IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アークレイ株式会社の特許一覧

特開2023-158945制御装置、分離分析装置、分離分析方法、及び分離分析プログラム
<>
  • 特開-制御装置、分離分析装置、分離分析方法、及び分離分析プログラム 図1
  • 特開-制御装置、分離分析装置、分離分析方法、及び分離分析プログラム 図2
  • 特開-制御装置、分離分析装置、分離分析方法、及び分離分析プログラム 図3
  • 特開-制御装置、分離分析装置、分離分析方法、及び分離分析プログラム 図4
  • 特開-制御装置、分離分析装置、分離分析方法、及び分離分析プログラム 図5
  • 特開-制御装置、分離分析装置、分離分析方法、及び分離分析プログラム 図6
  • 特開-制御装置、分離分析装置、分離分析方法、及び分離分析プログラム 図7
  • 特開-制御装置、分離分析装置、分離分析方法、及び分離分析プログラム 図8
  • 特開-制御装置、分離分析装置、分離分析方法、及び分離分析プログラム 図9
  • 特開-制御装置、分離分析装置、分離分析方法、及び分離分析プログラム 図10
  • 特開-制御装置、分離分析装置、分離分析方法、及び分離分析プログラム 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158945
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】制御装置、分離分析装置、分離分析方法、及び分離分析プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20231024BHJP
   G01N 30/86 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
G01N30/88 Q
G01N30/86 M
G01N30/86 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069020
(22)【出願日】2022-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 一輝
(57)【要約】
【課題】クロマトグラムのピークの保持時間が近い複数のピークについて、試料濃度を調整することなく、ピークの識別を行う。
【解決手段】制御装置100は、予め準備された複数の試料に対してクロマトグラフィを実施して得られた、基準成分の基準ピークの保持時間、第1成分の第1ピークの保持時間と第2成分の第2ピークの保持時間との閾値、及び、試料中の成分の量を表す指標値の相関関係が記憶されたROM100Bと、基準成分と、第1成分又は第2成分である分析対象成分とを含む試料に対してクロマトグラフィを実施して基準ピークの保持時間、指標値、分析対象成分のピーク保持時間を取得する取得部102と、相関関係と、取得した基準ピークの保持時間及び指標値とに基づいて閾値を求め、閾値と分析対象成分のピーク保持時間とを比較して分析対象成分のピークが第1ピークであるか第2ピークであるかを識別する識別部103と、を備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロマトグラフィにより試料を分離、分析する分離分析装置の制御装置であって、
予め準備された複数の試料に対してクロマトグラフィを実施して得られた、基準成分の基準ピークの保持時間、第1成分の第1ピークの保持時間と第2成分の第2ピークの保持時間との閾値、及び、試料中の成分の量を表す指標値の相関関係が記憶された記憶部と、
前記基準成分と、前記第1成分又は前記第2成分である分析対象成分とを含む試料に対してクロマトグラフィを実施して前記基準ピークの保持時間、前記指標値、及び前記分析対象成分のピーク保持時間を取得する取得部と、
前記記憶部に記憶された前記相関関係と、前記取得部が取得した前記基準ピークの保持時間及び前記指標値とに基づいて前記閾値を求め、前記閾値と前記分析対象成分のピーク保持時間とを比較して前記分析対象成分のピークが前記第1ピークであるか前記第2ピークであるかを識別する識別部と、
を備えた制御装置。
【請求項2】
前記相関関係は、前記基準ピークの保持時間と前記第1ピークの保持時間との相関を表す第1相関、前記基準ピークの保持時間と前記第2ピークの保持時間との相関を表す第2相関、前記閾値、及び、前記指標値により定められる
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記相関関係は、前記指標値毎に、前記第1相関及び前記第2相関から、前記基準ピークの保持時間、前記閾値、及び前記指標値を変数とし、前記分析対象成分のピークの識別に用いる閾値を導出するための相関式又は相関テーブルとして表される
請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記相関関係は、前記指標値と前記第1ピークの保持時間との相関を表す第1相関、前記指標値と前記第2ピークの保持時間との相関を表す第2相関、前記閾値、及び、前記基準ピークの保持時間により定められる
請求項1に記載の制御装置。
【請求項5】
前記相関関係は、前記基準ピークの保持時間毎に、前記第1相関及び前記第2相関から、前記基準ピークの保持時間、前記閾値、及び前記指標値を変数とし、前記分析対象成分のピークの識別に用いる閾値を導出するための相関式又は相関テーブルとして表される
請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記指標値は、前記クロマトグラフィを実施して得られる、全ピークの面積、前記第1ピークの面積、前記第2ピークの面積、前記基準ピークの面積、前記第1ピークの高さ、前記第2ピークの高さ、及び、前記基準ピークの高さのいずれかである
請求項1に記載の制御装置。
【請求項7】
前記試料は、ヘモグロビンを含み、
前記基準成分はHbA0であり、前記第1成分はHbEであり、前記第2成分はHbDである
請求項1に記載の制御装置。
【請求項8】
分析カラムに導入する試料を調製するための試料調製ユニットと、
前記分析カラムを有し、前記分析カラムの充填剤に対する前記試料中の成分の吸着及び脱着を制御するための分析ユニットと、
前記分析カラムからの脱着液に含まれる成分を光学的に検出するための測光ユニットと、
前記試料調製ユニット、前記分析ユニット、及び前記測光ユニットが各々接続された、請求項1~請求項7の何れか1項に記載の制御装置と、
を備えた分離分析装置。
【請求項9】
予め準備された複数の試料に対してクロマトグラフィを実施して基準成分の基準ピークの保持時間、第1成分の第1ピークの保持時間と第2成分の第2ピークの保持時間との閾値、及び、試料中の成分の量を表す指標値の相関関係を取得し、
前記基準成分と、前記第1成分又は前記第2成分である分析対象成分とを含む試料に対してクロマトグラフィを実施して前記基準ピークの保持時間、前記指標値、及び前記分析対象成分のピーク保持時間を取得し、
前記相関関係と、前記取得した前記基準ピークの保持時間及び前記指標値とに基づいて前記閾値を求め、前記閾値と前記分析対象成分のピーク保持時間とを比較して前記分析対象成分のピークが前記第1ピークであるか前記第2ピークであるかを識別する、
分離分析方法。
【請求項10】
前記予め準備された複数の試料に対してクロマトグラフィを実施して得られる複数のクロマトグラムを前記指標値の大きさごとに分類し、
前記第1ピークの保持時間と前記第2ピークの保持時間との閾値、及び、前記基準ピークの保持時間の第1相関式を前記指標値の大きさごとに求めることで複数の前記第1相関式を取得し、
前記複数の第1相関式から、前記指標値、及び、前記指標値に対応する第1相関式の係数の第2相関式を求め、
前記第1相関式及び前記第2相関式に基づいて、前記相関関係を表す相関式を取得する、
請求項9に記載の分離分析方法。
【請求項11】
前記予め準備された複数の試料に対してクロマトグラフィを実施して得られる複数のクロマトグラムを前記基準ピークの保持時間の大きさごとに分類し、
前記第1ピークの保持時間と前記第2ピークの保持時間との閾値、及び、前記指標値の第1相関式を前記基準ピークの保持時間の大きさごとに求めることで複数の前記第1相関式を取得し、
前記複数の第1相関式から、前記基準ピークの保持時間、及び、前記基準ピークの保持時間に対応する第1相関式の係数の第2相関式を求め、
前記第1相関式及び前記第2相関式に基づいて、前記相関関係を表す相関式を取得する、
請求項9に記載の分離分析方法。
【請求項12】
予め準備された複数の試料に対してクロマトグラフィを実施して基準成分の基準ピークの保持時間、第1成分の第1ピークの保持時間と第2成分の第2ピークの保持時間との閾値、及び、試料中の成分の量を表す指標値の相関関係を取得し、
前記基準成分と、前記第1成分又は前記第2成分である分析対象成分とを含む試料に対してクロマトグラフィを実施して前記基準ピークの保持時間、前記指標値、及び前記分析対象成分のピーク保持時間を取得し、
前記相関関係と、前記取得した前記基準ピークの保持時間及び前記指標値とに基づいて前記閾値を求め、前記閾値と前記分析対象成分のピーク保持時間とを比較して前記分析対象成分のピークが前記第1ピークであるか前記第2ピークであるかを識別することを、
コンピュータに実行させるための分離分析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御装置、分離分析装置、分離分析方法、及び分離分析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、クロマトグラフィよりのクロマトグラムを受け、A/D変換器でデジタルデータに変換して取込み、所定の分析処理を実行するクロマトグラフ用データ処理装置が記載されている。このクロマトグラフ用データ処理装置は、取込まれるデータをプロットする記録手段と、データよりクロマトグラムのピークを検出するピーク検出手段と、成分同定のためのピークの許容時間幅を予め記憶する許容時間幅記憶手段と、検出されたピーク値の相当時間が、許容時間幅内であるか否かを判別する手段と、判別の結果許容時間内であると、その成分名を記録手段の記録クロマトグラムのピーク値近傍に記録させる手段と、を備える。
【0003】
また、特許文献2には、ガスクロマトグラフィ分析装置を用いてあらかじめ定めた対象物質の被測定物中への含有を判定する方法が記載されている。この方法は、目標とする検出下限を確保できるカラムを使用し、分析対象物質の標準物質を測定することによって得た結果から、分析対象物質に関して試料負荷量に応じたピーク面積と保持時間との相関式を算出し、被測定物を分析することにより得たクロマトグラム中にある分析対象物質のピークが検出されうる保持時間近傍の検出ピークの面積を得るとともに、前記相関式を活用して検出ピークの面積から分析対象物質のピークが出現する保持時間を推定し、その推定した保持時間と被測定物のクロマトグラム中の検出ピークの保持時間とを比較することにより被測定物中の分析対象物質の含有判定を行う。
【0004】
血中の各種ヘモグロビン(以下、「Hb」ともいう。)についても上記のような分離分析方法を用いた成分の同定、測定が行われている。特に、HbD、HbE、HbS、HbC等の主要なヘモグロビン変異体は同定のニーズが高く、ピークの保持時間から同定が可能とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1-079656号公報
【特許文献2】特開2012-163476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、昨今のHbの分離分析装置は、測定時間の短縮化によりHb種の各ピーク保持時間の間は狭くなっている。このため、ピークの保持時間が近いHb種のピークを区別することは困難である。例えば、陽イオン交換クロマトグラフィでHbDを分析すると、HbDのピーク保持時間は、HbEのピーク保持時間と近い時間を示す。HbDのピーク保持時間の許容時間幅内にHbEのピークが検出される場合もあり、上記特許文献1のように許容時間幅を設定してもHbDのピークとHbEのピークとの識別は困難である。また、事前に分析者によって試料濃度を調整することは可能だが、作業が煩雑であることから、血液の状態のまま測定できることが望ましい。
【0007】
本開示は、上記の点に鑑みてなされたものであり、クロマトグラムのピークの保持時間が近い複数のピークについて、試料濃度を調整することなく、ピークの識別を行うことができる制御装置、分離分析装置、分離分析方法、及び分離分析プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本開示の一態様に係る制御装置は、クロマトグラフィにより試料を分離、分析する分離分析装置の制御装置であって、予め準備された複数の試料に対してクロマトグラフィを実施して得られた、基準成分の基準ピークの保持時間、第1成分の第1ピークの保持時間と第2成分の第2ピークの保持時間との閾値、及び、試料中の成分の量を表す指標値の相関関係が記憶された記憶部と、前記基準成分と、前記第1成分又は前記第2成分である分析対象成分とを含む試料に対してクロマトグラフィを実施して前記基準ピークの保持時間、前記指標値、及び前記分析対象成分のピーク保持時間を取得する取得部と、前記記憶部に記憶された前記相関関係と、前記取得部が取得した前記基準ピークの保持時間及び前記指標値とに基づいて前記閾値を求め、前記閾値と前記分析対象成分のピーク保持時間とを比較して前記分析対象成分のピークが前記第1ピークであるか前記第2ピークであるかを識別する識別部と、を備える。
【0009】
更に、上記目的を達成するために、本開示の一態様に係る分離分析装置は、分析カラムに導入する試料を調製するための試料調製ユニットと、前記分析カラムを有し、前記分析カラムの充填剤に対する前記試料中の成分の吸着及び脱着を制御するための分析ユニットと、前記分析カラムからの脱着液に含まれる成分を光学的に検出するための測光ユニットと、前記試料調製ユニット、前記分析ユニット、及び前記測光ユニットが各々接続された、上記制御装置と、を備える。
【0010】
更に、上記目的を達成するために、本開示の一態様に係る分離分析方法は、予め準備された複数の試料に対してクロマトグラフィを実施して基準成分の基準ピークの保持時間、第1成分の第1ピークの保持時間と第2成分の第2ピークの保持時間との閾値、及び、試料中の成分の量を表す指標値の相関関係を取得し、前記基準成分と、前記第1成分又は前記第2成分である分析対象成分とを含む試料に対してクロマトグラフィを実施して前記基準ピークの保持時間、前記指標値、及び前記分析対象成分のピーク保持時間を取得し、前記相関関係と、前記取得した前記基準ピークの保持時間及び前記指標値とに基づいて前記閾値を求め、前記閾値と前記分析対象成分のピーク保持時間とを比較して前記分析対象成分のピークが前記第1ピークであるか前記第2ピークであるかを識別する。
【0011】
更に、上記目的を達成するために、本開示の一態様に係る分離分析プログラムは、予め準備された複数の試料に対してクロマトグラフィを実施して基準成分の基準ピークの保持時間、第1成分の第1ピークの保持時間と第2成分の第2ピークの保持時間との閾値、及び、試料中の成分の量を表す指標値の相関関係を取得し、前記基準成分と、前記第1成分又は前記第2成分である分析対象成分とを含む試料に対してクロマトグラフィを実施して前記基準ピークの保持時間、前記指標値、及び前記分析対象成分のピーク保持時間を取得し、前記相関関係と、前記取得した前記基準ピークの保持時間及び前記指標値とに基づいて前記閾値を求め、前記閾値と前記分析対象成分のピーク保持時間とを比較して前記分析対象成分のピークが前記第1ピークであるか前記第2ピークであるかを識別することを、コンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本開示によれば、クロマトグラムのピークの保持時間が近い複数のピークについて、試料濃度を調整することなく、ピークの識別を行うことができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】高速液体クロマトグラフィを利用したHPLC装置の概略構成を示す図である。
図2】HPLC装置の制御系の構成例を示すブロック図である。
図3】クロマトグラムの一例を示す図である。
図4】HbA0、HbE、及びHbDを含むクロマトグラムの一例を示す図である。
図5】クロマトグラムを用いて作成したピーク保持時間の相関の一例を示す散布図である。
図6】実施形態に係る制御装置の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
図7】実施形態に係る分離分析プログラムによる相関関係導出処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図8】(A)~(D)は、全ピーク面積毎のピーク保持時間の相関の一例を示す散布図である。
図9】(A)~(D)は、図8(A)~図8(D)の各散布図から得られる各近似式の一例を示す図である。
図10】(A)は、傾きと全ピーク面積(指標値)との近似式の一例を示す図である。(B)は、切片と全ピーク面積(指標値)との近似式の一例を示す図である。
図11】実施形態に係る分離分析プログラムによるピーク同定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本開示の技術を実施するための形態の一例について詳細に説明する。なお、動作、作用、機能が同じ働きを担う構成要素及び処理には、全図面を通して同じ符号を付与し、重複する説明を適宜省略する場合がある。各図面は、本開示の技術を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本開示の技術は、図示例のみに限定されるものではない。また、本実施形態では、本開示と直接的に関連しない構成や周知な構成については、説明を省略する場合がある。
【0015】
図1は、高速液体クロマトグラフィ(High Performance Liquid Chromatography:HPLC)を利用したHPLC装置Xの概略構成を示す図である。このHPLC装置Xは、分離分析装置の一例である。
【0016】
HPLC装置Xは、採血管11をセットして、全血中のグリコヘモグロビン(HbA1c)の濃度を自動で測定するように構成されたものである。このHPLC装置Xは、複数の溶離液ボトル12A、12B、12C、12D、12E(図1では5個)等を含む装置本体2を備えている。
【0017】
各溶離液ボトル12A~12Eは、後述する分析カラム60に供給すべき溶離液A~Eを各々保持したものである。各溶離液は、用途に応じて例えば組成、成分比、pH、浸透圧等が異なる。
【0018】
装置本体2は、試料調製ユニット5、分析ユニット6、及び測光ユニット7を有している。
【0019】
採血管11は、例えば、ラック(図示省略)に収納され、後述する試料調製ユニット5におけるノズル51により採取可能な位置に移動するように構成されている。
【0020】
試料調製ユニット5は、採血管11から採取した血液から、分析カラム60に導入する試料を調製するためのものである。この試料調製ユニット5は、ノズル51、及び希釈槽53を有している。
【0021】
ノズル51は、採血管11の血液試料13をはじめとする各種の液体を採取するためのものであり、液体の吸引・吐出が可能であるとともに、上下方向及び水平方向に移動可能とされている。このノズル51の動作は、後述する制御装置100によって制御される。
【0022】
分析ユニット6は、分析カラム60の充填剤に対する生体成分の吸着・脱着をコントロールし、各種の生体成分を測光ユニット7に供するためのものである。分析ユニット6における設定温度は、例えば40℃程度とされる。分析カラム60は、試料中のヘモグロビンを選択的に吸着させるための充填剤を保持させたものである。充填剤としては、例えばメタクリル酸-メタクリル酸エステル共重合体が使用される。
【0023】
分析ユニット6は、分析カラム60の他に、マニホールド61、送液ポンプ62、及びインジェクションバルブ63を有している。
【0024】
マニホールド61は、複数の溶離液ボトル12A~12Eのうちの特定の溶離液ボトルから、分析カラム60に選択的に溶離液を供給させるためのものである。このマニホールド61は、配管80A~80Eを介して溶離液ボトル12A、12B、12C、12D、12Eに各々接続され、配管84を介してインジェクションバルブ63に接続されている。
【0025】
送液ポンプ62は、溶離液をインジェクションバルブ63に移動させるための動力を付与するためのものであり、配管84の途中に設けられている。
【0026】
インジェクションバルブ63は、一定量の導入用試料を採取するとともに、その導入用試料を分析カラム60に導入可能とするものであり、複数の導入ポート及び排出ポート(図示省略)を備えている。このインジェクションバルブ63には、インジェクションループ64が接続されている。このインジェクションループ64は、一定量(例えば数μL)の液体を保持可能なものであり、インジェクションバルブ63を適宜切り替えることにより、インジェクションループ64が希釈槽53と連通して希釈槽53からインジェクションループ64に導入用試料が供給される状態、インジェクションループ64がプレフィルターPF及び配管85を介して分析カラム60と連通してインジェクションループ64から導入用試料が分析カラム60に導入される状態を選択することができる。このようなインジェクションバルブ63としては、例えば六方バルブを使用することができる。なお、プレフィルターPFは、試料や溶離液を濾過するためのフィルターである。
【0027】
測光ユニット7は、分析カラム60からの脱着液に含まれるヘモグロビンを光学的に検出するためのものであり、配管87を介して、分析カラム60からの脱着液を排出するための廃液槽88に接続されている。
【0028】
図2は、HPLC装置Xの制御系の構成例を示すブロック図である。
【0029】
図2に示すように、HPLC装置Xは、制御装置100を備えている。制御装置100は、CPU(Central Processing Unit)100A、ROM(Read Only Memory)100B、RAM(Random Access Memory)100C、及び入出力インターフェース(I/O)100Eがバス100Fを介して各々接続された構成となっている。また、HPLC装置Xは、オペレータからの入力を受け付ける操作部(図示省略)を備えている。
【0030】
I/O100Eには、試料調製ユニット5、分析ユニット6、及び測光ユニット7が接続されている。
【0031】
分析カラム60から排出される各種ヘモグロビンを含む溶離液は、配管86を介して測光ユニット7に供給される。この溶離液は、配管87を介して廃液槽88に導かれる。
【0032】
測光ユニット7においては、溶離液に対して連続的に光が照射され、その受光結果(吸光度)が制御装置100に出力される。そして、制御装置100においてクロマトグラムが演算される。
【0033】
図3は、クロマトグラムの一例を示す図である。図3において、横軸は測定開始からの経過時間を示し、縦軸は吸光度を示す。
【0034】
図3に示すように、クロマトグラムは、測定を開始してからの経過時間と受光結果としての吸光度との関係を表すグラフとして表される。このクロマトグラムのピークがどの位置に現れるかによって、どのヘモグロビン(図3の例では、HbA0、HbD、HbS、HbC)が検出されたかを知ることができると共に、ピーク部分(山なりの部分)における吸光度の積算値、すなわちピーク部分の面積の大きさによってヘモグロビンの量(濃度)を知ることができる。HbA0は、各種ヘモグロビンの中で最もピークが大きく、識別が容易であるため、基準となる成分である。なお、測定開始時点から各ヘモグロビンのピークが出現する時点までの経過時間をピーク保持時間(リテンションタイム)という。
【0035】
なお、本実施形態に係る液体クロマトグラフィ測定処理を実行するための分離分析プログラムは、本実施形態では一例としてROM100Bに予め記憶される。CPU100Aは、ROM100Bに記憶された分離分析プログラムをRAM100Cに書き込んで実行する。また、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)等の記憶媒体に分離分析プログラムを記憶し、これをCD-ROMドライブ等で読み込むことにより実行するようにしてもよい。
【0036】
分離分析プログラムは、例えば、制御装置100に予めインストールされていてもよい。分離分析プログラムは、不揮発性の非一時的記憶媒体に記憶して、又はネットワーク回線を介して配布して、制御装置100に適宜インストールしたり、アップグレードしたりすることで実現してもよい。なお、不揮発性の非一時的記憶媒体の例としては、CD-ROM、光磁気ディスク、HDD(Hard Disk Drive)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)、フラッシュメモリ、メモリカード等が想定される。
【0037】
ところで、陽イオン交換クロマトグラフィでHbDを分析すると、HbA0のピーク保持時間、HbEのピーク保持時間、及び、HbDのピーク保持時間は、一例として、図4に示すようになる。
【0038】
図4は、HbA0、HbE、及びHbDを含むクロマトグラムの一例を示す図である。図4において、横軸は時間を示し、縦軸は吸光度を示す。
【0039】
図4に示すように、HbA0のピークは容易に識別可能であるが、HbEのピーク保持時間と、HbDのピーク保持時間とは近いことが分かる。このため、ピーク保持時間だけでHbDのピークとHbEのピークとを識別するのは難しい。
【0040】
例えば、HbA0とHbEを含む試料、及び、HbA0とHbDを含む試料を準備し、各試料を様々な希釈濃度に調整した上で各調整試料を測定し、測定して得られた各クロマトグラムに現れるHbA0ピークのピーク保持時間とHbDピークのピーク保持時間、及び、HbA0ピークのピーク保持時間とHbEピークのピーク保持時間をクロマトグラムごとにプロットした散布図を作成すると、図5に示すようになる。図5から、HbA0のピーク保持時間とHbEのピーク保持時間、及び、HbA0のピーク保持時間とHbDのピーク保持時間が相関することが読み取れる。
【0041】
図5において、横軸はHbA0のピーク保持時間であるTrA0を示し、縦軸はHbE又はHbDのピーク保持時間であるTrXを示す。図5は、クロマトグラムの各ピークの面積を表す値を全て合計した合計値(全ピークの合計面積を表す値。以下、「Tarea」ともいう。)が所定範囲(例えば、0~130,000)を示すクロマトグラムを用いて作成された散布図である。また、図5において、HbA0のピーク保持時間とHbEのピーク保持時間との相関を第1相関といい、HbA0のピーク保持時間とHbDのピーク保持時間との相関を第2相関という。
【0042】
図5に示すように、HbEとHbDとでは一定の傾向はあるものの、矢印で示すように重複する部分があり、HbA0の保持時間との相関のみでは識別することは困難である。換言すると、HbA0ピークのピーク保持時間に基づいてHbEピークのピーク保持時間とHbDピークのピーク保持時間との閾値を定めても、HbEピークとHbDピークを識別することは困難である。原因としては、試料中に含まれるヘモグロビンの量によってピーク保持時間がずれるため、ピーク保持時間が近いHbEとHbDとでは識別が困難になると考えられる。
【0043】
これに対して、本発明者は、試料中のヘモグロビンの量とHbA0ピークのピーク保持時間に基づいてHbEピークのピーク保持時間とHbDピークのピーク保持時間との閾値を定めれば、ピーク保持時間が近いHbEのピークとHbDのピークを識別できることを見出した。以下、一例として、HbA0を基準成分とし、HbEを分析対象成分の第1成分とし、HbDを分析対象成分の第2成分として説明する。この場合、HbA0のピークを基準ピークといい、HbEのピークを第1ピークといい、HbDのピークを第2ピークという。なお、分析対象とする試料は、ヘモグロビンを含む試料に限定されるものではなく、ピーク保持時間が比較的近い成分を含む試料であれば、適用することが可能とされる。
【0044】
本実施形態に係る制御装置100のCPU100Aは、ROM100Bに記憶されている分離分析プログラムをRAM100Cに書き込んで実行することにより、図6に示す各部として機能する。
【0045】
図6は、本実施形態に係る制御装置100の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【0046】
図6に示すように、本実施形態に係る制御装置100のCPU100Aは、導出部101、取得部102、及び識別部103として機能する。
【0047】
導出部101は、予め準備された複数の試料に対してクロマトグラフィを実施して得られた、HbA0の基準ピークの保持時間である基準ピーク保持時間、HbEの第1ピークの保持時間である第1ピーク保持時間とHbDの第2ピークの保持時間である第2ピーク保持時間との閾値、及び、試料中のヘモグロビンの量を表す指標値により定まる相関関係を導出する。相関関係は、相関式として表してもよいし、相関テーブルとして表してもよい。また、指標値には、クロマトグラムにおける、全ピークの面積(=Tarea)、HbEの第1ピークの面積、HbDの第2ピークの面積、HbA0の基準ピークの面積、HbEの第1ピークの高さ、HbDの第2ピークの高さ、及び、HbA0の基準ピークの高さのいずれかが用いられる。これらの指標値は、クロマトグラムから得られる。
【0048】
相関式又は相関テーブルは、例えば、基準ピーク保持時間と第1ピーク保持時間との相関を表す第1相関、基準ピーク保持時間と第2ピーク保持時間との相関を表す第2相関、及び、指標値により定められる。つまり、導出部101は、指標値毎にクロマトグラムを分類し、各クロマトグラムの第1ピーク保持時間と第2ピーク保持時間をプロットして作成した各指標値毎の散布図に表れる第1相関及び第2相関から、基準ピーク保持時間、指標値、及び分析対象成分のピークの識別に用いる閾値を変数とし、分析対象成分のピークの識別に用いる閾値を導出するための相関式又は相関テーブルを導出する。導出部101により導出された相関式又は相関テーブルはROM100Bに記憶される。なお、制御装置100が基準ピーク保持時間、指標値、及び分析対象成分のピークの識別に用いる閾値を変数とする相関式又は相関テーブルを記憶したROM100Bを備えていれば、導出部101を備える必要は無い。例えば、相関式又は相関テーブルを予め記憶させたROMを用いて制御装置100を製造する場合、制御装置100の構成から導出部101を省くことができる。ここで、相関式の一例を下記の式(1)(以下、「相関式(1)」という。)に示す。なお、この相関式(1)を生成する具体的な処理については後述する。
【0049】
y=(c×Tarea+d)×TrA0+(e×Tarea+f) ・・・(1)
【0050】
但し、yは閾値、Tareaは全ピーク面積(指標値)、TrA0は基準ピークであるHbA0のピーク保持時間(基準ピーク保持時間)を示す。c、d、e、fは、全ピーク面積(指標値)毎の第1相関及び第2相関から得られる定数である。
【0051】
取得部102は、分析対象とする試料に対してクロマトグラフィを実施してクロマトグラムを取得する。具体的には、試料調製ユニット5、分析ユニット6、及び測光ユニット7を制御してクロマトグラフィを実施する。そして、測光ユニット7が出力する光学測定値である吸光度を取得し、取得した吸光度と測定開始からの経過時間を用いてクロマトグラムを作成する。取得部102は、クロマトグラムから、基準ピーク保持時間、全ピーク面積(指標値)、及び分析対象成分のピーク保持時間を取得する。ここでいう試料は、基準成分の一例であるHbA0と、分析対象成分の一例であるHbE又はHbDを含むものとする。但し、HbE及びHbDのどちらを含むかは未知である。
【0052】
識別部103は、ROM100Bに予め記憶された相関関係から、取得部102で取得されたクロマトグラムから得られる分析対象成分のピークがHbEの第1ピークであるかHbDの第2ピークであるかを識別する。
【0053】
具体的に、識別部103は、一例として、上記相関式(1)を用いて、取得部102で取得されたクロマトグラムから得られる基準ピーク保持時間及び全ピーク面積(指標値)に対応する閾値を求め、求めた閾値と、クロマトグラムから得られる分析対象成分のピーク保持時間とを比較することにより、分析対象成分のピークが第1ピークであるか第2ピークであるかを識別する。HbEとHbDの場合、分析対象成分のピーク保持時間が閾値より小さい場合、HbEと同定され、分析対象成分のピーク保持時間が閾値以上である場合、HbDと同定される。
【0054】
次に、図7図11を参照して、本実施形態に係る制御装置100の作用を説明する。
【0055】
図7は、本実施形態に係る分離分析プログラムによる相関関係導出処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、図7の例では、HbEとHbDの2つのピークを識別するための上記相関式(1)を生成する処理について具体的に説明する。
【0056】
分離分析プログラムによる相関関係導出処理は、制御装置100のCPU100Aが、ROM100Bに記憶されている分離分析プログラムをRAM100Cに書き込むことで実行される。
【0057】
図7のステップS101では、CPU100Aが、上記相関式(1)の生成に用いる複数のクロマトグラムを取得する。
【0058】
ここで、クロマトグラムの作成に用いる溶離液及び検体の一例について具体的に説明する。溶離液としては、以下の溶離液A、B、Cを準備した。ヘモグロビンの溶出力は、溶離液A<溶離液C<溶離液B、である。
【0059】
溶離液A:原料として、濃度1.44wt%のリン酸二水素ナトリウム二水和物、濃度0.16wt%のリン酸水素二ナトリウムを含み、pH5.08に調整。
溶離液B:原料として、濃度0.02wt%のリン酸二水素ナトリウム二水和物、濃度0.50wt%のリン酸水素二ナトリウムを含み、pH8.0に調整。
溶離液C:原料として、濃度0.12wt%のリン酸二水素ナトリウム二水和物、濃度0.33wt%のリン酸水素二ナトリウムを含み、pH6.82に調整。
【0060】
また、検体としては、HbA0及びHbDを含みHbEを含まない血液検体を22検体準備し、HbA0及びHbEを含みHbDを含まない血液検体を19検体準備した。
【0061】
次に、上述のHPLC装置Xを用いて、上記で準備した血液検体を以下の手順で複数回測定する。
【0062】
(S1)装置本体2に溶離液Aを流して分析カラム60を平衡化する。
(S2)溶血した所定量の血液検体を分析カラム60に導入する。
(S3)溶離液Aを所定時間(例えば、13秒)流す。
(S4)溶離液Aと溶離液Cを所定割合(例えば、1:9)で混合した液を所定時間(例えば、5秒)流してHbA0を溶出する。
(S5)溶離液Cを所定時間(例えば、17秒)流してHbA2、HbE、HbDを溶出する。また、溶離液Bを所定時間(例えば、2秒)流して分析カラム60に残ったヘモグロビンを全て溶出する。
(S6)溶離液Aを所定時間(例えば、5秒)流す。
(S7)検出波長が例えば420nmである測光ユニット7(光学検出器)により得られた吸光度からクロマトグラムを作成する。
【0063】
(S8)上記クロマトグラムに現れたピークの保持時間と、ピークの大きさから、HbDに由来する第2ピーク、HbEに由来する第1ピーク、HbA0に由来する基準ピークを同定する。具体的には、HbDに由来する第2ピークは約25秒に出現するピークである。HbEに由来する第1ピークは約23秒に出現するピークである。HbA0に由来する基準ピークは約19秒に出現するピークであり、ピークの高さ又は面積が最も大きいピークである。
(S9)HbDに由来する第2ピーク保持時間(TrHbD)、HbA0に由来する基準ピーク保持時間(TrA0)、クロマトグラムの全ピーク面積(Tarea)をHbD及びHbA0を含む検体毎に得る。
(S10)同様に、HbEに由来する第1ピーク保持時間(TrHbE)、HbA0に由来する基準ピーク保持時間(TrA0)、クロマトグラムの全ピーク面積(Tarea)をHbE及びHbA0を含む検体毎に得る。
【0064】
なお、分析カラム60に導入されたヘモグロビン量の指標としてクロマトグラムの全ピーク面積(Tarea)を用いたが、これに限定されるものではなく、分析カラム60に導入されたヘモグロビン量の指標となる値であればよい。例えば、総ヘモグロビン量の相当量を占めるHbA0の基準ピークの面積、総ヘモグロビン量の一定量を占める変異ヘモグロビンであるHbDの第2ピークの面積又はHbEの第1ピークの面積を用いることができる。また、ピークの面積の代わりにピークの高さを用いてもよい。また、全ピーク面積(Tarea)と相関性のある特定のピークの面積から全ピーク面積(Tarea)を推測することで間接的に得るようにしてもよい。
【0065】
ステップS102では、CPU100Aが、ステップS101で取得した複数のクロマトグラムを指標値(例えば、全ピーク面積Tarea)の大きさごとに分類する。具体的には、一例として、図8(A)~図8(D)に示すように、全ピーク面積Tarea毎にクロマトグラムを分類し各クロマトグラムの第1ピーク保持時間と第2ピーク保持時間を全ピーク面積Tarea毎にプロットすることで、全ピーク面積Tarea毎に散布図を作成する。
【0066】
図8(A)~図8(D)は、全ピーク面積Tarea毎のピーク保持時間の相関の一例を示す散布図である。図8(A)~図8(D)において、横軸はTrA0を示し、縦軸はTrX(TrHbD及びTrHbE)を示す。
【0067】
図8(A)は、全ピーク面積Tareaが第1範囲(例えば、90,001~130,000)を示すクロマトグラムの第1相関及び第2相関を分類した散布図(試料1)である。図8(B)は、全ピーク面積Tareaが第2範囲(例えば、60,001~90,000)を示すクロマトグラムの第1相関及び第2相関を分類した散布図(試料2)である。図8(C)は、全ピーク面積Tareaが第3範囲(例えば、30,001~60,000)を示すクロマトグラムの第1相関及び第2相関を分類した散布図(試料3)である。図8(D)は、全ピーク面積Tareaが第4範囲(例えば、0~30,000)を示すクロマトグラムの第1相関及び第2相関を分類した散布図(試料4)である。なお、全ピーク面積Tareaの範囲の例示は、クロマトグラムから得られた面積を表す値である。また、図8(A)の散布図に用いたクロマトグラムのTareaの平均値は117,517を示し、図8(B)の散布図に用いたクロマトグラムのTareaの平均値は77,826を示し、図8(C)の散布図に用いたクロマトグラムのTareaの平均値は38,936を示し、図8(D)の散布図に用いたクロマトグラムのTareaの平均値は11,027を示す。
【0068】
図8(A)~図8(D)に示すように、いずれの散布図においてもHbEとHbDとを明確に識別可能であることが分かる。つまり、全ピーク面積Tareaと基準ピーク保持時間TrA0に応じて、第1ピーク保持時間TrHbEと第2ピーク保持時間TrHbDとの閾値を設定すれば、HbEに由来する第1ピークと、HbDに由来する第2ピークとを識別できると考えられる。
【0069】
ステップS103では、CPU100Aが、基準ピーク保持時間TrA0を変数とする近似式を導出する。具体的には、一例として、上述の図8(A)~図8(D)の散布図毎に第1相関と第2相関とを識別可能な近似式を導出する。この近似式の一例を下記の式(2)に示す。この近似式は、第1相関式の一例である。
【0070】
y=a×TrA0+b ・・・(2)
【0071】
但し、yは第1ピーク保持時間TrHbEと第2ピーク保持時間TrHbDとの閾値、TrA0は基準ピーク保持時間を示す。aは傾きを示す定数、bは切片を示す定数である。
【0072】
傾きa、切片bは、一例として、図9(A)~図9(D)に示すように、閾値yと基準ピーク保持時間TrA0との一次関数の式である式(2)を適宜調整することにより設定される。
【0073】
図9(A)~図9(D)は、図8(A)~図8(D)の各散布図から得られる各近似式の一例を示す図である。
【0074】
図9(A)に示す近似式D1は、図8(A)の散布図(Tareaの平均値=117,517)から得られ、例えば、以下の通りである。
【0075】
y=2.4×TrA0-22
【0076】
図9(B)に示す近似式D2は、図8(B)の散布図(Tareaの平均値=77,826)から得られ、例えば、以下の通りである。
【0077】
y=2.3×TrA0-20.1
【0078】
図9(C)に示す近似式D3は、図8(C)の散布図(Tareaの平均値=38,936)から得られ、例えば、以下の通りである。
【0079】
y=2.2×TrA0-18.5
【0080】
図9(D)に示す近似式D4は、図8(D)の散布図(Tareaの平均値=11,027)から得られ、例えば、以下の通りである。
【0081】
y=2.12×TrA0-17.35
【0082】
上述の近似式D1~D4について、Tareaの平均値、傾きa、及び切片bの対応関係をまとめると以下の表1のようになる。
【0083】
(表1)

【0084】
なお、第1ピーク保持時間TrHbEと第2ピーク保持時間TrHbDとを識別可能な関数であれば一次関数でなくてもよい。例えば、二次関数、三次関数の係数を適宜調整することで、第1ピーク保持時間TrHbEと第2ピーク保持時間TrHbDとを識別可能な関数を導出してもよい。
【0085】
また、本例では、第1ピーク保持時間TrHbEと第2ピーク保持時間TrHbDとを識別可能な一次関数を得るために、傾きa、切片bを適宜調整することで設定した。別の方法として、例えば、HbEの第1ピーク保持時間TrHbEとHbA0の基準ピーク保持時間TrA0との第1近似式を、下記の式で求める。
【0086】
TrHbE=g×TrA0+h
【0087】
また、HbDの第2ピーク保持時間TrHbDとHbA0の基準ピーク保持時間TrA0との第2近似式を、下記の式で求める。
【0088】
TrHbD=j×TrA0+k
【0089】
そして、第1近似式の傾きgと第2近似式の傾きjとの平均値を、傾き「(g+j)/2」とし、第1近似式の切片hと第2近似式の傾きkとの平均値を、切片「(h+k)/2」とする一次関数を得るようにしてもよい。この方法でも、同様に、第1ピーク保持時間TrHbEと第2ピーク保持時間TrHbDとを識別可能な一次関数を導出することができる。
【0090】
次に、ステップS104では、CPU100Aが、全ピーク面積Tarea(指標値)、基準ピーク保持時間TrA0、及び第1ピークと第2ピークの識別に用いる保持時間の閾値を変数とする相関式(1)を導出する。具体的には、一例として、図10(A)及び図10(B)に示すように、傾きaと全ピーク面積Tarea(指標値)との近似式、切片bと全ピーク面積Tarea(指標値)との近似式をそれぞれ作成する。これらの近似式は、第2相関式の一例である。
【0091】
図10(A)は、傾きaと全ピーク面積Tarea(指標値)との近似式の一例を示す図である。図10(B)は、切片bと全ピーク面積Tarea(指標値)との近似式の一例を示す図である。
【0092】
図10(A)に示す近似式は、上述の図9(A)~図9(D)の散布図の各々から得られる(Tareaの平均値、傾きa)の組をプロットして得られたものである。つまり、点P1は(117517、2.4)、点P2は(77826、2.3)、点P3は(38936、2.2)、点P4は(11027、2.12)を示す。図10(A)に示す近似式は、以下の式(3)により表される。
【0093】
a=c×Tarea+d ・・・(3)
【0094】
但し、傾きcは定数であり、例えば、c=2.6×10-6である。切片dは定数であり、例えば、d=2.1である。
【0095】
同様に、図10(B)に示す近似式は、上述の図9(A)~図9(D)の散布図の各々から得られる(Tareaの平均値、切片b)の組をプロットして得られたものである。つまり、点Q1は(117517、-22)、点Q2は(77826、-20.1)、点Q3は(38936、-18.5)、点Q4は(11027、-17.35)を示す。図10(B)に示す近似式は、以下の式(4)により表される。
【0096】
b=e×Tarea+f ・・・(4)
【0097】
但し、傾きeは定数であり、例えば、e=-4.3×10-5である。切片fは定数であり、例えば、f=-16.8である。
【0098】
上述の式(2)に、式(3)及び式(4)を代入すると、上述の相関式(1)が得られる。つまり、
【0099】
y=(c×Tarea+d)×TrA0+(e×Tarea+f)
=(2.6×10-6×Tarea+2.1)×TrA0+(-4.3×10-5×Tarea-16.8) ・・・(1)
【0100】
が導出される。yは第1ピーク保持時間TrHbEと第2ピーク保持時間TrHbDとの閾値、Tareaは全ピーク面積の面積値、TrA0は基準ピーク保持時間を示す。c、d、e、fは定数である。
【0101】
なお、上記では、分析カラム60へのヘモグロビンの導入量の違い以外の原因(例えば、環境温度の変化など)による閾値の変動の指標となる基準ピークとして血液検体に含まれるHbA0成分に由来する基準ピークを用いて、基準ピーク保持時間TrA0を閾値yの相関式の関数に用いた。
【0102】
クロマトグラフィにより検出可能であり、かつ、検体に含まれる成分に由来するピークであれば、HbA0以外のピークを利用してもよい。
【0103】
また、本例では、全ピーク面積Tareaの大きさごとにクロマトグラムを分けて、基準ピーク保持時間TrA0を横軸にし、第1ピーク保持時間TrHbE及び第2ピーク保持時間TrHbDであるTrXを縦軸にした散布図を作成した。そして、閾値y、基準ピーク保持時間TrA0、及び全ピーク面積Tarea(指標値)を関数とした相関式を求めた。
【0104】
別の方法として、基準ピーク保持時間TrA0の大きさごとにクロマトグラムを分けて、全ピーク面積Tareaを横軸にし、第1ピーク保持時間TrHbE及び第2ピーク保持時間TrHbDであるTrXを縦軸にした散布図を作成してもよい。この場合、閾値y、基準ピーク保持時間TrA0、及び全ピーク面積Tarea(指標値)を関数とした相関式を求めることができる。
【0105】
具体的に、相関式は、全ピーク面積Tarea(指標値)と第1ピーク保持時間TrHbEとの相関を表す第1相関、全ピーク面積Tarea(指標値)と第2ピーク保持時間TrHbDとの相関を表す第2相関、及び、基準ピーク保持時間TrA0により定められる。つまり、基準ピーク保持時間TrA0の大きさごとに第1相関及び第2相関を分類した結果から、第1ピーク保持時間TrHbEと第2ピーク保持時間TrHbDとの閾値yと全ピーク面積Tarea(指標値)との近似式(例えば、y=l×Tarea+m)を基準ピーク保持時間TrA0の大きさごとに求める。基準ピーク保持時間TrA0とlの相関式(例えば、l=n×TrA0+o)、基準ピーク保持時間TrA0とmの相関式(例えば、m=p×TrA0+q)、及び、閾値yと全ピーク面積Tarea(指標値)との近似式(例えば、y=l×Tarea+m)から、基準ピーク保持時間TrA0、全ピーク面積Tarea(指標値)、及び分析対象成分のピークの識別に用いる閾値yを変数とし、分析対象成分のピークの識別に用いる閾値yを導出するための相関式(y=(n×TrA0+o)×Tarea+(p×TrA0+q))を導出する。なお、上述の図10(A)及び図10(B)に示す近似式を得るためには、例えば、基準ピーク保持時間TrA0の平均値を採用すればよい。
【0106】
また、全ピーク面積Tarea(指標値)と、基準ピーク保持時間TrA0と、第1ピーク保持時間TrHbE及び第2ピーク保持時間TrHbDであるTrXとの3軸からなる三次元プロットを作成し、閾値y、基準ピーク保持時間TrA0、及び全ピーク面積Tarea(指標値)を関数とした相関式を求めてもよい。
【0107】
次に、ステップS105では、CPU100Aが、ステップS104で導出した相関式(1)をROM100Bに記憶し、本分離分析プログラムによる一連の相関関係導出処理を終了する。
【0108】
次に、図11を参照して、本実施形態に係る制御装置100によるピーク同定処理を説明する。なお、当然ながら、ピーク同定処理で用いる指標値は、上述の相関関係導出処理で用いた指標値と同一である。つまり、相関関係導出処理で全ピーク面積Tareaが用いられていれば、ピーク同定処理でも全ピーク面積Tareaを用いる。
【0109】
図11は、本実施形態に係る分離分析プログラムによるピーク同定処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、ピーク同定処理では、HbE又はHbDが溶出される位置に未知のピークXpが溶出された場合に、未知のピークXpがHbEの第1ピークであるかHbDの第2ピークであるかを識別する。図11の例では、HbEの第1ピークとHbDの第2ピークを識別するための上記相関式(1)を用いて、ピークを同定する処理について具体的に説明する。
【0110】
分離分析プログラムによるピーク同定処理は、制御装置100のCPU100Aが、ROM100Bに記憶されている分離分析プログラムをRAM100Cに書き込むことで実行される。
【0111】
図11のステップS111では、CPU100Aが、分析対象とする試料に対してクロマトグラフィを実施して得られたクロマトグラムを取得する。ここでいう試料は、基準成分の一例であるHbA0と、分析対象成分の一例であるHbE又はHbDを含むものとする。但し、HbE及びHbDのどちらを含むかは未知である。
【0112】
ステップS112では、CPU100Aが、ステップS111で取得したクロマトグラムから、基準ピーク保持時間TrA0、分析対象成分(HbE又はHbD)のピーク保持時間(つまり、未知のピークXpの保持時間)、及び、指標値として全ピーク面積Tareaを取得する。
【0113】
ステップS113では、CPU100Aが、ステップS112で取得した基準ピーク保持時間TrA0及び全ピーク面積Tarea(指標値)を、上述の相関式(1)に代入し、閾値yを導出する。
【0114】
ステップS114では、CPU100Aが、ステップS112で取得した分析対象成分(HbE又はHbD)のピーク保持時間が閾値yよりも小さいか否かを判定する。分析対象成分(HbE又はHbD)のピーク保持時間が閾値yよりも小さいと判定した場合(肯定判定の場合)、ステップS115に移行し、分析対象成分(HbE又はHbD)のピーク保持時間が閾値y以上であると判定した場合(否定判定の場合)、ステップS116に移行する。
【0115】
ステップS115では、CPU100Aが、分析対象成分のピークをHbEの第1ピークと同定し、本分離分析プログラムによる一連のピーク同定処理を終了する。
【0116】
一方、ステップS116では、CPU100Aが、分析対象成分のピークをHbDの第2ピークと同定し、本分離分析プログラムによる一連のピーク同定処理を終了する。
【0117】
上記では指標値として全ピーク面積Tareaを用いたが、他の指標値を用いても同様にピークを識別することが可能である。
【0118】
例えば、指標値としてHbEの第1ピーク又はHbDの第2ピークの面積を用いる場合、上述の相関関係導出処理において、基準ピーク保持時間TrA0、及び、HbEの第1ピーク又はHbDの第2ピークの面積に基づき定数c、d、e、fを求め、基準ピーク保持時間TrA0、閾値、及び、HbEの第1ピーク又はHbDの第2ピークの面積を相関式の変数とすればよい。
【0119】
この場合、ピーク同定処理では、クロマトグラムから基準ピーク保持時間TrA0、分析対象成分(HbE又はHbD)のピーク保持時間(つまり、未知のピークXpの保持時間)、及び、指標値として分析対象成分(HbE又はHbD)のピークの面積(つまり、未知のピークXpの面積)を取得する。取得した基準ピーク保持時間TrA0、及び、分析対象成分(HbE又はHbD)のピークの面積(指標値)を相関式に代入し、閾値を導出する。そして、分析対象成分(HbE又はHbD)のピーク保持時間と閾値とを比較する。
【0120】
また、指標値としてHbA0の基準ピークの面積を用いる場合、上述の相関関係導出処理において、基準ピーク保持時間TrA0、及び、HbA0の基準ピークの面積に基づき定数c、d、e、fを求め、基準ピーク保持時間TrA0、閾値、及び、HbA0の基準ピークの面積を相関式の変数とすればよい。
【0121】
この場合、ピーク同定処理では、クロマトグラムから基準ピーク保持時間TrA0、分析対象成分(HbE又はHbD)のピーク保持時間(つまり、未知のピークXpの保持時間)、及び、指標値としてHbA0の基準ピークの面積を取得する。取得した基準ピーク保持時間TrA0、及び、HbA0の基準ピークの面積(指標値)を相関式に代入し、閾値を導出する。そして、分析対象成分(HbE又はHbD)のピーク保持時間と閾値とを比較する。
【0122】
また、指標値としてHbEの第1ピーク又はHbDの第2ピークの高さを用いる場合、上述の相関関係導出処理において、基準ピーク保持時間TrA0、及び、HbEの第1ピーク又はHbDの第2ピークの高さに基づき定数c、d、e、fを求め、基準ピーク保持時間TrA0、閾値、及び、HbEの第1ピーク又はHbDの第2ピークの高さを相関式の変数とすればよい。
【0123】
この場合、ピーク同定処理では、クロマトグラムから基準ピーク保持時間TrA0、分析対象成分(HbE又はHbD)のピーク保持時間(つまり、未知のピークXpの保持時間)、及び、指標値として分析対象成分(HbE又はHbD)のピークの高さ(つまり、未知のピークXpの高さ)を取得する。取得した基準ピーク保持時間TrA0、及び、分析対象成分(HbE又はHbD)のピークの高さ(指標値)を相関式に代入し、閾値を導出する。そして、分析対象成分(HbE又はHbD)のピーク保持時間と閾値とを比較する。
【0124】
また、指標値としてHbA0の基準ピークの高さを用いる場合、上述の相関関係導出処理において、基準ピーク保持時間TrA0、及び、HbA0の基準ピークの高さに基づき定数c、d、e、fを求め、基準ピーク保持時間TrA0、閾値、及び、HbA0の基準ピークの高さを相関式の変数とすればよい。
【0125】
この場合、ピーク同定処理では、クロマトグラムから基準ピーク保持時間TrA0、分析対象成分(HbE又はHbD)のピーク保持時間(つまり、未知のピークXpの保持時間)、及び、指標値としてHbA0の基準ピークの高さを取得する。取得した基準ピーク保持時間TrA0、及び、HbA0の基準ピークの高さ(指標値)を相関式に代入し、閾値を導出する。そして、分析対象成分(HbE又はHbD)のピーク保持時間と閾値とを比較する。
【0126】
このように本実施形態によれば、試料中のヘモグロビンの量とHbA0ピークのピーク保持時間に基づいてHbEピークのピーク保持時間とHbDピークのピーク保持時間との閾値を定めれば、ピーク保持時間が近いHbEのピークとHbDのピークを識別できることに着目し、HbA0の基準ピーク保持時間、HbEの第1ピーク保持時間、HbDの第2ピーク保持時間、及び、試料中のヘモグロビンの量を表す指標値により定まる相関関係が用いられる。これにより、ピーク保持時間が近く識別が困難なHbEのピークとHbDのピークを、試料濃度を調整することなく、識別することができる。
【0127】
なお、本実施形態は、上述した実施の形態には限定されず、種々に変更可能である。例えば、血液中のヘモグロビン濃度を測定するためのHPLC装置に限らず、血液以外の検体を用いる場合、ヘモグロビン濃度以外の成分を測定する場合、あるいはHPLC装置以外の液体クロマトグラフィ装置についても本実施形態を適用することができる。
【0128】
以上、実施形態に係る制御装置を例示して説明した。実施形態は、制御装置が備える各部の機能をコンピュータに実行させるためのプログラムの形態としてもよい。実施形態は、このプログラムを記憶したコンピュータが読み取り可能な非一時的記憶媒体の形態としてもよい。
【0129】
その他、上記実施形態で説明した制御装置の構成は、一例であり、主旨を逸脱しない範囲内において状況に応じて変更してもよい。
【0130】
また、上記実施形態で説明したプログラムの処理の流れも、一例であり、主旨を逸脱しない範囲内において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりしてもよい。
【0131】
また、上記実施形態では、プログラムを実行することにより、実施形態に係る処理がコンピュータを利用してソフトウェア構成により実現される場合について説明したが、これに限らない。実施形態は、例えば、ハードウェア構成や、ハードウェア構成とソフトウェア構成との組み合わせによって実現してもよい。
【符号の説明】
【0132】
X HPLC装置
5 試料調製ユニット
6 分析ユニット
7 測光ユニット
11 採血管
13 血液試料
60 分析カラム
100 制御装置
101 導出部
102 取得部
103 識別部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11