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特開2023-159571平坦化処理装置、及び、平坦化処理方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159571
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】平坦化処理装置、及び、平坦化処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20231025BHJP
   H05H 1/30 20060101ALN20231025BHJP
【FI】
H01L21/302 101E
H05H1/30
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069332
(22)【出願日】2022-04-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】393018521
【氏名又は名称】株式会社三友製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100163533
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 義信
(74)【代理人】
【識別番号】100199842
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 祥平
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 千克
(72)【発明者】
【氏名】狩野 諒
【テーマコード(参考)】
2G084
5F004
【Fターム(参考)】
2G084AA02
2G084BB11
2G084CC19
2G084CC33
2G084DD01
2G084DD17
2G084DD22
2G084FF02
2G084FF07
2G084GG02
2G084GG07
5F004AA11
5F004BA03
5F004BB13
5F004CA05
5F004DA01
5F004DA26
5F004DB00
5F004DB01
5F004DB03
5F004DB07
(57)【要約】
【課題】 優れた平坦度を有するワークが得られる、平坦化処理装置の提供。
【解決手段】 プロセスガスをプラズマ励起して、ワーク(60)の表面に局所的に供給する局所プラズマ源(10)と、前記ワークを載置する試料台(8)と、前記局所プラズマ源、及び、前記試料台の相対位置を変化させる移動機構(9)と、制御装置(20)と、を備える平坦化処理装置(200)であって、前記制御装置は、移動制御部(38)と、領域設定部(33)と、基準速度算出部(34)と、比率算出部(35)と、補正速度算出部(36)と、速度分布算出部(37)と、を有し、前記移動制御部は、前記分布に従って、前記供給位置を走査移動させる、平坦化処理装置。
【選択図】 図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセスガスをプラズマ励起して、ワークの表面に局所的に供給する局所プラズマ源と、前記ワークを載置する試料台と、前記局所プラズマ源、及び、前記試料台の相対位置を変化させる移動機構と、制御装置と、を備える平坦化処理装置であって、
前記制御装置は、
前記移動機構を制御し、励起された前記プロセスガスの前記ワーク上における供給位置を、前記ワークの処理対象範囲の一方向に走査移動させ、かつ、前記走査移動の軌跡が描く走査線が、前記走査線と略直交する方向に所定のピッチで移動するように、前記供給位置を送り移動させる、移動制御部と、
前記処理対象範囲を、目標厚みとの差である加工量が互いに異なる複数の領域に分割する領域設定部と、
前記加工量の平均値から、前記走査移動の基準速度を算出する、基準速度算出部と、
前記処理対象範囲の前記領域ごとに、計算対象とする領域Aの加工量に対する、前記走査線と平行な方向であって前記領域Aを含む線上に並ぶ全領域の加工量の平均値の比AX、及び、前記領域Aの加工量に対する、前記走査線と略直交する方向であって前記領域Aを含む線上に並ぶ全領域の加工量の平均値に対する比AYを算出する、比率算出部と、
前記比AX、及び、前記比AYを用いて、前記領域Aの前記基準速度を補正することで、前記処理対象範囲の前記領域ごとに補正速度を算出する、補正速度算出部と、
前記処理対象範囲における前記領域ごとの前記補正速度の分布を算出する、速度分布算出部と、を有し、
前記移動制御部は、前記分布に従って、前記供給位置を走査移動させる、平坦化処理装置。
【請求項2】
隣り合う複数の前記領域を、所定の基準に沿って結合して、グループを設定する、領域結合部を更に有し、
前記基準速度算出部は、前記グループごとに、前記基準速度を算出し、
前記比率算出部は、前記グループごとに、前記グループに含まれる前記領域ごとの前記比AX、及び、前記比AYを算出し、
前記補正速度算出部は、前記グループごとに、前記グループに含まれる前記領域ごとの前記補正速度を算出し、
前記速度分布算出部は、前記グループごとの前記補正速度の分布を算出、結合して、結合後分布を算出し、
前記移動制御部は、前記結合後分布に従って、前記相対位置を走査移動させる、請求項1に記載の平坦化処理装置。
【請求項3】
前記領域結合部は、前記処理対象範囲のすべての前記領域の加工量の最大値、最小値、及び、式:中間値=最小値+1/2(最大値+最小値)により定義される中間値を求め、前記最大値と前記最小値との差が小さく、かつ、前記平均値と前記中間値との差が小さくなるように、前記グループを設定する、請求項2に記載の平坦化処理装置。
【請求項4】
前記領域の長辺の長さは、前記ピッチ以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の平坦化処理装置。
【請求項5】
前記移動機構は、前記相対位置を、少なくともX軸、及び、X軸と直交するY軸に沿って移動可能に構成される、請求項1に記載の平坦化処理装置。
【請求項6】
プロセスガスをプラズマ励起して、ワークの表面に局所的に供給し、励起された前記プロセスガスの前記ワーク上における供給位置を、前記ワークの処理対象範囲の一方向に走査移動させ、かつ、前記走査移動の軌跡が描く走査線が、前記走査線と略直交する方向に所定のピッチで移動するように、前記供給位置を送り移動させて、前記ワークを平坦化する、ワークの平坦化処理方法であって、
前記処理対象範囲を、目標厚みとの差である加工量が互いに異なる複数の領域に分割することと、
前記加工量の平均値から、前記走査移動の基準速度を算出することと、
前記処理対象範囲の前記領域ごとに、計算対象とする領域Aの加工量に対する、前記走査線と平行な方向であって前記領域Aを含む線上に並ぶ全領域の加工量の平均値に対する比AX、及び、前記領域Aの加工量に対する、前記走査線と略直交する方向であって前記領域Aを含む線上に並ぶ全領域の加工量の平均値に対する比AYと、を算出することと、
前記比AX、及び、前記比AYを用いて、前記領域Aの前記基準速度を補正することで、前記処理対象範囲の前記領域ごとに補正速度を算出することと、
前記処理対象範囲における前記領域ごとの前記補正速度の分布を算出することと、
前記分布に従って、前記供給位置を走査移動させることと、を含む、平坦化処理方法。
【請求項7】
隣り合う複数の前記領域を、所定の基準に沿って結合して、グループを設定することを更に含み、
前記基準速度の算出、前記比AXの算出、前記比AYの算出、前記補正速度の算出、及び、前記分布の算出が、前記グループごとに行われ、
前記供給位置の走査移動は、前記グループごとに算出された前記分布を結合して得られた結合後分布に従って行われる、請求項6に記載の平坦化処理方法。
【請求項8】
前記グループを設定することは、前記処理対象範囲のすべての前記領域の加工量の最大値、最小値、及び、式:中間値=最小値+1/2(最大値+最小値)により定義される中間値を求めることと、
前記最大値と前記最小値との差が小さく、かつ、前記平均値と前記中間値との差が小さくなるように、前記隣り合う複数の前記領域を結合して、前記グループを設定することと、を含む、請求項7に記載の平坦化処理方法。
【請求項9】
前記領域の長辺の長さは、前記ピッチ以下である、請求項6~8のいずれか1項に記載の平坦化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局所プラズマ源を用いた平坦化処理装置、及び、平坦化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
減圧雰囲気下で絶縁性の細管を用いて、プロセスガスをプラズマ励起し、ワークの表面の所望の範囲に供給して、ワークを加工する、局所プラズマ源によるワークの加工方法が知られている。
【0003】
局所範囲をプラズマ処理する局所プラズマは、一般的にプラズマ密度が高く、高速加工が可能であるため、半導体ウエハ等の平板状のワークの深堀、及び、うねりを解消する平坦化処理等に活用されている。
特に、吸引プラズマは高速加工が可能で、清浄な加工面が得られる点で更なる活用が期待されている。
【0004】
局所プラズマ源を用いた平坦化処理は、ワークを目標の厚みに加工するために、処理前の厚みに合わせてプラズマの供給時間、位置、エネルギー、及び、プラズマ発生源とワークとの距離等の諸条件を調整しながら行われることがある。
【0005】
上記のような技術として、特許文献1には、「エッチングガスをプラズマにより励起して、中性活性種を含むガスを生成し、前記ガスを半導体ウェーハの主面に局所的に供給して、局部的なエッチングを行う半導体ウェーハの平坦化方法であって、半導体ウェーハの面内を、エッチングレートのプロファイルが互いに異なる複数の領域に分割し、前記複数の領域のあいだの前記エッチングレートのプロファイルの差異が抑制されるように、前記複数の領域のそれぞれにおいて前記局部的なエッチングを行う位置を決定すること、を特徴とする半導体ウェーハの平坦化方法。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-253133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
処理前の厚みにばらつきのあるワークの表面を平坦にするためには、厚みのばらつきに応じてプラズマの供給量、及び、供給位置等を調整し、加工の度合いを調整すればよいと考えられてきた。
プラズマ源によるワークの加工の度合いは、そのプラズマ源に固有の加工痕形状と、プラズマ源の走査速度との畳み込み積分により見積れることが知られている。つまり、上記に従って、必要な加工量(処理前厚み-目標厚み)に見合うプラズマ源の走査速度等の条件を設定することで、所望の程度の平坦化ができると考えられてきた。
【0008】
しかし、本発明者らの検討によれば、上記方法により得られる効果(平坦度)は、近年、例えば半導体ウエハ等に要求される品質水準と比較すると、必ずしも十分ではなく、改善の余地があった。
そこで、本発明は、優れた平坦度を有するワークが得られる、平坦化処理装置を提供することを課題とする。また、本発明は、平坦化処理方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決することができることを見出した。
【0010】
[1] プロセスガスをプラズマ励起して、ワークの表面に局所的に供給する局所プラズマ源と、上記ワークを載置する試料台と、上記局所プラズマ源、及び、上記試料台の相対位置を変化させる移動機構と、制御装置と、を備える平坦化処理装置であって、上記制御装置は、上記移動機構を制御し、励起された上記プロセスガスの上記ワーク上における供給位置を、上記ワークの処理対象範囲の一方向に走査移動させ、かつ、上記走査移動の軌跡が描く走査線が、上記走査線と略直交する方向に所定のピッチで移動するように、上記供給位置を送り移動させる、移動制御部と、上記処理対象範囲を、目標厚みとの差である加工量が互いに異なる複数の領域に分割する領域設定部と、上記加工量の平均値から、上記走査移動の基準速度を算出する、基準速度算出部と、上記処理対象範囲の上記領域ごとに、計算対象とする領域Aの加工量に対する、上記走査線と平行な方向であって上記領域Aを含む線上に並ぶ全領域の加工量の平均値の比AX、及び、上記領域Aの加工量に対する、上記走査線と略直交する方向であって上記領域Aを含む線上に並ぶ全領域の加工量の平均値に対する比AYを算出する、比率算出部と、上記比AX、及び、上記比AYを用いて、上記領域Aの上記基準速度を補正することで、上記処理対象範囲の上記領域ごとに補正速度を算出する、補正速度算出部と、上記処理対象範囲における上記領域ごとの上記補正速度の分布を算出する、速度分布算出部と、を有し、上記移動制御部は、上記分布に従って、上記供給位置を走査移動させる、平坦化処理装置。
[2] 隣り合う複数の上記領域を、所定の基準に沿って結合して、グループを設定する、領域結合部を更に有し、上記基準速度算出部は、上記グループごとに、上記基準速度を算出し、上記比率算出部は、上記グループごとに、上記グループに含まれる上記領域ごとの上記比AX、及び、上記比AYを算出し、上記補正速度算出部は、上記グループごとに、上記グループに含まれる上記領域ごとの上記補正速度を算出し、上記速度分布算出部は、上記グループごとの上記補正速度の分布を算出、結合して、結合後分布を算出し、上記移動制御部は、上記結合後分布に従って、上記相対位置を走査移動させる、[1]に記載の平坦化処理装置。
[3] 上記領域結合部は、上記処理対象範囲のすべての上記領域の加工量の最大値、最小値、及び、式:中間値=最小値+1/2(最大値+最小値)により定義される中間値を求め、上記最大値と上記最小値との差が小さく、かつ、上記平均値と上記中間値との差が小さくなるように、上記グループを設定する、[2]に記載の平坦化処理装置。
[4] 上記領域の長辺の長さは、上記ピッチ以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の平坦化処理装置。
[5] 上記移動機構は、上記相対位置を、少なくともX軸、及び、X軸と直交するY軸に沿って移動可能に構成される、[1]に記載の平坦化処理装置。
[6] プロセスガスをプラズマ励起して、ワークの表面に局所的に供給し、励起された上記プロセスガスの上記ワーク上における供給位置を、上記ワークの処理対象範囲の一方向に走査移動させ、かつ、上記走査移動の軌跡が描く走査線が、上記走査線と略直交する方向に所定のピッチで移動するように、上記供給位置を送り移動させて、上記ワークを平坦化する、ワークの平坦化処理方法であって、上記処理対象範囲を、目標厚みとの差である加工量が互いに異なる複数の領域に分割することと、上記加工量の平均値から、上記走査移動の基準速度を算出することと、上記処理対象範囲の上記領域ごとに、計算対象とする領域Aの加工量に対する、上記走査線と平行な方向であって上記領域Aを含む線上に並ぶ全領域の加工量の平均値に対する比AX、及び、上記領域Aの加工量に対する、上記走査線と略直交する方向であって上記領域Aを含む線上に並ぶ全領域の加工量の平均値に対する比AYと、を算出することと、上記比AX、及び、上記比AYを用いて、上記領域Aの上記基準速度を補正することで、上記処理対象範囲の上記領域ごとに補正速度を算出することと、上記処理対象範囲における上記領域ごとの上記補正速度の分布を算出することと、上記分布に従って、上記供給位置を走査移動させることと、を含む、平坦化処理方法。
[7] 隣り合う複数の上記領域を、所定の基準に沿って結合して、グループを設定することを更に含み、上記基準速度の算出、上記比AXの算出、上記比AYの算出、上記補正速度の算出、及び、上記分布の算出が、上記グループごとに行われ、上記供給位置の走査移動は、上記グループごとに算出された上記分布を結合して得られた結合後分布に従って行われる、[6]に記載の平坦化処理方法。
[8] 上記グループを設定することは、上記処理対象範囲のすべての上記領域の加工量の最大値、最小値、及び、式:中間値=最小値+1/2(最大値+最小値)により定義される中間値を求めることと、上記最大値と上記最小値との差が小さく、かつ、上記平均値と上記中間値との差が小さくなるように、上記隣り合う複数の上記領域を結合して、上記グループを設定することと、を含む、[7]に記載の平坦化処理方法。
[9] 上記領域の長辺の長さは、上記ピッチ以下である、[6]~[8]のいずれかに記載の平坦化処理方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた平坦度を有するワークが得られる、平坦化処理装置が提供できる。また、本発明によれば、平坦化処理方法も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る平坦化処理方法によってワークの平坦化処理を行う場合のプラズマ励起されたプロセスガスの供給位置の移動手順の説明図である。
図2】局所プラズマ源として吸引プラズマを用いた場合によるスポット加工痕と、加工条件との関係を表す図である。
図3】ワーク上で供給位置61を走査移動(ワークと局所プラズマ源との相対位置を変化)させた場合の、加工痕形状の説明図である。
図4】ワーク上で供給位置61を走査移動(ワークと局所プラズマ源との相対位置を変化)させた場合の、加工痕形状の説明図である。
図5図5(A)は、ワーク60の表面の処理対象範囲66を、加工量が互いに異なる複数の領域67に分割した状態を表す平面図である。図5(B)は、照射位置を走査移動、及び、送り移動させる際の供給位置の重なり合いの説明図である。
図6】補正速度の算出過程の説明図である。
図7】本発明の実施形態に係る平坦化処理方法のフロー図である。
図8】基準速度の算出に用いる、基本的なスキャンパターンにおける加工痕プロファイルを表す図である。
図9】補正速度の分布を色の濃淡で表した模式図である。
図10】供給位置が、領域よりも大きい場合における、供給位置の走査移動速度の決定方法の具体例を示す模式図である。
図11】走査速度の分布の算出方法を具体的に説明するための簡易モデルである。
図12】走査速度の分布の算出方法を具体的に説明するための簡易モデルである。
図13】走査速度の分布の算出方法を具体的に説明するための簡易モデルである。
図14】走査速度の分布の算出方法を具体的に説明するための簡易モデルである。
図15】補正速度の計算結果と、各領域の位置情報とを含む、補正速度の分布である。
図16図16(A)は、本発明の実施形態に係る平坦化装置のハードウェア構成図であり、図16(B)は、本発明の実施形態に係る平坦化装置の機能ブロック図である。
図17】本発明の実施形態に係る平坦化装置が有するプラズマ加工部の説明図である。
図18】本発明の第2の実施形態に係る平坦化処理方法のフロー図である。
図19】グループの設定方法の説明図である。
図20図11と同様のモデルであって、処理対象範囲におけるイニシャル厚みの分布にばらつきがある場合における、平坦化処理の効果の説明図である。
図21】。図21(A)は、ワーク60の処理対象範囲66における加工量(処理前の厚み-目標厚み)の分布を表す図である。また、図21(B)は、加工量のシミュレーション結果(上述の方法で補正速度を得た後、それを加工量に計算しなおしたもの)の分布を表す図である。
図22】本発明の第2の実施形態に係る平坦化装置の機能ブロック図である。
図23】実施例1の実験結果を表す図である。
図24】実施例2の実験結果を表す図である。
図25】比較例の実験結果を表す図である。
図26図26(A)は、ピッチを変化させた場合の有効加工深さの関係を表す図である。図26(B)は、基準速度を変化させた場合の有効加工深さの関係を表す図である。
図27】同一速度におけるスキャロップ(Ry)のデータを更にプロットした図である。
図28】加工量が一定となるようにした場合のピッチとRyとの関係を、ステージ走査速度によって調整した図である。
図29】供給位置の移動の軌跡と、速度連結方法の具体例を示す図である。
図30図30(A)は、図21と同様の加工前のワークについて、領域結合部によってグループ設定された状態を表す図である。図30(B)は、平坦化処理後のワークを表す図である。
図31】加工量のシミュレーション結果(上述の方法で補正速度を得た後、それを加工量に計算しなおしたもの)の分布を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化した一例であって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、及び、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。また、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なる場合があり、また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なることがある。
【0015】
[平坦化処理方法の第1実施形態]
本発明の平坦化処理方法の第1実施形態(以下、「本方法」又は、「方法(第1実施形態)」ということがある)は、プロセスガスをプラズマ励起して、ワークの表面に局所的に供給し、励起された上記プロセスガスの上記ワーク上における供給位置を、上記ワークの処理対象範囲の一方向に走査移動させ、かつ、上記走査移動の軌跡が描く走査線が、上記走査線と略直交する方向に所定のピッチで移動するように、上記供給位置を送り移動させて、上記ワークを平坦化する、ワークの平坦化処理方法であって、上記処理対象範囲を、目標厚みとの差である加工量が互いに異なる複数の領域に分割することと、上記加工量の平均値から、上記走査移動の基準速度を算出することと、上記処理対象範囲の上記領域ごとに、計算対象とする領域Aの加工量に対する、上記走査線と平行な方向であって上記領域Aを含む線上に並ぶ全領域の加工量の平均値に対する比AX、及び、上記領域Aの加工量に対する、上記走査線と略直交する方向であって上記領域Aを含む線上に並ぶ全領域の加工量の平均値に対する比AYと、を算出することと、上記比AX、及び、上記比AYを用いて、上記領域Aの上記基準速度を補正することで、上記処理対象範囲の上記領域ごとに補正速度を算出することと、上記処理対象範囲における上記領域ごとの上記補正速度の分布を算出することと、上記分布に従って、上記供給位置を走査移動させることと、を含む。
【0016】
上記平坦化処理方法によって、所期の効果が得られる機序は必ずしも明らかではないが、本発明者らは、以下のとおり推測している。
【0017】
図1は、本方法によってワーク60の平坦化処理を行う場合のプラズマ励起されたプロセスガスの供給位置の移動手順の説明図である。
図1(A)は、ワーク60の平面図であり、プラズマ励起したプロセスガスが供給される供給位置61を、Y方向に走査移動させ、次いで、X方向に所定のピッチで送り移動させ、これを繰り返しながら、ワーク60の表面の処理対象範囲が平坦化される。
なお、図1(A)では、走査移動の軌跡が描く走査線62と、送り移動の移動方向63とが直交しているが、本方法における供給位置の移動手順は上記に制限されず、走査線の間隔である送りピッチ(以下、単に「ピッチ」ともいう。)が一定となるよう、移動させればよく、図1(B)のように、送り移動の移動方向65が、走査線64と直交していなくてもよい。なお、図1(B)の場合であっても、走査線64の間隔(ピッチ)は一定である。
【0018】
図2は、局所プラズマ源として吸引プラズマを用いた場合によるスポット加工痕と、加工条件との関係を表す図である。このうち、図2(A)は、絶縁性細管(キャピラリ)径と、加工痕形状との関係を表す図である。また、図2(B)は、局所プラズマ源に印加する高周波(RF:Radio Frequency)パワーと、加工レートとの関係(シリコン基板、キャピラリ4mmφ、プロセスガス:CF)を表す図である。また、図2(C)は、加工時間と加工位置の中心部(尖頭部)の深さ(加工深さ)との関係(シリコン基板、プロセスガス:CF、RF50W)を表す図である。
【0019】
図2からは、局所プラズマ源を用いたワークの加工においては、加工深さと加工時間とに相関があることがわかる。上記関係からは、ワークの表面の凹凸(うねり)に応じて、局所的な加工時間を制御することで、それぞれの箇所で目標厚みまで加工できるようにも思われる。
【0020】
図3~4は、ワーク60上で供給位置61を走査移動(ワーク60と局所プラズマ源との相対位置を変化)させた場合の、加工痕形状の説明図である。
図3(A)は、ワーク60、供給位置61、及び、その走査移動によって形成される加工痕70の位置関係を表す平面図であり、図3(B)は、加工痕70のX軸断面図であり、図4(A)は、加工痕70のY軸断面図である。
【0021】
また、図4(B)は、加工位置の中心部(尖頭部)の深さ(加工深さ)と、ステージ走査速度との関係(キャピラリ径4mmφ)を表す図である。図4(B)によれば、加工深さとステージ走査速度の逆数とには相関関係があり、ステージ走査速度(すなわち供給位置の走査移動の速度)を制御することで、加工の度合いを任意に制御できることがわかる。
なお、上記「相関関係」は、吸引プラズマの場合、略線形の関係にあるものの、相関関係としては線形である必要はなく、線形でなくても加工量の制御が可能である。
【0022】
なお、有効加工深さは、ステージ走査速度以外にもピッチ、及び、基準速度によっても変化し得る。図26(A)は、ピッチを変化させた場合の有効加工深さの関係を表す図である。横軸はピッチ(mm)を表しており、縦軸は有効加工深さ(μm)を表している。キャピラリ径は4mmφ、ステージ走査速度は1mm/sとしたものである。
また、図26(B)は、基準速度を変化させた場合の有効加工深さの関係を表す図である。横軸は基準速度(mm/s)、縦軸は有効加工深さ(μm)を表している。キャピラリ径は4mmφ、ピッチは1mm/sとしたものである。
上記から、ある領域では、ピッチ、及び、基準速度と有効加工深さとの関係は概ね線形であることがわかる。
【0023】
また、図27は、ステージ走査速度と有効加工深さとの関係にスキャロップ(Ry)のデータを更にプロットした図である。縦の第2軸は、スキャロップ(μm)を表している。図27からは、基準速度が大きくなると、スキャロップが小さくなることがわかる。有効加工深さとの関係では、有効加工深さが大きいほど(基準速度が小さいほど)、スキャロップは大きいことがわかる。
【0024】
図26、及び、図27からは、ピッチが小さいほど、おおむねRyが改善する傾向がある(ピッチを0に漸近させると、Ryも0に漸近する)ものの、一方で、ピッチが0に近づくと有効加工深さは大きくなるため、所望の加工量を得るにはステージ走査速度(移動速度)を速くする必要があることがわかる。
図28は、加工量が一定となるようにした場合のピッチとRyとの関係を、ステージ走査速度によって調整した図である。なお、ステージ走査速度は、機構系の制約、及び、プラズマの状態がより均一に保たれる点で、所定の値以下であることが好ましく、一形態としては、10mm/s以下が好ましい。
【0025】
なお、図4(B)では、ワーク60がXY2軸の移動ステージ上に載置されている場合を例にし、ステージ走査速度との関係を示したが、供給位置の移動は、局所プラズマ源とワークとの相対位置の移動によって実現されるため、局所プラズマ源を移動させる場合も同様である。
【0026】
上記のとおり、原則的には、励起されたプロセスガスのワーク上における供給位置(プラズマの供給位置)の走査移動の速度と、得られる加工痕の深さとには、上述のような関係がある。従って、走査移動の速度を適切に設定すれば、所望の平坦度を有する平坦化処理済みワークが得られると考えられた。
そこで、本発明者らは、まず、ワークの面内の処理対象範囲(加工対象範囲)を、目標厚みとの差である加工量(加工量=処理前の厚み-目標厚み)が互いに異なる複数の領域に分割し、それぞれの領域ごとに適切な走査移動速度を計算し、これにより平坦化処理することを想起した。
【0027】
図5(A)は、ワーク60の表面の処理対象範囲66を、加工量が互いに異なる複数の領域67に分割した状態を表す平面図である。すでに説明した加工深さと、供給位置の走査速度との関係によれば、上記領域67の加工量に応じて、供給位置の走査移動の速度を設定すれば、所望の平坦度が得られると考えられた。しかし、上記の方法だけでは、一定程度の平坦化効果は得られたものの、所期の平坦度を得ることはできなかった。
【0028】
本発明者らは上記の理由について、鋭意検討した。そして、計算と実証との繰り返しによって、原因の一つを突き止めるに至った。それは、まず、第1に、図2(A)に示されたとおり、供給位置におけるスポット加工痕の形状は、すり鉢状となっており、中心部から半径(XY方向)に遠ざかるに従い、加工深さが浅くなる(説明のため、そのような部分を「裾」という)ことである。
そして第2に、ワーク60の表面において供給位置を走査する際、「裾」の重なり合い等が発生すること、及び、これが走査移動の速度、及び、ピッチ等の影響を受けることである。
【0029】
図5(B)は、照射位置を走査移動、及び、送り移動させる際の供給位置の重なり合いの説明図である。図5(B)に示すとおり加工痕70は、供給位置の重なり合いを含んで形成され、その重なり合いは、X軸方向だけでなく、Y軸方向にも発生し得る。
【0030】
上記の発見を受けて、本発明者らは更に検討した結果、処理対象範囲における加工量の平均値から、走査移動の基準速度を算出し、処理対象範囲における領域ごとに、計算対象とする領域Aの加工量に対する、走査移動の軌跡(走査線)と平行な方向であって領域Aを含む線上に並ぶ全領域の加工量の平均値との比AX(X方向の平均加工量/領域Aの加工量)、及び、領域Aの加工量に対する、走査線と略直交する方向であって領域Aを含む線上に並ぶ全領域の加工量の平均値との比AY(Y方向の平均加工量/領域Aの加工量)を算出し、比AX、及び、比AYを用いて、領域Aにおける基準速度を補正し、処理対象範囲の領域ごとに補正速度を算出し、処理対象範囲における補正速度の分布を算出し、上記分布に従って、供給位置を走査移動させることによれば、所望の平坦度が得られることを知見し、本発明を完成させた。
【0031】
上記方法の特徴点の1つは、基準速度を補正し、各領域における補正速度を算出する点にある。図6は、この補正速度の算出過程の説明図である。
図6(A)は、ワーク60上において、供給位置61を走査する手順を示す図であり、供給位置61は、X軸方向に走査移動し、走査線62と直交する方向(送り移動方向63、Y軸方向)に送り移動される。
図6(B)は、図6(A)の場合の、領域Aにおける補正速度の算出過程の説明図である。
【0032】
図6(B)に示されたように、ワーク60の表面の処理対象範囲66は、所定の大きさの領域67に区画され、各領域67では、加工量(=処理前の厚み-目標厚み)が異なっている。
【0033】
ある領域73(領域A)について、補正速度を求めるために、まず、走査線62と平行な方向であって、領域73を含む線72上に並ぶ、すべての領域67の加工量の平均値との比AXが算出される。ここで、比AXは、(線72上の全領域の加工量の平均値)/(領域Aの加工量)によって定義される。
更に、走査線62と略直交する方向であって、領域73を含む線71上に並ぶ、すべての領域67の加工量の平均値との比AYが算出される。ここで、比AYは、(線71上の全領域の加工量の平均値)/(領域Aの加工量)によって定義される。
【0034】
領域73における基準速度は、上記比AX、及び、比AYを使って補正される。典型的には、基準速度に上記比AX、及び、比AYが乗算される(補正速度=基準速度×比AX×比AY)。本方法では、上記のように補正速度を算出することで、図5(B)で示されるような、走査方向、及び、送り方向における裾の重なり合いの影響が考慮され、結果として優れた平坦度を有する平坦化処理済みのワークが得られる。
【0035】
以下では、本方法について工程ごとに詳述する。図7は、本方法のフロー図である。
まず、本方法は、ステップS1として、ワークの処理対象範囲を、加工量が互いに異なる複数の領域に分割する。なお、すでに説明したとおり、加工量とは、処理前のワークの厚みと、処理後の目標の厚みとの差により定義される値である。
【0036】
処理前のワークの厚みは、公知の方法により測定される。公知の方法としては、例えば、ワークがシリコンや窒化ケイ素等の不透明体であれば、真空チャックや静電チャック(ESC)等でワークを固定した状態で、光干渉計や接触式表面段差計等により、基準面からの高さ分布を測定(Total Thickness Variation)し、厚みに換算する方法、ワークが水晶やニオブ酸リチウム等の透明体であれば、光干渉計や分光エリプソメトリーを用いる方法等があり、ワークの材質、及び、厚み等に応じて、適宜選択されればよい。
【0037】
領域の形状は、処理対象範囲を均等に分割できれば特に制限されないが、矩形であることが好ましく、正多角形であることが好ましく、正方形であることが好ましい。また、その大きさは特に制限されないが、例えば、矩形である場合、長辺がピッチ以下(走査線の間隔以下)であることが好ましく、ピッチ未満であることが好ましい。
領域の大きさの下限は特に制限されず、厚みの測定方法等に応じて(異なる厚みの領域を区分けできる範囲に)適宜設定されればよい。
また、後述するキャピラリ(内)径との関係では、一形態として、キャピラリ径の1/10以下とすることが好ましい。領域の大きさが上記範囲内であると、より優れた効果が得られやすい。
【0038】
なお、「加工量が互いに異なる」とは、加工範囲内を区画する領域のうち、少なくとも1組以上、加工量が異なる領域が存在していることを意味し、全領域を比較したとき、加工量が同一の領域が2つ以上あってもよいし、加工量が同一の領域が隣り合っていてもよい。
【0039】
次に、ステップS2として、処理対象範囲における、各領域の加工量の平均値から、走査移動の基準速度を算出する。
基準速度は、平坦化処理に用いる基本的なスキャンパターンから算出される。すでに説明したとおり、加工深さは、ワークの材質、供給位置の走査移動速度、ピッチ、キャピラリ径、及び、RFパワー等との間に相関を有している。従って、これら(基本的条件)を決めると、加工深さは、計算、及び/又は、実測により求めることができる。なお、基本的スキャンパターンとしては特に制限されないが、一形態としては、すでに説明した図6(A)等の走査パターンを基本的なスキャンパターンとすればよい。
【0040】
図8は、基準速度の算出に用いる、基本的なスキャンパターンにおける加工痕プロファイルを表す図である。図8は、ワークのY軸断面図を表しており、基本的条件としてスキャンが1mm/s、ピッチを1.2mm~0.8mmとした場合の加工形状(加工深さ)である。図中、実線は、実測データであり、破線は計算結果である。図8に示されるとおり、実測データと計算結果とはよく一致している。
【0041】
なお、加工された底面部には、ピッチに応じた、周期的な凹凸部が発生する。この凹凸における最大値と最小値との差をスキャロップ(Ry)といい、この平均値を「有効加工深さ」とし、これを上述の加工量の平均(平均加工量)と比較し、基準速度を算出すればよい。
【0042】
例えば、走査移動の速度が1mm/sで、ピッチが0.8mmの場合、有効加工深さは、図8の条件では、約1.5μmとなる。このとき、平均加工量が0.5μm(500nm)である場合、基準速度は、おおよそ1(mm/s)/(500/1500)=3(mm/s)と求めることができる。なお、上記は説明のための条件・数値であり、本実施形態における各条件を限定するものではない。
【0043】
図7に戻り、次に、ステップS3として、領域(個々の領域を「領域A」とする)ごとに、比AXと比AYとを算出する。比AXは、すでに説明したとおり、領域Aの加工量に対する、領域Aを含むX方向に並ぶ全領域の加工量の平均値の比(X方向の平均加工量/領域Aの加工量)である。同様に、比AYについても求める。この比AX、及び、比AYは、処理対象範囲の全領域について算出される。
【0044】
次に、ステップS4として、比AX、及び、比AYを用いて、基準速度を補正し、領域Aにおける補正速度を算出する。補正速度の算出方法としては、一形態として、基準速度と、比AXと、比AYの積をとることが好ましい。すなわち、以下の式;
式:領域Aにおける補正速度=基準速度×比AX×比AY
によって、補正速度を計算することが好ましい。上記によって、供給位置のXY方向の重なり合いの影響が考慮された補正速度が算出される。この補正速度も、処理対象範囲の全領域について算出される。
【0045】
次にステップS5として、領域ごとの補正速度の分布が算出される。補正速度の分布は、これより以前の各工程によって求められた領域ごとの補正速度と、その補正速度が算出された領域の、処理対象範囲における位置の情報(座標情報)とを少なくとも含む。
図9は、補正速度の分布を色の濃淡で表した模式図である。処理対象範囲66内の領域67について補正速度がそれぞれ計算され、その領域の位置と、補正速度の値とを含む分布が得られる。図9においては、補正速度が大きいほうが白く、補正速度が小さいほど黒く表されている。なお、補正速度の分布の詳細は後述する(図15参照)。
【0046】
次に、ステップS6において、上記分布に従って供給位置が走査移動される。分布に従って走査移動させるとは、一形態として、領域67ごとの補正速度に応じて、供給位置の走査移動の速度を変化させる形態が挙げられる。
【0047】
なお、領域67の大きさ(領域67の長辺の長さ)は、供給位置の大きさ(直径)以下であることが好ましく、供給位置の大きさ未満であることが好ましい。なお、供給位置の大きさは、特に、吸引型の局所プラズマ源においては、キャピラリ径とほぼ同様である。この点では、領域67は、キャピラリ径以下であることが好ましく、キャピラリ径未満であることがより好ましく、キャピラリ径の1/10以下であることが更に好ましい。
【0048】
図10は、供給位置61が、領域67よりも大きい場合における、供給位置の走査移動速度の決定方法の具体例を示す模式図である。
図10(A)は、ワーク60に配置された領域67の一部を表す平面図であり、供給位置61は、図中の矢印方向に走査移動する。この際の走査移動の速度は、補正速度の分布に従って決定される。
図10(A)の形態では、走査移動の速度は、一形態として、供給位置61の範囲がおよぶ各領域67の補正速度から算出されてもよい。算出の方法は特に制限されないが、例えば、各領域67における補正速度の算術平均であってもよい。また、供給位置61の中心からの距離に応じて各領域67の補正速度に重みをつけ、走査移動の速度を算出してもよい。
なお、一形態として、ピッチ量によって、Y方向の領域67については、まとめて平均してもよい。また、X方向については、領域67の分割数で設定してもよいが、隣り合う領域67間で速度が変更できない等の機構上の制約がある場合等については、所定の量の領域67をまとめて平均してもよい。
【0049】
図10(B)は、図10(A)と同様に、ワーク60に配置された領域67の一部を表す平面図である。図10(B)は、供給位置61の走査移動の制御が、所定の移動量を単位として行われるケースである。この場合、移動速度は、移動量の1単位分離間した、供給位置61a、及び、供給位置61bにおいて算出される。
なお、供給位置61a及び61b間の移動速度は、各位置における移動速度を補間する形態であってもよい。補間の方法は特に制限されず、供給位置61aにおける移動速度から、供給位置61bにおける移動速度へと線形的に変化させる形態であってもよい。
なお、上記の走査移動方向の単位移動量は、ピッチと同一であってもよいし、異なってもよい。
【0050】
走査移動の速度の算出方法(速度連結方法)の具体例について説明する。
図29は、供給位置61の移動の軌跡と、速度連結方法の具体例を示す図である。図29中、領域67は一辺が0.2mmの正方形であり、ピッチは0.6mmであり、キャピラリ径はφ1mmである。
【0051】
図29の場合、ピッチ0.6mm-領域のY方向の幅0.2mm=0.4mm分のY方向の領域67分の補正速度を用いて、走査移動の速度を補間しなければならない。
この場合、一形態として、隣り合う2つの領域67間の速度VからVへの変化による加速度αは、領域67の一辺をLとすると、α=(V -V )/2L(m/s)で算出することができる。
【0052】
次に、本発明における走査速度の分布の算出方法を具体的に説明する。
図11~14は、走査速度の分布の算出方法を具体的に説明するための簡易モデルである。図11~14の簡易モデルは、上記同様、供給位置をワークのX軸方向に走査移動し、所定のピッチでY方向に送り移動させることを繰り返して、処理対象範囲66を平坦化する場合の模式図である。なお、以下の簡易モデルにおける、各寸法、及び、厚み等は説明のためものであり、本方法を限定するものではない。
【0053】
まず図11において、処理対象範囲66は、10mm×10mmであり、1mm×1mmの格子状の領域67に区分されている。このモデルでは、この100個の領域からなる処理対象範囲を、4mmφの内径のキャピラリを有する局所プラズマ源(供給位置も約4mmφとする)で、0.8mmピッチで平坦化処理する。
【0054】
図11中、各領域67内に記載されているのは、各領域67の処理前の(イニシャル)厚み(単位:μm)である。
次に、各領域67について、目標加工厚み248μmとの差分(イニシャル厚み-目標厚み)である、加工量が算出される。
なお、各領域は、加工量が互いに異なることをすでに説明したが、平坦化処理においては、各領域の加工量が異なることは、各領域のイニシャル厚みが異なることと同義であり、上述のように、領域67の設定は、各領域のイニシャル厚みを測定することによっても実施することができる。
【0055】
図12は、各領域67の加工量の分布を表す図である。各領域67の加工量の単位は、μmである。
次に、全領域の加工量の平均(0.657μm)、及び、基準速度の算出に用いる、基本的なスキャンパターンにおける加工痕プロファイル(使用するワークについての図8の予測)から、基準速度を算出する。
この場合、基本的なスキャンパターンは、走査速度1mm/sで、ピッチ0.8mm、キャピラリ内径4mmφの場合の有効加工深さの計算結果である、1.5μmを用いる。
【0056】
すると、基準速度は、以下の式;
式:基準速度(mm/s)=1(mm/s)/(0.657/1.5)
から、約2.284(mm/s)と算出される。
【0057】
次に、各領域67について、比AXを求める。比AXは、領域Aの加工量に対する、領域Aを含むX方向に並ぶ全領域の加工量の平均値の比(X方向の加工量の平均値/領域Aの加工量)である。
図13は、各領域67についての、比AXの計算結果である。領域67の上に記載されている数が、比AXであり、下の(括弧)内に記載されているのは、各領域67の加工量である。
【0058】
例えば、左上端の領域67について計算する。まず、最上段の横並びの領域67の加工量の平均を計算すると、0.638(0.6375)となる。この値は、右端に記載されている。左上端の領域67の加工量は(0.657)なので、0.638/0.657(0.6375/0.657)=0.9703と計算される。なお、図中の各数値は、四捨五入して表示された値としている。一方で、計算には四捨五入前の値を用いているために、図中の各数値をそのまま用いて計算した値とはずれがある。上記と同様の手順で、全領域について、比AXを計算する。
【0059】
次に、各領域67について、比AYを求める。比AYは、領域Aの加工量に対する、領域Aを含むY方向に並ぶ全領域の加工量の平均値の比(Y方向の平均加工量/領域Aの加工量)である。
図14は、各領域67についての、比AYの計算結果である。領域67の上に記載されている数が、比AYであり、下の(括弧)内に記載されているのは、各領域67の加工量である。
【0060】
例えば、左上端の領域67について計算する。まず、最上段の縦並びの領域67の加工量の平均を計算すると、0.676(0.6759)となる。この値は、下端に記載されている。左上端の領域67の加工量は(0.657)なので、0.676/0.657(0.6759/0.657)=1.0288と計算される。
上記と同様の手順で、全領域について、比AYを計算する。
【0061】
次に、各領域の補正速度を計算する。図15は、補正速度の計算結果と、各領域の位置情報とを含む、補正速度の分布である。補正速度は、基準速度×比AX×比AYにより計算される。例えば、左上端の領域67については、基準速度(2.284)×比AX(0.9703)×比AY(1.0288)によって、2.280と計算される。上記と同様の手順で、全領域について補正速度を計算し、各領域の位置と対応させたものが、補正速度の分布である。
【0062】
次に、得られた補正速度の分布に従って、走査移動の速度が設定される。設定の方法は、ステップS6においてすでに説明したとおりである。
なお、上記は簡易モデルであり、実際の平坦化処理では、エッジ部分のテーパを処理対象範囲の外にするように、処理対象範囲を超えて供給位置を移動させ(オーバーラン)させてもよい。
【0063】
上記方法によれば、ワークの表面において供給位置を走査する際の「裾」の、X方向、及び、Y方向の重なり合いが考慮された補正速度によって、供給位置が走査移動するため、優れた平坦度を有するワークが得られる。
【0064】
[平坦化処理装置の第1実施形態]
次に、方法(第1実施形態)を実施可能な平坦化処理装置の第1実施形態(以下「本装置」、又は、「装置(第1実施形態)」ということがある)について説明する。
【0065】
図16(A)は、本装置のハードウェア構成図であり、図16(B)は、本装置の機能ブロック図である。また、図17は、本装置が有するプラズマ加工部100の説明図である。
【0066】
まず、平坦化処理装置200のハードウェア構成について説明する。
平坦化処理装置200は、(局所)プラズマ源10と、試料台8と、移動機構9とを有するプラズマ加工部100と、制御装置20とを有している。制御装置20は、プロセッサ21と、メモリ22と、プラズマ加工部100を接続するための加工部インタフェース(I/F)23と、通信インタフェース25と、入力デバイス26、及び、出力デバイス27が接続される入出力インタフェース24と、を有し、制御装置20内の各部は、互いにデータを送受信できるよう構成され、典型的にはコンピュータであることが好ましい。
【0067】
プラズマ加工部100は、キャピラリ1と、キャピラリ1の外周を囲むように配置されたRF電極2と、RF電極2に電力を供給するRF電源3と、容器5内を減圧する真空排気装置4と、を有するプラズマ源10を有している。
更に、プラズマ加工部100は、ワーク60を収容する容器5と、容器5にプロセスガスを供給するガス供給装置6とを有している。ワーク60は、試料台8に載置され、試料台8は、XYZ軸方向に移動可能に構成された移動機構9に固定されている。
【0068】
キャピラリ1(プラズマ発生管)は、ワーク60と対向する一端が、ワーク60と間隔(加工ギャップ)を離して配置されている。したがって、ワーク60は、キャピラリ1の方向に向けて少なくとも垂直に移動可能となっている。
【0069】
ガス供給装置6は、CF、及び、O等の反応性原料であるプロセスガスの必要量を容器5内に供給する。ガス供給装置6より供給されたプロセスガスはキャピラリ1の後端に配置された真空排気装置4によって排気される。キャピラリ1の内部にプロセスガスが導入された状態でRF電源3よりRF電極2に電力を供給することで、ワーク60のプラズマ処理による加工が可能となる。
【0070】
つまり、キャピラリ1のワーク60と対向した一端は、加工ギャップまでワーク60と接近される。そして、供給されたRF電力によってキャピラリ1内でプラズマが発生すると、プラズマの先端部は、近接して置かれたワーク60の表面に移動して、エッチング等の局所加工が行われる。
【0071】
キャピラリ1の材質は、誘電体バリア放電が可能な材料であれば特に制限されないが、一形態として、石英ガラス、及び、アルミナセラミックス等の無機物の絶縁体;PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の樹脂;等が好ましい。
RF電極2は、優れた導電率を有する銅、及び、リン青銅等;優れた耐腐食性を有するステンレス等;が好ましい。RF電極2の形状は、キャピラリ1の外周を囲む円筒形状、及び、コイル形状等が好ましい。
【0072】
なお、プラズマ加工部100は、いわゆる「吸引型」であるが、ガス供給装置6と、真空排気装置4の配置を入れ替え、プロセスガスの流れを逆にすることで、「噴出型」とすることもできる。本装置には、「吸引型」「噴出型」のいずれのプラズマ加工部も適用可能である。
【0073】
このプラズマ加工部100は、加工部インタフェース23を介して、制御装置20に接続されており、各種の加工条件を制御装置20で制御可能に構成されている。
【0074】
次に、制御装置20の構成ついて説明する。
まず、プロセッサ21は、CPU(Central Processing Unit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、及び、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等を含んで構成され、後述するメモリ22に記憶されたプログラムを読みだして実行し、及び/又は、電気回路等により予め設計された処理を実行する。
【0075】
メモリ22は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ、及び、SSD(Solid State Drive)等を含んで構成され、平坦化処理装置200の各部を制御するためのプログラム等を一時的、又は、非一時的に記憶する。
【0076】
入出力インタフェース24には、入力デバイス26と出力デバイス27とが接続される。入力デバイス26は、ユーザによる各種設定の入力を受け付けるデバイスである。入力デバイス26は、例えば、キーボード、マウス、タッチパッド等であってよい。出力デバイス27は、例えばディスプレイであり、タッチ機能を有するディスプレイを、入力デバイス26と出力デバイス27とを兼ねて使用してよい。
なお、平坦化処理装置200は、入出力インタフェース24を有していなくてもよい。その場合、通信インタフェース25を介して、外部ネットワーク28に接続されたホストコンピュータ等から、各種設定を受信し、また、ホストコンピュータへと装置状況等を送信してもよい。
【0077】
通信インタフェース25は、外部ネットワーク28と接続され、入力データの取得、及び、装置状況等の送信等を実現する、有線方式、又は、無線方式のインタフェースであり、例えば、NIC(Network Interface Card)、無線通信モジュール、USBモジュール等である。
なお、平坦化処理装置200は、通信インタフェース25を有しているが、本発明の実施形態に係る平坦化処理装置は、通信インタフェース25を有していなくてもよい。
【0078】
次に、平坦化処理装置200の各部の機能について説明する。
制御部31は、プロセッサ21を含んで構成され、後述する記憶部32に記憶されたプログラムをプロセッサ21が読み出して実行すること等によって、平坦化処理装置200の各部を制御し、その機能を実現させる。
また、制御部31は、プラズマ源10を制御して、所定の加工条件(RFパワー等)でプラズマ加工部100を稼働させる機能も有する。
【0079】
記憶部32は、メモリ22を含んで構成され、制御プログラム、及び、入出力部39等を介して取得された設定等を記憶し、読み出させる機能を有する。
【0080】
入出力部39は、入力デバイス26、及び、出力デバイス27が接続された入出力インタフェース24を含んで構成されるか、及び/又は、通信インタフェース25を含んで構成され、外部40(ユーザ、又は、通信ネットワークを介して接続されたホストコンピュータ)からの入力データを受け付け、記憶部32に記憶させる機能を有する。
入力データとしては、特に制限されないが、処理前のワークの厚みの分布に関する情報を含むことが好ましい。
【0081】
なお、本発明の実施形態に係る平坦化処理装置は、処理前、及び/又は、処理後のワークの厚みを測定する機能を有するハードウェアを更に有していてもよく、その場合、入力データには、処理前のワークの厚みの分布に関する情報は含まれていなくてもよい。
【0082】
領域設定部33は、メモリ22に記憶されたプログラムを、プロセッサ21が読み出して実行すること等によって実現され、ワークの処理対象範囲を、目標厚みとの差である加工量が互いに異なる複数の領域に分割する機能を有する。具体的には、入力データに含まれるワークの厚み分布、及び、予め記憶部32に記憶された目標厚みデータから、領域ごとの加工量(処理前のワークの厚み-目標厚み)を算出する。
【0083】
基準速度算出部34は、メモリ22に記憶されたプログラムを、プロセッサ21が読み出して実行すること等によって実現され、処理対象範囲における加工量の平均値から、走査移動の基準速度を算出する機能を有する。走査移動の基準速度は、すでに説明したとおり、基本的なスキャンパターンを用いて算出される。
基本的なスキャンパターンの決定に必要な基本的条件(例えば、ピッチ、キャピラリ内径、及び、走査移動の速度等)は、予め記憶部32に記憶されるか、又は、入出力部39を介して取得されてよい。記憶部32には、上記基本的条件と、基本的なスキャンパターン(典型的には、有効加工深さ)との対応関係がデータベース化されて記憶されていてもよく、その場合、基準速度算出部34は、入力された基本的条件を基に、基本的なスキャンパターンを記憶部32のデータベースから取得し、それを基に、走査移動の基準速度を算出できる。
【0084】
比率算出部35は、メモリ22に記憶されたプログラムを、プロセッサ21が読み出して実行すること等によって実現され、領域ごとの比AX、及び、比AYを算出する機能を有する。比率算出部35は、基準速度算出部34により算出された基準速度、及び、領域設定部33によって計算された領域ごとの加工量から、比AX、及び、比AYを算出する。
【0085】
補正速度算出部36は、メモリ22に記憶されたプログラムを、プロセッサ21が読み出して実行すること等によって実現され、比率算出部35によって算出された各領域の比AX、及び、比AYを用いて、基準速度を補正し、領域ごとの補正速度を算出する機能を有する。
補正速度算出部36は、基準速度算出部34によって算出された基準速度に、比率算出部35によって算出された領域ごとの比AX、及び、比AYを乗じて、領域ごとの補正速度を算出する。
【0086】
速度分布算出部37は、メモリ22に記憶されたプログラムを、プロセッサ21が読み出して実行すること等によって実現され、ワークの処理対象範囲における領域ごとの補正速度の分布を算出する機能を有する。速度分布算出部37は、補正速度算出部36によって算出された補正速度を、領域設定部33によって設定された領域の位置(座標情報)とともに整理し、走査移動の速度の分布として算出する。
【0087】
移動制御部38は、移動機構9を含んで構成され、メモリ22に記憶されたプログラムを、プロセッサ21が読み出して実行すること等によって実現され、算出された補正速度の分布に従って、供給位置を走査移動させる機能を有する。
移動制御部38は、速度分布算出部37によって算出された走査移動の速度の分布に従って移動機構9を制御し、供給位置を走査移動させる。更に、所定のピッチで供給位置を送り移動させ、ワークを平坦化処理する。
【0088】
次に、平坦化処理装置200の動作について説明する。平坦化処理装置200の動作の全体を説明する前に、まず、プラズマ加工部100の動作(プラズマ加工)について説明する。
【0089】
まず、プラズマ加工部100(図17参照)の試料台8にワーク60が載置される。平坦化処理装置200による平坦化処理に供するワーク60(被加工材)の材質は特に制限されず、プロセスガスの種類等との組み合わせによって、加工可能なものを適宜使用可能である。
ワーク60としては、例えば、シリコンウエハ、酸化膜付シリコンウエハ、シリコンカーバイド(炭化ケイ素)ウエハ、水晶ウエハ、リチウムナイオベート(ニオブ酸リチウム)ウエハ、リチウムタンタレート(タンタル酸リチウムウエハ)等が挙げられる。また、上記以外にも、Si等を基材として、表面にニオブ酸リチウム等をボンディングしたものも使用できる。
【0090】
ワーク60の大きさとしては特に制限されず、移動機構9の移動量、及び、容器5の大きさ等に応じて適宜変更できる。一形態としては、例えば、直径150mmの円盤状であってもよい。
【0091】
加工できる深さとしては、加工時間との関係で適宜調整可能であって特に制限されないが、一形態として、加工前の厚みのばらつきが100μm未満であることが好ましい。なお、ワーク60は、平坦化処理装置200による加工の前に他の方法、例えば、CMP(Chemical Mechanical Polishing)等によって粗平坦化されたものであってもよい。
【0092】
次に、真空排気装置4を動作させて、容器5内を減圧したあと、ガス供給装置6から、CF、及び、O等の反応性の原料ガス(プロセスガス)の必要量を容器5に導入する。
次に、キャピラリ1の先端部をワークの表面に加工ギャップ(一形態として0.1~0.5mm程度)分離間して接近させ、真空排気装置4を稼働させる。同時に、RF電極2に電力を印加すると、キャピラリ1内でプラズマが発生し、キャピラリ1の開放端に接近して載置されたワーク60の表面に供給される。
【0093】
上記によって、プラズマ化したプロセスガスとワーク60との反応が起こり、揮発性化合物が生成して蒸発除去され、ワーク60のエッチングが行われる。
このとき、移動機構9を動作させて、プラズマの供給位置とワーク60との相対位置とを走査移動させることで、ワーク60の全体を所定量エッチングして、平坦化処理を行うことができる。
【0094】
次に、平坦化処理装置200の全体の動作について説明する。平坦化処理装置200は、すでに説明した図7のフローに記載された平坦化処理方法(方法(第1実施形態))を実施することができる。
以下の説明では、図7のフローに沿って、平坦化処理装置200が動作する際の各部の働きについて説明するが、各工程の詳細については、すでに説明したものは、重複する説明を避けて省略する。
【0095】
まず、ワーク60が試料台8に載置され、入出力部39を介して、基本的条件、及び、ワーク60の厚みの分布に関する情報が入力され、記憶部32に記憶される。なお、平坦化処理装置200がワークの厚み測定装置を有している場合には、ワーク60の処理前の厚みが測定され、その処理対象範囲における分布が記憶部32に記憶される。
【0096】
次に、領域設定部33が、記憶部32に記憶されたワーク60の厚みの分布、及び、目標加工厚みから、ワーク60の処理対象範囲を、加工量が互いに異なる複数の領域に分割する(ステップS1)。
【0097】
次に、基準速度算出部34が、処理対象範囲における、領域ごとの加工量の平均値から、走査移動の基準速度を算出する(ステップS2)。算出された基準速度は、記憶部32に記憶される。
次に、比率算出部35が、領域ごとの比AXと比AYとを算出し、更に、補正速度算出部36が、比AX、及び、比AYを用いて、基準速度を補正し、領域ごとの補正速度を算出する(ステップS3~S4)。
【0098】
次に、速度分布算出部37が、補正速度の分布(補正速度を各領域の位置により整理したもの)を算出する(ステップS5)。次に、移動制御部38が、分布に従って移動機構9を制御し、供給位置を走査移動させる(ステップS6)。
更に、移動制御部38は、所定のピッチで(基本的条件に基づき)、供給位置を送り移動させる。この走査移動と送り移動とを繰り返すことで、ワークの表面を平坦化処理する。
【0099】
上記装置によれば、上記方法によれば、ワークの表面において供給位置を走査する際の「裾」の、X方向、及び、Y方向の重なり合いが考慮された補正速度によって、供給位置が走査移動するため、優れた平坦度を有するワークが得られる。
【0100】
[平坦化処理方法の第2実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る平坦化処理方法(以下、「本方法」、又は、「方法(第2実施形態)」ともいう)は、方法(第1実施形態)の各工程に加えて、隣り合う複数の領域を、所定の基準に沿って結合して、グループを設定することを更に含み、基準速度の算出、比AXの算出、比AYの算出、補正速度の算出、及び、分布の算出が、このグループごとに行われ、供給位置の走査移動は、グループごとに算出された分布を結合して得られた結合後分布に従って行われる。
【0101】
本方法によれば、平坦化処理前のワークの処理対象範囲における厚みのばらつきが大きくても、より優れた平坦度を有するワークを得ることができる。以下では、図18に記載された本平坦化処理方法のフローを参照しながら、各工程の詳細と得られる効果について詳述する。
【0102】
まず、ステップS1として、加工量によって処理対象範囲が所定の大きさの領域に分割される。この分割の方法は、方法(第1実施形態)と同様であり、好適形態も同様である。
【0103】
次に、ステップS11として、隣り合う複数の領域を所定の基準に従って結合し、グループを設定する。
図19は、グループの設定方法の説明図である。図19(A)は、ワーク60の表面の処理対象範囲66を所定の大きさの領域67に分割した状態を示す図(ステップS1に対応)である。これに対し、図19(B)は、隣り合う複数の領域67を結合し、グループ81、82、83、及び、84を設定した状態を示す図(ステップS11に対応)である。
【0104】
グループは、隣り合う複数の領域を結合したものであり、結果として、処理対象範囲の全領域が、いずれかのグループに属するように、グループの形状が選択される。
グループの設定条件としては特に制限されないが、グループ内における処理前のワークの厚みのばらつきが小さくなると、結果として、得られるワークが優れた平坦度を有しやすい。
【0105】
なかでも、より優れた本発明の効果が得られる点で、処理対象範囲の全領域の加工量の最大値、最小値、及び、中間値を求め、最大値と最小値との差が小さく、かつ、平均値と中間値との差が小さくなるように、グループを設定することが好ましい。
なお、中間値は、式:中間値=最小値+1/2(最大値+最小値)により定義される値である。
【0106】
上記によって、より優れた平坦度を有するワークが得られる理由のひとつは、走査移動の速度の分布の算出に使用している基準速度が、領域の全体の加工量の平均を基に算出されていることによるものだと推測される。処理前のワークの厚みのばらつきが大きいとき、特に、局所的に厚い部分、及び/又は、薄い部分が存在したときに、その部分を区画して(グループに区分して)その後の処理を行うことで、平坦度が大幅に改善するものと推測される。
【0107】
図20は、図11と同様のモデルであって、処理対象範囲におけるイニシャル厚みの分布にばらつきがある場合における、平坦化処理の効果の説明図である。図20(A)は、処理前のイニシャル厚みの分布を表しており、網掛けは、より厚い領域、斜線はより薄い領域を示している。
処理前の最大厚みは5350nmであり、最小厚みは5250nmであり、最大厚みと最小厚みとの差(厚みムラ)は100nmである。
【0108】
一方、図20(B)は、上記ワークを方法(第1実施形態)により処理した場合の処理後厚みの分布を表す図である。処理後の最大厚みは5017nmであり、最小厚みは4981nmであり、厚みムラは36nmである。図20によれば、平坦化処理により、各領域は目標厚みである5000nmへと厚みが近づいており、優れた平坦化効果であって、十分に実用的な効果を得られることがわかる。一方で、目標厚みより薄い斜線の領域、及び、目標厚みより厚い網掛けの領域が点在していることもわかる。
【0109】
図21は平坦化処理に必要な目標加工量と、本発明の第1の実施形態による加工量のシミュレーション結果を3次元表示したものである。図21(A)は、ワーク60の処理対象範囲66における加工量(処理前の厚み-目標厚み)の分布を表す図である。また、図21(B)は、加工量のシミュレーション結果(上述の方法で補正速度を得た後、それを加工量に計算しなおしたもの)の分布を表す図である。
隣接する領域間におけるイニシャル厚みの差によって、図21(B)のa~cで表される一部のポイントで加工量とシミュレーション結果との間に差が生じたものの、全体としては優れた平坦化効果が得られることがわかる。
【0110】
図18に戻り、次に、グループごとに、走査移動の基準速度が算出される(ステップS12)。なお、本工程における基準速度の算出は、方法(第1実施形態)におけるステップS2と略同様である。ステップS2と異なるのは、全領域を対象とするのではなく、「グループ内の全領域」を対象とする点である。上記以外の具体的な手順は、ステップS2と同様であるので説明を省略する。
【0111】
次に、ステップS13において、グループごとに、そのグループに内の各領域の比AX、及び、比AYが算出される。本工程における具体的な手順も、「グループ内の各領域」について実施される点を除いては、ステップS3と同様である。
【0112】
次に、ステップS14において、グループごとに、そのグループ内の各領域の補正速度が算出される。本工程における具体的な手順も、「グループ内の各領域」について実施される点を除いては、ステップS4と同様である。
【0113】
次に、ステップS15において、グループごとに、補正速度の分布が算出される。本工程における具体的な手順も、「グループ内」において実施される点を除いては、ステップS5と同様である。
【0114】
次に、ステップS16において、グループごとに算出された分布が結合される。具体的には、図19(B)の場合、グループ81、82、83、及び、84についてそれぞれ算出された走査速度の分布が結合されて、処理対象範囲66の全体の走査速度の分布(結合後分布)が得られる。
【0115】
次に、ステップS17において、結合後分布に従って、供給位置が走査移動される。本工程における具体的な手順も、「分布」に代えて「結合後分布」を用いること以外は、ステップS6と同様である。
【0116】
本方法によれば、所定の基準によって領域をグループ化し、そのグループごとに、供給位置を走査する際の「裾」の、X方向、及び、Y方向の重なり合いが考慮された補正速度が算出される。そのため、処理前のワークにおける厚みの分布が大きくても、その影響をより低減することができる。
【0117】
[平坦化処理装置(第2実施形態)]
次に、方法(第2実施形態)を実施可能な、本発明の第2実施形態に係る平坦化処理装置(以下「本装置」、又は、「装置(第2実施形態)」ということがある)について説明する。
【0118】
図22は、本装置の機能ブロック図である。平坦化処理装置500は、装置(第1実施形態)と同様のハードウェア構成であり、異なる点は、制御装置20が、領域結合部51を有している点である。以下では、装置(第1実施形態)と異なる点について説明する。
【0119】
領域結合部51は、メモリ22に記憶されたプログラムを、プロセッサ21が読み出して実行すること等によって実現され、領域設定部33によって設定された領域を所定の基準に沿って結合して、グループを設定する機能を有する。
【0120】
次に、平坦化処理装置500の動作について説明する。
領域結合部51が領域設定部33によって設定された領域を所定の基準に従って結合してグループを設定すると、次に、基準速度算出部34は、グループごとに基準速度を算出する。すなわち、グループごとに算出された加工量の平均値から、グループごとの基準速度を算出する。
【0121】
次に、比率算出部35は、グループごとに比AX、及び、比AYを算出する。すなわち、グループごとに、そのグループに属する領域のそれぞれについて、比AX、及び、比AYを算出する。
【0122】
次に、補正速度算出部36は、グループごとに補正速度を算出する。すなわち、グループごとに、そのグループに属する領域について、基準速度算出部34によって算出された「グループごとの」基準速度と、比AX、及び、比AYを用いて、補正速度を算出する。
【0123】
次に、速度分布算出部37は、グループごとに算出された補正速度の分布を算出する。更に、その分布を結合して、処理対象範囲の全体における補正速度の分布である、結合後分布を算出する。
次に、移動制御部38は、結合後分布に従って、相対位置を走査移動させる。
【0124】
本装置によれば、所定の基準によって領域をグループ化し、そのグループごとに、供給位置を走査する際の「裾」の、X方向、及び、Y方向の重なり合いが考慮された補正速度が算出される。そのため、処理前のワークにおける厚みの分布が大きくても、その影響をより低減することができる。
【0125】
次に、第2実施形態に係る平坦化装置を用いて、ワークの平坦化処理を行う場合の具体例について、図を参照しながら説明する。
図30(A)は、図20同様の加工前のワークについて、領域結合部51によってグループ設定された状態を表す図である。図30(A)において、処理対象範囲66の各領域は、4つのグループ(矩形)に分けられている。
【0126】
図30(B)は、平坦化処理後の処理対象範囲66を表す図である。平坦化処理は、基準速度算出部34により、グループごとに基準速度が算出されるステップ、比率算出部により、グループごとに比AX、及び、比AYを算出するステップ、補正速度算出部36により、グループごとに補正速度を算出するステップ、速度分布算出部37により、グループごとに算出された補正速度の分布、及び、その分布を結合して、処理対象範囲の全体における補正速度の分布である、結合後分布を算出するステップ、並びに、移動制御部38により、結合後分布に従って、相対位置を走査移動させステップを経て実施されたものである。
【0127】
この結果、最大厚みは5012nm、最小厚みは4987nm、平坦化処理後の厚みムラは25nmと大きく改善することがわかる。
【0128】
図31は、加工量のシミュレーション結果(上述の方法で補正速度を得た後、それを加工量に計算しなおしたもの)の分布を表す図である。第1実施形態における、図21(B)に対応している。
図31によれば、隣接する領域間でのイニシャル厚みの差が大きい場合でも、適切なグループ設定によって、より優れた平坦化効果が得られることがわかる。上記は、図21(B)と比較して、a~cのようなポイントが消失していることからも明らかである。
【実施例0129】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0130】
(水晶ウエハの加工)
以下の表に記載の条件で、吸引型の局所プラズマ源を有する平坦化処理装置を用いて、水晶ウエハの平坦化処理を行った。
【0131】
【表1】
【0132】
(実施例1)
処理対象範囲(スキャン範囲:30mm×30mm)を、0.1mm×0.1mmの格子状の領域に分割し、各領域についての加工量と、上記の条件(送りピッチdy=0.5mm)の条件により得られる有効加工深さ(約0.223nm)から、基準速度を算出した。次いで、各領域について、比AX、比AYを算出し、補正速度を求めて、走査速度の分布を求めた。上記分布に従って、水晶ウエハを加工した。
【0133】
図23は、その結果を表す図である。図23(A)は、分光エリプソメトリーにより測定した、処理前の水晶ウエハの厚みの測定結果であり、図23(B)は、処理後の水晶ウエハの厚みの測定結果である。図中、色が濃い部分は、薄い部分を表している。また、表2は、上記結果をまとめたものである。
なお、表2中、「改善率(%)」は、(処理前の厚みの差-処理後の厚みの差)/(処理前の厚みの差)×100によって定義される値である。
【0134】
(実施例2)
分割された領域を、最大値と最小値との差が小さく、かつ、平均値と中間値との差が小さくなるように、処理前の厚みで30nm区切りに3個のグループに分けて、グループごとに実施例同様に補正速度の分布を算出し、それを結合して結合後分布を得た。次いで、結合後分布に従って、水晶ウエハを平坦化処理した。図24は、その結果を表す図である。図24(A)は、処理前の水晶ウエハの厚みの測定結果であり、図24(B)は、処理後の水晶ウエハの厚みの測定結果である。また、表2には、上記の結果が記載されている。
【0135】
(比較例)
基準速度を算出することまでは、実施例1と同様にし、比AX、及び、比AYを用いずに、各領域の加工量によって基準速度を補正して、補正速度の分布を求め、上記分布に従って、供給位置を走査移動させて、水晶ウエハを平坦化処理した。図25は、その結果を表す図である。図25(A)は、処理前の水晶ウエハの厚みの測定結果であり、図25(B)は、処理後の水晶ウエハの厚みの測定結果である。また、表2には、上記の結果が記載されている。
【0136】
【表2】
【0137】
表2の結果から、実施例1、及び、実施例2の平坦化処理方法は、比較例の平坦化処理方法と比較して、改善率が高く、得られる水晶ウエハは優れた平坦度を有していた。
また、実施例2の平坦化処理方法(グループ化)は、実施例1の平坦化処理方法と比較して、改善率がより高く、得られる水晶ウエハは、より優れた平坦度を有していた。
【符号の説明】
【0138】
1 キャピラリ、2 RF電極、3 RF電源、4 真空排気装置、5 容器、6 ガス供給装置、8 試料台、9 移動機構、10 プラズマ源、20 制御装置、21 プロセッサ、22 メモリ、23 加工部インタフェース、24 入出力インタフェース、25 通信インタフェース、26 入力デバイス、27 出力デバイス、28 外部ネットワーク、31 制御部、32 記憶部、33 領域設定部、34 基準速度算出部、35 比率算出部、36 補正速度算出部、37 速度分布算出部、38 移動制御部、39 入出力部、51 領域結合部、60 ワーク、61 供給位置、62、64 走査線、63、65 移動方向、66 処理対象範囲、67 領域、67 全領域、70 加工痕、81-84 グループ、100 プラズマ加工部、200、500 平坦化処理装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
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図31