(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159238
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】炎症を処置するための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20231024BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231024BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20231024BHJP
A61K 47/56 20170101ALI20231024BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231024BHJP
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A61P 31/04 20060101ALI20231024BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20231024BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20231024BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20231024BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20231024BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231024BHJP
C07K 14/00 20060101ALI20231024BHJP
C08G 65/334 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P29/00 ZNA
A61K45/06
A61K47/56
A61P43/00 111
A61K47/60
A61K47/61
A61K47/59
A61K47/58
A61K47/64
A61P1/00
A61P1/04
A61P11/00
A61P11/06
A61P13/00
A61P13/02
A61P31/00
A61P31/22
A61P31/04
A61P27/02
A61P17/00
A61P17/06
A61P17/04
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 R
C07K14/00
C08G65/334
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023131989
(22)【出願日】2023-08-14
(62)【分割の表示】P 2020501120の分割
【原出願日】2018-07-13
(31)【優先権主張番号】62/532,539
(32)【優先日】2017-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】505231659
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ マサチューセッツ
(71)【出願人】
【識別番号】506190658
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ バース
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ランドール ミセスニー
(72)【発明者】
【氏名】ベス エー. マコーミック
(72)【発明者】
【氏名】ローランド エルウッド ドール
(57)【要約】
【課題】本明細書では、炎症促進性MRP2/HXA3経路および/または抗炎症性P-gp/内在性カンナビノイド経路および/または抗炎症性MRP1/L-AMEND経路を任意の組合せで標的にすることによって、好中球媒介性炎症を処置するための方法および組成物が開示される。
【解決手段】被験体に、治療有効量の(a)多剤耐性タンパク質2(MRP2)およびヘポキシリンA3(HXA3)シンターゼの1つもしくは複数の活性および/もしくはレベルを阻害する1つもしくは複数の第1の化合物、ならびに/または(b)1つもしくは複数のN-アシルエタノールアミン(NAE)のレベルおよび/もしくは活性を増大する1つもしくは複数の第2の化合物、ならびに/または(c)多剤耐性タンパク質1(MRP1)のレベルおよび/もしくは活性を増大する1つもしくは複数の第3の化合物を投与するステップを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、参照によって本明細書に組み込まれる2017年7月14日出願の同時係属の米国仮特許出願第62/532,539号の優先権を主張する。
【0002】
連邦政府の資金による研究の記載
本発明は、アメリカ国立衛生研究所(NIH)によって与えられた助成金番号DK056754の下で政府支援を得て行われた。政府は、本発明においてある一定の権利を有する。
【0003】
本開示の技術は、炎症促進性MRP2/HXA3経路および/または抗炎症性P-gp/内在性カンナビノイド経路および/または抗炎症性MRP1/L-AMEND経路を任意の組合せで標的にすることによって、好中球媒介性炎症を処置するための方法であって、被験体に、治療有効量の(a)多剤耐性タンパク質2(MRP2)およびヘポキシリンA3(HXA3)シンターゼの1つもしくは複数の活性および/もしくはレベルを阻害する1つもしくは複数の第1の化合物、ならびに/または(b)1つもしくは複数のN-アシルエタノールアミン(NAE)のレベルおよび/もしくは活性を増大する1つもしくは複数の第2の化合物、ならびに/または(c)多剤耐性タンパク質1(MRP1)のレベルおよび/もしくは活性を増大する1つもしくは複数の第3の化合物を投与するステップを含み、治療量の第1、第2および第3の化合物が、標的組織への好中球の遊走を低減する、方法に関する。
【背景技術】
【0004】
炎症、特に慢性炎症性疾患(CID)は、世界的に非常に蔓延しており、がん、心血管疾患、糖尿病、肥満、骨粗鬆症、関節リウマチ、炎症性腸疾患、喘息、およびCNS関連疾患、例えばうつ病およびパーキンソン病のような様々な疾患の発症の主な原因の1つとみなされている。上皮細胞は、Salmonella enterica血液型亜型Typhimurium(Salmonella typhimurium)または様々な他の病原体による感染に応答して、膜ABCトランスポーター多剤耐性タンパク質2(MRP2)の表面発現を劇的に増大する。エイコサノイドHXA3の細胞内生合成経路も同時に上方制御され、表面で増大したMRP2は、HXA3を腸管腔に輸送する働きをする。これによって、上皮を横切るHXA3の濃度勾配が確立され、その勾配が、好中球の走化性を側底側から管腔内へと方向付けて、重症炎症過程をもたらす。このMRP/HXA3経路は、複数の病原体による感染中、肺および腸管上皮の両方において保存される。しかし、その経路が、感染がない状態でも炎症を推進するかどうかについての証拠はない。
【0005】
MRP2レベルの増大と並行して、別のABCトランスポーターであるP-糖タンパク質(P-gp)は、Salmonella typhimuriumによって表面において活発に低減されるが、その重要性は、まだ明らかになっていなかった。P-gpの欠損は、炎症性腸疾患(IBD)に関連し、P-gpの低減がIBD患者の上皮で観測されており、P-gpをコードするmdr1遺伝子における単一ヌクレオチド多型がIBDのリスクの増大と関連付けられている。P-gpをコードするmdr1a遺伝子が欠如しているマウスは、自発性腸管炎症を発症する。しかし、この炎症過程の根本にある機序は不明である。したがって、炎症を低減する組成物および方法が、まだ必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、本開示は、それを必要とする哺乳動物被験体の標的組織の好中球媒介性炎症を処置するための方法であって、被験体に、多剤耐性タンパク質2(MRP2)およびヘポキシリンA3(HXA3)シンターゼの1つまたは複数を阻害する治療有効量の1つまたは複数の第1の化合物を投与するステップを含み、治療量の第1の化合物が、標的組織への好中球の遊走を低減する、方法を提供する。
【0007】
一部の実施形態では、該方法は、被験体に1つまたは複数のN-アシルエタノールアミン(NAE)を増大する治療有効量の1つまたは複数の第2の化合物を投与するステップをさらに含み、治療量の第2の化合物は、標的組織への好中球の遊走を低減する。
【0008】
一部の実施形態では、該方法は、被験体に多剤耐性タンパク質1(MRP1)を増大する治療有効量の1つまたは複数の第3の化合物を投与するステップをさらに含み、治療量の第3の化合物は、標的組織への好中球の遊走を低減する。
【0009】
一部の実施形態では、該方法は、被験体に多剤耐性タンパク質1(MRP1)を増大する治療有効量の1つまたは複数の第2の化合物を投与するステップをさらに含み、治療量の第2の化合物は、標的組織への好中球の遊走を低減する。
【0010】
一部の実施形態では、投与するステップは、標的組織への局所投与および標的組織の管腔表面における投与からなる群より選択される。
【0011】
一部の実施形態では、標的組織への好中球の遊走を低減する第1の化合物は、ポリマーにコンジュゲートされる。
【0012】
一部の実施形態では、炎症は、非感染性炎症である。
【0013】
一態様では、本開示は、それを必要とする哺乳動物被験体の標的組織の好中球媒介性炎症を処置するための方法であって、被験体に、1つまたは複数のN-アシルエタノールアミン(NAE)を増大する治療有効量の1つまたは複数の第1の化合物を投与するステップを含み、治療量の第1の化合物が、標的組織への好中球の遊走を低減する、方法を提供する。
【0014】
一部の実施形態では、該方法は、被験体に、多剤耐性タンパク質2(MRP2)およびHXA3シンターゼの1つまたは複数を阻害する治療有効量の1つまたは複数の第2の化合物を投与するステップをさらに含み、治療量の第2の化合物は、標的組織への好中球の遊走を低減する。
【0015】
一部の実施形態では、該方法は、被験体に多剤耐性タンパク質1(MRP1)を増大する治療有効量の1つまたは複数の第3の化合物を投与するステップをさらに含み、治療量の第3の化合物は、標的組織への好中球の遊走を低減する。
【0016】
一部の実施形態では、1つまたは複数のNAEを増大する1つまたは複数の第1の化合物は、カンナビノイド受容体タイプ2(CB2)アゴニストである。
【0017】
一部の実施形態では、標的組織への好中球の遊走を低減する第1の化合物は、ポリマーにコンジュゲートされる。
【0018】
一部の実施形態では、該方法は、被験体に多剤耐性タンパク質1(MRP1)を増大する治療有効量の1つまたは複数の第2の化合物を投与するステップをさらに含み、治療量の第2の化合物は、標的組織への好中球の遊走を低減する。
【0019】
一態様では、本開示は、それを必要とする哺乳動物被験体の標的組織の好中球媒介性炎症を処置するための方法であって、被験体に、多剤耐性タンパク質1(MRP1)を増大する治療有効量の1つまたは複数の第1の化合物を投与するステップを含み、治療量の第1の化合物が、標的組織への好中球の遊走を低減する、方法を提供する。
【0020】
一部の実施形態では、該方法は、多剤耐性タンパク質2(MRP2)およびヘポキシリンA3(HXA3)シンターゼの1つまたは複数を阻害する1つまたは複数の第2の化合物を投与するステップをさらに含み、治療量の第2の化合物が、標的組織への好中球の遊走を低減する。
【0021】
一部の実施形態では、該方法は、被験体に1つまたは複数のN-アシルエタノールアミン(NAE)を増大する治療有効量の1つまたは複数の第3の化合物を投与するステップをさらに含み、治療量の第3の化合物が、標的組織への好中球の遊走を低減する。
【0022】
一部の実施形態では、該方法は、被験体に1つまたは複数のN-アシルエタノールアミン(NAE)を増大する治療有効量の1つまたは複数の第2の化合物を投与するステップをさらに含み、治療量の第2の化合物は、標的組織への好中球の遊走を低減する。
【0023】
一部の実施形態では、投与は、標的組織への局所投与および標的組織の管腔表面における投与の1つまたは複数である。
【0024】
一部の実施形態では、標的組織への好中球の遊走を低減する第1の化合物は、ポリマーにコンジュゲートされる。
【0025】
本明細書に開示される方法の一部の実施形態では、炎症は、非感染性炎症である。一部の実施形態では、炎症は、感染性炎症である。
【0026】
本明細書に開示される方法の一部の実施形態では、MRP2を阻害する化合物は、式
【化1】
[式中、Xは、1つまたは複数の原子を含むリンカーであり、POLYは、ポリマーである]
を有するプロベネシド-ポリマーコンジュゲートを含む。
【0027】
一部の実施形態では、Xは、置換または非置換C1~CXアルキレン、ヘテロアルキレン、アルケニレン、またはヘテロアルケニレン基(式中、xは、1~12の任意の整数であってよい)から選択されるリンカーである。
【0028】
一部の実施形態では、POLYは、デキストラン、ポリエチレングリコール(PEG)、過ヨウ素酸で酸化されたデキストラン、ポリシアル酸(PSA)、ヒアルロン酸(HA)、デキストリン、ヒドロキシエチル-デンプン(HES)、ポリ(2-エチル2-オキサゾリン)(PEOZ)、ポリグルタミン酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸-co-グリコール酸(PLGA)、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)(PLA/PLGA)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタアクリルアミド)、ポリグリセロール、25ポリアミドアミン(PAMAM)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリペプチド、およびそれらの任意の組合せからなる群より選択されるポリマーである。一部の実施形態では、POLYは、40kDaのデキストランである。一部の実施形態では、POLYは、10kDaのデキストランである。一部の実施形態では、Xは、ヘキシルアミンであり、POLYは、過ヨウ素酸で酸化された40kDaのデキストランである。一部の実施形態では、POLYは、40kDaの2アームの分岐PEGアミンである。
【0029】
一態様では、本開示は、式
【化2】
[式中、Xは、リンカーであり、POLYは、ポリマーである]
を有する、化合物を提供する。
【0030】
一部の実施形態では、Xは、置換または非置換C1~CXアルキレン、シクロアルキレン(cycloakylene)、シクロアルキルアルキレン、ヘテロアルキレン、アルケニレン、またはヘテロアルケニレン基(式中、xは、1~12の任意の整数であってよい)から選択されるリンカーである。
【0031】
一部の実施形態では、POLYは、デキストラン、ポリエチレングリコール(PEG)、過ヨウ素酸で酸化されたデキストラン、ポリシアル酸(PSA)、ヒアルロン酸(HA)、デキストリン、ヒドロキシエチル-デンプン(HES)、ポリ(2-エチル2-オキサゾリン)(PEOZ)、ポリグルタミン酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸-co-グリコール酸(PLGA)、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)(PLA/PLGA)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタアクリルアミド)、ポリグリセロール、25ポリアミドアミン(PAMAM)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリペプチド、およびそれらの任意の組合せからなる群より選択されるポリマーである。一部の実施形態では、POLYは、40kDaのデキストランである。一部の実施形態では、Xは、ヘキシルアミンであり、POLYは、過ヨウ素酸で酸化された40kDaのデキストランである。一部の実施形態では、POLYは、10kDaのデキストランである。
【0032】
一部の実施形態では、Xは、置換または非置換C1~CXアルキレン、シクロアルキレン、シクロアルキルアルキレン、ヘテロアルキレン、アルケニレン、またはヘテロアルケニレン基(式中、xは、1~12の任意の整数であってよい)から選択されるリンカーであり、POLYは、過ヨウ素酸で酸化された10kDaのデキストランである。
【0033】
一部の実施形態では、POLYは、PEGである。一部の実施形態では、POLYは、40kDaの2アームの分岐PEGアミンである。
【0034】
一部の実施形態では、本開示の化合物は、未処置対照と比較して、それを必要とする被験体の好中球媒介性炎症を低減することができる。
【0035】
一部の実施形態では、本開示は、治療有効量の式Iの化合物および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物に関する。
【0036】
一部の実施形態では、本開示は、それを必要とする被験体の炎症を処置または防止するための方法であって、被験体に、治療有効量の式Iの化合物を投与するステップを含む、方法に関する。
【0037】
一部の実施形態では、炎症は、直腸炎、精巣炎、クローン病、大腸炎、例えば潰瘍性結腸炎としても公知の潰瘍性大腸炎、感染性/非感染性腸炎、および炎症性腸疾患(IBD)を含む腸管疾患;肺炎球菌感染、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、および肺線維症を含む炎症性肺状態;皮膚炎(湿疹)、酒さ、脂漏性皮膚炎、および乾癬を含む炎症性皮膚疾患;眼の疾患、例えばぶどう膜炎、網膜炎、角膜炎、および黄斑変性症;尿路感染を含む泌尿生殖器の疾患;骨盤腹膜炎、淋病感染、クラミジア感染、およびヘルペスを含む性感染病;ならびに尿道炎からなる群より選択される炎症状態から生じる。
【0038】
一部の実施形態では、炎症は、好中球媒介性炎症を含む。
【0039】
一部の実施形態では、投与は、上皮細胞を有効量の化合物と接触させることを含む。
【0040】
一部の実施形態では、処置によって、側底から頂端の方向に遊走する好中球の数が低減する。
【0041】
一部の実施形態では、炎症は、炎症性腸疾患(IBD)、潰瘍性大腸炎(UC)、クローン病(CD)、または感染性および/もしくは非感染性腸炎と関連する。
【0042】
一部の実施形態では、炎症は、クローン病と関連し、処置または防止は、1つまたは複数のメサラミン生成物、コルチコステロイド製剤、回腸放出ブデソニド、アザチオプリン、6-メルカプトプリンおよびメトトレキセートを含むグルココルチコステロイド/EEN免疫調節薬、インフリキシマブ、アダリムマブおよびセルトリズマブペゴルを含む抗腫瘍壊死因子(TNF)薬物、抗アルファ-4ベータ-7インテグリン抗体ベドリズマブ、ABT-494、ならびにフィルゴチニブを投与することをさらに含む。
【0043】
一部の実施形態では、炎症は、潰瘍性大腸炎と関連し、処置または防止は、5-アミノサリチレート、メサラミン、コルチコステロイド、マルチマトリクスブデソニド、アザチオプリン、6-メルカプトプリン、インフリキシマブ、アダリムマブおよびゴリムマブを含む抗TNF薬物、ベドリズマブ、トファシチニブ、ABT-494、ならびにフィルゴチニブの1つまたは複数を投与することをさらに含む。
【0044】
一部の実施形態では、炎症は、肺炎球菌感染、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、および肺線維症からなる群より選択される感染性および/または非感染性炎症性肺状態と関連する。
【0045】
一部の実施形態では、炎症は、皮膚炎(湿疹)、酒さ、脂漏性皮膚炎、および乾癬からなる群より選択される炎症性皮膚疾患と関連する。
【0046】
一部の実施形態では、該方法は、ダルババンシン、オリタバンシン、キュビシン、テジゾリド、セフトビプロール、セフトビプロール、セフトロザン-タゾバクタム、ムピロシン、硫酸ネオマイシン・バシトラシン、ポリミキシンB、1-オフロキサシン、リン酸クリンダマイシン、硫酸ゲンタマイシン、メトロニダゾール、ヘキシルレゾルシノール、塩化メチルベンゼトニウム、フェノール、第四級アンモニウム化合物、ティーツリー油、ステロイド系薬剤、例えばコルチコステロイド、例えばヒドロコルチゾン、ヒドロキシルトリアムシノロンアルファメチルデキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、吉草酸クロベタゾール、デソニド、デスオキシメタゾン、酢酸デスオキシコルチコステロン、デキサメタゾン、ジクロリゾン、二酢酸ジフロラゾン、吉草酸ジフルコルトロン、フルアドレノロン(fluadrenolone)、フルクラロロン(fluclarolone)アセトニド、フルドロコルチゾン、ピバル酸フルメタゾン、フルオシノロン(fluosinolone)アセトニド、フルオシノニド、フルコルチン(flucortine)ブチルエステル、フルオコルトロン、酢酸フルプレドニデン(フルプレドニリデン)、フルランドレノロン、ハルシノニド、酢酸ヒドロコルチゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロンアセトニド、コルチゾン、コルトドキソン、フルセトニド(flucetonide)、フルドロコルチゾン、二酢酸ジフルオロソン、フルラドレナロン(fluradrenalone)アセトニド、メドリゾン、アムシアフェル(amciafel)、アムシナフィド、ベタメタゾン、クロロプレドニゾン(chlorprednisone)、酢酸クロロプレドニゾン、クロコルトロン(clocortelone)、クレスシノロン(clescinolone)、ジクロリゾン、ジフルプレドナート、フルクロロニド、フルニソリド、フルオロメトロン(fluoromethalone)、フルペロロン、フルプレドニゾロン、吉草酸ヒドロコルチゾン、シクロペンチルプロピオン酸(cyclopentylproprionate)ヒドロコルチゾン、ヒドロコルタメート、メプレドニゾン、パラメタゾン、プレドニゾロン、プレドニゾン、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、トリアムシノロン、非ステロイド系薬剤、例えばCOX阻害剤、LOX阻害剤、p38キナーゼ阻害剤、免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、ならびにサイトカイン合成阻害剤、テトラサイクリン、ミノサイクリンおよびドキシサイクリン、またはそれらの任意の組合せからなる群より選択される1つまたは複数の抗生物質および/または抗炎症剤を投与するステップをさらに含む。
【0047】
一部の実施形態では、該方法は、Clostridium difficile毒素を標的にする抗体、腫瘍壊死因子(TNF)を標的にする抗体、インターロイキンを標的にする抗体、およびメタロプロテイナーゼ-9を標的にする抗体からなる群より選択される1つまたは複数の抗体を投与するステップをさらに含む。
本発明は、以下の項目を提供する。
(項目1)
好中球媒介性炎症の処置を必要とする哺乳動物被験体の標的組織の好中球媒介性炎症を処置するための方法であって、前記被験体に、多剤耐性タンパク質2(MRP2)およびヘポキシリンA3(HXA
3)シンターゼの1つまたは複数を阻害する治療有効量の1つまたは複数の第1の化合物を投与するステップを含み、治療量の前記第1の化合物が、前記標的組織への好中球の遊走を低減する、方法。
(項目2)
前記被験体に1つまたは複数のN-アシルエタノールアミン(NAE)を増大する治療有効量の1つまたは複数の第2の化合物を投与するステップをさらに含み、治療量の前記第2の化合物が、前記標的組織への好中球の遊走を低減する、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記被験体に多剤耐性タンパク質1(MRP1)を増大する治療有効量の1つまたは複数の第3の化合物を投与するステップをさらに含み、治療量の前記第3の化合物が、前記
標的組織への好中球の遊走を低減する、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記被験体に多剤耐性タンパク質1(MRP1)を増大する治療有効量の1つまたは複数の第2の化合物を投与するステップをさらに含み、治療量の前記第2の化合物が、前記標的組織への好中球の遊走を低減する、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記投与するステップが、前記標的組織への局所投与および前記標的組織の管腔表面における投与からなる群より選択される、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記標的組織への好中球の遊走を低減する前記第1の化合物が、ポリマーにコンジュゲートされる、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記炎症が、非感染性炎症である、項目1に記載の方法。
(項目8)
好中球媒介性炎症の処置を必要とする哺乳動物被験体の標的組織の好中球媒介性炎症を処置するための方法であって、前記被験体に、1つまたは複数のN-アシルエタノールアミン(NAE)を増大する治療有効量の1つまたは複数の第1の化合物を投与するステップを含み、治療量の前記第1の化合物が、前記標的組織への好中球の遊走を低減する、方法。
(項目9)
前記被験体に、多剤耐性タンパク質2(MRP2)およびHXA
3シンターゼの1つまたは複数を阻害する治療有効量の1つまたは複数の第2の化合物を投与するステップをさらに含み、治療量の前記第2の化合物が、前記標的組織への好中球の遊走を低減する、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記被験体に多剤耐性タンパク質1(MRP1)を増大する治療有効量の1つまたは複数の第3の化合物を投与するステップをさらに含み、治療量の前記第3の化合物が、前記標的組織への好中球の遊走を低減する、項目9に記載の方法。
(項目11)
前記1つまたは複数のNAEを増大する前記1つまたは複数の第1の化合物が、カンナビノイド受容体タイプ2(CB2)アゴニストである、項目8に記載の方法。
(項目12)
前記標的組織への好中球の遊走を低減する前記第1の化合物が、ポリマーにコンジュゲートされる、項目8に記載の方法。
(項目13)
前記被験体に多剤耐性タンパク質1(MRP1)を増大する治療有効量の1つまたは複数の第2の化合物を投与するステップをさらに含み、治療量の前記第2の化合物が、前記標的組織への好中球の遊走を低減する、項目8に記載の方法。
(項目14)
好中球媒介性炎症の処置を必要とする哺乳動物被験体の標的組織の好中球媒介性炎症を処置するための方法であって、前記被験体に、多剤耐性タンパク質1(MRP1)を増大する治療有効量の1つまたは複数の第1の化合物を投与するステップを含み、治療量の前記第1の化合物が、前記標的組織への好中球の遊走を低減する、方法。
(項目15)
多剤耐性タンパク質2(MRP2)およびヘポキシリンA3(HXA
3)シンターゼの1つまたは複数を阻害する1つまたは複数の第2の化合物を投与するステップをさらに含み、治療量の前記第2の化合物が、前記標的組織への好中球の遊走を低減する、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記被験体に1つまたは複数のN-アシルエタノールアミン(NAE)を増大する治療
有効量の1つまたは複数の第3の化合物を投与するステップをさらに含み、治療量の前記第3の化合物が、前記標的組織への好中球の遊走を低減する、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記被験体に1つまたは複数のN-アシルエタノールアミン(NAE)を増大する治療有効量の1つまたは複数の第2の化合物を投与するステップをさらに含み、治療量の前記第2の化合物が、前記標的組織への好中球の遊走を低減する、項目14に記載の方法。
(項目18)
前記投与が、前記標的組織への局所投与および前記標的組織の管腔表面における投与の1つまたは複数である、項目14に記載の方法。
(項目19)
前記標的組織への好中球の遊走を低減する前記第1の化合物が、ポリマーにコンジュゲートされる、項目14に記載の方法。
(項目20)
前記炎症が、非感染性炎症である、項目1、8、または14のいずれか一項に記載の方法。
(項目21)
前記炎症が、感染性炎症である、項目1、8、または14のいずれか一項に記載の方法。
(項目22)
MRP2を阻害する前記化合物が、式
【化27】
を有するプロベネシド-ポリマーコンジュゲートを含み、式中、Xは、1つまたは複数の原子を含むリンカーであり、POLYは、ポリマーである、
項目1、9、または15のいずれか一項に記載の方法。
(項目23)
Xが、置換または非置換C
1~C
Xアルキレン、ヘテロアルキレン、アルケニレン、またはヘテロアルケニレン基から選択されるリンカーであり、式中、xは、1~12の任意の整数であってよい、項目22に記載の方法。
(項目24)
POLYが、デキストラン、ポリエチレングリコール(PEG)、過ヨウ素酸で酸化されたデキストラン、ポリシアル酸(PSA)、ヒアルロン酸(HA)、デキストリン、ヒドロキシエチル-デンプン(HES)、ポリ(2-エチル2-オキサゾリン)(PEOZ)、ポリグルタミン酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸-co-グリコール酸(PLGA)、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)(PLA/PLGA)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタアクリルアミド)、ポリグリセロール、25ポリアミドアミン(PAMAM)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリペプチド、およびそれらの任意の組合せからなる群より選択されるポリマーである、項目22に記載の方法。
(項目25)
POLYが、40kDaのデキストランである、項目22に記載の方法。
(項目26)
POLYが、10kDaのデキストランである、項目22に記載の方法。
(項目27)
Xが、ヘキシルアミンであり、POLYが、過ヨウ素酸で酸化された40kDaのデキ
ストランである、項目22に記載の方法。
(項目28)
POLYが、40kDaの2アームの分岐PEGアミンである、項目22に記載の方法。
(項目29)
式
【化28】
を有する、化合物であって、式中、Xは、リンカーであり、POLYは、ポリマーである、
化合物。
(項目30)
Xが、置換または非置換C
1~C
Xアルキレン、シクロアルキレン、シクロアルキルアルキレン、ヘテロアルキレン、アルケニレン、またはヘテロアルケニレン基から選択されるリンカーであり、式中、xは、1~12の任意の整数であってよい、項目29に記載の化合物。
(項目31)
POLYが、デキストラン、ポリエチレングリコール(PEG)、過ヨウ素酸で酸化されたデキストラン、ポリシアル酸(PSA)、ヒアルロン酸(HA)、デキストリン、ヒドロキシエチル-デンプン(HES)、ポリ(2-エチル2-オキサゾリン)(PEOZ)、ポリグルタミン酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸-co-グリコール酸(PLGA)、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)(PLA/PLGA)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタアクリルアミド)、ポリグリセロール、25ポリアミドアミン(PAMAM)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリペプチド、およびそれらの任意の組合せからなる群より選択されるポリマーである、項目29に記載の化合物。
(項目32)
POLYが、40kDaのデキストランである、項目29に記載の化合物。
(項目33)
Xが、ヘキシルアミンであり、POLYが、過ヨウ素酸で酸化された40kDaのデキストランである、項目29に記載の化合物。
(項目34)
POLYが、10kDaのデキストランである、項目29に記載の化合物。
(項目35)
Xが、置換または非置換C
1~C
Xアルキレン、シクロアルキレン、シクロアルキルアルキレン、ヘテロアルキレン、アルケニレン、またはヘテロアルケニレン基から選択されるリンカーであり、式中、xは、1~12の任意の整数であってよく、POLYが、過ヨウ素酸で酸化された10kDaのデキストランである、項目29に記載の化合物。
(項目36)
POLYが、PEGである、項目29に記載の化合物。
(項目37)
POLYが、40kDaの2アームの分岐PEGアミンである、項目36に記載の化合物。
(項目38)
未処置対照と比較して、好中球媒介性炎症の低減を必要とする被験体の好中球媒介性炎
症を低減することができる、項目29に記載の化合物。
(項目39)
治療有効量の項目29に記載の化合物および薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
(項目40)
炎症の処置または防止を必要とする被験体の炎症を処置または防止するための方法であって、前記被験体に、治療有効量の項目29に記載の化合物を投与するステップを含む、方法。
(項目41)
前記炎症が、直腸炎、精巣炎、クローン病、大腸炎、例えば潰瘍性結腸炎としても公知の潰瘍性大腸炎、感染性/非感染性腸炎、および炎症性腸疾患(IBD)を含む腸管疾患;肺炎球菌感染、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、および肺線維症を含む炎症性肺状態;皮膚炎(湿疹)、酒さ、脂漏性皮膚炎、および乾癬を含む炎症性皮膚疾患;眼の疾患、例えばぶどう膜炎、網膜炎、角膜炎、および黄斑変性症;尿路感染を含む泌尿生殖器の疾患;骨盤腹膜炎、淋病感染、クラミジア感染、およびヘルペスを含む性感染病;ならびに尿道炎からなる群より選択される炎症状態から生じる、項目40に記載の方法。
(項目42)
前記炎症が、好中球媒介性炎症を含む、項目40に記載の方法。
(項目43)
前記投与が、上皮細胞を有効量の前記化合物と接触させることを含む、項目40に記載の方法。
(項目44)
前記処置によって、側底から頂端の方向に遊走する好中球の数が低減する、項目43に記載の方法。
(項目45)
前記炎症が、炎症性腸疾患(IBD)、潰瘍性大腸炎(UC)、クローン病(CD)、または感染性および/もしくは非感染性腸炎と関連する、項目40に記載の方法。
(項目46)
前記炎症が、クローン病と関連し、前記処置または防止が、1つまたは複数のメサラミン生成物、コルチコステロイド製剤、回腸放出ブデソニド、アザチオプリン、6-メルカプトプリンおよびメトトレキセートを含むグルココルチコステロイド/EEN免疫調節薬、インフリキシマブ、アダリムマブおよびセルトリズマブペゴルを含む抗腫瘍壊死因子(TNF)薬物、抗アルファ-4ベータ-7インテグリン抗体ベドリズマブ、ABT-494、ならびにフィルゴチニブを投与することをさらに含む、項目45に記載の方法。
(項目47)
前記炎症が、潰瘍性大腸炎と関連し、前記処置または防止が、5-アミノサリチレート、メサラミン、コルチコステロイド、マルチマトリクスブデソニド、アザチオプリン、6-メルカプトプリン、インフリキシマブ、アダリムマブおよびゴリムマブを含む抗TNF薬物、ベドリズマブ、トファシチニブ、ABT-494、ならびにフィルゴチニブの1つまたは複数を投与することをさらに含む、項目45に記載の方法。
(項目48)
前記炎症が、肺炎球菌感染、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、および肺線維症からなる群より選択される感染性および/または非感染性炎症性肺状態と関連する、項目40に記載の方法。
(項目49)
前記炎症が、皮膚炎(湿疹)、酒さ、脂漏性皮膚炎、および乾癬からなる群より選択される炎症性皮膚疾患と関連する、項目40に記載の方法。
(項目50)
ダルババンシン、オリタバンシン、キュビシン、テジゾリド、セフトビプロール、セフトビプロール、セフトロザン-タゾバクタム、ムピロシン、硫酸ネオマイシン・バシトラ
シン、ポリミキシンB、1-オフロキサシン、リン酸クリンダマイシン、硫酸ゲンタマイシン、メトロニダゾール、ヘキシルレゾルシノール、塩化メチルベンゼトニウム、フェノール、第四級アンモニウム化合物、ティーツリー油、ステロイド系薬剤、例えばコルチコステロイド、例えばヒドロコルチゾン、ヒドロキシルトリアムシノロンアルファメチルデキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、吉草酸クロベタゾール、デソニド、デスオキシメタゾン、酢酸デスオキシコルチコステロン、デキサメタゾン、ジクロリゾン、二酢酸ジフロラゾン、吉草酸ジフルコルトロン、フルアドレノロン、フルクラロロンアセトニド、フルドロコルチゾン、ピバル酸フルメタゾン、フルオシノロンアセトニド、フルオシノニド、フルコルチンブチルエステル、フルオコルトロン、酢酸フルプレドニデン(フルプレドニリデン)、フルランドレノロン、ハルシノニド、酢酸ヒドロコルチゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロンアセトニド、コルチゾン、コルトドキソン、フルセトニド、フルドロコルチゾン、二酢酸ジフルオロソン、フルラドレナロンアセトニド、メドリゾン、アムシアフェル、アムシナフィド、ベタメタゾン、クロロプレドニゾン、酢酸クロロプレドニゾン、クロコルトロン、クレスシノロン、ジクロリゾン、ジフルプレドナート、フルクロロニド、フルニソリド、フルオロメトロン、フルペロロン、フルプレドニゾロン、吉草酸ヒドロコルチゾン、シクロペンチルプロピオン酸ヒドロコルチゾン、ヒドロコルタメート、メプレドニゾン、パラメタゾン、プレドニゾロン、プレドニゾン、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、トリアムシノロン、非ステロイド系薬剤、例えばCOX阻害剤、LOX阻害剤、p38キナーゼ阻害剤、免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、ならびにサイトカイン合成阻害剤、テトラサイクリン、ミノサイクリンおよびドキシサイクリン、またはそれらの任意の組合せからなる群より選択される1つまたは複数の抗生物質および/または抗炎症剤を投与するステップをさらに含む、項目40に記載の方法。
(項目51)
Clostridium difficile毒素を標的にする抗体、腫瘍壊死因子(TNF)を標的にする抗体、インターロイキンを標的にする抗体、およびメタロプロテイナーゼ-9を標的にする抗体からなる群より選択される1つまたは複数の抗体を投与するステップをさらに含む、項目40に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】
図1A~1Iは、HXA
3が、DSS大腸炎中に炎症を推進することを示す。5%DSSで7日間処置したマウスの粘膜擦過標本を、脂質について濃縮し、HXA
3の量をLC/MS/MSによって定量した(
図1A)。C57BL/6マウスを、3%DSSで7日間処置し、9日目に屠殺した(
図1B~1I)。PBS対照(ビヒクル)またはプロベネシドコンジュゲートの毎日の直腸投与を、4日目に開始して実施した。すべてのデータは、マン-ホイットニー片側ノンパラメトリックU検定による平均+/-S.E.M.(1群当たりn=10マウス)統計的有意性である。中結腸および遠位結腸のパラフィン包埋切片を、H&Eで染色し、試料の正体について盲検にした訓練された研究者によってスコア化した(
図1Cおよび1D)。矢印は、腸管腔への好中球の蓄積を強調している(
図1D)。ミエロペルオキシダーゼ(mpo)活性を、糞便(
図1E)または結腸組織(
図1F)から、ADHPアッセイによって8分にわたって測定し(方法を参照されたい)、傾きを線形回帰によって算出した。組織については、傾きを全タンパク質含量に対して正規化した。粘膜固有層の全白血球を単離し、フローサイトメトリーのために染色した(
図1G~1I)。好中球を、生存/CD45+/CD11bhi/Ly6G+として特徴付けた。
図1Gは、好中球のパーセントを示し、
図1Hは、好中球の数を示し、
図1Iは、結腸組織における好中球の代表的なプロットを示す。
【0049】
【
図2A-E】
図2A~2Fは、上皮細胞が、好中球の遊走を阻害するP-gp依存性内在性カンナビノイドを分泌することを示す。T84上皮単層の上清を、脂質について濃縮し、96ウェルの改変BoydenチャンバアッセイにおいてHXA
3誘導性遊走を阻害する能力について試験した(
図2A)。異なるドナーを用いる実験にわたって比較するために、個々の実験内の遊走値を、ビヒクル処置による濃縮HXA
3に対して正規化した。
図2A~2Cについて、データは、3つの独立した実験の一元配置ANOVAによる平均比+/-S.E.M.(
*=p<0.05)である。
図2Bは、P-gp発現をノックダウンする異なるshRNA構築物を発現する細胞株(B4-mdr1およびB5-mdr1)の上清を用いて、
図2Aと同様に実施したものである。
図2Cは、遊走アッセイで使用する前に、濃縮T84上清をFAAHまたはMAGLで37℃において30分間事前処置したことを除いて、
図2Aと同様に実施したものである。T84単層を、ビヒクルまたはベラパミルで処置してP-gp機能を阻害した後、上清を収集し、脂質を濃縮した。調製物をHPLCによって分離した。楕円は、ベラパミルで処置した細胞には存在しないピークを強調している(
図2D)。対照またはB4-mdr1ノックダウン細胞株の濃縮T84上清を、エレクトロスプレーイオン化質量分析に供した。矢印は、アナンダミドNa+付加物のピークを示している(
図2E)。商業的に利用可能な内在性カンナビノイドおよび関連化合物を、96ウェルの遊走アッセイで試験した(
図2F)。化合物を、PBSに可溶性を示す最高濃度で使用した。データは、少なくとも3つの独立した実験の一元配置ANOVAによる平均+/-SEM(
*=p<0.05および
**=p<0.01)である。さらなる情報については、方法を参照されたい。
【
図2F】
図2A~2Fは、上皮細胞が、好中球の遊走を阻害するP-gp依存性内在性カンナビノイドを分泌することを示す。T84上皮単層の上清を、脂質について濃縮し、96ウェルの改変BoydenチャンバアッセイにおいてHXA
3誘導性遊走を阻害する能力について試験した(
図2A)。異なるドナーを用いる実験にわたって比較するために、個々の実験内の遊走値を、ビヒクル処置による濃縮HXA
3に対して正規化した。
図2A~2Cについて、データは、3つの独立した実験の一元配置ANOVAによる平均比+/-S.E.M.(
*=p<0.05)である。
図2Bは、P-gp発現をノックダウンする異なるshRNA構築物を発現する細胞株(B4-mdr1およびB5-mdr1)の上清を用いて、
図2Aと同様に実施したものである。
図2Cは、遊走アッセイで使用する前に、濃縮T84上清をFAAHまたはMAGLで37℃において30分間事前処置したことを除いて、
図2Aと同様に実施したものである。T84単層を、ビヒクルまたはベラパミルで処置してP-gp機能を阻害した後、上清を収集し、脂質を濃縮した。調製物をHPLCによって分離した。楕円は、ベラパミルで処置した細胞には存在しないピークを強調している(
図2D)。対照またはB4-mdr1ノックダウン細胞株の濃縮T84上清を、エレクトロスプレーイオン化質量分析に供した。矢印は、アナンダミドNa+付加物のピークを示している(
図2E)。商業的に利用可能な内在性カンナビノイドおよび関連化合物を、96ウェルの遊走アッセイで試験した(
図2F)。化合物を、PBSに可溶性を示す最高濃度で使用した。データは、少なくとも3つの独立した実験の一元配置ANOVAによる平均+/-SEM(
*=p<0.05および
**=p<0.01)である。さらなる情報については、方法を参照されたい。
【0050】
【
図3】
図3Aおよび3Bは、AMENDがマウス腸管内に存在することを示す。5匹の野生型(wt)マウスまたはmdr1a-/-マウスの結腸擦過標本をプールし、
図2Aと同様に脂質について濃縮し、96ウェルの遊走アッセイで試験した。データは、3つの独立した実験の一元配置ANOVAによる平均+/-SEM(
**=p<0.01)である。
図3Bでは、示されている試料を、FAAHを用いて37℃で30分間事前処置した。
【0051】
【
図4】
図4A~4Hは、CB2欠損マウスが重症腸管炎症に罹患しやすく、好中球遊出が増大することを示す。wtマウスまたはcnr2-/-マウスを、3%DSSで7日間処置し、9日目に屠殺した。すべての実験について、データは平均+/S.E.Mであり、統計的分析を、マン-ホイットニー片側ノンパラメトリックU検定を用いて実施した。組織病理スコア付け、ミエロペルオキシダーゼ活性の測定およびフローサイトメトリー分析のための方法は、
図1E~1Iと同じである。体重は、0日目の体重に対するパーセンテージとして示し(n=15匹のwtマウスおよび14匹のcnr2-/-マウス)、p値は、9日目の体重を指す(
図4A)。
図4Bおよび4Cは、
図1と同様に、中結腸および遠位結腸の組織病理である。矢印は、腸管腔への好中球の蓄積を強調している(
図4C)。組織mpo活性、n=13匹のwtマウスおよび11匹のcnr2-/-マウス(
図4E)。糞便mpo活性、n=14匹のwtマウスおよび12匹のcnr2-/-マウス(
図4D)。フローサイトメトリー分析による、組織好中球の数(
図4F)およびパーセンテージ(
図4G)。粘膜固有層の好中球の代表的なプロット(
図4H)。
図4F~4Hは、n=13匹のwtマウスおよび12匹のcnr2-/-マウスである。
【0052】
【
図5】
図5は、プロベネシドコンジュゲートが、HXA
3誘導性の好中球遊走を有効に阻害することを示す。HCT-8上皮単層を、反転させたトランスウェルインサート上で増殖させ、100μMプロベネシドコンジュゲートで1時間事前処置した。次に、単層を、S.typhimurium株SL1344で1時間、頂端側で感染させ、次に洗浄し、反転させた。好中球をウェル上部(側底側)に添加し、2時間遊走させた後、記載される通りmpoを定量した。示されているデータは、代表的な実験の平均+/-S.D.である。
【0053】
【
図6】
図6は、T84細胞におけるP-糖タンパク質のshRNAノックダウンを示す。T84細胞を、mdr1aを標的にするshRNA構築物を担持するレンチウイルス粒子で感染させた。細胞株B4~B8は、独立した標的化構築物を含有しており、非トランスフェクト細胞(レーン1)および対照shRNAをトランスフェクトした細胞(レーン2)と比較する。ライセートをゲル電気泳動法によって分離し、ニトロセルロースに移し、(a)P-gpまたは(b)GAPDHローディング対照についてプローブした。すべての構築物が、ウエスタンブロットによってP-gp発現の著しいノックダウンを誘導したので、クローンB4およびB5を、さらなる分析のために選択した。
【0054】
【
図7】
図7は、AMEND分泌が、P-gp依存性であることを示す。T84上皮細胞を、ビヒクルまたはP-gp阻害剤である40μMのベラパミル塩酸塩で処置した。濃縮上清画分を調製し、無細胞遊走アッセイでAMEND阻害活性について評価した。ベラパミルによる事前処置によって、AMEND阻害性化合物の分泌が阻害された。示されているデータは、2つの独立した実験の代表値の平均+/-SDである。一元配置ANOVAにより
*=p<0.05。
【0055】
【
図8】
図8は、FAAHおよびMAGLアッセイが、内在性カンナビノイドに特異的であり、リポキシンA4の阻害活性に影響を及ぼさないことを示す。実験を、
図2Cと同様に実施し、正規化した。リポキシンは10nMで使用した。データは、2つの独立した実験を合わせた平均+/-S.E.M.である。
【0056】
【
図9】
図9は、P-gp欠損マウスにおけるDSS大腸炎を示す。FVB野生型マウスおよびmdr1a-/-マウスを、
図1と同様にDSSで処置した。1群当たりn=5匹のマウス。
【0057】
【
図10】
図10は、腸管上皮における抗炎症性P-gp/内在性カンナビノイド経路および炎症促進性MRP2/HXA
3経路を示す。恒常的な腸管内では、P-糖タンパク質は、上皮表面から内在性カンナビノイドを分泌する。分泌されたN-アシルエタノールアミン(NAE)は、好中球上のCB2受容体を介して遊走を阻害し、抗炎症状態を維持するように作用する。炎症の間、P-gpは下方制御され(Salmonella typhimuriumの場合には、カスパーゼ-3分解によって)、MRP2/HXA
3経路が活性化される。ホスホリパーゼA2は、膜からアラキドン酸を遊離させ、アラキドン酸をHXA
3に変換し、表面MRP2を介して管腔に分泌する。HXA
3は、上皮層を横切って管腔へと好中球を誘引する濃度勾配を形成し、そこで炎症性損傷および病理を引き起こす。NAEのFAAH代謝によってアラキドン酸(arachadonic acid)が生じ、炎症促進性MRP2/HXA
3経路にも供給し得ることは注目すべきである。
【0058】
【
図11】
図11は、ヒト12-リポキシゲナーゼ(Alox12)mRNA、完全cds、gi|187170|gb|M58704.1|HUMLIPXYG(配列番号01)を示す。
【0059】
【
図12-1】
図12は、ホモサピエンスATP結合カセットサブファミリーCメンバー2(ABCC2)、mRNA>gi|594191052|ref|NM_000392.4|(配列番号02)を示す。
【
図12-2】
図12は、ホモサピエンスATP結合カセットサブファミリーCメンバー2(ABCC2)、mRNA>gi|594191052|ref|NM_000392.4|(配列番号02)を示す。
【0060】
【
図13-1】
図13は、ホモサピエンスATP結合カセット、サブファミリーB(MDR/TAP)、メンバー1(ABCB1)、mRNA>gi|318037598|ref|NM_000927.4|(配列番号03)を示す。
【
図13-2】
図13は、ホモサピエンスATP結合カセット、サブファミリーB(MDR/TAP)、メンバー1(ABCB1)、mRNA>gi|318037598|ref|NM_000927.4|(配列番号03)を示す。
【0061】
【
図14】
図14は、ラットALOX15:Rattus norvegicusのアラキドン酸15-リポキシゲナーゼ(Alox15)、mRNA>gi|31542124|ref|NM_031010.2|(配列番号04)を示す。
【0062】
【
図15】
図15は、ヒトFAAH:ホモサピエンス脂肪酸アミドヒドロラーゼ(FAAH)、mRNA>gi|166795286|ref|NM_001441.2|(配列番号05)を示す。
【0063】
【
図16】
図16は、頂端表面上のMRP1タンパク質が、Streptococcus pneumoniaeによる感染中に低減するが、MRP2は増大することを示す。非感染および感染NIH-H292細胞を比較する、頂端表面ビオチン化のウエスタンブロット分析。細胞を感染させ、洗浄し、次に感染後1時間、37度で静置した。次に、頂端表面をビオチンで標識し、溶解させた。試料をGAPDH発現に対して正規化し、ビーズを、左側のカラム上で特定したタンパク質のために架橋した抗体に曝露し、ストレプトアビジン-HRPを使用してプローブした。MRP4および5は、感染時に増大をほとんど示さなかった。MRP1は、Streptococcus pneumoniaeへの曝露時に93%の低減を示した一方、MRP2は230%の増大を示した。
【0064】
【
図17】
図17Aおよび17Bは、感染中のMRPの免疫蛍光を示す。極性NIH-H292を、10MOIのStreptococcus pneumoniaeで感染させ、固定し、次にMRP2について染色した。IF画像を個々のチャネルに分離し、MRP2が占める頂端表面積を測定した。
図17Aでは、赤色で囲った領域は、細胞単層の頂端表面上の目的の領域を現す。F-アクチンを使用して、細胞の境界を調査し、頂端表面を限局化した。所与の遺伝子のタンパク質発現が占める面積のパーセンテージを、Fijiで完成した算出によって決定した。
図17Aには、非感染細胞およびStreptococcus pneumoniaeH292細胞のMRP2およびF-アクチン切片が示されている。その過程を、MRP1、MRP4、およびMRP5について反復した(
図17B)。非感染試料を感染試料と比較すると、S.pneumoniae感染は、MRP1表面発現を低減し、MRP2表面発現を増大するが、MRP4またはMRP5に対しては効果がなく、これにより
図1のビオチン化データが確認される。(試料1つ当たりn=8)。
【0065】
【
図18】
図18は、マウス肺におけるMRP1およびMRP2の発現を示す。マウスを、Streptococcus pneumoniaeで気管内経路を介して感染させ、感染の2日後に屠殺した。肺を切除し、再膨張させ、切片にし、Mrp1およびMrp2について染色した。Mrp1発現は、PBSで処置したマウスと比較して、感染マウスの肺で低減したように見える(上)。Mrp2は、特に細胞末端周辺で発現が増大したように見える(下)。
【0066】
【
図19A-C】
図19A~19Eは、in vivoでのMRP2阻害を示す。本発明者らは、好中球の遊走のin vitroモデルを使用して、MRP2阻害の結果を調査した。プロベネシド処置によってMRP2を阻害すると、側底から頂端の方向に遊走する好中球が低減する(
図19A)。このin vitro結果に従って、C57/Bl6マウスをPBSまたはプロベネシドのいずれかで処置し、その後Streptococcus pneumoniaeで感染させた。プロベネシドで処置したマウスは、感染した肺から単離された気管支肺胞洗浄物(BAL)においてCd11b-陽性/Ly6g-陽性細胞(好中球)がわずかであった(
図19B)。プロベネシドはまた、菌血症マウスの数および全体的菌血症を低減した(
図19C)。マン-ホイットニー検定から得られた、D1の菌血症データの統計(
図19D)は、Cd11b+/Cd45+/Ly6g-顆粒球が差異を示さなかったことを示しているが、このことは、効果が好中球に特異的である可能性が高いことを示す。これらのマウスは、CFU数は統計的有意性に達しなかったが、菌血症を発症しなかったマウスと比較して細菌CFUにおよそ2倍の差異があったので、プロベネシドは保護効果を有していた可能性がある(
図19E)。菌血症を発症したマウスは、肺内の細菌負荷には差異がないように見えた。
【
図19D-E】
図19A~19Eは、in vivoでのMRP2阻害を示す。本発明者らは、好中球の遊走のin vitroモデルを使用して、MRP2阻害の結果を調査した。プロベネシド処置によってMRP2を阻害すると、側底から頂端の方向に遊走する好中球が低減する(
図19A)。このin vitro結果に従って、C57/Bl6マウスをPBSまたはプロベネシドのいずれかで処置し、その後Streptococcus pneumoniaeで感染させた。プロベネシドで処置したマウスは、感染した肺から単離された気管支肺胞洗浄物(BAL)においてCd11b-陽性/Ly6g-陽性細胞(好中球)がわずかであった(
図19B)。プロベネシドはまた、菌血症マウスの数および全体的菌血症を低減した(
図19C)。マン-ホイットニー検定から得られた、D1の菌血症データの統計(
図19D)は、Cd11b+/Cd45+/Ly6g-顆粒球が差異を示さなかったことを示しているが、このことは、効果が好中球に特異的である可能性が高いことを示す。これらのマウスは、CFU数は統計的有意性に達しなかったが、菌血症を発症しなかったマウスと比較して細菌CFUにおよそ2倍の差異があったので、プロベネシドは保護効果を有していた可能性がある(
図19E)。菌血症を発症したマウスは、肺内の細菌負荷には差異がないように見えた。
【0067】
【
図20A-C】
図20A~20Dは、分泌された上清が、抗炎症性(MRP1)または炎症性(MRP2)表現型を付与することを示す。炎症促進性脂質(
図20Aでは三角によって表されている)を、感染H292単層から頂端上清をプールすることによって単離した。これをC-18カラムに適用し、保存のためにメタノールで溶出した(
図20A)。メタノールを、一定の窒素流の下で蒸発させ、HBSSに再懸濁させて、好中球走化性因子として使用した。示した刺激に対してH292単層の側底から頂端チャンバに遊走する好中球の数が示される。脂質抽出物を、スクランブル対照またはMRP2ノックダウン細胞のいずれかから単離し、ナイーブH292細胞の頂端チャンバに適用した(
図20B)。MRP2ノックダウン細胞の脂質は、スクランブル対照と比較して好中球の遊走の低減を示したが、このことは、MRP2が炎症促進性刺激を排出することを暗示している。fMLPは陽性対照として作用した。HBSS+を、スクランブル対照細胞またはMRP1ノックダウン細胞の頂端表面に適用して、馴化培地を生成した(
図20C)。炎症促進性脂質を、非馴化培地、スクランブル対照の馴化培地、またはMRP1ノックダウン細胞の馴化培地(MRP1 KD)を用いて再懸濁させた。非馴化培地は、最大量の好中球の遊走を促進し、無傷MRP1を含むスクランブル対照細胞は、好中球数の低減を示し、MRP1ノックダウン細胞は、非馴化培地と等しい数の好中球を誘導したが、このことは、MRP1が好中球阻害活性を助ける可能性が高いことを示している。炎症促進性脂質の代わりに細菌感染を利用する類似モデルでは、MRP2阻害剤であるプロベネシド(100uM)は、ほぼ同じ効率で好中球の遊走を低減する(
図20D)。
【
図20D】
図20A~20Dは、分泌された上清が、抗炎症性(MRP1)または炎症性(MRP2)表現型を付与することを示す。炎症促進性脂質(
図20Aでは三角によって表されている)を、感染H292単層から頂端上清をプールすることによって単離した。これをC-18カラムに適用し、保存のためにメタノールで溶出した(
図20A)。メタノールを、一定の窒素流の下で蒸発させ、HBSSに再懸濁させて、好中球走化性因子として使用した。示した刺激に対してH292単層の側底から頂端チャンバに遊走する好中球の数が示される。脂質抽出物を、スクランブル対照またはMRP2ノックダウン細胞のいずれかから単離し、ナイーブH292細胞の頂端チャンバに適用した(
図20B)。MRP2ノックダウン細胞の脂質は、スクランブル対照と比較して好中球の遊走の低減を示したが、このことは、MRP2が炎症促進性刺激を排出することを暗示している。fMLPは陽性対照として作用した。HBSS+を、スクランブル対照細胞またはMRP1ノックダウン細胞の頂端表面に適用して、馴化培地を生成した(
図20C)。炎症促進性脂質を、非馴化培地、スクランブル対照の馴化培地、またはMRP1ノックダウン細胞の馴化培地(MRP1 KD)を用いて再懸濁させた。非馴化培地は、最大量の好中球の遊走を促進し、無傷MRP1を含むスクランブル対照細胞は、好中球数の低減を示し、MRP1ノックダウン細胞は、非馴化培地と等しい数の好中球を誘導したが、このことは、MRP1が好中球阻害活性を助ける可能性が高いことを示している。炎症促進性脂質の代わりに細菌感染を利用する類似モデルでは、MRP2阻害剤であるプロベネシド(100uM)は、ほぼ同じ効率で好中球の遊走を低減する(
図20D)。
【0068】
【
図21】
図21A~Bは、感染中のMRPの調査を示す。NIH-H292細胞を感染させ、次にMRPプロファイルを、mRNA RT-PCR定量化、タンパク質ウエスタンブロット、および細胞表面ビオチン化(ウエスタンブロットと共に)の3つの異なる技術によって作製した。MRP1、2、3、4、5、およびP-pgを、Streptococcus pneumoniaeによる感染時に可能な変化について調査した。RT-PCRにより、肺炎球菌感染中、MRP1がわずかに低減し、MRP2およびMRP5がわずかに増大したことが明らかになった(
図21B)。全細胞ライセートでは、GAPDHに対して正規化され、ImageJによって分析される通り、ウエスタンブロットの右に示される増大または低減が明らかになった(
図21A)。P-gpおよびMRP3は、これらの方法のいずれによっても検出不可能であった。
【0069】
【
図22】
図22Aおよび22Bは、MRPノックダウン細胞のアポトーシスの試験を示す。対照構築物、MRP1 shRNA、またはMRP2 shRNAを有するH292細胞を、感染前(
図22A)または感染後(
図22B)のいずれかに、アポトーシスのために染色した。どちらの場合も、染色手順中にアポトーシスの著しい増大はなかった。
【0070】
【
図23】
図23は、MRP1のヒトタンパク質配列、NCBI参照配列:NP_004987.2(配列番号06)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0071】
詳細な説明 I.定義
本明細書では以下の用語が使用され、その定義を指針のために提供する。
【0072】
一般に、「置換されている」は、それに含有されている水素原子との1つまたは複数の結合が、非水素原子または非炭素原子との結合によって置き換えられている、以下に定義される通りの有機基(例えば、アルキル基)を指す。置換されている基には、炭素原子または水素原子との1つまたは複数の結合が、ヘテロ原子との二重結合または三重結合を含む1つまたは複数の結合によって置き換えられている基も含まれる。したがって、置換されている基は、別段の指定がない限り、1つまたは複数の置換基で置換されている。一部の実施形態では、置換されている基は、1、2、3、4、5、または6個の置換基で置換されている。当業者は、本発明の技術の置換されている基が、それが出現する化合物の単離を可能にする化学的に安定な基であることを理解されよう。置換基の例として、ハロゲン(すなわち、F、Cl、Br、およびI);ヒドロキシル;アルコキシ、アルケンオキシ(alkenoxy)、アリールオキシ、アラルキルオキシ、ヘテロシクリル、ヘテロシクリルアルキル、ヘテロシクリルオキシ、およびヘテロシクリルアルコキシ基;カルボニル(オキソ);カルボキシレート;エステル;ウレタン;オキシム;ヒドロキシルアミン;アルコキシアミン;アラルコキシアミン;チオール;スルフィド;スルホキシド;スルホン;スルホニル;スルホンアミド;アミン;N-オキシド;アジド;アミド;尿素;アミジン;グアニジン;ニトロ基;ニトリル(すなわち、CN)等が挙げられる。
【0073】
アルキル基には、(別段の指定がない限り)1~12個の炭素原子、典型的に1~10個の炭素を有し、または一部の実施形態では1~8、1~6もしくは1~4個の炭素原子を有する、直鎖および分岐鎖のアルキル基が含まれる。アルキル基は、置換されていても置換されていなくてもよい。直鎖アルキル基の例として、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、およびn-オクチル基などの基が挙げられる。分岐アルキル基の例として、それに限定されるものではないが、イソプロピル、イソ-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、イソペンチル、および2,2-ジメチルプロピル基が挙げられる。代表的な置換アルキル基は、先に列挙されるものなどの置換基で1回または複数回置換されていてよく、置換アルキル基には、それに限定されるものではないが、ハロアルキル(例えば、トリフルオロメチル)、ヒドロキシアルキル、チオアルキル、アミノアルキル、アルキルアミノアルキル、ジアルキルアミノアルキル、アルコキシアルキル、カルボキシアルキル等が含まれる。一部の実施形態では、アルキル基は、1、2または3個の置換基で置換されている。
【0074】
アルケニル基は、少なくとも1つの二重結合が2個の炭素原子の間に存在することを除いて、先に定義される通りの直鎖および分岐鎖アルキル基を含む。アルケニル基は、置換されていても置換されていなくてもよい。アルケニル基は、2~12個の炭素原子、典型的に2~10個の炭素を有し、または一部の実施形態では2~8、2~6もしくは2~4個の炭素原子を有する。一部の実施形態では、アルケニル基は、1つ、2つ、または3つの炭素-炭素二重結合を有する。その例として、それに限定されるものではないが、中でもビニル、アリル、-CH=CH(CH3)、-CH=C(CH3)2、-C(CH3)=CH2、-C(CH3)=CH(CH3)、-C(CH2CH3)=CH2が挙げられる。代表的な置換アルケニル基は、一置換されていてよく、または2回以上置換されていてよく、例えば先に列挙されるものなどの置換基で、例えばそれに限定されるものではないが、一置換、二置換または三置換されていてよい。
【0075】
ヘテロアルキル基およびヘテロアルケニル基は、それぞれ、N、OおよびSから選択される1~6個のヘテロ原子を含むアルキル基(本明細書で定義の通り)およびアルケニル基(本明細書で定義の通り)である。存在する各ヘテロ原子は、ヘテロアルキルまたはヘテロアルケニル基内の少なくとも1個の炭素原子に結合していることを理解されよう。一部の実施形態では、ヘテロアルキル(heteroaklyl)またはヘテロアルケニル(heteteroalkenyl)基は、1、2または3個のヘテロ原子を含む。ヘテロアルキルおよびヘテロアルケニル基は、置換されていても置換されていなくてもよい。ヘテロアルキル基の例として、それに限定されるものではないが、CH3CH2OCH2、CH3NHCH2、CH3CH2N(CH3)CH2、CH3CH2SCH2、CH3CH2OCH2CH2OCH2CH2が挙げられる。ヘテロアルケニル基の例として、それに限定されるものではないが、CH2=CHOCH2、CH2=CHN(CH3)CH2、およびCH2=CHSCH2が挙げられる。代表的な置換ヘテロアルキルまたはヘテロアルケニル(heteroalkeneyl)基は、例えば先に列挙されるものなどの置換基で、1回または複数回(例えば、1、2または3回)置換されていてよく、それらの基には、それに限定されるものではないが、ハロヘテロアルキル(例えば、トリフルオロメチルオキシエチル)、カルボキシアルキルアミノアルキル、メチルアクリレート等が含まれる。
【0076】
シクロアルキル基は、環に3~12個の炭素原子を有し、または一部の実施形態では、3~10、3~8もしくは3~4、5もしくは6個の炭素原子を有する、単環式、二環式または三環式アルキル基を含む。シクロアルキル基は、置換されていても置換されていなくてもよい。例示的な単環式シクロアルキル基として、それに限定されるものではないが、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、およびシクロオクチル基が挙げられる。一部の実施形態では、シクロアルキル基は、3~8個の環員を有し、一方、他の実施形態では、環炭素原子の数は、3~5、3~6、または3~7の範囲である。二環式および三環式環系には、架橋シクロアルキル基および縮合環の両方、例えばそれに限定されるものではないが、ビシクロ[2.1.1]ヘキサン、アダマンチル、デカリニル等が含まれる。置換シクロアルキル基は、先に定義される通り、非水素基および非炭素基で1回または複数回置換されていてよい。しかし、置換シクロアルキル基には、先に定義される通りの直鎖または分岐鎖のアルキル基で置換されている環も含まれる。代表的な置換シクロアルキル基は、一置換されていてよく、または2回以上置換されていてよく、先に列挙されるものなどの置換基で置換されていてよい、例えばそれに限定されるものではないが、2,2-、2,3-、2,4-、2,5-または2,6-二置換シクロヘキシル基である。
【0077】
シクロアルキルアルキル基は、アルキル基の水素結合または炭素結合が、先に定義される通りのシクロアルキル基との結合で置き換えられている、先に定義される通りのアルキル基である。シクロアルキルアルキル基は、置換されていても置換されていなくてもよい。一部の実施形態では、シクロアルキルアルキル基は、4~16個の炭素原子、4~12個の炭素原子、典型的に4~10個の炭素原子を有する。置換シクロアルキルアルキル基は、アルキル、シクロアルキル、またはその基のアルキル部分およびシクロアルキル部分の両方において置換されていてよい。代表的な置換シクロアルキルアルキル基は、一置換されていてよく、または2回以上置換されていてよく、例えば先に列挙されるものなどの置換基で、例えばそれに限定されるものではないが、一置換、二置換または三置換されていてよい。
【0078】
本発明の技術の化合物における、2つまたはそれよりも多い結合点を有する本明細書に記載される基(すなわち、二価、三価、または多価)は、接尾辞「エン」を使用することによって指定される。例えば、二価のアルキル基は、アルキレン基であり、二価のシクロアルキル基は、シクロアルキレン基であり、二価のヘテロアルキル基は、ヘテロアルキレン基であり、二価のアルケニル基は、アルケニレン基等である。本発明の技術の化合物との単一結合点を有する置換されている基は、「エン」の名称では呼ばれない。したがって、例えばクロロエチルは、本明細書ではクロロエチレンと呼ばれない。
【0079】
被験体に分子を「投与」するという用語は、被験体に分子を送達することを意味する。「投与」には、組成物の予防的投与(すなわち、疾患および/または疾患の1つもしくは複数の症状が検出可能になる前)および/または組成物の治療的投与(すなわち、疾患および/または疾患の1つもしくは複数の症状が検出可能になった後)が含まれる。本発明の技術の方法は、1つまたは複数の化合物を投与するステップを含む。2つ以上の化合物が投与されるべき場合、化合物は、一緒にして実質的に同時に投与することができ、かつ/または任意の順序で異なる時間に投与することができる。また、本発明の技術の化合物は、別の種類の薬物の投与または治療手順(例えば、手術)の前に、それと同時、および/またはその後に投与することができる。
【0080】
「変える」および「改変する」という用語は、第2の試料と比較した(または第2の被験体と比較した)、第1の試料(または第1の被験体)における任意の分子(例えば、多剤耐性タンパク質2(MRP2)、多剤耐性タンパク質1(MRP1)、ヘポキシリンA3(HXA3)シンターゼ、N-アシルエタノールアミン(NAE)、アミノ酸配列、核酸配列、抗体等)、細胞、および/または現象のレベル(例えば、多剤耐性タンパク質2(MRP2)および/または多剤耐性タンパク質1(MRP1)および/またはヘポキシリンA3(HXA3)シンターゼおよび/またはN-アシルエタノールアミン(NAE)の活性レベル、遺伝子の発現レベル、疾患の症状、2つの分子の結合レベル、例えばホルモンリガンドとそのホルモン受容体との結合レベル、2つの分子の結合特異性、2つの分子の結合親和性、疾患の症状、疾患に対する特異性、疾患に対する感受性、結合親和性、酵素活性等)に言及する場合、増大および/または低減を指す。
【0081】
「カンナビノイド受容体タイプ2」(「CB2」)は、ヒトにおいてCNR2遺伝子によってコードされるカンナビノイド受容体ファミリー由来のGタンパク質結合受容体である。CB2受容体の主な内在性リガンドは、2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)である。
【0082】
「コンジュゲートすること」という用語および文法的等価物は、目的の分子およびポリマーをコンジュゲートすることに言及する場合、目的の分子をポリマーに共有結合によって連結することを意味する。連結は、直接的であってよい。あるいは、連結は、連結基または連結部分を介する間接的なものであってよい。ポリマーとコンジュゲーションさせる方法は、融合タンパク質を生成するためにポリペプチドとコンジュゲーションさせるための方法を含めて、当技術分野で公知である(Pasut, Polymers 6:160-178 (2014); Medscape, Nanomedicine 5(6):915-935 (2010))。一部の実施形態では、コンジュゲートは、連結基であるジアミノヘキサンを介して、過ヨウ素酸で酸化された40kDaのデキストランに化学的にコンジュゲートしたプロベネシドによって例示される(実施例3)。
【0083】
本明細書で使用される場合、「有効量」または「治療有効量」または「薬学的有効量」という用語は、望ましい治療的および/または予防的効果を達成するのに十分な量、例えば、それを必要とする被験体の炎症(例えば、標的組織への好中球の遊走と関連する炎症)、または炎症と関連する疾患もしくは障害もしくは症状を完全にまたは部分的に改善する量を指す。治療的または予防的適用の文脈では、被験体に投与される組成物の量は、疾患の種類および重症度、ならびに個体の特徴、例えば全体的な健康状態、年齢、性別、体重および薬物に対する耐性に応じて決まる。組成物の量はまた、疾患の程度、重症度および種類に応じて決まる。当業者は、これらおよび他の因子に応じて適切な投与量を決定することができる。組成物は、1つまたは複数のさらなる治療化合物と組み合わせて投与することもできる。一部の実施形態では、複数の用量が投与される。さらにまたは代替として、一部の実施形態では、複数の治療組成物または化合物が投与される。本明細書に記載される方法では、治療化合物は、炎症(例えば、組織への好中球の遊走の増大と関連する炎症)と関連する疾患または障害の1つまたは複数の徴候または症状を有する被験体に投与することができる。
【0084】
「内在性カンナビノイド」(「EC」)は、カンナビノイド受容体CB1およびCB2、ならびにより近年になって説明されている非定型受容体GPR55およびGPR119に結合する化合物である。エイコサノイドタイプのECの2つの主なクラスが、「N-アシルエタノールアミン」(「NAE」)およびモノアシルグリセロール(MAG)であり、それらはそれぞれ、脂肪酸アミドヒドロラーゼ(FAAH)およびモノアシルグリセロールリパーゼ(MAGL)によって代謝される。「N-アシルエタノールアミン」は、内在性カンナビノイド(endocannabinod)であり、いくつかの種類のアシル基の1つが、エタノールアミンの窒素原子と連結する場合に形成されるある種の脂肪酸アミドである。N-アシルエタノールアミンは、脂肪酸アミドヒドロラーゼ(FAAH)によって代謝される。例示的なN-アシルエタノールアミン内在性カンナビノイドとして、エタノールアミン、アラキドン酸(20:4、ω-6)のアミドであるアナンダミド(AEA)(N-アラキドノイルエタノールアミド)(
図2E)、オレオイルエタノールアミド(OEA)、およびアルファ-リノレノイルエタノールアミド(α-LEA)(
図2F)が挙げられる。
【0085】
「上皮組織」は、上皮細胞、すなわち明確な頂端、側面および基底細胞膜領域/ドメインの特色となる極性細胞型を含有する。上皮細胞は、それらの側方膜(lateral membrane)によって互いに結合して、動物身体中の腔および表面を裏打ちする上皮シートを形成する。各細胞膜ドメインは、明確なタンパク質組成を有しており、それがそのドメインに明確な特性を付与し、上皮シートを横切る分子の方向性輸送を可能にする。上皮細胞の「頂端」領域は、密着結合の上にある領域と定義され、組織の管腔または外表面に面する頂端膜を含有する。上皮細胞の「側底」領域は、密着結合の下にある側面であり、基底膜と接触している側底膜を含有する。
【0086】
「脂肪酸アミドヒドロラーゼ」、「FAAH」および「EC3.5.1.99」は、セリンヒドロラーゼファミリーの酵素のメンバーを交換可能に指す。これは、アナンダミドを分解することが最初に示された。これは、ヒトでは、遺伝子FAAHによってコードされ、mRNA配列番号05によってコードされたヒトFAAHによって例示される(
図15)。
【0087】
「ヘポキシリンA3シンターゼ」、「HXA
3シンターゼ」、「ALOX12」、「12-リポキシゲナーゼ」、「アラキドン酸12-リポキシゲナーゼ」、「12S-リポキシゲナーゼ」、「12-LOX」および「12S-LOX」は、染色体17p13.3上の他のリポキシゲナーゼ(lipoyxgenases)と共に位置する、ヒトにおいてALOX12遺伝子によってコードされるリポキシゲナーゼタイプの酵素(すなわち、cis,cis-1,4-ペンタジエン構造を含有する脂質における多価不飽和脂肪酸の二原子酸素添加を触媒する酵素)を交換可能に指す。Alox12は、mRNA配列番号01によってコードされたヒトAlox12によって例示される(
図11)。Alox12はまた、ラットAlox15によって例示され、これは、アラキドン酸を15S-ヒドロペルオキシエイコサテトラエン酸に変換し、アラキドン酸のC-12およびリノール酸に対して作用する。ラットAlox15は、mRNA配列番号04によってコードされる(
図14)。
【0088】
「増大する」という用語は、化合物、例えばN-アシルエタノールアミンに言及する場合、N-アシルエタノールアミンのレベルおよび/または活性の増大を意味する。「増大する」、「増加する」、「上昇する」という用語および文法的等価物(「より高い」、「より多い」等を含む)は、第2の試料と比較した(または第2の被験体と比較した)、第1の試料(または第1の被験体)における任意の分子(例えば、多剤耐性タンパク質2(MRP2)、多剤耐性タンパク質1(MRP1)、ヘポキシリンA3(HXA3)シンターゼ、N-アシルエタノールアミン(NAE)、アミノ酸配列、および核酸配列、抗体等)、細胞、および/または現象のレベル(例えば、多剤耐性タンパク質2(MRP2)および/または多剤耐性タンパク質1(MRP1)および/またはヘポキシリンA3(HXA3)シンターゼおよび/またはN-アシルエタノールアミン(NAE)の活性レベル、遺伝子の発現レベル、疾患の症状、2つの分子の結合レベル、例えばホルモンリガンドとそのホルモン受容体との結合レベル、2つの分子の結合特異性、2つの分子の結合親和性、疾患の症状、疾患に対する特異性、疾患に対する感受性、結合親和性、酵素活性等)に言及する場合、第1の試料(または第1の被験体)における分子、細胞および/または現象の量が、第2の試料(または第2の被験体)におけるよりも、任意の当技術分野で許容される分析の統計法を使用して統計的に有意な任意の量だけ多いことを意味する。一実施形態では、第1の試料(または第1の被験体)における分子、細胞および/または現象の量は、第2の試料(または第2の被験体)における同じ分子、細胞および/または現象の量よりも、少なくとも10%多く、少なくとも25%多く、少なくとも50%多く、少なくとも75%多く、および/または少なくとも90%多い。これには、第2の試料(または第2の被験体)における同じ分子、細胞および/または現象の量よりも、それに限定されるものではないが、少なくとも10%多い、少なくとも15%多い、少なくとも20%多い、少なくとも25%多い、少なくとも30%多い、少なくとも35%多い、少なくとも40%多い、少なくとも45%多い、少なくとも50%多い、少なくとも55%多い、少なくとも60%多い、少なくとも65%多い、少なくとも70%多い、少なくとも75%多い、少なくとも80%多い、少なくとも85%多い、少なくとも90%多い、および/または少なくとも95%多い量の第1の試料(または第1の被験体)における分子、細胞、および/または現象が含まれる。一実施形態では、第1の試料(または第1の被験体)は、それに限定されるものではないが、本発明の技術の組成物および/または方法を使用して操作された試料(または被験体)によって例示される。さらなる実施形態では、第2の試料(または第2の被験体)は、それに限定されるものではないが、本発明の技術の組成物および/または方法を使用して操作されていない試料(または被験体)によって例示される。代替の実施形態では、第2の試料(または第2の被験体)は、それに限定されるものではないが、第1の被験体と比較して異なる投与量および/または異なる期間および/または異なる投与経路で、本発明の技術の組成物および/または方法を使用して操作された試料(または被験体)によって例示される。一実施形態では、第1および第2の試料(または被験体)は、例えば、1つの試料(または被験体)に対して、本発明の技術の組成物および/または方法の異なるレジメン(例えば、投与量、期間、投与経路等)の効果を決定することが求められる場合には、同じであってよい。別の実施形態では、第1および第2の試料(または被験体)は、例えば、1つの試料(被験体)に対する本発明の技術の組成物および/または方法の効果を比較する場合には、例えば臨床治験に参加している患者および入院中の別の個体のように異なっていてよい。
【0089】
「阻害する」という用語は、化合物、例えば、多剤耐性タンパク質2(MRP2)、ヘポキシリンA3(HXA3)シンターゼ等に言及して使用される場合、HXA3の活性および/またはレベルの阻害を意味する。「阻害する」、「低減する」、「減少する」、「抑制する」、「低下する」という用語および文法的等価物(「より低い」、「より少ない」等を含む)は、第2の試料と比較した(または第2の被験体と比較した)、第1の試料(または第1の被験体)における任意の分子(例えば、多剤耐性タンパク質2(MRP2)、多剤耐性タンパク質1(MRP1)、ヘポキシリンA3(HXA3)シンターゼ、N-アシルエタノールアミン(NAE)、アミノ酸配列、および核酸配列、抗体等)、細胞、および/または現象のレベル(例えば、多剤耐性タンパク質2(MRP2)および/または多剤耐性タンパク質1(MRP1)および/またはヘポキシリンA3(HXA3)シンターゼおよび/またはN-アシルエタノールアミン(NAE)の活性レベル、遺伝子の発現レベル、疾患の症状、2つの分子の結合レベル、例えばホルモンリガンドとそのホルモン受容体との結合レベル、2つの分子の結合特異性、2つの分子の結合親和性、疾患の症状、疾患に対する特異性、疾患に対する感受性、結合親和性、酵素活性等)に言及する場合、第1の試料(または第1の被験体)における分子、細胞および/または現象の量が、第2の試料(または第2の被験体)におけるよりも、任意の当技術分野で許容される分析の統計法を使用して統計的に有意な任意の量だけ少ないことを意味する。一実施形態では、第1の試料(または第1の被験体)における分子、細胞および/または現象の量は、第2の試料(または第2の被験体)における同じ分子、細胞および/または現象の量よりも、少なくとも10%少なく、少なくとも25%少なく、少なくとも50%少なく、少なくとも75%少なく、および/または少なくとも90%少ない。別の実施形態では、第1の試料(または第1の被験体)における分子、細胞、および/または現象の量は、第2の試料(または第2の被験体)における同じ分子、細胞および/または現象の量よりも、5%~100%の任意のパーセンテージ数値だけ少なく、例えばそれに限定されるものではないが、10%~100%、20%~100%、30%~100%、40%~100%、50%~100%、60%~100%、70%~100%、80%~100%、および90%~100%少ない。一実施形態では、第1の試料(または第1の被験体)は、それに限定されるものではないが、本発明の技術の組成物および/または方法を使用して操作された試料(または被験体)によって例示される。さらなる実施形態では、第2の試料(または第2の被験体)は、それに限定されるものではないが、本発明の技術の組成物および/または方法を使用して操作されていない試料(または被験体)によって例示される。代替の実施形態では、第2の試料(または第2の被験体)は、それに限定されるものではないが、第1の被験体と比較して異なる投与量および/または異なる期間および/または異なる投与経路で、本発明の技術の組成物および/または方法を使用して操作された試料(または被験体)によって例示される。一実施形態では、第1および第2の試料(または被験体)は、例えば、1つの試料(または被験体)に対して、本発明の技術の組成物および/または方法の異なるレジメン(例えば、投与量、期間、投与経路等)の効果を決定することが求められる場合には、同じであってよい。別の実施形態では、第1および第2の試料(または被験体)は、例えば、1つの試料(被験体)に対する本発明の技術の組成物および/または方法の効果を比較する場合には、例えば臨床治験に参加している患者および入院中の別の個体のように異なっていてよい。
【0090】
「粘膜組織」は、様々な管状構造を裏打ちする粘膜組織を指す。粘膜組織は、上皮、粘膜固有層を含み、消化管では平滑筋層(粘膜筋板)を含む。
【0091】
「多剤耐性関連タンパク質2」、「多剤耐性タンパク質2」(「MRP2」)、「胆管側多選択性有機アニオントランスポーター1」(「cMOAT」)、「ATP結合カセットサブファミリーCメンバー2」(「ABCC2」)は、ヒトにおいてABCC2遺伝子によってコードされるタンパク質を指すために交換可能に使用される。MRP2は、mRNA配列番号02によってコードされたヒトMRP2によって例示される(
図12)。
【0092】
「多剤耐性タンパク質1」、「MRP1」および「ABCC1」は、重要な治療薬を含む、広範な基質特異性を有する一方向性排出トランスポータータンパク質を指すために交換可能に使用される。このトランスポーターの主な役割の一部は、(i)生体異物および内在性代謝産物の排出、(ii)炎症性メディエーター(例えば、LTC4)の輸送、ならびに(iii)酸化ストレスに対する防御である。190kDaのMRP1は、2つの膜貫通ドメイン(TMD)からなるコア構造を有しており、2つのドメインのそれぞれには、ヌクレオチド結合ドメイン(NBD)が続く。MRP1は、MRP2、3、6、および7と共通して、予測される5つの膜貫通セグメントを有する第3のTMD(TMD0)およびリンカー領域(L0)によってコア構造に結合した余分な細胞質NH
2末端を含有する(Rosenberg et al., J. Biol. Chem. 276(19):13076-16082 (2001))。TMD0は、細胞膜へのMRP1の輸送にとって重要であると思われ(Bakos et al., J. Cell Sci. 113(Pt 24):4451-4461 (2000))、TMD0およびL0の正確な役割、機序、および依存性は、重要な研究の対象となっている(Westlake et al. Mol. Biol. Cell 16(5):2483-2492 (2005))。MRP1は、疎水性のアニオン性分子、グルクロニドおよびグルタチオンコンジュゲート、ならびに内在性グルタチオンを輸送する、広範な基質特異性を有している。多くのMRP1基質がグルタチオンにコンジュゲートされるが、遊離グルタチオンの共輸送がしばしば観測されており、その共輸送は、例えばビンクリスチンおよびダウノルビシンの輸送を刺激すると思われる(Hooijberga et al., FEBS Letters 469:47-51(2000))。グルタチオン自体は、MRP1の低親和性基質である(Km=1~5mM)。複数のアロステリック的に協同的な非オーバーラップ基質結合部位が想定され、それによって、なぜ様々な基質が相互阻害し、かつ相互刺激するかについて説明することができる(Bakos et al., Pflugers Arch - Eur J Physiol 453:621-641(2007))。炎症性サイトカインLTC4およびその主な代謝産物LTD4は、最も高い親和性のMRP1基質の一部であり、このことは、LTC4生成細胞からのサイトカイン放出におけるMRP1の非常に重要な役割を示唆している。実際、細胞内LTC4蓄積が、mrp1(-/-)マウスで観測された(Robbiani et al., Cell 103:757-768 (2000))。さらに、ノックアウトmrp1(-/-)マウスは、通常の表現型を伴って生存可能であり、健康で繁殖力を有するが、細胞傷害性薬物に対して過敏であった(Wijnholds et al., Nat. Med. 3:1275-1279 (1997))。MRP1は、DNA配列NCBI参照配列:NG_028268.1によってコードされたヒトタンパク質配列NCBI参照配列:NP_004987.2(配列番号06)(
図23)によって例示される。MRP1において少なくとも15の天然に存在する変異が特定されており、それらの多くは、そのin vitro輸送活性に影響を及ぼすことが見出されている。多型および変異誘発の研究は、He et al., Curr. Med. Chem. 18:439-481 (2011)において総説されている。多くのMRP1 SNPが公知であるが、集団におけるそれらの発生は、比較的少ないことが報告されている。中国本土の集団では、Cys43Ser(128G>C)、Thr73Ile(218C>T)、Arg723Gln(2168G>A)およびArg1058Gln(3173G>A)のMRP1多型対立遺伝子頻度は、それぞれ0.5%、1.4%、5.8%および0.5%であった(Ji-Ye Yin et al., Pharmacogenet. Genomics 19(3):206-216 (2009))。
【0093】
「P-糖タンパク質」(「P-gp」)は、排出膜トランスポーターであり、細胞取込み、ならびに生体異物および毒性物質の分布の制限に関与する。P-gpは、mRNA配列番号03によってコードされたヒトP-gpによって例示される(
図13)。
【0094】
「ポリマー」は、一緒に結合した多数の類似の単位から主になり、または完全にそれからなる分子構造を有する物質である。ポリマーは、天然に存在するもの(例えば、セルロース、ポリペプチド、ヌクレオチド配列等)であってよく、または人工のもの(例えば、プラスチック、樹脂等)である。ポリマーは、それらがコンジュゲートする薬物の担体として使用することができ、コンジュゲートされた薬物の溶解度を増強し、その薬物動態プロファイルを改善し、薬物を分解から保護し、ある特定の条件下で、例えばpH変化、またはエステラーゼ、リパーゼもしくはプロテアーゼなどの酵素の存在下で薬物を放出することができる。さらに、標的化部分または可溶化剤をコンジュゲートに導入して、その治療指数を引き上げることもできる(Medscape, Nanomedicine 5(6):915-935(2010))。ポリマーは、例えばコンジュゲートされた薬物が、特定の身体区画に(例えば、胃腸管腔から下層組織に)入るのを防止することによって、ポリマーにコンジュゲートされた薬物の分布を制限するために利用することもできる。ポリマーは、天然ポリマーおよび/または合成直鎖ポリマーであってよく、それには、ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン、過ヨウ素酸で酸化されたデキストラン、ポリシアル酸(PSA)、ヒアルロン酸(HA)、デキストリン、ヒドロキシエチル-デンプン(HES)、ポリ(2-エチル2-オキサゾリン)(PEOZ)、ポリグルタミン酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸-co-グリコール酸(PLGA)、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)(PLA/PLGA)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタアクリルアミド)、ポリグリセロール、25ポリアミドアミン(PAMAM)、ポリエチレンイミン(PEI)、およびポリペプチドが含まれる。一部の実施形態では、ポリマーは、過ヨウ素酸で酸化された40kDaのデキストランに化学的にコンジュゲートしたプロベネシドによって例示される、過ヨウ素酸で酸化された40デキストランである(実施例3)。
【0095】
「SipA」および「SalmonellaT3SSエフェクタータンパク質」は、Salmonella enterica subsp.enterica血液型亜型Typhimurium str.SL1344の完全なゲノム配列(NCBI参照配列:NC_016810.1)のDNA配列(Locus taq)SL1344_2861によってコードされたSalmonella enterica subsp.enterica血液型亜型Typhimurium str.SL1344(GenBank:AAA86618.1)のアミノ酸配列によって例示される通り、Salmonellaによって生成されたタンパク質を指すために交換可能に使用される。SipA配列は、国際公開第2015/089268号によって提供されている。
【0096】
炎症に罹患し得る「標的組織」には、それに限定されるものではないが、上皮組織、粘膜組織等が含まれる。例示的な上皮組織および/または粘膜組織として、「炎症性疾患」、例えば腸管疾患(直腸炎、精巣炎、クローン病、大腸炎(例えば、潰瘍性結腸炎(colitis ulcerosa)としても公知の潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis))、感染性/非感染性腸炎、炎症性腸疾患(IBD)等によって例示される)、炎症性肺状態(例えば、肺炎球菌感染、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、および肺線維症)、炎症性皮膚疾患(例えば、皮膚炎(湿疹)、酒さ、脂漏性皮膚炎、および乾癬)、眼の疾患(ぶどう膜炎、網膜炎、角膜炎、黄斑変性症等によって例示される)、泌尿生殖器の疾患(例えば、尿路感染)、性感染病(例えば、淋病感染および/またはクラミジア感染、ならびにヘルペスによって例示される潰瘍形成疾患によって例示される炎症性疾患を含む骨盤腹膜炎)、尿道炎等を生じる、胃腸管、肺(例えば、気管支組織)、肝臓、胃、結腸、脳、胆嚢、腎臓、女性生殖器、眼、尿路等が挙げられる。本明細書で使用される場合、「標的組織」は、解剖学的空間、例えば腸管腔も包含する。
【0097】
「処置すること」、「処置する」、「処置された」または「処置」は、本明細書で使用される場合、被験体、例えばヒトにおける本明細書に記載される疾患または障害(例えば、炎症)の処置を包含し、それには、(i)疾患もしくは障害の阻害、すなわちその発症を抑止すること、(ii)疾患もしくは障害の軽減、すなわち障害の退行を引き起こすこと、(iii)障害の進行を減速すること、および/または(iv)疾患もしくは障害の1つもしくは複数の症状の進行を阻害、軽減もしくは減速することが含まれる。症状は、当技術分野で公知の方法、例えば生検および組織学、ならびに関連する酵素レベル、代謝産物または循環抗原または抗体(または他のバイオマーカー)を決定するための血液検査、生活の質の質問票、患者が記録した症状スコア、ならびにイメージング試験によって評価することができる。
【0098】
本明細書で使用される場合、障害または状態の「防止」またはそれを「防止すること」は、統計的試料において、対照試料と比較して処置した試料における障害もしくは状態の発生を低減し、または対照試料と比較して障害もしくは状態の1つもしくは複数の症状の発生を遅延させる化合物を指す。
【0099】
記載される通り、医学的疾患および状態の様々な処置方法または防止方法は、「実質的」を意味することを企図され、これは、完全な処置または防止を含むが、完全には満たない処置または防止も含み、生物学的または医学的に関連する一部の結果が達成されることも理解されたい。
【0100】
本明細書で使用される場合、「被験体」、「個体」または「患者」という用語は、個々の生物、脊椎動物、哺乳動物、またはヒトであってよい。「哺乳動物」には、ヒト、非ヒト霊長類、マウス(例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター)、ヒツジ、ウシ、反芻動物、ウサギ、ブタ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、トリ等が含まれる。一部の実施形態では、哺乳動物は、マウスである。一部の実施形態では、哺乳動物は、ヒトである。
【0101】
本発明の技術の方法および/または組成物による処置を「必要とする」被験体には、炎症に「罹患している」被験体(すなわち、炎症の1つまたは複数の臨床症状および/または不顕性症状を経験している、かつ/または示している被験体)、および炎症の「リスク」がある被験体が含まれる。処置を「必要とする」被験体には、炎症の動物モデルが含まれる。炎症の「リスク」がある被験体は、現在、炎症症状を示しておらず、疾患の1つまたは複数の症状を示す素因を持っている被験体を指す。この素因は、家族の病歴、遺伝的因子、環境因子、例えば環境に存在する有害な化合物への曝露等に基づき得る。本発明の技術は、任意の特定の徴候または症状に限定されることを企図されない。したがって、本発明の技術が、不顕性症状から本格的な炎症性疾患までの任意の範囲の疾患を経験している被験体を包含し、その被験体は、炎症性疾患と関連する指標(例えば、徴候および症状)の少なくとも1つを示していることが企図される。
【0102】
「実質的に同じ」、「実質的に変えない」、「実質的に不変」および文法的等価物は、任意の分子(例えば、多剤耐性タンパク質2(MRP2)、多剤耐性タンパク質1(MRP1)、ヘポキシリンA3(HXA3)シンターゼ、N-アシルエタノールアミン(NAE)、アミノ酸配列、核酸配列、抗体等)、細胞、および/または現象のレベル(例えば、多剤耐性タンパク質2(MRP2)および/または多剤耐性タンパク質1(MRP1)および/またはヘポキシリンA3(HXA3)シンターゼおよび/またはN-アシルエタノールアミン(NAE)の活性レベル、遺伝子の発現レベル、疾患の症状、2つの分子の結合レベル、例えばホルモンリガンドとそのホルモン受容体との結合レベル、2つの分子の結合特異性、2つの分子の結合親和性、疾患の症状、疾患に対する特異性、疾患に対する感受性、結合親和性、酵素活性等)に言及する場合、第1の試料(または第1の被験体)における分子、細胞および/または現象の量が、第2の試料(または第2の被験体)と比較して統計的に有意な量だけ増大も低減もしないことを意味する。したがって、一実施形態では、第1の試料(または第1の被験体)における分子、細胞、および/または現象の量は、第2の試料(または第2の被験体)における量の90%~100%(例えば、91%~100%、92%~100%、93%~100%、94%~100%、95%~100%、96%~100%、97%~100%、98%~100%、および/または99%~100%を含む)である。
【0103】
本明細書で使用される場合、構成成分の「重量パーセント」は、具体的に反対のことを記載しない限り、構成成分が含まれる製剤または組成物の総重量に対する重量である。
【0104】
II.概要
本発明の技術は、好中球媒介性炎症を処置するための方法および組成物を提供する。特に、本発明の技術は、それを必要とする哺乳動物被験体の標的組織の好中球媒介性炎症を処置するための方法であって、被験体に、多剤耐性タンパク質1(MRP1)のレベルおよび/もしくは活性を増大する治療有効量の1つもしくは複数の第1の化合物を投与するステップであって、ここで治療量の第1の化合物は、標的組織への好中球の遊走を低減する、ステップ、ならびに/または多剤耐性タンパク質2(MRP2)およびヘポキシリンA3(HXA3)シンターゼの1つもしくは複数を阻害する治療有効量の1つもしくは複数の第2の化合物を投与するステップであって、ここで治療量の第2の化合物は、標的組織への好中球の遊走を低減する、ステップ、ならびに/または1つもしくは複数のN-アシルエタノールアミン(NAE)を増大する治療有効量の1つもしくは複数の第3の化合物を投与するステップを含み、ここで治療量の第3の化合物は、標的組織への好中球の遊走を低減する、方法を提供する。
【0105】
一実施形態では、本開示は、炎症促進性MRP2/HXA3経路を標的にすることによって好中球媒介性炎症を処置するための方法であって、被験体に、多剤耐性タンパク質2(MRP2)およびヘポキシリンA3(HXA3)シンターゼの1つまたは複数の活性および/またはレベルを阻害する治療有効量の1つまたは複数の化合物を投与するステップを含み、治療量の化合物が標的組織への好中球の遊走を低減する、方法を提供する。
【0106】
別の実施形態では、本開示はまた、抗炎症性P-gp/内在性カンナビノイド経路を標的にすることによって好中球媒介性炎症を処置するための方法であって、被験体に、1つまたは複数のN-アシルエタノールアミン(NAE)のレベルおよび/または活性を増大する治療有効量の1つまたは複数の化合物を投与するステップを含み、治療量の化合物が標的組織への好中球の遊走を低減する、方法を提供する。
【0107】
さらなる実施形態では、本開示はさらに、好中球媒介性炎症を処置するための方法であって、被験体に、多剤耐性タンパク質1(MRP1)のレベルおよび/または活性を増大する治療有効量の1つまたは複数の第2の化合物を投与するステップを含み、治療量の化合物が標的組織への好中球の遊走を低減する、方法を提供する。
【0108】
さらに別の実施形態では、本開示は、抗炎症性P-gp/内在性カンナビノイド経路および炎症促進性MRP2/HXA3経路の両方を標的にすることによって好中球媒介性炎症を処置するための方法であって、被験体に、治療有効量の(A)多剤耐性タンパク質2(MRP2)およびヘポキシリンA3(HXA3)シンターゼの1つまたは複数の活性および/またはレベルを阻害する1つまたは複数の第1の化合物、ならびに(B)1つまたは複数のN-アシルエタノールアミン(NAE)のレベルおよび/または活性を増大する1つまたは複数の第2の化合物を投与するステップを含み、治療量の第1および第2の化合物が標的組織への好中球の遊走を低減する、方法を提供する。
【0109】
細菌は、下気道感染の最も一般的な原因であり、世界中の他の多くの感染、例えばヒト免疫不全ウイルス(HIV)およびマラリアよりも大きい疾患負荷をもたらす。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、細菌によって誘導される大部分の市中肺炎を引き起こす細菌であるStreptococcus pneumoniae(肺炎球菌)が、米国では毎年500,000の肺炎症例を引き起こしていると推定している。これらの症例の30%もの多くが、菌血症も発症し、全症例の致死率は5~7%に達しているおそれがあり、年間およそ35,000人が死亡している。菌血症の診断後の死亡率は著しく高く、症例の20%に近い(Moore and Pilishvilli, “Pneumococcal Disease”. In: Epidemiology and Prevention of Vaccine-Preventable Diseases. Centers for Disease Control and Prevention. Epidemiology and Prevention of Vaccine-Preventable Diseases. Hamborsky and Wolfe, Eds. 13th ed. Washington D.C. Public Health Foundation, 2015; Pilishvili, et al., “Pneumococcal Disease”. Chapter 11. 2012. In: Manual for the surveillance of vaccine-preventable diseases. Roush and Baldy, Eds. 5th ed. Centers for Disease Control and Prevention, Atlanta,
GA, 2008)。さらに、肺炎球菌疾患は、ワクチンおよび抗生物質による処置が利用可能になっているにもかかわらず、年間およそ50~100万人の若年者の死亡に寄与している(Moore and Pilishvilli, 2015; Pilishvili, et al., “Pneumococcal Disease”. Chapter 11. 2012. In: Manual for the surveillance of vaccine-preventable diseases. Roush and Baldy, Eds. 5th ed. Centers for Disease Control and Prevention, Atlanta, GA, 2008; World Health Organization. “Pneumococcal Vaccines”. No. 14, 2012,
87, 129-144. Position paper on pneumococcal vaccines (April 2012))。
【0110】
肺炎をもたらす呼吸器感染中の特徴的な病理は、肺毛細血管から管腔空間への多形核細胞(PMNまたは好中球)の動員である(Loosli and Baker, Trans. Am. Clin. Climatol. Assoc. 74:15-28 (1962))。この応答は、細菌感染を最初に排除するように働くが、肺傷害および肺機能障害にも直接的に寄与する(Baird et al., J. Appl. Physiol. 61(6):2224-2229 (1986); Flick et al., Circ. Res. 48(3):344-351 (1981); Menendez et al., Thorax 63(5):447-452 (2008))。実際、過度の炎症は、肺炎球菌肺炎の処置の初期の処置失敗および死亡率の主な原因である(Menendez et al., (2008))。さらに、血液への細菌浸潤が、炎症中の管腔空間へのPMN浸潤によって媒介され得ることを示す文献が増えつつある(Marks et al., Infect. Immun. 75(4):1586-1597 (2007); Clarke et al., Cell Host Microbe 9(5):404-414 (2011); Attali et al., Infect. Immun. 76(11):5350-5356 (2008); Bhowmick et al., J. Immunol. 191(10):5115-5123 (2013))。
【0111】
肺炎球菌感染中のPMN流入の制御の根本にある機序をよりよく理解するために、S.pneumoniae誘導性のPMN遊走の宿主メディエーターおよび肺炎球菌肺感染後の敗血症における炎症の役割を調査した。肺炎球菌感染中の肺気道へのPMN遊走は、肺上皮細胞における12-リポキシゲナーゼ(LOX)の作用を介してアラキドン酸から誘導されたエイコサノイドである脂質走化性因子ヘポキシリンA3(HXA3)の生成を必要とすることが観測された(Bhowmick et al., (2013))。12-LOXの薬理学的阻害または遺伝子破壊は、S.pneumoniaeで感染したマウスの肺へのPMN流入を著しく低減し、そうでなければ致死性の肺炎球菌による肺チャレンジに対してマウスを一様に生存させた(Bhowmick et al., (2013))。これらの知見は、肺炎球菌肺炎症が、12-LOX依存性HXA3生成およびその後のPMN経上皮遊走によって肺上皮を撹乱することによって、高レベルの菌血症および全身感染にとって少なくとも部分的に必要となることを示している。
【0112】
腸管上皮に最初に重点を置いた研究では、ATP結合カセット(ABC)トランスポーター多剤耐性関連タンパク質2(MRP2;ABCC2またはc-MOATとしても公知)が、HXA3の放出を容易にし、その分泌が粘膜表面における炎症性事象をモジュレートする状態によって制御されることが明らかになっている(Pazos et al.,
J. Immunol. 181(11):8044-8052 (2008))。上皮細胞の頂端表面へのHXA3の分泌は、腸管上皮の密着結合複合体を横切る勾配を確立し、PMNによって使用される走化性勾配を生成して、炎症部位における粘膜管腔を標的にする(Mrsny et al., Proc. Natl. Acad. Sci.
U S A 101(19):7421-7426 (2004))。ABCトランスポーターは、元々、様々な細胞傷害性薬物を追い出すそれらの能力の結果として臨床的多剤耐性に寄与することが特定されたが、新しく出現した報告では、ABCトランスポーターが、宿主防御においてある役割を果たすことができ、炎症部位への免疫エフェクター細胞の遊走に関与していることがさらに記録された。さらに、多くの内在性ABCトランスポーター基質は、免疫制御効果を示す(Furugen et al., Prostaglandins Other Lipid Mediat 106:37-44 (2013); Lin et al., Mol. Pharmacol. 73(1):243-251 (2008); van der Deen et al., Virchows Arch 449(6):682-688 (2006); Blokzijl et al., J. Biol. Chem. 283(51):35630-35637 (2008); Englund et al., Inflamm. Bowel Dis. 13(3):291-297 (2007); Panwala et al., J. Immunol. 161(10):5733-5744 (1998); Yacyshyn et al., Hum. Immunol. 60(8):677-687 (1999))。しかし、炎症性事象中の肺においてこの活性を媒介するこのようなABCトランスポーターは、まだ特定されていない。
【0113】
細菌誘導性肺炎に対する特徴的な免疫反応は、血管系から肺の管腔空間へのPMNの侵襲である(Loosli and Baker, (1962))。この応答は、先天免疫を強化するように働くが、肺傷害および肺機能障害にも直接的に寄与する(Baird
et al., J. Appl. Physiol. 61(6):2224-2229 (1986); Flick et al., Circ Res, 48(3):344-351 (1981))。PMNの走化性力学および殺菌機能については多くのことが公知であるが、肺/気道上皮へのPMNの動員を支配する機序は、十分には理解されていない。実際、肺炎球菌肺炎感染中に先天的免疫応答を媒介する多くの分子は冗長であり、かつ/またはPMN動員にとって重要ではない。例えば、TLRは、S.pneumoniaeからのシグナル伝達を媒介するが、TLR2が欠乏してもTLR4が欠乏しても、肺炎球菌肺炎中のPMN浸潤は損なわれない(Knapp et al., J. Immunol. 172(5):3132-3138 (2004); Branger et al., Infect. Immun. 72(2):788-794
(2004))。セレクチン、VLA-4、およびPCAM-1は、多くの炎症応答中のPMN動員に必要とされるが、肺炎球菌肺炎中は必要とされない(Mizgerd et al., J. Exp. Med. 184(2):639-645 (1996); Tasaka et al., Am. J. Respir. Crit. Care Med. 166(1):53-60 (2002); Doyle et al., J. Clin. Invest. 99(3):526-533 (1997); Tasaka et al., Am. J. Respir. Crit. Care Med. 167(2):164-170 (2003))。CD11/CD18およびICAM-2は、肺において様々な刺激によって誘発されるPMN動員を最大限にする役割を果たすと考えられるが、肺炎球菌肺炎中は、PMN動員には著しく寄与しない(Mizgerd et al., J. Immunol. 163(2):995-999 (1999); Mizgerd et al., J. Leukoc. Biol. 64(3):291-297 (1998))。ICAM-1は、好中球の移動を完全に誘発する役割を果たし得るが、この効果は24時間で喪失すると考えられる(Mizgerd et al., (1998))。また、CXCケモカインは、肺炎球菌肺炎におけるPMN輸送において役割を果たすことが十分に考証されているが、PMN動員におけるそれらの機能的冗長性により、治療剤としてのそれらの有効性が制限される(Jones et al., J. Immunol. 175(11):7530-7535 (2005); Eliasson et al., Microbes Infect. 12(7):565-573 (2010); Seyoum et al., Vaccine 29(45):8002-8011 (2011))。
【0114】
MRP/HXA3経路は、肺および腸管上皮の両方における複数の病原体による感染中に保存されることが示されているので、その経路が、感染がない状態でも炎症を推進するかどうかについて調査した(実施例3)。
【0115】
P-gpをコードするmdr1a遺伝子が欠如したマウスは、自発性腸管炎症を発症する。P-gpの欠如により炎症が促進されるという証拠、および公知の外因性P-gp基質の特徴により、P-gpが、内在性生物活性脂質を分泌することができ、その脂質が、HXA3媒介性遊走に拮抗するように働くことができるという仮説が得られた。恒常的上皮細胞の、P-gp依存性分泌型リピドーム(lipidome)を分析して、HXA3媒介性好中球の遊走を阻害することができる脂質を特定した(実施例4)。
【0116】
例証された腸管腔(実施例3~7)および例証された肺(実施例8~10)などの実施例3~10のデータは、好中球遊出の制御を理解するための意味合いを有している。
【0117】
本明細書のデータ(実施例3~7)は、炎症促進性MRP2/HXA
3軸と均衡するように作用する抗炎症性P-gp/内在性カンナビノイド経路を定義付けた(
図10)。さらに、提案されたこの動的関係は、1)P-gp機能不全と大腸炎の相関、2)P-gpのための内在性非生体異物基質の存在、および3)CB2アゴニストによる大腸炎症状の抑制についての報告の根本にある機序を含む、いくつかの科学的疑問に対する潜在的に可能な説明を提供する。したがって、腸の管腔表面における炎症促進性MRP2/HXA
3および/または抗炎症性P-gp/内在性カンナビノイド経路のモジュレーションは、炎症性疾患、例えば腸疾患を処置するための局所治療の開発にとって新しい手段となる。さらに、MRP2/HXA
3経路は、感染性および非感染性肺炎症において保存され、このことは、この経路およびP-gp/内在性カンナビノイド経路が、他の粘膜表面における炎症を同様に制御し得ることを示唆している。
【0118】
したがって、一実施形態では、本発明の技術は、炎症促進性MRP2/HXA
3経路を標的にすることによって好中球媒介性炎症を処置するための方法を提供する(
図10)。特定の実施形態では、それを必要とする哺乳動物被験体の標的組織の好中球媒介性炎症を処置するためのこの方法は、被験体に、a)多剤耐性タンパク質2(MRP2)、およびb)ヘポキシリンA3(HXA
3)シンターゼの1つまたは複数の活性および/またはレベルを阻害する治療有効量の1つまたは複数の第1の化合物を投与するステップを含み、治療量の第1の化合物は、標的組織への好中球の遊走を低減する。本明細書のデータは、MRP2/HXA
3の炎症促進的役割が、肺(実施例8~10)および腸管(実施例3~7)の両方において類似しており、非感染性(無菌)炎症および病原体によって引き起こされる感染性(敗血症性)炎症の両方において類似していることを示している。
【0119】
一部の実施形態では、抗炎症性P-gp/内在性カンナビノイド経路を標的にすることによって炎症を処置することが望ましい場合もある(
図10)。したがって、一実施形態では、該方法はさらに、被験体に、1つまたは複数のN-アシルエタノールアミン(NAE)のレベルおよび/または活性を増大する治療有効量の1つまたは複数の第2の化合物を投与するステップを含み、治療量の第2の化合物は、標的組織への好中球の遊走を低減する。
【0120】
気道上皮におけるABCトランスポーターが、S.pneumoniae感染中にPMNの遊走を支配する免疫調節的役割を果たすかどうかを決定するために、本明細書のデータ(実施例8~10)を得た。本明細書で実証される通り、ABCトランスポーターMRP1およびMRP2は、肺炎球菌感染中に異なる形で発現されるだけでなく、対照PMN遊走の相反する役割を有する基質を活発に排出する。このユニークな関係を特徴付けると、MRP1は、恒常的状態にある間、PMN遊走を抑制する基質を排出するように見えるが、S.pneumoniaによる感染中、頂端表面におけるこのトランスポーターの発現は、著しく減少する。それとは対照的に、MRP2は、PMN遊走を促進する基質を排出し、肺炎球菌感染中、このトランスポーターは、頂端表面上に非常に豊富に存在する。したがって、実施例8~10のデータにより、肺系におけるABCトランスポーターが、PMN応答を抑制する恒常的経路と、S.pneumoniaeなどの病原体への応答中に活性化する炎症経路との間の平衡を制御する上である役割を果たし得ることが確立される。この平衡の調節不全は、先天的炎症応答の非常に特異的であるが有用なアームを支配する。
【0121】
実施例8~10に提示されているデータにより、排出トランスポーターが、S.pneumoniaeによる感染中に肺上皮を横切るPMN遊走と協調する、上皮に特異的な均衡系が明らかになった。具体的には、MRP1の発現は、非感染基底状態では、免疫抑制分子(すなわち、L-AMEND)の排出を媒介して、恒常性を維持し、非特異的PMN遊走からのあらゆる付帯的損傷を防止する。MRP2表面発現は、同じ恒常的状態で非常に低く、この経路の抗炎症性アームを強化する。しかし、MRP1の発現は、S.pneumoniaeが導入されると低下して、感染部位における抗炎症性分子の有効濃度を低減する。逆に、MRP2の頂端発現は増大して、HXA3のような脂質PMN走化性因子の排出を容易にし、エイコサノイドであるHXA3は、次にPMNを感染/傷害部位に誘引することができ、多くの他の細菌感染においてある役割を果たすことが示されている(Pazos et al., (2008); Mrsny et al., (2004); Hurley et al., J. Immunol. 173(9):5712-5720 (2004); Mumy et al., Infect. Immun. 76(8):3614-3627 (2008); Boll et al.,
Cell Microbiol, 14(1):120-132 (2012))。HXA3が、上皮バリアを横切ってPMNの動員を先導する炎症促進性メディエーターであるという1つの主張は、炎症ベースの疾患、例えば乾癬および感染性/非感染性腸炎におけるこの強力なPMN走化性因子の存在および機能の増大についての近年の報告によって強化されている(Mrsny et al., (2004); Anton et al., J. Invest. Dermatol. 110(4):303-310 (1998))。HXA3は、ラット肺でも検出されているが(Pace-Asciak
et al., Biochim. Biophys. Acta, 875(2):406-409 (1986))、細菌性肺感染から生じるPMN動員過程におけるその正確な役割は、まだ理解の途中である。
【0122】
実施例8~10の結果は、HXA3/MRP2およびL-AMEND/MRP1軸が、肺の炎症を調節する一助になり得る普遍的機序の一部であることを示唆している。MRP2の極性発現およびこのHXA3/MRP2軸の活性は、炎症状態の間に大幅に増大し、この経路には、IL-8などのPMN動員を推進する他の走化性因子とは冗長性ではない。本明細書で提示されるデータは、MRP1発現および活性が、抗炎症状態に対応すると同時に、HXA3/MRP2軸が、病原菌から保護するために粘膜表面に保存された機序であることを示す他の文献と合致している(Pazos et al., (2008); Blokzijl et al., (2008); Agbor et al.,
(2011))。さらに、実施例8~10では、S.pneumoniae感染中のMRP2の遮断によって、S.pneumoniae感染マウスの肺へのPMN流入が著しく低減し、次に感染後の血中に検出された細菌量が低減したことが見出された。このような知見は、肺炎球菌肺炎症によって誘導されたPMN流入が、細菌感染の病理に寄与し得るという概念を支持する。
【0123】
Schultzらは、網羅的Mrp1ノックアウトマウスが、肺炎球菌感染中に保護される一方、野生型同腹子は感染に屈したことを既に報告している(Schultz, et al., J. Immunol. 166(6):4059-4064 (2001))。実施例8~10では、感染の48時間後に、Mrp1-/-BALFにおける細胞外ロイコトリエンC4(LTC
4)は、野生型マウスよりも少ないことが示された。細胞内LTC
4は、当然ながらより高いことが見出され、LTC
4の放出は、マウスMrp1の排除によって阻害されるという結論が得られた。LTC
4の保持は、この特定の研究では細胞傷害性であることが示唆されており(Blokzijl et al., (2008))、それによってPMNアポトーシスが生じ、BALFにおける好中球数が減少し得るが、この結果はまさに、Schultzが感染の48時間後に実証しているものである。この場合、このような好中球数の減少は、Marks et al.およびBhowmick et al.によって暗示されている通り、上皮壁の破損を防止し、細菌浸潤を低減して、細菌クリアランスの他の手段により肺炎球菌感染を排除することができる。このデータによって提示される見かけの逆説は、MRP1活性がPMN遊出の抑止を助けるという本発明者らの仮説と合致すると思われる。感染した上皮が、LTC4誘導性アポトーシスを受けないことを保証するために、MRP1欠損上皮および対照細胞の感染前および感染後の両方のアネキシンV染色(
図22Aおよび22B)を試験して、MRP1欠乏と関連するPMN遊走のいかなる増大も、上皮細胞傷害によって引き起こされないことを示した。
【0124】
MRP1/L-AMENDは、抗炎症状態を決定付けるが(実施例8~10)、MRP2/HXA3は炎症促進性状態を決定付ける(実施例3~7)という仮説は、上皮細胞が、PMN遊出を先導する場合を決定するためのシグナルを統合するセンサーとして作用する(ABC排出トランスポーターを制御することによって)という概念を組み込む。したがって、不適切な炎症応答は制限するが、S.pneumoniaeなどの病原体(または他の炎症促進性刺激)の存在に応答する態勢にあるという、定常状態の設定点が確立される。このPMN応答は、目下の感染調節において役割を果たすことができるが、好中球活性化が長引くと、健康に有害な作用が生じ、宿主にとっての費用対効果の関係が浮き彫りになるとも考えられる。本明細書で提示されるデータは、肺炎球菌感染中のPMN流入の制御の根本にある機序をより良く理解することが、最終的に感染の封じ込めを可能にすると同時に有害な肺炎症を弱める、改善された治療を設計するのに有用となり得ることを実証する。
【0125】
したがって、本発明の技術のさらなる実施形態では、被験体に、多剤耐性タンパク質1(MRP1)のレベルおよび/または活性を増大する治療有効量の1つまたは複数の化合物を投与することが望ましい場合があり、治療量のこの1つまたは複数の化合物は、標的組織への好中球の遊走を低減する(実施例8~10)。一部の実施形態では、MRP1の上方制御は、L-AMENDおよび/または抗炎症性である他のカンナビノイドを用いて疾患を処置する場合には不要となり得る(しかし、必要に応じて含まれ得る)。
【0126】
多剤耐性タンパク質1(MRP1)のレベルの増大は、例えば、MRP-1をコードするmRNA配列のトランスフェクションを使用することによって、組織特異的プロモーターの下でMRP-1遺伝子インサートを担持するウイルスベクターを使用することによって(Hao et al., Cancer Biology & Therapy, 5(3):261-266, DOI: 10.4161/cbt.5.3.2381)、小分子、例えばイベルメクチン(STROMECTOL(登録商標))を使用することによって(Raza et al., Parasites & Vectors 9:522, DOI: 10.1186/s13071-016-1806-9 (2016))、および抗がん薬などを使用することによって達成することができる。それに限定されるものではないが、ドキソルビシンおよびビンブラスチンを含む数々の化学療法剤が、MRP1発現を誘導することが報告されており、CARを介する核内ホルモン制御の役割が報告されている(Bakos et al., Pflugers Arch - Eur J Physiol 453:621-641 (2007))。
【0127】
一部の実施形態では、本発明の技術の方法は、必要に応じて、1つまたは複数の抗生物質および/または抗炎症剤を投与するステップをさらに含むことができる。単独で、または本発明の技術の方法と組み合わせて使用される抗生物質/抗炎症剤の例として、それに限定されるものではないが、ダルババンシン(DALVANCE(登録商標)、XYDALBA(登録商標))、オリタバンシン(ORBACTIVE(登録商標))、ダプトマイシン(Cubicin(登録商標))、テジゾリド(SIVEXTRO(登録商標))、セフトビプロール(ZEVTERA(登録商標)、MABELIO(登録商標))、セフトロザン-タゾバクタム(ZERBAXA(登録商標))、ムピロシン、硫酸ネオマイシン・バシトラシン、ポリミキシンB、1-オフロキサシン、リン酸クリンダマイシン、硫酸ゲンタマイシン、メトロニダゾール、ヘキシルレゾルシノール、塩化メチルベンゼトニウム、フェノール、第四級アンモニウム化合物、ティーツリー油、ステロイド系薬剤、例えばコルチコステロイド、例えばヒドロコルチゾン、ヒドロキシルトリアムシノロンアルファメチルデキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、吉草酸クロベタゾール、デソニド、デスオキシメタゾン、酢酸デスオキシコルチコステロン、デキサメタゾン、ジクロリゾン、二酢酸ジフロラゾン、吉草酸ジフルコルトロン、フルアドレノロン、フルクラロロンアセトニド、フルドロコルチゾン、ピバル酸フルメタゾン、フルオシノロンアセトニド、フルオシノニド、フルコルチンブチルエステル、フルオコルトロン、酢酸フルプレドニデン(フルプレドニリデン)、フルランドレノロン、ハルシノニド、酢酸ヒドロコルチゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロンアセトニド、コルチゾン、コルトドキソン、フルセトニド、フルドロコルチゾン、二酢酸ジフルオロソン、フルラドレナロンアセトニド、メドリゾン、アムシアフェル、アムシナフィド、ベタメタゾン、クロロプレドニゾン、酢酸クロロプレドニゾン、クロコルトロン、クレスシノロン、ジクロリゾン、ジフルプレドナート、フルクロロニド、フルニソリド、フルオロメトロン、フルペロロン、フルプレドニゾロン、吉草酸ヒドロコルチゾン、シクロペンチルプロピオン酸ヒドロコルチゾン、ヒドロコルタメート、メプレドニゾン、パラメタゾン、プレドニゾロン、プレドニゾン、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、トリアムシノロン、非ステロイド系薬剤、例えばCOX阻害剤、LOX阻害剤、p38キナーゼ阻害剤、免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、ならびにサイトカイン合成阻害剤、テトラサイクリン、ミノサイクリンおよびドキシサイクリン、またはそれらの任意の組合せが挙げられる。
【0128】
一部の実施形態では、本発明の技術の方法は、必要に応じて、Clostridium
difficile毒素、腫瘍壊死因子(TNF)、インターロイキン、メタロプロテイナーゼ-9の1つまたは複数を標的にする抗体(例えば、抗体GS-5745、Gilead)などの1つまたは複数の抗体を投与するステップをさらに含むことができる。
【0129】
例えば、クローン病では、本発明の技術の方法のいずれか1つは、1つまたは複数のメサラミン生成物、コルチコステロイド製剤、従来のコルチコステロイドおよび回腸放出ブデソニドの両方、グルココルチコステロイド/EEN免疫調節薬(例えば、アザチオプリン、6-メルカプトプリン、およびメトトレキセート)、抗腫瘍壊死因子(TNF)薬物(例えば、インフリキシマブ(Remicade、Janssen)、アダリムマブ(Humira、AbbVie)、およびセルトリズマブペゴル(Cimzia、UCB))、抗アルファ-4ベータ-7インテグリン抗体ベドリズマブ(Entyvio、武田)、JAK阻害剤ABT-494(AbbVie)、ならびにフィルゴチニブ(GLPG0634、GalapagosおよびGilead)(Sandborn, The Present and Future of Inflammatory Bowel Disease Treatment Gastroenterology & Hepatology, Volume 12, Issue 7, July 2016)を投与するステップをさらに含むことが望ましい場合がある。
【0130】
潰瘍性大腸炎では、本発明の技術の方法のいずれか1つは、5-アミノサリチレート(aminosalycylate)、メサラミン、従来のコルチコステロイドまたはマルチマトリクスブデソニド(Uceris、Salix)(結腸に薬物を送達する)、アザチオプリン、6-メルカプトプリン、抗TNF薬物(例えば、インフリキシマブ、アダリムマブ、およびゴリムマブ(Simponi、Janssen))、ベドリズマブ、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤(例えば、トファシチニブ(Xeljanz、Pfizer)、ABT-494(AbbVie)、ならびにフィルゴチニブ(GLPG0634、GalapagosおよびGilead))(Sandborn 2016)の1つまたは複数を投与するステップをさらに含むことが望ましい場合がある。
【0131】
III.本発明の技術の化合物
本発明の技術は、好中球媒介性炎症およびそれと関連する状態を処置するための組成物を提供する。一部の実施形態では、本発明の技術は、多剤耐性タンパク質1(MRP1)のレベルおよび/もしくは活性を増大する第1の化合物、多剤耐性タンパク質2(MRP2)およびヘポキシリンA3(HXA3)シンターゼの1つもしくは複数を阻害する第2の化合物、ならびに/または1つもしくは複数のN-アシルエタノールアミン(NAE)を増大する第3の化合物の1つまたは複数を含む組成物を提供する。
【0132】
A.MRP1を増大する化合物
一部の実施形態では、多剤耐性タンパク質1(MRP1)のレベルの増大は、例えば、MRP-1をコードするmRNA配列のトランスフェクションを使用することによって、組織特異的プロモーターの下でMRP-1遺伝子インサートを担持するウイルスベクターを使用することによって(Hao et al., Cancer Biology &
Therapy, 5(3):261-266, DOI: 10.4161/cbt.5.3.2381)、小分子、例えばイベルメクチン(STROMECTOL(登録商標))を使用することによって(Raza et al., Parasites & Vectors 9:522, DOI: 10.1186/s13071-016-1806-9 (2016))、および抗がん薬などを使用することによって達成することができる。それに限定されるものではないが、ドキソルビシンおよびビンブラスチンを含む数々の化学療法剤が、MRP1発現を誘導することが報告されており、CARを介する核内ホルモン制御の役割が報告されている(Bakos et al., Pflugers Arch - Eur J Physiol 453:621-641 (2007))。
【0133】
B.MRP2阻害剤 一部の実施形態では、多剤耐性タンパク質2(MRP2)を阻害する化合物は、MRP2 RNAi;3-([3-(2-[7-クロロ-2-キノリニル]エテニル)フェニル-(3-ジメチルアミノ-3-オキソプロピル)-チオ-メチル]チオ)プロパン酸(「MK571」およびCysLT1(LTD4)ロイコトリエン受容体インバースアゴニストとしても公知)(Tocris、Minneapolis、USA)(Genuuso
et al. (2004) PNAS 101:2470-2475);MRP2のプロベネシド阻害によって例示される(実施例3)プロベネシド(「PROBALAN(商標)」としても公知);FUROSEMIDE(登録商標);RITONAVIR(登録商標);SAQUINAVIR(登録商標);LAMIVUDINE(登録商標);ABACAVIR(登録商標);EMTRICITABINE(登録商標);EFAVIRENZ(登録商標);DELAVIRDINE(登録商標);NEVIRAPINE(登録商標);CIDOFOVIR(登録商標);ADEFOVIR(登録商標);およびTENOFOVIR(登録商標)の1つまたは複数によって例示される。
【0134】
一部の実施形態では、MRP2を阻害する化合物は、ヘポキシリンA3シンターゼを阻害する化合物(例えばヘポキシリンA3シンターゼRNAi)の1つまたは複数によって例示される。
【0135】
一部の実施形態では、MRP2を阻害する化合物は、脂肪酸アミドヒドロラーゼ(FAAH)を阻害する1つまたは複数の化合物、例えばFAAH RNAi;FAAH阻害剤I(PubChem CID:295380)4-フェニルメトキシフェニル)N-ブチルカルバメート);URB597(PubChem CID:1383884)3’-カルバモイル-[1,1’-ビフェニル]-3-イルシクロヘキシルカルバメート;FAAH阻害剤1(PubChem CID:1190414)N-(4-(6-メチルベンゾ[d]チアゾール-2-イル)フェニル)-1-(チオフェン-2-イルスルホニル)ピペリジン-4-カルボキサミド;FAAH阻害剤、2l(PubChem CID:71699786);FAAH阻害剤、2i(PubChem CID:71699785)N-シクロヘキシルカルバミン酸4-(ジメチルアミノ)-3-フェニルフェニルエステル;FAAH阻害剤、2h(PubChem CID:71699784)N-シクロヘキシルカルバミン酸4-(ヒドロキシメチル)-3-フェニルフェニルエステル;FAAH阻害剤、2j(PubChem CID:58801136);FAAH阻害剤、2e(PubChem CID:58801135);FAAH阻害剤、2a(PubChem CID:58801134);FAAH阻害剤、2b(PubChem CID:58801129);FAAH阻害剤、2f(PubChem CID:58801126)カルバミン酸、シクロヘキシル-、6-メチル[1,1’-ビフェニル]-3-イルエステル;FAAH阻害剤、2k(PubChem CID:58801125);FAAH阻害剤、2c(PubChem CID:57582480);FAAH阻害剤、2g(PubChem CID:44626363);FAAH阻害剤、2d(PubChem CID:44626362);AM374、パルミチルスルホニルフルオリド;ARN2508、フルルビプロフェンの誘導体;BIA10-2474;BMS-469908;CAY-10402;JNJ-245;JNJ-1661010;JNJ-28833155;JNJ-40413269;JNJ-42119779;JNJ-42165279;LY-2183240;カンナビジオール;MK-3168;MK-4409;MM-433593;OL-92;OL-135;PF-622;PF-750;PF-3845;PF-04457845;PF-04862853;RN-450;SA-47;SA-73;SSR-411298;ST-4068;TK-25;URB524;URB597(KDS-4103、Kadmus Pharmaceuticals);URB694;URB937;VER-156084;V-158866;およびChemCruz(登録商標)Biochemicals、Dallas、Texas)製の多重FAAH阻害剤によって例示される。
【0136】
一部の実施形態では、MRP2を阻害する化合物は、P-糖タンパク質(P-gp)を阻害する1つまたは複数の化合物、例えばP-gp RNAi;SipA;および小分子(例えば、ゾスキダル三塩酸塩(LY335979);VALSPODAR(登録商標)(PSC833)(P-gp媒介性MDRの阻害剤);CP100356塩酸塩(Sigma-Aldrich);およびエラクリダール塩酸塩(R&D Systems)によって例示される。また、国際公開第2004071498A1号、国際公開第2014106021A1号、国際公開第2005033101A1号、国際公開第2004009584A1号、国際公開第2002030915A2号、米国特許出願第20100029755A1号、および米国特許出願第20060073196A1号)を参照されたい。
【0137】
本発明の技術の化合物を投与する組成物の種類を制限する意図はないが、一部の実施形態では、本発明の技術の化合物(例えば、標的組織への好中球の遊走を低減する化合物、ならびに/またはMRP2およびHXA3シンターゼの1つもしくは複数の活性および/もしくはレベルを阻害する化合物、ならびに/またはN-アシルエタノールアミン(NAE)のレベルおよび/もしくは活性を増大する化合物)、および/または多剤耐性タンパク質1(MRP1)を増大する化合物は、ポリマーにコンジュゲートされる。
【0138】
本発明の技術のプロベネシドコンジュゲート
一部の実施形態では、本発明の技術は、式I
【化3】
[式中、Xは、リンカーであり、POLYは、ポリマーである]
によって定義されるプロベネシド-ポリマーコンジュゲートを開示する。
【0139】
一部の実施形態では、POLYは、デキストラン、ポリエチレングリコール(PEG)、過ヨウ素酸で酸化されたデキストラン、ポリシアル酸(PSA)、ヒアルロン酸(HA)、デキストリン、ヒドロキシエチル-デンプン(HES)、ポリ(2-エチル2-オキサゾリン)(PEOZ)、ポリグルタミン酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸-co-グリコール酸(PLGA)、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)(PLA/PLGA)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタアクリルアミド)、ポリグリセロール、25ポリアミドアミン(PAMAM)、ポリエチレンイミン(PEI)、およびポリペプチドからなる群より選択されるポリマーである。一部の実施形態では、PEGポリマーは、直鎖モノアミンおよびモノアルデヒド、直鎖バイアミン(bi-amine)およびバイアルデヒド(bi-aldehyde)、複数アームのアミンおよび複数アームのアルデヒド、分岐の1つ、2つおよび複数アームのアミンおよびアルデヒド、ならびに複数アームのフォーク型アミンおよびアルデヒドを含む、アミン(NH2)およびアルデヒド(CHO)で官能化される。これらのポリマーは、本明細書に記載される通り、任意の分子量を有することができる。
【0140】
一部の実施形態では、ポリマーは、約100Da~約800kDaの範囲の平均分子量を有する。(別段指定されない限り、「平均分子量」は、重量平均分子量を意味する)。一部の実施形態では、ポリマーは、約1kDa~約800kDaの範囲の平均分子量を有する。一部の実施形態では、ポリマーは、1kDa未満の平均分子量を有する。一部の実施形態では、ポリマーは、10kDa未満の平均分子量を有する。一部の実施形態では、ポリマーの平均分子量は、約10kDa、20kDa、30kDa、40kDa、50kDa、60kDa、70kDa、80kDa、90kDa、100kDa、125kDa、150kDa、175kDa、200kDa、225kDa、250kDa、275kDa、300kDa、325kDa、350kDa、375kDa、400kDa、425kDa、450kDa、475kDa、500kDa、550kDa、600kDa、650kDa、700kDa、750kDa、800kDa、またはこれらの値の2つを含むその間の任意の範囲である。
【0141】
本明細書に記載されるポリマーは、いくつかの異なる幾何形状のいずれかを有することができる。例えば、一部の実施形態では、ポリマーは、直鎖ポリマー、分岐ポリマー、フォーク型ポリマー、またはこれらのポリマーのいずれかの組合せである。
【0142】
一部の実施形態では、プロベネシドは、リンカーXを介してポリマーに結合される。一部の実施形態では、リンカーは、例えば結合能による干渉を回避するために、プロベネシド化合物とポリマーを遠ざけるためのスペーサとして働くことができる。リンカーは、1つまたは複数の原子、例えば、C、N、またはOから選択される1つまたは複数の原子を含む。一部のこのような実施形態では、リンカーは、1つまたは複数のH原子、例えば、NH、N(CH3)、またはCH2をさらに含むことができる。
【0143】
一部の実施形態では、リンカーは、生分解性リンカーである。一部の実施形態では、生分解性リンカーは、2~10個のアミノ酸残基を有するオリゴペプチドを含む。残基は、天然に存在するアミノ酸から選択することができる。
【0144】
一部の実施形態では、リンカーは、置換または非置換C1~CXアルキレン、シクロアルキレン、シクロアルキルアルキレン、ヘテロアルキレン、アルケニレン、またはヘテロアルケニレン基(式中、xは、1~12、すなわち1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12の任意の整数であってよい)を含む。例えば、リンカーは、水素原子の1つまたは複数が、フッ素原子、例えば1、2または3またはそれよりも多くのフッ素である、C1~Cxフルオロアルキル基を含むことができる。一部の実施形態では、Xは、それに限定されるものではないが(C1~C10アルキレン)-NH(例えば、CH2CH2NH、CH2CH2CH2NH、CH2CH2CH2CH2NH、CH2CH(CH3)CH(CH3)CH2NH)、(Cnアルキレン)NH(Cpアルキレン)(式中、n、pは、独立に、1~10の整数であるが、n+pは、10を超えない)(例えば、CH2CH2CH2NHCH2CH2)、NH-(C1~C10アルキレン)NH(例えば、NH(CH2)5NH、NH(CH2)6NH、NH(CH2)8NH)、またはNH(Cnアルキレン)NH(Cpアルキレン)(式中、nおよびpは、既に定義される通りの整数である)(例えば、NHCH2CH2CH2NHCH2CH2、NH(CH2)6NHCH2)を含む、1つまたは2つのNH基を含有するヘテロアルキレンである。一部の実施形態では、Xは、それに限定されるものではないが(C1~C10アルキレン)-O(例えば、CH2CH2O、CH2CH2CH2O、CH2CH2CH2CH2O、CH2CH(CH3)CH(CH3)CH2O)、(Cnアルキレン)O(Cpアルキレン)(式中、n、pは、独立に、1~10の整数であるが、n+pは、10を超えない)(例えば、CH2CH2CH2OCH2CH2)、O-(C1~C10アルキレン)O(例えば、O(CH2)5O、O(CH2)6O、O(CH2)8O)、またはO(Cnアルキレン)O(Cpアルキレン)(式中、nおよびpは、既に定義される通りの整数である)(例えば、OCH2CH2CH2OCH2CH2、O(CH2)6OCH2)を含む、1つまたは2つの酸素原子を含有するヘテロアルキレンである。一部の実施形態では、Xは、それに限定されるものではないが、NH-(C1~C10アルキレン)O、(例えば、NH(CH2)5O、NH(CH2)6O、NH(CH2)8O)、またはNH(Cnアルキレン)O(Cpアルキレン)(式中、nおよびpは、既に定義される通りの整数である)(例えば、NHCH2CH2OCH2CH2、O(CH2)6NHCH2)を含む、OおよびNH基を含有するヘテロアルキレンである。
【0145】
プロベネシド-ポリマーコンジュゲートは、当技術分野で公知の標準技術を使用して調製することができる。一部の実施形態では、官能基の1つが保護されている、N、O、およびSから選択されるヘテロ原子を含有する少なくとも2つの官能基を含有する二官能性リンカーは、標準エステル、チオエステルおよびアミド結合形成技術を使用してコンジュゲートすることができる。例えば、アミノ基の1つがウレタン保護基(例えば、Boc、Cbz等)によって保護されるジアミノ-アルキレンリンカーは、カップリング剤(例えば、DCC、EDC/HOBt等)の存在下でプロベネシドにカップリングすることができる。あるいは、プロベネシドの活性なエステル、混合無水物または酸ハロゲン化物誘導体を調製し、モノ保護ジアミンと反応させることができる。(例えば、Bodansky, M. & Bodanszky, A., The Practice of Peptide Synthesis, Springer-Verlag, New York, 1984を参照されたい)。保護基は除去することができ、遊離アミンは、還元条件下でポリマーのアルデヒド誘導体と反応して、コンジュゲートを提供する。同様に、保護されたアルデヒド(例えば、1,1-ジメトキシ)およびアミンを含むリンカーを、プロベネシドとカップリングさせ、脱保護してアルデヒドを形成し、アミノ担持ポリマーを用いる還元的アミノ化に供してコンジュゲートを形成することができる。プロベネシドおよびポリマーを連結するための、α,ω-カルボキシアミン、α,ω-アミノアルコール、α,ω-カルボキシアルコール、α,ω-アミノチオール等を使用するこれらのスキームの変形形態は、当業者によって容易に理解されよう。
【0146】
C.NAEを増大する化合物
N-アシルエタノールアミン(NAE)を増大する化合物の種類を制限する意図はないが、一部の実施形態では、NAEを増大する化合物は、カンナビノイド受容体タイプ2(CB2)「アゴニスト」(すなわち、CB2に特異的に結合し、活性化する化合物)である。例示的なCB2アゴニストとして、GW-405,833、AM-1241、HU-308、JWH-015、JWH-133、L-759,633、L-759,656、ベータ-カリオフィレン、アラキドニルシクロプロピルアミド、およびアラキドニル-2’-クロロエチルアミドが挙げられる。
【0147】
IV.本発明の技術の組成物の使用
本発明の技術は、それを必要とする哺乳動物被験体の標的組織の好中球媒介性炎症を処置、防止または改善するための方法であって、被験体に、多剤耐性タンパク質2(MRP2)およびヘポキシリンA3(HXA3)シンターゼの1つまたは複数を阻害する治療有効量の1つまたは複数の第1の化合物を投与するステップを含み、治療有効量の第1の化合物が、標的組織への好中球の遊走を低減する、方法を提供する。一部の実施形態では、第1の化合物は、プロベネシドコンジュゲートである。一部の実施形態では、プロベネシドコンジュゲートは、プロベネシド-過ヨウ素酸で酸化された40kDaのデキストランコンジュゲートである。一部の実施形態では、該方法は、被験体に、1つまたは複数のN-アシルエタノールアミン(NAE)を増大する治療有効量の1つまたは複数の第2の化合物を投与するステップをさらに含み、治療量の第2の化合物は、標的組織への好中球の遊走を低減する。さらなる実施形態では、該方法は、被験体に、多剤耐性タンパク質1(MRP1)のレベルおよび/または活性を増大する治療有効量の1つまたは複数の第2および/または第3の化合物を投与するステップをさらに含み、治療量の1つまたは複数の第2および/または第3の化合物は、標的組織への好中球の遊走を低減する。別の実施形態では、本発明の技術の化合物は、単独または任意の組合せで、標的組織の局所表面および/または標的組織の管腔表面に投与される。さらなる実施形態では、標的組織への好中球の遊走を低減する第1の化合物は、ポリマーにコンジュゲートされる。別の実施形態では、炎症は、非感染性および/または感染性炎症である。
【0148】
本発明の技術はまた、それを必要とする哺乳動物被験体の標的組織の好中球媒介性炎症を処置、改善または防止するための方法であって、被験体に、1つまたは複数のN-アシルエタノールアミン(NAE)を増大する治療有効量の1つまたは複数の第1の化合物を投与するステップを含み、治療量の第1の化合物が、標的組織への好中球の遊走を低減する、方法を提供する。一実施形態では、該方法は、被験体に、多剤耐性タンパク質2(MRP2)およびHXA3シンターゼの1つまたは複数を阻害する治療有効量の1つまたは複数の第2の化合物を投与するステップをさらに含み、治療量の第2の化合物は、標的組織への好中球の遊走を低減する。一部の実施形態では、第2の化合物は、プロベネシドコンジュゲートである。一部の実施形態では、プロベネシドコンジュゲートは、プロベネシド-過ヨウ素酸で酸化された40kDaのデキストランコンジュゲートである。別の実施形態では、該方法は、被験体に、多剤耐性タンパク質1(MRP1)のレベルおよび/または活性を増大する治療有効量の1つまたは複数の第2および/または第3の化合物を投与するステップをさらに含み、治療量の1つまたは複数の第2および/または第3の化合物は、標的組織への好中球の遊走を低減する。さらなる実施形態では、1つまたは複数のNAEを増大する1つまたは複数の第1の化合物は、カンナビノイド受容体タイプ2(CB2)アゴニストである。別の実施形態では、標的組織への好中球の遊走を低減する第1の化合物は、ポリマーにコンジュゲートされる。
【0149】
一態様では、本発明の技術の方法および組成物は、式I
【化4】
[式中、Xは、リンカーであり、POLYは、ポリマーである]
によって定義されるプロベネシド-ポリマーコンジュゲート、およびそれを必要とする被験体の標的組織の好中球媒介性炎症を処置、改善または防止するためのこれらのコンジュゲートの1つまたは複数の使用に関する。他の実施形態では、プロベネシドコンジュゲートと、1つまたは複数の化合物(例えば、MRP1のレベルおよび/もしくは活性を増大する化合物、またはNAEを増大する化合物)の組合せは、これに関して相乗効果を示す。
【0150】
一部の実施形態では、本発明の技術の方法および組成物は、炎症性腸疾患(IBD)、例えば潰瘍性大腸炎(UC)、クローン病(CD)、および感染性/非感染性腸炎を処置、改善または防止するための、式Iのプロベネシドコンジュゲートの1つまたは複数の使用に関する。他の実施形態では、プロベネシドコンジュゲートと、1つまたは複数の化合物(例えば、MRP1のレベルおよび/もしくは活性を増大する化合物、またはNAEを増大する化合物)の組合せは、これに関して相乗効果を示す。
【0151】
一部の実施形態では、本発明の技術の方法および組成物は、それに限定されるものではないが、肺炎球菌感染、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、および肺線維症を含む感染性および非感染性炎症性肺状態を処置、改善または防止するための、式Iのプロベネシドコンジュゲートの1つまたは複数の使用に関する。他の実施形態では、プロベネシドコンジュゲートと、1つまたは複数の化合物(例えば、MRP1のレベルおよび/もしくは活性を増大する化合物、またはNAEを増大する化合物)の組合せは、これに関して相乗効果を示す。
【0152】
一部の実施形態では、本発明の技術の方法および組成物は、それに限定されるものではないが、皮膚炎(湿疹)、酒さ、脂漏性皮膚炎、および乾癬を含む炎症性皮膚疾患を処置、改善または防止するための、式Iのプロベネシドコンジュゲートの1つまたは複数の使用に関する。他の実施形態では、プロベネシドコンジュゲートと、1つまたは複数の化合物(例えば、MRP1のレベルおよび/もしくは活性を増大する化合物、またはNAEを増大する化合物)の組合せは、これに関して相乗効果を示す。
【0153】
本発明の技術の方法は、身体の一部が傷害および/または感染に反応する、限局的身体状態である「炎症」を処置するのに有用である。炎症の典型的な症状は、発熱、発赤、腫脹、疼痛、および/または機能喪失である。これらは、炎症過程中に生じる生理的変化の症状発現である。この過程の主な3つの構成成分は、(1)血管内径および血管を通る血流の速度変化(血行動態変化)、(2)毛細血管透過性の増大、ならびに(3)白血球滲出である。「好中球媒介性炎症」は、好中球が小血管内膜に移動し(辺縁趨向)、密集形態で内皮を覆う(舗装(pavementing))、白血球滲出および炎症ステージを指す。最終的に、これらの好中球は、内皮空間を移動し、血管外空間に逃避する(移動)。好中球は、血管外に到達すると、自由に移動し、走化性によって傷害部位に引き付けられる。炎症領域への好中球(およびマクロファージ)の蓄積は、貪食によって外来粒子を中和するように作用する。
【0154】
炎症には、発熱、発赤、腫脹、疼痛および機能喪失の古典的徴候を特徴とし、血管および滲出過程が優勢な、通常急激に発生する急性炎症;粘液および上皮残屑の大量放出を特徴とする、主に粘膜表面に影響を及ぼす形態であるカタル性炎症;新しい結合組織の形成を主に特徴とする長期的および持続的炎症である慢性炎症(急性形態または長期的な低悪性度形態の継続である場合がある);器官間質に主に影響を及ぼす炎症である、間質性炎症;創傷または傷害に続く炎症である外傷性炎症;表面上または表面近くの壊死によって組織が喪失し、局所的欠損(潰瘍)が創出される潰瘍性炎症が含まれる。
【0155】
炎症は、感染性および/または非感染性であり得る。「感染性」炎症は、体内に普通は存在しない微生物、例えば細菌、ウイルス、および寄生生物の侵襲および増殖と関連し、かつ/またはそれらによって引き起こされる炎症を指す。それとは対照的に、「非感染性」炎症は、体内に普通は存在しない微生物、例えば細菌、ウイルス、および寄生生物の侵襲および増殖と関連せず、かつ/またはそれらによって引き起こされていない炎症を指す。
【0156】
別の実施形態では、本発明の技術は、炎症促進性MRP2/HXA
3経路を標的にすることによって好中球媒介性炎症を処置するための方法を提供する(
図10)。特定の実施形態では、それを必要とする哺乳動物被験体の標的組織の好中球媒介性炎症を処置するためのこの方法は、被験体に、多剤耐性タンパク質2(MRP2)およびヘポキシリンA3(HXA
3)シンターゼの1つまたは複数の活性および/またはレベルを阻害する治療有効量の1つまたは複数の第1の化合物を投与するステップを含み、治療量の第1の化合物は、標的組織への好中球の遊走を低減する。一部の実施形態では、化合物は、プロベネシドコンジュゲートである。
【0157】
本発明の技術のプロベネシドコンジュゲートの生物学的効果の決定
様々な実施形態では、適切なin vitroまたはin vivoアッセイを実施して、本発明の技術の特異的組成物の効果を決定し、その投与が処置に適応されるかどうかを決定する。様々な実施形態では、in vitroアッセイは、代表的な細胞系アッセイ、例えば好中球遊走アッセイを用いて実施することができる。他の実施形態では、動物モデルの典型となるin vivoモデルを使用して、所与のプロベネシドコンジュゲートが、単独で、または1つもしくは複数のさらなる化合物(例えば、MRP2およびHXA3シンターゼの1つもしくは複数を阻害するさらなる化合物、MRP1のレベルおよび/もしくは活性を増大する化合物、またはNAEを増大する化合物)との組合せで、疾患または状態の処置において所望の効果を発揮するかどうかを決定することができる。治療において使用するための化合物は、ヒト被験体で試験する前に、それに限定されるものではないが、ラット、マウス、ニワトリ、ウシ、サル、ウサギ等を含む適切な動物モデル系において試験することができる。同様にin vivo試験のために、ヒト被験体に投与する前に、当技術分野で公知の動物モデル系のいずれかを使用することができる。
【0158】
V.プロベネシドコンジュゲートおよび他の治療剤との組合せ治療
一部の実施形態では、本発明の技術のプロベネシドコンジュゲートは、疾患または状態を防止、改善、または処置するための1つまたは複数のさらなる治療剤と組み合わせることができる。
【0159】
一実施形態では、追加の治療剤は、相乗的治療効果がもたらされるように、本発明の技術のプロベネシドコンジュゲートと組み合わせて被験体に投与される。
【0160】
一部の実施形態では、本発明の技術のプロベネシドコンジュゲートは、先のセクションIIIAに記載される、多剤耐性タンパク質1(MRP1)のレベルを増大する1つまたは複数の化合物と組み合わされる。
【0161】
一部の実施形態では、本発明の技術のプロベネシドコンジュゲートは、先のセクションIIIBに記載される、多剤耐性タンパク質2(MRP2)およびヘポキシリンA3(HXA3)シンターゼの1つまたは複数を阻害する1つまたは複数のさらなる化合物と組み合わされる。
【0162】
一部の実施形態では、本発明の技術のプロベネシドコンジュゲートは、先のセクションIIICに記載される、N-アシルエタノールアミン(NAE)を増大する1つまたは複数のさらなる化合物と組み合わされる。
【0163】
一部の実施形態では、本発明の技術のプロベネシドコンジュゲートは、それに限定されるものではないが、潰瘍性大腸炎およびクローン病を含む、好中球媒介性炎症および好中球媒介性炎症と関連する状態を処置するための1つまたは複数のさらなる治療剤と組み合わされる。一部の実施形態では、本発明の技術は、多剤耐性タンパク質1(MRP1)のレベルおよび/もしくは活性を増大する第1の化合物、多剤耐性タンパク質2(MRP2)およびヘポキシリンA3(HXA3)シンターゼの1つもしくは複数を阻害するプロベネシドコンジュゲートなどの第2の化合物、ならびに/または1つもしくは複数のN-アシルエタノールアミン(NAE)を増大する第3の化合物の1つまたは複数を含む組成物を提供する。
【0164】
複数の治療剤(例えば、プロベネシドコンジュゲート、MRP1のレベルおよび/もしくは活性を増大する化合物、MRP2およびHXA3シンターゼのさらなる阻害剤、ならびに/またはNAEを増大する化合物)は、任意の順序で、またはさらには同時に投与することができる。同時の場合、複数の治療剤は、単一の統一された形態で、または複数の形態で(単なる例として、単一製剤または2つの別個の製剤いずれかとして)提供され得る。治療剤の一方を、複数回用量で与えることができ、または両方を複数回用量として与えることができる。同時でない場合、複数回用量の間のタイミングは、0週を超え4週未満で変わり得る。さらに、方法、組成物および製剤の組合せは、2つの薬剤だけの使用に限定されない。
【0165】
一部の実施形態では、本発明の技術の方法は、被験体に、1つまたは複数のN-アシルエタノールアミン(NAE)のレベルおよび/または活性を増大する治療有効量の少なくとも1つの化合物を投与するステップをさらに含み、治療量の化合物は、標的組織への好中球の遊走を低減する。
【0166】
一実施形態では、NAEを増大する化合物は、NAEを増大する化合物の種類を制限することを企図せず、カンナビノイド受容体タイプ2(CB2)「アゴニスト」(すなわち、CB2に特異的に結合し、活性化する化合物)である。CB2アゴニストは、GW-405,833、AM-1241、HU-308、JWH-015、JWH-133、L-759,633、L-759,656、ベータ-カリオフィレン、アラキドニルシクロプロピルアミド、およびアラキドニル-2’-クロロエチルアミドによって例示される。
【0167】
一部の実施形態では、本発明の技術の方法は、1つまたは複数の抗生物質および/または抗炎症剤を投与するステップをさらに含むことができる。単独で、または本発明の技術の方法と組み合わせて使用される抗生物質/抗炎症剤の例として、それに限定されるものではないが、ダルババンシン(DALVANCE(登録商標)、XYDALBA(登録商標))、オリタバンシン(ORBACTIVE(登録商標))、ダプトマイシン(Cubicin(登録商標))、テジゾリド(SIVEXTRO(登録商標))、セフトビプロール(ZEVTERA(登録商標)、MABELIO(登録商標))、セフトビプロール(ZEVTERA(登録商標)、MABELIO(登録商標))、セフトロザン-タゾバクタム(ZERBAXA(登録商標))、ムピロシン、硫酸ネオマイシン・バシトラシン、ポリミキシンB、1-オフロキサシン、リン酸クリンダマイシン、硫酸ゲンタマイシン、メトロニダゾール、ヘキシルレゾルシノール、塩化メチルベンゼトニウム、フェノール、第四級アンモニウム化合物、ティーツリー油、ステロイド系薬剤、例えばコルチコステロイド、例えばヒドロコルチゾン、ヒドロキシルトリアムシノロンアルファメチルデキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、吉草酸クロベタゾール、デソニド、デスオキシメタゾン、酢酸デスオキシコルチコステロン、デキサメタゾン、ジクロリゾン、二酢酸ジフロラゾン、吉草酸ジフルコルトロン、フルアドレノロン、フルクラロロンアセトニド、フルドロコルチゾン、ピバル酸フルメタゾン、フルオシノロンアセトニド、フルオシノニド、フルコルチンブチルエステル、フルオコルトロン、酢酸フルプレドニデン(フルプレドニリデン)、フルランドレノロン、ハルシノニド、酢酸ヒドロコルチゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロンアセトニド、コルチゾン、コルトドキソン、フルセトニド、フルドロコルチゾン、二酢酸ジフルオロソン、フルラドレナロンアセトニド、メドリゾン、アムシアフェル、アムシナフィド、ベタメタゾン、クロロプレドニゾン、酢酸クロロプレドニゾン、クロコルトロン、クレスシノロン、ジクロリゾン、ジフルプレドナート、フルクロロニド、フルニソリド、フルオロメトロン、フルペロロン、フルプレドニゾロン、吉草酸ヒドロコルチゾン、シクロペンチルプロピオン酸ヒドロコルチゾン、ヒドロコルタメート、メプレドニゾン、パラメタゾン、プレドニゾロン、プレドニゾン、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、トリアムシノロン、非ステロイド系薬剤、例えばCOX阻害剤、LOX阻害剤、p38キナーゼ阻害剤、免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、ならびにサイトカイン合成阻害剤、テトラサイクリン、ミノサイクリンおよびドキシサイクリン、またはそれらの任意の組合せが挙げられる。
【0168】
一部の実施形態では、本発明の技術の方法は、Clostridium difficile毒素、腫瘍壊死因子(TNF)、インターロイキン、メタロプロテイナーゼ-9の1つまたは複数を標的にする抗体(例えば、抗体GS-5745、Gilead)などの1つまたは複数の抗体を投与するステップをさらに含むことができる。
【0169】
一部の実施形態では、本開示は、クローン病を処置、改善、または防止するための方法であって、1つまたは複数の本発明の技術の化合物を、少なくとも1つのまたは複数のメサラミン生成物、コルチコステロイド製剤、従来のコルチコステロイドおよび回腸放出ブデソニドの両方、グルココルチコステロイド/EEN免疫調節薬(例えば、アザチオプリン、6-メルカプトプリン、およびメトトレキセート)、抗腫瘍壊死因子(TNF)薬物(例えば、インフリキシマブ(Remicade、Janssen)、アダリムマブ(Humira、AbbVie)、およびセルトリズマブペゴル(Cimzia、UCB))、抗アルファ-4ベータ-7インテグリン抗体ベドリズマブ(Entyvio、武田)、JAK阻害剤ABT-494(AbbVie)、ならびにフィルゴチニブ(GLPG0634、GalapagosおよびGilead)(Sandborn, Gastroenterology & Hepatology 12(7) (2016))と組み合わせて投与するステップを含む、方法を包含する。
【0170】
一部の実施形態では、本開示は、潰瘍性大腸炎を処置、改善、または防止するための方法であって、1つまたは複数の本発明の技術の化合物を、5-アミノサリチレート、メサラミン、従来のコルチコステロイドまたはマルチマトリクスブデソニド(Uceris、Salix)(結腸に薬物を送達する)、アザチオプリン、6-メルカプトプリン、抗TNF薬物(例えば、インフリキシマブ、アダリムマブ、およびゴリムマブ(Simponi、Janssen))、ベドリズマブ、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤(例えば、トファシチニブ(Xeljanz、Pfizer)ABT-494(AbbVie)、ならびにフィルゴチニブ(GLPG0634、GalapagosおよびGilead))(Sandborn、2016)の1つまたは複数と組み合わせて投与するステップを含む、方法を包含する。
【0171】
VI.投与方法
細胞、器官、または組織を本発明の技術の化合物と接触させるための当業者に公知の任意の方法を用いることができる。適切な方法には、in vitro、ex vivo、またはin vivo方法が含まれる。
【0172】
in vitro方法は、典型的に培養試料を含む。例えば、細胞を、リザーバー(例えば、組織培養プレート)に置き、所望の結果を得るのに適した適切な条件下で化合物と共にインキュベートすることができる。適切なインキュベーション条件は、当業者によって容易に決定され得る。
【0173】
ex vivo方法は、典型的に、哺乳動物、例えばヒトから取り出された細胞、器官または組織を含む。細胞、器官または組織は、例えば、適切な条件下で化合物と共にインキュベートすることができる。接触させられた細胞、器官または組織は、典型的に、ドナーに戻されるか、レシピエントに置かれるか、または将来的な使用のために保存される。したがって、化合物は、一般に、薬学的に許容される担体中にある。
【0174】
in vivo方法は、典型的に、本発明の技術の化合物を、哺乳動物、例えばヒトに投与するステップを含む。本発明の技術の化合物は、治療のためにin vivoで使用される場合、例えば哺乳動物を処置する所望の結果を得るのに有効な量で、哺乳動物に投与される。有効量は、医師および臨床医に知られている方法によって、前臨床治験および臨床治験中に決定される。用量および投与レジメンは、被験体の疾患または状態の程度、使用される本発明の技術の特定の化合物の特徴、例えばその治療指数、被験体、および被験体の病歴に応じて変わる。
【0175】
本発明の方法において、例えば医薬組成物または医薬品において有用な有効量の本発明の技術の化合物は、医薬組成物または医薬品を投与するためのいくつかの周知の方法のいずれかによって、それを必要とする哺乳動物に投与することができる。本発明の技術の化合物は、全身的または局所的に投与することができる。
【0176】
本明細書に記載される本発明の技術の化合物は、本明細書に記載される障害を処置または防止するために、被験体に投与するための医薬組成物に単独でまたは組合せで組み込むことができる。このような組成物は、典型的に、活性剤および薬学的に許容される担体を含む。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、薬学的投与と適合性のある、生理食塩水、溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張化剤、ならびに吸収遅延剤等を含む。補足的な活性化合物を、組成物に組み込むこともできる。
【0177】
一部の実施形態では、本開示の医薬組成物は、化合物または混合物を、錠剤、カプセル剤または丸剤として経口投与可能にするか、あるいは非経口、静脈内、皮内、筋肉内もしくは皮下、または経皮投与可能にするのに適した、薬学的に許容される担体および/または賦形剤を含有する。
【0178】
医薬組成物は、典型的に、所期の投与経路と適合性を示すように製剤化される。本開示の医薬組成物の投与は、当業者に公知の任意の手段によって達成され得る。投与経路には、それに限定されるものではないが、非経口、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、気管内、皮下、経口、鼻腔内/呼吸器(例えば、吸入)、経皮(局所)、舌下、眼、膣内、直腸、および経粘膜投与が含まれる。全身経路には、経口および非経口が含まれる。吸入による投与のために、普通はいくつかの種類のデバイスが使用される。これらのデバイスの種類には、定量吸入器(MDI)、呼気駆動型(breath-actuated)MDI、乾燥粉末吸入器(DPI)、スペーサ/保持チャンバとMDIの組合せ、および噴霧器が含まれる。
【0179】
経口投与では、化合物は、活性化合物を、当技術分野で周知の薬学的に許容される担体と組み合わせることによって容易に製剤化することができる。このような担体によって、本開示の化合物を、処置される被験体によって経口摂取されるように、錠剤、丸剤、糖剤、カプセル剤、液体、ゲル剤、シロップ剤、スラリー、懸濁剤等として製剤化することができる。経口使用のための医薬調製物は、必要に応じて得られた混合物を粉砕し、所望に応じて適切な助剤を添加した後に顆粒混合物を加工して、錠剤または糖剤コアを得ることにより、固体賦形剤として得ることができる。適切な賦形剤は、特に、充填剤、例えばラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールを含む糖;セルロース調製物、例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、バレイショデンプン、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル-セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および/またはポリビニルピロリドン(PVP)などである。所望に応じて、崩壊剤、例えば架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩、例えばアルギン酸ナトリウムを添加することができる。必要に応じて、経口製剤は、生理食塩水、もしくは内部酸性条件を中和するための緩衝液で製剤化することもでき、または任意の担体を用いずに投与することができる。
【0180】
経口で使用することができる医薬調製物には、ゼラチン製のプッシュフィット式カプセル剤、ならびにゼラチンおよび可塑剤、例えばグリセロールまたはソルビトール製の封止軟カプセル剤が含まれる。プッシュフィット式カプセル剤は、充填剤、例えばラクトース、結合剤、例えばデンプン、および/または滑沢剤、例えばタルクもしくはステアリン酸マグネシウム、および必要に応じて安定剤と混合して、活性成分を含有することができる。軟カプセルでは、活性化合物は、適切な液体、例えば脂肪油、流動パラフィン、または液体ポリエチレングリコールに溶解させるか、または懸濁させることができる。さらに、安定剤を添加することができる。経口投与のために製剤化されたミクロスフェアを使用することもできる。このようなミクロスフェアは、当技術分野で十分に定義されている。経口投与のためのすべての製剤は、このような投与に適した投与量であるべきである。
【0181】
口腔投与では、組成物は、従来の方式で製剤化された錠剤またはロゼンジ剤の形態をとることができる。
【0182】
吸入による投与では、本開示に従って使用するための化合物は、加圧パックまたは噴霧器から提示されるエアロゾルスプレーの形態で、適切な噴霧体、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適切なガスの使用を伴って、好都合に送達することができる。加圧エアロゾルの場合、投与量単位は、計量された量を送達するための弁を提供することによって決定することができる。吸入器または通気器において使用するために、化合物および適切な粉末基剤、例えばラクトースまたはデンプンの粉末ミックスを含有する、例えばゼラチンのカプセル剤およびカートリッジを製剤化することができる。
【0183】
化合物は、全身送達することが望ましい場合、注射によって、例えばボーラス注射または持続注入によって非経口投与するために製剤化することができる。注射のための製剤は、単位剤形で、例えばアンプルまたは多用量容器に添加される保存剤と共に入れて提示され得る。組成物は、油性または水性ビヒクル中の懸濁物、溶液またはエマルジョンなどの形態をとることができ、製剤用薬剤、例えば懸濁化剤、安定化剤および/または分散剤を含有することができる。
【0184】
非経口投与のための医薬製剤には、水溶性形態の活性化合物の水溶液が含まれる。さらに、活性化合物の懸濁物は、適切な油性注射懸濁物として調製することができる。適切な親油性溶媒またはビヒクルには、脂肪油、例えばゴマ油、または合成脂肪酸エステル、例えばオレイン酸エチルもしくはトリグリセリド、またはリポソームが含まれる。水性注射懸濁物は、懸濁物の粘度を増大する物質、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、またはデキストランを含有することができる。必要に応じて、懸濁物はまた、適切な安定剤、または化合物の溶解度を増大して高度に濃縮された溶液を調製することを可能にする薬剤を含有することができる。
【0185】
あるいは活性化合物は、使用前に適切なビヒクル、例えば発熱物質を含まない無菌水を用いて構成するために、粉末形態であってよい。
【0186】
化合物は、例えば従来の坐剤基剤、例えばカカオバターまたは他のグリセリドを含有する坐剤または停留浣腸などの、直腸または膣内組成物に製剤化することもできる。
【0187】
一部の実施形態では、投与は、処置される組織の局所および/または管腔表面で行われる。組成物の「局所」投与は、組成物を皮膚と接触させることを意味する。「管腔表面」は、開放内部空間または管状器官の腔、例えば血液が流れる動脈または静脈の中心内部空間;胃腸管内部;肺の気管支経路;腎尿細管および集合尿細管の内部;膣の単一経路で始まり、子宮内の2つの管腔に分かれて共に卵管に続く女性生殖器経路を指す。
【0188】
一部の実施形態では、本発明の技術の化合物は、標的組織に局所投与されるか、および/または標的組織の管腔表面に投与される。これは、化合物の潜在的な全身毒性副作用を低減するのに有利である。
【0189】
他の送達系には、時限放出、遅延放出または持続放出送達系が含まれ得る。このような系は、化合物の反復投与を回避して、被験体および医師への利便性を増すことができる。多くの種類の放出送達系が利用可能であり、当業者に公知である。放出送達系には、ポリマーベース系、例えばポリ(ラクチド-グリコリド)、コポリオキサレート、ポリカプロラクトン、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシ酪酸、およびポリ酸無水物が含まれる。薬物を含有する先のポリマーのマイクロカプセルは、例えば、米国特許第5,075,109号に記載されている。送達系には、ステロールを含む脂質、例えばコレステロール、コレステロールエステルおよび脂肪酸または中性脂肪、例えばモノ-、ジ-、およびトリ-グリセリド;ヒドロゲル放出系;サイラスティック系;ペプチドベース系;ワックスコーティング;従来の結合剤および賦形剤を使用する圧縮錠剤;部分的に融合した移植片等である非ポリマー系も含まれる。具体例として、それに限定されるものではないが、(a)本開示の薬剤がマトリクス内の形態で含有される浸食系、例えば米国特許第4,452,775号、第4,675,189号および第5,736,152号に記載されているもの、ならびに(b)例えば米国特許第3,854,480号、第5,133,974号および第5,407,686号に記載されている、活性な構成成分がポリマーから調節された速度で浸透する拡散系が挙げられる。さらに、ポンプベースのハードウェア送達系を使用することができ、その一部は、移植に適合している。
【0190】
VII.核酸を細胞に送達するための方法
一部の実施形態では、阻害性オリゴヌクレオチド(例えば、干渉RNA)およびまたはタンパク質は、阻害剤であるオリゴヌクレオチドおよびまたはタンパク質を発現するように操作された発現ベクターによって、細胞に送達することができる。発現ベクターは、制御配列に作動可能に結合し、RNA転写物として発現され得るように、望ましい配列を、例えば制限およびライゲーションによって挿入することができるものである。発現ベクターは、典型的に、タンパク質または阻害性オリゴヌクレオチドをコードする配列であるインサート、例えばshRNA、miRNA、またはmiRNAを含有する。ベクターはさらに、ベクターを形質転換したもしくはしていない、またはベクターをトランスフェクトしたもしくはしていない細胞の特定に使用するのに適した1つまたは複数のマーカー配列を含有することができる。マーカーには、例えば、抗生物質または他の化合物に対する抵抗性または感受性のいずれかを増大または低減する、タンパク質をコードする遺伝子、標準アッセイまたは蛍光性タンパク質等によって検出可能な活性を有する酵素をコードする遺伝子が含まれる。
【0191】
本明細書で使用される場合、コード配列(例えば、タンパク質コード配列、miRNA配列、shRNA配列)および制御配列は、そのコード配列の発現または転写をその制御配列の影響または調節下に置くようなやり方で共有結合によって連結する場合には、「作動可能に」結合するとされる。コード配列が機能的タンパク質に翻訳されることが望ましい場合、2つのDNA配列は、5’制御配列におけるプロモーターの誘導が、コード配列の転写をもたらす場合、ならびに2つのDNA配列間の連結の性質が、(1)フレームシフト変異の導入をもたらさず、(2)プロモーター領域がコード配列の転写を方向付ける能力を妨害せず、また(3)対応するRNA転写物がタンパク質に翻訳される能力を妨害しない場合、作動可能に結合するとされる。したがって、プロモーター領域は、プロモーター領域がそのDNA配列を転写することができ、したがって、得られた転写物が、所望のタンパク質またはポリペプチドに翻訳され得る場合、コード配列に作動可能に結合することができる。コード配列は、miRNA、shRNA、またはmiRNAをコードし得ることを理解されよう。
【0192】
遺伝子発現に必要な制御配列の正確な性質は、種または細胞型によって変わり得るが、一般に必要に応じて、転写および翻訳の開始にそれぞれ関与する5’非転写配列および5’非翻訳配列、例えばTATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列等を含むはずである。このような5’非転写制御配列は、作動可能に結合した遺伝子の転写調節のためのプロモーター配列を含むプロモーター領域を含む。制御配列は、所望に応じてエンハンサー配列または上流のアクチベーター配列を含むこともできる。本開示のベクターは、必要に応じて5’リーダー配列またはシグナル配列を含むことができる。
【0193】
一部の実施形態では、核酸分子を送達するためのウイルスベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルスおよび弱毒化ポックスウイルスを含むポックスウイルス、セムリキ森林ウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、レトロウイルス、シンドビスウイルス、およびTyウイルス様粒子からなる群より選択される。外因性核酸を送達するために使用されているウイルスおよびウイルス様粒子の例として、複製欠損アデノウイルス、改変レトロウイルス、非複製レトロウイルス、複製欠損セムリキ森林ウイルス、カナリアポックスウイルスおよび高度弱毒化ワクシニアウイルス誘導体、非複製ワクシニアウイルス、複製ワクシニアウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、シンドビスウイルス、レンチウイルスベクターおよびTyウイルス様粒子が挙げられる。
【0194】
ある特定の適用に有用な別のウイルスは、アデノ随伴ウイルスである。アデノ随伴ウイルスは、広範な細胞型および種に感染することができ、操作して複製欠損にすることができる。アデノ随伴ウイルスはさらに、熱および脂質溶媒安定性、造血細胞を含む多様な系列の細胞への高頻度形質導入、ならびに重複感染阻害が欠如し、したがって多重連続形質導入を可能にすることなどの利点を有する。アデノ随伴ウイルスは、部位に特異的な方式でヒト細胞DNAに組み込み、それによって、挿入変異誘発の可能性および挿入遺伝子発現の変動性を最小限に抑えることができる。さらに、野生型アデノ随伴ウイルス感染は、組織培養で、選択圧がない状態で100回を超える継代の間受け継がれており、このことは、アデノ随伴ウイルスゲノムの組み込みが、比較的安定な事象であることを暗示している。アデノ随伴ウイルスは、染色体外で機能することもできる。
【0195】
一般に、他の有用なウイルスベクターは、非必須遺伝子が目的の遺伝子で置き換えられている非細胞変性真核生物ウイルスに基づくものである。非細胞変性ウイルスには、そのライフサイクルに、ゲノムウイルスRNAのDNAへの逆転写と、その後の宿主細胞DNAへのプロウイルスの組み込みが伴う、ある特定のレトロウイルスが含まれる。一般に、レトロウイルスは、複製欠損である(例えば、所望の転写物の合成を方向付けることはできるが、感染性粒子を製造することはできない)。遺伝的に変えられたこのようなレトロウイルス発現ベクターは、in vivoでの高効率の遺伝子形質導入に対する一般的な実用性を有している。複製欠損レトロウイルスを生成するための標準プロトコール(外因性遺伝物質をプラスミドに組み込み、プラスミドで覆われたパッケージング細胞をトランスフェクトし、パッケージング細胞株によって組換えレトロウイルスを生成し、組織培養培地からウイルス粒子を収集し、標的細胞をウイルス粒子で感染させるステップを含む)は、Kriegler, M., “Gene Transfer and Expression, A Laboratory Manual,” W.H. Freeman Co., New York (1990)およびMurry, E.J. Ed.
“Methods in Molecular Biology,” vol. 7,
Humana Press, Inc., Clifton, New Jersey
(1991)に提供されている。一部の実施形態では、DUX4のエピジェネティックモジュレーター(例えば、干渉RNAまたは遺伝子編集複合体)が、レンチウイルスベクターによって細胞(例えば被験体の細胞)に送達される。
【0196】
核酸分子がin vitroまたはin vivoのいずれで宿主に導入されるかに応じて、本開示の核酸分子を細胞に導入するための様々な技術を用いることができる。このような技術には、核酸分子-リン酸カルシウム沈殿物のトランスフェクション、DEAEと関連する核酸分子のトランスフェクション、目的の核酸分子を含む前述のウイルスを用いるトランスフェクションまたは感染、リポソーム媒介性トランスフェクション等が含まれる。他の例として、Sigma-AldrichによるN-TER(商標)ナノ粒子トランスフェクション系、Polyplus Transfectionによる昆虫細胞のためのFectoFly(商標)トランスフェクション試薬、Polysciences,Inc.によるポリエチレンイミン「Max」、Cosmo Bio Co.,Ltd.による独自の非ウイルストランスフェクションツール、InvitrogenによるLipofectamine(商標)LTXトランスフェクション試薬、StratageneによるSatisFection(商標)トランスフェクション試薬、InvitrogenによるLipofectamine(商標)トランスフェクション試薬、Roche Applied ScienceによるFuGENE(登録商標)HDトランスフェクション試薬、Polyplus TransfectionによるGMPに準拠したin vivo-jetPEI(商標)トランスフェクション試薬、およびNovagenによるInsect GeneJuice(登録商標)トランスフェクション試薬が挙げられる。
【実施例0197】
本発明の技術を、限定的なものとして決して解釈されるべきではない以下の実施例によって、さらに例示する。
【0198】
(実施例1:材料および方法)
以下は、後述の実施例で使用した例示的な材料および方法の簡単な説明である。
【0199】
ヒト細胞株。継代50~79のT84腸管上皮細胞(American Type Culture Collection、Rockville、Maryland)を、ダルベッコ改変イーグル培地、ならびに14mMのNaHCO3、15mMのHepes緩衝液(pH7.5)、40mg/リットルのペニシリン、8mg/リットルのアンピシリン、90mg/リットルのストレプトマイシンおよび5%熱不活化ウシ胎仔血清(FBS)を補充したハムF12栄養混合物の混合物中で増殖させた。HCT-8結腸癌細胞(ATCC)およびH292肺上皮癌細胞(ATCC CRL18-48)を、10%熱不活化FBSを含むRPMI-1640中で増殖させた。
【0200】
HCT-8上皮細胞のSalmonella感染。HCT-8細胞単層を増殖させ、0.33cm2環担持型の、コラーゲンでコーティングした反転させた5μm孔ポリカーボネートフィルター(Costar Corp.、Cambridge、MA)上で維持した。細胞を、Ca2+およびMg2+(HBSS+/+)を含むハンクス緩衝塩溶液中100μMのプロベネシドコンジュゲートを用いて頂端側および側底側を処置し、37℃で1時間インキュベートした。洗浄した後、細胞を、Salmonella enterica血液型亜型Typhimurium株SL1344を用いてMOI375で1時間、頂端側を感染させた。広範囲に洗浄した後、好中球(1×106)を側底表面に添加し、単層を介して2時間遊出させ、下記の通り定量した。
【0201】
濃縮ヘポキシリンA3の生成。P.aeruginosa株PA01を、LBブロス中37℃で好気的に一晩増殖させた。培養物をHBSS+/+で1回洗浄し、細菌6×107個/mLの濃度で再懸濁させた。162cm2のフラスコ中、H292単層を1時間感染させ、HBSSで洗浄し、次にHBSS+/+中で5時間インキュベートした。収集した上清を、逆相クロマトグラフィーによってオクタデシルシラン(C18)カラム(Supelco)に捕捉し、水で洗浄し、メタノールで溶出した。試料を-20℃で保存し、個々の実験に必要な体積に乾燥させ、必要に応じてHBSS+/+に再懸濁させた。濃縮HXA3のそれぞれの新しいバッチを、実験で使用する前に質について試験し、一般に1:4~1:8の濃度で使用した。
【0202】
P-gpノックダウンT84細胞株の作製。pLK0.1プラスミドバックグラウンドのmdr1a遺伝子を標的にするshRNA構築物を含有する精製DNAを、UMass
RNAi coreから得た。構築物は、以下の通りであった。B4(クローンID:TRCN0000059683)、B5(クローンID:TRCN0000059684)、B6(クローンID:TRCN0000059685)、B7(クローンID:TRCN0000059686)、B8(クローンID:TRCN0000059687)。レンチウイルスを、Trans-IT-LT1脂質(Mirus Bio)を使用してpsPAX2、pMD.2G、およびpLK0.1プラスミド構築物をパッケージング細胞(293T)にトランスフェクトすることによって生成した。48時間後、レンチウイルス上清を回収し、8μg/mLのポリブレン(Sigma-Aldrich)と合わせ、20%コンフルエント単層中T84細胞に適用した。この過程を、24時間後、および第2のトランスフェクションの48時間後に反復し、抵抗性細胞を、5μg/mLのピューロマイシンを用いて選択した。安定なトランスフェクタント株が得られたら、ウエスタンブロットによって、抗P-gpモノクローナル抗体C219(EMD Millipore)を使用してP-gp発現の低減を確認した。
【0203】
濃縮AMENDの生成。T84細胞を、162cm2のフラスコ中コンフルエント単層として増殖させ、Mg2+/Ca2+を含むハンクス緩衝食塩溶液(HBSS+/+)中37℃、5%CO2で平衡化した。細胞をベラパミルで処置するために、40μMのベラパミル塩酸塩(Sigma)が全インキュベーション中に含まれていた。5時間にわたって収集した細胞上清を、30本のフラスコからプールし、凍結乾燥させ、水に再懸濁させ、Amicon 1,000Daカットオフ膜(Millipore)を介してN2陽圧を用いて限外濾過した。試料を、C18 Bakerbond(登録商標)SepPakカラムに捕捉し、水およびヘキサンで洗浄し、メタノールで溶出し、N2ガス下で乾燥させ、-80℃で保存した。試料を、遊走実験で使用する前に、必要に応じてHBSS+/+に再懸濁させた。試料を、DiscoveRx GPCRβ-アレスチン活性アッセイ(Fremont、CA)でスクリーニングするために、PBSに再懸濁させて、スクリーニングのための1000倍溶液を提供した。
【0204】
96ウェルの好中球遊走。すべての研究を、University of Massachusetts Medical School Human Subjects IRBの承認に従って実施した。末梢血好中球を、既に記載されている通り(Hurley, B. P. et al., J. Immunol. 173:5712-5720 (2004))、酸性クエン酸デキストロースで抗凝固処理した末梢血から2%ゼラチン沈殿によって精製した。赤血球を、冷NH4Cl緩衝液中で溶解させることによって除去し、好中球をHBSS-/-(Ca2+なしかつMg2+なし)で洗浄し、最終体積5×107/mLまで再懸濁させた。細孔径3μmの96ウェルHTSトランスウェルフィルタープレート(Corning)を、0.1mg/mLのラット尾コラーゲンでコーティングし、一晩乾燥させた。濃縮HXA3(先を参照)を、1:10希釈のビヒクル対照、濃縮AMEND(以下参照)、または指定濃度の精製内在性カンナビノイド化合物と共に、下のウェルに添加した。5×105個の好中球を、1:10ビヒクルまたは精製内在性カンナビノイドと共に上のウェルに添加し、5%CO2を含む37℃のインキュベーターに入れ、2時間遊走させた。上のウェルを除去し、遊出した好中球を、1%Triton-X100を用いて溶解させた。クエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.2)を、0.1Mまで添加し、0.1Mクエン酸ナトリウム中等体積の2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)を試料に添加した。ミエロペルオキシダーゼ(mpo)活性を測定した。好中球細胞当量を、標準曲線と比較することによって算出し、個々の実験のデータを100%HXA3遊走に対して正規化した。データは、少なくとも3つの独立した実験から得られた平均+/-SEMである。統計的分析を、GraphPad Prismを使用して実施した。データを、適宜実験条件に合わせて、一元配置ANOVAまたはマン-ホイットニー非パラメトリックU検定のいずれかによって分析した。
【0205】
遊走アッセイで使用した精製化合物。すべての化合物を、Cayman Chemical(Ann Arbor、MI)から得、製造者の指示および経験的観測に基づいてPBSに可溶性である最高濃度で再懸濁させ、次に1:10希釈して、指定最終濃度に到達させた。
アラキドノイルエタノールアミド(AEA)、CAS番号94421-68-8を、0.01mg/mLで使用した。
α-リノレノイルエタノールアミド(α-LEA)、CAS番号57086-93-8を、0.005mg/mLで使用した。
リノレオイルエタノールアミド(LEA)、CAS番号68171-52-8を、0.0001mg/mLで使用した。
γ-リノレノイルエタノールアミド(γ-LEA)、CAS番号150314-37-7を、0.0001mg/mLで使用した。
2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)、CAS番号53847-30-6を、0.01mg/mLで使用した。
2-リノレオイルグリセロール(2-LG)、CAS番号3443-82-1を、0.01mg/mLで使用した。
2-(14,15-エポキシエイコサトリエノイル)グリセロール、CAS番号848667-56-1を、0.005mg/mLで使用した。
N-アラキドイルエタノールアミド(NAE)、CAS番号94421-69-9を、0.005mg/mLで使用した。
O-アラキドノイルエタノールアミン(O-AEA)、CAS番号443129-35-9を、0.001mg/mLで使用した。
ノラジンエーテル(NE)、CAS番号222723-55-9を、0.001mg/mLで使用した。
12-ヒドロキシエイコサテトラエン酸(12-HETE)、CAS番号71030-37-0を、0.005mg/mLで使用した。
20-HETEエタノールアミド(20-HETE Eth)、CAS番号942069-11-6を、0.005mg/mLで使用した。
オレオイルエタノールアミド(OEA)、CAS番号111-58-0を、0.01mg/mLで使用した。
2パルミトイルグリセロール(2-PG)、CAS番号23470-00-0を、0.05mg/mLで使用した。
2-オレオイルグリセロール(2-OG)、CAS番号3443-84-3を、0.002mg/mLで使用した。
パルミトイルエタノールアミド(PEA)、CAS番号544-31-0を、0.0000005mg/mLで使用した。
過酸化物を含まないアラキドン酸製剤(pfAA)、CAS番号506-32-1を、0.125mg/mLで使用した。
【0206】
AMENDのLC/MS分析。先の通りMeOHで溶出した調製物を、N2流(g)下で乾燥させ、MeOH/緩衝液に再懸濁させ、HPLCによってVydac(Hesperia、CA)C18(10um;300Å)半分取カラム(10×250cm)を使用して分離した。活性なAMEND画分を、5mMトリエチルアミン酢酸(pH7.2)で平衡化したHPLC/質量分析(Genesis C18(4um、120Å)分析HPLCカラム(4.6×150mm))によって、Finnigan LCQDecaエレクトロスプレー質量分析計を使用することによって溶出物を分析して特徴付けた。
【0207】
選択した試料を、高質量精度の決定のために分析し、0.2%ギ酸を含む50:50アセトニトリル:H2Oに可溶化した。MAXIS-HD超高分解能四重極飛行時間型(UHR-ESI-QTOF)質量分析計(Bruker Daltonik GmbH、Bremen、Germany)を使用し、これをシリンジドライバー(Hamilton、Bonaduz、Switzerland)につなぎ、試料溶液を3μL/分の速度で注入した。
【0208】
窒素を噴霧ガスとして作用させ、圧力2バールで適用した。乾燥ガスも窒素であり、流量8L/分および温度200℃で供給した。正イオンモードを、対応するキャピラリー電圧-4500Vで使用した。完全な走査データだけを取得した。試料のバッチごとに、5mMギ酸ナトリウムクラスターの溶液も分析した。これは、質量範囲75~1000m/zにわたって外部データファイル較正物質として作用した。再較正した検出質量および同位体パターンを、FindFormulaツールで使用して、2mDaの検出質量内で潜在的理論式の一覧を作製した。検出した同位体パターンを使用して、この一覧を分類した。
【0209】
データ取得および自動処理は、Compass OpenAccess 1.7ソフトウェア(Bruker Daltonik GmbH、Bremen、Germany)によって調節し、データ処理は、DataAnalysis 3.4(Bruker Daltonik GmbH、Bremen、Germany)を使用して行った。各ステップにおいて、試料を氷上およびN2ガス下にできる限り維持することによって、試料の分解および酸化を回避するように注意を払った。イオン強度による相対的定量化を、プロトン化およびナトリウム付加(sodiated)イオンの強度を合計することによって実施して、様々な生物学的ナトリウムレベルに起因する付加物形成において可能な変動を相殺した。
【0210】
マウス実験。C57BL/6マウスおよびcnr2-/-マウスを、Jackson laboratoriesから購入し、FVBwtおよびmdr1a-/-を、Taconicから購入した。6~12週齢の雌マウスを使用し、遺伝子型を実験前に2~4週間混合して、微生物叢を等しくした。マウスを、飲料水中3%DSS(分子量36,000~50,000、MP Biomedicals)で7日間処置し、次に通常の水に戻し、疾患ピークを示した9日目に屠殺した。中結腸および遠位結腸の試料を、10%ホルマリンで固定し、パラフィン包埋し、切片にし、病理組織学的分析のためにヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。各試料を、(1)上皮過形成および杯状細胞枯渇の程度、(2)粘膜固有層への白血球浸潤、(3)影響を受けた組織の面積、ならびに(4)重症の炎症、例えば陰窩膿瘍、粘膜下炎症および潰瘍のマーカーの存在の4つの基準について、半定量的に0~3で段階分けした。試料は、試料の正体について盲検にした訓練された研究者によってスコア化され、中結腸および遠位結腸の値を平均化して、結腸組織病理スコアを得た。
【0211】
粘膜固有層白血球の単離およびフローサイトメトリー。粘膜固有層からの細胞懸濁物を、既に記載されている通り調製した(Buonocore et al., 2010)。腸管組織を小片に切断し、10%FBSおよび5mMのEDTAを含むRPMIで処置して上皮細胞を除去し、次に、100U/mLのコラゲナーゼタイプVIII(Sigma-Aldrich)と共に、1時間の2つの期間にわたってインキュベートした。次に、細胞を、不連続な30/40/75%勾配のPercoll(GE Healthsciences)に適用し、40/70%界面から回収した。細胞をPBS/0.1%BSAで洗浄し、抗Fc受容体(αCD16/32、eBioscience)と共にインキュベートし、Zombie Live/Dead赤外染料(eBioscience)で染色し、次にCD45、CD11b、Ly6G、およびLy6CまたはGr1に対する抗体で表面染色した。試料をMACSquant分析機10(Miltenyi Bioscience)に流し、Flowjoソフトウェアバージョン10(Treestar)を使用して分析した。
【0212】
マウス試料におけるミエロペルオキシダーゼ含量の分析。試料を、記載されている通り、ミエロペルオキシダーゼ活性についてアッセイした(例えば、Pulli, B. et al. PLoS One 8, e67976 (2013)を参照されたい)。結腸の組織切片を、液体N2中で凍結し、使用するまで-80℃で保存した。切片を、溶解マトリクスD(MP Biomedicals)を含む臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(HTAB、Sigma)緩衝液に入れ、FastPrep-24ホモジナイザーをレベル6で用いて40秒間ホモジナイズした。試料をABTSと合わせ、蛍光を8分にわたって読み取った。傾きを、線形回帰によってGraphpad Prismを使用して算出し、ビシンコニン(Bicinchonic)酸アッセイ(BioRad)によって測定される通り、個々の試料についてタンパク質含量に対して正規化した。糞便試料を分析するために、糞便含量を秤量し、HTAB緩衝液を10μL/mgの比で添加し、算出した傾きを直接使用した。
【0213】
結腸粘膜におけるHXA3の質量分析。マウスの飲料水に5%DSSを入れてマウスに投与し、7日目に屠殺した。未処置またはDSSで処置したマウス(マウス9匹/コホート)から近位結腸を回収し、3つの腸管セグメントをプールした。腸管表面を、PBS中ラバーポリスマンを用いて擦過することによって粘膜擦過標本を収集し、HXA3含量を、既に記載されている通り分析した(Mumy, K. L. et al., Infect. Immun. 76:3614-27 (2008))。
【0214】
(実施例2:プロベネシドコンジュゲートの合成)
デキストラン-プロベネシドコンジュゲートの一般的合成の例示的な例を、スキーム1に示す。
【化5】
【0215】
デキストラン-プロベネシドコンジュゲートの合成の概説。デキストラン1.1は、多糖類である。その平均分子量は、典型的に約1000ダルトン~約1,000,000ダルトンの範囲である。デキストランジオール官能基の酸化により、デキストラン-ジアルデヒド1.2が生成される。酸化のために使用した酸化剤には、過ヨウ素酸ナトリウムおよび過ヨウ素酸カリウムが含まれる。水またはアルコールと水の混合物を、酸化反応のための溶媒として使用する。デキストラン-ジアルデヒド1.2のための文献による調製には、Hicks & Molday, Invest. Opthalmol. 26:1002-1013 (1985)のものが含まれる。
【0216】
デキストランアルデヒド1.2は、アルキルジアミン1.3を用いる還元的アミノ化を容易に受けて、デキストラン-アルキルジアミン1.4を生じる。反応は、還元剤の存在下で、適切な溶媒中、1.2を過剰のアルキルジアミン1.3と接触させることによって行う。アルキルジアミンの一例は、ヘキシルジアミンである。還元的アミノ化を行うための試薬には、水素化ホウ素ナトリウムおよびシアノ水素化ホウ素ナトリウムが含まれる。典型的に使用される溶媒は、水およびアルコールと水の混合物であり、pHはpH5.5~8.5の間に維持される。得られるデキストラン-アルキルアミン1.4のアミン置換レベルは、反応条件に応じて約5%~約70%である。本明細書に記載される方法では、Hicks & Molday (1985)の方法を用いて、デキストランから1.4を調製した。
【0217】
スキーム1に示される通り、デキストラン-アルキルジアミン1.4を、プロベネシド1.5とカップリングして、デキストラン-プロベネシドコンジュゲート1.6を生成し、ここでnは、1~10の任意の整数であってよい。カップリング反応は、デキストラン-アルキルジアミン1.4の末端の第一級アミノ基とプロベネシド1.5のカルボン酸基との間で生じる、アミド結合形成反応である。カルボン酸基を、最初に、様々な試薬によって活性化する。活性化試薬には、それに限定されるものではないが、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、エチル-(N’,N’-ジメチルアミノ)プロピルカルボジイミド塩酸塩(EDC)、(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(BOP)、(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(PyBOP)、(7-アザベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(PyAOP)、ビス(2-オキソ-3-オキサゾリジニル)ホスフィン酸クロリド(BOP-クロリド)、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)、およびカルボニルジイミダゾール(CDI)が含まれる。カップリング反応を実施するために使用される溶媒には、それに限定されるものではないが、二塩化メチレン、エーテル、酢酸エチル、トルエン、およびテトラヒドロフランが含まれる。典型的な反応時間は、約15分から約12時間までの範囲である。反応の進行は、プロトンNMRによってモニタリングすることができる。アミドカップリングは、約5%~約95%のポリマーアミン誘導体化をもたらすことができる。分析的な特徴付けには、残りの遊離アミン(カップリング反応の程度)の直接測定、およびプロトンNMR、質量分析または他の適切な分析技術によるプロベネシドカップリング生成物の測定が含まれる。
【0218】
デキストラン-プロベネシドコンジュゲートの合成
【化6】
【0219】
デキストラン-プロベネシドコンジュゲート1.3Aの調製。40kDaのデキストラン-ヘキシルアミン(0.5g、0.263ミリモルのNH2)を、MES緩衝液20mLに溶解させ、プロベネシド(112mg、1.5倍モル過剰)を添加した。反応混合物、pH6.25を、室温で激しく撹拌して、透明溶液を得た。1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC;200mg)を添加し、反応混合物を15分間撹拌した。反応混合物を、透析管(15kDa膜)に移した。透析後、Dx-プロベネシド1.3Aを、凍結乾燥によって乾燥粉末として単離した。プロベネシドコンジュゲート1.3Bを、同じ方法によって、10kDaのデキストラン-ヘキシルアミン1.1Bを使用して調製する。
【0220】
デキストラン-プロベネシドコンジュゲートの代替合成
【化7】
【0221】
デキストラン-プロベネシドコンジュゲート2.5の調製。モノ-Bocヘキサンジアミン2.1(CAS番号51857-17-1、1グラム)およびプロベネシド1.2(1.5モル当量)を、二塩化メチレン(15mL)に溶解させる。ジシクロヘキシルカルボジイミド(1.5モル当量)を添加し、反応混合物を3時間撹拌する。溶液を濾過して、ジシクロヘキシル尿素(discyclohexylurea)を除去し、溶媒をロータリーエバポレーターで除去する。残留物をシリカゲルクロマトグラフィーによって精製して、750mgのBoc-アミド2.2を提供する。化合物を、NMRおよび質量分析によって特徴付ける。
【0222】
トリフルオロ酢(trifuloroacetic)酸(1mL)を、Boc-アミド2.2(500mg)の二塩化メチレン(10mL)溶液に添加する。反応混合物を2時間撹拌し、溶媒をロータリーエバポレーターで除去する。残留物を酢酸エチルに溶解させ、飽和重炭酸ナトリウム水溶液で洗浄する。有機溶媒を、固体硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過し、酢酸エチル溶媒を、ロータリーエバポレーターを使用して除去して、アミン2.3を得る。化合物2.3が定量的収量で得られ、任意のさらなる精製は必要ない。化合物を、NMRおよび質量分析によって特徴付ける。
【0223】
デキストランアルデヒド2.4(500mg)を、ホウ酸ナトリウム水溶液(400mM溶液5mL、pH8.5)に溶解させる。プロベネシドアミノヘキシルアミド2.3(メタノール2mLに予め溶解させた5モル当量)を添加した後、新しく調製したシアノ水素化ホウ素ナトリウム水溶液(10モル当量の3モル濃度水溶液)を添加する。反応混合物を25℃で4時間撹拌する。反応混合物を透析バッグに移し、水に対して24時間透析する(それぞれ1Lの水を2回交換する)。透析バッグの内容物をガラスバイアルに移し、溶液を凍結乾燥させて、ポリマーコンジュゲート2.5を得る。化合物を、NMRおよび質量分析によって特徴付ける。
【0224】
グリシダール(glycidal)ベースのデキストラン-プロベネシドコンジュゲートの合成
【化8】
【0225】
デキストラン-プロベネシドコンジュゲート3.2の調製。デキストランアルデヒドポリマー3.1(500mg)を、ホウ酸ナトリウム水溶液(400mM溶液5mL、pH8.5)に溶解させる。プロベネシドアミノヘキシルアミド2.3(メタノール2mLに予め溶解させた5モル当量)を添加した後、新しく調製したシアノ水素化ホウ素ナトリウム水溶液(10モル当量の3モル濃度水溶液)を添加する。反応混合物を25℃で4時間撹拌する。反応混合物を透析バッグに移し、水に対して24時間透析する(それぞれ1Lの水を2回交換する)。透析バッグの内容物をガラスバイアルに移し、溶液を凍結乾燥させて、ポリマーコンジュゲート3.2を得る。化合物を、NMRおよび質量分析によって特徴付ける。
【0226】
PEG-プロベネシドコンジュゲートの合成
【化9】
【0227】
デキストラン-プロベネシドコンジュゲート4.2の調製。撹拌棒を装着した25mLの丸底フラスコに、0.1Mの2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸水溶液(MES緩衝液、pH6.0)(10mL)およびPEGアミン4.1(40,000MWの2アームの分岐PEGアミン、NOF Corporationカタログ番号SUNBRIGHT(登録商標)GL2-400PA、500mg)を充填する。プロベネシド1.2(3モル当量)を添加し、透明溶液が得られるまで反応混合物を激しく撹拌する。1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(3モル当量)を添加し、反応混合物を30分間撹拌する。反応混合物を透析バッグに移し、水に対して24時間透析する(それぞれ1Lの水を2回交換する)。透析バッグの内容物をガラスバイアルに移し、溶液を凍結乾燥させて、ポリマーコンジュゲート4.2を得る。化合物を、NMRおよび質量分析によって特徴付ける。
【0228】
さらなるPEG-プロベネシドコンジュゲートの合成。スキーム5およびスキーム3と同様にして、プロベネシドの様々なPEGコンジュゲートを、PEGの様々な誘導体を使用し、アミドカップリングまたは還元的アミノ化のいずれかを使用して調製することができる。これらは、以下のスキーム6~19に図示されている。
【化10】
分子量:5,000
化学名:α-アミノプロピル-ω-メトキシ、ポリオキシエチレン
CAS番号:116164-53-5
NOFカタログ番号:SUNBRIGHT MEPA-20H
【化11】
分子量40,000
化学名:α-アミノプロピル-ω-メトキシ、ポリオキシエチレン
CAS番号:116164-53-5
NOFカタログ番号:SUNBRIGHT MEPA-40T
【化12】
分子量5,000
化学名:α-メトキシ-ω-(3-オキソプロポキシ)、ポリオキシエチレン
CAS番号:125061-88-3
NOFカタログ番号:SUNBRIGHT ME-050AL
【化13】
分子量40,000
化学名:α-メトキシ-ω-(3-オキソプロポキシ)、ポリオキシエチレン
CAS番号:125061-88-3
NOFカタログ番号:SUNBRIGHT ME-400AL2
【化14】
分子量5,000
化学名:α-アミノプロピルオキシ-ω-(アミノプロピルオキシ)、ポリオキシエチレン
CAS番号:25322-68-3
NANOCSカタログ番号:PG2-AM-5K
【化15】
分子量30,000
化学名:ジ-(α-アミノプロピルオキシ)-ω-(3-オキソプロポキシ)、ポリオキシエチレン
CAS番号:25322-68-3
NOFカタログ番号:SUNBRIGHT DE-300PA
【化16】
分子量5000
化学名:α-オキソプロキシ(oxoproxy)-ω-(3-オキソプロポキシ)、ポリオキシエチレン
NANOCSカタログ番号:PG2-AL-5k
【化17】
4アームのPEG、-((CH
2)
3-NH
2)
分子量:10,000
化学名:ペンタエリスリトールテトラ(アミノプロピル)ポリオキシエチレン
CAS番号:804514-67-8
NOFカタログ番号:SUNBRIGHT HGEO-100PA
【化18】
8アームのPEG、-((CH
2)
3-NH
2)
8
分子量:15,000
化学名:ヘキサグリセロールオクタ(アミノプロピル)ポリオキシエチレン
NOFカタログ番号:SUNBRIGHT HGEO-150PA
【化19】
2アームの分岐PEG、-(CH
2)
3-NH
2
分子量:40,000
化学名:2,3-ビス(メチルポリオキシエチレン-オキシ)-1-(アミノプロピルオキシ)プロパン
NOFカタログ番号:SUNBRIGHT GL2-400PA
【化20】
3アームの分岐PEG、-(CH
2)
3-NH2 分子量:50,000
化学名:2,3-ビス(メチルポリオキシエチレン-オキシ)-1[(3-アミノプロピル)ポリオキシエチレン-オキソプロピルアミノカルボニル-オキシ]-プロパン
NOFカタログ番号:SUNBRIGHT GL3-400PA100U
【化21】
4アームの分岐PEG、-(CH
2)
3-NH
2
分子量:40,000
化学名:2,3-ビス-[2’,3’-ジ(メチルポリオキシエチレン-オキシ)-1’-プロピル]ポリオキシエチレン-オキシ-1-(アミノプロピルオキシ)プロパン
NOFカタログ番号:SUNBRIGHT GL4-400PA
【化22】
2アームのPEG、-((CH
2)
2-NH
2)
2
分子量:40,000
化学名:1,3-ビス(2-アミノエトキシ)2,2-ビス(メチル-ポリオキシエチレン-オキシメチル)プロパン(アミノプロピルオキシ)プロパン
NOFカタログ番号:SUNBRIGHT PTE2-400EA
【化23】
2アームのPEG、-((CH
2)
2-NH
2)
2
分子量:20,000
化学名:1,3-ビス(2-アミノエトキシ)2,2-ビス(メチル-ポリオキシエチレン-オキシメチル)プロパン(アミノプロピルオキシ)プロパン
NOFカタログ番号:SUNBRIGHT PTE2-200EA
【0229】
PEGアミンコンジュゲート5.2、6.2、9.2、10.2、12.2、13.2、14.2、15.2、16.2、17.2、および18.2を調製するための一般手順。撹拌棒を装着した25mLの丸底フラスコに、0.1Mの2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸水溶液(MES緩衝液、pH6.0)(10mL)およびアミンポリマーアミン(500mg)を充填する。プロベネシド1.2(3モル当量)を添加し、透明溶液が得られるまで反応混合物を激しく撹拌する。1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(3モル当量)を添加し、反応混合物を30分間撹拌する。反応混合物を透析バッグに移し、水に対して24時間透析する(それぞれ1Lの水を2回交換する)。透析バッグの内容物をガラスバイアルに移し、溶液を凍結乾燥させて、ポリマーコンジュゲートを得る。化合物を、NMRおよび質量分析によって特徴付ける。
【0230】
PEGアルデヒドコンジュゲート7.2、8.2、および11.2を調製するための一般手順。反応容器に、ポリマーアルデヒド(500mg)およびホウ酸ナトリウム水溶液(400mMの溶液5mL、pH8.5)を充填する。プロベネシドアミノヘキシルアミド2.3(メタノール2mLに予め溶解させた5モル当量)を添加した後、新しく調製したシアノ水素化ホウ素ナトリウム水溶液(10モル当量の3モル濃度水溶液)を添加する。反応混合物を25℃で4時間撹拌する。反応混合物を透析バッグに移し、水に対して24時間透析する(それぞれ1Lの水を2回交換する)。透析バッグの内容物をガラスバイアルに移し、溶液を凍結乾燥させて、ポリマーコンジュゲートを得る。化合物を、NMRおよび質量分析によって特徴付ける。
【0231】
(実施例3:プロベネシドコンジュゲートは結腸腔への好中球浸潤を低減する)
MRP/HXA3経路が、肺および腸管上皮の両方において複数の病原体による感染中に保存されることが示されているので(Boll, E. J. et al., Cell. Microbiol. 14:120-32 (2012); Mumy, K. L. et al., Infect. Immun. 76:3614-27 (2008); Hurley, B. P. et al, J. Immunol. 173:5712-5720 (2004))、その経路が、感染がない状態でも炎症を推進するかどうかについて分析した。
【0232】
デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)によってマウスを処置すると、上皮損傷および好中球流入によって特徴付けられる急性結腸炎症が誘導される(Okayasu, I. et al., Gastroenterology 98:694-702 (1990))。結腸粘膜擦過標本の半定量的LC/MS/MS分析は、DSSを用いる処置によって上皮表面におけるHXA
3の分泌が強力に誘導されたことを明らかにした(
図1A)。このHXA
3の増大が疾患に寄与することを確認するために、HXA
3分泌を、MRP2のプロベネシド阻害によって遮断した(Pazos, M. et al., J.
Immunol. 181:8044-52 (2008))。プロベネシドを、還元的アミド化反応によって、過ヨウ素酸で酸化された40kDaのデキストランに化学的にコンジュゲートした。結合したデキストランのサイズが理由で、腸管へのこの化合物の直腸内送達は、管腔MRP2を標的にするが、全身循環には到達しないと予測される。このコンジュゲートは、Salmonella感染アッセイにおいてin vitroで機能的であった(
図5)。プロベネシド-デキストランコンジュゲートの直腸内投与によるMRP2/HXA
3経路のin vivo阻害によって、DSSにより誘導される腸管病理および結腸短絡(colon shortening)が著しく低減した(
図1B~1D)。結腸組織病理の分析によって、プロベネシド-デキストランコンジュゲートで処置したマウスでは、結腸腔への好中球浸潤が低減したことが明らかになり(
図1D)、このことは、糞便試料におけるミエロペルオキシダーゼの著しい低減によって確認された(
図1E)。それとは逆に、粘膜固有層における好中球の定量化によって、プロベネシド処置による有意差は明らかにならなかったが(
図1F~1I)、このことは、処置によって、上皮を横切る管腔への遊走が主に遮断されたことを示している。これらの知見は、MRP2/HXA
3経路の他の研究と合致しており、経上皮の好中球遊走が、炎症性病理を増悪する上である役割を果たし得ることを示唆している。
【0233】
したがって、これらの結果は、本発明の技術のプロベネシドコンジュゲートが、組織への好中球浸潤を低減し、炎症状態、例えば結腸炎症を処置する方法において有用であることを示している。
【0234】
(実施例4:P-糖タンパク質はAMENDを分泌する)
静止T84結腸上皮細胞から上清を収集し、限外濾過して、1kDaよりも小さい化合物を収集した後、逆相液体クロマトグラフィーによって脂質を濃縮した。これらの脂質濃縮上清は、無細胞in vitroアッセイにおいて、HXA
3によって刺激された初代ヒト好中球の遊走を阻害することができた(
図2A)。この活性を示す未知の化合物を、活性をモジュレートする上皮好中球のディスコース(Activity Modulating Epithelial Neutrophil Discourse)にちなんで「AMEND」と命名した。AMENDがP-糖タンパク質(P-gp)によって特異的に分泌されることを確認するために、mdr1aを標的にするshRNAを発現する安定なノックダウンT84細胞株を創出し、P-gp発現の低減をウエスタンブロットによって確認した(
図6)。P-gp欠損細胞からの濃縮上清は、AMEND活性が欠如しており、好中球遊走を阻害しなかった(
図2B)。P-gpの阻害剤であるベラパミルを用いる野生型細胞の処置後に、類似の結果が得られた(
図7)。
【0235】
(実施例5:好中球遊走の阻害に関与するAMEND構成成分)
好中球遊走の阻害に関与するAMEND構成成分を特定するために、受容体活性化についてプローブする標的指向的手法を行った。濃縮AMENDを、Gタンパク質サブタイプとは独立したβ-アレスチン活性のためのアッセイで、GPCRパネルに対するアゴニストおよびアンタゴニスト活性の両方についてスクリーニングした。AMENDは、遊走阻害剤としての役割と合致して、主に、走化性因子受容体を含むGPCRにおいてアンタゴニスト活性を示した(表1)。しかし、観測された最強シグナルは、末梢性カンナビノイド受容体であるCB2におけるアゴニスト活性についてのものであり、これはAMENDが1つまたは複数の内在性カンナビノイドとして特定されることを裏付ける。
【表1-1】
【表1-2】
【0236】
表1に関して、T84細胞からAMENDの大規模調製物を調製し、DiscoveRx GPCRベータ-アレスチン活性化アッセイにおいてアゴニストモードおよびアンタゴニストモードの両方でスクリーニングした。活性パーセント(活性%)を、両方のモードについて示す。アンタゴニスト活性については、列挙したアゴニストによるGPCR活性化の阻害パーセントを示す。1~2列および3~4列は、AMENDが10%の任意の閾値を超えるアゴニスト活性を示したGPCRを示す。5~7列および8~17列のGPCRは、マイナスの阻害パーセンテージを有していたが、アゴニストアッセイでは対応する活性を有していなかった。18~21列は、AMENDがアゴニスト活性およびアンタゴニスト活性の両方を示したGPCRを含有しており、これは、この混合物の独立した構成成分を反映し得る。22~46列は、AMENDが10%の任意のカットオフを超えるアンタゴニスト活性を示したGPCRを含有している。
【0237】
AMEND活性が内在性カンナビノイドによって提供されることを確認するために、これらの酵素に対するその感受性を調査した。FAAHを用いる濃縮AMENDの処置によって、AMENDの阻害活性が完全に排除されたが、MAGLを用いる処置では、HXA
3誘導性遊走を阻害するAMENDの能力は低減されず(
図2C)、このことは、AMENDがNAEクラスに属していることを示唆している。酵素処置の特異性を確認するために、遊走を阻害する非内在性カンナビノイド脂質リポキシンA4を用いて類似の実験を実施したが、FAAHまたはMAGLによる失活に対して感受性ではなかった(
図8)。
【0238】
(実施例6:AMENDの特徴付け)
AMENDの特定を、質量分析によってさらに絞り込んだ。ベラパミルで処置したまたはベラパミルで処置しなかった上皮細胞から調製した濃縮AMEND調製物を、逆相HPLCに供すると、潜在的AMEND化合物を含有するベラパミルがない状態で、特異的なピークが明らかになった(
図2D)。対照およびP-gp欠損マウスからの濃縮AMEND調製物を、エレクトロスプレー質量分析実施に正イオンモード(LC/MS)で供し、NAEおよびMAGクラスの両方のいくつかの内在性カンナビノイドのレベルが、P-gpがない状態で低減したことが見出された(表2)。相対的存在量の質的分析では、アナンダミド(AEA)に合致するH
+およびNa
+付加物質量についてのピークプロファイルにおける顕著な差異が明らかになった(
図2E)。これらのP-gpによって輸送されたどのECが、実際のAMEND阻害活性を示すかを決定するために、精製した化合物を無細胞遊走アッセイで試験した。AEA、オレオイルエタノールアミド(OEA)、およびアルファ-リノレノイルエタノールアミド(α-LEA)だけが著しい阻害活性を示したので、これらのNAEを推定上のAMEND構成成分として特定した(
図2F)。
【表2】
【0239】
表2に関して、半定量的MS分析を実施して、対照T84細胞からの濃縮AMEND調製物を、shRNA媒介性P-gpノックダウン(B4-mdr1aおよびB5-mdr1a)のものと比較した。各化合物の相対的存在量を、アナンダミド-d8標準の測定強度と比較することによって算出した。これは単に、アナンダミド自体について正確に定量的なものであるが、残りの化合物についての試料間の相対的単位の比較が可能になった。
【0240】
(実施例7:内在性カンナビノイド経路)
膜タンパク質は、上皮を横切ってアナンダミドおよび2-AGを輸送することができると考えられたが、細胞へのおよび細胞からの内在性カンナビノイド輸送の機序は、ほとんど理解されてない。現在、このトランスポーターの正体はP-gpとして確立されているので、この経路が腸管内で活性であるかどうかを調査した。WTマウスおよびP-gp欠損(mdr1a-/-)マウスの結腸からの粘膜擦過標本を、AMENDについて濃縮し、好中球の遊走を阻害するそれらの能力について評価した。WTマウスからのこれらのex vivo擦過標本は、in vitroでのAMENDと同様に遊走を阻害したが、mdr1a-/-マウスからの擦過標本は、阻害活性が欠如していた(
図3A)。WTマウスからの擦過標本をFAAHで事前処置した場合、擦過標本はそれらの阻害活性を喪失したが、これにより、これらの試料がN-アシルエタノールアミン内在性カンナビノイド(NAE EC)を含有していたことが確認された(
図3B)。
【0241】
P-gpによるECの分泌はin vivoで生じることが実証されているので、ECの分泌が腸管内でHXA
3機能を制御するかどうかを調査した。過去の報告と合致して、P-gp依存性EC分泌が欠如しているmdr1a-/-マウスは、自発性大腸炎を発症することに加えて、DSS大腸炎に対する感受性がより高い(
図9)。同様に、AMENDに応答できないCB2欠損マウス(cnr2-/-)では、DSS誘導性大腸炎に対する感受性の増大が実証された(
図4A~4C)。特に、そのマウスは、腸管腔への好中球の遊走の劇的な増加を示したが(
図4C、4D)、組織への好中球の蓄積は、大きな影響を受けなかった(
図4E~4H)。これらの並列実験では、機能的P-gp/AMEND経路が存在しないと、腸管の恒常性が撹乱され、マウスは炎症性疾患をより急速に発生しやすいことが確立される。正常な好中球遊出が、プロベネシドによりDSS大腸炎中に遮断された場合(
図1)、上皮を横切る遊走は、疾患病理に寄与する著しい組織損傷を特異的に引き起こした。
【0242】
(実施例8:S.pneumoniae感染中のMRP発現パターンの調査)
S.pneumoniaeによる感染中の炎症応答を研究するために、PMN遊走のin vitroのモデルを、タイプII肺胞上皮細胞型であるヒト粘膜表皮肺癌細胞株、NCI-H292(本明細書では「H292」と特定される)の極性単層を使用して確立した。排出トランスポーターが、宿主を防御する上である役割を果たすという認識が深まっていることを考慮して、S.pneumoniae感染中のmRNAまたはタンパク質の発現が異なる遺伝子を分析するという目的でこのモデルを使用して、MRPの発現プロファイルをさらに調査した。mRNAを抽出し、MRP1、2、3、5およびMDR1(P-糖タンパク質、すなわちP-gpをコードする遺伝子)の発現レベルを、RT-PCRによって定量すると、MRP1がS.pneumoniaeによる感染中に穏やかに低減した一方、MRP2およびMRP5の両方の発現がわずかな増大を示したことが見出された。しかし、これらの変化のいずれも、統計的に有意ではなかった(
図21B)。また、ベースラインにおいてまたは肺炎球菌感染中にMDR1の検出可能な発現はなかった。さらに、タンパク質の発現についてウエスタンブロットによって分析した細胞ライセートは、肺炎球菌感染中、MRP1の類似の低減を示した(
図21A)。MRP2は、全細胞含量のわずかな低減を示した一方、MRP4およびMRP5はわずかな増大を示したが、これらの変化は統計的に有意ではない。MRP3およびP-gpは、RT-PCRデータと同様に、ウエスタンブロットによって検出不可能であった。したがって、これらのタンパク質は、H292細胞によっては発現されず、または調査した条件下では測定不可能であると推測されるが、これは、これらのトランスポーターを基底状態で測定した過去の研究と合致している。
【0243】
(実施例9:MRP1およびMRP2はStreptococcus pneumonia感染中に多様な発現パターンを示す)
全細胞mRNAおよびタンパク質において著しい変化はほとんど観測されなかったが、MRPは、全体的細胞局在に影響を及ぼし得る翻訳後修飾を受けることが十分に考証されている。MRPの主な活性は、細胞内空間から細胞外環境にペイロードを排出することなので、排出タンパク質の細胞内局在は非常に重要である。タンパク質が、そのリガンドを細胞外空間に排出するようにそれ自体指向されていなければ、このようなポンプの活性は無用なはずである。したがって、肺炎球菌感染がMRP翻訳後修飾または細胞内局在を惹起し得るかどうかを調査した。この可能性を調査するために、S.pneumoniaeによる感染またはハンクス緩衝塩溶液による非感染処置の後に、極性細胞単層の頂端表面を選択的にビオチン化した。この方法は、肺炎球菌感染に応答するタンパク質発現の変化を頂端表面において特異的に特定可能にするので、頂端で発現されたMRPを、肺炎球菌感染の非存在および存在下で調査した。感染した管腔空間に免疫調節物質を排出する可能性が高いそれらのトランスポーターに重点を置く手段として、頂端表面を選択的に標識した。
【0244】
肺炎球菌感染中にMRP1、-2、および-5の発現が修正されることを考慮して(
図21A~B)、これらのトランスポーターを調査した。
図16に示される通り、肺炎球菌感染後に、頂端表面のMRP1の著しい低減が検出された一方、MRP2の頂端表面発現は著しく増大した。このような結果は、mRNA発現データ(およびMRP1によるタンパク質の発現データ、
図21A~B)と合致している。しかし、表面発現されたMRP4およびMRP5の名目上の変化しかなく、これらの変化は、MRP1およびMRP2について観測された変化と比較して有意ではなかった(
図16)。免疫細胞化学によって、肺炎球菌感染は、MRP1発現における低減、およびMRP2発現における相反する増大をもたらすことがさらに確認された(
図17B)。免疫蛍光では、MRP4の表面発現には変化が観測されず、MRP5の表面発現が極めて少なかったが、それによって、肺のMRP5の大部分が細胞内に保持されるという知見が確認されると思われる。ビオチン化および免疫蛍光データに照らして、検出可能であり、細胞表面に局在し、Streptococcus pneumoniaeによる感染中にモジュレートされるMRP1および2の調査に研究の重点を置いた。
【0245】
このようなin vitro観測が、in vivoでのMRPの局在の変化と相関するかどうかを調査するために、C57BL/6マウスを、2.5×10
5CFUのS.pneumoniaeで感染させ、またはPBSで模擬処置した。感染後2日目、最初に症状が認められた後、マウスを屠殺した。その後、肺を切除し、切片にし、MRP1およびMRP2の両方について免疫組織化学的検査を実施した。in vitroの知見と同様に、肺炎球菌感染は、MRP1タンパク質の発現を低減し、MRP2の発現を相反して増大した(
図18)。
【0246】
(実施例10:好中球遊出に対するMRP1およびMRP2の効果)
これらの観測を秤にかけると、MRP1の発現は、基底状態において高いが、感染中には低下するので、このトランスポーターは、恒常性が保たれている間は免疫抑制性正常状態(immunosuppressive tone)を確立する上である役割を果たし得る一方、MRP2は、感染中に増大し、炎症促進能において機能し得ると考えられる。この仮説を試験するために、感染の文脈におけるトランスポーター動態の機能的結果を分析した。ABC排出トランスポーターであるMRP2の発現は、上皮炎症の状態で上方制御され、12/15-LOX経路は、このMRP2上方制御を最大限に誘導するための要件として関与するとされている。過去に、肺炎球菌感染中の肺気道へのPMN遊走には、肺上皮細胞において12-リポキシゲナーゼ(LOX)の作用によってアラキドン酸から誘導されたエイコサノイドである脂質走化性因子ヘポキシリンA3の生成が必要であることが観測された。MRP2は、HXA3の排出トランスポーターであることも示されているので、同様にMRP2の薬理学的阻害が肺炎球菌感染中のPMN経上皮遊走をどの程度遮断するかについてを分析した。
【0247】
S.pneumoniaeは、モデル肺上皮を横切るPMN経上皮遊走を誘導することができ、ここで十分に確立されたin vitroモデル系が利用される。簡潔には、H292細胞を、透過性支持体上に播種してバリアを形成し、それによってin vivo構造を模倣する。次に、新しく単離されたヒト好中球を、トランスウェルの側底チャンバに適用して、好中球が、上皮によって放出された走化性因子に応答して上皮層を横断できるようにする。MRPが、PMNの遊出にどのように影響を及ぼし得るかを調査するために、H292極性単層を、感染前にMRP2阻害剤であるプロベネシドに曝露し(方法を参照されたい)、このような処置によってPMNの遊走が阻害されるかどうかを試験した。予想通り、プロベネシドで処置した試料は、模擬処置した対照試料よりも遊走好中球が著しく少なかったが、このことは、この十分に確立された好中球遊出モデルにおいて一部の遊走促進効果がMRP2活性によって媒介されたことを示している。
【0248】
MRP2機能がプロベネシドによって邪魔される条件下で、S.pneumoniae感染を調査した。C57BL/6マウスに、気管を介して1×105~3×105の間の細菌で感染させて大葉性肺炎を生じさせ、菌血症および敗血症に進行した後、マウスが感染に屈した。プロベネシドをプライマーとして感染の3時間前に送達し、感染の3時間後に再び送達した。
【0249】
感染後1日目、プロベネシドで処置したマウスの気管支肺胞洗浄液(BALF)は、PBSで処置したマウスよりも35%少ない好中球を示した(
図19B)。プロベネシド処置は、D1には菌血症の症例は少なく、実際に菌血症を発症したマウスは、PBSで処置したマウスと比較して血中CFUがおよそ10分の1であった(
図19C)。BALFにおけるPMNが低減したにもかかわらず、マウス肺における他の顆粒球の低減は観測されず(
図19D)、プロベネシドの効果は好中球に特異的であると思われるという結論に至った。感染の48時間後、この傾向は継続して、プロベネシドで処置したマウスにおける菌血症では10分の1になったが(
図19C)、これらは、もはや統計的に有意な値ではない。感染の48時間後の肺における細菌数は、循環に侵襲する細菌の数が低減したにもかかわらず同じであった。したがって、MRP2阻害は、感染の24時間後に肺への好中球浸潤を制限するのに有効であり、このことは、感染の48時間後に継続する菌血症の低減に対応している。
【0250】
MRP1またはMRP2活性がどのように炎症に影響を及ぼし得るかをより深く解明するために、MRP1またはMRP2発現のいずれかをノックダウンする(MRPノックダウン)、構成的に発現されたshRNA H292細胞株を作製した。MRP1が抗炎症性カスケードに関与するという仮説と合致して、S.pneumoniaeで感染したMRP1欠損細胞は、S.pneumoniaで感染した場合のスクランブル対照細胞と比較して、著しく多いPMN経上皮遊走を誘導したことが見出された。さらに、MRP2ノックダウン細胞はまた、プロベネシドを用いた結果と同様に(
図19A)、対照細胞と比較してPMN経上皮遊走を支持しなかった。このことは、肺炎球菌感染中、上皮誘導性のMRP1活性がPMN経上皮遊走を抑制する一方、MRP2発現および活性が、上皮を横切る好中球遊出に必要であることを示唆している。
【0251】
これらの結果は、MRP1が、免疫抑制性の基質を排出する一方、MRP2が、炎症促進性の基質を分泌することを暗示しているので、感染した極性H292細胞単層の頂端上清から生物活性脂質を単離することによって、この結果を再現する試みを実施した(
図20A)。過去の研究では、MRP2が、細菌感染中に腸管内にHXA
3を排出し、PMN経上皮遊走が、HXA
3生成に絶対的に依存することが示されている。これらの研究では、上清から脂質抽出物を収集し、1,000Daカットオフ膜を備えたAm icon装置(Millipore)を使用して限外濾過した。塩の除去および脂質の濃縮は、C18 Backerbond抽出カラムを使用して達成した。脂質抽出物を、スクランブル対照またはMRP2ノックダウン細胞のいずれかから単離し、ナイーブH292細胞の頂端チャンバに適用した。
図20Bに示される通り、MRP2ノックダウン細胞(MRP2
KD)からの濃縮脂質は、スクランブル対照と比較してPMNの遊走の低減を示したが、このことは、MRP2が炎症促進性刺激を排出しており、HXA
3を排出している可能性が最も高いことを暗示している。
【0252】
類似の戦略を使用し、ハンクス緩衝液を、スクランブル対照細胞またはMRP1ノックダウン細胞の頂端表面に適用して、馴化培地を生成した。次に、
図20Cに図示される通り、炎症促進性脂質を、非馴化培地、MRP1を含有するスクランブル対照の馴化培地、またはMRP1欠損細胞の馴化培地を用いて再懸濁させた。非馴化培地への脂質抽出物の曝露によって、最大量のPMN遊走が促進された。しかし、無傷MRP1を用いた細胞の培地で馴化したスクランブル対照細胞は、PMN遊走の著しい低減を示し(免疫抑制物質を含有する)、一方、MRP1ノックダウン細胞(免疫抑制物質が欠如している)で馴化した培地は、PMN遊走を低減せず、非馴化上清と合致するPMN遊走レベルを示した。したがって、MRP1欠損細胞におけるこの阻害剤の分泌を妨害することによって、制限が除去され、好中球の遊走が増大した。本発明者らは、この免疫抑制物質をL-AMEND(肺活性をモジュレートする上皮好中球のディスコース(Lung-Activity
Modulating Epithelial-Neutrophil Discourse))と呼ぶ。まとめると、これらの結果は、S.pneumoniaeによって誘発されるPMN遊出を刺激するMRP2/HXA
3経路の能力を抑制(均衡)するように作用するMRP1/L-AMEND経路の証拠を提供する。
【0253】
本発明者らは、好中球(PMN)遊走のin vitroモデルを使用して、MRP2阻害の結果を調査した。NIH-H292細胞を、感染前に100μMのMRP2阻害剤であるプロベネシド(横縞)と共にインキュベートし、またはPBSで模擬処置した(黒色)。次に、対照およびプロベネシドで処置した細胞の両方を洗浄し、10MOIのStreptococcus pneumoniaeで感染させた。好中球を、膜構築物の側底チャンバに入れ、感染後に遊走できるようにした。頂端チャンバに移動した好中球を、改変ミエロペルオキシダーゼアッセイを用いて好中球の標準数に対して定量した。少なくとも3回反復した代表的データセットが、
図20Dに示されている。プロベネシド前処置は、上皮細胞層および増殖膜を介して側底から頂端チャンバに移動する好中球の数を、模擬処置細胞と比較して有効に低減した。非感染細胞を、白色で標識された「緩衝液」で表す。独立T-検定を使用して統計を実施した。これらの結果は、プロベネシドによるMRP2阻害によって、好中球の遊走が低減することを示している。
【0254】
(実施例11:本発明の技術の化合物による好中球の遊走の阻害)
この実施例は、in vitroで好中球の遊走を阻害する本発明の技術の化合物の有効性を実証する。
【0255】
末梢血好中球を、既に記載されている通り(Hurley, B. P. et al., J. Immunol. 173:5712-5720 (2004))、酸性クエン酸デキストロースで抗凝固処理した末梢血から2%ゼラチン沈殿によって精製する。赤血球を、冷NH4Cl緩衝液中で溶解させることによって除去し、好中球をHBSS-/-(Ca2+なしかつMg2+なし)で洗浄し、最終体積5×107/mLまで再懸濁させる。細孔径3μmの96ウェルHTSトランスウェルフィルタープレート(Corning)を、0.1mg/mLのラット尾コラーゲンでコーティングし、一晩乾燥させる。濃縮HXA3(先を参照)を、1:10希釈のビヒクル対照、または所定濃度の本発明の技術の化合物と共に、下のウェルに添加する。5×105個の好中球を、1:10ビヒクルまたは精製した内在性カンナビノイドと共に上のウェルに添加し、5%CO2を含む37℃のインキュベーターに入れ、2時間遊走させる。上のウェルを除去し、遊出した好中球を、1%Triton-X100を用いて溶解させる。クエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.2)を、0.1Mまで添加し、0.1Mクエン酸ナトリウム中等体積の2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)を試料に添加する。ミエロペルオキシダーゼ(mpo)活性を測定する。好中球細胞当量を、標準曲線と比較することによって算出し、個々の実験のデータを100%HXA3遊走に対して正規化する。データは、少なくとも3つの独立した実験から得られた平均+/-SEMである。統計的分析を、GraphPad Prismを使用して実施する。データを、実験条件に適宜合わせて、一元配置ANOVAまたはマン-ホイットニー非パラメトリックU検定のいずれかによって分析する。
【0256】
本発明の技術の化合物は、実施例3の
図1D~1Eに示されるものなどの、in vitroで好中球の遊走を阻害する高い有効性を示すと予測される。これらの結果は、現状の技術の化合物が、好中球の遊走を阻害するための方法において、例えば好中球の遊走によって引き起こされるか、好中球の遊走をもたらすか、またはそれ以外で好中球の遊走と関連する疾患または状態の防止または処置などにおいて有用であることを実証する。
【0257】
(実施例12:大腸炎の防止および処置のための本発明の技術の化合物)
この実施例は、動物モデルおよびヒト被験体における大腸炎の防止および処置のための本発明の技術の化合物の使用を実証する。
【0258】
動物モデル
この実施例で使用するのに適した動物モデルには、それに限定されるものではないが、本明細書に記載されるものなどの大腸炎を有する動物が含まれる。当業者は、以下の説明が例示的であり、適宜他の動物モデルに適用され得ることを理解されよう。
【0259】
総説。C57BL/6マウスおよびcnr2-/-マウスを、Jackson laboratoriesから購入し、FVBwtおよびmdr1a-/-を、Taconicから購入する。6~12週齢の雌マウスを使用し、遺伝子型を実験前に2~4週間混合して、微生物叢を等しくする。マウスを、飲料水中3%DSS(分子量36,000~50,000、MP Biomedicals)で7日間処置し、次に通常の水に戻し、疾患ピークを示した9日目に屠殺する。中結腸および遠位結腸の試料を、10%ホルマリンで固定し、パラフィン包埋し、切片にし、病理組織学的分析のためにヘマトキシリンおよびエオシンで染色する。各試料を、(1)上皮過形成および杯状細胞枯渇の程度、(2)粘膜固有層への白血球浸潤、(3)影響を受けた組織の面積、ならびに(4)重症の炎症、例えば陰窩膿瘍、粘膜下炎症および潰瘍のマーカーの存在の4つの基準について、半定量的に0~3で段階分けする。試料は、試料の正体について盲検にした訓練された研究者によってスコア化され、中結腸および遠位結腸の値を平均化して、結腸組織病理スコアを得る。
【0260】
被験体は、本明細書に記載される方法に従って、例えば直腸内投与によって本発明の技術の化合物を投与される。一部の実施形態では、化合物は、1日1回、週1回、または月1回投与される。一部の実施形態では、化合物は、1日に複数回、週に複数回、または月に複数回投与される。対照被験体には、ビヒクルを単独で投与する。
【0261】
粘膜固有層白血球の単離およびフローサイトメトリー。粘膜固有層からの細胞懸濁物を、既に記載されている通り調製する(Buonocore et al., 2010)。腸管組織を小片に切断し、10%FBSおよび5mMのEDTAを含むRPMIで処置して上皮細胞を除去し、次に、100U/mLのコラゲナーゼタイプVIII(Sigma-Aldrich)と共に、1時間の2つの期間にわたってインキュベートする。次に、細胞を、不連続な30/40/75%勾配のPercoll(GE Healthsciences)に適用し、40/70%界面から回収する。細胞をPBS/0.1%BSAで洗浄し、抗Fc受容体(αCD16/32、eBioscience)と共にインキュベートし、Zombie Live/Dead赤外染料(eBioscience)で染色し、次にCD45、CD11b、Ly6G、およびLy6CまたはGr1に対する抗体で表面染色する。試料をMACSquant分析機10(Miltenyi Bioscience)に流し、Flowjoソフトウェアバージョン10(Treestar)を使用して分析する。
【0262】
マウス試料におけるミエロペルオキシダーゼ含量の分析。試料を、記載されている通り、ミエロペルオキシダーゼ活性についてアッセイする。結腸の組織切片を、液体N2中で凍結し、使用するまで-80℃で保存する。切片を、溶解マトリクスD(MP Biomedicals)を含む臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(HTAB、Sigma)緩衝液に入れ、FastPrep-24ホモジナイザーをレベル6で用いて40秒間ホモジナイズする。試料をABTSと合わせ、蛍光を8分にわたって読み取る。傾きを、線形回帰によってGraphpad Prismを使用して算出し、ビシンコニン酸アッセイ(BioRad)によって測定される通り、個々の試料についてタンパク質含量に対して正規化する。糞便試料を分析するために、糞便含量を秤量し、HTAB緩衝液を10μL/mgの比で添加し、算出した傾きを直接使用する。
【0263】
結腸粘膜におけるHXA3の質量分析。マウスの飲料水に5%DSSを入れてマウスに投与し、7日目に屠殺する。未処置またはDSSで処置したマウス(マウス9匹/コホート)から近位結腸を回収し、3つの腸管セグメントをプールする。腸管表面を、PBS中ラバーポリスマンを用いて擦過することによって粘膜擦過標本を収集し、HXA3含量を、既に記載されている通り分析する(Mumy, K. L. et al., Infect. Immun. 76:3614-3627 (2008))。
【0264】
結果。本発明の技術の化合物の直腸内投与によって、DSSにより誘導される腸管病理および結腸短絡が対照動物と比較して著しく低減すると予測される。結腸組織病理の分析によって、化合物で処置したマウスでは、結腸腔への好中球浸潤が低減したことが示され、このことは、糞便試料におけるミエロペルオキシダーゼの著しい低減によって確認される。
【0265】
したがって、これらの結果は、本発明の技術の化合物が、in vivoで好中球浸潤を低減する方法において、例えば好中球の遊走と関連する炎症状態、例えば大腸炎の防止および処置において有用であることを示している。
【0266】
ヒト被験体
大腸炎または関連障害を有すると診断されているか、または有することが疑われており、現在、大腸炎または関連障害の1つまたは複数の症状および/または病理を示しているヒト被験体は、当技術分野で公知の認められている選択基準を使用して募集される。
【0267】
防止および処置方法:被験体は、本発明の技術の化合物を、疾患のステージおよび重症度とつりあった投与量および頻度で投与される。一部の実施形態では、化合物は、1日1回、週1回、または月1回投与される。一部の実施形態では、化合物は、1日に複数回、週に複数回、または月に複数回投与される。
【0268】
ヒトにおける防止および処置方法を実証するために、被験体は、大腸炎または関連障害の症状および/または病理を発症する前または発症した後に本発明の技術の化合物が投与され、当技術分野で公知の方法を使用して、症状/病理の逆転または予測される症状/病理の減弱について評価される。
【0269】
結果:本発明の技術の化合物は、ヒト被験体における大腸炎および関連障害の症状および/または病理の逆転を誘導すると予測される。これらの結果は、本発明の技術の化合物が、このような障害の防止および処置に有用であり、有効であることを示す。
【0270】
(実施例13:嚢胞性線維症の防止および処置のための本発明の技術の化合物)
この実施例は、動物モデルおよびヒト被験体の嚢胞性線維症の防止および処置のための本発明の技術の化合物の使用を実証する。
【0271】
動物モデル
この実施例において使用するのに適した動物モデルには、それに限定されるものではないが、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)変異を有するマウス、ブタおよびフェレットモデルを含む、当技術分野で公知の嚢胞性線維症動物モデルが含まれる。当業者は、以下の説明が例示的であり、適宜他の動物モデルに適用され得ることを理解されよう。
【0272】
129/FVB非近交系バックグラウンドのΔF508変異についてホモ接合性の若年成体雌CFマウスおよびそれらの野生型同腹子を、静圧式アイソレータケージで飼育する。腸管閉塞を防止するために、CFマウスを液体食(Peptamen(登録商標)、Nestle Clinical Nutrition、France)で離乳させる。Peptamenを毎日取り換える。非CFマウスには、標準食(Pavan Service-Carfil、Oud-Turnhout、Belgium)を与え、週1回ケージを殺菌し、新しい寝床を補充するときにそれを交換する。脱塩し、酸性にした水を自由に摂取させる。各動物の遺伝子型を、テールクリップDNAのTaqman定量的PCR多重分析(Taqman、ABI PRISM(登録商標)7700 Sequence
Detection System、Applied Biosystems、Foster、CA、USA)を使用して21日齢目にチェックする。Primer Express Software(Applied Biosystems、Foster City、CA、USA)を使用して対立遺伝子特異的PCRのために設計したプライマーおよび副溝結合剤(MGB)プローブは、以下の通りである。フォワードプライマー=5’-TTTCTTGGATTATGCCGGGTA-3’、リバースプライマー=5’-GTTGGCAAGCTTTGACAACACT-3’、野生型特異的プローブ=5’-FAM-AAACACCAAAGATGATATT-MGB-3’、変異体特異的プローブ=5’-VIC-AACACCAATAATATTTTC-MGB-3’。
【0273】
肺炎症の誘導。防止方法では、性別および体重がマッチした10~14週齢のCFマウスおよび正常ホモ接合性野生型マウスを、本発明の技術の化合物でエアロゾル吸入によって4週間にわたり、1日1回事前処置する。対照被験体には、ビヒクルを単独で投与する。喉頭鏡および細いピペットチップを使用して、生理食塩水50μl中10μg/20g(体重)のLPS(Sigma Chemical、St.Louis、MO、USA)を口から気管に滴下注入することによって、急性肺炎症を誘導する。本発明の技術の化合物の投与は、LPSを投与するときには停止する。
【0274】
処置方法では、性別および体重がマッチしたCFマウスおよび正常ホモ接合性野生型マウスに、事前処置なしに前述の通りLPSを投与する。肺炎症を確認した後、被験体に、本明細書に記載される方法に従って、本発明の技術の化合物を投与する。対照被験体には、ビヒクルを単独で投与する。肺炎症のパラメータを、本明細書に記載されるか、またはそうでなければ当技術分野で公知の方法を使用して、処置プロトコールの完了時に評価する。
【0275】
気管支肺胞洗浄(BAL)。LPS滴下注入後の選択された時点で、マウスを、ナトリウムペントバルビタール(Abbott、Chicago、IL、USA)20mgをi.p.注射することによって屠殺する。BALは、記載されている通り、気管をカニューレ挿入し、滅菌生理食塩水1mlで洗浄することによって実施する。BAL流体(BALF)を遠心分離し(250×g、10分、4℃)、上清をアリコートに分け、さらなる生化学的測定のために-20℃で保存する。鑑別細胞計数(differential cell count)を、サイトスピン調製物で、DiffQuick染色(Dade、Brussels、Belgium)を使用して実施する。
【0276】
ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性。BALを実施した後、肺に右心室を介して生理食塩水を灌流し、切除する。肺ホモジネートのMPO活性を、既に記載されている通り、10分にわたって490nmで評価する。
【0277】
乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)。BALF試料のLDH活性を、当技術分野で公知の方法を使用して分光光度的に評価する。
【0278】
サイトカインアッセイ。マウスマクロファージ炎症性タンパク質(MIP)-2(R&D Systems、Minneapolis、MN、USA)、腫瘍壊死因子(TNF)-αおよびIL-10(BD Pharmingen、San Diego、CA、USA)の濃度を、標準サンドイッチ酵素結合免疫吸着法(ELISA)をそれぞれの製造者のプロトコールに従って使用して、BALF中で測定する。
【0279】
組織病理。未洗浄の肺全体を切除し、4%緩衝パラホルムアルデヒドで気管を介して膨張を固定し、光学顕微鏡法のために厚さ5μmに処理する。スライドを、ヘマトキシリン(hematoxilin)およびエオシン、またはMassonトリクローム染色で染色する。
【0280】
細菌学。BALF試料を、多価非選択的培地である5%ヒツジ血液を含むコロンビア寒天ベース上に置く。サブロー寒天(Becton Dickinson、Franklin Lakes、NJ、USA)およびマッコンキー培地を使用して、それぞれ酵母および真菌、ならびにグラム陰性菌について選択する。プレートを、35℃の従来のインキュベーターに最小24時間入れる。すべての試験を二連で実施する。
【0281】
統計。結果を、平均±SEMとして表す。統計データを、SAS-JMPソフトウェア(SAS Institute、Cary、NC、USA)を使用して分析する。群間比較を、一元配置分散分析を使用して評価する。事後比較を、適宜スチューデントt検定またはTukey-Kramer HSD検定を使用して行う。帰無仮説は、p<0.05で棄却する。正規分布変数の平均が異なっておらず(t検定)、母集団の分散が均質である(スネデカーF検定)ことを特定した後、異なる実験からプールしたデータについて、アルファレベルを、ボンフェローニ補正に従って調整する。
【0282】
結果。本発明の技術の化合物の投与は、肺炎症嚢胞性線維症の動物モデルの処置および防止に有効であると予測される。これらの結果は、本発明の技術の化合物が、嚢胞性線維症を処置し、かつその疾患と関連する肺炎症を処置/防止する方法に有用であることを示している。
【0283】
ヒト被験体
嚢胞性線維症を有すると診断されているか、または有することが疑われており、現在、嚢胞性線維症の1つまたは複数の症状および/または病理を示しているヒト被験体は、当技術分野で公知の認められている選択基準を使用して募集される。
【0284】
防止および処置方法。被験体は、本発明の技術の化合物を、疾患のステージおよび重症度とつりあった投与量および頻度で投与される。一部の実施形態では、化合物は、1日1回、週1回、または月1回投与される。一部の実施形態では、化合物は、1日に複数回、週に複数回、または月に複数回投与される。
【0285】
ヒトにおける防止および処置方法を実証するために、被験体は、嚢胞性線維症の症状および/または病理を発症する前または発症した後に本発明の技術の化合物が投与され、当技術分野で公知の方法を使用して、症状/病理の逆転または予測される症状/病理の減弱について評価される。例えば、被験体は、嚢胞性線維症と関連する肺炎症を発症する前または発症した後に本発明の技術の化合物が投与される。次に、被験体は、当技術分野で公知の方法を使用して、肺炎症の防止、逆転、または減弱について評価される。
【0286】
結果。本発明の技術の化合物は、ヒト被験体の嚢胞性線維症の症状および/または病理、例えば肺炎症の逆転を誘導すると予測される。これらの結果は、本発明の技術の化合物が、嚢胞性線維症および嚢胞性線維症関連肺炎症の防止および処置に有用であり、有効であることを示している。
【0287】
(実施例14:好中球媒介性皮膚障害の防止および処置のための本発明の技術の化合物)
この実施例は、動物モデルおよびヒト被験体における好中球媒介性皮膚障害、例えば皮膚炎(湿疹)、酒さ、脂漏性皮膚炎、および乾癬の防止および処置のための本発明の技術の化合物の使用を実証する。当業者は、乾癬に関して以下に説明する実施例が、好中球媒介性皮膚障害の例であり、その方法が、いかなる好中球媒介性皮膚障害にも一般に適用できることを理解されよう。
【0288】
動物モデル
この実施例に適した動物モデルには、それに限定されるものではないが、自然変異を有するモデル、遺伝子操作された動物、免疫学的モデル、および薬理学的モデルを含む任意の許容される乾癬モデルが含まれる。自然変異モデルには、それに限定されるものではないが、asebia(Scd1ab/Scd1ab)、慢性増殖性皮膚炎(Sharpincpdm/Sharpincpdm)、鱗状皮膚(Ttc7fsn/Ttc7fsn)変異についてホモ接合性のマウスが含まれる。遺伝子操作されたモデルには、キー制御分子を異所的に発現するか、または当技術分野で公知のキー制御分子が欠如している動物が含まれる。免疫学的モデルには、養子移植および当技術分野で公知の関連方法を受けた動物被験体が含まれる。薬理学的モデルには、乾癬または乾癬関連状態を誘導する薬剤が投与された被験体、例えば、イミキモド(IMQ)、toll様受容体(TLR)-7およびTLR-8アゴニストを局所投与した被験体が含まれる。
【0289】
当業者は、以下の説明が例示的であり、適宜他の動物モデルに適用され得ることを理解されよう。
【0290】
材料。イミキモド(IMQ、5%クリーム、Beselna(登録商標))を、持田製薬(日本、東京)から購入する。酪酸プロピオン酸ベタメタゾン(0.05%軟膏、Antebate(登録商標))を、鳥居薬品(日本、東京)から購入する。リアルタイムPCRプローブおよび関連薬剤を、Applied Biosystems(Massachusetts、USA)から購入する。
【0291】
動物。7~12週齢の雌BALB/cマウスおよび雄CB-17scidマウスを、特異的病原体が存在しない条件下で23±3℃の室温および55±15%の空気湿度において12時間の明/暗サイクル環境で飼育し、食餌および水を自由に摂取させる。
【0292】
皮膚炎症の誘導。IMQ5%クリームを、左耳皮膚の内側および/または外側に1日1回塗布する。IMQの用量は、耳の外側に250ug、外側に500ug、または内側と外側の両方に250ugのいずれかである。ベタメタゾン軟膏または関連する軟膏基剤を、左耳の内側および/または外側の両方に体積5uLで1日2回塗布する。皮膚炎症の定量的指数としての左耳の厚さを、IMQ塗布の前に厚さゲージ(IDA-112M、ミツトヨ、日本、川崎)を利用して1日1回測定する。対照被験体には、ビヒクルを単独で投与する。
【0293】
防止方法では、被験体を、IMQ曝露前に所定の期間にわたって、局所適用によって本発明の技術の化合物で事前処置する。
【0294】
処置方法では、被験体は、IMQ誘導性炎症を確認した後に所定の期間にわたって、当技術分野で公知の方法を使用して本発明の技術の化合物を局所投与される。
【0295】
被験体を二酸化炭素ガスによって安楽死させ、紅斑および鱗屑について全体的な形態を検査した後、左耳を回収する。回収した組織の一部をスライスし、10%ホルマリン緩衝溶液で固定し、組織学的パラフィン切片を調製するために処理する。切片を、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、光顕微鏡検査に供する。残りの組織は、リアルタイムPCRによるmRNA分析のために-80℃で保存する。
【0296】
リアルタイムPCRアッセイ。耳組織の全RNA試料を、RNeasy(登録商標)Lipid Tissue Mini Kit(QIAGEN、Venlo、the Netherlands)を用いて、製造者の指示に従って得る。本発明の研究において目的のサイトカインをコードする転写物のレベルを、TaqMan遺伝子発現アッセイによって、RNA-to-Ct(商標)1-Step Kitを使用して測定する。
【0297】
例示的な標的には、それに限定されるものではないが、IFN-γ、IL-13、IL-17、IL-22、IL-23、TNF-α、およびIL-1βが含まれる。標的転写物レベルを、GAPDH転写物レベルに対して正規化する。
【0298】
統計的分析。耳の厚さの値を、1日目に測定した事前処置の値からの増大として示し、平均±標準偏差(S.D.)として表す。統計的有意性を、F検定の後、アスピン-ウェルチt-検定およびバートレット検定によって、その後耳の厚さではダネット検定またはスティール検定によって、mRNA転写物レベルではバートレット検定の後、チューキー検定またはスティール-ドゥワス検定によって分析する。0.05未満のp値を、統計的に有意とみなした。
【0299】
結果。組織の厚さ、炎症性遺伝子発現、および皮膚の好中球浸潤によって測定される通り、本発明の技術の化合物の投与によって、IMQ誘導性炎症が防止または低減されると予測される。これらの結果は、本発明の技術の化合物が、それに限定されるものではないが、皮膚炎(湿疹)、酒さ、脂漏性皮膚炎、および乾癬を含む、炎症および皮膚の好中球浸潤と関連する状態の防止および処置において有用であることを示している。
【0300】
ヒト被験体
好中球媒介性皮膚障害、例えば皮膚炎(湿疹)、酒さ、脂漏性皮膚炎、または乾癬を有すると診断されているか、または有することが疑われており、現在、その障害の1つまたは複数の症状および/または病理を示しているヒト被験体は、当技術分野で公知の認められている選択基準を使用して募集される。
【0301】
防止および処置方法。被験体は、本発明の技術の化合物を、疾患のステージおよび重症度とつりあった投与量および頻度で投与される。一部の実施形態では、化合物は、1日1回、週1回、または月1回投与される。一部の実施形態では、化合物は、1日に複数回、週に複数回、または月に複数回投与される。
【0302】
ヒトにおける防止および処置方法を実証するために、被験体は、好中球媒介性皮膚障害の症状および/または病理を発症する前または発症した後に本発明の技術の化合物が投与され、当技術分野で公知の方法を使用して、症状/病理の逆転または予測される症状/病理の減弱について評価される。例えば、被験体は、好中球媒介性皮膚障害またはその症状を発症する前または発症した後に本発明の技術の化合物が投与される。次に、被験体は、当技術分野で公知の方法を使用して、障害または症状の防止、逆転、または減弱について評価される。
【0303】
結果。本発明の技術の化合物は、好中球媒介性皮膚障害、例えば皮膚炎(湿疹)、酒さ、脂漏性皮膚炎、および乾癬の症状および/または病理の逆転を誘導すると予測される。これらの結果は、本発明の技術の化合物が、ヒト被験体の好中球媒介性皮膚障害の防止および処置に有用であり、有効であることを示している。
【化24】
【化25】
【化26】
【0304】
先の明細書で言及されているそれぞれすべての刊行物および特許文書は、あらゆる目的でその全体が参照によって本明細書に組み込まれる。記載される本発明の技術の方法および系の様々な改変および変更は、本発明の技術の範囲および精神から逸脱することなく、当業者に明らかとなろう。本発明の技術を具体的な実施形態と関連して記載してきたが、特許請求される通りの本発明の技術は、このような具体的な実施形態に過度に限定されるべきではない。実際、当技術分野およびそれに関係する分野の技術者に明らかとなる本発明の技術を行うための記載される方法の様々な改変が、以下の特許請求の範囲内に含まれることが企図される。
【0305】
均等論
本発明の技術は、本願に記載される特定の実施形態に関して制限されるものではなく、本発明の技術の個々の態様の単一の例として企図される。当業者に明らかとなる通り、その精神および範囲から逸脱することなく、本発明の技術の多くの改変および変更が行われ得る。本明細書に列挙されているものに加えて、本発明の技術の範囲内の機能的に等価な方法および装置は、先の説明から当業者に明らかとなろう。このような改変および変更は、添付の特許請求の範囲内にあることが企図される。本発明の技術は、このような特許請求の範囲が権利を与えられる等価物の完全な範囲を伴って、添付の特許請求の範囲の条項によってのみ制限されるべきである。本発明の技術は、当然のことながら変わり得る特定の方法、試薬、化合物、組成物または生物系に限定されないことを理解されたい。本明細書で使用される用語は、単に特定の実施形態を説明する目的のものであり、制限することを企図されないことも理解されたい。