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特開2023-158959短鎖カルビン種を双極子として放出可能な天然黒鉛材料及びその電気化学用途
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  • 特開-短鎖カルビン種を双極子として放出可能な天然黒鉛材料及びその電気化学用途 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158959
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】短鎖カルビン種を双極子として放出可能な天然黒鉛材料及びその電気化学用途
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/20 20170101AFI20231024BHJP
   H01M 6/34 20060101ALI20231024BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
C01B32/20
H01M6/34 A
H01M4/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069047
(22)【出願日】2022-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】500055935
【氏名又は名称】佐想 光廣
(71)【出願人】
【識別番号】517217232
【氏名又は名称】クロステクノロジーラボ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091465
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 久夫
(72)【発明者】
【氏名】佐想 光廣
【テーマコード(参考)】
4G146
5H025
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA02
4G146AB01
4G146AD24
4G146BA02
4G146CB40
5H025AA14
5H025BB17
5H025CC02
5H050AA01
5H050BA02
5H050CA15
5H050CB11
5H050FA13
5H050GA14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】短鎖カルビン種を炭化水素系双極子として放出可能な黒鉛材料の提供。
【解決手段】直鎖状sp混成炭素鎖を形成するC≡Cのポリイン(α-carbyne)構造及び/又はC=Cのクムレン(β-carbyne)構造を有し、水又は電解液中に浸漬することにより短鎖カルビン種(RC:・、但しRはC2n-1を示し、nは3以下の整数、:・は三不対電子を示す)を双極子として滲出可能な天然黒鉛及びそれを含む電解液の提供。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖状sp混成炭素鎖を形成するC≡Cのポリイン(α-carbyne)構造及び/又はC=Cのクムレン(β-carbyne)構造を有し、水又は電解液中に浸漬することにより短鎖炭化水素を炭化水素系双極子として滲出可能な天然黒鉛。
【請求項2】
短鎖炭化水素が短鎖カルビン種(RC:・、但しRはC2n-1を示し、nは3以下の整数、:・は三不対電子を示す)である請求項1記載の天然黒鉛。
【請求項3】
短鎖カルビン種(RC:・、但しRはC2n-1を示し、nは3以下の整数、:・は三不対電子を示す)を炭化水素系双極子として含む電解液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短鎖炭化水素(炭素数3以下)、特に短鎖カルビン種(RC:・、但しRはC2n-1を示し、nは3以下の整数、:・は三不対電子を示す)を双極子として電解液中に放出可能な天然黒鉛材料及びその電気化学的用途に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボン電子同士の化学結合は3種の混成軌道の可能性を持っており、sp3の混成軌道を持ち、1つのσ結合からなる三次元構造のダイアモンド種、sp2混成軌道を持ち、1つのσ結合と1つのπ結合からなる二次元構造のグラファイト種、sp混成軌道を持ち、1つのσ結合と2つのπ結合からなる一次元構造のカルビン種、1つの準σ結合と1つの準π結合から準sp2混成軌道を形成する0次元のフラーレン種に分類することができるとされ、図1に示す三次元相関図が示される。この内、特に、フラーレンを含みカルビン種(Carbynoid又はGraphyne)は炭素原子が共役三重結合(ポリイン型異性体)又は累積二重結合(ポリクムレン型異性体)のいずれかによって連結されている固体状態の直鎖状sp混成炭素鎖が示唆されており、多くの研究者がこのカルビン種の合成に挑戦している。代表的な物理的方法としては、黒鉛にレーザー照射あるいはイオンスパッタリングして生成する方法(非特許文献1)や、代表的な化学的方法としてハロゲン化ポリビニリデンをエチル化カリウムのテトラヒドロフラン溶液中で脱ハロゲン化する方法(非特許文献2)、ポリアセチレンを予め塩素化しておき、これを脱塩酸化する方法(非特許文献3)などが各種方法が提案されているものの(非特許文献4)、量産に成功していないのが現状であり、カルビンの工業的利用には程遠い。また、擬一次元炭素結晶としてカルボライトと命名された新たに創生された炭素結晶についてはその電気的物性について研究されているにすぎず(非特許文献5)、多くはその結晶構造を含め、その物性並びに電気化学的用途は謎とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Y.P.Kudryavtsev and S.Evsyukov Carbon 30(1992)213-221
【非特許文献2】V.V.Korshak and Y.P.Kudryavtsev, Makromol, Chem, Rapid Commun.9 (1988)135-140
【非特許文献3】K.Akagi, M.Nishiguchi and H.Shirakawa, synth.Met.17(1987)557-562
【非特許文献4】カルビンの合成と構造:炭素TANSO1997[No.178]122-127
【非特許文献5】擬一次元炭素結晶カルボライトの物性(KAKEN1996年度研究成果報告書)代表 いわき明星大学教授 田沼静一
【非特許文献6】電極電位の物理的意味:まてりあ第33巻第11号(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は天然黒鉛鉱から採取した天然黒鉛はGraphiteだけでなく、図1に示すように、Carbynoid及びGraphyne構造を含み、ポリイン(α-carbyne)及びクムレン(β-carbyne)構造を有する。この炭素間の一次元炭素構造は解離しやすい形態で炭素間結合が存在するためか水中に浸漬又は熱湯で煮沸するだけで、多くの炭化水素が水中に滲出していることがクロマトグラフィ分析によって確認された。そこで、その炭化水素の構造を決定すべく、その黒鉛片を昇温イオン脱離法(TOF-ESD:飛行時間型電子励起イオン離脱法)で検査すると、酸素、水素、炭酸ガスの他に短鎖カルビン種を含む各種炭化水素イオンが脱離することを確認された。このカルビン種はカルビン構造の末端が活性であるため、特に炭素鎖が短い(RC:・、但しRはC2n-1を示し、nは3以下の整数、:・は三不対電子を示す)と、その反応性は非常に高いと予測されてはいるが(非特許文献4)、天然黒鉛材料から自然に浸出してくることは驚くべきことで、しかも電解液中に存在すると、電極と電解液との界面で炭化水素系双極子として電気二重層を形成して機能するためか、電極電位を変化させることを発見した(一対のMg-Cu金属電極を電解液中に浸漬した場合に発生する電極電位差はカルビン種を含む電解液の添加で少なくとも0.5V向上した)。この現象は水溶液中に存在する短鎖カルビン種(RC:・、但しRはC2n-1を示し、nは3以下の整数、:・は三不対電子を示す)が電極と電解液との界面で新たな双極子電気二重層を形成した結果であると思われる。
【0005】
なぜなら、電極電位は電極化学における重要な基本概念であって、従来電気化学では電極電位の概念は電極反応平衡の熱力学関係式、すなわちNernstの関係式を通して表現されるのが普通であったが、近年、電極電位には以下の物理的概念で理解されている。即ち、従来の電極電位の解釈は現象論的なもので、必ずしも電極電位の物理的意味を明らかにするものでなかったが、電極電位は電極界面(電極/電解質界面)の電位差の相対値に相当するとの解釈が受け入れており、電極固有の電子電極電位だけでなく、電解質溶液種に依存する電解質溶液の電位(イオン電極電位)を含めて考慮する必要があるとされている(非特許文献6)。これは電極界面(電極/電解質界面)の電位差の相対値である電極電位は電極固有の電極電位だけでなく、イオン電極電位に関係する電極界面に形成される電気二重層の構成により変化することを意味している。このような考え方からすると、電極種で決定される電極電位差を相対的に向上させるには電気二重層を構成する電極界面の吸着種、水分などの水分子などで形成される電気二重層の構造設計は電池性能を向上させる大きな要因であるといえる。
【0006】
そこで、本発明者は、短鎖カルビンの電極電位向上効果の知見に基づき、本発明の第1の課題として、短鎖炭化水素、特に短鎖カルビンを、電気二重層を構成する双極子として放出可能な天然黒鉛材料を提供することを課題とする。そして、第2の課題として、電極と電解液との界面に双極子電気二重層を形成し、電極間電圧を向上させる短鎖カルビンを含む電解液を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、上記電極電位の物理的意味を考慮して鋭意研究の結果、天然黒鉛から電解液中に滲出してくる短鎖炭化水素、特に短鎖カルビン(RC:・、但しRはC2n-1を示し、nは3以下の整数、:・は三不対電子を示す)が水中で高い反応性を示し、電極と電解液との界面で双極子として電気二重層を形成して電極電位を向上させる発見に基づいてなされたもので、第1に、直鎖状sp混成炭素鎖を形成するC≡Cのポリイン(α-carbyne)構造及び/又はC=Cのクムレン(β-carbyne)構造を有し、水又は電解液中に浸漬することにより短鎖炭化水素、特に短鎖カルビン種(RC:・、但しRはC2n-1を示し、nは3以下の整数、:・は三不対電子を示す)を炭化水素系双極子として滲出可能な天然黒鉛を提供することにある。天然黒鉛は直鎖状sp混成炭素鎖を形成するC≡Cのポリイン(α-carbyne)構造及び/又はC=Cのクムレン(β-carbyne)構造を有するため、それらが一部断裂しているか又は何かの原因で断裂すると、短鎖カルビン種(RC:・、但しRはC2n-1を示し、nは3以下の整数、:・は三不対電子を示す)が、カルビンイオンRC:・として電解液中に滲出される。したがって、本発明は、第2に、短鎖カルビン種(RC:・、但しRはC2n-1を示し、nは3以下の整数、:・は三不対電子を示す)を含有する電解液からなり、電気化学反応を促進する双極子として電気化学反応媒体を提供するものでもある。
【発明の効果】
【0008】
天然石墨中には、-C≡C-で示されるポリイン構造(α-carbyne)及びーC=C-で示されるクムレン構造(β-carbyne)が存在するため、TOF-ESD(飛行時間型電子励起イオン離脱)法により電子線を照射すると、π結合部分が断裂して最短鎖カルビンのn=1のCH3C:・エチリジンイオンが離脱して水素 1および2、酸素16及び32、水18、一酸化炭素28、二酸化炭素4に相当する質量数のものとともに、検出される。カルビン種の物理的形成法(非特許文献1)からするとあり得る現象である。しかしながら、この種短鎖カルビン又はラジカルが天然黒鉛、すなわち、石墨を単に水中又は電解液中に浸漬することにより滲出して電気化学的に活性な電解液を形成することは驚くべきことである。しかも短鎖カルビン及びそのラジカルは水中で高い反応性を示すため、互いにカップリングしたり、水分子と結合したりするほか、金属イオンと結合して金属錯体を形成したりして水中に存在する結果、電極と電解液の界面に新しい電気二重層を形成する電解液を提供することになる。
【0009】
特に、電池構成では、電解液中に短鎖カルビン種を含むと、電極と電解液との界面で短鎖カルビン種は双極子として機能し、電極と電解液の界面に新しい電気二重層を形成するため、対極との電極電位差を増大させることは驚くべき現象である。この電極電位の変化は、電池起電力を向上させるので、有意義である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】炭素構成の相関関係を示す分類図である。
図2】天然黒鉛電極と典型金属であるアルミニウム板電極で本発明の電解液を含む不織布を挟持して構成される発電シートの概念を示す斜視図である。
図3】海水中に本発明の電解液を滴下して構成する船舶用電池の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は直鎖状sp混成炭素鎖を形成するC≡Cのポリイン(α-carbyne)構造及び/又はC=Cのクムレン(β-carbyne)構造を有し、水又は電解液中に浸漬することにより短鎖カルビン種(RC:・、但しRはC2n-1を示し、nは3以下の整数、:・は三不対電子を示す)を双極子として滲出可能な天然黒鉛を提供するものである。また、本発明は直鎖状sp混成炭素鎖を形成するC≡Cのポリイン(α-carbyne)構造及び/又はC=Cのクムレン(β-carbyne)構造を有し、水又は電解液中に浸漬することにより短鎖カルビン種(RC:・、但しRはC2n-1を示し、nは3以下の整数、:・は三不対電子を示す)を双極子として含む電解液を提供するものである。
【0012】
本発明にかかる電解液は水性、非水性の双方に適用して利用できる。電解液中の電解質の添加量はその用途に応じて調整することできる。水性の場合、酸性又はアルカリ性として使用できるが、金属空気電池及び過酸化水素燃料電池ではアルカリ性とするのが好ましい。また、電解液としては種々の電池構成に応じて各種電解質が添加される。例えば、海上に多量存する海水などを考慮して電解液を調整するのが好ましい。海水濃度は塩素の発生が抑制されるので好ましいが、塩化ナトリウム1モル以上の塩水としてよい。
【0013】
短鎖カルビン種の存在は、直鎖状sp混成炭素鎖を形成するC≡Cのポリイン(α-carbyne)構造及び/又はC=Cのクムレン(β-carbyne)構造を検索することにより確認することができる。炭素二重結合又は三重結合は、昇温イオン脱離法(TOF-ESD:飛行時間型電子励起イオン離脱法)では、短鎖カルビン種(RC:・、但しRはC2n-1を示し、nは3以下の整数、:・は三不対電子を示す)の最小n=1のCH3C:・のエチリジンが放出されることを確認しているが、通常炭素三重結合は赤外分光法においても、C≡C伸縮の2260~2100cm-1、≡C-H伸縮の3340~3270cm-1或いは≡C-H変角の700~600cm-1の吸収スペクトルに特有のものとして検出される。他方、化学的にはアセチリドの検出を用いることが挙げられる。
【0014】
また、カルビンイオンは水中で互いにカップリングすると、n=2以上のプロピリジンを含む短鎖カルビンを形成すると思われる。また、水中の金属イオンと結合し、カルビン金属錯体を形成するものと思われる。そして、中間体RCO+やRCMe+は金属イオンとの形成により電子を受けて還元され、中間体を介してカルビンに還元され、金属がイオンとして消失するまでこの反応が繰り返される結果、図2に示されるように、電解液中への電極の浸漬により電極との界面に双極子電気二重層を形成し、イオン電極電位を形成し、電極固有の電極電位と共に全体として電極電位差に変化を与えるものと思われる。
【0015】
本発明の天然黒鉛材料には、天然黒鉛鉱から採取した黒鉛から調製した黒鉛シートであってもよい。直鎖状sp混成炭素鎖を形成するC≡Cのポリイン(α-carbyne)構造及び/又はC=Cのクムレン(β-carbyne)構造を残すものがあると思われ、水又は電解液中に浸漬することにより短鎖カルビン種(RC:・、但しRはC2n-1を示し、nは3以下の整数、:・は三不対電子を示す)を滲出可能である。
【0016】
天然黒鉛からの黒鉛の製造には工業的に、天然黒鉛粉末を100℃の濃硫酸(95~98%)90%と濃硝酸(比重1.33)10%の混酸溶液中に浸漬、反応させ、硫酸―黒鉛層間化合物(H2SO4-GIC(Graphite Intercalation Compounds))を製造し、その後水洗、乾燥、急速加熱を経て製品化する液相反応法が用いられる。その他、加熱処理時に発生する蒸気中に含まれる重金属を少なくする過酸化水素を用いる方法、ギ酸を用い、黒鉛粉末をギ酸水溶液中で電解酸化し、ギ酸黒鉛層間化合物(HCOOH-GIC)とする電気化学法が知られる。直鎖状sp混成炭素鎖を形成するC≡Cのポリイン(α-carbyne)構造及び/又はC=Cのクムレン(β-carbyne)構造を有する限り、本発明の黒鉛材料として利用することもできる。酸化黒鉛は、急速加熱処理することによって黒鉛層間の広がった膨張黒鉛を生成することができ、これらも本発明の黒鉛材料として使用することもできる。膨張黒鉛粉末はホッパーから振動型ベルトで予圧ロールに供給して板状型に予備成形した後、脱気及び精製のための加熱処理工程を経て、ロール成型工程にてシート状に成形されて製造される。
【0017】
天然黒鉛から製造される黒鉛シートは、イオン挿入容量を大きくすることができ、本発明の黒鉛材料として、使用することができる。他方、木炭塊、ナノカーボンをバインダーで結着したカーボン材、カーボン繊維シート、これらカーボン材は焼成して膨張化しても炭化水素、すなわち短鎖カルビン種の滲出は見られていない。したがって、天然黒鉛は、地殻変動によって短鎖カルビン種を滲出した水が直鎖状sp混成炭素鎖を形成するC≡Cのポリイン(α-carbyne)構造及び/又はC=Cのクムレン(β-carbyne)構造が石墨中に形成されるものと思われる。
【0018】
(天然黒鉛シートのイオンの質量分析)
(飛行時間型電子励起イオン脱離法:TOF-ESD法)により天然黒鉛から放出される電子励起イオンの、質量分析を行なうことができる。この装置は、水素顕微鏡はScanning type Electron-Stimulated Desorption Ion Microscope (SESDIK)といわれ、100~500eVの低速の電子をパルスで試料を照射すると、固体表面に吸着している水素や酸素その他の吸着種がイオン化されて真空中に飛び出してくる。これらを検出、増幅して信号とする。電子ビームはパルスとして照射するのでイオンの検出には飛行時間法(TOF)により、飛行時間の計算式を用いて計算する方法である。この信号をTOFスペクトルとして表示すると局所場に応じた質量分析ができることになり、水素、酸素その他の吸着種のイオンの2次元分布を得ることができる。単に水素や酸素が検出できるだけでなく、結合や吸着状態の違いが脱離の運動エネルギーに投影して吸着対象を選別して検出し、化学的な質量分析ができる。天然黒鉛から溶液中への滲出物質を液体クロマトグラフで確認すると大量の炭化水素が確認された。そこで、上記天然黒鉛の切片を切り出し、固体の表面にパルス電子を照射して脱離するプロトンを検出する方法(電子励起イオン脱離、TOF-ESD)を用いて分析すると、水素、酸素、一酸化炭素の他、分子量27のエチリジン(CH3C・)及び分子量28のエチレン(C2H4)を検出した。
【0019】
電解液の機能
短鎖カルビンは天然黒鉛又はそれを用いて製造される黒鉛シートを電解液中に浸漬することにより調製することができる。また、アルミ板/1MNaCl+H2O2/天然黒鉛シートの電池構成では半透明の結晶が形成されるが、この結晶の酸素含有比率は高く、導電性も高い。水酸化アルミニウム又はアルミン酸ナトリウムが短鎖カルビン種を含むためか半固体電解質を形成し、電解液として、電池を構成することができる。
【0020】
Al金属板/短鎖カルビンを含む電解液(0.5~1.5M塩化ナトリウム水溶液に5~30体積%の苛性ソーダを添加して調製)/黒鉛電極の組み合わせで作る電池
図2に示すように、天然黒鉛で形成した1~2mm厚の黒鉛電極シート30をカソードとする一方、典型金属電極である1~2mm厚のアルミ金属板10をアノードとし、電解液として短鎖カルビンを含む塩水を不織布20に含ませ、挟持すると、発電シート100を形成すると、発電現象が認められる。電解液には海水を用い、苛性アルカリ、例えば苛性ソーダを塩水中に投入してアルカリ性となし、電気化学反応を促進することができる。アルカリ性とする場合は、塩水に対し、5~30体積%、好ましくは15~20体積%の50%苛性ソーダ溶液の添加が好ましい。地球上に多量存する海水を使用して電解液を調整するのが好ましい。海水濃度は塩素の発生が抑制されるので好ましいが、塩化ナトリウム1モル以上の塩水としてよい。
【0021】
天然黒鉛粉末をカソードとする発電装置
図3に示すように、天然黒鉛から調製した黒鉛粉末30-1を耐食性筒状プラスチック管40に、下面を不織布20で封止して充填する一方、上面開口に炭素電極50を備えて封止フィルム60で封止し、過酸化水素水を逐次添加できるようにしてカソード電極部を形成し、アルミ金属板上に載せ置き、電池構成とする。この電池構成をフロート70で受け、不織布20へ塩水を含侵させることにより、発電させることができる。電解液には少量の過酸化水素水の添加で発電効率を高めることができる。
【0022】
図2図3の電池構成では、上記カルビンによる電極表面での電気二重層の形成だけでなく、カルビンを含む黒鉛層間でのナノ空間での次の現象も関与するものと思われる。金属イオンMe+は黒鉛層間化合物のナノ空間に侵入すると、黒鉛層に付着して対極との接触電位差によりマイクロセルを構成するが、その起電力はマイクロセルに隣接する黒鉛層間隔のマイクロキャパシタに蓄積されることになると思われる。
【0023】
なお、電解液中に本発明では短鎖カルビン種を含ませる場合は黒鉛電極に代えて銅電極を使用するようにしても発電効果が認められる。
図1
図2
図3