(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159131
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】溶接性の改善された鉄-マンガン合金
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20231024BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20231024BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20231024BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20231024BHJP
C21D 8/06 20060101ALI20231024BHJP
B23K 35/30 20060101ALI20231024BHJP
C22C 38/60 20060101ALN20231024BHJP
【FI】
C22C38/00 302A
C22C38/58
C21D9/46 P
C21D8/02 D
C21D8/06 B
B23K35/30 320C
C22C38/60
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023125502
(22)【出願日】2023-08-01
(62)【分割の表示】P 2021542501の分割
【原出願日】2019-01-22
(71)【出願人】
【識別番号】512072614
【氏名又は名称】アペラム
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ピエール-ルイ・レイデ
(72)【発明者】
【氏名】マリエル・エスコ
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・ロレン
(57)【要約】
【課題】温度変化の影響下、特に極低温の温度における高い寸法安定性が必要とされる用途のための部品及び溶接されたアセンブリーを製造するために使用されることを意図される鉄-マンガン合金に関する
【解決手段】本発明は、重量パーセントで:25.0%≦Mn≦32.0%、7.0%≦Cr≦14.0%、0≦Ni≦2.5%、0.05%≦N≦0.30%、0.1≦Si≦0.5%、任意選択で0.010%≦希土類≦0.14%を含み、残余が鉄及び製造により生じる残存元素である、鉄-マンガン合金に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量で:
25.0%≦Mn≦32.0%
7.0%≦Cr≦14.0%
0≦Ni≦2.5%
0.05%≦N≦0.30%
0.1≦Si≦0.5%
任意選択で0.010%≦希土類≦0.14%
を含み、
残余が鉄及び製造により生じる残存元素である、鉄-マンガン合金。
【請求項2】
クロム含有率が8.5~11.5重量%の間である、請求項1に記載の合金。
【請求項3】
ニッケル含有率が0.5~2.5重量%の間である、請求項1又は2に記載の合金。
【請求項4】
窒素含有率が0.15~0.25重量%の間である、請求項1から3のいずれか一項に記載の合金。
【請求項5】
希土類が、ランタン(La)、セリウム(Ce)、イットリウム(Y)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)及びイッテルビウム(Yb)のなかから選択される、1種又は複数の元素を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の合金。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の鉄-マンガン合金から作製されたストリップを製造するための方法であって、以下の連続する工程:
請求項1から5のいずれか一項に記載の合金を調製する工程;
前記合金の半製品を形成する工程;
この半製品を熱間圧延して、熱間圧延されたストリップを得る工程;
任意選択で、熱間圧延されたストリップを1つ又は複数のパスで冷間圧延して、冷間圧延されたストリップを得る工程
を含む、方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか一項に記載の鉄-マンガン合金から作製されたストリップ。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか一項に記載の鉄-マンガン合金から作製されたワイヤを製造するための方法であって、以下の工程:
請求項1から5のいずれか一項に記載の鉄-マンガン合金から作製された半製品を用意する工程;
この半製品を熱間加工して中間ワイヤを形成する工程;及び
ワイヤを延伸する工程を含む、中間ワイヤを直径が前記中間ワイヤよりも小さいワイヤに加工する工程
を含む、方法。
【請求項9】
請求項1から5のいずれか一項に記載の鉄-マンガン合金から作製されたワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度変化の影響下、特に極低温の温度における高い寸法安定性が必要とされる用途のための部品及び溶接されたアセンブリーを製造するために使用されることを意図される鉄-マンガン合金に関する。
【0002】
本発明の合金は、エレクトロニクスの分野及び極低温の用途で使用されることがさらに特に意図される。
【背景技術】
【0003】
そのような用途のために最も頻繁に使用される合金は、一般的に約36%のニッケルを含むニッケル-鉄合金、さらに特にInvar(登録商標)合金である。そのような合金は、優れた寸法安定特性を、特に極低温の温度で有するが、特に比較的高いそれらのニッケル含有率の結果として原価が比較的高いという不利な点を有する。それに加えて、これらの合金の他の金属との溶接性は、特に不均一な溶接部の機械的強度に関して常に完全な満足を与えるものではない。
【0004】
それ故、本発明においては、上記の用途に適した、それ故、特に極低温の温度において良好な特性を有し、一方、コストがInvar(登録商標)ほどかからない合金を提供することが探求される。
【0005】
炭素及びマンガンも含む鉄基合金は、韓国のPosco社により市販されていることが知られている。これらの鋼は、重量で:
0.35%≦C≦0.55%
22.0%≦Mn≦26.0%
3.0%≦Cr≦4.0%
0≦Si≦0.3%
を含み、
残余は鉄及び製造により生じる残存元素である。
【0006】
しかしながら、これらの合金は完全な満足を与えることはない。
【0007】
それらは、室温及び極低温の温度(-196℃)における熱膨張係数及び靱性に関しては満足なものであるが、本発明の発明者らは、それらが高温割れに対して高い感応性を示し、それ故、溶接性が比較的劣ることに注目した。
【0008】
本発明の本発明者らは、それに加えてこれらの鋼が腐蝕に対して高い感応性を有することも観察した。上記の用途、特に薄いストリップにとって、これらの合金で製造された部品及び構造物の疲労破壊又は応力破断のリスクを限定するために、さらに良好な耐蝕性が重要である。それ故、これらの合金は、上記の用途のために完全に満足なものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
それ故、温度変化の影響下で、例えば極低温の用途のために、比較的低い原価を有しながら、高い寸法安定性が必要とされる用途のための部品及び溶接されたアセンブリーを製造するために、満足な様式で使用され得る合金を提案することが、本発明の1つの目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的のために、本発明は、重量で:
25.0%≦Mn≦32.0%
7.0%≦Cr≦14.0%
0≦Ni≦2.5%
0.05%≦N≦0.30%
0.1≦Si≦0.5%
任意選択で0.010%≦希土類≦0.14%
を含み、
残余が鉄及び製造により生じる残存元素である、鉄-マンガン合金に関する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
幾つかの特定の実施形態において、本発明の合金は、単独で又は任意の技術的に可能な組合せで獲得される以下の特徴の1つ又は複数を含む:
- クロム含有率が8.5~11.5重量%の間である。
- ニッケル含有率が0.5~2.5重量%の間である。
- 窒素含有率が0.15~0.25重量%の間である。
- 希土類が、ランタン、セリウム、イットリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム及びイッテルビウムのなかから選択される1種又は複数の元素を含む。
- 上に記載されたような鉄-マンガン合金が、-180℃~0℃の間で、8.5×10-6/℃以下の平均熱膨張係数CTEを有する。
- 上に記載されたような鉄-マンガン合金が、40℃以上のネール温度Tネールを有する。
- 上に記載されたような鉄-マンガン合金が、3mm以下の厚さの薄いストリップとして調製された場合、以下の特徴のなかから少なくとも1つを有する:
- 3mmの厚さの圧下された試験検体で及び極低温の温度(-196℃)において、80J/cm2以上、例えば100J/cm2以上のKCV靱性;
- -196℃において700MPa以上の降伏強度Rp0.2;
- 室温(20℃)において300MPa以上の降伏強度Rp0.2。
- 上に記載されたような鉄-マンガン合金が、極低温の温度及び室温においてオーステナイト性である。
【0012】
本発明は、以前に定義されたような合金から作製されたストリップを製造するための方法であって、以下の連続する工程:
- 以前に定義されたような合金を調製する工程;
- 前記合金の半製品を形成する工程;
- この半製品を熱間圧延して、熱間圧延されたストリップを得る工程;
- 任意選択で、熱間圧延されたストリップを1つ又は複数のパスで冷間圧延して、冷間圧延されたストリップを得る工程
を含む、方法にも関する。
【0013】
本発明は、以前に定義されたような鉄-マンガン合金から作製されたストリップにも関する。
【0014】
本発明は、以前に定義されたような鉄-マンガン合金から作製されたワイヤを製造するための方法であって、以下の工程:
- 鉄-マンガン合金から作製された半製品を用意する工程;
- この半製品を熱間加工して中間ワイヤを形成する工程;及び
- ワイヤを延伸する工程を含む、中間ワイヤを直径が中間ワイヤよりも小さいワイヤに加工する工程
を含む、方法にも関する。
【0015】
本発明は、以前に定義されたような鉄-マンガン合金から作製されたワイヤにも関する。
【0016】
このワイヤは、特に溶加ワイヤ又はボルト若しくはネジの製造を意図したワイヤであり、これらのボルト及びネジは、特にこのワイヤを冷間圧造することにより得られる。
【0017】
本発明は、単に例としてのみ与えられた以下の記載を読めばより詳しく理解されるであろう。
【0018】
記載全体において、含有率は重量パーセントで与えられる。
【0019】
本発明の合金は、重量で:
25.0%≦Mn≦32.0%
7.0%≦Cr≦14.0%
0≦Ni≦2.5%
0.05%≦N≦0.30%
0.1≦Si≦0.5%
任意選択で0.010%≦希土類≦0.14%
を含み、
残余が鉄及び製造により生じる残存元素である、鉄-マンガン合金である。
【0020】
前記合金は、高マンガンオーステナイト性の鋼である。
【0021】
本発明の合金は、室温及び極低温の温度(-196℃)においてオーステナイト性である。
【0022】
製造により生じる残存元素とは、合金を調製するために使用された原材料中に含有されるか、又はその調製のために使用された装置、例えば炉耐火物に由来する元素を意味する。これらの残存元素は、合金に対して如何なる冶金学的効果も有さない。
【0023】
残存元素はとりわけ、炭素(C)、アルミニウム(Al)、セレン(Se)、イオウ(S)、リン(P)、酸素(O)、コバルト(Co)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、スズ(Sn)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、チタン(Ti)及び鉛(Pb)のなかから選択される1種又は複数の元素を含む。
【0024】
上で挙げた残存元素の各々について、重量による最大含有率は、好ましくは以下のように選択される:
C≦0.05重量%、及び好ましくはC≦0.035重量%;
Al≦0.02重量%、及び好ましくはAl≦0.005重量%;
Se≦0.02重量%、及び好ましくはSe≦0.01重量%、より有利にはSe≦0.005重量%;
S≦0.005重量%、及び好ましくはS≦0.001重量%;
P≦0.04重量%、及び好ましくはP≦0.02重量%;
O≦0.005重量%、及び好ましくはO≦0.002重量%;
Co、Cu、Mo各々≦0.2重量%;
Sn、Nb、V、Ti各々≦0.02重量%;
Pb≦0.001重量%。
【0025】
特に、セレン含有率は、合金中において高すぎるセレン含有率の結果生じ得る高温割れ問題を防止する目的で上記の範囲に限定される。
【0026】
特に、本発明の合金は:
- -180℃~0℃の間で、8.5×10-6/℃以下の平均熱膨張係数CTE;及び
- 40℃以上のネール温度Tネール、
を有し、それが3mm以下の厚さの薄いストリップとして調製される場合;
- 3mmの厚さの圧下された試験検体1で及び極低温の温度(-196℃)で、80J/cm2以上、例えば100J/cm2以上のKCV靱性;
- 196℃で700MPa以上の降伏強度Rp0.2;及び
- 室温(20℃)で300MPa以上の降伏強度Rp0.2
を有する。
【0027】
その結果として、この合金は、上記の用途で、特に極低温の温度でのその使用に満足な熱膨張、靱性及び機械的強度の特性を有する。
【0028】
それに加えて、本発明の合金は、H2SO4媒体(2mol.l-1)中、厳密に230mA/cm2未満の臨界腐蝕電流、及びNaCl媒体(0.02mol.l-1)中、標準電位、標準水素電極(SHE)を参照して決定された厳密に40mVを超える孔食電位Vにより特徴づけられる耐蝕性を有する。それ故、本発明の合金は、Invar(登録商標)-M93の耐蝕性以上の耐蝕性を有する。この関係で、Invar(登録商標)-M93は、上記の用途で、特に極低温の温度において通常使用される材料であることに留意されたい。
【0029】
本発明の合金は、H2SO4媒体(2mol.l-1)中、約350mA/cm2を超える臨界腐蝕電流及び標準水素電極(SHE)を参照して-200mV以下の孔食電位Vを有する先行技術のFe-Mn合金で観察される耐蝕性をはるかに超える耐蝕性も有する。
【0030】
本発明の合金は、満足な溶接性及び特に高温割れに対する良好な抵抗をさらに有する。下で説明されるように、それは、3%の塑性歪みの下のバレストレイン試験で7mm以下の亀裂長を示す。結果として、本発明の合金は、先行技術のFe-Mn合金で観察されるよりもはるかに大きい亀裂に対する抵抗を有する。
【0031】
さらに特に、本発明の合金において、32.0重量%以下のマンガンの含有率により、8.5×10-6/℃未満の平均熱膨張係数が-180℃~0℃の間で得られることが可能になる。この熱膨張係数は、想定される用途における、特に極低温の用途のための合金の使用のために満足なものである。
【0032】
それに加えて、14.0重量%以下のクロム含有率に伴う25.0重量%以上のマンガン含有率は、合金の良好な寸法安定性が室温及び極低温の温度(-196℃)で得られることを可能にする。特に、その場合、合金のネール温度は厳密に40℃を超えており、合金の通常の使用温度でこの点に達するリスクはない。ネール温度を超える高い温度における合金の使用は、室温において溶接された部品及びアセンブリーの膨張における目立った変化を生じさせるリスクを冒す。上で記載された高マンガン鋼の膨張係数は、ネール温度以下の温度において8×10-6/℃の領域にあるが、それは、ネール温度を超える温度では16×10-6/℃の領域にある。
【0033】
クロムは、14.0重量%以下の含有率により、3mmの厚さの圧下された試験検体で及び極低温の温度(-196℃)において、良好なKCV靱性が得られることを可能にし、-196℃におけるKCV靱性は、特に50J/cm2以上である。それに反して、本発明者らは、厳密に14.0重量%を超えるクロム含有率は、極低温の温度で脆弱すぎる合金を生じさせるリスクがあることを確認した。
【0034】
それに加えて、クロムは、7.0重量%以上の含有率で、良好な溶接性が得られることを可能にする。本発明者らは、溶接性が、厳密に7.0重量%未満のクロム含有率で低下する傾向があることを見出した。クロムは、腐蝕に対する合金の抵抗の改善にも貢献する。
【0035】
好ましくは、クロム含有率は、8.5~11.5重量%の間である。この範囲内のクロム含有率は、高いネール温度と高い耐蝕性の間の折り合いがさらに良くなることを導く。
【0036】
ニッケルは、2.5重量%以下の含有率で、8.5×10-6/℃以下の平均熱膨張係数が、-180℃~0℃の間で得られることを可能にする。この熱膨張係数は、想定される用途における合金の使用のために満足なものである。それに反して、本発明者らは、厳密に2.5重量%を超えるニッケル含有率で熱膨張係数の低下のリスクがあることを見出した。
【0037】
好ましくは、ニッケル含有率は、0.5~2.5重量%の間である。0.5重量%以上のニッケル含有率は、極低温の温度(-196℃)における合金の靱性をさらに改善する。
【0038】
窒素は、0.05重量%以上の含有率で、耐蝕性の改善に貢献する。しかしながら、その含有率は、極低温の温度(-196℃)における満足な溶接性及び靱性を維持するために、0.30重量%に限定される。
【0039】
好ましくは、窒素含有率は、0.15~0.25重量%の間である。この範囲内の窒素含有率は、機械的特性と耐蝕性との間で得られる折り合いをさらに良くすることを可能にする。
【0040】
合金中に0.1~0.5重量%の間の含有率で存在するケイ素は、合金中で脱酸素剤として作用する。
【0041】
任意選択で、合金は、希土類を0.010~0.14重量%の間の含有率で含有する。希土類は、好ましくは、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)及びイッテルビウム(Yb)又はこれらの元素の1種又は複数の混合物のなかから選択される。特定の1例において、希土類は、セリウムとランタンとの混合物、又は単独で、又はセリウム若しくはランタンとの混合物で使用されるイットリウムを含む。
【0042】
特に希土類は、ランタン及び/又はイットリウムからなり、ランタン及びイットリウムの含有率の合計は0.010~0.14重量%の間である。
【0043】
変形体として、希土類は、セリウムからなり、セリウム含有率は0.010~0.14重量%の間である。
【0044】
変形体として、希土類は、ランタン、イットリウム、ネオジム及びプラセオジムの混合物からなり、ランタン、イットリウム、ネオジム及びプラセオジムの含有率の合計は、0.010~0.14重量%の間である。この場合、希土類は、例えば、ミッシュメタルの形態で、0.010~0.14重量%の間の含有率で添加される。ミッシュメタルは、ランタン、イットリウム、ネオジム及びプラセオジムを、以下の比率: Ce: 50%、La: 25%、Nd: 20%及びPr: 5%で含有する。
【0045】
希土類、さらに特に、セリウム及びランタン又はイットリウムの混合物の上記の含有率における存在は、高温割れに対する非常に良好な抵抗及びそれ故さらに改善された溶接性を有する合金が得られることを可能にする。
【0046】
例えば、希土類の含有率は150ppm~800ppmの間である。
【0047】
本発明の合金は、当業者に公知の任意の適当な方法を使用して調製することができる。
【0048】
例えば、それは、電気アーク炉で調製され、続いて特に減圧を適用する工程を含むことができる通常の方法(脱炭、脱酸、及び脱硫)を用いてとりべ精錬される。変形体として、本発明の合金は、真空炉で残留物が少ない原材料から調製される。
【0049】
次に、熱間又は冷間圧延されたストリップが、調製された合金から製造される。
【0050】
例えば、以下の方法が、前記熱間又は冷間圧延されたストリップを製造するために使用される。
【0051】
合金は、インゴット、再溶融電極、スラブ、特に、特に連続鋳造により得られる200mm未満の厚さを有する薄いスラブ、又はビレットなどの半製品の形態で鋳造される。
【0052】
合金が再溶融電極の形態で鋳造された場合、これらは、真空下で又は電導性スラグで有利に再溶融されて、より高い純度の及びより均一な半製品が得られる。
【0053】
このようにして得られた半製品は、950℃~1220℃の間の温度で熱間圧延されて熱間圧延されたストリップが得られる。
【0054】
熱間圧延されたストリップの厚さは、特に2mm~6.5mmの間である。
【0055】
一実施形態において、熱間圧延は、950℃~1220℃の間の温度で30分~24時間の間の時間における化学的均質化熱処理により先行される。化学的均質化は、特にスラブ、特に薄いスラブで実施される。
【0056】
熱間圧延されたストリップは、室温で冷却されて、冷間圧延されたストリップを形成し、コイルに巻き取られる。
【0057】
任意選択で、冷間圧延されたストリップは、その後冷間圧延されて、有利には0.5mm~2mmの間の最終の厚さを有する冷間圧延されたストリップが得られる。冷間圧延は、単一のパス又は数回の連続するパスで実施される。
【0058】
その最終の厚さで、冷間圧延されたストリップは、任意選択で、静的炉中で10分~数時間の範囲の時間700℃を超える温度で再結晶熱処理を受ける。変形体として、それは、連続焼きなまし炉中で、数秒~約1分の範囲の時間、炉の均熱帯で900℃を超える温度で、及びN2/H2タイプ(30%/70%)の保護雰囲気下-50℃~-15℃の間の霜点で、再結晶熱処理を受ける。霜点は熱処理雰囲気中で含有される水蒸気分圧を規定する。
【0059】
再結晶熱処理は、冷間圧延の場合と同じ条件下で実施して、初期厚さ(熱間圧延されたストリップの厚さに対応する)と最終の厚さとの間の中間厚さにすることができる。中間厚さは、例えば冷間圧延されたストリップの最終の厚さが0.7mmである場合、1.5mmであるように選択される。
【0060】
合金を調製して、この合金で熱間及び冷間圧延されたストリップを製造するための方法を、単なる例として示す。
【0061】
当業者に公知のこの目的のための全ての他の方法は、本発明の合金を調製するために及びこの合金で最終製品を製造するために使用することができる。
【0062】
本発明は、ストリップ、特に上で記載された合金などの合金から作製された熱間圧延された又は冷間圧延されたストリップにも関する。
【0063】
特に、ストリップは、6.5mm以下、及び好ましくは3mm以下の厚さを有する。
【0064】
例えば、前記ストリップは、上記の方法に従って製造された冷間圧延されたストリップ、又は上記の方法の熱間圧延工程の後に得られた熱間圧延されたストリップである。
【0065】
本発明は、上記の合金から作製されたワイヤにも関する。
【0066】
さらに特に、ワイヤは、部品を一緒に溶接するために使用される溶加ワイヤである。
【0067】
変形体として、ワイヤは、ボルト又はネジの製造を意図し、これらのボルト及びネジは、特にこのワイヤを冷間圧造することにより得られる。
【0068】
例えば、前記ワイヤは、以下の工程を含む方法を実施することにより製造される:
- 半製品を上で記載されたような合金で用意する工程;
- この半製品を熱間加工して中間ワイヤを形成する工程;及び
- ワイヤを延伸する工程を含む、中間ワイヤを直径が中間ワイヤよりも小さいワイヤに加工する工程。
【0069】
特に半製品はインゴット又はビレットである。
【0070】
これらの半製品は、好ましくは1050℃~1220℃の間で熱間加工により形成されて中間ワイヤを形成する。
【0071】
特に、この熱間加工工程で、半製品、即ちインゴット又はビレットは、特に熱間加工されて断面を圧下して、それに例えば約100mm~200mmの辺を有する正方形断面を与える。この様式で、断面が圧下された半製品が得られる。断面が圧下されたこの半製品の長さは、特に10メートル~20メートルの間である。有利には、半製品の断面の圧下は、1回又は複数の連続する熱間圧延パスにより得られる。
【0072】
断面が圧下された半製品は、次に、再び熱間加工されてワイヤが得られる。ワイヤは、特にワイヤロッドであり得る。例えば、それは、5mm~21mmの間の直径を有し、特に直径は5.5mmである。有利には、この工程において、ワイヤはワイヤロッドミルで熱間圧延により生成される。
【0073】
試験
本発明者らは、上で規定されたような組成を有する合金、及び上記の組成と異なる組成を有する比較の合金の実験室鋳造を実施した。
【0074】
これらの合金を、真空下で調製し、圧延により熱間加工して、35mmの幅及び4mmの厚さのストリップを得た。
【0075】
この熱間圧延されたストリップを、次に機械加工して、スケールのない表面を得た。
【0076】
試験したストリップの各々の合金組成を、下のTable 1(表1)に示す。
【0077】
本発明者らは、得られたストリップで、欧州規格FD CEN ISO/TR 17641-3に従って3.2%の塑性歪み下でバレストレイン試験を実施して、高温割れ耐性を評価した。本発明者らは、試験中に発生した亀裂の全長を測定し、ストリップを3つのカテゴリーに分類した:
- 試験後の合計亀裂長が2mm以下のストリップは、優秀な高温割れ耐性を示すと考えられた;
- 試験後の合計亀裂長が2mm~7mmの間のストリップは良好な高温割れ耐性を示すと考えられた;一方
- 試験後の合計亀裂長が厳密に7mmを超えるストリップは、不十分な高温割れ耐性を示すと考えられた。
【0078】
これらの試験の結果を、下のTable 1(表1)において≪バレストレイン試験≫という見出しの列に示す。この列では以下のように示す:
- ≪1≫:優れた高温割れ耐性を有するストリップ;
- ≪2≫:良好な高温割れ耐性を有するストリップ;
- ≪3≫:不十分な高温割れ耐性を有するストリップ。
【0079】
高温割れ耐性は、合金の溶接性の重要な態様であり、溶接性が良いほど高温割れに対する抵抗が大きい。
【0080】
本発明者らは、耐蝕性も、電位差測定試験を実施することにより試験した。この目的のために、以下の試験を実施した:
- H2SO4媒体(2mol.l-1)中における臨界腐蝕電流JMn鋼の測定、及びこの電流とInvar(登録商標)-M93におけるストリップについて測定された電流(JInvar M93約230mA/cm2)との比較による全般的腐蝕の評価;
- NaCl媒体(0.02mol.l-1)中における孔食電位Vを測定すること、及びこの電位VとInvar(登録商標)-M93についての電位(VInvar M93/ESHE約40mV、ここで、ESHEは水素電極の標準電位である)との比較による局在化された腐蝕の評価。
【0081】
Invar(登録商標)-M93は重量パーセンテージで以下の組成を有することが再確認される:
35%≦Ni≦36.5%
0.2%≦Mn≦0.4%
0.02≦C≦0.04%
0.15≦Si≦0.25%
任意選択で
0≦Co≦20%
0≦Ti≦0.5%
0.01%≦Cr≦0.5%
残余は鉄及び製造により生じる残存元素である。
【0082】
JMn鋼<JInvar M93及びVMn鋼/ESHE>VInvar M93/ESHEの場合、試験鋼はInvar M93よりも耐蝕性であると考えられる。
【0083】
JMn鋼>JInvar M93又はVMn鋼/ESHE<VInvar M93/ESHEの場合、試験鋼は、Invar(登録商標)-M93未満の耐蝕性であると考えられる。
【0084】
これらの試験の結果を、下のTable 1(表1)において、≪耐蝕性≫という見出しの列にまとめる。この列では:
- ≪>Invar≫という表示は、JMn鋼<JInvar M93及びVMn鋼/ESHE>VInvar M93/ESHEであるストリップに対応する;
- ≪<Invar≫という表示は、JMn鋼>JInvar M93又はVMn鋼/ESHE<VInvar M93/ESHEであるストリップに対応する;及び
- ≪~Invar≫という表示は、JMn鋼≒JInvar M93又はVMn鋼/ESHE≒VInvar M93/ESHEであるストリップに対応する。
【0085】
本発明者らは、-196℃で圧下された試験検体(約3.5mmの厚さ)について靱性試験も実施して、ストリップの衝撃破壊エネルギー(KCVと表示する)を標準NF EN ISO 148-1に従って測定した。破壊エネルギーをJ/cm2で表す。それは、ストリップの靱性を説明する。これらの試験の結果を、下のTable 1(表1)において、≪-196℃におけるKCV≫という見出しの列にまとめる。
【0086】
本発明者らは、膨張計測試験も実施した:
- -180℃~0℃で合金の平均熱膨張係数を決定する;及び
- 20℃~500℃で合金のネール温度Tネールを決定する。ネール温度は、それを超えると反強磁性材料が常磁性になる温度に対応する。
【0087】
さらに特に、平均熱膨張係数は、0℃で長さが50mmの試験検体の-180℃~0℃の間における長さの変化をマイクロメートルで測定することにより決定する。次に、平均熱膨張係数を以下の式を適用することにより得る:
【0088】
【0089】
(式中、L0-L1は、0℃~-180℃の間におけるマイクロメートルによる長さにおける変化を表し、L0は、0℃における試験検体の長さを表し、T0は0℃であり、T1は-180℃である)。
【0090】
ネール温度は、L(T)を測定し(ここで、Lは温度Tにおける検体の長さである)、次に勾配dL/dTを計算することにより決定する。ネール温度は、この曲線の勾配における変化の温度に対応する。
【0091】
これらの試験の結果を、下のTable 1(表1)において、≪CTE[-180℃~0℃]≫及び≪Tネール≫という見出しの列にそれぞれ示す。
【0092】
最終的に、本発明者らは、-196℃における機械的な平面の張力試験を実施して、0.2%の伸びRp0.2における降伏強度を-196℃で測定した。これらの試験の結果は、下のTable 1(表1)において、≪-196℃におけるRp0.2≫という見出しの列にまとめる。
【0093】
【0094】
上のTable 1(表1)において、≪n.d.≫は、考慮下の値が決定されていないことを意味する。
【0095】
下線が引かれている試験は、本発明に適合するものである。
【0096】
この表では:
- 元素C、Al、Se、S、P、Oについて、≪mini≫は:
C<0.05重量%、
Al<0.02重量%、
Se<0.001重量%、
S<0.005重量%、
P<0.04重量%、
O<0.002重量%
を意味する。
- ≪その他≫と表示された元素は、Co、Cu、Mo、Sn、Nb、V、Ti及びPbを含み、及びこの列において≪mini≫は:
- Co、Cu、Mo<0.2重量%,
- Sn、Nb、V、Ti<0.02重量%、及び
- Pb<0.001重量%
を意味する。
【0097】
窒素について、≪mini≫は、N<0.03重量を意味する。これらの含有率で、窒素は、残存元素であると考えられる。
【0098】
希土類、即ちCe、La及びYについて、≪mini≫は、合金が、これらの元素を、痕跡量以下で含み、好ましくは、これらの元素の各々の含有率は1ppm以下であることを意味する。
【0099】
6、8、10、12、15~17、19及び20と番号をつけられた試験は、本発明に適合する。
【0100】
これらの試験で調製されたストリップは、良好な及びさらに優れた高温割れ耐性を示し(バレストレイン試験の列を参照されたい)、それ故、良好な溶接性を有することが確認される。
【0101】
それに加えて、このストリップは、Invar M93の耐蝕性以上の耐蝕性、-180℃~0℃の間で8.5×10-6/℃以下の平均熱膨張係数CTE、40℃以上のネール温度、-196℃における80J/cm2以上のKCV靱性、及び-196℃における700MPa以上の降伏強度Rp0.2を示す。
【0102】
それ故、本発明の合金で作製されたストリップは、温度変化の影響下で、特に極低温の温度で高い寸法安定性が要求される用途において、その使用のための熱膨張、靱性及び機械的強度の満足な特性を示す。
【0103】
1~5と番号をつけられた試験における合金は、厳密に7.0重量%未満のクロム含有率を有する。対応するストリップは劣った高温割れ耐性及びそれ故ほとんど満足できない溶接性を有することがわかる。試験1及び3も、この劣った高温割れ耐性が、比較的高いレベルにおける炭素の添加によってさえ補われないことを示す。
【0104】
試験11における合金は、厳密に14.0重量%を超えるクロム含有率を有する。対応するストリップは、極低温の温度で目立った脆弱性を示し、厳密に50J/cm2未満のKCV靱性を表すことを見ることができる。この合金は、厳密に40℃未満のネール温度を有することも観察される。
【0105】
試験番号13における合金は、厳密に2.5重量%を超えるニッケル含有率を有する。対応するストリップは、-180℃~0℃の間で厳密に8.5×10-6/℃を超える平均熱膨張係数CTEを有することが観察される。
【0106】
試験7と試験8との間の比較は、他は全てが等しい場合、窒素含有率における増大が改善された耐蝕性を可能にすることを示す。試験番号9における合金は、厳密に0.30重量%を超える窒素含有率を有し、-196℃において低下した溶接性及びKCV靱性を示すことが見られる。
【0107】
試験14と試験15の比較によっても示されるように、マンガン含有率における減少は、他の全てが等しい場合、ネール温度の低下を生ずる。
【0108】
希土類を0.010~0.14重量%の間の比率で含む試験14、17、19及び20に対応するストリップは、優れた高温割れ耐性を有し、亀裂長は2mm未満であることも観察される。それに反して、試験18及び21に対応するストリップは、厳密に0.14重量%を超える希土類含有率を有し、そのようなストリップは、低下した溶接性を有することがわかる。
【0109】
本発明の鉄-マンガン合金中の2個の部分間の均一な溶接部、又は本発明の鉄-マンガン合金における部分と異なる合金中の部分の間、特に304Lステンレス鋼とInvar(登録商標)M93の間の不均一な溶接部の機械的強度を、引張り試験により調べた。これらの試験は、鉄-マンガン合金として表1中の実施例16の合金を使用して実施した。
【0110】
さらに特に、均一な溶接部は、Table 1(表1)中の実施例16の鉄-マンガン合金のストリップから採取して2本の試験棒を、端部と端部で一緒に溶接することにより得た。不均一な溶接部も、Table 1(表1)中の実施例16の合金のストリップから採取した試験棒と、Invar(登録商標)M93のストリップから採取した試験棒又は304Lステンレス鋼のストリップから採取した試験棒とを、端部と端部で一緒に溶接することにより得た。
【0111】
比較のために、均一な溶接部は、Invar(登録商標)M93のストリップから採取した2本の試験棒を一緒に溶接することにより得、不均一な溶接部は、Invar(登録商標)M93のストリップから採取した試験棒と304Lステンレス鋼のストリップから採取した試験棒とを端部と端部で一緒に溶接することにより得た。
【0112】
結果を下のTable 2(表2)に示す。
【0113】
【0114】
引張り試験は、室温で、通常の溶接品質認定試験のように実施した。
【0115】
これらの試験は、本発明の合金がステンレス鋼と及びInvar(登録商標)と満足な溶接性を有することを示す。
【0116】
本発明の合金は、特に極低温の範囲で又はエレクトロニクスの分野において、良好な寸法安定性が要求される任意の用途で、良好な耐蝕性及び良好な溶接性を伴って、有利に使用され得る。
【0117】
それらの特性を考慮して、本発明の合金は、温度変化の影響下で、特に極低温の温度で、高い寸法安定性が要求される用途を意図し、溶接されたアセンブリーを製造するために、有利に使用することができる。
【手続補正書】
【提出日】2023-08-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載された合金。
【外国語明細書】