(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158970
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】森林管理システムおよび森林管理方法
(51)【国際特許分類】
A01G 23/08 20060101AFI20231024BHJP
G06T 7/60 20170101ALI20231024BHJP
G06V 20/17 20220101ALI20231024BHJP
【FI】
A01G23/08 501Z
G06T7/60 300Z
G06V20/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069071
(22)【出願日】2022-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨樫 良一
(72)【発明者】
【氏名】上野 充
【テーマコード(参考)】
5L096
【Fターム(参考)】
5L096AA09
5L096CA05
5L096DA02
5L096FA66
5L096FA67
5L096GA51
5L096JA09
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】森林を構成する樹木の状態を管理する。
【解決手段】低高度観測機は、距離マップを生成する測距装置および前記低高度観測機の位置を計測する測位装置を備える。低高度観測機は、森林のうち地表付近の枝葉のない領域を移動する。データ取得部は、低高度観測機から、測距装置が生成した低高度距離マップおよび低高度観測機の位置を取得する。位置特定部は、低高度距離マップに基づいて特定される低高度観測機から樹木までの距離、および低高度観測機の位置に基づいて、樹木の位置を特定する。識別部は、樹木の位置に基づいて樹木の個体を識別する識別情報を取得する。記録部は、低高度距離マップに基づいて計測された個体の枝葉より低い部分の樹木情報である低高度樹木情報を、識別情報に関連付けてデータベースに記録する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
森林のうち地表付近の枝葉のない領域を移動し、距離マップを生成する測距装置および自身の位置を計測する測位装置を備えた低高度観測機から、前記測距装置が生成した低高度距離マップおよび前記低高度観測機の位置を取得するデータ取得部と、
前記低高度距離マップに基づいて特定される前記低高度観測機から樹木までの距離、および前記低高度観測機の位置に基づいて、前記樹木の位置を特定する位置特定部と、
前記樹木の位置に基づいて前記樹木の個体を識別する識別情報を取得する識別部と、
前記低高度距離マップに基づいて計測された前記個体の枝葉より低い部分の樹木情報である低高度樹木情報を、前記識別情報に関連付けてデータベースに記録する記録部と
を備える森林管理システム。
【請求項2】
前記低高度距離マップおよびグローバル座標系における前記低高度観測機の三次元位置に基づいて、前記低高度樹木情報である前記樹木が立つ地表の高度を算出する高度算出部を備える
請求項1に記載の森林管理システム。
【請求項3】
前記記録部は、前記森林の上空から撮像された高高度撮像データのうち前記個体が写る部分から計測される前記個体の樹木情報である高高度樹木情報を、前記個体の識別情報に関連付けて前記データベースに記録する
請求項1または請求項2に記載の森林管理システム。
【請求項4】
前記森林の林冠より高い高度から計測された高高度距離マップのうち前記個体が写る部分から計測される前記個体の樹頭の高度と、前記個体が立つ地表の高度とに基づいて前記個体の高さを算出する高さ算出部を備え、
前記記録部は、前記個体の前記識別情報に関連付けて前記個体の高さを前記データベースに記録する
請求項1または請求項2に記載の森林管理システム。
【請求項5】
前記高さ算出部は、前記森林の上空から計測された高高度距離マップから特定される複数の樹頭のうち、平面位置が前記識別情報に係る前記個体の平面位置と最も近い樹頭に係る高度を、前記個体の樹頭の高度として特定する
請求項4に記載の森林管理システム。
【請求項6】
前記低高度観測機は照度センサを備え、
前記データ取得部は、前記照度センサが計測した照度データを取得し、
前記記録部は、前記照度データに係る値を前記樹木の識別情報に関連付けて前記データベースに記録する
請求項1または請求項2に記載の森林管理システム。
【請求項7】
前記データベースは、樹木の個体を識別する識別情報、前記個体の位置、および前記個体の低高度樹木情報を関連付けて記憶し、
前記識別部は、特定された前記位置に対応する識別情報が前記データベースに記録されていない場合に、前記個体に新たな識別情報を付与する
請求項1または請求項2に記載の森林管理システム。
【請求項8】
前記低高度観測機は、樹木を伐採する林業機械が走行する走行ルートに沿って前記森林を移動し、
前記記録部は、前記走行ルートの近傍に立つ樹木の低高度樹木情報を、前記データベースに記録する
請求項1または請求項2に記載の森林管理システム。
【請求項9】
前記データベースに記録された情報に基づいて、樹木を伐採する林業機械によって伐採すべき個体を示す伐採計画を生成する伐採計画生成部と、
前記生成した前記伐採計画に従った伐採を指示する指示信号を前記林業機械に送信する伐採指示部と
を備える請求項1または請求項2に記載の森林管理システム。
【請求項10】
前記低高度観測機によって撮像された低高度撮像データに写る前記樹木の水平に対する角度に基づいて、前記樹木が倒木であるか生木であるかを判定する倒木判定部を備え、
前記識別部は、前記樹木が生木であると判定された場合に、前記樹木の識別情報を取得する
請求項1または請求項2に記載の森林管理システム。
【請求項11】
森林のうち地表付近の枝葉のない領域を移動する低高度観測機であって、距離マップを生成する測距装置および前記低高度観測機の位置を計測する測位装置を備えた前記低高度観測機から、前記測距装置が生成した低高度距離マップおよび前記低高度観測機の位置を取得するステップと、
前記低高度距離マップに基づいて特定される前記低高度観測機から樹木までの距離、および前記低高度観測機の位置に基づいて、前記樹木の位置を特定するステップと、
前記樹木の位置に基づいて前記樹木の個体を識別する識別情報を取得するステップと、
前記低高度距離マップに基づいて計測された前記個体の枝葉より低い部分の樹木情報である低高度樹木情報を、前記識別情報に関連付けてデータベースに記録するステップと
を備える森林管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、森林管理システムおよび森林管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、無人航空機による撮影によって取得された作業現場の画像に基づいて、作業現場の地形を認識し、材木の収穫のための林業機械の移動経路を計画する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
森林において樹木が密集して生い茂っている場合、上空から撮像された画像には林冠が写り、樹木のうち林冠より下側の様子が写らない可能性がある。また、上空から撮像された画像には林冠を構成しない樹木が写らず、これらの樹木の状態を管理することができない可能性がある。
本開示の目的は、森林を構成する樹木の状態を管理することができる森林管理システムおよび森林管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、森林管理システムは、森林のうち地表付近の枝葉のない領域を移動し、距離マップを生成する測距装置および自身の位置を計測する測位装置を備えた低高度観測機から、前記測距装置が生成した低高度距離マップおよび前記低高度観測機の位置を取得するデータ取得部と、前記低高度距離マップに基づいて特定される前記低高度観測機から樹木までの距離、および前記低高度観測機の位置に基づいて、前記樹木の位置を特定する位置特定部と、前記樹木の位置に基づいて前記樹木の個体を識別する識別情報を取得する識別部と、前記低高度距離マップに基づいて計測された前記個体の枝葉より低い部分の樹木情報である低高度樹木情報を、前記識別情報に関連付けてデータベースに記録する記録部とを備える。
【発明の効果】
【0006】
上記態様によれば、森林管理システムは、森林を構成する樹木の状態を管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第一実施形態に係る森林管理システムを示す概略図である。
【
図2】第一実施形態に係る低高度観測機の外観を示す構成図である。
【
図3】第一実施形態に係る高高度観測機の外観を示す構成図である。
【
図4】第一実施形態に係る林業機械の外観を示す構成図である。
【
図5】第一実施形態に係る森林管理装置の構成を示す概略ブロック図である。
【
図6】第一実施形態に係るストレージが記憶するデータベースを示す図である。
【
図7】第一実施形態に係る森林管理装置による樹木情報の更新処理を示すフローチャートである。
【
図8】第一実施形態に係る森林管理装置による伐採計画の生成処理を示すフローチャートである。
【
図9】第二実施形態に係る森林管理装置の構成を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〈第一実施形態〉
《森林管理システムの構成》
以下、図面を参照しながら実施形態について詳しく説明する。
図1は、第一実施形態に係る森林管理システム1を示す概略図である。
森林管理システム1は、森林Fに生育する樹木の個体を識別し、各個体の状態を管理する。また、森林管理システム1は、樹木の状態に基づいて収穫計画を生成し、樹木の収穫を行う。森林管理システム1は、低高度観測機10、高高度観測機30、林業機械50、および森林管理装置70を備える。
【0009】
低高度観測機10は、遠隔操作によって森林Fの地上を走行し、森林Fに生育している樹木の幹や地表を観測する。
図1に示すように第一実施形態に係る低高度観測機10は、無限軌道を備えるロボットであってよい。なお、他の実施形態に係る低高度観測機10は、車輪や脚によって走行するものであってもよいし、空中を飛行するドローンであってもよい。なお、低高度観測機10が飛行する場合、低高度観測機10は、森林Fの林冠より低い高度で飛行する。林冠とは、森林全体において枝葉が茂る部分をいう。つまり低高度観測機10は、森林Fの地表付近の枝葉が無い領域を飛行する。
【0010】
高高度観測機30は、遠隔操作によって森林Fの上空を飛行し、森林Fに生育している樹木の樹冠を観測する。樹冠とは、樹木の枝葉が茂る部分をいう。遠隔操作は、操作者がコントローラC3を介してリアルタイムに操作するものであってもよいし、操作者がコントローラC3を用いて予め設定したルートに沿って飛行するものであってもよい。つまり、高高度観測機30は、森林Fの林冠より高い高度で飛行する。
図1に示すように第一実施形態に係る高高度観測機30は、ドローンであってよい。
【0011】
林業機械50は、樹木の幹を掴んでから伐採し、幹を掴んだまま走行可能な作業機械である。これにより、林業機械50は、所定の場所に木材を集積することができる。林業機械50は、フェラーバンチャーやハーベスタであってよい。
【0012】
森林管理装置70は、低高度観測機10および高高度観測機30から計測データを受信し、森林Fに生息している樹木の個体を識別し、各個体の状態を記録する。また森林管理装置70は、樹木の状態に基づいて収穫計画を生成し、林業機械50に指示信号を送信する。林業機械50は、森林管理装置70から受信した指示信号に基づいて稼働する。低高度観測機10、高高度観測機30、林業機械50、および森林管理装置70は、互いにインターネットなどの通信網Nを介して接続される。森林管理装置70は、低高度観測機10、高高度観測機30、林業機械50から遠隔に設けられてよい。
【0013】
《低高度観測機10の構成》
図2は、第一実施形態に係る低高度観測機10の外観を示す構成図である。
低高度観測機10は、走行装置11と機体12とを備える。走行装置11は、機体12を走行可能に支持する。低高度観測機10の走行装置11は、例えばモータの動力によって駆動する無限軌道であってよい。
【0014】
機体12には、測距装置121、測位装置122、姿勢計測装置123、照度センサ124、バッテリ125、制御装置126、撮像装置127を備える。
測距装置121は、視界における被写体までの距離をマッピングした距離マップを生成する。測距装置121の例としては、ステレオカメラ、ToFカメラ、パターンプロジェクションカメラ、LiDARなどが挙げられる。撮像装置127は、被写体のカラー画像を撮像する。測距装置121および撮像装置127は、視線が機体12の前方を向くように設けられる。なお、測距装置121がステレオカメラである場合など、測距装置121がカラー画像を得ることができる場合、機体12は撮像装置127を備えなくてもよい。距離マップとは、二次元平面上の複数の点に、当該点の距離をマッピングしたデータである。距離マップは、例えばLiDAR等により生成される三次元形状データおよびステレオカメラにより生成される距離画像を含む。
【0015】
測位装置122は、GNSSからの測位信号を受信するアンテナを備え、アンテナを介して受信された測位信号に基づいて低高度観測機10の位置を計測する。測位装置122は、計測した位置を示す位置データを制御装置126に出力する。低高度観測機10の位置は、3次元のグローバル座標系で表される。測位装置122がアンテナを複数備える場合、測位装置122は、低高度観測機10が向く方位を計測することができる。
姿勢計測装置123は、機体12の姿勢を計測する。具体的には、姿勢計測装置123は、内蔵されるIMU(Inertial Measurement Unit)が計測する加速度および角加速度に基づいて、機体12のピッチ角、ロール角およびヨー角を計測する。IMUが地磁気センサを含む場合、姿勢計測装置123はグローバル座標系における姿勢を計測することができる。他方、姿勢計測装置123は、機体12を基準とするローカル座標系における姿勢を計測し、測位装置122によって計測される機体12が向く方位に基づいて、グローバル座標系に変換してもよい。
【0016】
照度センサ124は、機体12の上面に設けられ、低高度観測機10の周囲の明るさを計測する。
バッテリ125は、走行装置11および制御装置126の動力源である。
【0017】
制御装置126は、低高度観測機10を遠隔操作するコントローラC1から走行装置11の制御信号を受信し、当該制御信号に従って走行装置11を駆動させる。コントローラC1は、PCやスマートフォンであってよい。制御装置126は、コントローラC1に測距装置121が生成する距離マップを画像化したものや、撮像装置127が撮像する画像を送信して。また制御装置126は、コントローラC1から樹木の状態の計測を指示する計測指示信号を受信する。例えば、オペレータは、コントローラC1を操作して低高度観測機10の正面を計測対象の樹木に向け、計測指示信号を送信する。つまり、オペレータは、画像の中央に樹木が写るように低高度観測機10の姿勢を制御し、計測指示信号を送信する。
制御装置126は、計測指示信号の受信後、測距装置121、測位装置122、姿勢計測装置123および照度センサ124によって取得された計測データを、計測された時刻に関連付けて森林管理装置70に送信する。
【0018】
《高高度観測機30の構成》
図3は、第一実施形態に係る高高度観測機30の外観を示す構成図である。
高高度観測機30は、機体31およびプロペラ32を備える。プロペラ32は、機体31の上部に設けられ、回転により揚力を発生させる。機体31には、測距装置311、マルチスペクトルカメラ312、測位装置313、姿勢計測装置314、照度センサ315、バッテリ316および制御装置317が設けられる。
【0019】
測距装置311は、視界における被写体までの距離をマッピングした距離マップを生成する。測距装置311の例としては、ステレオカメラ、ToFカメラ、LiDARなどが挙げられる。測距装置311は、視線が機体31の下方を向くように設けられる。
マルチスペクトルカメラ312は、可視域から赤外域までの複数の波長の反射光の強度を計測し、波長ごとの撮像画像を表すデータキューブを生成する。データキューブは、X軸とY軸で表される二次元の画像データを波長軸上に並べた三次元のデータである。マルチスペクトルカメラ312は、少なくとも光合成に用いられる可視域の画像と、光合成に用いられない近赤外域の画像とを取得する。マルチスペクトルカメラ312は、視線が機体31の下方を向くように設けられる。
【0020】
測位装置313は、GNSSからの測位信号を受信するアンテナを備え、アンテナを介して受信された測位信号に基づいて高高度観測機30の位置を計測する。測位装置313は、計測した位置を示す位置データを制御装置317に出力する。高高度観測機30の位置は、3次元のグローバル座標系で表される。測位装置313がアンテナを複数備える場合、測位装置313は、高高度観測機30が向く方位を計測することができる。
姿勢計測装置314は、機体31の姿勢を計測する。具体的には、姿勢計測装置314は、内蔵されるIMUが計測する加速度および角加速度に基づいて、機体31のピッチ角、ロール角およびヨー角を計測する。IMUが地磁気センサを含む場合、姿勢計測装置314は、グローバル座標系における姿勢を計測することができる。他方、姿勢計測装置314は、機体31を基準とするローカル座標系における姿勢を計測し、測位装置313によって計測される機体31が向く方位に基づいて、グローバル座標系に変換してもよい。
【0021】
照度センサ315は、機体31の上面に設けられ、高高度観測機30の周囲の明るさを計測する。
バッテリ316は、プロペラ32を駆動するモータおよび制御装置317の動力源である。
【0022】
制御装置317は、高高度観測機30を遠隔操作するコントローラC3から制御信号を受信し、当該制御信号に従ってプロペラ32を駆動させる。コントローラC3は、PCやスマートフォンであってよい。制御装置317は、コントローラC3に測距装置311が撮像する距離マップを画像化したものや、マルチスペクトルカメラ312が撮像したデータキューブをカラー画像に変換したものを送信してもよい。また、他の実施形態においては、高高度観測機30は、低高度観測機10と平面位置を一致させながら連動して移動してもよい。この場合、制御装置317は、測位装置313が計測した位置データと低高度観測機10の位置データに基づいて移動方向を決定し、プロペラ32を駆動させてよい。また制御装置317は、コントローラC3から下方の樹木の状態の計測を指示する計測指示信号を受信する。すなわち、オペレータは、コントローラC3を操作して高高度観測機30を計測対象の樹木の直上に位置させ、計測指示信号を送信する。つまり、オペレータは、画像の中央に計測対象の樹木が写るように高高度観測機30を制御し、計測指示信号を送信する。
制御装置317は、測距装置311、マルチスペクトルカメラ312、測位装置313、姿勢計測装置314、および照度センサ315によって取得された計測データを、計測された時刻に関連付けて森林管理装置70に送信する。
【0023】
《林業機械50の構成》
図4は、第一実施形態に係る林業機械50の外観を示す構成図である。林業機械50は、車体51、走行装置52、作業機53、制御装置54を備える。
【0024】
走行装置52は、車体51を走行可能に支持する。走行装置52は、エンジンの動力によって駆動する無限軌道である。他方、他の実施形態においては、走行装置52は、エンジンの動力によって駆動する車輪を備えるものであってもよい。
【0025】
車体51には、車体51の位置を計測するための測位装置511が設けられる。測位装置511は、GNSSからの測位信号を受信するアンテナを備え、アンテナを介して受信された測位信号に基づいて車体51の位置を計測する。測位装置511は、計測した位置を示す位置データを制御装置54に出力する。車体51の位置は、3次元のグローバル座標系で表される。
【0026】
作業機53は、樹木の把持および伐採に用いられる。作業機53は、車体51の前部に設けられる。作業機53は、ブーム531、アーム532、ヘッド533、アームシリンダ534、ヘッドシリンダ535を備える。
【0027】
ブーム531の基端部は、車体51の後部に取り付けられる。ブーム531は、図示しない油圧モータによって回転する。アーム532の基端部は、ブーム531の先端部に車体51の幅方向に伸びる軸回りに回転可能に取り付けられる。ヘッド533は、アーム532に対して車体51の幅方向に伸びる第一軸回りに回転可能、かつ第一軸に直交する第二軸回りに回転可能に取り付けられる。ヘッド533の上部には、樹木を把持するためのグラップル5331が設けられる。ヘッド533の下部には、樹木を伐採するための丸鋸5332がグラップル5331と平行に設けられる。
【0028】
アームシリンダ534およびヘッドシリンダ535は、油圧シリンダである。アームシリンダ534の基端部はブーム531に取り付けられる。アームシリンダ534の先端部はアーム532に取り付けられる。アームシリンダ534が作動油によって伸縮することによって、アーム532が昇降する。ヘッドシリンダ535の基端部はアーム532に取り付けられる。ヘッドシリンダ535の先端部はヘッド533に取り付けられる。ヘッドシリンダ535が作動油によって伸縮することによって、ヘッド533が第一軸回りに回転する。
【0029】
制御装置54は、走行装置52および作業機53を駆動させる駆動信号を生成し、走行装置52および作業機53のアクチュエータを制御する。制御装置54は、通信網Nを介して森林管理装置70と通信を行う通信装置を備える。制御装置54は、通信網Nを介して森林管理装置70から受信した指示信号と、測位装置511が計測した位置データとに基づいて、走行装置52および作業機53を制御する。森林管理装置70から受信される指示信号には、森林Fの走行ルート、ならびに伐採対象の樹木の識別情報および位置を示す情報が含まれる。制御装置54は、測位装置511が計測した位置データに基づいて、走行ルートに沿って走行装置52を走行させる。また制御装置54は、位置データに基づいて樹木に正対するように走行装置52を走行させ、作業機53を駆動させる。制御装置54は、樹木の伐採を完了すると、当該樹木の識別情報を含む伐採通知信号を森林管理装置70に送信する。
【0030】
《森林管理装置70の構成》
図5は、第一実施形態に係る森林管理装置70の構成を示す概略ブロック図である。
森林管理装置70は、プロセッサ71、メインメモリ73、ストレージ75、インタフェース77を備えるコンピュータである。ストレージ75は、プログラムを記憶する。プロセッサ71は、プログラムをストレージ75から読み出してメインメモリ73に展開し、プログラムに従った処理を実行する。
なお、他の実施形態においては、森林管理装置70は、上記構成に加えて、または上記構成に代えてPLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサ71によって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。このような集積回路も、プロセッサの一例に含まれる。
【0031】
森林管理装置70は、インタフェース77を介して通信網Nに接続される。また森林管理装置70は、インタフェース77を介して図示しない入出力装置に接続される。
ストレージ75の例としては、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、不揮発性メモリ等が挙げられる。ストレージ75は、森林管理装置70のバスに直接接続された内部メディアであってもよいし、インタフェース77を介して森林管理装置70に接続される外部メディアであってもよい。ストレージ75は、一時的でない有形の記憶媒体である。
【0032】
ストレージ75には、森林Fに生育する樹木の個体に関する情報を記憶するデータベース751が構成される。
図6は、第一実施形態に係るストレージが記憶するデータベースを示す図である。具体的には、データベース751には、樹木の個体ごとに、ID、位置、種類、高さ、直径、活性度、欠陥、周囲の相対照度、樹齢、材木体積量、画像、植樹の有無、および伐採状況を関連付けて記憶する。IDは、樹木の個体を識別するための識別情報である。位置は、樹木が存在するグローバル座標系における三次元位置である。すなわち、位置は、樹木の立つ地表の緯度、経度および標高である。高さは、地表から樹頭までの長さである。活性度は、樹木による光合成の活性の指標値である。活性度は、例えば赤波長領域の反射光量と近赤外領域の反射光量の比であるNDVI(Normalized Difference Vegetation Index)で表される。欠陥は、樹皮の剥離の有無や腐食の有無などを表す。相対照度は、林冠より上方の照度に対する林冠より下方の照度の比である。伐採状況は、当該樹木が伐採済みであるか否かを示す。植樹の有無は、図示しない外部のデータベースから得てもよく、その際に植樹に関するデータ、例えば植樹の時期、位置、種類に関する情報を得て、このデータベース751における樹齢、位置、種類を更新してもよい。
【0033】
プロセッサ71は、プログラムを実行することで、データ取得部711、位置特定部712、倒木判定部713、識別部714、樹頭高度算出部715、樹木高さ算出部716、直径算出部717、種類特定部718、欠陥特定部719、活性度算出部720、相対照度算出部721、記録部722、伐採計画生成部723、伐採指示部724として機能する。
【0034】
データ取得部711は、低高度観測機10および高高度観測機30から計測データを取得する。すなわち、データ取得部711は、低高度観測機10が取得した距離マップ(低高度撮像データ)、ならびに撮像時の時刻、位置、姿勢および照度を取得する。なお、低高度観測機10の距離マップは、中央に樹木が写るように撮像されるようにしてもよい。以下、距離マップにおける中央の点を注目点ともよぶ。なお、他の実施形態においては、プロセッサ71が距離マップまたは撮像装置127が撮像した画像を解析し、樹木が存在する点を注目点として特定してもよい。例えば、計測された距離マップにおいて樹木の幹に類する形状、半円柱形状等の対象物が認識されれば、その対象物を樹木と認識してもよいし、さらに画像においてその方角に樹木と類する対象物が撮像されていればその対象物を樹木と認識してもよい。またデータ取得部711は、高高度観測機30が取得した距離マップおよびデータキューブ(高高度撮像データ)、ならびに撮像時の時刻、位置、姿勢および照度を取得する。
【0035】
位置特定部712は、データ取得部711が取得した低高度観測機10の位置および姿勢、ならびに距離マップから、樹木の下端部の三次元位置を特定する。具体的には、データ取得部711は、以下の手順で樹木の下端部の三次元位置を特定する。位置特定部712は、低高度観測機10の距離マップのパターンマッチングにより、半円柱状の構造物が写る部分を特定する。次に、位置特定部712は、当該構造物の軸方向の端部が写る点を特定する。なお、低高度観測機10の測距装置121の視界には樹頭が写らないため、樹木の軸方向の端部が樹木の下端部であることが推定される。位置特定部712は、低高度観測機10の位置および姿勢に基づいて、特定した点の三次元位置を特定する。なお、当該樹木が生木である場合、樹木の下端部の位置は樹木の立つ地表の位置である。なお、樹木の立つ地表の高度は、樹幹より低い部分の樹木情報の一つである。
【0036】
倒木判定部713は、データ取得部711が取得した低高度観測機10の距離マップから、位置特定部712が特定した樹木が倒木であるか生木であるかを判定する。具体的には、倒木判定部713は、距離マップから樹木の軸方向を特定し、軸方向と水平面とがなす角度が所定の倒木判定閾値未満である場合、すなわち樹木の軸方向が水平に近い場合に、当該樹木が倒木であると判定する。他方、倒木判定部713は、樹木の軸方向と水平面とがなす角度が倒木判定閾値以上である場合に、当該樹木が生木であると判定する。倒木判定部713は、倒木と判定された樹木が存在する位置をデータベース751に記録してもよい。
【0037】
識別部714は、倒木判定部713によって生木であると判定された樹木のIDを取得する。具体的には、識別部714は、データベース751から位置特定部712が特定した樹木の緯度および経度に最も近い伐採されていない個体を特定し、当該個体との距離が所定の誤差閾値未満である場合に、距離マップに写った樹木が当該個体であると判定し、当該個体のIDを取得する。他方、識別部714は、最も近い個体との距離が誤差閾値以上である場合に、距離マップに写った樹木が新たな個体であると判定し、新たなIDを付与する。識別部714は、樹木に新たなIDを付与した場合、位置特定部712が特定した平面位置と当該IDとを関連付けてデータベース751に記録する。
【0038】
また、樹頭高度算出部715は、データ取得部711が取得した高高度観測機30の距離マップから、樹木の樹頭の高度を算出する。具体的には、樹頭高度算出部715は、以下の手順で樹木の樹頭の高度を算出する。樹頭高度算出部715は、高高度観測機30の距離マップから樹頭が写る点を特定する。例えば樹頭高度算出部715は、距離マップのうち高さが極大となる点を樹頭が写る点として特定してよい。次に、樹頭高度算出部715は、撮像時の高高度観測機30の位置および姿勢に基づいて、樹頭が写る点の三次元位置を算出する。識別部714は、データベース751から樹頭が写る点の緯度および経度に最も近い伐採されていない個体を特定する。そして樹頭高度算出部715は、算出した三次元位置の高度を、特定した個体の樹頭の高度として特定する。
樹木高さ算出部716は、位置特定部712が算出した樹木の立つ地表の高度と樹頭高度算出部715が算出した樹頭の高度との差を、樹木の高さとして算出する。
直径算出部717は、データ取得部711が取得した低高度観測機10の距離マップから樹木の直径を算出する。例えば、直径算出部717は、距離マップのうち、樹木の軸方向に直交する幅方向における樹木の左端および右端の画素を特定し、当該画素が示す位置どうしの距離を、樹木の直径として算出する。樹木の直径は、樹幹より低い部分の樹木情報の一つである。
【0039】
種類特定部718は、低高度観測機10の撮像装置127が撮像した画像に基づいて樹木の種類を特定する。例えば、種類特定部718は、画像を入力とし、当該画像に写る樹木の種類を出力する学習済みのモデルに、低高度観測機10の撮像装置127が撮像した画像を入力することで樹木の種類を特定してよい。また例えば種類特定部718は、樹木の種類ごとに予め用意された樹皮のテンプレート画像を用いたテンプレートマッチングにより、樹木の種類を特定してもよい。なお、測距装置121がステレオカメラである場合など、カラー画像を得ることができる場合、種類特定部718は測距装置121が得た画像に基づいて樹木の種類を特定してもよい。
【0040】
欠陥特定部719は、低高度観測機10の撮像装置127が撮像した画像に基づいて幹の欠陥の有無および欠陥の種類を特定する。欠陥の種類としては、樹皮の剥離や腐食などが挙げられる。例えば、欠陥特定部719は、画像を入力とし、当該画像に写る樹木における樹皮の剥離の有無と腐食の有無とを出力する学習済みのモデルに、低高度観測機10の撮像装置127が撮像した画像を入力することで樹木の欠陥の有無を特定してよい。また例えば欠陥特定部719は、樹木の欠陥ごとに予め用意されたテンプレート画像を用いたテンプレートマッチングにより、樹木の欠陥を特定してもよい。幹の欠陥に関する情報は、樹幹より低い部分の樹木情報の一つである。なお、測距装置121がステレオカメラである場合など、カラー画像を得ることができる場合、欠陥特定部719は測距装置121が得た画像に基づいて樹木の欠陥の有無を特定してもよい。
【0041】
活性度算出部720は、高高度観測機30のデータキューブに基づいて樹木の活性度を算出する。例えば、活性度算出部720は、データキューブのうち樹頭高度算出部715が特定した樹頭が写る画素を特定し、当該画素の赤色域に係る輝度と赤外域に係る輝度との比を、樹木の活性度として算出する。
相対照度算出部721は、低高度観測機10の照度の計測値と高高度観測機30の照度の計測値とに基づいて、相対照度を算出する。相対照度算出部721は、高高度観測機30の照度の計測値の時系列から、低高度観測機10が照度を計測したタイミングに最も近い時刻に係る値を抽出して、相対照度を算出する。なお、相対照度は、太陽の高度や天気によって変動するため、相対照度算出部721は、異なる時刻に得られた複数の計測値の平均を求めることなどにより、変動を吸収してもよい。相対照度は、樹幹より低い部分の樹木情報の一つである。
【0042】
記録部722は、識別部714が取得したIDに関連づけて、日時、種類、高さ、直径、活性度、欠陥、周囲の相対照度、樹齢、材木体積量、および低高度観測機10の撮像装置127が撮像した画像をデータベース751に記録する。樹齢は、植樹時の情報として当該樹木が植樹された日が記録されている場合、当該日付と現在日時から算出することができる。また、樹齢は直径や撮像装置127が撮像した画像の画像解析などから求められてもよい。材木体積量は、所定の計算式を用いて高さ、直径および種類などから計算されてよい。記録部722は、さらに樹木の立つ地表の三次元位置をデータベース751に記録してもよい。なお、樹木の生育履歴を管理するため、記録部722は、過去のデータを上書きせずに、データを追加する。
【0043】
伐採計画生成部723は、データベース751に記録された樹木の状態に基づいて、林業機械50による間伐のための伐採計画を生成する。伐採計画生成部723は、利用者から対象範囲および伐採率の入力を受け付け、対象範囲に生育する樹木の高さ、活性度、健康状態および周囲の相対照度に基づいて、伐採すべき個体を決定する。例えば、伐採計画生成部723は、活性度、健康状態および周囲の相対照度に基づいて各個体の伐採適性スコアを算出し、伐採適性スコアが高いものから順に、伐採すべき個体として決定する。
活性度が所定の閾値より低く立ち枯れの可能性が高い場合に、伐採適性スコアは高くなる。また、幹の欠陥が生じている場合に、伐採適性スコアは高くなる。これは、欠陥によって将来的な材木としての価値の低下が見込まれるためである。なお、腐食があることによるスコアの加算分は、樹皮の剥離によるスコアの加算分より大きい。また、周囲の相対照度が低いほど伐採適性スコアは高くなる。これは、高木層の樹木の密度が高いことによって、亜高木層や低木層の樹木への日光の照射が不足するためである。また、高さが低いほど、また直径が細いほど、伐採適性スコアは高くなる。他方、樹齢が若いほど伐採適性スコアは低くなる。つまり、細くかつ低い樹木であっても、樹齢が若い場合は伐採対象とされない。なお、伐採対象の決定方法はこれに限られない。
なお、他の実施形態においては、伐採計画生成部723は、伐採率に代えて伐採本数の指定を受けてもよい。また伐採計画生成部723は、伐採率および伐採本数の指定を受けず、伐採適性スコアが閾値を超えるものを伐採対象としてもよい。
【0044】
伐採指示部724は、伐採計画生成部723が生成した伐採計画に基づいて、走行ルート、ならびに伐採対象の樹木の識別情報および位置を示す情報を含む指示信号を生成し、林業機械50に送信する。伐採指示部724は、林業機械50から樹木のIDとともに伐採完了の通知を受信すると、データベース751のうち当該IDに係る樹木の伐採状況を、伐採済みに書き換える。
【0045】
《森林管理装置70の処理》
図7は、第一実施形態に係る森林管理装置70による樹木情報の更新処理を示すフローチャートである。オペレータは、コントローラC1を用いて低高度観測機10および高高度観測機30を制御し、森林Fの対象範囲における樹木のデータを収集させる。低高度観測機10は、オペレータによって計測指示信号が送信された計測タイミングでデータの収集を行う。高高度観測機30は、一定の時間ごとにデータの収集を行う。オペレータによる操作が終了すると、低高度観測機10および高高度観測機30は、収集したデータを森林管理装置70に送信する。
【0046】
データ取得部711は、低高度観測機10および高高度観測機30から計測データを取得する(ステップS1)。なお計測データには、計測時刻を示す情報が付されている。森林管理装置70は、複数の計測タイミングのそれぞれにおいて低高度観測機10によって収集された計測データを1つずつ選択し(ステップS2)、選択された計測データを用いて以下のステップS3からステップS18の処理を実行する。
【0047】
まず、位置特定部712は、ステップS2で選択された計測データが示す低高度観測機10の位置および姿勢、ならびに低高度観測機10の距離マップから、樹木の下端部の三次元位置を特定する(ステップS3)。次に、倒木判定部713は、ステップS2で選択された低高度観測機10の距離マップから、樹木の軸方向を特定し、軸方向と水平面とがなす角度が倒木判定閾値未満であるか否かを判定する(ステップS4)。樹木の軸方向と水平面とがなす角度が倒木判定閾値未満である場合、倒木判定部713は、当該樹木が倒木であると判定する。樹木が倒木であると判定した場合(ステップS4:YES)、森林管理装置70は、当該樹木についての状態の監視をスキップし、ステップS2で次の計測タイミングについての処理を行う。なお、倒木判定部713は、倒木と判定された樹木が存在する位置をデータベース751に記録してもよい。
【0048】
樹木の軸方向と水平面とがなす角度が倒木判定閾値以上である場合(ステップS4:NO)、倒木判定部713は、当該樹木が生木であると判定する。次に、識別部714は、データベース751からステップS3で特定した樹木の緯度および経度に最も近い伐採されていない個体を特定し、当該個体との距離が所定の誤差閾値未満であるか否かを判定する(ステップS5)。最も近い個体との距離が誤差閾値未満である場合(ステップS5:YES)、識別部714は、距離マップに写った樹木が当該個体であると判定し、当該個体のIDを取得する(ステップS6)。他方、最も近い個体との距離が誤差閾値以上である場合(ステップS5:NO)、識別部714は、距離マップに写った樹木が新たな個体であると判定し、新たなIDを付与し(ステップS7)、ステップS3で特定した三次元位置と当該IDとを関連付けてデータベース751に記録する(ステップS8)。
【0049】
ステップS6またはステップS7で識別部714が個体のIDを取得すると樹頭高度算出部715は、ステップS1で取得した高高度観測機30の距離マップから、ステップS6またはステップS7で特定した個体の樹頭の高度を特定する(ステップS10)。
【0050】
樹木高さ算出部716は、ステップS3で算出した地表の高度とステップS10で算出した樹頭の高度との差を、樹木の高さとして算出する(ステップS11)。直径算出部717は、低高度観測機10の距離画像から樹木の直径を算出する(ステップS12)。種類特定部718は、撮像装置127が撮像した画像に基づいて樹木の種類を特定する(ステップS13)。欠陥特定部719は、撮像装置127が撮像した画像に基づいて幹の欠陥の有無および欠陥の種類を特定する(ステップS14)。活性度算出部720は、高高度観測機30のデータキューブのうち位置特定部712が特定した平面位置が写るものから、当該平面位置に対応する画素を特定し、当該画素の赤色域に係る輝度と赤外域に係る輝度との比を、樹木の活性度として算出する(ステップS15)。相対照度算出部721は、高高度観測機30の照度の計測値の時系列から、低高度観測機10が照度を計測したタイミングに最も近い時刻に係る値を抽出し、低高度観測機10の照度と高高度観測機30の照度とを用いて相対照度を算出する(ステップS16)。
【0051】
記録部722は、得られた樹木情報、すなわちステップS13で特定した種類、ステップS11で算出した高さ、ステップS12で算出した直径、ステップS15で算出した活性度、ステップS14で特定した欠陥の有無、およびステップS16で算出した周囲の相対照度を、ステップS6またはステップS7で取得したIDと計測時刻とに関連づけて、データベース751に記録する(ステップS17)。
【0052】
上記手順を、低高度観測機10の各計測タイミングについて実行することで、データベース751における樹木の個体に係る情報を最新の状態に更新することができる。なお、樹木の情報の収集は、間伐と無関係なタイミングに行われてもよい。
【0053】
図8は、第一実施形態に係る森林管理装置70による伐採計画の生成処理を示すフローチャートである。オペレータは、間伐の実行時期に、森林管理装置70へアクセスし、間伐の対象範囲および伐採率を入力する。なお、伐採率は、オペレータによる入力でなく、データベース751に記録された相対照度の平均値などから自動的に決定されてもよい。
伐採計画生成部723は、利用者から対象範囲および伐採率の入力を受け付ける(ステップS31)。伐採計画生成部723は、データベース751に記録された対象範囲内の未伐採の樹木の数と、入力された伐採率とに基づいて、伐採本数を決定する(ステップS32)。伐採計画生成部723は、データベース751に記録された対象範囲内の未伐採の個体のそれぞれについて、当該個体の最新の状態に基づいて伐採適性スコアを算出する(ステップS33)。伐採計画生成部723は、伐採適性スコアの高いものから順に、ステップS32で決定した伐採本数の個体を伐採対象に決定することで、伐採計画を生成する(ステップS34)。
【0054】
伐採指示部724は、伐採計画生成部723が生成した伐採計画に基づいて、林業機械50の走行ルートを決定する(ステップS35)。伐採指示部724は、例えば伐採対象に決定したすべての個体を通る最短のルートを探索する。伐採指示部724は、決定した走行ルートならびに伐採対象の樹木のIDおよび位置を含む指示信号を生成し、林業機械50に送信する(ステップS36)。これにより、林業機械50は自律的に走行ルートに従って走行し、伐採対象の樹木を伐採する。林業機械50の制御装置54は、樹木の伐採時に伐採した個体のIDを含む伐採通知を森林管理装置70に送信する。伐採指示部724は、林業機械50から伐採通知を受信すると(ステップS37)、データベース751のうち当該IDに係る樹木の伐採状況を、伐採済みに書き換える(ステップS38)。
【0055】
これにより、森林管理装置70は、低高度観測機10および高高度観測機30によって収集された樹木の情報に基づいて林業機械50に伐採を実行させ、伐採の実績をデータベース751に記録することができる。
【0056】
《作用・効果》
このように、第一実施形態に係る森林管理システム1によれば、林冠より低い高度で森林を移動する低高度観測機10によって撮像された画像と撮像時の位置とに基づいて、樹木の位置を特定し、当該位置に基づいて樹木の個体を識別する。これにより、森林管理システム1は高高度観測機30では計測し得ない樹頭が林冠より低い樹木を含め森林全体の樹木を計測・管理することができる。また、森林管理システム1は、低高度観測機10によって撮像された画像に基づいて、各個体の樹冠より低い部分の樹木情報を、当該個体のIDに関連付けてデータベース751に記録する。これにより、森林管理システム1は、上空から撮像された画像には映らない、樹冠より低い部分の樹木情報を収集することができる。
【0057】
また、第一実施形態に係る森林管理システム1は、低高度観測機10によって撮像された画像に基づいて、上空から撮像された画像から計測することができない樹木が立つ地表の高度を算出することができる。森林管理システム1は、当該地表の高度と、高高度観測機30によって撮像された画像から求められる樹頭の高度とに基づいて、樹木の高さを精度よく求めることができる。なお、他の実施形態においては、これに限られず、森林管理システム1は、地表の高度および樹頭の高度をデータベース751に記録し、樹木の高さを算出しなくてもよい。また、他の実施形態に係る森林管理システム1は、樹木の高さに関する情報をデータベース751に記録しないものであってもよい。つまり、他の実施形態に係る森林管理システム1は、低高度観測機10のみによって計測されるデータをデータベース751に記録するものであってもよい。
【0058】
また、第一実施形態に係る森林管理システム1は、低高度観測機10によって計測された照度と高高度観測機30によって計測された照度とに基づいて相対照度を算出し、樹木の個体に関連付けてデータベース751に記録する。相対照度は、森林の低木層や林床の生育に影響する。そのため、森林管理システム1は、このような情報をデータベース751に記録することで、適切に森林Fを管理することができる。なお、第一実施形態に係る森林管理システム1は相対照度を求めるが、これに限られず、他の実施形態においては、森林管理システム1が林冠より低い高度における照度、すなわち低高度観測機10によって計測された照度をデータベース751に記録してもよい。この場合、高高度観測機30は照度センサ315を備えなくてよい。
【0059】
〈第二実施形態〉
第一実施形態に係る低高度観測機10および高高度観測機30は、オペレータによって遠隔操作される。これに対し、第二実施形態に係る低高度観測機10および高高度観測機30は、森林管理装置70の指示に従って自律運転する。
【0060】
図9は、第二実施形態に係る森林管理装置70の構成を示す概略ブロック図である。
第二実施形態に係る森林管理装置70は、第一実施形態の構成に加え、さらに計測指示部725を備える。
計測指示部725は、森林Fの対象範囲に存在する樹木の観測を指示する観測指示信号を生成し、低高度観測機10および高高度観測機30に送信する。観測指示信号には、移動ルートを示す情報が含まれる。計測指示部725は、例えば低高度観測機10の移動に伴う測距装置121の計測範囲の軌跡が対象範囲をカバーするように、移動ルートを生成する。なお予め、林業機械50に走行させるルートが決まっている場合には、計測指示部725は、林業機械50に走行させるルートを移動ルートとする観測指示信号を送信してよい。また、低高度観測機10の制御装置126が走行によって対象範囲をカバーしたか否かを自律的に判定する場合には、計測指示部725は、移動ルートではなく対象範囲を示す情報を含む観測指示信号を送信してもよい。
【0061】
低高度観測機10の制御装置126は、受信した観測指示信号が示す移動ルートに沿って低高度観測機10を走行させる。例えば、制御装置126は、測距装置121が撮像する距離マップと測位装置122が計測する位置データとに基づくSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)処理によって環境地図を生成し、移動ルートを修正しながら走行装置11を制御するものであってよい。制御装置126は、観測指示信号に基づく移動中、距離マップに樹木が写っているか否かを判定し、写っていると判定した場合に計測データの収集を行う。例えば、制御装置126は、三次元パターンマッチングや学習済みの物体検出モデルなどを用いて樹木が写っているか否かの判定を行うことができる。
【0062】
高高度観測機30の制御装置317は、受信した観測指示信号が示す移動ルートに沿って高高度観測機30を林冠より高い所定高度で飛行させる。制御装置317は、低高度観測機10と同期して高高度観測機30を移動させてもよいし、低高度観測機10とは独立して高高度観測機30を移動させてもよい。
【0063】
低高度観測機10の制御装置126および高高度観測機30の制御装置317は、自律運転中にオペレータからの割り込み操作があった場合に、オペレータから受信する指示信号に基づいて移動を制御してよい。その後、オペレータからの指示信号がなくなると、低高度観測機10の制御装置126および高高度観測機30の制御装置317は、移動ルートに沿った自律運転に切り替える。
低高度観測機10の制御装置126および高高度観測機30の制御装置317は、移動ルートに沿った移動が完了すると、収集した計測データを森林管理装置70に送信する。
これにより、森林管理装置70は、移動ルートの近傍に立つ樹木の樹木情報を、データベース751に記録することができる。
【0064】
〈他の実施形態〉
以上、図面を参照して一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、様々な設計変更等をすることが可能である。すなわち、他の実施形態においては、上述の処理の順序が適宜変更されてもよい。また、一部の処理が並列に実行されてもよい。
【0065】
上述した実施形態に係る森林管理システム1では、低高度観測機10および高高度観測機30は、計測データを加工せずに森林管理装置70に送信し、森林管理装置70が計測データから樹木の種類、地表の高度、直径、活性度、欠陥などの樹木情報を計算するが、これに限られない。例えば、他の実施形態に係る森林管理システム1は、低高度観測機10の制御装置126または高高度観測機30の制御装置317が計測データに基づいて樹木情報を算出し、森林管理装置70が計算された樹木情報を受信するものであってもよい。つまり、森林管理装置70は、単独のコンピュータによって構成されるものであってもよいし、森林管理装置70の構成を複数のコンピュータに分けて配置し、複数のコンピュータが互いに協働することで森林管理装置70として機能するものであってもよい。このとき、森林管理装置70を構成する一部のコンピュータが低高度観測機10や高高度観測機30の内部に搭載され、他のコンピュータが外部に設けられてもよい。
【0066】
上述した実施形態に係る森林管理システム1は、データベース751に記録された情報に基づいて伐採計画を生成し、自律運転の林業機械50に指示を送信するが、これに限られない。例えば、他の実施形態に係る森林管理システム1は、伐採計画を生成せず、樹木の個体管理のみを行うものであってもよい。また例えば、他の実施形態において林業機械50は自律運転せず、オペレータによって直接操作されるもの、または遠隔操作されるものであってもよい。この場合、森林管理装置70は、伐採計画に従った伐採をオペレータに指示する指示信号を出力する。この指示信号は、伐採計画を林業機械50の運転室のモニタに表示させるための信号であってもよいし、伐採計画をオペレータが所持する携帯端末に表示させるための信号で合ってもよい。
【0067】
上述した実施形態に係る森林管理システム1は、低高度観測機10の計測データに基づいて樹木の立つ地表の高度を求め、これに基づいて樹木の高さを計算するが、これに限られない。例えば、地表の高度は、外部のデータベースに格納された三次元地図データから読み出すものであってもよい。また上述した実施形態に係る森林管理システム1は、高高度観測機30が備える照度センサ315によって上空の照度を求め、これに基づいて相対照度を計算するが、これに限られない。例えば、上空の照度は、外部のデータベースに格納された気象データなどから読み出すものであってもよい。
【0068】
上述した実施形態に係る森林管理システム1は、樹木の状態量として高さや直径など、サイズに関する状態量を得るため、低高度観測機10が距離マップを取得可能な測距装置121を備える。他方、他の実施形態において、樹木の種類や欠陥の有無など、サイズに関係しない状態量のみを算出する場合、距離マップを生成する測距装置121を備えなくてよい。この場合、低高度観測機10は、撮像装置127と別個にレーザ測距計などを備えることで、樹木までの距離を計測してよい。
【0069】
(付記1)
森林のうち地表付近の枝葉のない領域を移動し、距離マップを生成する測距装置および自身の位置を計測する測位装置を備えた前記低高度観測機から、前記測距装置が生成した低高度距離マップおよび前記低高度観測機の位置を取得するデータ取得部と、
前記低高度距離マップに基づいて特定される前記低高度観測機から樹木までの距離、および前記低高度観測機の位置に基づいて、前記樹木の位置を特定する位置特定部と、
前記樹木の位置に基づいて前記樹木の個体を識別する識別情報を取得する識別部と、
前記低高度距離マップに基づいて計測された前記個体の枝葉より低い部分の樹木情報である低高度樹木情報を、前記識別情報に関連付けてデータベースに記録する記録部と
を備える森林管理システム。
【0070】
(付記2)
前記低高度距離マップおよびグローバル座標系における前記低高度観測機の三次元位置に基づいて、前記低高度樹木情報である前記樹木が立つ地表の高度を算出する高度算出部を備える
付記1に記載の森林管理システム。
【0071】
(付記3)
前記記録部は、前記森林の上空から撮像された高高度撮像データのうち前記個体が写る部分から計測される前記個体の樹木情報である高高度樹木情報を、前記個体の識別情報に関連付けて前記データベースに記録する
付記1または付記2に記載の森林管理システム。
【0072】
(付記4)
前記森林の林冠より高い高度から計測された高高度距離マップのうち前記個体が写る部分から計測される前記個体の樹頭の高度と、前記個体が立つ地表の高度とに基づいて前記個体の高さを算出する高さ算出部を備え、
前記記録部は、前記個体の前記識別情報に関連付けて前記個体の高さを前記データベースに記録する
付記1から付記3の何れかに記載の森林管理システム。
【0073】
(付記5)
前記高さ算出部は、前記森林の上空から計測された高高度距離マップから特定される複数の樹頭のうち、平面位置が前記識別情報に係る前記個体の平面位置と最も近い樹頭に係る高度を、前記個体の樹頭の高度として特定する
付記4に記載の森林管理システム。
【0074】
(付記6)
前記低高度観測機は照度センサを備え、
前記データ取得部は、前記照度センサが計測した照度データを取得し、
前記記録部は、前記照度データに係る値を前記樹木の識別情報に関連付けて前記データベースに記録する
付記1から付記5の何れかに記載の森林管理システム。
【0075】
(付記7)
前記データベースは、樹木の個体を識別する識別情報、前記個体の位置、および前記個体の低高度樹木情報を関連付けて記憶し、
前記識別部は、特定された前記位置に対応する識別情報が前記データベースに記録されていない場合に、前記個体に新たな識別情報を付与する
付記1から付記6の何れかに記載の森林管理システム。
【0076】
(付記8)
前記低高度観測機は、樹木を伐採する林業機械が走行する走行ルートに沿って前記森林を移動し、
前記記録部は、前記走行ルートの近傍に立つ樹木の低高度樹木情報を、前記データベースに記録する
付記1から付記7の何れかに記載の森林管理システム。
【0077】
(付記9)
前記データベースに記録された情報に基づいて、樹木を伐採する林業機械によって伐採すべき個体を示す伐採計画を生成する伐採計画生成部と、
前記生成した前記伐採計画に従った伐採を指示する指示信号を前記林業機械に送信する伐採指示部と
を備える付記1から付記8の何れかに記載の森林管理システム。
【0078】
(付記10)
前記低高度撮像データに写る前記樹木の水平に対する角度に基づいて、前記樹木が倒木であるか生木であるかを判定する倒木判定部を備え、
前記識別部は、前記樹木が生木であると判定された場合に、前記樹木の識別情報を取得する
付記1から付記9の何れかに記載の森林管理システム。
【符号の説明】
【0079】
1…森林管理システム 10…低高度観測機 11…走行装置 12…機体 121…測距装置 122…測位装置 123…姿勢計測装置 124…照度センサ 125…バッテリ 126…制御装置 127…撮像装置 30…高高度観測機 31…機体 311…測距装置 312…マルチスペクトルカメラ 313…測位装置 314…姿勢計測装置 315…照度センサ 316…バッテリ 317…制御装置 32…プロペラ 50…林業機械 51…車体 511…測位装置 52…走行装置 53…作業機 531…ブーム 532…アーム 533…ヘッド 5331…グラップル 5332…丸鋸 534…アームシリンダ 535…ヘッドシリンダ 54…制御装置 70…森林管理装置 71…プロセッサ 751…データベース 711…データ取得部 712…位置特定部 713…倒木判定部 714…識別部 715…樹頭高度算出部 716…樹木高さ算出部 717…直径算出部 718…種類特定部 719…欠陥特定部 720…活性度算出部 721…相対照度算出部 722…記録部 723…伐採計画生成部 724…伐採指示部 725…計測指示部 73…メインメモリ 75…ストレージ 77…インタフェース F…森林 N…通信網