(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159672
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】クロロプレンラテックス接着剤
(51)【国際特許分類】
C09J 111/00 20060101AFI20231025BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20231025BHJP
C09J 125/10 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
C09J111/00
C09J11/06
C09J125/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069522
(22)【出願日】2022-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 翔太
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040CA081
4J040JA04
4J040JB05
4J040KA29
4J040KA38
4J040LA06
4J040LA10
4J040MA10
4J040MB16
4J040NA12
4J040NA16
4J040PA37
4J040PB03
(57)【要約】
【課題】クロロプレンラテックス接着剤においては、被着体に噴霧した後、できるだけ短い時間で接着力が発揮されること、噴霧後の付着物が付着面にこびりついた場合でもこれを容易に除去できること、40℃を超すような高温環境下で保存しても分離沈降化しにくいことが求められていた。
【解決手段】トルエン溶解透視度が4cm以上のクロロプレンラテックス(a1)35~65重量部、及び、下記で定義されるトルエン溶解透視度が4cm未満のクロロプレンラテックス(a2)85~115重量部、を混合してなるクロロプレンラテックス混合物(a)計150重量部と、界面活性剤0.3~1.7重量部と、酸化防止剤6~17重量部と、スチレン・ブタジエンゴム8~22重量部と、を含む、クロロプレンラテックス接着剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分が40~60%で、
下記で定義されるトルエン溶解透視度が4cm以上のクロロプレンラテックス(a1)35~65重量部、
及び、下記で定義されるトルエン溶解透視度が4cm未満のクロロプレンラテックス(a2)85~115重量部、
を混合してなるクロロプレンラテックス混合物(a)計150重量部と、
界面活性剤0.3~1.7重量部と、
酸化防止剤6~17重量部と、
スチレン・ブタジエンゴム8~22重量部と、
を含む、クロロプレンラテックス接着剤。
トルエン溶解透視度:クロロプレンラテックス樹脂を常温で乾燥してなる樹脂皮膜1重量部をトルエン10重量部に溶解させてなる溶解液をJIS K 0102:2016に基づいて測定した透視度(cmで表す)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ウレタンフォームなどの多孔質な材料同士を接着するクロロプレンラテックス接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多孔質基材である被着材の両面又は片面にスプレーガン等を使用して塗布し、塗布面を貼り合わせて使用するクロロプレンラテックス接着剤、具体的には車両用内装品、座椅子、ソファー等の家具等、寝具、枕等に使用されるフォーム材を接着させる、あるいはウレタンフォーム同士を接着させる一液型のクロロプレンラテックス接着剤が知られている(例えば特許文献1、2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-219859
【特許文献2】特開2017-222804
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クロロプレンラテックス接着剤はその性質上、被着体に噴霧した直後には接着力は発揮されず、溶剤が揮発するにつれて接着力が発揮される。作業性を考えると、被着体に噴霧した後、できるだけ短い時間で接着力が発揮されることが望ましい(以下、上記の噴霧した後から接着力が発揮されるまでの時間をオープンタイムという)。
【0005】
一方、クロロプレンラテックス接着剤のスプレーガンでの塗布作業においては、スプレーガンから放出された接着剤が被着面以外に飛び散り、作業者の手や腕などに付着することが多々ある。付着した接着剤(以下、付着物という)は乾燥前には比較的容易に除去できるが、乾燥してしまうと付着表面に付着物が固着した状態、いわゆるこびりついた状態となってしまう。この付着物がこびりついた状態での付着物の除去は容易ではない(以下、この課題を「除去性」という場合がある)。
【0006】
また、クロロプレンラテックス接着剤は、気温が40℃を超すような高温環境化において保管される場合がある。従来のクロロプレンラテックス接着剤をこのような高温環境下で保管すると、内容物の分離沈降化が進み、使用できなくなることもあった。このような場合、従来はこれを保管する際に高温でない環境下に都度運び直すなど、手間がかかることがあった(以下、この課題を「保存性」という場合がある)。
【0007】
ところで、本願出願人は上記の除去性解決のための発明として、日本国特許出願・特願2021-052526において、以下のクロロプレンラテックス接着剤を提案している(以下、これを先行発明という)。
【0008】
固形分が40~60%で、
下記で定義されるトルエン溶解透視度が4cm以上のクロロプレンラテックス(a1)60~80重量部、
及び、下記で定義されるトルエン溶解透視度が4cm未満のクロロプレンラテックス(a2)20~40重量部と、
を混合してなるクロロプレンラテックス混合物(a)計100重量部と、
安息香酸系可塑剤(b)20~40重量部と、
pH調整剤2~10重量部、
を含むクロロプレンラテックス接着剤。
トルエン溶解透視度:クロロプレンラテックス樹脂を常温で乾燥してなる樹脂皮膜1重量部をトルエン10重量部に溶解させてなる溶解液をJIS K 0102:2016に基づいて測定した透視度(cm)
【0009】
なお、上記の「トルエン溶解透視度(cm)」の詳細については後述する。
【0010】
また、以下、トルエン溶解透視度が4cm以上のクロロプレンラテックス(a1)を「高透視度ラテックス(a1)」、トルエン溶解透視度が4cm未満のクロロプレンラテックス(a2)を「低透視度ラテックス(a2)」と略称する場合がある。
【0011】
この先行発明によれば、高透視度ラテックス(a1)及び低透視ラテックス(a2)を混合してなるクロロプレンラテックス混合物(a)を含むことにより、スプレーガン等を使用した塗布作業時において、被着面以外に付着した付着物を容易に除去できるとともに、被着体においては十分な接着強度を有するものである。
【0012】
しかしながら、この先行発明によっても上記の保存性解決のためには改良の余地があった。すなわち、以上のとおり、クロロプレンラテックス接着剤においては、被着体に噴霧した後、できるだけ短い時間で接着力が発揮されること、すなわち、オープンタイムができるだけ短いこと、噴霧後の付着物が付着面にこびりついた場合でもこれを容易に除去できること、40℃を超すような高温環境下で保存しても分離沈降化しにくいことが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題解決のための本発明は、上記の先行発明を元にこれにさらに改良を加えてなし得たものである。
【0014】
すなわち、本発明のクロロプレンラテックス接着剤は、
固形分が40~60%で、
下記で定義されるトルエン溶解透視度が4cm以上のクロロプレンラテックス(a1)35~65重量部と、
及び、下記で定義されるトルエン溶解透視度が4cm未満のクロロプレンラテックス(a2)85~115重量部と、
を混合してなるクロロプレンラテックス混合物(a)150重量部と、
界面活性剤0.3~1.7重量部と、
酸化防止剤6~17重量部と、
スチレン・ブタジエンゴム8~22重量部と、
を含む、クロロプレンラテックス接着剤である。
トルエン溶解透視度:クロロプレンラテックス樹脂を常温で乾燥してなる樹脂皮膜1重量部をトルエン10重量部に溶解させてなる溶解液をJIS K 0102:2016に基づいて測定した透視度(cmで表す)
【0015】
なお以下、前述のとおり、トルエン溶解透視度が4cm以上のクロロプレンラテックス(a1)を「高透視度ラテックス(a1)」、トルエン溶解透視度が4cm未満のクロロプレンラテックス(a2)を「低透視度ラテックス(a2)」と略称する場合がある。
【発明の効果】
【0016】
本発明のクロロプレンラテックス接着剤では、高透視度ラテックス(a1)及び低透視ラテックス(a2)を混合してなるクロロプレンラテックス混合物(a)を含むことにより、スプレーガン等を使用した塗布作業時において、被着面以外に付着した付着物を容易に除去できるとともに、被着体においては十分な接着強度を有する。
【0017】
さらに、これに界面活性剤、酸化防止剤及びスチレン・ブタジエンゴムが含まれることにより、スプレーガン等を使用した塗布作業時において、オープンタイムが短く、被着面以外に付着した付着物を容易に除去でき、また、40℃を超すような高温環境下で保存しても分離沈降しにくいクロロプレンラテックス接着剤が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明で使用する高透視度ラテックス(a1)及び低透視度ラテックス(a2)は、ともに固形分が40~60%のクロロプレンラテックスであれば特に限定されず、市販品を用いることができる。例えば、東ソー株式会社製、スカイプレンSL-360、SL-390、SL-590(以上商品名)、コベストロ社製、DISPERCOLL C84(商品名)などを用いることができる。
【0020】
次いで、以下に本発明にかかる「トルエン溶解透視度」について説明する。なお、この「トルエン溶解透視度」については、前述の先行発明における場合も同様である。
【0021】
固形分が40~60%の任意のクロロプレンラテックスを複数用意し、これらを常温で乾燥させてなる樹脂皮膜を得る。次いで、これら樹脂皮膜のそれぞれ1重量部をトルエン10重量部にそれぞれ溶解させる(以下これをラテックス・トルエン溶解液という)。
【0022】
次いで、このラテックス・トルエン溶解液をJIS K 0102:2016「工場排水試験方法」に定める透視度計に満たし、透視度計の上部から底部を透視する。そして、透視度計の底にある標識板の二重十字が初めて明らかに識別できるまで、下口から溶解液を流出させ、標識板の二重十字が初めて明らかに識別できたときのラテックス・トルエン溶解液の水面の目盛り(cm)を読み取る。この読み取った値をクロロプレンラテックスの「トルエン溶解透視度」(単位:cm)とする。
【0023】
そして、このようにしてトルエン溶解透視度を測定したクロロプレンラテックスのうち、トルエン溶解透視度が4cm以上のものを高透視度ラテックス(a1)、トルエン溶解透視度が4cm未満のものを低透視度ラッテクス(a2)とする。
【0024】
次いで、高透視度ラテックス(a1)35~65重量部と、低透視ラテックス(a2)85~115重量部とを合計で150重量部となるよう混合し、クロロプレンラテックス混合物(a)150重量部とする。
【0025】
混合割合については、例えば、高透視度ラテックス(a1)を35重量部とする場合は低透視度ラテックス(a2)を115重量部、高透視度ラテックス(a1)を65重量部とする場合は低透視度ラテックス(a2)を85重量部混合させて、クロロプレンラテックス混合物(a)150重量部とする。
【0026】
界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩系やラウリル硫酸ナトリウム系のものを用いることができる。市販品として、例えば、第一工業薬品社製(商品名)、ハイテノールNF-08、ハイテノールNF-13、ハイテノールNF-17、花王社製(商品名)、エマール2F-30、エマールD-3-D、ラムデルE-1000Aなどを用いることができる。
【0027】
酸化防止剤としては、オリゴマー型(フェノール系)酸化防止剤などを用いることができる。市販品としては、例えば、中京油脂社製(商品名)、セロゾールK-840などを用いることができる。
【0028】
スチレン・ブタジエンゴムとしては、市販品としては、旭化成ケミカルズ社製(商品名)、L-7230、L-5930、L-2301、L-3200などを用いることができる。
【0029】
また、本発明のクロロプレンラテックス接着剤においては、必要により、可塑剤、ph調整剤、顔料を適宜添加してもよい。
【0030】
安息香酸系可塑剤(b)としては、市販品を用いることができる。例えば、アデカ社製(商品名)、アデカサイザーPN-6122などを用いることができる。
【0031】
本発明のクロロプレンラテックス接着剤は、初期接着力を高めるために、pH調整剤(c)を配合させてpHを7.0~10.0の範囲とすることが好ましい。pH調整剤(c)は、グリシン、アラニン、フェニルアラニン及びグルタミン酸等を用いることができ、これらの中でもグリシンを用いることが好ましい。
【0032】
そして、クロロプレンラテックス混合物(a)150重量部に、安息香酸系可塑剤(b)20~40重量部、pH調整剤(c)2~10重量部、を配合させて本発明のクロロプレンラテックス接着剤を得る。
【実施例0033】
クロロプレンラテックスとして、東ソー社製(商品名)、スカイプレンラテックスSL-360(固形分50~54%)、コベストロ社製(商品名)、DISPERCOLL C84(固形分54.5~55.5%)をそれぞれ用意し、これらのトルエン溶解透視度を下記要領にて測定した。
【0034】
まず、これらクロロプレンラテックスを常温で乾燥させて各樹脂皮膜を作成し、各樹脂皮膜1重量部をトルエン10重量部の割合でトルエンに溶解させ、各ラテックス・トルエン溶解液を得た。
【0035】
各ラテックス・トルエン溶解液を、アズワン社製透視度計(商品名)、ST-30に満たし、それぞれのトルエン透視度を測定した。結果は以下の通りであった。
【0036】
SL-360 :4.0cm
C84 :1.5cm
上記測定結果より、SL-360を実施例の高透視度ラテックス(a1)、C84を実施例の低透視ラテックス(a2)とする。
【0037】
次いで、これら高透視度ラテックス(a1)及び低透視度ラテックス(a2)を表1及び表2に記載のとおりの重量割合で配合し、実施例1~8及び比較例1~7のクロロプレンラテックス混合物(a)各150重量部を調製した。
【0038】
次いで、安息香酸系可塑剤(b)として、アデカ社製(商品名)、アデカサイザーPN-6122、pH調整剤としてグリシンを用意し、表1及び表2に記載の重量割合で混合した。
【0039】
さらに、スチレン・ブタジエンゴムとして旭化成ケミカルズ社製(商品名)、L-7230を表のとおり添加し、実施例及び比較例の各クロロプレンラテックス接着剤(以下単に接着剤という)を得た。
【0040】
比較例については、実施例に対して以下の条件での比較として用意した。
【0041】
比較例1:クロロプレンラテックス混合物に対し、界面活性剤、酸化防止剤及びSBRのいずれも添加しない
比較例2:クロロプレンラテックス混合物に対し、界面活性剤のみ添加する
比較例3:クロロプレンラテックス混合物に対し、酸化防止剤のみ添加する
比較例4:クロロプレンラテックス混合物に対し、SBRのみ添加する
比較例5:クロロプレンラテックス混合物に対し、界面活性剤及び酸化防止剤を添加し、SBRを添加しない
比較例6:クロロプレンラテックス混合物に対し、界面活性剤及びSBRを添加し、酸化防止剤を添加しない
比較例7:クロロプレンラテックス混合物に対し、酸化防止剤及びSBRを添加し、界面活性剤を添加しない
【0042】
これら実施例及び比較例の各接着剤の除去性及び接着性を下記にて評価した。なお、以下、各評価項目において「○」を合格、「△」又は「×」を不合格とする。
<初期接着性>
本発明の接着剤の接着性を評価するための基材1として、イノアックコーポレーション社製ウレタンフォーム(商品名)、カラーフォームEMO(8cm×18cm×厚みt2.5cm)を用意する。なお、
図1は基材1を正面から見た図である。
【0043】
次いで、基材1を長尺方向の中央、すなわち、
図1の一点鎖線で示す折り曲げ線2に沿って折り曲げ、この折り曲げ方向の上下端に12mmのマスキングテープを貼る。20℃の環境のもと、基材に実施例及び比較例の各組成物をスプレーで70g/m2塗布し、塗布後、下記のオープンタイム経過後に折り曲げる。
【0044】
これを以下の基準で評価した。フォーム同士のつまみ試験を行い、オープンタイム別(30秒、1分、3分、5分)でフォームの反発を抑えられるか確認した。
○:オープンタイムが1分以内である
△:オープンタイムが1分を超え、3分以内である
×:オープンタイムが3分を超える
【0045】
<除去性>
実施例及び比較例の各接着剤を親指と人差し指で触れて、この状態で親指及び人差し指同士を擦り合わせ、接着剤の除去具合を評価した。
○:指を擦り合わせて膜が容易に除去できた
×:指を擦り合わせて膜の除去が困難であった
【0046】
<高温保存性>
50℃の環境下で放置し、以下に示す所定の日数の放置後の状態を下記基準で評価した。なお、前述の通り、本発明の実際の使用環境は40℃以上を想定しているが、本項の評価にあたっては、より厳しい温度条件下での性状を評価するため、50℃の環境下での試験とした。
保存性1:3日間放置した
保存性2:7日間放置した
放置後の状態の評価
○:色抜けが無く、かつ、分離沈降が無い
△:色抜けがあり、かつ、分離沈降が無い
×:色抜けがあり、かつ、分離沈降がある
【0047】
実施例及び比較例の各接着剤の評価結果を、それぞれ表1及び表2に示す。
【表1】
【0048】
【0049】
表1に示す評価結果より、配合例1の水性ウレタンフォーム接着剤は、いずれの評価項目も「合格」であった。初期接着性、洗浄性及び高温保存性のいずれの性状も本発明の目的とするところを満たすものであった。
【0050】
比較例1~7はいずれも初期接着性及び洗浄性は満たしていたが、いずれも保存性においては所望の性状を満たしていなかった。