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特開2023-159479抗ウィルス性フィルム、包装袋及びシール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159479
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】抗ウィルス性フィルム、包装袋及びシール
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20231025BHJP
   B65D 30/02 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
B32B27/18 F
B65D30/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021019998
(22)【出願日】2021-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2020148912
(32)【優先日】2020-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】戸出 良平
(72)【発明者】
【氏名】村田 芳綱
【テーマコード(参考)】
3E064
4F100
【Fターム(参考)】
3E064BA16
3E064BA21
3E064BA60
3E064BB03
3E064BC20
3E064EA30
4F100AB02C
4F100AB12C
4F100AB15C
4F100AB16C
4F100AB17C
4F100AB18C
4F100AB21C
4F100AB24C
4F100AB25C
4F100AK01C
4F100AK41B
4F100AK63A
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CB00A
4F100CB05A
4F100DE01C
4F100EH46C
4F100GB15
4F100GB90
4F100JC00
4F100JC00C
4F100JK17B
4F100JL12A
(57)【要約】
【課題】少量の抗ウィルス剤を使用した抗ウィルス性のフィルムであって、十分な抗ウィルス性能を発揮し、しかも、抗ウィルス剤が脱落し難いフィルムを提供すること。
【解決手段】フレキシブルなフィルムを基材11として、この基材11の一方の面に抗ウィルス性を有する塗布層12を形成し、他方の面に接着層13を形成して抗ウィルス性フィルム10Aとする。そして、前記塗布層12を、樹脂バインダー中に抗ウィルス剤を分散させた組成物を塗布したもので構成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレキシブルなフィルムを基材として、この基材の一方の面に抗ウィルス性を有する塗布層を形成し、他方の面に接着層を形成して成る抗ウィルス性フィルムにおいて、
前記塗布層が、樹脂バインダー中に抗ウィルス剤を分散させた組成物を塗布した層であることを特徴とする抗ウィルス性フィルム。
【請求項2】
前記塗布層の厚みが0.5μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の抗ウィルス性フィルム。
【請求項3】
元素記号がAg,Cu,Sb,Ir,Ti,Ge,Sn,Tl,Pt,Pd,Bi,Au,Fe,Co,Ni,Zn、Inで表される金属のいずれか又はその組み合わせ、あるいはその化合物を抗ウィルス成分として、前記抗ウィルス剤がこの抗ウィルス成分を含有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の抗ウィルス性フィルム。
【請求項4】
前記塗布層が前記基材上に直接積層されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の抗ウィルス性フィルム。
【請求項5】
前記塗布層が抗ウィルス成分を担持した粒子を含み、この抗ウィルス成分担持粒子が塗布層表面に露出しており、この露出した抗ウィルス成分担持粒子の露出面積が塗布層表面の全面積の5.0%以上を占めていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の抗ウィルス性フィルム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の抗ウィルス性フィルムで構成したことを特徴とするシール。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載の抗ウィルス性フィルムで構成した包装袋であって、前記塗布層が包装袋外表面に配置されていることを特徴とする抗ウィルス性包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウィルス性を有するフィルムと、このフィルムで構成された包装袋及びラベルに関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、現代の生活では包装袋は不可欠である。例えば、食品を初めとして、多くの商品が、プラスチックを主体とする包装袋の中に収容されて販売されている。
【0003】
これらの商品は包装袋に収容された状態でスーパーマーケット等の店頭に並び、不特定多数の消費者が手に取って、その商品の内容、品質、消費期限、価格等を確認し、購入するか否か検討する。そして、このように取って検討した多くの商品のうち、一部の商品を購入し、その他の商品をもとに戻す。
【0004】
ところで、現代生活はさまざまなウィルスに感染する危険に曝されている。これら多数のウィルスの中には、人間が感染しないものも多いが、人間が感染するものもある。人間がウィルスに感染する経路は、例えば、感染した人間が感染源として商品を収容した包装袋に触れてウィルスを含む体液が包装袋の外面に付着し、次に、別の人間がこの包装袋に触れて、前記体液中のウィルスを体内に取り込むことによっておこる。
【0005】
そこで、このような間接的な接触感染を防ぐため、抗ウィルス剤を混練して製膜したフィルムが提案されている(特許文献1)。このフィルムで製造した容器においては、感染源となる感染者がこの包装袋に触れてその体液が付着した場合でも、体液中のウィルスの感染力を低下させることができるから、別の人間がこの包装袋に触れてもその感染の危険を低減することができる。
【0006】
しかし、体液が接触するのは包装袋の外表面のみであり、ウィルスの感染力を低下させる抗ウィルス剤は包装袋の外表面に位置する抗ウィルス剤だけである。これに対し、抗ウィルス剤は包装袋の全体に一様に分布しているから、ほとんどの抗ウィルス剤はその機能を発揮しない。このため、この包装袋においては、必要量をはるかに超える大量の抗ウィルス剤を要するという問題があった。
【0007】
一方、特許文献2は、粉末状の抗ウィルス剤をスプレー噴霧して表面に付着させたフィルムを提案している。このフィルムにおいては、特許文献1のフィルムと同様に、表面に付着したウィルスの感染力を低下させることができる。しかも、抗ウィルス剤はフィルム表面に付着しているだけなので、必要最小限の抗ウィルス剤を要するに過ぎない。
【0008】
しかし、このフィルムにおいては、粉末状の抗ウィルス剤が表面に付着しているだけなので、フィルム表面から抗ウィルス剤が脱離し易く、脱離によって抗ウィルス性能そのものが失われるという問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開2013/005446
【特許文献2】特開2018-134753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、少量の抗ウィルス剤を使用した抗ウィルス性のフィルムであって、十分な抗ウィルス性能を発揮し、しかも、抗ウィルス剤が脱落し難いフィルムを提供することを目的とする。なお、このフィルムは、例えば、包装袋を構成する包装材料として使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、請求項1に記載の発明は、フレキシブルなフィルムを基材として、この基材の一方の面に抗ウィルス性を有する塗布層を形成し、他方の面に接着層を形成して成る抗ウィルス性フィルムにおいて、
前記塗布層が、樹脂バインダー中に抗ウィルス剤を分散させた組成物を塗布した層であることを特徴とする抗ウィルス性フィルムである。
【0012】
次に、請求項2に記載の発明は、前記塗布層の厚みが0.5μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の抗ウィルス性フィルムである。
【0013】
次に、請求項3に記載の発明は、元素記号がAg,Cu,Sb,Ir,Ti,Ge,Sn,Tl,Pt,Pd,Bi,Au,Fe,Co,Ni,Zn、Inで表される金属のいずれか又はその組み合わせ、あるいはその化合物を抗ウィルス成分として、前記抗ウィルス剤がこの抗ウィルス成分を含有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の抗ウィルス性フィルムである。
【0014】
次に、請求項4に記載の発明は、前記塗布層が前記基材上に直接積層されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の抗ウィルス性フィルムである。
【0015】
次に、請求項5に記載の発明は、前記塗布層が抗ウィルス成分を担持した粒子を含み、この抗ウィルス成分担持粒子が塗布層表面に露出しており、この露出した抗ウィルス成分担持粒子の露出面積が塗布層表面の全面積の5.0%以上を占めていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の抗ウィルス性フィルムである。
【0016】
次に、請求項6に記載の発明は、請求項1~5のいずれかに記載の抗ウィルス性フィルムで構成したことを特徴とするシールである。
【0017】
次に、請求項7に記載の発明は、請求項1~5のいずれかに記載の抗ウィルス性フィルムで構成した包装袋であって、前記塗布層が包装袋外表面に配置されていることを特徴とする抗ウィルス性包装袋である。
【発明の効果】
【0018】
本発明においては、抗ウィルス剤が抗ウィルス性フィルムの全体に配合されているわけではなく、基材表面の塗布層に抗ウィルス剤が含まれるだけなので、少量の抗ウィルス剤を要するに過ぎない。しかし、その配置された位置はウィルスが付着する表面であるため、付着するウィルスとの接触機会が多い。このため、高い抗ウィルス性能を発揮する。
【0019】
そして、抗ウィルス剤は樹脂バインダー中に分散されているため、脱落することがなく、長期間に渡って優れた抗ウィルス性能を発揮するのである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1(a)~(d)は、それぞれ、本発明の抗ウィルス性フィルムの具体例を示す断面図である。
図2図2(a)~(c)は、それぞれ、比較例のシートを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本開示の具体例を説明する。図1(a)~(d)は、それぞれ、本発明の抗ウィルス性フィルムの4つの具体例を示す断面図である。
【0022】
これら4つの具体例のうち、第1の具体例に係る抗ウィルス性フィルム10Aは、基材11の一方の面に抗ウィルス性を有する塗布層(抗ウィルス層)12を形成すると共に、基材11の他方の面に接着層13を形成して構成されたものである(図1(a)参照)。なお、抗ウィルス層12は単層構造であり、また、基材11表面とこの抗ウィルス層12との間に他の層を介在させることなく、抗ウィルス層12が基材11表面に直接積層されている。
【0023】
第2の具体例に係る抗ウィルス性フィルム10Bは、接着層13上に剥離容易に離型シート14が積層されているもので、その他は第1の具体例に係る抗ウィルス性フィルム10Aと同様である(図1(b)参照)。なお、離型シート14は、この離型シート14を剥離除去するまで接着層13の接着を防止する役割を有しており、主に接着層13が粘着剤等で構成されている場合に適用される。
【0024】
また、第3の具体例に係る抗ウィルス性フィルム10Cは、基材11の一方の面に中間介在層15を介して抗ウィルス層12を形成して構成されたものである(図1(c)参照)。もちろん、他方の面には接着層13が設けられている。
【0025】
また、第4の具体例に係る抗ウィルス性フィルム10Dは、抗ウィルス性フィルム10Aと同様に基材11の一方の面に抗ウィルス層12を直接形成し、他方の面に接着層13を形成して構成されたものであるが、抗ウィルス層12は2層構造を有している(図1(d)参照)。例えば、1回の塗工では実現できない抗ウィルス層12の厚みを複数回の塗工で実現できる。また、抗ウィルス性フィルム10Cの表面に近い層12は基材11に近い層12に比較して抗ウィルス剤の濃度が高く構成されている(図1(d)参照)。なお、2層構造に限らず、抗ウィルス層12を3層以上の多層構造とすることもできるが、この場合であっても、抗ウィルス性フィルム10の表面に近い層ほど抗ウィルス剤の濃度が高いことが望ましい。ウィルスは抗ウィルス性フィルム10の表面に付着するため、抗ウィルス性フィルム10表面に近い層の抗ウィルス剤濃度が高いほど、抗ウィルス剤の抗ウィルス性能を生かすことができるからである。また、それぞれの層にはピンホールが発生することがあるが、このように多層構造とした場合には、各層のピンホールの位置が一致することはないから、多層構造の抗ウィルス全体としてピンホールを防止することができる。
【0026】
ここで、基材11はフレキシブルなフィルムで構成されている必要がある。このような基材11としては、機械的強度や寸法安定性を有するフィルムを好ましく使用できる。例えば、各種二軸延伸フィルムである。その材質としては、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、ポリカーボネート、ポリアクリルニトリル、ポリイミド等が例示できる。また、これら各種材質のフィルムを積層し、その他のフィルムを積層した多層構造のフィルムであってもよく、更に、蒸着層や印刷層を設けたフィルムを基材11としてもよい。
【0027】
その他のフィルムとしては、例えば、アルミニウム箔等の金属箔を例示できる。その層構成中に金属箔を含む基材フィルムは、水蒸気や酸素ガス等のバリア性に優れている。
【0028】
次に、蒸着層としては、アルミニウム等の金属を蒸着して形成した金属蒸着層の他に、無機物を材質とする無機蒸着層を利用することができる。無機物としては、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化カリウム、酸化錫、酸化ナト
リウム、酸化ホウ素、酸化チタン、酸化鉛、酸化ジルコニウム、酸化イットリウムなどの金属の酸化物が使用できる。中でも生産性、価格面から酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどが好ましい。これら金属蒸着層又は無機蒸着層をその層構成中に含む基材フィルムも、水蒸気や酸素ガス等のバリア性に優れている。
【0029】
次に、抗ウィルス層12は、樹脂バインダー中に抗ウィルス剤を分散させた組成物を塗布して構成した層である。
【0030】
このような抗ウィルス剤としては、元素記号がAg,Cu,Sb,Ir,Ti,Ge,Sn,Tl,Pt,Pd,Bi,Au,Fe,Co,Ni,Zn、Inで表される金属あるいはその化合物のいずれかを抗ウィルス成分として、この抗ウィルス成分を含有しているものを使用することができる。
【0031】
金属又は金属化合物から成る抗ウィルス成分に含まれる金属原子は正の電荷を有している。ウィルスには脂質を含むエンベロープと呼ばれている膜で包まれているウィルスと、エンベロープを持たないウィルスとがあるが、これらのうちエンベロープで包まれているウィルスのエンベロープは負に帯電しており、このエンベロープを金属原子が引き付けて不活性化することにより、その感染力を奪うのである。また、この金属又はその化合物によって活性酸素が発生し、この活性酸素の作用により、ウィルスを不活性化してその感染力を奪うこともある。
【0032】
また、このような金属又はその化合物は、後述するように、紫外線硬化性の樹脂バインダーに紫外線照射して硬化させた場合にも安定であることから、紫外線照射の後にも抗ウィルス層12は高い抗ウィルス性能を発揮する。
【0033】
金属又はその化合物から成るこのような抗ウィルス成分を含む抗ウィルス剤の中には、市販されているものもある。例えば、銀(Ag)系の抗ウィルス剤としては、(株)タイショーテクノス製;ビオサイドTB-B100、東亜合成(株)製;ノバロンIV1000、DIC(株)製;W260、東洋インキ製造(株)製;Z253コウキンAP10、大日精化工業(株)製;PCT-NT ANV添加剤等がある。また、銅(Cu)系の抗ウィルス剤としては、(株)NBCメッシュテック製;キュフィテック等がある。また、亜鉛(Zn)系の抗ウィルス剤としては、(株)タイショーテクノス製;3000Dが知られている。
【0034】
次に、この抗ウィルス剤を分散させる樹脂バインダーは、抗ウィルス層12の凝集性を高め、抗ウィルス剤を抗ウィルス層12に固定すると共に、この抗ウィルス層12と基材11との密着力を高める機能を有するものである。また、この樹脂バインダーは抗ウィルス層12の耐擦性を向上する。このように抗ウィルス剤を基材11表面に固定してその脱落を防止するため、例えば表面に手指等が接触した場合にも抗ウィルス剤が脱離することなく、その抗ウィルス性能を長期間に渡って維持することができる。なお、このように手指等の接触の有無に拘わらず抗ウィルス性能を維持できるため、この抗ウィルス性フィルム10で商品容器を構成して、多数の人間が次々に接触した場合であっても、その感染を防止又は抑制できるのである。
【0035】
以上のような機能を発揮するため、樹脂バインダーとしては、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、あるいはポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂等の樹脂で構成できる。
【0036】
そして、これら樹脂バインダーを適当な溶媒に溶解又は分散させ、これに抗ウィルス剤
を配合・分散させて塗布用組成物とし、この組成物を塗布し、乾燥して硬化させることにより、抗ウィルス層12を形成することができる。抗ウィルス剤の配合量は、塗布用組成物の固形分(塗布、乾燥、硬化後の抗ウィルス層12に残る成分の合計量)に対して0.5質量%以上であることが望ましい。より望ましくは1.0質量%以上である。
【0037】
抗ウィルス剤の配合・分散方法としては公知の方法を採用してよい。例えば、プロペラで攪拌する分散方法、ホモジナイザーを使用する分散方法、ビーズミルを使用する分散方法等である。
【0038】
また、塗布方法も公知の方法を採用してよい。例えば、グラビアコーティング方法、ロールコーティング方法、ダイコーティング方法等である。
【0039】
また、紫外線照射方法も公知である。例えば、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、LEDランプ等を使用して紫外線を照射することができる。
【0040】
こうして形成された抗ウィルス層12の表面には抗ウィルス剤が露出していることが必要である。前述のように、感染した人間の体液に含まれるウィルスは抗ウィルス性フィルム10の表面に付着するから、その表面に抗ウィルス剤が露出している場合には、この抗ウィルス剤とウィルスとの接触確率が高まり、この結果高い抗ウィルス性能を発揮するのである。
【0041】
抗ウィルス剤は、抗ウィルス成分が粒子として抗ウィルス剤中に分散されているものと、多孔質粒子(担持粒子)に抗ウィルス成分を分散させたものがある。担持粒子を用いる場合、高い抗ウィルス性能を発揮させるため、露出した担持粒子の露出面積が塗布層表面の全面積に占める面積率(抗ウィルス剤の表面被覆率)は5.0%以上であることが好ましい。また、粒子の脱落を防ぐため、表面被覆率を50%以下としてもよい。
【0042】
次に、抗ウィルス層12の厚みは0.5μm以上であることが望ましい。その厚みが0.5μm以上の場合、抗ウィルス層12内に抗ウィルス剤の量を十分に確保することができ、このため、高い抗ウィルス性能を発揮することができる。もっとも、次に説明するように、基材11上に単層構造の抗ウィルス層12を直接積層している場合には、この単層構造の抗ウィルス層12のピンホールを防ぐため、1.0μm以上の厚みを有することが望ましい。より望ましくは、2.0μm以上である。
【0043】
一方、第3の具体例に係る抗ウィルス性フィルム10Cのように、基材11、中間介在層15及び抗ウィルス層12の3層で構成されている場合には、中間介在層15と抗ウィルス層12のどちらにもピンホールが発生することがあるが、各層15,12のピンホールの位置が一致することはないから、これら中間介在層15及び抗ウィルス層12の厚みは、いずれも、1.0μmより薄いものであってよい。
【0044】
また、第4の具体例に係る抗ウィルス性フィルム10Dのように、抗ウィルス層12が基材11に近い層12と抗ウィルス性フィルム10Cの表面に近い層12との2層構造を有している場合にも、各層12,12の厚みは、いずれも、1.0μmより薄くてよい。各層12,12のピンホールの位置が一致することはないからである。
【0045】
次に、接着層13は、加熱加圧によって接着する感熱接着性樹脂で構成することができる。例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、あるいはポリ塩化ビニル系樹脂等が使用できる。ポリオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチ
レン-アクリル酸エチル共重合体(EAA)、アイオノマー、ポリプロピレン等が例示できる。また、ポリエステル系樹脂としては、テレフタール酸とエチレングリコールの他に異種のモノマーを加えて重合したいわゆる非結晶性ポリエステルを好ましく使用できる。これらの樹脂は押出し機により製膜してフィルム状として使用すればよい。
【0046】
また、接着層13を常温で接着力を有する感圧接着剤で構成することもできる。例えば、アクリル系感圧接着剤、ポリウレタン系感圧接着剤、ポリエステル系感圧接着剤等である。なお、このように接着層13を常温で接着力を有する感圧接着剤で構成する場合には、その表面を離型シート14で保護することが望ましい(図1(b)参照)。この離型シート14は周知である。
【0047】
次に、中間介在層15は基材11と抗ウィルス層12との間に介在させる層である。この層15には抗ウィルス剤が含まれておらず、例えば、基材11と抗ウィルス層12との密着力を向上させる目的を有している。また、基材11が表面凹凸を有する場合には、その表面を平滑化する平滑化層として設けることもできる。
【0048】
この中間介在層15としては、例えば、各種接着剤を塗布して形成することができる。例えば、ポリオールとイソシアネートとを配合した2液硬化型ドライラミネート用接着剤である。
【0049】
また、熱可塑性樹脂を溶融押出しコーティングして中間介在層15としたり、熱可塑性樹脂を溶剤中に溶解又は分散してコーティングして形成することもできる。このように熱可塑性樹脂によって中間介在層15とする場合には、この中間介在層15と抗ウィルス層12との密着力を向上させるため、中間介在層15の熱可塑性樹脂と抗ウィルス層12中の樹脂バインダーとは同じタイプの樹脂であることが望ましい。例えば、抗ウィルス層12中の樹脂バインダーがポリエステル系樹脂であれば、中間介在層15を構成する熱可塑性樹脂もポリエステル系樹脂である。
【0050】
この中間介在層15も公知の方法で塗布形成することができる。中間介在層15を紫外線硬化性樹脂で構成する場合には、中間介在層15を構成する紫外線硬化性樹脂を塗布乾燥し、次に抗ウィルス層12の塗布用組成物を塗布乾燥した後、紫外線照射することにより、中間介在層15と抗ウィルス層12とを言い一括して硬化することが望ましい。
【0051】
この中間介在層15は任意の厚みでよく、その目的に応じて決定すればよい。
【0052】
なお、中間介在層15として予め製膜されたフィルムを使用することもできるが、この場合には、フィルムを基材11に接着して中間介在層15とすればよい。接着方法や厚みは任意である。
【0053】
前述のとおり、この抗ウィルス性フィルム10は包装袋を構成する包装材料として利用できる。このように包装袋を構成する場合には、手指が接触する機会の多い包装袋外表面に前記抗ウィルス層12を配置することが望ましい。
【0054】
また、この抗ウィルス性フィルム10を接着層13を介して、プラスチック容器、紙製容器、ビン、缶等から成る包装容器や、各種物品、ドアノブや階段の手すり等、接触機会の多い領域に貼付するシールとして用いることもできる。
【実施例0055】
以下、実施例及び比較例によって本発明を説明する。
【0056】
これら実施例及び比較例においては、基材11として、東洋紡(株)製E5104(ポリエステルフィルム,厚み12μm)を使用した。
【0057】
また、抗ウィルス層12を構成する樹脂バインダーとして、DICグラフィックス(株)製UCクリヤーを準備した。
【0058】
また、抗ウィルス剤として、次の2種類の抗ウィルス剤を準備した。
抗ウィルス剤A:(株)タイショーテクノス製ビオサイドTB-B100(粒子状の銀(Ag)系抗ウィルス剤)。
抗ウィルス剤B:(株)NBCメッシュテック製キュフィテック(粒子状の銅(Cu)系の抗ウィルス剤)。
抗ウィルス剤C:(株)大日精化工業製PTC-NT ANV 添加剤(ST)(粒子状の銀(Ag)系の抗ウィルス剤)。
【0059】
また、接着層14を構成する接着剤として、感熱接着性樹脂と粘着剤とを準備した。感熱接着性樹脂は三井化学東セロ(株)製直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(厚さ30μm)である。粘着剤は東洋モートン(株)製SP-205である。また、離型シート14としては、片面にシリコーン系離型剤を塗布したフィルムを使用した。
【0060】
(実施例1)
この例は第1の具体例に係る抗ウィルス性フィルム10Aで、図1(a)に示すように、基材11、抗ウィルス層12及び接着層13の3層で構成されるものである。
【0061】
すなわち、まず、前記樹脂バインダー、抗ウィルス剤A及び希釈溶剤(メチルエチルケトン,略称MEK)を混合して塗布用組成物とし、この組成物を基材11の一方の面に塗布乾燥することにより、抗ウィルス層12を形成した。こうして形成した抗ウィルス層12に含まれる抗ウィルス剤は、抗ウィルス層12の7質量%である。また、抗ウィルス層12の厚みは3.0μmである。
【0062】
また、抗ウィルス層12の表面には抗ウィルス成分が担持された粒子が露出した。露出した粒子の露出面積が塗布層表面の全面積に占める面積率(抗ウィルス剤の表面被覆率)は20.4%であった。なお、この表面被覆率は、光学顕微鏡((株)ハイロックス製KH-8700)を使用した表面観察により、その観察範囲内の抗ウィルス成分担持粒子の直径と数とを数え、円形近似して、抗ウィルス剤の占める面積を算出し、これを観察範囲の面積で除したものである。
【0063】
次に、基材11の他方の面に感熱接着性樹脂を熱ラミネートして、実施例1の抗ウィルス性フィルムを製造した。
【0064】
(実施例2)
この例は第1の具体例に係る抗ウィルス性フィルム10Aで、図1(a)に示すように、基材11、抗ウィルス層12及び接着層13の3層で構成されるものである。なお、実施例1の抗ウィルス性フィルムとの相違は、抗ウィルス剤Aの代わりに抗ウィルス剤Bを使用したこと、抗ウィルス剤の配合量が異なることである。
【0065】
すなわち、まず、前記樹脂バインダー、抗ウィルス剤B及び希釈溶剤(メチルエチルケトン,略称MEK)を混合して塗布用組成物とし、この組成物を基材11の一方の面に塗布乾燥することにより、抗ウィルス層12を形成した。こうして形成した抗ウィルス層12に含まれる抗ウィルス剤は、抗ウィルス層12の0.6質量%であり、抗ウィルス層12の厚みは1.0μmである。
【0066】
次に、基材11の他方の面に感熱接着性樹脂を熱ラミネートして、実施例2の抗ウィルス性フィルムを製造した。
【0067】
(実施例3)
この例は第2の具体例に係る抗ウィルス性フィルム10Bで、図1(b)に示すように、基材11の一方の面に抗ウィルス層12、他方の面に接着層13を形成し、その接着層13に離型シート14を貼り合わせて構成されたものである。
【0068】
すなわち、まず、前記樹脂バインダー、抗ウィルス剤A及び希釈溶剤(メチルエチルケトン,略称MEK)を混合して塗布用組成物とし、この組成物を基材11の一方の面に塗布乾燥することにより、抗ウィルス層12を形成した。こうして形成した抗ウィルス層12に含まれる抗ウィルス剤は、抗ウィルス層12の7質量%であり、抗ウィルス層12の厚みは3.0μmである。また、抗ウィルス剤の表面被覆率は20.4%であった。
【0069】
次に、基材11の他方の面に粘着剤を塗布して厚さ15μmの接着層13を形成した。そして、この接着層13に離型シート14を貼り合わせて、実施例2の抗ウィルス性フィルムを製造した。
【0070】
(実施例4)
この例は第1の具体例に係る抗ウィルス性フィルム10Aで、図1(a)に示すように、基材11、抗ウィルス層12及び接着層13の3層で構成されるものである。なお、実施例1の抗ウィルス性フィルムとの相違は、抗ウィルス剤Aの代わりに抗ウィルス剤Cを使用したこと、抗ウィルス剤の配合量が異なることである。
【0071】
すなわち、まず、前記樹脂バインダー、抗ウィルス剤B及び希釈溶剤(酢酸エチル)を混合して塗布用組成物とし、この組成物を基材11の一方の面に塗布乾燥することにより、抗ウィルス層12を形成した。こうして形成した抗ウィルス層12に含まれる抗ウィルス剤は、抗ウィルス層12の5.0質量%であり、抗ウィルス層12の厚みは3.0μmである。
【0072】
次に、基材11の他方の面に感熱接着性樹脂を熱ラミネートして、実施例4の抗ウィルス性フィルムを製造した。
【0073】
(比較例1)
この例は、図2(a)に示すように、抗ウィルス層12を設けることなく基材11だけでシート20Aとしたものである。
【0074】
(比較例2)
この例は、図2(b)に示すように、基材12の一方の面に、抗ウィルス剤を含まず、樹脂バインダーだけの樹脂層16を設けたものである。樹脂層16の厚みは1.0μmである。
【0075】
(比較例3)
この例は、図2(c)に示すように、樹脂バインダーを使用することなく、抗ウィルス剤を基材12の表面に付着させて、抗ウィルス剤付着層17を形成したものである。
【0076】
すなわち、抗ウィルス剤と希釈溶剤(メチルエチルケトン)とを混合して塗液化し、基材11の一方の面に塗布乾燥して抗ウィルス剤付着層17を形成した。前述のように抗ウィルス剤は粒子状であるから、抗ウィルス剤付着層17は脱落し易いものであるが、その
厚みはおおむね1μmである。
【0077】
そして、基材11の他方の面に感熱接着性樹脂を熱ラミネートした。
【0078】
(評価)
これら実施例1~3,比較例1~3の抗ウィルス性フィルムを、3つの観点から評価した。抗ウィルス性能と脱離耐性である。
【0079】
(抗ウィルス性能の評価方法)
ISO 21702:2019に規定するウィルス感染価によって抗ウィルス性能を評価した。
【0080】
まず、供試試料を滅菌シャーレ内に置き、0.4mlのウィルス液をこれら試料上に接種した。なお、ウィルス液としては、エンペローブを有するインフルエンザウィルス(H3N2、A/Hong Kong/8/68)を5.0×10PFU/ml含むウィルス液を使用した。その後、40mm四方のポリエチレンフィルムを被せた。次に、シャーレに蓋をした後、温度25℃、湿度90%RH以上の条件で試料とウィルスを接種した。24時間経過後、10mlのSCDLP培地をシャーレに注ぎ、ウィルスを洗い出した。そして、この洗い出し液のウィルス感染価をプラーク法で測定した。
【0081】
プラーク法によるウィルス感染価の測定は、前記洗い出し液中のウィルスを培養してそのプラークの数を計測するプラーク数計測工程と、このプラーク数計測工程で計測されたプラーク数に基づいてウィルス感染価を算出するウィルス感染価算出工程に分けて行った。
【0082】
まず、プラーク数計測工程は次のとおりである。すなわち、宿主細胞を6ウェルプレート上に単層培養し、階段希釈した前記洗い出し液を各ウェルに0.1mlずつ接種した。二酸化炭素濃度5%、37℃の条件で1時間培養し、細胞にウィルスを吸着させた後、前記6ウェルプレートに寒天培地を注いで更に2~3日培養した。その後、細胞を固定・染色し、形成されたプラークの数を計測した。
【0083】
次に、ウィルス感染価算出工程は、次の式に基づいて算出した。
V=(10×C×D×N)/A
ここで、V、C、D、N、Aは、それぞれ、次の意味である。
V:試料1cm当たりのウィルス感染価。
C:計測されたプラーク数
D:プラーク数を計測したウェルの希釈倍率
N:SCDLP量
A:試料とウィルスとの接触面積(前記ポリエチレンフィルムの面積)
次に、供試試料として無加工試料を使用した場合の前記ウィルス感染価と、実施例1~3、比較例1~3の抗ウィルス性フィルムを使用した場合の前記ウィルス感染価とを使用して、次の式に基づいて、これら実施例1~3、比較例1~3の抗ウィルス性フィルムの抗ウィルス活性値を算出した。
抗ウィルス活性値=log(Vb)-log(Vc)
ここで、log(Vb)及びlog(Vc)は次の意味である。
log(Vb):供試試料として無加工試料を使用した場合の24時間後の1cm当たりのウィルス感染価の常用対数価。
log(Vbc):供試試料として実施例1~3、比較例1~3の抗ウィルス性フィルムを使用した場合の24時間後の1cm当たりのウィルス感染価の常用対数価。
【0084】
そして、算出した抗ウィルス活性値を次の〇、×の2段階で評価した。
〇:抗ウィルス活性値が2.0log10以上である場合。
×:抗ウィルス活性値が2.0log10未満である場合。
【0085】
(脱離耐性の評価方法)
JIS K5600付着性試験に準拠して、脱離耐性を評価した。すなわち、1mm間隔でクロスカットした後、透明感圧テープを貼り付け、抗ウィルス層12等の塗布膜が透けて見えるように指でしかりこすりつけた後、60度の角度で、0.5~1.0秒で引き剥がした。
【0086】
JIS K5600付着性試験では、この試験結果を分類0~分類5の6段階に分類している。その分類0~分類5は次のとおりである。
分類0:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にもはがれがない。
分類1:カットの交差点における塗膜の小さなはがれ、クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に5%を上回ることはない。
分類2:塗膜がカットの縁に沿って、及び/又は交差点においてはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に5%を超えるが、15%を上回ることはない。
分類3:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており,及び/又は目のいろいろな部分が,部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に15%を超えるが、35%を上回ることはない。
分類4:塗膜がカットの縁に沿って,部分的又は全面的に大はがれを生じており,及び/又は数か所の目が部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に65%を上回ることはない。
分類5:分類4でも分類できないはがれ程度のいずれか。
【0087】
そして、その試験結果が分類0~分類2の場合、脱離耐性を「〇」と評価し、分類3~分類5の場合、脱離耐性を「×」と評価した。
【0088】
(評価結果及び考察)
抗ウィルス性能及び脱離耐性の評価結果を表1に示す。なお、表中、「被覆率」は抗ウィルス担持粒子の表面被覆率を意味している。
【0089】
【表1】
【0090】
この結果から、抗ウィルス剤を使用しない場合(比較例1,2)には抗ウィルス性能が劣ることが分かる。
【0091】
一方、樹脂バインダーを使用することなく、抗ウィルス剤を基材表面に付着させた場合(比較例3)には、優れた抗ウィルス性能を発揮するものの、抗ウィルス剤が脱離し易く、抗ウィルス性能を維持し難いことが理解できる。
【0092】
これに対し、抗ウィルス剤を樹脂バインダーで固定し、しかも、前記抗ウィルス剤の表面被覆率を5.0%以上とした場合(実施例1,3,4)には、優れた抗ウィルス性能を発揮し、しかも、脱離し難く、この結果、長期間に渡って優れた抗ウィルス性能を維持することができる。
【符号の説明】
【0093】
10A,10B,10C,10D:抗ウィルス性フィルム
11:基材
12:抗ウィルス層 12:基材に近い層 12:抗ウィルス性フィルムの表面に近い層
13:接着層
14:離型シート
15:中間介在層
請求項1~5のいずれかに記載の抗ウィルス性フィルムで構成した包装袋であって、前記塗布層が包装袋外表面に配置されていることを特徴とする抗ウィルス性包装袋。
図1
図2