砕し、前記破砕工程後、篩分けして、篩下産物である極材粉を分離する工程と、前記篩分けによって分離される篩上産物を磁力選別して、磁着物である鉄系金属を分離する工程と、前記磁力選別によって分離される非磁着物を比重選別して、重産物と軽産物を分離する工程と、前記比重選別によって分離される重産物を磁力選別及び/又は比重選別して、銅塊状物とアルミニウム塊を分離する工程と、前記比重選別によって分離される軽産物を破砕する工程と、前記破砕によって得られる破砕物を篩分けして、篩下産物である極材粉を分離する工程と、前記篩分けによって分離される篩上産物を比重選別して、重産物と軽産物を分離する工程と、前記比重選別によって分離される軽産物を磁力選別して、非磁着物である銅箔と磁着物であるアルミニウム箔を分離する工程とを含む、リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。