(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158966
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】放射性核種製造システムおよび放射性核種製造方法
(51)【国際特許分類】
G21G 4/08 20060101AFI20231024BHJP
G21K 5/08 20060101ALI20231024BHJP
G21H 5/02 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
G21G4/08 G
G21K5/08 R
G21H5/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069060
(22)【出願日】2022-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 瑞穂
(72)【発明者】
【氏名】田所 孝広
(72)【発明者】
【氏名】上野 雄一郎
(57)【要約】
【課題】簡便、安全かつ効率良くAc-225を製造できる放射性核種製造システムおよび放射性核種製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る放射性核種製造システムSは、電子線3を照射する電子加速器1と、照射された前記電子線3により制動放射線4を発生させる金属ターゲット部2と、発生させた前記制動放射線4が照射されるとともに、Ra-226原料を含み、相分離する二種類以上の溶媒を収容でき、前記制動放射線4が照射されることにより前記Ra-226原料からAc-225を製造するRa-226溶液ターゲット部5と、前記相分離する二種類以上の溶媒のうち、前記Ac-225を多く含む第1溶媒5bを抽出する溶媒抽出部6と、消費した減少量分の前記溶媒を前記Ra-226溶液ターゲット部5に追加する溶媒追加部8と、前記Ra-226溶液ターゲット部5で発生する気体ラドンを処理するラドン処理部7と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を照射する電子加速器と、
照射された前記電子線により制動放射線を発生させる金属ターゲット部と、
発生させた前記制動放射線が照射されるとともに、Ra-226原料を含み、相分離する二種類以上の溶媒を収容でき、前記制動放射線が照射されることにより前記Ra-226原料からAc-225を製造するRa-226溶液ターゲット部と、
前記相分離する二種類以上の溶媒のうち、前記Ac-225を多く含む第1溶媒を抽出する溶媒抽出部と、
消費した減少量分の前記溶媒を前記Ra-226溶液ターゲット部に追加する溶媒追加部と、
前記Ra-226溶液ターゲット部で発生する気体ラドンを処理するラドン処理部と、
を有することを特徴とする放射性核種製造システム。
【請求項2】
請求項1に記載の放射性核種製造システムにおいて、
前記Ra-226溶液ターゲット部が、前記相分離する二種類以上の溶媒を混合する攪拌装置を備える
ことを特徴とする放射性核種製造システム。
【請求項3】
請求項1に記載の放射性核種製造システムにおいて、
前記溶媒抽出部が、前記Ac-225を多く含む第1溶媒を加熱する加熱部を備える
ことを特徴とする放射性核種製造システム。
【請求項4】
請求項1に記載の放射性核種製造システムにおいて、
前記相分離する二種類以上の溶媒が、前記第1溶媒として有機溶媒と第2溶媒として極性溶媒とで構成されており、かつ前記Ac-225と選択的に結合する性質をもつ抽出剤を含んでいる
ことを特徴とする放射性核種製造システム。
【請求項5】
請求項1に記載の放射性核種製造システムにおいて、
前記溶媒抽出部で抽出された前記Ac-225を多く含む第1溶媒から前記Ac-225を精製するAc-225精製部をさらに備える
ことを特徴とする放射性核種製造システム。
【請求項6】
請求項5に記載の放射性核種製造システムにおいて、
前記Ac-225精製部と前記溶媒追加部との間に、前記Ac-225精製部で前記Ac-225を精製する際に得られた前記Ra-226原料および前記Ac-225を多く含んでいた第1溶媒を回収して前記溶媒追加部に戻す回収部を備える
ことを特徴とする放射性核種製造システム。
【請求項7】
請求項1に記載の放射性核種製造システムにおいて、
前記ラドン処理部が、前記気体ラドンを吸着する吸着材を備える
ことを特徴とする放射性核種製造システム。
【請求項8】
請求項1~7のうちのいずれか1項に記載の放射性核種製造システムにおいて、
前記相分離する二種類以上の溶媒は、相分離時に、前記Ra-226原料を多く含む第2溶媒が鉛直方向で上、前記Ac-225を多く含む第1溶媒が下になる
ことを特徴とする放射性核種製造システム。
【請求項9】
電子加速器から金属ターゲット部に向けて電子線を照射して前記金属ターゲット部から制動放射線を発生させる制動放射線発生ステップと、
発生させた前記制動放射線をRa-226溶液ターゲット部に収容されている、Ra-226原料を含み、相分離する二種類以上の溶媒に照射して、前記Ra-226原料からAc-225を製造しつつ、発生する気体ラドンを処理するAc-225製造ステップと、
前記相分離する二種類以上の溶媒のうち、前記Ac-225を多く含む第1溶媒を抽出する溶媒抽出ステップと、
消費した減少量分の前記溶媒を前記Ra-226溶液ターゲット部に追加する溶媒追加ステップと、
を含むことを特徴とする放射性核種製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の放射性核種製造方法において、
前記溶媒抽出ステップの後に、
前記溶媒抽出ステップで抽出された前記Ac-225を多く含む第1溶媒から前記Ac-225を精製するAc-225精製ステップをさらに含む
ことを特徴とする放射性核種製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の放射性核種製造方法において、
前記Ac-225精製ステップの後に、
前記Ac-225精製ステップで前記Ac-225を精製する際に得られた前記Ra-226原料および前記Ac-225を多く含んでいた第1溶媒を回収して前記溶媒追加ステップに戻す回収ステップをさらに含む
ことを特徴とする放射性核種製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性核種製造システムおよび放射性核種製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がんの治療方法の一つに、RI(RI:Radio Isotope、放射性同位元素)内用療法がある。RI内用療法とは、放射線核種を組み込んだ薬剤を人体に投与し、薬剤ががん細胞に選択的に集積することを利用して、がんに放射線を直接照射してがん細胞を殺傷する治療法である。従来のRI内用療法はβ線源を用いたもので、例えばヨウ素131(I-131、131I)による甲状腺がん治療が1940年代から実施されている。近年、β線源より飛程が短く、線エネルギー付与が高いα線源を用いたRI内用療法が、その治療効果の高さから注目を集めている。
【0003】
アクチニウム225(Ac-225、225Ac)は治療用α核種の一つであり、これを使用した薬剤の開発が進められている。Ac-225の製造は、現在、トリウム229(Th-229、229Th)の崩壊により行われている。Th-229は天然に存在しないため、臨床に利用可能な放射性核種であるAc-225は、世界でも数か所しかないTh-229を貯蔵している施設から供給を受ける必要があり、Ac-225の供給量は十分ではない。今後、α核種を使用した治療が普及するのに伴い、Ac-225の供給が大幅に不足することが予想されている。そのため、加速器を用いた積極的なAc-225の製造が望まれている。
【0004】
加速器を用いたAc-225の製造方法として、天然に存在するラジウム226(Ra-226、226Ra)を原料とし、Ra-226(p,2n)Ac-225反応を利用したサイクロトロンによるものがある(例えば、非特許文献1参照)。なお、この製造方法には、(1)加速された陽子のターゲットであるRa-226中での飛程が短いことから、ターゲットであるRa-226を厚くしても大量製造ができない、(2)加速された陽子のエネルギーのほとんどがターゲット中で失われることから、ターゲットの除熱が困難となり、大量製造のために電流値やエネルギーを向上させることができないなどの問題がある。
【0005】
また、加速器を用いた他の製造方法として、天然に存在するRa-226を原料とし、電子線加速器を用いて、Ra-226(γ,n)Ra-225→Ac-225反応を利用するものがある。電子線加速器は、同じ加速エネルギーであれば、陽子加速器や重粒子加速器と比較して小型化が可能である。また、陽子などの粒子線と異なりターゲット内部での減衰が小さいことから、原料Ra-226を増大しても製造量が落ちないという、大量製造に向く利点がある。
【0006】
上記いずれの製造方法においても、照射後のRa-226ターゲットからAc-225を分離精製し、原料Ra-226を回収して照射用ターゲットとして再利用するステップが必要である。Ra-226原料は天然に存在するものの、入手が容易でないため、再利用が前提である。Ra-226の半減期は1600年と長いため、半永久的に利用できる。
【0007】
また、加速器を用いたAc-225製造および分離精製方法が、例えば、特許文献1に記載されている。この特許文献1には、支持体上に設けられる放射線照射226Ra標的(Ra-226原料)から225Ac(Ac-225)を精製する方法として、所定の抽出剤を用いた226Ra標的の溶出処理と、抽出クロマトグラフィとを含む方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】C. Apostolidis, et al., Appl Radiat Isotope, (2005) 62, p383-387
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の技術は、固体状のRa-226原料から、溶解や抽出クロマトグラフィを利用してAc-225を取り出すことを可能としている。しかし、特許文献1に記載の技術のように、固体標的から溶解により試料を取り出し、抽出クロマトグラフィ樹脂に通液・洗浄・溶離する操作は煩雑であり、効率もよくない。また、Ra-226原料からは娘核種として放射性気体のラドンが生成するが、この管理のため閉鎖系での操作が必要であり、作業性(安全性)がよくない。
【0011】
本発明は前記状況に鑑みてなされたものである。本発明の課題は、簡便、安全かつ効率良くAc-225を製造できる放射性核種製造システムおよび放射性核種製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決した本発明に係る放射性核種製造システムは、電子線を照射する電子加速器と、照射された前記電子線により制動放射線を発生させる金属ターゲット部と、発生させた前記制動放射線が照射されるとともに、Ra-226原料を含み、相分離する二種類以上の溶媒を収容でき、前記制動放射線が照射されることにより前記Ra-226原料からAc-225を製造するRa-226溶液ターゲット部と、前記相分離する二種類以上の溶媒のうち、前記Ac-225を多く含む第1溶媒を抽出する溶媒抽出部と、消費した減少量分の前記溶媒を前記Ra-226溶液ターゲット部に追加する溶媒追加部と、前記Ra-226溶液ターゲット部で発生する気体ラドンを処理するラドン処理部と、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る放射性核種製造システムおよび放射性核種製造方法は、簡便、安全かつ効率良くAc-225を製造できる。
前述した以外の課題、構成および効果は以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る放射性核種製造システムの構成を説明する概要図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る放射性核種製造システムの構成を説明する概要図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る放射性核種製造システムの構成を説明する概要図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る放射性核種製造システムの構成を説明する概要図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る放射性核種製造方法の内容を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、適宜図面を参照して本発明の一実施形態に係る放射性核種製造システムおよび放射性核種製造方法について詳細に説明する。なお、実施形態の説明において、実質的に同一または類似の構成には同一の符号を付し、説明が重複する場合にはその説明を省略する場合がある。
【0016】
(放射性核種製造システム)
図1から
図3は、本発明の一実施形態に係る放射性核種製造システムSの構成を説明する概要図である。なお、
図1は、Ra-226溶液ターゲット部5内の溶媒が相分離する前の様子を示しており、
図2および
図3は、Ra-226溶液ターゲット部5内の溶媒が相分離した後の様子を示している。
図2と
図3とでは、相分離した第1溶媒5bおよび第2溶媒5cの位置が逆になっている。また、これに伴い、溶媒抽出部6の位置も変更されている。
【0017】
図1から
図3に示すように、本実施形態に係る放射性核種製造システムSは、電子加速器1と、金属ターゲット部2と、Ra-226溶液ターゲット部5と、溶媒抽出部6と、ラドン処理部7と、溶媒追加部8と、を有している。電子加速器1と、金属ターゲット部2と、Ra-226溶液ターゲット部5とは、電子線3(および制動放射線4)の照射線上(経路上)に配置されている。溶媒抽出部6、ラドン処理部7および溶媒追加部8は、Ra-226溶液ターゲット部5に設けられている。
【0018】
電子加速器1は、金属ターゲット部2に向けて電子線3を照射する。
金属ターゲット部2は、照射された電子線3により制動放射線4を発生させる。
Ra-226溶液ターゲット部5は、発生させた制動放射線4が照射される。また、Ra-226溶液ターゲット部5は、相分離する二種類以上の溶媒を収容している。この溶媒には、Ra-226原料が含まれている。そして、Ra-226溶液ターゲット部5は、溶媒に含まれているRa-226原料に制動放射線4が照射されることにより、Ra-226原料からAc-225を製造する。
溶媒抽出部6は、相分離する二種類以上の溶媒のうち、製造されたAc-225を多く含む第1溶媒5bを抽出する。
ラドン処理部7は、Ra-226溶液ターゲット部5で発生する気体ラドンを処理する。
溶媒追加部8は、消費した減少量分の溶媒をRa-226溶液ターゲット部5に追加する。
【0019】
前記構成に示すように、放射性核種製造システムSは、電子加速器1により加速された電子を制動放射線発生用ターゲットである金属ターゲット部2に照射することで制動放射線4を発生させる。そして、本実施形態では、発生させた制動放射線4をRa-226原料に照射することでAc-225を製造する。
【0020】
Ra-226原料からのAc-225の製造について説明する。
まず、Ra-226原料を多く含む溶液状の放射性核種製造用原料に制動放射線4を照射し、1個の制動放射線4の照射により1個の中性子を発生させる(γ,n)反応によってRa-225を生成する(Ra-226(γ,n)Ra-225)。制動放射線4は陽子などの粒子線と違い、透過力が高いため、溶媒中での減衰が小さく、十分な強度で照射が可能である。
【0021】
生成したRa-225は、14.8日の半減期で子孫核種であるAc-225となる。Ac-225は、10.0日の半減期で子孫核種であるフランシウム221(Fr-221)となる。Fr-221は、半減期4.9分でアスタチン217(At-217)となり、At-217は、半減期32ミリ秒でビスマス213(Bi-213)となる。Ac-225およびその子孫核種は治療に有効であるが、Ra-226およびRa-225は、不要な被ばくの原因となることから治療に不要な核種であり、Ac-225との分離精製が必要である。また、放射性核種製造用原料であるRa-226は貴重であることから、回収して再利用することが前提である。
【0022】
また、Ra-226は半減期1600年でアルファ崩壊し、娘核種としてラドン222(Rn-222)が発生する。Rn-222は気体状の放射性核種のため容易に環境中に拡散し、半減期3.8日で崩壊すると金属核種(ポロニウム218(Po-218)→鉛214(Pb-214)→・・・)となってあらゆる場所に付着する。Rn-222の子孫核種にはPb-214やビスマス214(Bi-214)といった多量の放射線を放出する核種が存在するため、放射線安全の観点から、Rn-222を含む気体は管理が必要である。つまり、Ra-226原料を扱う系は閉鎖系とし、排気経路にはRn-222を回収・捕集する部材を設ける必要がある。Rn-222は希ガスのため化学的な捕集は難しいので、Rn-222の捕集方法としては、例えば、冷却した活性炭で物理吸着を行うことが挙げられる。
なお、Rn以外に発生する気体として、制動放射線4により、溶媒中の水が放射線分解を起こし、水素と酸素が生成する。また、Ra-226原料およびその子孫核種から放出されるアルファ線によっても、水の放射線分解が起こり、水素と酸素が生成する。
【0023】
図1から
図3に戻って説明を続ける。
図1から
図3に示すように、本実施形態に係る放射性核種製造システムSは、電子加速器1で加速した電子線3を、制動放射線発生用のターゲットである金属ターゲット部2に照射して制動放射線4を発生させ、Ra-226原料を含むRa-226溶液ターゲット部5に照射する。金属ターゲット部2の材質は、例えば、タングステン、白金、タンタルなどの重金属、鉄、鉄合金、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金などが挙げられる。Ra-226溶液ターゲット部5の容器の材質は、金属やガラス、樹脂でもよい。Ra-226溶液ターゲット部5の材質が金属である場合は、金属ターゲット部2を兼ねることもできる。
【0024】
前記したように、Ra-226溶液ターゲット部5内に収容される溶液ターゲット5aは、相分離する少なくとも二種類の溶媒から構成される。二種類の溶媒としては、例えば、ベンゼン、クロロホルム、アルカン、ドデカンなどの有機物からなる第1溶媒5bと、水溶液、酸溶液などの第2溶媒5cとが挙げられる。つまり、第1溶媒5bは有機溶媒(無極性溶媒)であり、第2溶媒5cは極性溶媒である。AcおよびRaがイオンの状態で存在する場合は、抽出剤を用いていずれかのイオンを捕捉し、有機相(第1溶媒5b)への溶解度を向上させる。Ac-225を選択的に捕捉し、Ra-226に結合しない抽出剤として、例えば、N,N,N′,N′-テトラオクチルジグリコールアミド(TODGA)やビス(2-エチルヘキシル)ホスファート(HDEHP)が挙げられる。これらの抽出剤と選択的に結合したAc-225は無極性となり、有機溶媒である第1溶媒5bに溶け易くなる。
【0025】
多くの有機溶媒は水より比重が小さいため、
図2に示すように、鉛直方向に対してAc-225を多く含む相(有機溶媒である第1溶媒5b)が上、Ra-226原料を多く含む相(極性溶媒である第2溶媒5c)が下の二相に相分離する。
これに対し、水より比重が大きい有機溶媒を用いた場合は、
図3に示すように、鉛直方向に対してAc-225を多く含む相(有機溶媒である第1溶媒5b)が下、Ra-226原料を多く含む相(極性溶媒である第2溶媒5c)が上の二相に相分離する。
図3に示す態様の場合、上相のRa-226を多く含む第2溶媒5cで生じたRnが、下相のAc-225を多く含む第1溶媒5bに混入する量が少ないので、下相の第1溶媒5bへのRn混入量が減る。そのため、溶媒抽出部6による抽出後のAc-225の精製がより安全に行える。
【0026】
Ac-225を多く含む第1溶媒5bとRa-226原料を多く含む第2溶媒5cとの上下関係はいずれでもよいが、
図2や
図3に示すように、Ac-225を多く含む第1溶媒5bの位置に合わせて溶媒抽出部6を設ける。具体的には、Ac-225を多く含む第1溶媒5bが上になる場合は、
図2に示すように、Ra-226溶液ターゲット部5の側壁の上部に溶媒抽出部6を設ける。一方、Ac-225を多く含む第1溶媒5bが下になる場合は、
図3に示すように、Ra-226溶液ターゲット部5の底部に溶媒抽出部6を設ける。
【0027】
また、Ac-225を多く含む第1溶媒5bが上の場合、下のRa-226原料を多く含む第2溶媒5cで発生した気体Rnが上昇し、Ac-225を多く含む第1溶媒5b中に混入する。Rnは無極性の希ガスであるため、水相より有機相(第1溶媒5b)での溶解度が高い。第1溶媒5bに混入したRnを低減させるためには、溶媒抽出部6に加熱部6aを設け、加熱により気体の溶解度を下げるとよい。加熱部6aによる加熱温度は、数十℃、例えば、50℃~60℃などとすることができる。加熱部6aは、例えば、電気ヒータ、ガスヒータなどを用いることができるが、これらに限定されない。加熱部6aは、溶媒抽出部6全体を覆うようにして加熱してもよく、一部を加熱してもよい。Ra-226溶液ターゲット部5と溶媒抽出部6とを中空管で繋いでいる場合、加熱部6aは当該中空管を加熱してもよい。なお、制動放射線4の照射により溶液ターゲット5aの温度が上昇するため、溶媒に対するRnの溶解度が十分低い場合には加熱部6aによる第1溶媒5bの加熱は行わなくてもよい。
【0028】
制動放射線4を溶液ターゲット5aに照射すると、溶液ターゲット5a中のRa-226原料と反応して、(γ,n)反応により、Ra-225が生成する。他の反応経路により生成する核種も存在するが、本実施形態における影響は小さいためここでは考えなくてもよい。生成したRa-225は、14.8日の半減期で子孫核種であるAc-225となる。Ra-225がAc-225に崩壊すると、Ac-225は抽出剤と選択的に結合して無極性となり、Ra-226を多く含む第2溶媒5cからAc-225を多く含む第1溶媒5bへの移行がおきる。
【0029】
この移行は、二種類の溶媒の接触面積が多いほど早く進む。制動放射線4の照射により溶液ターゲット5aが発熱するため、対流によってある程度は攪拌されるが、より積極的に攪拌することで、分離効率を上げることができる。攪拌機構としては、例えば、溶媒を循環させる送液機構を設ける方法、気体のバブリングによる方法、モーターなどを用いて振動させる方法、溶媒中に設置した回転翼で攪拌する方法などが挙げられる。バブリングに用いる気体としては、制動放射線4の照射中に発生した気体を循環利用することができる。
【0030】
溶液ターゲット5a中のRa-226原料から発生したRn-222は、Ra-226溶液ターゲット部5の上部に設置したラドン処理部7で処理する。ラドン処理部7におけるRnの処理方法としては、例えば、活性炭フィルタによる吸着が挙げられる。Rn-222は、半減期は3日程度だが、子孫核種にはPb-210(半減期22.2年)、Po-210(同138日)があるため、吸着後は放射性廃棄物として管理する。
【0031】
製造したAc-225を取り出す際は、溶液ターゲット5aを静置し、Ac-225を多く含む第1溶媒5bとRa-226原料を多く含む第2溶媒5cとの二相に相分離する。そして、Ac-225を多く含む第1溶媒5bのみを溶媒抽出部6から取り出す(抽出後Ac-225)。これにより、Ac-225を得ることができる。なお、相分離時は、溶液ターゲット5aの対流を抑制して相分離を早めるため、制動放射線4の照射を停止するのが好ましいが、制動放射線4を照射していても溶液ターゲット5aの対流が小さく、相分離に対する影響が小さい場合には、制動放射線4の照射を継続してもよい。溶液ターゲット5aの対流の発生の有無や大小は、事前の確認試験で確認しておくことが好ましい。抽出剤を用いている場合、抽出後Ac-225に対して溶媒の液性や種類を変更することにより、Ac-225から抽出剤を解離させることができる。
溶媒抽出部6で抽出されたAc-225を多く含む第1溶媒5bは、抽出剤や少量のRa-226原料などを含み得るため、Ac-225精製部9で追加の精製を行うことが好ましい。これにより、高度に精製されたAc-225を得ることができる(精製Ac-225)。なお、Ac-225精製部9による精製でAc-225から抽出剤を解離させることができる場合は、抽出後Ac-225に対する前記溶媒の液性や種類の変更は行わなくてもよい。
【0032】
Ac-225精製部9による精製は、例えば、抽出クロマトグラフィ、イオン交換、溶媒抽出などで行う。これらは単独で用いてもよいし、任意に複数組み合わせて用いてもよい。抽出クロマトグラフィは、例えば、Eichrom Technologies社製のDGAレジン、LNレジン、MnO2レジン、SRレジン、UTEVAレジン、REレジンなどを使用することにより行うことができる。イオン交換は、例えば、Biorad社製のAG50W樹脂、AG1樹脂や、The Dow Chemical Company社製のDOWEX50W、DOWEX 1などを使用することにより行うことができる。Ac-225精製部9における溶媒抽出は、放射性核種を分離するために行われる常法(溶媒抽出法)により行うことができる。Ac-225精製部9における抽出クロマトグラフィの抽出条件、イオン交換の条件および溶媒抽出の抽出条件は、使用する抽出剤の種類や溶媒の種類、不純物の濃度などの状態によって異なるため、事前の確認試験で確認しておくことが好ましい。これらの放射性核種の抽出などは、当該技術分野に属する当業者によって広く行われているものであるため、過度な試行錯誤を要することなく実施できる。なお、Ac-225精製部9に供する段階では、溶媒中にRaはほぼ含まれていないためRn管理が不要であり、作業性は向上する。
【0033】
溶媒抽出部6の操作により、溶媒および抽出剤を消費するため、消費した減少量分の溶媒を溶媒追加部8からRa-226溶液ターゲット部5に適宜追加する。溶媒追加部8から追加する溶媒は、主には第1溶媒5bであるが、第2溶媒5cが減少している場合は、第2溶媒5cを追加することができる。また、溶媒追加部8は、抽出剤も追加することができる。少量ではあるが、Ac-225精製部9でRaが分離されるので、適宜これを溶媒追加部8に戻すとよい。これは次のようにして行うことができる。
【0034】
図4は、本発明の一実施形態に係る放射性核種製造システムSの構成を説明する概要図である。
図4に示すように、放射性核種製造システムSは、Ac-225精製部9と溶媒追加部8との間に回収部10を備えていてもよい。回収部10は、Ac-225精製部9でAc-225を精製する際に得られた少量のRa-226原料、およびAc-225を多く含んでいた第1溶媒5bをそれぞれ回収して溶媒追加部8に戻す。また、回収した第1溶媒5bには、精製時に回収された抽出剤が含まれているので、回収部10は、第1溶媒5bとともに抽出剤を溶媒追加部8に戻す。すなわち、回収部10はRa-226原料、第1溶媒5bおよび抽出剤の再利用機構として機能する。これにより、放射性廃棄物を低減でき、貴重なRa-226原料の再利用が容易になる。回収部10は、例えば、Ac-225精製部9と溶媒追加部8とを繋ぐ可撓性の中空管、および当該可撓性の中空管の途中に設けられたダイヤフラムポンプなどの圧力付与装置(図示せず)で構成することができるが、第1溶媒5bや抽出剤をAc-225精製部9から溶媒追加部8に戻すことができればよく、この態様に限定されない。
【0035】
(放射性核種製造方法)
次に、
図5を参照して、本発明の一実施形態に係る放射性核種製造方法について説明する。
図5は、本発明の一実施形態に係る放射性核種製造方法の内容を説明するフロー図である。
図5に示すように、本実施形態に係る放射性核種製造方法は、制動放射線発生ステップS1と、Ac-225製造ステップS2と、溶媒抽出ステップS3と、溶媒追加ステップS4と、を含んでいる。
また、本放射性核種製造方法は、溶媒抽出ステップS3の後に、Ac-225精製ステップS31をさらに含んでいてもよい。
さらに、本放射性核種製造方法は、Ac-225精製ステップS31の後に、回収ステップS32をさらに含んでいてもよい。
以下、これらのステップについて説明する。
【0036】
制動放射線発生ステップS1では、電子加速器1から金属ターゲット部2に向けて電子線3を照射して金属ターゲット部2から制動放射線4を発生させる。このステップは、前記した電子加速器1および金属ターゲット部2により実施することができる。
Ac-225製造ステップS2では、発生させた制動放射線4をRa-226溶液ターゲット部5に収容されている溶媒(すなわち、Ra-226原料を含み、相分離する二種類以上の溶媒)に照射して、Ra-226原料からAc-225を製造しつつ、発生する気体ラドンを処理する。このステップは、前記したRa-226溶液ターゲット部5により実施することができる。また、気体ラドンの処理は、前記したラドン処理部7により実施することができる。
【0037】
溶媒抽出ステップS3では、相分離する二種類以上の溶媒のうち、Ac-225を多く含む第1溶媒5bを抽出する。このステップは、前記した溶媒抽出部6により実施することができる。
溶媒追加ステップS4は、消費した減少量分の溶媒をRa-226溶液ターゲット部5に追加する。このステップは、前記した溶媒追加部8により実施することができる。
【0038】
Ac-225精製ステップS31では、溶媒抽出ステップS3で抽出されたAc-225を多く含む第1溶媒5bからAc-225を精製する。このステップは、前記したAc-225精製部9により実施することができる。
回収ステップS32では、Ac-225精製ステップS31でAc-225を精製する際に得られたRa-226原料およびAc-225を多く含んでいた第1溶媒5bを回収して溶媒追加ステップS4に戻す。このステップは、前記した回収部10により実施することができる。
【0039】
以上に説明したように、本実施形態に係る放射性核種製造システムSおよび放射性核種製造方法は、制動放射線4の照射と同時にRa/Acの分離を実施することができるので、簡便かつ効率的にAc-225を製造できる。また、本実施形態に係る放射性核種製造システムSおよび放射性核種製造方法は、Ac-225製造時に閉鎖系で操作してRnを処理できるので、安全にAc-225を製造できる。
【0040】
以上、本発明に係る放射性核種製造システムおよび放射性核種製造方法について実施形態により詳細に説明したが、本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、それぞれの実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0041】
S 放射性核種製造システム
1 電子加速器
2 金属ターゲット部
3 電子線
4 制動放射線
5 Ra-226溶液ターゲット部
5a 溶液ターゲット
5b 第1溶媒
5c 第2溶媒
6 溶媒抽出部
6a 加熱部
7 ラドン処理部
8 溶媒追加部
9 Ac-225精製部
10 回収部
S1 制動放射線発生ステップ
S2 Ac-225製造ステップ
S3 溶媒抽出ステップ
S31 Ac-225精製ステップ
S32 回収ステップ
S4 溶媒追加ステップ