(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159663
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】シール装置およびハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20231025BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20231025BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20231025BHJP
F16J 15/3256 20160101ALI20231025BHJP
F16J 15/324 20160101ALI20231025BHJP
【FI】
F16C33/78 D
F16C19/18
F16J15/3232 201
F16J15/3256
F16J15/324
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069508
(22)【出願日】2022-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高梨 晴美
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
3J006
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AD02
3J006AE04
3J006AE12
3J006AE23
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE42
3J006CA01
3J043AA17
3J043CA02
3J043CA04
3J043CB13
3J043CB20
3J043DA01
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216BA30
3J216CA01
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB07
3J216CB13
3J216CB18
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC16
3J216CC33
3J216CC41
3J216DA01
3J216DA12
3J216GA02
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA73
3J701EA63
3J701FA13
3J701FA38
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】密封性と低トルク化とを両立することができるシールリップを含むシール装置、および、該シール装置を備えたハブユニット軸受を提供する。
【解決手段】シール装置5は、相手部材のシール摺接面14に対して傾斜する方向に伸長し、かつ、先端部が該シール摺接面14に全周にわたり摺接するシールリップ27~29を備える。シールリップ27~29の先端部は、周方向に交互に並べて配置された複数ずつの厚肉部30および薄肉部31を有する。薄肉部31は、周方向に隣り合う1対の厚肉部30のうち、シールリップ27~29の厚さ方向に関してシール摺接面14に近い側の端部を互いに連結するように存在する。シールリップ27~29の自由状態で、薄肉部31は、周方向中間部が周方向両側の端部よりも、該シールリップ27~29の厚さ方向に関してシール摺接面14から遠い側に張り出すように湾曲している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相手部材のシール摺接面に対して傾斜する方向に伸長し、かつ、先端部が該シール摺接面に全周にわたり摺接するシールリップを備え、
前記シールリップの前記先端部は、周方向に交互に並べて配置された複数ずつの厚肉部および薄肉部を有し、
前記薄肉部は、周方向に隣り合う1対の前記厚肉部のうち、前記シールリップの厚さ方向に関して前記シール摺接面に近い側の端部を互いに連結するように存在しており、
前記シールリップの自由状態で、前記薄肉部は、周方向中間部が周方向両側の端部よりも、該シールリップの厚さ方向に関して前記シール摺接面から遠い側に張り出すように湾曲している、
シール装置。
【請求項2】
前記厚肉部が、先端側に向かうにしたがって周方向幅が小さくなる形状を有する、請求項1に記載のシール装置。
【請求項3】
内周面に複列の外輪軌道を有する外方部材と、
外周面に複列の内輪軌道を有する内方部材と、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体と、
前記外方部材の内周面と前記内方部材の外周面との間に存在する内部空間の軸方向端部開口を塞ぐシール装置と、を備え、
前記シール装置が、請求項1または2に記載のシール装置により構成されている、
ハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端部をシール摺接面に摺接させるシールリップを備えたシール装置、および、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するためのハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ハブユニット軸受は、泥水が直接跳ねかかる環境で使用される。このため、ハブユニット軸受は、シール装置により、泥水などの異物が転動体を設置した空間に入り込むことを防止するとともに、該空間に封入したグリースが外部に漏洩することを防止している(たとえば、特開2005-155882号公報参照)。シール装置は、シールリップを有するシール材を備え、シールリップの先端部を、軌道輪、スリンガなどの相手部材に備えられたシール摺接面に摺接させている。
【0003】
ところで、近年、自動車の低燃費化、高効率化を進めるために、ハブユニット軸受の低トルク化の要求が高まっている。ハブユニット軸受の低トルク化の方法として、シールリップの先端部と相手部材のシール摺接面との間の摩擦力を低減することが考えられる。
【0004】
特開2018-119648号公報には、シールリップの先端部と相手部材のシール摺接面との間の摩擦力を低減するために、シールリップの先端部の周方向複数箇所に突起を設けたシール装置が記載されている。該シール装置では、シールリップの先端部と相手部材のシール摺接面との間、具体的には周方向に隣り合う突起の間に、くさび状の隙間が形成される。相手部材がシール材に対して相対的に回転しているとき、くさび状の隙間に潤滑油が引き摺り込まれ、くさび効果によって油膜形成が促進され、複数の突起が、相手部材のシール摺接面と十分な油膜を介して摺接する。このため、シールリップの先端部と相手部材のシール摺接面との間の摩擦力が低減される。
【0005】
さらに、特開2018-119648号公報に記載されたシール装置では、シールリップの先端部のうち、突起が存在する周方向部分よりも、突起が存在しない周方向部分の剛性を高くすることで、シールリップの先端部のうち周方向に隣り合う突起の間に位置する部分が相手部材のシール摺接面に近接してくさび状の隙間が小さくなること、すなわち、くさび効果による油膜形成が損なわれることを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-155882号公報
【特許文献2】特開2018-119648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特開2018-119648号公報に記載されたシール装置は、密封すべき空間内の潤滑が油潤滑であり、若干の油漏れが許容される用途、たとえば、トランスミッションなどの用途では有効である。
【0008】
しかしながら、ハブユニット軸受では、シール装置により密封すべき空間内の潤滑がグリース潤滑であるため、くさび状の隙間に潤滑油が引き摺り込まれるといった作用が生じない。また、該空間内に外部から侵入しようとする異物が泥水であるため、該異物の侵入は許容されない。したがって、特開2018-119648号公報に記載されたシール装置は、ハブユニット軸受の用途で有効であるとはいえない。
【0009】
本発明は、密封性と低トルク化とを両立することができるシールリップを備えたシール装置、および、該シール装置を備えたハブユニット軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様のシール装置は、相手部材のシール摺接面に対して傾斜する方向に伸長し、かつ、先端部が該シール摺接面に全周にわたり摺接するシールリップを備える。前記シールリップの前記先端部は、周方向に交互に並べて配置された複数ずつの厚肉部および薄肉部を有する。前記薄肉部は、周方向に隣り合う1対の前記厚肉部のうち、前記シールリップの厚さ方向に関して前記シール摺接面に近い側の端部を互いに連結するように存在している。前記シールリップの自由状態で、前記薄肉部は、周方向中間部が周方向両側の端部よりも、該シールリップの厚さ方向に関して前記シール摺接面から遠い側に張り出すように湾曲している。
【0011】
本発明の一態様のシール装置では、前記厚肉部が、先端側に向かうにしたがって周方向幅が小さくなる形状を有する。
【0012】
本発明の一態様のハブユニット軸受は、内周面に複列の外輪軌道を有する外方部材と、外周面に複列の内輪軌道を有する内方部材と、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体と、前記外方部材の内周面と前記内方部材の外周面との間に存在する内部空間の軸方向端部開口を塞ぐシール装置とを備え、該シール装置が、本発明の一態様のシール装置により構成されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、密封性と低トルク化とを両立することができるシールリップを備えたシール装置、および、該シール装置を備えたハブユニット軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態の第1例のハブユニット軸受の断面図である。
【
図4】
図4は、第1例のシール装置を構成するシールリップの先端部の周方向一部分を径方向外側から見た斜視図である。
【
図5】
図5(a)は、第1例のシール装置を構成するシールリップの先端部の周方向一部分を、該シールリップの厚さ方向の一方側(径方向外側)から見た図であり、
図5(b)は、
図5(a)の下側から見た図であり、
図5(c)は、
図5(a)のC-C断面図である。
【
図6】
図6は、本発明を適用可能なシール装置の別例(第1例)の部分断面図である。
【
図7】
図7は、本発明を適用可能なシール装置の別例(第2例)の部分断面図である。
【
図8】
図8は、本発明を適用可能なシール装置の別例(第3例)の部分断面図である。
【
図9】
図9は、本発明を適用可能なシール装置の別例(第4例)の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1例]
本発明の実施の形態の第1例について、
図1~
図5を用いて説明する。
【0016】
本例のハブユニット軸受1は、外方部材に相当する外輪2と、内方部材に相当するハブ3と、複数個の転動体4と、それぞれがシール装置であるシールリング5および組み合わせシールリング6を備える。
【0017】
本例のハブユニット軸受1は、使用時に内方部材が回転する内輪回転型である。ただし、本発明は、使用時に外方部材が回転する外輪回転型のハブユニット軸受に適用することもできる。
【0018】
本例のハブユニット軸受1は、駆動輪用の構造を備える。ただし、本発明は、従動輪用の構造を備えるハブユニット軸受に適用することもできる。
【0019】
本例のハブユニット軸受1に関して、軸方向内側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向中央側となる、
図1の右側であり、軸方向外側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向外側となる、
図1の左側である。
【0020】
外輪2は、中炭素鋼などの硬質金属製であり、複列の外輪軌道7a、7bと静止フランジ8とを有する。複列の外輪軌道7a、7bは、外輪2の内周面に備えられている。静止フランジ8は、外輪2を懸架装置のナックルに結合固定するために用いられる部位であり、外輪2の軸方向中間部から径方向外側に突出している。
【0021】
ハブ3は、外輪2の径方向内側に、外輪2と同軸に配置されており、複列の内輪軌道9a、9bと、回転フランジ10とを有する。複列の内輪軌道9a、9bは、ハブ3の外周面のうち、複列の外輪軌道7a、7bに対向する部分に備えられている。回転フランジ10は、ハブ3に車輪および制動用回転部材を結合固定するために用いられる部位であり、ハブ3の軸方向外側部から径方向外側に突出している。回転フランジ10は、軸方向内側面のうちの径方向内側部分に軸方向摺接面11を有する。
【0022】
ハブ3は、外周面のうちで軸方向摺接面11の軸方向内側に隣接する部分に、円弧形の断面形状を有する凹曲面12を備え、かつ、外周面のうちで凹曲面12の軸方向内側に隣接する部分に、円筒面状の径方向摺接面13を備える。本例では、軸方向摺接面11と凹曲面12と径方向摺接面13とにより、シールリング5のシールリップ、すなわちアキシアルリップ27、およびラジアルリップ28、29を摺接させるシール摺接面14を構成している。
【0023】
本例のハブユニット軸受1は、駆動輪用であるため、ハブ3は、中心部に、軸方向に貫通するスプライン孔15を有する。スプライン孔15には、エンジンや電動モータなどの駆動源により、直接またはトランスミッションを介して回転駆動させる駆動軸の先端部がスプライン係合される。自動車の走行時には、駆動軸によりハブ3を回転駆動することで、ハブ3の回転フランジ10に結合固定された車輪および制動用回転体を回転駆動する。
【0024】
本例のハブ3は、内輪16とハブ輪17とを組み合わせてなる。
【0025】
内輪16は、軸受鋼などの硬質金属により構成されている。内輪16は、外周面に、軸方向内側の内輪軌道9aを有する。
【0026】
ハブ輪17は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。ハブ輪17は、外周面の軸方向中間部に軸方向外側の内輪軌道9b、軸方向外側部に径方向外側に突出した回転フランジ10、中心部に軸方向に貫通するスプライン孔15、および、軸方向内側部に内輪16が外嵌される嵌合筒部18を有する。ハブ輪17は、嵌合筒部18の軸方向内側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がり、内輪16の軸方向内側の端面を押え付けるかしめ部19をさらに有する。なお、かしめ部に代えて、駆動軸の軸方向内端部に固定された等速ジョイント用外輪により、内輪の軸方向内側の端面を押さえつけることもできる。
【0027】
転動体4は、複列の外輪軌道7a、7bと複列の内輪軌道9a、9bとの間に、それぞれ複数個ずつ、保持器20により保持された状態で転動自在に配置されている。本例では、転動体4として玉を使用しているが、玉に代えて円すいころを使用することもできる。また、本例では、軸方向内側列の転動体4のピッチ円直径と、軸方向外側列の転動体4のピッチ円直径とを互いに同じとしているが、本発明は、軸方向内側列の転動体のピッチ円直径と、軸方向外側列の転動体のピッチ円直径とが互いに異なる異径PCD型のハブユニット軸受に適用することもできる。
【0028】
外輪2の内周面とハブ3の外周面との間には、転動体4が配置された略円筒状の内部空間21が存在し、内部空間21に潤滑剤であるグリースが封入されている。
【0029】
シールリング5は、内部空間21の軸方向外側の端部開口を塞ぐ。これにより、該開口を通じて、外部空間から内部空間21に泥水などの異物が侵入したり、内部空間21から外部空間にグリースが漏洩したりすることを防止している。
【0030】
本例では、シールリング5は、
図2に示すように、芯金22と、シール材23とを備える。
【0031】
芯金22は、軟鋼板などの金属板を曲げ成形することにより、全体を円環状に構成されている。芯金22は、外輪2の軸方向外側の端部に締り嵌めで内嵌固定された嵌合筒部24と、嵌合筒部24の軸方向外側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がった支持板部25とを有する。
【0032】
シール材23は、ゴムにより構成され、芯金22の支持板部25に加硫接着により固定されている。シール材23は、基部26、および、先端部が相手部材のシール摺接面に摺接するシールリップR(27、28、29)を備える。本例では、シールリップRとして、アキシアルリップ27と、ラジアルリップ28と、ラジアルリップ29とを備える。なお、
図2では、アキシアルリップ27、ラジアルリップ28、およびラジアルリップ29のそれぞれを、自由状態で示している。
【0033】
基部26は、支持板部25の表面、具体的には、支持板部25の軸方向外側面、内周面、および軸方向内側面の径方向内側の端部を覆っている。
【0034】
アキシアルリップ27は、軸方向摺接面11に対して傾斜する方向に伸長し、具体的には、基部26のうちで支持板部25の軸方向外側面の径方向中間部を覆う部分から軸方向外側かつ径方向外側に向かう方向に伸長している。アキシアルリップ27は、先端部を、軸方向摺接面11に全周にわたって摺接させている。本例では、軸方向摺接面11に対するアキシアルリップ27の先端部の摺接部には、締め代が設定されている。該締め代は、任意の大きさに設定することができるが、たとえば、0.5mm~1.1mmに設定することができる。
【0035】
ラジアルリップ28は、凹曲面28に対して傾斜する方向に伸長し、具体的には、基部26のうちで支持板部25の径方向内側の端部を覆う部分から軸方向外側かつ径方向内側に向かう方向に伸長している。ラジアルリップ28は、先端部を、凹曲面12に全周にわたって摺接させている。本例では、凹曲面12に対するラジアルリップ28の先端部の摺接部には、締め代が設定されている。該締め代は、任意の大きさに設定することができるが、たとえば、半径値で0.2mm~0.8mmに設定することができる。
【0036】
ラジアルリップ29は、径方向摺接面13に対して傾斜する方向に伸長し、具体的には、基部26のうちで支持板部25の径方向内側の端部を覆う部分から軸方向内側かつ径方向内側に向かう方向に伸長している。ラジアルリップ29は、先端部を、径方向摺接面13に全周にわたって摺接させている。すなわち、ラジアルリップ29は、先端側に向かうにしたがって内部空間21に向かう方向に伸長しており、内部空間21からのグリースの漏洩を防止する機能に特化したグリースリップである。径方向摺接面13に対するラジアルリップ29の先端部の摺接部には、締め代が設定されている。該締め代は、任意の大きさに設定することができるが、たとえば、半径値で0.2mm以下に設定することができる。
【0037】
本例では、シールリップR(アキシアルリップ27、ラジアルリップ28、およびラジアルリップ29)の先端部は、
図4および
図5(a)~
図5(c)に示すように、周方向に交互に並べて配置された複数(N個)ずつの厚肉部30および薄肉部31を有する。なお、
図4は、シールリップRの先端部の周方向一部分を径方向外側から見た斜視図である。
図5(a)は、該先端部の周方向一部分を、厚さ方向の一方側(径方向外側)から見た図であり、
図5における左右方向は、円周方向である。
図5(b)は、該先端部の周方向一部分を、
図5(a)の下側(先端側)から見た図である。
図5(c)は、
図5(a)のC-C断面図である。
図4および
図5(a)~
図5(c)では、シールリップRを自由状態で示している。
【0038】
本例では、厚肉部30は、先端側(
図5(a)における下側)に向かうにしたがって周方向幅が小さくなる形状を有する。すなわち、厚肉部30は、シールリップRの厚さ方向から見て、
図5(a)に示すように、基端側(
図5(a)における上側)の周方向幅よりも先端側の周方向幅が小さい台形形状を有する。本例では、このような形状を採用することで、自動車の走行時に、厚肉部30の周方向側面にぶつかった泥水やグリースなどが、該周方向側面に沿って厚肉部30の先端側に向けて移動させることができるようにしている。この点については、さらに後述する。なお、本発明を実施する場合には、厚肉部の周方向幅を一定にすることもできる。
【0039】
薄肉部31は、周方向に隣り合う1対の厚肉部30のうち、シールリップRの厚さ方向(
図4および
図5(b)における上下方向、
図5(c)における左右方向)に関して、シール摺接面14(軸方向摺接面11、凹曲面12、および径方向摺接面13)に近い側(
図4および
図5(b)における下側、
図5(c)における左側)の端部を互いに連結するように存在している。本例では、薄肉部31は、シールリップRの厚さ方向から見て、
図5(a)に示すように、先端側に向かうにしたがって周方向幅が大きくなる形状を有する。
【0040】
シールリップRの自由状態で、薄肉部31は、周方向中間部が周方向両側の端部よりも、シールリップRの厚さ方向に関してシール摺接面14から遠い側(
図4および
図5(b)における上側、
図5(c)における右側)に張り出すように湾曲している。本例では、該張り出し量は、
図5(c)に示すように、先端側(
図5(c)における下側)に向かうにしたがって大きくなっている。
【0041】
厚肉部30および薄肉部31のそれぞれの個数(N)は、特に限定されるものではないが、30個以上100個以下とすることができ、好ましくは40個以上60個以下とすることができる。
【0042】
厚肉部30の厚さT1は、特に限定されるものではないが、0.5mm以上1.0mm以下とすることができ、好ましくは0.6mm以上0.8mm以下とすることができる。また、厚肉部30の厚さT1に対する薄肉部31の厚さT2の割合は、特に限定されるものではないが、10%以上50%以下とすることができ、好ましくは15%以上25%以下とすることができる。
【0043】
本例では、シールリップRの自由状態で、シールリップRの先端部の全周の長さ、すなわち、すべての(N個の)厚肉部30の先端部の周方向の長さL1と、すべての(N個の)薄肉部31の先端部の周方向の長さL2との合計値(N×(L1+L2))が、シール摺接面14のうちシールリップRの先端部が摺接する部分の全周長さよりも若干小さい。
【0044】
すなわち、本例では、シールリップRの先端部がシール摺接面14に摺接した状態で、厚肉部30と薄肉部31とのうち、少なくとも薄肉部31が周方向に引き伸ばされるように弾性変形する。そして、薄肉部31の周方向中間部が周方向両側の端部よりもシールリップRの厚さ方向に関してシール摺接面14から遠い側に張り出す量がゼロになり、シールリップRの先端部がシール摺接面14に対して全周にわたり締め代を持って摺接する。
【0045】
組み合わせシールリング6は、外輪2の軸方向内側の端部内周面とハブ3の軸方向内側の端部外周面との間に装着され、内部空間21の軸方向内側の端部開口を塞ぐ。これにより、該開口を通じて、外部空間から内部空間21に泥水などの異物が侵入したり、内部空間21から外部空間にグリースが漏洩したりすることを防止している。
【0046】
本例では、組み合わせシールリング6は、
図3に示すように、スリンガ32と、シールリング33とを備える。
【0047】
スリンガ32は、ステンレス鋼板などの防錆性を持つ金属板を曲げ成形することにより、全体を円環状に構成されている。スリンガ32は、ハブ3の軸方向内側の端部外周面に締り嵌めで外嵌固定されたスリンガ円筒部34と、スリンガ円筒部34の軸方向内側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がった、円輪状のスリンガ側板部35とを有する。
【0048】
スリンガ側板部35は、軸方向外側面に、軸方向摺接面36を有する。スリンガ円筒部34は、外周面に、円筒面状の径方向摺接面37を有する。本例では、軸方向摺接面36と径方向摺接面37とにより、組み合わせシールリング6のシールリップ、すなわちアキシアルリップ44、およびラジアルリップ45、46を摺接させるシール摺接面38を構成している。
【0049】
シールリング33は、芯金39と、シール材40とを備える。
【0050】
芯金39は、軟鋼板などの金属板を曲げ成形することにより、全体を円環状に構成されている。芯金39は、外輪2の軸方向内側の端部内周面に締り嵌めで内嵌固定された芯金円筒部41と、芯金円筒部41の軸方向外側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がった、略円輪状の芯金側板部42とを有する。
【0051】
シール材40は、ゴムにより構成され、芯金39に加硫接着により固定されている。シール材40は、基部43、および、先端部が相手部材のシール摺接面に摺接するシールリップR(44、45、46)を備える。本例では、シールリップRとして、アキシアルリップ44、ラジアルリップ45、およびラジアルリップ46を有する。なお、
図3では、アキシアルリップ44、ラジアルリップ45、およびラジアルリップ46のそれぞれを、自由状態で示している。
【0052】
基部43は、芯金39の表面、具体的には、芯金円筒部41の外周面の軸方向内側の端部、軸方向内側の端面、および内周面と、芯金側板部42の軸方向内側面、内周面、および軸方向外側面の径方向内側の端部とを覆っている。
【0053】
アキシアルリップ44は、軸方向摺接面36に対して傾斜する方向に伸長し、具体的には、基部43のうちで芯金側板部42の軸方向内側面の径方向中間部を覆う部分から軸方向内側かつ径方向外側に向かう方向に伸長している。アキシアルリップ44は、先端部を、軸方向摺接面36に全周にわたって摺接させている。軸方向摺接面36に対するアキシアルリップ44の先端部の摺接部には、締め代が設定されている。該締め代は、任意の大きさに設定することができるが、たとえば、0.5mm~1.1mmに設定することができる。
【0054】
ラジアルリップ45は、径方向摺接面37に対して傾斜する方向に伸長し、具体的には、基部43のうちで芯金側板部42の径方向内側の端部を覆う部分から軸方向内側かつ径方向内側に向かう方向に伸長している。ラジアルリップ45は、先端部を、径方向摺接面37の軸方向内側部に全周にわたって摺接させている。径方向摺接面37に対するラジアルリップ45の先端部の摺接部には、締め代が設定されている。該締め代は、任意の大きさに設定することができるが、たとえば、半径値で0.2mm~0.8mmに設定することができる。
【0055】
ラジアルリップ46は、径方向摺接面37に対して傾斜する方向に伸長し、具体的には、基部43のうちで芯金側板部42の径方向内側の端部を覆う部分から軸方向外側かつ径方向内側に向かう方向に伸長している。ラジアルリップ46は、先端部を、径方向摺接面37の軸方向外側部に全周にわたって摺接させている。すなわち、ラジアルリップ46は、先端側に向かうにしたがって内部空間21に向かう方向に伸長しており、内部空間21からのグリースの漏洩を防止する機能に特化したグリースリップである。径方向摺接面37に対するラジアルリップ46の先端部の摺接部には、締め代が設定されている。該締め代は、任意の大きさに設定することができるが、たとえば、半径値で0.2mm以下に設定することができる。
【0056】
本例では、組み合わせシールリング6についても、シールリング5と同様、シールリップR(アキシアルリップ44、ラジアルリップ45、およびラジアルリップ46)の先端部は、
図4および
図5(a)~
図5(c)に示すように、周方向に交互に並べて配置された複数ずつの厚肉部30および薄肉部31を有する。シール摺接面38(軸方向摺接面36、径方向摺接面37)に対するシールリップR(アキシアルリップ44、ラジアルリップ45、およびラジアルリップ46)の先端部(厚肉部30および薄肉部31)の締め代や摺接の態様も、シールリング5と同様である。
【0057】
本例のハブユニット軸受1では、シールリング5および組み合わせシールリング6のそれぞれに関して、シールリップR((アキシアルリップ27、ラジアルリップ28、およびラジアルリップ29)、(アキシアルリップ44、ラジアルリップ45、およびラジアルリップ46))の先端部は、シール摺接面14、38に対して全周にわたり摺接する。すなわち、本例の構造では、特開2018-119648号公報に記載された従来構造と異なり、シールリップRの先端部とシール摺接面14、38との間に、くさび状の隙間が形成されない。このため、シールリップRによる密封性を確保しやすい。
【0058】
本例では、シールリップRの先端部を構成する複数ずつの厚肉部30および薄肉部31のうち、薄肉部31は、厚肉部30よりも肉厚が小さく、かつ、自由状態で周方向中間部が周方向両側の端部よりも、シールリップRの厚さ方向に関してシール摺接面14、38から遠い側に張り出すように湾曲している。このため、シールリップRの先端部が、周方向に引き伸ばされ、かつ、シール摺接面14、38に対して全周にわたり摺接した状態で、シール摺接面14、38に対するシールリップRの先端部の摺接圧、すなわち摩擦力は、厚肉部30が存在する周方向位置よりも、薄肉部31が存在する周方向位置で、小さくなっている。したがって、その分、シール摺接面14、38に対するシールリップRの先端部の摩擦力を低減することができる。つまり、シールリング5および組み合わせシールリング6のそれぞれを、低トルク化することができる。
【0059】
本例では、厚肉部30は、先端側に向かうにしたがって周方向幅が小さくなる形状を有する。このため、先端側に向かうにしたがって外部空間に向かう方向に伸長したシールリップR((アキシアルリップ27、ラジアルリップ28)、(アキシアルリップ44、ラジアルリップ45))に関しては、自動車の走行時に、シール摺接面14、38に付着して連れ回る泥水などの異物が、厚肉部30の周方向側面にぶつかった場合に、該異物を、該周方向側面に沿って厚肉部30の先端側に向けて移動させること、すなわち外部空間に戻す方向に移動させることができる。これに対して、先端側に向かうにしたがって内部空間21に向かう方向に伸長したシールリップR(ラジアルリップ29、ラジアルリップ46)に関しては、自動車の走行時に、内部空間21に存在するグリースを、厚肉部30の周方向側面に沿って内部空間21の軸方向中央側に向けて還流させることができる。
【0060】
なお、本発明を実施する場合には、シールリング5と組み合わせシールリング6とのうちのいずれか一方のシール装置に対してのみ、シールリップの先端部が厚肉部および薄肉部を有する構成を採用することもできる。また、本発明を実施する場合には、シールリング5および組み合わせシールリング6のそれぞれに関して、複数のシールリップのうちの一部のシールリップに対してのみ、厚肉部および薄肉部を有する構成を採用することもできる。
【0061】
本発明のシール装置の構成は、上述した実施の形態のシール装置に限らず、相手部材のシール摺接面に摺接するシールリップRを備えた各種構造のシール装置、たとえば
図6~
図9に示すようなシール装置に適用することもできる。
【0062】
本発明のシール装置は、ハブユニット軸受に限らず、各種の機械装置に組み込まれるシール装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 ハブユニット軸受
2 外輪
3 ハブ
4 転動体
5 シールリング
6 組み合わせシールリング
7a、7b 外輪軌道
8 静止フランジ
9a、9b 内輪軌道
10 回転フランジ
11 軸方向摺接面
12 凹曲面
13 径方向摺接面
14 シール摺接面
15 スプライン孔
16 内輪
17 ハブ輪
18 嵌合筒部
19 かしめ部
20 保持器
21 内部空間
22 芯金
23 シール材
24 嵌合筒部
25 支持板部
26 基部
27 アキシアルリップ
28 ラジアルリップ
29 ラジアルリップ
30 厚肉部
31 薄肉部
32 スリンガ
33 シールリング
34 スリンガ円筒部
35 スリンガ側板部
36 軸方向摺接面
37 径方向摺接面
38 シール摺接面
39 芯金
40 シール材
41 芯金円筒部
42 芯金側板部
43 基部
44 アキシアルリップ
45 ラジアルリップ
46 ラジアルリップ