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特開2023-159499ε型銅フタロシアニン顔料組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159499
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】ε型銅フタロシアニン顔料組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09B 67/20 20060101AFI20231025BHJP
   C09B 67/12 20060101ALI20231025BHJP
   C09B 67/50 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
C09B67/20 B
C09B67/12
C09B67/50 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069175
(22)【出願日】2022-04-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】奥村 成美
(57)【要約】
【課題】コントラスト及び明度等の色特性に優れた、液晶等に用いられるカラーフィルター用の着色剤等として有用なε型銅フタロシアニンの簡便な製造方法を提供する。
【解決手段】フタルイミドメチル化銅フタロシアニンを非イオン性界面活性剤で処理して、処理済みフタルイミドメチル化銅フタロシアニンを得る工程と、α型銅フタロシアニン、ε型銅フタロシアニン、及び処理済みフタルイミドメチル化銅フタロシアニンを含有する混合物をソルベントソルトミリングして、顔料組成物を得る工程と、を有するε型銅フタロシアニン顔料組成物の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フタルイミドメチル化銅フタロシアニンを非イオン性界面活性剤で処理して、処理済みフタルイミドメチル化銅フタロシアニンを得る工程と、
α型銅フタロシアニン、ε型銅フタロシアニン、及び前記処理済みフタルイミドメチル化銅フタロシアニンを含有する混合物をソルベントソルトミリングして、顔料組成物を得る工程と、
を有するε型銅フタロシアニン顔料組成物の製造方法。
【請求項2】
前記混合物が、前記処理済みフタルイミドメチル化銅フタロシアニン及びβ型銅フタロシアニンを含有する硫酸溶液を水に注入して析出させた析出物である請求項1に記載のε型銅フタロシアニン顔料組成物の製造方法。
【請求項3】
前記非イオン性界面活性剤、水不溶性有機溶剤、及び水を含有する乳化物を前記フタルイミドメチル化銅フタロシアニンに接触させて、前記処理済みフタルイミドメチル化銅フタロシアニンを得る請求項1に記載のε型銅フタロシアニン顔料組成物の製造方法。
【請求項4】
前記水不溶性有機溶剤が、トルエン、キシレン、酢酸エチル、及び酢酸ブチルからなる群より選択される少なくとも一種である請求項3に記載のε型銅フタロシアニン顔料組成物の製造方法。
【請求項5】
前記混合物を、ジエチレングリコール及びプロピレングリコールの少なくともいずれかの水溶性有機溶剤の存在下でソルベントソルトミリングして、前記顔料組成物を得る請求項1~4のいずれか一項に記載のε型銅フタロシアニン顔料組成物の製造方法。
【請求項6】
前記顔料組成物を再度ソルベントソルトミリングする工程をさらに有する請求項1~4のいずれか一項に記載のε型銅フタロシアニン顔料組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ε型銅フタロシアニン顔料組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ε型銅フタロシアニン顔料は、鮮明で着色力が強く、耐光性及び耐熱性に優れた赤味の青色の色調を有する顔料である。ε型銅フタロシアニン顔料は、これらの特性を生かして塗料やプラスチック等の幅広い分野で用いられており、液晶用カラーフィルターのブルー色形成用の顔料としても有用である。
【0003】
ε型銅フタロシアニンの一般的な製造方法としては、α型銅フタロシアニンをフタロシアニン誘導体とともにソルベントソルトミリングする方法が知られている(特許文献1)。また、ソルベントソルトミリングする際に用いられるフタロシアニン誘導体としては、フタルイミドメチル化フタロシアニン等が知られている(特許文献1及び2)。
【0004】
フタルイミドメチル化フタロシアニンを製造する方法としては、例えば、フタロシアニンを硫酸中でフタルイミドメチル化する方法が知られている(特許文献3)。この方法では、酸性の界面活性剤であるキシレンスルホン酸を反応終了後に添加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4097053号公報
【特許文献2】特開2002-121420号公報
【特許文献3】米国特許第2855403号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3で提案された方法では、濃硫酸中で反応して生成したフタルイミドメチル化銅フタロシアニンを、強く凝集した粉体の状態で得ることができる。フタルイミドメチル化銅フタロシアニンは、ソルベントソルトミリングに用いられるジエチレングリコール等の水溶性有機溶剤にはほとんど溶解しないため、特許文献1等で提案されたソルベントソルトミリングによってもα型銅フタロシアニンと均一に混合するには長時間を要していた。
【0007】
また、フタルイミドメチル化銅フタロシアニンと同様に硫酸中で製造されるα型銅フタロシアニンも凝集性が強い。このため、強く凝集したα型銅フタロシアニンをソルベントソルトミリングすると、α型からε型へと不均一な状態で結晶転移しやすい。その結果、得られる顔料粒子が不均一になりやすく、色材としての性能が低下したり、β型のものが多く混入したりする等の課題が生じていた。なかでも、液晶用カラーフィルターの着色剤として用いるような場合には、明度やコントラスト等の色特性が不十分になりやすかった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、コントラスト及び明度等の色特性に優れた、液晶等に用いられるカラーフィルター用の着色剤等として有用なε型銅フタロシアニンの簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下に示すε型銅フタロシアニン顔料組成物の製造方法が提供される。
[1]フタルイミドメチル化銅フタロシアニンを非イオン性界面活性剤で処理して、処理済みフタルイミドメチル化銅フタロシアニンを得る工程と、α型銅フタロシアニン、ε型銅フタロシアニン、及び前記処理済みフタルイミドメチル化銅フタロシアニンを含有する混合物をソルベントソルトミリングして、顔料組成物を得る工程と、を有するε型銅フタロシアニン顔料組成物の製造方法。
[2]前記混合物が、前記処理済みフタルイミドメチル化銅フタロシアニン及びβ型銅フタロシアニンを含有する硫酸溶液を水に注入して析出させた析出物である前記[1]に記載のε型銅フタロシアニン顔料組成物の製造方法。
[3]前記非イオン性界面活性剤、水不溶性有機溶剤、及び水を含有する乳化物を前記フタルイミドメチル化銅フタロシアニンに接触させて、前記処理済みフタルイミドメチル化銅フタロシアニンを得る前記[1]又は[2]に記載のε型銅フタロシアニン顔料組成物の製造方法。
[4]前記水不溶性有機溶剤が、トルエン、キシレン、酢酸エチル、及び酢酸ブチルからなる群より選択される少なくとも一種である前記[3]に記載のε型銅フタロシアニン顔料組成物の製造方法。
[5]前記混合物を、ジエチレングリコール及びプロピレングリコールの少なくともいずれかの水溶性有機溶剤の存在下でソルベントソルトミリングして、前記顔料組成物を得る前記[1]~[4]のいずれかに記載のε型銅フタロシアニン顔料組成物の製造方法。
[6]前記顔料組成物を再度ソルベントソルトミリングする工程をさらに有する前記[1]~[5]のいずれかに記載のε型銅フタロシアニン顔料組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コントラスト及び明度等の色特性に優れた、液晶等に用いられるカラーフィルター用の着色剤等として有用なε型銅フタロシアニンの簡便な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<ε型銅フタロシアニン顔料組成物の製造方法>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明のε型銅フタロシアニン顔料組成物の製造方法(以下、単に「製造方法」とも記す)の一実施形態は、フタルイミドメチル化銅フタロシアニンを非イオン性界面活性剤で処理して、処理済みフタルイミドメチル化銅フタロシアニンを得る工程(工程(1))と、α型銅フタロシアニン、ε型銅フタロシアニン、及び処理済みフタルイミドメチル化銅フタロシアニンを含有する混合物をソルベントソルトミリングして、顔料組成物を得る工程(工程(2))と、を有する。以下、本実施形態の製造方法の詳細について説明する。
【0012】
(工程(1))
工程(1)では、フタルイミドメチル化銅フタロシアニン(以下、「PIM化銅フタロシアニン」とも記す)を非イオン性界面活性剤で処理して、処理済みPIM化銅フタロシアニンを得る。PIM化銅フタロシアニンを非イオン性界面活性剤で処理することによって、非イオン性界面活性剤以外の界面活性剤で処理した場合と異なり、PIM化銅フタロシアニンの強い凝集性を緩和することができる。これにより、その後の工程(工程(2))におけるソルベントソルトミリングの処理効率を向上させることが可能となり、コントラスト及び明度等の色特性に優れたε型銅フタロシアニン顔料組成物を簡便に製造することができる。
【0013】
PIM化銅フタロシアニンは、銅フタロシアニンを原料として用いる公知の方法にしたがって製造することができる。例えば、米国特許第2855403号明細書で開示されているように、銅フタロシアニンとメチロールフタルイミドを硫酸中で反応させることによって、PIM化銅フタロシアニンを得ることができる。なお、メチロールフタルイミドに代えて、フタルイミドとパラホルムアルデヒドを用いてもよい。
【0014】
非イオン性界面活性剤としては、市販品を用いることができる。非イオン性界面活性剤の具体例としては、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル等を挙げることができる。なかでも、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルが好ましく、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルが特に好ましい。
【0015】
PIM化銅フタロシアニンの製造工程中で、PIM化銅フタロシアニンを非イオン性界面活性剤で処理することが好ましい。PIM化銅フタロシアニンの製造工程は、例えば、濃硫酸中での反応工程、水中での析出工程、ろ過・水洗工程、及び乾燥工程を含む。なかでも、ろ過・水洗工程の後であって、乾燥工程の前に、PIM化銅フタロシアニンを非イオン性界面活性剤で処理することが好ましい。
【0016】
非イオン性界面活性剤でPIM化銅フタロシアニンを処理する具体的な方法としては、例えば、PIM化銅フタロシアニンの製造工程で、(i)非イオン性界面活性剤を系中に添加する方法;(ii)非イオン性界面活性剤の水溶液を系中に添加する方法;(iii)非イオン性界面活性剤、水不溶性溶剤、及び水を混合して得られる乳化物を系中に添加する方法;等を挙げることができる。なかでも、PIM化銅フタロシアニンを水中に解膠して調製したスラリーに上記の乳化物を添加して、PIM化銅フタロシアニンに乳化物を接触させる(非イオン性界面活性剤を接触させる)ことが好ましい。スラリー中のPIM化銅フタロシアニンは強固な凝集体を形成している。PIM化銅フタロシアニンと親和性が高く、濡れ性の良好な水不溶性溶剤を用いて調製した乳化物の状態で非イオン性界面活性剤をPIM化銅フタロシアニンに接触させることで、非イオン性界面活性剤によってPIM化銅フタロシアニンをより均一に処理することができる。
【0017】
水不溶性有機溶剤としては、トルエン、キシレン、酢酸エチル、及び酢酸ブチルからなる群より選択される少なくとも一種を用いることが好ましく、キシレンを用いることが特に好ましい。
【0018】
非イオン性界面活性剤によるPIM化銅フタロシアニンの処理は、加熱条件下を実施することが好ましい。加熱条件下でPIM化銅フタロシアニンに非イオン性界面活性剤を接触させて処理することで、処理の均一性をより向上させることができる。処理時の温度は、60~100℃とすることが好ましく、80~90℃とすることがさらに好ましい。
【0019】
(工程(2))
工程(2)では、α型銅フタロシアニン、ε型銅フタロシアニン、及び処理済みPIM化銅フタロシアニンを含有する混合物をソルベントソルトミリングして、顔料組成物を得る。処理済みPIM化銅フタロシアニンは、前述の工程(1)において非イオン性界面活性剤で処理されたPIM化銅フタロシアニンであるため、強い凝集性が緩和されている。したがって、この処理済みPIM化銅フタロシアニンを含む混合物をソルベントソルトミリングすることで、α型からε型への結晶転移が促進され、コントラスト及び明度等の色特性に優れたε型銅フタロシアニン顔料組成物をより効率的に製造することができる。
【0020】
ソルベントソルトミリングは、通常、α型銅フタロシアニン、ε型銅フタロシアニン、及び処理済みPIM化銅フタロシアニンを含有する混合物を、水溶性有機溶剤及び無機塩の存在下、混錬機を使用して混錬及び摩砕することによって実施される。混練機としては、ニーダー、プラネタリーミキサー、ミラクルK.C.K(商品名、浅田鉄鋼社製)、トリミックス(商品名、井上製作所社製)等を使用することができる。
【0021】
α型銅フタロシアニンは、β型銅フタロシアニンを含む粗製銅フタロシアニンを用いる公知の方法にしたがって製造することができる。α型銅フタロシアニンを製造する方法の具体例としては、(i)粗製銅フタロシアニンを硫酸に溶解させた硫酸溶液を水に注入して析出させるアシッドペースティング法;(ii)ボールミル等を使用して粗製銅フタロシアニンを乾式摩砕するドライミリング法;(iii)粗製銅フタロシアニンをニーダー等の混練機中で無機塩及び水溶性有機溶剤とともに混錬するソルベントソルトミリング法;等を挙げることができる。なかでも、より高純度で微細なα型銅フタロシアニンが得られることから、(i)アシッドペースティング法が好ましい。
【0022】
アシッドペースティング法で用いる硫酸の濃度は、70~100質量%であることが好ましい。硫酸の濃度が70質量%未満であると、粗製銅フタロシアニンが十分に溶解しにくくなり、得られる析出物にβ型銅フタロシアニンが混入しやすくなることがある。また、得られるα型銅フタロシアニンの粒径が大きくなりやすいため、その後のソルベントソルトミリングによっても微細化がやや不十分になる場合がある。一方、硫酸の濃度が高すぎると、生成するα型銅フタロシアニンの一部がスルホン化されやすくなる場合がある。したがって、得られるα型銅フタロシアニンの純度や粒径等を考慮すると、アシッドペースティング法で用いる硫酸の濃度は、95~98質量%であることがさらに好ましい。
【0023】
ε型銅フタロシアニンは、公知の方法にしたがって製造したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。ε型銅フタロシアニンの公知の製造方法としては、特公昭57-35210公報で開示されたソルベント法;特許第3030880号公報で開示された乾式摩砕後に溶剤処理する方法;特公昭64-7108公報で開示された銅フタロシアニン合成で得たε型銅フタロシアニンをソルベントソルトミリングで微細化する方法;等を挙げることができる。
【0024】
水溶性有機溶剤としては、安全性及び作業性等の観点から、高沸点溶剤を用いることが好ましい。水溶性有機溶剤の具体例としては、ジエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール、液体ポリプロピレングリコール、2-メトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等を挙げることができる。なかでも、ジエチレングリコール及びプロピレングリコールの少なくともいずれかの水溶性有機溶剤の存在下で混合物をソルベントソルトミリングすることが好ましい。
【0025】
無機塩としては、水溶性無機塩を用いることが好ましい。無機塩の具体例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム等を用いることが好ましい。
【0026】
ソルベントソルトミリングは、50~150℃で実施することが好ましく、70~140℃で実施することがさらに好ましい。50℃未満の温度条件下でソルベントソルトミリングすると、α型からε型への結晶転移がやや不十分となる場合がある。一方、150℃超の温度条件下でソルベントソルトミリングすると、結晶成長によって色材としての性能がやや低下しやすくなる場合がある。
【0027】
α型からε型への結晶転移と、結晶成長の抑制とをより高い次元で両立し、さらに微細なε型銅フタロシアニン顔料組成物を得るには、120~140℃でソルベントソルトミリングした後、50~80℃でソルベントソルトミリングすることが好ましい。
【0028】
α型銅フタロシアニン100質量部に対する、ε型銅フタロシアニンの量は、5~50質量部とすることが好ましく、10~30質量部とすることがさらに好ましい。ε型銅フタロシアニンの量が、α型銅フタロシアニン100質量部に対して5質量部未満であると、α型からε型への結晶転移にやや時間を要する場合があるとともに、β型結晶が生じやすくなることがある。一方、ε型銅フタロシアニンの量が、α型銅フタロシアニン100質量部に対して50質量部超であると、生産性がやや低下し、工業的に不利になる場合がある。
【0029】
α型銅フタロシアニンとε型銅フタロシアニンの合計100質量部に対する、水溶性有機溶剤の量は、50~500質量部とすることが好ましい。水溶性有機溶剤は、ソルベントソルトミリングの初期段階で全量仕込んでもよく、微細化の進行具合に応じて段階的に仕込んでもよい。
【0030】
α型銅フタロシアニンとε型銅フタロシアニンの合計100質量部に対する、無機塩の量は、200~2,000質量部とすることが好ましく、得ようとするε型銅フタロシアニン顔料組成物の微細化の程度に応じて適宜調整すればよい。無機塩の添加量が多いほど、より微細なε型銅フタロシアニン顔料組成物を得ることができる。
【0031】
α型銅フタロシアニン100質量部に対する、処理済みPIM化銅フタロシアニンの量は、1~20質量部とすることが好ましい。処理済みPIM化銅フタロシアニンは、ソルベントソルトミリングの初期段階で仕込んでもよく、α型銅フタロシアニンを製造する過程で予め仕込んでおいてもよい。PIM化銅フタロシアニンをより均一に処理する観点から、前述のアシッドペースティング法によってα型銅フタロシアニンを製造する際に、原料として用いる粗製銅フタロシアニンとともに処理済みPIM化銅フタロシアニンを硫酸に溶解させることが好ましい。
【0032】
ソルベントソルトミリングに要する時間は、温度や材料の仕込み量等に応じて変動するが、2~20時間とすることが好ましく、結晶転移や微細化の進行状況を勘案して調整すればよい。ソルベントソルトミリングして得た混練物を水中で解膠した後、ろ過、水洗、乾燥、及び粉砕等することで、色材として使用可能な粉末状の顔料組成物を得ることができる。ろ過及び水洗は、混練物に含まれる水溶性有機溶剤と無機塩を完全に除去するまで繰り返し実施することが好ましい。乾燥温度は、例えば、70~120℃とすればよく、箱型乾燥機、バンド乾燥機、スプレードライヤー等を使用することができる。乾燥して得られる塊状物を粉砕して粉末状にするには、乳鉢、ハンマーミル、ディスクミル、ピンミル、ジェットミル等を使用することができる。
【0033】
(工程(3))
上記のソルベントソルトミリングによって得られる顔料組成物を、目的とするε型銅フタロシアニン顔料組成物とすることができる。また、より微細であるとともに、さらにコントラスト及び明度等の色特性に優れたε型銅フタロシアニン顔料組成物を得るには、上記のソルベントソルトミリングによって得た顔料組成物を再度ソルベントソルトミリングすることが好ましい。すなわち、本実施形態の製造方法は、上記の工程(2)で得た顔料組成物を再度ソルベントソルトミリングする工程(工程(3))をさらに有することが好ましい。この工程(3)では、50~80℃でソルベントソルトミリングすることが好ましく、50~70℃でソルベントソルトミリングすることがさらに好ましい。
【0034】
(その他)
得られたε型銅フタロシアニン顔料組成物を、用途に応じて各種のフタロシアニン誘導体等の顔料誘導体で処理してもよい。フタロシアニン誘導体としては、無金属又は金属フタロシアニンのスルホン酸誘導体、無金属又は金属フタロシアニンのN-(ジアルキルアミノ)メチル誘導体、無金属又は金属フタロシアニンのN-(ジアルキルアミノアルキル)スルホン酸アミド誘導体等を挙げることができる。顔料誘導体は、ε型銅フタロシアニン顔料組成物の製造過程で添加してもよいし、得られたε型銅フタロシアニン顔料組成物に添加してもよい。なかでも、ソルベントソルトミリング後に得られるウエットケーキを水に解膠する際に顔料誘導体を添加することが好ましい。顔料誘導体を添加する際には、必要に応じて酸やアルカリを添加してpHを調整してもよい。
【0035】
ε型銅フタロシアニン顔料組成物を製造する過程で、顔料分散剤で処理してもよい。顔料分散剤としては、批判品を用いることができる。顔料分散剤の市販品としては、以下商品名で、DISPERBYK-130、DISPERBYK-161、DISPERBYK-162、DISPERBYK-163、DISPERBYK-170、DISPERBYK-171、DISPERBYK-174、DISPERBYK-180、DISPERBYK-182、DISPERBYK-183、DISPERBYK-184、DISPERBYK-185、DISPERBYK-2000、DISPERBYK-2001、DISPERBYK-2022、DISPERBYK-2050、DISPERBYK-2055、DISPERBYK-2059、DISPERBYK-2070、DISPERBYK-2050、DISPERBYK-2151、DISPERBYK-2064(以上、BYK社製);EFKA46、EFKA47、EFKA452、EFKALP4008、EFKA4009、EFKALP4010、EFKALP4050、EFKALP4055、EFKA400、EFKA401、EFKA402、EFKA403、EFKA450、EFKA451、EFKA453、EFKA4540、EFKA4550、EFKALP4560、EFKA120、EFKA150、EFKA1501、EFKA1502、EFKA1503(以上、BASF社);ソルスパース3000、ソルスパース9000、ソルスパース13240、ソルスパース13650、ソルスパース13940、ソルスパース17000、18000、ソルスパース20000、ソルスパース21000、ソルスパース20000、ソルスパース24000、ソルスパース26000、ソルスパース27000、ソルスパース28000、ソルスパース32000、ソルスパース36000、ソルスパース37000、ソルスパース38000、ソルスパース41000、ソルスパース42000、ソルスパース43000、ソルスパース46000、ソルスパース54000、ソルスパース71000(以上、ルブリゾール社製);アジスパーPB711、アジスパーPB821、アジスパーPB822、アジスパーPB814、アジスパーPN411、アジスパーPA111(以上、味の素社製);等を挙げることができる。
【0036】
ε型銅フタロシアニン顔料組成物を製造する過程で、各種の樹脂で処理してもよい。樹脂としては、アクリル系樹脂;ウレタン系樹脂;アルキッド系樹脂;ウッドロジン、ガムロジン、トール油ロジン等の天然ロジン;重合ロジン、不均化ロジン、水添ロジン、酸化ロジン、マレイン化ロジン等の変性ロジン;ロジンアミン、ライムロジン、アルキレンオキシド付加ロジン、ロジン変性アルキド樹脂、ロジン変性フェノール等のロジン誘導体;等を挙げることができる。
【0037】
顔料分散剤や樹脂で処理する方法としては、水溶性又は水に均一に分散しうる顔料分散剤等については、前述の顔料誘導体と同様の方法で処理すればよい。また、有機溶剤に溶解しうる顔料分散剤等については、ソルベントソルトミリングの際に添加すればよい。
【実施例0038】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0039】
<PIM化銅フタロシアニンの製造>
(製造例1)
常法により製造された粗製銅フタロシアニン70部、フタルイミド52部、及びパラホルムアルデヒド20部を98%硫酸400部に添加し、撹拌して溶解させた後、80℃で3時間反応させて反応液を得た。得られた反応液を氷水8,000部に注いだ後、生成した析出物をろ過及び水洗してウエットケーキを得た。得られたウエットケーキを水1,000部中に解膠した後に撹拌して、均一なスラリーを得た。
【0040】
キシレン10部、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル1部、及び水50部を、ディスパーを用いて混合して乳化物を調製した。調製した乳化物をスラリーに添加し、90℃で1時間撹拌した。60℃まで放冷した後、ろ過、乾燥、及び粉砕して、PIM化銅フタロシアニン100部を得た。得られたPIM化銅フタロシアニンは、非イオン性界面活性剤で処理した処理済みPIM化銅フタロシアニンである。
【0041】
(比較製造例1)
常法により製造された粗製銅フタロシアニン70部、フタルイミド52部、及びパラホルムアルデヒド20部を98%硫酸400部に添加し、撹拌して溶解させた後、80℃で3時間反応させて反応液を得た。得られた反応液を氷水8,000部に注いだ後、生成した析出物をろ過、水洗、乾燥、及び粉砕して、PIM化銅フタロシアニン105部を得た。得られたPIM化銅フタロシアニンは、非イオン性界面活性剤で処理していない未処理のPIM化銅フタロシアニンである。
【0042】
<ε型銅フタロシアニン顔料組成物の製造>
(実施例1)
常法により製造された粗製銅フタロシアニン(β型銅フタロシアニンを含む)58部、及び製造例1で得た処理済みPIM化銅フタロシアニン3部を98%硫酸400部に添加し、80℃で3時間撹拌して硫酸溶液を得た。得られた硫酸溶液を氷水8,000部に注いた後、生成した析出物をろ過、水洗、乾燥、及び粉砕して、α型銅フタロシアニンとPIM化銅フタロシアニンとの共析出物58部を得た。
【0043】
得られた共析出物18部、ε型銅フタロシアニン5部、粉砕機で粉砕して得た粉砕塩80部、及びプロピレングリコール18部をニーダーに仕込み、140℃で16時間混練した。ニーダーを冷却し、さらに70℃で6時間混練して混練物を得た。なお、混練の途中で適切な粘度になるように、プロピレングリコール0.5部を数回に分けて適宜添加した。得られた混練物を水中で解膠した後、硫酸濃度2%となる量の98%硫酸を添加し、90℃で1時間撹拌してスラリーを得た。得られたスラリーをろ過、水洗、乾燥、及び粉砕して、ε型銅フタロシアニン顔料組成物22部を得た。
【0044】
(実施例2)
実施例1で得たε型銅フタロシアニン顔料組成物9部、粉砕機で粉砕して得た粉砕塩90部、及びジエチレングリコール21部をニーダーに仕込み、60℃で18時間混錬した。なお、混練の途中で適切な粘度になるように、ジエチレングリコール0.5部を数回に分けて適宜添加した。得られた混練物を水中で解膠した後、硫酸濃度2%となる量の98%硫酸を添加し、90℃で1時間撹拌してスラリーを得た。得られたスラリーをろ過、水洗、乾燥、及び粉砕して、ε型銅フタロシアニン顔料組成物10部を得た。
【0045】
(比較例1)
処理済みPIM化銅フタロシアニンに代えて、比較製造例1で得た未処理のPIM化銅フタロシアニンを用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、ε型銅フタロシアニン顔料組成物22部を得た。
【0046】
(比較例2)
実施例1で得たε型銅フタロシアニン顔料組成物に代えて、比較例1で得たε型銅フタロシアニン顔料組成物を用いたこと以外は、前述の実施例2と同様にして、ε型銅フタロシアニン顔料組成物10部を得た。
【0047】
<評価>
(CF用着色剤の調製)
製造したε型銅フタロシアニン顔料組成物9部、顔料分散剤(商品名「DISPERBYK2000」、BYK社製)7部、バインダー樹脂(商品名「SPC-2000」、昭和電工社製、酸性基を有するアクリル樹脂)7部、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル-2-アセテート30部、及びn-ブタノール6部を密閉容器に仕込んだ。0.5mmジルコニアビーズを添加し、分散機(商品名「Disperser DAS200」、LAU社製)を使用して5時間分散処理し、分散液を得た。得られた分散液8部、バインダー樹脂(商品名「SPC-2000」、昭和電工社製、酸性基を有するアクリル樹脂)1部、及びプロピレングリコール-1-モノメチルエーテル-2-アセテート3部を配合し、ディスパーを用いて混合してCF用着色剤を得た。
【0048】
(測定用ガラス基板の作製)
スピンコーターを使用してCF用着色剤をガラス板に塗布した。90℃で2分間プリベークした後、230℃で30分間ポストベークして、測定用ガラス基板を得た。
【0049】
(コントラストの測定)
コントラストテスター(商品名「CT-1BS」、壺坂電機社製)を使用して、測定用ガラス基板のy=0.14におけるコントラストを測定した。結果を表1に示す。なお、表1に示す「コントラスト」の値は、実施例1のコントラストを基準(100)とする相対値である。
【0050】
(明度の測定)
分光光度計(商品名「U-3310」、日立製作所社製)を使用して、測定用ガラス基板のy=0.14における明度Yを測定した。結果を表1に示す。
【0051】
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のε型銅フタロシアニン組成物の製造方法によれば、液晶等に用いられるカラーフィルター用の着色剤等として有用なε型銅フタロシアニンを簡便に製造することができる。