(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159467
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】ゴム成形物
(51)【国際特許分類】
C08L 27/20 20060101AFI20231025BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20231025BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
C08L27/20
C08L27/18
C08K3/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020126459
(22)【出願日】2020-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】安斎 貴寛
(72)【発明者】
【氏名】横田 敦
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BD141
4J002BD152
4J002BD161
4J002DJ036
4J002FD012
4J002FD016
4J002GJ02
4J002HA09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】正・逆両回転用オイルシールなどへの金属異物の噛み込み抑制を可能とする、オイルシールなどのシール材料などとして好適に用いられるゴム成形物の提供。
【解決手段】ゴム100重量部当り平均粒子径が0.2~5.0μmの充填剤を10~50重量部含有せしめた、加硫成形物の断面粗さの算術平均高さが0.1~1.0μm Saとなるゴム成形物。このゴム成形物は、平均粒子径が0.2~5.0μmの充填剤含有せしめて、加硫成形物の断面粗さの算術平均高さが0.1~1.0μmSaとなるものを選択することにより、正・逆両回転用オイルシール等のシール摺動面の油膜厚さを減少させることで、シールと軸の摺動面への金属異物の噛み込みが抑制されるといったすぐれた効果を奏する。そのため、オイルシールなどのシール材料などとして好適に用いられる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム100重量部当り平均粒子径が0.2~5.0μmの充填剤を10~50重量部含有せしめた、加硫成形物の断面粗さの算術平均高さが0.1~1.0μm であるゴム成形物。
【請求項2】
ゴムがフッ素ゴムである請求項1記載のゴム成形物。
【請求項3】
充填剤が珪藻土またはポリテトラフルオロエチレン樹脂の粉末である請求項1記載のゴム成形物。
【請求項4】
加硫成形物の断面粗さの最大高さが10~20μm Szである請求項1記載のゴム成形物。
【請求項5】
請求項1記載のゴム成形物からなるシール材。
【請求項6】
オイルシールとして用いられる請求項5記載のシール材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム成形物に関する。さらに詳しくは、オイルシール等の材料などとして用いられるゴム成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
オイルシールは、自動車、産業機械等の分野で重要な機械部品として広く用いられている。このうち各種部材の正・逆両回転の作動においても流体を密封し続けることを目的とする両回転用オイルシールは、例えばポンプ、自動車のデフ、農業用機械、鉄道車両等の部材用部品として幅広い分野で用いられている。
【0003】
従来用いられていたオイルシールは、オイルシールと接触している部材を正転方向に回転させた後逆転させた場合に、密封していた流体の漏れを生ずる場合がある。
【0004】
本出願人は先に、耐油性、耐燃料油性にすぐれ、自動車、産業機械等の幅広い分野で、Oリング、パッキン等のシール材料として用いられているフッ素ゴムをゴム材料として用い、ゴム100重量部当りアスペクト比8以上のウォラストナイト1~100重量部を添加し、それを混練して調製されたフッ素ゴム組成物を加硫成形して摺動面を形成させてなる、鉄道車両用の正・逆両回転用オイルシールを提案している(特許文献1)。
【0005】
また、特許文献2では、耐熱性、耐摩耗性などの耐久性にすぐれるとともに、耐潤滑油性、シール性をも十分に満足し得るオイルシールの成形材料として、フッ素ゴム100重量部当り平均粒子径が6~35μmの珪藻土、ウォラストナイト、タルク、グラファイトおよび炭素繊維の少なくとも一種を3~60重量部含有せしめたフッ素ゴム組成物を提案している。
【0006】
しかしながら、市場において、正・逆両回転用オイルシールではオイル中に含まれる金属異物によって軸の摺動面が傷つく場合があり、この場合には軸を交換する必要が生じてしまう。かかる現象を回避するためには、軸の傷つきを抑制し、軸の使用期間延長を図ることが望まれる。
【0007】
ここで、市場回収品の分析結果から、軸が傷つく要因としてオイル中に含有されている金属の異物がリップと軸の摺動面に介在すること、すなわち異物が噛み込むことで、軸の傷つきが発生すると推定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-64201号公報
【特許文献2】特許第6,435,666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、正・逆両回転用オイルシールなどへの金属異物の噛み込み抑制を可能とする、オイルシールなどのシール材料などとして好適に用いられるゴム成形物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる本発明の目的は、ゴム100重量部当り平均粒子径が0.2~5.0μmの充填剤を10~50重量部含有せしめた、加硫成形物の断面粗さの算術平均高さが0.1~1.0μm Saとなるゴム成形物によって達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るゴム成形物は、平均粒子径が0.2~5.0μmの充填剤含有せしめて、加硫成形物の断面粗さの算術平均高さが0.1~1.0μm Saとなるものを選択することにより、正・逆両回転用オイルシール等のシール摺動面の油膜厚さを減少させることで、シールと軸の摺動面への金属異物の噛み込みが抑制されるといったすぐれた効果を奏する。そのため、オイルシールなどのシール材料などとして好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のゴム成形物は、ゴム100重量部当り平均粒子径が0.2~5.0μmの充填剤を含有してなり、得られる加硫成形物の断面粗さの算術平均高さが0.1~1.0μm Saである。
【0013】
ゴムとしては、フッ素ゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム等が挙げられるが、耐熱性、耐油性などにすぐれているといった観点からは、フッ素ゴムが用いられる。
【0014】
フッ素ゴムとしては、フッ化ビニリデンまたはテトラフルオロエチレンと他の含フッ素オレフィンおよびオレフィンの少なくとも一種との共重合ゴム等が用いられ、例えばフッ化ビニリデン〔VdF〕-ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン3元共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-プロピレン3元共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)3元共重合体、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)-エチレン3元共重合体等が挙げられ、これらの各種共重合ゴム中に、臭素および/またはヨウ素含有化合物、ニトリル基、グリシジル基、ヒドロキシアルキル基、パーフルオロフェニル基等の架橋性基を導入したものも用いることができる。
【0015】
フッ素ゴムには、平均粒子径(レーザー回析散乱法により測定)が0.2~5.0μm、好ましくは0.2~3.0μmの充填剤が、フッ素ゴム100重量部当り10~50重量部、好ましくは10~40重量部の割合で配合される。
【0016】
オイル中に存在する異物の、シール材と軸の摺動面への噛み込みは、ゴムの粗さが粗いほど摺動面の油膜が厚くなって、生じ易くなるものと考えられる。従って、充填剤の平均粒子径がこれより大きいものが用いられると、正・逆両回転シールでは、オイル中に存在する異物がリップと軸の摺動面に介在し、異物の噛み込みによる軸の傷つきが発生してしまう。
【0017】
一方、充填剤の平均粒子径がこれより小さいものが用いられると、加硫成形物に本発明の目的とする断面粗さの算術平均高さを付与することができず、シール性能が劣ってしまうようになる。ここで、充填剤が繊維状の場合には、平均粒子径とは、その平均繊維長を意味している。
【0018】
また、充填剤がこれより少ない割合で用いられると、加硫成形物に本発明の目的とする断面粗さの算術平均高さを付与することができず、シール性能が劣ってしまうようになり、一方これより多い割合で用いられると、混練時に砂状になりやすくなって混練ができなくなってしまう。
【0019】
充填剤としては、珪藻土、ポリテトラフルオロエチレン樹脂〔PTFE〕、ウォラストナイト、グラファイトなどが、好ましくは珪藻土、PTFEが用いられる。
【0020】
以上の必須成分よりなるゴム組成物には、加硫操作上、物性上、機能上などから要求される各種配合剤が添加され、例えばフッ素ゴム加硫に用いられるポリオール系または有機過酸化物系加硫剤、4級オニウム塩等の加硫助剤、多官能性不飽和化合物共架橋剤、カーボンブラック等の補強剤または充填剤、2価金属の酸化物または水酸化物、ハイドロタルサイト等の受酸剤、その他必要な配合剤が配合された上で、オープンロール、ニーダ等を用いる任意の混練手段により組成物の調製が行われ、約160~200℃、約3~30分間のヒートプレスによる一次加硫および必要に応じて約150~250℃、約0.5~24時間の二次加硫を行うことにより、オイルシールなどのシール材へと加硫成形される。
【0021】
得られる加硫成形物は、断面粗さの算術平均高さが約0.1~1.0μm Saとなるものが選択される。またその断面粗さの最大高さは約10~20μm Szである。
【実施例0022】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0023】
実施例1
VdF-HFP共重合体(デュポン製品バイトンA500) 100重量部
カーボンブラック(CANCARB社製品THERMAX N990 LSR) 2 〃
珪藻土(中央シリカ製品オプライトW3005K;平均粒子径 2.7μm) 20 〃
酸化マグネシウム(協和化学工業製品スターマグ CX-150) 5 〃
水酸化カルシウム(近江化学工業製品CALDIC#1000) 5 〃
ビスフェノールAF50重量%フッ素ゴム希釈品 2.3 〃
(ユニマテック製品CHEMINOX AF-50)
35重量%リン酸塩系架橋促進剤希釈品(同社製品B-35F) 1 〃
以上の各成分を密閉式混練機およびオープンロールを用いて混練し、2RT-35tプレス機を用いて、180℃、4分間のプレス加硫および200℃、15時間のオーブン加硫(二次加硫)を行って厚さ2mmの粗さ測定用試験片およびオイルシールを加硫成形した。
【0024】
実施例2
実施例1において、カーボンブラック量が13.5重量部に、また珪藻土量が14.1重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0025】
実施例3
実施例1において、カーボンブラック量が18重量部に変更され、また珪藻土の代わりにPTFE(AGC社製品FLUON PTFE L-172JE;平均粒子径0.24μm)が同量(20重量部)用いられた。
【0026】
実施例4
実施例3において、カーボンブラック量が30重量部に変更されて用いられた。
【0027】
比較例1
実施例1において、珪藻土として中央化成製品SILIKA ♯6B(平均粒子径12.6μm)が同量(20重量部)用いられた。
【0028】
比較例2
実施例1において、珪藻土が用いられなかった。
【0029】
比較例3
実施例1において、珪藻土の代わりにカーボンビーズ(群栄化学工業製品Marilin GC-025;平均粒子径25μm)が同量(20重量部)用いられた。
【0030】
比較例4
比較例1において、珪藻土量が70重量部に変更して用いられた。
【0031】
以上の各実施例および比較例で得られたテストピースを用いて粗さ測定が、またオイルシールを用いて軸耐久性の評価を行った。
粗さ:JIS B0601、ISO 4287準拠、カットオフ;λs 2.5μm、λc 0.8mm
ゴム組成物の加硫成型品をスライサー等を用いてカットし、その平滑な断面を
レーザー顕微鏡を用いて非接触法により観察
算術平均高さの算出および最大高さの計測を行った
軸耐久性試験:オイルシールを回転試験機にセットし、粒径 2.0μmのアルミナ(市場
回収油の金属異物を想定)含有タービン油を回転軸を中心とした状態
で密封し、試験油温度 120℃、回転数 1500rpmの条件下で、正転1時
間および休止5分間を1サイクルとして120時間の運転を行い、軸の摩
耗深さを測定
軸の摩耗深さが20μm未満のものを○、20μm以上のものを×と評価
【0032】
以上の各実施例および比較例で得られた結果は、次の表に示される。
表
実 施 例 比 較 例
測定・評価項目 1 2 3 4 1 2 3 4
〔メスカット面粗さ〕
算術平均高さ(μm Sa) 0.79 0.53 0.68 0.55 1.16 - 2.70 -
最大高さ (μm Sz) 17.6 16.7 13.6 15.2 21.7 - 45.7 -
〔軸耐久性〕
軸摩耗深さ評価 ○ ○ ○ ○ × - × -
〔シール性〕
ポンプ量測定 △ ○ ○ ○ 〇 × 〇 -
【0033】
以上の結果より、次のことがいえる。
(1) 各実施例では、微細な充填剤を使用し、材料表面の粗さを小さくすることにより、リップシール摺動面に異物が噛み込み難くなり、軸耐久性が向上している。
(2) 充填剤の平均粒子径が大きい場合、異物が噛み込み易く、所望の軸耐久性を担保することができない(比較例1、3)。
(3) 充填剤を配合しない場合には、オイルのポンプ機能が低下してしまい、十分なシール性を得ることができない(比較例2)。
(4) 充填剤の配合量が多すぎると、混練時に砂状になりやすく、混練ができなくなってしまう(比較例4)。