(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159546
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】内燃機関の排気浄化装置および内燃機関の排気浄化装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
F01N 3/025 20060101AFI20231025BHJP
F01N 3/033 20060101ALI20231025BHJP
F01N 3/035 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
F01N3/025 101
F01N3/033 E
F01N3/035 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069281
(22)【出願日】2022-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高井 祐
【テーマコード(参考)】
3G190
【Fターム(参考)】
3G190AA12
3G190BA48
3G190CB18
3G190CB23
3G190DA03
3G190DA13
3G190DB05
3G190DB12
3G190DB43
3G190EA01
3G190EA02
3G190EA14
3G190EA24
3G190EA25
3G190EA42
3G190EA60
(57)【要約】
【課題】DPFの再生時、排気通路へ添加された燃料中のバイオ燃料濃度が高くても、DPFから白煙が排出されることを抑制する。
【解決手段】DPFの再生制御時、回転速度NEと燃料噴射量Qfとから算出した基準吸気量Anqに補正係数kcを乗算することにより、目標吸気量Atを算出する。補正係数kcは、バイオ燃料濃度が高いほど小さな値に設定される(S12)。吸気量が目標吸気量Atになるよう絞り弁を制御する(S13)。添加した燃料およびDPFに堆積したPMを燃焼するのに必要な空気量を確保しつつ排気ガスの温度を昇温できるので、バイオ燃料濃度が高い燃料の気化を促進し、DPFから白煙の排出を抑制できる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、排気ガスに含まれる粒状物質を捕集するフィルタと、
前記フィルタの上流の前記排気通路に設けた酸化触媒と、
前記酸化触媒の上流の前記排気通路に燃料を添加する燃料添加弁と、
前記内燃機関の吸気通路に設けられ、吸気量を制御する絞り弁と、
制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記フィルタに堆積した前記粒状物質を燃焼する再生制御を実行し、該再生制御の実行時に、前記燃料添加弁から添加される燃料中のバイオ燃料濃度が高いほど、前記排気通路内の空気量が少なくなるよう、前記絞り弁を制御する、内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記再生制御の実行時、前記内燃機関の回転速度と前記内燃機関の燃料噴射量と前記燃料中のバイオ燃料濃度に基づいて目標吸気量を算出し、前記吸気量が前記目標吸気量になるよう前記絞り弁を制御する、請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記再生制御の実行時、前記酸化触媒の温度が第1所定値以上のとき、前記燃料添加弁から前記燃料を添加する、請求項1または請求項2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記再生制御の実行時、前記フィルタの温度が前記第1所定値より大きな第2所定値以上のとき、前記燃料添加弁からの前記燃料の添加を停止する、請求項3に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
内燃機関の排気通路に設けられ、排気ガスに含まれる粒状物質を捕集するフィルタと、
前記フィルタの上流の前記排気通路に設けた酸化触媒と、
前記酸化触媒の上流の前記排気通路に燃料を添加する燃料添加弁と、を備えた内燃機関の排気浄化装置の制御方法であって、
前記フィルタに堆積した前記粒状物質を燃焼する再生制御の実行時に、前記燃料添加弁から添加される燃料中のバイオ燃料濃度が高いほど、前記排気通路内の空気量が少なくなるよう、前記内燃機関の吸気量を制御する、内燃機関の排気浄化装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内燃機関の排気浄化装置、および内燃機関の排気浄化装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脱炭素社会に向けて、カーボンニュートラルで環境負荷の少ないバイオ燃料の使用が拡大している。たとえば、菜種油や廃食用油を原料としたバイオディーゼル燃料を軽油に混合した、バイオ燃料混合軽油が圧縮自己着火式内燃機関(ディーゼルエンジン)の燃料として用いられている。
【0003】
ところで、軽油とバイオディーゼル燃料(以下、バイオ燃料とも称する)の蒸留性状は異なり、バイオ燃料は軽油に比較して蒸発し難い。また、バイオ燃料の発熱量は、軽油に比較して小さい。このため、特開2010-242664号公報(特許文献1)には、排気ガス中の微粒子物質を除去するフィルタの再生時にフィルタの昇温制御を行う際、燃料中のバイオ燃料濃度が高くなると、排気通路内へ添加する(供給する)燃料量を増加することが示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フィルタの再生時にフィルタの昇温を行う際、フィルタの上流に設けた酸化触媒の上流の排気通路へ燃料が添加される。排気通路へ添加された燃料は、酸化触媒で発熱(燃焼)し、下流のフィルタを昇温する。排気通路へ添加される燃料中のバイオ燃料濃度が高くなると、バイオ燃料は気化し難いので、酸化触媒で気化できない燃料が、酸化触媒をすり抜けてフィルタへ流入し、フィルタ内で燃焼することなく、白煙としてフィルタから排出される可能性がある。
【0006】
本開示の目的は、フィルタの再生時、排気通路へ添加された燃料中のバイオ燃料濃度が高い場合であっても、フィルタから白煙が排出されることを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の内燃機関の排気浄化装置は、内燃機関の排気通路に設けられ排気ガスに含まれる粒状物質を捕集するフィルタと、フィルタの上流の排気通路に設けた酸化触媒と、酸化触媒の上流の排気通路に燃料を添加する燃料添加弁と、内燃機関の吸気通路に設けられ吸気量を制御する絞り弁と、制御装置と、を備える内燃機関の排気浄化装置である。制御装置は、フィルタに堆積した粒状物質を燃焼する再生制御を実行し、該再生制御の実行時に、燃料添加弁から添加される燃料中のバイオ燃料濃度が高いほど、排気通路内の空気量が少なくなるよう、絞り弁を制御する。
【0008】
フィルタに堆積した粒状物質を燃焼させる再生制御では、フィルタの温度を昇温するために、排気通路に燃料を添加して、酸化触媒で発熱し、下流のフィルタを昇温する。その際、酸化触媒での発熱を促すため、排気ガスの温度を上昇させる。排気ガス温度を上昇させるには、添加した燃料およびフィルタに堆積した微粒子物質を燃焼させるのに必要な空気(酸素)を確保しつつ、排気ガス中の空気量を減らすことが好ましい。バイオ燃料は、その燃料分子中に酸素原子を有している。このため、燃料中のバイオ燃料濃度が高い場合、排気ガス中の空気量(酸素量)を減らしても、添加した燃料およびフィルタに堆積した微粒子物質を燃焼するのに必要な酸素を確保することが可能である。
【0009】
この構成によれば、内燃機関の排気浄化装置の制御装置は、フィルタに堆積した粒状物質を燃焼する再生制御の実行時に、燃料添加弁から添加される燃料中のバイオ燃料濃度が高いほど排気通路内の空気量が少なくなるよう、絞り弁を制御する。フィルタの再生制御時に、燃料中のバイオ燃料濃度が高いほど排気ガス中の空気量を少なくするので、添加した燃料およびフィルタに堆積した微粒子物質を燃焼するのに必要な酸素を確保しつつ排気ガスの温度を上昇させることが可能になる。したがって、酸化触媒の温度を高めることができ、バイオ燃料濃度が高い燃料の気化を促進でき、フィルタから白煙が排出されることを抑制できる。
【0010】
好ましくは、制御装置は、再生制御の実行時、内燃機関の回転速度と内燃機関の燃料噴射量と燃料中のバイオ燃料濃度に基づいて目標吸気量を算出し、吸気量が目標吸気量になるよう絞り弁を制御するようにしてもよい。
【0011】
この構成によれば、目標吸気量は、内燃機関の回転速度と内燃機関の燃料噴射量と燃料中のバイオ燃料濃度に基づいて算出されるので、内燃機関の運転状態に応じて、排気ガスの空燃比(空気量)を適切に制御することができる。
【0012】
好ましくは、制御装置は、再生制御の実行時、酸化触媒の温度が第1所定値以上のとき、燃料添加弁から燃料を添加するようにしてもよい。
【0013】
この構成によれば、酸化触媒の温度が第1所定温度以上のとき、燃料添加弁から燃料を添加するので、酸化触媒において燃料が確実に気化したあとフィルタに流入し、フィルタからの白煙の排出をより確実に抑制することができる。
【0014】
好ましくは、制御装置は、再生制御の実行時、フィルタの温度が第1所定値より大きな第2所定値以上のとき、燃料添加弁からの燃料の添加を停止するようにしてもよい。
【0015】
この構成によれば、フィルタの温度が第2所定値以上であり、微粒子物質が燃焼するのに十分な温度である場合には、燃料添加弁からの燃料の添加を停止するので、燃料消費の削減を図ることができる。
【0016】
本開示の制御方法は、内燃機関の排気通路に設けられ排気ガスに含まれる粒状物質を捕集するフィルタと、フィルタの上流の前記排気通路に設けた酸化触媒と、酸化触媒の上流の排気通路に燃料を添加する燃料添加弁と、を備えた内燃機関の排気浄化装置の制御方法であって、フィルタに堆積した粒状物質を燃焼する再生制御の実行時に、燃料添加弁から添加される燃料中のバイオ燃料濃度が高いほど排気通路内の空気量が少なくなるよう、内燃機関の吸気量を制御する。
【0017】
この制御方法によれば、フィルタに堆積した粒状物質を燃焼する再生制御の実行時に、燃料添加弁から添加される燃料中のバイオ燃料濃度が高いほど排気通路内の空気量が少なくなるよう、内燃機関の吸気量を制御する。フィルタの再生制御時に、燃料中のバイオ燃料濃度が高いほど排気ガス中の空気量が少なくなるので、フィルタに堆積した微粒子物質を燃焼するのに必要な酸素を確保しつつ排気ガスの温度を上昇させることが可能になる。したがって、酸化触媒の温度を高めることができ、バイオ燃料濃度が高い燃料の気化を促進でき、フィルタから白煙が排出されることを抑制できる。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、フィルタの再生時、排気通路へ添加された燃料中のバイオ燃料濃度が高くても、フィルタから白煙が排出されることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施の形態に係る内燃機関の排気浄化装置の概略構成図である。
【
図2】燃料中のバイオ燃料濃度(軽油に対するバイオ燃料の混合割合)と蒸留割合の関係を示す図である。
【
図3】エンジンECU100で実行されるDPF再生制御の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】エンジンECU100で実行されるPM堆積量算出処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】本実施の形態において、補正係数kcを求めるためのマップの一例を示す図である。
【
図6】ECU100で実行されるバイオ燃料濃度推定処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0021】
図1は、本実施の形態に係る内燃機関の排気浄化装置の概略構成図である。エンジン1は、排気浄化装置を備えた、圧縮自己着火式内燃機関(ディーゼルエンジン)である。エンジン1は、エンジン本体10のシリンダ(気筒)12に形成された燃焼室に、燃料噴射弁(インジェクター)14から燃料を噴射し、圧縮自己着火を行う内燃機関である。本実施の形態において、エンジン1は4気筒である。エンジン1の吸気通路20には、エアクリーナ22、インタークーラ24、および絞り弁(ディーゼルスロットル弁)26が設けられており、エアクリーナ22で異物が除去された新気(空気)は、ターボ過給機30のコンプレッサ32で過給(圧縮)され、インタークーラ24で冷却されて、吸気マニホールド28に供給され、吸気ポートから各燃焼室に供給される。
【0022】
燃焼室から排出される排気(排気ガス)は、排気マニホールド50に集められ、排気通路52を介して、外気に放出される。また、排気の一部は、EGR(Exhaust Gas Recirculation)通路60を介して、吸気マニホールド28に還流される。EGR通路60には、EGRクーラ62とEGR弁64が設けられる。
【0023】
排気通路52には、上流側から、ターボ過給機30のタービン34、酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)70、DPF(Diesel Particulate Filter)72が設けられている。DPF72は、排気ガス中の粒子状物質(PM:Particulate Matter)を捕集し、捕集したPMを適宜燃焼除去することにより浄化するフィルタである。図示しないが、DPF72の下流に、尿素添加弁および選択還元触媒を設けてもよい。なお、尿素添加弁および選択還元触媒に代えて、あるいは、加えて、NOx吸蔵還元触媒(NSR(NOx Storage-Reduction)触媒)を設けてもよい。
【0024】
燃料タンク40には、燃料が貯留されている。燃料タンク40内の燃料は、フィードポンプ41によって高圧燃料ポンプ42に供給され、高圧燃料ポンプ42から吐出された高圧の燃料が燃料通路43を介してコモンレール44に圧送される。コモンレール44に蓄えられた高圧の燃料が、インジェクター14から燃焼室(筒内)に噴射される。
【0025】
酸化触媒70の上流の排気通路52(本実施の形態では、タービン34の上流側の排気通路52)には、燃料添加弁80が設けられている。燃料添加弁80には、燃料タンク40内の燃料がフィードポンプ41により燃料通路45を介して供給されており、燃料添加弁80が開弁すると、排気通路52内へ燃料が添加(噴射)される。
【0026】
エンジンECU100(Electronic Control Unit)は、CPU101、ROMおよびRAMからなるメモリ102、各種信号を入出力するための入出力ポート(図示せず)等を含み、メモリ102に記憶された情報、各種センサからの情報に基づいて所定の演算処理を実行し、インジェクター14、絞り弁26、高圧燃料ポンプ42、燃料添加弁80等を制御する。なお、エンジンECU100が、本開示の「制御装置」に相当する。
【0027】
エンジンECU100に入力される各種センサとしては、たとえば、たとえば、エンジン回転速度センサ111、アクセルペダルセンサ112、エアフローメータ113、酸化触媒温度センサ114、DPF温度センサ115、圧力センサ116、等である。エンジン回転速度センサ111は、エンジン1の回転速度NEを検出する。アクセルペダルセンサ112は、ユーザによるアクセルペダル操作量(以下「アクセル開度」ともいう)APを検出する。エアフローメータ113は、エンジン1の吸気量(吸入空気量)Gaを検出する。酸化触媒温度センサ114は、酸化触媒70の温度Tcを検出する。なお、酸化触媒温度センサ114は、酸化触媒70の入口温度を検出することが望ましい。DPF温度センサ115は、DPF72の温度Tf(DPF72の床温)を検出する。圧力センサ116は、DPF72の上流と下流の排気通路52内の圧力差ΔPを検出する。
【0028】
上記のように構成されたエンジン1では、エンジン1から排出される排気ガスに含まれるPMをDPF72で捕集する。エンジンECU100は、DPF72に堆積したPM量が所定値以上になったとき、DPF72を昇温して、堆積したPMを燃焼除去することによりDPF72を再生する再生制御を実行する。再生制御の実行時、DPF72を昇温するため、燃料添加弁80から燃料を添加する。添加した燃料は、酸化触媒70は発熱(燃焼)し、DPF72に流入する排気ガスの温度が上昇する。
【0029】
燃料タンク40に貯留する燃料として、軽油とバイオ燃料を混合したバイオ燃料混合軽油が使用される場合がある。
図2は、燃料中のバイオ燃料濃度(軽油に対するバイオ燃料の混合割合)と蒸留割合の関係を示す図である。
図2において、縦軸は蒸留割合(%)であり、横軸は温度である。蒸留割合は、気化している燃料の割合(%)を示している。
図2において、破線は、軽油に対して7%のバイオ燃料を混合した燃料(B7)の蒸留割合であり、一点鎖線は、軽油に対して50%のバイオ燃料を混合した燃料(B50)の蒸留割合であり、二点鎖線は、バイオ燃料100%の燃料(B100)の蒸留割合である。
図2に示すように、燃料中のバイオ燃料濃度が高いほど、気化し難い。このため、バイオ燃料濃度が高い燃料が、燃料添加弁80から排気通路52に添加されると、酸化触媒70で気化できない燃料が、酸化触媒70をすり抜けてDPF72へ流入し、DPF72内で燃焼することなく、白煙としてDPF72から排出される可能性がある。
【0030】
燃料添加弁80から排気通路52に添加された燃料の気化を促進するためには、排気ガスの温度を上昇させて、酸化触媒70の温度を高めることが好ましい。排気ガス温度を上昇させるには、添加した燃料およびDPF72に堆積したPMを燃焼させるのに必要な空気(酸素)を確保しつつ、排気ガス中の空気量を減らすことが好ましい。バイオ燃料は、その燃料分子中に酸素原子を有しており、酸素含有量が大きい。このため、燃料中のバイオ燃料濃度が高い場合、排気ガス中の空気量(酸素量)を減らしても、添加した燃料およびDPF72に堆積した微粒子物質を燃焼するのに必要な酸素を確保することが可能である。
【0031】
本実施の形態では、DPF72の再生制御の実行時に、燃料添加弁80から添加される燃料中のバイオ燃料濃度が高いほど、排気通路52内の空気量が少なくなるよう絞り弁26を制御して、排気ガス中の空気量を減らし、排気ガス温度を上昇させて酸化触媒70の温度を高め、バイオ燃料濃度が高い燃料の気化を促進して、DPF72から白煙が排出されることを抑制する。
【0032】
図3は、エンジンECU100で実行されるDPF再生制御の処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、エンジン1の作動中、所定期間毎に繰り返し処理される。ステップ(以下、ステップを「S」と略す)10では、DPF72のPM堆積量ΣPmdが、再生開始閾値A以上であるか否かを判定する。PM堆積量ΣPmdが再生開始閾値A以上であり、DPF72の再生(堆積したPMの燃焼除去)が必要な場合は、肯定判定されS11へ進み、フラグFrを1に設定したあと、S12へ進む。PM堆積量ΣPmdが再生開始閾値Aより小さく、DPF72の再生が不要な場合は、否定判定されS18へ進み、フラグFrを0に設定したあと、今回のルーチンを終了する。
【0033】
PM堆積量ΣPmdは、DPF72に堆積した(捕集されている)PMの量であり、エンジン1の運転状態に基づいて算出される。
図4は、エンジンECU100で実行されるPM堆積量算出処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、エンジン1の作動中、所定時間毎に繰り返し処理される。まず、S20において、フラグFrが1であるか否かを判定する。DPF72が再生制御中ではなく、フラグFrが0の場合、否定判定されS21へ進む。
【0034】
S21では、エンジン1の回転速度NE、燃料噴射量Qf、等に基づいて、エンジン1から排出されるPM量であるPM排出量Padを算出する。たとえば、メモリ102には、エンジン1から単位時間当たりに排出されるPM量が、回転速度NE、燃料噴射量Qf、エンジン冷却水温度等をパラメータとしたマップとして、予め記憶されている。このマップから、読み出した単位時間当たりの排出されるPM量に、前回の処理と今回の処理との時間間隔Δtを乗算することにより、PM排出量Padを算出する。なお、燃料噴射量Qfは、インジェクター14から燃焼室内に噴射される燃料量であり、エンジンECU100において、アクセル開度AP、回転速度NE、等に基づいて算出される。
【0035】
S22では、前回算出したPM堆積量ΣPmdにPM排出量Padを加算して、(今回の)PM堆積量ΣPmdを算出し、今回のルーチンを終了する。
【0036】
S20において、DPF72が再生中の場合はフラグFrが1であるので、肯定判定されS23へ進む。S23では、DPF72の再生制御時に、燃焼除去されるPM量であるPM除去量Psuを、DPF72の温度Tfに基づいて算出する。たとえば、メモリ102には、DPF72から単位時間当たりに除去されるPM量が、DPF72の温度Tfをパラメータとしたマップとして、予め記憶されている。このマップから読み出した単位時間当たりに燃焼除去されるPM量に、前回の処理と今回の処理との時間間隔Δtを乗算することにより、PM除去量Psuを算出する。
【0037】
S24では、前回算出したPM堆積量ΣPmdからPM除去量Psuを減算して、(今回の)PM堆積量ΣPmdを算出し、今回のルーチンを終了する。
【0038】
図3を参照して、S11に続くS12では、回転速度NE、燃料噴射量Qf、および、燃料中のバイオ燃料濃度Cfに基づいて、目標吸気量Atを算出する。たとえば、予め実験等によって、回転速度NEと燃料噴射量Qfをパラメータとして、燃料として軽油を用いた場合に(バイオ燃料濃度Cfが0%の燃料を用いた場合に)、燃料添加弁80から排気通路52に添加した燃料およびDPF72に堆積したPMを燃焼させるのに必要な空気(酸素)を確保でき、添加した燃料が酸化触媒70で燃焼(発熱)可能な排気ガス温度まで上昇する基準吸気量Anqを求める。そして、この基準吸気量Anqが、回転速度NEと燃料噴射量Qfをパラメータとしたマップとして、メモリ102に記憶されている。
【0039】
また、バイオ燃料濃度Cfに基づいて、補正係数kcを求める。
図5は、本実施の形態において、補正係数kcを求めるためのマップの一例を示す図である。
図5に示すように、補正係数kcは、1.0以下の値であり、バイオ燃料濃度Cfが小さいほど、小さな値になる。補正係数kcは、排気ガス中の空気量(酸素量)を減らしても、バイオ燃料に含有される酸素によって、添加した燃料およびDPF72に堆積したPMを燃焼させるのに必要な空気(酸素)を確保できるよう、予め実験等によって設定されている。
【0040】
バイオ燃料濃度Cfを、燃料の発熱量から、推定するようにしてもよい。
図6は、ECU100で実行されるバイオ燃料濃度推定処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、エンジン1が始動する毎に実行される。たとえば、イグニッションスイッチ(始動スイッチ)がONされ、エンジン1が始動されると、S30において、燃料タンク40への給油が行われたか否かを判定する。本実施の形態では、燃料レベルゲージ(図示しない)で検出した、燃料タンク40の燃料量を用いて、給油が行われたか否かを判定する。たとえば、前回、エンジン1が停止したとき(イグニッションスイッチがOFFされたとき)の燃料量よりも、今回のエンジン1始動時の燃料量の方が多いとき、給油が行われたと判定する。なお、エンジン1の停止から今回のエンジン1の始動までの間に、燃料リッド(フェールリッド)が開かれた履歴がある場合、給油が行われたと判定してよい。S30において、燃料タンク40への給油が行われたと判定されるとS31へ進む。燃料タンク40への給油が行われていないと判定されると、今回のルーチンを終了する。
【0041】
S31では、エンジン1の始動後、所定期間が経過したか否かを判定する。所定期間は、給給油前に燃料タンク40に貯留されていた燃料と給油された燃料が、混ざり合うのに十分な時間とされる。エンジン1が車両に搭載されている場合、走行時の振動によって、燃料タンク40内の燃料の攪拌が期待できるので、所定期間は、エンジン1の始動後の数分間であってよい。エンジン1の始動後、所定期間が経過するまで、S31が繰り返し処理され、エンジン1の始動後、所定期間が経過すると、S31で肯定判定されS32へ進む。
【0042】
S32では、燃焼圧センサ(図示しない)で検出した燃焼圧(筒内圧)と燃料噴射量Qfから、燃料の発熱量(質量当たりの発熱量)を算出し、発熱量に基づいて、バイオ燃料濃度Cfを推定する。なお、バイオ燃料の発熱量は軽油の発熱量より小さいので、燃料の発熱量に基づいて、バイオ燃料濃度Cfを推定することができる。
【0043】
図3を参照して、S12では、回転速度NEと燃料噴射量Qfとから算出した基準吸気量Anqにバイオ燃料濃度Cfから算出した補正係数kcを乗算することにより、目標吸気量Atを算出する(At=Anq×kc)。目標吸気量Atは、バイオ燃料濃度Cfが高いほど、小さな値になる。
【0044】
S13では、エンジン1の吸気量が目標吸気量Atになるよう、絞り弁26の開度を制御する吸気量制御を行う。吸気量制御は、たとえば、エアフローメータ113で検出した吸気量Gaが目標吸気量Atになるよう、絞り弁26の開度をフィードバック制御する。
【0045】
続くS14では、酸化触媒70の温度Tc(好適には、酸化触媒70の入口温度)が、第1所定値T1以上か否かを判定する。第1所定値T1は、酸化触媒70に流入した燃料が気化し、その後、燃焼(発熱)して排気ガスを昇温するのに十分な温度であり、予め実験等により設定される。温度Tcが第1所定値T1より低温のとき、否定判定されS12へ戻り、吸気量制御を継続する。吸気量制御により排気ガス温度が上昇し、温度Tcが第1所定値T1以上になると、S14で肯定判定されS15へ進む。
【0046】
S15では、DPF72の温度Tfが、第2所定値T2以上であるか否かを判定する。第2所定値T2は、DPF72に堆積しているPMが十分に燃焼除去される温度であり、予め実験等によって設定される。温度Tfが第2所定値T2以上のとき、肯定判定されS12へ戻り、吸気量制御を継続する。これにより、排気通路52に燃料を添加して排気ガス温度を上昇させなくとも、DPF72に堆積しているPMが十分に燃焼除去できる場合には、燃料添加弁80からの燃料の添加を行わないので、燃料の消費削減を図ることができる。温度Tfが第2所定値T2未満の場合は、否定判定されS16へ進む。
【0047】
S16では、燃料添加弁80から排気通路52へ燃料を添加(噴射)する。これにより、排気通路52へ添加された燃料が発熱(燃焼)することにより、排気ガス温度が上昇し、DPF72が昇温されることにより、DPF72に堆積したPMを燃焼除去することができる。燃料添加弁80による燃料の添加量(噴射量)は、たとえば、回転速度NE、燃料噴射量Qf、吸気量Ga等に基づいて算出され、排気ガスの空燃比が所定の値になるよう、算出されてよい。
【0048】
続くS17では、PM堆積量ΣPmdが再生終了閾値B以下であるか否かを判定する。PM堆積量ΣPmdが再生終了閾値Bより大きい場合、否定判定されS12へ戻り、吸気量制御、排気通路52への燃料の添加を行い、排気ガス温度を上昇して、DPF72に堆積したPMの燃焼除去を継続する。PMの燃焼除去が進み、PM堆積量ΣPmdが再生終了閾値B以下になると、S17で肯定判定されS18へ進み、フラグFrを0に設定したあと、今回のルーチンを終了する。
【0049】
本実施の形態では、補正係数kcは、燃料添加弁80から添加される燃料中のバイオ燃料濃度Cfが高いほど小さな値に設定されており、バイオ燃料濃度Cfが高いほど、目標吸気量Atが小さくなる。燃料添加弁80から添加される燃料中のバイオ燃料濃度Cfが高いほど、排気通路52内の空気量が少なくなるよう絞り弁26が制御される。補正係数kcは、排気ガス中の空気量(酸素量)を減らしても、バイオ燃料に含有される酸素によって、添加した燃料およびDPF72に堆積したPMを燃焼させるのに必要な空気(酸素)を確保できるよう、設定される。したがって、DPF72のPM再生制御時に、添加した燃料およびDPF72に堆積したPMを燃焼するのに必要な空気量(酸素量)を確保しつつ排気ガスの温度を上昇させることが可能になり、酸化触媒70の温度を高めることができ、バイオ燃料濃度が高い燃料の気化を促進でき、DPF72から白煙が排出されることを抑制できる。
【0050】
上記の実施の形態では、回転速度NEと燃料噴射量Qfとから算出した基準吸気量Anqにバイオ燃料濃度Cfから算出した補正係数kcを乗算することにより、目標吸気量At(=Anq×kc)を算出していた。目標吸気量Atの算出方法は、これに限られず、たとえば、バイオ燃料濃度Cfに基づいて、バイオ燃料濃度Cfが高いほど大きな値になる補正量Akを算出し、基準吸気量Anqから補正量Akを減算することにより、目標吸気量At(=Anq-Ak)を算出してもよい。回転速度NE、燃料噴射量Qf、および、バイオ燃料濃度Cfをパラメータとした三次元マップから、目標吸気量Atを求めるようにしてもよい。
【0051】
また、上記の実施の形態では、補正係数kcは、バイオ燃料濃度Cfが高くなるに伴い、連続的に小さくなる値であったが(
図5参照)、多段階に小さくなる値であってもよく、たとえば、バイオ燃料濃度Cfが低い場合と高い場合の2段階に、補正係数kcが設定されてもよい。本開示において、「燃料添加弁80から添加される燃料中のバイオ燃料濃度Cfが高いほど、排気通路52内の空気量が少なくなる」とは、「燃料添加弁80から添加される燃料中のバイオ燃料濃度Cfが高い場合は、バイオ燃料濃度Cfが低い場合に比較して排気通路52内の空気量が少なくなる」ことを含む。
【0052】
上記の実施の形態では、PM堆積量ΣPmdを閾値(再生開始閾値A、再生終了閾値B)と比較することにより、DPF72に堆積したPMの燃焼除去(DPF72の再生)要否を判定していた。しかし、これに代えて、あるいは、加えて、圧力センサ116で検出した、DPF72の上流と下流の排気通路52内の圧力差ΔPを用いて、PMの燃焼除去の要否を判定するようにしてもよい。この場合、たとえば、圧力差ΔPが所定値以上のとき、PMの燃焼除去を実行してよい。
【0053】
上記の実施の形態では、DPF72の温度Tf(DPF72の床温)を、DPF温度センサ115を用いて検出していたが、回転速度NE、燃料噴射量Qf、エンジン冷却水温、等を用いて、DPF72の温度を推定するようにしてもよい。
【0054】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0055】
1 エンジン、10 エンジン本体、12 シリンダ(気筒)、14 燃料噴射弁(インジェクター)、20 吸気通路、22 エアクリーナ、24 インタークーラ、26 絞り弁(ディーゼルスロットル弁)、28 給気マニホールド、30 ターボ過給機、32 コンプレッサ、34 タービン、40 燃料タンク、41 フィードポンプ、42 高圧燃料ポンプ、43 燃料通路、44 コモンレール、45 燃料通路、50 排気マニホールド、52 排気通路、60 ERG通路、62 EGRクーラ、64 EGR弁、70 酸化触媒(DOC)、72 DPF、80 燃料添加弁、100 エンジンECU、101 CPU、102 メモリ、111 エンジン回転速度センサ、112 アクセルペダルセンサ、113 エアフローメータ、114 酸化触媒温度センサ、115 DPF温度センサ、116 圧力センサ、117 バイオ燃料濃度センサ。