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特開2023-159299α-シヌクレインプロトフィブリル結合抗体
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  • 特開-α-シヌクレインプロトフィブリル結合抗体 図1
  • 特開-α-シヌクレインプロトフィブリル結合抗体 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159299
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】α-シヌクレインプロトフィブリル結合抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20231024BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231024BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20231024BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20231024BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231024BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231024BHJP
   C12N 1/15 20060101ALN20231024BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C07K16/18
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N1/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023134451
(22)【出願日】2023-08-22
(62)【分割の表示】P 2021570377の分割
【原出願日】2021-06-25
(31)【優先権主張番号】63/044,881
(32)【優先日】2020-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/071,150
(32)【優先日】2020-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】514142957
【氏名又は名称】バイオアークティック アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エバ・ノードストローム
(72)【発明者】
【氏名】ジェシカ・シグバードソン
(72)【発明者】
【氏名】パトリック・ニグレン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ヒトでの使用に適したα-シヌクレインのプロトフィブリル型に選択的に結合する抗体を提供する。
【解決手段】本開示は、ヒトα-シヌクレインプロトフィブリルに対して高い親和性を有し、α-シヌクレインモノマーに対して低い親和性を有する抗体に関する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体は、オリゴマー/プロトフィブリルなどのヒトα-シヌクレイン凝集体を選択的に標的とする、すなわち、モノマーと比較してα-シヌクレインプロトフィブリルへの非常に強い結合を持つ。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体は、α-シヌクレインモノマーと対比して、α-シヌクレインプロトフィブリル結合比を比較した場合、mAb47よりもより良い選択性を有する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体は、抗α-シヌクレイン抗体である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む、抗体。
【請求項2】
IgGアイソタイプのものである、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
IgG4アイソタイプのものである、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
α-シヌクレインのモノマー型への結合についてのK値よりも少なくとも110000倍小さい、α-シヌクレインのプロトフィブリル型への結合についてのK値を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項5】
最大で18pMのα-シヌクレインのプロトフィブリル型への結合についてのK値及び少なくとも2200nMのα-シヌクレインのモノマー型への結合についてのK値を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項6】
α-シヌクレインのプロトフィブリル型への結合についての前記抗体のK及びα-シヌクレインのモノマー型への結合についての前記抗体のKが、SPRによって測定される、請求項4又は5のいずれかに記載の抗体。
【請求項7】
配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号4のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む、抗体。
【請求項8】
2つの重鎖及び2つの軽鎖を含む、請求項7に記載の抗体。
【請求項9】
配列番号1~4からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、核酸。
【請求項10】
配列番号11~14及び17~20からなる群から選択される配列を含む、請求項9に記載の核酸。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体をコードする、1つ以上の核酸。
【請求項12】
(a)配列番号11及び12の配列を含む、
(b)配列番号13及び14の配列を含む、
(c)配列番号17及び18の配列を含む、又は
(d)配列番号19及び20の配列を含む、
請求項11に記載の1つ以上の核酸。
【請求項13】
請求項9~12のいずれか一項に記載の核酸を含む、1つ以上のベクター。
【請求項14】
請求項9~12のいずれか一項に記載の核酸を含む、宿主細胞。
【請求項15】
請求項13に記載の1つ以上のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項16】
請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体を発現する、宿主細胞。
【請求項17】
請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体及び薬学的に許容される担体を含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年6月26日に出願された米国仮出願第63/044881号及び2020年8月27日に出願された米国仮出願第63/071150号の利益を主張し、各々の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている。
【0002】
配列表への参照
参照によりその全体が本明細書に組み込まれるものは、本明細書に開示される核酸及びアミノ酸配列を含む、配列番号1~配列番号20を含む、Sequence_Listing_AVR-71925_ST25.txtと題される配列表である。配列表は、EFSを介してASCIIテキスト形式で本明細書と共に電子的に提出されている。配列表は2021年6月17日に最初に作成され、サイズは18,417バイトである。
【背景技術】
【0003】
国際特許出願第2011/104696号A1(参照により本明細書に組み込まれている)は、α-シヌクレインのプロトフィブリル型に結合するマウスモノクローナルIgG抗体mAb47を開示している。ヒトでの使用に適したα-シヌクレインのプロトフィブリル型に選択的に結合する抗体の必要性が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2011/104696号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の要旨)
本開示は、ヒトα-シヌクレインプロトフィブリルに対して高い親和性を有し、α-シヌクレインモノマーに対して低い親和性を有する抗体に関する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体は、オリゴマー/プロトフィブリルなどのヒトα-シヌクレイン凝集体を選択的に標的とする、すなわち、モノマーと比較してα-シヌクレインプロトフィブリルへの非常に強い結合を持つ。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体は、α-シヌクレインモノマーと対比して、α-シヌクレインプロトフィブリル結合比を比較した場合、mAb47よりもより良い選択性を有する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体は、抗α-シヌクレイン抗体である。
【0006】
一態様では、本開示は、ヒトα-シヌクレインプロトフィブリルに対して高い親和性を有し、α-シヌクレインモノマーに対して低い親和性を有するオリゴマー/プロトフィブリルなどのヒトα-シヌクレイン凝集体を選択的に標的とする、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖を含む、モノクローナル抗体であるBAN0805に関する。興味深いことに、BAN0805はまた、mAb47よりも低いα-シヌクレインモノマー結合を示し、その結果、α-シヌクレインモノマーと対比して、α-シヌクレインプロトフィブリル結合比を比較した場合、BAN0805は、mAb47よりも、より良い選択性を持つ。さらに、β-及びγ-シヌクレインモノマー又はAβ-プロトフィブリルへの結合は、BAN0805では検出されなかった。
【0007】
本開示はさらに、パーキンソン病(PD)を含むがこれに限定されない、α-シヌクレイン病状を伴う神経変性障害の治療を改善するための抗体に関する。
【0008】
特許又は出願書には、カラーで作成された図面が少なくとも1つ含まれている。このカラー図面付きの特許又は特許出願の出版物のコピーは、請求及び必要な料金の支払いにより、庁から提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】BAN0805の熱ストレスデータを示す図である。1mg/mLの精製抗体候補のサンプルを、a)4℃、b)25℃、c)37℃及びd)50℃の温度に2週間さらした。次に、サンプルをSEC-MALSにより解析して、凝集をチェックした。データは、熱ストレスによるBAN0805の凝集の懸念がないことを示唆している。
図2】α-シヌクレインモノマー及びプロトフィブリル(PF)に結合した場合のBAN0805のIC50値による阻害ELISAを示す図である。BAN0805は、340倍の選択性しか持たないmAb47(図示せず)と比較して、α-シヌクレインのプロトフィブリル型に対して910倍良い選択性を持つ。プロトフィブリルレベルは、濃度でモノマーレベルと同等として表され、プロトフィブリルのサイズは考慮しなかった。選択性倍率は、モノマー結合のIC50値をPF結合のIC50値で割ることによって計算された。
図3】Biacore SPRを使用したmAb47と比較したBAN0805の結合及び選択性を示す図である。α-シヌクレインプロトフィブリルのK値は、mAb47及びBAN0805について同様であるが、これは、mAb47の修飾がα-シヌクレインプロトフィブリルへの強い結合に影響を与えなかったことを示し、阻害ELISAの結果を確認するものであった。SPRで測定されたK値は、BAN0805及びmAb47のPF対モノマーに対して、それぞれ110000倍及び18000倍の選択性をもたらした。Biacore 8KでのmAb47及びBAN0805 SPR測定の代表的なセンサグラムが示されている。
図4】ここではhu47-IgG4と呼ばれるBAN0805の、α-シヌクレインモノマー、β-シヌクレインモノマー、γ-シヌクレインモノマー及びAβ-プロトフィブリルに対する、阻害ELISAを使用した交差反応性を示す。結果は、β-若しくはγ-シヌクレインモノマー又はAβ-プロトフィブリルへの検出可能な結合を示さなかった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、ヒトα-シヌクレインプロトフィブリルに対して高い親和性を有し、α-シヌクレインモノマーに対して低い親和性を有する抗体に関する。
【0011】
本明細書に開示されるように、本開示は、以下の実施形態に関する。
【0012】
実施形態1。配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む、抗体。
【0013】
実施形態2。IgGアイソタイプのものである、実施形態1に記載の抗体。
【0014】
実施形態3。IgG4アイソタイプのものである、実施形態1に記載の抗体。
【0015】
実施形態4。α-シヌクレインのモノマー型への結合についてのK値よりも少なくとも110000倍小さい、α-シヌクレインのプロトフィブリル型への結合についてのK値を有する、実施形態1~3のいずれか1つに記載の抗体。
【0016】
実施形態5。最大で18pMのα-シヌクレインのプロトフィブリル型への結合についてのK値及び少なくとも2200nMのα-シヌクレインのモノマー型への結合についてのK値を有する、実施形態1~3のいずれか1つに記載の抗体。
【0017】
実施形態6。α-シヌクレインのプロトフィブリル型への結合についての前記抗体のK及びα-シヌクレインのモノマー型への結合についての前記抗体のKが、SPRによって測定される、実施形態4又は5いずれかの抗体。
【0018】
実施形態7。配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号4のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む、抗体。
【0019】
実施形態8。2つの重鎖及び2つの軽鎖を含む、実施形態7の抗体。
【0020】
実施形態9。配列番号1~4からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、核酸。
【0021】
実施形態10。配列番号11~14及び17~20からなる群から選択される配列を含む、実施形態9の核酸。
【0022】
実施形態11。実施形態1~8のいずれか1つの抗体をコードする、1つ以上の核酸。
【0023】
実施形態12。
(a)配列番号11及び12の配列を含む、
(b)配列番号13及び14の配列を含む、
(c)配列番号17及び18の配列を含む、又は
(d)配列番号19及び20の配列を含む、
実施形態11に記載の1つ以上の核酸。
【0024】
実施形態13。実施形態9、10、11又は12のいずれか1つの核酸を含む、1つ以上のベクター。
【0025】
実施形態14。実施形態9~12のいずれか1つの核酸を含む、宿主細胞。
【0026】
実施形態15。実施形態13の1つ以上のベクターを含む、宿主細胞。
【0027】
実施形態16。実施形態1~8のいずれか1つの抗体を発現する、宿主細胞。
【0028】
実施形態17。実施形態1~8のいずれか1つの少なくとも1つの抗体及び薬学的に許容される担体を含む、組成物。
【0029】
一態様では、本開示は、ヒトα-シヌクレインプロトフィブリルに対して高い親和性を有し、α-シヌクレインモノマーに対して低い親和性を有し、配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体に関する。
【0030】
一実施形態では、本明細書で提供される抗体は、配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む。
【0031】
一実施形態では、本明細書で提供される抗体は、配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号4のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む。いくつかの実施形態では、本明細書で提供される抗体は、2つの重鎖及び2つの軽鎖を含む。
【0032】
一実施形態では、本開示に記載される抗体は、IgGアイソタイプ、特にヒトIgGアイソタイプのものである。別の実施形態では、抗体はIgG4アイソタイプのものである。
【0033】
本開示において、ヒトα-シヌクレインプロトフィブリルに対する高い親和性とは、ヒトα-シヌクレインプロトフィブリルについて10-7M未満の解離定数Kを指す。したがって、一実施形態では、本開示に記載される抗体は、ヒトα-シヌクレインプロトフィブリルについて、10-8、10-9、10-10、10-11M又は10-12M未満のKを有する。特定の実施形態では、抗体は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖を含み、並びにヒトα-シヌクレインプロトフィブリルについて、11.2~25.8pMのKを有する。
【0034】
別の実施形態では、抗体は、配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖を含み、ヒトα-シヌクレインモノマーに対して低い親和性を有する。例えば、α-シヌクレインのモノマー型への結合についての本開示に記載される抗体のKは、少なくとも1500nM、少なくとも1600nM、少なくとも1700nM、少なくとも1800nM、少なくとも1900nM、少なくとも2000nM、少なくとも2100nM、少なくとも2200nM、少なくとも2300nM、少なくとも2400nM、少なくとも2500nM、少なくとも2600nM、少なくとも2700nM、少なくとも2800nM、少なくとも2900nM又は少なくとも3000nMである。特定の実施形態では、抗体は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖を含み、並びにヒトα-シヌクレインモノマーについて、1650nM~2730nMのKを有する。
【0035】
一実施形態では、抗体は、配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖を含み、モノマーα-シヌクレインと対比して、ヒトα-シヌクレインプロトフィブリルに対して、80000倍を超える、90000倍を超える、100000倍を超える、110000倍を超える又は120000倍を超える選択性を有する。特定の実施形態では、抗体は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖を含み、並びにモノマーα-シヌクレインと対比して、ヒトα-シヌクレインプロトフィブリルに対して、64000倍~244000倍の選択性を有する。
【0036】
一実施形態では、これらの結合親和性は、例えば、実施例3に記載されるように、阻害ELISAを使用して測定される。別の実施形態では、これらの結合親和性は、例えば、実施例3に記載されるように、表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定される。
【0037】
別の態様では、配列番号1~4からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする核酸が、本明細書において提供される。核酸は、DNA又はRNAであり得る。核酸は、配列番号11~14及び17~20からなる群から選択される配列を含んでもよい。
【0038】
別の態様では、本発明の抗体をコードする1つ以上の核酸が、本明細書において提供される。一実施形態では、1つ以上の核酸は、配列番号11及び12の配列を含む。別の実施形態では、1つ以上の核酸は、配列番号13及び14の配列を含む。一実施形態では、1つ以上の核酸は、配列番号17及び18の配列を含む。一実施形態では、1つ以上の核酸は、配列番号19及び20の配列を含む。
【0039】
別の態様では、配列番号1~4からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする核酸を含むベクターが、本明細書において提供される。そのようなベクターは、クローニングベクター又は発現ベクターを含むが、これらに限定されない。一態様では、1つ以上のベクターが、本発明の抗体をコードすることを提供している。一実施形態では、1つ以上のベクターは、配列番号11及び12の配列を含む。別の実施形態では、1つ以上のベクターは、配列番号13及び14の配列を含む。一実施形態では、1つ以上のベクターは、配列番号17及び18の配列を含む。一実施形態では、1つ以上のベクターは、配列番号19及び20の配列を含む。
【0040】
別の態様では、配列番号1~4からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする核酸を含む宿主細胞が、本明細書において提供される。一実施形態では、宿主細胞は、本発明の抗体をコードする核酸を含む。本明細書に記載の宿主細胞は、B細胞、ハイブリドーマ又はCHO細胞などの哺乳動物細胞であってもよい。一実施形態では、本明細書に記載の宿主細胞は、ヒト細胞である。
【0041】
別の態様では、本発明の抗体及び薬学的に許容される賦形剤を含む組成物が、本明細書において提供される。
【実施例0042】
[実施例1] 抗体候補の生成
mAb47の初期変異体は、mAb47 CDRをヒトフレームワーク配列に直接移植し、さまざまな位置でマウス残基に逆変異を起こすことによって生成された。初期変異体には、α-シヌクレインに対して望ましい結合特性を示すものがなかった。したがって、新しい変異体を生成するためのより可能性のある変異を見つけるために、新しいモデルを構築して解析した。
【0043】
mAb47を改善するための第2の試みでは、標的と相互作用する可能性が低い残基と、決定されたCDRから4Åの残基がチェックされた。配列番号3に示される重鎖配列を有し、配列番号4に示される軽鎖配列を有する抗体変異体が生成され、BAN0805と名付けられた。逆変異V71K及びR94Kは、BAN0805に同時に存在するが、他の変異体で除去されると結合が失われるため、これらの抗体の結合能力にとって重要であることがわかった。
【0044】
BAN0805は、同等の変異体よりも1つ少ない逆変異を有し、モノマー種よりもプロトフィブリルに対する結合及び選択性を示しているため、BAN0805が主要候補として選ばれた。
【0045】
[実施例2] 抗体候補の特性評価
熱安定性を決定するために、抗体は10分間高温に供され、4℃に冷却され、各候補のEC80濃度(普通は5~50ng/mL)でELISAアッセイに使用された。BAN0805は安定であり、キメラマウス抗体c47又はcmAb47(ヒトIgG4及びmAb47の可変領域を組み合わせたキメラ)の結合はおよそ5℃早く大幅に低下した一方で、α-シヌクレインとの結合能力は、低下し始める75℃まで維持していた。
【0046】
抗体の融解温度を決定するために、cmAb47は、BAN0805に対してサーマルシフトアッセイで試験された。融解温度データは、BAN0805のTmが、70℃のキメラのものよりも低い、65-65.4℃であると計算されることを示した。
【0047】
さらに、1mg/mLの精製サンプルは、HPLCシステムのサイズ排除カラムに0.4mL/分で注入され、絶対モル質量を決定し、凝集をチェックするために、マルチアングル光散乱により解析された。データは、BAN0805の凝集の懸念がなかったことを示唆している。BAN0805は単分散であった(Mw/Mn<1.05)。質量回収率は100%(注入質量に対する計算質量)であり、これは良好なタンパク質回収を示している。
【0048】
バルク精製されたヒトポリクローナルIgGを使用した相互作用クロマトグラフィーは、非特異的なタンパク質間相互作用をモニタリングするための技術であり、可溶性抗体と不溶性抗体を区別するために使用することができる。高い保持指数(k’)は、自己相互作用の傾向と低い溶解度を示す。BAN0805は、cmAb47の0.035を下回る0.025の保持指数を示し、これは、非特異的相互作用の傾向が低く、溶解性が良好であることを示している。
【0049】
凍結/解凍ストレス解析のために、1mg/mLの精製抗体候補のサンプルを、-80℃で15分間の後、室温で15分間の解凍に10サイクル施した。熱誘導ストレス解析については、1mg/mLの精製抗体候補のサンプルを、a)4℃、b)25℃、c)37℃及びd)50℃の温度に2週間さらした。その後、サンプルをSEC-MALSにより解析して、凝集をチェックした。データは、凍結解凍サイクル及び熱ストレスがBAN0805で凝集を引き起こさなかったことを示唆している。図1を参照されたい。
【0050】
BAN0805を解析し、IMGT CDR定義及びDomainGapAlignツールに従って、最も近い生殖細胞系列(HKについてはIGVH4-5903/IGHJ301、KAについてはIGVK2-2801/IGKJ202)と比較した。ヒト生殖細胞系列との全体的な同一性は、軽鎖で86.5%であり、この解析でヒト化されたと見なされるための85%のカットオフを超えている。重鎖については、CDRを移植し、2つのマウスの逆変異を導入した後、ヒト生殖細胞系列との同一性のパーセンテージは81%を下回るまで低下した。これは、IMGT CDR2がここで使用されているKabatの定義よりも大幅に短いため、フレームワーク3の始めにより多くの数のマウス残基の挿入が起きたという事実によって説明することができる。
【0051】
[実施例3] BAN0805のヒトα-シヌクレインプロトフィブリルへの選択的結合
BAN0805のヒトα-シヌクレインプロトフィブリルへの結合選択性は、阻害ELISA及び表面プラズモン共鳴(SPR)の両方によって測定された。
【0052】
α-シヌクレインプロトフィブリルのIC50値は、mAb47及びBAN0805で非常に類似しており(それぞれ2.7nM及び2.2nM)、プロトフィブリルへの結合特性がヒト化後に変化しなかったことを示している。対照的に、α-シヌクレインモノマーへの結合は変化し、その結果、BAN0805のα-シヌクレインモノマーへの結合強度が低下した。このことにより、mAb47(340倍)と比較して、BAN0805について、α-シヌクレインモノマーと対比して、α-シヌクレインプロトフィブリルのより良い選択性をもたらした(910倍)。図2を参照されたい。
【0053】
しかしながら、検出限界により、より低いIC50値であっても検出することを可能にするために抗体濃度をさらに下げることはできず、「真の」IC50値に近づくことはできなかった。したがって、示されたIC50値は、全てのmAb47及びBAN0805バッチに使用されている阻害ELISAの現在の手順に従って得られたものであり、プロトフィブリルのIC50値は過大評価されている可能性がある(すなわち、結合強度は過小評価されている可能性がある。)。より正確な結合、したがって選択性は、以下に説明するSPRを使用して得られた。
【0054】
mAb47及びBAN0805の結合選択性は、Biacore 8K機器(GE Healthcare)を使用したSPRによって確認された。抗体の顕著なアビディティ依存性と組み合わせた標的抗原の複雑さによって引き起こされる実現可能性問題のために、異なるアッセイ設定を使用して、α-シヌクレインプロトフィブリル及びモノマー結合をそれぞれ評価した。モノマーへの結合を測定するために、チップをmAb47及びBAN0805に対する抗マウス又は抗ヒト抗体でそれぞれコーティングした。その後、0.25~1.5μg/mlのmAb47又はBAN0805を表面に捕捉し、続いてα-シヌクレインモノマーを5倍希釈のシングルサイクルカイネティクス(single cycle kinetics)で注入した。プロトフィブリル(PF)への結合を測定するために、チップを0.5μg/ml PFでコーティングし、mAb47又はBAN0805の2倍希釈液を、シングルサイクルカイネティクスを使用して注入した。mAb47及びBAN0805の代表的なセンサグラムを図3に示している。
【0055】
α-シヌクレインプロトフィブリルのK値は、mAb47及びBAN0805について類似しており、mAb47の修飾がα-シヌクレインプロトフィブリルへの強い結合に影響を与えなかったことを示し(表1)、阻害ELISAの結果を確認した。しかしながら、K値はpM範囲内であり、阻害ELISAで前述の制限を確認することとなった。重要なことには、SPRにより、α-シヌクレインモノマーに対するBAN0805の親和性がmAb47と比較して減少していることが確認された。SPRで測定されたK値は、BAN0805及びmAb47でモノマーと対比して、PFについて、それぞれ110000倍及び18000倍の選択性をもたらした。α-シヌクレインモノマーとプロトフィブリルについてのmAb47及びBAN0805の平均K値を表1に示している。
【0056】
【表1】
【0057】
β-又はγ-シヌクレインなどの相同タンパク質及びAβのような他の凝集しやすいタンパク質の交差反応性は、直接ELISA(ここでは、高密度コーティングがコーティングされたタンパク質の凝集型を模倣している。)並びに阻害ELISAの両方を使用して試験された。ここでは、mAb47とBAN0805の交差反応性が、阻害ELISAによって比較されながら解析された。阻害ELISAは、β-シヌクレインモノマー、γ-シヌクレインモノマー及びAβ-プロトフィブリルを抗原として用いて実行された。結果は、BAN0805のβ-若しくはγ-シヌクレインモノマー又はAβ-プロトフィブリルへの検出可能な結合がなかったことを示している。阻害ELISAにおけるβ-又はγ-シヌクレインに対する代表的なBAN0805交差反応性試験が図4に示されている。データは表2に示される。
【0058】
【表2】
【0059】
阻害ELISA及び表面プラズモン共鳴(SPR)Biacoreデータの結果は両方とも、α-シヌクレインモノマーに対するBAN0805の親和性がmAb47と比較して減少したことを示しており、これは、mAb47と比較してBAN0805のより良い選択性を示している。さらに、BAN0805について試験した濃度(最大μM範囲)では、β-及びγ-シヌクレインモノマー又はAβ-プロトフィブリルへの結合は見られなかった。
【0060】
したがって、本開示は、α-シヌクレインプロトフィブリルに対して高い親和性を有し、α-シヌクレインモノマーに対して低い親和性を有しており、マウスmAb47と比較して以下の特徴を有する抗体に関する:
(1)BAN0805は、モノマーと比較して、α-シヌクレインプロトフィブリルへの結合がはるかに強力である;
(2)α-シヌクレインモノマーと対比して、α-シヌクレインプロトフィブリル結合比を比較した場合、α-シヌクレインモノマー結合はBAN0805と比較してmAb47についてより強く、その結果、mAb47よりもBAN0805のより良い選択性が、阻害ELISAとSPR Biacoreデータの両方で示された(すなわち、BAN0805はmAb47と比較して、望ましくないモノマーα-シヌクレイン標的に結合する傾向が低い。);並びに
(3)BAN0805について試験した濃度(最大μM範囲)では、β-及びγ-シヌクレインモノマー又はAβ-プロトフィブリルへの結合が見られなかった。
【0061】
[実施例4] BAN0805の生産
BAN0805を生産するために、シグナルペプチドを含むBAN0805 VH(配列番号13)及びVL(配列番号14)をコードする最適化DNA配列を合成し、GSベクターpXC-IgG4Pro(deltaK)及びpXC-Kappa(Lonza)にそれぞれクローニングした。次に、得られたHC及びLC SGVを使用して、HC及びLC遺伝子の両方を含む二重遺伝子ベクター(DGV)を生成した。BAN0805重鎖(HC)及び軽鎖(LC)をコードする最適化DNA配列は、それぞれ配列番号11及び12に示されている。BAN0805重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)をコードする最適化DNA配列は、それぞれ配列番号13及び14に示されている。配列番号11~14は全て、シグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む(表3Bを参照)。シグナルペプチドを除くBAN0805 HC、LC、VH及びVLのアミノ酸配列に対応するヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号17、18、19及び20に示されている。BAN0805のCDR配列が、表3Aに列挙されている。Chothia命名法による重鎖CDR(VH-CDR)1~3のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号5、6、及び7に示されている。Kabat命名法による重鎖CDR(VH-CDR)1~3のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号15、16及び7に示されている。Chothia及びKabat命名法による重鎖CDR(VH-CDR-3)のアミノ酸配列は同じであり、配列番号7に記載されている。Chothia及びKabat命名法による軽鎖CDR(VL-CDR)1~3のアミノ酸配列は同じであり、それぞれ配列番号8、9及び10に示されている。
【0062】
次に、pBAN0805/DGVと呼ばれる得られたDGVを、CHOK1SV GS-KO細胞に一過性にトランスフェクトし、アセンブルされた抗体の分泌をもたらす条件下で培養した。次に、分泌された抗体をプロテインAアフィニティクロマトグラフィーによって精製した。
【0063】
表3.配列表
A. BAN0805
【0064】
VH:
【0065】
【化1】
【0066】
VL:
【0067】
【化2】
【0068】
重鎖
【0069】
【化3】
【0070】
軽鎖
【0071】
【化4】
【0072】
CDR
VH-CDR-1 (Chothia): GFSLTSYGVH (配列番号5)
VH-CDR-1 (Kabat): SYGVH (配列番号15)
VH-CDR-2 (Chothia): VIWRGGSTDYSAAF (配列番号6)
VH-CDR-2 (Kabat): VIWRGGSTDYSAAFMS (配列番号16)
VH-CDR-3 (Kabat/Chothia): LLRSVGGFAD (配列番号7)
VL-CDR-1 (Kabat/Chothia): RSSQTIVHNNGNTYLE (配列番号8)
VL-CDR-2 (Kabat/Chothia): KVSNRFS (配列番号9)
VL-CDR-3 (Kabat/Chothia): FQGSHVPFT (配列番号10)
【0073】
表3Aは、Chothia命名法によるCDR配列としての下線の配列と、Kabat命名法によるCDR配列としての太字の配列を列挙している。CDR1、CDR2及びCDR3は、左(N末端)から右(C末端)に出現した標準的順番で示されている。
【0074】
B.BAN0805重鎖及び軽鎖をコードするヌクレオチド配列
シグナル配列を有するBAN0805 HC遺伝子(配列番号11)
【0075】
【化5】
【0076】
シグナル配列を有するBAN0805 LC遺伝子(配列番号12)
【0077】
【化6】
【0078】
シグナル配列を有するBAN0805 VH遺伝子(配列番号13)
【0079】
【化7】
【0080】
シグナル配列を有するBAN0805 VL遺伝子(配列番号14)
【0081】
【化8】
【0082】
BAN0805 HC遺伝子(配列番号17)
【0083】
【化9】
【0084】
BAN0805 LC遺伝子(配列番号18)
【0085】
【化10】
【0086】
BAN0805 VH遺伝子(配列番号19)
【0087】
【化11】
【0088】
BAN0805 VL遺伝子(配列番号20)
【0089】
【化12】
【0090】
シグナルペプチドをコードする配列には下線が引かれている。開始コドンは太字で、終止コドンはイタリック体で示されている。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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