特開 2023-159548 温度処理容器

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】公開特許公報(A)

(11)【公開番号】P2023159548

(43)【公開日】2023-11-01

(54)【発明の名称】温度処理容器

(51)【国際特許分類】

   C12M 1/00 20060101AFI20231025BHJP

【ＦＩ】

C12M1/00 A

【審査請求】未請求

【請求項の数】7

【出願形態】ＯＬ

(21)【出願番号】P 2022069285

(22)【出願日】2022-04-20

(71)【出願人】

【識別番号】519367935

【氏名又は名称】ピコテクバイオ株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】100205981

【弁理士】

【氏名又は名称】野口 大輔

(72)【発明者】

【氏名】山口 佳則

(72)【発明者】

【氏名】山中 啓一郎

【テーマコード（参考）】

4B029

【Ｆターム（参考）】

4B029AA08

4B029AA23

4B029BB20

4B029FA15

(57)【要約】

【課題】サンプルの温度を高速で変動させることが可能な温度処理容器を提供する。
【解決手段】サンプルの温度を変動させるサンプル温度処理を行なうための温度処理容器であって、上面が開口した容器本体と、前記容器本体の上部に装着されて前記容器本体の前記上面を封止するキャップと、を備え、前記容器本体の下端部に、前記上面から導入されたサンプルを含むサンプル液を収容するための内部空間を有する略半円柱形状のサンプル収容部が下方へ延在するように設けられている
【選択図】 図１

【特許請求の範囲】

【請求項1】

サンプルの温度を変動させるサンプル温度処理を行なうための温度処理容器であって、
上面が開口した容器本体と、
前記容器本体の上部に装着されて前記容器本体の前記上面を封止するキャップと、を備え、
前記容器本体の下端部に、前記上面から導入されたサンプルを含むサンプル液を収容するための内部空間を有する略半円柱形状のサンプル収容部が下方へ延在するように設けられている、温度処理容器。

【請求項2】

前記サンプル収容部の前記内部空間は下方へいくにしたがって断面積が小さくなっている、請求項１に記載の温度処理容器。

【請求項3】

前記容器本体は、下方へ行くにしたがって内径及び外径が小さくなる漏斗形状の漏斗部を備え、前記サンプル収容部は前記漏斗部の下端から下方へ延在するように設けられている、請求項１又は２に記載の温度処理容器。

【請求項4】

前記サンプル収容部は中心軸を前記漏斗部と共有する円柱の一部をなすように設けられている、請求項３に記載の温度処理容器。

【請求項5】

前記容器本体の内部にサンプルに反応を起こさせる試薬が保持されており、
前記キャップの下端にサンプルを保持するためのサンプル保持部が設けられており、前記キャップが前記容器本体に装着されたときに前記サンプル保持部が前記容器本体の内部に挿入され、前記サンプル保持部に保持されたサンプルが前記試薬と接触するように構成されている、請求項１又は２に記載の温度処理容器。

【請求項6】

前記容器本体は第１のネジが設けられている外周面又は内周面を有し、前記キャップは前記第１のネジと螺合する第２のネジが設けられている内周面又は外周面を有し、前記第１のネジと前記第２のネジとが互いに螺合することによって前記キャップが前記容器本体に対して装着され、
前記第１のネジと前記第２のネジの螺合距離が一定距離に達したときに互いに係合して前記キャップが前記容器本体に装着された状態を固定するロック機構が、前記容器本体及び前記キャップに設けられている、請求項１又は２に記載の温度処理容器。

【請求項7】

前記容器本体又は前記キャップは、水平面内における複数の方向へそれぞれ延在する複数の羽部を備えている、請求項１又は２に記載の温度処理容器。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、サンプルの温度を変動させる温度処理を行なうための温度処理容器に関する。

【背景技術】

【0002】

サンプル中の遺伝子を増幅させるためにＰＣＲ（ポリメラーゼ連鎖反応）がよく用いられ、ＰＣＲを行なうための容器も提案されている（特許文献１参照。）。ＰＣＲのような処理を高速で実施することが望まれており、そのためには、サンプルの温度を高速で変動させる必要がある。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0003】

【特許文献1】特開２０１９－１１８３３８号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0004】

特許文献１に開示されているような容器では、容器に収容したサンプルの温度を変動させるために、容器を加熱するヒータの出力を一定時間ごとに変化させたり、互いに異なる温度に制御される複数の加熱部を用意しておいて容器を各加熱部へ移動させたりすることが一般的であるが、いずれの手法もサンプルの温度を高速で変動させるには限界がある。

【0005】

また、一般的な容器を加熱して化学反応を行なう場合には容器をアルミブロックのような熱源に設置し、その熱源の温度を調整して行なう場合がある。その場合にはアルミブロック全体の温度を上下させるので、短時間での温度変化には限界があり、また、反応を促進する目的の温度までに高温と低温の間の温度にも容器サンプルが曝されることによって、化学反応が適切に行なわれない場合があった。

【0006】

本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、サンプルの温度を的確に高速で変動させることが可能な温度処理容器を提供することを目的とするものである。

【課題を解決するための手段】

【0007】

本発明に係る温度処理容器は、サンプルの温度を変動させるサンプル温度処理を行なうための温度処理容器であって、上面が開口した容器本体と、前記容器本体の上部に装着されて前記容器本体の前記上面を封止するキャップと、を備え、前記容器本体の下端部に、前記上面から導入されたサンプルを含むサンプル液を収容するための内部空間を有する略半円柱形状のサンプル収容部が下方へ延在するように設けられているものである。「略半円柱形状」とは、完全な半円柱形状だけでなく半円柱形状に類似する形状も含む形状である。

【0008】

本発明の実施の一態様として、前記サンプル収容部の前記内部空間は下方へいくにしたがって断面積が小さくなっていてもよい。このような態様により、前記サンプル収容部内での熱対流が起こりやすくなり、前記サンプル収容部に収容したサンプル液の温度を高速で変化させやすくなる。

【0009】

また、別の実施の態様として、前記容器本体は、下方へ行くにしたがって内径及び外径が小さくなる漏斗形状の漏斗部を備え、前記サンプル収容部は前記漏斗部の下端から下方へ延在するように設けられていてもよい。

【0010】

上記実施の態様では、前記サンプル収容部は中心軸を前記漏斗部と共有する円柱の一部をなすように設けられていてもよい。

【0011】

さらに別の実施の態様として、前記容器本体の内部にサンプルに反応を起こさせる試薬が保持されており、前記キャップの下端にサンプルを保持するためのサンプル保持部が設けられており、前記キャップが前記容器本体に装着されたときに前記サンプル保持部が前記容器本体の内部に挿入され、前記サンプル保持部に保持されたサンプルが前記試薬と接触するように構成されていてもよい。このような態様により、当該温度処理容器内での試料と試薬の混合が容易になる。

【0012】

さらに別の実施の態様として、前記容器本体は第１のネジが設けられている外周面又は内周面を有し、前記キャップは前記第１のネジと螺合する第２のネジが設けられている内周面又は外周面を有し、前記第１のネジと前記第２のネジとが互いに螺合することによって前記キャップが前記容器本体に対して装着され、前記第１のネジと前記第２のネジの螺合距離が一定距離に達したときに互いに係合して前記キャップが前記容器本体に装着された状態を固定するロック機構が、前記容器本体及び前記キャップに設けられていてもよい。このような態様により、当該温度処理容器を再利用しにくくなり、感染防止等に寄与することができる。

【0013】

さらに別の実施の態様として、前記容器本体又は前記キャップは、水平面内における複数の方向へそれぞれ延在する複数の羽部を備えていてもよい。このような態様により、当該温度処理容器を一定の姿勢で保持することが可能になる。

【発明の効果】

【0014】

本発明に係る温度処理容器は、水平面内において対向配置された内周面を有する２つのヒータブロックの間にサンプル液を収容するサンプル収容部を配置し、ヒータブロックと容器とを水平面内において相対的に回転させてサンプル収容部を各ヒータブロックの内周面に交互に接触させることを前提としたものである。サンプル収容部が半円柱形状となっていることで、各ヒータブロックの内周面に外周面を面接触させることができるとともに、一方のヒータブロックと接触しているときには他方のヒータブロックと接触しない状態となる。これにより、サンプル収容部に収容したサンプル液の温度を所望の温度に変化させやすい。すなわち、サンプル収容部に収容したサンプル液の温度を高速で変動させることが可能となる。

【図面の簡単な説明】

【0015】

【図1】温度処理容器の一実施例の構成を説明するための垂直断面図である。

【図2】（Ａ）は容器本体の図１の垂直断面と直交する垂直断面の図であり、（Ｂ）は容器本体を下方から見た図である。

【図3】容器本体にキャップを装着した状態での垂直断面図である。

【図4】同実施例におけるロック機構を説明するための図であり、（Ａ）はロック前、（Ｂ）はロック後を示している。

【図5】同実施例の温度処理容器を温度処理装置にセットして加熱を開始したときの状態を示す垂直断面図である。

【図6】温度処理装置のヒータブロックを図５の状態から１８０度回転させた後の状態を示す垂直断面図である。

【図7】温度処理容器及び温度処理装置を用いた温度処理の検証結果を示す電気泳動データである。

【発明を実施するための形態】

【0016】

以下、図面を参照しながら、本発明に係る温度処理容器の実施形態について説明する。

【0017】

図１示されているように、温度処理容器１は、容器本体１００及びキャップ２００を備えている。容器本体１００は上面１０２が開口した容器であり、キャップ２００が容器本体１００の上部に装着されることによって容器本体１００の上面１０２の開口が封止される。

【0018】

容器本体１００の下端には、サンプルを含むサンプル液を収容するための内部空間１０６を有するサンプル収容部１０４が設けられている。サンプル収容部１０４の内部空間１０６の水平断面の面積は下方へいくにしたがって小さくなっており、内部空間１０６の垂直断面の形状は略三角形となっている。また、図２に示されているように、サンプル収容部１０４は略半円柱形状を有する。内部空間１０６が上記の形状を有することで、内部空間１０６における熱対流が起こりやすくなり、サンプル収容部１０４の外周面から内部空間１０６へ熱を加えたときの内部空間１０６内の温度変化が高速でなされるようになる。

【0019】

容器本体１００は、サンプル収容部１０４の上方に、下方へいくにしたがって内径及び外径が小さくなる漏斗状の漏斗部１０８を備えている。サンプル収容部１０４は、漏斗部１０８の下端から下方へ延在し、漏斗部１０８と中心軸を共有する円柱の一部をなすように設けられている。その漏斗部１０８内には、固化した試薬層１１０が固定されている。試薬層１１０は、例えば摂氏５０度以上に加熱されることで液化する。試薬層１１０は、例えば、サンプル中の遺伝子を増幅させるためのＰＣＲ処理を行なうためのＰＣＲ試薬の層（上層）とパラフィンの層（下層）を含むものである。下層には上層より比重の小さい液体を充填することで、試薬層１１０が液化したときに効率よく試薬の入れ替えを促すことができる。

【0020】

図１に戻って説明を続ける。容器本体１００の外周面には、水平外側方向へ延在するように設けられた羽部１１２を備えている。羽部１１２は、温度処理容器１を一定の姿勢で保持するためのものである。なお、羽部１１２はキャップ２００に設けられていてもよい。

【0021】

容器本体１００の上部外周面にキャップ２００を装着するためのネジ１１４（第１のネジ）が設けられている。さらに、容器本体１００の上端に突起１１６が設けられている。突起１１６は、キャップ２００を容器本体１００に装着した状態で固定するロック機構の一部をなすものである。ロック機構については後述する。

【0022】

キャップ２００の中段部に、キャップ２００の外周面を囲うように下方へ延びるスカート部２０６が設けられている。スカート部２０６の内周面には、容器本体１００のネジ１１４と螺合するネジ２０８（第２のネジ）が設けられている。容器本体１００のネジ１１４とキャップ２００のネジ２０８が互いに螺合することで、キャップ２００が容器本体１００に装着される。

【0023】

図３に示されているように、キャップ２００の下部は、キャップ２００が容器本体１００に装着されたときに容器本体１００内に挿入される。キャップ２００の下端には、サンプルを保持するための窪みであるサンプル保持部２０４が設けられており、キャップ２００が容器本体１００に装着されたときにサンプル保持部２０４が容器本体１００内の試薬層１１０に達するようになっている。唾液などのサンプルは、キャップ２００の下端のサンプル保持部２０４に保持された状態で容器本体１００内に導入され、試薬層１１０に接する。

【0024】

図４に示されているように、キャップ２００のスカート部２０６の最奥面に容器本体１００の突起１１６とともにロック機構を構成する板状のストッパ２１０が設けられている。ストッパ２１０は、キャップ２００を一定のところまで締めたときに容器本体１００の突起１１６と接触する位置に設けられている。容器本体１００の突起１１６は、三角形状を有し、水平方向に対して傾斜した傾斜面と鉛直面を備えている。この形状により、突起１１６は、キャップ２００を締める方向へ回す際のストッパ２１０の乗り越えを許容する一方で、キャップ２００を緩める方向へ回す際のストッパ２１０の乗り越えを阻害する。すなわち、突起１１６とストッパ２１０によって構成されるロック機構は、容器本体１００に対してキャップ２００を装着した状態で固定する機構である。このロック機構により、温度処理容器１を再利用しにくくなり、感染防止等に寄与する。

【0025】

図５に示されるように、温度処理容器１を温度処理装置３００にセットすることで、温度処理容器１内に導入されたサンプルの温度処理を行なうことができる。温度処理装置３００は、ヒータブロック３０２、３０４、ヒータ基板３０６、ヒータ３０８、３１０、及び回転テーブル３１２を備えている。ヒータブロック３０２及び３０４は、熱伝導性の良好なアルミニウムや真鍮などの金属材料で構成されており、互いに対向して配置されている。ヒータブロック３０２と３０４のそれぞれの対向面は、温度処理容器１の漏斗部１０８の外周面、及びサンプル保持部１０４の外周面と面接触するように湾曲している。

【0026】

ヒータ基板３０６にヒータ３０８及び３１０が埋設されている。ヒータ基板３０６はヒータブロック３０２及び３０４の下方に配置されており、ヒータブロック３０２にヒータ３０８が接触し、ヒータブロック３０４にヒータ３１０が接触している。ヒータブロック３０２はヒータ３０８によって加熱され、ヒータブロック３０４はヒータ３１０によって加熱される。ヒータ３０８と３１０は互いに独立して駆動され、それによってヒータブロック３０２と３０４が互いに異なる温度に加熱される。ヒータ３０８及び３１０の一例は、流れる電流の大きさに応じた熱量を発する電熱線である。

【0027】

回転テーブル３１２は、ヒータブロック３０２、３０４、及びヒータ基板３０６を支持している。回転テーブル３１２は、モータ等を含む駆動機構（図示は省略）によって水平面内において回転させられる。図示は省略されているが、温度処理容器１の羽部１１２を支持して温度処理容器１が温度処理装置３００上にセットされた状態で維持する機構が設けられており、回転テーブル３１２の回転に伴ってヒータブロック３０２及び３０４が回転しても、温度処理容器１が回転しないようになっている。

【0028】

温度処理容器１及び温度処理装置３００を用いたサンプルの温度処理方法の手順の一例について説明する。

【0029】

まず、先端のサンプル保持部２０４にサンプルを付着させたキャップ２００を容器本体１００に装着する。そして、温度処理容器１を温度処理装置３００にセットして温度処理容器１の下部をヒータブロック３０２及び３０４に面接触させる。この状態でヒータ３０８及び３１０に電流を流し、ヒータブロック３０２及び３０４の温度を約５０℃にする。これにより、温度処理容器１内の試薬層１１０が液化する。試薬層１１０が、試薬の層とパラフィンの層を含んでいる場合、試薬とパラフィンの比重の違いによって、図５に示されているように、サンプルと試薬の混合液であるサンプル液Ｓの上にパラフィンの層Ｐが形成され、結果として、サンプル液Ｓがサンプル収容部１０４の内部空間１０６に収容された状態となる。パラフィンの層Ｐは、この後の温度処理中におけるサンプル液Ｓの蒸発を防止して温度処理の効率を向上させる機能を果たす。

【0030】

その後、ヒータブロック３０２を第１の温度、ヒータブロック３０４の温度を第１の温度とは異なる第２の温度にそれぞれ調節した状態で、例えばヒータブロック３０２及び３０４の温度をそれぞれ約５５℃、９８℃にする。そして、回転テーブル３１２を一定時間間隔で１８０度ずつ回転させ、サンプル収容部１０４の外周面にヒータブロック３０２及び３０４を交互に面接触させる。これにより、サンプル収容部１０４に収容されたサンプル液Ｓの温度が一定時間間隔で第１の温度と第２の温度に交互に変化する。図６は、図５の状態から回転テーブル３１２を１８０度回転させた状態を示している。

【0031】

なお、この実施例では、温度処理容器１側を固定し、温度処理装置３００側を回転させることによってサンプル収容部１０４の外周面にヒータブロック３０２及び３０４を交互に面接触させるように構成されているが、逆に、温度処理装置３００側を固定し、温度処理容器１を回転させることによってサンプル収容部１０４の外周面にヒータブロック３０２及び３０４を交互に面接触させてもよい。要は、温度処理容器１と温度処理装置３００のヒータブロック３０２及び３０４とを相対的に回転させればよい。

【0032】

図７は、上記の温度処理容器１及び温度処理装置３００を使用してある標的遺伝子のＰＣＲ処理を行なった後、ＰＣＲ後のサンプル液を電気泳動によって分析することにより得られた検証データである。この検証では、温度処理装置３００のヒータブロック３０２と３０４の一方の温度を１１０℃、他方の温度を４０℃にそれぞれ設定し、３０秒間隔で回転テーブル３１２を回転させて１５分間のＰＣＲ処理を実施した。その結果、標的遺伝子の増幅処理が良好になされたことを確認した。

【符号の説明】

【0033】

１ 温度処理容器
１００ 容器本体
１０２ 容器本体の上面
１０４ サンプル収容部
１０６ サンプル収容部の内部空間
１０８ 漏斗部
１１０ 試薬層
１１２ 羽部
１１４ ネジ（第１のネジ）
１１６ ストッパ
２００ キャップ
２０２ 突起
２０４ サンプル保持部
２０６ スカート部
２０８ ネジ（第２のネジ）
２１０ ストッパ
３００ 温度処理装置
３０２，３０４ ヒータブロック
３０６ ヒータ基板
３０８，３１０ ヒータ
３１２ 回転テーブル

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【手続補正書】

【提出日】2022-05-12

【手続補正1】

【補正対象書類名】明細書

【補正対象項目名】００１５

【補正方法】変更

【補正の内容】

【0015】

【図1】温度処理容器の一実施例の構成を説明するための垂直断面図である。

【図2】（Ａ）は容器本体の図１の垂直断面と直交する垂直断面の図であり、（Ｂ）は容器本体を下方から見た図である。

【図3】容器本体にキャップを装着した状態での垂直断面図である。

【図4】同実施例におけるロック機構を説明するための図であり、（Ａ）はロック前、（Ｂ）はロック後を示している。

【図5】同実施例の温度処理容器を温度処理装置にセットして加熱を開始したときの状態を示す垂直断面図である。

【図6】温度処理装置のヒータブロックを図５の状態から１８０度回転させた後の状態を示す垂直断面図である。

【図7】 実施例の温度処理容器を用いた温度処理の効果の検証データである。