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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159535
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】歩行ロボット
(51)【国際特許分類】
   B25J 5/00 20060101AFI20231025BHJP
【FI】
B25J5/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069261
(22)【出願日】2022-04-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・令和3年12月15日に第22回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会(オンライン開催)(https://sice-si.org/conf/si2021/index.html)にて公開。 ・令和3年12月15日にhttps://sice-si.org/conf/si2021/priceedings.htmlにて公開。 ・令和3年12月15日にhttps://sice-si.org/conf/si2021/webdigest.htmlにて公開。
(71)【出願人】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】増田 新
(72)【発明者】
【氏名】西口 由里
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707CS08
3C707HS27
3C707HT11
3C707HT21
3C707HT36
3C707WA14
3C707WA19
3C707WK04
(57)【要約】
【課題】多自由度を有する脚を用いない簡単な構成として小型化を可能としつつ、4節リンク機構を用いて直進動作及び旋回動作を行う。
【解決手段】左右前脚3a、3b及び左右後脚3c、3dを有する歩行ロボット100であって、左右前脚3a、3bが設けられるフロントリンク21と、左右後脚3c、3dが設けられるリアリンク22と、フロントリンク21の左右一方及びリアリンク22の左右他方に回転可能に連結する第1交差リンク23と、フロントリンク23の左右他方及びリアリンク22の左右一方に回転可能に連結する第2交差リンク24と、フロントリンク21又はリアリンク22の少なくとも一方に駆動力を加えるとともに、左右前脚3a、3b及び左右後脚3c、3dの支持脚及び遊脚を切り替えることにより直進動作又は旋回動作を行わせる駆動機構4とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右前脚及び左右後脚を有する歩行ロボットであって、
前記左右前脚が設けられるフロントリンクと、
前記左右後脚が設けられるリアリンクと、
前記フロントリンクの左右一方及び前記リアリンクの左右他方に回転可能に連結する第1交差リンクと、
前記フロントリンクの左右他方及び前記リアリンクの左右一方に回転可能に連結する第2交差リンクと、
前記フロントリンク又は前記リアリンクの少なくとも一方に駆動力を加えるとともに、前記左右前脚及び前記左右後脚の支持脚及び遊脚を切り替えることにより直進動作及び旋回動作を行わせる駆動機構とを備える、歩行ロボット。
【請求項2】
前記駆動機構は、
直進動作においては、左前脚及び右後脚を支持脚とした場合に、右前脚及び左後脚を遊脚とし、右前脚及び左後脚を支持脚とした場合に、左前脚及び右後脚を遊脚とし、
旋回動作においては、左前脚及び右前脚を支持脚とした場合に、左後脚及び右後脚を遊脚とし、左後脚及び右後脚を支持脚とした場合に、左前脚及び右前脚を遊脚とする、請求項1に記載の歩行ロボット。
【請求項3】
前記駆動機構は、前記駆動力を発生させる回転モータと、前記回転モータに接続され、負性抵抗回路を有する駆動回路と、前記各交差リンクの変位を元の状態に戻す弾性力を付与する弾性体とを有し、前記直進動作又は前記旋回動作を自励振動駆動により行うものである、請求項1に記載の歩行ロボット。
【請求項4】
前記駆動機構は、前記左右前脚のそれぞれ、及び、前記左右後脚のそれぞれに設けられた吸着部と、前記吸着部の吸着及び解除を切り替えることによって、前記支持脚及び前記遊脚を切り替える切替制御部とを備える、請求項1に記載の歩行ロボット。
【請求項5】
前記駆動機構は、前記駆動力を発生させる回転モータと、前記回転モータに接続され、負性抵抗回路を有する駆動回路と、前記各交差リンクの変位を元の状態に戻す弾性力を付与する弾性体とを有し、前記直進動作又は前記旋回動作を自励振動駆動により行うものであり、
前記切替制御部は、前記回転モータの端子間電圧に基づいて、前記吸着部の吸着及び解除を切り替える、請求項4に記載の歩行ロボット。
【請求項6】
前記吸着部は、電磁石である、請求項4又は5に記載の歩行ロボット。
【請求項7】
前記駆動機構は、前記回転モータにより回転されるフライホイールをさらに有する、請求項3又は5に記載の歩行ロボット。
【請求項8】
前記回転モータの回転を減速させる減速機構をさらに備え、
前記減速機構は、前記フロントリンク又は前記リアリンクと一体形成されている、請求項3又は5に記載の歩行ロボット。
【請求項9】
前記フロントリンク及び前記リアリンクの相対移動を可能にしつつ、前記フロントリンク及び前記リアリンクに架け渡される連結部材をさらに備え、
前記回転モータは、前記連結部材に支持されている、請求項3又は5に記載の歩行ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行ロボットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の歩行ロボットとしては、例えば特許文献1に示すように、各脚が多関節リンクから構成され、各脚は少なくとも1自由度以上(典型的には3自由度)の自由度を有するものが考えられている。この構成により、複雑な環境に対応可能な柔軟な歩行制御を可能としている。なお、歩行環境の変化への対応は、複数のセンサ取得情報に基づく行動計画の修正、新たな脚先軌道の生成、目標軌道への追従制御を行うことによって実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-74828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、本願発明者は、例えば構造物表面に吸着して移動する小型の歩行ロボットの研究開発を進めている。ここで、小型の歩行ロボットにおいて、上述した歩行ロボットの技術を適用することが考えられる。
【0005】
ところが、小型の歩行ロボットへの適用を考えた場合には、多自由度を有する脚では小型化が困難である。また、複数のセンサ及び複数のアクチュエータが必要であり、また、これらを用いた高度な制御を行うコントローラや制御アルゴリズム等が必要となってしまい、小型の歩行ロボットの設計原理としては不適格である。
【0006】
また、本願発明者は、歩行ロボットの推進機構として4節リンク機構の一種である平行リンク機構を用い、この4節リンク機構の対向する2つのリンクに脚を接続した2脚歩行型の歩行ロボットを試作している。
【0007】
しかしながら、この2脚歩行型の歩行ロボットでは、1自由度である平行リンク機構を用いることで、多自由度を有する脚を用いない簡単な構成として小型化できるものの、その構造上、前進又は後退しかできず、2次元面上での自由な移動ができないという問題がある。なお、平行リンクの各節に脚を接続した場合には、前後方向の並進動作に加えて左右方向の並進動作が可能となるものの、旋回動作を行うことが難しい。
【0008】
そこで本発明は、上記問題点を解決すべくなされたものであり、多自由度を有する脚を用いない簡単な構成として小型化を可能としつつ、4節リンク機構を用いて直進動作及び旋回動作を行うことをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明に係る歩行ロボットは、左右前脚及び左右後脚を有する歩行ロボットであって、前記左右前脚が設けられるフロントリンクと、前記左右後脚が設けられるリアリンクと、前記フロントリンクの左右一方及び前記リアリンクの左右他方に回転可能に連結する第1交差リンクと、前記フロントリンクの左右他方及び前記リアリンクの左右一方に回転可能に連結する第2交差リンクと、前記フロントリンク又は前記リアリンクの少なくとも一方に駆動力を加えるとともに、前記左右前脚及び前記左右後脚の支持脚及び遊脚を切り替えることにより直進動作及び旋回動作を行わせる駆動機構とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の歩行ロボットは、フロントリンク、リアリンク、第1交差リンク及び第2交差リンクから構成される4節交差リンク機構において、フロントリンク又はリアリンクの少なくとも一方に駆動力を加えるとともに、左右前脚及び左右後脚の支持脚及び遊脚を切り替えることにより、直進動作及び旋回動作を行うことができる。したがって、本発明の歩行ロボットによれば、多自由度を有する脚を用いない簡単な構成として小型化を可能にすることができる。また、1自由度の4節交差リンク機構を用いた簡単な構成により直進動作及び旋回動作を行うことができ、2次元面上を自在に移動することが可能となる。
【0011】
駆動機構による直進動作の具体的な実施の態様としては、前記駆動機構は、左前脚及び右後脚を支持脚とした場合に、右前脚及び左後脚を遊脚とし、右前脚及び左後脚を支持脚とした場合に、左前脚及び右後脚を遊脚とし、これらを繰り返すことにより直進動作することが考えられる。また、駆動機構による旋回動作の具体的な実施の態様としては、左前脚及び右前脚を支持脚とした場合に、左後脚及び右後脚を遊脚とし、左後脚及び右後脚を支持脚とした場合に、左前脚及び右前脚を遊脚とし、これらを繰り返すことにより旋回動作することが考えられる。
【0012】
駆動機構の具体的な実施の態様としては、前記駆動機構は、前記駆動力を発生させる回転モータと、前記回転モータに接続され、負性抵抗回路を有する駆動回路と、前記各交差リンクの変位を元の状態に戻す弾性力を付与する弾性体とを有し、前記直進動作又は前記旋回動作を自励振動駆動により行うものであることが考えられる。
この構成であれば、自励振動駆動によるリミットサイクル歩行を実現することができ、路面状況の変化や負荷の変動にも特別な制御なく適用できるロバスト性に優れた歩行ロボットを実現できる。
【0013】
前記駆動機構は、前記左右前脚のそれぞれ、及び、前記左右後脚のそれぞれに設けられた吸着部と、前記吸着部の吸着及び解除を切り替えることによって、前記支持脚及び前記遊脚を切り替える切替制御部とを備えることが望ましい。
この構成であれば、歩行ロボットが歩行する面上に支持脚を固定することができ、安定して歩行することができる。
【0014】
駆動機構の具体的な実施の態様としては、上述したとおり、前記駆動力を発生させる回転モータと、前記回転モータに接続され、負性抵抗回路を有する駆動回路と、前記各交差リンクの変位を元の状態に戻す弾性力を付与する弾性体とを有し、前記直進動作又は前記旋回動作を自励振動駆動により行うものが考えられる。
この構成において、自励振動駆動に同期して吸着部の吸着及び解除を切り替えるためには、前記切替制御部は、前記回転モータの端子間電圧に基づいて、前記吸着部の吸着及び解除を切り替えることが考えられる。
【0015】
歩行ロボットを磁性体からなる構造物上を歩行させる場合には、前記吸着部に電磁石を用いることが望ましい。
この構成であれば、支持脚を構造物に固定することができ、当該構造物の水平面、垂直面や傾斜面等の面上を安定して歩行することができる。
【0016】
自励振動駆動によるロボット推進周期を所望の周期に調整するためには、前記駆動機構は、前記回転モータにより回転されるフライホイールをさらに有することが望ましい。
【0017】
歩行ロボットの自重に対して回転モータのトルクが不足すると安定した歩行が妨げられてしまう。特に歩行ロボットが傾斜面や垂直面等を歩行する場合に回転モータのトルクが不足してしまう。この問題を好適に解決するためには、本発明の歩行ロボットは、前記回転モータの回転を減速させる減速機構をさらに備えることが望ましい。この構成において、歩行ロボットの構成を簡単にして小型化するためには、前記減速機構は、前記フロントリンク又は前記リアリンクに一体形成されていることが望ましい。
【0018】
回転モータを設置する具体的な実施の態様としては、前記フロントリンク及び前記リアリンクの相対移動を可能にしつつ、前記フロントリンク及び前記リアリンクに架け渡される連結部材をさらに備え、前記回転モータは、前記連結部材に支持されていることが望ましい。
この構成であれば、回転モータの荷重を、左右前輪及び左右後輪の4輪に満遍なく分散させることができ、安定して歩行することができる。
【発明の効果】
【0019】
このように構成した本発明によれば、多自由度を有する脚を用いない簡単な構成として小型化を可能としつつ、4節リンク機構を用いて直進動作及び旋回動作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る歩行ロボットの構成を模式的に示す斜視図である。
図2】同実施形態の歩行ロボットの構成を模式的に示す平面図である。
図3】同実施形態の4節交差リンク機構を示す図である。
図4】同実施形態の回転モータの駆動回路(発振回路)を示す図である。
図5】同実施形態の支持脚及び遊脚の切り替えパターン及び電磁石のON/OFFの切り替えパターンを示す図である。
図6】同実施形態の電磁石のON/OFFの切り替えの制御条件を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る歩行ロボットの一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
<装置構成>
本実施形態の歩行ロボット100は、構造物の表面に吸着しながら移動する吸着型歩行ロボットであり、図1図3に示すように、4節交差リンク機構2を用いたものであり、その4節交差リンク機構2の各節に対応して設けられた左右前脚3a、3b及び左右後脚3c、3dを有する4脚歩行型のものである。
【0023】
具体的に歩行ロボット100は、4節交差リンク機構2と、当該4節交差リンク機構2に駆動力を加えるとともに、左右前脚3a、3b及び左右後脚3c、3dの支持脚及び遊脚を切り替えることにより直進動作及び旋回動作を行わせる駆動機構4とを備えている。
【0024】
4節交差リンク機構2は、特に図3に示すように、左右前脚3a、3bが設けられるフロントリンク21と、左右後脚3c、3dが設けられるリアリンク22と、フロントリンク21の左右一方の端部及びリアリンク22の左右他方の端部に回転可能に連結される第1交差リンク23と、フロントリンク21の左右他方の端部及びリアリンク22の左右一方の端部に回転可能に連結される第2交差リンク24とを有している。
【0025】
ここで、フロントリンク21と第1交差リンク23との連結点(節)に左前脚3aが接続され、フロントリンク21と第2交差リンク24との連結点(節)に右前脚3bが接続されている。また、リアリンク22と第1交差リンク23との連結点(節)に右後脚3dが設けられ、リアリンク22と第2交差リンク24との連結点(節)に左後脚3cが設けられている。
【0026】
駆動機構4は、フロントリンク21又はリアリンク22の少なくとも一方(本実施形態ではリアリンク22)に駆動力を加えるとともに、左右前脚3a、3b及び左右後脚3c、3dの支持脚及び遊脚を切り替えることにより直進動作及び旋回動作を行わせるものである。
【0027】
具体的に駆動機構4は、図1及び図2に示すように、駆動力を発生させるアクチュエータである回転モータ41と、回転モータ41に接続され、負性抵抗回路421を有する駆動回路42(図4参照)と、各交差リンク23、24の変位を元の状態に戻す弾性力を付与する弾性体43a、43bとを有し、直進動作又は旋回動作を自励振動駆動により行うものである。本実施形態の駆動機構4は、自励振動駆動によるロボット推進周期を所望の周期(例えば2Hz)に調整するために、回転モータ41により回転されるフライホイール44をさらに有している。
【0028】
本実施形態の回転モータ41は、図1及び図2に示すように、フロントリンク21及びリアリンク22の相対移動を可能にしつつ、フロントリンク21及びリアリンク22に架け渡される連結部材5に支持されている。ここで、連結部材5は、リアリンク22に対しては、ヒンジ構造により回転可能に連結されており、フロントリンク21に対しては、フロントリンク21に設けられたスライドピン21pがスライド孔5hにスライド可能となるように連結されている。
【0029】
この連結部材5の後端部には、リアリンク33から後方に延びて構造物の表面に接触する尻尾部材6が接続されている。この尻尾部材6における表面との接触部には、回転ローラ等の転動体61が設けられている。この尻尾部材6は、垂直面等の歩行時に生じる転倒モーメントにより歩行ロボット100が転倒しないようにするものである。
【0030】
また、本実施形態の歩行ロボット100は、特に図3に示すように、回転モータ41の回転を減速させて回転モータ41のトルクを増大させる減速機構45をさらに備えている。この減速機構45は、回転モータ41のバックドライブを阻害しない程度のものであり、回転モータ41の回転軸に設けられた駆動歯車45aと、当該駆動歯車45aに噛み合うとともに、リアリンク22に固定された被動歯車45bとを有している。本実施形態では減速比を例えば10としている。ここで、歩行ロボット100の構成を簡単にして小型化するために、減速機構45の被動歯車45bは、リアリンク22に一体形成されている(図3参照)。
【0031】
さらに、弾性体43a、43bは、歩行ロボット100の推進(歩行)に伴う第1交差リンク23及び第2交差リンク24の変位を元の状態に戻す弾性力を付与するものであり、本実施形態では、コイルばねを用いている。弾性体43a、43bであるコイルばねは、第1交差リンク23及び第2交差リンク24の交差部の両側にそれぞれ設けられており、一端がフロントリンク21に接続され、他端がリアリンク22に接続されている。なお、弾性体43a、43bとしては、コイルばねの他に、板ばね、渦巻ばね等を用いても良い。
【0032】
駆動回路42は、図4に示すように、回転モータ41に給電するための電源(不図示)とともに、回転モータ41に負の電気減衰定数を与える負性抵抗回路421を有している。この負性抵抗回路421には、オペアンプ及び抵抗から構成されたNIC(Negative Impedance Converter)を用いている。本実施形態では、歩行ロボット100の回転モータ41に負性抵抗回路421であるNICを接続することで、歩行ロボット100の自励振動駆動を実現している。なお、駆動回路42は、回転モータ41とともに4節交差リンク機構2や連結部材5に搭載しても良いし、ケーブルを介して外部に設けても良い。
【0033】
駆動回路42の電気減衰係数の絶対値が歩行ロボット100の機械減衰係数を上回り、系全体の等価減衰係数が負となると、系にエネルギーが投入されて、歩行ロボット100が発振して歩行を開始する。
【0034】
【数1】
【0035】
上式(数1)は、系全体の状態方程式であり、第2項が系全体の等価減衰係数を表している。ここで、Jは、慣性モーメント[kgm]、Cは、機械減衰係数[Nms/rad]、Kは、ばね定数[Nm/rad]、φは、逆起電力定数[V/(rad/s)](トルク定数[Nm/A])、RNICは、負性抵抗[Ω]、Rは、モータ内部抵抗[Ω]、θは、脚変位角[rad](図4参照)である。なお、モータコイルのインダクタンスは、微小で影響が小さいことにより省略している。
【0036】
また、負性抵抗回路421であるNICは、オペアンプの電圧値飽和特性によって、出力電圧と出力電流との関係に非線形性が存在する(図4の右上のグラフ参照)。このため、ある程度振動が増幅したら、系全体の等価減衰係数は0に収束する。したがって、振動はリミットサイクルに収束し、歩行ロボット100は定常的な歩行(一定歩幅で安定的な歩行)を行うことになる。
【0037】
さらに、本実施形態の駆動機構4は、直進(前進、後退)動作及び旋回(左旋回、右旋回)動作において、左右前脚3a、3b及び左右後脚3c、3dの4脚のうち2つの脚を支持脚とし、残りの2つの脚を遊脚とする。各動作における脚の組み合わせの繰り返しパターンは、図5に示すように、以下のとおりである。
【0038】
直進(前進、後退)動作;
「左前脚3a及び右後脚3dを支持脚とし、右前脚3b及び左後脚3cを遊脚とする組み合わせ」と、「右前脚3b及び左後脚3cを支持脚とし、左前脚3a及び右後脚3dを遊脚とする組み合わせ」とを交互に繰り返すパターン
【0039】
旋回(左旋回、右旋回)動作;
「左前脚3a及び右前脚3bを支持脚とし、左後脚3c及び右後脚3dを遊脚とする組み合わせ」と、「左後脚3c及び右後脚3dを支持脚とし、左前脚3a及び右前脚3bを遊脚とする組み合わせ」とを交互に繰り返すパターン
【0040】
上記の脚3a~3dの組み合わせパターンを実現するために、駆動機構4は、図1及び図6に示すように、左右前脚3a、3bのそれぞれ、及び、左右後脚3c、3dのそれぞれに設けられた吸着部46と、吸着部46の吸着及び解除を切り替えることによって、支持脚及び遊脚を切り替える切替制御部47とを備えている。
【0041】
本実施形態の吸着部46は電磁石であり、各脚3a~3dの足裏部に設けられている(図1参照)。この構成により、本実施形態の歩行ロボット100は、磁性体からなる構造物の表面を吸着歩行することができる。また、支持脚を構造物に固定することによって、構造物の水平面、垂直面や傾斜面等の面上を安定して歩行することができる。
【0042】
切替制御部47は、回転モータ41の端子間電圧Vmotorに基づいて、吸着部46の吸着及び解除を切り替えるものである。なお、切替制御部47は、CPU、メモリ、入出力インターフェース、AD変換器等を有する専用又は汎用のコンピュータから構成されている。また、切替制御部47は、4節交差リンク機構2や連結部材5に搭載しても良いし、ケーブルを介して外部に設けても良い。
【0043】
具体的に切替制御部47は、図6に示すように、回転モータ41の端子間電圧Vmotorの波形に基づいて、吸着部46の吸着(電磁石ON)及び解除(電磁石OFF)を制御しており、具体的には、以下の2つの条件に基づいて、各電磁石のON/OFFを切り替える。なお、電磁石がONにされた脚は支持脚となり、電磁石がOFFにされた脚は遊脚となる。
【0044】
条件1;回転モータ41の端子間電圧Vmotorが0の時に、電磁石を切り替えること。
図6に示すように、脚振動波形は端子間電圧波形から位相がπ/2遅れているため、一歩脚を踏み出し切ったタイミング(速度0)で支持脚と遊脚とを切り替えることができる。
【0045】
条件2;回転モータ41の端子間電圧Vmotorの累積値Aが所定の閾値を超えていること。
端子間電圧Vmotorの累積値Aと脚振動振幅はある程度の相関があり、振幅が十分に増幅されていない状態で電磁石が切り替えられてしまうことを防ぐことができる。この条件は、例えば、歩行ロボット100が垂直面や傾斜面等を歩行する際に、自重が進行方向とは逆方向に掛かる条件下において特に有効となる。
【0046】
上記のように各電磁石のON/OFFを切り替えることにより、歩行ロボット100は、図5に示すように、前進、後退、左旋回、及び右旋回を行うことができる。なお、歩行ロボット100による前進、後退、左旋回、及び右旋回の動作の切り替えは、ユーザがコントローラ(不図示)を用いて行うことができる。
【0047】
<本実施形態の効果>
このように構成された歩行ロボット100であれば、多自由度を有する脚を用いない簡単な構成として小型化を可能にすることができる。また、1自由度の4節交差リンク機構2を用いた簡単な構成により直進動作及び旋回動作を行うことができ、2次元面上を自在に移動することが可能となる。また、回転モータ41等の1軸のアクチュエータのみを使用した簡単な機構ながら、2次元平面上での前進、後退、左旋回及び右旋回が可能となる。
【0048】
また、本実施形態であれば、回転モータ41に負性抵抗回路421であるNICを接続することで、自励振動駆動によるリミットサイクル歩行を実現することができ、路面状況の変化や負荷の変動にも特別な制御なく適用できるロバスト性に優れた歩行ロボット100を実現できる。
【0049】
さらに、各脚3a~3dに吸着部46を設けているので、歩行ロボット100が歩行する面上に支持脚を固定することができ、安定して歩行することができる。ここで、吸着部46に電磁石を用いているので、磁性体からなる構造物の水平面、垂直面や傾斜面等の面上を安定して歩行することができる。また、構造物の表面に接触する尻尾部材6を設けているので、垂直面等の歩行時に歩行ロボット100の自重により生じる転倒モーメントに対抗して転倒しないようにできる。
【0050】
<その他の実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0051】
例えば、前記実施形態の駆動機構4のアクチュエータは回転モータであったが、ボイスコイルモータ等のリニアモータを用いても良いし、エアシリンダ等の空気圧アクチュエータ等のその他のアクチュエータを用いることができる。
【0052】
また、前記実施形態の負性抵抗回路421は、オペアンプ及び抵抗から構成されたNICを用いているが、その他の負性抵抗回路を用いても良い。
【0053】
さらに、前記実施形態の吸着部46は電磁石を用いたものの他に、静電チャックを用いたものや、吸着パッドを用いたものであっても良い。
【0054】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0055】
100・・・歩行ロボット
2・・・交差リンク機構
21・・・フロントリンク
22・・・リアリンク
23・・・第1交差リンク
24・・・第2交差リンク
3a・・・左前脚
3b・・・右前脚
3c・・・左後脚
3d・・・右後脚
4・・・駆動機構
41・・・回転モータ
42・・・駆動回路
421・・・負性抵抗回路
43a、43b・・・弾性体
44・・・フライホイール
45・・・減速機構
45a・・・駆動歯車
45b・・・被動歯車
46・・・吸着部
47・・・切替制御部
5・・・連結部材
6・・・尻尾部材
motor・・・端子間電圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6