(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159566
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】クラッチの押圧機構
(51)【国際特許分類】
F16D 13/52 20060101AFI20231025BHJP
F16D 28/00 20060101ALI20231025BHJP
B60K 23/08 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
F16D13/52 A
F16D28/00 Z
B60K23/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069323
(22)【出願日】2022-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大島 文男
【テーマコード(参考)】
3D036
3J056
【Fターム(参考)】
3D036GA02
3D036GA16
3D036GA28
3D036GB05
3D036GD06
3D036GD09
3D036GJ01
3D036GJ17
3J056AA60
3J056BA04
3J056BB22
3J056CC37
3J056CC39
3J056GA12
(57)【要約】
【課題】四輪駆動状態から二輪駆動状態に切り替えた際に、クラッチをより確実に締結解除することが可能なクラッチの押圧機構を提供する。
【解決手段】同軸上に配置され、相対回転可能、且つ、回転軸方向に移動可能な第1の円板部材12と第2の円板部材13と、第1の円板部材12の第2の円板部材13に指向する第1の端面F12に形成されて、円周方向に延在するとともに、第1の端面F12からの深さが徐々に変化する第1の溝12cと、第2の円板部材13の第1の円板部材12に指向する第2の端面F13に形成されて、円周方向に延在するとともに、第2の端面F13からの深さが徐々に変化する第2の溝13cと、第1の溝12cと第2の溝13cの間を転動する球体14と、第1の円板部材12に一端を係止され、他端を第2の円板部材13に係止され、回転軸の回転方向に付勢力を有する付勢部材31と、をクラッチの押圧機構に設ける。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸上に配置され、相対回転可能、且つ、回転軸方向に移動可能な第1の円板部材と第2の円板部材と、
前記第1の円板部材の前記第2の円板部材に指向する第1の端面に形成されて、円周方向に延在するとともに、前記第1の端面からの深さが徐々に変化する第1の溝と、
前記第2の円板部材の前記第1の円板部材に指向する第2の端面に形成されて、円周方向に延在するとともに、前記第2の端面からの深さが徐々に変化する第2の溝と、
前記第1の溝と前記第2の溝の間を転動する球体と、
前記第1の円板部材に一端を係止され、他端を前記第2の円板部材に係止され、前記回転軸の回転方向に付勢力を有する付勢部材と、
を備えるクラッチの押圧機構。
【請求項2】
前記付勢部材がコイルばねである
請求項1に記載のクラッチの押圧機構。
【請求項3】
前記付勢部材が渦巻きばねである
請求項1に記載のクラッチの押圧機構。
【請求項4】
推進軸と終減速装置の間に配置される
請求項1に記載のクラッチの押圧機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチの押圧機構に関する。
【背景技術】
【0002】
前輪駆動をベースとした四輪駆動車では、車体前方に配置される動力源から出力された動力が、変速機、変速機に接続される副変速機、および推進軸を介して、車体後方に搭載される終減速装置に伝達される。四輪駆動状態での走行は、前輪駆動(二輪駆動)での走行に比べ、走行安定性が高まるが、燃費が低下する、という特徴がある。
そこで、必要に応じて、四輪駆動と二輪駆動を切り替えるために、上記動力伝達経路を断続する動力断続装置を設けることが広く行われている。
また、四輪駆動と二輪駆動を切り替える際には、センサーが車体の挙動を感知し、より適切な走行性能が得られるように、動力断続装置を制御することが行われている。
なお、動力断続装置の設置には、副変速機に一体化する形態、終減速装置に一体化する形態、および後輪に動力を伝達する駆動軸と終減速装置との間に配置する形態がある。
【0003】
たとえば、特許文献1に提案された動力断続装置は、入力軸と、入力軸と一体に回転する複数の第一のクラッチディスクと、第一のクラッチディスクと交互に積層される複数の第二のクラッチディスクと、第二のクラッチディスクと一体に回転する出力軸と、第一のクラッチディスクと第二のクラッチディスクを回転軸方向に押圧する押圧機構と、を備えている。
押圧機構は、具備する一対のカムプレートが同軸上に相対回転可能に、且つ軸方向に移動可能に配置されている。そして、それぞれのカムプレートの互いに指向する面には、溝が形成されている。この溝は、円周方向に指向しつつ、深さが徐変するように形成されているとともに、溝内に鋼球が配置されている。
また、一方のカムプレートは、プレッシャープレートを介して、他方のカムプレートに付勢するようにして取り付けられている。
ここで、他方のカムプレートがモータによって回転すると、鋼球が溝の深い領域から浅い領域に転動し、一方のカムプレートが軸方向に移動する。
移動する一方のカムプレートが、クラッチディスクの端部に配置されるピストンを押圧して、第一のクラッチディスクと第二のクラッチディスクが密着し、動力が伝達される。
一方のカムプレートの移動量を制御することで、クラッチの押圧力を制御することが可能となるため、車両の走行状態に応じた動力を後輪に伝達することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、四輪駆動状態から二輪駆動状態に切り替える際に、一方のカムプレートが初期位置に戻れなければ、第一のクラッチディスクと第二のクラッチディスクとが密着したまとなる。
つまり、クラッチが不必要に接続された状態(これを引き摺り状態と呼ぶ)となり、四輪駆動状態が維持される。
そして、引き摺り状態では、不要な動力が後輪に伝達され、燃費の低下を招来する。
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、四輪駆動状態から二輪駆動状態に切り替えた際に、クラッチをより確実に締結解除することが可能なクラッチの押圧機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するために、本発明に係るクラッチの押圧機構は、同軸上に配置され、相対回転可能、且つ、回転軸方向に移動可能な第1の円板部材と第2の円板部材と、前記第1の円板部材の前記第2の円板部材に指向する第1の端面に形成されて、円周方向に延在するとともに、前記第1の端面からの深さが徐々に変化する第1の溝と、前記第2の円板部材の前記第1の円板部材に指向する第2の端面に形成されて、円周方向に延在するとともに、前記第2の端面からの深さが徐々に変化する第2の溝と、前記第1の溝と前記第2の溝の間を転動する球体と、前記第1の円板部材に一端を係止され、他端を前記第2の円板部材に係止され、前記回転軸の回転方向に付勢力を有する付勢部材と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、四輪駆動状態から二輪駆動状態に切り替えた際に、クラッチをより確実に締結解除することが可能なクラッチの押圧機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る動力断続装置の断面図である。
【
図2】
図1のII部に示されるボールカムの正面図、および分解斜視図である。
【
図3】第1実施形態に係る駆動カムプレートを示す平面図である。
【
図4】第1実施形態に係る従動カムプレートを示す平面図である。
【
図5】第1実施形態に係る押圧解除形態のボールカム機構を示す
図3のV-V線に沿った断面図である。
【
図6】第1実施形態に係る押圧形態のボールカム機構を示す
図3のV-V線に沿った断面図である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係る動力断続装置の断面図である。
【
図8】第2実施形態に係る駆動カムプレートを示す平面図である。
【
図9】第2実施形態に係る従動カムプレートを示す平面図である。
【
図10】第2実施形態に係る押圧解除形態のボールカム機構を示す
図3のV-V線に沿った断面図である。
【
図11】第2実施形態に係る押圧形態のボールカム機構を示す
図3のV-V線に沿った断面図である。
【
図12】本発明の第3実施形態に係る動力断続装置の断面図である。
【
図13】第3実施形態に係る駆動カムプレートを示す平面図である。
【
図14】第3実施形態に係る従動カムプレートを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態の動力断続装置Sについて、
図1~
図6を参照して詳細に説明する。
なお、説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
本実施形態の動力断続装置Sは、前輪駆動をベースとした四輪駆動車に搭載されている。
【0010】
動力断続装置Sは、車体前方の所謂エンジンルームに設置されるエンジンなどの動力源(図示せず)から出力される動力を後輪(図示せず)に対して、伝達、または遮断するものである。
動力断続装置Sは、推進軸(55)と、差動装置DF(終減速装置)と、の間に設置されている。
そして、動力断続装置Sが、後輪に対して動力を伝達した場合に、車両は四輪駆動となり、動力を遮断した場合に、車両は前輪駆動(二輪駆動)となる。
本実施形態の動力断続装置Sは、押圧機構S1(クラッチの押圧機構)、クラッチ機構S2を備えている。
【0011】
<押圧機構>
押圧機構S1(クラッチの押圧機構)は、クラッチ機構S2に連結力(押圧力)を付与するための構成である(
図1参照)。
押圧機構S1は、動力断続装置Sの筐体となるクラッチハウジングCH内に配置されている。
押圧機構S1は、ボールカム10、アクチュエータ20、復帰手段30、プレッシャープレート40を備えている。
【0012】
<ボールカム>
ボールカム10は、回転動作を直線動作に変換するための構成である(
図1~
図4参照)。
ボールカム10は、押圧解除形態、押圧形態の2形態に、選択的に変形可能に構成されている。
ボールカム10は、駆動カム部材12(第1の円板部材)、従動カム部材13(第2の円板部材)、カムボール14(球体)を備えている。
なお、駆動カム部材12と従動カム部材13とで、一対のカム部材11を構成している。
【0013】
駆動カム部材12(第1の円板部材)は、回転軸AX周りに回転可能な状態で、クラッチハウジングCHに支持された円板状の部材で構成されている。
駆動カム部材12は、軸孔12a、平歯12b、駆動カム溝12cを備えている。
【0014】
軸孔12aは、円板形状の中心に板面を貫通する円形の孔で構成されている。
そして、軸孔12aは、その中心が回転軸AXと同心になるように配置されている。
【0015】
平歯12bは、平歯車の歯で構成され、駆動カム部材12の外周に形成されている。
そして、平歯12bを備えることで、駆動カム部材12は、回転軸AX周りに回転する歯車として機能している。
【0016】
駆動カム溝12c(第1の溝)は、従動カム部材13と指向する駆動カム部材12の板面F12(第1の端面)に形成されている。
駆動カム溝12cは、後述する従動カム溝13c、カムボール14とともに、カム構造を構成している。
駆動カム溝12cは、回転軸AXを中心に、周方向に沿って湾曲する円弧形状を備えている。
【0017】
また、駆動カム溝12cは、周方向の一端から他端に向かって溝の深さが徐々に深くなるように設定されている。
そして、このような駆動カム溝12cが、回転軸AXを中心とする等角度間隔(120度間隔)で、3つ配置されている。
【0018】
従動カム部材13(第2の円板部材)は、回転軸AX方向に沿って移動可能な状態で、クラッチハウジングCHに支持された板状の部材で構成されている。
さらに、従動カム部材13は、その板面が駆動カム部材12の板面と指向するように配置されている。
従動カム部材13は、係止爪13b、従動カム溝13c、を備えている。
【0019】
係止爪13bは、従動カム部材13の外周に形成されており、回転軸AXを中心にして、径方向外側に突出する切片で構成されている。
係止爪13bは、クラッチハウジングCHに形成された爪溝(図示せず)内を、回転軸AX周りの周方向に係合しつつ、回転軸AX方向に沿って移動可能に配置されている。
そして、このような係止爪13bが、従動カム部材13の外周に、回転軸AXを中心とする等角度間隔(120度間隔)で、3つ配置されている。
【0020】
従動カム溝13c(第2の溝)は、駆動カム溝12cと指向する従動カム部材13の板面F13(第2の端面)の部位に形成されている。
従動カム溝13cは、回転軸AXを中心に、周方向に沿って湾曲する円弧形状を備えている。
【0021】
また、従動カム溝13cは、周方向の一端から他端に向かって溝の深さが徐々に深くなるように形成されている。
そして、このような従動カム溝13cが、回転軸AXを中心とする等角度間隔(120度間隔)で、3つ配置されている。
【0022】
カムボール14(球体)は、押し付け圧力によって変形しない程度に硬質な球体で構成されている。
カムボール14は、駆動カム溝12c、従動カム溝13cの両溝内を転動可能に配置されている。
【0023】
<アクチュエータ>
次に、アクチュエータ20の構成について説明する(
図1参照)。
アクチュエータ20は、ボールカム10を構成する駆動カム部材12に回転力を付与するための構成である。
アクチュエータ20は、モータ21、アイドラーギヤ22を備えている。
【0024】
モータ21は、正転、逆転を選択的に切り替え可能に制御されている。
なお、モータ21が正転した場合には、駆動カム部材12が、押圧解除形態から押圧形態へ変形する方向(連結方向)に回転する。
そして、モータ21が逆転した場合には、駆動カム部材12が、押圧形態から押圧解除形態へ変形する方向(連結解除方向)に回転する。
【0025】
アイドラーギヤ22は、モータ21と噛合しつつ、駆動カム部材12の平歯12bと噛合している。
そして、アイドラーギヤ22は、モータ21の回転を減速しつつ、駆動カム部材12に回転力を伝えている。
【0026】
<復帰手段>
次に、復帰手段30の構成について説明する(
図1~
図6参照)。
復帰手段30は、ボールカム10が押圧形態から押圧解除形態に復帰するための付勢力を付与するための構成である。
復帰手段30は、圧縮コイルばね31a(付勢部材31)、駆動側ばね収容部32、従動側ばね収容部33、駆動側ばね端支持部34、従動側ばね端支持部35を備えている。
【0027】
圧縮コイルばね31a(付勢部材31)は、その一端が、駆動カム部材12の駆動側ばね端支持部34に支持され、その他端が、従動カム部材13の従動側ばね端支持部35に支持されている。
つまり、圧縮コイルばね31aは、その中心軸A31aが、板面に対して、斜めに傾くように設置されている。
このため、駆動カム部材12と従動カム部材13との間隔が広がることで、中心軸A31aの傾きが大きくなる。
そして、圧縮された圧縮コイルばね31aの復元力における回転軸AX方向に沿った分力が、従動カム部材13を駆動カム部材12に引き付けるための付勢力として作用する。
【0028】
駆動側ばね収容部32は、圧縮コイルばね31aを収容するための構成である。
駆動側ばね収容部32は、従動カム部材13と指向する駆動カム部材12の板面に開口する溝状の凹部で構成されている。
駆動側ばね収容部32は、駆動カム溝12cの径方向外側に配置されている。
駆動側ばね収容部32は、回転軸AXを中心に、周方向に沿って円弧状に湾曲している。
【0029】
従動側ばね収容部33は、駆動側ばね収容部32とともに、圧縮コイルばね31aを収容するための構成である。
従動側ばね収容部33は、駆動側ばね収容部32と指向する従動カム部材13の板面の部位に開口する溝状の凹部で構成されている。
従動側ばね収容部33は、回転軸AXを中心に、周方向に沿って湾曲する円弧形状を備えている。
そして、従動側ばね収容部33は、駆動側ばね収容部32とともに、断面略矩形形状の空間を形成している。
【0030】
駆動側ばね端支持部34(一端支持部)は、駆動側ばね収容部32に収容された圧縮コイルばね31a(付勢部材31)の一端を駆動カム部材12に支持するための構成である。
駆動側ばね端支持部34は、駆動側ばね収容部32における、圧縮された圧縮コイルばね31aの反発力を受ける側の端部に設けられている。
そして、このような駆動側ばね収容部32が、回転軸AXを中心とする等角度間隔(120度間隔)で、3つ配置されている。
【0031】
従動側ばね端支持部35(他端支持部)は、従動側ばね収容部33に収容された圧縮コイルばね31a(付勢部材31)の他端を従動カム部材13に支持するための構成である。
従動側ばね端支持部35は、従動側ばね収容部33における、圧縮された圧縮コイルばね31aの反発力を受ける側の端部に設けられている。
そして、このような従動側ばね収容部33が、回転軸AXを中心とする等角度間隔(120度間隔)で、3つ配置されている。
つまり、圧縮コイルばね31aは、周方向に沿って、等角度間隔に合計3つ配置されている。
【0032】
<プレッシャープレート>
プレッシャープレート40は、押圧機構S1の出力部として、回転軸AXの軸方向に沿って車両前後方向に移動する(
図1参照)。
プレッシャープレート40は、最も後方に位置する出力側摩擦板54の後面に当接可能に配置されている。
プレッシャープレート40は、スラストベアリング41を介して、回転軸周りに回転可能な状態で、従動カム部材13に支持されている。
これによって、押圧形態の押圧機構S1において、プレッシャープレート40は、後述の出力側摩擦板54に押圧力を付与しつつ、出力側摩擦板54とともに、回転軸AXの軸周りに回転する。
【0033】
<クラッチ機構>
次に、クラッチ機構S2について説明する(
図1参照)。
クラッチ機構S2は、押圧機構S1から付与される押圧力の強弱によって、動力の断続を行う構成である。
クラッチ機構S2は、クラッチケース51、出力軸52、入力側摩擦板53、出力側摩擦板54を備えている。
【0034】
クラッチケース51は、クラッチハウジングCH内に回転軸AX周りに回転可能に支持されている。
クラッチケース51は、連結部51a、入力側スプライン51b、圧力壁51cを備えている。
【0035】
連結部51aは、クラッチケース51の前端部に設定されている。
連結部51aは、推進軸(55)の後端部に連結され、エンジン(図示せず)からの回転が伝達される。
【0036】
入力側スプライン51bは、クラッチケース51後方部分のケース内周面に設定されている。
入力側スプライン51bは、入力側摩擦板53が、回転軸AX周りの周方向に係合しつつ、回転軸AXの軸方向に沿った移動を可能にしている。
【0037】
圧力壁51cは、入力側スプライン51bの前端部に配置されている。
圧力壁51cは、回転軸AXと直交する平面で構成されている。
圧力壁51cは、入力側摩擦板53の回転軸AX方向への移動を規制する。
【0038】
出力軸52は、クラッチハウジングCHの後方開口部から後方に突出し、差動装置DFの筐体内に嵌入され、その後端部が、後輪(図示せず)に回転を伝える差動装置DFのドライブピニオンギヤD1に連結し、回転を伝える。
また出力軸52は、回転軸AX周りに回転可能な状態で、クラッチハウジングCHに支持されている。
【0039】
なお、出力軸52は、軸スプライン52aを備えている。
軸スプライン52aは、出力側摩擦板54と回転軸AX周りの周方向に係合しつつ、回転軸AXの軸方向に沿った移動を可能にしている。
【0040】
入力側摩擦板53は、中心に円形の貫通孔が開口する円板形状を備えている。
入力側摩擦板53は、外周に形成された入力側係合片53aを入力側スプライン51bに係合させた状態で、クラッチケース51内に配置されている。
つまり、入力側摩擦板53は、クラッチケース51内を回転軸AX方向へ移動可能、且つクラッチケース51とともに回転するように配置されている。
そして、複数の入力側摩擦板53が、回転軸方向に沿って、積層配置されている。
【0041】
出力側摩擦板54は、中心に円形の貫通孔が開口する円板形状を備えている。
出力側摩擦板54は、内周に形成された出力側係合片54aを軸スプライン52aに係合させた状態で、出力軸52に支持されている。
つまり、出力側摩擦板54は、出力軸52の外周上を回転軸AX方向へ移動可能、且つ出力軸52とともに回転するように配置されている。
そして、入力側摩擦板53と同数の出力側摩擦板54が、回転軸AX方向に沿って、出力軸52上に交互に積層配置されている。
【0042】
<動力断続装置の働き>
次に、本実施形態の動力断続装置Sの働きについて説明する。
動力断続装置Sは、連結解除状態と連結状態とに、選択的に状態を変化させることができる。
[連結解除状態]
連結解除状態の動力断続装置Sでは、押圧機構S1は押圧解除形態となっている。
押圧機構S1には、復帰手段30の圧縮コイルばね31a(付勢部材31)による付勢力が常に作用している。
このため、押圧機構S1は、押圧解除形態では、従動カム部材13が駆動カム部材12に最も接近した状態で保持されている。
【0043】
また、プレッシャープレート40は、従動カム部材13とともに、回転軸AXに沿って前後に移動するため、出力側摩擦板54から離間している。
したがって、入力側摩擦板53と出力側摩擦板54とが密着するための押圧力が付与されていない。
つまり、動力断続装置Sは、動力が後輪に伝達されない、連結解除状態となっている。
【0044】
[連結状態]
連結状態の動力断続装置Sでは、押圧形態の押圧機構S1は、押圧形態となっている。
押圧機構S1は、押圧形態では、ボールカム10が圧縮コイルばね31aの付勢力に抗して、従動カム部材13を前方へ押し退けている。
このため、押圧形態では、従動カム部材13が駆動カム部材12から最も離れた位置に保持されている。
【0045】
また、プレッシャープレート40は、従動カム部材13とともに、車両前方に移動している。
プレッシャープレート40が、車両前方へ移動することで、プレッシャープレート40と圧力壁51cとの間に、入力側摩擦板53と出力側摩擦板54とが挟持されて、圧接する。
これによって、クラッチケース51の回転が、出力軸52に伝達される。
つまり、動力断続装置Sは、動力が後輪に伝達される、連結状態となっている。
【0046】
[連結動作(前輪駆動→四輪駆動)]
連結動作によって、動力断続装置Sは、連結解除状態から連結状態に移行する。
連結動作では、まず、押圧解除形態のボールカム10に対して、モータ21が、正転方向に稼働し、アイドラーギヤ22を介して、駆動カム部材12が連結方向に回転する。
駆動カム部材12が、圧縮コイルばね31aを圧縮しつつ、連結方向に回転することで、カムボール14は、駆動カム溝12c、および従動カム溝13cの溝内を広く深い部位から狭く浅い部位へ移動する。
【0047】
カムボール14は、駆動カム溝12c、および従動カム溝13cの溝内を移動しつつ、従動カム部材13を駆動カム部材12から離間する方向(車両後方から前方)に向かって押し退ける(押圧形態)。
前方へ押し退けられた従動カム部材13は、スラストベアリング41を介して、プレッシャープレート40を前方へ押し出す。
押し出されたプレッシャープレート40は、出力側摩擦板54、および入力側摩擦板53を前方へ押圧する。
【0048】
そして、出力側摩擦板54と入力側摩擦板53とが、プレッシャープレート40と圧力壁51cとの間で圧接し、動力断続装置Sの連結状態への移行が完了する。
この状態でクラッチケース51に回転力が加わると、入力側摩擦板53と出力側摩擦板54とが連結したまま回転し、推進軸の回転が出力軸52に伝わる。
これによって、車両は、前輪駆動から四輪駆動へと切り替わる。
【0049】
[連結解除動作(四輪駆動→前輪駆動)]
連結解除動作によって、動力断続装置Sは、連結状態から連結解除状態に移行する。
連結解除動作では、押圧形態のボールカム10に対して、モータ21が逆転方向に稼働し、アイドラーギヤ22を介して、駆動カム部材12が連結解除方向に回転する。
駆動カム部材12が連結解除方向に回転することで、カムボール14は、駆動カム溝12c、および従動カム溝13cの溝内を狭く浅い部位から広く深い部位へ移動する。
【0050】
カムボール14が、駆動カム溝12c、および従動カム溝13cの溝内を浅い部位から深い部位へ移動する際に、圧縮コイルばね31aの付勢力によって、従動カム部材13は、駆動カム部材12に接近(後退)する。
そして、従動カム部材13が後退することで、プレッシャープレート40が出力側摩擦板54から離間する(押圧解除形態)。
これによって、入力側摩擦板53と出力側摩擦板54との圧接が解消され、動力断続装置Sの連結解除状態への移行が完了する。
【0051】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
本実施形態の動力断続装置Sを構成する押圧機構S1には、押圧形態から押圧解除形態へのボールカム10の運動を促すための復帰手段30が設けられている。
復帰手段30は、付勢部材としての圧縮コイルばね31aの一端を駆動カム部材12に支持し、他端を従動カム部材13に支持している。
【0052】
このような構成とすることで、圧縮コイルばね31aは、押圧形態において、圧縮されつつ、駆動カム部材12の板面に対して斜めに配置される(
図5、
図6参照)。
そして、圧縮コイルばね31aの復元力により駆動カム部材12の連結解除状態への復帰が速やかに行われ、従動カム部材13のクラッチ機構S2に対する押圧力が解除され、動力の伝達が解除される。
【0053】
これによって、入力側摩擦板53と出力側摩擦板54との圧接の解消(連結解除)をより確実に行うことができる。
したがって、四輪駆動状態から二輪駆動状態に切り替えた際に、無駄な動力伝達が抑制されて、燃費の低下を抑制することができる。
【0054】
なお、本実施形態では、駆動側ばね収容部32、および従動側ばね収容部33が、溝形状となっているが、このような形態に限定するものではない。
たとえば、駆動カム部材12、および従動カム部材13を板厚方向に貫通する円弧状に湾曲する長孔とすることも可能であり、同様の作用効果を得ることができる。
また、駆動カム部材12と従動カム部材13とを重ねた後から圧縮コイルばね31aを設置することが可能になるため、組立作業性を向上させることができる。
【0055】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態の動力断続装置Sについて、
図7~
図11を参照して説明する。
なお、説明において、前述の第1実施形態と同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
本実施形態の動力断続装置Sでは、復帰手段30を構成する付勢部材31が圧縮コイルばね31aではなく、引っ張りコイルばね31bに変更されている。
【0056】
そして、この変更に伴い、駆動側ばね端支持部34、および従動側ばね端支持部35の形状が、ばねの端部を引っ掛ける突起に変更されている。
また、駆動側ばね収容部32、および従動側ばね収容部33は、ばね毎に設定されるのではなく、全ての引っ張りコイルばね31bを収容可能な1つの凹部として、それぞれに設定されている。
【0057】
駆動カム部材12は、モータ21が連結方向に回転することで、引っ張りコイルばね31bを引っ張りつつ、回転し、押圧形態に移行する。
そして、押圧形態から押圧解除形態に移行する際に、引っ張りコイルばね31bの回転軸AX方向に沿った復元力より駆動カム部材12の連結解除状態への復帰が速やかに行われ、従動カム部材13のクラッチ機構S2に対する押圧力が解除され、動力の伝達が解除されことは、第1実施形態と同様である。
以上のことから、本実施形態の動力断続装置Sでは、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0058】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態の動力断続装置Sについて、
図12~
図14を参照して説明する。
なお、説明において、前述の第1実施形態と同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
本実施形態の動力断続装置Sでは、復帰手段30を構成する付勢部材31が圧縮コイルばね31aではなく、渦巻きばね31cに変更されている。
【0059】
渦巻きばね31cは、渦巻きの中心が、回転軸AXと同心になるように、駆動カム溝12c、および従動カム溝13cの径方向外側の部位に、巻き掛けるように配置されている。
そして、この変更に伴い、駆動側ばね端支持部34、および従動側ばね端支持部35の形状が、ばねの端部を引っ掛ける突起に変更されている。
渦巻きばね31cは、内側端部(一端)が駆動側ばね端支持部34に引っ掛けられて支持され、外側端部(他端)が従動側ばね端支持部35に引っ掛けられて支持されている。
【0060】
押圧機構S1が押圧解除形態から押圧形態に変形する際に、従動カム部材13が車両前方へ移動するのに伴って、渦巻きばね31cの外側端部が、車両前方へ引っ張られる。
そして、押圧形態から押圧解除形態に変形する際に、引っ張られた外側端部が車両後方へ戻ろうとする復元力が、従動カム部材13を後退させるための付勢力として作用する。
以上のことから、本実施形態の動力断続装置Sでは、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0061】
S1 押圧機構
S 動力断続装置
12 駆動カム部材(第1の円板部材)
12c 駆動カム溝(第1の溝)
13 従動カム部材(第2の円板部材)
13c 従動カム溝(第2の溝)
14 カムボール(球体)
31 付勢部材
31a 圧縮コイルばね(コイルばね)
31b 引っ張りコイルばね(コイルばね)
31c 渦巻きばね
55 推進軸
AX 回転軸
S2 クラッチ機構
DF 差動装置(終減速装置)