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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159351
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】改変されたDNAポリメラーゼ
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/12 20060101AFI20231024BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20231024BHJP
   C12N 15/10 20060101ALN20231024BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALN20231024BHJP
【FI】
C12N9/12 ZNA
C12N15/54
C12N15/10 200Z
C12Q1/686 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023136238
(22)【出願日】2023-08-24
(62)【分割の表示】P 2019067530の分割
【原出願日】2019-03-29
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.NONIDET
3.ノニデット
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡山 旦
(72)【発明者】
【氏名】新井 康広
(72)【発明者】
【氏名】小林 哲大
(57)【要約】      (修正有)
【課題】逆転写活性を有し、増幅効率が向上したDNAポリメラーゼの提供を課題とする。
【解決手段】逆転写活性を有するDNAポリメラーゼであって、かつ、特定のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列において751位に相当する部位のアミノ酸を改変したことを特徴とするDNAポリメラーゼを提供する。特定の好ましい実施形態では、前記特定のアミノ酸配列における751位に相当する部位のアミノ酸の改変が、チロシン、システイン、グルタミン、セリン、トレオニン、及びアスパラギンからなる群より選択される極性側鎖を有する中性アミノ酸に置換されたDNAポリメラーゼである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆転写活性を有し、かつ、配列番号1のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるDNAポリメラーゼにおいて、751位に相当する部位のアミノ酸を改変したことを特徴とするDNAポリメラーゼ。
【請求項2】
逆転写活性を有し、かつ、配列番号1のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列において、751位に相当する部位のアミノ酸を改変したことを特徴とするDNAポリメラーゼ。
【請求項3】
逆転写活性を有し、かつ、配列番号1のアミノ酸配列からなるDNAポリメラーゼにおいて、751位に相当する部位のアミノ酸を改変したことを特徴とするDNAポリメラーゼ。
【請求項4】
751位に相当する部位のアミノ酸の改変が、チロシン、システイン、グルタミン、セリン、トレオニン、及びアスパラギンからなる群より選択される極性側鎖を有する中性アミノ酸への置換である請求項1~3のいずれかに記載のDNAポリメラーゼ。
【請求項5】
751位に相当する部位のアミノ酸の改変が、チロシンへの置換である請求項1~4のいずれかに記載のDNAポリメラーゼ。
【請求項6】
逆転写反応が5分以下で完了する、請求項1~5のいずれかに記載のDNAポリメラーゼ。
【請求項7】
逆転写反応が1分以下で完了する、請求項1~6のいずれかに記載のDNAポリメラーゼ。
【請求項8】
更に、509位に相当する部位のアミノ酸の改変を含む、請求項1~7のいずれかに記載のDNAポリメラーゼ。
【請求項9】
509位に相当する部位のアミノ酸の改変が、ヒスチジン、リジン及びアルギニンからなる群より選択される塩基性アミノ酸への置換である、請求項8に記載のDNAポリメラーゼ。
【請求項10】
509位に相当する部位のアミノ酸の改変がアルギニンへの置換である、請求項8又は9に記載のDNAポリメラーゼ。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載のDNAポリメラーゼを含有する、核酸増幅用試薬。
【請求項12】
RNAからの核酸増幅のために用いられる、請求項11に記載の核酸増幅用試薬。
【請求項13】
RT-PCR方法において用いられる、請求項11又は12に記載の核酸増幅用試薬。
【請求項14】
請求項11~13のいずれかに記載の核酸増幅用試薬を含む、核酸増幅用キット。
【請求項15】
請求項1~10のいずれかに記載のDNAポリメラーゼ、請求項11~13のいずれかに記載の核酸増幅用試薬、又は請求項14に記載の核酸増幅用キットを用いる、核酸増幅方法。
【請求項16】
RNAを検出対象核酸とする、請求項15に記載の核酸増幅方法。
【請求項17】
逆転写反応時間が5分以下である、請求項15又は16に記載の核酸増幅方法。
【請求項18】
逆転写反応時間が1分以下である、請求項15~17のいずれかに記載の核酸増幅方法。
【請求項19】
RT-PCR反応を行う工程を包含する、請求項15~18のいずれかに記載の核酸増幅方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等に用いられる逆転写活性を有するDNAポリメラーゼの変異体に関する。本発明は、研究分野のみならず臨床診断や環境検査等にも利用できる。
【背景技術】
【0002】
核酸増幅法は数コピーの標的核酸を可視化可能なレベル、すなわち数億コピー以上に増幅する技術であり、生命科学研究分野のみならず、遺伝子診断、臨床検査といった医療分野、あるいは、食品や環境中の微生物検査等においても、広く用いられている。
【0003】
代表的な核酸増幅法はPCR(Polymerase Chain Reaction)である。PCRは、(1)熱処理によるDNA変性(2本鎖DNAから1本鎖DNAへの解離)、(2)鋳型1本鎖DNAへのプライマーのアニーリング、(3)DNAポリメラーゼを用いた前記プライマーの伸長、という3ステップを1サイクルとし、このサイクルを繰り返すことによって、試料中の標的核酸を増幅する方法である。
【0004】
検出対象核酸がRNAである場合、例えば病原性微生物の検出において対象がRNAウイルスである場合、あるいは遺伝子の発現量をmRNAの定量によって測定する場合などは、逆転写酵素によりRNAをcDNAに変換する反応(逆転写反応)をPCRの前に行うRT-PCRも広く用いられている。
【0005】
RT-PCRにおいては、逆転写酵素及びDNAポリメラーゼの2種類の酵素を用いることが一般的である。しかしDNAポリメラーゼの中には逆転写活性も有するものがあり、近年では、このような逆転写活性を有するDNAポリメラーゼが用いられる場合がある。逆転写活性を有するDNAポリメラーゼとしては、Thermus thermophilus HB8(サーマス・サーモフィルス HB8)由来のDNAポリメラーゼ(Tth)やThemus sp Z05由来のDNAポリメラーゼ(Z05)、Thermotoga maritima由来のDNAポリメラーゼ(Tma)などが挙げられる。しかしながら、これらのDNAポリメラーゼの逆転写活性は高いとは言い難く、さらなる改善が求められていた。また逆転写活性が低いことに起因し、これらのDNAポリメラーゼを用いたRT-PCRでは逆転写の反応時間が20分程度を要することが一般的である。迅速な検査や診断が求められる場面では、反応時間を短縮することが望まれており、逆転写活性の改良が求められていた。
【0006】
これまでにも、逆転写活性を有するDNAポリメラーゼの変異体が種々検討されている(特許文献1、2、3)。しかしながらこのような変異体でも、反応を効率よく実施するには十分とは言えない場合があり、更なる性能の高いポリメラーゼの開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5189101号公報
【特許文献2】国際公開第2010/050418号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2018/096961号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の従来技術に鑑みてなされたものであり、逆転写活性を有し、増幅効率の高いDNAポリメラーゼの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究の結果、サーマス・サーモフィルス由来のDNAポリメラーゼの特定部位におけるアミノ酸を改変することで、効率よく増幅できることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は主として以下のような構成からなる。
[項1] 逆転写活性を有し、かつ、配列番号1のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるDNAポリメラーゼにおいて、751位に相当する部位のアミノ酸を改変したことを特徴とするDNAポリメラーゼ。
[項2] 逆転写活性を有し、かつ、配列番号1のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列において、751位に相当する部位のアミノ酸を改変したことを特徴とするDNAポリメラーゼ。
[項3] 逆転写活性を有し、かつ、配列番号1のアミノ酸配列からなるDNAポリメラーゼにおいて、751位に相当する部位のアミノ酸を改変したことを特徴とするDNAポリメラーゼ。
[項4] 751位に相当する部位のアミノ酸の改変が、チロシン、システイン、グルタミン、セリン、トレオニン、及びアスパラギンからなる群より選択される極性側鎖を有する中性アミノ酸への置換である項1~3のいずれかに記載のDNAポリメラーゼ。
[項5] 751位に相当する部位のアミノ酸の改変が、チロシンへの置換である項1~4のいずれかに記載のDNAポリメラーゼ。
[項6] 逆転写反応が5分以下で完了する、項1~5のいずれかに記載のDNAポリメラーゼ。
[項7] 逆転写反応が1分以下で完了する、項1~6のいずれかに記載のDNAポリメラーゼ。
[項8] 更に、509位に相当する部位のアミノ酸の改変を含む、項1~7のいずれかに記載のDNAポリメラーゼ。
[項9] 509位に相当する部位のアミノ酸の改変が、ヒスチジン、リジン及びアルギニンからなる群より選択される塩基性アミノ酸への置換である、項8に記載のDNAポリメラーゼ。
[項10] 509位に相当する部位のアミノ酸の改変がアルギニンへの置換である、項8又は9に記載のDNAポリメラーゼ。
[項11] 項1~10のいずれかに記載のDNAポリメラーゼを含有する、核酸増幅用試薬。
[項12] RNAからの核酸増幅のために用いられる、項11に記載の核酸増幅用試薬。
[項13] RT-PCR方法において用いられる、項11又は12に記載の核酸増幅用試薬。
[項14] 項11~13のいずれかに記載の核酸増幅用試薬を含む、核酸増幅用キット。
[項15] 項1~10のいずれかに記載のDNAポリメラーゼ、項11~13のいずれかに記載の核酸増幅用試薬、又は項14に記載の核酸増幅用キットを用いる、核酸増幅方法。
[項16] RNAを検出対象核酸とする、項15に記載の核酸増幅方法。
[項17] 逆転写反応時間が5分以下である、項15又は16に記載の核酸増幅方法。
[項18] 逆転写反応時間が1分以下である、項15~17のいずれかに記載の核酸増幅方法。
[項19] RT-PCR反応を行う工程を包含する、項15~18のいずれかに記載の核酸増幅方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、逆転写活性を有し、増幅効率が向上した新規DNAポリメラーゼが提供される。本発明のDNAポリメラーゼを使用することにより、効率よくRNAから核酸増幅を行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0013】
本発明は、逆転写活性を有する改変型DNAポリメラーゼに関する。逆転写活性を有するDNAポリメラーゼとは、RNAをcDNAに変換する能力(これを「逆転写活性」(RT活性)ともいう)及びDNAを増幅する能力(これを「DNAポリメラーゼ活性」ともいう)を兼ね備えたDNAポリメラーゼである。DNAポリメラーゼとは、1本鎖の核酸を鋳型として、それに相補的な塩基配列を有するDNA鎖を合成する酵素を意味する。逆転写活性の有無は、例えば、RNAを鋳型とするRT-PCRにおいて核酸増幅反応が成立するか否かで判定することができ、具体的には、後述の逆転写活性(RT活性)の評価方法に記載の手順により測定することができる。DNAポリメラーゼ活性の有無は、後述のDNAポリメラーゼ活性測定法において記載の方法に従って測定することができる。
【0014】
特定の実施形態において、本発明は、サーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)由来のDNAポリメラーゼにおいて、751位に相当する部位でアミノ酸改変を有する変異型DNAポリメラーゼを提供する。このサーマス・サーモフィルス由来のDNAポリメラーゼの全長アミノ酸配列を配列番号1に示す。また、配列番号1に示されるアミノ酸配列をコードするサーマス・サーモフィルス由来の遺伝子配列を配列番号2に示す。
【0015】
一つの実施形態において、本発明のDNAポリメラーゼは、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質において、751位に相当する部位のアミノ酸に変異(好ましくは、他のアミノ酸への置換)を含む改変型DNAポリメラーゼであることを特徴とする。改変前のアミノ酸配列は、配列番号1と完全に同一である場合に限られるものではなく、逆転写活性及びDNAポリメラーゼ活性が維持されている限り特に制限されないが、例えば、配列番号1に記載のアミノ酸配列との同一性が90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、更に好ましくは97%以上、更により好ましくは98%以上、なかでも99%以上であるアミノ酸配列から構成されるものが好適である。さらに、改変前のアミノ酸配列は、配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列であってもよい。ここで「1又は数個」とは、逆転写活性及びDNAポリメラーゼ活性が維持される限り特に制限されないが、例えば、1~20個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個である。前記のような改変前のアミノ酸配列は、例えば、遺伝子工学的な手法により人為的に作製するものであってもよいし、天然に由来するタンパク質のアミノ酸配列であってもよい。このような天然に由来するアミノ酸配列としては、特に限定するものではないが、例えば、Thermus thermophilus HB8由来のDNAポリメラーゼ(Tth)の他、Themus sp Z05由来のDNAポリメラーゼ(Z05)やThermotoga maritima由来のDNAポリメラーゼ(Tma)など挙げられる。好ましくは、Tth又はZ05由来のアミノ酸配列であり、なかでもTth由来のアミノ酸配列がとりわけ好適である。
【0016】
特定の実施形態において、本発明の改変型DNAポリメラーゼは、配列番号1におけるアミノ酸配列又は前記のような配列番号1と特定の関係にあるアミノ酸配列において、751位のフェニルアラニン(F751)に相当する部位でアミノ酸改変を有する。本発明の改変型DNAポリメラーゼは、F751位に相当する部位におけるアミノ酸改変以外に、本発明の効果を奏する限りにおいて、他のアミノ酸部位においても任意のアミノ酸改変を含んでいてもよい。RNAからの核酸増幅をより確実に効率よく行うことが可能であるという観点から、配列番号1におけるアミノ酸配列又は前記のような配列番号1と特定の関係にあるアミノ酸配列において、509位のグルタミンに相当する部位(Q509位)に更にアミノ酸改変を有するものとするものが好適である。
【0017】
本明細書においては、塩基配列、アミノ酸配列およびその個々の構成因子については、アルファベット表記による簡略化した記号を用いる場合があるが、いずれも分子生物学・遺伝子工学分野における慣行に従う。また、本明細書においては、アミノ酸配列の変異を簡潔に示すため、例えば「F751Y」などの表記を用いる。「F751Y」は、第751番目のフェニルアラニンをチロシンに置換したことを示しており、すなわち、置換前のアミノ酸残基の種類、その場所、置換後のアミノ酸残基の種類を示している。また、配列番号は、特に断らない限り、配列表に記載された配列番号に対応する。また、多重変異体の場合は、上記の表記を「/」でつなげて表す。たとえば「Q509R/F751Y」は、第509番目のグルタミンをアルギニンに置換し、かつ、第751番目のフェニルアラニンをチロシンに置換したことを示す。なお、本明細書において、配列番号1に示されるアミノ酸配列と完全同一ではないアミノ酸配列おける、配列番号1上のある位置(順番)に相当する部位とは、配列の一次構造を比較(アラインメント)したときに、配列番号1の当該位置と対応する位置をいうものとする。
【0018】
また、本明細書において「変異型DNAポリメラーゼ」又は「改変型DNAポリメラーゼ」という場合の「変異型」又は「改変型」とは、従来知られたDNAポリメラーゼとは異なるアミノ酸配列を備えることを意味するものであり、人為的変異によるか自然界における変異によるかを区別するものではない。
【0019】
特定の好ましい実施形態において、本発明のDNAポリメラーゼは、配列番号1のアミノ酸配列等において、751位に相当する部位のアミノ酸を中性アミノ酸に改変したものである。好ましくは、751位に相当する部位でのアミノ酸を、チロシン、システイン、グルタミン、セリン、トレオニン、アスパラギン、又はトリプトファンに置換したものであり、より好ましくは、チロシン、システイン、グルタミン、セリン、トレオニン、又はアスパラギンに置換したものである。チロシン、システイン、グルタミン、セリン、トレオニン、アスパラギンはいずれも極性の中性側鎖を有するアミノ酸として知られており、等電点も約5.0~約5.7程度で近く、共通の性質を示し得るアミノ酸として同等の効果が発揮されることが期待できる。
【0020】
更なる好ましい実施形態において、本発明の改変型DNAポリメラーゼは、配列番号1のアミノ酸配列等において、更に509位に相当する部位のアミノ酸を塩基性アミノ酸に改変したものである。好ましくは、509位に相当する部位のアミノ酸を、アルギニン、リジン、又はヒスチジンに置換したものである。例えば、本発明の改変型DNAポリメラーゼは、509位に相当する部位のアミノ酸をアルギニン、又はリジンに置換したものであり得る。塩基性アミノ酸として、アルギニンの等電点は約10.8、リジンの等電点は約9.7、ヒスチジンの等電点は約7.6あることが知られている。つまり、これらの塩基性アミノ酸はいずれも高い等電点を有しているので、共通の性質を示し得るアミノ酸として同等の効果が発揮されることが期待できる。
【0021】
本発明において改変されたDNAポリメラーゼを製造する方法としては、従来からの公知の方法が使用できる。好ましくは、野生型DNAポリメラーゼをコードする遺伝子に変異を導入して、タンパク質工学的手法により新たな機能を有する変異型(改変型)DNAポリメラーゼを製造する方法が用いられる。
【0022】
アミノ酸の改変を導入する方法の一態様として、Inverse PCR法に基づく部位特異的変異導入法を用いることができる。例えば、KOD -Plus- Mutagenesis Kit(Toyobo製)は、(1)目的とする遺伝子を挿入したプラスミドを変性させ、該プラスミドに変異プライマーをアニーリングさせ、続いてKOD DNAポリメラーゼを用いて伸長反応を行う、(2)(1)のサイクルを15回繰り返す、(3)制限酵素DpnIを用いて鋳型としたプラスミドのみを選択的に切断する、(4)新たに合成された遺伝子をリン酸化、Ligationを実施し環化させる、(5)環化した遺伝子を大腸菌に形質転換することで、目的とする変異の導入されたプラスミドを保有する形質転換体を取得することのできるキットであり、本発明の改変型DNAポリメラーゼの作製に好適に用いることができる。
【0023】
本発明のDNAポリメラーゼは、Sso7dやPCNAの融合タンパク質の形態であってもよい。また、Hisタグ、GSTタグなどのタンパク質タグを付加した融合タンパク質であってもよい。
【0024】
上記DNAポリメラーゼ遺伝子を必要に応じて発現ベクターに移し替え、宿主として例えば大腸菌を、該発現ベクターを用いて形質転換した後、アンピシリン等の薬剤を含む寒天培地に塗布し、コロニーを形成させる。コロニーを栄養培地、例えばLB培地や2×YT培地に接種し、37℃で12~20時間培養した後、菌体を破砕して粗酵素液を抽出する。ベクターとしては、pBluescript由来のものが好ましい。菌体を破砕する方法としては公知のいかなる手法を用いても良いが、例えば超音波処理、フレンチプレスやガラスビーズ破砕のような物理的破砕法やリゾチームのような溶菌酵素を用いることができる。この粗酵素液を80℃、30分間熱処理し、宿主由来のポリメラーゼを失活させ、DNAポリメラーゼ活性を測定する。
【0025】
上記方法により選抜された菌株から精製DNAポリメラーゼを取得する方法は、いかなる手法を用いても良いが、例えば下記のような方法がある。栄養培地に培養して得られた菌体を回収した後、酵素的または物理的破砕法により破砕抽出して粗酵素液を得る。得られた粗酵素抽出液から熱処理、例えば80℃、30分間処理し、その後硫安沈殿によりDNAポリメラーゼ画分を回収する。この粗酵素液をセファデックスG-25(アマシャムファルマシア・バイオテク製)を用いたゲル濾過等の方法により脱塩を行うことができる。この操作の後、ヘパリンセファロースカラムクロマトグラフィーにより分離、精製し、精製酵素標品を得ることができる。該精製酵素標品はSDS-PAGEによってほぼ単一バンドを示す程度に純化される。
【0026】
本発明の改変型DNAポリメラーゼが、逆転写活性及びDNAポリメラーゼ活性を有するか否かは、具体的には、下記のような方法により測定することができる。
【0027】
[逆転写活性(RT活性)の評価方法]
本発明のDNAポリメラーゼは、従来のものと比べて逆転写活性に優れ、短時間で逆転写反応を行うことが可能であり得る。具体的には、特に限定はされないが、標的RNAの全長が例えば50~300bpである場合に、好ましくは150~250bpである場合に、その標的RNAからの逆転写反応が5分以下、好ましくは3分以下、より好ましくは1分以下で完了するものである。ここで、本発明において、逆転写反応が完了するとは、以下のように定義される。すなわち、RT-PCR反応が成立している条件としては、PCR効率が70~130%以内で、かつ、相関係数r2が0.97以上であることとする。PCR効率とは段階希釈した核酸量をX軸、核酸量に対応するCtをY軸として結果をプロットした検量線の傾き(slope)より、以下の式(1)に従って求めることができる。
・PCR効率(%) =(10-1/Slope-1)×100 ・・・式(1)
相関係数r2は検量線の直線性を表す。このような形で、逆転写反応の後のPCRが可能となっている場合に、逆転写反応が完了しているものとする。
このように逆転写反応が短時間で完了することにより、RNAを鋳型とする核酸増幅方法(例えば、RT-PCR方法)の全体に要する時間を短縮できるので、迅速な検査や診断が求められる場合には非常に有益である。
【0028】
[DNAポリメラーゼ活性測定法]
本発明においては、純化されたDNAポリメラーゼの活性は、以下に示す方法により測定する。酵素活性が強い場合には、保存緩衝液(50mM Tris-HCl(pH8.0),50mM KCl,1mM ジチオスレイトール,0.1% Tween20,0.1% Nonidet P40,50% グリセリン)でサンプルを希釈して測定を行う。(1)下記のA液25μl、B液5μl、C液5μl、滅菌水10μl、及び酵素溶液5μlをマイクロチューブに加えて、75℃にて10分間反応する。(2)その後氷冷し、E液50μl、D液100μlを加えて、攪拌後更に10分間氷冷する。(3)この液をガラスフィルター(ワットマン製GF/Cフィルター)で濾過し、0.1N 塩酸およびエタノールで十分洗浄する。(4)フィルターの放射活性を液体シンチレーションカウンター(パッカード製Tri-Carb2810 TR)で計測し、鋳型DNAのヌクレオチドの取り込みを測定する。酵素活性の1単位はこの条件で30分当りの10nmolのヌクレオチドを酸不溶性画分(即ち、D液を添加したときに不溶化する画分)に取り込む酵素量とする。
A液:40mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)16mM 塩化マグネシウム15mM ジチオスレイトール100μg/ml BSA(牛血清アルブミン)
B液:1.5μg/μl 活性化仔牛胸腺DNA
C液:1.5mM dNTP(250cpm/pmol [3H]dTTP)
D液:20% トリクロロ酢酸(2mM ピロリン酸ナトリウム)
E液:1mg/ml 仔牛胸腺DNA
【0029】
本発明の改変型DNAポリメラーゼは、当該分野で公知の任意の核酸増幅方法において使用することができる。核酸増幅のための温度・時間・反応サイクル等の条件は、増幅したい核酸の種類や塩基の配列、鎖長等によって変わるが、当業者であれば適宜設定できる。一例として、本発明の改変型DNAポリメラーゼを用いる核酸増幅法として、PCRやRT-PCRを行う場合では、伸長時間を1kbあたり30秒以下にしてもよい。本発明の改変型DNAポリメラーゼは、このように伸長時間が短くても十分な核酸増幅反応を行うことが可能であり得る。通常、PCRやRT-PCRでは、(1)熱処理によるDNA変性(2本鎖DNAから1本鎖DNAへの解離)、(2)鋳型1本鎖DNAへのプライマーのアニーリング、(3)DNAポリメラーゼを用いた前記プライマーの伸長、という3ステップを1サイクルとし、このサイクルを繰り返す。本発明における伸長時間とは、(3)のプライマーを伸長させる反応に必要な1サイクルの時間を示す。また、PCRやRT-PCRでは、上記の(2)アニーリング及び(3)プライマーの伸長を同温度で、2ステップで行う場合もある。この場合には、本発明の伸長時間とは、便宜上、(2)アニーリング及び(3)伸長を並行して行う時間を伸長時間という。
【0030】
特定の実施形態では、本発明の改変型DNAポリメラーゼは、PCR反応サイクルの高温下でも十分に機能し得る程度の耐熱性を備えていることが好ましい。例えば、85℃で1分以上の熱処理を実施しても、酵素活性が半分以上低下しないレベルの耐熱性を有するものが好ましい。例えば、RT-PCRに用いられる反応温度としては、特に限定されないが、40~80℃での逆転写反応後に90~100℃での熱変性と40~80℃での会合・伸長反応を行うPCR反応サイクル条件が挙げられ、好ましくは、50~65℃での逆転写反応後に94~98℃での熱変性と55~65℃での会合・伸長反応を行うPCR反応サイクル条件(例えば、60℃での逆転写反応後に95℃での熱変性と60℃での会合・伸長反応を行うPCR反応サイクル条件)を例示することができる。本発明の改変型DNAポリメラーゼは、このような温度範囲において良好な活性が維持されるものであり、効果的に核酸を増幅することが可能である。
【0031】
本発明の改変されたDNAポリメラーゼは、逆転写反応を必要とするRNAからの核酸増幅法(例えば、RT-PCR)のみならず、DNAを鋳型とする核酸増幅法(例えば、PCR)に適用することも可能である。このようなRT-PCR法及び/又はPCR法では、例えば、少なくとも1種のプライマー、dNTP(デオキシリボヌクレオチド三リン酸)を反応させることによりプライマーを伸長して、DNAプライマー伸長物を合成する。具体的には、プライマーエクステンション法、シークエンス法、従来の温度サイクルを行わない方法およびサイクルシーケンス法等に適用することが可能である。
【0032】
更なる実施形態として、本発明は、前記のような改変型DNAポリメラーゼを含む核酸増幅用試薬を提供する。この核酸増幅用試薬は、任意の核酸増幅反応に用いられ得るが、DNAポリメラーゼ活性だけでなく、逆転写活性も有するDNAポリメラーゼを含むので、例えば、RNAからの核酸増幅のために使用することができ、好ましくは、RT-PCR法において使用することができる。RT-PCRとしては、RT-PCRやqRT-PCR等が挙げられるが、これらに限定されない。即ち、本発明の核酸増幅用試薬は、鋳型となる標的核酸(検出対象核酸)がDNAであるかRNAであるかを問わずに核酸増幅できるため、汎用性の高い核酸増幅試薬とすることができる。本発明の核酸増幅用試薬における前記変異型DNAポリメラーゼの量は、本発明の効果を奏する限りにおいて限定されないが、例えば、核酸増幅反応における終濃度が0.1~20U/20μlとなるような量を例示することができる。
【0033】
核酸増幅用試薬の一例としては、一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に互いに相補的である2種のプライマー、dNTP、及び上記のような本発明のDNAポリメラーゼ、2価イオン、1価イオン及び緩衝液を含み、さらに具体的には、一方のプライマーが他方のプライマーDNA伸長生成物に相補的である2種のプライマー、dNTP及び上記DNAポリメラーゼ、マグネシウムイオン及び/またはマンガンイオン、アンモニウムイオン及び/又はカリウムイオン、BSA、上述のような非イオン界面活性剤及び緩衝液を含むものとすることができる。RT-PCRに用いる試薬とする場合には、限定はされないが、例えば、反応液中終濃度が1mM以上となるマンガン塩及び/又はマグネシウム塩などの塩を含むことが好ましい。マンガン塩としては、例えば、塩化マンガン、硫酸マンガン、酢酸マンガン等を挙げることができる。マグネシウム塩としては、例えば、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム等のマグネシウム塩を挙げることができる。
【0034】
核酸増幅用試薬の別の実施態様としては、一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に互いに相補的である2種のプライマー、dNTP及び上述したような本発明におけるDNAポリメラーゼ、2価イオン、1価イオン、緩衝液及び必要に応じて耐熱性DNAポリメラーゼのポリメラーゼ活性及び/又は3’-5’エキソヌクレアーゼ活性を抑制する活性を有する抗体を含む核酸増幅用試薬がある。該抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体などが挙げられる。本核酸増幅用試薬は、PCRの感度上昇、非特異的増幅の軽減に特に有効である。
【0035】
本発明の更なる別の一態様は、上記のような核酸増幅用試薬を含むキットであり得る。具体的には、本キットは、DNA及び/又はRNAを鋳型とする核酸増幅のために用いられ得る。当該キットは、逆転写活性が向上したDNAポリメラーゼを含むため、RNAを鋳型とする核酸増幅反応にも用いることができ、例えば、RT-PCR法等に好適に用いることができる。当該キットには、本発明の核酸増幅方法の手順を記載した添付文書等が含まれていてもよい。
【0036】
更なる実施形態として、本発明は、前記のような本発明の改変型DNAポリメラーゼ、当該DNAポリメラーゼを含む核酸増幅用試薬、又は当該核酸増幅用試薬を含む核酸増幅用キットを用いる核酸増幅方法を提供する。これらのDNAポリメラーゼ、核酸増幅用試薬、及びキットは、優れた逆転写活性と高い増幅効率を発揮することができるので、DNAからの核酸増幅方法のみならず、RNAを鋳型とする核酸増幅方法にも好適に使用され得る。従って、本発明の核酸増幅方法は、例えば、RNAからcDNAに変換する工程(逆転写反応工程ともいう)を包含するものであり得、更には、RT-PCR反応を行う工程を包含する方法であり得る。逆転写反応工程は、本発明の改変型DNAポリメラーゼを鋳型RNAと所定条件(例えば、50~65℃で1~30分間)下で共存させることにより行うことができる。
【0037】
以下、本発明を実施例に基づき、より詳細に説明する。なお、本発明は実施例に特に限定されるものではない。
【実施例0038】
実施例1
DNAポリメラーゼプラスミドの作製
人工合成により作製したThermus thermophilus HB8由来のDNAポリメラーゼ遺伝子(配列番号2)をpBluescriptにクローニングし、野生型Tth DNAポリメラーゼを組み込んだプラスミドを作製した(pTth)。変異をもつプラスミドは、pTthを鋳型に、KOD -Plus- Mutagenesis Kit(Toyobo製)を取扱い説明書に準じて使用して作製した。二重変異については作製した変異プラスミドを鋳型に、同様のキットを用いてさらに変異を入れることで作製した。プラスミドの作製に使用した鋳型・プライマーを表1に示す。得られたプラスミドはエシェリシア・コリJM109を形質転換し、酵素調製に用いた。
【0039】
【表1】
【0040】
実施例2
DNAポリメラーゼの作製
実施例1で得られた菌体の培養は、以下のようにして実施した。まず、滅菌処理した100μg/mlのアンピシリンを含有するTB培地(Molecular cloning 2nd edition、p.A.2)80mLを、500mL坂口フラスコに分注した。この培地に予め100μg/mlのアンピシリンを含有する3mlのLB培地(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%塩化ナトリウム;ギブコ製)で37℃、16時間培養したエシェリシア・コリJM109(プラスミド形質転換株)(試験管使用)を接種し、37℃にて16時間通気培養した。培養液より菌体を遠心分離により回収し、50mlの破砕緩衝液(30mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)、30mM NaCl、0.1mM EDTA)に懸濁後、ソニケーション処理により菌体を破砕し、細胞破砕液を得た。次に細胞破砕液を80℃にて15分間処理した後、遠心分離にて不溶性画分を除去した。更に、ポリエチレンイミンを用いた除核酸処理、硫安塩析、ヘパリンセファロースクロマトグラフィーを行い、最後に保存緩衝液(50mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)、50mM 塩化カリウム、1mM ジチオスレイトール、0.1% Tween20、0.1%ノニデットP40、50%グリセリン)に置換し、改変型DNAポリメラーゼを得た。
【0041】
上記精製工程のDNAポリメラーゼ活性測定は、以下の操作で行った。また、酵素活性が高い場合はサンプルを希釈して測定を行った。
【0042】
(試薬)
A液: 40mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)、16mM 塩化マグネシウム、15mM ジチオスレイトール、100μg/ml BSA
B液: 1.5μg/μl 活性化仔牛胸腺DNA
C液: 1.5mM dNTP(250cpm/pmol [3H]dTTP)
D液: 20% トリクロロ酢酸(2mM ピロリン酸ナトリウム)
E液: 1mg/ml 仔牛胸腺DNA
【0043】
(方法)
A液25μl、B液5μl、C液5μl及び滅菌水10μlを、マイクロチューブに加えて攪拌混合後、上記精製酵素希釈液5μlを加えて、75℃で10分間反応させた。その後冷却し、E液50μl、D液100μlを加えて、攪拌後更に10分間氷冷した。この液をガラスフィルター(ワットマン製GF/Cフィルター)で濾過し、0.1N塩酸及びエタノールで十分洗浄し、フィルターの放射活性を液体シンチレーションカウンター(パッカード製Tri-Carb2810 TR)を用いて計測し、鋳型DNAへのヌクレオチドの取り込みを測定した。酵素活性の1単位は、この条件下で30分当り10nmolのヌクレオチドを酸不溶性画分に取り込む酵素量とした。
【0044】
上記測定の結果、本発明の改変型DNAポリメラーゼは十分なDNAポリメラーゼ活性を有することが確認された。
【0045】
実施例3
RT-PCR法での増幅効率の評価(逆転写反応時間5分)
実施例2で作製したDNAポリメラーゼを用いて、RNAから1ステップでのRT-PCRを実施した。RT-PCRにはTth DNA Polymerase RT-PCR Buffer(Roche製、反応液中終濃度が約15mMとなる塩化マグネシウムを含有)添付のBufferを用い、1×PCR Buffer、および0.4mM dNTPs、エンテロウイルスRNA(約196bp)を増幅する各々4pmolのプライマー(配列番号7及び8)、4pmolのTaqmanプローブ(配列番号9)、1Uの酵素を含む20μlの反応液に濃度未知のエンテロウイルスRNAを添加し、90℃、30秒の前反応の後、60℃、5分の逆転写反応を行い、それに続いて95℃、5秒→60℃、10秒を45サイクル繰り返すスケジュールでStep One(Applied Biosystem製)を用いてPCRを行った。酵素には、751位に相当する部位でのアミノ酸改変を有さない従来公知のTth DNAポリメラーゼ(Q509R)と、751位に相当する部位のアミノ酸改変を有する本発明のTth DNAポリメラーゼ(Q509R/F751Y)を使用した。
【0046】
【表2】
【0047】
表2に、RT-PCRのCq値をまとめた結果を示す。Cq値が小さいほど、PCRの増幅効率が高いことを示す。表2の結果に示されるように、751位に相当する部位でのアミノ酸改変を有していない従来公知のTth DNAポリメラーゼに比べて、本発明の改変型Tth DNAポリメラーゼのCq値は明らかに小さく、増幅効率が非常に高いことが確認された。従って、751位にアミノ酸改変を有することで、RNAを鋳型とする逆転写反応を含む核酸増幅方法において、本発明の改変型DNAポリメラーゼが高い増幅感度を有することが示された。
【0048】
実施例4
RT-PCR法での逆転写反応効率の評価(逆転写反応時間5分、1分)
実施例2で作製した本発明の改変型DNAポリメラーゼ(Q509R/F751Y)を用いて、RNAから1ステップでのRT-PCRを実施した。RT-PCRにはTth DNA Polymerase RT-PCR Buffer(Roche製、反応液中終濃度が約15mMとなる塩化マグネシウムを含有)添付のBufferを用い、1×PCR Buffer、およびを0.4mM dNTPs、ヒトβ-グロビン(約188bp)を増幅する4pmolのプライマー(配列番号10及び11)、4pmolのTaqmanプローブ(配列番号12)、1Uの酵素を含む20μlの反応液にRNAを500ng、50ng、5ng、0.5ngになるよう添加し、90℃、30秒の前反応の後、60℃で1分または5分の逆転写反応を行い、それに続いて→95℃、15秒→60℃、1分を45サイクル繰り返すスケジュールでStep-OnePlus(Applied Biosystem製)を用いてPCRを行った。酵素としては、751位に相当する部位でアミノ酸改変を有する本発明の改変型Tth DNAポリメラーゼ(Q509R/F751Y)を使用した。
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
表3(逆転写反応時間が5分間の場合)、及び表4(逆転写反応時間が1分間の場合)は、RT-PCRにおけるそれぞれのCq値、PCR効率をまとめた結果を示す。この結果、本発明の改変型Tth DNAポリメラーゼは、逆転写反応が5分の場合(表3)と1分の場合(表4)との間でCq値に殆ど変化は無く、いずれの場合でもPCR効率の条件を満たすことが明らかとなった。従って、F751Yの変異を導入した本発明の改変型DNAポリメラーゼを使用することで、逆転写反応の時間が短くても十分にRT-PCRを行うことができ、RNAから効率よく核酸増幅できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明により、分子生物学の分野において有用な改変されたDNAポリメラーゼ、及びその組成物が提供される。また、本発明により、RNAを鋳型とする核酸増幅反応に要する時間を大幅に短縮することができる。本発明は、遺伝子発現解析に際して特に有用であり、研究用途のみならず臨床診断や環境検査等にも利用できる。
【配列表】
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【手続補正書】
【提出日】2023-08-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆転写活性を有し、かつ、配列番号1のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるDNAポリメラーゼにおいて、751位に相当する部位のアミノ酸を改変したことを特徴とするDNAポリメラーゼ。