(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159678
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】積層造形物の品質管理方法、積層造形物の品質管理装置、プログラム、溶接制御装置及び溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/04 20060101AFI20231025BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20231025BHJP
B33Y 50/00 20150101ALI20231025BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20231025BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20231025BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20231025BHJP
B22F 10/80 20210101ALI20231025BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K31/00 L
B23K31/00 D
B23K31/00 Z
B33Y50/00
B33Y50/02
B33Y10/00
B33Y30/00
B22F10/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069534
(22)【出願日】2022-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】椿 翔太
(72)【発明者】
【氏名】片岡 保人
(72)【発明者】
【氏名】黄 碩
(72)【発明者】
【氏名】近口 諭史
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
(57)【要約】
【課題】製造前の造形計画の段階で積層造形物の品質を予見できる積層造形物の品質管理方法、積層造形物の品質管理装置、プログラム、溶接制御装置及び溶接装置を提供する。
【解決手段】積層造形物の品質管理方法は、積層造形物の応力拡大係数の限界値を取得する工程と、積層造形物が設計上想定される負荷応力の変動範囲、及び限界値を含む条件値を用いて、積層造形物に含まれる欠陥の許容欠陥寸法を求める工程と、造形計画に基づいて積層造形物を製造する際に積層造形物に生じ得る欠陥の欠陥寸法の予測値、又は造形計画に基づいて作製された試験体に生じた欠陥の欠陥寸法の実測値のうち、いずれか一方を欠陥寸法に設定する工程と、欠陥寸法と許容欠陥寸法とを比較して、ビード又は積層造形物の品質を良否判定する工程と、を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定めた造形計画に基づいて、溶加材を溶融及び凝固させたビードを層状に繰り返し重ねて形成する積層造形物の品質管理方法であって、
前記積層造形物の応力拡大係数の限界値を取得する工程と、
前記積層造形物が設計上想定される負荷応力の変動範囲、及び前記限界値を含む条件値を用いて、前記積層造形物に含まれる欠陥の許容欠陥寸法を求める工程と、
前記造形計画に基づいて前記積層造形物を製造する際に前記積層造形物に生じ得る欠陥の欠陥寸法の予測値、又は前記造形計画に基づいて作製された試験体に生じた欠陥の欠陥寸法の実測値のうち、いずれか一方を欠陥寸法に設定する工程と、
前記欠陥寸法と前記許容欠陥寸法とを比較して、前記ビード又は前記積層造形物の品質を良否判定する工程と、
を含む積層造形物の品質管理方法。
【請求項2】
前記限界値は、前記積層造形物の下限界応力拡大係数又は破壊靱性値のいずれかである、
請求項1に記載の積層造形物の品質管理方法。
【請求項3】
前記許容欠陥寸法を、前記欠陥の形状種ごとに設定する、
請求項1に記載の積層造形物の品質管理方法。
【請求項4】
前記許容欠陥寸法を、前記欠陥の形状種ごとに設定する、
請求項2に記載の積層造形物の品質管理方法。
【請求項5】
前記予測値を、前記造形計画と前記ビードの形状を測定した結果とに基づいて設定する、
請求項1に記載の積層造形物の品質管理方法。
【請求項6】
前記予測値を、前記造形計画と前記ビードの形状を測定した結果とに基づいて設定する、
請求項4に記載の積層造形物の品質管理方法。
【請求項7】
前記限界値を、前記ビードの表面粗さに応じて決定する、
請求項1~6のいずれか1項に記載の積層造形物の品質管理方法。
【請求項8】
前記予測値を、前記積層造形物の製造条件、前記ビードの形状の少なくとも一方と、前記欠陥寸法との関係を機械学習して得られる推定モデルを用いて予測する、
請求項1~6のいずれか1項に記載の積層造形物の品質管理方法。
【請求項9】
前記予測値を、前記積層造形物の製造条件、前記ビードの形状の少なくとも一方と、前記欠陥寸法との関係を機械学習して得られる推定モデルを用いて予測する、
請求項7に記載の積層造形物の品質管理方法。
【請求項10】
前記欠陥寸法と前記許容欠陥寸法とを比較して、前記欠陥寸法が前記許容欠陥寸法よりも大きい場合に、前記積層造形物の製造条件を修正する工程をさらに含む、
請求項1~6のいずれか1項に記載の積層造形物の品質管理方法。
【請求項11】
前記欠陥寸法と前記許容欠陥寸法とを比較して、前記欠陥寸法が前記許容欠陥寸法よりも大きい場合に、前記積層造形物の製造条件を修正する工程をさらに含む、
請求項9に記載の積層造形物の品質管理方法。
【請求項12】
前記許容欠陥寸法よりも大きい前記欠陥寸法の位置を欠陥位置と特定し、
前記欠陥位置の前記ビードを、熱エネルギーを供する熱源により再溶融させる工程と、
をさらに含む、請求項10に記載の積層造形物の品質管理方法。
【請求項13】
前記許容欠陥寸法よりも大きい前記欠陥寸法の位置を欠陥位置と特定し、
前記欠陥位置の前記ビードを、熱エネルギーを供する熱源により再溶融させる工程と、
をさらに含む、請求項11に記載の積層造形物の品質管理方法。
【請求項14】
前記許容欠陥寸法よりも大きい前記欠陥寸法の位置を欠陥位置と特定し、
前記欠陥位置を含むビードの一部を切削加工により除去する工程をさらに含む、請求項10に記載の積層造形物の品質管理方法。
【請求項15】
前記許容欠陥寸法よりも大きい前記欠陥寸法の位置を欠陥位置と特定し、
前記欠陥位置を含むビードの一部を切削加工により除去する工程をさらに含む、請求項11に記載の積層造形物の品質管理方法。
【請求項16】
前記許容欠陥寸法よりも大きい前記欠陥寸法の位置を欠陥位置と特定し、
前記欠陥位置を含むビードの一部を切削加工により除去する工程をさらに含む、請求項12に記載の積層造形物の品質管理方法。
【請求項17】
前記許容欠陥寸法よりも大きい前記欠陥寸法の位置を欠陥位置と特定し、
前記欠陥位置を含むビードの一部を切削加工により除去する工程をさらに含む、請求項13に記載の積層造形物の品質管理方法。
【請求項18】
予め定めた造形計画に基づいて、溶加材を溶融及び凝固させたビードを層状に繰り返し重ねて形成する積層造形物の品質管理方法の手順をコンピュータに実行させるプログラムであって、
コンピュータに、
前記積層造形物の応力拡大係数の限界値を取得する手順と、
前記積層造形物が設計上想定される負荷応力の変動範囲、及び前記限界値を含む条件値を用いて、前記積層造形物に含まれる欠陥の許容欠陥寸法を求める手順と、
前記造形計画に基づいて前記積層造形物を製造する際に前記積層造形物に生じ得る欠陥の欠陥寸法の予測値、又は前記造形計画に基づいて作製された試験体に生じた欠陥の欠陥寸法の実測値のうち、いずれか一方を欠陥寸法に設定する手順と、
前記欠陥寸法と前記許容欠陥寸法とを比較して、前記ビード又は前記積層造形物の品質を良否判定する手順と、
を実行させるためのプログラム。
【請求項19】
予め定めた造形計画に基づいて、溶加材を溶融及び凝固させたビードを層状に繰り返し重ねて形成する積層造形物の品質管理装置であって、
前記積層造形物の応力拡大係数の限界値を取得する限界値取得部と、
前記積層造形物が設計上想定される負荷応力の変動範囲、及び前記限界値を含む条件値を用いて、前記積層造形物に含まれる欠陥の許容欠陥寸法を求める許容欠陥寸法設定部と、
前記造形計画に基づいて前記積層造形物を製造する際に前記積層造形物に生じ得る欠陥の欠陥寸法の予測値、又は前記造形計画に基づいて作製された試験体に生じた欠陥の欠陥寸法の実測値のうち、いずれか一方を欠陥寸法に設定する欠陥寸法設定部と、
前記欠陥寸法と前記許容欠陥寸法とを比較して、前記ビード又は前記積層造形物の品質を良否判定する判定部と、
を含む積層造形物の品質管理装置。
【請求項20】
請求項19に記載の積層造形物の品質管理装置と、
前記品質管理装置から出力された前記良否判定の結果に応じてアーク溶接の続行又は停止を制御する制御部と、
を備える溶接制御装置。
【請求項21】
請求項20に記載の溶接制御装置と、
アーク溶接を行う溶接ロボットと、
を備える溶接装置。
【請求項22】
前記積層造形物に生じた前記欠陥を補修する欠陥補修部と、
前記欠陥寸法と前記許容欠陥寸法とを比較して、前記欠陥寸法が前記許容欠陥寸法よりも大きい場合に、当該欠陥寸法が大きくなる部位を補修するための補修指示信号を前記欠陥補修部に出力する補修指示部と、
をさらに含む請求項21に記載の溶接装置。
【請求項23】
前記補修指示部は、前記積層造形物の製造前、又は前記積層造形物の製造中における前記ビードのパス間時間の間で、前記欠陥補修部に前記欠陥を補修させる、
請求項22に記載の溶接装置。
【請求項24】
前記欠陥補修部は、前記欠陥寸法が大きくなる部位を熱源により再溶融させる、
請求項22又は23に記載の溶接装置。
【請求項25】
前記欠陥補修部は、前記欠陥寸法が大きくなる部位を含むビードの一部を、切削加工により除去する、
請求項22又は23に記載の溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形物の品質管理方法、積層造形物の品質管理装置、プログラム、溶接制御装置及び溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アディティブマニュファクチャリング(Additive Manufacturing)と呼ばれる金属加工技術の一つとして、金属積層造形技術が知られている。この金属積層造形技術では、3D-CAD等の三次元データをもとにして、スライスされた二次元の層を一層ずつ積み重ねることにより、三次元の積層造形物の製造を可能にする。また、積層造形物の製造途中で、造形された形状をセンサにより計測し、その計測結果に応じて次に形成する層等に対する造形条件を調整して、積層造形物の品質を高めることも行われている。
【0003】
このような積層造形物の品質管理において、造形途中にセンサで計測されるデータを、負荷情報と力流情報とに対応させ、センサによる計測値を品質に対する影響の観点で分類、判定する技術が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記した金属積層造形においては、金属の堆積を繰り返す過程で金属の融合不良などによる欠陥が生じることがある。この欠陥には、品質上致命的な影響を与える有害な欠陥と、積層造形物の要求仕様に対して特に影響を及ぼさない無害な欠陥とがある。欠陥が有害か無害かの判定基準は、通常、品質保証又は管理の基準に応じて設定される。この基準については、実際に造形した後に各種試験を実施して明確化するよりも、造形前に特定されている方が好ましく、良好な造形計画が立てやすくなる。
【0006】
しかしながら、製造前の造形計画の段階から積層造形物の品質を予見することは難しい。特許文献1では、実際の溶融スポットの形状と大きさを検出したセンサ値に基づいて、溶融不足の位置を特定し、特定された位置が、負荷支持領域又はクリティカルな負荷領域に存在する場合に欠陥が生じたと判定しており、造形計画の段階では品質評価がなされていない。
【0007】
そこで本発明は、製造前の造形計画の段階で積層造形物の品質を予見できる積層造形物の品質管理方法、積層造形物の品質管理装置、プログラム、溶接制御装置及び溶接装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の構成からなる。
(1) 予め定めた造形計画に基づいて、溶加材を溶融及び凝固させたビードを層状に繰り返し重ねて形成する積層造形物の品質管理方法であって、
前記積層造形物の応力拡大係数の限界値を取得する工程と、
前記積層造形物が設計上想定される負荷応力の変動範囲、及び前記限界値を含む条件値を用いて、前記積層造形物に含まれる欠陥の許容欠陥寸法を求める工程と、
前記造形計画に基づいて前記積層造形物を製造する際に前記積層造形物に生じ得る欠陥の欠陥寸法の予測値、又は前記造形計画に基づいて作製された試験体に生じた欠陥の欠陥寸法の実測値のうち、いずれか一方を欠陥寸法に設定する工程と、
前記欠陥寸法と前記許容欠陥寸法とを比較して、前記ビード又は前記積層造形物の品質を良否判定する工程と、
を含む積層造形物の品質管理方法。
(2) 予め定めた造形計画に基づいて、溶加材を溶融及び凝固させたビードを層状に繰り返し重ねて形成する積層造形物の品質管理方法の手順をコンピュータに実行させるプログラムであって、
コンピュータに、
前記積層造形物の応力拡大係数の限界値を取得する手順と、
前記積層造形物が設計上想定される負荷応力の変動範囲、及び前記限界値を含む条件値を用いて、前記積層造形物に含まれる欠陥の許容欠陥寸法を求める手順と、
前記造形計画に基づいて前記積層造形物を製造する際に前記積層造形物に生じ得る欠陥の欠陥寸法の予測値、又は前記造形計画に基づいて作製された試験体に生じた欠陥の欠陥寸法の実測値のうち、いずれか一方を欠陥寸法に設定する手順と、
前記欠陥寸法と前記許容欠陥寸法とを比較して、前記ビード又は前記積層造形物の品質を良否判定する手順と、
を実行させるためのプログラム。
(3) 予め定めた造形計画に基づいて、溶加材を溶融及び凝固させたビードを層状に繰り返し重ねて形成する積層造形物の品質管理装置であって、
前記積層造形物の応力拡大係数の限界値を取得する限界値取得部と、
前記積層造形物が設計上想定される負荷応力の変動範囲、及び前記限界値を含む条件値を用いて、前記積層造形物に含まれる欠陥の許容欠陥寸法を求める許容欠陥寸法設定部と、
前記造形計画に基づいて前記積層造形物を製造する際に前記積層造形物に生じ得る欠陥の欠陥寸法の予測値、又は前記造形計画に基づいて作製された試験体に生じた欠陥の欠陥寸法の実測値のうち、いずれか一方を欠陥寸法に設定する欠陥寸法設定部と、
前記欠陥寸法と前記許容欠陥寸法とを比較して、前記ビード又は前記積層造形物の品質を良否判定する判定部と、
を含む積層造形物の品質管理装置。
(4) (3)に記載の積層造形物の品質管理装置と、
前記品質管理装置から出力された前記良否判定の結果に応じてアーク溶接の続行又は停止を制御する制御部と、
を備える溶接制御装置。
(5) (4)に記載の溶接制御装置と、
アーク溶接を行う溶接ロボットと、
を備える溶接装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、製造前の造形計画の段階で積層造形物の品質を予見できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】
図2は、制御情報生成装置の概略的な機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、制御情報生成方法の手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、き裂進展速度と応力拡大係数範囲との関係を模式的に示すグラフである。
【
図5】
図5は、積層造形物のビードの積層の様子を断面形状で示す説明図である。
【
図6】
図6は、千鳥状にビードを配置した場合の一つの狭隘部を模式的に示す断面図である。
【
図7A】
図7Aは、欠陥を有する狭隘部を再溶融させる様子を示す概略断面図である。
【
図8A】
図8Aは、狭隘部の欠陥を機械的に除去する様子を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の構成例について、図面を参照して詳細に説明する。ここでは、溶加材を溶融及び凝固させたビードを積層して三次元形状の積層造形物を製造する溶接装置に適用する例を説明するが、これに限らず、隅肉溶接、突き合わせ溶接等の一般的な溶接についても本発明の適用が可能である。
【0012】
<溶接システム>
図1は、溶接システムの全体構成図である。
溶接システム100は、溶接装置110と、溶接制御装置120とを備える。溶接制御装置120は、制御部11と、品質管理装置130とを有している。
【0013】
(溶接装置)
まず、溶接装置110の構成を説明する。
溶接装置110は、溶接ロボット13と、ロボット駆動部15と、溶加材供給部17と、溶接電源部19と、形状検出部21とを備える。これらの溶接ロボット13、ロボット駆動部15、溶加材供給部17、溶接電源部19及び形状検出部21は、それぞれ制御部11に接続されている。また、制御部11には、詳細を後述するドリル、フライス工具等のツール29が装着可能な機械加工部30が接続され、制御部11からの指令に応じて、切削加工等の所望の機械加工が可能になっている。機械加工部30と溶接装置110は、後述する欠陥補修部としても機能する。
【0014】
溶接ロボット13は、多関節ロボットであり、その先端軸に溶接トーチ27が装着されている。ロボット駆動部15は、溶接ロボット13を駆動する指令を出力し、溶接トーチ27の位置及び姿勢をロボットアームの自由度の範囲で三次元的に任意に設定する。また、溶接トーチ27の先端には、連続供給される溶加材(溶接ワイヤ)Mが支持される。
【0015】
溶接トーチ27は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給されるガスメタルアーク溶接用のトーチである。アーク溶接法としては、被覆アーク溶接又は炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接又はプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する積層造形物(溶接構造物)に応じて適宜選定される。例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。溶接トーチ27は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。
【0016】
溶加材供給部17は、溶加材Mが巻回されたリール17aを備える。溶加材Mは、溶加材供給部17からロボットアーム等に取り付けられた繰り出し機構(不図示)に送られ、必要に応じて繰り出し機構により正逆方向に送給されながら溶接トーチ27へ送給される。
【0017】
溶加材Mとしては、あらゆる市販の溶接ワイヤを使用できる。例えば、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ(JIS Z 3312)、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ(JIS Z 3313)等で規定される溶接ワイヤが使用可能である。さらに、求められる特性に応じてアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル基合金等の溶加材Mの使用も可能である。
【0018】
溶接電源部19は、トーチ先端からアークを発生させるための溶接電流及び溶接電圧を溶接トーチ27に供給する。
【0019】
形状検出部21は、溶接ロボット13の先端軸又は先端軸の近傍に設けられ、溶接トーチ27の先端付近を計測領域とする。形状検出部21は、溶接トーチ27とは別位置に設けた他の検出手段であってもよい。
【0020】
本構成の形状検出部21は、溶接ロボット13の駆動によって溶接トーチ27とともに移動され、ビードB及びビードBを形成する際の下地となる部分の形状を計測する。この形状検出部21としては、例えば、照射したレーザ光の反射光を高さ情報として取得するレーザセンサを使用できる。また、形状検出部21として、三次元形状計測用のカメラ等、他の検出手段を利用してもよい。
【0021】
上記構成の溶接装置110においては、ロボット駆動部15に、作製しようとする積層造形物に応じた造形プログラムが制御部11から送信されてくる。造形プログラムは、多数の命令コードにより構成され、積層造形物の形状データ(CADデータ等)、材質、入熱量等の諸条件に応じて、適宜なアルゴリズムに基づいて作成される。
【0022】
ロボット駆動部15は、受信した造形プログラムを実行して、溶接ロボット13、溶加材供給部17及び溶接電源部19等を駆動し、造形プログラムに設定された軌道に沿ってビードBを形成する。つまり、ロボット駆動部15は、溶接ロボット13を駆動して、造形プログラムに設定された溶接トーチ27の軌道(ビード形成軌道)に沿って溶接トーチ27を移動させる。これとともに、設定された溶接条件に応じて溶加材供給部17及び溶接電源部19を駆動して、溶接トーチ27の先端の溶加材Mをアークによって溶融、凝固させる。これにより、ベースプレートP上に、溶接トーチ27の軌道に沿ってビードBが形成される。そして、複数のビードBからなるビード層が形成され、このビード層の上に次層のビード層が積層される等して、所望の三次元形状の積層造形物Wが造形される。
【0023】
溶接制御装置120は、図示を省略するが、CPU等のプロセッサと、ROM、RAM等のメモリと、HD(ハードディスクドライブ)、SSD(ソリッドステートドライブ)等の記憶部とを含むコンピュータデバイスにより構成される。上記した溶接制御装置120の各構成要素は、それぞれCPUの指令によって動作して、それぞれの機能を発揮する。また、溶接制御装置120は、溶接装置110と離隔して配置され、ネットワーク等の通信手段を介して遠隔地から溶接装置110に接続される構成であってもよい。
【0024】
溶接制御装置120を構成する制御部11は、
図1に示すロボット駆動部15、溶加材供給部17、溶接電源部19及び形状検出部21を統括して制御する。制御部11は、予め用意された駆動プログラム、又は所望の条件で作成した駆動プログラムを実行して、溶接ロボット13等の各部を駆動する。このようにして駆動プログラムに応じて溶接トーチ27を移動させ、作成した造形計画に基づいてベースプレートP上に複数層のビードBを積層することで、多層構造の積層造形物Wが造形される。
【0025】
<品質管理装置>
図2は、品質管理装置130の概略的な機能ブロック図である。
品質管理装置130は、溶接装置110によって溶加材Mを溶融及び凝固させて形成する複数のビードを層状に重ねて積層造形物を造形する際に、積層造形物に生じる欠陥の有無及び欠陥寸法を予測して、積層造形物の良否判定を行う。また、欠陥の大きさに応じて、予め定めた造形計画に基づいて溶接装置110の各部を駆動するための造形プログラム(即ち、造形計画)を必要に応じて修正する。例えば、予め定めた造形計画どおりにビードを形成すると、ビード高さが不均一になったり、ビード内部に未溶着部分(欠陥)が発生したりすることを、造形計画を変更・調整することで未然に防止する。品質管理装置130は、このような造形計画を更新するための制御情報を生成し、その制御情報を制御部11に出力する。この品質管理装置130は、それぞれ詳細を後述する限界値取得部31と、許容欠陥寸法設定部33と、欠陥寸法設定部35と、判定部37とを含んで構成される。また、品質管理装置130は、詳細を後述する補修指示部39を有していてもよい。コンピュータデバイスで構成される品質管理装置130は、予め用意されたプログラムを実行することで、上記した機能を発揮するようになっている。
【0026】
<品質管理方法の手順>
次に、上記構成の品質管理装置130の各部の動作について説明する。
品質管理装置130は、予め定めた造形計画に基づいて、溶加材Mを溶融及び凝固させたビードBを層状に繰り返し重ねて形成した積層造形物(又はビード)の品質を管理する。
【0027】
この品質管理方法の手順には、概略的に次の(1)~(4)の工程が含まれる。
(1)限界値取得部31が、積層造形物に要求される応力拡大係数の下限界応力拡大係数範囲又は破壊靱性値等の応力拡大係数の限界値を取得する工程。
(2)許容欠陥寸法設定部33が、積層造形物が設計上想定される負荷応力の変動範囲、及び上記の限界値を含む条件値を用いて、積層造形物に含まれる欠陥の許容欠陥寸法を求める工程。
(3)欠陥寸法設定部35が、造形計画に基づいて積層造形物を製造する際に積層造形物に生じ得る欠陥の欠陥寸法の予測値、又は造形計画に基づいて作製された試験体に生じた欠陥の欠陥寸法の実測値のうち、いずれか一方を欠陥寸法に設定する工程。
(4)判定部37が、欠陥寸法と許容欠陥寸法とを比較して、ビード又は積層造形物の品質を良否判定する工程。
【0028】
上記の各工程について、
図3を参照して説明する。
図3は、品質管理方法の手順を示すフローチャートである。
まず、作製する積層造形物の応力拡大係数の限界値である下限界応力拡大係数範囲を取得する(ステップS1:以降S1という。)。積層造形物は、製品設計段階でその材料が選択されており、その材料の応力拡大係数Kは、例えば、試験体の疲労試験等により実験的に求めてもよく、き裂進展の応力解析等により求めてもよく、さらには、機械学習等により求めてもよい。
【0029】
図4は、き裂進展速度(da/dn)と応力拡大係数範囲ΔKとの関係を模式的に示すグラフである。
図4に示すように、一般に、応力拡大係数範囲ΔKを小さくすると、き裂進展速度(da/dn)が急に小さくなり、応力拡大係数範囲ΔKがΔK
thのところでき裂の進展が観測されなくなる。このΔK
thは下限界応力拡大係数範囲とよばれる。下限界応力拡大係数範囲ΔK
thより小さい領域では、荷重を負荷してもき裂が進展することがない。
【0030】
下限界応力拡大係数範囲ΔKthについては、積層造形物から形成した試験体を疲労き裂進展試験に供して得られる値を使用してもよく、過去の造形実績等から予測される値を使用してもよい。この試験体は、作製予定の積層造形物、溶加材Mの材質、溶接条件、等の各種条件を揃えてブロック試験体を作製し、作製したブロック試験体から欠陥を含有する部分を切り出す等して準備したものであってもよい。
【0031】
次に、積層造形物に含まれる欠陥の許容欠陥寸法を求める(S2)。許容欠陥寸法は、積層造形物が設計上想定される負荷応力の応力変動範囲Δσ、及び下限界応力拡大係数範囲ΔKthを含む条件値を用いて求める。
【0032】
応力拡大係数Kと欠陥(き裂)寸法aとの関係は、(1)式で表すことができる。
K=F・σ√(π・a) ・・・(1)
ここで、Fは、き裂寸法比、荷重の負荷形式に異存する無次元化定数である。
【0033】
(1)式によれば、下限界応力拡大係数範囲ΔKthと負荷応力の応力変動範囲Δσとは(2)式の対応関係にあるといえる。そこで、(2)式から許容欠陥(き裂)寸法a0を算出する。
ΔKth=F・Δσ√(π・a0) ・・・(2)
積層造形物に作用する応力の種類や破壊の形態、想定される欠陥形状が複数存在する場合には、その種類ごとに許容欠陥寸法a0を算出してもよい。例えば、応力拡大係数の最大値Kmaxが材料の破壊靱性値KICに達する場合の破壊強度から許容欠陥寸法a0を算出してもよい。このときのKmaxは(3)式の形をとる。σmaxは負荷される応力の最大値とする。
Kmax=F・σmax・√(π・a) ・・・(3)
なお、ここでいう欠陥とは、積層造形物の内部に形成される空隙のほか、積層造形物の表面に生じるき裂、窪みを含んでもよい。さらに、空隙内、又はき裂内に、造形材料の成分に由来する酸化物や介在物等を含んでもよい。なお、KICは規格化された試験評価方法に則って取得された値であって、例えばASTM規格E399に準拠した値を比較に使用する。
【0034】
次に、造形中に生じる欠陥寸法の予測値、又は欠陥寸法の実測値を取得する(S3)。
まず、造形中に生じる欠陥寸法を予測する方法としては、例えば、機械学習を用いた手法を利用できる。具体的には、積層造形にて使用する溶接条件(溶接速度、溶加材の送給速度、ビード間隔、狙い位置等)と、この溶接条件で作製されるサンプルに生じる欠陥寸法との関係を学習し、これにより、双方の関係を表す推定モデルを生成する。
【0035】
この学習された推定モデルを用いて、実際に使用する溶接条件に対応する欠陥寸法を求めることで、実際の造形前に、発生すると考えられる欠陥寸法を予測できる。この推定モデルの学習は、実際に溶接条件毎に試験体を作製して欠陥を観察した実測値を用いてもよく、FEM等の解析手法による演算で求めた解析値を用いてもよい。
【0036】
また、推定モデルは、溶接条件に代えて又は溶接条件に加えて、造形中に観察される積層造形物を構成するビードのビード形状と、発生する欠陥寸法との関係を学習させたモデルであってもよい。その場合、ビードが形成する狭隘部等の影響を考慮した欠陥寸法を予測できる。ここでいうビード形状は、造形計画で定めた溶接トーチ27の軌道から予測される形状でもよく、形状検出部21のレーザセンサを走査して得られる実測されたビード形状でもよい。
【0037】
上記した学習により推定モデルを得る方法としては、公知の手法を利用できる。例えば、決定木、線形回帰、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン、ガウス過程回帰、ニューラルネットワーク等が挙げられる。欠陥寸法の予測は、積層造形物を形成する全パスについて一括して求めてもよいが、パス毎に行った方が緻密な検討が可能となる。
【0038】
次に、欠陥寸法の実測値を取得する方法としては、公知の検出手段、例えば、超音波探傷、CTや検査等の非破壊検査方法を利用できる。これにより、造形計画に基づいて作製された試験体(例えば、積層されたビードの内部、又はビード同士の間)に形成された欠陥の欠陥寸法を検出できる。
【0039】
上記のように、欠陥の予測値又は実測値を求め、これを欠陥寸法aexpに設定する。予測値を欠陥寸法aexpに設定すれば、後述する造形計画の更新を演算により簡単に行える。また、実測値を欠陥寸法aexpに設定すれば、実際に形成したビードの状態に即した正確な欠陥評価が行え、造形計画の更新をより適正に行える。なお、予測値と実測値との双方を求めた場合には、品質管理の目的に応じて何れか一方を採用してもよく、各値を平均化してもよい。
【0040】
次に、設定された欠陥寸法aexpと、許容欠陥寸法a0とを比較して、ビード又は積層造形物の品質を良否判定する(S4)。
この良否判定では、欠陥寸法aexpが、許容欠陥寸法a0よりも小さい場合(aexp<a0)に、形成したビード又は積層造形物の品質を良判定し、欠陥寸法aexpが、許容欠陥寸法a0未満の場合に不良判定する。
【0041】
そして、欠陥寸法aexpが許容欠陥寸法a0よりも大きい場合は、許容欠陥寸法a0を大きくするか、欠陥寸法aexpを小さくするために造形条件を修正、又は造形計画を修正する。更に、詳細を後述する補修計画の挿入を行ってもよい(S5)。
例えば、許容欠陥寸法a0を大きくするために、ビードを形成する方向と、積層造形物に負荷が想定される主応力の方向との交差角が小さくなるよう、造形計画のビード線方向(ビード形成軌道)を変更してもよい。また、材質の変更が可能な場合には、靱性の高い材料に変更して、造形計画を修正してもよい。ここで、積層造形物に作用する負荷の主応力方向は、積層造形物の設計段階にて主要な負荷荷重等が想定された荷重条件に基づいて、応力解析等の手法により、演算で求めることができる。
【0042】
また、欠陥寸法aexpを小さくするために、ビードの入熱量が高くなるよう、溶接電流、溶接電圧を調整してもよく、溶接速度等の各種の条件を変更してもよい。さらに、造形計画の溶接トーチの軌道を変更してもよい。
【0043】
図5は、積層造形物のビードの積層の様子を断面形状で示す説明図である。
ビードBを積層する際、上層のビードBを下層のビードBの直上に形成する場合には、隣接するビードB同士の間に形成される狭隘部(谷部)41よって、空隙又は異物等の欠陥が生じ易い。また、狭隘部41がビード層内におけるビードBの並び方向に関して、同じ位置に配置されるため、欠陥が積層方向に繋がってしまうおそれもある。そこで、ビードBの配置を積層方向に対して千鳥状にして、積層方向に延びる欠陥の高さを抑えることが好ましい。
【0044】
図6は、千鳥状にビードを配置した場合の一つの狭隘部41を模式的に示す断面図である。
ビードBを積層方向に対して千鳥状に配置した場合、下層のビードB同士の間の狭隘部41の直上に新たにビードBが形成される。そのため、狭隘部41では新たなビードBの形成によって再溶融が生じ、空洞が消滅して異物が除去される。これにより、積層造形物に欠陥が生じにくくなる。
【0045】
ステップS5において、溶接条件を修正する場合には、修正後の溶接条件に対応する欠陥寸法を予測又は実測するステップS3に戻る。また、ステップS5において、造形計画を修正する場合には、修正後の造形計画に対応する下限界応力拡大係数範囲ΔKthを取得するステップS1に戻る。
【0046】
以上のステップS1~S4,S5の手順を全パスについて繰り返し(S6)、全パスについての欠陥寸法の良否判定を完了させる。
この良否判定には、欠陥寸法aexpと許容欠陥寸法a0との大小関係のみならず、双方の差分の情報を用いてもよい。例えば、欠陥寸法aexpが許容欠陥寸法a0より十分に大きい場合、例えば、欠陥寸法aexpが、許容欠陥寸法a0の5%以上、10%以上、30%以上、等の特定の閾値以上である場合に、修正幅を大きくできる造形計画を修正し、特定の閾値未満の範囲を超えた場合に、溶接条件のみを修正することであってもよい。その場合、修正の程度に応じた適切な調整が可能となり、効率よく欠陥寸法を縮小できる。
【0047】
このように本品質管理方法によれば、造形計画から求めた欠陥の予測値、又は造形計画に基づいて作製した試験体の欠陥の実測値のいずれかから欠陥寸法を設定し、積層造形物の負荷応力の変動範囲、及び下限界応力拡大係数範囲又は破壊靱性値等の応力拡大係数の限界値を含む条件値から許容欠陥寸法を求める。求めた許容欠陥寸法と上記の欠陥寸法とを比較して、その造形計画で造形した場合の積層造形物の品質の良否を判定する。このため、造形前の造形計画の段階から積層造形物の品質を予見できる。また、許容欠陥寸法を応力拡大係数の限界値の特性から求めるため、判定基準となる許容欠陥寸法を材料特性に応じて適切に設定でき、良否判定の正確性を向上できる。
【0048】
そして、許容欠陥寸法は、欠陥の形状種ごとに求めてもよい。その場合、ブローホール欠陥、ビード線方向に沿った細長い欠陥等、様々な欠陥の種類に対応できる。
【0049】
また、実際に形成されたビードの形状を測定、その測定結果を考慮して欠陥寸法を設定することで、より精密な予測が可能となり、良否判定の正確性を向上できる。
【0050】
さらに、設定する下限界応力拡大係数範囲又は破壊靱性値を、形成されたビードの表面粗さに応じて決定してもよい。その場合、造形後に切削しきれない表面が残る場合も考慮した許容欠陥寸法を特定できる。なお、ここでいう表面粗さとは、JIS B 0601:1994、又はJIS B 0031:1994で規定される粗さを指す。
【0051】
また、欠陥寸法の予測処理に、機械学習して得られる推定モデルを用いることで、学習データさえ用意しておけば様々な造形ケースに対応した欠陥寸法の予測値を抽出できる。
【0052】
許容欠陥寸法と欠陥寸法とを比較して欠陥寸法の方が大きい場合には、積層造形物のビード形成を一旦停止してもよい。これにより、無駄に造形を進めることがなくなり、欠陥の修復の煩雑化を未然に防止できる。また、積層造形物の製造条件を修正する工程は、積層造形物の製造前、又は積層造形物の製造中であって形成するビードとビードとの間のパス間時間中に実施してもよい。その場合、造形開始前又は次のビードの積層前に製造条件の修正を完了でき、修正した製造条件でビード形成できる。よって、予測される欠陥寸法を縮小、又は欠陥の発生自体が抑制可能となる。
【0053】
欠陥の有害又は無害を判定する基準が造形前に特定されていれば、形状検出部21からの形状検出情報と連携して、欠陥の影響を造形中に判断しやすくなる。また、基準が特定されていれば、品質へ過剰配慮することなく造形計画の設計自由度の向上が期待できる。
【0054】
また、上記した欠陥寸法aexpと許容欠陥寸法a0との比較は、造形計画に設定されたパスに沿ったビード形成を終了する度に行ってもよいが、パスの途中で実施して、リアルタイムで連続処理することであってもよい。その場合、タクトタイムの短縮に寄与できるとともに、発生する欠陥の良否判定結果が早期に得られ、不良判定された欠陥の対処を早期に開始できる。
【0055】
<積層造形物の補修>
上記した品質管理方法の手順は、造形計画に基づいて製造される積層造形物が、強度に支障を来す寸法の欠陥が生じるか否かを、造形前に予測して、これにより、作業者に通知したり、造形を一旦停止させたりすることに供されるが、問題となる欠陥が予測される場合には、その欠陥を補修することがより好ましい。
【0056】
欠陥を補修するには、
図2に示す補修指示部39が、
図1に示す制御部11に補修指示信号を出力して補修を実行させる。制御部11は、入力された補修指示信号に応じて溶接ロボット13、機械加工部30等を駆動して、造形途中の積層造形物Wの補修作業を実施する。この補修作業としては、加熱により欠陥を再溶融させる方法と、機械的に欠陥を除去した後、溶融金属で埋める方法とが挙げられる。
【0057】
図7Aは、欠陥を有する狭隘部41を再溶融させる様子を示す概略断面図である。
図7Bは、
図7Aの狭隘部41の補修後の様子を示す概略断面図である。
図7Aに示すように、互いに隣接するビードB同士の間の狭隘部41に欠陥が生じて、その欠陥が上記の品質管理方法により許容欠陥寸法より大きいと判定された場合には、この欠陥を補修するための補修作業を実施する。
【0058】
欠陥を除去するには、まず、許容欠陥寸法よりも大きい欠陥寸法の位置を欠陥位置と特定し、この欠陥位置のビードを、熱エネルギーを供する熱源により再溶融させる。具体的には、補修指示部39が制御部11に補修指示信号を出力する。制御部11は、入力された補修指示信号に怖じて溶接装置110の各部を駆動する。この制御部11からの指令により、溶接装置110は欠陥補修部として機能して、溶接トーチ27が欠陥位置に配置され、トーチ先端からアークが発生される。TIG溶接の場合には、TIG電極からアークを発生させる。これにより、アークによる入熱により狭隘部41が再溶融し、狭隘部41に存在した空隙が溶融金属によって埋められる。また、存在した異物が溶融金属によって狭隘部41から排出される。その結果、
図7Bに示すように、互いに隣接するビードB同士の間は、欠陥が取り除かれ、その表面には滑らかなビード接続面が形成される。このように、発生した欠陥が再びビードを溶融させるだけで除去される。また、欠陥の除去後に、そのまま積層を続行するだけで済み、補修作業が繁雑にならない。
【0059】
狭隘部41が深い場合等、必要に応じて溶加材Mを送給して溶融金属を供給してもよい。溶加材Mを送給する場合には、最初にTIG電極のみで狭隘部41にアークを当て、その後に溶加材Mを投入すると、溶加材Mによりアークが遮られることなく良好な溶融池が得られるので好ましい。また、アークに併せて圧縮空気を送り込んでガウジングを行ってもよく、これにより欠陥部位を抉り取るように除去できる。また、プラズマアークを利用したガウジングを実施して欠陥部位を除去してもよい。
【0060】
また、機械的に欠陥を除去することもできる。
図8Aは、狭隘部41の欠陥を機械的に除去する様子を示す概略断面図である。
図8Bは、
図8Aの狭隘部の補修後の様子を示す概略断面図である。
まず、
図7Aに示す場合と同様に欠陥位置を特定し、補修指示部39が制御部11に補修指示信号を出力する。制御部11は、入力された補修指示信号に怖じて機械加工部30と溶接装置110とを駆動する。この制御部11からの指令により、機械加工部30と溶接装置110は欠陥補修部として機能して、欠陥位置の欠陥を除去する。具体的には、制御部11からの補修指令により機械加工部30が駆動して、狭隘部41にツール29を配置する。そして、狭隘部41をツール29により切削加工して、空洞部43を形成する。次に、機械加工部30が狭隘部41から待避し、溶接トーチ27が空洞部43の位置に移動する。そして、トーチ先端からアークを発生させ、溶加材Mが溶融した溶融金属45を空洞部43に充填する。これにより、
図7Bと同様に欠陥が除去されたビード層が形成される。
【0061】
このように、発生した欠陥を機械的に除去した後、溶融金属45で空洞部43を埋めることで、欠陥、異物のない積層造形物を容易に造形できる。この場合、複雑な形状であっても、厚肉な構造であっても、補修作業が煩雑とならない。さらに、補修箇所が小さい範囲に限られるため、欠陥位置の周囲への影響が少なくて済む。また、ツール29としてドリルを用いる場合、ビードを深く切削できるため、欠陥発生後に積層がしばらく進行して欠陥位置が深くなった場合でも、容易に欠陥の補修が可能となる。なお、欠陥によっては、欠陥寸法が大きくなる部位を含むビードの一部を、切削加工により除去する補修だけにしてもよい。
【0062】
上記した再溶融させるアーク溶接、空洞部43を充填するアーク溶接は、溶接ロボット13を使用した溶接でもよく、手動による溶接でもよい。また、溶接条件としては、短時間で深い溶込みが得られるパルスモードが好ましいが、厚さによって他のモードを使い分けしてもよい。
【0063】
また、補修指示部39は、積層造形物の製造前、又は積層造形物の製造中におけるビードのパス間時間の間で、補修を実施させるための補修指示信号を出力してもよい。これによれば、ビード形成を停止している間に欠陥の補修を実施できる。よって、造形開始前又は次のビードの積層前に製造条件の修正を完了でき、予測される欠陥寸法を縮小、又は欠陥の発生自体が抑制可能となる。
【0064】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせること、及び明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0065】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 予め定めた造形計画に基づいて、溶加材を溶融及び凝固させたビードを層状に繰り返し重ねて形成する積層造形物の品質管理方法であって、
前記積層造形物の応力拡大係数の限界値を取得する工程と、
前記積層造形物が設計上想定される負荷応力の変動範囲、及び前記限界値を含む条件値を用いて、前記積層造形物に含まれる欠陥の許容欠陥寸法を求める工程と、
前記造形計画に基づいて前記積層造形物を製造する際に前記積層造形物に生じ得る欠陥の欠陥寸法の予測値、又は前記造形計画に基づいて作製された試験体に生じた欠陥の欠陥寸法の実測値のうち、いずれか一方を欠陥寸法に設定する工程と、
前記欠陥寸法と前記許容欠陥寸法とを比較して、前記ビード又は前記積層造形物の品質を良否判定する工程と、
を含む積層造形物の品質管理方法。
この積層造形物の品質管理方法によれば、造形計画から求めた欠陥の予測値、又は造形計画に基づいて作製した試験体の欠陥の実測値のいずれかから欠陥寸法を設定し、積層造形物の負荷応力の変動範囲、及び応力拡大係数の限界値を含む条件値から許容欠陥寸法を求める。求めた許容欠陥寸法と上記の欠陥寸法とを比較して、その造形計画で造形した場合の積層造形物の品質の良否を判定する。このため、造形前の造形計画の段階から積層造形物の品質を予見できる。また、許容欠陥寸法を応力拡大係数の限界値の特性から求めるため、判定基準となる許容欠陥寸法を材料特性に応じて適切に設定でき、良否判定の正確性を向上できる。
【0066】
(2) 前記限界値は、前記積層造形物の下限界応力拡大係数又は破壊靱性値のいずれかである、(1)に記載の積層造形物の品質管理方法。
この積層造形物の品質管理方法によれば、下限界応力拡大係数又は破壊靱性値から許容欠陥寸法を決定できる。
【0067】
(3) 前記許容欠陥寸法を、前記欠陥の形状種ごとに設定する、(1)又は(2)に記載の積層造形物の品質管理方法。
この積層造形物の品質管理方法によれば、ブローホール欠陥、ビード線方向に沿った細長い欠陥等、様々な欠陥の種類に対応した品質管理が行える。
【0068】
(4) 前記予測値を、前記造形計画と前記ビードの形状を測定した結果とに基づいて設定する、(1)~(3)のいずれか1つに記載の積層造形物の品質管理方法。
この積層造形物の品質管理方法によれば、ビード形状を考慮して欠陥寸法を予測することで、より精密な予測が可能となる。
【0069】
(5) 前記限界値を、前記ビードの表面粗さに応じて決定する、(1)~(4)のいずれか1つに記載の積層造形物の品質管理方法。
この積層造形物の品質管理方法によれば、造形後に切削しきれない表面が残る場合も考慮した許容欠陥寸法を特定できる。
【0070】
(6) 前記予測値を、前記積層造形物の製造条件、前記ビードの形状の少なくとも一方と、前記欠陥寸法との関係を機械学習して得られる推定モデルを用いて予測する、(1)~(5)のいずれか1つに記載の積層造形物の品質管理方法。
この積層造形物の品質管理方法によれば、学習データさえ用意しておけば様々な造形ケースに対応した欠陥寸法の予測値を抽出できるようになる。
【0071】
(7) 前記欠陥寸法と前記許容欠陥寸法とを比較して、前記欠陥寸法が前記許容欠陥寸法よりも大きい場合に、前記積層造形物の製造条件を修正する工程をさらに含む、(1)~(6)のいずれか1つに記載の積層造形物の品質管理方法。
この積層造形物の品質管理方法によれば、造形開始前又は次のビードの積層前に製造条件の修正を完了でき、修正した製造条件でビード形成できる。よって、予測される欠陥寸法を縮小、又は欠陥の発生自体が抑制可能となる。
【0072】
(8) 前記許容欠陥寸法よりも大きい前記欠陥寸法の位置を欠陥位置と特定し、
前記欠陥位置の前記ビードを、熱エネルギーを供する熱源により再溶融させる工程と、
をさらに含む、(7)に記載の積層造形物の品質管理方法。
この積層造形物の品質管理方法によれば、再溶融により欠陥を消滅できる。
【0073】
(9) 前記許容欠陥寸法よりも大きい前記欠陥寸法の位置を欠陥位置と特定し、
前記欠陥位置を含むビードの一部を切削加工により除去する工程をさらに含む、(7)に記載の積層造形物の品質管理方法。
この積層造形物の品質管理方法によれば、切削加工により欠陥が機械的に除去されるため、異物、欠陥のない積層造形物を容易に造形できる。
【0074】
(10) 予め定めた造形計画に基づいて、溶加材を溶融及び凝固させたビードを層状に繰り返し重ねて形成する積層造形物の品質管理方法の手順をコンピュータに実行させるプログラムであって、
コンピュータに、
前記積層造形物の応力拡大係数の限界値を取得する手順と、
前記積層造形物が設計上想定される負荷応力の変動範囲、及び前記限界値を含む条件値を用いて、前記積層造形物に含まれる欠陥の許容欠陥寸法を求める手順と、
前記造形計画に基づいて前記積層造形物を製造する際に前記積層造形物に生じ得る欠陥の欠陥寸法の予測値、又は前記造形計画に基づいて作製された試験体に生じた欠陥の欠陥寸法の実測値のうち、いずれか一方を欠陥寸法に設定する手順と、
前記欠陥寸法と前記許容欠陥寸法とを比較して、前記ビード又は前記積層造形物の品質を良否判定する手順と、を実行させるためのプログラム。
このプログラムによれば、造形計画から求めた欠陥の予測値、又は造形計画に基づいて作製した試験体の欠陥の実測値のいずれかから欠陥寸法を設定し、積層造形物の負荷応力の変動範囲、及び応力拡大係数の限界値を含む条件値から許容欠陥寸法を求める。求めた許容欠陥寸法と上記の欠陥寸法とを比較して、その造形計画で造形した場合の積層造形物の品質の良否を判定する。このため、造形前の造形計画の段階から積層造形物の品質を予見できる。また、許容欠陥寸法を応力拡大係数の限界値の特性から求めるため、判定基準となる許容欠陥寸法を材料特性に応じて適切に設定でき、良否判定の正確性を向上できる。
【0075】
(11) 予め定めた造形計画に基づいて、溶加材を溶融及び凝固させたビードを層状に繰り返し重ねて形成する積層造形物の品質管理装置であって、
前記積層造形物の応力拡大係数の限界値を取得する限界値取得部と、
前記積層造形物が設計上想定される負荷応力の変動範囲、及び前記限界値を含む条件値を用いて、前記積層造形物に含まれる欠陥の許容欠陥寸法を求める許容欠陥寸法設定部と、
前記造形計画に基づいて前記積層造形物を製造する際に前記積層造形物に生じ得る欠陥の欠陥寸法の予測値、又は前記造形計画に基づいて作製された試験体に生じた欠陥の欠陥寸法の実測値のうち、いずれか一方を欠陥寸法に設定する欠陥寸法設定部と、
前記欠陥寸法と前記許容欠陥寸法とを比較して、前記ビード又は前記積層造形物の品質を良否判定する判定部と、を含む積層造形物の品質管理装置。
この積層造形物の品質管理装置によれば、造形計画から求めた欠陥の予測値、又は造形計画に基づいて作製した試験体の欠陥の実測値のいずれかから欠陥寸法を設定し、積層造形物の負荷応力の変動範囲、及び応力拡大係数の限界値を含む条件値から許容欠陥寸法を求める。求めた許容欠陥寸法と上記の欠陥寸法とを比較して、その造形計画で造形した場合の積層造形物の品質の良否を判定する。このため、造形前の造形計画の段階から積層造形物の品質を予見できる。また、許容欠陥寸法を応力拡大係数の限界値の特性から求めるため、判定基準となる許容欠陥寸法を材料特性に応じて適切に設定でき、良否判定の正確性を向上できる。
【0076】
(12) (11)に記載の積層造形物の品質管理装置と、
前記品質管理装置から出力された前記良否判定の結果に応じてアーク溶接の続行又は停止を制御する制御部と、を備える溶接制御装置。
この溶接制御装置によれば、欠陥の発生が判明した場合にアーク溶接を一旦停止させることで、無駄な造形を未然に防止できる。
【0077】
(13) (12)に記載の溶接制御装置と、
アーク溶接を行う溶接ロボットと、を備える溶接装置。
この溶接装置によれば、欠陥の生じにくいアーク溶接を実現できる。
【0078】
(14) 前記積層造形物に生じた前記欠陥を補修する欠陥補修部と、
前記欠陥寸法と前記許容欠陥寸法とを比較して、前記欠陥寸法が前記許容欠陥寸法よりも大きい場合に、当該欠陥寸法が大きくなる部位を補修するための補修指示信号を前記欠陥補修部に出力する補修指示部と、をさらに含む(13)に記載の溶接装置。
この溶接装置によれば、許容欠陥寸法より大きい欠陥が生じた場合に、この欠陥を補修するための補修指示信号が欠陥補修部に出力される。これにより、欠陥補修部は適切なタイミングで補修を実施できる。
【0079】
(15) 前記補修指示部は、前記積層造形物の製造前、又は前記積層造形物の製造中における前記ビードのパス間時間の間で、前記欠陥補修部に前記欠陥を補修させる、(14)に記載の溶接装置。
この溶接装置によれば、ビード形成を停止している間に欠陥の補修を実施できる。よって、造形開始前又は次のビードの積層前に製造条件の修正を完了でき、予測される欠陥寸法を縮小、又は欠陥の発生自体が抑制可能となる。
【0080】
(16) 前記欠陥補修部は、前記欠陥寸法が大きくなる部位を熱源により再溶融させる、(14)又は(15)に記載の溶接装置。
この溶接装置によれば、再溶融により効率よく欠陥を消滅できる。
【0081】
(17) 前記欠陥補修部は、前記欠陥寸法が大きくなる部位を含むビードの一部を、切削加工により除去する、(14)又は(15)に記載の溶接装置。
この溶接装置によれば、切削加工により機械的に欠陥が除去された後、空洞部が溶融金属で充填されるため、異物、欠陥のない積層造形物を容易に造形できる。
【符号の説明】
【0082】
11 制御部
13 溶接ロボット
15 ロボット駆動部
17 溶加材供給部
17a リール
19 溶接電源部
21 形状検出部
27 溶接トーチ
29 ツール
30 機械加工部
31 限界値取得部
33 許容欠陥寸法設定部
35 欠陥寸法設定部
37 判定部
39 補修指示部
41 狭隘部
43 空洞部
45 溶融金属
100 溶接システム
110 溶接装置
120 溶接制御装置
130 品質管理装置
a 欠陥寸法
a0 許容欠陥寸法
aexp 欠陥寸法
B ビード
K 応力拡大係数
M 溶加材
P ベースプレート
W 積層造形物
ΔK 応力拡大係数範囲
ΔKth 下限界応力拡大係数範囲(限界値)