(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159552
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】ジャッキ装置のフェイルセーフ機構
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20231025BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20231025BHJP
B66F 3/08 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
E04G23/02 C
E04H9/02 331Z
B66F3/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069297
(22)【出願日】2022-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】濱 智貴
(72)【発明者】
【氏名】磯田 和彦
【テーマコード(参考)】
2E139
2E176
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB10
2E139AC19
2E139CC17
2E176AA01
2E176BB27
2E176BB36
(57)【要約】
【課題】ジャッキアップ時に地震が発生した場合においてもジャッキ装置の損傷を防止できるジャッキ装置のフェイルセーフ機構を提供する。
【解決手段】免震層11に設けられるジャッキ装置2の外周に設けられ、免震層11の下方の下部躯体12に固定される筒状部3と、ジャッキ装置2を上下方向に伸縮可能なバネ部4を介して筒状部3に接合するボルト5と、を有する。筒状部3は、少なくとも2つの異なる高さにおいてシリンダ部21の外周面211(ジャッキ装置の外周部)と接触する。ボルト5には、ジャッキ装置2の鉛直耐力に相当する引張力の予荷重が付与されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震層に設けられるジャッキ装置の外周に設けられ、前記免震層の下方の下部躯体に固定される筒状部と、
前記ジャッキ装置を上下方向に伸縮可能なバネ部を介して前記筒状部に接合するボルトと、を有し、
前記筒状部は、少なくとも2つの異なる高さにおいて前記ジャッキ装置の外周部と接触し、
前記ボルトには、前記ジャッキ装置の鉛直耐力に相当する引張力の予荷重が付与されているジャッキ装置のフェイルセーフ機構。
【請求項2】
前記筒状部は、
前記ジャッキ装置の外周に設けられ、前記下部躯体に固定される筒状体と、
前記筒状体の内周部から内側に突出して前記ジャッキ装置の外周部と接触するフランジ部と、を有し、
前記ボルトは、前記ジャッキ装置を上下方向に伸縮可能なバネ部を介して前記フランジ部に接合する請求項1に記載のジャッキ装置のフェイルセーフ機構。
【請求項3】
前記筒状部は、
前記筒状体の内周から内側に突出して前記フランジ部と異なる高さで前記ジャッキ装置の外周部と接触するプレート部と、を有する請求項2に記載のジャッキ装置のフェイルセーフ機構。
【請求項4】
免震層に設けられるジャッキ装置の外周に設けられ、前記免震層の下方の下部躯体に固定される筒状部と、
前記ジャッキ装置を上下方向に伸縮可能なバネ部を介して前記下部躯体に接合するボルトと、を有し、
前記筒状部は、少なくとも2つの異なる高さにおいて前記ジャッキ装置の外周部と接触し、
前記バネ部には、前記ジャッキ装置の鉛直耐力に相当する圧縮力の予荷重が付与されているジャッキ装置のフェイルセーフ機構。
【請求項5】
前記筒状部は、
前記ジャッキ装置の外周に設けられ、前記下部躯体に固定される筒状体と、
前記筒状体の内周から内側に突出して前記ジャッキ装置の外周部と接触するプレート部と、を有する請求項4に記載のジャッキ装置のフェイルセーフ機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジャッキ装置のフェイルセーフ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
免震建築物における免震装置の交換時には、一般に免震層に仮設のジャッキ装置を挿入して免震層の上方の上部躯体をジャッキアップしてわずかに持ち上げ、免震層の下方の下部躯体との間に生じる離隔を利用して免震装置の取り出し、挿入を行う方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、免震装置の交換を容易に行うためにジャッキ装置を本設の装置として予め免震層に恒常的に設置しておく方法もある。さらに、ジャッキ装置の頂部に摩擦材を設け、摩擦材を上部躯体の下面の滑り板に当接させて免震層の水平変位を拘束する、ロック機能を付加することも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、免震装置交換時に生じる地震に対する安全性としては、例えば「免震材料の交換改修工事中の建築物の安全性のガイドライン」(国土交通省 H27)等において建物本体の損傷に対する要求水準は定められているものの、ジャッキ装置の損傷に対する要求水準はない。実際に、下記のような強制挙動に対するジャッキ装置のフェイルセーフについて考慮されておらず、その方策もないのが実状である。
(1)ジャッキアップ時に地震動による強制的な上下変位がジャッキ装置に作用する。
(2)ジャッキアップ時に地震動による水平力がジャッキ装置のピストン部分に作用する。
【0005】
上記(1)については、ジャッキ装置の内部での油の流れが急激な逆作動(本来ポンプからジャッキ装置に油が供給されるが、逆に油がジャッキ装置からポンプ側へ強制的に戻される)となり、内部圧力が過大となってパッキン部等から高圧の油が噴出する虞がある(大気放出)。上記(2)については、一般に、ジャッキ装置のピストン部に作用する許容水平力は製品毎に規定されているが、その値が小さく、ジャッキ装置に作用する鉛直力、およびジャッキ装置と上部躯体との接触条件(摩擦係数等)によっては当該許容水平力を超過する力が作用する虞があり、ジャッキ装置の破損が懸念される。また、ジャッキ装置全体が剛体的な回転挙動をして、免震層の水平変位により転倒する虞もある。
特に、ジャッキ装置を本設の装置として免震層に恒常的に設置する場合にジャッキ装置が破損すると、復旧が容易ではないためジャッキ装置の交換が必要となる。
【0006】
そこで、本発明は、ジャッキアップ時に地震が発生した場合においてもジャッキ装置の損傷を防止できるジャッキ装置のフェイルセーフ機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るジャッキ装置のフェイルセーフ機構は、免震層に設けられるジャッキ装置の外周に設けられ、前記免震層の下方の下部躯体に固定される筒状部と、前記ジャッキ装置を上下方向に伸縮可能なバネ部を介して前記筒状部に接合するボルトと、を有し、前記筒状部は、少なくとも2つの異なる高さにおいて前記ジャッキ装置の外周部と接触し、前記ボルトには、前記ジャッキ装置の鉛直耐力に相当する引張力の予荷重が付与されている。
【0008】
本発明では、筒状部は、少なくとも2つの異なる高さにおいてジャッキ装置の外周部と接触している。これにより、ジャッキ装置に作用するせん断力が筒状部に伝達されるとともに、ジャッキ装置が軸線に対して傾く方向の回転挙動が防止される。このため、ボルトには、上下方向の軸力のみが作用する。
ジャッキ装置によるジャッキアップ時に地震が発生し、ジャッキ装置にジャッキ圧縮力が作用すると、ボルトに付与された予荷重までのジャッキ圧縮力は、筒状部に対してジャッキ装置が下降することなくジャッキ装置から筒状部に伝達される。ボルトに付与された予荷重は、ジャッキ装置の鉛直耐力に相当する引張力である。ジャッキ圧縮力が複数のボルトに付与された予荷重を超えると、バネ部が圧縮されて、筒状部に対してボルトおよびジャッキ装置が下降し、筒状部に伝達されるジャッキ圧縮力がバネ反力増加分だけ僅かに増加する。これにより、ジャッキアップ時に地震が発生し、上下地震動によってジャッキ装置に強制変位が生じた場合でも、過大な反力が生じることが無い。その結果、ジャッキ装置の内部の油の逆作動や過大な圧の上昇を防止でき、ジャッキ装置の損傷を防止できる。
【0009】
また、本発明に係るジャッキ装置のフェイルセーフ機構では、前記筒状部は、前記ジャッキ装置の外周に設けられ、前記下部躯体に固定される筒状体と、前記筒状体の内周部から内側に突出して前記ジャッキ装置の外周部と接触するフランジ部と、を有し、前記ボルトは、前記ジャッキ装置を上下方向に伸縮可能なバネ部を介して前記フランジ部に接合してもよい。
【0010】
このような構成とすることにより、筒状部をジャッキ装置の外周部と接触させることができるとともに、ジャッキ装置と筒状部とを容易に接合できる。
【0011】
本発明に係るジャッキ装置のフェイルセーフ機構では、前記筒状部は、前記筒状体の内周から内側に突出して前記フランジ部と異なる高さで前記ジャッキ装置の外周部と接触するプレート部と、を有する。
【0012】
このような構成とすることにより、2つの異なる高さにおいてジャッキ装置の外周部と筒状部とを接触させることができる。
【0013】
また、本発明に係るジャッキ装置のフェイルセーフ機構では、免震層に設けられるジャッキ装置の外周に設けられ、前記免震層の下方の下部躯体に固定される筒状部と、前記ジャッキ装置を上下方向に伸縮可能なバネ部を介して前記下部躯体に接合するボルトと、を有し、前記筒状部は、少なくとも2つの異なる高さにおいて前記ジャッキ装置の外周部と接触し、前記バネ部には、前記ジャッキ装置の鉛直耐力に相当する圧縮力の予荷重が付与されていてもよい。
【0014】
本発明では、筒状部は、少なくとも2つの異なる高さにおいてジャッキ装置の外周部と接触している。これにより、ジャッキ装置に作用するせん断力が筒状部に伝達されるとともに、ジャッキ装置が軸線に対して傾く方向の回転挙動が防止される。このため、ボルトは、上下方向の軸力のみが作用する。
ジャッキ装置によるジャッキアップ時に地震が発生し、ジャッキ装置にジャッキ圧縮力が作用すると、バネ部に付与された予荷重までのジャッキ圧縮力は、下部躯体に対してジャッキ装置が下降することなくジャッキ装置から下部躯体に伝達される。バネ部に付与された予荷重とは、ジャッキ装置の鉛直耐力に相当する圧縮力である。
ジャッキ圧縮力が複数のバネ部に付与された予荷重の合計(合計プレロード)を超えると、バネ部が圧縮されて、ジャッキ装置が下降し、下部躯体に伝達されるジャッキ圧縮力がバネ反力増加分だけ僅かに増加する。ジャッキ圧縮力がバネ部に付与された予荷重を超えた場合には、ジャッキ装置は、越えた荷重(バネ反力増加分)をばね剛性で除した変位分だけ下降する。
これにより、ジャッキアップ時に地震が発生し、上下地震動によってジャッキ装置に強制変位が生じた場合でも、過大な反力が生じることが無い。その結果、ジャッキ装置の内部の油の逆作動や過大な圧の上昇を防止でき、ジャッキ装置の損傷を防止できる。
【0015】
また、本発明に係るジャッキ装置のフェイルセーフ機構では、前記筒状部は、前記ジャッキ装置の外周に設けられ、前記下部躯体に固定される筒状体と、前記筒状体の内周から内側に突出して前記ジャッキ装置の外周部と接触するプレート部と、を有していてもよい。
【0016】
このような構成とすることにより、筒状部の内径とジャッキ装置の外径と間に差があっても、2つの異なる高さにおいてジャッキ装置の外周部と筒状部とを接触させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ジャッキアップ時に地震が発生した場合においてもジャッキ装置の損傷を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態によるジャッキ装置のフェイルセーフ機構の平面図である。
【
図3】第2実施形態によるジャッキ装置のフェイルセーフ機構の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態によるジャッキ装置のフェイルセーフ機構について、
図1-
図2に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態によるジャッキ装置のフェイルセーフ機構1は、免震建築物における免震層11に設置されるジャッキ装置2に設けられる。免震層11の下方の躯体を下部躯体12と表記し、免震層11の上方の躯体を上部躯体13と表記する。ジャッキ装置2は、免震層11に設置された免震装置の交換時に、上部躯体13をジャッキアップするために設けられている。ジャッキ装置のフェイルセーフ機構1は、ジャッキ装置2によるジャッキアップ時に地震が発生して下部躯体12と上部躯体13との間隔が狭まり、ジャッキ装置2に上下方向の圧縮力が作用した場合に、ジャッキ装置2に過大な反力が生じることを防止する。地震時にジャッキ装置2に作用する上下方向の圧縮力をジャッキ圧縮力と表記する。
【0020】
ジャッキ装置2は、例えば、油圧式のジャッキである。ジャッキ装置2は、下部躯体12にジャッキ装置のフェイルセーフ機構1を介して固定される。ジャッキ装置2は、上部躯体13と相対変位可能である。ジャッキ装置2は、シリンダ部21と、ピストン部22と、固定フランジ部23と、を有している。シリンダ部21は円筒状であり、軸方向が上下方向となる向きに配置される。ピストン部22は、円柱状であり、シリンダ部21の内部に同軸に配置される。シリンダ部21とピストン部22とは、上下方向に相対変位可能である。
【0021】
本実施形態のジャッキ装置2は、免震層11の水平変位を拘束するロック機能も有している。ピストン部22の上面には、摩擦材221が設けられている。摩擦材221は、ジャッキアップ時に上部躯体13の下面131に設けられた滑り板と接触する。
【0022】
固定フランジ部23は、シリンダ部21の下縁部から径方向の外側に突出している。固定フランジ部23は、円環板状であり、板面が水平面である。固定フランジ部23には、上下方向に貫通する孔部231が周方向に間隔をあけて複数形成されている。
ジャッキ装置2は、本設の装置として免震層11に恒常的に設置されている。
【0023】
ジャッキ装置のフェイルセーフ機構1は、ジャッキ装置2の外周に設けられる筒状部3と、上下方向に伸縮可能なバネ部4を介してジャッキ装置2を筒状部3に接合するボルト5と、を有する。筒状部3は、円筒状の筒状体31と、筒状体31から内側に突出する内側フランジ部32と、筒状体31から外側に突出する外側フランジ部33と、筒状体31に取り付けられるプレート部6と、を有する。筒状部3は、筒状体31の軸方向が上下方向となる向きに配置される。
【0024】
内側フランジ部32は、筒状体31の上下方向の中間部から径方向の内側に突出している。内側フランジ部32は、円環板状であり、板面が水平面である。内側フランジ部32には、上下方向に貫通する孔部321が周方向に間隔をあけて複数形成されている。外側フランジ部33は、筒状体31の下縁部から径方向の外側に突出している。外側フランジ部33は、円環板状であり、板面が水平面である。外側フランジ部33には、上下方向に貫通する孔部331が周方向に間隔をあけて複数形成されている。
【0025】
筒状部3は、筒状体31の内側にジャッキ装置2が配置され、内側フランジ部32に固定フランジ部23が接合され、外側フランジ部33が下部躯体12に固定される。外側フランジ部33の孔部331には、外側フランジ部33を下部躯体12に固定するためのボルトやピンなどの固定具332が挿通される。外側フランジ部33の下面は、下部躯体12の上面121と接触している。
【0026】
内側フランジ部32は、固定フランジ部23の上に重なって配置される。内側フランジ部32の上下方向から見た平面視形状と、固定フランジ部23の平面視形状とは、略同じ形状である。内側フランジ部32の内周縁部322は、ジャッキ装置2のシリンダ部21の外周面211と接触している。内側フランジ部32の内周縁部322は、内側フランジ部32の径方向内側の縁部である。
なお、上記に加えて、固定フランジ部23の外周縁部232が筒状体31の内周面311と接触していてもよい。固定フランジ部23の外周縁部232は、固定フランジ部23の径方向外側の縁部である。
【0027】
内側フランジ部32と固定フランジ部23とは、バネ部4を介してボルト5で固定される。内側フランジ部32の複数の孔部321と、固定フランジ部23の複数の孔部231とは、それぞれ1つずつ上下方向に重なって配置される。バネ部4は、皿ばねである。バネ部4は、内側フランジ部32の上に内側フランジ部32の孔部321と同軸に配置される。バネ部4は、皿ばねに代わって圧縮コイルばねであってもよい。
【0028】
ボルト5は、頭部51が下側、ネジ部52が上側となる向きで、ネジ部52が固定フランジ部23の孔部231、内側フランジ部32の孔部321およびバネ部4の皿ばねの孔部に下側から挿通される。ボルト5の頭部51は固定フランジ部23の下側に配置される。ネジ部52には、バネ部4の上部においてナット53が締結される。ネジ部52が固定フランジ部23の孔部231、内側フランジ部32の孔部321およびバネ部4の皿ばねの孔部の内径は、ネジ部52の径よりも大きい。固定フランジ部23、内側フランジ部32およびバネ部4は、ボルト5の頭部51とナット53との間でバネ部4が伸縮可能な高さ範囲においてボルト5と上下方向に相対変位可能である。
【0029】
ボルト5は、内側フランジ部32の複数の孔部321および固定フランジ部23の複数の孔部231の数に対応して複数設けられる。
複数のボルト5には、合計でジャッキ装置2の鉛直耐力に相当する引張力の予荷重を付与する。ボルト5は、予引張力で引張接合される。
【0030】
プレート部6は、外径が筒状体31の外径と略同じ大きさで、内径が筒状体31の内径よりも小さい円環板状の部材である。プレート部6は、筒状体31の上端部に同軸に取り付けられる。プレート部6の内周縁部61は、筒状体31の内周面311よりも径方向の内側に突出している。プレート部6の内周縁部61は、シリンダ部21の外周面211と接触している。
【0031】
シリンダ部21の外周面211は、高さの異なる内側フランジ部32の内周縁部322およびプレート部6の内周縁部61それぞれと接触している。換言すると、筒状部3は、少なくとも2つの異なる高さにおいてジャッキ装置2の外周部と接触している。これにより、ジャッキ装置2に作用するせん断力が筒状部3に伝達されるとともに、ジャッキ装置2が軸線に対して傾く方向の回転挙動が防止される。このため、ボルト5には、上下方向の軸力のみが作用する。
なお、外側フランジ部33の下面は、ジャッキ装置2から伝達されたせん断力に起因する転倒挙動によって浮き上がりが生じない程度の面積を有する。
【0032】
本実施形態によるジャッキ装置のフェイルセーフ機構1では、ジャッキ装置2によるジャッキアップ時に地震が発生し、ジャッキ装置2にジャッキ圧縮力が作用すると、複数のボルト5に付与された予荷重までのジャッキ圧縮力は、筒状部3に対してジャッキ装置2が下降することなくジャッキ装置2から筒状部3に伝達される。上述しているように、複数のボルト5に付与された予荷重は、ジャッキ装置2の鉛直耐力に相当する引張力である。
ジャッキ圧縮力が複数のボルト5に付与された予荷重を超えると、バネ部4が圧縮されて縮み、筒状部3に対してボルト5およびジャッキ装置2が下降し、筒状部3に伝達されるジャッキ圧縮力がバネ反力増加分だけ僅かに増加する。これにより、ジャッキアップ時に地震が発生し、上下地震動によってジャッキ装置2に強制変位が生じた場合でも、過大な反力が生じることが無い。すなわち、ジャッキ装置のフェイルセーフ機構1は、ジャッキ装置2に対する地震時の反力を頭打ちにしている。その結果、ジャッキ装置2の内部の油の逆作動や過大な圧の上昇を防止でき、ジャッキ装置2の損傷を防止できる。
また、建物挙動への悪影響を回避することができ、さらには周辺作業員の安全確保が可能であるため、安全性、信頼性の高いシステムを構築できる。ジャッキ装置2を本設の装置として恒常的に設置する耐風ロック機構等にも効果的である。
【0033】
本実施形態によるジャッキ装置のフェイルセーフ機構1では、筒状部3、筒状体31の内周部から内側に突出する内側フランジ部32を有している。これにより、内側フランジ部32の内周縁部322をシリンダ部21の外周面211と接触させることができるとともに、フランジ部23にボルトを貫通させたジャッキ装置2に筒状部3を被せることで、両者を容易に引張りボルト接合できる。
【0034】
本実施形態によるジャッキ装置のフェイルセーフ機構では、筒状部3の上端部には、プレート部6が取り付けられている。これにより、2つの異なる高さにおいてシリンダ部21の外周面211と筒状部3とを接触させることができる。
【0035】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、添付図面に基づいて説明するが、上述の第1実施形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第1実施形態と異なる構成について説明する。
図3-
図4に示すように、第2実施形態によるジャッキ装置のフェイルセーフ機構1Bは、ジャッキ装置2の固定フランジ部23が筒状部3Bを介さずに下部躯体12にボルト5Bで固定されている。固定フランジ部23と下部躯体12との間には、バネ部4がB介在している。第2実施形態の筒状部3Bは、円筒状の筒状体31と、筒状体31から外側に突出する外側フランジ部33と、筒状体31に取り付けられるプレート部6と、を有する。筒状部3Bは、筒状体31の軸方向が上下方向となる向きに配置される。第2実施形態の筒状部3Bは、第1実施形態の筒状部3Bに設けられていた内側フランジ部32が設けられていない。
【0036】
第2実施形態のボルト5Bは、袋ナット付きのアンカーボルトであり、下部躯体12に固定される袋ナット54と、袋ナット54と螺合するネジ部55と、ネジ部55と螺合するナット56と、を有する。ボルト5Bの軸線は、上下方向を向いている。袋ナット54は、下部躯体12に埋設される。ネジ部55は、袋ナット54に螺合する下部側が下部躯体12に挿入され、上部側が下部躯体12よりも上方に突出している。ネジ部55の上部側は、バネ部4Bの皿ばねおよびジャッキ装置2の固定フランジ部23の孔部231に挿通される。バネ部4Bは、下部躯体12の上面と固定フランジ部23の下面との間に配置される。ネジ部55は、固定フランジ部23の上方においてナット56が締結される。ボルト5Bおよびバネ部4Bは、それぞれ複数設けられている。
【0037】
筒状部3Bは、ジャッキ装置2の外周に設けられる。プレート部6の内周縁部61は、シリンダ部21の外周面211と接触している。筒状体31の内周面311は、固定フランジ部23の外周縁部232と接触している。ジャッキ装置2は、異なる高さにおいてプレート部6の内周縁部61および筒状体31の内周面311と接触している。これにより、第2実施形態においても第1実施形態と同様に、ジャッキ装置2に作用するせん断力が筒状部3に伝達されるとともに、ジャッキ装置2が軸線に対して傾く方向の回転挙動が防止される。
【0038】
本実施形態によるジャッキ装置のフェイルセーフ機構1Bでは、ジャッキ装置2によるジャッキアップ時に地震が発生し、ジャッキ装置2にジャッキ圧縮力が作用すると、複数のバネ部4Bに付与された予荷重までのジャッキ圧縮力は、下部躯体12に対してジャッキ装置2が下降することなくジャッキ装置2から下部躯体12に伝達される。上述しているように、複数のバネ部4Bに付与された予荷重とは、ジャッキ装置2の鉛直耐力に相当する圧縮力の予荷重である。
ジャッキ圧縮力が複数のバネ部4Bに付与された予荷重の合計(合計プレロード)を超えると、バネ部4Bが圧縮されて、ジャッキ装置2が下降し、下部躯体12に伝達されるジャッキ圧縮力がバネ反力増加分だけ僅かに増加する。ジャッキ圧縮力が複数のバネ部4Bに付与された予荷重の合計を超えた場合には、ジャッキ装置2は、越えた荷重をばね剛性で除した変位分だけ下降する。
これにより、ジャッキアップ時に地震が発生し、上下地震動によってジャッキ装置2に強制変位が生じた場合でも、過大な反力が生じることが無い。すなわち、ジャッキ装置のフェイルセーフ機構1Bは、ジャッキ装置2に対する地震時の反力を頭打ちにしている。その結果、ジャッキ装置2の内部の油の逆作動や過大な圧の上昇を防止でき、ジャッキ装置2の損傷を防止できる。
また、建物挙動への悪影響を回避することができ、さらには周辺作業員の安全確保が可能であるため、安全性、信頼性の高いシステムを構築できる。
【0039】
以上、本発明によるジャッキ装置のフェイルセーフ機構の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の第1実施形態では、筒状部3の内側フランジ部32にジャッキ装置2の固定フランジ部23がバネ部4を介してボルト5で接合されているが、筒状部3と固定フランジ部23とがバネ部4を介してボルト5で接合される部位は、上記以外であってもよい。
【0040】
上記の第1実施形態では、シリンダ部21の外周面211が高さの異なる内側フランジ部32の内周縁部322およびプレート部6の内周縁部61それぞれと接触している。これに対して、ジャッキ装置2と筒状部3とが互いに接触する、異なる高さの2以上の部位は、上記以外であってもよい。
上記の第2実施形態では、シリンダ部21の外周面211が高さの異なる筒状体31の内周面311およびプレート部6の内周縁部61それぞれと接触している。これに対して、ジャッキ装置2と筒状部3Bとが互いに接触する、異なる高さの2以上の部位は、上記以外であってもよい。
上記の実施形態では、プレート部6は、筒状体31の上端部に取り付けられているが、筒状体31と一体に設けられていてもよい。筒状体31の上端部以外に取り付けられていてもよい。
【0041】
上記の実施形態では、ジャッキ装置2は、油圧ジャッキであり、シリンダ部21とピストン部22とを有する構成であるが、上部躯体13をジャッキアップ可能な構成であれば、上記の構成以外であってもよい。
【0042】
上記の実施形態では、ジャッキ装置2は、本設の装置として免震層11に恒常的に設置されているが、上部躯体13をジャッキアップする際に設置される仮設の装置であってもよい。
また、ジャッキ装置2を本設の装置として耐風ロック機構等に恒常的に設置する際に、ジャッキ装置のフェイルセーフ機構1,1Bを採用してもよい。
【符号の説明】
【0043】
1,1B ジャッキ装置のフェイルセーフ機構
2 ジャッキ装置
3,3B 筒状部
4,4B バネ部
5,5B ボルト
6 プレート部
11 免震層
12 下部躯体
31 筒状体
32 内側フランジ部(フランジ部)
211 外周面(外周部)