(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158979
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】オフセット印刷機の印刷品質制御システム
(51)【国際特許分類】
B41F 33/00 20060101AFI20231024BHJP
【FI】
B41F33/00 280
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069099
(22)【出願日】2022-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000161057
【氏名又は名称】株式会社ミヤコシ
(71)【出願人】
【識別番号】000110642
【氏名又は名称】シリウスビジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110319
【弁理士】
【氏名又は名称】根本 恵司
(74)【代理人】
【識別番号】100150773
【弁理士】
【氏名又は名称】加治 信貴
(74)【代理人】
【識別番号】100099472
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 猛
(72)【発明者】
【氏名】蓑島 俊和
(72)【発明者】
【氏名】藤原 鈴司
(72)【発明者】
【氏名】戸巻 仁
(72)【発明者】
【氏名】杉山 誠康
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 利子
(72)【発明者】
【氏名】三浦 洋子
(72)【発明者】
【氏名】倉田 将行
(72)【発明者】
【氏名】武士俣 進
(72)【発明者】
【氏名】寺内 博紀
(72)【発明者】
【氏名】日沼 徹
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕和
(72)【発明者】
【氏名】升野 篤利
(72)【発明者】
【氏名】椎本 啓太郎
【テーマコード(参考)】
2C250
【Fターム(参考)】
2C250EB45
2C250EB46
(57)【要約】
【課題】印刷品質の低下により不良印刷物が発生する予兆が生じた時に、早期に、不良印刷物の発生を抑制する制御をオペレータに通知、または、自動で実行できるオフセット印刷機の印刷品質制御装置とする。
【解決手段】用紙に絵柄と形状確認用網点絵柄を印刷する構成とし、前記用紙を搬送する経路に、前記用紙に印刷した形状確認用網点絵柄を撮像する撮像装置と、判定装置を備え、前記判定装置は、前記形状確認用網点絵柄の画像により、その網点形状変化を確認し、このまま印刷を続けると印刷物の印刷品質が低下して不良印刷物が発生する網点形状変化である時に、不良印刷物の発生を抑制する制御をオペレータに通知、又は、自動で実行する構成としたオフセット印刷機の印刷品質制御システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オフセット印刷機の印刷品質制御システムであって、印刷ユニットの版胴に、絵柄を印刷する網点と形状確認用網点を形成し、用紙に絵柄と形状確認用網点絵柄を印刷する構成とし、前記用紙を搬送する経路に設けられ、前記用紙に印刷した形状確認用網点絵柄を撮像する撮像装置と、判定装置を備え、前記判定装置は、前記撮像装置の形状確認用網点絵柄の画像により、その網点形状変化を確認し、このまま印刷を続けると印刷物の印刷品質が低下して不良印刷物が発生する網点形状変化である時に、網点形状変化の判定結果および、印刷条件、印刷結果の情報に基づいて、判定装置による機械学習を行い、不良印刷物の発生を抑制する制御をオペレータに通知、または、自動で実行する構成であることを特徴とするオフセット印刷機の印刷品質制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷機により印刷した印刷物の印刷品質を制御するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷機としては、印刷する絵柄に応じた網点を版に形成し、その網点にインキを塗布する。網点に塗布されたインキを用紙に転写することで、用紙に網点による絵柄を印刷するものが知られている。
このようなオフセット印刷機において、印刷を続けるうちに印刷物の印刷品質が徐々に低下し、不良印刷物となることがある。
この印刷物の印刷品質低下の原因の一つに、網点の形状が変化することがあげられる。例えば、版にインキとともに供給される湿し水の量が適正値より多いか、少ないことにより網点の形状が所定の形状と異なる。
特許文献1には、印刷物をルーペなどの拡大監視装置を使用して作業者が目視し、網点の形状などを確認することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、作業者の目視による網点形状の確認により印刷物の印刷品質を判定するのでは、判定に要する作業時間が長くかかり、印刷物の印刷品質の低下により不良印刷物が発生する予兆を発見するのに時間がかかり、不良印刷物が発生することがある。
また、目視により網点の形状を把握するには、十分な作業経験に裏打ちされた技術、ノウハウの習得が不可欠である。
さらに、印刷する用紙としてロール紙を用いた場合に、印刷中に印刷物の網点の形状を確認するためには、オフセット印刷機を一旦停止し、オフセット印刷機から出力された印刷物を、拡大監視装置を使用し目視にて確認する必要があり、印刷作業効率が悪くなる。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するために為されたものであり、その目的は、印刷物の印刷品質の低下により不良印刷物が発生する予兆を早期に発見できるとともに、ロール紙を用いた場合でもオフセット印刷機を停止あるいは減速せずに生産速度を維持した状態での印刷中に網点の形状を確認し、印刷物の印刷品質を制御できるようにしたオフセット印刷機の印刷品質制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のオフセット印刷機の印刷品質制御システムは、オフセット印刷機の印刷品質制御システムであって、印刷ユニットの版胴に、絵柄を印刷する網点と形状確認用網点を形成し、用紙に絵柄と形状確認用網点絵柄を印刷する構成とし、前記用紙を搬送する経路に設けられ、前記用紙に印刷した形状確認用網点絵柄を撮像する撮像装置と、判定装置を備え、前記判定装置は、前記撮像装置の形状確認用網点絵柄の画像により、その網点形状変化を確認し、このまま印刷を続けると印刷物の印刷品質が低下して不良印刷物が発生する網点形状変化である時に、網点形状変化の判定結果および、印刷条件、印刷結果の情報に基づいて、判定装置による機械学習を行い、不良印刷物の発生を抑制する制御をオペレータに通知、または、自動で実行する構成であることを特徴とするオフセット印刷機の印刷品質制御システムである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のオフセット印刷機の印刷品質制御システムによれば、印刷物の印刷品質の低下により不良印刷物が発生する予兆を早期に発見できるとともに、ロール紙を用いた場合でもオフセット印刷機を停止あるいは減速せずに生産速度を維持した状態での印刷中に網点の形状を確認し、印刷物の印刷品質を制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の印刷品質制御システムを適用できるオフセット印刷機の一例を示す全体正面図である。
【
図2】版胴、ブランケット胴、圧胴の斜視図である。
【
図8】形状確認用網点の形状と形状確認用網点絵柄の形状を比較する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態に係るオフセット印刷機を
図1に基づいて説明する。
図1は本発明の印刷品質制御システムを適用できるオフセット印刷機の一例を示す全体正面図である。
本発明の実施の形態に係るオフセット印刷機1は、用紙Wを給紙する給紙部2と、給紙部2から搬送されてきた用紙Wに印刷を行う印刷部3と、印刷部3で印刷された用紙を巻取する巻取部4を有している。
給紙部2は、ロール状に巻いた用紙W、つまりロール紙を印刷部3に向けて送り出しを行う構成である。
給紙部2は、この構成に限定されず、枚葉紙を送り出す構成など、公知の印刷機の給紙部の構成であってもよい。
【0010】
印刷部3は少なくとも1つ以上の印刷ユニット5で構成される。印刷ユニット5では、任意のインキで用紙Wに印刷が行われる。
図1の実施の形態では印刷ユニット5は4つ設けられ、それぞれイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)のインキによる印刷を行う。印刷ユニット5はいずれも同じ構成である。
本発明の印刷システムで使用する印刷ユニット5の個数は
図1の実施の形態に限定されず、ブラック(K)のインキによる印刷を行う印刷ユニット1つのみなど、任意の個数の印刷ユニット5で印刷部3を構成できる。また、使用できるインキは上記イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)に限定されず、特色などの任意の色のインキを使用できる。
【0011】
印刷ユニット5は版胴6、ブランケット胴7、圧胴8を有している。版胴6には版(図示せず)が設けてあり、その版に絵柄に応じた網点(図示せず)が形成されている。版胴6、ブランケット胴7、圧胴8はそれぞれ図示しない駆動モータで回転が制御される。用紙Wは、ブランケット胴7と圧胴8の間を搬送される。
印刷は次のように行う。版胴6にインキおよび湿し水が供給され、版の網点にインキが塗布され、版胴6からブランケット胴7にインキが転写され、ブランケット胴7から用紙Wへインキを転写することで印刷を行う。
【0012】
巻取部4は、印刷部3で印刷された用紙Wを巻取する。
巻取部4は、この構成に限定されず、用紙Wを他の加工装置へ排出するデリバリー装置や枚葉紙の集積装置など、公知の印刷機の巻取部の構成であってもよい。
本発明の印刷品質制御システムを適用できるオフセット印刷機1の構成は、この構成に限定されず、印刷部3と排紙部4の間に用紙Wの切断加工や折加工を行う加工部を設けるなど、任意の構成とすることができる。
本発明の印刷品質制御システムは、用紙Wの種類によらず適用できる。よって、用紙Wとして、紙やフィルム、ラベル紙など、公知のオフセット印刷機で使用される材料を使用できる。また、連続紙、枚葉紙等の形態にかかわらず使用できる。
【0013】
次に、本発明の印刷品質制御システムの実施の形態を説明する。
図2に示すように、各印刷ユニット5の版胴6の版10に、網点の形状を確認するための形状確認用網点11を形成する。
本実施形態において、形状確認用網点11は絵柄に応じた網点12と離れた位置に形成される。例えば、版10における版胴6の軸方向中央部分に絵柄に応じた網点12を形成し、版10における版胴6の軸方向端部分に形状確認用網点11を形成する。
そして印刷時には、形状確認用網点11と絵柄に応じた網点12とにインキを同じに塗布する。
本実施形態において、各印刷ユニット5の版10に形成した形状確認用網点11は、版胴6の回転方向にずれた位置に形成してある。
【0014】
形状確認用網点11の位置は
図2の位置に限定されない。例えば、版胴6の軸方向において絵柄に応じた網点12と重なる位置、かつ、版胴6の回転方向において絵柄に応じた網点12と異なる位置に、版胴6の軸方向に沿って形成するようにしてもよい。この場合、印刷された用紙Wにおいては、用紙搬送方向で、絵柄に応じた網点12の間に形状確認用網点11が印刷される。そして、各印刷ユニット5の版10に形成した形状確認用網点11は、版胴6の軸方向にずれた位置に形成してある。また、版胴6の回転方向にずれた位置に形成してもよい。
用紙Wとしてラベル紙を使用する場合、加工部に設けられた粕上げ装置で粕上げされる箇所に形状確認用網点11を印刷することで、粕と一緒に形状確認用網点11を取り去ることが出来る。
用紙Wとして紙を使用したフォーム印刷の場合は、印刷部3の下流側に設けられたスリッタまたはマージナル穴加工装置などの加工部によって除去される部分、あるいはマージナル穴間に形状確認用網点11を形成することで、同様の効果を得ることが出来る。
また、絵柄に応じた網点12のうち、あらかじめ任意の位置を形状確認用網点11として設定してもよい。
【0015】
これにより、各印刷ユニット5で用紙Wに絵柄を異なる色で順次印刷する毎に、絵柄と離れた端部分に形状確認用網点11が異なる色で順次印刷されるので、
図3に示すように印刷された用紙Wには、カラーの絵柄20と、その絵柄20の隣に複数の形状確認用網点絵柄21が異なる色で印刷される。
例えば、イエロー(Y)のインキで印刷した形状確認用網点絵柄21-1、シアン(C)のインキで印刷した形状確認用網点絵柄21-2、マゼンタ(M)のインキで印刷した形状確認用網点絵柄21-3、ブラック(K)のインキで印刷した形状確認用網点絵柄21-4が、用紙搬送方向に間隔をおいて印刷される。
用紙Wに印刷された形状確認用網点絵柄21は、
図1に示すように、巻取部4における用紙搬送経路9と対向して設けた撮像装置30で撮像される。
【0016】
撮像装置30は、
図4に示すように、用紙搬送経路9と対向して設けられ、用紙Wに印刷された形状確認用網点絵柄21を撮像するカメラ31と、カメラ31による撮像部分を明るくする照明32を備えている。
カメラ31は、高解像度の性能を有している。具体的には、7um/pixel以上の解像度を有するものであれば、網点の形状を計測することができる。また、印刷速度の目標速度を60m/minとした場合、7um/pixelでは150kHz程度のスキャンレートを必要とするため、この条件をクリアするカメラ選定と撮像方式を採用する必要がある。
カメラ31が撮像する画像は、カラー画像であっても、モノクロ画像であってもよい。カラー画像とした場合、カメラ31を濃度検出用カメラと兼用することができる。モノクロ画像とした場合、カラー画像と比較してデータ量が小さいため、印刷速度が高速であっても高い解像度で撮像できる。モノクロ画像とした場合で、各色の濃度測定が必要となったときは、用紙搬送経路9にカメラ31とは別に濃度測定用カメラを設けるようにしてもよい。
【0017】
カメラ31の撮像方向31aは搬送される用紙Wの紙面と直角で、用紙Wの形状確認用網点絵柄21に向かっている。
照明32は用紙Wの形状確認用網点絵柄21に光を照射する2つの高輝度照明32を、照射方向32aが用紙Wの紙面と45度で用紙Wの同一位置を照射する逆ハの字状で、かつ用紙Wに近接配置してある。
高輝度照明32は2つに限ることはなく、1つでも3つ以上でも良く、照射方向32aの用紙Wの紙面との角度は45度に限ることはなく、同一位置を照射するようにすればよい。
印刷速度の目標速度を60m/minとした場合、7um/pixelでは7usec以下の露光時間を必要とするため、この条件をクリアする照明と光学条件を選定する必要がある。
【0018】
この構成の撮像装置30であれば、カメラ31の性能は高解像度で、照明32は高分解能による短露光時間に対応する明るさを実現できるから、早い速度で搬送されている用紙Wの形状確認用網点絵柄21を撮像した画像の解像度を優れたものとすることができる。
したがって、高速で駆動され用紙搬送速度が高速であるオフセット印刷機1に対応することができる。
【0019】
撮像装置30は、絵柄20が一枚印刷されるごとに、対応する形状確認用網点11を撮像する必要は無い。例えば、10枚おきに撮像する等、撮像するタイミングをあらかじめ設定しておき、指定されたタイミングで撮像するようにしてもよい。
撮像装置30の取り付け位置は、用紙幅方向(版胴6の軸方向)に移動可能である。これにより、用紙Wの用紙幅に応じて撮像位置を調整できる。また、形状確認用網点11が版胴6の軸方向に沿って形成されている場合、用紙幅方向の任意の位置で形状確認用網点11を撮像できる。さらに、撮像装置30を自動で用紙幅方向に移動可能とし、用紙幅方向に印刷された各色の形状確認用網点絵柄21-1、21-2、21-3、21-4を、設定された枚数おきに順次撮像するようにしてもよい。
【0020】
撮像した画像に基づいて印刷物の印刷品質を判定する判定装置を
図5に基づいて説明する。
図5に示すように、判定装置100は、画像処理部40と演算部50と表示部60を備えている。
撮像装置30が撮像した形状確認用網点絵柄21の画像は、画像処理部40に送られて画像処理される。画像処理された画像は演算部50に送られ、形状確認用網点絵柄21の網点形状を確認する。
形状確認用網点絵柄21と絵柄20は同じ状態でインキが塗布されるので、両者の網点形状は同様となり、形状確認用網点絵柄21の網点形状が所定の形状から変化している場合は、絵柄20の網点形状も同様に変化していることになる。
【0021】
演算部50は形状確認用網点絵柄21の網点形状変化の程度が、このまま印刷を続けると印刷物の印刷品質が低下して不良印刷物が発生する変化であると判定した場合には、不良印刷物が発生する予兆であるとして、表示部60に印刷品質が低下していることを表示する。表示部60は、音声表示、文字表示など作業者が品質低下を知ることができる表示であればよい。
【0022】
この構成であれば、撮像装置30の撮像した画像を画像処理部40で画像処理し、演算部50で演算することで形状確認用網点絵柄21の網点形状変化を確認するから、網点形状変化を短時間に確認でき、その結果により不良印刷物が発生する予兆であるとするので、印刷品質の低下により不良印刷物が発生する予兆を早期に発見できる。
作業者は表示部60の表示により不良印刷物が発生する予兆を知ることができる。
しかも、オフセット印刷機1の用紙搬送経路9と対向して撮像装置30を設け、搬送されている印刷物の形状確認用網点絵柄21を撮像して網点形状の変化を確認するので、ロール紙を用いた場合でもオフセット印刷機1を停止、又は減速せずに印刷中に網点の形状を確認し、印刷物の印刷品質を判定できる。
【0023】
各印刷ユニット5の版胴6の版10にそれぞれ形成した各形状確認用網点11の形状確認用網点絵柄21-1、21-2、21-3、21-4の網点形状変化をそれぞれ確認して各印刷ユニット5毎に不良印刷物が発生する予兆が生じたかを判定するから、表示部60に予兆が生じている印刷ユニット5を表示することで、作業者は予兆が生じている印刷ユニット5を知ることができ、その印刷ユニット5の湿し水の量などの印刷条件を制御して正常な印刷品質とすることができる。
例えば、イエロー(Y)のインキで印刷した形状確認用網点絵柄21-1の網点変化が、不良印刷物が発生する予兆であると判定し、そのことを表示部60に表示した場合は、イエロー(Y)のインキで印刷する印刷ユニット5の印刷条件を制御する。
【0024】
次に、形状確認用網点絵柄21の網点形状の変化の判定について説明する。
図6に基づいて形状確認用網点11を説明する。
図6は形状確認用網点を模式的に示してあり、実際とは異なることがある。
図6に示すように、形状確認用網点11は枠13内に間隔をおいて複数形成される。例えば、すべての形状確認用網点11の面積の合計が枠13内の面積の50パーセントとなるようにする。
形状確認用網点11は4角形であるが、丸形、楕円形など、どのような形状でも本発明の制御は実施できる。
【0025】
図7に基づいて用紙に印刷された形状確認用網点絵柄21を説明する。
図7は形状確認用網点絵柄を模式的に示してあり、実際とは異なることがある。
図7に示すように、形状確認用網点11の数だけの形状確認用網点絵柄21が用紙Wに印刷される。
形状確認用網点絵柄21の形状は形状確認用網点11の形状と同じものや、少し異なるもの、大きく異なるものなど種々のものがある。
撮像装置30の撮像画像は
図7に示すものと同じで、その撮像画像は画像処理部40に送られて画像処理される。
画像処理部40は送られた撮像画像を画像処理して形状確認用網点絵柄21を輪郭のみとし、その輪郭のみの画像を演算部50に送る。
【0026】
図8に基づき演算部50における判定を説明する。
図8に示すように、形状確認用網点11の輪郭11aと形状確認用網点絵柄21の輪郭21aとを重ねあわせて比較し、形状確認用網点絵柄21の網点形状と形状確認用網点11の形状との相違、つまり、形状確認用網点絵柄21の網点形状変化を確認する。
確認した網点形状変化の程度が、このまま印刷を続けると印刷物の印刷品質が低下して不良印刷物が発生する変化である場合には、不良印刷物が発生する予兆であると判定する。そして、演算部50は、表示部60に印刷品質が低下していることを表示する。なお、
図8は各輪郭11a、21aを模式的に図示してあり、実際とは異なることがある。
演算部50は、不良印刷物の発生を抑制する制御を後述するように行い、その制御内容をオペレータに通知、又は、自動で実行する。
【0027】
形状確認用網点絵柄21の網点形状変化の確認は次のように行う。
形状確認用網点11の形状と各形状確認用網点絵柄21の網点の形状をそれぞれ比較し、それぞれの網点に対応する形状差を合計し、その形状差の合計があらかじめ設定した設定値以上の時に、このまま印刷を続けると印刷物の印刷品質が低下して不良印刷物が発生する程度の網点形状変化であると確認する。
形状確認用網点11を撮像することで得られる数値としては、面積、高さ、幅、真円度、輪郭長、縦横比、楕円近似(長軸、短軸、角度)、穴数等がある。これらの1つまたは複数の数値を利用して網点形状の確認に使用する。
例えば、網点の形状が用紙搬送方向に伸び、用紙幅方向に縮んだ形状となった場合、網点の面積が同一であっても、真円度や縦横比が異なる。この場合であっても、印刷品質が低下して不良印刷物が発生する場合がある。したがって、網点面積以外の形状を測定することで不良印刷物の発生をより正確に予測できる。
設定値は、実験または従来の経験などにより設定する。
【0028】
より詳細には、形状確認用網点絵柄21が印刷されている範囲を撮像装置30により撮像する。形状確認用網点絵柄21を印刷する範囲は、
図3の例では用紙Wの幅方向端部としているが、任意の位置に設けることができる。また、絵柄20内の任意の範囲としてもよい。画像処理部40は、撮像装置30から撮像した画像を受信し、撮像した画像から、網点の形状確認を行う対象とする形状確認用網点絵柄21を抽出する。
抽出する形状確認用網点絵柄21は、撮像装置30の性能、印刷速度等の印刷条件、後述の機械学習に使用する測定データに応じて、網点の形状やサイズ、密度等を任意に決定できる。形状確認用網点絵柄21は、より多く検出して網点形状変化を確認することで、後述の機械学習の精度を高め、より正確な印刷物の印刷品質を判定できる。
【0029】
以降は、撮像した形状確認用網点絵柄21の輪郭に関する判定方法を示す。
画像処理部40は、撮像した画像を2値化することで、形状確認用網点絵柄21の輪郭21aを判定する。2値化により、撮像した画像で、形状確認用網点絵柄21が印刷されている範囲と、印刷されていない範囲(背景色である用紙Wの色の範囲)に区別される。
よって、2値化により、撮像した画像内の各形状確認用網点絵柄21の輪郭21aを算出することができる。この輪郭21aの情報が検出データとして後述の機械学習および印刷物の印刷品質の判定に使用される。
2値化は、抽出した画像のRGB値に対して、抽出対象の任意のインキの色と、背景色である用紙Wの色を区別する2値化のための設定値を設定し、このRGB値と2値化のための設定値の比較により行う。2値化のための設定値は、抽出対象の任意のインキの色や背景色である用紙Wの色等の印刷条件に応じて任意に設定できる。
本実施例では、画像処理部40と演算部50を独立して示しているが、両方の処理を1つの装置で実施してもよい。
【0030】
撮像装置30によって撮像される画像の解像度は、この2値化により算出した形状確認用網点絵柄21の輪郭21aを判定ができる解像度であればよい。
演算部50は、2値化により抽出した、画像内の任意の個数の形状確認用網点絵柄21の形状の変化について判定を行う。判定を行う形状確認用網点絵柄21の個数は、より多いほうが後述の機械学習の精度を高め、正確な印刷物の印刷品質の判定ができる。本実施形態では抽出した画像内のすべての形状確認用網点絵柄21について輪郭21aの判定を行う。
【0031】
演算部50は、以下のように各網点の形状の判定を行う。
演算部50には、印刷された網点の理想的な網点形状として、版10の網点形状(形状確認用網点11の形状)が格納されている。演算部50は、2値化により判定した各形状確認用網点絵柄21の形状を、版10の網点形状と比較する。
比較に使用する測定データは、形状確認用網点絵柄21として使用する網点の形状に応じて以下のように行われる。
使用する網点が四角形の場合、測定データは、撮像した画像より算出した輪郭21aより、面積、各辺の長さ(高さ、幅)、各辺の比率、版10の網点形状に対する各辺の偏差等が輪郭21aの特徴量として使用される。
使用する網点が円形の場合、撮像した画像より算出した輪郭より、面積、真円度、楕円近似(長軸、短軸、角度)、縦横比、輪郭長等が輪郭の特徴量として使用される。
【0032】
<測定データとして各辺の偏差を使用する場合の実施例>
上記測定データに対して、例えば網点が正四角形で、測定データとして版10の網点形状に対する各辺の偏差を算出する場合には、版10の網点形状の輪郭11aに対する撮像した画像より算出した輪郭21aの4辺それぞれに対して、任意の間隔で細分化し、細分化した各点で偏差を算出する。算出した偏差を網点形状の変化を判定する測定データとする。
偏差に対する網点形状の判定は、いずれかの偏差が、一定の値を超えた場合には輪郭21aに凸状の変化が発生しており、偏差の値が大きいほど凸状の変化も大きいことを意味する。
また、算出した偏差から標準偏差を算出し、標準偏差を、標準偏差の設定値と比較してもよい。標準偏差の値が大きいほど、輪郭21aがゆがんでいることを意味する。
【0033】
<測定データとして真円度を使用する場合の実施例>
上記測定データに対して、例えば網点が真円で、測定データとして真円度を算出する場合には、版10の網点形状の輪郭に対する撮像した画像より算出した輪郭の差や、撮像した画像より算出した輪郭に対して同心の二つの円で挟んだときの円の間隔を真円度として算出する。算出した真円度を網点形状の変化を判定する測定データとする。真円度が大きい場合には、輪郭が真円から外れており、輪郭がゆがんでいることいることを意味する。
輪郭21aに凸状の変化や、ゆがみが大きくなるほど、印刷品質が低下し、不良印刷物となる傾向にあることを意味する。
上記の輪郭21aの特徴を示す測定データは、複数の異なる測定データを任意に組み合わせて、網点形状の判定に使用できる。
【0034】
演算部50は、上記輪郭21aより算出した網点形状の変化を示す測定データより、以下のように不良印刷物が発生する予兆を判定する。
演算部50は、上記測定データに加えて、後述のオフセット印刷機1の運転状況等のデータ、オペレータにより入力される印刷結果の情報、および、後述の機械学習による情報を使用して、網点形状の変化の度合いを判定する。演算部50は、撮像したうち、設定したすべての形状確認用網点絵柄21に対して、網点形状の変化の度合いを判定する。判定を行った形状確認用網点絵柄21の総数に対して、形状の変化の度合いが設定値を超える網点の割合を算出し、割合の設定値以上の場合には、このまま印刷を続けると印刷物の印刷品質が低下して不良印刷物が発生する程度の網点形状変化であると確認する。
上記の各設定値は、実験または従来の経験などにより設定する。または、後述の機械学習による学習によって設定できる。
【0035】
上記の例では、撮像した個々の形状確認用網点絵柄21に対して、それぞれ個別に版10の網点形状と比較する例を示しているが、撮像した範囲に含まれる任意の1つの形状確認用網点絵柄21の位置を基準とし、複数の形状確認用網点絵柄21の輪郭を1つのデータとみなして、複数の網点間の位置関係を含む版10の網点形状と比較することもできる。この場合には網点の個々の形状だけでなく、撮像した網点間の相対的な位置と、版10の網点間の相対的な位置を比較して、印刷品質の判定の測定データとすることができる。1つのデータとみなす形状確認用網点絵柄21の個数は任意に設定でき、撮像した範囲に含まれるすべての形状確認用網点絵柄21を1つのデータとみなすこともできる。
【0036】
従来から網点の面積率による印刷品質を判定することが行われているが、従来の網点の面積率による印刷品質の判定、例えば濃度による判定では、網点の輪郭がゆがんでいても面積として、版の網点と一致していれば、網点に変化が生じていることを検出できなかった。このため、印刷品質に影響するような網点形状の変化があっても検出することができなかった。
本発明のオフセット印刷機1の印刷品質制御システムでは各網点の形状を精度よく判定できるため、従来の印刷中における印刷品質の評価では検出できなかった、網点の変化を検出することができ、不良印刷物が発生する予兆を精度良く判定できる。
【0037】
次に機械学習に関する制御について説明する。
本発明のオフセット印刷機1の印刷品質制御システムの判定装置100は、演算部50が上記で使用した、算出した各形状確認用網点絵柄21の輪郭、印刷された版10の網点形状、測定データである面積、各辺の長さ(高さ、幅)、各辺の比率、版10の網点形状に対する各辺の偏差、真円度、楕円近似(長軸、短軸、角度)、縦横比、輪郭長、穴数等、および、測定データから算出した各網点の形状の変化の度合い、形状確認用網点絵柄21の総数に対する変化の度合いが設定値を超える割合を、機械学習を行うためのデータとして記憶する。
データの記憶は判定装置100で行ってもよく、判定装置100とは独立して設けた任意の記憶装置で行ってもよい。
【0038】
機械学習の初期段階として、印刷物の印刷品質低下の発生をオペレータが判定した結果が、上記のデータと紐づけて記録される。
判定装置100は、オペレータが入力した印刷品質の判定結果のデータと、演算部50で行った網点形状の検出データより機械学習を行い、網点形状の検出データの変化、印刷結果の変化を予測する制御モデルの作成および更新を行う。
すなわち、判定装置100は、機械学習による制御モデルを使用し、撮像装置30で撮像した形状確認用網点絵柄21の画像により、その網点形状変化を確認し、このまま印刷を続けると印刷物の印刷品質が低下して不良印刷物が発生する網点形状変化である時に、そのことをオペレータに対して通知することができる。また、不良印刷物が発生する網点形状変化に対して、オフセット印刷機1を自動で制御する構成としてもよい。
機械学習により、網点形状変化と印刷結果の関係を随時更新できるため、印刷品質が低下の予兆を精度良く検出できる。
【0039】
判定装置100は、上記の網点の形状に関するデータ及び印刷結果のデータに加えて、用紙情報として、用紙幅、用紙種類、オフセット印刷機1の運転状況として、印刷開始時の湿し水の供給量、印刷開始時のインキの供給量、印刷する絵柄の情報、印刷中の印刷速度、印刷中の湿し水の供給量、印刷中のインキの供給量のデータ、オフセット印刷機1の印刷結果の検出情報として、網点面積率、インキ濃度のデータ、オフセット印刷機1の温度、湿度の情報として、印刷開始時の湿し水温度、印刷開始時のインキ温度、印刷開始時の揺動ローラ通水温度、印刷開始時の版胴通水温度、印刷開始時の工場内の温度、印刷開始時の工場内の湿度、印刷中の湿し水温度、印刷中のインキ温度、印刷中の揺動ローラ通水温度、印刷中の版胴通水温度、印刷中の工場内の温度、印刷中の工場内の湿度のデータ等から任意のデータを機械学習のデータとしてさらに使用することができる。これらのオフセット印刷機1に関するデータを機械学習に使用することで、様々な環境要因で変化する印刷品質への影響を制御モデルに反映することができる。
上記の機械学習に用いるデータは、時間の経過と紐づけて記憶される。
【0040】
上記説明ではオフセット印刷機1内の判定装置100が機械学習を行うエッジAIによる制御の例を示しているが、機械学習はこの例に限らずクラウドサーバーを使用してもよい。
クラウドサーバーを使用する場合、判定装置100は、上記のデータを、インターネットを介してクラウドサーバーへ送信する。クラウドサーバーは、受信したデータを記録し、機械学習を行い制御モデルの作成および更新を行い、入力されたデータに対して制御モデルが出力した結果をオフセット印刷機1へ出力する。オフセット印刷機1は、クラウドサーバーから出力された結果に基づき、不良印刷物が発生する予兆に対する対応を行う。
クラウドサーバーは、複数のオフセット印刷機1を、1つのクラウドサーバーで管理することも可能である。この場合には、複数のオフセット印刷機1の測定データを使用して制御モデルを構築することができる。
【0041】
本発明の印刷品質制御システムは、上記エッジAIによる機械学習、または、クラウドサーバーによる機械学習によって作成された学習済みの制御モデルを使用して制御を行うことができる。
判定装置100は、機械学習は行わず、演算部50で算出された輪郭21aおよびオフセット印刷機1の運転状況等のデータを制御モデルに適用し、出力された結果に応じて不良印刷物が発生する予兆に対する対応を行う。
学習済みの制御モデルを使用する場合は、判定装置100の処理能力が低い場合でも実施可能である。
【符号の説明】
【0042】
1…オフセット印刷機、2…給紙部、3…印刷部、4…巻取部、5…印刷ユニット、6…版胴、9…用紙搬送経路、10…版、11…形状確認用網点、11a…輪郭、12…絵柄に応じた網点、20…絵柄、21…形状確認用網点絵柄、21a…輪郭、30…撮像装置、31…カメラ、32…照明、40…画像処理部、50…演算部、60…表示部、100…判定装置、W…用紙。