(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159312
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】アトピー性皮膚炎検出用タンパク質マーカーの調製方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20231024BHJP
【FI】
G01N33/68
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023134732
(22)【出願日】2023-08-22
(62)【分割の表示】P 2020081470の分割
【原出願日】2020-05-01
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深川 聡子
(72)【発明者】
【氏名】志摩 恭子
(72)【発明者】
【氏名】高田 直人
(72)【発明者】
【氏名】井上 高良
(72)【発明者】
【氏名】石川 准子
(57)【要約】
【課題】低侵襲又は非侵襲的なアトピー性皮膚炎の検出方法の提供。
【解決手段】被験体から採取した皮膚表上脂質からのアトピー性皮膚炎検出用タンパク質
マーカーの回収。該タンパク質マーカーを用いたアトピー性皮膚炎の検出。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体から採取した皮膚表上脂質から、下記表1に示すタンパク質からなる群より選択
される少なくとも1種のタンパク質を回収することを含む、アトピー性皮膚炎検出用タン
パク質マーカーの調製方法。
【表1】
【請求項2】
被験体から採取した皮膚表上脂質から、下記表2に示すタンパク質からなる群より選択
される少なくとも1種のタンパク質を検出することを含む、被験体におけるアトピー性皮
膚炎の検出方法。
【表2】
【請求項3】
前記少なくとも1種のタンパク質が下記表3に示すタンパク質からなる群より選択され
る少なくとも1種のタンパク質である、請求項1又は2記載の方法。
【表3】
【請求項4】
前記少なくとも1種のタンパク質が下記表4に示すタンパク質からなる群より選択され
る少なくとも1種のタンパク質である、請求項1又は2記載の方法。
【表4】
【請求項5】
前記被験体が乳幼児であり、前記少なくとも1種のタンパク質が下記表5-1及び表5
-2に示すタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質である、請
求項1又は2記載の方法。
【表5-1】
【表5-2】
【請求項6】
前記被験体が成人であり、前記少なくとも1種のタンパク質が下記表6-1及び6-2
に示すタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質である、請求項
1又は2記載の方法。
【表6-1】
【表6-2】
【請求項7】
前記少なくとも1種のタンパク質が、表5-1に示すタンパク質からなる群より選択さ
れる少なくとも1種のタンパク質であり、
前記方法が、前記少なくとも1種のタンパク質の濃度が健常群と比較して増加していた
場合に、該被験体をアトピー性皮膚炎と検出することを含む、
請求項5記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1種のタンパク質が、表5-2に示すタンパク質からなる群より選択さ
れる少なくとも1種のタンパク質であり、
前記方法が、前記少なくとも1種のタンパク質の濃度が健常群と比較して低下していた
場合に、該被験体をアトピー性皮膚炎と検出することを含む、
請求項5記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1種のタンパク質が、表6-1に示すタンパク質からなる群より選択さ
れる少なくとも1種のタンパク質であり、
前記方法が、前記少なくとも1種のタンパク質の濃度が健常群と比較して増加していた
場合に、該被験体をアトピー性皮膚炎と検出することを含む、
請求項6記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1種のタンパク質が、表6-2に示すタンパク質からなる群より選択さ
れる少なくとも1種のタンパク質であり、
前記方法が、前記少なくとも1種のタンパク質の濃度が健常群と比較して低下していた
場合に、該被験体をアトピー性皮膚炎と検出することを含む、
請求項6記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1種のタンパク質の濃度を説明変数とし、ADの有無を目的変数として
、構築された予測モデルに基づいてADを検出することを含む、請求項2~6のいずれか
1項記載の方法。
【請求項12】
前記被験体から皮膚表上脂質を採取することをさらに含む、請求項1~11のいずれか
1項記載の方法。
【請求項13】
下記表7に示すタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質を含
む、アトピー性皮膚炎検出用タンパク質マーカー。
【表7】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アトピー性皮膚炎検出用タンパク質マーカーの調製方法、及び当該タンパク
質マーカーを用いたアトピー性皮膚炎の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アトピー性皮膚炎(Atopic Dermatitis、以下「AD」とも称する。
)は、アトピー素因を有する者に主に発症する湿疹性皮膚疾患である。ADの典型的な症
状は、左右対側性に発生する、慢性及び反復性の痒み、皮疹、紅斑等、ならびに角化不全
、バリア能低下、乾燥肌などである。ADの多くは乳幼児に発症し、成長と共に軽快傾向
を示すが、近年では成人型や難治性のADも増加している。
【0003】
アレルギーやアトピーになりやすい遺伝的素因を持っている新生児又は乳児は、乳児湿
疹、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、さらには気管支喘息、アレルギー性鼻炎など、
年齢とともに様々なアレルギー疾患を発症すること(アレルギーマーチ)が報告されてい
る。このようにアレルギー疾患は、1つの疾患を発症すると別のアレルギー疾患に罹患す
る可能性が高くなり、その治療も長期にわたることが多い。したがって、乳幼児の段階で
アレルギー疾患の発症を抑えることが必要とされている。
【0004】
ADの病態の評価については、従来さまざまな評価方法が臨床現場で用いられている。
皮膚科医による評価項目として、Severity Scoring of Atopi
c Dermatitis(SCORAD)やEczema Area and Sev
erity Index(EASI)がよく用いられる。しかし、これらの評価方法は、
評価者の主観によるところが大きいことから、より客観的なバイオマーカーと併用される
ことが多い。ADの血清学的な評価項目として、血液中の総IgE値、末梢血好酸球数、
血清Lactate dehydrogenase(LDH)値、血清thymus a
nd activation-regulated chemokine(TARC)値
などが一般的に使用されている。しかし、血清学的な評価は採血を伴うことから侵襲的で
あり、また、必ずしも十分な精度で診断が可能であるとは云えない。
【0005】
皮膚は、外界と接していることから、低侵襲的に生体試料を採取できる組織である。従
来、バイオプシで採取した皮膚組織やテープ剥離した角層などの皮膚サンプルから各種の
核酸又はタンパク質マーカーが単離されている。非特許文献1~6及び特許文献1には、
粘着性の弱い接着テープを皮膚に貼付することで皮膚表面から非侵襲的にインターロイキ
ン類(ILs)、TNF-α、INF-γ、ヒトβディフェンシン(hBD2)などのペ
プチドマーカーを採取し、採取したマーカーを用いて皮膚の疾患や状態を調べたことが記
載されている。特許文献2には、皮膚表上脂質から被験体の皮膚細胞に由来するRNA等
の核酸を分離し、生体の解析用の試料として用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開公報第2014/144289号
【特許文献2】国際公開公報第2018/008319号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Skin Res Technol, 2001, 7(4):227-37
【非特許文献2】Skin Res Technol, 2002, 8(3):187-93
【非特許文献3】Med Devices (Auckl), 2016, 9:409-417
【非特許文献4】Med Devices (Auckl), 2018, 11:87-94
【非特許文献5】J Tissue Viability, 2019, 28(1):1-6
【非特許文献6】J Diabetes Res, doi/10.1155/2019/1973704
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、被験体から低侵襲又は非侵襲的にアトピー性皮膚炎検出用タンパク質マーカ
ーを調製する方法、及び当該タンパク質マーカーを用いたアトピー性皮膚炎の検出方法に
関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様において、本発明は、被験体から採取した皮膚表上脂質から、下記表1-1~1
-13に示すタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質を回収す
ることを含む、アトピー性皮膚炎検出用タンパク質マーカーの調製方法を提供する。
別の一態様において、本発明は、被験体から採取した皮膚表上脂質から、下記表1-1
~1-13に示すタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質を検
出することを含む、被験体におけるアトピー性皮膚炎の検出方法を提供する。
さらに別の一態様において、本発明は、下記表2-1~2-5に示すタンパク質からな
る群より選択される少なくとも1種のタンパク質を含む、アトピー性皮膚炎検出用タンパ
ク質マーカーを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡便、かつ低侵襲又は非侵襲的な手法で、被験体からアトピー性皮膚
炎検出用のタンパク質マーカーを回収し、又は該マーカーを用いてアトピー性皮膚炎を検
出することができる。したがって、本発明は、侵襲的な生体サンプル採取が容易でなかっ
た乳幼児を含む様々な被験体におけるアトピー性皮膚炎診断を可能にする。また本発明の
方法は、乳幼児及び成人のアトピー性皮膚炎の早期診断及び治療に貢献し得る。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中で引用された全ての特許文献、非特許文献、及びその他の刊行物は、その全
体が本明細書中において参考として援用される。
【0012】
本明細書中に開示されるタンパク質の名称は、UniProt([https://www.uniprot
.org/])に記載のあるGene Name或いはProtein Nameに従う。
【0013】
本明細書において、「乳幼児」とは、0歳から学童に入るまでの年齢、具体的には0歳
から5歳までの人を指す。本明細書において、「成人」とは、広義には「乳幼児」に該当
しない人を指すが、好ましくは第2次性徴が終了した人を指し、具体的には16歳以上の
人が好ましく、20歳以上の人がより好ましい。
【0014】
本明細書において、「皮膚表上脂質(skin surface lipids;SS
L)」とは、皮膚の表上に存在する脂溶性画分をいい、皮脂と呼ばれることもある。一般
に、SSLは、皮膚にある皮脂腺等の外分泌腺から分泌された分泌物を主に含み、皮膚表
面を覆う薄い層の形で皮膚表上に存在している。
【0015】
本明細書において、「皮膚」とは、特に限定しない限り、体表の表皮、真皮、毛包、な
らびに汗腺、皮脂腺及びその他の腺などの組織を含む領域の総称である。
【0016】
本発明において、アトピー性皮膚炎の「検出」とは、SSLを採取した被験体における
アトピー性皮膚炎の存在又は不存在を明らかにする意味であり、検査、測定、判定、評価
又は評価支援という用語で言い換えることもできる。なお、本明細書において「判定」又
は「評価」という用語は、医師による判定や評価を含むものではない。
【0017】
本明細書において、「特徴量」とは機械学習における「説明変数」と同義である。本明
細書において、アトピー性皮膚炎検出用タンパク質マーカーから選択される機械学習に使
用するタンパク質を「特徴量タンパク質」と称することもある。
【0018】
本発明者は、SSL中に、アトピー性皮膚炎(AD)の検出に有用なタンパク質が含ま
れていることを見出した。これらのタンパク質は、AD検出用タンパク質マーカーとして
使用することができる。したがって、被験体の皮膚表面からSSLを採集するという簡便
かつ低侵襲又は非侵襲的な手法で、被験体のADの検出のための生体サンプル及びそれに
含まれるタンパク質マーカーを回収することができる。
【0019】
したがって、一態様において、本発明はAD検出用タンパク質マーカーを提供する。別
の一実施形態において、本発明はAD検出用タンパク質マーカーの調製方法を提供する。
当該方法は、被験体から採取したSSLから標的であるAD検出用タンパク質マーカーを
回収することを含む。別の一実施形態において、本発明はAD検出方法を提供する。当該
方法は、被験体から採取したSSLから該AD検出用タンパク質マーカーを検出すること
を含む。
【0020】
本発明によるAD検出用タンパク質マーカーの調製方法及びAD検出方法(以下、まと
めて本発明の方法ともいう)において、被験体は、皮膚上にSSLを有する生物であれば
よい。被験体の例としては、ヒト及び非ヒト哺乳動物を含む哺乳動物が挙げられ、好まし
くはヒトである。該被験体は、性別及び年齢は限定されず、乳児から成人までを含み得る
。好ましくは、該被験体は、ADの検出を必要とするか又は希望する哺乳動物(好ましく
はヒト)である。例えば、該被験体は、ADの発症が疑われる哺乳動物(好ましくはヒト
)である。
【0021】
一実施形態において、本発明の方法は、被験体のSSLを採取することをさらに含んで
いてもよい。SSLが採取される皮膚の部位としては、頭、顔、首、体幹、手足等の身体
の任意の部位の皮膚が挙げられ、好ましくはAD様の湿疹や乾燥等の症状を有する部位の
皮膚が挙げられる。
【0022】
被験体の皮膚からのSSLの採取には、皮膚からのSSLの回収又は除去に用いられて
いるあらゆる手段を採用することができる。好ましくは、後述するSSL吸収性素材、S
SL接着性素材、又は皮膚からSSLをこすり落とす器具を使用することができる。SS
L吸収性素材又はSSL接着性素材としては、SSLに親和性を有する素材であれば特に
限定されず、例えばポリプロピレン、パルプ等が挙げられる。皮膚からのSSLの採取手
順のより詳細な例としては、あぶら取り紙、あぶら取りフィルム等のシート状素材へSS
Lを吸収させる方法、ガラス板、テープ等へSSLを接着させる方法、スパーテル、スク
レイパー等によりSSLをこすり落として回収する方法、などが挙げられる。SSLの吸
着性を向上させるため、脂溶性の高い溶媒を予め含ませたSSL吸収性素材を用いてもよ
い。一方、SSL吸収性素材は、水溶性の高い溶媒や水分を含んでいるとSSLの吸着が
阻害されるため、水溶性の高い溶媒や水分の含有量が少ないことが好ましい。SSL吸収
性素材は、乾燥した状態で用いることが好ましい。
【0023】
採取されたSSLは、直ちに後述のタンパク質抽出工程に用いられてもよいが、該タン
パク質抽出工程に用いるまで保存されてもよい。保存する場合、SSLは採取後できるだ
け速やかに低温条件で保存することが好ましい。SSLの保存の温度条件は、0℃以下で
あればよく、好ましくは-20±20℃~-80±20℃、より好ましくは-20±10
℃~-80±10℃、さらに好ましくは-20±20℃~-40±20℃、さらに好まし
くは-20±10℃~-40±10℃、さらに好ましくは-20±10℃、さらに好まし
くは-20±5℃である。SSLの保存の期間は、特に限定されないが、好ましくは12
か月以下、例えば6時間以上12ヶ月以下、より好ましくは6ヶ月以下、例えば1日間以
上6ヶ月以下、さらに好ましくは3ヶ月以下、例えば3日間以上3ヶ月以下である。
【0024】
採取したSSLからのタンパク質の抽出には、生体試料からのタンパク質の抽出又は精
製に通常使用される方法、例えば水、phosphate-buffered sali
ne溶液、又は界面活性剤としてTriton X-100、Tween20等を含む溶
液による抽出方法、あるいはM-PER buffer(Thermo Fisher
Scientific)、MPEX PTS Reagent(GL science)
、QIAzol Lysis Reagent(Qiagen)、EasyPepTM M
ini MS Sample Prep Kit(ThermoFisher Scie
ntific)等の市販のタンパク質抽出試薬やキットによる抽出方法を用いることがで
きる。
【0025】
抽出されたSSL由来タンパク質には、後述するAD検出用タンパク質マーカーが1種
以上含まれ得る。該SSL由来タンパク質は、直ちに後述のAD検出に用いられてもよい
が、該AD検出に用いるまでタンパク質の通常の保存条件下で保存されてもよい。
【0026】
後述の実施例に示すとおり、表1-1~1-13に示す418種のSSL由来タンパク
質は、健常者と比べて、AD患者でSSL中の存在量が有意に変動するタンパク質である
。また、これらのタンパク質のSSL中の存在量を特徴量として用いた機械学習により構
築した予測モデルによってADの予測が可能である。したがって、表1-1~1-13に
示すSSL由来タンパク質は、AD検出用タンパク質マーカーとして使用することができ
る。表1-1~1-13に示すタンパク質のうち、表2-1~2-5に示す147種のタ
ンパク質は、後述の実施例で示すように、これまでADとの関連が報告されていない、新
規のAD検出用タンパク質マーカーである。さらに、表3-1~3-2に示す65種のタ
ンパク質は、後述する表4-1~4-6に示す200種のタンパク質と、表5-1~5-
9に示す283種のタンパク質に共通するタンパク質であり、AD検出用タンパク質マー
カーとして好ましく使用することができる。
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
より詳細には、表1-1~1-13に示すSSL由来タンパク質は、下記表4-1~4
-6及び表5-1~5-9に示すタンパク質を含み、表4-1~4-6に示すタンパク質
は、下記表7-1~7-4、表8、表11-1~11-4、表12-1~12-4及び表
13に示すタンパク質を含み、表5-1~5-9に示すタンパク質は、下記表9-1~9
-7、表10-1~10-2、表14-1~14-7、表15-1~15-4及び表16
に示すタンパク質を含む。
【0048】
後述する実施例に示すように、健常児及びAD罹患児のSSLから抽出され、健常児又
はAD罹患児いずれかの群の75%以上の被験体で定量値が得られたタンパク質の定量値
を解析した。その結果、健常児と比較してAD罹患児で存在比が1.5倍以上(p≦0.
05)に上昇した116種のタンパク質(表7-1~7-4)、及び0.75倍以下(p
≦0.05)に減少した12種のタンパク質(表8)が同定された。同様に、成人健常者
及び成人AD患者2のSSLから抽出され、健者又はAD患者いずれかの群の75%以上
の被験体で定量値が得られたタンパク質の定量値を解析した。その結果、健常者と比較し
てAD患者で存在比が1.5倍以上(p≦0.05)に上昇した205種のタンパク質(
表9-1~9-7)、及び0.75倍以下(p≦0.05)に減少した37種のタンパク
質(表10-1~10-2)が同定された。
【0049】
したがって、一実施形態において、本発明のAD検出方法は、被験体のSSLにおける
該AD検出用タンパク質マーカーの量(例えばSSL中マーカー濃度)に基づいてADを
検出することを含む。
【0050】
例えば、被験体SSL中における表7-1~7-4、表8、表9-1~9-7及び表1
0-1~10-2に示す1種以上のタンパク質マーカーの濃度を基準に、該SSLが由来
する被験体がADであるか否か(言い換えると、該SSLがADである被験体に由来する
か否か)を検出することができる。本発明のAD検出方法においては、表7-1~7-4
、表8、表9-1~9-7及び表10-1~10-2に示すタンパク質は、いずれか1種
、又はいずれか2種以上を組み合わせて、AD検出用タンパク質マーカーとして使用する
ことができる。例えば、被験体のSSL中における該1種以上のマーカー(標的マーカー
)の濃度を測定し、測定したマーカーの濃度を健常群と比較することによって、該被験体
がADであるか否かを検出することができる。
【0051】
標的マーカーが表7-1~7-4及び表9-1~9-7に示すタンパク質からなる群よ
り選択される少なくとも1種である場合、被験体における該標的マーカーの濃度が健常群
と比べて高ければ、該被験体はADと検出され得る。例えば、被験体における該標的マー
カーの濃度が健常群と比べて統計学的に有意に高ければ、該被験体はADと検出され得る
。また例えば、被験体における該標的マーカーの濃度が健常群に対して、好ましくは11
0%以上、より好ましくは120%以上、さらに好ましくは150%以上であれば、該被
験体はADと検出され得る。標的マーカーとして2つ以上のAD検出用タンパク質マーカ
ーを用いる場合には、標的マーカーの一定割合、例えば50%以上、好ましくは70%以
上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは100%が上述の基準を満たすか否か
に基づいて、被験体のADを検出することができる。
【0052】
標的マーカーが表8及び表10-1~10-2に示すタンパク質からなる群より選択さ
れる少なくとも1種である場合、被験体における該標的マーカーの濃度が健常群と比べて
低ければ、該被験体はADと検出され得る。例えば、被験体における該標的マーカーの濃
度が健常群と比べて統計学的に有意に低ければ、該被験体はADと検出され得る。また例
えば、被験体における該標的マーカーの濃度が健常群に対して、好ましくは90%以下、
より好ましくは80%以下、さらに好ましくは75%以下であれば、該被験体はADと検
出され得る。標的マーカーとして2つ以上のAD検出用タンパク質マーカーを用いる場合
には、標的マーカーの一定割合、例えば50%以上、好ましくは70%以上、より好まし
くは90%以上、さらに好ましくは100%が上述の基準を満たすか否かに基づいて、被
験体のADを検出することができる。
【0053】
AD検出用タンパク質マーカーのSSL中濃度は、ELISA、免疫染色、蛍光法、電
気泳動、クロマトグラフィー、質量分析などの、通常のタンパク質の検出又は定量法を用
いて測定することができる。このうち、LC-MS/MSなどの質量分析法が好ましい。
濃度測定では、上記SSL由来タンパク質をサンプルとして、通常の手順に従って、標的
とする1種以上のタンパク質マーカーの検出又は定量を実施すればよい。算出される該標
的マーカーの濃度は、SSL中の該標的マーカーの絶対量に基づく濃度であっても、SS
L中の他の標準物質や総タンパク質に対する相対濃度であってもよい。
【0054】
該健常群は、ADに罹患していない集団であり得る。該健常群は、被験体と同種の生物
の集団であればよい。必要に応じて、被験体の性状に合わせて健常群を構成する集団を選
択してもよい。例えば、被験体が乳幼児である場合に健常な乳幼児集団を健常群として用
いたり、又は、被験体が成人である場合に健常な成人集団を健常群として用いたりするこ
とができる。該健常群における該AD検出用タンパク質マーカーの濃度は、前述の手順で
測定することができる。好ましくは、健常群における該マーカーの濃度は予め測定されて
いる。より好ましくは、健常群における表7-1~7-4、表8、表9-1~9-7及び
表10-1~10-2に示すマーカーの全ての濃度が予め測定されている。
【0055】
あるいは、表7-1~7-4及び表9-1~9-7に示すタンパク質からなる群より選
択される少なくとも1種と、表8及び表10-1~10-2に示すタンパク質からなる群
より選択される少なくとも1種とを組み合わせて標的マーカーとして用いてもよい。AD
検出の基準は上記と同様である。
【0056】
本発明のAD検出方法の一実施形態において、被験体が乳幼児の場合、標的マーカーは
表7-1~7-4及び表8に示されたAD検出用タンパク質マーカーから選択される少な
くとも1種が好ましく、被験体が成人の場合、標的マーカーは表9-1~9-7及び表1
0-1~10-2に示されたAD検出用タンパク質マーカーから選択される少なくとも1
種が好ましい。
【0057】
乳幼児用のAD検出用タンパク質マーカーの別の好ましい例としては、下記表11-1
~11-4に示す127種のタンパク質が挙げられる。表11-1~11-4に示すタン
パク質は、健常児及びAD罹患児のSSLから抽出され、全被験体の75%以上で定量値
が得られたタンパク質のうち、健常児と比較してAD罹患児で存在比が1.5倍以上(p
≦0.05)に上昇又は0.75倍以下(p≦0.05)に減少したタンパク質である。
成人用のAD検出用タンパク質マーカーの別の好ましい例としては、下記表14-1~1
4-7に示す220種のタンパク質が好ましい例として挙げられる。表14-1~14-
7に示すタンパク質は、成人健常者及び成人AD患者のSSLから抽出され、全被験体の
75%以上で定量値が得られたタンパク質のうち、健常者と比較してAD患者で存在比が
1.5倍以上(p≦0.05)に上昇又は0.75倍以下(p≦0.05)に減少したタ
ンパク質である。
【0058】
したがって、本発明のAD検出方法の別の一実施形態において、被験体が乳幼児の場合
、標的マーカーは表11-1~11-4に示されたAD検出用タンパク質マーカーから選
択される少なくとも1種が好ましく、被験体が成人の場合、標的マーカーは表14-1~
14-7に示されたAD検出用タンパク質マーカーから選択される少なくとも1種が好ま
しい。あるいは、被験体に乳幼児と成人の両方が含まれる場合は、表11-1~11-4
に示すタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種と、表14-1~14-7に
示すタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種とを組み合わせて標的マーカー
として用いてもよい。
【0059】
さらなる実施形態において、本発明のAD検出方法は、被験体のSSLにおける該AD
検出用タンパク質マーカーの量(例えばSSL中マーカー濃度)を利用して構築された予
測モデルに基づいてADを検出することを含む。例えば、該AD検出用タンパク質マーカ
ーの量を説明変数とし、ADか否かを目的変数として、機械学習アルゴリズムによりAD
患者と健常者とを分ける判別式(予測モデル)を構築する。当該判別式を利用して、AD
を検出することができる。該マーカーの量(濃度)は、絶対値であっても相対値であって
もよくあるいは正規化処理されていてもよい。
【0060】
一実施形態においては、AD患者SSL由来の標的マーカーの定量値と、健常者SSL
由来の標的マーカーの定量値を教師サンプルとして、AD患者と健常人を分ける判別式(
予測モデル)を構築し、当該判別式に基づいてアトピー性皮膚炎患者と健常者を判別する
カットオフ値(参照値)を求める。次いで被験体から採取されたSSLから標的マーカー
の量を測定し、得られた測定値を当該判別式に代入し、当該判別式から得られた結果を参
照値と比較することによって、被検体におけるADの存在又は不存在を検出できる。
【0061】
判別式の構築に用いる変数には説明変数と目的変数がある。説明変数としては、例えば
、下記の方法で選択したAD検出用タンパク質マーカーの発現レベル(例えばSSL中濃
度)を用いることができる。目的変数としては、例えば、そのサンプルが健常人由来かA
D患者由来か(ADの有無)、を用いることができる。
【0062】
特徴量には、判別する2群間の統計学的に有意な差異、例えば、発現レベルが2群間で
有意に変動するタンパク質(発現変動タンパク質)を特徴量タンパク質とし、その発現レ
ベルを用いることができる。また特徴量タンパク質は、機械学習アルゴリズムなどの公知
のアルゴリズムを利用して抽出することができる。例えば、下記に示すランダムフォレス
トにおける変数重要度の高いタンパク質の発現レベルを用いたり、R言語の“Borut
a”パッケージなどを用いて特徴量タンパク質を抽出したりすることができる。
【0063】
判別式の構築におけるアルゴリズムとしては、機械学習に用いるアルゴリズムなどの公
知のものを利用することができる。機械学習アルゴリズムの例としては、ランダムフォレ
スト(Random forest)、線形カーネルのサポートベクターマシン(SVM
linear)、rbfカーネルのサポートベクターマシン(SVM rbf)ニュー
ラルネットワーク(Nerural net)、一般線形モデル(Generalize
d linear model)、正則化線形判別分析(Regularized li
near discriminant analysis)、正則化ロジスティック回帰
(Regularized logistic regression)などが挙げられ
る。構築した予測モデルに検証用のデータを入力して予測値を算出し、該予測値が実測値
と最も適合するモデル、例えば正解率(Accuracy)が最も大きいモデルを最適な
予測モデルとして選抜することができる。また、予測値と実測値から検出率(Recal
l)、精度(Precision)、及びそれらの調和平均であるF値を計算し、そのF
値が最も大きいモデルを最適な予測モデルとして選抜することができる。
【0064】
判別式の構築においてランダムフォレストのアルゴリズムを使用する場合、予測モデル
の精度の指標として、未知データに対する推定の誤答率(OOB error rate
)を算出することができる(Breiman L. Machine Learning (2001) 45;5-32)。ランダム
フォレストにおいては、ブートストラップ法という手法に従い、全サンプル中から重複を
許して、サンプル数の約3分の2のサンプルをランダムに抽出し、決定木と呼ばれる分類
器を作成する。このとき、抽出されなかったサンプルはOut of bug(OOB)と
呼ばれる。1本の決定木を用いてOOBの目的変数の予測を行い、正解ラベルと比較する
ことで、その誤答率を算出することができる(決定木におけるOOB error ra
te)。同様の作業を500回繰り返し行い、500本の決定木におけるOOB err
or rateの平均値をとった値を、該ランダムフォレストのモデルのOOB err
or rateとすることができる。
【0065】
なお、ランダムフォレストのモデルを構築する決定木の数(ntree値)は、デフォ
ルトでは500本であるが、必要に応じて任意の本数に変更することができる。さらに、
1つの決定木においてサンプルの判別式の作成に用いる変数の数(mtry値)は、デフ
ォルトでは説明変数の数の平方根をとった値であるが、必要に応じて1つから全説明変数
の数までの値のいずれかに変更することができる。mtry値の決定にはR言語の“ca
ret”パッケージを用いることができる。“caret”パッケージのメソッドにラン
ダムフォレストを指定し、8通りのmtry値を試行し、例えばAccuracyが最大
となるmtry値を最適なmtry値として選択することができる。なお、mtry値の
試行回数は、必要に応じて任意の試行回数に変更することができる。
【0066】
判別式の構築においてランダムフォレストのアルゴリズムを使用する場合、モデルの構
築に用いた説明変数の重要度を数値(変数重要度)化することができる。変数重要度の値
には、例えば、ジニ係数の減少量(Mean Decrease Gini)を用いるこ
とができる。
【0067】
カットオフ値(参照値)の決定方法は特に制限されず、公知の手法に従って決定するこ
とができる。例えば、判別式を使用して作成されたROC(Receiver Oper
ating Characteristic Curve)曲線より求めることができる
。ROC曲線では、縦軸に陽性患者において陽性の結果がでる確率(感度)と、横軸に陰
性患者において陰性の結果がでる確率(特異度)を1から減算した値(偽陽性率)がプロ
ットされる。ROC曲線に示される「真陽性(感度)」及び「偽陽性(1-特異度)」に
関し、「真陽性(感度)」-「偽陽性(1-特異度)」が最大となる値(Youden
index)をカットオフ値(参照値)とすることができる。
【0068】
予測モデルの構築に多数のタンパク質のデータを使用する場合は、必要に応じて、主成
分分析(PCA)によってデータを圧縮してから予測モデルの構築を行ってもよい。例え
ば、タンパク質の定量値の主成分分析により次元圧縮を行ない、主要な主成分を予測モデ
ルの構築のための説明変数とすることができる。
【0069】
後述の実施例に示すように、健常児とAD罹患児で発現変動が見られた表11-1~1
1-4のタンパク質を特徴量タンパク質とし、その定量データ(Log2(Abunda
nce+1)値)を説明変数とし、健常児とAD罹患児を目的変数とし、機械学習アルゴ
リズムとしてランダムフォレスト(Breiman L. Machine Learning (2001) 45;5-32)を用
いて検出モデルの構築を試みた。構築された予測モデルにより乳幼児ADの予測が可能で
あることが示された。また後述の実施例に示すように、成人健常者と成人AD患者で発現
変動が見られた表14-1~14-7のタンパク質についても、同様に構築された予測モ
デルにより成人ADの予測が可能であることが示された。よって、本発明のAD検出方法
の一実施形態においては、被験体は乳幼児であり、標的マーカーは表11-1~11-4
に示す127種のタンパク質である。本発明のAD検出方法の別の一実施形態においては
、被験体は成人であり、標的マーカーは表14-1~14-7に示す220種のタンパク
質である。
【0070】
後述する実施例に示すように、健常児とAD罹患児を被験者とし、被験者からのSSL
由来タンパク質の定量データ(Log2(Abundance+1)値)を説明変数とし
、健常児とAD罹患児を目的変数とし、機械学習アルゴリズムとしてランダムフォレスト
を用いて特徴量タンパク質の抽出及び予測モデルの構築を試みた。モデル構築の過程で算
出されたジニ係数に基づいて変数重要度の上位140種のタンパク質(表12-1~12
-4)を特徴量タンパク質として選択し、これを用いて予測モデルを構築した。構築され
た予測モデルにより乳幼児ADの予測が可能であることが示された。また後述の実施例に
示すように、健常者(成人)とAD患者(成人)を被験者とし、被験者からのSSL由来
タンパク質の定量データ(Log2(Abundance+1)値)を用いて、同様に特
徴量タンパク質の抽出及び予測モデルの構築を試みた。ジニ係数に基づく変数重要度の上
位110種のタンパク質(表15-1~15-4)を特徴量タンパク質として選択し、こ
れを用いて予測モデルを構築した。構築された予測モデルにより成人ADの予測が可能で
あることが示された。よって、本発明のAD検出方法の一実施形態においては、被験体は
乳幼児であり、標的マーカーは表12-1~12-4に示す140種のタンパク質である
。本発明のAD検出方法の別の一実施形態においては、被験体は成人であり、標的マーカ
ーは表15-1~15-4に示す110種のタンパク質である。
【0071】
後述の実施例で示すように、健常児とAD罹患児を被験者とし、被験者からのSSL由
来タンパク質の定量データ(Log2(Abundance+1)値)を説明変数とし、
健常児とAD罹患児を目的変数とし、機械学習アルゴリズムとしてBoruta法(Kurs
a et al. Fundamental Informaticae (2010) 101;271-286)を用いて特徴量タンパク質の
抽出(最大試行回数1000回、p値0.01未満)を行った。35種のタンパク質(表
13)が特徴量タンパク質として抽出された。これらのタンパク質の定量データを特徴量
に用いたランダムフォレストにより構築した予測モデルで乳幼児ADの予測が可能である
ことが示された。また後述の実施例で示すように、健常者(成人)とAD患者(成人)を
被験者とし、被験者からのSSL由来タンパク質の定量データ(Log2(Abunda
nce+1)値)を説明変数に使用して同様に特徴量タンパク質の抽出を行った。24種
のタンパク質(表16)が特徴量タンパク質として抽出された。これを用いて同様にラン
ダムフォレストにより構築した予測モデルで成人ADの予測が可能であることが示された
。よって、よって、本発明のAD検出方法の別の一実施形態においては、被験体は乳幼児
であり、AD検出用タンパク質マーカーは表13に示す35種のタンパク質である。本発
明のAD検出方法の別の一実施形態においては、被験体は成人であり、AD検出用タンパ
ク質マーカーは表16に示す24種のタンパク質である。
【0072】
上述のAD検出用タンパク質マーカーのうち、発現変動解析で抽出された表7-1~7
-4、表8及び表11-1~11-4いずれかに含まれる130種タンパク質(A)と、
ランダムフォレストによるにより特徴量タンパク質として選択された表12-1~12-
4に示す140種のタンパク質(B)と、Boruta法により特徴量タンパク質として
選択された表13に示す35種のタンパク質(C)の和集合(A∪B∪C)が、表4-1
~4-6に示す200種のタンパク質である。表4-1~4-6に示すタンパク質からな
る群より選択される少なくとも1種のタンパク質は、本発明において好ましい乳幼児AD
検出用マーカーとして使用される。該少なくとも1種のタンパク質の量を被験体と健常群
との間で比較することで、乳幼児ADを検出することができる。あるいは、該少なくとも
1種のタンパク質を特徴量タンパク質として予測モデルを構築し、該予測モデルに基づい
て乳幼児ADを検出することができる。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
上述の表4-1~4-6に示すタンパク質のうち、POF1B(Protein POF1B)、MNDA(My
eloid cell nuclear differentiation antigen)、SERPINB4(Serpin B4)、CLEC3B(Tet
ranectin)、PLEC(Plectin)、LGALS7(Galectin-7)、H2AC4(Histone H2A type 1-B/E
)、SERPINB3(Serpin B3)、AMBP(Protein AMBP)、PFN1(Profilin-1)、DSC3(Desmo
collin-3)、IGHG1(Immunoglobulin heavy constant gamma 1)、ORM1(Alpha-1-acid g
lycoprotein 1)、RECQL(ATP-dependent DNA helicase Q1)、RPL26(60S ribosomal pr
otein L26)、KLK13(Kallikrein-13)、RPL22(60S ribosomal protein L22)、APOA2(
Apolipoprotein A-II)、SERPINB5(Serpin B5)、LCN15(Lipocalin-15)、IGHG3(Immu
noglobulin heavy constant gamma 3)、CAP1(Adenylyl cyclase-associated protein 1
)及びSPRR2F(Small proline-rich protein 2F)からなる23種のタンパク質は、上記
のタンパク質(A)、(B)及び(C)に共通するタンパク質である。これらの23種の
タンパク質からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質は、本発明においてよ
り好ましい乳幼児AD検出用マーカーとして使用される。該少なくとも1種のタンパク質
の量を被験体と健常群との間で比較することで、乳幼児ADを検出することができる。あ
るいは、該少なくとも1種のタンパク質を特徴量タンパク質として予測モデルを構築し、
該予測モデルに基づいて乳幼児ADを検出することができる。
【0080】
本発明の好ましい実施形態においては、乳幼児被験体から採取したSSLから、前記2
3種のタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種、好ましくは2種以上、より
好ましくは5種以上、さらに好ましくは10種以上、さらに好ましくは全てのタンパク質
を定量する。また、本発明では、前記23種のタンパク質からなる群より選択される少な
くとも1種のタンパク質に加えて、下記表4-1~4-6に示される200種のタンパク
質(前記23種のタンパク質を除く)からなる群より選択される1種以上のタンパク質を
定量してもよい。例えば、前記23種のタンパク質からなる群より選択される少なくとも
1種のタンパク質に加えて、表11-1~11-4に示される127種のタンパク質(前
記23種のタンパク質を除く)からなる群より選択される少なくとも1種、表12-1~
12-4に示される140種のタンパク質(前記23種のタンパク質を除く)からなる群
より選択される少なくとも1種、及び/又は表13に示される35種のタンパク質(前記
23種のタンパク質を除く)からなる群より選択される少なくとも1種を定量してもよい
。このとき、表11-1~11-4からタンパク質を選択する場合は、発現変動の有意性
がより高い(例えばp値がより小さい)ものから優先的に選択してもよい。また、表12
-1~12-4のタンパク質を選択する場合は、変数重要度がより上位のタンパク質から
優先的に選択したり、変数重要度が上位から50位、好ましくは30位までのタンパク質
群から選択してもよい。上記のような少なくとも1種のタンパク質の量を被験体と健常群
との間で比較することで、乳幼児ADを検出することができる。あるいは、上記のような
少なくとも1種のタンパク質を特徴量タンパク質として予測モデルを構築し、該予測モデ
ルに基づいて乳幼児ADを検出することができる。
【0081】
上述のAD検出用タンパク質マーカーのうち、発現変動解析で抽出された表9-1~9
-7、表10-1~10-2及び表14-1~14-7に示す242種のタンパク質(D
)と、ランダムフォレストにより特徴量タンパク質として選択された表15-1~15-
4に示す110種のタンパク質(E)と、Boruta法により特徴量タンパク質として
選択された表16に示す24種のタンパク質(F)の和集合(D∪E∪F)が、表5-1
~5-9に示す283種のタンパク質である。表5-1~5-9に示すタンパク質からな
る群より選択される少なくとも1種のタンパク質は、本発明において好ましい成人AD検
出用のタンパク質マーカーとして使用される。該少なくとも1種のタンパク質の量を被験
体と健常群との間で比較することで、成人ADを検出することができる。あるいは、該少
なくとも1種のタンパク質を特徴量タンパク質として予測モデルを構築し、該予測モデル
に基づいて成人ADを検出することができる。
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
上述の表5-1~5-9に示すタンパク質のうち、SERPINB1(Leukocyte elastase inh
ibitor)、TTR(Transthyretin)、DHX36(ATP-dependent DNA/RNA helicase DHX36)、I
TIH4(Inter-alpha-trypsin inhibitor heavy chain H4)、GC(Vitamin D-binding prot
ein)、ALB(Serum albumin)、SERPING1(Plasma protease C1 inhibitor)、DDX55(AT
P-dependent RNA helicase DDX55)、IGHV1-46(Immunoglobulin heavy variable 1-46)
、EZR(Ezrin)、VTN(Vitronectin)、AHSG(Alpha-2-HS-glycoprotein)、HPX(Hemope
xin)、PPIA(Peptidyl-prolyl cis-trans isomerase A)、KNG1(Kininogen-1)、FN1(
Fibronectin)、PLG(Plasminogen)、PRDX6(Peroxiredoxin-6)及びFLG2(Filaggrin-2
)からなる19種のタンパク質は、上記のタンパク質(D)、(E)及び(F)に共通す
るタンパク質である。これら19種のタンパク質から選択される少なくとも1種のタンパ
ク質は、本発明においてより好ましい成人AD検出用マーカーとして使用される。該少な
くとも1種のタンパク質の量を被験体と健常群との間で比較することで、成人ADを検出
することができる。あるいは、該少なくとも1種のタンパク質を特徴量タンパク質として
予測モデルを構築し、該予測モデルに基づいて成人ADを検出することができる。
【0092】
本発明の好ましい実施形態においては、成人被験体から採取したSSLから、前記19
種のタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種、好ましくは2種以上、より好
ましくは5種以上、さらに好ましくは10種以上、さらに好ましくは全てのタンパク質を
定量する。また、本発明では、前記19種のタンパク質からなる群より選択される少なく
とも1種のタンパク質に加えて、下記表5-1~5-9に示される283種のタンパク質
(前記19種のタンパク質を除く)からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク
質を定量してもよい。例えば、前記19種のタンパク質からなる群より選択される少なく
とも1種のタンパク質に加えて、表14-1~14-7に示される220種のタンパク質
(前記19種のタンパク質を除く)からなる群より選択される少なくとも1種、表15-
1~15-4に示される110種のタンパク質(前記19種のタンパク質を除く)からな
る群より選択される少なくとも1種、及び/又は表16に示される24種のタンパク質(
前記19種のタンパク質を除く)からなる群より選択される少なくとも1種を定量しても
よい。このとき、表14-1~14-7からタンパク質を選択する場合は、発現変動の有
意性がより高い(例えばp値がより小さい)ものから優先的に選択してもよい。また、表
15-1~15-4のタンパク質を選択する場合は、変数重要度がより上位のタンパク質
から優先的に選択したり、変数重要度が上位から50位、好ましくは30位までのタンパ
ク質群から選択してもよい。該少なくとも1種のタンパク質の量を被験体と健常群との間
で比較することで、成人ADを検出することができる。あるいは、該少なくとも1種のタ
ンパク質を特徴量タンパク質として予測モデルを構築し、該予測モデルに基づいて成人A
Dを検出することができる。
【0093】
本発明の例示的実施形態として、以下の物質、製造方法、用途、方法等をさらに本明細
書に開示する。但し、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0094】
〔1〕被験体から採取した皮膚表上脂質から、上記表1-1~1-13に示すタンパク質
からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質を回収することを含む、アトピー
性皮膚炎検出用タンパク質マーカーの調製方法。
〔2〕被験体から採取した皮膚表上脂質から、上記表1-1~1-13に示すタンパク質
からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質を検出することを含む、被験体に
おけるアトピー性皮膚炎の検出方法。
〔3〕好ましくは、前記少なくとも1種のタンパク質が、
表2-1~2-5に示すタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種のタンパ
ク質であるか、
表3-1~3-2に示すタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種のタンパ
ク質である、
〔1〕又は〔2〕記載の方法。
〔4〕前記被験体が好ましくは乳幼児であり、
前記少なくとも1種のタンパク質が、
好ましくは、表4-1~4-6に示すタンパク質からなる群より選択される少なくと
も1種のタンパク質であり、
より好ましくは、表7-1~7-4及び表8に示すタンパク質からなる群より選択さ
れる少なくとも1種のタンパク質であり、
さらに好ましくは、表11-1~11-4に示すタンパク質からなる群より選択され
る少なくとも1種のタンパク質であるか、又は表12-1~12-4に示すタンパク質か
らなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質であるか、又は表13に示すタンパ
ク質からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質であり、
さらに好ましくは、POF1B、MNDA、SERPINB4、CLEC3B、PLEC、LGALS7、H2AC4、SERPIN
B3、AMBP、PFN1、DSC3、IGHG1、ORM1、RECQL、RPL26、KLK13、RPL22、APOA2、SERPINB5、
LCN15、IGHG3、CAP1及びSPRR2Fからなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質を
含み、
さらに好ましくは、POF1B、MNDA、SERPINB4、CLEC3B、PLEC、LGALS7、H2AC4、SERPIN
B3、AMBP、PFN1、DSC3、IGHG1、ORM1、RECQL、RPL26、KLK13、RPL22、APOA2、SERPINB5、
LCN15、IGHG3、CAP1及びSPRR2Fからなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質と
、表11-1~11-4、表12-1~12-4及び表13に示すタンパク質からなる群
より選択される少なくとも1種の別のタンパク質との組み合わせである、
〔1〕又は〔2〕記載の方法。
〔5〕前記被験体が好ましくは成人であり、
前記少なくとも1種のタンパク質が、
好ましくは、表5-1~5-9に示すタンパク質からなる群より選択される少なくと
も1種のタンパク質であり、
より好ましくは、表9-1~9-7及び表10-1~10-2に示すタンパク質から
なる群より選択される少なくとも1種のタンパク質であり、
さらに好ましくは、表14-1~14-7に示すタンパク質からなる群より選択され
る少なくとも1種のタンパク質であるか、又は表15-1~15-4に示すタンパク質か
らなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質であるか、又は表16に示すタンパ
ク質からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質であり、
さらに好ましくは、SERPINB1、TTR、DHX36、ITIH4、GC、ALB、SERPING1、DDX55、IGH
V1-46、EZR、VTN、AHSG、HPX、PPIA、KNG1、FN1、PLG、PRDX6及びFLG2からなる群より選
択される少なくとも1種のタンパク質を含み、
さらに好ましくは、SERPINB1、TTR、DHX36、ITIH4、GC、ALB、SERPING1、DDX55、IGH
V1-46、EZR、VTN、AHSG、HPX、PPIA、KNG1、FN1、PLG、PRDX6及びFLG2からなる群より選
択される少なくとも1種のタンパク質と、表14-1~14-7、表15-1~15-4
及び表16に示すタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種の別のタンパク質
との組み合わせである、
〔1〕又は〔2〕記載の方法。
〔6〕前記被験体が、好ましくは乳幼児であり、
前記少なくとも1種のタンパク質が、好ましくは表7-1~7-4に示すタンパク質か
らなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質であり、
前記方法が、好ましくは該少なくとも1種のタンパク質の濃度が健常群と比較して増加
していた場合に、該被験体をアトピー性皮膚炎と検出することを含む、
〔2〕記載の方法。
〔7〕前記被験体が、好ましくは乳幼児であり、
前記少なくとも1種のタンパク質が、好ましくは表8に示すタンパク質からなる群より
選択される少なくとも1種のタンパク質であり、
前記方法が、好ましくは該少なくとも1種のタンパク質の濃度が健常群と比較して低下
していた場合に、該被験体をアトピー性皮膚炎と検出することを含む、
〔2〕記載の方法。
〔8〕前記被験体が、好ましくは成人であり、
前記少なくとも1種のタンパク質が、好ましくは表9-1~9-7に示すタンパク質か
らなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質であり、
前記方法が、好ましくは該少なくとも1種のタンパク質の濃度が健常群と比較して増加
していた場合に、該被験体をアトピー性皮膚炎と検出することを含む、
〔2〕記載の方法。
〔9〕前記被験体が、好ましくは成人であり、
前記少なくとも1種のタンパク質が、好ましくは表10-1~10-2に示すタンパク
質からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質であり、
前記方法が、好ましくは該少なくとも1種のタンパク質の濃度が健常群と比較して低下
していた場合に、該被験体をアトピー性皮膚炎と検出することを含む、
〔2〕記載の方法。
〔10〕前記方法が、
好ましくは、前記少なくとも1種のタンパク質の濃度を説明変数とし、ADの有無を目
的変数として構築された予測モデルに基づいてADを検出することを含み、
より好ましくは、アトピー性皮膚炎患者と健常者を判別するカットオフ値に基づいてA
Dを検出することを含み、該カットオフ値が、アトピー性皮膚炎患者由来の前記少なくと
も1種のタンパク質の濃度と、健常者由来の該タンパク質の濃度を教師サンプルとして構
築された、アトピー性皮膚炎患者と健常者を分ける判別式から算出され、前記被験体の皮
膚表上脂質から得られた該少なくとも1種のタンパク質の濃度を該判別式に代入し、得ら
れた結果を該カットオフ値と比較することによって、該被験体におけるアトピー性皮膚炎
の有無を評価する、
〔2〕~〔5〕のいずれか1項記載の方法。
〔11〕好ましくは、アトピー性皮膚炎を有する又はその発症が疑われる被験体由来の皮
膚表上脂質を検出する、〔2〕~〔10〕のいずれか1項記載の方法。
〔12〕前記被験体が、好ましくは乳幼児であり、
前記少なくとも1種のタンパク質が、好ましくは表7-1~7-4に示すタンパク質か
らなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質であり、
前記方法が、好ましくは該少なくとも1種のタンパク質の濃度が健常群と比較して増加
していた場合に、前記皮膚表上脂質をアトピー性皮膚炎を有する又はその発症が疑われる
被験体由来のものとして検出することを含む、
〔11〕記載の方法。
〔13〕前記被験体が、好ましくは乳幼児であり、
前記少なくとも1種のタンパク質が、好ましくは表8に示すタンパク質からなる群より
選択される少なくとも1種のタンパク質であり、
前記方法が、好ましくは該少なくとも1種のタンパク質の濃度が健常群と比較して低下
していた場合に、前記皮膚表上脂質をアトピー性皮膚炎を有する又はその発症が疑われる
被験体由来のものとして検出することを含む、
〔11〕記載の方法。
〔14〕前記被験体が、好ましくは成人であり、
前記少なくとも1種のタンパク質が、好ましくは表9-1~9-7に示すタンパク質か
らなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質であり、
前記方法が、好ましくは該少なくとも1種のタンパク質の濃度が健常群と比較して増加
していた場合に、前記皮膚表上脂質をアトピー性皮膚炎を有する又はその発症が疑われる
被験体由来のものとして検出することを含む、
〔11〕記載の方法。
〔15〕前記被験体が、好ましくは成人であり、
前記少なくとも1種のタンパク質が、好ましくは表10-1~10-2に示すタンパク
質からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質であり、
前記方法が、好ましくは該少なくとも1種のタンパク質の濃度が健常群と比較して低下
していた場合に、前記皮膚表上脂質をアトピー性皮膚炎を有する又はその発症が疑われる
被験体由来のものとして検出することを含む、
〔11〕記載の方法。
〔16〕好ましくは、前記被験体から皮膚表上脂質を採取することをさらに含む、〔1〕
~〔15〕のいずれか1項記載の方法。
【0095】
〔17〕上記上記表1-1~1-13に示すタンパク質からなる群より選択される少なく
とも1種を含む、アトピー性皮膚炎検出用タンパク質マーカー。
〔18〕好ましくは、前記少なくとも1種のタンパク質が、
表2-1~2-5に示すタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種のタンパ
ク質であるか、
表3-1~3-2に示すタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種のタンパ
ク質である、
〔17〕記載のマーカー。
〔19〕前記マーカーが好ましくは乳幼児アトピー性皮膚炎検出用マーカーであり、
前記少なくとも1種のタンパク質が、
好ましくは、表7-1~7-4及び表8に示すタンパク質からなる群より選択される
少なくとも1種のタンパク質であり、
より好ましくは、表11-1~11-4に示すタンパク質からなる群より選択される
少なくとも1種のタンパク質であり、
さらに好ましくは、表4-1~4-6に示すタンパク質からなる群より選択される少
なくとも1種のタンパク質であり、
さらに好ましくは、POF1B、MNDA、SERPINB4、CLEC3B、PLEC、LGALS7、H2AC4、SERPIN
B3、AMBP、PFN1、DSC3、IGHG1、ORM1、RECQL、RPL26、KLK13、RPL22、APOA2、SERPINB5、
LCN15、IGHG3、CAP1及びSPRR2Fからなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質で
ある、
〔17〕記載のマーカー。
〔20〕前記被験体が好ましくは前記マーカーが好ましくは成人アトピー性皮膚炎検出用
マーカーであり、
前記少なくとも1種のタンパク質が、
好ましくは、表9-1~9-7及び表10-1~10-2に示すタンパク質からなる
群より選択される少なくとも1種のタンパク質であり、
より好ましくは、表14-1~14-7に示すタンパク質からなる群より選択される
少なくとも1種のタンパク質であり、
さらに好ましくは、表5-1~5-9に示すタンパク質からなる群より選択される少
なくとも1種のタンパク質であり、
さらに好ましくは、SERPINB1、TTR、DHX36、ITIH4、GC、ALB、SERPING1、DDX55、IGH
V1-46、EZR、VTN、AHSG、HPX、PPIA、KNG1、FN1、PLG、PRDX6及びFLG2からなる群より選
択される少なくとも1種のタンパク質である、
〔17〕記載のマーカー。
【0096】
〔21〕上記表1-1~1-13に示すタンパク質からなる群より選択される少なくとも
1種のタンパク質の、アトピー性皮膚炎検出用マーカーとしての使用。
〔22〕上記表1-1~1-13に示すタンパク質からなる群より選択される少なくとも
1種のタンパク質の、アトピー性皮膚炎検出用タンパク質マーカーの製造における使用。
〔23〕好ましくは、前記少なくとも1種のタンパク質が、
表2-1~2-5に示すタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種のタンパ
ク質であるか、
表3-1~3-2に示すタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種のタンパ
ク質である、
〔21〕又は〔22〕記載の使用。
〔24〕前記マーカーが好ましくは乳幼児アトピー性皮膚炎検出用マーカーであり、
前記少なくとも1種のタンパク質が、
好ましくは、表7-1~7-4及び表8に示すタンパク質からなる群より選択される
少なくとも1種のタンパク質であり、
より好ましくは、表11-1~11-4に示すタンパク質からなる群より選択される
少なくとも1種のタンパク質であり、
さらに好ましくは、表4-1~4-6に示すタンパク質からなる群より選択される少
なくとも1種のタンパク質であり、
さらに好ましくは、POF1B、MNDA、SERPINB4、CLEC3B、PLEC、LGALS7、H2AC4、SERPIN
B3、AMBP、PFN1、DSC3、IGHG1、ORM1、RECQL、RPL26、KLK13、RPL22、APOA2、SERPINB5、
LCN15、IGHG3、CAP1及びSPRR2Fからなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質で
ある、
〔21〕又は〔22〕記載の使用。
〔25〕前記被験体が好ましくは前記マーカーが好ましくは成人アトピー性皮膚炎検出用
マーカーであり、
前記少なくとも1種のタンパク質が、
好ましくは、表9-1~9-7及び表10-1~10-2に示すタンパク質からなる
群より選択される少なくとも1種のタンパク質であり、
より好ましくは、表14-1~14-7に示すタンパク質からなる群より選択される
少なくとも1種のタンパク質であり、
さらに好ましくは、表5-1~5-9に示すタンパク質からなる群より選択される少
なくとも1種のタンパク質であり、
さらに好ましくは、SERPINB1、TTR、DHX36、ITIH4、GC、ALB、SERPING1、DDX55、IGH
V1-46、EZR、VTN、AHSG、HPX、PPIA、KNG1、FN1、PLG、PRDX6及びFLG2からなる群より選
択される少なくとも1種のタンパク質である、
〔21〕又は〔22〕記載の使用。
【実施例0097】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるも
のではない。
【0098】
実施例1 乳幼児SSL由来タンパク質を用いた、アトピー性皮膚炎関連の発現変動タン
パク質の同定
1)被験者及びSSL採取
健常児(6ヵ月~5歳男女)23名(健常群)、及びアトピー性皮膚炎罹患児(AD罹
患児)(6ヵ月~5歳男女)16名(AD群)を被験者とした。AD罹患児のリクルート
では、保護者による判定でUKWP基準を満たしたAD罹患児を集め、インフォームドコ
ンセントにより保護者の同意の得られた患者を選抜した。選抜したAD罹患児について、
皮膚科医が全身の皮膚の観察・及び問診をし、アトピー性皮膚炎診療ガイドラインに基づ
きADの診断をした。ADと診断されたAD罹患児のなかから、アトピー性皮膚炎診療ガ
イドラインに記載の重症度評価基準に基づき、顔に軽症度以上のAD様の湿疹や乾燥等の
症状を呈する乳幼児を選定し、被験者とした。各被験者の全顔(AD罹患児は皮疹部を含
む)からあぶら取りフィルム(5×8cm、ポリプロピレン製、3M社)を用いて皮脂を
回収した。該あぶら取りフィルムをガラスバイアルに移し、タンパク質抽出に使用するま
で-80℃で約1ヶ月間保存した。
【0099】
2)タンパク質調製
上記1)のあぶら取りフィルムを適当な大きさに切断し、QIAzol Lysis
Reagent(Qiagen)を用いて、付属のプロトコルに準じてタンパク質沈殿物
を得た。得られたタンパク質沈殿物より、MPEX PTS Reagent(GL s
cience)を用いて、付属のプロトコルに準じてタンパク質を可溶化液で溶解後、ト
リプシン消化をして、ペプチド溶液を得た。得られたペプチド溶液を減圧乾燥(35℃)
した後、0.1% formic acid、2% acetonitrileを含む水
溶液にて溶解させた。PierceTM Quantitative Fluoromet
ric Peptide Assay(ThermoFisher Scientifi
c)のプロトコルに従い、マイクロプレートリーダー(Corona Electric
)を用いて溶液中のペプチド濃度を測定した。必要なペプチド量が得られなかったAD罹
患児1名からのペプチド溶液は、以下の分析のサンプルから除外した。LC-MS/MS
分析に当たっては、MS装置に供するペプチド濃度を一定にして分析し、タンパク定量値
を算出した。
【0100】
3)LC-MS/MS分析及びデータ解析
上記2)で得られたサンプルペプチド溶液を下記表6の条件にてLC-MS/MS分析
に供した。
【0101】
【0102】
LC-MS/MS分析にて得られたスペクトルデータの解析には、Proteome
Discoverer ver.2.2(ThermoFisher Scientif
ic)を用いた。タンパク質同定には参照データベースをSwiss Prot、Tax
onomyをHomo sapiensと設定し、Mascot database s
earch(Matrix Science)を用いて検索した。検索では、Enzym
eをTrypsinとし、Missed cleavageを2、Dynamic mo
dificationsをOxidation(M)、Acetyl(N-term)、
Acetyl(Protein N-term)、Static Modificati
onsを Carbamidomethyl(C)に設定した。False disco
very rate(FDR)p<0.01を満たすペプチドを検索の対象とした。同定
したタンパク質についてプリカーサーイオンをベースとしたラベルフリー定量解析(LF
Q,Label Free Quantification)を行った。ペプチド由来の
プリカーサーイオンのピーク強度によりタンパク質定量値が算出され、ピーク強度が検出
限界以下であれば欠損値とされた。タンパク質存在比の算出には、Summed Abu
ndance Based法を用いた。群間の存在差異の有意性を示すp値の算出には、
ANOVA(Individual Based,t検定)を用いた。
【0103】
4)結果
同定されたタンパク質のうち、False discovery rate(FDR)
が0.1以上であるタンパク質は、解析対象から除外した。健常群及びAD群のいずれか
で被験者の75%以上で欠損値でないタンパク質定量値が算出された、533種類のタン
パク質を解析対象として抽出した。健常群と比較してAD群で存在比が1.5倍以上(p
≦0.05)に上昇した116種のタンパク質(表7-1~7-4)、及び0.75倍以
下(p≦0.05)に減少した12種のタンパク質(表8)を同定した。
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
実施例2 成人SSL由来タンパク質を用いた、アトピー性皮膚炎関連の発現変動タンパ
ク質の同定
1)被験者及びSSL採取
健常者(20~59歳、男性)18名(健常群)、及びアトピー性皮膚炎患者(AD患
者)(20~59歳、男性)26名(AD群)を被験者とした。被験者には、インフォー
ムドコンセントにより同意を取得した。AD群の被験者は、皮膚科専門医により重症度が
軽症又は中等症のアトピー性皮膚炎の診断を受けており、顔に軽症度以上のAD様の湿疹
や乾燥等の症状を呈する者を選定した。各被験者の全顔(AD患者は皮疹部を含む)から
あぶら取りフィルム(5×8cm、ポリプロピレン製、3M社)を用いて皮脂を回収した
。該あぶら取りフィルムをバイアルに移し、タンパク質抽出に使用するまで-80℃で、
約1ヶ月間保存した。
【0110】
2)タンパク質調製
MPEX PTS Reagent(GL science)に替え、EasyPep
TM Mini MS Sample Prep Kit(ThermoFisher S
cientific)を用いて、付属のプロトコルに準じてペプチド溶液を得たほかは、
実施例1と同様の手順にてペプチド濃度を測定した。
【0111】
3)LC-MS/MS分析及びデータ解析
実施例1と同様の条件及び手順にてタンパク質の分析とデータ解析を行った。
【0112】
4)結果
同定されたタンパク質のうち、False discovery rate(FDR)
が0.1以上であるタンパク質は、解析対象から除外した。健常群及びAD群いずれかで
被験者の75%以上で欠損値でないタンパク質定量値が算出された、1075種類のタン
パク質を解析対象として抽出した。なお、タンパク質定量値に欠損値が多く認められたA
D患者1名は、解析から除外した。健常群と比較してAD群で存在比が1.5倍以上(p
≦0.05)に上昇した205種のタンパク質(表9-1~9-7)、及び0.75倍以
下(p≦0.05)に減少した37種のタンパク質(表10-1~10-2)を同定した
。
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
実施例3 乳幼児アトピー性皮膚炎検出のための判別モデルの構築
(使用データ)
実施例1において得られたタンパク質の定量データを正規分布に近似するため、ノーマ
ライズ前のピーク強度をタンパク質定量値とし、各タンパク質定量値を全検出タンパク質
定量値の総和で除した値について底2の対数値に変換したLog2(Abundance
+1)値を算出した。得られたLog2(Abundance+1)値を機械学習モデル
の構築に用いた。実施例1と同様の方法で、全被験者の75%以上(29名以上)で欠損
値でないタンパク質定量値が算出された、475種類のタンパク質を抽出し、解析対象と
した。
【0123】
3-1 発現変動タンパク質を用いた判別モデルの構築
1)特徴量タンパク質の選択
上記475種類のタンパク質の中から健常児と比較してAD罹患児で統計学的に有意に
発現が変動していた127種のタンパク質(表11-1~11-4)を同定した。これら
のタンパク質を特徴量タンパク質として選択し、その定量データを特徴量とした。
2)モデル構築
上記127種のタンパク質のLog2(Abundance+1)値を説明変数とし、
健常児とAD罹患児(ADの有無)を目的変数として用いた。R言語の“caret”パ
ッケージにおいてランダムフォレストのアルゴリズムをメソッドとして指定し、1回の決
定木の構築に用いる変数の数(mtry値)の最適値をチューニングした。チューニング
によって決定したmtry値を用いて、ランダムフォレストのアルゴリズムを実行し、O
OB error rateを算出した。その結果、127種のタンパク質を特徴量タン
パク質として用いた場合のモデルでは、エラー率が18.42%であった。
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
3-2 ランダムフォレストの変数重要度の高いタンパク質を用いた判別モデルの構築
1)特徴量タンパク質の選択
上記475種類のタンパク質のLog2(Abundance+1)値を説明変数とし
、健常児とAD罹患児(ADの有無)を目的変数として用いた。R言語の“caret”
パッケージにおいてランダムフォレストのアルゴリズムをメソッドとして指定し、1回の
決定木の構築に用いる変数の数(mtry値)の最適値をチューニングした。チューニン
グによって決定したmtry値を用いて、ランダムフォレストのアルゴリズムを実行し、
ジニ係数に基づく変数重要度の上位140タンパク質を算出した(表12-1~12-4
)。これら140種のタンパク質、及び特徴量タンパク質の選択に使用した全475種の
タンパク質を特徴量タンパク質とし、それらの定量データを特徴量とした。
2)モデル構築
上記140種のタンパク質又は全475種のタンパク質のLog2(Abundanc
e+1)値を説明変数とし、健常児とAD罹患児(ADの有無)を目的変数として用いた
。R言語の“caret”パッケージにおいてランダムフォレストのアルゴリズムをメソ
ッドとして指定し、1回の決定木の構築に用いる変数の数(mtry値)の最適値をチュ
ーニングした。チューニングによって決定したmtry値を用いて、ランダムフォレスト
のアルゴリズムを実行し、推定誤答率(OOB error rate)を算出した。そ
の結果、全475タンパク質を特徴量タンパク質に用いた場合のエラー率は28.95%
であったのに対し、変数重要度が上位140のタンパク質を特徴量タンパク質に用いた場
合のエラー率は7.89%であった。
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
3-3 Boruta法により抽出した特徴量タンパク質を用いた判別モデルの構築
1)特徴量タンパク質の選択
上記475種類のタンパク質のLog2(Abundance+1)値を説明変数とし
、健常児とAD罹患児(ADの有無)を目的変数として用い、R言語の“Boruta”
パッケージのアルゴリズムを実行した。最大試行回数を1000回とし、p値が0.01
未満である35種のタンパク質を抽出し(表13)、特徴量タンパク質として選択した。
それらのタンパク質の定量データを特徴量とした。
2)モデル構築
上記35種のタンパク質のLog2(Abundance+1)値を説明変数とし、健
常児とAD罹患児(ADの有無)を目的変数として用いた。R言語の“caret”パッ
ケージにおいてランダムフォレストのアルゴリズムをメソッドとして指定し、1回の決定
木の構築に用いる変数の数(mtry値)の最適値をチューニングした。チューニングに
よって決定したmtry値を用いて、ランダムフォレストのアルゴリズムを実行し、OO
B error rateを算出した。その結果、35種のタンパク質を特徴量タンパク
質として用いた場合のモデルではエラー率が10.53%であった。
【0134】
【0135】
実施例4 成人アトピー性皮膚炎検出のための判別モデルの構築
(使用データ)
実施例2において得られたタンパク質の定量データを正規分布に近似するため、ノーマ
ライズ前のピーク強度をタンパク質定量値とし、各タンパク質定量値を全検出タンパク質
定量値の総和で除した値について底2の対数値に変換したLog2(Abundance
+1)値を算出した。得られたLog2(Abundance+1)値を機械学習モデル
の構築に用いた。実施例2と同様の方法で、全被験者(但し、タンパク質の定量データが
正規分布に従わない3名を除外)の75%以上(31名以上)で欠損値でないタンパク質
定量値が算出された、985種類のタンパク質を抽出し、解析対象とした。
【0136】
4-1 発現変動タンパク質を用いた判別モデルの構築
1)特徴量タンパク質の選択
上記985種類のタンパク質の中から健常者と比較してAD患者で有意に発現が変動し
ていた220種のタンパク質(表14-1~14-7)を同定し、これらを特徴量タンパ
ク質として選択し、その定量データを特徴量とした。
2)モデル構築
上記220種のタンパク質のLog2(Abundance+1)値を説明変数とし、
健常者とAD患者(ADの有無)を目的変数として用いた。R言語の“caret”パッ
ケージにおいてランダムフォレストのアルゴリズムをメソッドとして指定し、1回の決定
木の構築に用いる変数の数(mtry値)の最適値をチューニングした。チューニングに
よって決定したmtry値を用いて、ランダムフォレストのアルゴリズムを実行し、OO
B error rateを算出した。その結果、220種のタンパク質を特徴量タンパク
質として用いた場合のモデルではエラー率が24.39%であった。
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
4-2 ランダムフォレストの変数重要度の高いタンパク質を用いた判別モデルの構築
1)特徴量タンパク質の選択
上記985種類のタンパク質のLog2(Abundance+1)値を説明変数とし
、健常者とAD患者(ADの有無)を目的変数として用いた。R言語の“caret”パ
ッケージにおいてランダムフォレストのアルゴリズムをメソッドとして指定し、1回の決
定木の構築に用いる変数の数(mtry値)の最適値をチューニングした。チューニング
によって決定したmtry値を用いて、ランダムフォレストのアルゴリズムを実行し、ジ
ニ係数に基づく変数重要度の上位110タンパク質を算出した(表15-1~15-4)
。これら110種のタンパク質、及び特徴量タンパク質の選択に使用した全985種のタ
ンパク質を特徴量タンパク質とし、その定量データを特徴量とした。
2)モデル構築
上記110種のタンパク質又は全985種のタンパク質のLog2(Abundanc
e+1)値を説明変数とし、健常者とAD患者(ADの有無)を目的変数として用いた。
R言語の“caret”パッケージにおいてランダムフォレストのアルゴリズムをメソッ
ドとして指定し、1回の決定木の構築に用いる変数の数(mtry値)の最適値をチュー
ニングした。チューニングによって決定したmtry値を用いて、ランダムフォレストの
アルゴリズムを実行し、推定誤答率(OOB error rate)を算出した。その結
果、全985タンパク質を特徴量タンパク質に用いた場合のエラー率は29.27%であ
ったのに対し、変数重要度が上位110のタンパク質を特徴量タンパク質に用いた場合の
エラー率は12.20%であった。
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
4-3 Boruta法により抽出した特徴量を用いた判別モデルの構築
1)特徴量の選択
上記985種類のタンパク質のLog2(Abundance+1)値を説明変数とし
、健常者とAD患者(ADの有無)を目的変数として用い、R言語の“Boruta”パ
ッケージのアルゴリズムを実行した。最大試行回数を1000回とし、p値が0.01未
満である24種のタンパク質を抽出し(表16)、特徴量タンパク質として選択した。そ
れらのタンパク質の定量データを特徴量とした。
2)モデル構築
上記24種のタンパク質のLog2(Abundance+1)値を説明変数とし、健
常者とAD患者(ADの有無)を目的変数として用いた。R言語の“caret”パッケ
ージにおいてランダムフォレストのアルゴリズムをメソッドとして指定し、1回の決定木
の構築に用いる変数の数(mtry値)の最適値をチューニングした。チューニングによ
って決定したmtry値を用いて、ランダムフォレストのアルゴリズムを実行し、OOB
error rateを算出した。その結果、24種のタンパク質を特徴量タンパク質
として用いた場合のモデルではエラー率が19.51%であった。
【0150】
【0151】
以上の実施例の解析で得られた合計418種類のタンパク質(前記表1-1~1-13
)について、テキストマイニング(エルゼビア)にてADとの関連が報告されている論文
数を調査した。検索によりADと関連する報告が4報以下で、且つADとの関連が記載さ
れていないことが確認されたタンパク質は147種であった(前記表2-1~2-5)。
これら147種のタンパク質は、新規なAD検出用マーカーである。