(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159361
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】抗酸化作用を有する乳酸菌飲料
(51)【国際特許分類】
A23C 9/123 20060101AFI20231024BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20231024BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20231024BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20231024BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20231024BHJP
【FI】
A23C9/123
A23L33/10
A23L2/00 F
A23L2/38 P
A23L33/135
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023136703
(22)【出願日】2023-08-25
(62)【分割の表示】P 2021070701の分割
【原出願日】2021-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】399068018
【氏名又は名称】日清ヨーク株式会社
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 修一
(72)【発明者】
【氏名】田川 圭介
(57)【要約】 (修正有)
【課題】乳酸菌飲料の抗酸化性について検討することを課題とした。また、その有効成分について見出すことを課題とした。
【解決手段】乳酸菌飲料について抗酸化性を有する点を見出した。また、その有効成分とする抗酸化性物質がDDMP(2,3-dihydro-3,5-dihydroxy-6-methyl-4H-pyran-4-one)であることを見出した。本発明は抗酸化作用を有する成分を含有する乳酸菌飲料に関するものである。また、抗酸化作用を有する成分はDDMPである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料として脱脂乳及び糖類を含む仕込乳を熱で殺菌する工程を含む製造工程によって製造される乳酸菌飲料であって、DDMP(2,3-dihydro-3,5-dihydroxy-6-methyl-4H-pyran-4-one)を含有し、抗酸化作用を有する乳酸菌飲料。
【請求項2】
DDMPを150μM以上含有する請求項1に記載の乳酸菌飲料。
【請求項3】
前記糖類がぶどう糖を含有する請求項1又は2に記載の乳酸菌飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乳酸菌飲料に関するものである。特に、抗酸化作用を有する乳酸菌飲料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌飲料は広く利用されており、長年において幅広い年代に支持されている。例えば、ピルクル(登録商標:日清ヨーク株式会社)やヤクルト(登録商標:株式会社ヤクルト本社)等が知られている。当該乳酸菌飲料については、腸内環境を改善する機能を有する点が広く知られている。また、ストレス改善や、血糖低下、疲労回復等の優れた効果も奏するタイプも知られている。
【0003】
一方、この乳酸菌飲料については上記の他にも有用な機能性や効果を奏することが期待される。例えば、抗酸化性については、従来まで乳酸菌飲料において抗酸化性を有する点、又その抗酸化性物質について先行する特許文献は知られていなかった。
乳酸菌飲料の抗酸化性に関連する特許文献としては、特許文献1に乳酸菌飲料についての抗酸化剤の記載がある。しかし、当該特許文献は乳製品乳酸菌飲料にドコサヘキサエン酸(DHA)を含ませることを主目的とし、その付随的成分として抗酸化剤を添加することが記載されているに過ぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明者らは乳酸菌飲料の抗酸化性について検討することを課題とした。また、その有効成分について見出すことを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らの鋭意研究の結果、乳酸菌飲料について、抗酸化作用を有する機能を確認し、本発明を完成させたのである。
すなわち、本願第一の発明は、
“抗酸化作用を有する成分を含有する乳酸菌飲料。”、である。
【0007】
次に、上記抗酸化作用を有する成分は、DDMP(2,3-dihydro-3,5-dihydroxy-6-
methyl-4H-pyran-4-one)が含まれていることを見出した。
すなわち、本願第二の発明は、
“前記成分がDDMP(2,3-dihydro-3,5-dihydroxy-6-methyl-4H-pyran-4-one)である請求項1に記載の乳酸菌飲料。”、である。
【0008】
次に本出願人は、DDMPを有効成分とする抗酸化用乳酸菌飲料も意図している。すなわち、本願第三の発明は、
“DDMPを有効成分とする抗酸化用乳酸菌飲料。”、である。
【0009】
次に、前記DDMPについては、当該乳酸菌飲料において150μM(μmol/L)以上含有することが好ましい。
すなわち、本願第四の発明は、
“DDMPを150μM以上含有する請求項2又は3に記載の乳酸菌飲料。”、である。
【0010】
次に、前記乳酸菌飲料は、原料として脱脂乳及び糖類を利用し、当該原料を含む仕込乳を熱で殺菌する工程を含むことが好ましい。
すなわち、本願第五の発明は、
“前記乳酸菌飲料が、原料として脱脂乳及び糖類を含む仕込乳を熱で殺菌する工程を含む製造工程によって製造される請求項1~4のいずれかに記載の乳酸菌飲料。”、である。
【0011】
次に、前記本願第四の発明においては、糖類がぶどう糖を含有することが好ましい。
すなわち、本願第六の発明は、
“前記糖類がぶどう糖を含有する請求項5に記載の乳酸菌飲料。”、である。
【0012】
次に、本出願人は、抗酸化作用を有する旨を商品パッケージ等に表記した乳酸菌飲料も意図している。
すなわち、本願第七の発明は、
“抗酸化作用を有する旨を表示した乳酸菌飲料。”、である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の乳酸菌飲料は抗酸化成分としてDDMPを含有し、抗酸化作用を有する。これによって種々の有用な効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】試験例1において本発明の第一の実施態様の乳酸菌飲料及び他の市販の乳酸菌飲料のDPPHラジカル消去活性を比較した図である。
【
図2】本発明の第一の実施態様の乳酸菌飲料及びTroloxのDPPHラジカル消去活性(抗酸化力)を回帰直線の傾きを用いて比較した図である。
【
図3】試験例2における発酵液の分画スキームを示したフロー図である。
【
図4】
図3における分画した各フラクションの抗酸化活性を示した図である。
【
図5】
図3におけるXAD4-25%エタノール溶出フラクションについてカラム・分離したクロマトチャートと各フラクションのDPPH消去活性を示した図である。
【
図6】
図5におけるフラクション7をODSカラムを用いてさらに精製を行ったクロマトチャート図である。
【
図7】
図6におけるピーク部分の吸収スペクトルを示したチャート図である。
【
図8】
図6におけるピーク部分のLC/MSによる分析を実施した結果のチャート図である。
【
図9】
図6におけるピーク部分のGC/MSによる同定を示した結果のチャート図である。
【
図10】試験例3における本願の第一実施態様及び市場の他の乳酸菌飲料に含まれるDDMPを測定したLCチャート図である。
【
図11】本発明の第一の実施態様の乳酸菌飲料の抗酸化力についてアスコルビン酸と回帰直線の傾きを利用して比較した図である。
【
図12】
図11の場合と同様に他のA社の乳酸菌飲料の抗酸化力について回帰直線の傾きを利用して比較した図である。
【
図13】試験例4における仕込乳の加熱時間等によるDDMP量の変化を示したLCチャート図である。
【
図14】試験例5における糖原料を変えた場合の生成するDDMP量を比較した図である。
【
図15】試験例6におけるリジンの添加による効果を示した図である。
【
図16】試験例7における各種プロテアーゼの添加効果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の本発明の内容を説明する。
─乳酸菌飲料─
本発明にいう乳酸菌飲料とは、以下のような工程で調製される。すなわち、まず、原料の混合工程として、原料となる脱脂乳、水や牛乳を混ぜ合わせ仕込乳(乳培地)を調製し、次に殺菌・冷却工程として、仕込乳を高温で加熱殺菌し、発酵に必要な温度にまで冷やす。
次に、乳酸菌の接種工程として、別に調製しておいた種菌(乳酸菌を培養しておいたもの(前培養))を加熱後の仕込乳に加える。次に、発酵工程としてタンク内で一定の温度に保ち発酵を行う。次に、冷却後、混合・希釈工程として、培養後の発酵液にシロップや果汁等を加え、必要に応じて希釈水で調整する。これを均質化したものを容器に充填して乳酸菌飲料が完成する。
【0016】
尚、乳酸菌飲料の種類別としては、「乳製品乳酸菌飲料」と「乳酸菌飲料」がある。まず、「乳製品乳酸菌飲料」については、無脂乳固形分(牛乳から乳脂肪分と水分を除いた成分)を3.0%以上含み、乳酸菌数又は酵母数が1000万/ml以上のものをいい、生菌タイプと殺菌タイプがある。
次に、「乳酸菌飲料」については、無脂乳固形分が3.0%未満で乳酸菌数又は酵母数が100万/ml以上のものをいう。
本発明における乳酸菌飲料とは、上記の「乳製品乳酸菌飲料」及び「乳酸菌飲料」のいずれも含むものとする。
【0017】
─本発明における好ましい乳酸菌飲料の製造方法─
一般的な乳酸菌飲料の製造方法は上述した通りであるが、特に、本発明の乳酸菌飲料は概ね以下のように製造することが好ましい。但し、本発明は以下の製造方法に限定されるものではない。
【0018】
(1)仕込乳溶解(乳培地の調製)
脱脂乳を中心とした乳原料を5~30重量%、糖類を2~20重量%となる程度に仕込乳(乳培地)を調製する。また、好ましくは、乳原料を15~20重量%、糖類を10~15重量%である。
尚、仕込乳における糖類は、ぶどう糖を含んでいることが好ましい。具体的には、ぶどう糖やぶどう糖果糖液糖を利用することが好ましい。また、アミノ酸としてリジンを添加することが好ましい。
【0019】
(2)加熱
前記仕込乳を80℃~100℃で30分~180分程度加熱する。尚、加熱時間については好ましくは60分~160分である。また、さらに好ましくは、90分~140分である。最も好ましくは、100分~120分とする。
【0020】
(3)発酵液(前培養)
乳酸菌(ラクトバチルス、ラクトコッカス、ペディオコッカス、ロイコノストック、ストレプトコッカス、エンテロコッカス等)を培養した培養液(スターター液)を前記の加熱後の乳培地に添加して30℃~40℃程度で所定の乳酸酸度となるまで培養して発酵液を得ることができる。
【0021】
(4)シロップ液
砂糖、ぶどう糖、果糖等を含むシロップ液ベースを調製し、加熱殺菌及び冷却を行ってシロップ液を得る。
【0022】
(5)混合・均質化
前記発酵液とシロップ液を1:1又は1:5~5:1程度の重量比率で混合、均質化して乳酸菌飲料を完成させる。
【0023】
このように、本発明においては乳酸菌飲料の好ましい製造方法として、脱脂粉乳及び糖類を含有する仕込乳を加熱後、当該加熱後の仕込乳と乳酸菌の培養液を混合して所定時間の発酵後、当該発酵後の発酵液にシロップ液を混合して調製する製造方法を採用する。が、
本工程のうち、脱脂粉乳及び糖類を含有する仕込乳の加熱時間を上述のようにすることが好ましい。
【0024】
─抗酸化性─
抗酸化性については、生体において種々の機能があると言われているが、例えば、疲労(と老化)の原因である過剰な活性酵素を抑えることができるとされている。
すなわち、活性酸素をはじめとするフリーラジカルは老化やがん、生活習慣病の原因であることが報告されている。Harmanによって提唱された老化のフリーラジカル説では、エネルギー代謝の副産物として主としてミトコンドリアで産生されたフリーラジカルが、DNAやタンパク質、脂質などを酸化することが老化の原因であるとする((1) D Harman, Free radical involvement in aging. Pathophysiology and therapeutic implications.
, Drugs Aging 1993 3(1) 60-80 (2) Wulf Droge, Free radicals in the physiological control of cell function. Physiol Rev 2002 82(1)47-951)。ヒトは呼吸によって酸素を体内に取り込み、ミトコンドリアに存在する電子伝達系によりATPを産生し、生命活動に必要なエネルギーを獲得している。この過程でさまざまな活性酸素種が発生する。活性酸素は非常に高い反応性を有する(中村成夫 活性酸素と抗酸化物質の化学 日本医科大学医学会雑誌2013 9 164―169)。活性酸素は脂質と反応することで脂質過酸化物が生成し、動脈硬化、心筋梗塞などの原因となることが報告されている(J L Witztum, D Steinberg, Role of oxidized low density lipoprotein in atherogenesis. J Clin Invest.
1991 88(6) 1785-92)。
【0025】
また、活性酸素は核酸と反応するとDNA鎖切断や核酸塩基の酸化的修飾によるDNAの変異により発がんを引き起こす可能性がある(Miral Dizdaroglu, Pawel Jaruga, Mechanisms of free radical-induced damage to DNA. Free Radic Res 2012 46(4) 382-419)。
生体において発生した活性酸素を除去する仕組みを生体は備えている。スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)やカタラーゼといった過酸化水素除去酵素などにより、生体内で発生した活性酸素が無害化される。一方、天然には抗酸化作用を有する低分子化合物が数多く存在し、生体はこれらを生合成したり、食物から取り込むことによって、活性酸素による酸化傷害から生体を防御している。代表的な天然の抗酸化物質としてアスコルビン酸(ビタミンC)、α-トコフェロール(ビタミンE)、緑茶に含まれるカテキン、赤ワインに含まれるレスベラトロールなどのポリフェノールがある(中村成夫 活性酸素と抗酸化物質の化学 日本医科大学医学会雑誌2013 9 164―169)。
【0026】
慢性疲労の原因については現時点で不明な点が多いが、慢性疲労者においてはフリーラジカルの産生が多く、酸化ストレスが原因である可能性が報告されている(A C Logan, C Wong, Chronic fatigue syndrome: oxidative stress and dietary modifications. Altern
Med Rev 2001 6(5) 450-9)。抗酸化作用を有するイミダゾールジペプチドを400mg配合した飲料の継続摂取において、日常作業において疲労を自覚している健常者の疲労感を軽減することが報告されている(清水惠一郎, 福田 正博, 山本 晴章, イミダゾールジペプチド配合飲料の日常的な作業のなかで疲労を自覚している健常者に対する継続摂取による有用性 薬理と治療)vol.37 no.3 2009 37(3) 255-637)。このように抗酸化物質を含む食品の日常的な摂取は疲労感を軽減する効果が期待される。
【0027】
ここで、ヨーグルトや乳酸菌飲料は乳酸菌を含み、整腸作用(Iva Hojsak, Probiotics in Functional Gastrointestinal Disorders. Adv Exp Med Biol 2019 1125 121-137.)、免疫調節作用(Yueh-Ting Tsai, Po-Ching Cheng, Tzu-Ming Pan, The immunomodulatory effects of lactic acid bacteria for improving immune functions and benefits. Appl Microbiol Biotechnol 2012 96(4)853-62)、花粉症、アトピー性皮膚炎といったアレルギーの予防(Wioletta Zukiewicz-Sobczak, Paula Wroblewska, Piotr Adamczuk, Wojciech Silny, Probiotic lacticacid bacteria and their potential in the prevention and treatment of allergic diseases. Cent Eur JImmunol 2014 39(1) 104-8)、潰瘍性大腸炎の改善(Maria Jose Saez-Lara, Carolina Gomez-Llorente, Julio Plaza-Diaz, Angel Gil, The role ofprobiotic lactic acid bacteria and bifidobacteria in the prevention and treatment of inflammatorybowel disease and other related diseases: a systematic review of randomized human clinical trials.Biomed Res Int 2015 2015:505878)といったさまざまな生理活性が報告されている。
【0028】
一方、乳酸菌飲料の抗酸化活性についての報告は少なく、勿論、乳酸菌飲料に含まれる抗酸化活性物質については同定されていない。今回、本発明者らは乳製品乳酸菌飲料についてDPPH ラジカル消去法により抗酸化活性を評価し、乳製品乳酸菌飲料に含まれる抗酸化物質を分離・精製し、DDMPを同定した。
【0029】
─DDMP─
本件発明においては、乳酸菌飲料における抗酸化能をDPPHラジカル消去法により評価するとともに、その抗酸化性物質を分離・精製し、DDMPであることを見出した。ここでDDMPとは、メイラード反応によって生成する物質として知られている(Tetrahedron Letters No. 15, pp. 1243-1246, 1970.)特に、本発明の乳酸菌飲料においては、DDMPについて150μM以上を含有することが好ましい。
【実施例0030】
以下に本発明の実施例を記載する
【0031】
[試験例1]本発明の乳酸菌飲料及び他社の乳酸菌飲料のDPPHのラジカル消去活性の比較
本発明の第一の実施態様として以下のように乳酸菌飲料を調製した。当該乳酸菌飲料について試験した。
─本発明の第一実施態様の乳酸菌飲料の製法─
脱脂粉乳を8重量%、ぶどう糖果糖液糖を5重量%含む乳培地を調製し100℃、約120分加熱殺菌後、ラクトバチルス・パラカゼイのスターター液(培養液)を前記加熱後の乳培地に接種し、37℃で所定の乳酸酸度となるまで培養し、発酵液を得た。
一方、砂糖、ぶどう糖果糖液糖を含むシロップ液ベースを調製し、加熱殺菌及び冷却を行ってシロップ液を得た。
その後、上記シロップ液500mlを、少量の香料とともに上記発酵液500mlと混合・均質化処理することにより、乳酸菌生菌を3×108/ml以上含有する乳酸菌飲料1000mlを得た。
【0032】
─DPPHラジカル消去活性評価法─
DPPHラジカル消去活性評価法については以下のように行った。まず、試薬としては以下を使用した。
(1)200 mM MES(2-morpholinoethanesulphonic acid)緩衝液(pH6.0)
(2)400 μM DPPH(1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl)エタノール溶液
DPPH(東京化成工業社製,D4313)15.76mg にエタノール(100mL)を添加後、回転子を入れ、スターラーで撹拌して遮光下で30 分~1 時間かけて溶解した。DPPH溶液は安定性が低いことから用時調製した。
(3)2.0mM Trolox stock solutionと検量線用Trolox溶液
Trolox(Wako社製,209-18881)12.51mgを50%エタノール水溶液で溶解し、25mLに定容した。Trolox stock solutionは200μLずつ分注し、-40°Cで保管した。2.0mM Trolox stock solution(200μL)に50%エタノール水溶液(3.9mL)を添加し、100μM Trolox溶液を使用直前に調製した。100μM Trolox 溶液を50%エタノール水溶液で希釈し、80,60,40,20mM Trolox溶液を調製した。
【0033】
サンプルは50%エタノール水溶液に溶解した。200mM MES緩衝液を50μL分注した96ウェルプレートに各種濃度のサンプルを100μL分注したのち、400μM DPPH溶液を50μL添加し、反応を開始させた。室温、遮光下で20分間反応後、分光光度計またはマイクロプレートリーダーで520nmまたは495nmの吸光度を測定した。上記濃度のTrolox溶液も同様にDPPH溶液を加えて反応を行った。DPPHラジカル消去活性はTroloxで作成した回帰直線の傾きを用いて、分析試料の添加量に相当するTrolox量として以下の計算式に従って求めた。
DPPHラジカル消去活性(nmol-Trolox 相当量/mol or mg)=分析試料の傾き(A520またはA495/(μL or μg/assay))/Troloxの傾き(A520またはA495/(nmol/assay)
【0034】
─試験法─
本発明の乳酸菌飲料についてDPPHラジカル消去法によりサンプルの抗酸化活性を評価した。測定系にサンプル液を40%添加した際の520nmの吸光度とサンプル無添加の520nmの吸光度との比から相対的DPPHラジカル消去率を算出し、抗酸化活性を評価した。各サンプルは40,000×g、10min、4℃の条件で遠心分離を行い、乳酸菌菌体を除去した上清を測定に用いた。結果を
図1に示す。
【0035】
─結果─
本発明の第一の実施態様の方法で調製した乳酸菌飲料についてDPPHラジカル消去活性を有することを確認した。
【0036】
─他の市場の乳酸菌飲料についてのDPPHラジカル消去活性評価─
本発明の第一の実施態様の乳酸菌飲料と比較するために他の市販の各社の乳酸菌飲料や発酵乳(A社、B社-1、B社-2、B社-3、C社、D社)を市場で購入した。
当該各社の乳酸菌飲料、発酵乳について上述のDPPHラジカル消去活性評価法を実施した。測定の結果を
図1に示す。
【0037】
他の市販の各社の乳製品乳酸菌飲料、発酵乳についてもDPPHラジカル消去活性を有することを確認した。一方、本発明の第一の実施態様の製法により得られた乳酸菌飲料はDPPH法による抗酸化活性評価法において他の市販の各社の乳製品乳酸菌飲料、発酵乳に比べて高い抗酸化活性を示した。
【0038】
─Trolox相当量の算出─
本発明の第一の実施態様の製造方法によって得られた乳酸菌飲料のDPPHラジカル消去活性はTroloxで作成した回帰直線の傾きを用いて、分析試料の添加量に相当するTrolox量として以下の計算式に従って求めた。
DPPHラジカル消去活性(nmol-Trolox相当量/mol or mg)=分析試料の傾き(A520またはA495/(μL or μg/assay))/Trolox の傾き(A520またはA495 /(nmol/assay)とした。当該結果を
図2に示す。
【0039】
第一実施態様の乳酸菌飲料の上清添加量と520nmの吸光度で評価したDPPHラジカル消去量との関係から得られた直線の傾きからTrolox相当量として抗酸化力を算出した。その結果、第一実施態様の乳酸菌飲料の上清の抗酸化力は2.46(nmol-Trolox相当量/mg)と計算された。
【0040】
[試験例2] 乳酸菌飲料からの抗酸化性物質の分離・同定
本発明の製造方法によって製造した乳酸菌飲料について抗酸化性物質の分離・同定を試みた。
─抗酸化性成分の検索─
本発明の第一実施態様の乳酸菌飲料の製法により調製した発酵液を利用して以下の実験を行った。当該発酵液を遠心分離によって乳酸菌を除去した上清を吸着樹脂XAD4に通液し、蒸留水、25%、50%、100%エタノールで順次溶出し、各フラクションを回収した。回収した各フラクションはロータリーエバポレーターもしくは凍結乾燥により溶媒を除去し乾固させた。各サンプルを所定の濃度となるように蒸留水で溶解し、DPPHラジカル消去活性を評価した。分画スキームと各フラクションの抗酸化活性を
図3及び
図4に示す。
【0041】
25%エタノール溶出フラクションは56.68(nmol-Trolox相当量/mg)と比較的高いDPPHラジカル消去活性を示し、50%エタノール溶出フラクションと比較して回収量が大きかった。このため、XAD4-25%エタノール溶出フラクション(XAD4-25% EtOH Fr.)をさらにHPLCにて分離・精製を行った。Shodex Asahipak GS320HQカラムを用いて実験方法に記載した分離条件でXAD4-25% EtOH Fr.の分離を行った。
─カラム・分離条件─
カラム:Shodex Asahipak GS320 HQ
移動相:150mM Sodium phosphate buffer (pH2.5)
流速:0.6 mL/min
検出波長:260nm
カラム温度:35℃
注入量:50μL
【0042】
サンプルインジェクション後、5分間隔で60分後まで溶離液を回収し(計12フラクション)、DPPHラジカル消去活性を評価した。クロマトチャートと各フラクションのDPPH消去活性を
図5に示す。
【0043】
図5においてDPPH消去活性はコントロールとサンプルの492nmの吸光度の差から算出した。リテンションタイム30から35分に回収したフラクション7(GS Fr.7)に比較的高いDPPH消去活性が認められた。このため、GS Fr.7についてODSカラムを用いてさらに精製を行った。
【0044】
カラムの分離条件を以下の通りである。
─カラム・分離条件─
カラム:Inertsil ODS-2 5μm (4.6×150mm)
移動相:アセトニトリル/0.1% ギ酸
グラジエント条件:アセトニトリル濃度 0min 0% → 10min 10% → 20min 95% → 22min 95%
流速:1.0 mL/min,
検出波長:295nm
カラム温度:40℃
注入量:50μL
【0045】
図6に示すクロマトチャートの8min付近のピークにDPPH消去活性が認められた。
次に、当該ピークについて吸収スペクトルを測定したところ、
図7に示すように295nmに吸収極大を示した。
また、このピークについてLC/MS による分析を実施した結果、ポジティブイオンモードでm/z145を示した(
図8)。
【0046】
さらにこのピークをGC/MSにて分析を行い、得られたターゲットピークの質量スペクトルパターンからライブラリサーチを行った結果、DDMP(CAS No.28564-83-2)と同定された(
図9)。このように本発明の乳酸菌飲料に抗酸化物質としてDDMPを含んでいることを見出した。
【0047】
[試験例3]他の製品中に含まれるDDMPの量
本発明の製造方法において分離・精製したDPPHラジカル消去活性を有する物質としてDDMPが同定された。次に、他のA社の市場で購入可能な3種類の製品(A社-1,A社-2,A社-3)について、DDMPの標品を用いて本発明、A社-1のDDMP濃度を測定した。それぞれのサンプルのODSカラムを用いて分離したクロマトチャート(A社についてはA社-1のみ)を
図10に示す。DDMP検量線から計算した各サンプルのDDMP濃度を表1に示す。本発明の製造方法により製造された乳酸菌飲料は他社の乳酸菌飲料(A社)に対して2倍程度の高いDDMP濃度を示した。
【0048】
【0049】
─本発明の乳酸菌飲料のDPPHラジカル消去活性におけるDDMPの寄与度について─
本発明の第一の実施態様の製造方法による乳酸菌飲料についてDDMP標品を用いてDPPHラジカル消去活性を測定した結果、0.397(mol-Trolox/mol)の抗酸化力を示した。この抗酸化力はアスコルビン酸1.141(mol-Trolox/mol)に対して約35%と計算された(
図11)。
【0050】
次に、第一実施態様の乳酸菌飲料、A社の乳酸菌飲料に含まれるDDMP量からそれぞれのDPPH消去活性におけるDDMPの寄与度を算出した。
図11に示すように第一実施態様の乳酸菌飲料、A社の乳酸菌飲料についてDDMP量に対するDPPHラジカル消去を示す492nmの吸光度をプロットした際に得られた直線の傾きをDDMP標品の傾きとの比から寄与度を算出した(
図12)。
【0051】
製品の抗酸化活性がDDMPのみで説明されると仮定すると、この直線の傾きは1となる。第一実施態様の乳酸菌飲料、A社の乳酸菌飲料のDDMP標品に対する傾きの比はそれぞれ、1.533、1.161となった。この結果から、本発明の第一の実施態様の乳酸菌、A社の乳酸菌飲料の抗酸化活性におけるDDMPの寄与度は約65%(1/1.533)、約86%(1/1.161)と推定された。
【0052】
[試験例4]乳酸菌飲料の製造工程における加熱する時間を変えた場合の効果
第一実施態様の乳酸菌飲料は脱脂粉乳とぶどう糖果糖液糖からなる仕込乳(乳培地)を乳酸菌発酵させることで得られる。また、仕込乳の製造工程においては殺菌のために加熱処理を行う。
【0053】
ここで仕込乳の加熱殺菌時間を10分とした場合及び120分とした場合(本発明の第一の実施態様の場合に相当)のそれぞれについて得られた仕込乳のDDMP量の変化を調査した。DDMPピークの面積比から加熱殺菌10分後に対して、加熱殺菌120分後の乳酸菌飲料のDDMP量は41.5倍となった(
図13(A))。また、120分の場合の仕込乳に乳酸菌のスターター液(培養液)を接種し、乳酸菌によって発酵させる工程ではDDMP量はやや減少した(
図13(B))。これらの実験結果から、DDMPは仕込乳の加熱時間が影響することが分かった。尚、
図13の(A)と(B)は別の実験であるため(A)の加熱殺菌120分と(B)の加熱殺菌120分 発酵前のピーク面積が異なる。
【0054】
[試験例5] 使用する糖原料を変えた場合
本発明の乳酸菌飲料の製造に使用する糖原料として、ぶどう糖果糖液糖、果糖又はぶどう糖のいずれか一種の糖と、脱脂粉乳から試験的に調製した乳酸菌飲料用の仕込乳についてDDMPの生成についての試験を行った。各糖の固形分を同一にした表2に示す配合の仕込乳を湯浴中で3時間加熱殺菌した際のDDMP濃度を測定した。
【0055】
【0056】
尚、仕込乳から清澄な上清を回収するために、サンプル500μlに60%トリクロロ酢酸(TCA)を100μl添加したのち、遠心分離処理を行った。回収した上清中のDDMP濃度をHPLCにより測定した。
図14に示すように3時間加熱殺菌後の仕込乳中のDDMP濃度はぶどう糖(1909μM)、ぶどう糖果糖液糖(1585μM)、果糖(734μM)の順で高い値となった。
このように本発明においては、仕込乳の糖類としては、ぶどう糖を利用することが好ましいことがわかった。
【0057】
[試験例6] 仕込み乳にリジンを添加した場合の効果
仕込乳へのリジン添加の効果について検証を行った。試験例5におけるぶどう糖(試験区3)、ぶどう糖果糖液糖(試験区1)に示す試験的な仕込乳へリジンを添加し、加熱時間を変化させて調べた(
図15)。
結果として、ぶどう糖を糖源とした場合にリジンを添加した場合(試験区4)又はぶどう糖果糖液糖を糖源とした場合にリジンを添加した場合(試験区5)のいずれにおいてもリジン濃度依存的にDDMPが増加した(
図15)
仕込乳にリジンを添加すると、DDMPを増加させることができることがわかった。
【0058】
[試験例7] 仕込み乳にプロテアーゼを添加した場合の効果
次に仕込乳の加熱殺菌前にプロテアーゼを添加する効果について検討を行った。試験例5における試験区1の仕込乳に対して
図16に示した各種プロテアーゼ(サモアーゼ、ペプチダーゼR、プロチンSD、プロテアックス、プロテアーゼP、プロテアーゼM)を最終濃度0.1%となるように仕込乳に添加し、サモアーゼについては70℃で、その他の酵素は50℃で1 時間処理した後に沸騰水浴中で3時間加熱殺菌を行った。仕込乳の加熱殺菌後のDDMP濃度を測定した結果、プロテアーゼ処理によって加熱殺菌後のDDMPはコントロールに対して高い濃度となり、特にペプチダーゼR処理により高いDDMP濃度となった(
図16)。