(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159460
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】養子細胞療法のための改良された細胞培養法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/04 20060101AFI20231024BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20231024BHJP
【FI】
C12M3/04 Z
C12N5/0783
【審査請求】有
【請求項の数】32
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023142845
(22)【出願日】2023-09-04
(62)【分割の表示】P 2021190718の分割
【原出願日】2013-05-20
(31)【優先権主張番号】13/475,700
(32)【優先日】2012-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】506118799
【氏名又は名称】ウィルソン ウォルフ マニュファクチャリング コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】WILSON WOLF MANUFACTURING CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジュアン・エフ・ヴェラ
(72)【発明者】
【氏名】クリオナ・エム・ルーニー
(72)【発明者】
【氏名】アン・エム・リーン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・アール・ウィルソン
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・ピー・ウェルチ
(57)【要約】
【課題】細胞作製の効率および実用性をさらに向上させること。
【解決手段】細胞療法用途の改良された細胞培養法であり、抗原提示細胞および/あるいはフィーダ細胞の存在のもとで目的の細胞を成長させる段階を有する。生育面がガス透過性材料から構成されていないなら1 ml/cm
2までの培地体積と表面積との比率を、また生育面がガス透過性材料から構成されているなら2 ml/cm
2までの培地体積と表面積との比率を用いている。目的細胞は作製サイクルの開始時においては0.5×10
6個/cm
2以下の表面密度であり、目的細胞の表面密度と抗原提示細胞および/あるいはフィーダ細胞の表面密度の合計は少なくとも約1.25×10
5個/cm
2である。
【選択図】
図22D
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静置細胞培養のための細胞培養・細胞回収器具であって、
生育面と生育面に対向する上部限界とを境界とする細胞培養区画と、
生育面から離れて存在する培地取り出し開口部を含む培地取り出し管と、
生育面と接触している細胞取り出し管とを備え、
生育面は、液体不透過性かつガス透過性の材料を備え、ガス透過性材料の底部が生育面サポートに接触しており、生育面サポートは培養の間、ガス透過性材料を水平位置に保つものであり、生育面サポートによって、雰囲気ガスを強制的に接触させることなくガス透過性材料の下面に接触可能としており、
細胞取り出し管は、器具の下端に沿って配置される細胞取り出し開口部を含み、器具が細胞回収の向きにあるときに、生育面は水平でなく、細胞取り出し管が培地と細胞とを器具の低所から抜き取る働きをし、
器具が静置細胞培養の向きにあるときに、生育面が水平位置にあり、生育面から培地取り出し開口部までの距離が、生育面から上部限界までの距離の半分未満である、器具。
【請求項2】
請求項1に記載の器具であって、器具が静置細胞培養の位置にあるときに、生育面から培地取り出し開口部までの距離が少なくとも0.2cmである、器具。
【請求項3】
請求項1に記載の器具であって、生育面から培地取り出し開口部までの距離が2.0cmを超えない、器具。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の器具を用いた細胞培養の方法であって、細胞と培地を器具内に有し、器具が細胞培養に適した雰囲気ガスのある場所にあり、かつ、静置細胞培養の向きにある、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、細胞がT細胞を含む、方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の方法であって、ガス透過性材料がシリコーンからなる、方法。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか一項に記載の方法であって、器具が2つ以上の培地取り出し開口部を含む、方法。
【請求項8】
請求項4~7のいずれか一項に記載の方法であって、器具が透明であり、目視で評価可能である、方法。
【請求項9】
請求項4~8のいずれか一項に記載の方法であって、器具が堅固である方法。
【請求項10】
請求項4~6のいずれか一項に記載の方法であって、細胞取り出し管が上部限界より高い位置まで延びている、方法。
【請求項11】
請求項4~10のいずれか一項に記載の方法であって、細胞培養に適した雰囲気ガスが、生育面との間でガスを行き来させるためのポンプまたはその他の機構を用いる必要なく、ランダムな動きによって生育面と接触するようになっている、方法。
【請求項12】
請求項4に記載の方法であって、細胞が膵島である、方法。
【請求項13】
請求項4に記載の方法であって、もっとも高い培地位置が生育面と平行である、方法。
【請求項14】
請求項1に記載の器具であって、ガス透過性材料が非多孔質である、器具。
【請求項15】
請求項4~13のいずれか一項に記載の方法であって、培地取り出し管が入れ子式チューブである、方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、細胞取り出し管が入れ子式チューブである、方法。
【請求項17】
請求項1~3のいずれか一項に記載の器具であって、ガス透過性材料がシリコーンからなる、器具。
【請求項18】
請求項1~3のいずれか一項に記載の器具であって、2つ以上の培地取り出し開口部を含む、器具。
【請求項19】
請求項1~3のいずれか一項に記載の器具であって、透明であり、目視で評価可能である、器具。
【請求項20】
請求項1~3のいずれか一項に記載の器具であって、堅固である、器具。
【請求項21】
請求項1~3のいずれか一項に記載の器具であって、細胞取り出し管が上部限界より高い位置まで延びている、器具。
【請求項22】
請求項1~3のいずれか一項に記載の器具であって、培地取り出し管が入れ子式チューブである、器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願
この出願は、2010年12月8日に出願した「養子細胞療法のための改良された細胞培養法」(IMPROVED METHODS OF CELL CULURE FOR ADOPTIVE CELL THERAPY)(以後「親出願」)なる名称の米国特許第12/963597号の一部継続出願である。この米国特許は、2009年12月8日に出願した「養子細胞療法のための改良された細胞培養法」(IMPROVED METHODS OF CELL CULURE FOR ADOPTIVE CELL THERAPY)なる名称の米国仮特許出願第61/267761号の優先権を主張している。これらの文献はここで参照によりその全文を援用する。
【0002】
この発明は細胞の培養方法に関する。さらに詳しくは、この発明は細胞療法のための細胞培養に関する。
【背景技術】
【0003】
細胞の培養は細胞療法のそのコストや手間に対する主要な要因になっている。現状の方法では、細胞の培養プロセスに時間がかかり、費用がかかる。一般に、大量の細胞を作製するためには、いくつかの段階で進行する細胞プロセスが体外で行われる。最も初期の段階では、目的の細胞は細胞培養器具の中に置かれた細胞集団中で比較的小さな個体群である。この段階では、細胞集団は、目的とする細胞(末梢血単核細胞など)の供給源、目的とする細胞の増殖を刺激するフィーダ細胞、および/あるいは抗原提示細胞を含んでいる。細胞が比較的乱されないままであるという理由から、培養器具および培養方法は、中に細胞が存在する培地を通常は乱さない状態にできるものが好ましい。そうした器具には、標準的な組織培養プレートやフラスコ、バッグが含まれる。培養は、大まかに言って、細胞集団がグルコースなどの生育基質からなる培地を消費できるようにし、消費された培地を取り除き、消費された培地を新鮮な培地に入れ替え、目的の細胞が目的の量だけ得られるまでプロセスを繰り返すという、いくつかの段階で進めていく。目的とする細胞の個体数が増大して別の生育面が必要になると、細胞集団を他の器具に移し、新しい作製段階を開始することが多い。しかし、従来の方法では、生育面上の細胞の個体数が増大するにつれて、目的とする細胞の個体数の増殖速度は減速する。その結果として、目的の細胞を相当な個体数作製するのはかなりの時間と手間が掛かる。
【0004】
エプスタイン・バール・ウィルス(Epstein Barr virus)に対して抗原特異性を有するTリンパ球(EBV-CTL)を生成するための従来の作製方法は、作製に手間が掛かることを示すひとつの例である。EBV-CTLを最適な形で増殖させる従来の方法は標準的な24ウェルの組織培養プレートを用いているが、その各ウェルは細胞が載っている表面積が2 cm2であり、培地体積はガス移送の要件のせいで1 ml/cm2に制限されている。培養プロセスは、PBMC(末梢血単核細胞)を放射線照射した抗原提示細胞株(リンパ芽球様細胞株(LCL)としてもよい)が存在する状態に置いた細胞集団を設置することから始め、PBMC約1×106個/ cm2、放射線照射抗原提示細胞2.5×104個/ cm2の表面密度(すなわち生育面1 cm2当たりの細胞数)の比を約40:1とする。こうすることによって、細胞集団内におけるEBV-CTLの個体数が増える。9日後、EBV-CTL約2.5×105個/cm2の最小表面密度、4:1の新たな表面密度比率で、照射抗原提示LCLの存在のもとで、EBV-CTLがふたたび選択的に増殖される。グルコースなどの生育溶質を制限する酸素が細胞に到達できるようにするため、培地の体積は、生育面積に対して最大で1 ml/cm2の比率に制限される。その結果、達成可能な最大のEBV-CTL表面密度はおおよそ2×106個/cm2になる。したがって、1週間の最大細胞増殖はおおよそ8倍(すなわち2×106個/cm2を2.5×105個/cm2で割ったもの)以下である。EBV-CTLを続けて増殖させるには、別の24ウェルプレートへ週に一度EBV-CTLを移し替えて抗原を再刺激し、また24ウェルプレートの各ウェル内の培地および増殖因子を1週間に2回入れ替える必要がある。従来の方法では、EBV-CTL表面密度がウェル1つ当たりに可能な最大量へ達するにつれてEBV-CTLの個体数の増殖速度が減速するため、細胞注入のためや、無菌性試験、同定試験、効能試験などの品質制御対策のために十分な量のEBV-CTLを得るには、上のような操作を長期の作製期間にわたって、普通は4~8週間にわたって繰り返さなければならない。
【0005】
EBV-CTLの培養は、細胞療法に特有の複雑な細胞作製プロセスの一つの例にすぎない。作製時間を短くすることができ、それと同時に作製コストや手間を低減できる細胞療法のための細胞培養の、より実際的な方法が求められている。
【0006】
我々は作製過程全体を通じて個体数の増殖速度を高めることができ、これによって細胞を作製する手間と時間を減らすことのできる新しい方法を考案した。
【0007】
通常は、抗原特異性T細胞、ナチュラルキラー細胞(NK)、調節性T細胞(Treg)、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、骨髄浸潤リンパ球(TIL)膵島などの初代非接着細胞が作製の対象となる。多くの作製プロセスは、通常、他のタイプの細胞に頼って目的の細胞の増殖や抗原特異性を刺激する共生培養の条件で目的の細胞(しばしばエフェクター細胞と呼ばれる)の個体数を増大させようとしている。この共生培養で使用される細胞は、通常、フィーダ細胞および/あるいは抗原提示細胞と呼ばれる。場合によっては、TIL作製などの、フィーダ細胞や抗原提示細胞が存在しないところで、共生培養は目的の細胞の個体数の増殖に移行する。エフェクター細胞が存在しないところでの抗原提示細胞および/あるいはフィーダ細胞の作製も広く普及している。また、ときには、糖尿病の治療のための膵島培養などのように、培養は個体数の増殖そのものではなくて、細胞個体群の健康を維持することを意図している。したがって、養子細胞療法における細胞培養のための培養器具および作製プロセスは、多くの潜在的な作製用途を扱わなければならない。
【0008】
養子細胞療法が広い規模で有用になるためには、細胞作製プロセスを大いに簡略化し、廉価にする必要がある。しかし、現状における作製用の器具および方法はそれができない。その理由の簡単な説明が以下の場合である。
【0009】
養子細胞療法の分野において現在大きく頼っている器具は、静置細胞培養、すなわち、細胞培養プレート、フラスコ、およびガス透過性バッグである。これらの静置器具は、培養のときに細胞がお互いの近傍に存在して共生培養物間のやりとりを容易にし、かつ/あるいは非共生培養物が物理的に鎮静状態のままでいられるようにすることを意図している。当業者にはよくわかっていることだが、物理的に乱されていない状態はさまざまな生物学的理由から利点がある。さらに、静置細胞培養器具は複雑ではなく、また器具の中を培地あるいはガスを潅流させるため、装置をスパージングや撹拌、あるいは振動させることによって撹拌するため、かつ/あるいは細胞が器具の底に沈殿しないようにするために、動作中に補助装置を常時使用する必要がない。したがって、静置器具は、標準的な実験室およびインキュベータなどの細胞培養装置と両立でき、補助装置に頼ることが最小限に抑えられるか、あるいは頼ることがない。静置器具は上述した利点を有しているが、それらは養子細胞療法用の細胞を効率よく、また実用的に作製することを妨げる特有の問題も有している。
【0010】
これら特有の問題のなかには、生育面上方にある培地の高さが制限されることがあり、その上限はプレートやフラスコにおける約0.3 cmから、製造者の推奨によるとガス透過性バッグにおける2.0 cmまでの範囲である。したがって、プレートおよびフラスコは培地体積の生育面積に対する比が0.3 ml/cm2以下に制限され、またガス透過性バッグは2.0 ml/cm2以下に制約される。プレート、フラスコ、およびバッグの設計限界を複合させるやりかたが、養子細胞療法の分野において用いられている現状の実験計画である。これらの実験計画は細胞密度を0.5から2.0×106個/mlという狭い範囲に限定し、培養を開始するのに本質的に少なくとも0.5×106個/cm2の表面密度に頼っている。これらの制限のために、養子細胞療法のための細胞作製を非実用的なものにしている問題が生じる。そうした問題の中には、プロセス中における器具の量が過剰であることや、培養を維持するための過剰な労力、汚染に対する高い危険性、および/あるいは細胞を作製する時間の長さが含まれる。バッグは、バッグに対してルーチンの操作を行うときに細胞がその安静位置から乱されて培地の中に入り込むという点で、特有の問題を有する。
【0011】
プレートやフラスコ、バッグに代わる器具が、同時係属中のウィルソン(Wilson)らの米国特許出願第2005/0106717号A1(以後ウィルソン'717号と呼ぶ)およびウィルソンの米国特許出願第2008/0227176号A1(以後ウィルソン'176号と呼ぶ)において導入されており、また培養の別の方法が、養子細胞療法の分野における細胞作製プロセスに対して特に大きな改善が記述されている親出願で導入されている。ウィルソン'717号は、プレートやフラスコの制限された培地高さや、生育面積に対する培地体積の比率の制限を超えて垂直方向に規模を大きくして培養方法を実施できるようにする、またバッグが物理的なスペースをより効率的に使用できるようにする種々の革新的なガス透過性器具について記述している。ウィルソン'176号は与えられた物理的スペースで、より大きな生育面積を可能にすることで、ウィルソン'717号の上に立っている。親出願には、予期しない広範囲の利点を提供するために細胞面積密度に従来技術の限界とは異なる教示を含め、養子細胞療法の分野において一般的に用いられている細胞のより効率的な共生培養を可能にする発見が記述されている。
【0012】
本発明は親出願の上に構築されており、特に養子細胞療法の分野に対して細胞作製の効率および実用性をさらに向上させる新たな発見を有しており、またウィルソン'717号およびウィルソン'176号の上に構築されていて、ここに記載している種々の新規な方法を可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許出願第2005/0106717号
【特許文献2】米国特許出願第2008/0227176号
【発明の概要】
【0014】
従来にない条件を作製プロセス中に定期的に再構築できるような段階化した作製プロセスを用いることによって、細胞療法用の細胞の作製を、現在可能なものよりもより短い時間で、またより経済的に実行できることがわかった。従来にない条件の中には、目的の細胞表面密度(すなわち細胞数/cm2)を小さくすること、抗原提示細胞やフィーダ細胞に対する目的の細胞の比を新しい値とすること、表面積に対する培地体積の比の大きいガス透過性材料からなる生育面を使用することなどが含まれる。
【0015】
この発明の実施例は、細胞療法用途のための細胞を培養する改良された方法に関するものである。それらには、目的の細胞の個体数が従来の方法に比べて作製プロセスを通じてより高い増殖速度を維持できるようにする種々の新規な方法を用いることによって、目的の数の目的の細胞を作製するのに必要な時間やコスト、手間を減らす方法が含まれている。
【0016】
この発明の一つの側面は、培養プロセスをいくつかの段階で実行し、ひとつ以上の段階の開始時において目的の細胞の個体数の増殖速度が現状可能なものを超えられるような条件を設定することである。培養の少なくとも一つの段階、好ましくはほぼすべての段階で、目的とする細胞を従来になく低い表面密度で非ガス透過性ないしガス透過性の生育面の上に置き、目的の細胞に対する抗原提示細胞(および/あるいはフィーダ細胞)の比を従来にない値とするなどの初期条件を設定する。この発明のこの側面についての新規な実施例を用いれば、目的とする細胞の個体数を従来の方法で可能だったものよりも短い時間で多くの回数倍増させて、作製時間を短縮することができる。
【0017】
この発明の別の側面は、培養プロセスをいくつかの段階で実行し、ひとつ以上の段階の開始時において目的とする細胞の個体数の増殖速度た現状可能なものを超えるような条件を設定することである。培養の少なくとも一つの段階、好ましくはほぼすべての段階で、目的とする細胞をガス透過性材料からなる生育面上に置き、培地体積の生育面積に対する比を従来になく高い値とするなどの条件を設定する。この発明のこの側面についての新規な実施例を用いれば、目的とする細胞の個体数を、従来の方法で可能だったものよりも短い時間で多くの回数倍増させて、作製時間を短縮することができる。
【0018】
この発明の別の側面は、培養プロセスをいくつかの何段で実行し、目的とする細胞の個体数の増殖速度が現状可能なものを超えるように各段階の条件を設定することである。培養の少なくとも一つの段階、好ましくはほぼすべての段階で、目的とする細胞を従来になく低い表面密度(すなわち細胞数/cm2)でガス透過性材料からなる生育面上に置き、目的の細胞に対する抗原提示細胞(および/あるいはフィーダ細胞)の比を従来にない値とし、培地体積の生育面積に対する比を従来になく高い値とするなどの初期条件を設定する。この発明のこの側面についての新規な実施例を用いれば、目的とする細胞の個体数を、従来の方法で可能だったものよりも短い時間で多くの回数倍増させて、作製時間を短縮することができる。
【0019】
我々は、細胞を培養、作製するプロセスを、現在の方法よりも実用的かつ費用効率の高いものとするために、養子細胞療法の分野における従来の方法とは異なる方向に導きつつ親出願の開示内容の上に立つ別の細胞培養方法を発見した。
【0020】
細胞を培養するための、ガス透過性細胞培養器具を用いたこの発明は、一つの実施例として、細胞はガス透過性器具の中に存在するときに、表面密度(細胞数/cm2)と細胞密度(細胞数/ml)が従来の方法以下に低減された状態から、生育を開始することができる。
【0021】
細胞を培養するための、ガス透過性細胞培養器具を用いたこの発明は、別の実施例として、任意の与えられた時間においていくつの細胞が培養中であるかを決定するために細胞を計数する必要性を、培地中の溶質サンプルを採取してそれを用いて任意の時間における培養内の個体数を予測することで置き換えている。
【0022】
細胞を培養するための、ガス透過性細胞培養器具を用いたこの発明の別の実施例においては、培養を始めたあとの供給の頻度を現状の方法に比べて減らすために、あるいは培養に供給を行う必要性をまったくなくすために、培地体積と生育面積との比率が大きくされている。
【0023】
細胞を培養するための、ガス透過性細胞培養器具を用いたこの発明は、別の実施例として、細胞が最大の個体数に達したあと細胞の個体群が高い生存率で存在する時間をより長くできるようにするため、培地体積と生育面積との比率がさらに大きくされている。
【0024】
この発明の別の実施例として、細胞の損失なく培養中の培地体積を減らすことができ、遠心分離の必要性なく細胞を濃縮でき、器具から細胞を取り出すまえに細胞密度を増大させることができるようなガス透過性細胞培養・細胞回収器具を開示する。
【0025】
この発明の別の実施例においては、オペレータが培養物へ供給を行おうとしたときに、培養中の器具の数を増やす必要性を最小限に抑えるため、細胞の損失なく培養中の培地体積を減らすことができるような、新規なガス透過性細胞培養および細胞回収器具の使用方法を開示する。
【0026】
細胞を培養するための、ガス透過性細胞培養器具を用いたこの発明は、別の実施例として、CAR T細胞を迅速に作製し、培養中にAPCを使用することによって殺傷能力を改善する方法を開示する。
【0027】
細胞を培養するための、ガス透過性細胞培養器具を用いたこの発明は、別の実施例として、この発明の方法は、生育面の面積の増大に正比例して直線的に規模を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
この発明は、添付図面と関連付けてこの発明のさまざまな実施例に関する以下の詳しい説明を考慮すると、より完全に理解されるであろう。
【
図1A】例1における抗原特異性T細胞の個体数が初期刺激のあと最初の7日間で少なくとも7回の細胞倍増を受けることを示している。
【
図1B】例1に対する四量体分析によって求めた、時間の経過による細胞集団内におけるT細胞個体数の増殖の大きさを示すデータである。
【
図1C】例1において、抗原特異性T細胞の個体数の増殖速度が23日間の期間で減速することを示している。
【
図2】例1における抗原特異性T細胞の可能な増殖と、観測された増殖倍率との間の相違を示す表である。
【
図3A】例2において、刺激のあとの抗原特異性T細胞の存在を示している図である。
【
図3B】例2において、抗原特異性T細胞と抗原提示細胞との比率を4:1に維持しながら表面密度を1×10
6/cm
2から3.1×10
4/cm
2まで低下させたときの抗原特異性T細胞の個体数の増殖を示している。
【
図3C】例2において、一定個体数の抗原提示細胞が存在する状態で、表面密度を1×10
6/cm
2から3.1×10
4/cm
2まで低下させたときの抗原特異性T細胞の個体数の増殖を示している。
【
図4】
図3に記載されている作業を続けたときに得られる結果の例を示しており、目的の細胞がほかの細胞の支援を必要とするとき、目的の細胞がフィーダ細胞および/抗原提示細胞を適切に供給される限り、従来になく低い表面密度で個体数の増殖を開始できることも示している。
【
図5】3種類の表面密度(CTL数/cm
2)において培養を開始することによって、目的の細胞の個体数の増殖の程度の再現力を表すヒストグラムである。
【
図6】データを得るために使用したガス透過性テストフィクスチャの断面図を示している。
【
図7A】例5において行われた、この発明に従って作製された抗原特異性T細胞の増殖曲線を従来の方法と比較して示している。
【
図7B】例5に対して、フローサイトメトリの前方散乱対側方散乱の分析によって求めた細胞生存性が、この発明に従って作製された抗原特異性T細胞においては、従来の方法に比較して著しく高かったことを示している。
【
図7C】例5に対して、アネキシン-PI 7AADによって求めた細胞生存性が、この発明に従って作製された抗原特異性T細胞においては、従来の方法に比較して著しく高かったことを示している。
【
図7D】例5に対して、CFSE標識された細胞の日ごとのフローサイトメトリ分析によって求めたところ、この発明の新規な方法で作製された細胞の優れた増殖が従来の方法を用いて培養された細胞と同じ細胞固有の増殖速度を有していることが示されており、細胞の死滅の結果として細胞増殖の速度が増大していることが確かめられる。
【
図8A】培地を入れ替える必要性なく、従来の方法において可能な値を超えてEVB-CTLがいかに増殖可能であるかを示している。
【
図8B】例6の培養条件は最終細胞生成物をいかに改変しないかを、EBERに対するQ-PCRによって評価して示している。
【
図8C】例6の培養条件は最終細胞生成物をいかに改変しないかを、B細胞マーカCD20に対するQ-PCRによって評価して示している。
【
図9】目的の細胞と抗原提示細胞(この場合にはAL-CTL細胞とLCL細胞が組み合わさって30000個/cm
2の表面密度で細胞集団を形成している)の累計表面密度が非常に低いとAL-CTLの個体数の増殖を開始できないことを我々が実験的に示した例を示している。
【
図10A】細胞を培養する二つの新規な方法が23日間にわたって従来の方法よりもいかに多くの細胞を作製するかを示す例8のデータを示している。
【
図10B】例8においてテストフィクスチャの中で培養された細胞の写真を示している。
【
図10C】例8において、二つの新規な培養方法と従来の方法ではすべて同じ表現型を有する細胞が作製されることを示している。
【
図10D】例8に対して、EBVのLMP1、LMP2、BZLF1およびEBNA1からのEBVペプチドエピトープで刺激され、HLA-A2-LMP2ペプチド五量体染色で染色したT細胞が、ペプチド特異的T細胞の頻度が同程度であることを示した代表的な培養を示している。
【
図10E】例8の新規な方法および従来の方法に対して、細胞がそれらの細胞溶解の活性と特異性を維持し、HLAミスマッチのEBV-LCLの殺傷を小さくして自己由来のEBV-LCLを殺傷したことを、
51Cr遊離試験によって評価して示している。
【
図11】従来のシナリオのもとでの生育面上の目的の細胞の個体数増殖を、この発明の一つの側面を用いた目的の細胞タイプの個体数の増殖と比較してグラフ表示したものを示している。
【
図12】ガス透過性材料から構成された生育面と、1あるいは2 ml/cm
2以上の従来になく高い培地体積と生育面積との比率を利用することによって得ることができる利点の例を示している。
【
図13】従来のシナリオのもとでの生育面上の目的の細胞の個体数増殖の新規な方法を、この発明の一つの実施例での目的の細胞タイプの個体数増殖と比較してグラフ表示したものであり、そこでは終了したときの細胞の表面密度が従来の表面密度よりもずっと大きい。
【
図14】従来の方法に対してさらなる利点を提供する細胞作製の別の新規な作製方法を示している。
【
図15】新規な方法の威力と、それが種々の段階において十分に効率を得るために作製実験計画を調節することがなぜ有用かを示すために、
図14に描かれている各作製方法の比較を示している。
【
図16】作製が進行するにつれて効率を得るために新規な方法において作製実験計画をどのように調節することができるかの例を示している。
【
図17A】1.0E+06個/cm
2における実験条件と結果の代表的な表計算シートを示している。
【
図17B】0.5E+06個/cm
2における実験条件と結果の代表的な表計算シートを示している。
【
図17C】0.25E+06個/cm
2における実験条件と結果の代表的な表計算シートを示している。
【
図17D】0.125E+06個/cm
2における実験条件と結果の代表的な表計算シートを示している。
【
図17E】0.0625E+06個/cm
2における実験条件と結果の代表的な表計算シートを示している。
【
図18】
図17Aから
図17Eに詳しく示されている実験条件それぞれの表面密度に対して個体数増大の増殖倍率を比較している。
【
図19A】グルコース濃度を除いて同等の開始条件のもとで、K562細胞の培養に対する実験条件と典型的な結果の代表的な表計算シートを示している。
【
図19B】二つのグルコース開始条件のもとで、11日間にわたる細胞個体数の増殖を示している。
【
図19C】各培養条件におけるグルコースの減少率を示している。
【
図19D】各培養条件におけるグルコースの消費率を示している。
【
図19E】240 mg/dlのグルコース濃度で開始された培養に対して、公式による計算を用いて予測される細胞の個体数と、マニュアルで数えて求めた細胞の数を重ねたものを示している。
【
図19F】240 mg/dlのグルコース濃度で開始された培養に対して、公式による計算を用いて予測される細胞の個体数と、マニュアルで数えて求めた細胞の数を重ねたものを示している。
【
図20】さまざまな培地供給条件のもとでの、生育面に対して規格化された個体数の成長をグラフ表示したものである。
【
図21】細胞個体数の代替的測定値としてグルコースの低下を用いることができることを示す実験に対して、0日目、9日目、16日目の条件を要約した表計算シートを示している。
【
図22A】開示されている新規な細胞培養方法および/あるいは新規な細胞回収方法を実行するように構成された細胞培養および細胞回収器具1000のこの発明の実施例の一例の断面図を示している。
【
図22B】培養の与えられた任意の細胞作製段階の開始時において、静置培養の初期状態にある細胞培養および細胞回収器具1000を示している。
【
図22C】体積を減らした培地で細胞を回収するように準備された細胞培養および細胞回収器具1000を示している。
【
図22D】細胞回収培地1024を移転するために、元の水平な細胞培養位置から角度1026だけ偏向した位置まで細胞培養および細胞回収器具1000の向きを変えるプロセスを示している。
【
図23A】培養の開始時における、そして培養が進行したときの評価Aの条件を示している。
【
図23B】培養の開始時における、そして培養が進行したときの評価Bの条件を示している。
【
図23C】培養の開始時における、そして培養が進行したときの評価Cの条件を示している。
【
図23D】培養中のさまざまな時点における、培養物中の生きた全細胞を示している。
【
図23E1-23E3】培養の最初と培養の終わりにおける、CAR T細胞発現の割合を示している。
【
図23F】培養中のCAT T細胞の全増殖倍率を示している。
【
図23G】評価Aにおける生細胞の個体数の予測は、マニュアルで数えた細胞の個体数を表していたことを示す図である。
【
図23H】条件Aと条件Bから得られた細胞の、PSCAを発現する腫瘍細胞を殺傷する能力を示している。
【
図24A】PSCAに特異性を有するCAR T細胞の個体数の増殖を並べて比較したものである。
【
図24B】Muc1に特異性を有するCAR T細胞の個体数の増殖を並べて比較したものである。
【
図24C】CAR T細胞の個体数の増殖のグラフである。
【
図24D】Muc1細胞の個体数の増殖のグラフである。
【
図24E】生育面積の異なる3つのガス透過性培養器具の個体数成長曲線を示している。
【
図24F】表面密度に対して規格化されたあとの、
図24Eの曲線の個体数の成長を示している。
【発明を実施するための形態】
【0029】
定義
接着細胞:生育面に付着した細胞
抗原提示細胞(APC):目的の細胞にトリガを加える作用をして特定の抗原に反応する細胞。
CTL:細胞傷害性T細胞
細胞密度:細胞の数と培地の単位体積との比率(細胞数/ml)
目的の細胞:作製プロセスによって量を増殖させたり回収させたりすることを目的としている特定のタイプの細胞。一般に、目的の細胞は非接着性であり、例としては、調節性T細胞(Treg)、ナチュラルキラー細胞(NK)、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、初代Tリンパ球、および広範囲の抗原特異性細胞、そして他の多くのもの(それらのすべてがそれらの機能、in-vivo永続性、安全性を改変するために遺伝子操作も可能である)が含まれる。治療用途で必要な細胞は、フィーダ細胞や抗原提示細胞の一方あるいは両方を使って増殖させることができる。それらには、PBMC、PHAブラスト(blast)、OKT3 T、Bブラスト、LCL、およびK562(自然の、あるいは発現するように遺伝子改変されており、抗原および/あるいはエピトープや、41BBL、OX40、CD80、CD86、HLAなどの補助刺激分子など、その他多数)が含まれ、これらはペプチドあるいはその他の関連の抗原でパルスされていてもされていなくてもよい。
EBV:エプスタイン・バール・ウィルス
EBV-CTL:特異性で(specifically)認識されるEBV感染した細胞、あるいはそのT細胞表面受容体を介してEBV誘導ペプチドを発現あるいは提示する細胞。
EBV-LCL:エプスタイン・バール・ウィルスによって形質転換されたBリンパ芽球様細胞株。
フィーダ細胞:目的の細胞を量的に増殖させるよう作用する細胞。環境によっては抗原提示細胞もフィーダ細胞として作用することがある。
生育面:培養器具の中で細胞が上に載っている領域。
培養開始時:一般に培養プロセスの開始時や作製サイクルの開始時における条件のことを指している。
培地交換:細胞に栄養分を供給することと同義であり、通常は古い培地に新鮮な培地を補充するプロセスのことである。
PBMC:末梢血から抽出された末梢血単核細胞であり、目的の細胞のいくらかの源であり、フィーダ細胞として作用することができる。
レスポンダ(R):刺激細胞に反応する細胞。
静置細胞培養:培養器具がルーチンの操作のために場所を移されるとき、かつ/あるいは細胞に新鮮な培地などが定期的に供給されるときを除いて、撹拌あるいは混合されることのない培地中での細胞培養方法である。一般に、静置培養の培地は静穏状態にある。培地は、潅流システム(培地が容器の中を常時移動する)や、培地を動かすために培養器具が物理的に振動させられる振動システム、撹拌システム(そこでは器具内で撹拌棒が動いて培地と細胞を撹拌する)、あるいは培養のときに培地を動かし混合するために使用されるその他の任意の機構あるいは装置で起きるような強制的な動きは被らない。細胞は器具中で生育面に沈降し、ときどき行われる供給の期間を除いて乱されない状態でそこに存在する。供給の時には、培養物は、まず培地を取り出し、そのあと培地を追加することによって、あるいは培地を取り出さずに培地を追加することによって、あるいは培地および細胞を取り出し、その培地および細胞を新しい器具へ移してこれらの器具に新鮮な培地を追加することによって、新鮮な培地が提供される。供給プロセスを補助するポンプは一般的なものである。例えば、ガス透過性細胞培養バッグは、通常、閉じたシステムの中で流体を移動させるのに重力あるいはポンプに頼っている。培養期間の大部分は、細胞や培地が静穏で撹拌されない状態で存在する期間である。この発明は細胞静穏培養法を目指している。
刺激:抗原提示細胞および/あるいはフィーダ細胞が目的の細胞に対して有する効果。
スティミュレータ(S):レスポンダ細胞に影響を与える細胞。
表面密度:その上に細胞が載っている器具内の生育面の単位面積当たりの細胞の量。
懸濁細胞:生育面に付着する必要のない細胞であり、非付着細胞と同義である。
【0030】
養子T細胞療法用の細胞を目的の個体数だけ簡単に作製する新規な方法を発見すべく、一連の実験を実施して、細胞療法用途の細胞のより効率的な培養に扉を開いた。この発明の説明のための多数の例およびさまざまな側面を説明することにより、従来の方法と比べて作製の時間と手間を低減する効果がいかにして実現されるかを示す。
【0031】
例1:従来の方法の限界の実証
この例のデータは、標準的な24ウェルの組織培養プレート(すなわちウェル1つ当たりの表面積2 cm2)において、ウェル一つ当たり体積2 mlの培地(すなわち培地高さ1.0 cmの、表面積に対する培地体積の比1 ml/cm2)を用いて、EBV-CTLを作製する従来の培養方法の限界を示している。
【0032】
培養の第1段階、0日目:正常なドナー由来のPBMCと抗原提示するガンマ線照射(40Gy)した自己由来のEBV-LCLとを40:1の比率(PBMC:LCL)で含む細胞集団(約1×106細胞数/ml)を培養することによってEBV-CTLの個体数の増殖を開始した。このとき、、RPMI 1640に45%のクリック培地(カルフォルニア州サンタアナのアービン・サイエンティフィック社(Irvine Scientific))、2 mMのGlutaMAX-I、10%のFBSを補充して用い、生育面積に対する培地体積の比を1 ml/cm2として表面密度を約1×106細胞/cm2に設定した。
【0033】
培養の第2段階、9日目~16日目:9日目に、第1段階で生成した細胞集団からEBV-CTLを採取して、EBV-CTL 0.5×106個/cm2の表面密度で新鮮な培地中で再懸濁し、CTL:LCL比4:1で(表面密度0.5×106個/cm2:1.25×105個/cm2)、照射した自己由来のEBV-LCLで再刺激した。13日目に、24ウェルプレートの各ウェルにおいて2 mlの培地のうち1 mlを取り出して、組み換えヒトIL-2(IL-2)(50U/mL)(Proleukin、カリフォルニア州エメリービルのチロン社(Chiron))を含む1 mlの新鮮な培地に入れ替えた。
【0034】
培養の第3段階、17日目~23日目:第2段階の条件を、IL-2を1週間に2回追加して繰り返し、23日目に培養を終了した。培養は終了したが、第2段階と第3段階を模倣して追加の培養段階を続けることもできた。
【0035】
細胞傷害性試験における標的細胞として使用する細胞株および腫瘍細胞:BJAB(B細胞リンパ腫)とK562(慢性赤白血病)をアメリカ典型培養物保存期間(American Type Culture Collection)(ATCC、米国メリーランド州ロックビル(Rockville))から入手した。10%の加熱不活性化されたウシ胎仔血清(FCS)と、2 mMの L-グルタミンと、25IU/mLのペニシリンと、25 mg/mLのストレプトマイシン(これらすべてメリーランド州ウォーカーズビル(Walkersville)のバイオウィタカー社(BioWhittaker)製)を含むRPMI 1640培地(メリーランド州ゲイザーズバーグ(Gaithersburg)のGIBCO-BRL)を用いて、すべての細胞の培養を維持した。細胞は、37℃で5%のCO2を含む湿潤雰囲気中に維持した。
【0036】
免疫型マーカ診断:
細胞表面:フィコエリトリン(PE)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ペリオジンクロロフィルタンパク質(PerCP)、およびベクトン・ディッキンソン社(Becton-Dickinson)(米国カリフォルニア州マウンテンビュー)から入手したCD3、CD4、CD8、CD56、CD16、CD62L、CD45RO、CD45RA、CD27、CD28、CD25、CD44に対するアロフィコシアニン(APC)共役モノクローナル抗体(MAb)で細胞を染色した。PE共役四量体(ベイラー医科大学(Baylor College of Medicine))とAPC共役五量体(英国オックスフォードのプロイミューン社(Proimmune)製)を使用して、EBV-CTL前駆体の頻度を定量した。細胞表面および五量体の染色に対して、FACSCaliburフローサイトメータ上でそれぞれ10000および100000の生体イベントを採取して、Cell Questソフトウェア(Becton Dickinson)を用いてデータを分析した。
【0037】
細胞分裂を測定するためのCFSE標識:倍増速度を調べるために、2×107個のPBMCあるいはEBV-特異性CTL(EBV-CTL)を二度洗浄して、0.1%のウシ胎児血清(シグマ・アルドリッチ(Sigma-Aldrich)製)を含む850 mlの1×リン酸緩衝食塩水(PBS)の中に再懸濁させた。染色のまえに、カルボキシルフルオレセインジアセテートと、スクシンイミジルエステル(CFSE)(ジメチルスルホキシド中の10mM)(Celltracetm CFSE細胞増殖キット(C34554)、インヴィトロゲン社(Invitrogen))のアリコートを融かして、1×PBSで1:1000に希釈し、希釈物の150 mlを細胞懸濁液に加えた(標識濃度は1 mMだった)。細胞を室温で10分間、CFSEで恒温に維持した。引き続いて、細胞懸濁液に1 mlのFBSを加え、そのあと37℃で10分間培養した。のちほど、1×PBSで二度洗浄し、計数し、前述したように抗原で刺激した。
【0038】
アネキシンV-7-AAD染色:我々の培養物中で、アポトーシスした細胞と壊死した細胞の割合を求めるために、製造者の取扱説明書(BD Pharmingentm #559763、カリフォルニア州サンディエゴ)に従ってアネキシン-7-AADによる染色を実施した。簡単に述べると、24ウェルプレートあるいはG-RexからのEBV-CTLを冷たいPBSで洗浄し、1×のBinding Bufferの中に1×106個/mlの細胞濃度で再懸濁し、暗くして室温(25℃)で15分間アネキシンV-PEおよび7-AADで染色した。恒温維持に続いて、ただちにフローサイトメトリで細胞を分析した。
【0039】
クロム遊離試験:我々は前述したように、標準的な4時間の51Cr遊離試験においてEBV-CTLの細胞傷害性を評価した。目的の細胞として我々は自己由来のHLAクラスIおよびIIミスマッチのEBV-形質転換されたリンパ芽球様細胞株(EBV-LCL)を用いてMHC拘束および非拘束の殺傷を測定するとともに、K562細胞株を用いてナチュラルキラー活性を測定した。培地単独で、あるいは1%のTriton X-100の中で培養されたクロム標識された目的の細胞を使用して、自発的51Cr遊離および最大51Cr遊離をそれぞれ求めた。3連ウェルの特異溶解の平均割合を以下のように計算した:[(テストカウント数-自発的カウント数)/(最大カウント数-自発的カウント数)]×100。
【0040】
酵素結合免疫スポット(ELIspot)試験:ELIスポット分析を使用して、抗原刺激に反応してIFNγを分泌したT細胞の頻度および機能を定量した。24ウェルプレートの中で、あるいはG-Rexの中で増殖されたCTL株を、照射LCL(40 Gy)あるいはLMP1、LMP2、BZLF1、EBNA1のpepmix(1 mg/mlに希釈した)(ドイツ、ベルリンのJPTテクノロジーズ社(JPT Technologies GmbH))で、あるいは2 mMの最終濃度まで希釈したEBVペプチドHLA-A2 GLCTLVAML=GLC、HLA-A2 CLGGLLTMV=CLG、HLA-A2-FLYALALLL=FLY、およびHLA-A29 ILLARLFLY=ILL(テキサス州サンアントニオのジーンムド・シンセシス社(Genemed Synthesis, Inc.))で刺激した。そして、CTLだけが陰性の対照として作用した。CTLをELIスポット培地[5%のヒト血清(ヴァージニア州ウィンチェスタのバレー・バイオメディカル社(Valley Biomedical, Inc.))および2 mMのL-グルタミン(カリフォルニア州カールスバッド、インビトロゲン(Invitrogen)のGlutaMAX-I)を補充した(RPMI 1640(ユタ州ローガンのハイクローン(Hyclone))]の中で1×106/mlで再懸濁した。
【0041】
96ウェル濾過プレート(マサチューセッツ州ベッドフォード、ミリポア社のMultiscreen, #MAHAS4510)に10 mg/mLの抗IFN-γ抗体(オハイオ州シンシナティ、マブテック社(Mabtech)のCatcher-mAB91-DK)を4℃で夜通しコーティングし、そのあと洗浄して、ELIスポット培地で37℃で1時間にわたってブロックした。レスポンダおよびスティミュレータの細胞を20時間にわたってプレートの上で培養し、そのあとそのプレートを洗浄して、補助的なビオチン共役抗IFN-γモノクローナル抗体(Detector-mAB(7-B6-Biotin)、Mabtech)で培養し、そのあと、アビジン:ビオチン化ホースラディッシュペルオキシダーゼ混合物(Vectastain Elite ABC Kit(標準)、#PK6100、カリフォルニア州バーリンゲームのベクター・ラボラトリーズ社(Vector Laboratories))で培養し、そのあとAEC基板(ミズーリ州セントルイスのシグマ社(Sigma))で発現させた。各培養条件を三連で実行した。評価のためにプレートをニューヨーク州ニューヨークのゼルネット・コンサルティング社(Zellnet Consulting)へ送った。スポット形成ユニット(SFC)と入力細胞数をプロットした。
【0042】
統計解析:In vitroデータを平均±1SDとして示した。スチューデントt検定を用いて、サンプル間の統計的な有意差を求めた。そして、P<0.05で有意差のあることが示された。
【0043】
これらの培養条件のもとで、抗原特異性T細胞の個体数は、
図1Aに示すように初期刺激のあと最初の7日間で細胞倍増が少なくとも7回起きている。したがって、1週間に128倍(抗原特異性T細胞の頻度に細胞集団中の細胞の全体の数を掛けて測定されたもの)のT細胞増殖が予想される。第1回目、第2回目、第3回目の刺激のあとの四量体陽性細胞の頻度が
図1Bに示されている。第0日目には二つのEBV四量体、RAKおよびQAKに対して反応性を有するT細胞の頻度はそれぞれ0.02%および0.01%であった。第0日目に1回刺激したあと、細胞集団中の四量体陽性T細胞は、0.02%および0.01%から、それぞれ第9日目までに2.7%および1.25%まで増大した。したがって、RAKおよびQAKによって測定された、細胞集団中に存在する抗原特異性四量体陽性T細胞の割合の増加は、135倍および125倍が達成された。また、第0日目の、培養の第1段階における一回の刺激のあと、第9日目までに、細胞集団中の細胞の表面密度は(図示されていない)1.1倍の増加が観察された(約1.1×10
6個/cm
2の細胞が存在した)。PBMC組成内の細胞の大部分は刺激抗原に対して特異性がないため、細胞全体数では全体の増加はわずかであるが、組成内の抗原特異性細胞の個体数の増殖倍率は
図1Cに示されているように培養の第1段階の間でおおよそ280倍である。あいにく、CSFEによって測定された細胞倍増の回数は培養の第2段階と第3段階のときに同じであったが、抗原特異性T細胞のこの増殖速度は培養の第2段階と第3段階で維持されず、第2段階においてわずか5.7回、第3段階において4.3回であった。
図2の表は、潜在的な増殖と、抗原特異性T細胞の観測された増殖倍率(n=3)との間の不一致を示している。
【0044】
例1は、続く段階における目的の細胞の個体数増殖速度は減速するため、作製の最初のおおよそ1週間のあとは目的の細胞を作製するのにかかる時間は一般に遅くなることを示している。
【0045】
例2:培養における任意の与えられた単一あるいは複数の段階の開始時における目的の細胞の細胞表面密度を下げることによって、目的の細胞の個体数を増大させるために必要な時間の短縮を達成することができる。
【0046】
我々は、初回の刺激に比べて、2回目のT細胞刺激のあとの目的の細胞の個体数の増殖速度が低下するのは、細胞培養条件が制限され、その結果、活性化誘導細胞死(AICD)を招くためではないかと仮定した。例えば、
図3Aを参照すると、初回の刺激において、PBMCのEBV抗原特異性T細胞成分は多くとも個体数の2%であり、したがって抗原特異性レスポンダT細胞の播種密度は2×10
4/cm
2以下であり、残ったPBMCは非増殖型のフィーダ細胞として作用し(
図3AにおいてCFSE陽性細胞として見える)、それは最適な細胞間の接触を維持して抗原特異性CTLの増殖を可能にする。これに対して、第9日目の2回目の刺激においてはT細胞の大部分は抗原特異性があり、組成の全細胞密度はほぼ同じであるけれども増殖する細胞密度は50から100倍高い。その結果、再刺激を行うと、細胞の大部分は増殖するため、栄養分およびO
2供給を急速に消費して使い果たすことがある。
【0047】
培養条件の制限のせいでT細胞の成長速度が最適値に満たないものになっているのかどうかを決定するために、我々はより低い細胞密度で播種された活性T細胞の増殖を測定した。方法については例1において前に述べた。
【0048】
図3Bに示されているように、我々は活性化されたEBV特異性T細胞を、各ウェルの生育面積が2 cm
2の標準的な24ウェルプレートの中に播種した。レスポンダ細胞とスティミュレータ細胞の比(R:S)を4:1に維持しつつ、倍々に希釈してそれぞれの表面密度が1×10
6/cm
2から3.1×10
4/cm
2までの範囲で下がっていくようにした。1.25×10
5/cm
2の開始CTL表面密度で最大のCTL増殖(4.7±1.1倍)が得られたが、さらなる希釈は、
図3Bに示されているように増殖速度を減速させた。我々はこの希釈による限定的な効果はおそらく細胞間の接触が欠けているためと考え、したがってフィーダ細胞の数を一定にして(1.25×10
5/cm
2の表面密度で播種したEBV-LCL)表面密度1×10
6から3.1×10
4まで倍々に希釈したEBV-CTLを培養し、7日間にわたって細胞増殖を調べた。
図3Cに示されているように、1×10
6/cm
2の表面密度のEBV-CTLでのわずか2.9±0.8倍から、3.1×10
4/cm
2の表面密度のEBV-CTLでの34.7±11倍の増殖まで、我々はCTL増殖における劇的な増大を観測した。重要なことは、培養条件のこの修正によって細胞の機能あるいは抗原特異性は変わらないことである(データは示されていない)。したがって、活性化された抗原特異性T細胞の個体数は、従来の培養方法が可能にするよりも大きな増殖が可能である。注目すべきは、刺激のあとに活性化された最大表面密度(1.7から2.5×10
6/cm
2)は開始表面密度に関係なく同じだったことである。
【0049】
このように、従来の培養条件は限定的であり、培地体積と生育面積との比率を従来の1 ml/cm2を超えて増大させて、目的の細胞の個体数が従来の方法の表面密度の限界を超えられるようにする必要があることを示している。さらに、培養の任意の段階の開始時において目的の細胞の個体数の表面密度を従来の方法以下に下げることによって、抗原特異性CTLの増殖を約34倍にまで向上させることができる。これは、作製の開始時における細胞の量が通常きわめて限られている細胞療法においては著しい効果を有する。個体数の成長速度が従来の表面密度に対して劇的に増大することから、例えば、限られた量の目的の細胞を、低い表面密度で広い表面積に分布させることによって、より多くの目的の細胞の個体数をより短い時間で実現できる。
【0050】
例3:目的の細胞および/あるいは抗原提示細胞を含む細胞の個体数の最低限の表面密度によって、非常に低い表面密度で播種された目的の細胞の個体群の増殖が可能である。
【0051】
図4は
図3で述べた作業を続けることで得た結果の例を示している。この結果からは、目的の細胞が他の細胞の支援を必要とする場合、目的の細胞がフィーダ細胞および/あるいは抗原提示細胞を十分に供給した状態にある限り、従来になく低い目的の細胞の表面密度で個体数の増殖を開始できることも示された。これらの実験において、我々は続いて、R:S比8:1で目的の細胞約1.0×10
6個/cm
2と、R:S比1:32で目的の細胞わずか約3900個/cm
2との間の表面密度およびR:S比率を有する全細胞集団が、どのようにして目的の細胞を初期表面密度の50倍以上にまで大きく増殖できたかを示す。我々はこの50倍以上の時点で試験をやめた。
【0052】
例4:目的細胞の表面密度を従来になく低い状態ひとつの段階を開始し、個体数を増殖させ、その段階を終了し、この条件を繰り返すという、作製プロセスをいくつかの段階で繰り返すことができる能力によって、再現性のよい結果が得られることを示した。
【0053】
図5に示されているように3種類の目的細胞表面密度(CTL/cm
2)において、例3で説明した評価を続けた。それぞれの特定播種密度は一貫して同じ増殖倍率を達成できた。これが意味することころについては、目的の細胞の個体数に対して作製時間を劇的に短縮することができる能力に関係するためさらに詳しく説明する。
【0054】
例5:培地の体積の生育面の面積に対する比を増大させつつ、ガス透過性材料から構成された生育面上で目的の細胞を培養することによって、培養の与えられた段階において目的の細胞の個体数が倍増する回数は従来の方法に比べて増え、また達成可能な表面密度を増大させる。
【0055】
細胞株および腫瘍細胞、免疫学的マーカ診断、CFSE標識、アネキシンV-7-AAD染色、クロム遊離試験、酵素結合免疫スポット(ELIspot)試験、レトロウィルスの作製およびTリンパ球への形質導入、統計解析は、例1に記載した通りだった。
【0056】
テストフィクスチャ(以下では一般に「G-Rex」と呼ぶ)は
図6に示されているように構成した。各G-Rex10の底部20はおよそ0.005から0.007インチの厚みのガス透過性シリコーン膜から形成されている。ウィルソンの係属中の米国特許出願第2005/0106717号A1は、他のガス透過性材料を使用している他の多くの情報源の一つであり、ガス透過性培養器具の形状や特徴、そしてこの発明の多くの実施例にとって利点のあるその他の有用な特性について当業者を教育するために用いることができる。この例3においては、G-Rex(「G-Rex40」と呼ぶ)は10 cm
2の生育面積を有し、その上に細胞集団(アイテム30として示されている)が載っている。この細胞集団の特性は中に記載されている実験全体にわたって変化する。培地体積(アイテム40として示されている)は特に指示されていない限り30 mlであり、3 ml/cm
2の培地体積と生育面積との比率を形成している。
【0057】
従来の4:1のCTL:LCL比率で、活性化EBV-特異的CTLと照射した自己由来のEBV-LCLとをG-Rex40器具の中で培養した。EBV-CTLはG-Rex40の中で5×10
5個/cm
2の表面密度で播種し、1ml/cm
2の培地体積と生育面積との比率で標準の24ウェルプレート内に同じ表面密度で播種されたEBV-CTLと、EBV-CTLの個体数の増殖速度を比較した。3日後、
図7Aに示されているように(p=0.005)、培地を入れ替えることなく、G-Rex40内のEBV-CTLは、5×10
5/cm
2から、中央値で7.9×10
6/cm
2(5.7から8.1×10
6/cm
2の範囲)まで増大した。これに対して、従来の24ウェルプレートの中で3日間培養されたEBV-CTLは、3日目までに表面密度が5×10
5/cm
2から、中央値で1.8×10
6/cm
2(1.7から2.5×10
6/cm
2の範囲)まで増大しただけであった。G-Rex40内では、表面密度は培地を補充することによってさらに増大させることができたが、一方、24ウェルプレート中では、培地あるいはIL2を補充することで細胞表面密度を増大させることはできなかった。例えば、7日目に培地あるいはIL-2を補充したあと、G-Rex40内ではEBV-CTLの表面密度は9.5×10
6個/cm
2(8.5×10
6から11.0×10
6/cm
2の範囲)までさらに増大した(データは示さない)。
【0058】
G-Rex器具内における優れた細胞増殖の背後にあるメカニズムを理解するために、我々は培養の5日目にフローサイトメトリの前方散乱と側方散乱の分析を用いてOKT3刺激された末梢血T細胞の生存性を評価した。この試験では、培養物の中に分析を邪魔する残留した照射EBV-LCLが存在するために、EBV-CTLは評価できなかった。
図7Bに示されているように、細胞生存性はG-Rex40培養物の中では著しく高く著しく高かった(G-Rex40の中では89.2%の生存率であるのに対して24ウェルプレートの中では49.9%の生存率である)。つぎに我々は、生きた細胞とアポトーシス/壊死細胞を識別するために、アネキシン-PI 7AADを用いて7日間の間、毎日、培養物それぞれを分析し、
図7Cに示されているように、G-Rex中のものに比べて24ウェルプレート中で増殖したT細胞は一貫して生存性が低いことを観測した。これらのデータは、増殖細胞の累積的な生き残りが改善されたことが、24ウェルプレートに比べてG-Rex器具中での細胞の数が増大することに寄与したことを示している。
【0059】
24ウェルプレートに対してG-Rexの中での細胞分裂の数が増大したことからの寄与もあるかどうかを判断するために、0日目にT細胞にCFSEで標識を付け、体積40 mlの培地を入れたG-Rex40器具と、各ウェルに体積2 mlの培地を入れた24ウェルプレートとに分けた。毎日のフローサイトメトリ分析によって、1日目から3日目まで細胞分裂の数に違いはないことが示された。しかし、3日目以降、G-Rex40の中で培養した目的の細胞の個体数は、減少していく2 mlのウェルの速度を超える速度で増加し続け、これは2 mlのウェルでは
図7Dに示されているように培養条件が限界にきていることを示している。このように、G-Rex40テストフィクスチャ内に目的の細胞の個体数が多いのは、従来の方法に対して細胞死が減少したことと、増殖が持続したことの組み合わさった結果であった。
【0060】
例6:生育面の面積に対する培地の体積の比を従来になく高くしたうえで、ガス透過性材料から構成された生育面を使用することによって、従来になく高い目的細胞の表面密度を作製のときに得られると同時に、培養物に供給を行う必要性を軽減することができる。
【0061】
これは、EBV:LCLの開始と増殖にG-Rexテストフィクスチャを使用することで示された。この例のために、底部が100 cm
2の生育面からなることと、2000 mlの培地体積が利用できることを除いて、G-Rex2000は
図8に記載されている器具を参照する。細胞の表現型を変えることなく、EBV-LCLをG-Rex2000の中で培養し、増殖させた。表面積に対する培地体積の比を10 ml/cm
2に実現するために1000 mlの完全なRPMI培地とともに面密度1×10
5個/cm
2でEBV-LCLをG-Rex2000の中に播種した。比較のため、0.18 ml/cm
2の培地体積と表面積との比率を実現するため、30 mlの完全なRPMI培地とともに面密度5×10
5個/cm
2でEBV-LCLをT175フラスコの中に播種した。
図8Aに示されているように、G-Rex2000の中で培養されたEBV-LCLは、何の操作も培地交換も必要とせずに、T175フラスコの中でのそれよりもより多く増殖した。
図8Bおよび
図8Cに示されているように、この培養条件は、EBERおよびB細胞マーカCD20に対するQ-PCRによって評価したところ、最終的な細胞生成物を改変しなかった。
【0062】
例7:培養のはじまりに十分なフィーダ細胞および/あるいは抗原細胞が存在しないときには、目的の細胞は増殖しないかもしれない。しかし、細胞集団は、フィーダ細胞および/あるいは抗原提示細胞として作用する別のタイプの細胞を、増殖を可能にするために含めるよう変更することができる。
【0063】
図9に示す説明のための例で、目的の細胞および抗原提示細胞の非常に低い累積面密度では(この場合にはAL-CTLとLCL細胞を組み合わせて表面密度30000個/cm
2の細胞集団を形成)、AL-CTLの個体数の増殖を開始できないことを我々は実験的に示した。しかし、フィーダ細胞として作用する別の細胞タイプを含めるように組成を変更することによって、同じ細胞集団を成長可能にできた。この場合には、表面密度約0.5×10
6個/cm
2で、照射K562の三つのさまざまな形のフィーダ層を我々は評価し、すべての場合において、AL-CTLの個体数は、ヒストグラムの最初の列に描かれている初期細胞集団から増殖し、細胞表面密度がわずか15000個/cm
2から14日間で4.0×10
6個/cm
2にまで変化した。第3の細胞タイプを加えるのではなく、LCLの個体数を増大させることでも同じように好ましい結果が達成できることも我々は示した。細胞集団が適切な数のフィーダ細胞および/あるいは抗原提示細胞を含んでいるときには目的の細胞の非常に少ない個体数を使って成長を開始できることを示すために、LCLあるいはK562に対して使用した大きな表面密度は任意に選択した。高価で準備するのが面倒なフィーダ細胞の供給が不十分なときには、その表面密度を0.5×10
6個/cm
2以下にまで下げることを勧める。一般に、また我々がすでに示したように、抗原提示細胞および/あるいはフィーダ細胞が細胞集団の中にあるときには、目的の細胞の個体数の増殖を開始するのに十分な表面密度を細胞集団の中に形成するには、抗原提示細胞やフィーダ細胞と目的の細胞との合計の表面密度は少なくとも約0.125×10
6個/cm
2であることが好ましい。また、標準的な表面密度の限界を超えて増殖を続けるために、この例においては、4 ml/cm
2の培地体積と表面積との比率とともに、ガス透過性材料から構成された生育面を使用した。
【0064】
例8:目的の細胞の表面密度を下げ、レスポンダ細胞とスティミュレータ細胞との比率を変更し、培地と生育面積との比率を大きくし、低い表面密度の培養で、ガス透過性材料から構成された生育面の上に定期的に細胞を分布させることによって、他の方法と比較したときに、より短い時間でより多くの目的の細胞を作製することができ、作製プロセスを簡略化できる。
【0065】
目的の細胞の作製を簡略化し、短縮する我々の能力をさらに評価するために、EBV-CTLの開始および増殖のために我々はG-Rexテストフィクスチャを使用した。この例のために、底部が100 cm
2の生育面積からなることと500 mlの培地体積を利用できることを除いて、G-Rex500は
図6に記載されている器具を参照する。
【0066】
EBV-CTL作製の初期段階に対して、我々は1×106/cm2の表面密度(全体=G-Rex40の10 cm2の生育面積全体に分布した107のPBMC)でPBMCをG-Rex40の中に播種し、40:1のPBMC:EBV-LCL比率を用いてEBV-LCLでそれらを刺激した。CTLの作製に対しては、レスポンダT細胞の抗原特異性を維持するためには、最初の刺激においてこの40:1の比率が好ましい。培養の最初の段階から9日目に第2段階を開始した。そこでは、G-Rex40からG-Rex500テストフィクスチャへ1×107個のレスポンダT細胞を移した。培養の第2段階を開始するため、200 mlのCTL培地をG-Rex500の中に入れ、第2段階の開始時における表面積に対する培地体積の比を2 ml/cm2とし、培地高さを生育面から上方2.0 cmとなるようにした。第2段階の開始時での目的細胞の表面密度はCTL 1×105個/cm2とし、LCL 5×105個/cm2の表面密度の抗原提示細胞を用いることによって目的の細胞と抗原提示細胞との比率として従来にない1:5の比率を形成した。この第2段階の表面密度とR:S比率では、スクリーニングしたすべてのドナーについて一貫してEBV-CTL増殖が起きた。4日後(13日目)、IL-2(50U/ml最終濃度)を新鮮な200 mlの培地として培養物へ直接加えて、培地体積と表面積との比率を4 ml/cm2にした。16日目に、細胞を採取して、計数した。得られたCTLの表面積の中央値は6.5×106/cm2(2.4×106から3.5×107の範囲)であった。
【0067】
従来の実験計画に比べると、ガス透過性材料でできた生育面を用いることによって、表面積に対する培地体積の比を大きく(すなわち1 ml/cm
2以上に)し、細胞表面密度を小さく(すなわち0.5×10
6/cm
2以下に)し、スティミュレータ細胞に対するレスポンダ細胞の比を(4:1以下に)変えることができ、作製時間が短縮される。
図10Aは、例8のこのG-Rexアプローチを、例1の従来方法の使用、および例5に記載されているG-Rexアプローチと比較した結果を示している。図に示されているように、いずれかのG-Rexによる方法を使えば約10日で作れるような個数の目的細胞を生成するのに、従来の方法は23日を要した。23日後、例8のG-Rexアプローチは例5のG-Rex法よりも23.7倍多く目的の細胞を作製することができ、例1の従来方法よりも68.4倍多い目的の細胞を作製できた。さらに、細胞表面密度が7×10
6/cm
2よりも大きくなったら培養物を分割するという条件のもとで、抗原提示細胞刺激を追加する必要なく目的の細胞は27日目から30日目まで分裂を続けた。
【0068】
CTLは光学顕微鏡を用いてはG-Rex中で明瞭に観察できなかったが、CTLのクラスタは目視あるいは倒立顕微鏡によって観察でき、9日目、16日目、23日目の細胞の外観が
図10Bに示されている。
図10Cに示されているように、G-Rex中での培養によって増殖した細胞の表現型は変化しなかった。細胞集団の90%以上はCD3+細胞であり(G-Rexと24ウェルで96.7±1.7と92.8±5.6)、これらは主としてCD8+(62.2%±38.3と75%±21.7)だった。活性マーカCD25およびCD27と、メモリマーカCD45RO、CD45RA、およびCD62Lの評価によって、各培養条件のもとで増殖されたEBV-CTLの間には実質的に差はないことが示された。ELIスポットおよび五量体で測定したところ、抗原特異性も培養条件によって影響を受けなかった。
図10Dは、LMP1、LMP2、BZLF1、およびEBNA1からのEBVペプチドエピトープで刺激されHLA-A2-LMP2ペプチド五量体染色で染色されたT細胞が、ペプチド特異性T細胞の同じような頻度を示している代表的な培養を示している。さらに、増殖した細胞はその細胞溶解活性や特異性を維持し、また
図10Eに示されているように、
51Cr遊離試験で評価したところ、自己由来のEBV-LCLを殺傷し(E:T比20:1でG-Rexと24ウェルプレートが62%±12と57%±8)、HLAミスマッチEBV-LCLの殺傷は低かった(20:1で15%±5と12%±7)。
【0069】
細胞療法のための改良された種々の新しい細胞作製法の議論:
作製サイクルの開始時における目的の細胞の個体数の表面密度を下げること、レスポンダ細胞とスティミュレータ細胞との間の表面密度比率を下げること、生育面をガス透過性材料から構成すること、かつ/あるいは培地体積と生育面積との比率を大きくするという条件を含めた種々の条件を用いると、研究用および細胞療法の医療用途のための細胞作製がいかに促進され、簡略化されるかを当業者に示すために例1~8を示した。例1~8は抗原特異性T細胞の作製に関するものであったが、これらの新規な培養条件は、調節性T細胞(Treg)やナチュラルキラー細胞(NK)、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、初代Tリンパ球、広範囲の抗原特異性細胞、およびその他の多く(それらのすべてが、それらの機能やin-vivo持続性あるいは安全性を改善するために遺伝子的組み換えすることができる)を含む治療に関連した(あるいは治療前のマウスモデルによる概念実証に必要な)多くの重要な懸濁細胞タイプに適用することができる。細胞はフィーダ細胞や抗原提示細胞があると増殖できるが、それらにはPBMC、PHAblast、OKT3 T、B blast、LCL、K562(自然の、あるいは発現するように遺伝子組み換えされたもの、および抗原やエピトープ、そして41BBL、OX40L、CD80、CD86、HLAなどの副刺激分子、その他多数)が含まれ、これらはペプチドやこれと関係のある抗原でパルスされていてもされていなくてもよい。
【0070】
従来になく低い初期表面密度:この発明の一つの側面は、低い細胞表面密度を使用することによって、従来の方法に対して作製時間を短縮できるという発見である。このようにして、従来の方法が可能とするよりも、目的の細胞は最小面密度と最大面密度との間の数値的な違いをより大きくすることができる。目的の細胞の個体数の成長速度が低下し始めるが目的の細胞の量は作製を終了するにはまだ不十分であるときは、ガス透過性材料から構成された別の生育面の上に、低い表面密度で目的の細胞を再分布させることが好ましい。
【0071】
任意の与えられた培養段階の開始時における、より低い表面密度に頼る我々の新規な細胞作製方法がどのように適用できるかを説明するために、ここで例を説明する。
図11は、従来のシナリオのもとでの生育面上における目的の細胞の個体数の増殖を、この発明の一つの側面を用いた目的の細胞タイプの個体数増殖と比較してグラフで示している。この新規な方法においては、作製段階の開始時における目的の細胞の表面密度は従来の表面密度よりも小さい。この新規な方法の利点に焦点を当てるため、この説明では最初に目的の細胞の個体群を得るプロセスを述べていない。当業者がこの新規な方法の時間についての相対的な利点を容易に理解できるように、培養の「日」は「0」で始めている。この例においては、従来の方法の各作製サイクルは目的の細胞を従来の0.5×10
6個/cm
2で開始する一方で、この例の各作製サイクルは目的の細胞の表面密度をそれよりもずっと低い、従来にない0.125×10
6個/cm
2で開始する。したがって、この例においては、培養を開始するのに、従来の方法で必要だったものよりも4倍の面積(すなわち500000/125000)が必要である。この例においては、従来の方法の目的の細胞は14日間で細胞の最大表面密度が2×10
6個/cm
2に達した。したがって、1 cm
2の生育面積は細胞2×10
6個/cm
2を生成し、そのあと、従来の細胞0.5×10
6個/cm
2(すなわち4 cm
2×0.5×10
6個=2×10
6個)の開始密度を用いて作製を続けることができるように、これを4cm
2の生育面積に再分布させる。このサイクルをさらに14日間繰り返すと、その時点で最大細胞表面密度に再び達し、4 cm
2の生育面積の各々が2×10
6個の細胞を、全部で8.0×10
6個の細胞を生成する。そのあと、これを16 cm
2の生育面積の上に分布させ、この成長サイクルを繰り返して、42日間で、全部で32×10
6個の細胞を生成する。
【0072】
図11に描かれている新規な方法は、作製の開始時に1 cm
2の上に500000個の目的の細胞を置く従来の方法を用いず、4 cm
2の生育面積の上に500000個の細胞を均等に分布させて、0日目に目的の細胞125000個/cm
2という従来になく小さい初期表面密度を形成する。この例では、この新規な方法は従来の方法と同じように7日目で成長速度が減少し始めている。新規な方法の細胞は1×10
6個/cm
2の表面密度である。したがって、成長速度が減少し始める時点では、培養のこの段階は4×10
6細胞を作製している。そのあと、これを32 cm
2の生育面積の上に再分布させて、第2段階における作製を細胞0.125×10
6個/cm
2(すなわち32 cm
2×0.125×10
6個=4×10
6個)の開始表面密度を用いて続けることができる。作製のサイクルあるいは段階をさらに7日間、14日目まで繰り返す。その時点で細胞表面密度は再び最大値に達し、32 cm
2の生育面の各単位面積に1.0×10
6個の目的の細胞ができ、たった14日間で合計32×10
6個の細胞を生産される。各作製サイクルの最後に、従来の方法におけると同様に、この新規な方法で最終表面密度を開始表面密度で割った倍率をいかに生じるかに注目のこと。しかし、開始表面密度を下げ、細胞が成長に入るまえに作製の各段階を完了することによって、作製時間は劇的に短縮される。この例は、目的の細胞の表面密度を従来の細胞表面密度に対して下げる(この場合には細胞0.125×10
6個/cm
2)ことによって、たった33%の時間で(14日と42日)、いかにして従来の方法と同じ量の目的細胞が生成されるかを示している。
【0073】
我々は細胞0.125×106個/cm2の開始表面密度を用いて利点を定量化したけれども、従来の表面密度よりも低い任意の低減率で作製時間は短縮されることを、この発明のこの例は示していることに当業者は気づくべきである。さらに、ここに与えられているこの、また他の新規な方法においては、記載されている細胞の成長速度や細胞成長の減速が起きる時点は単に説明のためのものであり、培地組成や細胞タイプなどのさまざまな条件に基づく各用途で実際の速度は変わるであろうことは、当業者にはわかるであろう。また、与えられた用途に対して、この説明用の例で使用されている特定の従来の表面密度は用途によって変わるかもしれないが、この発明のこの側面の利点は、任意の用途において従来の細胞表面密度以下に細胞表面密度を下げる結果として実現される作製時間の短縮であることは、当業者にはわかるであろう。
【0074】
したがって、細胞集団内に存在する目的の細胞の与えられた量に対して、細胞表面密度を小さくすることによって作製時間を短縮したいという要望が存在するときのこの発明の方法の一つの側面をここで説明する。以下のように、目的の細胞は従来になく低い細胞表面密度で生育面の上に置かなければならない。
a.目的の細胞は抗原提示細胞および/あるいはフィーダ細胞の存在のもとにあり、培 地体積と表面積との比率は、生育面がガス透過性材料から構成されていないなら1 ml/c m
2までであり、生育面がガス透過性材料から構成されているなら2 ml/cm
2までであ り、
b.作製サイクルの開始時における好ましい表面密度条件は、ターゲットの細胞表面密 度が好ましくは0.5×10
6個/cm
2以下になるような、またさらに好ましくは
図4に記 載されているように低減するようなものであり、
c.目的の細胞の表面密度に、抗原提示細胞および/あるいはフィーダ細胞の表面密度 を加えたものが、好ましくは少なくとも約1.25×10
5個/cm
2である。
【0075】
上の例に基づいたとき、もし抗原提示細胞および/あるいはフィーダ細胞の表面密度を細胞1.25×105個/cm2以下にさらに低減しようと試みる場合、目的の細胞の個体数の増殖が制限されることにはならないことを証明するのが賢明である。抗原提示細胞および/あるいはフィーダ細胞が適切な供給によって増強されたとき、従来になく低い密度で目的の細胞の個体数の増殖を達成できることを示すという目標に基づいて、我々は細胞1.25×105個/cm2を選択した。
【0076】
ガス透過性材料から構成された生育面と、培地体積と生育面積との大きな比率の使用が作製を簡略化し、短縮できる。この発明の別の側面は、ガス透過性材料から構成された生育面と、従来の比率を超えるような培地体積と生育面積との比率と、生育面の量を増大する作製サイクルを繰り返し時間を掛けて用いることで作製時間が短縮されるという発見である。
【0077】
これらの条件が作製時間をどのように短縮するかを示すため、ここで説明のための例を挙げる。
図12は、ガス透過性材料から構成された生育面と、1あるいは2 ml/cm
2を超えるような従来になく大きい培地の体積と生育面の面積との比率を利用することによって得られる利点の例を示す議論を補強するものである。以下の議論は、そうした方法を用いることによって、作製時間を短縮することや、使用する生育面積の量を減らすこと、および/あるいは労力および汚染の危険性を低減することを含めていくつかの選択肢が利用可能であることを当業者に示すためのものである。
図12やこれに関連する議論は例にすぎず、この発明の範囲を制限するものではないことは当業者であれば理解できるであろう。
【0078】
この説明のための例における目的の細胞の個体群を含む細胞集団は、時間の長さ「X」当たり約1 mlを消費すると仮定されている。
図12は、「従来の方法」および「新規の方法」とラベル付けされた二つの作製プロセスを示している。成長の開始時において、各プロセスは0.5×10
6/cm
2の表面密度の目的の細胞で開始される。しかし、新規方法における生育面はガス透過性材料から構成されており、培地体積と表面積との比率は、従来の方法が1 ml/cm
2であるのに対して、2 ml/cm
2である。時間「X」において、従来方法の目的の細胞の個体数は表面密度が2×10
6/cm
2の横ばいに達し、栄養分がなくなる。一方で、新規の方法の追加培地体積によって成長を続けることが可能になり、目的の細胞の表面密度は3×10
6/cm
2である。もし新規の方法を続けると、表面密度は4×10
6/cm
2に達する。したがって、多くの有益な選択肢が生まれる。新規の方法では、「X」の時点よりも前に終了して従来の方法よりも多くの細胞を作製することもできるし、「X」の時点で終了して従来の方法よりも約1.5倍多い細胞を作製することもできるし、培地の栄養分がなくなるまで続けて供給を行うために器具を操作することなく従来の方法の2倍の時間で2倍多くの細胞を作製することもできる。従来の方法でできるだけ多くの細胞を集めるには、細胞を採取してプロセスを再び開始しなければならず、労力と汚染の危険性が加わる。細胞療法の用途では一般的に一定数の細胞で開始することしかできないため、従来の方法では作製の開始時において表面積を単に大きくするという選択肢は不可能である。
【0079】
図13は
図12の例の続きであり、複数の作製サイクルがいかにしてさらに有益となるかを示している。
図13は、従来方法のもとでの生育面上の目的の細胞の個体数の増殖を、この発明の一つの新規方法のもとでの目的の細胞タイプの個体数の増殖と比較してグラフで示している。ここでは、新規方法の表面密度は従来方法の表面密度を超えている。この実施例に焦点を当てるため、この説明では目的の細胞の個体数を得るプロセスについては述べない。培養の「日」は、当業者がこの発明のこの側面の相対的な時間の利点をより容易に判断できるようにするために、「0」から始まっている。この例においては、両方の培養とも、従来の0.5×10
5個/cm
2の目的の細胞の表面密度を用いて「0日目」に開始されている。この説明のための例においては、従来方法の生育面もガス透過性材料から構成されている。しかし、従来方法における培地体積と生育面との比率は、新規方法における4 ml/cm
2に対して1 ml/cm
2である。
図13に示されているように、従来方法における目的の細胞の個体数は、約4日間でそれが細胞表面密度約1.5×10
6個/cm
2になると成長速度が減速し始め、14日間で細胞表面密度が最大の2×10
6個/cm
2に達する。その時点で、目的の細胞の個体群は、1.0 ml/cm
2の新鮮な培地の中で0.5×10
6/cm
2の表面密度で4 cm
2の生育面積へ分布される。そして、作製サイクルが再び始まり、つぎの14日間で細胞表面密度が2×10
6個/cm
2に達し、28日間で8×10
6個の目的の細胞を生成する。これに比べて、新規方法における目的の細胞の個体数は、およそ10から11日間でそれが細胞約3×10
6個/cm
2の表面密度になると成長速度が減速し始め、28日間で細胞表面密度が最大の4×10
6個/cm
2に達することが可能である。しかし、作製を加速するために、目的の細胞の個体数がまだ高い成長速度にあるときにサイクルを終了する。したがって、約10から11日で、3×10
6の細胞を、4.0 ml/cm
2の新鮮な培地の中で表面密度0.5×10
6/cm
2で6 cm
2の生育面積に再び分布させる。そして、作製サイクルが再び始まり、目的の細胞の個体数はさらにおよそ10から11日間で細胞表面密度が3×10
6個/cm
2に達し、およそ21日間で目的の細胞が18×10
6個生成する。したがって、新規方法は従来方法に比べて約75%の時間で2倍以上の数の目的の細胞を作製した。
【0080】
我々はガス透過性材料から構成された生育面の上で細胞10×106個/cm2を超える細胞表面密度を得ることができた。そして、我々の発明における大きな表面密度を用いるという側面は、この例で述べた密度に限定されるわけではない。
【0081】
そこで、細胞集団中に存在する与えられた量の目的の細胞に対して、小さな細胞表面密度を用いることによって作製時間をできるだけ短縮したいという要望があるときの、この発明の方法の別の例をここで説明する。
a.抗原提示細胞および/あるいはフィーダ細胞の存在のもとで、また培地体積と表面積との比率を少なくとも2 ml/cm2として、ガス透過性材料から構成された生育面積の上に目的の細胞を播種し、
b.作製サイクルの開始時において、好ましい表面密度条件を確立して、ターゲットの表面密度を細胞約0.5×106個/cm2の従来の密度範囲内にし、
c.目的の細胞の個体数を従来の細胞約2×106個/cm2の表面密度を超えて増殖できるようにし、
d.もしもっと多くの目的の細胞が必要な場合は、目的の細胞をガス透過性材料から構成された別の生育面へ再分布して、十分な目的の細胞が得られるまで段階a~dを繰り返す。
【0082】
この新規の方法を用いるとき、従来になく低い表面積を用いて培養を開始すること、目的の細胞およびフィーダ細胞の新規な表面密度を用いること、ガス透過性材料から構成された生育面積を利用すること、培地体積と生育面積との比率に従来になく高い比率を利用すること、作製をサイクルで実施することの特性を組み合わせることで、さらなる利点が達成できる。目的の成果を達成するために、任意の作製サイクル、短縮された時間、表面積の利用、供給頻度などの間のバランスを見つけることなど、条件を変えることができる。
【0083】
図14は、従来方法に対してさらなる利点が得られる別の新規な方法を示している。本明細書に記載している他の説明用の実施例と同様に、ここでの説明はこの発明の範囲を限定するものではなく、改良された作製効率の利点をいかに実現するかを説明するためのものであることは当業者であればわかるであろう。
【0084】
この例においては、目的の細胞は従来の条件では1週間で2倍になる。培養の「日」は「0」日からスタートし、当業者がこの実施例の相対的な時間の利点をより容易に判断できるようにしている。また、この例を簡単にするため、フィーダ細胞表面密度および/あるいは抗原提示細胞表面密度の比率に関してこれまでに述べた課題は繰り返さない。説明のために、開始個体数が500000で、従来の条件では7日間の日数で二倍になる目的の細胞が、作製「0日目」に存在すると仮定する。従来方法は、細胞0.5×106個/cm2の表面密度と、1 ml/cm2の培地体積と表面積との比率で開始される。図示されているように、目的の細胞の個体数が2×106個/cm2の表面密度に達したとき、細胞を細胞0.5×106個/cm2の表面密度で別の表面積の上に分布させ、作製サイクルを新たに始める。この例の新規方法は、細胞0.06×106個/cm2の表面密度と、ガス透過性材料から構成された生育面積と、6 ml/cm2の培地体積と表面積との比率で開始される。図示されているように、個体数の成長が横ばい領域の始めに近づいたときに、細胞はより広い生育面積に再分布される。この場合には、細胞表面密度が培地体積と表面積との比率の1.5倍(すなわち約1.5×106個/ml)に近づいたとき従来方法では横ばい領域が始まったと知ることで、個体数は横ばいに到達していると判断する。したがって、おおよそ9日間における約4.5×106個/cm2の表面密度において、細胞は36cm2の生育面積の上に分布され、作製サイクルを新たに始める。
【0085】
図15は
図14に描かれている各作製方法の比較を表にしたものであり、新規方法の威力を示すために、またなぜ種々の段階で作製実験計画を調整して効率を十分に得ることが賢明かを示すために、複数の段階に及んでいる。作製サイクルの第2段階を終えた直後に新規方法は従来方法を凌駕し、表面密度の要求がたった61%で、約半分の時間のうちに、1.37倍多い細胞を生成することに注目すること。しかし、作製の第3段階がいかに細胞を大量に増加させており、対応して表面積を増大させているかに注目すること。したがって、任意の与えられたプロセスに対して最適な効率レベルを達成するためには、プロセスの各サイクルを通して初期細胞表面密度および/あるいは最終細胞表面密度をどのように調節するかを予測するために、作製サイクルをモデル化する必要がある。
【0086】
例として、
図16は作製が進行するにつれて、効率を得るために新規方法においてどのように変数を変更するかの例を示している。たとえば、サイクル3の初期表面密度は0.06から細胞0.70個/cm
2まで大きくでき、最終表面密度は細胞4.5から7.5個/cm
2まで変化が可能である。最終表面密度を大きくすることは、初期の6 ml/cm
2を超えてもっと大きな値まで培地体積と表面積との比率を大きくするということである。培地体積と表面積との比率が大きければ大きいほど、サイクルが急増殖段階に(すなわち横ばいになるまえの個体数増殖)に留まる時間が長い。この場合では、我々は急増殖段階を完了させるために余分に5日間を使い、培地体積と表面積との比率を約8 ml/cm
2まで上げた。そうすることによって、この例においては、妥当な表面積で3兆個以上の細胞を34日間で作製することが可能である。例えば、我々はガス透過性材料から構成された約625 cm
2の生育面を有する器具を作製し、テストした。これは従来の方法よりも明らかに優れた細胞作製法へのアプローチである。
【0087】
したがって、細胞集団内に存在する与えられた量の目的の細胞に対して、細胞表面積を下げることによって作製時間をできるだけ短縮したいという要望が存在するときの、この発明の別の好ましい実施例をここで説明する。
a.抗原提示細胞および/あるいはフィーダ細胞が存在する状態で、また培地体積と表面積との比率を少なくとも2 ml/cm2として、ガス透過性材料から構成された生育面積の上に目的の細胞を播種し、
b.作製サイクルの開始時において好ましい表面密度条件を確立して、目的の細胞の表面密度を従来の密度よりも小さく、好ましくは約0.5×106個/cm2と約3900個/cm2の間にし、目的の細胞と抗原提示細胞および/あるいはフィーダ細胞の全数を少なくとも約1.25×105個/cm2にし、
c.目的の細胞の個体数を従来の約2×106個/cm2の表面密度を超えて増殖できるようにし、
d.もしもっと多くの目的の細胞が必要な場合は、目的の細胞をガス透過性材料から構成された別の生育面へ再分布して、十分な目的の細胞が得られるまで段階a~dを繰り返す。
【0088】
この発明は、特に養子細胞療法の分野にとって、はるかに優れた細胞作製を可能にする細胞培養の器具および方法を提供している。現状の器具および方法に対して、与えられた数の細胞を提供するのに必要な時間を短縮すること、初期細胞量からの目的の細胞の個体数の増殖倍率が大きいこと、培地交換の頻度を減らす、あるいはなくすことができること、サイトカインの添加方法が簡略化されること、細胞の量を決定するために細胞を計数する必要性を軽減できる、あるいはなくすことができること、まえの培養から細胞を分離する必要のある培地の量を大きく低減できること、抗原特異性を有する細胞の個体群をより効率的に形成できること、比例的に拡張できることなど、さまざまな利点が可能である。
【0089】
例9:培養プロセスを始めるときに新規な培養条件を設定することによって、静置ガス透過性培養器具内で細胞を作製するより効率的な方法。
【0090】
ガス透過性シリコーン材料からなる生育面で構成された、また生育面の上に10 cmの培地が存在できるような壁の高さを有するテスト器具の中でK562細胞を培養して、静置細胞培養実験を実施した。ウィルソン'717号の中により詳しく記述されているように、生育面は生育面サポートを用いてほぼ水平状態に保持した。培地は生育面を超えて10 cmの培地高さでテスト器具の中に設置し、10 ml/cm2の培地体積と生育面積との比率を実現した。K562細胞もテスト器具の中に入れて、器具を、37℃、5% CO2、95% R.H.の細胞培養インキュベータの中に設置し、細胞が生育面まで沈降できるようにした。培地は潅流されたり、強制的に撹拌されたりせず、ガスは強制的に生育面のところを流れるようにされるのではなく、周囲雰囲気のランダムな動きによって生育面と接触させられる。
【0091】
図17A、
図17B、
図17C、
図17D、
図17Eは、説明のために、実験条件と典型的な結果を表す表計算シートを示している。初期の静置培養条件では、細胞表面密度を1.0E+06から6.25E+04個/cm
2の間、細胞密度を1.0E+05から6.25E+03個/mlまでの範囲に設定し、培地はすべての条件において生育面から上方10 cmまでの一定の高さとし、すべての培地はグルコース濃度を240 mg/dlとし同じ配合としている。静置培養の初期状態は0日目であり、細胞のカウント数とグルコース濃度を4日目、8日目、11日目に調べた。
【0092】
図18は
図17Aから
図17Eに詳しく示されている実験条件の各々の表面密度に対して、個体数の増大の増殖倍率を比較している。11日目の細胞表面密度を0日目の細胞表面密度で割ることによって各条件の増殖倍率を求めた。表面密度が下限の5.0E+05個/cm
2であり培地高さが上限の2.0 cmである一連の評価において、我々はガス透過性バッグ中におけるK562の最良の増殖倍率は約4.8倍であると結論付けた。したがって、点線6はガス透過性バッグを用いた従来のK562作製方法における典型的な増殖倍率を示している。我々の実験で確立された各表面密度条件では、従来技術の個体数増殖を超える個体数増殖が得られた。注目すべきは、細胞個体数の増殖倍率を増大させる能力は、初期の静置培養表面密度が0.125E+06まで低下するにつれて増大すること、そしてさらなる低下は、従来の方法よりはずっと優れているものの、利点は少ないことである。
【0093】
グルコースが任意の時間における細胞の数の代替的測定値にあり得るか、また特に供給を行わずにさらに培養を延長して実施できる能力をさらに調べる他の観察を行った。
【0094】
例10:細胞を計数する必要性なく、静置ガス透過性培養器具内に存在する個体群中の細胞の量を求めるための新規方法。
【0095】
培養培地が静的状態にあり、(器具のルーチンの操作以外は)サンプリングのまえには潅流や振動、撹拌などによる機械的な強制的混合はされていないにも関わらず、グルコースの減少速度は一貫して培養物中の細胞の数の指標となっていることを我々は観測した。この発見が、養子細胞療法の分野におけるさらなる簡略化への扉を開いた。例えば、培養がどの程度うまく進行しているかを判断するために細胞を計数するという行為は、養子細胞療法のための細胞作製を非実用的なものにしている多くの要因の一つである。ここでの発明内容と組み合わせて、細胞計数の代わりに代替的測定値を用いることで、細胞作製はさらにずっと簡略化される。
【0096】
我々は、培養の個体数を表す代替的測定値として、培養のグルコース濃度を使用することが可能であることを発見した。与えられたタイプのガス透過性材料から構成された生育面の上に細胞が存在する培養にとって、培養が最大表面に達するのに必要な最小の全培地体積と、培養が最大表面密度に達するのに必要なグルコース濃度の全減少がわかれば、培養の個体数における細胞数の代替的予測を行う準備は整っている。その情報を得たうえで、培養(あるいは培養のひとつの段階)を開始する者は、培地のグルコースのベースライン濃度や、培地のベースライン体積を決定し、個体数を評価する時間でのグルコース濃度を測定するまえに培養へ追加される培地体積を常に監視する。推定される個体群中の細胞数は、最大細胞密度に達するのに必要なグルコース濃度における比例配分された全低下に、最大表面密度に達するのに必要な比例配分された最小培地体積を掛け、さらに生育面上で可能な最大表面密度を掛けたもの、という関数になる。
【0097】
我々はこの方法を、実験器具の生育面が約0.006から0.0012インチの厚みのジメチルシリコーンから構成されている、この発明のさまざまな開示を通して述べられている培養へ適用した。細胞が最大の表面密度に達するのに必要な最小の培地体積と、対応するグルコース濃度の全低下を決定する一連の実験を行った。K562やLCL、T細胞を含むさまざまな細胞タイプを用いたさまざまな培養に対して、グルコース濃度の全低下は約250 mg/mlであった。我々は以下に示すように培養物中の細胞の数を予測するための関係式を作り出すことができた。
A=培地のグルコースのベースライン濃度
B=個体数を推定する時間におけるグルコース濃度の測定値
C=最大表面密度に達するのに必要なグルコース濃度の全低下
D=培地のベースライン体積
E=ベースラインのあとに加えられた培地の体積
F=最大表面密度に達するのに必要な最小全培地体積
G=最大表面密度
E=生育面の面積
としたとき、[(A-B)/C]×[(D+E)/F]×G×E=器具内の培養個体群における推定細胞数。培地を追加しても表面密度が最大容積以上に増大することはないことから、比例配分された最小培地体積は100%を超えることはないことに注目のこと。例えば、もし最大表面密度に達するのに培養は10 mlが必要であるとし、培地のベースライン体積と追加された培地の体積の合計が10 mlを超えるなら、比例配分された最小培地体積としては100%を使用しなければならない。
【0098】
この予測式では、技術者が選択したガス透過性材料から構成された生育面上に細胞が存在するという条件での、細胞培養用途の最大細胞密度(および/あるいは最大表面密度)がわかっている必要がある。実験を行ってその決定を行うことができる。例えば、我々の実験フィクスチャにおけるガス透過性材料(前述したようにジメチルシリコーン)から構成された生育面上におけるK562細胞の最大細胞表面密度を決定するために、我々は表面密度がそれ以上増加できなくなるまで培地の高さを増やした。K562の達成可能な最大表面密度を細胞約12.0E+06個/cm2に維持するのに必要な最小培地体積は10 mlであることが、また対応するグルコース濃度の全低下は250 mg/mlであることがわかった。
【0099】
この情報を使ってK562培養物中における細胞の数をどのように調べるかの説明のための例を以下に示す。一つ目の例として、培養を始めたあとに培地は追加せず、以下の条件が存在するものと仮定する。
培地のベースライン体積=10 ml
グルコース濃度のベースライン=475 mg/dl
培地の追加=0 ml
グルコースサンプル=300 mg/dl
生育面の面積=100 cm2
この場合、計算は以下のようになるであろう。
[((475 mg/dl-300 mg/dl)/250 mg/dl)×(10 ml+0 ml)/10 ml]×12E+06個/cm2×100 cm2= 840×106個。
【0100】
別の例として、培養を始めたあとに培地を追加し、以下の条件が存在するものと仮定する。
培地のベースライン体積=6 ml
グルコース濃度のベースライン=475 mg/dl
培地の追加=2 ml
グルコースサンプル:300 mg/dl
生育面の面積=100 cm2
この場合、計算は以下のようになるであろう。
[((475 mg/dl-300 mg/dl)/250 mg/dl)×(6 ml+2 ml)/10 ml]×12E+06個/cm2×100 cm2= 672×106個。
【0101】
さらに別の例として、培養を始めたあとに培地を追加し、以下の条件が存在するものと仮定する。
培地のベースライン体積=6 ml
グルコース濃度のベースライン=475 mg/dl
培地の追加=7 ml
グルコースサンプル:300 mg/dl
生育面の面積=100 cm2
この場合、培養に追加された全培地体積は最大表面密度に達するのに必要な最小全培地体積を超えるため、比例配分された最小培地体積は100%に達し、したがって比例配分された値は1に等しく、計算は以下のようになるであろう。
[(475 mg/dl-300 mg/dl)/250 mg/dl×(1)]×12E+06個/cm2×100 cm2=840×106個。
【0102】
特定のタイプのガス透過性材料から構成された生育面の上に存在するとき特定の細胞タイプが達成可能な培地中の最大細胞密度(細胞数/cm2)を予め決定することによって、培養中の細胞の数を推定するために別の関係式を使用できることに当業者は気づくべきである。その場合には、その関係式は、(最大細胞密度に達するのに必要なグルコース濃度の比例配分された全低下)×(培養を始めるときの培地の体積と培養に追加される培地の体積の合計)×(最大細胞密度)、という関数である。培地の累積体積が、最大表面密度に達するのに必要な最小培地体積のそれを超える場合には累積体積の代わりに最小培地体積を使用することを勧める(余分な培地体積は表面密度をその最大値を超えて増加させることはないから)。
【0103】
この式の予測能力を理解する助けにするため、
図17Aから
図17Eに示されている条件の各表計算シート(生育面積で規格化してある)の第10行に、培養中の細胞数の予測を含めた。第10行と、第12行の計数された細胞との比較は、任意の与えられた時間における培養中の細胞の数を、細胞カウント数の代わりにグルコースを用いて妥当な程度の確かさでいかに決定できるかを示している。実際は、計数のまえに細胞が培地中へ均一に混合されていることを確認できないため、細胞のカウント数は不正確かもしれない。したがって、グルコースの測定値に頼るのがより有益である。ひとつの好ましい実施例として、細胞の計数は少なくとも4日間は、より好ましくは5日間は、より好ましくは6日間は、より好ましくは7日間は、より好ましくは8日間は、そしてさらに好ましいのは培養が終了するまで行わない。
【0104】
グルコースの低下と、器具中の生きた細胞の数との関係を記述する公式が、培養の開始時におけるグルコース濃度が変化したときに正確であるかを判断するために、さらに実験を行った。テストフィクスチャは前述したものと同じだった。説明のために、
図19Aは、培養の開始時において240 mg/dlと475 mg/dlであるグルコース濃度を除いて、同じ開始条件のもとで、K562細胞の培養に対する実験条件と典型的な結果を表す表計算シートを示している。結果は、
図19B、
図19C、
図19D、
図19E、
図19Fにグラフで描かれている。細胞計数による個体数成長と、グルコース低下によって予測されるそれを表面密度で規格化した。
【0105】
図19Bは各条件のもとでの11日間にわたる個体数増殖を示している。個体数成長は若干異なるが、11日でおおよそ同じ数に到達している。
図19Cは各培養条件におけるグルコースの低下速度を示している。
図19Dは各培養条件におけるグルコース消費を示している。
図19Eは、240 mg/dlのグルコース濃度で開始された培養に対して、細胞数の公式を使って計算した予測値と、手作業で数えることによって求めた細胞数をいっしょに示したものである。
図19Fは、475 mg/dlのグルコース濃度で開始された培養に対して、細胞数の公式を使って計算した予測値と、手作業で数えることによって求めた細胞数をいっしょに示したものである。公式による予測能力が手作業による細胞計数方法に近いことに注目のこと。これはさらに、この発明のさまざまな実施例は、培地中の溶質濃度の代替的測定値の代わりに、細胞計数の頻度を減らす、あるいはそれをなくしてしまう方法と組み合わせて利用することが可能なことを示している。
【0106】
ウィルソン'717号あるいはウィルソン'176号に記載されているガス透過性器具を使いたいときには、これは細胞計数に比べて特に強力な利点である。当業者は、そうした器具において細胞を正確に分布させることの難しさや、培地への細胞分布がよくないために数え間違いの可能性のあることを認めるであろう。したがって、実際に細胞を数える代わりに培地サンプルのみに頼る代替的測定値は養子細胞療法の分野においては非常に利点がある。
【0107】
この知識を有すると、ウィルソン'717号あるいはウィルソン'176号に記載されているものを含めたガス透過性器具の作製者は、ガス透過性材料から構成された生育面を有するガス透過性細胞培養器具を提供することによって、また、この発明の開示に関する指示書を提供し、かつ/あるいは情報を普及させることによって、細胞を計数する必要性なく、ガス透過性器具内における生きた細胞の数を容易に決定できる簡略化された細胞作製プロセスが提供できる。
【0108】
例11:静置培養における供給頻度を制限するために、培養プロセスを始めるときに新規条件を確立することによる、静的ガス透過性培養器具内のより簡単な細胞作製方法。
【0109】
我々は、二日あるいは三日ごとに供給を必要とする従来の培養方法に対して、ここで開示されている新規方法を使用することによって、供給の頻度を低減できる能力を判断するための一連の実験を行った。
【0110】
ガス透過性材料から構成された表面積を有する生育面を有する器具の中で、培地高さに対する能力を変えながら実験を実施した。培地体積と供給頻度を比較した実験に関する以下の記述は我々の発見を説明している。K562細胞と培地を器具の中に入れ、それらを37℃、5% CO2、および95% R.H.で細胞培養インキュベータの中に置いた。そうすることによって、前述したように優れた個体数増殖倍率を得るのに有利であることを確かめた細胞0.125E+06個/cm2の表面密度で、細胞が生育面の上に沈降できるようにした。
【0111】
シリコーンでできた面積100 cm2の生育面から上方2.5 cm、5.0 cm、10.0 cm、15.0 cmの高さまで培地を入れた。生育面はウィルソン'717号により詳しく記載されている生育面支持体を用いてほぼ水平状態に保持した。したがって、実験条件には、培地体積と生育面の表面積との比率として2.5 ml/cm2、5.0 ml/cm2、10.0 ml/cm2、および15.0 ml/cm2が含まれる。したがって、初期細胞密度はそれぞれ、0.05E+06個/ml、0.025E+06個/ml、0.0125E+06個/ml、0.008E+06個/mlであった。
【0112】
10.0 ml/cm2あるいは15.0 ml/cm2の条件ではそれ以上培地を追加しなかった。2.5 ml/cm2条件の最初の培地体積は、11日目に2.5 ml/cm2の新鮮な培地を追加すると倍増し、14日目に別の2.5ml/cm2の新鮮な培地を追加すると3倍になり、17日目に別の2.5 ml/cm2の新鮮な培地を追加すると4倍になった。5.0 ml/cm2条件の最初の培地体積は、11日目に5.0 ml/cm2の新鮮な培地を追加すると倍増した。最終的に、2.5 ml/cm2と5.0 ml/cm2の条件は10.0 ml/cm2の培地を維持した。
【0113】
図20は、種々の培地供給条件での個体数の増殖を生育面積で規格化したもののグラフを示している。
【0114】
すべての条件が、最終的におおよそ同じ数の生細胞に到達していることに注目のこと。しかし、培養のときに培地の追加に頼らない条件では、他の条件よりもより速く生細胞が最大数に到達した。例えば、2.5 ml/cm2条件に対しては最大密度に到達するのに20日かかったが、一方で培養を始めたあとに新鮮な培地が追加されない条件に対しては生細胞が同じ最大数に到達するのにたった11日しかかからなかった。また、供給を受けない条件においては、個体数の成長速度がずっと優れていた。これも重要なことであるが、15.0cmの高さの培地で培養を開始する条件は、10.0cmの条件に対して細胞がより長い間にわたって高い生存性の持続期間を維持できる能力を示した。例えば、15.0cmにおいては最大細胞個体数に達したあと約4日間にわたって生存性は比較的高かったが、一方で10.0cm条件においては約1あるいは2日後に急速に減少した。ここで生じる実際的な利点は、細胞を回収する時間がより長くかかる作製プロセスである。養子細胞療法の分野における通常の技術者は、これの価値を認めるであろう。というのも、人々がなぜ大きな時間枠で細胞回収を行うことに価値を見出すかについては、品質制御の測定の結果を得るのが遅れることから、患者の状態が変わることに至るまで、多くの理由が存在するからである。
【0115】
実験の培養条件はすべて、養子細胞療法に対する従来の方法に比べて、優れた細胞個体数増殖速度を有していることを当業者は認めるであろう。しかし、それは従来の方法に比べて培養の開始時における表面密度を下げるという利点だけでなく、培地高さおよび/あるいは培地と生育面積との比率を大きくすることによって目的の数の細胞を作製するために必要な時間を短縮できることにも気づくべきである。当業者は、表面密度を小さくし、培地高さをより大きくし、かつ/あるいは培地体積と生育面積との比率を大きくすると、個体数の増殖速度の面においても改善が得られるであろうことを認めるべきであり、また培地の使用を用途の要求にバランスさせることを当業者には勧める。高い生存性で存在するあいだに細胞を採取する時間の枠をより大きくしたいなら、培養の開始時においてより多くの培地を提供することができる。注目すべきことは、2.0E+06あるいはそれ以上などの従来の、あるいはそれ以上の表面密度で開始しても、この発明の実施例は供給の頻度を減らすことができ、また細胞の個体数が急速に生存性を失う心配を減らすことができるために、このプロセスは優れている。一般に、広い範囲のオプションを示してきた。最小限の供給頻度と短縮された作製時間で細胞の個体群を作製するためには、作製にもっとも好ましい初期培養条件は、0.5E+06個/cm2以下の細胞密度、もっとも好ましいのは約0.125E+06個/cm2と、約5.0 cm以上の、あるいはさらに好ましいのは10.0 cmから15.0 cmの培地高さと、かつ/あるいは約5.0 ml/cm2以上の、あるいはさらに好ましいのは10.0 ml/cm2から15.0 ml/cm2の培地体積と生育面積との比率と、かつ/あるいは0.025E+06個/cm2以下の、あるいはより好ましくは約0.0125E+06個/cm2から約0.008E+06個/cm2の初期細胞表面密度である。
【0116】
例12:静置ガス透過性培養器具内に存在する共生培養の供給頻度を抑え、細胞の一部が死にかかっていても細胞を数える必要なく細胞の個体群の大きさを求めることのできる新規の方法。
【0117】
養子細胞療法は、通常、放射線照射されたために死にかかっている細胞(APCなどの)、あるいは人体から取り出される結果として死にかかっている細胞(PBMCなど)を用いた共生培養に頼っている。共生培養用途のよい例は、PBMCの個体群からのCMV-CTL(サイトメガロウィルス特異的細胞傷害性Tリンパ球)の培養にある。最初は、CMV-CTLの個体数はPBMCの全個体数に対する割合が非常に小さい。培養が進行するにつれてPBMCは死滅し始め、CMV-CTLが成長し始める。培養の終わりまでには、細胞集団中のCMV-CTLの割合は大きく増大する。小さい細胞密度など、従来の方法に反するものを含めたこの発明のこれまでに開示した特性を用いて、これらなどの用途に対して供給の頻度を減らすことができる。
【0118】
共生培養中に死にかかった細胞が存在するもとで、細胞の個体数を予測するためのグルコース測定の能力を調べる静置細胞培養実験を行った。実験器具は、100 cm
2の表面積を有するガス透過性シリコーンから構成された生育面を有していた。生育面はシリコーンから構成されており、ウィルソン'717号により詳しく記載されている生育面サポートを用いてほぼ水平状態に保持した。
図21は0日目、9日目、および16日目における条件を要約した表計算シートを示している。PBMC培地を実験器具の中に入れて、その器具を37℃、5% CO2、および95% R.H.で細胞培養インキュベータの中に設置した。そうすることによって、細胞を5.0E+05個/cm
2の表面密度で生育面の上まで沈降させた。培地は10.0 cmの高さに存在し、細胞密度は5.0E+04であった。0日目、9日目、16日目にグルコースの測定を行った。ルーチンの操作以外は、培養培地および細胞は、潅流や振動、あるいは撹拌を用いた場合のように、機械的な装置の助けを借りて強制的な混合によって混合することをしなかった。第3行は抗原特異性T細胞の割合が細胞集団の個体数の約27.9%にまで増大することを示しており、第4行は9日目以降、CMV-CTLの増殖倍率が全個体数の割合としてどのように低下するかを示している。これは、PBMCが死亡しかけているからである。
【0119】
第19行は、培地中の溶質の代替的測定値が、培養中の細胞の数を予測する能力を示している。予測された値は計数によって調べられた細胞とほとんど同じであることに注目のこと。したがって、細胞の個体数を定量するために代替的測定値を用いる能力は、細胞集団の成分が死亡しかけている細胞集団においても有用である。
【0120】
例13:培地交換の簡略化された方法を可能にする新規な静置ガス透過性細胞培養および細胞回収器具、および細胞作製プロセスを完了したあとに培地から細胞を分離するのに必要な苦労を大きく軽減する新規な方法。
【0121】
図22Aは、ここに開示している新規な細胞培養方法および/あるいは新規な細胞回収方法を実施できるように構成された細胞培養・細胞回収器具1000のこの発明の実施例のひとつの例の断面図を示している。細胞取り出し管1004の細胞取り出し開口部1002は生育面1006の近くに位置する。培地取り出し管1010の培地取り出し開口部1008は生育面1006の近くに位置する。生育面1006はガス透過性材料から構成されている。ウィルソン'717号を含めて、適切なガス透過性材料について当業者が学ぶための情報源は数多く存在する。生育面1006は液体浸透性はなく、非多孔質であることが好ましい。生育面1006から内部体積1004の上部限界1012までの距離によって、培地が存在できる空間の体積が決まる。培地は、上部限界1012を超える高さまで延びる培地取り出し管1010や細胞取り出し管1004の中に存在することもできるが、当業者はこの実施例を説明する目的にとっては、最大の培地高さは内部体積1014の底部から上部限界1012までが最大の距離と考えるべきである。この細胞培養および細胞回収器具は、細胞および/あるいは培地を混合するために撹拌機構やその他の任意の機構を必要としない。
【0122】
図22Bは、培養の任意の与えられた細胞作製段階の開始時における静置培養の初期状態にある細胞培養および細胞回収器具1000を示している。細胞培養および細胞回収器具1000は生育面1006が水平方向を向いた方向にあり、細胞1016は生育面1006の上に沈降している。この説明のための実施例においては、生育面サポート1018を用いて生育面1006を水平状態に保持しており、一方で、ガスを生育面1006のところへ流すためにポンプやその他の機構を用いる必要はなく、雰囲気ガスを生育面1006と接触させられるようになっている。生育面サポート1018をどのように構成するかの情報については、当業者はウィルソン'717号を参照することができる。培地1020は内部体積1014の境界内で任意のレベルに存在可能であるが、最上部の培地位置1022は図示されているように生育面1006と平行であることが好ましい。細胞培養および細胞回収器具1000は細胞培養に適した雰囲気中に、また細胞培養に適した温度で置かれる。雰囲気ガスは、生育面1006との間でガスを行き来させるためのポンプあるいはその他の機構を用いる必要はなく、ランダムな動きによって生育面1006のガス透過性材料と接触する。
【0123】
培地の高さは、培地の最下部の位置から培地の最上部の位置までの距離によって決まり、この場合には、生育面1006から培養の開始時における培地の最上部の位置までの距離が初期の静置培養の培地高さである。生育面1006へ沈降した細胞1016の数と培地1020の体積との比率が、初期の静置培養の細胞密度である。生育面1006の上の細胞1016の数と生育面1006の表面積との比率が、初期の静置培養の表面密度である。培地1020の体積と生育面1006の表面積との比率が、初期の静置培養の培地体積と生育面との比率である。細胞は静置培養の状態で存在し、培養はある時間にわたって続く。この明細書を通じて述べられているように、この時間の間には、初期の静置培養の培地高さや、初期の静置培養の細胞密度、初期の静置培養の表面密度、および/あるいは初期の静置培養の培地体積と生育面との比率を含めた変数に応じて、培地補充ステップは含まれたり、含まれなかったりする。
【0124】
図22Cは、細胞培養および細胞回収器具1000から、より少ない培地体積中で細胞を回収させる別のステップを示している。細胞1016は抜き取らずに、培地を培地取り出し管1010の培地取り出し開口部1008を介して取り出す。このステップのあとに残った培地が細胞回収培地1024として図示されている。残っている細胞回収培地が少ないほど、養子細胞療法に対する従来の方法では不可欠なものでありまた現状では遠心分離に大きく頼っている培地から細胞を分離するプロセスの手間がより低減される。しかし、培地体積を減らすときに細胞をあまり多く失わないように気を付けることが重要である。好ましくは、失われるのは細胞の10%以下であり、より好ましいのは実質的に失われる細胞がないことである。より詳しく指針を示すために、我々はこの発明のこの側面を使った例を示す。100 cm
2の生育面積を有するガス透過性シリコーンから生育面が構成されており、培地体積が2000 mlで、培地体積を減らした時点での高さが20 cmであって、それによって200 ml/cm
2の培地体積と生育面積との比率を形成しており、培地体積を減らした時点で生育面の上に約1兆個の細胞からなる培養細胞個体群が存在するような、
図22Aに示されているものと類似したガス透過性器具において、我々は、細胞の目に見えるような減少を避ける能力を示すと同時に、培地体積において100倍の低減を実現し、また、たった0.2 cm(生育面が水平状態にあるときに測定した)の細胞回収培地高さとたった0.2 ml/cm
2の細胞回収培地体積と生育面積との比率によって特徴付けられる細胞回収時点において一連の条件を設定した。つぎに、我々は培地を、いまの場合には器具中の培地を渦状にかき混ぜた。それによって細胞は即座に生育面から持ち上げられ、また細胞は細胞回収培地の中に分布させられる。つぎに、我々は細胞取り出し管の細胞取り出し開口部を介して細胞を取り出した。細胞取り出し開口部は器具のエッジに沿って配置されており、我々は器具を傾けて、培地が細胞取り出し開口部の位置に集まるようにした。細胞と細胞回収培地を集めてからすぐに、我々は細胞回収培地中の細胞濃度を調べた。驚くべくことに、それは約1 ml当たり約5千万個であった。したがって、養子細胞療法における静置細胞培養の従来の方法において使用されている遠心分離装置を用いることなく、1 ml当たり約50万個の初期細胞密度から100倍の係数で細胞を濃縮することができた。その結果、細胞回収のために行うさらなる培養プロセスはわずかだった。本質的に、我々は遠心分離を行う必要のある培地体積を2000 mlからたった20 mlに減らすことができ、全体のプロセスは約1分以内で行われた。
【0125】
培地取り出し管の培地取り出し開口部の位置は、生育面が水平状態にあるときには生育面から0.2 cm以上の距離にあることが好ましい。例えば、生育面が水平状態にあるときに生育面から0.2 cmと2.0 cmとの間にあれば、この発明の細胞培養方法の多くにおいて著しく体積を低減できるようになる。生育面が水平状態にあるときの培地取り出し開口部と生育面との間の距離の上限は、培地が細胞回収のために減らされる時点での培地の一般的な高さを考慮に入れた距離であることが好ましい。例えば、遠心分離される必要のある培地の体積を、静置細胞培養の従来の方法に対して50%減らそうとするなら、培地取り出し管の培地取り出し開口部は、培地高さの50%のところまで入れることになろう(器具は培地が生育面全体にわたって存在できるように設計されているものと仮定する)。実験室スペースを使用するには割増料金がかかることから、器具の高さは中に存在すると予想される培地の高さとおおよそ同じにすべきである。したがって、従来の方法に対して培地体積処理において少なくとも2倍の低減を得るというオプションを提供するためには、器具の高さを使用時の一般的な培地高さとちょうど同じにするか、あるいは少しだけ高くなるように器具を設計し、培地取り出し管の培地取り出し開口部を、生育面から約0.2 cmから(生育面が水平状態にあるとき)、器具の内側から測って器具の上部から生育面までのおおよそ半分の点までに配置するのが、経験上よい指針である。例えば、器具中の成長培地の上部境界から生育面までの距離が、器具中の培地の可能な高さを表しているなら、生育面が水平状態で、可能な培地高さの50%以下にあるとき、培地取り出し開口部は生育面の0.2 cm上方、あるいはそれ以上に位置することが好ましい。培地高さがどこにあるか不確かなときには、器具の中に複数の培地取り出し管を設けることができる。
【0126】
細胞取り出し管の細胞取り出し開口部は器具の下端に沿って配置されていて、器具の向きを変えずに細胞回収培地を集められることが好ましい。しかし、望むなら器具は向きを変えることができる。
図22Dは細胞培養および細胞回収器具1000を、もともとの水平な細胞培養位置から傾斜角度1026の位置まで向きを変えるプロセスを示しており、このプロセスによって、内部に細胞1016が分布されている細胞回収培地1024を細胞取り出し管1004の細胞取り出し開口部1002に対して配置し直すことで、細胞回収培地1024をそのあと抜き取れるようになる。
【0127】
しかし、細胞取り出し管の細胞取り出し開口部は器具の下端に沿って配置されている必要はない。細胞回収培地内で細胞を混合するステップが終了したら、単に細胞回収培地が細胞取り出し開口部のところへくるまで器具を回転させ、細胞回収培地を細胞取り出し管から取り出すことによって、器具内の任意の位置から細胞回収培地を取り出すことができる。当業者は、管は図示されているようである必要はなく、任意の構造でよいことがわかるであろう。設計の鍵となる特徴は、培地取り出し開口部を前述のとおり生育面に対して好ましい位置におくことができる機能にある。したがって、管は器具の側部に隔壁を設けたような簡単なものでも、入れ子式チューブのような複雑なものでもよい。当業者はまた、細胞培養および細胞回収の方法は閉じた系を成す構造に頼る必要はなく、開かれた系をなす構造という簡単な手段で実現することもできることを認識しなければならない。例えば、我々はウィルソン'717号に記載されているタイプの開いた系の器具を用い、培地取り出し管および細胞取り出し管としてピペットを用いても、上述した方法を実施し各ステップを繰り返すことで上述の濃縮を達成できた。
【0128】
この発明のさまざまな実施例に記載されている、細胞培養培地体積と生育面積との大きな比率の利点をとらえるためには、細胞培養および細胞回収器具の内部高さは任意の特定の用途において少なくとも2.0 cm以上であることが好ましい。また、細胞培養と細胞回収を容易にするために、細胞培養および細胞回収器具は、生物適合性の材料から構成されおり、透明で目視で評価ができ、堅固で取扱いが容易であることが好ましい。
【0129】
この発明の細胞培養および細胞回収器具から、細胞を取り出すことなく培地を取り出す方法の発見によって、養子細胞療法における培地交換プロセスに関係する従来の静置細胞培養方法に対して別の利点を生じる。この明細書は培地を補充するための培地の取り出しや培地の交換を避ける新規な方法を述べているけれども、技術者がそのプロセスを実施したいという状況も存在するかもしれない。従来の方法は培地を取り出したり入れ替えたりするときには細胞を取り出すことになり、したがって一般的に行われているのは、培地を取り出し、それを一つあるいは複数の新しい器具に分布させ、それらすべての器具に培地を追加することである。したがって、供給を行うときにはいつも、より多くの器具がいることになる。これは我々の新規な方法では必要ない。というのは、我々のこの発明の細胞回収方法では、ピペットのように簡単なものでよい管を用いて培地を取り出すときに、器具中に細胞を残すからである。細胞を損失することなく培地体積を減らすために、スクリーンやフィルタ、あるいは器具の遠心分離を何ら用いる必要がない。細胞の個体数が最大表面密度になるまで、培地を単に取り出して、同じ器具に追加するだけである。
【0130】
培地の取り出しや入れ替えの場合について、細胞の損失なくどのように培地をたった0.2cmの高さにまで取り出すことができるかはすでに述べたので、細胞を取り出すことなく、培地取り出し管の培地取り出し開口部を介して培地を単に目的の高さおよび/あるいは体積まで取り出し、そのあと培地を目的の任意の体積あるいは高さまで追加することによって培地交換を実施することを理解するのはいまでは容易である。
【0131】
したがって、この明細書を用いて、当業者は以下のものからなる静置ガス透過性細胞培養および細胞回収器具の好ましい実施例を形成すべきである。
a.ガス透過性材料から形成された生育面と、
b.器具が動作中は、生育面は水平状態にあり、
c.培地取り出し開口部を有する培地取り出し管と、
d.細胞取り出し開口部を有する細胞取り出し管と、
e.内部体積と
f.内部体積の最上部位置の境界を形成する上部境界と、
g.上部境界から生育面までの距離が可能な培地高さであり、上部境界から生育面までの距離が2.0 cmを超え、
h.生育面が水平状態にあるとき、培地取り出し管が生育面の上方にある距離が、生育面の少なくとも0.2 cm上方であり、可能な培地高さの50%を超えることはない。
【0132】
この器具は、ウィルソン'717号に記載されている器具のうちの関係のある部分を備えていることが好ましい。また、この知識を得て、ガス透過性器具の製造者は、ウィルソン'717号に記載されているものを含めて、ガス透過性材料から構成された生育面と培地取り出し管と培地取り出し開口部と細胞取り出し管と細胞取り出し開口部とを有する細胞培養および細胞回収器具をユーザに提供するとともに、以下の事柄に対する説明書を提供したりその情報を普及させたりすることによって、細胞培養のより効率的な方法を容易にすることができる。
a.細胞および培地を器具の中に追加し、
b.細胞は哺乳類のもので、非接着細胞タイプとし、
c.生育面を水平方向に向け、細胞を生育面の上に載せて、細胞培養に適した雰囲気中に、細胞培養に適した温度で細胞培養および細胞回収器具を設置し、
d.細胞を生育面の上に沈降させ、
e.生育面の上に沈降した細胞の数と、培地体積との比率が、初期の静置培養細胞密度であり、
f.生育面の上に沈降した細胞の数と、生育面の表面積との比率が、初期の静置培養表面密度であり、
g.培地体積と、生育面の表面積との比率が、初期の静置培養培地体積と生育面積との比率であり、
h.もっとも低い培地位置からもっとも高い培地位置までの距離が、初期の静置培養培地高さであり、
i.ある時間の間にわたって細胞が静置培養の状態に存在できるようにし、またさらに、細胞培養および細胞回収器具からの細胞を回収するために以下からなるステップを有し、
j.細胞を抜き取ることなく、細胞取り出し管の培地取り出し開口部を介して培地の一部を取り出す段階からなる回収前のステップであり、ここで器具中に残った培地体積が細胞回収培地体積であり、
k.生育面が水平状態にあるときに細胞回収培地のもっとも上の位置から細胞回収培地のもっとも下の位置までの距離が、細胞回収培地の高さであり、
l.細胞回収培地の体積と、生育面の表面積との比率が、細胞回収培地体積と生育面積との比率であり、
m.細胞回収培地体積と培地体積との比率が、培地の減少割合になり、以下からなる細胞回収ステップを有し、
n.細胞を細胞回収培地の中に混合する段階と、
o.回収培地中の細胞の数と、細胞回収培地の体積との比率が、回収した細胞密度になり、
p.細胞取り出し管の細胞取り出し開口部を介して、細胞と細胞回収培地を、細胞培養および細胞回収器具から取り出す段階。
【0133】
細胞回収培地体積と、生育面積との比率は少なくとも0.2 ml/cm2であり、培地低減割合が少なくとも50%であることが好ましい。この方法は、ここに記載されている利点を提供する、目的の初期静置培養細胞密度や、初期静置培養表面密度、初期静置培養の培地体積と生育面積との比率、および/あるいは初期静置培養高さを含めて、この発明の任意の実施例を利用することができることを当業者にはアドバイスする。また、この方法は膵島での使用も含んでいることを当業者は認識するとよい。
【0134】
例14:CAR T細胞の優れた作製のために静置ガス透過性培養を使用する新規な方法。
【0135】
ガス透過性材料から構成された表面積を有する生育面を有し、培地高さを変えられる実験器具において実験を行った。生育面は100 cm2の表面積を有するシリコーンから構成されており、ウィルソン'717号により詳しく記載されているように生育面サポートを用いてほぼ水平状態に保持した。
【0136】
形質導入された抗原特異性T細胞(CAR T細胞)の増殖に対して三つの条件を評価した。評価Aは、K562 APC細胞が存在するCAR T細胞を含んでおり、培地高さは10 cmであった。評価Bは、K562 APC細胞が存在しないCAR T細胞を含んでおり、培地高さは10 cmであった。評価Cは、従来の方法に従ってCAR T細胞を培養した。
【0137】
図23Aは、培養の開始時における、また培養が進行したときの評価Aの条件を示している。注目すべきところは、培養の開始時において、APC細胞とCAR T細胞との比率は2:1であり、培地は10 cmの高さであったことである。
図23Bは、培養の開始時における、また培養が進行したときの評価Bの条件を示している。注目すべきところは、培養の開始時においてAPCは存在しなかったことと、培地は10 cmの高さであったことである。
図23Cは、培養の開始時における、また培養が進行したときの評価Cの条件を示している。注目すべきところは、培養の開始時において、APC細胞とCAR T細胞との比率は2:1であり、培地の高さは2 cmであったことである。
【0138】
養子細胞培養の分野における従来の培養とは違って、サイトカイン(IL2などの)を新鮮な細胞に追加することによって培地交換のときにサイトカイン刺激を行った。したがって、サイトカイン刺激は培地交換と同時に行われる。しかし、この発明のさまざまな実施例において記載されているように、供給の頻度は著しく減っており、なくされてさえいる。したがって、我々は培地交換を行わずにサイトカインを追加する能力を評価するために条件Aおよび条件Bも用いた。培地交換の代わりに、同じ頻度で、また従来の方法と同じml当たりの培地になるようにIL2のボーラスを単純に追加するだけにし、IL2を培地の中に分布させるために培地に任意の種類の強制的混合を施すことはしなかった。
【0139】
図23Dは培養中のさまざまな時点における全生細胞を示している。図からわかるように、条件Aの全生細胞の数はその他の条件のどちらよりもずっと優れていた。
図23E1~
図23E3は培養の開始時と、培養の終わりにおけるCAR T細胞の割合を示している。ヒストグラムAは条件Aを表し、ヒストグラムBは条件Bを表し、ヒストグラムCは条件Cを表している。条件Bは、培養の開始時において培養にAPCを提供しないことの欠点を示している。培養の開始時においてAPCを提供したときは、CAR発現は初期状態の約40%から培養の終わりの約80%の状態まで改善した。
図23Fは、培養中のCAR T細胞の全増殖倍率を示している。条件Aは、条件Cに示されている従来の方法よりもきわめて大きな増殖倍率が得られることは明らかである。
【0140】
図23Gに示されているように、評価Aにおける生細胞の個体数の予測は、マニュアルによる計数によって決定された細胞の個体数を表していることにも注目のこと。さらに、評価Aおよび評価Bに対して用いた器具は、これまでに述べた方法を用いて、培養の終わりに1000 mlの状態から20 mlの状態まで、細胞を失うことなく培地を抜き取ることができた。
【0141】
別の重要な発見は、培養中でのAPCの存在に関するものである。明らかに、条件Aから回収されたT細胞はT細胞生成量が高いため、関係のある抗原(PSCA)を発現する腫瘍細胞を殺傷する能力が高く、培養の終了時には開始時の状態に対してCAR発現T細胞(CAR-PSCA)の個体数が大きな割合を占めている。これと比較して、培養の開始時にはAPCを欠いているため、条件Bは細胞の個体数におけるCAR発現T細胞(CAR-PSCA)の割合を培養期間にわたってまったく増大させることができない。
【0142】
図23Hは条件Aおよび条件Bから得られた細胞がPSCAを発現する腫瘍細胞を殺傷する能力を、そしてPSCA抗原を発現しない細胞の殺傷を避ける能力を示している。エフェクター細胞と、PSCA抗原発現細胞(DU145およびCapan1)あるいは非PSCA抗原発現細胞(293T)との比率は40:1であった。エフェクター細胞(すなわちCAR T細胞)は培養の11日目に条件Aと条件Bの培養物から得た。
【0143】
図24A、
図24B、
図24C、
図24Dは、条件Aに対して述べた初期培養条件を用いて(APCの抗原発現はそれぞれPSCAとMuc1であったことを除いて)、PSCAおよびMuc1に特異性のあるCAR T細胞の個体数増殖を並べて比較したものを要約している。この発明の新規の初期条件は、従来の培養器における従来の条件よりも短い時間の間にずっと多い数のCAR T細胞を作製できることがわかる。当業者は、これらの利点はPSCAあるいはMuc1抗原を認識するCAR T細胞に限定されるものではなく、任意の抗原を認識するCAR T細胞に適用が可能なことがわかるであろう。
【0144】
より短い時間の間により多くの細胞を作製する能力、培地交換あるいは培地の強制的混合を必要とせずにサイトカインを追加できる能力、培養に新鮮な培地を供給する必要性をなくせる能力、マニュアルで細胞を数える必要性を避けられる能力、そして細胞回収のときに細胞が存在する培地の量を、培養の終わりに存在する体積のたった2%にまで減らせる能力は、養子細胞療法用の細胞作製に対する従来の方法に固有の問題の多くを克服するこの発明の威力を示した。
【0145】
例15:この発明の方法は生育面の面積に正比例してスケールを変えることができる。
【0146】
我々は、ここで、また親出願で説明されている培養プロセスのスケーラビリティを評価するために、親出願の場合において実験を行った。培養プロセスを最適化するために実験計画を再確立する必要性はなく、小さい生育面積から大きな生育面積まで移れる能力は強力な利点である。そうなのかどうかを判断するために、我々はガス透過性シリコーンでできた面積10 cm2、100 cm2、640 cm2の生育面の上で開始されたK562培養の結果を比較した。初期条件には、0.125E+06個/cm2の表面密度と、10 cmの培地高さが含まれる。培養を開始したあとは、培地の補充は行わなかった。
【0147】
図24Eは、生育面積の異なる3つのガス透過性培養器具の個体数の成長曲線を示している。シリーズ1は640 cm
2器具における培養の生細胞増殖を表し、シリーズ2は100 cm
2器具を、またシリーズ3は10 cm
2器具を表している。
図24Fは、
図24Eの曲線を表面密度で規格化した個体数の成長曲線を示しており、明らかに直線的なスケーラビリティを示している。
【0148】
当業者が垂直方向に培養のスケールを大きくすることによって生育面を増大させようとするときには、ウィルソン'176号を精査することを薦める。彼らは、この発明の実施例の多くはウィルソン'176号に記載されている器具を用いて実現できることがわかるであろう。
【0149】
実施例に関する全体的な記述:この明細書では、生育面積とは器具中でその上に細胞が存在する面積のことであり、ガス透過性材料から構成されている。ガス透過性材料は細胞培養の分野において当業者に知られている任意の材料でよく、液体浸透性はなく、非多孔質であることが好ましい。この発明の器具および培養方法は、ガス透過性材料から構成された生育面のところに強制的にガスを流さずに機能できる。これらの方法は静置培養に適している。
【0150】
好ましい細胞タイプ:この発明の実施例においては、培養が単一の細胞タイプから構成されているなら、その細胞は抗原提示細胞であることが好ましく、LCLあるいはK562であることがさらに好ましい。もし培養が共生培養から構成されているなら、APCあるいはフィーダ細胞と組み合わせたエフェクター細胞(すなわち目的の、ターゲットとする細胞)を含んでいることが好ましく、ビードは含んでいても、含んでいなくてもよい。ビードはAPCあるいはフィーダ細胞の代替でもある。もしAPCが存在するなら、それらは専門に働く抗原提示細胞であることが好ましく、K562あるいはLCLのタイプであることがより好ましく、照射されていることがさらに好ましい。もし存在すれば、それらが膵島でなければ、エフェクター細胞は末梢血あるいは骨髄から取り出すのが好ましく、T細胞か、NK、Treg、TIL、あるいはMILであることがより好ましい。もしエフェクター細胞がT細胞であるなら、それらは自然に存在する抗原特異性T細胞あるいは形質導入した抗原特異性T細胞であることが好ましい。
【0151】
好ましい表面密度:この発明の実施例においては、細胞はガス透過性材料から構成された生育面の上に、好ましくは0.5E+06以下の表面密度で存在する。この開示によれば、養子細胞療法の分野における従来の方法に対して個体数の増殖速度を増大させるために、表面密度を0.5E+06以下から連続的に低減できること、またより低減する方が好ましいことは当業者にはわかるであろう。つまり、例えば、0.25E+06、0.125E+06、および0.0625E+06の表面密度での個体数の増殖速度が従来の方法のそれを超えることを我々は示してきた。したがって、表面密度は我々の例で述べた値に限定される必要はなく、可能な値は離散的な値ではなく、連続的であることを当業者は認識してほしい。例えば、当該分野における通常の技術者には、我々はその特定の表面密度を用いた例を提供はしなかったけれども、0.49E+06の表面密度で培養を始めることで、05E+06の表面密度で培養を始めるのに対して、個体数の「増殖倍率」を改善できるようにすることを推奨する。したがって、当業者には、この発明の例において、また親出願に示されている表面密度はアナログ的に解釈されることをアドバイスするし、ここに示されている離散的な値に限定されることはない。
【0152】
好ましい細胞密度:この発明の実施例においては、細胞はガス透過性材料から構成された生育面の上に、好ましくは0.5E+06以下の、培地に対する細胞密度で存在する。この開示によれば、養子細胞療法の分野における従来の方法に対して培地補充の頻度を減らすために、培地に対する細胞密度を0.5E+06以下から連続的に低減できるようになること、またより低減する方が好ましいことは当業者にはわかるであろう。したがって、細胞の個体数が従来の方法のそれを超える速度で成長できるように維持すると同時に、培地に対する細胞密度を従来の方法の下限である0.5E+06個/mlから低減させていかにして培地補充の頻度を低減するかを示してきた。表面密度は我々の例で述べた各値に限定する必要はなく、離散的な値ではなく連続的な値をとることができることを当業者には認識してほしい。当業者が得たいと望む属性に対し、培地に対する細胞密度を彼らがそれに合うと考える0.5E+06以下の任意の値まで減少させることが好ましい。したがって、培地に対する細胞密度を、ここでのさまざまな例における、また親出願における離散的な、培地に対する細胞密度の同一性まで低減する利点を述べてきたが、この発明はここに示されている離散的な値に限定されるものではない。
【0153】
培地体積と生育面積との大きな比率:この実施例においては、細胞はガス透過性材料から構成された生育面の上に存在し、培地体積と生育面積との比率を大きくすることによって利点を生じる。この開示によれば、表面密度を下げるなど、この発明の他の要素と組み合わせることによって多くの利点を提供するために、培地体積と生育面積との比率を連続的に増大させることが可能となることが当業者にはわかるであろう。したがって、ここで、また親出願において離散的な値を有する例を用いることによってこれらの関連する利点を述べるが、この発明はここに示されている離散的な値に限定されるものではない。当該分野の通常の技術者には、示されている値や、それらの値の組み合わせは、彼らがそれらの値を連続的に解釈することによって、記述されている利点を得るよう手引きするものであることを認識してほしい。したがって、この発明はここに与えられている離散的な数値に限定されるものではない。
【0154】
大きな培地高さ:この発明の実施例においては、細胞はガス透過性材料から構成された生育面の上に存在し、従来の方法に対して培地高さを大きくすることによって利点を生じる。この開示によれば、表面密度を下げるなど、この発明の他の要素と組み合わせることによって多くの利点を提供するために、培地高さを連続的に増大させることが可能となることが当業者にはわかるであろう。したがって、ここで、また親特許において離散的な値を有する例を用いることによってこれらの関連する利点を述べるが、この発明はここに示されている離散的な値に限定されるものではない。当該分野の通常の技術者には、示されている値や、それらの値の組み合わせは、彼らがそれらの値を連続的に解釈することによって、記述されている利点を得るよう手引きするものであることを認識してほしい。したがって、この発明はここに与えられている離散的な数値に限定されるものではない。
【0155】
細胞計数の代わりになる、培地中の溶質の変化速度からなる代替的測定値:この発明の実施例においては、細胞はガス透過性材料から構成された生育面の上に存在し、細胞を計数する必要なく培養中にいくつの細胞があるかを計測できる能力によって利点が生じる。グルコース濃度の低下が培養中の細胞の数の測度をいかにして提供してくれるかの例をこの明細書は示していることを当業者は認識するであろう。また、グルコースは細胞が利用する培地内の測定可能な基質の一つにすぎないことも認識するであろうし、当該分野における通常の技術者は、この発明の明細書が与えられれば、細胞数を示す、濃度の低下、および/あるいは乳酸塩など、培地中の他の基質の増加に頼ることができるであろう。したがって、この発明の実施例のこの新規な側面は、新規な表面密度や、細胞密度、培地高さ、および/あるいは培地体積と生育面積との比率の条件のうちの任意のもので開始された静置培養における基質の測定は、細胞の個体数の増殖の進行を決定するよい方法であるという発見である。したがって、この発明はグルコース基質に限定されるものではない。したがって、この発明はここに与えられている離散的な数値に限定されるものではない。
【0156】
細胞損失のない培地の取り出し:この発明の実施例においては、細胞はガス透過性材料から構成された生育面の上にさまざまな好ましい表面密度で存在し、従来の方法に対して培地の高さを大きく(および/あるいは培地体積と生育面積との比率を大きく)できる。そのあと、細胞の損失なく従来の方法に対して培地の高さを下げること(および/あるいは培地体積と生育面積との比率を下げること)によって利点が生じる。この開示によれば、培地交換の方法を改良すること(そこではプロセスにより多くの器具を追加する必要がない)、および/あるいは細胞回収の方法を改良する(細胞を回収するのに必要な培地体積が小さくなる)ことが可能であることを当業者は認識するであろう。我々は離散的な値を有する例を用いてこれら関連する利点を説明するが、この発明はここに与えられている離散的な値に限定されるものではない。当該分野の通常の技術者には、与えられている値や、それら値の組み合わせは、彼らがそれらの値を連続的に解釈することによって、記述されている利点を得るよう手引きするものであることを認識してほしい。例えば、培地は任意の高さで存在でき、好ましくは(2.1 cm、2.5 cm、6.08 cm、10.0 cmなど)2.0 cmを超える高さが好ましい。したがって、好ましくは生育面の0.2 cmあるいはそれ以上の上方の任意の高さにある培地取り出し管の培地取り出し開口部は、細胞の損失なく培地を取り出すときにそれが培地高さより低いところに位置する限り、0.2 cmあるいはそれより高い高さにあり、それによって培地からの細胞の分離を減らし、かつ/あるいはユーザが培地交換のときに細胞を別の器具へ移さなくてもよいようにできることが好ましい。この発明はここに与えられている離散的な数値に限定されるものではない。
【0157】
ガス透過性培養器具:この発明の実施例において、我々はウィルソン'717号およびウィルソン'176号の方法に対する改良を含め、従来の知見よりも低い表面密度で培養を開始できる能力や、サイトカインを提供するための最低限の操作、従来の方法に対して細胞の個体数の成長速度を増大させ新規な細胞培養器具を用いて作製時間を短縮する培地供給戦略などの発見について述べている。さらに、器具の製造業者および提供者は、ウィルソン'717号およびウィルソン'176号に開示されているものを含めて、ガス透過性器具を設けることは、この発明の、かつ/あるいは親特許の新規な方法を、どのような形態かにかかわらず(紙や電子媒体、ウェブサイトなど)、指示や実験計画などを介してそうした器具のユーザへの普及することを含むべきであることを認識しなければならない。したがって、この発明の範囲には、ガス透過性器具の製造業者および/あるいは供給者によるこの発明の方法の指示書の提供、および/あるいは普及が含まれる。
【0158】
このように本発明について述べてきたので、この明細書の利点を手にした当該分野における通常の技術者には、同一のものを多くの方法に変形できるということは明らかであろう。そうした変形はこの発明の精神および範囲から逸脱するとはみなされない。当該分野の技術者には明らかと思われるそうした修正は、以下の請求項やその等価物の範囲に含まれると考えている。
【0159】
この出願に引用されている特許出願や特許、論文のそれぞれや、これらの特許出願や特許、論文のそれぞれに引用されている文書あるいは参考文献におけるもの(交付済み特許の権利取得中のものも含めて;「出願引用文献」)、係属中の米国特許出願第2005/0106717A1および第2008/0227176A1、およびこれらの特許出願および特許の任意のものに対応する、かつ/あるいはそれらからの優先権を請求するPCT、外国特許出願および特許の各々、およびこれら出願引用文献の各々に引用あるいは参照されている文書の各々は、ここに明示的に援用する。
【0160】
上述した文献は、ここで明示的に開示した内容に反するような主題は援用しないように参照援用を制限する。上述した文献は、その文献に含まれている請求項はここで参考のために援用することはないように参照援用を制限する。上述した文献は、その文書に設けられている定義が明白な形で含まれていない限りここに援用しないよう参照援用を制限する。
【0161】
この発明に対する請求項を解釈するために、請求項に「~する手段」あるいは「~するステップ」という明確な用語が述べられていないなら、35U.S.C.の第112条第6項の規定を適用すべきではない。
【0162】
当該分野の当業者は、ここに述べられているこの発明の要旨から逸脱することなく、この開示に対して多くの修正を加えることができることがわかるであろう。したがって、ここに説明されている実施例や例の広がりを制限するものではない。むしろ、この発明の範囲は添付の請求項およびその均等物によって解釈すべきである。
【手続補正書】
【提出日】2023-10-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静置細胞培養のための細胞培養・細胞回収器具であって、
生育面と生育面に対向する上部限界とを境界とする細胞培養区画と、
生育面から離れて存在する培地取り出し開口部を含む培地取り出し管と、
生育面と接触している細胞取り出し管とを備え、
生育面は、液体不透過性かつガス透過性の材料を備え、ガス透過性材料の底部が生育面サポートに接触しており、生育面サポートは培養の間、ガス透過性材料を水平位置に保つものであり、生育面サポートによって、雰囲気ガスを強制的に接触させることなくガス透過性材料の下面に接触可能としており、
細胞取り出し管は、器具の下端に沿って配置される細胞取り出し開口部を含み、器具が細胞回収の向きにあるときに、生育面は水平でなく、細胞取り出し管が培地と細胞とを器具の低所から抜き取る働きをし、
器具が静置細胞培養の向きにあるときに、生育面が水平位置にあり、生育面から培地取り出し開口部までの距離が、生育面から上部限界までの距離の半分未満である、器具。
【手続補正書】
【提出日】2023-10-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス透過性細胞培養・細胞回収器具において細胞を培養し、細胞を濃縮するための方法であって、
初期容量の培地と細胞とをガス透過性細胞培養・細胞回収器具に加えるステップを備え、
ガス透過性細胞培養・細胞回収器具は、生育面と生育面に垂直な壁とによって区切られた細胞培養区画を備え、生育面は液体不透過性かつガス透過性の材料からなり、ガス透過性材料の底部は、ガス透過性材料を、培養の間、水平位置に保持する生育面サポートと接触しており、生育面サポートによって、雰囲気ガスがランダムな動きによってガス透過性材料の下側に接触できるようになっており、壁が2.0cm超の高さであり、
初期容量の培地は、培地の最低部の位置から培地の最上部の位置までの距離によって決定される初期の培地高さで存在し、初期の培地高さは2.0cm超であり、生育面の面積に対する培地の初期容量の比が2.0mL/cm
2
超であり、培地が灌流されておらず、
細胞が増えるように、一定期間、細胞培養に適した雰囲気ガスのある場所にガス透過性細胞培養・細胞回収器具を置いた状態で、細胞を生育面に沈下させ、かつ、培地を補充せずに細胞を静置培養状態とするステップを備え、
ガス透過性細胞培養・細胞回収器具にピペットを挿入し培地を除去することによって細胞を濃縮し、細胞回収培地の容量と細胞回収培地高さとを得るステップを備え、細胞回収培地高さが0.2cm以上であり、生育面の面積に対する細胞回収培地の容量の比が0.2mL/cm
2
以上である、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、細胞が細胞回収培地内で分散されるように細胞回収培地において細胞をかき混ぜるステップと、ピペットで細胞回収培地を取り出すステップとをさらに備える、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、細胞が細胞回収培地内で分散されるように細胞回収培地において細胞をかき混ぜるステップと、細胞回収培地を移すためにガス透過性細胞培養・細胞回収器具を元の水平位置から傾けるステップと、ピペットで細胞回収培地を取り出すステップとをさらに備える、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、初期の培地高さが2.5cmである、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、初期の培地高さが5.0cmである、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、初期の培地高さが10.0cmである、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、初期の培地高さが15.0cmである、方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、器具が透明であり、視覚的に評価可能である、方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、生育面の面積に対する初期の培地容量の比が2.5mL/cm
2
である、方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、生育面の面積に対する初期の培地容量の比が5.0mL/cm
2
である、方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法であって、生育面の面積に対する初期の培地容量の比が10.0mL/cm
2
である、方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法であって、生育面の面積に対する初期の培地容量の比が15.0mL/cm
2
である、方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法であって、培地の最上部が生育面と平行である、方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法であって、ガス透過性材料が非多孔質である、方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法であって、初期容量の培地、細胞、及びサイトカインがガス透過性細胞培養・細胞回収器具に加えられる、方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法であって、細胞がT細胞である、方法。
【請求項17】
請求項1に記載の方法であって、ガス透過性材料がシリコーンからなる、方法。
【請求項18】
請求項1に記載の方法であって、細胞がCAR-T細胞である、方法。
【請求項19】
請求項1に記載の方法であって、細胞がPBMCである、方法。
【請求項20】
請求項1に記載の方法であって、細胞がエフェクター細胞とフィーダ細胞である、方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法であって、フィーダ細胞がガンマ線照射された抗原提示細胞、K562、またはLCLである、方法。
【請求項22】
請求項20に記載の方法であって、エフェクター細胞がT細胞、NK、Treg、TIL、またはMILである、方法。
【請求項23】
請求項20に記載の方法であって、エフェクター細胞が抗原特異性T細胞である、方法。
【請求項24】
請求項1に記載の方法であって、細胞が、4日間、培地補充なしに静置培養の状態で存在する、方法。
【請求項25】
請求項1に記載の方法であって、細胞が、8日間、培地補充なしに静置培養の状態で存在する、方法。
【請求項26】
請求項1に記載の方法であって、細胞が、11日間、培地補充なしに静置培養の状態で存在する、方法。
【請求項27】
請求項1に記載の方法であって、細胞が、14日間、培地補充なしに静置培養の状態で存在する、方法。
【請求項28】
請求項1に記載の方法であって、細胞が、17日間、培地補充なしに静置培養の状態で存在する、方法。
【請求項29】
請求項1に記載の方法であって、細胞が、20日間、培地補充なしに静置培養の状態で存在する、方法。
【請求項30】
請求項1に記載の方法であって、壁が堅固である、方法。
【請求項31】
請求項1に記載の方法であって、ガス透過性細胞培養・細胞回収器具がキャップまたはカバーを含む、方法。
【請求項32】
請求項15に記載の方法であって、サイトカインがIL2である、方法。