(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159561
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】サスペンション装置
(51)【国際特許分類】
B60G 11/20 20060101AFI20231025BHJP
【FI】
B60G11/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069313
(22)【出願日】2022-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤丸 慎志
(72)【発明者】
【氏名】松井 通
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA03
3D301AA04
3D301AA05
3D301CA05
3D301DA11
3D301DA22
3D301DA89
(57)【要約】
【課題】簡単な構造で車両の乗り心地と操縦安定性の両方に優れた性能を発揮するサスペンション装置を提供する。
【解決手段】サスペンション装置101は、車体1とサスペンションアーム3との間に設けられサスペンションアーム3のストローク時に捩れ変形するトーションバースプリング10と、サスペンションアーム3とトーションバースプリング10に機械的に連結されておりサスペンションアーム3の動きに連動して作動するばね定数可変機構部20と、を備え、ばね定数可変機構部20は、サスペンションアーム3のストローク量に対するトーションバースプリング10の捩れ方向である第2方向Yの応力の比率をばね定数としたとき、サスペンションアーム3のストローク量に応じてばね定数を可変とするように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体とサスペンションアームとの間に設けられ上記サスペンションアームのストローク時に捩れ変形するトーションバースプリングと、
上記サスペンションアームと上記トーションバースプリングに機械的に連結されており上記サスペンションアームの動きに連動して作動するばね定数可変機構部と、
を備え、
上記ばね定数可変機構部は、上記サスペンションアームのストローク量に対する上記トーションバースプリングの捩れ方向の応力の比率をばね定数としたとき、上記サスペンションアームの上記ストローク量に応じて上記ばね定数を可変とするように構成されている、サスペンション装置。
【請求項2】
上記ばね定数可変機構部は、上記サスペンションアームの上記ストローク量が大きいほど上記ばね定数を大きくするように構成されている、請求項1に記載のサスペンション装置。
【請求項3】
上記ばね定数可変機構部は、上記トーションバースプリングの軸方向の一方の軸端部に上記捩れ方向に回動可能に固定された回動部材と、上記サスペンションアームから上記回動部材に荷重を伝達する荷重伝達部材と、上記サスペンションアームの上記ストローク量に応じて上記軸端部の軸中心から上記荷重伝達部材までの径方向の作用点距離が変わるように上記荷重伝達部材をガイドするガイド機構と、を有する、請求項1または2に記載のサスペンション装置。
【請求項4】
上記サスペンションアームは、上記トーションバースプリングの上記軸端部に回動可能に保持されており、
上記ガイド機構は、上記荷重伝達部材を径方向に沿ってガイドするように上記回動部材に設けられたガイド溝部と、上記サスペンションアームの回動動作を上記ガイド溝部における上記荷重伝達部材のスライド動作に変換するリンクアームと、によって構成されている、請求項3に記載のサスペンション装置。
【請求項5】
上記ガイド溝部は、上記径方向に直線状に延びる直線溝部として構成されている、請求項4に記載のサスペンション装置。
【請求項6】
上記ガイド溝部は、上記径方向に沿って屈曲して延びる屈曲溝部として構成されている、請求項4に記載のサスペンション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、トーションバー式サスペンションが開示されている。このサスペンションは、トーションバースプリングと、中間支持機構と、を備えている。中間支持機構は、トーションバースプリングの第1トーションバーのみが捩れる第1状態と、トーションバースプリングの第1トーションバー及び第2トーションバーの両方が捩れる第2状態とのいずれかを選択できるように、トーションバースプリングの中間部に設けられている。このサスペンションは、センサ類の検出信号が入力されるコントロールユニットからの制御信号に基づいて中間支持機構が第1状態と第2状態とのいずれかを選択することにより、トーションバースプリングのばね定数を変えようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のトーションバー式サスペンションは、トーションバースプリングのばね定数を変えるのにコントロールユニットによる複雑な制御を要するという問題を抱えている。そこで、この種のトーションバースプリングを使用したサスペンション装置の設計においては、コントロールユニットなどのような制御手段による複雑な制御を使用することのない簡単な構造を利用して、車両の乗り心地と操縦安定性を向上させるための技術が求められている。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、簡単な構造で車両の乗り心地と操縦安定性の両方に優れた性能を発揮するサスペンション装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
車体とサスペンションアームとの間に設けられ上記サスペンションアームのストローク時に捩れ変形するトーションバースプリングと、
上記サスペンションアームと上記トーションバースプリングに機械的に連結されており上記サスペンションアームの動きに連動して作動するばね定数可変機構部と、
を備え、
上記ばね定数可変機構部は、上記サスペンションアームのストローク量に対する上記トーションバースプリングの捩れ方向の応力の比率をばね定数としたとき、上記サスペンションアームの上記ストローク量に応じて上記ばね定数を可変とするように構成されている、サスペンション装置、
にある。
【発明の効果】
【0007】
上述の態様のサスペンション装置において、ばね定数可変機構部は、サスペンションアームとトーションバースプリングのそれぞれに対して機械的に連結されている。このばね定数可変機構部は、サスペンションアームの動きに連動して作動することにより、サスペンションアームのストローク量に応じてばね定数を可変とする機能を果たす。このときのばね定数は、サスペンションアームのストローク量に対してトーションバースプリングの捩れ方向に生じる応力の比率として定義される。上記構成のばね定数可変機構部によれば、サスペンションアームのストローク量に応じてばね定数を可変とすることで、車両の乗り心地と操縦安定性をともに高めることが可能になる。すなわち、ばね定数を小さくするように変更することで変更前に比べて足回りが柔らかくなるため車両の乗り心地を良くすることができ、ばね定数を大きくするように変更することで変更前に比べて足回りが硬くなるため車両の操縦安定性を良くすることができる。このとき、ばね定数可変機構部は、サスペンションアームの動きに連動して作動する構造ゆえ、コントロールユニットなどの制御装置による複雑な制御を要しない。
【0008】
以上のごとく、上述の態様によれば、簡単な構造で車両の乗り心地と操縦安定性の両方に優れた性能を発揮するサスペンション装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1のサスペンション装置を簡易モデルで示す斜視図。
【
図2】
図1中のサスペンション装置をカムが取り除かれた状態にて示す斜視図。
【
図3】実施形態1のサスペンション装置のばね定数可変機構部をサスペンションアームが第1位置にあるときの状態にて示す側面図。
【
図4】
図3中のばね定数可変機構部をサスペンションアームが第2位置にあるときの状態にて示す側面図。
【
図5】
図3中のばね定数可変機構部をサスペンションアームが第3位置にあるときの状態にて示す側面図。
【
図6】実施形態1のサスペンション装置についてサスペンションアームのストローク量と応力との相関を示す図。
【
図7】実施形態1のサスペンション装置についてサスペンションアームのストローク量とばね定数との相関を示す図。
【
図8】実施形態2のサスペンション装置のばね定数可変機構部をサスペンションアームが第1位置にあるときの状態にて示す側面図。
【
図9】
図8中のばね定数可変機構部をサスペンションアームが第2位置にあるときの状態にて示す側面図。
【
図10】
図8中のばね定数可変機構部をサスペンションアームが第3位置にあるときの状態にて示す側面図。
【
図11】実施形態2のサスペンション装置についてサスペンションアームのストローク量と応力との相関を示す図。
【
図12】実施形態2のサスペンション装置についてサスペンションアームのストローク量とばね定数との相関を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上述の態様の好ましい実施形態について以下に説明する。
【0011】
上述の態様のサスペンション装置において、上記ばね定数可変機構部は、上記サスペンションアームの上記ストローク量が大きいほど上記ばね定数を大きくするように構成されているのが好ましい。
【0012】
このサスペンション装置によれば、車体の小さな振動に対しては、ばね定数を小さく抑えることで足回りを柔らかくして振動を吸収することができる。また、車体の大きなロールに対しては、ばね定数を大きくすることで足回りを硬くして安定感を出すことができる。
【0013】
上述の態様のサスペンション装置において、上記ばね定数可変機構部は、上記トーションバースプリングの軸方向の一方の軸端部に上記捩れ方向に回動可能に固定された回動部材と、上記サスペンションアームから上記回動部材に荷重を伝達する荷重伝達部材と、上記サスペンションアームの上記ストローク量に応じて上記軸端部の軸中心から上記荷重伝達部材までの径方向の作用点距離が変わるように上記荷重伝達部材をガイドするガイド機構と、を有するのが好ましい。
【0014】
このサスペンション装置によれば、サスペンションアームから回動部材に荷重を伝達する荷重伝達部材がガイド機構によってガイドされる。荷重伝達部材がガイドされることによって、サスペンションアームのストローク量に応じてトーションバースプリングの一方の軸端部の軸中心から荷重伝達部材までの径方向の作用点距離が変わる。作用点距離が変わることで、作用点距離が常時一定の場合に比べて、トーションバースプリングの応力特性を変えることができ、これに伴ってばね定数の変化特性を変えることができる。
【0015】
上述の態様のサスペンション装置において、上記サスペンションアームは、上記トーションバースプリングの上記軸端部に回動可能に保持されており、
上記ガイド機構は、上記荷重伝達部材を径方向に沿ってガイドするように上記回動部材に設けられたガイド溝部と、上記サスペンションアームの回動動作を上記ガイド溝部における上記荷重伝達部材のスライド動作に変換するリンクアームと、によって構成されているのが好ましい。
【0016】
このサスペンション装置によれば、サスペンションアームから回動部材に荷重を伝達する荷重伝達部材は、回動部材に設けられたガイド溝部と、サスペンションアームの回動動作をガイド溝部における荷重伝達部材のスライド動作に変換するリンクアームと、によってガイドされる。このため、ガイド溝部及びリンクアームからなる簡単な構造のガイド機構を利用して荷重伝達部材をガイドすることができる。
【0017】
上述の態様のサスペンション装置において、上記ガイド溝部は、上記径方向に直線状に延びる直線溝部として構成されているのが好ましい。
【0018】
このサスペンション装置によれば、荷重伝達部材をガイドするガイド溝部として直線溝部を採用することで、サスペンションアームのストローク変化量に対するばね定数の変化量の割合を一定にすることが可能になる。また、ガイド溝部を直線溝部とすることで溝構造を簡素化することができる。
【0019】
上述の態様のサスペンション装置において、上記ガイド溝部は、上記径方向に沿って屈曲して延びる屈曲溝部として構成されているのが好ましい。
【0020】
このサスペンション装置によれば、荷重伝達部材をガイドするガイド溝部として屈曲溝部を採用することで、サスペンションアームのストローク変化量に対するばね定数の変化量の割合を屈曲溝部の屈曲点の前後で変えることが可能になる。
【0021】
(実施形態1)
以下、車両に搭載されるサスペンション装置の具体的な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
この実施形態の説明のための図面において、特に断りのない限り、トーションバースプリングの軸方向である第1方向を矢印Xで示し、トーションバースプリングの軸回り方向及び捩れ方向である第2方向を矢印Yで示し、カムの径方向である第3方向を矢印Zで示すものとする。
【0023】
実施形態1のサスペンション装置101の構造は、車両に搭載されるものであり、
図1に示される簡易モデルによって表現される。この簡易モデルにおいて、サスペンション装置101は、概して、サスペンションアーム3と、トーションバースプリング10と、ばね定数可変機構部20と、を備えている。なお、
図1では、便宜上、簡易モデルを使用して説明しており、サスペンション装置101の各構成要素の特徴部分以外の形状や配置等については、必要に応じて適宜に変更が可能である。
【0024】
(トーションバースプリングの構造)
図1に示されるように、トーションバースプリング10は、第1方向Xを軸方向として延びており、軸回り方向である第2方向Yに捩れ変形可能な軸部材である。このトーションバースプリング10は、車体1とサスペンションアーム3との間に設けられており、サスペンションアーム3のストローク時に第2方向Yに捩れ変形するように構成されている。トーションバースプリング10は、その一方の軸端部11がサスペンションアーム3に連結され、その他方の軸端部12が車体1側の固定部1aに固定されている。
【0025】
(ばね定数可変機構部の構造)
図1及び
図2に示されるように、ばね定数可変機構部20は、概して、カム21と、スライドピン22と、リンクアーム26と、を備えている。このばね定数可変機構部20は、サスペンションアーム3とトーションバースプリング10のそれぞれに対して機械的(「物理的」ともいう。)に連結されている。
【0026】
なお、ここでいう「機械的に連結」とは、リンク機構や油圧を介して繋ぎ合わされていることを意味し、電子制御ユニット(コントロールユニット)等の演算処理装置を介することなく接続されていることを意味する。
【0027】
カム21は、トーションバースプリング10の軸端部11に第2方向Yに回動可能に固定された円板状の回動部材である。このため、カム21は、その回動に伴ってトーションバースプリング10の軸端部11の第2方向Yの捩りを強めたり弱めたりする機能を果たす。このとき、第2方向Yはカム21の周方向及び回動方向となる。2つのカム21は、第1方向Xに互いに離間して設けられており、2つのカム21の間にサスペンションアーム3が介装されている。各カム21には、ガイド溝部23が設けられている。
【0028】
スライドピン22は、サスペンションアーム3からカム21に荷重を伝達する荷重伝達部材である。このスライドピン22は、リンクアーム26の一端部に第1方向Xに延びるように設けられている。このため、第1方向Xがスライドピン22の軸方向となる。スライドピン22は、カム21のガイド溝部23に挿入されている。このとき、ガイド溝部23は、スライドピン22を第3方向Zにガイドするようにカム21に設けられている。
【0029】
リンクアーム26は、サスペンションアーム3の第2方向Yの回動動作をガイド溝部23におけるスライドピン22のスライド動作に変換する機能を果たす。この機能によれば、ガイド溝部23におけるスライドピン22のスライド動作に伴って、カム21に対するスライドピン22の接触点である作用点Qの位置が第3方向Zに変化する。このリンクアーム26の他端部26aは、車体1側に設けられたベース2に回動可能に連結されている。
【0030】
図2に示されるように、サスペンションアーム3の一端部には、トーションバースプリング10の軸端部11を挿通する挿通穴5が貫通形成されている。挿通穴5は、その穴径が軸端部11の外径を僅かに上回るように寸法設定されている。このため、サスペンションアーム3は、トーションバースプリング10の軸端部11に回動可能に保持されており、入力荷重によって軸端部11の軸中心11aを回動支点として第2方向Yに回動するように構成されている。
【0031】
また、サスペンションアーム3の第3方向Zの中間部には、
図1中の第1方向Xから見たとき、カム21のガイド溝部23と同形状の溝部4がガイド溝部23と重なり合うように設けられている。そして、スライドピン22は、カム21のガイド溝部23に加えてサスペンションアーム3の溝部4にも挿入されている。このため、スライドピン22は、ガイド溝部23において第3方向Zにスライドするときに溝部4においても同様に第3方向Zにスライドするようになっている。
【0032】
図3に示されるように、ばね定数可変機構部20は、サスペンションアーム3のストローク量に応じて作用点距離dが変わるようにスライドピン22をガイドするガイド機構を有する。本形態において、このガイド機構は、カム21のガイド溝部23とリンクアーム26とによって構成されている。ここで、
図3は、
図1中のサスペンション装置101を矢印X1で示される方向から見た側面図である。
【0033】
ばね定数可変機構部20のガイド機構において、ガイド溝部23は、外側縁24から内側縁25までカム21の径方向である第3方向Zに直線状に延びる直線溝部である。このガイド機構において、作用点距離dは、トーションバースプリング10の軸端部11の軸中心11aからカム21に対する作用点であるスライドピン22までの第3方向Zの距離である。また、サスペンションアーム3の両端部のうち軸端部11から離れている方の一方の端部は、荷重が入力される力点3aとなる。したがって、サスペンションアーム3の回動支点である軸端部11の軸中心11aから力点3aまでのアーム長さをrとしたとき、アーム長さrに対する作用点距離dの比率がサスペンションアーム3のレバー比となる。
【0034】
(サスペンション装置の動作)
次に、実施形態1のサスペンション装置101の動作について、
図3~
図5を参照しながら説明する。
【0035】
図3に示されるように、上記構成のばね定数可変機構部20によれば、サスペンションアーム3は、入力荷重の大きさに応じて軸端部11の軸中心11aを中心に第2方向Yに回動する。サスペンションアーム3が低ストローク位置である第1位置P1にあるとき、スライドピン22はガイド溝部23の外側縁24に当接した第1位置Q1に配置される。このとき、軸端部11の軸中心11aと力点3aを結ぶ仮想直線A1上にスライドピン22が位置しており、軸中心11aからスライドピン22までの作用点距離dがd1となる。なお、スライドピン22が第1位置Q1においてガイド溝部23の外側縁24に当接する構造により、第1位置P1におけるサスペンションアーム3の時計まわり方向の回動動作が阻止されるようになっている。
【0036】
図4に示されるように、サスペンションアーム3がそのストローク量の増大に伴って第1位置P1(
図3を参照)から第2位置P2まで回動したとき、スライドピン22はガイド溝部23の外側縁24と内側縁25との間の中間位置である第2位置Q2に配置される。このとき、サスペンションアーム3の第1位置P1から第2位置P2までの回動角度である作用角はθaとなる。
【0037】
サスペンションアーム3が第2位置P2にあるとき、軸端部11の軸中心11aと力点3aを結ぶ仮想直線A2上にスライドピン22が位置しており、軸中心11aからスライドピン22までの作用点距離dがd2(<d1)となる。すなわち、サスペンションアーム3が第2位置P2にあるときには、サスペンションアーム3が第1位置P1にあるときに比べて作用点距離dが短くなり、レバー比が下がる。したがって、サスペンションアーム3が第1位置P1から第2位置P2まで回動することに伴って、サスペンション装置101におけるばね硬さが強まる方向に変化することになり、その結果、ばね定数が大きくなる。
【0038】
図5に示されるように、サスペンションアーム3がそのストローク量の増大に伴って第2位置P2(
図4を参照)から高ストローク位置である第3位置P3まで回動したとき、スライドピン22はガイド溝部23の内側縁25に当接した第3位置Q3に配置される。このとき、サスペンションアーム3の第1位置P1から第3位置P3までの回動角度である作用角はθb(>θa)となる。
【0039】
サスペンションアーム3が第3位置P3にあるとき、軸中心11aと力点3aを結ぶ仮想直線A3上にスライドピン22が位置しており、軸中心11aからスライドピン22までの作用点距離dがd3(<d2)となる。すなわち、サスペンションアーム3が第3位置P3にあるときには、サスペンションアーム3が第2位置P2にあるときに比べて作用点距離dが短くなり、レバー比が下がる。したがって、サスペンションアーム3が第2位置P2から第3位置P3まで回動することに伴って、サスペンション装置101におけるばね硬さが強まる方向に変化することになり、その結果、ばね定数が大きくなる。なお、スライドピン22が第3位置Q3においてガイド溝部23の内側縁25に当接する構造により、第3位置P3におけるサスペンションアーム3の反時計まわり方向の回動動作が阻止されるようになっている。
【0040】
(サスペンションアームのストローク時の応力)
図6に示されるように、本形態のサスペンション装置101において、サスペンションアーム3のストローク量Lと応力σとの相関は曲線Faで示される。ここで、ストローク量Lは、サスペンションアーム3の第2方向Yの変位であり、応力σはサスペンションアーム3に入力される入力荷重に応じて第2方向Y(トーションバースプリング10の捩れ方向)に生じる応力である。
【0041】
曲線Faは、下に凸の曲線である。この曲線Faによれば、ストローク量Lの増大に伴って応力σが曲線的に増大する。すなわち、ストローク量Lが増大するにつれて曲線Faの接線の傾きが徐々に大きくなる。これに対して、トーションバースプリング10の捩れのみを利用した従来のサスペンション構造の場合には、ストローク量Lと応力σが比例関係になる。
【0042】
曲線Faにおいて、サスペンションアーム3が第1位置P1にあるときのストローク量Lを「0」とし、そのときの応力σを「σ0」としている。この曲線Faによれば、サスペンションアーム3が第2位置P2にあるとき、ストローク量L1が「r・θa」で応力σが「σ1」となる。また、サスペンションアーム3が第3位置P3にあるとき、ストローク量L2が「r・θb」で応力σが「σ2」となる。
【0043】
(サスペンションアームのストローク時のばね定数)
図7に示されるように、
図6の相関に基づいた場合、サスペンションアーム3のストローク量Lとばね定数Cとの相関は直線Gaで示される。ここで、ばね定数Cは、ストローク量Lに対する応力σの比率であり、応力σをストローク量Lで除した値として定義される。この直線Gaによれば、ストローク量Lとばね定数Cが比例関係になり、ストローク量Lの増大に伴ってばね定数Cが直線的に増大する。これに対して、トーションバースプリング10の捩れのみを利用した従来のサスペンション構造の場合には、ばね定数Cが一定になる。
【0044】
直線Gaにおいて、サスペンションアーム3が第1位置P1にあるときのばね定数Cを「C0」としている。この直線Gaによれば、サスペンションアーム3が第2位置P2にあるときのばね定数Cが「C1」となり、サスペンションアーム3が第3位置P3にあるときのばね定数CがC1よりも大きい「C2」となる。
【0045】
以下に、上述の実施形態1の作用効果について説明する。
【0046】
実施形態1のサスペンション装置101において、ばね定数可変機構部20は、サスペンションアーム3とトーションバースプリング10のそれぞれに対して機械的に連結されている。このばね定数可変機構部20は、サスペンションアーム3の動きに連動して作動することにより、サスペンションアーム3のストローク量Lに応じてばね定数Cを可変とする機能を果たす。
【0047】
このばね定数可変機構部20によれば、サスペンションアーム3のストローク量Lに応じてばね定数Cを可変とすることで、車両の乗り心地と操縦安定性をともに高めることが可能になる。すなわち、ばね定数Cを小さくするように変更することで変更前に比べて足回りが柔らかくなるため車両の乗り心地を良くすることができ、ばね定数Cを大きくするように変更することで変更前に比べて足回りが硬くなるため車両の操縦安定性を良くすることができる。このとき、ばね定数可変機構部20は、サスペンションアーム3の動きに連動して作動する構造ゆえ、コントロールユニットなどの制御装置による複雑な制御を要しない。
【0048】
このばね定数可変機構部20によれば、サスペンションアーム3のストローク量Lが大きいほどばね定数Cを大きくし、サスペンションアーム3のストローク量Lが小さいほどばね定数Cを小さくするように構成されている。このため、車体1の小さな振動に対しては、ばね定数Cを小さく抑えることで足回りを柔らかくして振動を吸収することができる。また、車体1の大きなロールに対しては、ばね定数Cを大きくすることで足回りを硬くして安定感を出すことができる。
【0049】
従って、上述の実施形態1によれば、簡単な構造で車両の乗り心地と操縦安定性の両方に優れた性能を発揮するサスペンション装置101を提供することができる。
【0050】
実施形態1のサスペンション装置101によれば、とりわけ、トーションバースプリング10を使用しながらも、不等ピッチスプリングを使用したときのようなサスペンション特性を得ることが可能になる。なお、不等ピッチスプリングは既知のものであり、その詳細な説明については省略するが、スプリング間隔が等間隔でないコイルスプリングをいう。この不等ピッチスプリングによれば、コイルスプリングが縮むプロセスにおいて、縮み始めと、限界ギリギリまで縮んでいる時のテンション、その時に対応する反発力を不等間隔によって調整することができる。
【0051】
実施形態1のサスペンション装置101によれば、サスペンションアーム3からカム21に荷重を伝達するスライドピン22は、カム21に設けられたガイド溝部23と、サスペンションアーム3の回動動作をガイド溝部23におけるスライドピンのスライド動作に変換するリンクアーム26と、によってガイドされる。このため、ガイド溝部23及びリンクアーム26からなる簡単な構造のガイド機構を利用して荷重伝達部材をガイドすることができる。
【0052】
実施形態1のサスペンション装置101によれば、スライドピン22をガイドするガイド溝部23として直線溝部を採用することで、サスペンションアーム3のストローク変化量に対するばね定数Cの変化量の割合を一定にすることが可能になる。また、ガイド溝部23を直線溝部とすることで溝構造を簡素化することができる。
【0053】
次に、上述の実施形態1に関連する他の実施形態について図面を参照しつつ説明する。他の実施形態において、上述の実施形態1の要素と同一の要素には同一の符号を付しており、当該同一の要素についての説明は省略する。
【0054】
(実施形態2)
図8に示されるように、実施形態2のサスペンション装置102は、ばね定数可変機構部20Aの構造のみが実施形態1のばね定数可変機構部20のものと相違している。
【0055】
(ばね定数可変機構部の構造)
ばね定数可変機構部20Aは、ガイド機構を構成するガイド溝部23Aを有する。ガイド溝部23Aは、スライドピン22を第3方向Zに沿ってガイドするようにカム21に設けられている。本形態において、このガイド溝部23Aは、実施形態1のガイド溝部23とは異なる形状を有するものであり、外側縁24から内側縁25まで第3方向Zに沿って屈曲して延びる屈曲溝部である。このガイド溝部23Aは、1つの屈曲点23cを隔ててこの屈曲点23cから異なる方向に延びる2つの直線溝23a,23bを有する。直線溝23bは、第3方向Zに延びている。これに対して、直線溝23aは、直線溝23bに対して傾斜した状態で第3方向Zに沿って延びている。
【0056】
その他の構成は、実施形態1と同様である。
【0057】
(サスペンション装置の動作)
次に、実施形態2のサスペンション装置102の動作について、
図8~
図10を参照しながら説明する。
【0058】
図8に示されるように、上記構成のばね定数可変機構部20Aによれば、サスペンションアーム3が第1位置P1にあるとき、スライドピン22はガイド溝部23Aの外側縁24に当接した第1位置Q1に配置される。
【0059】
図9に示されるように、サスペンションアーム3がそのストローク量の増大に伴って第1位置P1(
図8を参照)から第2位置P2まで回動するとき、スライドピン22はガイド溝部23Aのうち直線溝23aを屈曲点23cに向けてスライドして第2位置Q2に配置される。このため、サスペンションアーム3が第2位置P2にあるときには、実施形態1の場合と同様に、サスペンションアーム3が第1位置P1にあるときに比べて軸中心11aからスライドピン22までの作用点距離が短くなり、レバー比が下がる。このとき、実施形態1の場合と同様に、サスペンション装置102におけるばね硬さが強まる結果、ばね定数が大きくなる。
【0060】
図10に示されるように、サスペンションアーム3がそのストローク量の増大に伴って第2位置P2(
図9を参照)から第3位置P3まで回動するとき、スライドピン22はガイド溝部23Aのうち直線溝23bを内側縁25に向けてスライドして内側縁25に当接した第3位置Q3に配置される。このため、サスペンションアーム3が第3位置P3にあるときには、実施形態1の場合と同様に、サスペンションアーム3が第2位置P2にあるときに比べて軸中心11aからスライドピン22までの作用点距離が短くなり、レバー比が下がる。このとき、実施形態1の場合と同様に、サスペンション装置102におけるばね硬さが強まる結果、ばね定数が大きくなる。
【0061】
(サスペンションアームのストローク時の応力)
図11に示されるように、本形態のサスペンション装置102において、サスペンションアーム3のストローク量Lと応力σとの相関は2つの曲線Fa,Fbで示される。
【0062】
ここで、曲線Faは、実施形態1の場合と同様である。これに対して、曲線Fbは、曲線Faと同様に下に凸の曲線である。この曲線Fbによれば、曲線Faと同様に、ストローク量Lの増大に伴って応力σが曲線的に増大する。一方で、曲線Fbは、曲線Faに比べて変化が緩やかな曲線であり、ストローク量Lの増大に伴って応力σが緩やかに増大する。ストローク量Lが0からL1までの領域では応力σが曲線Fbにしたがって変化し、ストローク量LがL1からL2までの領域では応力σが曲線Faにしたがって変化する。
【0063】
(サスペンションアームのストローク時のばね定数)
図12に示されるように、
図11の相関に基づいた場合、サスペンションアーム3のストローク量Lとばね定数Cとの相関は2つの直線Ga,Gbで示される。
【0064】
ここで、直線Gaは、実施形態1の場合と同様である。これに対して、直線Gbは、直線Gaに比べて傾斜が小さい直線であり、ストローク量Lの増大に伴ってばね定数Cが緩やかに増大する。ストローク量Lが0からL1までの領域ではばね定数Cが直線Gbにしたがって変化し、ストローク量LがL1からL2までの領域ではばね定数Cが直線Gaにしたがって変化する。
【0065】
実施形態2のサスペンション装置102によれば、スライドピン22をガイドするガイド溝部23Aとして屈曲溝部を採用することで、サスペンションアーム3のストローク変化量に対するばね定数Cの変化量の割合を屈曲溝部の屈曲点23cの前後で変えることが可能になる。
【0066】
その他、実施形態1と同様の作用効果を奏する。
【0067】
本発明は、上述の各形態のみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の応用や変形が考えられる。
【0068】
上述の形態では、カム21と、スライドピン22と、ガイド溝部23,23Aと、リンクアーム26と、を構成要素とするばね定数可変機構部20,20Aについて例示したが、同様の機能を得ることができれば、その構成要素はこれらに限定されるものではなく、必要に応じて適宜に変更可能である。
【0069】
上述の形態では、ガイド溝部23,23Aを直線溝部や屈曲溝部とする場合について例示したが、ガイド溝部23,23Aの形状はこれらに限定されるものではなく、ガイド溝部23,23Aに代えてその他の形状のガイド溝部を採用することもできる。その他の形状のガイド溝部として、例えば、湾曲状に延びる湾曲溝部や、複数の屈曲点を有する屈曲溝部などが挙げられる。
【0070】
上述の形態では、サスペンションアーム3のストローク量Lが大きいほどばね定数Cを大きくしサスペンションアーム3のストローク量Lが小さいほどばね定数Cを小さくする場合について例示したが、これに代えて、サスペンションアーム3のストローク量Lが大きいほどばね定数Cを小さくしサスペンションアーム3のストローク量Lが小さいほどばね定数Cを大きくするようにしてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 車体
3 サスペンションアーム
10 トーションバースプリング
11 軸端部
11a 軸中心
20,20A ばね定数可変機構部
21 カム(回動部材)
22 スライドピン(荷重伝達部材)
23 ガイド溝部(直線溝部、ガイド機構)
23A ガイド溝部(屈曲溝部、ガイド機構)
26 リンクアーム(ガイド機構)
101,102 サスペンション装置
C ばね定数
d 作用点距離
L ストローク量
Q1,Q2,Q3 作用点
X 第1方向(軸方向)
Y 第2方向(捩れ方向)
Z 第3方向(径方向)
σ 応力