IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

特開2023-159016分析装置、分析システム及び携帯型情報端末
<>
  • 特開-分析装置、分析システム及び携帯型情報端末 図1
  • 特開-分析装置、分析システム及び携帯型情報端末 図2
  • 特開-分析装置、分析システム及び携帯型情報端末 図3
  • 特開-分析装置、分析システム及び携帯型情報端末 図4
  • 特開-分析装置、分析システム及び携帯型情報端末 図5
  • 特開-分析装置、分析システム及び携帯型情報端末 図6
  • 特開-分析装置、分析システム及び携帯型情報端末 図7
  • 特開-分析装置、分析システム及び携帯型情報端末 図8
  • 特開-分析装置、分析システム及び携帯型情報端末 図9
  • 特開-分析装置、分析システム及び携帯型情報端末 図10
  • 特開-分析装置、分析システム及び携帯型情報端末 図11
  • 特開-分析装置、分析システム及び携帯型情報端末 図12
  • 特開-分析装置、分析システム及び携帯型情報端末 図13
  • 特開-分析装置、分析システム及び携帯型情報端末 図14
  • 特開-分析装置、分析システム及び携帯型情報端末 図15
  • 特開-分析装置、分析システム及び携帯型情報端末 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159016
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】分析装置、分析システム及び携帯型情報端末
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/02 20060101AFI20231024BHJP
   H10N 50/10 20230101ALI20231024BHJP
   H10N 50/80 20230101ALI20231024BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20231024BHJP
   G01J 3/51 20060101ALI20231024BHJP
   G01J 3/12 20060101ALN20231024BHJP
【FI】
G01J3/02 S
H01L43/08 Z
H01L43/02 Z
H01L43/08 U
G01J1/02 R
G01J3/51
G01J3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180977
(22)【出願日】2022-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2022068883
(32)【優先日】2022-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】福澤 英明
(72)【発明者】
【氏名】水野 友人
(72)【発明者】
【氏名】柴田 哲也
【テーマコード(参考)】
2G020
2G065
5F092
【Fターム(参考)】
2G020AA03
2G020AA04
2G020CB04
2G020CB23
2G020CC26
2G020CC63
2G020CD06
2G020CD36
2G020CD37
2G065AB02
2G065AB04
2G065AB05
2G065AB09
2G065AB22
2G065AB23
2G065BB15
2G065BB25
2G065BC28
2G065BC33
2G065BC35
5F092AB10
5F092AC08
5F092AC12
5F092AD23
5F092AD24
5F092BB10
5F092BB22
5F092BB23
5F092BB31
5F092BB34
5F092BB35
5F092BB36
5F092BB37
5F092BB38
5F092BB42
5F092BB43
5F092BB53
5F092BB55
5F092BC04
5F092BC07
5F092BC12
5F092BC13
5F092DA08
(57)【要約】
【課題】新規で、小型化可能な分析装置、分析システム及び携帯型情報端末を提供することを目的とする。
【解決手段】この分析装置は、第1強磁性層と、第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層とに挟まれるスペーサ層と、を備える、少なくとも一つの磁性素子と、光を出射する光源と、を備え、前記光源からの前記光を分析対象試料に照射し、前記分析対象試料で反射した反射光又は前記分析対象試料を透過した透過光を前記少なくとも一つの磁性素子により検知する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1強磁性層と、第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層とに挟まれるスペーサ層と、を備える、少なくとも一つの磁性素子と、
光を出射する光源と、を備え、
前記光源からの前記光を分析対象試料に照射し、
前記分析対象試料で反射した反射光又は前記分析対象試料を透過した透過光を前記少なくとも一つの磁性素子により検知する、分析装置。
【請求項2】
分光器をさらに備え、
前記反射光又は前記透過光は、前記分光器を介して、前記少なくとも一つの磁性素子に照射される、請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記少なくとも一つの磁性素子は、複数の磁性素子であり、
前記反射光又は前記透過光は、前記分光器を介して、前記複数の磁性素子に照射される、請求項2に記載の分析装置。
【請求項4】
複数の波長フィルターをさらに備え、
前記少なくとも一つの磁性素子は、複数の磁性素子であり、
前記複数の波長フィルターのそれぞれに対応して、前記複数の磁性素子のうちの少なくとも1つが配置され、
前記反射光又は前記透過光は、前記複数の波長フィルターのそれぞれを介して、波長フィルターのそれぞれに対応して配置された少なくとも1つの前記磁性素子に照射され、
前記複数の波長フィルターのうちの少なくとも一つは、他の波長フィルターと透過波長帯域が異なる、請求項1に記載の分析装置。
【請求項5】
前記光源は、レーザー光を出射するレーザー素子である、請求項1に記載の分析装置。
【請求項6】
前記光源は、レーザー光を出射する複数のレーザー素子を有し、
前記複数のレーザー素子のうちの少なくとも一つは、他のレーザー素子と出射するレーザー光の波長が異なる、請求項5に記載の分析装置。
【請求項7】
前記レーザー素子は、300nm以上2000nm以下の波長の光を出射する、請求項5に記載の分析装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の分析装置と、情報記憶装置と、を備え、
前記磁性素子により前記分析装置が検知した前記反射光又は前記透過光のデータと、前記情報記憶装置に保存されたデータとを照合し、前記分析対象試料の情報を認識する、分析システム。
【請求項9】
請求項8に記載の分析システムと、
前記分析対象試料の情報を表示する表示モニターと、を備える、携帯型情報端末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析装置、分析システム及び携帯型情報端末に関する。
【背景技術】
【0002】
光を用いた分析装置として、ラマン分光装置、赤外分光装置等が知られている。例えば、特許文献1には、ラマン分光装置が開示されている。また例えば、特許文献2には、赤外分光装置が開示されている。光を用いた分析装置には、光(電磁波)を電気信号として検出するための光検出器が用いられている。例えば、特許文献1に記載のラマン分光装置は、CCD(Charge coupled device)で光を検出している。例えば、特許文献2に記載の赤外分光装置は、ボロメータで赤外線を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-113021号公報
【特許文献2】特開2000-275105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
分光装置の光検出には、いくつかの種類の光検出器が用いられているが、小型化が困難である等の課題がある。そのため、光を用いた分析装置の更なる発展のために新たなブレイクスルーが求められている。
【0005】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、新規で、小型化可能な分析装置、分析システム及び携帯型情報端末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0007】
(1)第1の態様にかかる分析装置は、第1強磁性層と、第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層とに挟まれるスペーサ層と、を備える、少なくとも一つの磁性素子と、光を出射する光源と、を備え、前記光源からの前記光を分析対象試料に照射し、前記分析対象試料で反射した反射光又は前記分析対象試料を透過した透過光を前記少なくとも一つの磁性素子により検知する。
【0008】
(2)上記態様にかかる分析装置は、分光器をさらに備え、前記反射光又は前記透過光は、前記分光器を介して、前記少なくとも一つの磁性素子に照射されてもよい。
【0009】
(3)上記態様にかかる分析装置において、前記少なくとも一つの磁性素子は、複数の磁性素子であり、前記反射光又は前記透過光は、前記分光器を介して、前記複数の磁性素子に照射されてもよい。
【0010】
(4)上記態様にかかる分析装置は、複数の波長フィルターをさらに備え、前記少なくとも一つの磁性素子は、複数の磁性素子であり、前記複数の波長フィルターのそれぞれに対応して、前記複数の磁性素子のうちの少なくとも1つが配置され、前記反射光又は前記透過光は、前記複数の波長フィルターのそれぞれを介して、波長フィルターのそれぞれに対応して配置された少なくとも1つの前記磁性素子に照射され 、前記複数の波長フィルターのうちの少なくとも一つは、他の波長フィルターと透過波長帯域が異なってもよい。
【0011】
(5)上記態様にかかる分析装置において、前記光源は、レーザー光を出射するレーザー素子でもよい。
【0012】
(6)上記態様にかかる分析装置において、前記光源は、レーザー光を出射する複数のレーザー素子を有し、前記複数のレーザー素子のうちの少なくとも一つは、他のレーザー素子と出射するレーザー光の波長が異なってもよい。
【0013】
(7)上記態様にかかる分析装置において、前記レーザー素子は、300nm以上2000nm以下の波長の光を出射してもよい。
【0014】
(8)第2の態様にかかる分析システムは、上記態様にかかる分析装置と、情報記憶装置と、を備え、前記磁性素子により前記分析装置が検知した前記反射光又は前記透過光のデータと、前記情報記憶装置に保存されたデータとを照合し、前記分析対象試料の情報を認識する。
【0015】
(9)第3の態様にかかる携帯型情報端末は、上記態様にかかる分析システムと、前記分析対象試料の情報を表示する表示モニターと、を備える。
【発明の効果】
【0016】
上記態様にかかる分析装置、分析システム及び携帯型情報端末は、小型化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態に係る分析システムのブロック図である。
図2】第1実施形態に係る分析システムの別の例のブロック図である。
図3】第1実施形態に係る光検知装置の断面図である。
図4】第1実施形態に係る磁性素子の断面図である。
図5】第1実施形態に係る磁性素子の動作例の第1メカニズムを説明するための図である。
図6】第1実施形態に係る磁性素子の動作例の第2メカニズムを説明するための図である。
図7】第1実施形態に係る磁性素子の動作の別の例を説明するための図である。
図8】第1実施形態に係る磁性素子の動作の別の例を説明するための図である。
図9】第1実施形態に係る光検知装置の平面図である。
図10】第2実施形態に係る光検知装置の断面図である。
図11】第3実施形態に係る光検知装置の断面図である。
図12】第3実施形態に係る光検知装置の平面図である。
図13】第4実施形態に係る分析システムのブロック図である。
図14】第5実施形態に係る分析システムのブロック図である。
図15】第6実施形態に係る分析システムのブロック図である。
図16】第6実施形態に係る分析システムを用いた携帯型情報端末の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0019】
方向について定義する。磁性素子10の積層方向をz方向とし、z方向と直交する面内の一方向をx方向、x方向及びz方向と直交する方向をy方向とする。以下、+z方向を「上」、-z方向を「下」と表現する場合がある。+z方向は、第2電極E2から第1電極E1へ向かう方向である。上下は、必ずしも重力が加わる方向とは一致しない。
【0020】
「第1実施形態」
図1は、第1実施形態に係る分析システムのブロック図である。分析システム200は、例えば、分析装置100と情報記憶装置110とを備える。分析システム200は、磁性素子により分析装置100が検知した、分析対象試料Obで反射した反射光又は分析対象試料Obを透過した透過光のデータと、情報記憶装置110に保存されたデータとを照合し、分析対象試料Obの情報を認識する。
【0021】
分析装置100は、分析対象試料Obで反射した反射光又は分析対象試料Obを透過した透過光を検知する。図1に示す分析装置100は、分析対象試料Obで反射した反射光L2を検知する。分析装置100は、例えば、分光分析装置である。
【0022】
情報記憶装置110には、データが保存されている。情報記憶装置110は、例えば、外部ストレージである。分析装置100と情報記憶装置110との間のアクセスは、無線でも有線でもよい。また図2に示す分析システム200Aのように、情報記憶装置110は、分析装置100A内に格納された内部ストレージでもよい。
【0023】
分析装置100は、例えば、光源1と光検知装置2と試料設置部3と信号処理部4とを備える。
【0024】
光源1は、光L1を出射する。分析装置100は、分析対象試料Obに光源1からの光L1を照射する。光源1からの光L1は、分析対象試料Obに照射される。本明細書における光とは、可視光線に限らず、可視光線よりも波長の長い赤外線や、可視光線よりも波長の短い紫外線も含む。可視光線の波長は例えば、380nm以上800nm未満である。赤外線の波長は例えば、800nm以上1mm以下である。紫外線の波長は例えば、200nm以上380nm未満である。
【0025】
光源1は、レーザーダイオード等のレーザー素子のような単一波長の光を出射する光源でも、白色光源のように連続スペクトルを有する光を出射する光源でもよい。例えば、分析装置100が分析対象試料Obによる散乱光の波長のシフトを分析するラマン分光装置の場合は、光源1としてレーザー素子が好適に用いられる。レーザー素子は、例えば、300nm以上2000nm以下の波長の光を出射する。また、例えば、分析装置100が分析対象試料Obによる赤外光の吸収を分析する赤外分光装置の場合は、光源1として、赤外線領域に連続スペクトルを有する光を出射する光源が好適に用いられる。光源1は、使用時に電源に接続される。電源は、光源1の内部にあってもよい。
【0026】
試料設置部3は、分析対象試料Obを設置する部分である。詳細は後述するが、試料設置部3は、無くてもよい。分析対象試料Obは、特に限られず、例えば、薬品等の化学物質、細胞、ウィルス、血液等である。
【0027】
光検知装置2は、分析対象試料Obで反射した反射光L2を電気信号に置き換える。光検知装置2の具体的な構成は後述する。
【0028】
信号処理部4には、光検知装置2からの信号S1が入力される。信号処理部4は、例えば、信号受信部とプロセッサーとを有する。信号受信部は、信号処理部4の入力端子である。信号受信部は、例えば、入力端子に入力された信号を増幅する増幅器を更に備えていてもよい。プロセッサーは、例えば、CPU(Central Processing Unit)である。プロセッサーは、例えば、光検知装置2からの信号S1を基に、反射光L2のデータを検知し、検知した反射光L2のデータと情報記憶装置110に保存されたデータとの照合を行う。信号処理部4は、例えば、照合結果を外部に出力する。信号処理部4は、検知した反射光L2のデータをそのまま外部に出力してもよい。例えば、分析装置100がラマン分光装置の場合は、分析装置100が検知する、分析対象試料Obで反射した反射光又は分析対象試料Obを透過した透過光のデータ及び情報記憶装置110に保存されたデータは、例えばラマンスペクトルである。例えば、分析装置100が赤外分光装置の場合は、分析装置100が検知する、分析対象試料Obで反射した反射光又は分析対象試料Obを透過した透過光のデータ及び情報記憶装置110に保存されたデータは、例えばIRスペクトルである。
【0029】
図3は、第1実施形態に係る光検知装置2の断面図である。光検知装置2は、磁性素子10と分光器50とレンズRと回路基板91と配線層95とを備える。
【0030】
回路基板91は、例えば、アナログデジタル変換器92と出力端子93とを有する。磁性素子10から出力された電気信号は、アナログデジタル変換器92でデジタルデータに置換され、出力端子93から出力される。出力端子93は、例えば、信号処理部4に接続されている。
【0031】
配線層95は、例えば、回路基板91上に形成されている。配線層95は、複数の配線96を有する。複数の配線96の間には、層間絶縁膜97がある。配線96は、磁性素子10のそれぞれと回路基板91との間、回路基板91に形成された各演算回路の間を電気的に繋ぐ。磁性素子10のそれぞれと回路基板91とは、例えば、層間絶縁膜97をz方向に貫通する貫通配線を介して接続される。磁性素子10のそれぞれと回路基板91との間の配線間距離を短くすることで、ノイズを低減できる。
【0032】
配線96は、導電性を有する。配線96は、例えば、Al、Cu等である。層間絶縁膜97は、多層配線の配線間や素子間を絶縁する絶縁体である。層間絶縁膜97は、例えば、Si、Al、Mgの酸化物、窒化物、酸窒化物であり、後述する絶縁層30と同様の材料を用いることができる。
【0033】
磁性素子10は、例えば、配線層95上に形成されている。磁性素子10は、例えば、複数ある。複数の磁性素子10は、例えば、配線層95上に列状に配列している。複数の磁性素子10は、行列状に配列していてもよい。磁性素子10には、分析対象試料Obで反射した反射光又は分析対象試料Obを透過した透過光が照射される。分析装置100は、分析対象試料Obで反射した反射光又は分析対象試料Obを透過した透過光を磁性素子10により検知する。第1実施形態に係る分析装置100は、図3に示す磁性素子10により、分析対象試料Obで反射した反射光L2を検知する。磁性素子10の詳細は後述する。
【0034】
レンズRは、光を磁性素子10に向かって集光する。レンズRを通過して集光した光が磁性素子10に照射される。図3では、一つのレンズRの下方に一つの磁性素子10が配置されているが、一つのレンズRの下方に複数の磁性素子10を配置してもよい。
【0035】
分光器50は、分析対象試料Obで反射した反射光又は分析対象試料Obを透過した透過光を分光する。反射光又は透過光は、分光器50を介して、複数の磁性素子10に照射される。例えば、図3に示すように、分光器50は、反射光L2を分光する。分光器50は、例えば、反射光L2を波長ごとに、光L2、光L2、光L2に分光する波長分散型の分光器である。分光器50は、例えば、プリズム、回折格子等である。回折格子は、例えば、ブレーズド回折格子、ホログラフィック回折格子、ラミナー回折格子である。
【0036】
磁性素子10は、分析対象試料Obで反射した反射光又は分析対象試料Obを透過した透過光を検知するための光検知素子である。複数の磁性素子10のそれぞれには、分析対象試料Obで反射した反射光又は分析対象試料Obを透過した透過光が分光器50を介して照射される。図3に示す複数の磁性素子10のそれぞれには、分析対象試料Obで反射した反射光L2が分光器50を介して照射される。図3に示す複数の磁性素子10のそれぞれには、分光器50により分光された光が照射される。例えば、一つの磁性素子10には光L2が照射され、別の磁性素子10には光L2が照射され、さらに別の磁性素子10には光L2が照射される。
【0037】
図4は、第1実施形態に係る磁性素子10の断面図である。図4では、強磁性体の後述する初期状態における磁化の向きを矢印で表している。
【0038】
磁性素子10は、少なくとも第1強磁性層11と第2強磁性層12とスペーサ層13とを有する。スペーサ層13は、第1強磁性層11と第2強磁性層12との間に位置する。磁性素子10は、これらの他に、バッファ層14、シード層15、強磁性層16、磁気結合層17、垂直磁化誘起層18、キャップ層19を有してもよい。バッファ層14、シード層15、強磁性層16及び磁気結合層17は、第2強磁性層12と第2電極E2との間に位置し、垂直磁化誘起層18及びキャップ層19は、第1強磁性層11と第1電極E1との間に位置する。磁性素子10の周囲は絶縁層30により覆われている。絶縁層30は、第1電極E1と第2電極E2との間に位置する。
【0039】
磁性素子10は、例えば、スペーサ層13が絶縁材料で構成されたMTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子である。磁性素子10は、外部からの光が照射されると抵抗値が変化する。磁性素子10は、第1強磁性層11の磁化M11の状態と第2強磁性層12の磁化M12の状態との相対的な変化に応じて、z方向の抵抗値(z方向に電流を流した場合の抵抗値)が変化する。このような素子は磁気抵抗効果素子とも呼ばれる。
【0040】
第1強磁性層11は、外部から光が照射されると磁化の状態が変化する光検知層である。第1強磁性層11は、磁化自由層とも呼ばれる。磁化自由層は、所定の外部からのエネルギーが印加された際に磁化の状態が変化する磁性体を含む層である。所定の外部からのエネルギーは、例えば、外部から照射される光、磁性素子10の積層方向に流れる電流、外部磁場である。第1強磁性層11の磁化M11は、照射される光の強度に応じて状態が変化する。
【0041】
第1強磁性層11は、強磁性体を含む。第1強磁性層11は、例えば、Co、FeまたはNi等の磁性元素のいずれかを少なくとも含む。第1強磁性層11は、上述のような磁性元素と共に、B、Mg、Hf、Gd等の元素を含んでもよい。第1強磁性層11は、例えば、磁性元素と非磁性元素とを含む合金でもよい。第1強磁性層11は、複数の層から構成されていてもよい。第1強磁性層11は、例えば、CoFeB合金、CoFeB合金層をFe層で挟んだ積層体、CoFeB合金層をCoFe層で挟んだ積層体である。一般的に、「強磁性」は「フェリ磁性」を含む。第1強磁性層11は、フェリ磁性を示してもよい。一方、第1強磁性層11は、フェリ磁性ではない強磁性を示してもよい。例えば、CoFeB合金は、フェリ磁性ではない強磁性を示す。
【0042】
第1強磁性層11は、膜面内方向(xy面内のいずれかの方向)に磁化容易軸を有する面内磁化膜でも、膜面直方向(z方向)に磁化容易軸を有する垂直磁化膜でもよい。
【0043】
第1強磁性層11の膜厚は、例えば、1nm以上5nm以下である。第1強磁性層11の膜厚は、例えば、1nm以上2nm以下であることが好ましい。第1強磁性層11が垂直磁化膜の場合、第1強磁性層11の膜厚が薄いと、第1強磁性層11の上下にある層からの垂直磁気異方性印加効果が強まり、第1強磁性層11の垂直磁気異方性が高まる。つまり、第1強磁性層11の垂直磁気異方性が高いと、磁化M11がz方向に戻ろうとする力が強まる。一方、第1強磁性層11の膜厚が厚いと、第1強磁性層11の上下にある層からの垂直磁気異方性印加効果が相対的に弱まり、第1強磁性層11の垂直磁気異方性が弱まる。
【0044】
第1強磁性層11の膜厚が薄くなると強磁性体としての体積は小さくなり、厚くなると強磁性体としての体積は大きくなる。外部からのエネルギーが加わったときの第1強磁性層11の磁化の反応しやすさは、第1強磁性層11の磁気異方性(Ku)と体積(V)との積(KuV)に反比例する。つまり、第1強磁性層11の磁気異方性と体積との積が小さくなると、光に対する反応性が高まる。このような観点から、光に対する反応を高めるためには、第1強磁性層11の磁気異方性を適切に設計したうえで第1強磁性層11の体積を小さくすることが好ましい。
【0045】
第1強磁性層11の膜厚が2nmより厚い場合は、例えばMo,Wからなる挿入層を第1強磁性層11内に設けてもよい。すなわち、z方向に強磁性層、挿入層、強磁性層が順に積層された積層体を第1強磁性層11としてもよい。挿入層と強磁性層との界面における界面磁気異方性により第1強磁性層11全体の垂直磁気異方性が高まる。挿入層の膜厚は、例えば、0.1nm~1.0nmである。
【0046】
第2強磁性層12は、磁化固定層である。磁化固定層は、所定の外部からのエネルギーが印加された際に磁化の状態が磁化自由層よりも変化しにくい磁性体からなる層である。例えば、磁化固定層は、所定の外部からのエネルギーが印加された際に磁化の向きが磁化自由層よりも変化しにくい。また、例えば、磁化固定層は、所定の外部からのエネルギーが印加された際に磁化の大きさが磁化自由層よりも変化しにくい。第2強磁性層12の保磁力は、例えば、第1強磁性層11の保磁力よりも大きい。第2強磁性層12は、例えば第1強磁性層11と同じ方向に磁化容易軸を有する。第2強磁性層12は、面内磁化膜でも、垂直磁化膜でもよい。第2強磁性層12の膜厚は、例えば、1nm以上5nm以下である。
【0047】
第2強磁性層12を構成する材料は、例えば、第1強磁性層11と同様である。第2強磁性層12は、例えば、0.4nm~1.0nmの厚みのCoと0.4nm~1.0nmの厚みのPtとが交互に数回積層された多層膜でもよい。第2強磁性層12は、例えば、0.4nm~1.0nmの厚みのCo、0.1nm~0.5nmの厚みのMo、0.3nm~1.0nmの厚みのCoFeB合金、0.3nm~1.0nmの厚みのFeが順に積層された積層体でもよい。
【0048】
第2強磁性層12の磁化は、例えば、磁気結合層17を挟んだ強磁性層16との磁気結合によって固定してもよい。この場合、第2強磁性層12、磁気結合層17及び強磁性層16を合わせたものを磁化固定層と称する場合もある。磁気結合層17及び強磁性層16の詳細は、後述する。
【0049】
スペーサ層13は、第1強磁性層11と第2強磁性層12との間に配置される層である。スペーサ層13は、導電体、絶縁体もしくは半導体によって構成される層、又は、絶縁体中に導体によって構成される通電点を含む層で構成される。スペーサ層13は、例えば非磁性層である。スペーサ層13の膜厚は、後述する初期状態における第1強磁性層11の磁化と第2強磁性層12の磁化の配向方向に応じて調整できる。
【0050】
例えば、スペーサ層13が絶縁体からなる場合は、磁性素子10は、第1強磁性層11とスペーサ層13と第2強磁性層12とからなる磁気トンネル接合(MTJ:Magnetic Tunnel Junction)を有する。このような素子はMTJ素子と呼ばれる。この場合、磁性素子10はトンネル磁気抵抗(TMR:Tunnel Magnetoresistance)効果を発現することができる。例えば、スペーサ層13が金属からなる場合は、磁性素子10は、巨大磁気抵抗(GMR:Giant Magnetoresistance)効果を発現することができる。このような素子はGMR素子と呼ばれる。磁性素子10は、スペーサ層13の構成材料によって、MTJ素子、GMR素子などと呼び名が異なることがあるが、総称して磁気抵抗効果素子とも呼ばれる。
【0051】
スペーサ層13が絶縁材料で構成される場合、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン又は酸化ケイ素等を含む材料をスペーサ層13の材料として用いることができる。また、これら絶縁材料は、Al、B、Si、Mgなどの元素や、Co、Fe、Niなどの磁性元素を含んでもよい。第1強磁性層11と第2強磁性層12との間に高いTMR効果が発現するようにスペーサ層13の膜厚を調整することで、高い磁気抵抗変化率が得られる。TMR効果を効率よく利用するためには、スペーサ層13の膜厚は、0.5~5.0nm程度としてもよく、1.0~2.5nm程度としてもよい。
【0052】
スペーサ層13を非磁性導電材料で構成する場合、Cu、Ag、Au又はRu等の導電材料を用いることができる。GMR効果を効率よく利用するためには、スペーサ層13の膜厚は、0.5~5.0nm程度としてもよく、2.0~3.0nm程度としてもよい。
【0053】
スペーサ層13を非磁性半導体材料で構成する場合、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫、酸化ゲルマニウム、酸化ガリウム又はITO等の材料を用いることができる。この場合、スペーサ層13の膜厚は1.0~4.0nm程度としてもよい。
【0054】
スペーサ層13として非磁性絶縁体中の導体によって構成される通電点を含む層を適用する場合、酸化アルミニウムまたは酸化マグネシウムによって構成される非磁性絶縁体中に、Cu、Au、Alなどの非磁性の導体によって構成される通電点を含む構造としてもよい。また、Co、Fe、Niなどの磁性元素によって導体を構成してもよい。この場合、スペーサ層13の膜厚は、1.0~2.5nm程度としてもよい。通電点は、例えば、膜面に垂直な方向からみたときの直径が1nm以上5nm以下の柱状体である。
【0055】
強磁性層16は、例えば、第2強磁性層12と磁気結合する。磁気結合は、例えば、反強磁性的な結合であり、RKKY相互作用により生じる。第2強磁性層12の磁化M12の向きと強磁性層16の磁化M16の向きとは反平行の関係である。強磁性層16を構成する材料は、例えば、第1強磁性層11と同様である。
【0056】
磁気結合層17は、第2強磁性層12と強磁性層16との間に位置する。磁気結合層17は、例えば、Ru、Ir等である。
【0057】
バッファ層14は、異なる結晶間の格子不整合を緩和する層である。バッファ層14は、例えば、Ta、Ti、Zr及びCrからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む金属又は、Ta、Ti、Zr及びCuからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む窒化物である。より具体的には、バッファ層14は、例えば、Ta(単体)、NiCr合金、TaN(窒化タンタル)、CuN(窒化銅)である。バッファ層14の膜厚は、例えば、1nm以上5nm以下である。バッファ層14は、例えば、非晶質である。バッファ層14は、例えば、シード層15と第2電極E2との間に位置し、第2電極E2に接する。バッファ層14は、第2電極E2の結晶構造が第2強磁性層12の結晶構造に影響を及ぼすことを抑制する。
【0058】
シード層15は、シード層15上に積層される層の結晶性を高める。シード層15は、例えば、バッファ層14と強磁性層16との間に位置し、バッファ層14上にある。シード層15は、例えば、Pt、Ru、Zr、NiFeCrである。シード層15の膜厚は、例えば、1nm以上5nm以下である。
【0059】
キャップ層19は、第1強磁性層11と第1電極E1との間にある。キャップ層19は、第1強磁性層11上に積層されて第1強磁性層11と接する垂直磁化誘起層18を含んでいてもよい。キャップ層19は、プロセス過程で下層へのダメージを防ぐと共に、アニール時に下層の結晶性を高める。キャップ層19の膜厚は、第1強磁性層11に十分な光が照射されるように、例えば10nm以下である。
【0060】
垂直磁化誘起層18は、第1強磁性層11の垂直磁気異方性を誘起する。垂直磁化誘起層18は、例えば酸化マグネシウム、W、Ta、Mo等である。垂直磁化誘起層18が酸化マグネシウムの場合は、導電性を高めるために、酸化マグネシウムが酸素欠損していることが好ましい。垂直磁化誘起層18の膜厚は、例えば、0.5nm以上5.0nm以下である。
【0061】
磁性素子10の形状は、柱状である。磁性素子10の形状は、円柱でも角柱でもよい。磁性素子10をz方向から見た際の幅は、例えば、10nm以上2000nm以下とすることができる。磁性素子10をz方向から見た際の幅は、30nm以上500nm以下としてもよい。磁性素子10のz方向の長さは、例えば、30nm以上100nm以下とすることができる。このように、光検知素子である磁性素子10の大きさを、例えば光電子増倍管のような従来の光検出器に比べて非常に小さくすることができるため、分析装置100を小型化することができる。
【0062】
絶縁層30は、例えば、Si、Al、Mgの酸化物、窒化物、酸窒化物である。絶縁層30は、例えば、酸化ケイ素(SiO)、窒化ケイ素(SiN)、炭化ケイ素(SiC)、窒化クロム、炭窒化ケイ素(SiCN)、酸窒化ケイ素(SiON)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)等である。
【0063】
第1電極E1は、例えば、磁性素子10に光が照射される側に配置される。反射光L2の一部(例えば、光L2、光L2、光L2のいずれか)は、第1電極E1側から磁性素子10に照射され、少なくとも第1強磁性層11に照射される。第1電極E1は、導電性を有する材料からなる。第1電極E1は、例えば、使用波長帯域の光に対して透過性を有する透明電極である。第1電極E1は、例えば、使用波長帯域の光の80%以上を透過することが好ましい。第1電極E1は、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウムガリウム亜鉛(IGZO)等の酸化物である。第1電極E1は、これらの酸化物の透明電極材料の中に複数の柱状金属を有する構成としてもよい。第1電極E1として上記のような透明電極材料を用いることは必須ではなく、Au、CuまたはAlなどの金属材料を薄い膜厚で用いることで、照射される光を第1強磁性層11に到達させるようにしてもよい。第1電極E1の材料として金属を用いる場合、第1電極E1の膜厚は、例えば、3~10nmである。また第1電極E1は、光が照射される照射面に反射防止膜を有してもよい。
【0064】
第2電極E2は、磁性素子10を挟んで第1電極E1と反対側にある。第2電極E2は、導電性を有する材料からなる。第2電極E2は、例えば、Cu、AlまたはAuなどの金属により構成される。これらの金属の上下にTaやTiを積層してもよい。また、CuとTaの積層膜、TaとCuとTiの積層膜、TaとCuとTaNの積層膜を用いてもよい。また、第2電極E2として、TiNやTaNを用いてもよい。第2電極E2の膜厚は、例えば200nm~800nmである。
【0065】
第2電極E2は、磁性素子10に照射される光に対して透過性を有するようにしてもよい。第2電極E2の材料として、第1電極E1と同様に、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウムガリウム亜鉛(IGZO)等の酸化物の透明電極材料を用いてもよい。第1電極E1のほうから光が照射される場合においても、光の強度によっては光が第2電極E2まで到達する場合もありうるが、この場合、第2電極E2が酸化物の透明電極材料を含んで構成されていることで、第2電極E2が金属で構成されている場合に比べて、第2電極E2とそれに接する層との界面における光の反射を抑制できる。
【0066】
次いで、第1実施形態に係る分析システム200の動作について説明する。まず光源1から光L1が出射される。光L1の一部は、分析対象試料Obに照射される。分析対象試料Obで反射した反射光L2は、光検知装置2に照射される。
【0067】
光検知装置2に照射された反射光L2は、分光器50で例えば波長ごとに分光される。分光された光L2、L2、L2のそれぞれは、例えば、それぞれ異なる磁性素子10に照射される。光L2、L2、L2のそれぞれは、レンズRで集光されてもよい。
【0068】
例えば、磁性素子10のいずれかに、光L2、L2、L2のいずれかが照射されると、その磁性素子10から出力電圧が生じる。つまり、磁性素子10は、照射された光を電気信号に置き換える。
【0069】
磁性素子10からの出力電圧は、第1強磁性層11に照射される光の強度により変化する。磁性素子10からの出力電圧の変化に寄与するのは、第1強磁性層11、第2強磁性層12及びスペーサ層13の積層方向の抵抗値変化である。磁性素子10からの出力電圧が光の照射によって変化する厳密なメカニズムはまだ明確になっていないが、例えば、以下の2つのメカニズムが考えられる。
【0070】
図5は、磁性素子10の動作例の第1メカニズムを説明するための図である。図5の上のグラフは、縦軸が第1強磁性層11に照射される光の強度であり、横軸が時間である。図5の下のグラフは、縦軸が磁性素子10のz方向の抵抗値であり、横軸が時間である。図5では、磁性素子10のうち第1強磁性層11、第2強磁性層12及びスペーサ層13のみを抜き出して図示している。
【0071】
まず第1強磁性層11に第1強度の光が照射された状態(以下、初期状態と称する)において、第1強磁性層11の磁化M11と第2強磁性層12の磁化M12とは平行の関係にあり、磁性素子10のz方向の抵抗値は第1抵抗値Rを示し、磁性素子10からの出力電圧の大きさは第1の値を示す。第1強度は、第1強磁性層11に照射される光の強度がゼロの場合でもよい。
【0072】
磁性素子10のz方向の抵抗値は、磁性素子10のz方向にセンス電流Isを流すことで、磁性素子10のz方向の両端に電圧が発生し、その電圧値からオームの法則を用いて求められる。磁性素子10からの出力電圧は、第1電極E1と第2電極E2との間に発生する。図5に示す例の場合、センス電流Isを第1強磁性層11から第2強磁性層12に向かって流す。この方向にセンス電流Isを流すことで、第1強磁性層11の磁化M11に対して、第2強磁性層12の磁化M12と同じ方向のスピントランスファートルクが作用し、初期状態において磁化M11と磁化M12とが平行になる。また、この方向にセンス電流Isを流すことで、第1強磁性層11の磁化M11が動作時に反転することを防止することができる。
【0073】
次いで、第1強磁性層11に照射される光の強度が変化する。光の照射による外部からのエネルギーによって第1強磁性層11の磁化M11は初期状態から傾く。第1強磁性層11に光が照射されていない状態における第1強磁性層11の磁化M11の方向と、光が照射された状態における磁化M11の方向との角度は、いずれも0°より大きく90°より小さい。
【0074】
第1強磁性層11の磁化M11が初期状態から傾くと、磁性素子10のz方向の抵抗値は初期状態から変化する。そして、磁性素子10からの出力電圧は初期状態から変化する。例えば、第1強磁性層11の磁化M11の傾きに応じて、磁性素子10のz方向の抵抗値は、第2抵抗値R、第3抵抗値R、第4抵抗値Rと変化し、磁性素子10からの出力電圧は第2の値、第3の値、第4の値と変化する。第1抵抗値R、第2抵抗値R、第3抵抗値R、第4抵抗値Rの順に抵抗値は大きくなる。第2抵抗値R、第3抵抗値R、第4抵抗値Rのそれぞれは、磁化M11と磁化M12とが平行である場合の抵抗値(第1抵抗値R)と、磁化M11と磁化M12とが反平行である場合の抵抗値との間である。第1の値、第2の値、第3の値、第4の値の順に磁性素子10からの出力電圧は大きくなる。
【0075】
磁性素子10は、第1強磁性層11に照射される光の強度が変化した際に、磁性素子10からの出力電圧(磁性素子10のz方向の抵抗値)が変化する。例えば、第1の値(第1抵抗値R)を“0”、第2の値(第2抵抗値R)を“1”、第3の値(第3抵抗値R)を“2”、第4の値(第4抵抗値R)を“3”として規定すると、磁性素子10からは4値の情報を読み出すことができる。すなわち、第1強磁性層11に照射される光の強度と、磁性素子10からの出力電圧との対応関係を規定しておくことで、光の強度を出力電圧として検知できる。ここでは一例として4値を読み出す場合を示したが、磁性素子10からの出力電圧(磁性素子10の抵抗値)の閾値の設定により読み出す値の数は自由に設計できる。また磁性素子10の出力電圧のアナログ値をそのまま利用し、アナログ的に変化する光強度をアナログの出力電圧として検知してもよい。
【0076】
第1強磁性層11の磁化M11には第2強磁性層12の磁化M12と同じ方向のスピントランスファートルクが作用している。そのため、第1強磁性層11に光が照射されていない場合は、初期状態から傾いた磁化M11は、磁化M12と平行状態に戻る。磁化M11と磁化M12とが平行状態に戻ると、磁性素子10のz方向の抵抗値は、第1抵抗値Rに戻る。
【0077】
ここでは初期状態において磁化M11と磁化M12とが平行な場合を例に説明したが、初期状態において磁化M11と磁化M12とが反平行でもよい。この場合、磁性素子10のz方向の抵抗値は、磁化M11が傾くほど(磁化M11の初期状態からの角度変化が大きくなるほど)小さくなる。初期状態において磁化M11と磁化M12とが反平行な場合は、センス電流Isは第2強磁性層12から第1強磁性層11に向かって流すことが好ましい。この方向にセンス電流Isを流すことで、第1強磁性層11の磁化M11に対して、第2強磁性層12の磁化M12と反対方向のスピントランスファートルクが作用し、初期状態において磁化M11と磁化M12とが反平行になる。
【0078】
図6は、磁性素子10の動作例の第2メカニズムを説明するための図である。図6の上のグラフは、縦軸が第1強磁性層11に照射される光の強度であり、横軸が時間である。図6の下のグラフは、縦軸が磁性素子10のz方向の抵抗値であり、横軸が時間である。
【0079】
図6に示す初期状態における磁化M11と磁化M12の状態は、図5に示す初期状態における磁化M11と磁化M12の状態と同様である。図6に示す例の場合も、センス電流Isを第1強磁性層11から第2強磁性層12に向かって流すことが好ましい。この方向にセンス電流Isを流すことで、第1強磁性層11の磁化M11に対して、第2強磁性層12の磁化M12と同じ方向のスピントランスファートルクが作用し、初期状態において磁化M11と磁化M12とが平行になる。
【0080】
次いで、第1強磁性層11に照射される光の強度が変化する。光の照射による外部からのエネルギーによって第1強磁性層11の磁化M11の大きさは初期状態から小さくなる。第1強磁性層11の磁化M11が初期状態から小さくなると、磁性素子10のz方向の抵抗値は変化する。そして、磁性素子10からの出力電圧は変化する。例えば、第1強磁性層11の磁化M11の大きさに応じて、磁性素子10のz方向の抵抗値は、第2抵抗値R、第3抵抗値R、第4抵抗値Rと変化し、磁性素子10からの出力電圧は第2の値、第3の値、第4の値と変化する。第1抵抗値R、第2抵抗値R、第3抵抗値R、第4抵抗値Rの順に抵抗値は大きくなる。第1の値、第2の値、第3の値、第4の値の順に磁性素子10からの出力電圧は大きくなる。したがって図5の場合と同様に、第1強磁性層11に照射される光の強度と磁性素子10からの出力電圧との対応関係を規定しておくことで、光の強度を出力電圧として検知できる。
【0081】
また第2メカニズムの場合も、第1メカニズムの場合と同様に、第1強磁性層11に照射される光の強度が第1強度に戻ると、第1強磁性層11の磁化M11の状態は初期状態の状態に戻る。
【0082】
図6においても、初期状態において磁化M11と磁化M12とが反平行としてもよい。この場合、磁性素子10のz方向の抵抗値は、磁化M11の大きさが小さくなるほど、小さくなる。初期状態において磁化M11と磁化M12とが反平行な場合は、センス電流Isは第2強磁性層12から第1強磁性層11に向かって流すことが好ましい。
【0083】
またここまでは、初期状態において磁化M11と磁化M12とが平行又は反平行な場合を例示したが、初期状態において磁化M11と磁化M12とが直交していてもよい。例えば、初期状態において第1強磁性層11がxy平面のいずれかの方向に磁化M11が配向した面内磁化膜で、第2強磁性層12がz方向に磁化M12が配向した垂直磁化膜の場合が、この場合に該当する。磁気異方性により磁化M11がxy面内のいずれかの方向に配向し、磁化M12がz方向に配向することで、初期状態において磁化M11と磁化M12とが直交する。
【0084】
図7及び図8は、第1実施形態に係る磁性素子10の動作の別の例を説明するための図である。図7及び図8では、磁性素子10のうち第1強磁性層11、第2強磁性層12及びスペーサ層13のみを抜き出して図示している。図7図8とは、磁性素子10に印加するセンス電流Isの流れ方向が異なる。図7は、センス電流Isを第1強磁性層11から第2強磁性層12に向かって流している。図8は、センス電流Isを第2強磁性層12から第1強磁性層11に向かって流している。
【0085】
図7及び図8のいずれの場合でも、磁性素子10にセンス電流Isが流れることで、初期状態において磁化M11に対してスピントランスファートルクが作用している。図7の場合は、磁化M11が第2強磁性層12の磁化M12と平行になるように、スピントランスファートルクが作用している。図8の場合は、磁化M11が第2強磁性層12の磁化M12と反平行になるように、スピントランスファートルクが作用している。図7及び図8のいずれの場合でも、初期状態では、磁化M11に対する磁気異方性による作用がスピントランスファートルクの作用よりも大きいため、磁化M11はxy面内のいずれかの方向を向いている。
【0086】
第1強磁性層11に照射される光の強度が大きくなると、光の照射による外部からのエネルギーによって第1強磁性層11の磁化M11は初期状態から傾く。磁化M11に加わる光の照射による作用とスピントランスファートルクによる作用との和が、磁化M11に係る磁気異方性による作用より大きくなるためである。第1強磁性層11に照射される光の強度が大きくなると、図7の場合の磁化M11は第2強磁性層12の磁化M12と平行になるように傾き、図8の場合の磁化M11は第2強磁性層12の磁化M12と反平行になるように傾く。磁化M11に作用するスピントランスファートルクの方向が違うため、図7図8における磁化M11の傾き方向は異なる。
【0087】
第1強磁性層11に照射される光の強度が大きくなると、図7の場合は磁性素子10の抵抗値は小さくなり、磁性素子10からの出力電圧は小さくなる。図8の場合は磁性素子10の抵抗値は大きくなり、磁性素子10からの出力電圧は大きくなる。
【0088】
第1強磁性層11に照射される光の強度が第1強度に戻ると、磁化M11に対する磁気異方性による作用により第1強磁性層11の磁化M11の状態は初期状態の状態に戻る。
【0089】
ここでは第1強磁性層11が面内磁化膜であり、第2強磁性層12が垂直磁化膜の例を挙げて説明したが、この関係は逆でもよい。すなわち、初期状態において、磁化M11がz方向に配向し、磁化M12がxy面内のいずれかの方向に配向していてもよい。
【0090】
複数の磁性素子10のうちの少なくとも一つは、他の磁性素子10と素子構成が異なっていてもよい。例えば、照射される光の波長に応じて、磁性素子10毎に素子構成を異ならせてもよい。複数の磁性素子10は、素子構成が互いに同じでもよい。磁性素子10の第1強磁性層11の磁化M11の状態は、紫外線、可視光線及び赤外線を含む幅広い波長の光に対して、照射される光の強度に応じて変化するので、複数の磁性素子10の素子構成を互いに同じにすることができる。
【0091】
それぞれの磁性素子10は、例えば、波長の異なる光L2、光L2、光L2のそれぞれを電気信号に置き換える。その結果、反射光L2の照射に対応した信号S1が光検知装置2から出力される。信号S1は、例えば、それぞれの磁性素子10からの出力電圧であり、波長の異なる光L2、光L2、光L2のそれぞれの強度に対応した信号である。
【0092】
信号S1は、信号処理部4に送られる。信号処理部4は、信号S1をモニターし、メモリに記憶する。信号処理部4は、記憶された信号S1に基づく反射光L2のデータと情報記憶装置110に保存されたデータとを照合する。情報記憶装置110に保存されたデータは、例えば、事前にサンプリングされた辞書データである。2つのデータの照合結果に基づいて、信号処理部4は、分析対象試料Obの情報を認識し、外部に出力する。
【0093】
また精密な光軸調整を行わずに、分析対象試料Obで反射した反射光L2または分析対象試料Obを透過した透過光を磁性素子10で検知しやすくするために、複数の磁性素子10を含む磁性素子群G1を2次元アレイ状に配置してもよい。図9は、第1実施形態に係る光検知装置2における磁性素子10の配置の一例である。図9に示すように、2次元アレイ状に複数の磁性素子群G1を配置することで、精密な光軸調整を行わなくても、2次元アレイ状に配置された複数の磁性素子群G1のうちの少なくとも一つの磁性素子群G1に、分析対象試料Obで反射した反射光L2または分析対象試料Obを透過した透過光が照射される。信号処理部4は、分析対象試料Obで反射した反射光L2または分析対象試料Obを透過した透過光が照射された磁性素子群G1からの電気信号を用いて、分析対象試料Obの情報を認識し、外部に出力する。
【0094】
上述のように、第1実施形態にかかる分析システム200は、分析装置100が分析対象試料Obで反射した反射光L2を磁性素子10により検知し、その結果と情報記憶装置110に保存されたデータとを照合することで、分析対象試料Obの情報を認識することができる。
【0095】
また第1強磁性層11の磁化M11は、第1強磁性層11の体積が小さいほど光の照射に対して変化しやすくなる。つまり、第1強磁性層11の磁化M11は、第1強磁性層11の体積が小さいほど光の照射により傾きやすい、又は、光の照射により小さくなりやすい。換言すると、第1強磁性層11の体積を小さくすると、わずかな光量の光でも磁化M11を変化させることができる。
【0096】
より正確には、磁化M11の変化しやすさは、第1強磁性層11の磁気異方性(Ku)と体積(V)との積(KuV)の大きさで決定される。KuVが小さいほどより微小な光量でも磁化M11は変化し、KuVが大きいほどより大きな光量でないと磁化M11は変化しない。つまり、アプリケーションで使用する外部から照射する光の光量に応じて、第1強磁性層11のKuVを設計することになる。極めて微量な超微小な光量、フォトン検出のようなことを想定した場合には、第1強磁性層11のKuVを小さくすることで、これらの微小な光量の光の検出が可能となる。このような微小な光量の光の検出は、従来のpn接合の半導体では素子サイズを小さくすると難しくなるため、大きなメリットである。つまりKuVを小さくするために、第1強磁性層11の体積を小さくする、つまり素子面積を小さくしたり、第1強磁性層11の膜厚を薄くすることで、フォトン検出も可能となる。
【0097】
「第2実施形態」
第2実施形態にかかる分析システムは、光検知装置の具体的な構成が第1実施形態にかかる分析システム200と異なる。図10は、第2実施形態に係る光検知装置2Aの断面図である。光検知装置2Aは、磁性素子10と分光器51とレンズRと回路基板91と配線層95とを備える。光検知装置2Aにおいて、光検知装置2と同様の構成については、同様の符号を付し、説明を省く。
【0098】
分光器51は、分析対象試料Obで反射した反射光又は分析対象試料Obを透過した透過光を分光する。例えば、図10に示すように、分光器51は、反射光L2を分光する。例えば、反射光L2は、分光器51を介して、少なくとも一つの磁性素子10に照射される。磁性素子10の数は、一つでも複数でもよい。磁性素子10の数が複数である場合、図9の場合と同様に、複数の磁性素子10を2次元アレイ状に配置してもよいし、複数の磁性素子10を含む磁性素子群G1を2次元アレイ状に配置してもよい。分光器51は、xy平面に対する傾き角を変更可能である。分光器51は、例えば、xy平面のいずれかの方向を軸に回転可能である。分光器51のxy平面に対する傾き角に応じて、磁性素子10に照射される光L2の波長が変化する。光L2は、分光器51で分光された反射光L2の一部である。
【0099】
光検知装置2Aに照射された反射光L2は、分光器51で例えば特定の波長の光L2に分光される。分光された光L2は、例えば、磁性素子10に照射される。磁性素子10に照射される光L2の波長は、例えば、分光器51の傾き角を変えることで変更できる。
【0100】
例えば、磁性素子10に、光L2が照射されると、その磁性素子10から出力電圧が生じる。つまり、磁性素子10は、照射された光を電気信号に置き換える。例えば、分光器51の傾き角を変えながら磁性素子10に光L2を照射すると、分光器51の傾き角に応じて異なる波長の光が磁性素子10に照射される。磁性素子10は、照射された光L2の波長ごとに、光L2の強度に対応した出力電圧を出力する。
【0101】
光検知装置2Aは、磁性素子10からの出力電圧に応じて、光L2の強度に対応した信号S1を生み出す。信号S1は、磁性素子10からの出力電圧であり、例えば、磁性素子10に照射される光L2の強度が波長毎に変化することにより変化する。信号処理部4は、磁性素子10に照射される光L2の波長ごとに信号S1をメモリに記憶する。信号処理部4は、記憶された信号S1に基づく反射光L2のデータと情報記憶装置110に保存されたデータとを照合する。情報記憶装置110に保存されたデータは、例えば、事前にサンプリングされた辞書データである。2つのデータの照合結果に基づいて、信号処理部4は、分析対象試料Obの情報を認識し、外部に出力する。
【0102】
また精密な光軸調整を行わずに、分析対象試料Obで反射した反射光L2または分析対象試料Obを透過した透過光を磁性素子10で検知しやすくするために、複数の磁性素子10を2次元アレイ状に配置してもよい。光検知装置2Aにおいて、2次元アレイ状に複数の磁性素子10を配置することで、精密な光軸調整を行わなくても、2次元アレイ状に配置された複数の磁性素子10のうちの少なくとも一つの磁性素子10に、分析対象試料Obで反射した反射光L2または分析対象試料Obを透過した透過光が照射される。信号処理部4は、分析対象試料Obで反射した反射光L2または分析対象試料Obを透過した透過光が照射された磁性素子10からの電気信号を用いて、分析対象試料Obの情報を認識し、外部に出力する。
【0103】
第2実施形態にかかる分析システムは、分析装置が分析対象試料Obで反射した反射光L2を磁性素子10により検知し、その結果と情報記憶装置110に保存されたデータとを照合することで、分析対象試料Obの情報を認識することができる。
【0104】
「第3実施形態」
第3実施形態にかかる分析システムは、光検知装置の具体的な構成が第1実施形態にかかる分析システム200と異なる。図11は、第3実施形態に係る光検知装置2Bの断面図である。光検知装置2Bは、磁性素子10と波長フィルター60とレンズRと回路基板91と配線層95とを備える。光検知装置2Bにおいて、光検知装置2と同様の構成については、同様の符号を付し、説明を省く。
【0105】
波長フィルター60は複数ある。波長フィルター60は、特定の波長帯域に限定された光を透過させる。磁性素子10は複数ある。それぞれの波長フィルター60に対応して、少なくとも1つの磁性素子10が配置される。図11に示す光検知装置2Bは、一つの波長フィルター60の下方に一つの磁性素子10が配置されているが、一つの波長フィルター60の下方に複数の磁性素子10を配置してもよい。磁性素子10には、波長フィルター60を透過した光が照射される。反射光L2は、複数の波長フィルター60のそれぞれを介して、波長フィルター60のそれぞれに対応して配置された少なくとも1つの磁性素子10に照射される。波長フィルター60は、例えば誘電体多層膜である。複数の磁性素子10のうちの少なくとも一つは、他の磁性素子10と素子構成が異なっていてもよい。複数の磁性素子10は、素子構成が互いに同じでもよい。
【0106】
複数の波長フィルター60のうちの少なくとも一つは、他の波長フィルター60と透過波長帯域が異なる。図11に示す光検知装置2Bは、波長フィルター60として3つの波長フィルター61、62、63を有しているが、例えば、波長フィルター61、62、63は透過波長帯域が互いに異なる。図11に示す光検知装置2Bは、波長フィルター60として3つの波長フィルター61、62、63を有しているが、透過波長帯域が異なる波長フィルターの数やそれぞれの波長フィルターの透過波長帯域幅は、分析対象試料Obで反射した反射光又は分析対象試料Obを透過した透過光の検知したいデータに応じて設計すればよい。例えば、ラマン分光分析の場合は、分析対象試料Obで反射した反射光又は分析対象試料Obを透過した透過光のラマンスペクトルが検知できるだけの数および透過波長帯域幅の波長フィルターを、光検知装置2Bが備えていればよい。例えば、波長785nmのレーザー光を出射する光源1を用いたラマン分光分析の場合、光検知装置2Bが、例えば、透過波長帯域が波長785nm~1185nm未満の範囲の中であり、透過波長帯域幅が5nmで、透過波長帯域の中心波長が5nmずつ異なる波長フィルターを80個備えていてもよい。
【0107】
光検知装置2Bに照射された反射光L2は、波長フィルター60を介して、磁性素子10のそれぞれに照射される。波長フィルター60は、特定の波長域の光のみを透過するため、波長フィルター60の透過波長帯域に応じた波長帯域の光が磁性素子10のそれぞれに照射される。
【0108】
磁性素子10に、反射光L2の一部が照射されると、その磁性素子10から出力電圧が生じる。それぞれの磁性素子10に波長フィルター60の透過波長帯域に応じた波長帯域の光が照射されると、それぞれの磁性素子から出力電圧が生じる。それぞれの磁性素子10は、照射された光の波長帯域ごとに、磁性素子10に照射された光の強度に対応した出力電圧を出力する。
【0109】
光検知装置2Bは、磁性素子10からの出力電圧に応じて、磁性素子10に照射された光の強度に対応した信号S1を生み出す。信号S1は、それぞれの磁性素子10からの出力電圧である。信号処理部4は、磁性素子10に照射される光の波長帯域ごとに信号S1をメモリに記憶する。信号処理部4は、記憶された信号S1に基づく反射光L2のデータと情報記憶装置110に保存されたデータとを照合する。情報記憶装置110に保存されたデータは、例えば、事前にサンプリングされた辞書データである。2つのデータの照合結果に基づいて、信号処理部4は、分析対象試料Obの情報を認識し、外部に出力する。
【0110】
また精密な光軸調整を行わずに、分析対象試料Obで反射した反射光L2または分析対象試料Obを透過した透過光を磁性素子10で検知しやすくするために、複数の磁性素子10及び複数の波長フィルター60を含む磁性素子群G2を2次元アレイ状に配置してもよい。図12は、第3実施形態に係る光検知装置2Bにおける磁性素子10及び波長フィルター60の配置の一例である。図12に示すように、2次元アレイ状に複数の磁性素子群G2を配置することで、精密な光軸調整を行わなくても、2次元アレイ状に配置された複数の磁性素子群G2のうちの少なくとも一つの磁性素子群G2に、分析対象試料Obで反射した反射光L2または分析対象試料Obを透過した透過光が照射される。信号処理部4は、分析対象試料Obで反射した反射光L2または分析対象試料Obを透過した透過光が照射された磁性素子群G2からの電気信号を用いて、分析対象試料Obの情報を認識し、外部に出力する。
【0111】
第3実施形態にかかる分析システムは、分析装置が分析対象試料Obで反射した反射光L2を磁性素子10により検知し、その結果と情報記憶装置110に保存されたデータとを照合することで、分析対象試料Obの情報を認識することができる。また、第3実施形態にかかる光検知装置2Bは、第1実施形態に記載の分光器50を備えなくてもよいため、より小型化が可能である。
【0112】
「第4実施形態」
図13は、第4実施形態に係る分析システム201のブロック図である。分析システム201において、分析システム200と同様の構成については、同様の符号を付し、説明を省く。
【0113】
分析システム201は、分析装置101と情報記憶装置110とを備える。分析装置101は、例えば、光源1Aと光検知装置2と試料設置部3と信号処理部4とを備える。
【0114】
光源1Aは、レーザー光を出射する複数のレーザー素子71,72,73を有する。レーザー素子71,72,73の数は問わない。複数のレーザー素子71,72,73のうちの少なくとも一つは、他のレーザー素子と出射するレーザー光の波長が異なる。複数のレーザー素子71,72,73のそれぞれは、例えば、300nm以上2000nm以下の波長の光を出射する。
【0115】
光源1Aのレーザー素子71,72,73のそれぞれからは、光L1,L1,L1が出射される。光L1,L1,L1は、例えば、互いに波長が異なる。光L1,L1,L1の一部は、分析対象試料Obに照射され、反射する。分析対象試料Obで反射した反射光L2は、光検知装置2に照射される。光検知装置2は、上述の光検知装置2A、2Bと置き換えてもよい。
【0116】
光検知装置2には、異なる波長の光L1,L1,L1のそれぞれが分析対象試料Obで反射した反射光L2が照射される。光L1,L1,L1のそれぞれの反射光は、分光器50で例えば波長ごとに分光され、磁性素子10に照射される。分析装置101は、分析対象試料Obで反射した反射光又は分析対象試料Obを透過した透過光を磁性素子10により検知する。
【0117】
第4実施形態にかかる分析システムは、分析装置101が分析対象試料Obで反射した反射光L2を磁性素子10で検知し、その結果と情報記憶装置110に保存されたデータとを照合することで、分析対象試料Obの情報を認識することができる。また光源1Aから複数の波長の光を出射することで、分析対象試料Obの情報をより詳細に認識できる。
【0118】
「第5実施形態」
図14は、第5実施形態に係る分析システム202のブロック図である。分析システム202において、分析システム200と同様の構成については、同様の符号を付し、説明を省く。
【0119】
分析システム202は、分析装置102と情報記憶装置110とを備える。分析装置102は、例えば、光源1と光検知装置2と試料設置部3と信号処理部4とを備える。光検知装置2には、試料設置部3に設置された分析対象試料Obを透過した透過光L3が照射される。光検知装置2の磁性素子10は、分析対象試料Obを透過した透過光を検知する。光検知装置2は、上述の光検知装置2A、2Bと置き換えてもよい。また光源1は、光源1Aと置き換えてもよい。
【0120】
分析対象試料Obに光L1が照射されると、その一部は透過光L3として分析対象試料Obを透過する。透過光L3は、光検知装置2に照射される。光検知装置2に照射された透過光L3は、例えば、分光器50を介して、少なくとも一つの磁性素子10に照射される。光検知装置2Bの場合は、光検知装置2に照射された透過光L3は、例えば、波長フィルター60のそれぞれを介して、波長フィルター60のそれぞれに対応して配置された少なくとも一つの磁性素子10に照射される。磁性素子10は、照射された光を電気信号に置き換える。光検知装置2は、磁性素子10に照射された光の強度に対応した信号S2を生じ、信号処理部4に送る。
【0121】
信号処理部4は、信号S2をモニターし、メモリに記憶する。信号処理部4は、記憶された信号S2に基づく透過光L3のデータと情報記憶装置110に保存されたデータとを照合する。2つのデータの照合結果に基づいて、信号処理部4は、分析対象試料Obの情報を認識し、外部に出力する。
【0122】
第5実施形態にかかる分析システムは、分析装置102が分析対象試料Obを透過した透過光L3を磁性素子10により検知し、その結果と情報記憶装置110に保存されたデータとを照合することで、分析対象試料Obの情報を認識することができる。
【0123】
「第6実施形態」
図15は、第6実施形態に係る分析システム203のブロック図である。分析システム203において、分析システム200と同様の構成については、同様の符号を付し、説明を省く。
【0124】
分析システム203は、分析装置103と情報記憶装置110とを備える。分析装置103は、例えば、光源1と光検知装置2と信号処理部4とを備える。光検知装置2は、上述の光検知装置2A、2Bと置き換えてもよい。また光源1は、光源1Aと置き換えてもよい。また図15では、分析対象試料Obで反射した反射光L2が光検知装置2に照射される例を示したが、図14と同様に、分析対象試料Obを透過した透過光L3が光検知装置2に照射されてもよい。
【0125】
第6実施形態にかかる分析システム203は、分析装置103が分析対象試料Obを反射した反射光L2を磁性素子10により検知し、その結果と情報記憶装置110に保存されたデータとを照合することで、分析対象試料Obの情報を認識することができる。分析装置103は試料設置部を有しておらず、分析対象試料Obが分析装置103の外部にある。そのため、分析対象試料Obの大きさ等に影響を受けずに測定が可能である。
【0126】
また図16は、第6実施形態に係る分析システム203を用いた携帯型情報端末300の模式図である。携帯型情報端末300は、分析装置103と表示モニター120とを有する。分析システム203は、分析装置103が検知した分析対象試料Obで反射した反射光L2又は分析対象試料Obを透過した透過光L3のデータと、外部のストレージに保存された辞書データとを照合し、照合結果を分析対象試料Obの情報として表示モニター120に表示する。
【0127】
磁性素子10の第1強磁性層11の磁化M11の状態は、紫外線、可視光線及び赤外線を含む幅広い波長の光に対して、照射される光の強度に応じて変化するので、第1~6実施形態にかかる分析装置及び分析システムは、幅広い用途に使用できる。
【0128】
以上、本発明は上記の実施形態及び変形例に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0129】
1,1A…光源、2,2A,2B…光検知装置、3…試料設置部、4…信号処理部、10…磁性素子、11…第1強磁性層、12…第2強磁性層、13…スペーサ層、14…バッファ層、15…シード層、16…強磁性層、17…磁気結合層、18…垂直磁化誘起層、19…キャップ層、30…絶縁層、50,51…分光器、60,61,62,63…波長フィルター、71,72,73…レーザー素子、91…回路基板、92…アナログデジタル変換器、93…出力端子、95…配線層、96…配線、97…層間絶縁膜、100,100A,101,102,103…分析装置、200,200A,201,202,203…分析システム、300…携帯型情報端末、E1…第1電極、E2…第2電極、L1,L1,L1,L1,L2,L2,L2,L2…光、L2…反射光、L3…透過光、Ob…分析対象試料、M11,M12,M16…磁化
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16