(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023015913
(43)【公開日】2023-02-01
(54)【発明の名称】持続性集中力向上用及び/又は持続性ストレス緩和用の芳香装置、芳香装置制御プログラム、芳香方法、芳香選択プログラム、及び香料キット
(51)【国際特許分類】
A61M 21/02 20060101AFI20230125BHJP
A61L 9/01 20060101ALN20230125BHJP
【FI】
A61M21/02 H
A61L9/01 H
A61L9/01 P
A61L9/01 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021119996
(22)【出願日】2021-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】芦澤 ゆりの
(72)【発明者】
【氏名】庄司 健
【テーマコード(参考)】
4C180
【Fターム(参考)】
4C180AA13
4C180CA03
4C180CA06
4C180CB01
4C180EB06X
4C180EC01
4C180EC03
4C180GG03
4C180GG08
4C180HH05
4C180HH09
4C180JJ01
4C180KK03
4C180KK04
4C180LL01
4C180LL06
(57)【要約】
【課題】集中した状態を長時間にわたって持続させること、及び/又はストレスが緩和した状態を長時間にわたって維持させることを可能にする芳香装置、芳香プログラム、及び芳香方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の芳香装置100は、それぞれ異なる香料を保持する複数の香料保持容器12a~12d、及び複数の香料保持容器から複数の香料を切り替えて拡散させる香料拡散機構13a~13d、14、16、18を有し、香料拡散機構が、自然環境における環境因子の経時変化によって生じる自然芳香源の芳香状態の変化を模擬するようにして、複数の香料の拡散強度を調節して拡散させる、持続性集中力向上用及び/又は持続性ストレス緩和用の芳香装置である。また、芳香装置制御プログラム、芳香方法、芳香選択プログラム、及び香料キットを提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ異なる香料を保持する複数の香料保持容器、及び
前記複数の香料保持容器から複数の前記香料を切り替えて拡散させる香料拡散機構
を有し、
前記香料拡散機構が、自然環境における環境因子の経時変化によって生じる自然芳香源の芳香状態の変化を模擬するようにして、複数の前記香料の拡散強度を調節して拡散させる、
持続性集中力向上用及び/又は持続性ストレス緩和用の芳香装置。
【請求項2】
前記自然芳香源が、植物及び菌類からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の芳香装置。
【請求項3】
前記植物が、バラ、キンギョソウ、シクラメン、梅、ジャスミン、ユリ、ペチュニア、ツレサギソウ、サクララン、ヨルガオ、イランイラン、夜来香、アフリカンガーデニア、マツリカ、ハワイアンハイビスカス、ニオイバンマツリ、夜香花、フウラン、チュベローズ、月下美人、インドヤコウボク、ニコチアナ・シルベストリス、クチナシ、カラタネオガタマ、チューリップ、クロッカス、クロスグリ、バジル、及びローズゼラニウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の芳香装置。
【請求項4】
前記植物及び菌類が、フィトンチッド、及びゲオスミンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を生成する植物及び菌類を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の芳香装置。
【請求項5】
前記環境因子が、時刻、照度、気温、音、風量、二酸化炭素濃度、雨量、月齢、地磁気、及び天候からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記香料拡散機構が、複数の前記香料を少なくとも部分的に重複させて拡散させる、請求項1~5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
集中力の向上効果及び/又はストレスの緩和効果を1時間以上にわたって持続させるためのものである、請求項1~6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
学習空間用、仕事空間用、及び/又は習い事空間用である、請求項1~7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
在宅勤務空間用である、請求項1~8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
持続的な集中力の向上効果及び/又はストレスの緩和効果が得られる旨の表示を有し、かつ/又は
持続的な集中力の向上効果及び/又はストレスの緩和効果が得られる旨の表示を有するパッケージに収容されている、
請求項1~9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の芳香装置を制御する芳香装置制御プログラムであって、自然環境における環境因子の経時変化によって生じる自然芳香源の芳香状態の変化を模擬するようにして、前記香料拡散機構に、複数の前記香料の拡散強度を調節して拡散させる、持続性集中力向上用及び/又は持続性ストレス緩和用の芳香装置制御プログラム。
【請求項12】
自然環境における環境因子の経時変化によって生じる自然芳香源の芳香状態の変化を模擬するようにして、複数の香料の拡散強度を調節して拡散させる、持続性集中力向上用及び/又は持続性ストレス緩和用の芳香方法。
【請求項13】
プロセッサに下記のことを行わせる、持続性集中力向上用及び/又は持続性ストレス緩和用の芳香選択プログラム:
自然環境における環境因子の経時変化によって生じる自然芳香源の芳香状態を決定させること、
決定された前記自然芳香源の芳香状態を模擬するようにして、2以上の所定の香料のうちから、1又は複数の香料を選択させること、及び
表示部に、選択された前記1又は複数の香料を表示させること。
【請求項14】
請求項13記載の芳香選択プログラムと組み合わせて用いるための香料キットであって、前記2以上の所定の香料の一部又はすべてを保持している、香料キット。
【請求項15】
請求項13記載の芳香選択プログラムと組み合わせて用いるためのものである旨の表示を有し、かつ/又は
請求項13記載の芳香選択プログラムと組み合わせて用いるためのものである旨の表示を有するパッケージに収容されている、
請求項14に記載の香料キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、持続性集中力向上用及び/又は持続性ストレス緩和用の芳香装置、芳香装置制御プログラム、芳香方法、芳香選択プログラム、及び香料キットに関する。
【背景技術】
【0002】
香料によって集中力向上、ストレス緩和等の効果が得られることが知られている(特許文献1)。具体的には例えば、ユズ皮精油及びレモン精油のような柑橘類の精油は、交感神経を刺激して集中力を高める効果があることが知られており、また、ラベンダー精油は、副交感神経を刺激して気持ちをリラックスさせる効果があることが知られている。
【0003】
交感神経を刺激して集中力を高めると、作業効率の改善が見られることが知られているが、このような集中した状態を長時間にわたって持続することは難しかった。
【0004】
なお、従来から、特許文献2及び3のように、使用者のリラクゼーション効果等を目的として、複数の香料を切り替えて拡散させる芳香装置が知られている。
【0005】
このうち特許文献2では、部屋の雰囲気、部屋の使用目的、時間経過等に従って、複数の香料の濃度又は混合比を調製する芳香装置を開示している。具体的には、特許文献2では、嗅覚は同じ匂いが続くと慣れが起こって麻痺するのに対して、香りの濃度、種類、組成等を変化させることによって、嗅覚の麻痺がなくなり、心地良い刺激を与えられることを開示している。
【0006】
また、特許文献3では、自然材料を含む香料を拡散させる芳香装置であって、屋外又は屋内の環境因子を取得する取得部と、環境因子における自然材料の芳香状態を推定し、推定された芳香状態に応じて香料の拡散量を決定する制御部と、を備えることを特徴とする芳香装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-105244号公報
【特許文献2】特開平6-18061号公報
【特許文献3】国際公開2021/049137A1号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これに対して、本発明は、集中した状態を長時間にわたって持続させること、及び/又はストレスが緩和した状態を長時間にわたって持続させることを可能にする芳香装置、芳香装置制御プログラム、芳香方法、芳香選択プログラム、及び香料キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の態様としては下記の態様を挙げることができる。
【0010】
〈態様1〉
それぞれ異なる香料を保持する複数の香料保持容器、及び
前記複数の香料保持容器から複数の前記香料を切り替えて拡散させる香料拡散機構
を有し、
前記香料拡散機構が、自然環境における環境因子の経時変化によって生じる自然芳香源の芳香状態の変化を模擬するようにして、複数の前記香料の拡散強度を調節して拡散させる、
持続性集中力向上用及び/又は持続性ストレス緩和用の芳香装置。
〈態様2〉
前記自然芳香源が、植物及び菌類からなる群より選択される少なくとも1種を含む、態様1に記載の芳香装置。
〈態様3〉
前記植物が、バラ、キンギョソウ、シクラメン、梅、ジャスミン、ユリ、ペチュニア、ツレサギソウ、サクララン、ヨルガオ、イランイラン、夜来香、アフリカンガーデニア、マツリカ、ハワイアンハイビスカス、ニオイバンマツリ、夜香花、フウラン、チュベローズ、月下美人、インドヤコウボク、ニコチアナ・シルベストリス、クチナシ、カラタネオガタマ、チューリップ、クロッカス、クロスグリ、バジル、及びローズゼラニウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、態様1又は2に記載の芳香装置。
〈態様4〉
前記植物及び菌類が、フィトンチッド、及びゲオスミンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を生成する植物及び菌類を含む、態様1~3のいずれか一項に記載の芳香装置。
〈態様5〉
前記環境因子が、時刻、照度、気温、音、風量、二酸化炭素濃度、雨量、月齢、地磁気、及び天候からなる群より選択される少なくとも1種を含む、態様1~4のいずれか一項に記載の装置。
〈態様6〉
前記香料拡散機構が、複数の前記香料を少なくとも部分的に重複させて拡散させる、態様1~5のいずれか一項に記載の装置。
〈態様7〉
集中力の向上効果及び/又はストレスの緩和効果を1時間以上にわたって持続させるためのものである、態様1~6のいずれか一項に記載の装置。
〈態様8〉
学習空間用、仕事空間用、及び/又は習い事空間用である、態様1~7のいずれか一項に記載の装置。
〈態様9〉
在宅勤務空間用である、態様1~8のいずれか一項に記載の装置。
〈態様10〉
持続的な集中力の向上効果及び/又はストレスの緩和効果が得られる旨の表示を有し、かつ/又は
持続的な集中力の向上効果及び/又はストレスの緩和効果が得られる旨の表示を有するパッケージに収容されている、
態様1~9のいずれか一項に記載の装置。
〈態様11〉
態様1~10のいずれか一項に記載の芳香装置を制御する芳香装置制御プログラムであって、自然環境における環境因子の経時変化によって生じる自然芳香源の芳香状態の変化を模擬するようにして、前記香料拡散機構に、複数の前記香料の拡散強度を調節して拡散させる、持続性集中力向上用及び/又は持続性ストレス緩和用の芳香装置制御プログラム。
〈態様12〉
自然環境における環境因子の経時変化によって生じる自然芳香源の芳香状態の変化を模擬するようにして、複数の香料の拡散強度を調節して拡散させる、持続性集中力向上用及び/又は持続性ストレス緩和用の芳香方法。
〈態様13〉
プロセッサに下記のことを行わせる、持続性集中力向上用及び/又は持続性ストレス緩和用の芳香選択プログラム:
自然環境における環境因子の経時変化によって生じる自然芳香源の芳香状態を決定させること、
決定された前記自然芳香源の芳香状態を模擬するようにして、2以上の所定の香料のうちから、1又は複数の香料を選択させること、及び
表示部に、選択された前記1又は複数の香料を表示させること。
〈態様14〉
態様13記載の芳香選択プログラムと組み合わせて用いるための香料キットであって、前記2以上の所定の香料の一部又はすべてを保持している、香料キット。
〈態様15〉
態様13記載の芳香選択プログラムと組み合わせて用いるためのものである旨の表示を有し、かつ/又は
態様13記載の芳香選択プログラムと組み合わせて用いるためのものである旨の表示を有するパッケージに収容されている、
態様14に記載の香料キット。
【発明の効果】
【0011】
持続性集中力向上用及び/又は持続性ストレス緩和用の、本発明の芳香装置、芳香装置制御プログラム、芳香方法、芳香選択プログラム、及び香料キットによれば、自然環境での香りの変化に対応するように複数の香料を切り替えて拡散させることによって、集中した状態を長時間にわたって持続させること、及び/又はストレスが緩和した状態を長時間にわたって維持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の芳香装置の1つの態様を示す断面図である。
【
図2】
図2は、香料キットの1つの態様を示す断面図である。
【
図3】
図3は、試験1(参考例)、試験2(比較例)、試験3(実施例)のアンケート結果(「集中している」)の平均値を示すグラフである。
【
図4】
図4は、試験1(参考例)、試験2(比較例)、試験3(実施例)のアンケート結果(「ストレスがある」)の平均値を示すグラフである。
【
図5】
図5は、試験1(参考例)、試験2(比較例)、試験3(実施例)のアンケート結果(「落ち着く」)の平均値を示すグラフである。
【
図6】
図6は、試験1(参考例)、試験2(比較例)、試験3(実施例)のアンケート結果(「充実している」)の平均値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〈芳香装置〉
本発明の芳香装置は、それぞれ異なる香料を保持する複数の香料保持容器、及び複数の香料保持容器から複数の香料を切り替えて拡散させる香料拡散機構を有する。ここで、この香料拡散機構は、自然環境における環境因子の経時変化によって生じる自然芳香源の芳香状態の変化を模擬するようにして、すなわち自然環境での香りの変化に対応するようにして、複数の香料の拡散強度を調節して拡散させる。本発明の芳香装置は、具体的には、ここで参照して本明細書の記載に含める特許文献2及び3に示すような構成を有することができる。また、本発明の芳香装置の香料拡散機構は、複数の香料を少なくとも部分的に重複させて拡散させることができる。
【0014】
本発明の発明者らは、自然環境での香りの変化に対応するように、香料の拡散強度を調節して拡散させることによって、集中した状態を長時間にわたって持続できることを見いだした。一般に集中力の向上は疲労を伴うので、香料の使用によって、集中した状態を長時間にわたって持続できることは予想外であった。
【0015】
また、本発明の発明者らは、上記のようにして香料の拡散強度を調節して拡散させることによって、ストレスが緩和した状態を長時間にわたって持続できることを見いだした。一般に環境の変化はストレスの原因ともなるので、香料の切り替えという環境の変化によって、ストレスが緩和した状態を長時間にわたって持続できることは予想外であった。
【0016】
なお、本発明に関して、「持続性集中力向上用」及び「持続性ストレス緩和用」はそれぞれ、集中力の向上効果及びストレスの緩和効果を15分以上、30分以上、1時間以上、2時間以上、3時間以上、4時間以上、又は5時間以上にわたって持続させるためのものであることを意味している。また、この効果の持続時間は、8時間以下、7時間以下、6時間以下、2時間以下、又は1時間以下であってよい。
【0017】
理論に限定されるものではないが、上記のようにして香料の拡散強度を調節して拡散させることによる上記のような本発明の効果は、香り環境の変化が、使用者に自然環境と同様な香り刺激を与えることによると考えられる。すなわち、自然環境においては気温や時刻等によって環境中の香りが複雑に変化しているので、本発明によれば、使用者が自然環境にいるのと同様な香り刺激を受けることができ、それによって使用者が自然環境にいるのと同様に、集中力向上及び/又はストレス緩和という効果を持続的に得られると考えられる。
【0018】
本発明によれば、使用者は、自然環境にいるのと同様な香り刺激を受けつつ、実際には、温度、湿度等に関して、人間にとって快適な環境を維持することができ、例えば真冬に暖房を使って快適な環境にいながら、初夏の屋久島と同様な香り刺激を受けることができる。また、当然に本発明によれば、実際の時刻と同時刻の自然環境にいるのと同様な香り刺激を受けることもできる。
【0019】
本発明に関して、香料としては任意の香料、特に精油を用いることができる。香料は一般に複数の成分の混合物である。その中でも、精油、特に天然精油は、複雑な多種多様な成分からなり、様々な効果を有することが知られている。香料は、鎮静効果香料(気分をリラックスさせる効果を有する香料)、及び高揚効果香料(気分をリフレッシュさせる効果を有する香料)に分類されることもあるが、その効果は使用する個人の嗜好にも依存することがあり、鎮静効果香料として知られている香料が、同時に、高揚効果香料としても知られていることがある。
【0020】
本発明に関して用いる精油は、植物又は菌類等の自然材料に由来する精油であってよい。植物由来の精油としては、例えば、バラ、キンギョソウ、シクラメン、梅、ジャスミン、ユリ、ペチュニア、ツレサギソウ、サクララン、ヨルガオ、イランイラン、夜来香、アフリカンガーデニア、マツリカ、ハワイアンハイビスカス、ニオイバンマツリ、夜香花、フウラン、チュベローズ、月下美人、インドヤコウボク、ニコチアナ・シルベストリス、クチナシ、カラタネオガタマ、チューリップ、クロッカス、クロスグリ、バジル、ローズゼラニウム等の精油を挙げることができる。また、菌類由来の精油としては、フィトンチッド、ゲオスミン等の精油を挙げることができる。
【0021】
本発明において用いる香料は、自然環境において芳香特性が変動し得る物質であることが好ましい。また、本発明にいて用いる香料は、自然環境を再現するためのものであってよい。このような特定環境を再現するための芳香装置については特許文献3の記載を参照することができる。
【0022】
具体的には、本発明の芳香装置において香料の拡散強度を調節して拡散させるためには、特許文献3に記載のように、自然環境における環境因子の経時変化による自然芳香源の芳香状態の変化を模擬するようにすることができる。
【0023】
ここで、本発明で香り環境を模擬する自然環境は、実際の自然環境であっても、仮想の自然環境であってもよい。したがって、例えば模擬する自然環境が実際の自然環境である場合、特定の場所の実際の自然環境を計測して時刻、照度、気温、音、風量等の環境因子の変化を決定し、それに応じた自然芳香源の芳香状態の変化を模擬することができる。また、例えば模擬する自然環境が仮想の自然環境である場合、特定の場所の自然環境を想定して時刻、照度、気温、音、風量等の環境因子の変化を決定し、それに応じた自然芳香源の芳香状態の変化を模擬することができる。
【0024】
また、環境因子は、時刻、照度、気温、音、風量、二酸化炭素濃度、雨量、月齢、地磁気、及び過去の天候からなる群より選択される過去、現在、又は将来の少なくとも1つの環境状態を含むことができる。また、香りの強度の変動の周期は、日内周期、週内周期、月内周期等であってよい。また、芳香状態の変動は、緩慢であっても、又は急激であってもよい。
【0025】
環境因子による自然環境での植物等の芳香状態の変動は例えば、下記のようなものである。
【0026】
(時刻)
バラ、キンギョソウ、シクラメン、梅、フィトンチッドの香りの強度は、時刻の環境因子によって変動し、午前に増大する。例えば、早朝から午前10時にバラの香りの強度は増大し、昼頃にキンギョソウの香りの強度は増大する。シクラメンの香りの強度は午前10時~午後2時に増大する。特定の植物及び菌類は、午前11時にフィトンチッドの拡散量を増大させる。これらの自然材料の香りの強度の変化の度合いは「緩慢」である。
【0027】
ジャスミン、ユリ、ペチュニア、サクララン、ツレサギソウ、チュベローズ、月下美人、カラタネオガタマ、クチナシの香りの強度は、時刻の環境因子によって変動し、夜に増大する。例えば、ユリの香りは午後10時~午前0時に増大し、ペチュニアの香りは午前0時に増大する。サクラランの香りは午前3時に増大し、夜来香の香りの強度は午前2時40分頃に最大となる。チュベローズの香りの強度は午後9時~午前3時に増大し、月下美人の香りの強度は午後8時に最大となる。カラタネオガタマの香りの強度は午後2時以降に増大する。また、クチナシの香りの強度は夜半の多湿な環境において増大する。これらの自然材料の香りの強度の変化の度合いは「緩慢」である。
【0028】
(照度)
ネムノキ、カタバミは、照度の環境因子に連動して就眠運動を行う。夕方になり暗くなると、ネムノキ、カタバミは葉を閉じる。香りの強度の変化の度合いは「緩慢」である。
【0029】
(気温)
チューリップ、クロスグリ、ペチュニア、シクラメン、フィトンチッドの香りの強度は、気温によって変動する。例えば、チューリップの香りの強度は気温17~25℃において最大となり、クロスグリの香りの強度は気温10~20℃において最大となる。ペチュニアの香りの強度は気温15~30℃において最大となる。シクラメンの香りの強度は気温15~30℃において最大となり、気温35℃においてシクラメンの香りの強度は小さくなる。また、一部の植物、菌類はフィトンチッドを拡散し、気温の上昇に応じてフィトンチッドの香りの強度が増大する。例えば、フィトンチッドの香りの強度は5月から8月頃の温暖な気温において増大する。香りの強度の変化の度合いは「緩慢」である。
【0030】
(音)
マイハギは、音に反応して葉の旋回運動を行う。反応の度合いは「急激」である。
【0031】
(風量)
シロイヌナズナ、ゼラニウムの香りは、その植物が傷つけられた際に放散されるフィトンチッド等の化学物質の香りであり得る。例えば、複数のシロイヌナズナ等の葉が、風によって擦れ合ったとき、フィトンチッド等の化学物質が放散され得る。香りの強度の変化の度合いは「急激」である。
【0032】
(二酸化炭素濃度)
バジル、ローズゼラニウムの香りの強度は、二酸化炭素濃度に応じて変動し、二酸化炭素濃度が大きいほど強くなる。香りの強度の変化の度合いは「急激」である。
【0033】
(雨量)
ゲオスミンは有機化学物であるが、自然環境において降雨後の土壌の香りとして知られている。香りの強度の変化の度合いは「急激」である。
【0034】
本発明の芳香装置においては、香料をそのままの状態で香料保持容器に保持するだけでなく、香料を溶解可能な溶媒に本発明の香料を溶解させて、又は香料を溶解しない液体媒体、例えば水又はお湯に香料を分散させて又は浮かべて、香料保持容器に保持することができる。
【0035】
本発明の芳香装置は、香料を、自然に気化させるもの、又は加熱、超音波、送風、噴霧、若しくはそれらの組み合わせによって気化させるものであってよい。また、本発明の芳香装置においては、香料を液体の状態でそのまま保持しても、又は香料を不織布等の布帛、木等の多孔質材料のスティック、珪藻土等の多孔質無機材料のプレートに香料等を含浸させて保持してもよい。
【0036】
具体的には例えば、本発明の芳香装置は、
図1に示すようなものであってよい。すなわち、1つの態様では、本発明の芳香装置100は、樹脂製の円筒状筐体10内にそれぞれ異なる香料を保持する複数の香料保持容器12a~12d、及びこれら複数の香料保持容器から複数の香料を切り替えて拡散させる香料拡散機構13a~13d、14、16、18を有する。ここで、この香料拡散機構は、具体的には、ヒータ又は超音波発信器13a~13d、送風ファン14、電源16、及び制御部18を有する。制御部18が、香料保持容器12a~12dのそれぞれからの放出量を調節するヒータ又は超音波発信器13a~13dを制御して、各香料の放出(黒矢印で示す)の量を調節し、かつ送風ファンからの送風(白矢印で示す)の量を制御して、全体としての香料の放出量を調節する。また、電源16は、これらヒータ又は超音波発信器13a~13d、送風ファン14、及び制御部18に必要な電力を供給する。
【0037】
本発明の芳香装置の持続性の集中力向上及び/又はストレス緩和という作用を効果的に用いるためには、本発明の芳香装置は、学習空間及び/又は仕事空間において用いることができる。特に、近年増加している在宅勤務空間等の、個人の嗜好によって自由に空間の香りを選択できる仕事空間においては、個人の嗜好に合った複数の香料を芳香装置によって拡散させることによって、香りそのものによって快適な環境を作るのと合わせて、持続性集中力向上及び/又は持続性ストレス緩和という効果によって、学習及び/又は仕事を効率的に行うことができる。また、本発明の芳香装置は、学習塾等の習い事空間において用いることもできる。
【0038】
なお、本発明の芳香装置は、持続的な集中力の向上効果及び/又はストレスの緩和効果が得られる旨の表示を有することができる。また、本発明の芳香装置は、持続的な集中力の向上効果及び/又はストレスの緩和効果が得られる旨の記載を有するパッケージに収容することができる。これによれば、本発明の芳香装置によって持続的な集中力の向上効果及び/又はストレスの緩和効果が得られることを消費者に対して訴求できる。
【0039】
〈芳香装置制御プログラム〉
本発明の芳香装置制御プログラムは、本発明の芳香装置を制御して、香料拡散機構にそれぞれ異なる複数の香料を切り替えて拡散させものであって、持続性集中力向上用及び/又は持続性ストレス緩和用の芳香プログラムである。
【0040】
具体的には、本発明の芳香装置制御プログラムは、本発明の芳香装置を制御する芳香プログラムであって、自然環境における環境因子の経時変化によって生じる自然芳香源の芳香状態の変化を模擬するようにして、香料拡散機構に、複数の香料の拡散強度を調節して拡散させる、持続性集中力向上用及び/又は持続性ストレス緩和用の芳香装置制御プログラムである。
【0041】
本発明の芳香装置制御プログラムの詳細については、本発明の芳香装置に関する記載を参照することができる。
【0042】
〈芳香方法〉
また、本発明の芳香方法は、異なる複数の香料を切り替えて拡散させる、持続性集中力向上用及び/又は持続性ストレス緩和用の芳香方法である。
【0043】
具体的には、本発明の芳香方法は、自然環境における環境因子の経時変化によって生じる自然芳香源の芳香状態の変化を模擬するようにして、複数の香料の拡散強度を調節して拡散させる、持続性集中力向上用及び/又は持続性ストレス緩和用の芳香方法である。
【0044】
本発明の芳香方法の詳細については、本発明の芳香装置に関する記載を参照することができる。
【0045】
〈芳香選択プログラム〉
本発明の芳香選択プログラムは、プロセッサに下記のことを行わせる、持続性集中力向上用及び/又は持続性ストレス緩和用の芳香選択プログラムである:
自然環境における環境因子の経時変化によって生じる自然芳香源の芳香状態を決定させること、
決定された自然芳香源の芳香状態を模擬するようにして、2以上の所定の香料のうちから、1又は複数の香料を選択させること、及び
表示部に、選択された1又は複数の香料を表示させること。
【0046】
本発明の芳香選択プログラムによれば、ユーザーが所定間隔でこのプログラムを用い、表示部に表示された1又は複数の香料を用いることによって、持続性集中力向上用及び/又は持続性ストレス緩和という本発明の効果を得ることができる。
【0047】
ここで、選択される香料の候補となる所定の香料は、プログラムの使用者が実際に所有する香料とすることができ、この所定の香料の数は、2以上、3以上、5以上であってよく、また20以下、15以下、10以下であってよい。
【0048】
本発明の芳香選択プログラムは、スマートフォン、携帯電話、デスクトップパーソナルコンピュータ、ポータブルパーソナルコンピュータ等(以下では単に「スマートフォン等」として言及する)で実施することができ、したがって、このプログラムにおけるプロセッサは、スマートフォン等に内蔵されている1又は複数のCPU(Central Processing Unit)及びその周辺回路であってよい。また、このプログラムにおける表示部は、上記のスマートフォン等のディスプレイであってよい。
【0049】
本発明の芳香選択プログラムの詳細については、本発明の芳香装置に関する記載を参照することができる。
【0050】
〈香料キット〉
本発明の香料キットは、本発明の芳香選択プログラムと組み合わせて用いるための香料キットであって、前記2以上の所定の香料の一部又はすべてを保持している、香料キットである。
【0051】
本発明の香料キットは、本発明の芳香選択プログラムと組み合わせて用いること、具体的には本発明の芳香選択プログラムをインストールされているスマートフォン等と組み合わせて用いることによって、表示部に表示された選択された1又は複数の香料を実際に調合して芳香による効果を得ることができる。
【0052】
具体的には、本発明の香料キットは、それぞれ別個の容器に収容された液状又は固形状の2以上の所定の香料を有すること、同一の容器に収容された固形状の2以上の所定の香料を有することができる。ここで、固形状の香料は、いわゆる練り香水であってよい。また、本発明の香料キットは、ポータブルタイプであることによって、使用者が移動する場合であっても、移動先において、持続性集中力向上用及び/又は持続性ストレス緩和という本発明の効果を得ることができる。
【0053】
具体的には例えば、本発明の香料キットは、
図2に示すようなものであってよい。すなわち、1つの態様では、本発明の香料キット200は、収容部20a及び蓋部20bを有する容器に、2以上の香料としての練り香水22a~22gが収容されたキットであってよい。
【0054】
なお、本発明の香料キットは、本発明の芳香選択プログラムと組み合わせて用いるためのものである旨の表示を有することができる。また、本発明の香料キットは、本発明の芳香選択プログラムと組み合わせて用いるためのものである旨の表示を有するパッケージに収容することができる。これによれば、本発明の香料キットが、芳香選択プログラムと組み合わせて用いるためのものであること、特に本発明の芳香選択プログラムと組み合わせて用いることによって持続的な集中力の向上効果及び/又はストレスの緩和効果が得られることを、消費者に対して訴求できる。
【実施例0055】
下記の実験プロトコルを用いて、各香料による持続的集中力向上効果及び持続性ストレス緩和について評価した。
【0056】
試験1(参考例): 香りなし(無臭であるジプロピレングリコール(DPG)を拡散させた。)
試験2(比較例): ゆらぎのない香り(ローズ精油、ジャスミン精油、パインニードル精油、ベチバー精油、及びヒノキ精油のブレンド精油を拡散させた。)
試験3(実施例): ゆらぎのある香り(ローズ精油、ジャスミン精油、パインニードル精油、ベチバー精油、及びヒノキ精油の拡散量を変動させて変動させた。)
【0057】
なお、試験3(実施例)における拡散量の変動は、特定の日の時刻、気温、雨量、及び風速に基づいて、下記の表1で示す規則に従って決定したものである。
【0058】
【0059】
なお、表1において、「時刻(時)」は、各時間帯を示しており、例えば「20」は20時0分から21時0分までの時間を意味しており、また「1~15」は1時0分から16時0分までの時間を示している。同様に、「気温(℃)」における「20」は20.0℃~21.0℃までの温度を示しており、「雨量(mm))」における「1」は1.0mm~2.0mmを示しており、かつ「風速(m/s))」における「1」は1.0m/s~2.0m/sを示している。
【0060】
試験2(比較例)及び試験3(実施例)での各精油の拡散の総量は同じになるようにした。
【0061】
被験者: 20~50代男女(6名)
実験日: 初日は、試験1(参考例)の芳香パターンで午前9時~12時及び午後13時~16時に測定を行い、同様にして2日目に試験2(比較例)、そして3日目に試験3(実施例)を行った。
課題: 在宅ワーク
測定指標: アンケート
【0062】
なお、アンケートは下記の表2に示す基準で行った。
【0063】
【0064】
【0065】
図3~7で明らかに示されているように、試験1(参考例:香りなし)及び試験2(比較例:ゆらぎのない香り)と比較して、試験3(実施例:ゆらぎのある香り)では明らかに、午後になっても集中力が維持されており、ストレス度の緩和が維持されており、落ち着いた気持ちを維持できており、また充実した気持ちを維持できていた。また特に、集中力の維持、ストレス度の緩和の維持、及び落ち着いた気持ちの維持については、試験2(比較例:ゆらぎのない香り)に対する試験3(実施例:ゆらぎのある香り)の改善効果が顕著であった。