(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159482
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】感情誘導装置、感情誘導方法およびそれらに用いるデータベースとニオイ分類表示物
(51)【国際特許分類】
A61B 5/16 20060101AFI20231025BHJP
【FI】
A61B5/16 120
A61B5/16 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069146
(22)【出願日】2022-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩井 幸一郎
(72)【発明者】
【氏名】幸田 勝典
(72)【発明者】
【氏名】村本 伸彦
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038PP03
4C038PS00
(57)【要約】
【課題】ニオイにより人を期待する感情へ誘導する感情誘導装置を提供する。
【解決手段】本発明は、現感情を推測する推測手段と、ニオイ成分とこのニオイ成分により生じ得る誘起感情とを関連づけたデータベースに基づいて、その現感情を期待感情へ近づけるニオイ情報を求める解析手段とを備える感情誘導装置である。感情誘導装置は、ニオイ情報に基づいて、少なくとも一種のニオイ成分を放出する放出手段をさらに備えるとよい。データベースは、例えば、ニオイ成分が誘起感情に関連付けて配列されてなる。このとき、感情を区分けし得る少なくとも二種以上の指標値(軸)が利用されてもよい。感情誘導装置は、プログラムを実行するコンピュータが、計測機器やニオイ放出機器と連携して実現される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
現感情を推測する推測手段と、
ニオイ成分と該ニオイ成分により生じ得る誘起感情とを関連づけたデータベースに基づいて、該現感情を期待感情へ近づけるニオイ情報を求める解析手段と、
を備える感情誘導装置。
【請求項2】
さらに、前記ニオイ情報に基づいて、少なくとも一種のニオイ成分を放出する放出手段を備える請求項1に記載の感情誘導装置。
【請求項3】
前記データベースは、感情を区分けし得る少なくとも二種以上の指標値を用いて、前記ニオイ成分が前記誘起感情に関連付けて配列されてなる請求項1または2に記載の感情誘導装置。
【請求項4】
現感情を推測する推測ステップと、
ニオイ成分と該ニオイ成分により生じ得る誘起感情とを関連づけたデータベースに基づいて、該現感情を期待感情へ近づけるニオイ情報を求める解析ステップと、
前記ニオイ情報に基づいて、少なくとも一種のニオイ成分を放出する放出ステップと、
を備える感情誘導方法。
【請求項5】
さらに、前記放出ステップ後の現感情を評価する評価ステップを備える請求項4に記載の感情誘導方法。
【請求項6】
感情を区分けし得る少なくとも二種以上の指標値を用いて、ニオイ成分が該ニオイ成分により生じ得る誘起感情に関連付けて配列されてなり、請求項4または5に記載の感情誘導方法に用いられるデータベース。
【請求項7】
前記指標値は、覚醒度と快度を含む請求項6に記載のデータベース。
【請求項8】
ニオイ成分を該ニオイ成分により生じ得る誘起感情に関連付けて配置したニオイ分類表示物。
【請求項9】
対称的な領域に、対照的な前記誘起感情を生じさせ得るニオイ成分がそれぞれ配置されている請求項8に記載のニオイ分類表示物。
【請求項10】
前記ニオイ成分毎および/または前記誘起感情毎に色分けされている請求項8または9に記載のニオイ分類表示物。
【請求項11】
前記ニオイ成分は、環状または円状に配置される請求項8または9に記載のニオイ分類表示物。
【請求項12】
感情を区分けし得る二つの指標軸からなる座標面上に表示されている請求項8または9に記載のニオイ分類表示物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、期待する感情へ誘導(人間の治療等に関連する医療行為を除く)できる感情誘導装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
人は、自身の特徴(性格等)のみならず、各時点毎の体調や外環境等に応じて、種々の感情を抱く。感情は、人の判断や行動等へ影響を及ぼすが、各時点の感情が好ましいとは限らない。例えば、怒り・イラツキ等の感情は、適確な判断や動作等を阻害し、危険の誘因ともなり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、α―ピネン(ニオイ成分)の放出により、ドライバー等の作業者に不快感等を与えずに、その覚醒度を高められることが記載されている。
【0005】
もっとも特許文献1は、ニオイ成分と覚醒度の関係を示しているに留まり、ニオイ成分による感情への影響や感情の誘導等については何ら記載していない。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、人の感情を好ましい方向へ誘導できる感情誘導装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、ニオイにより人の感情を誘導することを着想し、それを具現化した。これを発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0008】
《感情誘導装置》
(1)本発明は、現感情を推測する推測手段と、ニオイ成分と該ニオイ成分により生じ得る誘起感情とを関連づけたデータベースに基づいて、該現感情を期待感情へ近づけるニオイ情報を求める解析手段と、を備える感情誘導装置である。
【0009】
(2)本発明の感情誘導装置(単に「装置」ともいう。)によれば、現時点における人の感情(現感情)を、所望する感情(期待感情)へ誘導できるニオイ情報が求まる。そのニオイ情報に基づいてニオイ成分の放出を行えば、人の現感情を、例えば、その時々の状況や環境に適した感情へ近づけることが可能となる。
【0010】
《感情誘導方法》
本発明は、感情誘導方法(単に「方法」ともいう。)としても把握される。例えば、本発明は、現感情を推測する推測ステップと、ニオイ成分と該ニオイ成分により生じ得る誘起感情とを関連づけたデータベースに基づいて、該現感情を期待感情へ近づけるニオイ情報を求める解析ステップと、前記ニオイ情報に基づいて、少なくとも一種のニオイ成分を放出する放出ステップと、を備える感情誘導方法でもよい。
【0011】
《データベース》
本発明は、データベースとしても把握される。例えば、本発明は、ニオイ成分がそのニオイ成分により生じ得る誘起感情に関連付けて配列されてなるデータベースでもよい。誘起感情の区分けは、少なくとも二種以上の指標値を用いてなされてもよい。このデータベースは、上述した感情誘導装置や感情誘導方法に用いられる。
【0012】
《ニオイ分類表示物》
本発明は、ニオイ分類表示物としても把握される。例えば、本発明は、ニオイ成分をそのニオイ成分により生じ得る誘起感情に関連付けて配置したニオイ分類表示物(単に「表示物」ともいう。)でもよい。表示は、コンピュータに接続されたディスプレイ上になされてもよいし、紙媒体等になされてもよい。このような表示は、感情を区分けし得る二つの指標軸からなる座標面上になされてもよい。
【0013】
《その他》
(1)「手段(部)」と「ステップ(工程)」は相互に読み替えることができる。例えば、「~ステップ」を読み替えた「~手段」は「物」(装置等)の構成要素となる。また「~手段」を読み替えた「~ステップ」は「方法」の構成要素となる。
【0014】
本発明に係る「~手段」や「~ステップ」は、例えば、計算機(コンピュータ)でプログラムを実行して実現される。本発明は、それに必要なプログラム、プログラムに準じた「データ構造」(データベース)、それらを記憶した記憶媒体等としても把握される。
【0015】
コンピュータは、通常、少なくとも記憶部と制御部を備える。記憶部は、解析や制御に必要となるデータを格納する。記憶部は、例えば、一時的にデータを記憶する揮発性メモリ、長期間データを記憶する不揮発性メモリやハードディスク等からなる。制御部は、例えば、記憶部から読み出したデータ(例えば、感情の推測に必要な情報、ニオイ成分と誘起感情を対応づけた情報等)に基づいて演算する演算部(CPU等)、その演算結果に基づいて、コンピュータに接続(有線・無線を問わない。)された表示部(ディスプレイ)や外部機器(例えば、ニオイ放出部)へ指令を出すインターフェース部等からなる。
【0016】
(2)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】コンピュータにより実現される感情誘導処理に係るフローチャートである。
【
図2A】現感情の推測に用いられる計測項目例である。
【
図2B】ニオイ情報の解析に用いるデータベース例である。
【
図3】ニオイ成分と誘起感情からなるデータベースの作成過程例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、本発明の装置、方法、表示物、プログラム、データベース等のいずれにも適宜該当し得る。
【0019】
《推測手段・ステップ》
感情誘導を開始する時点(現状)の感情(現感情)を推測する。推測は、対象となる人(「対象者」という。)の生体情報、対象者がいる環境情報、対象者の自己情報(評価、分析、申告)等の少なくとも一つによりなされ得る。具体的にいうと、次の通りである。
【0020】
生体情報は、例えば、脳波、脳活動、瞳孔、顔温度、顔表情、脈波、心拍、体温、呼吸、動作等の少なくとも一種を測定して得られる。なお、脳活動は、例えば、光トポグラフィ(NIRS)等により計測される。心拍は、例えば、心電図等により計測される。動作は、例えば、加速度、角速度、角度(傾き)等を計測して得られる。
【0021】
環境情報は、例えば、温度、湿度、光の照度や色温度、CO2濃度、揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)の濃度、粉塵量等の少なくとも一種を測定して得られる。
【0022】
生体情報と感情の相関(データベース)は、例えば、Ekman. P., 1992a Are there basic emotions? Psychol. Rev. 99. 550-553.により明らかにされている。環境情報と感情の相関(データベース)は、例えば、I. Zhu Y, Yang M, Yao Y, et al. Effects of Illuminance and Correlated Color Temperature on Daytime Cognitive Performance, Subjective Mood, and Alertness in Healthy Adults. Environment and Behavior. 2019; 51 (2): 199-230.により明らかにされている。
【0023】
生体情報、環境情報、自己情報等から取得した少なくとも一種、さらには複数種の情報を、相応するデータベースと比較して、その時点の感情(現感情)が推測される。この推測された現感情を起点として、望む感情(期待感情)へ誘導するために必要なニオイ情報が算出、選定、特定等される。
【0024】
《解析手段・ステップ》
現感情を期待感情へ近づけるニオイ情報を求める。この解析は、例えば、ニオイ成分とニオイ成分により生じ得る誘起感情とを関連づけたデータベースに基づいてなされる。
【0025】
(1)データベース
データベースは、例えば、ニオイ成分をかいだ被験者(パネラー)に、どのような感情(精神状態)が生じるかを繰り返し試験することで得られる。ニオイ成分の種類、被験者数、試験回数等が多いほど、データベースの信頼性は高まる。
【0026】
誘起感情には複数種あり、例えば、幸せ(Happy)、怒り(Angry)、悲しみ(Sad)、寛ぎ(Relaxed)などがある。コンピュータ等による情報処理を容易にするため、各感情は、例えば、少なくとも二種以上の指標値(軸)を用いて区分、表現(識別)等されてもよい。この場合、指標値(軸)により区分けされた誘起感情に、各ニオイ成分を対応させて整理(配列)してデータベースが得られる。
【0027】
指標値(軸)は、感情を区分(分類)するパラメータとなる。感情の区分数に応じて、指標値の種類や数値化等が適宜選択され得る。例えば、上述したように四つの感情なら、二種の指標値を用いて、その正・負(+・-)、大・小、良・否等により区分けされる。
【0028】
指標値(軸)のラベリングの有無は問わないが、例えば、感情表現に用いられるRussellの円環モデルを参考に、一方の指標値(軸):覚醒度(Arousal)、他方の指標値(軸):快度(Valence)としてもよい。このとき、(快、覚醒)→幸せ(第1象限)、(不快、覚醒)→怒り(第2象限)、(不快、非覚醒)→悲しみ(第3象限)、(快、非覚醒)→寛ぎ(第4象限)が例示される。
【0029】
(2)解析
データベースに基づいて、現感情を期待感情へ近づけ得るニオイ情報を求める。便宜上、上述した二つの指標値(軸)で区画される四つの領域(象限)に、四つの感情がそれぞれ割り振られている場合を例示しつつ説明する。
【0030】
推測手段(ステップ)により推定された現感情が属するデータベース上の象限(つまり感情)を認定する。その象限に対して、隣接または対向する象限にあるニオイ成分を抽出(選択)する。例えば、現感情が「悲しみ」状態(第4象限)にあり、期待感情が「幸せ」なら、「悲しみ」の対向側にある「幸せ」に対応づけられたニオイ成分を抽出する。現感情の「悲しみ」から期待感情の「幸せ」へ誘導する際に、怒り(第2象限)または「寛ぎ」(第4象限)を経由してもよい。つまり、「悲しみ」に隣接する怒りまたは「寛ぎ」に対応づけられたニオイ成分を抽出した後、さらに、それらに隣接する「幸せ」に対応づけられたニオイ成分が抽出されてもよい。
【0031】
一つの感情(象限)に複数のニオイ成分が対応づけられているとき、その感情に対応する範囲内にあるニオイ成分が任意に抽出されてもよいし、予め設定された抽出順序や現感情に対応した指数(重み)等を考慮してニオイ成分が抽出されてもよい。
【0032】
ニオイ情報は、少なくとも一種以上のニオイ成分の特定が可能であれば足るが、ニオイ成分の放出量、放出間隔、放出タイミング、複数のニオイ成分の放出順序(調合)等を含んでもよい。期待感情は、例えば、環境(例えば、運転、労働、休養等)に応じて自動的または固定的に決定されてもよいし、その都度、対象者により選択的に決定されてもよい。
【0033】
《放出手段・ステップ/評価手段・ステップ》
ニオイ情報に基づいて、少なくとも一種のニオイ成分が放出されるとよい。放出方法、放出量等は、人の状態や環境等を考慮して決定されてもよい。
【0034】
さらに、ニオイ成分を放出した後の感情が評価されるとよい。この評価は、例えば、ニオイ成分の放出後、所定時間の経過を待って、既述した現感情の推測によりなされてもよい。期待感情への近接が不十分なとき、放出するニオイ成分の変更、さらにはニオイ情報の再解析等が繰り返しなされてもよい。
【0035】
《ニオイ分類表示物》
ニオイ分類表示物によれば、現感情を期待感情へ誘導するために有効なニオイ成分が、視覚的にまたは直感的に把握され得る。表示対象(媒体)は問わない。
【0036】
ニオイ分類表示物は、例えば、対称的な領域に、対照的な誘起感情を生じさせ得るニオイ成分がそれぞれ配置されてなると、期待感情への誘導に有効なニオイ成分が、より把握され易くなる。ニオイ成分は、環状または円状に配置されたり、ニオイ成分毎および/または前記誘起感情毎に色分けされていると見易い。表示物には、感情を区分けし得る二つの指標軸が併記されていてもよい。つまり、そのような指標軸からなる座標面上に、ニオイ成分や誘起感情が表示されていてもよい。
【0037】
《その他》
対象者は問わないが、例えば、移動体(各種の車両、船舶、航空機等)の運転者や搭乗者、各種の作業者等である。
【0038】
ニオイ成分の放出は、例えば、6段階臭気強度表示法に基づく臭気強度が3以下さらには2以下となる範囲で放出されるとよい。その下限値は、臭気強度が0(無臭)以上(超)さらには1以上であると好ましい。ちなみに、ニオイ成分にも依るが、例えばα―ピネンなどでは、臭気強度0:0.01ppm以下、臭気強度1:0.01~0.25ppm、臭気強度2:0.25~4ppm、臭気強度3:4~30ppm、臭気強度4:30~100ppm、臭気強度5:100ppm以上となる。本明細書でいう「ppm」は、単位体積当たりのニオイ成分の体積割合であり、鼻に吸引される空気濃度により測定(特定)される。
【0039】
ニオイ成分の放出は、連続的でも間欠的(断続的)でもよい。ニオイ成分は、例えば、容器や吸質体等により保持され、コンピュータにより制御されたバルブの開・閉動等により、ニオイ成分の放出・非放出が切り替えられる。
【実施例0040】
ニオイを用いて人の感情を望ましい方へ誘導する装置(方法)に関する具体例を示しつつ、本発明をさらに詳しく説明する。
【0041】
《感情誘導装置》
感情誘導装置は、コンピュータと、そのコンピュータへ計測値を出力する計測機器と、そのコンピュータから得た入力(指令)によりニオイ成分を放出する放出機器とを備える。コンピュータは、プログラムやデータベースを保存している記憶部と記憶部から読み出したプログラムを実行する制御部とを備える。感情誘導装置は、コンピュータによるプログラムの実行により、例えば、
図1に示すように作動する。具体的には、次の通りである。
【0042】
ステップS1で、計測機器を作動させて、対象者の生体情報や環境情報を収集する。
図2Aに、生体情報や環境情報を例示した。一つ以上の生体情報と、代表的な環境情報(温度、湿度等)とが少なくとも収集されるとよい。また、対象者が感情を自己評価して、それをコンピュータへ入力してもよい。複数種の情報が多いほど、対象者の現感情が適確に推定され易くなる。
【0043】
ステップS2で、コンピュータは、ステップS1で得られた収集情報に基づいて、対象者の現状の精神状態(現感情)を推測する。この際、コンピュータは、記憶部から読み出したデータベースDB1に、計測機器等が得られた収集情報を当てはめて(比較して)、対象者の現感情を予測する。データベースDB1は、種々の実験・評価を繰り返して得られた結果を、感情誘導装置の仕様や用途等に適した形式にしたデータの集合体である。
【0044】
ステップS3で、コンピュータは、ステップS2で推測された現感情に基づいて、現状に適した精神状態(期待感情)へ対象者を誘導するためのニオイ情報を算出する。具体的にいうと、コンピュータは、例えば、
図2Bに示すようなデータベースDB2を記憶部から読み出す。そして、対象者の現感情と異なる誘起感情に属するニオイ成分を、データベースDB2中から抽出、選定する。
【0045】
誘起感情は、快度と覚醒度に基づいて、それらの正(+1)・負(-1)で分類されている。現感情の属する感情領域(象限)に対して、快度と覚醒度の少なくとも一方の符号が異なる感情領域に属するニオイ成分が抽出される。この際、複数の感情領域に属するニオイ成分が抽出されてもよいし、一つの感情領域に属する複数のニオイ成分が抽出されてもよい。ニオイ成分の抽出は、ニオイ成分の個別IDによりなされてもよいし、ニオイ成分の属するニオイ系統(IDの中央文字)によりなされてもよい。この際、抽出された複数種のニオイ成分群(候補群)が形成されるとよい。なお、
図2Bでは、説明を簡素化するため、快度と覚醒度を正(+1)または負(-1)として、ニオイ成分の属する感情領域のみが特定されるようにした。しかし、ニオイ成分毎の快度と覚醒度を具体的な数値(正負の符号を含む。)で示し、各ニオイ成分について、その属する感情領域とその誘起感情への寄与度(誘起度)を具体的に示してもよい。
【0046】
期待感情は、感情誘導装置が設置される環境等に基づいて既定されていてもよいし、コンピュータが対象者に係る環境情報等に基づいて判断されてもよいし、対象者により自ら設定されてもよい。ニオイ情報には、ニオイ成分の種類の他、その放出量、放出間隔、放出時期等が含まれてもよい。
【0047】
ステップS4で、コンピュータは、ステップS3で得られたニオイ情報に基づいて、ニオイ成分の放出を放出機器に指令する。このとき放出されるニオイ成分は、単種でも複数種の組み合わせでもよい。
【0048】
ステップS5で、コンピュータは、ニオイ成分の放出後の対象者の感情を評価する。この感情評価は、ステップS2に示した現感情の推測と同様になされる。
【0049】
ステップS6で、コンピュータは、ステップS5で評価した感情と期待感情を比較する。対象者の感情が予定した期待感情に近いとき、ニオイ成分の放出を終了する。
【0050】
一方、対象者の感情が予定した期待感情に近くないとき、またはその程度が不十分なとき、ステップS7に進んで、放出するニオイ成分を変更して、ステップS4以降を繰り返す。ニオイ成分の変更は、例えば、ステップS3で得られた候補群から、ニオイ成分のIDに沿って順次なされてもよい。また、現感情と対称的な誘起感情を生じさせ得るニオイ成分を一旦放出して対象者の感情を中立(ニュートラル)状態とした後、所望の期待感情を生じさせ得るニオイ成分を新たに放出してもよい。ニオイ成分を変更する回数(繰返し数)の上限は、予め制限されていてもよいし、上述した候補群内におけるニオイ成分の変更に限定されてもよい。また、現感情の期待感情への近接度を算出し、その近接度に基づいてニオイ成分の変更、放出量の調整等がなされてもよい。
【0051】
《データベース/ニオイ分類表示物》
ニオイ成分と誘起感情の相関を示すデータベース(
図2B等)は、例えば、
図3に示すように、各ニオイ成分により生じる感情を多数のパネラーが評価して得られる。具体的にいうと、各ニオイ成分を、それにより最も強く感じる感情領域(象限)へ割り振ることにより完成される。
【0052】
ニオイ成分と誘起感情の相関は、
図4に示すニオイ分類表示物としても表現され得る。これによれば、感情誘導に必要なニオイ成分が直感的に把握される。ニオイ分類表示物は、覚醒度を示す指標軸と、快度を示す指標軸とからなる直交座標面上に、各ニオイ成分を円環状に配置して表現されてもよい。このとき、各誘起感情は、その座標面の各象限に割り振られる。さらにニオイ成分は、対応する誘起感情に属する象限(感情領域)に割り振られる。個々のニオイ成分は、外周側に表示される。各ニオイ成分が属する系統が、その内周側に併せて表示されてもよい。特に、座標中心に対称的な象限(感情領域)に対照的な感情を表示し、ニオイ成分も各感情に対応して対称的に表示されるとよい。