(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159572
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】浸水防止システム
(51)【国際特許分類】
E04H 9/14 20060101AFI20231025BHJP
E02B 7/22 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
E04H9/14 Z
E02B7/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069333
(22)【出願日】2022-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】高井 剛
(72)【発明者】
【氏名】石原 大世
【テーマコード(参考)】
2D019
2E139
【Fターム(参考)】
2D019AA71
2E139AA07
(57)【要約】
【課題】敷地内を水害時の緊急避難所等として利用するための浸水防止システム等を提供する。
【解決手段】浸水防止システム1は、内部敷地20aへの浸水を防止する浸水防止壁2と、内部敷地20aとその外部とを連絡し、且つ内部敷地20aへの浸水を防止する階段3と、内部敷地20aの外部から階段3に至る経路に設けられ、内部敷地20aの外部の浸水時に、開くことのできない閉状態から開くことのできる開状態へと、浸水によって推移する扉4と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部敷地への浸水を防止する浸水防止壁と、
前記内部敷地と当該内部敷地の外部とを連絡し、且つ前記内部敷地への浸水を防止する階段と、
前記内部敷地の外部から前記階段に至る経路に設けられ、前記内部敷地の外部の浸水時に、開くことのできない閉状態から開くことのできる開状態へと、浸水によって推移する扉と、
を有することを特徴とする浸水防止システム。
【請求項2】
前記浸水防止壁の外側に、透水性を有する壁体が設けられ、当該壁体に前記扉が設けられることを特徴とする請求項1記載の浸水防止システム。
【請求項3】
前記浸水防止壁が、透明性を有することを特徴とする請求項2記載の浸水防止システム。
【請求項4】
前記扉は、浸水時の浮上体の浮上により開状態へと推移することを特徴とする請求項1に記載の浸水防止システム。
【請求項5】
前記扉は、開状態となったことを報知するための報知手段を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の浸水防止システム。
【請求項6】
前記階段は、段状の側面が前記内部敷地の外部側に露出したものであることを特徴とする請求項1記載の浸水防止システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、敷地内を水害時の緊急避難所等として利用するための浸水防止システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの建物では、敷地内に他者が入らないように敷地境界付近に柵や塀などを設けるが、洪水等の水害時の浸水対策を考慮する場合、これを浸水防止壁とするケースがある。
【0003】
特許文献1には、建物本体の周方向全周にわたって延在し、洪水時等の最大水位よりも高く、且つ水圧や漂流物による衝撃に耐え得る耐圧性能を備えた外周防圧壁について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、前記の浸水防止壁において、出入口となる位置には防水性を備えた扉やドア、止水板を設置する。これらの扉等は、常時には開閉可能とし、洪水等の水害時には閉状態とする。
【0006】
一方、建物の敷地を水害時の緊急避難所として提供する場合、上記とは逆に、水害時に開くことのできる扉等を設ける必要がある。ただし、扉等を開けると敷地内への浸水が起こってしまうという問題がある。
【0007】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、敷地内を水害時の緊急避難所等として利用するための浸水防止システム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決するための本発明は、内部敷地への浸水を防止する浸水防止壁と、前記内部敷地と当該内部敷地の外部とを連絡し、且つ前記内部敷地への浸水を防止する階段と、前記内部敷地の外部から前記階段に至る経路に設けられ、前記内部敷地の外部の浸水時に、開くことのできない閉状態から開くことのできる開状態へと、浸水によって推移する扉と、を有することを特徴とする浸水防止システムである。
【0009】
本発明では、上記の階段によって、洪水等の水害時に、内部敷地への浸水を防止しつつ内部敷地へ連絡できる常設の避難経路を設けることができる。一方、常時には、内部敷地に他者が自由に入らないように扉を設けるが、この扉は浸水時に自動で開状態となるため、水害時の避難に問題はない。これにより、浸水防止壁により浸水が防止された内部敷地を、水害時の緊急避難所として好適に利用することができる。
【0010】
前記浸水防止壁の外側に、透水性を有する壁体が設けられ、当該壁体に前記扉が設けられることも望ましい。また前記浸水防止壁が、透明性を有することも望ましい。
これにより、内部敷地の外側に位置する外部敷地を壁体で囲い、他者が常時に自由に入るのを防止することができる。前記の扉はこの壁体に設け、水害時の敷地外からの避難を可能とすることができる。また水害時の漂流物は壁体に遮られて止まるため、浸水防止壁には漂流物の衝突に耐え得る耐力が必要なく、ガラス等により透明性を有し、眺望性や開放感等に優れたものとできる。
【0011】
前記扉は、浸水時の浮上体の浮上により開状態へと推移することが望ましい。
これにより、浸水時に開状態となる扉を、簡易な構成とすることができる。
【0012】
前記扉は、開状態となったことを報知するための報知手段を有することも望ましい。
これにより、扉が開状態となったことを周囲の避難者に報知することができ、避難の助けとなる。
【0013】
前記階段は、段状の側面が前記内部敷地の外部側に露出したものであることも望ましい。
これにより、ボート等を階段の上記側面に横付けして階段から内部敷地に避難することができ、ボート等を階段の端部まで回り込ませる必要が無く、短時間での避難が可能になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、敷地内を水害時の緊急避難所等として利用するための浸水防止システム等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】浸水防止システム1を含む建物10の敷地20を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
(1.浸水防止システム1)
図1は、本発明の実施形態に係る浸水防止システム1を含む建物10の敷地20を示す図である。
図1(a)は当該敷地20の平面図であり、
図1(b)は敷地20の一部を斜視図で示したものである。
【0018】
本実施形態では、建物10の敷地20が、内部敷地20aと、その外部に位置する外部敷地20bからなり、建物10が内部敷地20aに設けられる。
【0019】
浸水防止システム1は、内部敷地20aを洪水等の水害時の緊急避難所として提供するために配置され、
図1(a)に示すように、浸水防止壁2、階段3、扉4等から構成される。また、浸水防止壁2の外側の、外部敷地20bと敷地20外との間の境界部には、透水性を有するフェンス、柵などの壁体30が設けられる。
【0020】
浸水防止壁2は、内部敷地20aへの浸水を防止するものであり、内部敷地20aを囲むように設けられる。浸水防止壁2の一部は、内部敷地20aと外部敷地20bの境界部に位置する。また
図1(a)の例では、浸水防止壁2の別の一部が、建物10の壁と一体になっている。
【0021】
浸水防止壁2は主にコンクリートによって形成されるが、上記境界部の一部に透明性を有する透明部21が設けられ、内部敷地20aからの眺望性や開放感に優れたものとなっている。透明部21は例えばガラスや強化プラスチックなどによって形成される。
【0022】
階段3は、内部敷地20aと外部敷地20bとを連絡するものであり、内部敷地20aと外部敷地20bの境界部において、浸水防止壁2に沿って設けられる。より詳細には、当該境界部に一対の浸水防止壁2が平行する箇所が存在し、階段3は、これら一対の浸水防止壁2の間で、浸水防止壁2に沿って延在するように設けられる。
【0023】
階段3は、上り階段、下り階段となる一対の段部を有する台状のものであり、それぞれの段部が外部敷地20b側、内部敷地20a側に配置され、これらの段部の間が高所となっている。また
図1(b)に示すように、階段3の外部敷地20b側の段部では、段状の側面が外部敷地20b側に露出している。
【0024】
扉4は、敷地20の外部から階段3に至る経路に設けられる。より詳細には、本実施形態の扉4は前記の壁体30に設けられる。扉4は、内部敷地20aの外部の浸水時に、開くことのできない閉状態から開くことのできる開状態へと、浸水によって推移する。
【0025】
図2(a)、(b)は、洪水等の水害時の状態を、
図1(a)、(b)と同様の図で示したものである。
【0026】
本実施形態では、洪水等の水害が起こった際に、水Wが壁体30を通して外部敷地20bに流れ込むが、浸水防止壁2によって内部敷地20aへの浸水が防止される。
【0027】
また階段3は外部敷地20bと内部敷地20aを連絡するものであるが、階段3は前記のように高所を有するので、階段3を乗り越えて内部敷地20aに水Wが流れ込むことはない。一方、避難者は、浸水によって開状態となった扉4を空けて外部敷地20bに入り、階段3を乗り越えて内部敷地20aに避難することができる。
【0028】
また、階段3の外部敷地20b側の段部では、段状の側面が外部敷地20b側に露出していることから、ボートB(
図2(a)参照)等で外部敷地20b内に入った避難者は、ボートB等を当該側面に横付けしてそこから階段3上に移動することができる。従って、
図2(a)の点線矢印で示すようにボートB等を階段3の端部まで回り込ませる必要が無く、避難を短時間で効率的に行うことができる。
【0029】
図2(a)の符号Fは、水W上の漂流物である。本実施形態の壁体30は透水性を有するものの、漂流物Fは遮ることができ、漂流物Fの外部敷地20bへの侵入を防止できる。従って、内部敷地20aと外部敷地20bの境界部において、浸水防止壁2は浸水時の水圧に耐え得る性能を有していればよく、漂流物Fの衝突に耐え得る耐力までは要求されない。従って、内部敷地20aと外部敷地20bの境界部では、浸水防止壁2にガラス等による透明部21を設けることができる。
【0030】
(2.扉4)
前記の扉4は、浸水によって閉状態から開状態に推移するものであり、水害時には扉4を開けて敷地20外から外部敷地20b内に自由に入ることができる。本実施形態の扉4は、浮上体が浸水時に浮上することにより開状態となる簡易な構成によって実現される。
【0031】
図3(a)は扉4の例であり、扉体40の内部に、下方に開いた室41が形成される。当該室41は、地表に設けられた凹部5との間で連続した空間を形成し、当該空間に浮上体42が配置される。なお
図3(a)では壁体30の図示を省略している。これは以降の図でも同様である。
【0032】
浮上体42の下方にはカギ420が設けられており、常時は
図3(a)に示すようにカギ420が凹部5に落ち込んで凹部5と室41に跨るように配置されることで、扉4が閉状態となる。一方、浸水時には、
図3(b)に示すように、凹部5および室41内に流入した水Wにより浮上体42が室41内で浮上する。これにより、カギ420が凹部5から外れ、扉4が開状態となる。なお、浸水時に自動で開状態となる扉4は、常時人が出入りするときに使用する扉(不図示)とは別に、フェンス、柵などの壁体30に設置されてもよい。
【0033】
以上説明したように、本実施形態によれば、前記の階段3によって、洪水等の水害時に、内部敷地20aへの浸水を防止しつつ内部敷地20aへ連絡できる常設の避難経路を設けることができる。一方、常時には、内部敷地20aに他者が自由に入らないように扉4を設けるが、この扉4は浸水時に自動で開状態となるため、水害時の避難に問題はない。これにより、浸水防止壁2により浸水が防止された内部敷地20aを、水害時の緊急避難所として好適に利用することができる。
【0034】
また本実施形態では、浸水防止壁2の外側に、透水性を有する壁体30を設けることで、外部敷地20bを壁体30で囲い、他者が常時に自由に入るのを防止することができる。扉4は当該壁体30に設け、水害時の敷地20外からの避難を可能とすることができる。また水害時の漂流物Fは壁体30に遮られて止まるため、浸水防止壁2には漂流物Fの衝突に耐え得る耐力が必要なく、ガラス等により透明性を有し、眺望性や開放感等に優れたものとできる。
【0035】
また本実施形態では、浸水時に開状態となる扉4を浮上体42により実現し、簡易な構成とすることができる。また階段3は、段状の側面が外部敷地20b側に露出したものであり、ボートB等を階段3の上記側面に横付けして階段3から内部敷地20aに避難することができ、ボートB等を階段3の端部まで回り込ませる必要が無く、短時間での避難が可能になる。
【0036】
しかしながら、本発明は上記の実施形態に限定されない。例えば扉4は
図3で説明したものに限らない。一例として、前記の室41は扉体40の内部に設けるものに限らず、
図4の扉4aに示すように扉体40に外付けするものでもよい。これにより、既存の扉体40に容易に開閉機能を付与できる。
【0037】
また
図5(a)の扉4bに示すように、浮上体42から上方に延ばした棒状部材421を、室41から扉体40の上面へと貫通する貫通孔43内に通し、
図5(b)に示すように、浸水時に棒状部材421の上端が扉体40の上面から突出するようにしてもよい。
【0038】
この棒状部材421は、浸水時に扉4が開状態となったことを周囲の避難者に報知する報知手段として機能し、避難の助けとなる。棒状部材421の上端に旗(不図示)などを設けることにより、より視認性を高めることも可能である。この他、報知手段としては、開状態となったことを聴覚的あるいは視覚的に報知する各種の装置を設けることも可能である。
【0039】
また
図6(a)の扉4cに示すように、浮上体42の上方にカギ422を取り付け、浮上体42の浮上によってカギ422が外れて開状態となるようにしてもよい。
【0040】
図6(a)の例では、扉体40の側方に側柱部44が設けられ、カギ422の上端部が側柱部44側に向かってコの字状に折り返される。その先端が、側柱部44の扉体40側の面に設けた上下反転L字状の窪み45の下部に挿入される。
【0041】
浸水時には、
図6(b)に示すように、扉体40の室41内に流入した水Wにより浮上体42が室41内で浮上する。これにより、カギ422の先端が上昇し、窪み45の下部から外れ、扉4c(扉体40)が開状態となる。
【0042】
図6(a)の例ではカギ422を浮上体42に取り付けているが、
図7(a)の扉4dに示すように、カギ411は扉体40の室41内に設けることも可能である。
【0043】
図7(a)の例では、扉体40の室41内において、カギ411が回転軸412を中心として回転可能に設けられており、下方に向かって折り曲げられたカギ411の先端が、窪み45の下部に挿入されている。
【0044】
浮上体42の上方には、カギ411を押し上げるための押上材423が設けられており、浸水時には、
図7(b)に示すように、扉体40の室41内に流入した水Wにより、浮上体42が室41内で浮上し、押上材423がカギ411を押し上げる。これによりカギ411が回転してその先端が上昇し、窪み45の下部から外れ、扉4d(扉体40)が開状態となる。
【0045】
その他、建物10や内部敷地20a、外部敷地20b、壁体30の配置も
図1(a)の例に限ることはない。例えば内部敷地20a内に複数の建物10が存在しても良い。また外部敷地20bを省略することも可能である。
【0046】
浸水防止壁2、階段3、扉4等の位置や形状等も、建物10や内部敷地20a、外部敷地20b、壁体30の配置に応じて定まり、
図1(a)の例に限定されることはない。例えば外部敷地20bを省略する場合、扉4は階段3の端部近傍に配置することができる。
【0047】
さらに、内部敷地20aに集水用の釜場となる図示しないピット(凹部)を設け、内部敷地20aに浸入した水Wをピットに溜めて併設のポンプ等で外部敷地20bに排水するようにしてもよい。当該ピットは、溝状に延伸できるものとしてもよい。
【0048】
また、
図3~
図7の扉4、4a、4b、4c、4dは浮上体42の浮上により開状態となるものであるが、扉は浸水によって開状態となるものであればよく、その機構は特に限定されない。例えば浸水を検知するセンサーと、その検知結果に応じて扉を開状態とする駆動機構を有する構成としてもよい。
【0049】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0050】
1:浸水防止システム
2:浸水防止壁
3:階段
4、4a、4b、4c、4d:扉
10:建物
20:敷地
20a:内部敷地
20b:外部敷地
21:透明部
30:壁体
40:扉体
41:室
42:浮上体