(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158941
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】改質アスファルト乳剤、アスファルト混合物およびアスファルト舗装の補修方法
(51)【国際特許分類】
E01C 7/18 20060101AFI20231024BHJP
C08L 95/00 20060101ALI20231024BHJP
C08L 45/02 20060101ALI20231024BHJP
C08L 93/04 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
E01C7/18
C08L95/00
C08L45/02
C08L93/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069013
(22)【出願日】2022-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】390019998
【氏名又は名称】東亜道路工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】永原 篤
(72)【発明者】
【氏名】麻上 淳平
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 亮太
(72)【発明者】
【氏名】園田 涼
【テーマコード(参考)】
2D051
4J002
【Fターム(参考)】
2D051AC01
2D051AE01
2D051AG01
2D051AG11
2D051AH03
4J002AE05X
4J002AF02X
4J002AG00W
4J002BK00X
4J002CE00X
4J002GL00
4J002HA06
(57)【要約】
【課題】セメント類を使用することなく、再生CAE工法と同等の品質を可能にする。
【解決手段】骨材と混合され、安定処理路盤を再構築する改質アスファルト乳剤であって、アスファルトと、乳化剤と、粘着付与樹脂と、を含むことを特徴とする。また、前記乳化剤はカチオン系乳化剤であることを特徴とする。さらに、前記粘着付与樹脂はテルペン系粘着付与樹脂およびロジン系粘着付与樹脂のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨材と混合され、安定処理路盤を再構築する改質アスファルト乳剤であって、
アスファルトと、
乳化剤と、
粘着付与樹脂と、を含むことを特徴とする改質アスファルト乳剤。
【請求項2】
前記乳化剤はカチオン系乳化剤であることを特徴とする請求項1に記載の改質アスファルト乳剤。
【請求項3】
前記粘着付与樹脂はテルペン系粘着付与樹脂およびロジン系粘着付与樹脂のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の改質アスファルト乳剤。
【請求項4】
前記改質アスファルト乳剤の固形分に対する前記粘着付与樹脂の含有率が、3%以上100%未満であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の改質アスファルト乳剤。
【請求項5】
骨材と、アスファルトと、乳化剤と、樹脂と、を含むアスファルト混合物であって、
施工後の一軸圧縮強度が、1.5MPa以上2.9MPa以下であることを特徴とするアスファルト混合物。
【請求項6】
前記樹脂は、粘着付与樹脂であり、
粘着付与樹脂は、テルペン系粘着付与樹脂およびロジン系粘着付与樹脂のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項5に記載のアスファルト混合物。
【請求項7】
前記乳化剤はカチオン系乳化剤であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載のアスファルト混合物。
【請求項8】
前記樹脂の含有率が0.01%以上6%以下であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載のアスファルト混合物。
【請求項9】
補修対象である既設舗装に対して、安定処理路盤を再構築するアスファルト舗装の補修方法であって、
骨材に、請求項1または請求項2に記載の改質アスファルト乳剤を混合する混合工程を有し、
前記混合工程の前にセメント類を散布しないことを特徴とするアスファルト舗装の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質アスファルト乳剤、アスファルト混合物およびアスファルト舗装の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスファルト舗装は、路面から表層、基層、路盤の順となるように路床の上に構築される。アスファルト舗装は、加熱と冷却の繰り返しによる熱応力や、通過車両の重量による繰り返し応力により、時間と共に亀裂が生じる。その亀裂をそのまま放置すると、そこから浸入した水により路盤の支持力が低下し、やがて舗装全体の損傷に繋がる。舗装全体が損傷すると、表層のみを補修する場合と比べて、多大な労力や時間および費用が必要となる。
【0003】
アスファルト舗装の補修工法として、路上再生セメント・アスファルト乳剤安定処理工法(以下、再生CAE工法)が知られている。再生CAE工法は、補修対象となる既設アスファルト舗装のうち、表層から路盤の上部までを破砕し、破砕物にセメントおよびアスファルト乳剤を混合することにより、安定処理路盤として新たな上層路盤を再構築する工法であり、セメントとアスファルト乳剤の両方を用いて安定処理することで、上層路盤に適度な強度とたわみ性をもたせる(特許文献1~3および非特許文献1、2を参照)。なお、既設アスファルト舗装の状況によって、アスファルト混合物層をはぎ取ってから、路盤発生材にセメントおよびアスファルト乳剤を混合することもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-069922号公報
【特許文献2】特開昭59-224705号公報
【特許文献3】特開平11-302546号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「アスファルト乳剤」 一般社団法人 日本アスファルト乳剤協会 2020年4月発刊
【非特許文献2】「舗装再生便覧(平成22年度版)」 公益社団法人 日本道路協会 2010年11月改訂
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
再生CAE工法では、補修対象となる既設舗装上にセメントを散布し、その後にアスファルト乳剤を散布しながら既設舗装と破砕混合を行なう。このとき、施工機械の移動などによりセメントが浮遊し、粉塵が生じる。そのため、粉塵抑制型のセメント系固化材が使用されることもある。また、セメントやセメント固化材(以下、セメント類)は舗装面に均一に散布する必要があり、人力散布の場合には敷均しが多大な手間となる。
【0007】
また、セメント類は土と混合すると、土を構成する土粒子である粘土鉱物や有機物の種類によっては、水和物の生成が阻害され、固定されなかった六価クロムが溶出することがある。六価クロムは発ガン性物質であることから、舗装を補修する前に六価クロムの溶出量が環境基準値以下であることを確認する必要があり、材料コストを考慮しつつ六価クロムの溶出を抑えられるセメント類を選出する必要がある。このような作業には手間、労力、コストがかかるため、改善策が求められていた。
【0008】
以上のことから、再生CAE工法において、セメント類を添加せず、セメント類に代替する材料が検討されてきた。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、セメント類を使用することなく、再生CAE工法と同等の品質を可能にした改質アスファルト乳剤、アスファルト混合物およびアスファルト舗装の補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の改質アスファルト乳剤は、骨材と混合され、安定処理路盤を再構築する改質アスファルト乳剤であって、アスファルトと、乳化剤と、粘着付与樹脂と、を含むことを特徴とする。
【0011】
このように、粘着付与樹脂を含むため、セメント類を使用することなく、再生CAE工法と同等の強度を発現可能となり、セメント類を混合した場合と同等の品質を確保することができる。
【0012】
(2)また、本発明の改質アスファルト乳剤は、上記(1)記載の改質アスファルト乳剤において、前記乳化剤はカチオン系乳化剤であることを特徴とする。
【0013】
これにより、ノニオン系乳化剤を用いた場合と比べて強度発現までの時間が短縮できる。
【0014】
(3)また、本発明の改質アスファルト乳剤は、上記(1)または(2)記載の改質アスファルト乳剤において、前記粘着付与樹脂はテルペン系粘着付与樹脂およびロジン系粘着付与樹脂のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする。
【0015】
これにより、安定処理路盤として適切な強度を発現しやすくなる。
【0016】
(4)また、本発明の改質アスファルト乳剤は、上記(1)から(3)のいずれかに記載の改質アスファルト乳剤において、前記改質アスファルト乳剤の固形分に対する前記粘着付与樹脂の含有率が、3%以上100%未満であることを特徴とする。
【0017】
これにより、安定処理路盤として適切な強度を発現するように調整しやすくなる。
【0018】
(5)また、本発明のアスファルト混合物は、骨材と、アスファルトと、乳化剤と、粘着付与樹脂と、を含むアスファルト混合物であって、施工後の一軸圧縮強度が1.5MPa以上2.9MPa以下であることを特徴とする。
【0019】
再生CAE工法において、セメント類を混合する理由としては、安定処理路盤として適切な強度を得ることが挙げられる。これに対して、本発明のアスファルト混合物は、施工後の一軸圧縮強度が1.5MPa以上2.9MPa以下である。そのため、セメント類を使用することなく、再生CAE工法と同等の品質を可能にする。
【0020】
(6)また、本発明のアスファルト混合物は、上記(5)記載のアスファルト混合物において、前記樹脂は、粘着付与樹脂であり、粘着付与樹脂は、テルペン系粘着付与樹脂およびロジン系粘着付与樹脂のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする。
【0021】
これにより、テルペン系粘着付与樹脂およびロジン系粘着付与樹脂のうち少なくとも一方を含むから、セメント類を使用することなく、再生CAE工法と同等の強度を発現可能となる。
【0022】
(7)また、本発明のアスファルト混合物は、上記(5)または(6)記載のアスファルト混合物において、前記乳化剤はカチオン系乳化剤であることを特徴とする。
【0023】
再生CAE工法ではアスファルト乳剤にセメント類が併用されることから、イオンの影響を受けにくいノニオン系乳化剤を使用されることが多い。これに対して、本発明のアスファルト乳剤では、セメント類を使用しなくても補修材料として充分な強度を発現できるため、カチオン系乳化剤を用いることができる。そのため、ノニオン系乳化剤を用いた場合と比べて強度発現までの時間が短縮できる。
【0024】
(8)また、本発明のアスファルト混合物は、上記(5)から(7)のいずれかに記載のアスファルト混合物において、前記樹脂は、粘着付与樹脂であり、前記粘着付与樹脂の含有率が0.01%以上6%以下であることを特徴とする。
【0025】
このように、粘着付与樹脂の含有率が0.01%以上6%以下であるから、補修材料として適切な強度を発現する。
【0026】
(9)また、本発明のアスファルト舗装の補修方法は、補修対象である既設舗装に対して、安定処理路盤を再構築するアスファルト舗装の補修方法であって、骨材に、上記(1)~(4)のいずれかに記載の改質アスファルト乳剤を混合する混合工程を有し、前記混合工程の前にセメント類を散布しないことを特徴とする。
【0027】
このように、粘着付与樹脂を含むから、セメント類を使用することなく、再生CAE工法と同等の強度を発現可能となる。その結果、再生CAE工法と同等の品質を可能にすることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、セメント類を使用することなく、再生CAE工法と同等の品質を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】(a)補修対象である既設舗装の断面構造の一例を示す模式的な断面図である。(b)安定処理路盤が再構築された既設舗装の断面構造の一例を示す模式的な断面図である。
【
図2】本発明の第一実施形態に係る改質アスファルト乳剤の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3a】本発明の第一実施形態に係るアスファルト舗装の補修方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3b】本発明の第二実施形態に係るアスファルト舗装の補修方法の一例を示すフローチャートである。
【
図4】試料1~5における一軸圧縮強度を表すグラフである。
【
図5】試料1~5における一次変位量を表すグラフである。
【
図6】試料1~5における残留強度率を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
まず、再生CAE工法により補修される既設舗装の積層構造の変化について説明する。
図1(a)は、補修前の既設舗装の積層構造を示す断面図であり、
図1(b)は補修後の既設舗装の積層構造を示す断面図である。補修対象となる既設舗装100は、表層1、基層3、路盤20の順に路床30の上に積層する積層構造であり、アスファルト混合物から構成される表層1および基層3を合わせてアスファルト混合物層10とする。再生CAE工法は、補修対象となる既設舗装100のうち、表層1から路盤20の上部までを破砕し、安定処理路盤50として新たな上層路盤を再構築することでアスファルト舗装を補修する補修方法である。
【0031】
安定処理路盤50の品質として求められる指標として、一軸圧縮強度、一次変位量および残留強度率がある。一軸圧縮強度は1.5~2.9MPa、一次変位量は5~30(1/100cm)、残留強度率は65%以上が基準値である。従来のアスファルト乳剤では、一軸圧縮強度の基準値を満たすことが困難であることから、セメント類を併用する必要があった。なお、設計時には、作業時のばらつきを考慮して、一軸圧縮強度が1.6~2.2MPaとなるように設計することが好ましい。
【0032】
本発明者らは、再生CAE工法において、安定処理路盤として適切な強度が得られれば、セメント類を併用する必要がないことに着目し、アスファルト乳剤に対して粘着付与樹脂を添加することによりセメント類を添加した場合と同等の強度が得られることを見出し、本発明に至った。また、セメント類を添加する必要がなくなったことから、カチオン系乳化剤を使用することが可能となり、強度発現までの時間を短縮することを可能にした。以下、本発明の実施形態について説明する。
【0033】
[第一実施形態]
(改質アスファルト乳剤の構成)
本発明の改質アスファルト乳剤は、アスファルト、乳化剤および粘着付与樹脂を含み、骨材と混合されることで、安定処理路盤50を再構築する。
【0034】
骨材は、例えば、砕石、玉石、砂利、砂、再生骨材およびセラミックス等であり、既設舗装100の破砕物に含まれる骨材や路盤20から回収された路盤発生材を破砕・分級することで得られる路盤再生骨材など、再利用した材料を用いることが好ましい。なお、既設舗装100の破砕物には、既設舗装100のアスファルト混合物層10から回収される舗装発生材および路盤20から回収される路盤発生材の両方が含まれてもよいし、路盤発生材のみであってもよい。
【0035】
アスファルトは、レーキアスファルト等の天然アスファルト、ストレートアスファルトやブローンアスファルト、セミブローンアスファルト等の石油アスファルトのいずれであってもよいが、入手が容易で安価なストレートアスファルトが好ましい。
【0036】
乳化剤は、カチオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤およびアニオン系乳化剤のいずれであってもよいが、カチオン系乳化剤が好ましい。また、カチオン系乳化剤とノニオン系乳化剤を併用してもよい。
【0037】
カチオン系乳化剤としては、長鎖アルキル基を有する脂肪族あるいは脂環族のモノアミン、ジアミン、トリアミン、アミドアミン、ポリアミノエチルイミダゾリン、長鎖ヒドロキシアルキルジアミン、ロジンアミン、これらアミン類の酸化エチレン付加物、アミンオキサイド、または、これらのアミン系界面活性剤に塩酸、スルファミン酸、酢酸等の酸を作用させた水溶性ないし水分散性の塩、さらには、これらのアミン系界面活性剤の第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0038】
粘着付与樹脂は、アスファルトの外表面に付着してアスファルト表面を硬化する樹脂であり、例えば、テルペン系粘着付与樹脂、ロジン系粘着付与樹脂および石油系粘着付与樹脂である。粘着付与樹脂のなかでもテルペン系粘着付与樹脂およびロジン系粘着付与樹脂が特に好ましく、粘着付与樹脂としてテルペン系粘着付与樹脂およびロジン系粘着付与樹脂のうち少なくとも一方と、を含むことが好ましい。
【0039】
テルペン系粘着付与樹脂は、化学式(C5H8)n(nは自然数)で代表される炭化水素及びその誘導体であるテルペン類の単独重合体又は共重合体である。
【0040】
具体的なテルペン系樹脂としては、テルペンの単独重合体であるテルペン樹脂や、テルペン樹脂中のテルペンに由来する二重結合を水素添加により減少させた水添テルペン樹脂や、テルペンとフェノールの共重合体であるテルペンフェノール樹脂や、テルペンフェノール樹脂中のテルペンに由来する二重結合やフェノール由来の二重結合を水素添加により減少させた水添テルペンフェノール樹脂や、テルペンと芳香族炭化水素の共重合体である芳香族変性テルペン樹脂を挙げることができる。芳香族変性テルペン樹脂の原料である芳香族炭化水素には、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、インデンを用いることができる。これらは、単独または複数で使用してもよい。
【0041】
ロジン系粘着付与樹脂は、ウッドロジン、ガムロジンおよびトール油ロジンなどの天然ロジン、水素化ロジン、不均化ロジン、酸変性ロジンおよび重合ロジンのような変性ロジン、並びにこれらのアルカリ金属塩、エステル化合物およびジオール化合物が挙げられる。これらは、単独または複数で使用してもよい。
【0042】
また、改質アスファルト乳剤の固形分に対する粘着付与樹脂の含有率は、3%以上100%未満であり、好ましくは、5%以上25%以下であり、より好ましくは10%以上20%以下である。改質アスファルト乳剤の固形分とは、アスファルトと樹脂のことを指す。改質アスファルト乳剤の固形分に対する粘着付与樹脂の含有率が3%以上100%未満であるから、既設アスファルト舗装と混合されて施工された際に安定処理路盤として適切な強度が得られやすくなる。また、改質アスファルト乳剤の固形分に対する粘着付与樹脂の含有率が10%以上であるから、安定処理路盤として求められる一軸圧縮強度の基準値に対して余裕があり、骨材が低品質であっても適切な強度が得られ、20%以下であるから高価な粘着付与樹脂の割合を抑えることができ、原料コストが抑えられる。
【0043】
また、本発明の改質アスファルト乳剤に対して、分散剤、保護コロイド、天然ゴム、合成ゴム、紫外線吸収剤、pH調整剤、各種添加剤、粘度調整剤、電解質などをさらに添加してもよい。
【0044】
(アスファルト混合物の構成)
本発明のアスファルト混合物は、常温で改質アスファルト乳剤と骨材等を混合して製造される常温アスファルト混合物である。本発明のアスファルト混合物は、アスファルト舗装の補修材料として好適であり、改質アスファルト乳剤と骨材とを混合して製造される。アスファルト混合物が施工されることにより、安定処理路盤として既設舗装を再構築する。
【0045】
アスファルト混合物は、施工後の一軸圧縮強度が1.5~2.9MPaであり、一次変位量が5~30(1/100cm)であり、残留強度率65%以上である。一軸圧縮強度が1.5~2.9MPaであるから、補修材料として適切な強度が得られる。一次変位量が5~30(1/100cm)であり、残留強度率65%以上であるから、補修材料として適切なたわみ性が得られる。そのため、セメント類を使用することなく、再生CAE工法と同等の品質を可能にする。
【0046】
また、アスファルト混合物は、アスファルト混合物全体に対する粘着付与樹脂の含有率が0.01%以上6%以下であることが好ましく、より好ましくは0.02%以上1.5%以下であり、さらに好ましくは0.04%以上1.2%以下である。アスファルト混合物全体に対する粘着付与樹脂の含有率が0.01%以上6%以下であるから、補修材料として適切な強度が得られる。また、アスファルト混合物全体に対する粘着付与樹脂の含有率が0.04%以上では、安定処理路盤として求められる一軸圧縮強度の基準値に対して余裕があり、骨材が低品質であっても適切な強度が得られ、1.2%以下であるから高価な粘着付与樹脂の割合を抑えることができ、原料コストが抑えられる。
【0047】
なお、アスファルト混合物にセメント類を含んでもよいが、セメントの散布により粉塵が生じたり、六価クロムが溶出したりするおそれがあるため、アスファルト混合物にセメント類を含まないことが好ましい。また、アスファルト混合物にセメント類を混合する必要があっても、本発明のアスファルト混合物は施工後に安定処理路盤として適切な強度を発揮するため、従来のアスファルト混合物と比べて混合するセメント類の量を減らすことができる。アスファルト混合物全体にセメント類を1%配合する場合、改質アスファルト乳剤は5%以上15%以下配合することにより、施工後に安定処理路盤として適切な品質を得られる。
【0048】
(改質アスファルト乳剤の製造方法)
次に本発明の改質アスファルト乳剤の製造方法について説明する。
図2は、改質アスファルト乳剤の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0049】
まず、加熱機構および攪拌機構を有する溶解釜にて、130℃~160℃に加熱溶融したアスファルトに対して樹脂を添加する。攪拌速度100rpm~1000rpm、攪拌時間30分以上2時間以内という条件で攪拌および溶解させることで、本発明の改質アスファルト乳剤の固形分である改質アスファルトを製造する(ステップR1)。
【0050】
改質アスファルトの製造とは別に、加熱機構および攪拌機構を有する容器にて、水を40℃~80℃に温め、カチオン系乳化剤、pH調整剤および電解質を添加する。攪拌速度100rpm~1000rpmの条件で、乳化剤が溶解するまで攪拌することで、本発明の改質アスファルトを構成する乳化液を製造する(ステップR2)。
【0051】
改質アスファルトと乳化液を製造した後に、乳化装置を用いて改質アスファルトと乳化液を混合する。改質アスファルトと乳化液の割合は、改質アスファルト乳剤全体を100体積%として、固形分である改質アスファルトが50~65体積%となるように乳化装置に流入させる。乳化装置は高速度回転を行う円盤状の回転部であるローターと鼓枠状の固定部であるステーターとを有し、ローターとステーターの間隙に改質アスファルトと乳化液を通すことで、その空間内で発生した粒子相互間の摺摩擦渦作用によってアスファルト粒子の水中分散状態を得る。これにより、改質アスファルト乳剤が製造される。なお、乳化装置は、例えばコロイドミル・ハレル型ホモジナイザであり、ローターとステーターの間隙は0.05mm~0.85mmである。また、乳化装置内の圧力を0.05MPa~0.25MPaに調整することや、乳化装置から排出された改質アスファルト乳剤を水冷循環機構などにより急冷することで、改質アスファルト乳剤の粒子径を小さくするとともに均一化することができる。これにより、改質アスファルト乳剤の安定性が向上し、アスファルト粒子の沈降や合一防止に寄与する。
【0052】
(アスファルト舗装の補修方法)
本発明のアスファルト舗装の補修方法は、補修対象である既設舗装に対して安定処理路盤を再構築するアスファルト舗装の補修方法である。
図3aは、第一実施形態におけるアスファルト舗装の補修方法の一例を示すフローチャートである。以下にアスファルト舗装の補修方法の一例について説明する。
【0053】
まず、補修対象である既設舗装を予備破砕する(ステップS1)。既設舗装の予備破砕は切削機を用いて表層1から路盤20の一部まで切削してもよいし、スタビライザを用いて予備的に破砕してもよい。また、かさ上げが困難な場合、予備破砕後に余剰分を撤去してもよいし、アスファルト混合物層10を切削または撤去することで路盤20のみを残してもよい。
【0054】
次に、タイヤローラおよびモータグレーダを用いて、仮転圧・仮整形を行なう(ステップS2)。従来の再生CAE工法では仮転圧・仮整形の後にセメント類を散布する必要があるが、本発明のアスファルト舗装の補修方法では、改質アスファルト乳剤のみで適切な強度が発現するため、セメント類を散布する必要がない。
【0055】
次に、スタビライザを用いて、既設舗装の破砕および混合と、改質アスファルト乳剤の添加を同時に行なう(ステップS3)。これにより、既設舗装の破砕物に含まれる骨材と改質アスファルト乳剤とが混合される。既設舗装の破砕物は、通常アスファルト混合物層10から回収される舗装発生材と路盤20から回収される路盤発生材から構成されるが、予備破砕工程(ステップS1)においてアスファルト混合物層10が撤去されている場合には、路盤発生材のみで構成される。
【0056】
また、改質アスファルト乳剤の配合量については、「舗装再生便覧(平成22年版)」(公益社団法人 日本道路協会、平成22年発行)を参考に配合設計する。具体的には、まず最適含水量を確認するため、改質アスファルト乳剤量を暫定で3質量%とし、骨材、水、改質アスファルト乳剤を添加混合し、最適と思われる水量を中心としてその前後1%刻みにした供試体を5つ作製することで最適含水量を決定する。
【0057】
そして、「舗装調査・試験法便覧(平成31年版)」(B001)(公益社団法人 日本道路協会、平成31年3月発行)に示されるマーシャル安定度試験方法に記載のマーシャル供試体作成方法に準拠して、改質アスファルト乳剤の添加量が異なる5つの供試体を作製し、一軸圧縮強度および一次変位量を測定し、測定結果から残留強度率を算出し、その共通範囲から中央値を決定する。これにより、改質アスファルト乳剤の添加量が定められる。
【0058】
破砕混合工程(ステップS3)後、速やかに振動ローラで初転圧を行い、モータグレーダによって整形する(ステップS4)。整形後に、路盤の高さを測定し、安定処理路盤が所望の高さとなるように調整する。
【0059】
縦横断形状が整ったら、8~15tのタイヤローラと10t以上のロードローラを用いて所定の密度が得られるまで転圧することで、安定処理路盤が再構築される(ステップS5)。なお、路上再生路盤の厚さが20cmを超える場合は、締固め効果の大きい振動ローラを用いることが好ましい。
【0060】
[第二実施形態]
次に本発明の第二実施形態について説明する。第二実施形態では、再生工場においてアスファルト混合物を製造する点が第一実施形態におけるアスファルト舗装の補修方法と異なり、その他の点では同様である。
【0061】
図3bは、第二実施形態におけるアスファルト舗装の補修方法の一例を示すフローチャートである。第二実施形態におけるアスファルト舗装の補修方法では、既設舗装のアスファルト混合物層10および路盤20の一部または全部を撤去・回収する(ステップT1)。
【0062】
舗装対象の既設舗装もしくは他の既設舗装から回収した路盤発生材が再生工場へ運搬される。再生工場に運搬された路盤発生材は、所望の粒径となるように必要に応じて破砕・分級されることにより、路盤再生骨材として調整される。そして、路盤再生骨材と改質アスファルト乳剤とを混合することにより、アスファルト混合物を製造する(ステップT2)。
【0063】
次に、製造したアスファルト混合物を舗装対象となる既設舗装の場所まで運搬し、舗設する(ステップT3)。舗設後に、整形(ステップT4)および締固め(ステップT5)を行なうことで安定処理路盤が再構築される。
【0064】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形および均等物に及ぶことはいうまでもない。また、各図面に示された構成要素の構造、形状、数、位置、大きさ等は説明の便宜上のものであり、適宜変更しうる。
【0065】
[実施例]
「舗装再生便覧(平成22年版)」(公益社団法人 日本道路協会、平成22年発刊)に基づいて、一軸圧縮強度試験用の試験体を作製し、一軸圧縮試験を実施することで、一軸圧縮強度および一次変位量を測定し、測定結果から残留強度率を算出した。そして、各指標において、基準値を満たすものを合格とし、満たさないものを不合格と評価した。基準値は、一軸圧縮強度が1.5~2.9MPaであり、一次変位量が5~30(1/100cm)であり、残留強度率65%以上である。
【0066】
次に、各試料、各比較例および従来例を構成する原料について説明する。骨材としては、既設舗装から回収した路盤発生材とアスファルト混合物層から回収した舗装発生材とを混合したものを用いた。配合割合としては、路盤発生材および舗装発生材の全体に対して舗装発生材が30%となるように混合した。アスファルトとしては、ストレートアスファルトを用いた。樹脂としては、水添テルペン樹脂を用いた。カチオン系乳化剤としては、脂肪族ジアミンを用いた。ノニオン系乳化剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテルを用いた。セメントとしては、普通ポルトランドセメントと用いた。
【0067】
(試料1)
アスファルト混合物中のセメント配合率を0%とし、改質アスファルト乳剤の配合率を3%とし、改質アスファルト乳剤全体を100体積%として改質アスファルト(固形分)の配合率を57体積%とし、改質アスファルト乳剤中のアスファルト固形分に含まれる樹脂の配合率を25%として、試料1の試験体を作製した。
【0068】
(試料2)
改質アスファルト乳剤中のアスファルト固形分に含まれる樹脂の配合率を20%とした点を除いて試料1と同様に試料2の試験体を作製した。
【0069】
(試料3)
改質アスファルト乳剤中のアスファルト固形分に含まれる樹脂の配合率を15%とした点を除いて試料1と同様に試料3の試験体を作製した。
【0070】
(試料4)
改質アスファルト乳剤中のアスファルト固形分に含まれる樹脂の配合率を10%とした点を除いて試料1と同様に試料4の試験体を作製した。
【0071】
(試料5)
改質アスファルト乳剤中のアスファルト固形分に含まれる樹脂の配合率を5%とした点を除いて試料1と同様に試料5の試験体を作製した。
【0072】
(試料6)
アスファルト混合物中のセメント配合率を1%とし、改質アスファルト乳剤中のアスファルト固形分に含まれる樹脂の配合率を15%とした点を除いて試料1と同様に試料6の試験体を作製した。
【0073】
(試料7)
アスファルト混合物中のセメント配合率を1%とし、改質アスファルト乳剤中のアスファルト固形分に含まれる樹脂の配合率を10%とした点を除いて試料1と同様に試料7の試験体を作製した。
【0074】
(試料8)
アスファルト混合物中のセメント配合率を1%とし、改質アスファルト乳剤中のアスファルト固形分に含まれる樹脂の配合率を5%とした点を除いて試料1と同様に試料8の試験体を作製した。
【0075】
(従来例1)
アスファルト混合物中のセメント配合率を2.9%とし、アスファルト乳剤中のアスファルト固形分に含まれる樹脂の配合率を0%とし、カチオン系乳化剤の代わりにノニオン系乳化剤を用いたアスファルト乳剤の配合率を3.2%とした点を除いて試料1と同様に従来例1の試験体を作製した。
【0076】
(比較例1)
アスファルト混合物中のセメント配合率を1%とし、改質アスファルト乳剤中のアスファルト固形分に含まれる樹脂の配合率を20%とした点を除いて試料1と同様に比較例1の試験体を作製した。
【0077】
(比較例2)
アスファルト混合物中のセメント配合率を2%とし、改質アスファルト乳剤中のアスファルト固形分に含まれる樹脂の配合率を15%とした点を除いて試料1と同様に比較例2の試験体を作製した。
【0078】
(試験結果)
表1、表2に各試料および各比較例の試験結果を示す。また、
図4~6は、試料1~5における一軸圧縮強度、一次変位量、残留強度率を表すグラフである。従来例1および試料1~8では、各指標において基準値を満たしていることが認められた。また、試料1~8ではアスファルト乳剤中のアスファルト固形分に含まれる樹脂の配合率の増加に伴って一軸圧縮強度が大きくなった。一方、比較例1および2では、一軸圧縮強度が基準値より大きい値が測定された。また、試料1~5の結果を鑑みると、改質アスファルト乳剤の固形分に対する前記粘着付与樹脂の含有率が3%以上であれば、セメント類を用いずとも一軸圧縮強度が1.5MPa以上になると算出できる。
【表1】
【表2】
【0079】
以上のことから、アスファルト乳剤に粘着付与樹脂を添加することにより、施工後の一軸圧縮強度を大きくでき、セメント類を用いなくても安定処理路盤の品質規格を満たすことが確認できた。これにより、セメント類を散布することなく、セメント類を混合した場合と同等の品質を可能にする。
【符号の説明】
【0080】
100…既設舗装
1…表層
3…基層
10…アスファルト混合物層
20…路盤
30…路床
50…安定処理路盤